夜の本気ダンス "O-BAN-DOSS -Duo Sonic-" @渋谷CLUB QUATTRO 6/29
- 2023/06/30
- 19:38
夜の本気ダンスの対バンライブシリーズ「O-BAN-DOSS」が今回は東名阪で開催され、しかも今回は対バンとワンマンでの2daysという形式。この日の渋谷CLUB QUATTROは前日にドレスコーズとの対バンを終えた後のワンマンでありツアーファイナルであるが、特段何のリリースも経ていないツアーということで、普段はあまり聴けない曲が聴けるんじゃないかという期待も高まる。
先月にTHE 2のライブを観にきた時もそうだったが、ステージへの視界を遮る柱が邪魔なことで有名な会場であって、そこには観客が陣取らないためか、QUATTROは「こんなに入れていいのか」ってくらいに満員なのに普通に当日券が出ていたりする。なので始まる前からすでに超満員で熱気に満ちているのである。
開演時間の19時を少し過ぎたあたりでおなじみのSE「ロシアのビッグマフ」が流れて、西田一紀(ギター)を先頭にメンバーが登場。米田貴紀(ボーカル&ギター)はその時点からすでに観客を煽るようにしながらギターを持つと、観客が声を出せるようになったことによって客席から大歓声が起こる。自分はすでに年始の千葉LOOKでのWiennersとの対バンの時に観客が声を出せる夜ダンのライブを久しぶりに体験したが、明らかにその時よりも圧倒的に観客が遠慮なく声を上げているのがさらにテンションが上がるのであるが、メンバー全員が向かい合うようにしておなじみの音出しを始めるとその歓声がさらに大きくなり、米田が
「どうもこんばんは、僕たちが京都のバンド、夜の本気ダンスです」
と挨拶すると、米田はその音出しだけでギターを置いて、早くも誰よりも自身が1番踊ることによって解放されているかのようにハンドマイクを持って体を揺らし、くねらせながら歌い踊る「Feel So Good」からスタートすると、やはりツアーを経てきたことによってさらに強化されたバンドのグルーヴによって否が応でも踊らざるを得ないし、それはタイトルフレーズを歌う西田とマイケル(ベース)のコーラスもそうである。つまりは1曲目からまさに「Feel So Good」でしかない状態が広がっているのであるが、1曲目からこの曲(かなり久しぶりにライブで聴いた気がする)というあたりから、この後にどんな曲が来るのかとより気合いが入る。
すると早くもイントロで大歓声が起こるのは、やはり米田が観客にさらに踊るように煽ってから体をくねらせまくる「fuckin' so tired」であり、普段は割とライブ後半で米田がネクタイを解いてメガネを吹っ飛ばして…という極まった状態になる曲なのだが、まだ2曲目ということでさすがにそうはならずであるが、それでも客席では誰もが腕を上げて飛び跳ねまくっている。こうしてサビでメンバーと一緒に歌いながら踊りまくれるということの喜びを噛み締めているかのようであり、すでに実に幸せな空気と熱い熱気がクアトロの中に満ちている。
そんな観客の熱さに米田が驚きながら、話し始めるだけで客席から笑いが漏れるくらいのエンターテイナーっぷりを発揮するようになった鈴鹿秋斗(ドラム)も
「渋谷、元気やなー!っていうか渋谷なんて元気じゃなければ来れないもんな!(笑)」
という渋谷という街への偏見みたいなことを口にしてしまうくらいには観客が元気でしかないことが伝わっているということである。
そんな鈴鹿が高速四つ打ちのリズムを刻むことによって、この曲ではギターを持って弾く米田の言う通りによりクレイジーになって踊りまくる「Crazy Dancer」では照明の色が次々に様々な色になって明滅するという演出も観客をさらに踊らせる要素になっているが、間奏でステージ中央に出てきての西田の強烈なギターソロもまた然り。つまりはこのバンドの持つありとあらゆる要素が観客を踊らせてくれているのである。そこにサビでメンバーとともに観客の大合唱が乗っかるという光景はやはりグッと来てしまうものがある。
そんな中でやはり初期の時期の曲である「for young」も演奏されるというあたりが、なかなか聴けないだけに実に嬉しい選曲であるが、サビでは米田が手を左右に振ることによってそれが客席にも広がっていく。そうして足だけではなくて体全体で踊らせてくれるというあたりはさすが名前が本気ダンスなバンドであるし、高速ダンスという激しさだけではなくて、ポップな部分も初期から持ち合わせていたバンドであることが今聴くことによってよくわかるのである。
そんな中で演奏されたのはまだタイトルすらも決まっていないという新曲。その新曲は近年、特にコロナ禍でリリースしてきた曲のような、バンドの音楽性を拡張するようなサウンドというよりも、今一度夜ダンのど真ん中なダンスロックに向き合うような曲である。後で鈴鹿は
「新曲で歌詞わからんのに歌おうとしてる人おった(笑)」
と、観客が声を出して歌えること、その顔をしっかり見ることができることの喜びと嬉しさを口にしていたが、そうしたくなるくらいのキャッチーなメロディを持っている曲だということでもある。こうしてライブで演奏するくらいに仕上がっているということは…と楽しみはさらに増えるのである。
新曲をやるのは意外というよりもある程度予測できていたのであるが、それよりも意外だったのは2ndフルアルバム「DANCEABLE」収録の「escape with you」であろう。
「君を待って123
滑り込んだ最終で」
