[Alexandros] THIS SUMMER FESTIVAL TOUR '23 対バン:go!go!vanillas @Zepp Nagoya 6/30
- 2023/07/01
- 19:13
全然夏に開催されないことによって「日本一遅い夏フェス(笑)」とメンバーも自虐的に口にしている[Alexandros]の対バンライブ「THIS SUMMER FESTIVAL」が今年は何と全国ツアーバージョンとして開催。以前から親交があるバンドや意外な若手なども名を連ねる中、この日のZepp Nagoyaでのファイナルの対バンはgo!go!vanillas。すでに各地ではコラボやらカバーやらという情報も入ってきているだけに、そういう意味でも期待が高まる対バンライブである。
微妙に雨が降ったりという名古屋は非常に蒸し暑く、Zeppの中に入ってもそれは変わることはないのであるが、それはやはり超満員の観客たちが放つ熱量というものも関係しているかもしれないと思うくらいの状態である。
・go!go!vanillas
開演時間の18時30分になると、英語によるこのツアーのナレーションが流れて観客から歓声が上がる。その間にステージ背面にはこのツアーのタイトルなどが書かれた巨大フラッグが迫り上がってくるのであるが、右上の日付が06.30とこの日仕様になっているあたりがさすがであり、そのナレーションも「go!go!vanillas」とこの日のみの対バンであるこのバンドの名前をコールすると、おなじみのSEが流れてサポートキーボードの井上惇志も含めた5人がステージに登場。このツアーのファイナルに招かれたのが、このgo!go!vanillasである。
牧達弥(ボーカル&ギター)が黒ネクタイのスーツ姿というあたりがどこか川上洋平リスペクトな感じもするのであるが(もちろん時折こうした出で立ちをしているのは承知の上で)、バンドの鳴らすイントロが激しくぶつかり合うようなイントロからいきなりの「平成ペイン」でスタートすると、鮮やかな金髪にサングラスという出で立ちのジェットセイヤは立ち上がりながらドラムを連打するのであるが、サビではおなじみの振り付けを「こんなにも!?」と驚いてしまうくらいに踊っている人がたくさんいるというあたりからも、呼ばれた側でありながらもこの日のこのバンドのライブが全くアウェーではないことを実感させてくれる。[Alexandros]ファンですらチケットが取れないだけに、このバンドを見たいがためにチケットを取れた人はそうそういないだろうというあたりにアウェー感のなさの凄さを感じざるを得ない。
すると長谷川プリティ敬祐(ベース)がイントロが鳴らされた段階で手拍子をし、それが客席に広がっていくのはライブではおなじみの「お子さまプレート」であり、間奏ではメンバーがみんなステップを左右に踏むというおなじみの光景が…と思っていたら牧はギターを弾くのに専念している感じで、どこか疲労感を感じざるを得ない。それでもやはりこの曲の楽しさが損なわれることがないのはメンバーたちがカバーするというわけではなくても、その笑顔が客席にも広がっていくからである。
プリティもかつてはタイトルを口にしていた曲入りがもはや何と言っているのかわからないくらいのレベルでテンションが高い「クライベイビー」では牧と柳沢進太郎(ギター&ボーカル)のツインボーカル的な曲として演奏されるのであるが、柳沢もきっと牧が本調子ではないことをわかっているからか、いつも以上に自分がこの曲を引っ張っていくというような頼もしい歌唱を見せてくれている。「お子さまプレート」もそうであるが、この曲も収録されている2021年リリースのアルバム「PANDORA」は本当に名盤であり、バニラズのライブにおけるセトリを塗り替えた作品だと思っている。
メンバーがこうして[Alexandros]のツアーのファイナルに呼んでもらえたという喜びを口にする中で一転してダークな照明とサウンドに包まれたのは昨年リリースの最新アルバム「FLOWERS」収録の「The Marking Song」であり、この不穏なサウンドのロックンロールが演奏できるような持ち時間があるということがこの曲が演奏された段階でわかる。「FLOWERS」のツアーに行けなかった身としては実に嬉しい選曲であるし、バニラズのロックンロールが楽しいだけのものではないという幅の広さと奥深さを感じさせてくれる曲でもある。
それは牧がハンドマイクになって歌う、タイトル通りにイギリスの陰鬱とした灰色の空を思わせるような(行ったことないけど)「倫敦」もまた然りであるが、牧が言ったようにこの曲はこの名古屋という街から一気にロンドンに我々の意識をワープさせてくれるような曲であるのだが、その選曲はOasisなどのUKロックに強い影響を受けている[Alexandros]との対バンだからという意識も感じられる。つまりはバニラズからドロスへのリスペクトを感じさせるということである。
牧の分までという意識を最も感じさせるように思いっきり声を張り上げる柳沢が
「名古屋!」「ドロス!」
というコール&レスポンスを展開する「カウンターアクション」では曲が始まってすぐに牧がジャケットを脱いで白シャツだけになり、さらに間奏ではネクタイをも緩めるという暑さと熱さに対応したクールビズ的な出で立ちになっていくのであるが、疲れによる万全ではなさを微塵も感じさせないように自身のセンターマイクを分け合うようにして柳沢と一本のマイクで歌うあたりはロックンロールバンドとしての凄まじい色気を放っている。それこそロンドン、イギリスから世界に広まっていったビートルズのように。
するとメンバー全員でサビのフレーズを歌い上げるようにしてから牧がギターを置いてステージを歩き回りながら歌う「one shot kill」というバニラズのロックンロールの極みとでも言うような曲が続く。万全ではなさそうなのが普段のライブを見ているからこそわかる牧はそれでもハンドマイクという特性を生かして客席最前列の柵に立つようにして歌うという天性のロックスターっぷりを見せてくれるし、やっぱりステージに立つと万全の体調ではなくてもアドレナリン的なものが放出されるんだろうなとも思う。
そんなバニラズメンバーは
プリティ「交通事故に遭った時にヒロさん(磯部寛之)から凄い優しいLINEが来た」
セイヤ「リアドさんとツアーが始まる前に決起集会って言って朝まで飲んでた」
柳沢「白井さんとは何回も飲みに行かせてもらってて、めちゃくちゃ機材の話とかをしてる」
と、メンバーそれぞれがドロスのメンバーと親交があることを口にするのであるが、牧だけは
「さっき楽屋で10分くらい洋平さんと喋らせてもらって、いろんな相談をした(笑)」
とまだ浅い関係性であることがわかってしまう。なかなかおいそれとは川上洋平には話しかけられないだろうし、そこにこそ牧が言うように
「優しいけれどピリッとしてる先輩」
というドロスらしさが表れていると思う。
