Mirage Night vol.10 @渋谷Milkyway 6/15
- 2023/06/16
- 22:00
前回4月にライブを見た後に早くもフジテレビのLOVE MUSICに出演して地上波デビュー、メンバー全員でのMVよろしくなダンスも含めて確かな爪痕を残したバンド、少年キッズボウイ。先日のLOVE MUSIC FESTIVALでも番組出演時に披露していた「最終兵器ディスコ」が流れていたが、番組出演後初のライブがこの日の渋谷Milkywayでのイベント「Mirage Night vol.10」である。
・ヒトリヨブランコ
しかしながら開演時間が18時という早さであるために開演には全然間に合わず、そもそもこれが何組目なのかわからないのだが、とりあえず着いた時には4人組バンド、ヒトリヨブランコがすでに演奏中。
ZAZEN BOYSのカシオマンこと吉兼聡を若くしたような見た目のボーカリスト・ムラカミカエデが最初はギターを弾きながら歌う曲はサイケデリック、その後からハンドマイクで歌う曲はシティポップ的な温かな柔らかい光が射すような曲という感じで短い時間の中でもガラッとサウンドが変わっていくのであるが、同期のピアノの音や女性コーラスの音も使いながら、下手の黒髪マッシュヘアのギタリスト・傘原けえは無表情を崩すことなくギターを弾き、上手の帽子を被ったベーシスト・あんどうけいたは大きく体を動かしながら音階も激しく動かすようにリズムを刻んでいる。ドラムはサポートメンバーであるが、4人組と書いたのはキーボードのせつこが今は休養中だからである。
生まれたばかりという新曲「百年ままごと」もそうしたシティポップ的なサウンドであるが、その中にロックバンドとしてのダイナミズムや肉体性を感じさせてくれるのがこのバンドの強みだと言えるだろうか。ともあれ演奏がめちゃくちゃ上手いからこそ、そう感じることができるのは間違いない。だからこそ完全に初見のバンドであったが、ライブが進むにつれて体が自然と揺れていた。そうやって体が反応してしまう音を確かに鳴らしているバンドであったし、心地良くもカッコいいバンドだった。
1.HI...JK
2.パズルゲーム
3.ハーフムーンコーク
4.百年ままごと(新曲)
5.ナイトライトトーキョー
・Navy Sugar
DJの影正一貴がandymoriやくるりからLemon Twigsまでを繋げるDJでさらに我々の体を揺らしてくれた後に登場したのは、4人組ロックバンドのNavy Sugarであり、客席の前の方にはこのバンドのタオルを持った人たちが待っているあたりからも、確固たるファン層を持っているバンドであることがよくわかる。
メンバーが登場すると、ヒトリヨブランコの時からドラムセットが変わっていなかったので、これは会場のセットを使っていくっていう日か、と思っていたのだが、実はそのドラマーのKeiはこのバンドのメンバーでありながらもヒトリヨブランコのサポートも務めているというダブルヘッダーであるという「マジかよ」と思わざるを得ないつながり。
というのはサビで堀内雄斗(ボーカル&ギター)の歌声に同期のコーラスを重ねながらも、サウンドもストレートなギターロックで、歌詞はラブソング的なものであるという、ヒトリヨブランコとは全くタイプの違うバンドだったからである。しかしながら時にはステージ前まで出てきたり、タッピングをも披露する村田隆嘉(ギター)はテクニカルさとロックバンドとしての歪みを上手く使い分け、見た目からしてindigo la Endの後鳥亮介を彷彿とさせるもっちー(ベース)はその指弾きでのうねりまくるリズムも後鳥を思わせるくらいに、落ち着いているように見えながらも実はプレイは全然落ち着いていないというタイプのベーシストである。
堀内の歌唱も、最前でタオルを持っている人がたくさんいることがわかるくらいに、めちゃくちゃ上手いというわけではないけれど、しかし丁寧に歌詞を歌い、そこに感情を込めている。本人としてもこのMilkywayで何度もライブをやっているだけに気合いが入っているところもあったのだろう。その歌唱と演奏によって最前にいる人たちがサビで手をあげたり、手拍子をするのが後ろの人たちにも広がっていくのを見ていると、もしかしたらほとんどまだ知られていないかもしれないけれど、そんなバンドの音楽によって救われ、生かされている人が確かにいるのだと実感することができる。
それは
「バンドって奇跡みたいなものだと思ってる」