というサビのフレーズの韻の踏みっぷりも実に心地良い曲であるが、そうしたフレーズの端々からは物理的な意味での逃避を、マイケルの低音と鈴鹿の金物をメインとしたリズムのグルーヴからは精神的な意味での逃避を感じさせてくれる。そこにはもちろん米田の誰も真似することができないような独特の粘りを持った歌声という要素もあってこそ。しかしその逃避は現実と向き合う力を持つためのものである。そう思うくらいに目の前で力強い音が鳴らされている。
米田は前日のドレスコーズとの対バン時にはしゃぎ過ぎてメガネが壊れてしまったらしく、前日には「明日は裸眼でやります」宣言をしていたものの、この日もちゃんとメガネをかけていることを謝罪(?)すると、
鈴鹿「イギリスに送って修理してもらったのがすぐ届いたんよな!」
米田「…そう…やな…」
マイケル「もう答えるのめんどくさくなってるやん(笑)」
という、ちゃんと受け答えしなくても面白くなってしまうのは鈴鹿のボケというよりもむしろマイケルのツッコミの技量あってこそだろう。その決して派手ではないがバンドのダンスサウンドやグルーヴの土台を支えるベースのように、こうしたMCでもこの男の存在はなくてはならないものとしてバンドを支えている。
ここまではアッパーであったりポップであったりというダンスチューンが続いていたが、ここで米田が
「縦ノリが凄いですけど、横ノリも行けますか?」
と観客に語りかけると、同期の音としてのコーラスが心地良く響く「Wall Flower」はその言葉通りに我々観客の体を心地良く揺らしてくれるような曲であるが、ここまでは派手な色彩がより我々の体を踊らせてくれていた照明がそのサウンドに合わせたかのように真っ白な光に包まれるような中で演奏されるこの曲はどこか美しさすら感じられるし、西田のジャキジャキと刻むギターもマイケルのうねるベースもライブで演奏されてきたことによってより肉体的な楽曲として進化してきたことを感じさせてくれる。
「ちょっと落ち着いちゃった?でもここからは休みなく踊りまくれますか!」
と米田が言うと、明確には口にはしなかったが夜ダンのライブではおなじみのノンストップダンスアレンジパートの「本気ダンスタイム」突入の合図であろう。
その口火を切るのはイントロに本気ダンスタイム突入を告げるアレンジが追加されて始まった、コーラスでの観客の合唱はもちろん、やはり鈴鹿のラップ(音源ではCreepy NutsのR-指定がラップしている)が聴ける「Movin'」であり、その鈴鹿のラップが実にスムースかつスピーディーなグルーヴを生み出すと、イントロの段階でこんなに跳びまくるのか?と思ってしまうくらいに観客が飛び跳ねる「Ain't No Magic」へと曲間なく続くのであるが、なんなら長身であるというメリットを活かして誰よりも高く飛び跳ねているのが米田であり、その姿がさらに我々を高く飛ばせてくれる。その頭上ではミラーボールが煌びやかに回るという実に美しくも熱いダンスフロアが生み出されているのである。
そんな流れの中に入ってくるのが少々意外だったのは
「三振奪ってちょうだい
斬新じゃなくてAll right」
という歌い出しのフレーズを是非令和の奪三振王の千葉ロッテの佐々木朗希の登場テーマに使っていただきたいと常々思っている「Can't You See!!!」であり、ここまでの流れよりもさらにロックなサウンドがさらに我々の体を激しく動かせると、一旦ギターを持った米田も含めた4人が向かい合うようにして演奏を締めるようにする。
早くもここでノンストップなダンスタイムは終わりか?とも思ったりしたのだが、すぐさま同期の音が鳴り始めたために、その音から始まるからこそ一度締めるようにしたということがわかるのであるが、その同期から始まる「審美眼」でのイントロからの観客の飛び跳ねっぷりには驚かされてしまう。まだ歌も入ってない段階からこんなにも、と思ってしまうし、それはロックバンドが同期を取り入れるとダイレクトなライブ感が失われてしまう場合もあるのに対し、夜ダンの同期は自分たちのダンスの要素をさらに増強するために使われているからだ。それが超高速リズムではなくて、飛び跳ねるのに適したリズムの曲で使われているからこそ、こうしてこれまでに生み出してきた熱狂をさらに更新することができている。奇しくもコロナ禍で果たすことになった夜ダンの新たな試みはバンドとして、さらには観客までをも巻き込んで大きな進化を果たしたことを証明したと言っていいだろう。それをライブにおける客席側の規制がなくなったことによって最大限に味わうことができるのである。
そんなノンストップダンスタイムの最後を担うのは西田のギターが激しく切り込んでくる中でサビでは
「yeah yeah yeah come on by my side」
という意味よりもキャッチーさに全振りしたかのようなフレーズでやはり観客が飛び跳ねまくる「By My Side」なのであるが、間奏では実に久しぶりに米田が
「僕と一緒に歌ってもらってもいいですか?」
と問いかけてコール&レスポンスが展開される。そのレスポンスを思いっきり叫ぶようにして歌う観客たちの声と姿は、やはりこの3年間でどうしても晴れることはない抑圧された感情や気持ちがあって、それはこうして愛するロックバンドのライブで感情を解放するように歌い、踊り、叫ぶことによってのみ晴れるものであるということを実感せずにはいられなかった。それはもしかしたらこのツアーを回ったことによってメンバーやスタッフも実感していたことなのかもしれない。
そんな本気ダンスタイムがやはりアウトロの壮大さすら感じるようなアレンジによって締められると、米田メガネを熱気によって曇らせながら、