そんな関係性も全て現在進行形の青春としてまとめ上げてしまうかのような「青いの。」では井上のキーボードがそのメロディの美しさをさらに引き上げてくれる、牧がステージ上を歩き回りながら爽やかに歌う曲であり、歌い出しからやはりプリティとともに手を叩く観客も含めて曲タイトルに合わせて爽やかな青い照明に照らされることによって、我々自身も今もなお青春真っ只中にいるような気持ちにさせてくれる。というか今まさにその渦中にいるというような若い学生であろう観客もたくさんいたのであるが。
するとメンバー全員によるマイクリレーが行われることによって観客のテンションをさらに引き上げてくれる「デッドマンズチェイス」ではセイヤがスティックを放り投げて立ち上がりながらドラムを叩いて歌う一方で牧はステージからギターを抱えたままで客席へダイブするという、ライブハウスの距離感ならではの熱いパフォーマンスを見せてくれる。体調は万全ではないけれど、精神は燃えたぎっているのが確かにわかるだけに何の心配もいらないなと思うのであるし、去年などには自身が体調を崩してライブを飛ばすこともあった柳沢のボーカルが安定感抜群なのは、今この日の牧の精神状態を柳沢が誰よりも理解しているからだろう。
「僕らとドロスはどちらも洋楽から強い影響を受けて音楽をやっていると思ってる。だから次に一緒にやる時には海外ツアーを一緒に回りたいと思ってる」
という牧の言葉からはこれからこの2組がさらに接近していく関係性になりそうなことを感じさせたし、やはり同じような音楽やバンドに憧れてロックバンドという道を選んだことをも感じさせてくれるのであるが、プリティによる「E・M・A」の文字を体で表現してから演奏に入る「エマ」はドロスにはないこのバンドだからこそのキャッチーさと可愛らしさを感じさせてくれるし、何よりもまるでこのバンドのワンマンに来たかのようにサビで観客が腕を交互に上げる光景は壮観であり、柳沢が
「バニラズのライブを初めて見た人?」
という問いかけに手を挙げていた人たちすらも完全に虜にしてしまっていたということである。
そして牧が
「みんなもドロスも俺たちもさらなる高みに登っていけるように」
と言って、メンバー全員の声に加えて観客の歌声も重なっていく「HIGHER」の祝祭感溢れるサウンドがこれからのバニラズとドロスの進んでいく道を祝福しているかのようであった。その道は全く違うものかもしれないけれど、きっとまたこの先で交わる日が来ることを確かに予感させるような。それは演奏後にセイヤが客席にダイブするくらいに高まっていた姿からも確かに感じられた。何よりもしっかり先輩のツアーファイナルという輝かしい舞台のライブをやり切った牧に心から拍手と感謝を送りたい。
後、オープニングアクト的な30分ではなくて、ゲストに1時間もの持ち時間を与えることによって文字通りにバチバチの対バンとしてゲストの魅力を最大限に引き出してくれる[Alexandros]側にも。
1.平成ペイン
2.お子さまプレート
3.クライベイビー
4.The Marking Song
5.倫敦
6.カウンターアクション
7.one shot kill
8.青いの。
9.デッドマンズチェイス
10.エマ
11.HIGHER
・[Alexandros]
やはり転換を経てアナウンス的な音が流れてから場内が暗転するのであるが、そのアナウンスの段階から大歓声が湧き上がっていたのは、この地でツアーファイナルを迎えることを選んだバンドへの感謝の念もあったであろう。「MILK」のSEによってステージに登場した[Alexandros]、このツアー最後のライブである。
前回のホール〜アリーナツアーではステージ上にはセッティングされていなかった、Mullon(ギター)とROSE(キーボード)の機材もステージ上にしっかりセッティングされているというあたりにライブハウスだからこそのあらゆる意味での距離感の近さを感じさせるのであるが、髪が少しさっぱりしてデビュー当時のようにも感じられる川上洋平(ボーカル&ギター)が歌い始めたのは「Underconstruction」という初期の名曲。その曲がよりサウンドが絞られたというか削ぎ落とされたアレンジとして演奏されることによって、その歌とメロディがさらに引き立っている。この曲ではMullonは参加してROSEはまだステージに現れていなかったが、そうして曲に合わせた適材適所の形で演奏されていくということがこの段階で早くもわかる。
そのROSEが参加してMullonが外れるという形、かつ川上がハンドマイクになるのはロマンチックな「LAST MINUTE」であるが、この曲もまたリアド(ドラム)のリズムとROSEのキーボードをメインとした削ぎ落とされたサウンドにアレンジされており、白井眞輝(ギター)と磯部寛之(ベース)は曲後半になって入ってくるという形。川上はすでに暑いことによってか短くなった髪をかき上げるようにしながら歌うことでオールバックのような髪型になり、それがまた独特の色気を強く放っている。こうしてライブごとに曲にアレンジを施すことによって、毎回違うライブになるのも[Alexandros]ならではである。
川上がアコギを持つと、リアドの力強いビートに合わせて観客から「オイ!オイ!」という歓声が上がるも、体全体を使って煽りまくる磯部が
「聞こえねーぞ名古屋ー!」
と叫ぶとさらにその声が大きくなる「Waitress, Waitress!」では間奏でROSEの流麗なキーボードのサウンドも響き渡ると、
「今日本当にみんなの声が凄い。間違いなくこのツアーで1番です。あまりに凄いからイヤモニ外すわ。音声さん、こっち(足元のモニター)でお願いします!」
と言って早くもジャケットも脱いでタンクトップ姿になった川上がイヤモニを外して観客の声を直で聞こうとし、
「サビだけじゃなくて、AメロもBメロもギターソロも全部歌えよ!」
と観客の歌声を求める「Starrrrrrr」ではやはり大合唱が響くのであるが、昨年末の声出しが解禁された代々木体育館の時もそうだったけれど、川上は、[Alexandros]は自分たちの音楽が、ライブが1番であるという絶対的な自信を持っているバンドだけれど、それはこうした観客の大合唱も含めてのものであるということがよくわかる。そうして大合唱することによって、この曲たちは自分たちの、我々のものになってきたのである。サビではダイバーが出現するという光景もライブハウスならではの、実に久しぶりなものであり、それを見ているとやっぱりこれだよなと思うのは、まだ[Champagne]だった頃からずっとこの光景をライブハウスで見てきたからである。
「次も歌ってください!おなじみの曲です!」
と言って爽やかなサウンドの演奏が始まるも、どう聴いても馴染みがない。これは自分に馴染みがないだけなのか、とも思っていたのだが、これは完全なる新曲。サビの最後に川上が客席を指差すようにして
「愛しい人よ」
と歌うあたりはラブソングなのかもしれないが、ドロスのメロディの爽やかさを極限まで抽出したと言っていいようなキャッチーな曲であり、昨年フルアルバムをリリースしたばかりだというのにまた次なる作品を期待したくなる。演奏後には川上が
「新曲でした!」
と悪戯っぽく言うあたりはさすがである。