と堀内が言っていたように、その奇跡を自分の目で見ることができるライブという場だからこそそう感じることができる。そしてやっぱりみんな演奏が本当に上手くて、この日はなんなんだと思ってしまったくらい。
・少年キッズボウイ
そして冒頭に書いた通りに、「LOVE MUSIC」出演後初となるライブの少年キッズボウイ。その効果もあってか、前回よりも幅広いというか、学生のような人から業界にいそうな大人まで様々な年代の人が客席に見える。というか出演時間を公式アカウントが載せていたこともあってか、この直前から明らかに先ほどまでよりも人が増えた。それくらいに注目されている存在ということである。
前回新宿紅布で見た時と同様にフィンガー5の「学園天国」(いろんなアーティストがカバーしている中でオリジナルと言えるこのバージョン)が流れてメンバーが登場すると、全員が青いツナギを着ている。そのかつてのRIP SLYMEや現在のユニコーンを彷彿とさせる出で立ちはアパレル業界にも身を置いているのがわかるくらいに、渋谷のライブハウスで見るとよりファッショナブルなドラムのGBによるプロデュース力によるものだろうか、とも思っていたらボーカル陣のこーしくんはツナギの上をはだけて黒いTシャツが露出するスタイル、アキラは白いツナギという他のメンバーとは違う形になっているのも見せ方として実に上手いし、前回着ていたバンド名がプリントされたコーチジャケットもこのツナギも欲しくなってくるので早めに物販で展開していただきたいと思う。
そのSEに乗ってメンバーが歌い、踊ってから呼吸を合わせるようにして音を鳴らすと、アキラによる挨拶的なセリフが音源通りに放たれて「スラムドッグ・サリー」からスタートするのだが、ボーカル2人はもちろん、高らかにその他のバンドとは一線を画すこのバンドだからこその管楽器の音を響かせるきもす(トランペット)もタンバリンを叩いているこーしくんと顔を合わせながら踊るのであるが、そのこーしくんはこの日もハットを被ってオシャレに決めたギタリスト・山岸のギターによる間奏で吉幾三「俺ら東京さ行くだ」のフレーズやORANGE RANGEのライブかのようなカチャーシーの歌唱も口ずさむ。
「音楽性の違いで解散するっていうのがカッコよくて言ってみたいから音楽性がバラバラなメンバーを集めた」
という、いや解散する前提なんかい、とツッコミたくなるような本気かどうかわからない動機によって集まったメンバーは見た目もバラバラだが、プロフィールの影響を受けた音楽も本当にバラバラであり、だからこそこうしてあらゆる時代や世代・ジャンルの音楽のフレーズを自分たちの曲の中に取り込むことができるのだろうし、そのリスナーとしての膨大なリファレンス(それは物販で販売されているバンドの攻略本掲載のこーしくんによる漫画を読むことでよりわかる)を咀嚼してこのメンバーによるバンドの音楽としてアウトプットする(その「このメンバーによる」という視座があるからこそ、曲を一聴しただけでは「そこからも影響受けてるの!?」と思うようなバンドの名前もたくさん出てくる)ソングライターのこーしくんも、その曲をアレンジすることでこのバンドの音楽たらしめているリードギターの山岸もやはり只者ではないというか、天才だなとライブを見るたびに、曲を聴くたびに思ってしまう。
すると早くもこーしくんが休憩するかのようにステージ上で体育座りをする(体がデカいだけに体育座りをしてもステージ上で放つインパクトが強い)と、山岸のメロディアスなギターとアキラの叙情を感じさせる歌唱が、タイトル通りに1人で天気の良くない海を見に来たような情景を想起させるのは「海を見に行く」であるのだが、それはこのバンドの中ではきってのギターロックな曲であるというサウンドによってのものでもあるだろう。座っていたこーしくんも曲中にすぐに立ち上がると、やはりきもすやカツマタ(ギター)と向かい合うようにして体を揺らしている。自分たちの音楽が何よりも自分たちを気持ち良くしてくれるというように。
イントロで左利きのベーシストである服部のうねるようなリズムがGBのドラムと絡み合ってグルーヴを生み出すのは、紅布の時には演奏されていなかった「南池袋セントラルパーク」であり、そこにカツマタのカッティングギターやきもすのトランペットが重なることによってこのバンドでしかないグルーヴを生み出すのであるが、間奏でも服部のベースがイントロ同様にうねりまくるのを見ていると、やはりこのバンドはリズムという土台がしっかりしているからこそ、こうしてメンバー自身も我々も体も心も踊るような曲を生み出し、演奏することができるんだろうなと思う。そういう意味でもバンドのサウンドの骨格や土台を支えているのは服部とGBのリズムであると言える。そのグルーヴに乗る歌詞がどこか孤独であったりという心象風景を感じさせるのがこのバンドならではでもある。