「みんな本当に凄いよ。なんか、話すことないな…。全部音楽でコミュニケーションができている感じがする。だから何にも言わなくていいんじゃないかって思うくらい」
とこの日の観客の熱気の凄まじさを称え、そんな観客と
「ラブラブしようぜー!」
と言って演奏された「LOVE CONNECTION」では米田も西田も演奏中に飛び跳ねまくるのであるが、長身痩躯の米田はともかくとして、運動神経があんまり良くなさそうなイメージの西田がこんなにも高くジャンプしているというのはいつも驚かされてしまうし、逆にそんな西田があそこまで飛べるんなら我々ももっと飛べるとばかりに観客もさらに飛び跳ねまくっている。ライブハウスでもそうそう発生しない、誰が1番高く飛べるか選手権みたいな感じになっているこの光景が実に面白いし、そこには誰しもの笑顔が溢れている。
すると米田がスピッツの名曲を思わせるような爽やかなギターを弾き始めたのは「SOMA」で、その爽やかなサウンドに合わせるようにして緑色の照明がステージを照らす。
「サルバドールみたいに溶けてく時代
あっちゅう間に過ぎてくサマータイム
ブルースはブルー
ドライブならイエロー
踏み込んだままで」
という歌い出しのフレーズはまさに今から迎える季節のための曲であることを感じさせるのであるが、そのフレーズに合わせて照明も色を変えていくことによって、我々に様々な情景を想起させるし、夜ダンの音楽がただひたすらに踊らせるものではなく、メロディが抜群にキャッチーであるという要素が芯にあることがわかるのである。もちろんそうしたダンスナンバーたちにもメロディのキャッチーさは存分に生かされているし、米田も曲終わりで口にしていたようにこの日の熱狂の光景についての感情や感想であるかのようにこの曲は
「忘れたくないよ」
と締められるのである。
そんな爽やかな曲から一転して、タイトル通りに悪夢を思わせるようなダークなダンスサウンドが鳴らされる「Insomnia」と実に肉体的にも精神的にも感情の起伏が大きくて忙しいのであるが、やはりその曲のイメージを具現化するようなグルーヴとサウンドの強さには唸らされるし、米田のタイトルフレーズの歌唱の捻りや粘りの強さはまさに悪夢の中に引き込まれていきそうな表現力を有しており、米田がこのバンドのサウンドにおいて100%以上にふさわしいボーカリストであることを示してくれている。
しかしながらその米田はMCになると、
「みんなが眩し過ぎてエレクトリカルパレードを見ているみたい。なんならみんながミッキーに見える。パレードに参加しながら他の場所では会える会みたいなのやってたりしてるけど、ミッキーは1人しかいないけど(笑)」
と一気に緩くなるのであるが、そうしてディズニーネタを出したことによって
鈴鹿「西田は夢の国に行ったことないでしょ?(笑)」
西田「ルッキズムですか?じゃあ私が夢の国に行ったことがあると思う人、手を挙げて。
(ごく少数しか手を挙げず)…挙げなかった人たちはお帰りください(笑)挙げた人はこれからも仲良くやりましょう(笑)」
鈴鹿「行ったことあんの?」
西田「ない。行ってたまるかい」
鈴鹿「そういうスタンス?」
西田「魔法は音楽だけでいいんですよ」
と何故か名言に行き着くのであるが、そんな西田はペットボトルの水を飲み干してしまってスタッフに追加を求めるというあたりからもこの日の暑さと熱さが伝わってくるのであるが、何故か鈴鹿がペットボトルを2本も常備しており、
西田「ここが水を堰き止めてたんちゃう?」
鈴鹿「そんな滋賀県民みたいなことするか!(笑)
滋賀県民は京都府民がなんか言うとすぐに「琵琶湖の水止めたる!」って言うてくるからな!」
と、抜群の反射神経でボケを繰り出し、
鈴鹿「滋賀県民だよっていう人?どうぞお帰りください(笑)」
と西田に被せるあたりも本当にさすがとしか言いようがない。
そんな爆笑のMCも夜ダンのライブの楽しみの一つであるが、そんなMCの後にはこのツアーを締め括るべく、必殺の「WHERE?」がここで放たれてやはり一瞬にして熱狂のダンスフロアに戻ると、西田は間奏で思いっきり体を反らせるようにしてMC時とは全く違う独特の色気を放つギターソロを展開すると、最後のサビに入る直前にはマイケルの
「踊れ渋谷!」
も炸裂し、もうそう言われたら踊らざるを得ないというくらいに観客は踊りまくっている。それはずっとライブで演奏され続けてきたことによってこの曲が毎回進化を果たしてきたということを示している。
そんなツアーの最後に演奏されたのは、イントロから不穏な同期の音が鳴らされるとその音に合わせてやはり米田と観客が飛び跳ねまくる「GIVE & TAKE」。濃く深い赤と言っていい照明がさらに曲のイメージを強く可視化してくれているのであるが、やはりこの近年の同期を使った新しい夜ダンのダンスサウンドの盛り上がりっぷりには圧倒されてしまう。だからこそ、数々のダンスアンセムではなくてこの曲がこうしてライブの最後を締めるようになったのである。それはもう15周年を迎えた夜ダンのここまでの道のりが全て正しかったこと、全てがバンドの進化に繋がってきたことを何よりも鮮明に、明確に示しているし、そうした自由なサウンドを手に入れたからこそ、これからまたどんなサウンドを取り入れても夜ダンのものとして昇華できることをも示している。それくらいに、最後に最大の熱気を生み出して
「エビバディハッピー」
にしてくれたのはこの曲だったのである。帰り際の鈴鹿のフロントのマイク3本を順番に使った挨拶も含めて。