その川上が再びハンドマイクになって
「ロックンロールはこう(人差し指を挙げる)じゃねぇ!こうだ!」
と叫んで拳を振り上げるような仕草を観客に求めてから演奏されたのは初期のシンプルなロックンロール「Yeah Yeah Yeah」であるが、ワンコーラスで真っ赤な照明に照らされた川上のまくしたてるようなボーカルの「Girl In a Black Leather Jacket」へとスムーズに繋がり、さらにはそのまま「Revolution, My Friend」と繋がるという、近年は滅多に演奏されない曲たちをAメロ、Bメロ、サビとして再構築するかのようなメドレー形式での乱れ打ちに。「Revolution,〜」なんかはアルバムリリース後以来じゃないかというくらいに久しぶりであるが、今のバンドの状態で演奏されることによるアウトロのグルーヴが段違いの迫力を獲得している。毎回ツアーではこうして過去の曲を今のバンドで演奏して欲しいと思ってしまうくらいに。
そんな懐かしの曲から一気に昨年リリースの最新アルバム曲に時系列が戻る「Baby's Alright」はまさに今のバンドのレベルを見せつけるような複雑なリアドと磯部のキメの連発と、川上のスピード感溢れる歌唱によってさらに観客のテンションを上げてくれるような曲である。さすがにこの曲では爆音かつ隙がなさすぎて白井と磯部によるタイトルフレーズのコーラスは大合唱とはならなかったけれど。
するとここで一旦メンバーたちがステージを去るとアコギを持った川上だけになり、
「大阪とかはノリが良いってよく言われますけど、名古屋は情が深いって思ってて。新しいバンドとかが来ると最初は様子見みたいな感じだけど、一度好きになってくれたらずっと好きでいてくれるみたいな。って、イベンターさんが言ってました(笑)」
とオチをつけるのはさすがであるが、ステージに1人だけになったことによってリラックスしているのか、観客の歓声に対して
「お持ち帰りしたいし、お持ち帰りされたいですよ(笑)」
という会話すら交わされるくらいに。
そんな川上による弾き語りの形で演奏されたのは「Adventure」であり、メンバーがいないということはコーラス部分を観客が大合唱するということなのであるが、コーラス部分だけではなくて川上はサビなどのあらゆる部分でマイクスタンドから離れるようにして観客の合唱を煽る。つまりはこれは弾き語りというよりも合唱バージョンと言ってもいいくらいのものであり、そのための大胆な作戦でありマスタープラン。その光景や響く音に毎回感動させられてしまうからこそ、いつだって我々はこのバンドに連れられてきたのである。
メンバーがステージに戻ってくると、白井が煌めくようなギターサウンドを鳴らして始まったのは、どこか冒険の始まりのような胸の高鳴りを呼び起こしてくれるような「Oblivion」であり、これもまたライブで聴くのが実に久しぶりの曲なのであるが、唯我独尊的なスタンスのこのバンドだからこそ
「誰の為でも無くて
他でも無い自分自身の為にあるこの命を
いかにして」
というフレーズがそのスタンスを示しているものとして響くのであるが、そんな自分自身のためがこうして他の誰かの為になり、糧になっている。そうした部分こそが自分がこのバンドをこんなにロックなバンドいないよなと思うような所以なのである。
すると川上がこの日の対バンのgo!go!vanillasを
「今回のツアーはいろんなアーティストに出てもらったけど、1番距離が近いところにいるバンドっていう感じがするっていうか、遠い親戚みたいに思えるバンドだなって」
と称する。この時に2階席にいたバニラズメンバー(牧はこの時はいなかった)はそれぞれに拍手をしたり頭を下げたりしていたのであるが、
「でも対バンは出てくれてありがとうもあるけど、やっぱりぶっ潰したい、客を全部奪いたいって感じになるんだよね。俺たちの最大規模はZOZOマリンスタジアムワンマンだけど、そこまで行ってもまだ若手っていう気持ちは変わらない。(観客からの「わかるよ!」という声に対して)なんでお前にわかるんだよ(笑)
でも本当にずっとそういう若手みたいな気持ちでやってるつもりだから、バニラズに先輩扱いされるとちょっとくすぐったいみたいな気持ちになる(笑)」
と、かつて対バンやイベントでもよく口にしていたことを今も口にするということは、本当に今もその気持ちが失われていないのだろうし、その気持ちがあるからこそ、ライブハウスで若手バンドのように攻めた、勢いで押しまくるようなライブができているんだとも思う。
それは川上が無邪気さすら感じるくらいにノリノリでサンプラーを操作して電子音を発する「I Don't Believe In You」を見ていてもわかるのであるが、そうしてこの曲がさらにハイパーなサウンドを纏って進化を果たし、間奏ではリアドの不規則でありながらも実に力強い、つまりはリアドでしか叩け得ないようなドラムソロも展開される。つまりはこの4人だからこそ、今この形でこの曲が演奏されているということである。
すると川上がピンクのハットを被ってさらに子供っぽくなると、白井の重厚なギターリフが引っ張る「MILK」がSEとは全く違った、生で演奏されるからこその迫力を持って鳴らされる。川上はハットを被ったままでラップのようにステージを歩き回りながら言葉を発しまくるというのはもはやこのバンドとしてのミクスチャーロックという趣きでもあるのだが、川上はアウトロで何故か客席を左右に分けてそれぞれジャンプさせ、最後に観客全体をまとめてジャンプさせる。それはこれからさらに飛び跳ねまくることになるから覚悟しておけよ、と言っているかのように。
その通りにリアドがビートを刻み、白井がギターを鳴らすのは「Kick & Spin」のイントロであるのだが、川上と磯部は「あれ?」という顔で一度演奏を止める。何があったのかと思ったら、
「お前たちの声が大き過ぎてドラムの音が全然聞こえなくて演奏に入れなかった(笑)」
という。それでも
「お前らもっと遠慮…しなくていいからもっと騒げよー!」
と嬉しそうな顔を浮かべて再度演奏された「Kick & Spin」では白井もギターを抱えてジャンプし、サビでは磯部の煽りによって観客の大合唱が響く。もちろん間奏では
「暴れたい名古屋の方々!お待たせしました!」
と白井の弾きまくるギターソロとリアドの力強いビートに合わせて川上も観客も頭を振りまくると、直後にたくさんの人がリフトし、川上が
「生きていく!」
と叫んでサビに入った瞬間にステージの方に転がっていく。そのダイバーたちと拳を合わせるようにする川上は本当に楽しくて、嬉しくて仕方がないというような表情をしている。今自分たちが鳴らしている音によって、目の前にいる人にこんなにも衝動を与えられている、それを発揮してくれているという光景が見れている喜びを爆発させているかのようである。