そんな中でこの日も一際ド派手な出で立ちのGBが
「Milkywayでは19歳の頃に今日も出てる中島雄士さんがやってたバンドと対バンしてまして。こーしくん、覚えてるよね?」
と言うとこーしくんは
「あ、ああ!お、覚えてるよ!」
と逆に覚えてない演技をしているかのようなリアクションを取っていたのだが、その時に中島雄士がGOING STEADYのコピバンをやっているのを見て涙を流したという。自分自身がGOING STEADYに出会ったことによってロックバンドに、ライブにのめり込むことになったので、そのルーツがメンバーと共通しているというのも実に嬉しいことである。
そんなエモいMCをしたのはエモい曲をやるから、ということで演奏されたのはまだ音源になっていない「in the city」。紅布の時にも演奏されていた曲であるのだが、山岸とカツマタのギターがシューゲイザーと言っていいような轟音を鳴らす上にこーしくんのポエトリーリーディング的な歌詞が乗るという、今までにはなかったようなタイプの曲であり、このMilkywayはアイドルグループの方々もよく出演するからか、ステージの1番前が一段高いお立ち台のような形状になっており、こーしくんはそこに立って自身の感情を全てぶつけるようにして歌う。その歌詞には「ワールドトレードセンター」というワードも入っていることによって、2001年9月11日のことを思い出さざるを得ない。こーしくんはあの時に何歳で、どんな感情を抱いていて、そして今にしてこの歌詞を綴るに至ったのか。それを感じるためにも早く音源として繰り返し聴きたいと思うのだ。
すると今度は服の色が違うことによってキャッチーな魅力を振りまくアキラによる物販紹介が行われるのであるが、何故かカツマタが
「普通に物販紹介してるなぁと思って(笑)」
という理由で笑い出してしまい、
「なんで笑ってんだよ!」
とアキラに詰められることに。メンバーから最もいじられていて(終演後に攻略本を買ってサインをしてもらったらカツマタがいなくて山岸に「カツマタのサインっていります?」と言われたくらいに)最も天然なように見えるカツマタらしい一面である。
そんな物販紹介の後にはGBが客席のミラーボールを光り輝かせる。それと同時にライブならではのイントロ的なリズムを刻んで始まる、このバンドで最もミラーボールが似合う曲である、LOVE MUSICで披露された「最終兵器ディスコ」である。カツマタのカッティングによってミラーボールがさらに輝きを増す中、きもすのトランペットが高らかに鳴り響く間奏ではアキラとこーしくんがツイストのようなステップを踏む。サビではアキラが手を頭の上で左右に振るようにすると客席にもその姿が広がっていくのであるが、やはりこの曲はサビでどうしたって歌いたくなってしまう。それくらいに体も心も踊らせてくれる、令和の「Love & DISCO」。
「愛が無くなってすべて忘れて
二度と歌えないとしても
言葉じゃなくて身体でもなくて
君に笑って欲しいだけです。」
というサビの歌詞の通りに、この曲が流れればどんな時だって笑顔になれる。だから毎日この曲を聴いているのだ。それはメンバーが満面の笑みで演奏して踊っているからこそ、ライブだとより笑顔になれる。アキラの一聴すると特段強い記名性を持っていないように思える歌声も、間違いなくこのバンドの曲はこの人が歌うからこそこんなにも聴いている側を笑顔にしてくれる。きっとこれから先もさらにたくさんの曲でそうしたポップミュージックの魔法を体現するような歌声を響かせてくれるのだろうし、曲を作っているこーしくんが自身よりアキラをメインボーカルにしているのはこの歌声の特別さをわかっているからだろう。サビで先ほどのこーしくん同様にステージ前に出てきて体を揺らしながら歌う姿がよりそう感じさせてくれるのだ。
LOVE MUSIC出演時のような演奏しないでダンスをしているパートはライブではないけれど、いつかもっと大きなステージでいつかそれが見れると信じているし、もっともっとこの曲に浸りたい、踊り続けていたい。その時にはたくさんの人たちが肩を組んで踊りながら歌っているはずだ。そんな未来が自分には確かに見えている。こーしくんに