しかしながらまだこれでは終われないとばかりに観客が手を叩き続けてアンコールを煽ってメンバーが再び登場すると、普段は柄シャツを着ている鈴鹿が黒のツアーTシャツを着ているという珍しい出で立ちになっているのだが、そのTシャツは裏にバーコードがプリントされており、それをスマホで読み込むとバンドのホームページに飛べるという仕掛けが施してあることを明かすと、米田も
「ツアーファイナルなんで、発表があります。またツアーをやります。全国17箇所で、ツアータイトルは「1GO! 1A! O-BAN-DOSS」で、ピンと来た人もいるかもしれないですけど、対バンも?あったり?なかったり?その前に何か出たり?出なかったり?」
というクールなキャラが崩壊するかのようなチャラい感じの言い方で告知をしたために西田から
「渋谷でそんな言い方をしたら○○をやってるって思われますから。彼はやってません。ドラムの彼も言動がおかしいですが、天然なだけなんで、やってません。
(鈴鹿、手が震えるような仕草を見せる)……彼はやっぱりやってます(笑)」
としっかりオチをつけてMCを締めると、本編では演奏されていなかった必殺の「TAKE MY HAND」で、本編では外さなかったネクタイを米田はこの曲で外して投げ捨てることによって観客をさらなる熱狂に導くのであるが、その米田はやはりもはやダンスの化身と言っていいくらいにその身をくねらせて踊りまくっているのであるが、マイケルも柱の裏側にいるような人たちの方へ行ってしっかり意識と目線を向けているあたりからも彼の優しさを感じざるを得ないのであるが、ドラマ主題歌にも起用されたこの曲の破壊力はやはり凄まじいものがあるし、このアンコールというタイミングで演奏されたからこそ、さらにその爆発力が増している。それは西田のギターソロの音、ダンスロック界の千手観音と言いたいくらいの凄まじい手数を見せつける鈴鹿のドラムというあらゆる要素によってその爆発が起きている。
そして最後に演奏されたのはそのメンバーの誇る音の爆発力が最大限に発揮される「戦争」であり、曲中の米田に合わせたカウントなども実に楽しいと感じられる曲であるのだが、サビの
「マジでマジで来ないで戦争」
はメンバーが歌っているのかわからなくなるくらいに観客が大合唱していたからこそ、そのフレーズからリアルさを感じざるを得ない。できればこの曲の歌詞だけは最もリアルさとは遠いと感じたかったけれど、実際に世界ではそれが起きている現実がある。
ではこの国でそれに抗うためにはどうすればいいのか。それは間奏部分で観客を全員座らせてから一気にジャンプさせたように、とにかく踊りまくることによって戦争が起きようもないくらいに幸せな空間、瞬間を作り続けることだ。ダンスミュージックという音楽の特性上、ラップのように言葉数を多くしてそのメッセージを詳細に描写するということはやりづらい。だからこそシンプルに、単純だと言われようが自分たちの抱くストレートな思いだけを叫ぶようにして歌う。そこにこそこの曲が訴えているものを最大限に感じることができる。可能であるならばロシアの人たちにもこの曲のこの光景を見て欲しいと思うくらいに。それはアウトロで西田がマイクスタンドにギターを擦り付けるようにしてノイズを発していたのも含めて、こんなに戦争というものから程遠い光景はないと思うからだ。
演奏が終わるとメンバーが順番にステージを去る中で鈴鹿はやはり最後に3本のマイクスタンドを順番に使って、また新しく始まるツアーでの再会を約束した。ちなみにそのツアーが開催されることを鈴鹿はすでに母親に言っているだけに、早く申し込まないと母親が整理番号1番をゲットしてしまう可能性があるので、Tシャツにプリントされているバーコードを早く読み込んで申し込むようにとのこと。なんならメンバーのトークショーとか行きたいくらいにやはりそのMCも抜群に面白いだけに、夜ダンはあらゆる方々で我々を笑顔にしてくれる。それが翌日以降の日常を生きる我々の力になるということをきっとメンバーはわかっているから。
コロナ禍によるライブの規制がなくなってから数ヶ月経って、すでにいろんなバンドのライブを見てきた。モッシュ、ダイブ、サークルなどができるようになったことによって、自分たちの理想のライブを取り戻したバンドもたくさんいる。
そうしたバンドたちもそうだけれど、夜ダンも間違いなく規制がなくなったことによって自分たちの力を最大限に発揮できるようになって、自分たちが観たい光景を見れるようになったバンドだ。隣の観客とぶつかるのを気にしなくていいようなフロアになって、一緒に歌うべきフレーズで歌うことによってその曲が持つメロディの力をさらに引き出せるようになった。
もしかしたらコロナ禍においては悩んだり、ファンが離れていく不安もあったかもしれないが、ここ数ヶ月のライブを見ているとこうしたフィジカルに楽しむような音楽を鳴らすバンドのライブが間違いなくまた活気を取り戻していると感じている。つまりは15周年を迎えた夜ダンもまだまだここからさらにたくさんの観客に音楽が届くようになって、さらに我々を楽しくさせてくれるということだ。これからもずっとそうやって、どちらが先にくたばるかってくらいまで踊り続けていたいと思っている。
1.Feel So Good
2.fuckin' so tired
3.Crazy Dancer
4.for young
5.新曲
6.escape with you
7.Wall Flower
8.Movin'
9.Ain't No Magic
10.Can't You See!!!