そしてそのビートがProdigyなどを彷彿とさせるビッグビート的なものとして鳴らされるのは今やライブでおなじみの「we are still kids & stray cats」であり、曲中には真っ暗になった客席にレーザービームが放たれて観客を狂喜させるのであるが、こんなに様々なサウンドやジャンルを飲み込んだ全ての曲がキラーチューンと化していて、この曲ではZeppをダンスフロアというかもはやクラブに変貌させてしまうという幅の広さは本当に凄まじい。2階席にいたバニラズのメンバーたちはこの曲なんかをどう見ていたのだろうか。
そして川上がギターを持つと、
「今回のツアーでは対バン相手の曲を少しだけカバーさせてもらったりしてるんだけど、そうして演奏してみるとそのアーティストのこととか曲がよりよくわかる気がする。今日は俺たちに興味がないようなバニラズのファンの方もいると思いますけど、今日からどうぞよろしくお願いします!」
と言ってこの日カバーされたのはバニラズの「お子さまプレート」という選曲。もちろんバニラズのサウンドのままではなくて、どこかドロスならではの重厚感を感じさせるようなサウンドになっており、さすがにメンバーもステップを踏むような余裕はないのであるが、そのカバーでの湧き上がりっぷりにはバニラズがこの対バンライブでアウェー感が全くないのがわかるのであるが、そんなカバーから繋がるようにしてリアドがビートを刻むのは「Dracula La」であり、もちろんコーラス部分では観客の大合唱が響く中で川上は
「バニラズから奪い去りたい!」
「名古屋に奪われたい!」
と歌詞をこの日のものに変えて叫び、磯部は自身のマイクスタンドを客席に向けてその声を最大限に拾おうとしているのであるが、合唱とともにダイバーも続出する光景は、ドロスのライブハウスってやっぱりこれだよなと思わずにはいられなかった。我々の声が戻ってきて、こうして距離感とか関係ないくらいの肉弾戦的なライブの楽しみ方も戻ってきた。そこにこそ、今ドロスがライブハウスでライブをやる意味があるような気がしていたし、アリーナクラスで見る機会が増えたけど、やっぱりこのバンドの本質はこっちなんだよなと思わずにはいられないくらいに、心身ともにブチ上がるような暑さと熱さだったのだ。
アンコールで再びメンバーがステージに登場すると、このファイナルが終わることによってツアーが終わってしまうことの寂しさを感じさせて少ししみじみする中で演奏されたのは、このツアーの北海道でWurtSと対バンした際にまさかのコラボ曲であることが発表された新曲「VANILLA SKY」。WurtSの歌唱部分はさすがに同期で流したりするところもありつつ川上が歌ったりもしていたが、デジタルなサウンドも取り入れたこの曲はWurtSとの化学反応によってまたこのバンドの新しい扉が開いた曲であると言っていいだろう。そもそもまさかドロスがWurtSとコラボするなんて全く予想していなかったけれど、
「また夏にいろんなフェスとかでも会いましょう」
と言っていたように、夏にはWurtSと一緒にこの曲を演奏する姿が見れるタイミングもあるかもしれない。
そして川上は再びサビやメロだけではなくてイントロから合唱できるかを観客に問いかけると、イントロから謎の大合唱(一応白井のギターのフレーズを歌っている)が巻き起こる「ワタリドリ」と誰もが知る曲をもしっかり演奏してくれるのであるが、川上の飛び跳ねるような仕草に合わせて観客も飛び跳ね、こんなにキーが高い曲でも合唱が響くというのは名古屋に集まったドロスファンの歌唱力の高さと愛の深さが滲み出ていた瞬間だったように思う。それは決して女性比率が高いわけでもなく、男性も普通に原曲キーで合唱していただけに。
そしていよいよこのツアーも最後の瞬間を迎えようとしている。そこで放たれるのは完全にドロスの今の最大の代表曲である「閃光」であるのだが、こうした曲はアレンジを施さない直球勝負だからこそリアドの力強いドラムの連打、白井とMullonのギターフレーズ、磯部のコーラス、そして煽るようにしながらも思いっきり力と感情を込めるように歌う川上のボーカルがストレートに突き刺さる。
だからこそ客席ではダイブも起きていたのだが、よく思い返してみると、この曲はコロナ禍にリリースされただけに、こうしてこの曲でダイブが起こる光景が起こるのを見るのも初めてだった。ドロスの新たな代表曲である曲の本当の真価をこの日ついに感じることができたのである。そういう意味でもリリース前から新たな名曲の誕生を感じさせたこの曲が本当の意味で我々の曲になったと言えるし、やっぱりこの曲でこうした光景が生まれるのがずっと見たかったのだ。それこそが、
「新しい世界はもうそこにあって」
というフレーズを最もリアルなものにしていたのである。
しかしそれでもまだ白井はギターを取り替えている。ということはまだ曲をやるということか…と思っていたら、メンバーの元には酒が置かれたトレーが運ばれている。シャンパンであろう炭酸系と、川上がアンバサダーに選ばれたワイルドターキーのグラスを合わせて乾杯すると、1番キツいであろうワイルドターキーを飲み干すのは磯部。
「これ今飲んだらめちゃくちゃ回るわ(笑)」
と言いながらもアンバサダーとして川上も少しワイルドターキーを飲むと、もはや打ち上げのような感覚で「de Mexico」のどこかラフでルーズなロックンロールサウンドが鳴らされる。それはここまでの爆発力はありながらもしっかりと構築された流れとは全く違うものであり、飲酒しながらだったことも含めてファイナルの最後の曲だからこそのお楽しみ感を感じさせてくれるものだった。
演奏が終わると川上がバニラズのメンバーもステージに招いて、全員で写真撮影するのであるが、セイヤがワイルドターキーをビンごとラッパ飲みし、
「ワイルドターキー似合うな〜」
と言いながらも、さすがに磯部も川上も
「もうこれ以上飲んだらヤバいわ(笑)」
と言って先にステージを後にする。なので珍しく最後にステージに残った白井が爽やかな笑顔を浮かべて
「ありがとうございました!」
と言って去って行った。それは実は超珍しいことであることをファンはみんな知っているために、やはり特別なものになったツアーファイナルだった。
フェスとかではなく、ライブハウスのライブのために自分が住んでいる場所からは遠い地方までライブを観に行くのはコスパという意味ではめちゃくちゃ悪い。交通費だけでチケット代の何倍もお金がかかったりする。でも、それでもやっぱりこうして来て良かったって心から思えると、そんな金額なんかどうでもよくなるというか、コスパなんかじゃ語れないものだと思う。
そもそもバンドという表現形態自体も効率という意味では決して良くはない。でもそこにこそ美しさを感じるし、それを[Alexandros]というバンドが最大限に感じさせてくれるライブを見せてくれるからこそ、そうして来るために金額を費やしたとしても心から来て良かった、このライブを観れて良かったと思う。きっと全国でそんなライブを繰り広げて来たTHIS SUMMER FESTIVAL 2023はこうしてこの日で大団円を迎えた。これから今年はまたいろんな場所の夏フェスで会おう。
1.Underconstruction
2.LAST MINUTE
3.Waitress,Waitress!
4.Starrrrrrr
5.新曲
6.Yeah Yeah Yeah
7.Girl In a Black Leather Jacket
8.Revolution, My Friend
9.Baby's Alright
10.Adventure (川上弾き語り)
11.Oblivion
12.I Don't Believe In You
13.MILK
14.Kick & Spin
15.we are still kids & stray cats
16.お子さまプレート 〜 Dracula La
encore
17.VANILLA SKY
18.ワタリドリ
19.閃光
20.de Mexico
微妙に雨が降ったりという名古屋は非常に蒸し暑く、Zeppの中に入ってもそれは変わることはないのであるが、それはやはり超満員の観客たちが放つ熱量というものも関係しているかもしれないと思うくらいの状態である。
・go!go!vanillas
開演時間の18時30分になると、英語によるこのツアーのナレーションが流れて観客から歓声が上がる。その間にステージ背面にはこのツアーのタイトルなどが書かれた巨大フラッグが迫り上がってくるのであるが、右上の日付が06.30とこの日仕様になっているあたりがさすがであり、そのナレーションも「go!go!vanillas」とこの日のみの対バンであるこのバンドの名前をコールすると、おなじみのSEが流れてサポートキーボードの井上惇志も含めた5人がステージに登場。このツアーのファイナルに招かれたのが、このgo!go!vanillasである。
牧達弥(ボーカル&ギター)が黒ネクタイのスーツ姿というあたりがどこか川上洋平リスペクトな感じもするのであるが(もちろん時折こうした出で立ちをしているのは承知の上で)、バンドの鳴らすイントロが激しくぶつかり合うようなイントロからいきなりの「平成ペイン」でスタートすると、鮮やかな金髪にサングラスという出で立ちのジェットセイヤは立ち上がりながらドラムを連打するのであるが、サビではおなじみの振り付けを「こんなにも!?」と驚いてしまうくらいに踊っている人がたくさんいるというあたりからも、呼ばれた側でありながらもこの日のこのバンドのライブが全くアウェーではないことを実感させてくれる。[Alexandros]ファンですらチケットが取れないだけに、このバンドを見たいがためにチケットを取れた人はそうそういないだろうというあたりにアウェー感のなさの凄さを感じざるを得ない。
すると長谷川プリティ敬祐(ベース)がイントロが鳴らされた段階で手拍子をし、それが客席に広がっていくのはライブではおなじみの「お子さまプレート」であり、間奏ではメンバーがみんなステップを左右に踏むというおなじみの光景が…と思っていたら牧はギターを弾くのに専念している感じで、どこか疲労感を感じざるを得ない。それでもやはりこの曲の楽しさが損なわれることがないのはメンバーたちがカバーするというわけではなくても、その笑顔が客席にも広がっていくからである。
プリティもかつてはタイトルを口にしていた曲入りがもはや何と言っているのかわからないくらいのレベルでテンションが高い「クライベイビー」では牧と柳沢進太郎(ギター&ボーカル)のツインボーカル的な曲として演奏されるのであるが、柳沢もきっと牧が本調子ではないことをわかっているからか、いつも以上に自分がこの曲を引っ張っていくというような頼もしい歌唱を見せてくれている。「お子さまプレート」もそうであるが、この曲も収録されている2021年リリースのアルバム「PANDORA」は本当に名盤であり、バニラズのライブにおけるセトリを塗り替えた作品だと思っている。
メンバーがこうして[Alexandros]のツアーのファイナルに呼んでもらえたという喜びを口にする中で一転してダークな照明とサウンドに包まれたのは昨年リリースの最新アルバム「FLOWERS」収録の「The Marking Song」であり、この不穏なサウンドのロックンロールが演奏できるような持ち時間があるということがこの曲が演奏された段階でわかる。「FLOWERS」のツアーに行けなかった身としては実に嬉しい選曲であるし、バニラズのロックンロールが楽しいだけのものではないという幅の広さと奥深さを感じさせてくれる曲でもある。
それは牧がハンドマイクになって歌う、タイトル通りにイギリスの陰鬱とした灰色の空を思わせるような(行ったことないけど)「倫敦」もまた然りであるが、牧が言ったようにこの曲はこの名古屋という街から一気にロンドンに我々の意識をワープさせてくれるような曲であるのだが、その選曲はOasisなどのUKロックに強い影響を受けている[Alexandros]との対バンだからという意識も感じられる。つまりはバニラズからドロスへのリスペクトを感じさせるということである。
牧の分までという意識を最も感じさせるように思いっきり声を張り上げる柳沢が
「名古屋!」「ドロス!」
というコール&レスポンスを展開する「カウンターアクション」では曲が始まってすぐに牧がジャケットを脱いで白シャツだけになり、さらに間奏ではネクタイをも緩めるという暑さと熱さに対応したクールビズ的な出で立ちになっていくのであるが、疲れによる万全ではなさを微塵も感じさせないように自身のセンターマイクを分け合うようにして柳沢と一本のマイクで歌うあたりはロックンロールバンドとしての凄まじい色気を放っている。それこそロンドン、イギリスから世界に広まっていったビートルズのように。
するとメンバー全員でサビのフレーズを歌い上げるようにしてから牧がギターを置いてステージを歩き回りながら歌う「one shot kill」というバニラズのロックンロールの極みとでも言うような曲が続く。万全ではなさそうなのが普段のライブを見ているからこそわかる牧はそれでもハンドマイクという特性を生かして客席最前列の柵に立つようにして歌うという天性のロックスターっぷりを見せてくれるし、やっぱりステージに立つと万全の体調ではなくてもアドレナリン的なものが放出されるんだろうなとも思う。
そんなバニラズメンバーは
プリティ「交通事故に遭った時にヒロさん(磯部寛之)から凄い優しいLINEが来た」
セイヤ「リアドさんとツアーが始まる前に決起集会って言って朝まで飲んでた」
柳沢「白井さんとは何回も飲みに行かせてもらってて、めちゃくちゃ機材の話とかをしてる」
と、メンバーそれぞれがドロスのメンバーと親交があることを口にするのであるが、牧だけは
「さっき楽屋で10分くらい洋平さんと喋らせてもらって、いろんな相談をした(笑)」
とまだ浅い関係性であることがわかってしまう。なかなかおいそれとは川上洋平には話しかけられないだろうし、そこにこそ牧が言うように
「優しいけれどピリッとしてる先輩」
というドロスらしさが表れていると思う。
そんな関係性も全て現在進行形の青春としてまとめ上げてしまうかのような「青いの。」では井上のキーボードがそのメロディの美しさをさらに引き上げてくれる、牧がステージ上を歩き回りながら爽やかに歌う曲であり、歌い出しからやはりプリティとともに手を叩く観客も含めて曲タイトルに合わせて爽やかな青い照明に照らされることによって、我々自身も今もなお青春真っ只中にいるような気持ちにさせてくれる。というか今まさにその渦中にいるというような若い学生であろう観客もたくさんいたのであるが。