11.審美眼
12.By My Side
13.LOVE CONNECTION
14.SOMA
15.Insomnia
16.WHERE?
17.GIVE & TAKE
encore
18.TAKE MY HAND
19.戦争
先月にTHE 2のライブを観にきた時もそうだったが、ステージへの視界を遮る柱が邪魔なことで有名な会場であって、そこには観客が陣取らないためか、QUATTROは「こんなに入れていいのか」ってくらいに満員なのに普通に当日券が出ていたりする。なので始まる前からすでに超満員で熱気に満ちているのである。
開演時間の19時を少し過ぎたあたりでおなじみのSE「ロシアのビッグマフ」が流れて、西田一紀(ギター)を先頭にメンバーが登場。米田貴紀(ボーカル&ギター)はその時点からすでに観客を煽るようにしながらギターを持つと、観客が声を出せるようになったことによって客席から大歓声が起こる。自分はすでに年始の千葉LOOKでのWiennersとの対バンの時に観客が声を出せる夜ダンのライブを久しぶりに体験したが、明らかにその時よりも圧倒的に観客が遠慮なく声を上げているのがさらにテンションが上がるのであるが、メンバー全員が向かい合うようにしておなじみの音出しを始めるとその歓声がさらに大きくなり、米田が
「どうもこんばんは、僕たちが京都のバンド、夜の本気ダンスです」
と挨拶すると、米田はその音出しだけでギターを置いて、早くも誰よりも自身が1番踊ることによって解放されているかのようにハンドマイクを持って体を揺らし、くねらせながら歌い踊る「Feel So Good」からスタートすると、やはりツアーを経てきたことによってさらに強化されたバンドのグルーヴによって否が応でも踊らざるを得ないし、それはタイトルフレーズを歌う西田とマイケル(ベース)のコーラスもそうである。つまりは1曲目からまさに「Feel So Good」でしかない状態が広がっているのであるが、1曲目からこの曲(かなり久しぶりにライブで聴いた気がする)というあたりから、この後にどんな曲が来るのかとより気合いが入る。
すると早くもイントロで大歓声が起こるのは、やはり米田が観客にさらに踊るように煽ってから体をくねらせまくる「fuckin' so tired」であり、普段は割とライブ後半で米田がネクタイを解いてメガネを吹っ飛ばして…という極まった状態になる曲なのだが、まだ2曲目ということでさすがにそうはならずであるが、それでも客席では誰もが腕を上げて飛び跳ねまくっている。こうしてサビでメンバーと一緒に歌いながら踊りまくれるということの喜びを噛み締めているかのようであり、すでに実に幸せな空気と熱い熱気がクアトロの中に満ちている。
そんな観客の熱さに米田が驚きながら、話し始めるだけで客席から笑いが漏れるくらいのエンターテイナーっぷりを発揮するようになった鈴鹿秋斗(ドラム)も
「渋谷、元気やなー!っていうか渋谷なんて元気じゃなければ来れないもんな!(笑)」
という渋谷という街への偏見みたいなことを口にしてしまうくらいには観客が元気でしかないことが伝わっているということである。
そんな鈴鹿が高速四つ打ちのリズムを刻むことによって、この曲ではギターを持って弾く米田の言う通りによりクレイジーになって踊りまくる「Crazy Dancer」では照明の色が次々に様々な色になって明滅するという演出も観客をさらに踊らせる要素になっているが、間奏でステージ中央に出てきての西田の強烈なギターソロもまた然り。つまりはこのバンドの持つありとあらゆる要素が観客を踊らせてくれているのである。そこにサビでメンバーとともに観客の大合唱が乗っかるという光景はやはりグッと来てしまうものがある。
そんな中でやはり初期の時期の曲である「for young」も演奏されるというあたりが、なかなか聴けないだけに実に嬉しい選曲であるが、サビでは米田が手を左右に振ることによってそれが客席にも広がっていく。そうして足だけではなくて体全体で踊らせてくれるというあたりはさすが名前が本気ダンスなバンドであるし、高速ダンスという激しさだけではなくて、ポップな部分も初期から持ち合わせていたバンドであることが今聴くことによってよくわかるのである。
そんな中で演奏されたのはまだタイトルすらも決まっていないという新曲。その新曲は近年、特にコロナ禍でリリースしてきた曲のような、バンドの音楽性を拡張するようなサウンドというよりも、今一度夜ダンのど真ん中なダンスロックに向き合うような曲である。後で鈴鹿は
「新曲で歌詞わからんのに歌おうとしてる人おった(笑)」
と、観客が声を出して歌えること、その顔をしっかり見ることができることの喜びと嬉しさを口にしていたが、そうしたくなるくらいのキャッチーなメロディを持っている曲だということでもある。こうしてライブで演奏するくらいに仕上がっているということは…と楽しみはさらに増えるのである。
新曲をやるのは意外というよりもある程度予測できていたのであるが、それよりも意外だったのは2ndフルアルバム「DANCEABLE」収録の「escape with you」であろう。
「君を待って123
滑り込んだ最終で」
というサビのフレーズの韻の踏みっぷりも実に心地良い曲であるが、そうしたフレーズの端々からは物理的な意味での逃避を、マイケルの低音と鈴鹿の金物をメインとしたリズムのグルーヴからは精神的な意味での逃避を感じさせてくれる。そこにはもちろん米田の誰も真似することができないような独特の粘りを持った歌声という要素もあってこそ。しかしその逃避は現実と向き合う力を持つためのものである。そう思うくらいに目の前で力強い音が鳴らされている。
米田は前日のドレスコーズとの対バン時にはしゃぎ過ぎてメガネが壊れてしまったらしく、前日には「明日は裸眼でやります」宣言をしていたものの、この日もちゃんとメガネをかけていることを謝罪(?)すると、
鈴鹿「イギリスに送って修理してもらったのがすぐ届いたんよな!」
米田「…そう…やな…」
マイケル「もう答えるのめんどくさくなってるやん(笑)」
という、ちゃんと受け答えしなくても面白くなってしまうのは鈴鹿のボケというよりもむしろマイケルのツッコミの技量あってこそだろう。その決して派手ではないがバンドのダンスサウンドやグルーヴの土台を支えるベースのように、こうしたMCでもこの男の存在はなくてはならないものとしてバンドを支えている。
ここまではアッパーであったりポップであったりというダンスチューンが続いていたが、ここで米田が
「縦ノリが凄いですけど、横ノリも行けますか?」
と観客に語りかけると、同期の音としてのコーラスが心地良く響く「Wall Flower」はその言葉通りに我々観客の体を心地良く揺らしてくれるような曲であるが、ここまでは派手な色彩がより我々の体を踊らせてくれていた照明がそのサウンドに合わせたかのように真っ白な光に包まれるような中で演奏されるこの曲はどこか美しさすら感じられるし、西田のジャキジャキと刻むギターもマイケルのうねるベースもライブで演奏されてきたことによってより肉体的な楽曲として進化してきたことを感じさせてくれる。
「ちょっと落ち着いちゃった?でもここからは休みなく踊りまくれますか!」
と米田が言うと、明確には口にはしなかったが夜ダンのライブではおなじみのノンストップダンスアレンジパートの「本気ダンスタイム」突入の合図であろう。
その口火を切るのはイントロに本気ダンスタイム突入を告げるアレンジが追加されて始まった、コーラスでの観客の合唱はもちろん、やはり鈴鹿のラップ(音源ではCreepy NutsのR-指定がラップしている)が聴ける「Movin'」であり、その鈴鹿のラップが実にスムースかつスピーディーなグルーヴを生み出すと、イントロの段階でこんなに跳びまくるのか?と思ってしまうくらいに観客が飛び跳ねる「Ain't No Magic」へと曲間なく続くのであるが、なんなら長身であるというメリットを活かして誰よりも高く飛び跳ねているのが米田であり、その姿がさらに我々を高く飛ばせてくれる。その頭上ではミラーボールが煌びやかに回るという実に美しくも熱いダンスフロアが生み出されているのである。
そんな流れの中に入ってくるのが少々意外だったのは
「三振奪ってちょうだい
斬新じゃなくてAll right」
という歌い出しのフレーズを是非令和の奪三振王の千葉ロッテの佐々木朗希の登場テーマに使っていただきたいと常々思っている「Can't You See!!!」であり、ここまでの流れよりもさらにロックなサウンドがさらに我々の体を激しく動かせると、一旦ギターを持った米田も含めた4人が向かい合うようにして演奏を締めるようにする。
早くもここでノンストップなダンスタイムは終わりか?とも思ったりしたのだが、すぐさま同期の音が鳴り始めたために、その音から始まるからこそ一度締めるようにしたということがわかるのであるが、その同期から始まる「審美眼」でのイントロからの観客の飛び跳ねっぷりには驚かされてしまう。まだ歌も入ってない段階からこんなにも、と思ってしまうし、それはロックバンドが同期を取り入れるとダイレクトなライブ感が失われてしまう場合もあるのに対し、夜ダンの同期は自分たちのダンスの要素をさらに増強するために使われているからだ。それが超高速リズムではなくて、飛び跳ねるのに適したリズムの曲で使われているからこそ、こうしてこれまでに生み出してきた熱狂をさらに更新することができている。奇しくもコロナ禍で果たすことになった夜ダンの新たな試みはバンドとして、さらには観客までをも巻き込んで大きな進化を果たしたことを証明したと言っていいだろう。それをライブにおける客席側の規制がなくなったことによって最大限に味わうことができるのである。
そんなノンストップダンスタイムの最後を担うのは西田のギターが激しく切り込んでくる中でサビでは
「yeah yeah yeah come on by my side」
という意味よりもキャッチーさに全振りしたかのようなフレーズでやはり観客が飛び跳ねまくる「By My Side」なのであるが、間奏では実に久しぶりに米田が
「僕と一緒に歌ってもらってもいいですか?」
と問いかけてコール&レスポンスが展開される。そのレスポンスを思いっきり叫ぶようにして歌う観客たちの声と姿は、やはりこの3年間でどうしても晴れることはない抑圧された感情や気持ちがあって、それはこうして愛するロックバンドのライブで感情を解放するように歌い、踊り、叫ぶことによってのみ晴れるものであるということを実感せずにはいられなかった。それはもしかしたらこのツアーを回ったことによってメンバーやスタッフも実感していたことなのかもしれない。
そんな本気ダンスタイムがやはりアウトロの壮大さすら感じるようなアレンジによって締められると、米田メガネを熱気によって曇らせながら、
「みんな本当に凄いよ。なんか、話すことないな…。全部音楽でコミュニケーションができている感じがする。だから何にも言わなくていいんじゃないかって思うくらい」
とこの日の観客の熱気の凄まじさを称え、そんな観客と
「ラブラブしようぜー!」