するとメンバー全員によるマイクリレーが行われることによって観客のテンションをさらに引き上げてくれる「デッドマンズチェイス」ではセイヤがスティックを放り投げて立ち上がりながらドラムを叩いて歌う一方で牧はステージからギターを抱えたままで客席へダイブするという、ライブハウスの距離感ならではの熱いパフォーマンスを見せてくれる。体調は万全ではないけれど、精神は燃えたぎっているのが確かにわかるだけに何の心配もいらないなと思うのであるし、去年などには自身が体調を崩してライブを飛ばすこともあった柳沢のボーカルが安定感抜群なのは、今この日の牧の精神状態を柳沢が誰よりも理解しているからだろう。
「僕らとドロスはどちらも洋楽から強い影響を受けて音楽をやっていると思ってる。だから次に一緒にやる時には海外ツアーを一緒に回りたいと思ってる」
という牧の言葉からはこれからこの2組がさらに接近していく関係性になりそうなことを感じさせたし、やはり同じような音楽やバンドに憧れてロックバンドという道を選んだことをも感じさせてくれるのであるが、プリティによる「E・M・A」の文字を体で表現してから演奏に入る「エマ」はドロスにはないこのバンドだからこそのキャッチーさと可愛らしさを感じさせてくれるし、何よりもまるでこのバンドのワンマンに来たかのようにサビで観客が腕を交互に上げる光景は壮観であり、柳沢が
「バニラズのライブを初めて見た人?」
という問いかけに手を挙げていた人たちすらも完全に虜にしてしまっていたということである。
そして牧が
「みんなもドロスも俺たちもさらなる高みに登っていけるように」
と言って、メンバー全員の声に加えて観客の歌声も重なっていく「HIGHER」の祝祭感溢れるサウンドがこれからのバニラズとドロスの進んでいく道を祝福しているかのようであった。その道は全く違うものかもしれないけれど、きっとまたこの先で交わる日が来ることを確かに予感させるような。それは演奏後にセイヤが客席にダイブするくらいに高まっていた姿からも確かに感じられた。何よりもしっかり先輩のツアーファイナルという輝かしい舞台のライブをやり切った牧に心から拍手と感謝を送りたい。
後、オープニングアクト的な30分ではなくて、ゲストに1時間もの持ち時間を与えることによって文字通りにバチバチの対バンとしてゲストの魅力を最大限に引き出してくれる[Alexandros]側にも。
1.平成ペイン
2.お子さまプレート
3.クライベイビー
4.The Marking Song
5.倫敦
6.カウンターアクション
7.one shot kill
8.青いの。
9.デッドマンズチェイス
10.エマ
11.HIGHER
・[Alexandros]
やはり転換を経てアナウンス的な音が流れてから場内が暗転するのであるが、そのアナウンスの段階から大歓声が湧き上がっていたのは、この地でツアーファイナルを迎えることを選んだバンドへの感謝の念もあったであろう。「MILK」のSEによってステージに登場した[Alexandros]、このツアー最後のライブである。
前回のホール〜アリーナツアーではステージ上にはセッティングされていなかった、Mullon(ギター)とROSE(キーボード)の機材もステージ上にしっかりセッティングされているというあたりにライブハウスだからこそのあらゆる意味での距離感の近さを感じさせるのであるが、髪が少しさっぱりしてデビュー当時のようにも感じられる川上洋平(ボーカル&ギター)が歌い始めたのは「Underconstruction」という初期の名曲。その曲がよりサウンドが絞られたというか削ぎ落とされたアレンジとして演奏されることによって、その歌とメロディがさらに引き立っている。この曲ではMullonは参加してROSEはまだステージに現れていなかったが、そうして曲に合わせた適材適所の形で演奏されていくということがこの段階で早くもわかる。
そのROSEが参加してMullonが外れるという形、かつ川上がハンドマイクになるのはロマンチックな「LAST MINUTE」であるが、この曲もまたリアド(ドラム)のリズムとROSEのキーボードをメインとした削ぎ落とされたサウンドにアレンジされており、白井眞輝(ギター)と磯部寛之(ベース)は曲後半になって入ってくるという形。川上はすでに暑いことによってか短くなった髪をかき上げるようにしながら歌うことでオールバックのような髪型になり、それがまた独特の色気を強く放っている。こうしてライブごとに曲にアレンジを施すことによって、毎回違うライブになるのも[Alexandros]ならではである。
川上がアコギを持つと、リアドの力強いビートに合わせて観客から「オイ!オイ!」という歓声が上がるも、体全体を使って煽りまくる磯部が
「聞こえねーぞ名古屋ー!」
と叫ぶとさらにその声が大きくなる「Waitress, Waitress!」では間奏でROSEの流麗なキーボードのサウンドも響き渡ると、
「今日本当にみんなの声が凄い。間違いなくこのツアーで1番です。あまりに凄いからイヤモニ外すわ。音声さん、こっち(足元のモニター)でお願いします!」
と言って早くもジャケットも脱いでタンクトップ姿になった川上がイヤモニを外して観客の声を直で聞こうとし、
「サビだけじゃなくて、AメロもBメロもギターソロも全部歌えよ!」
と観客の歌声を求める「Starrrrrrr」ではやはり大合唱が響くのであるが、昨年末の声出しが解禁された代々木体育館の時もそうだったけれど、川上は、[Alexandros]は自分たちの音楽が、ライブが1番であるという絶対的な自信を持っているバンドだけれど、それはこうした観客の大合唱も含めてのものであるということがよくわかる。そうして大合唱することによって、この曲たちは自分たちの、我々のものになってきたのである。サビではダイバーが出現するという光景もライブハウスならではの、実に久しぶりなものであり、それを見ているとやっぱりこれだよなと思うのは、まだ[Champagne]だった頃からずっとこの光景をライブハウスで見てきたからである。
「次も歌ってください!おなじみの曲です!」
と言って爽やかなサウンドの演奏が始まるも、どう聴いても馴染みがない。これは自分に馴染みがないだけなのか、とも思っていたのだが、これは完全なる新曲。サビの最後に川上が客席を指差すようにして
「愛しい人よ」
と歌うあたりはラブソングなのかもしれないが、ドロスのメロディの爽やかさを極限まで抽出したと言っていいようなキャッチーな曲であり、昨年フルアルバムをリリースしたばかりだというのにまた次なる作品を期待したくなる。演奏後には川上が
「新曲でした!」
と悪戯っぽく言うあたりはさすがである。
その川上が再びハンドマイクになって
「ロックンロールはこう(人差し指を挙げる)じゃねぇ!こうだ!」