と言って演奏された「LOVE CONNECTION」では米田も西田も演奏中に飛び跳ねまくるのであるが、長身痩躯の米田はともかくとして、運動神経があんまり良くなさそうなイメージの西田がこんなにも高くジャンプしているというのはいつも驚かされてしまうし、逆にそんな西田があそこまで飛べるんなら我々ももっと飛べるとばかりに観客もさらに飛び跳ねまくっている。ライブハウスでもそうそう発生しない、誰が1番高く飛べるか選手権みたいな感じになっているこの光景が実に面白いし、そこには誰しもの笑顔が溢れている。
すると米田がスピッツの名曲を思わせるような爽やかなギターを弾き始めたのは「SOMA」で、その爽やかなサウンドに合わせるようにして緑色の照明がステージを照らす。
「サルバドールみたいに溶けてく時代
あっちゅう間に過ぎてくサマータイム
ブルースはブルー
ドライブならイエロー
踏み込んだままで」
という歌い出しのフレーズはまさに今から迎える季節のための曲であることを感じさせるのであるが、そのフレーズに合わせて照明も色を変えていくことによって、我々に様々な情景を想起させるし、夜ダンの音楽がただひたすらに踊らせるものではなく、メロディが抜群にキャッチーであるという要素が芯にあることがわかるのである。もちろんそうしたダンスナンバーたちにもメロディのキャッチーさは存分に生かされているし、米田も曲終わりで口にしていたようにこの日の熱狂の光景についての感情や感想であるかのようにこの曲は
「忘れたくないよ」
と締められるのである。
そんな爽やかな曲から一転して、タイトル通りに悪夢を思わせるようなダークなダンスサウンドが鳴らされる「Insomnia」と実に肉体的にも精神的にも感情の起伏が大きくて忙しいのであるが、やはりその曲のイメージを具現化するようなグルーヴとサウンドの強さには唸らされるし、米田のタイトルフレーズの歌唱の捻りや粘りの強さはまさに悪夢の中に引き込まれていきそうな表現力を有しており、米田がこのバンドのサウンドにおいて100%以上にふさわしいボーカリストであることを示してくれている。
しかしながらその米田はMCになると、
「みんなが眩し過ぎてエレクトリカルパレードを見ているみたい。なんならみんながミッキーに見える。パレードに参加しながら他の場所では会える会みたいなのやってたりしてるけど、ミッキーは1人しかいないけど(笑)」
と一気に緩くなるのであるが、そうしてディズニーネタを出したことによって
鈴鹿「西田は夢の国に行ったことないでしょ?(笑)」
西田「ルッキズムですか?じゃあ私が夢の国に行ったことがあると思う人、手を挙げて。
(ごく少数しか手を挙げず)…挙げなかった人たちはお帰りください(笑)挙げた人はこれからも仲良くやりましょう(笑)」
鈴鹿「行ったことあんの?」
西田「ない。行ってたまるかい」
鈴鹿「そういうスタンス?」
西田「魔法は音楽だけでいいんですよ」
と何故か名言に行き着くのであるが、そんな西田はペットボトルの水を飲み干してしまってスタッフに追加を求めるというあたりからもこの日の暑さと熱さが伝わってくるのであるが、何故か鈴鹿がペットボトルを2本も常備しており、
西田「ここが水を堰き止めてたんちゃう?」
鈴鹿「そんな滋賀県民みたいなことするか!(笑)
滋賀県民は京都府民がなんか言うとすぐに「琵琶湖の水止めたる!」って言うてくるからな!」
と、抜群の反射神経でボケを繰り出し、
鈴鹿「滋賀県民だよっていう人?どうぞお帰りください(笑)」
と西田に被せるあたりも本当にさすがとしか言いようがない。
そんな爆笑のMCも夜ダンのライブの楽しみの一つであるが、そんなMCの後にはこのツアーを締め括るべく、必殺の「WHERE?」がここで放たれてやはり一瞬にして熱狂のダンスフロアに戻ると、西田は間奏で思いっきり体を反らせるようにしてMC時とは全く違う独特の色気を放つギターソロを展開すると、最後のサビに入る直前にはマイケルの
「踊れ渋谷!」
も炸裂し、もうそう言われたら踊らざるを得ないというくらいに観客は踊りまくっている。それはずっとライブで演奏され続けてきたことによってこの曲が毎回進化を果たしてきたということを示している。
そんなツアーの最後に演奏されたのは、イントロから不穏な同期の音が鳴らされるとその音に合わせてやはり米田と観客が飛び跳ねまくる「GIVE & TAKE」。濃く深い赤と言っていい照明がさらに曲のイメージを強く可視化してくれているのであるが、やはりこの近年の同期を使った新しい夜ダンのダンスサウンドの盛り上がりっぷりには圧倒されてしまう。だからこそ、数々のダンスアンセムではなくてこの曲がこうしてライブの最後を締めるようになったのである。それはもう15周年を迎えた夜ダンのここまでの道のりが全て正しかったこと、全てがバンドの進化に繋がってきたことを何よりも鮮明に、明確に示しているし、そうした自由なサウンドを手に入れたからこそ、これからまたどんなサウンドを取り入れても夜ダンのものとして昇華できることをも示している。それくらいに、最後に最大の熱気を生み出して
「エビバディハッピー」
にしてくれたのはこの曲だったのである。帰り際の鈴鹿のフロントのマイク3本を順番に使った挨拶も含めて。
しかしながらまだこれでは終われないとばかりに観客が手を叩き続けてアンコールを煽ってメンバーが再び登場すると、普段は柄シャツを着ている鈴鹿が黒のツアーTシャツを着ているという珍しい出で立ちになっているのだが、そのTシャツは裏にバーコードがプリントされており、それをスマホで読み込むとバンドのホームページに飛べるという仕掛けが施してあることを明かすと、米田も