と叫んで拳を振り上げるような仕草を観客に求めてから演奏されたのは初期のシンプルなロックンロール「Yeah Yeah Yeah」であるが、ワンコーラスで真っ赤な照明に照らされた川上のまくしたてるようなボーカルの「Girl In a Black Leather Jacket」へとスムーズに繋がり、さらにはそのまま「Revolution, My Friend」と繋がるという、近年は滅多に演奏されない曲たちをAメロ、Bメロ、サビとして再構築するかのようなメドレー形式での乱れ打ちに。「Revolution,〜」なんかはアルバムリリース後以来じゃないかというくらいに久しぶりであるが、今のバンドの状態で演奏されることによるアウトロのグルーヴが段違いの迫力を獲得している。毎回ツアーではこうして過去の曲を今のバンドで演奏して欲しいと思ってしまうくらいに。
そんな懐かしの曲から一気に昨年リリースの最新アルバム曲に時系列が戻る「Baby's Alright」はまさに今のバンドのレベルを見せつけるような複雑なリアドと磯部のキメの連発と、川上のスピード感溢れる歌唱によってさらに観客のテンションを上げてくれるような曲である。さすがにこの曲では爆音かつ隙がなさすぎて白井と磯部によるタイトルフレーズのコーラスは大合唱とはならなかったけれど。
するとここで一旦メンバーたちがステージを去るとアコギを持った川上だけになり、
「大阪とかはノリが良いってよく言われますけど、名古屋は情が深いって思ってて。新しいバンドとかが来ると最初は様子見みたいな感じだけど、一度好きになってくれたらずっと好きでいてくれるみたいな。って、イベンターさんが言ってました(笑)」
とオチをつけるのはさすがであるが、ステージに1人だけになったことによってリラックスしているのか、観客の歓声に対して
「お持ち帰りしたいし、お持ち帰りされたいですよ(笑)」
という会話すら交わされるくらいに。
そんな川上による弾き語りの形で演奏されたのは「Adventure」であり、メンバーがいないということはコーラス部分を観客が大合唱するということなのであるが、コーラス部分だけではなくて川上はサビなどのあらゆる部分でマイクスタンドから離れるようにして観客の合唱を煽る。つまりはこれは弾き語りというよりも合唱バージョンと言ってもいいくらいのものであり、そのための大胆な作戦でありマスタープラン。その光景や響く音に毎回感動させられてしまうからこそ、いつだって我々はこのバンドに連れられてきたのである。
メンバーがステージに戻ってくると、白井が煌めくようなギターサウンドを鳴らして始まったのは、どこか冒険の始まりのような胸の高鳴りを呼び起こしてくれるような「Oblivion」であり、これもまたライブで聴くのが実に久しぶりの曲なのであるが、唯我独尊的なスタンスのこのバンドだからこそ
「誰の為でも無くて
他でも無い自分自身の為にあるこの命を
いかにして」
というフレーズがそのスタンスを示しているものとして響くのであるが、そんな自分自身のためがこうして他の誰かの為になり、糧になっている。そうした部分こそが自分がこのバンドをこんなにロックなバンドいないよなと思うような所以なのである。
すると川上がこの日の対バンのgo!go!vanillasを
「今回のツアーはいろんなアーティストに出てもらったけど、1番距離が近いところにいるバンドっていう感じがするっていうか、遠い親戚みたいに思えるバンドだなって」
と称する。この時に2階席にいたバニラズメンバー(牧はこの時はいなかった)はそれぞれに拍手をしたり頭を下げたりしていたのであるが、
「でも対バンは出てくれてありがとうもあるけど、やっぱりぶっ潰したい、客を全部奪いたいって感じになるんだよね。俺たちの最大規模はZOZOマリンスタジアムワンマンだけど、そこまで行ってもまだ若手っていう気持ちは変わらない。(観客からの「わかるよ!」という声に対して)なんでお前にわかるんだよ(笑)
でも本当にずっとそういう若手みたいな気持ちでやってるつもりだから、バニラズに先輩扱いされるとちょっとくすぐったいみたいな気持ちになる(笑)」
と、かつて対バンやイベントでもよく口にしていたことを今も口にするということは、本当に今もその気持ちが失われていないのだろうし、その気持ちがあるからこそ、ライブハウスで若手バンドのように攻めた、勢いで押しまくるようなライブができているんだとも思う。
それは川上が無邪気さすら感じるくらいにノリノリでサンプラーを操作して電子音を発する「I Don't Believe In You」を見ていてもわかるのであるが、そうしてこの曲がさらにハイパーなサウンドを纏って進化を果たし、間奏ではリアドの不規則でありながらも実に力強い、つまりはリアドでしか叩け得ないようなドラムソロも展開される。つまりはこの4人だからこそ、今この形でこの曲が演奏されているということである。
すると川上がピンクのハットを被ってさらに子供っぽくなると、白井の重厚なギターリフが引っ張る「MILK」がSEとは全く違った、生で演奏されるからこその迫力を持って鳴らされる。川上はハットを被ったままでラップのようにステージを歩き回りながら言葉を発しまくるというのはもはやこのバンドとしてのミクスチャーロックという趣きでもあるのだが、川上はアウトロで何故か客席を左右に分けてそれぞれジャンプさせ、最後に観客全体をまとめてジャンプさせる。それはこれからさらに飛び跳ねまくることになるから覚悟しておけよ、と言っているかのように。
その通りにリアドがビートを刻み、白井がギターを鳴らすのは「Kick & Spin」のイントロであるのだが、川上と磯部は「あれ?」という顔で一度演奏を止める。何があったのかと思ったら、
「お前たちの声が大き過ぎてドラムの音が全然聞こえなくて演奏に入れなかった(笑)」
という。それでも
「お前らもっと遠慮…しなくていいからもっと騒げよー!」
と嬉しそうな顔を浮かべて再度演奏された「Kick & Spin」では白井もギターを抱えてジャンプし、サビでは磯部の煽りによって観客の大合唱が響く。もちろん間奏では
「暴れたい名古屋の方々!お待たせしました!」
と白井の弾きまくるギターソロとリアドの力強いビートに合わせて川上も観客も頭を振りまくると、直後にたくさんの人がリフトし、川上が
「生きていく!」
と叫んでサビに入った瞬間にステージの方に転がっていく。そのダイバーたちと拳を合わせるようにする川上は本当に楽しくて、嬉しくて仕方がないというような表情をしている。今自分たちが鳴らしている音によって、目の前にいる人にこんなにも衝動を与えられている、それを発揮してくれているという光景が見れている喜びを爆発させているかのようである。
そしてそのビートがProdigyなどを彷彿とさせるビッグビート的なものとして鳴らされるのは今やライブでおなじみの「we are still kids & stray cats」であり、曲中には真っ暗になった客席にレーザービームが放たれて観客を狂喜させるのであるが、こんなに様々なサウンドやジャンルを飲み込んだ全ての曲がキラーチューンと化していて、この曲ではZeppをダンスフロアというかもはやクラブに変貌させてしまうという幅の広さは本当に凄まじい。2階席にいたバニラズのメンバーたちはこの曲なんかをどう見ていたのだろうか。
そして川上がギターを持つと、
「今回のツアーでは対バン相手の曲を少しだけカバーさせてもらったりしてるんだけど、そうして演奏してみるとそのアーティストのこととか曲がよりよくわかる気がする。今日は俺たちに興味がないようなバニラズのファンの方もいると思いますけど、今日からどうぞよろしくお願いします!」
と言ってこの日カバーされたのはバニラズの「お子さまプレート」という選曲。もちろんバニラズのサウンドのままではなくて、どこかドロスならではの重厚感を感じさせるようなサウンドになっており、さすがにメンバーもステップを踏むような余裕はないのであるが、そのカバーでの湧き上がりっぷりにはバニラズがこの対バンライブでアウェー感が全くないのがわかるのであるが、そんなカバーから繋がるようにしてリアドがビートを刻むのは「Dracula La」であり、もちろんコーラス部分では観客の大合唱が響く中で川上は
「バニラズから奪い去りたい!」
「名古屋に奪われたい!」
と歌詞をこの日のものに変えて叫び、磯部は自身のマイクスタンドを客席に向けてその声を最大限に拾おうとしているのであるが、合唱とともにダイバーも続出する光景は、ドロスのライブハウスってやっぱりこれだよなと思わずにはいられなかった。我々の声が戻ってきて、こうして距離感とか関係ないくらいの肉弾戦的なライブの楽しみ方も戻ってきた。そこにこそ、今ドロスがライブハウスでライブをやる意味があるような気がしていたし、アリーナクラスで見る機会が増えたけど、やっぱりこのバンドの本質はこっちなんだよなと思わずにはいられないくらいに、心身ともにブチ上がるような暑さと熱さだったのだ。
アンコールで再びメンバーがステージに登場すると、このファイナルが終わることによってツアーが終わってしまうことの寂しさを感じさせて少ししみじみする中で演奏されたのは、このツアーの北海道でWurtSと対バンした際にまさかのコラボ曲であることが発表された新曲「VANILLA SKY」。WurtSの歌唱部分はさすがに同期で流したりするところもありつつ川上が歌ったりもしていたが、デジタルなサウンドも取り入れたこの曲はWurtSとの化学反応によってまたこのバンドの新しい扉が開いた曲であると言っていいだろう。そもそもまさかドロスがWurtSとコラボするなんて全く予想していなかったけれど、
「また夏にいろんなフェスとかでも会いましょう」
と言っていたように、夏にはWurtSと一緒にこの曲を演奏する姿が見れるタイミングもあるかもしれない。
そして川上は再びサビやメロだけではなくてイントロから合唱できるかを観客に問いかけると、イントロから謎の大合唱(一応白井のギターのフレーズを歌っている)が巻き起こる「ワタリドリ」と誰もが知る曲をもしっかり演奏してくれるのであるが、川上の飛び跳ねるような仕草に合わせて観客も飛び跳ね、こんなにキーが高い曲でも合唱が響くというのは名古屋に集まったドロスファンの歌唱力の高さと愛の深さが滲み出ていた瞬間だったように思う。それは決して女性比率が高いわけでもなく、男性も普通に原曲キーで合唱していただけに。
そしていよいよこのツアーも最後の瞬間を迎えようとしている。そこで放たれるのは完全にドロスの今の最大の代表曲である「閃光」であるのだが、こうした曲はアレンジを施さない直球勝負だからこそリアドの力強いドラムの連打、白井とMullonのギターフレーズ、磯部のコーラス、そして煽るようにしながらも思いっきり力と感情を込めるように歌う川上のボーカルがストレートに突き刺さる。
だからこそ客席ではダイブも起きていたのだが、よく思い返してみると、この曲はコロナ禍にリリースされただけに、こうしてこの曲でダイブが起こる光景が起こるのを見るのも初めてだった。ドロスの新たな代表曲である曲の本当の真価をこの日ついに感じることができたのである。そういう意味でもリリース前から新たな名曲の誕生を感じさせたこの曲が本当の意味で我々の曲になったと言えるし、やっぱりこの曲でこうした光景が生まれるのがずっと見たかったのだ。それこそが、
「新しい世界はもうそこにあって」
というフレーズを最もリアルなものにしていたのである。
しかしそれでもまだ白井はギターを取り替えている。ということはまだ曲をやるということか…と思っていたら、メンバーの元には酒が置かれたトレーが運ばれている。シャンパンであろう炭酸系と、川上がアンバサダーに選ばれたワイルドターキーのグラスを合わせて乾杯すると、1番キツいであろうワイルドターキーを飲み干すのは磯部。
「これ今飲んだらめちゃくちゃ回るわ(笑)」
と言いながらもアンバサダーとして川上も少しワイルドターキーを飲むと、もはや打ち上げのような感覚で「de Mexico」のどこかラフでルーズなロックンロールサウンドが鳴らされる。それはここまでの爆発力はありながらもしっかりと構築された流れとは全く違うものであり、飲酒しながらだったことも含めてファイナルの最後の曲だからこそのお楽しみ感を感じさせてくれるものだった。
演奏が終わると川上がバニラズのメンバーもステージに招いて、全員で写真撮影するのであるが、セイヤがワイルドターキーをビンごとラッパ飲みし、
「ワイルドターキー似合うな〜」
と言いながらも、さすがに磯部も川上も
「もうこれ以上飲んだらヤバいわ(笑)」
と言って先にステージを後にする。なので珍しく最後にステージに残った白井が爽やかな笑顔を浮かべて
「ありがとうございました!」
と言って去って行った。それは実は超珍しいことであることをファンはみんな知っているために、やはり特別なものになったツアーファイナルだった。
フェスとかではなく、ライブハウスのライブのために自分が住んでいる場所からは遠い地方までライブを観に行くのはコスパという意味ではめちゃくちゃ悪い。交通費だけでチケット代の何倍もお金がかかったりする。でも、それでもやっぱりこうして来て良かったって心から思えると、そんな金額なんかどうでもよくなるというか、コスパなんかじゃ語れないものだと思う。
そもそもバンドという表現形態自体も効率という意味では決して良くはない。でもそこにこそ美しさを感じるし、それを[Alexandros]というバンドが最大限に感じさせてくれるライブを見せてくれるからこそ、そうして来るために金額を費やしたとしても心から来て良かった、このライブを観れて良かったと思う。きっと全国でそんなライブを繰り広げて来たTHIS SUMMER FESTIVAL 2023はこうしてこの日で大団円を迎えた。これから今年はまたいろんな場所の夏フェスで会おう。
1.Underconstruction
2.LAST MINUTE
3.Waitress,Waitress!
4.Starrrrrrr
5.新曲
6.Yeah Yeah Yeah
7.Girl In a Black Leather Jacket
8.Revolution, My Friend
9.Baby's Alright
10.Adventure (川上弾き語り)
11.Oblivion
12.I Don't Believe In You
13.MILK
14.Kick & Spin
15.we are still kids & stray cats
16.お子さまプレート 〜 Dracula La
encore
17.VANILLA SKY
18.ワタリドリ
19.閃光
20.de Mexico
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