「ツアーファイナルなんで、発表があります。またツアーをやります。全国17箇所で、ツアータイトルは「1GO! 1A! O-BAN-DOSS」で、ピンと来た人もいるかもしれないですけど、対バンも?あったり?なかったり?その前に何か出たり?出なかったり?」
というクールなキャラが崩壊するかのようなチャラい感じの言い方で告知をしたために西田から
「渋谷でそんな言い方をしたら○○をやってるって思われますから。彼はやってません。ドラムの彼も言動がおかしいですが、天然なだけなんで、やってません。
(鈴鹿、手が震えるような仕草を見せる)……彼はやっぱりやってます(笑)」
としっかりオチをつけてMCを締めると、本編では演奏されていなかった必殺の「TAKE MY HAND」で、本編では外さなかったネクタイを米田はこの曲で外して投げ捨てることによって観客をさらなる熱狂に導くのであるが、その米田はやはりもはやダンスの化身と言っていいくらいにその身をくねらせて踊りまくっているのであるが、マイケルも柱の裏側にいるような人たちの方へ行ってしっかり意識と目線を向けているあたりからも彼の優しさを感じざるを得ないのであるが、ドラマ主題歌にも起用されたこの曲の破壊力はやはり凄まじいものがあるし、このアンコールというタイミングで演奏されたからこそ、さらにその爆発力が増している。それは西田のギターソロの音、ダンスロック界の千手観音と言いたいくらいの凄まじい手数を見せつける鈴鹿のドラムというあらゆる要素によってその爆発が起きている。
そして最後に演奏されたのはそのメンバーの誇る音の爆発力が最大限に発揮される「戦争」であり、曲中の米田に合わせたカウントなども実に楽しいと感じられる曲であるのだが、サビの
「マジでマジで来ないで戦争」
はメンバーが歌っているのかわからなくなるくらいに観客が大合唱していたからこそ、そのフレーズからリアルさを感じざるを得ない。できればこの曲の歌詞だけは最もリアルさとは遠いと感じたかったけれど、実際に世界ではそれが起きている現実がある。
ではこの国でそれに抗うためにはどうすればいいのか。それは間奏部分で観客を全員座らせてから一気にジャンプさせたように、とにかく踊りまくることによって戦争が起きようもないくらいに幸せな空間、瞬間を作り続けることだ。ダンスミュージックという音楽の特性上、ラップのように言葉数を多くしてそのメッセージを詳細に描写するということはやりづらい。だからこそシンプルに、単純だと言われようが自分たちの抱くストレートな思いだけを叫ぶようにして歌う。そこにこそこの曲が訴えているものを最大限に感じることができる。可能であるならばロシアの人たちにもこの曲のこの光景を見て欲しいと思うくらいに。それはアウトロで西田がマイクスタンドにギターを擦り付けるようにしてノイズを発していたのも含めて、こんなに戦争というものから程遠い光景はないと思うからだ。
演奏が終わるとメンバーが順番にステージを去る中で鈴鹿はやはり最後に3本のマイクスタンドを順番に使って、また新しく始まるツアーでの再会を約束した。ちなみにそのツアーが開催されることを鈴鹿はすでに母親に言っているだけに、早く申し込まないと母親が整理番号1番をゲットしてしまう可能性があるので、Tシャツにプリントされているバーコードを早く読み込んで申し込むようにとのこと。なんならメンバーのトークショーとか行きたいくらいにやはりそのMCも抜群に面白いだけに、夜ダンはあらゆる方々で我々を笑顔にしてくれる。それが翌日以降の日常を生きる我々の力になるということをきっとメンバーはわかっているから。
コロナ禍によるライブの規制がなくなってから数ヶ月経って、すでにいろんなバンドのライブを見てきた。モッシュ、ダイブ、サークルなどができるようになったことによって、自分たちの理想のライブを取り戻したバンドもたくさんいる。
そうしたバンドたちもそうだけれど、夜ダンも間違いなく規制がなくなったことによって自分たちの力を最大限に発揮できるようになって、自分たちが観たい光景を見れるようになったバンドだ。隣の観客とぶつかるのを気にしなくていいようなフロアになって、一緒に歌うべきフレーズで歌うことによってその曲が持つメロディの力をさらに引き出せるようになった。
もしかしたらコロナ禍においては悩んだり、ファンが離れていく不安もあったかもしれないが、ここ数ヶ月のライブを見ているとこうしたフィジカルに楽しむような音楽を鳴らすバンドのライブが間違いなくまた活気を取り戻していると感じている。つまりは15周年を迎えた夜ダンもまだまだここからさらにたくさんの観客に音楽が届くようになって、さらに我々を楽しくさせてくれるということだ。これからもずっとそうやって、どちらが先にくたばるかってくらいまで踊り続けていたいと思っている。
1.Feel So Good
2.fuckin' so tired
3.Crazy Dancer
4.for young
5.新曲
6.escape with you
7.Wall Flower
8.Movin'
9.Ain't No Magic
10.Can't You See!!!
11.審美眼
12.By My Side
13.LOVE CONNECTION
14.SOMA
15.Insomnia
16.WHERE?
17.GIVE & TAKE
encore
18.TAKE MY HAND
19.戦争
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