「こんなにとんでもないアンセムにしてキラーチューンが出来た瞬間って、やっぱり「これはできた!」って感覚があったんですか?」
って聞けばよかったってくらいに。
そんなライブの最後に演奏されたのは、メンバー全員が歌い出しを合わせて歌うことによって始まる「ぼくらのラプソディー」。メロではアキラが軽快なラップ的な歌唱も見せてくれるのであるが、
「ベイベー ぼくらが生まれた街で
海賊たちがみんなを殺す
列に並んで、なけなしのパンと
死んだプライドを差し出すのです。
というサビしかり、こーしくんによる
「戦争ゲームを止める兵器がぼくにもあれば、、」
というフレーズしかり、この曲の歌詞の状況は割と救いようがないようなものである。それでも、そんな状況でもこの音楽があれば誰もが歌い、踊ることができる。それは聴き手それぞれの救いようがない、絶望的な状況においてもそうであるということ。少年キッズボウイはそんな人々を救うために現れたヒーローバンドだ。だからこのバンドの曲を聴けばいつだって自分は無敵だと思える。間奏でのきもすのトランペットはそんな絶望的で救いのない状況に光が射してくるような感覚にしてくれる。つまりは、
「くだらないままで止めどない日々
バカみたいにぼくら歌ってる
当て所ないけど取り留めないけど
何か起こるのを待ってる」
ということ。間違いなくこのバンドにはこれからとんでもない何かが起こる。その瞬間を見逃さないようにしたいのだ。だからこそこうやってライブをやるのならいつだってできる限り足を運ぶ。
おそらくはこの日の観客はそれぞれ仕事を終わらせてこの会場に来た人ばかりだろう。それは少年キッズボウイのメンバーたちもそうだ。そんな抑圧された状況から解放されるのがライブという場だからこそ、こんなにもメンバーは自分たちのライブを楽しみ、他の出演者のライブもメンバー全員で誰よりも楽しんでいる。その姿を本当に素敵だと思ったのは、それこそが平日のライブハウスに足を運ぶ理由だと思うからだ。
自分は自分自身のことを大好きなわけではないけれど、それでもこれだけたくさん音楽を聴いて、ライブを見てきた自分の感覚だけは何よりも信頼している。その感覚にこの数年で新たに最も刺さってきたバンドは間違いなくこの少年キッズボウイだ。それくらいに今このバンドを毎日聴いているし、もはや恋をしている。
1.スラムドッグ・サリー
2.海を見に行く
3.南池袋セントラルパーク
4.in the city
5.最終兵器ディスコ
6.ぼくらのラプソディー
・Guest room
ライブ後に客席で展開された少年キッズボウイの物販が盛り上がりを見せる中、機材トラブルの影響によって22時を過ぎてから始まった、トリのGuest room。男女混成の5人組バンドであり、髪色、衣装ともに派手な海沼みなみ(ボーカル)を中心にして、他のメンバーが取り囲むように並んで演奏するというスタイルのバンドであるのだが、恐らくは機材というのは菊地かれんのシンセサイザーであろうと思われるけれど、そのシンセやキーボードの音色を取り入れながら、ジャズやR&Bなどを取り入れたバンドサウンドは確かな演奏力とメンバー同士のコンタクト能力がなければ間違いなく成立しないものであろう。
下手端の阿部達彦(ベース)は[Alexandros]を勇退した庄村聡泰に、上手端の原田顕彰はサングラスによるところもあるのかNulbarichのJQに似ていたりと、見た目からしてめちゃくちゃ演奏が上手そうなメンバーたちであるのだが、それを支える石澤衛(ドラム)の正確かつジャズの素養を感じさせるビートなど、見た目だけではなくて演奏自体もめちゃくちゃ上手いし、海沼の歌唱もそうした音楽性だからこその響かせ方を熟知しているようなスキルと経験を感じさせる。何よりも見ていて華があるというあたりはさすが「出れんの!?サマソニ」枠でサマソニに出演もしたバンドである。
時間が押してしまったことを海沼が謝罪しながらも、このバンドを見に来たであろう人も遅い時間にも関わらずたくさん残っており、何よりも少年キッズボウイのメンバーたち(特にGB)がめちゃくちゃ声を出してノリまくっている。そんな観客の熱量によってか、バンドメンバーもこうしたサウンドだとただオシャレなだけという感じになりがちでもある中、全くそんなことなく阿部も時に右腕を高く挙げてギターを弾くなど、ロックさを感じる熱さを発揮することによって、さらにバンドの演奏に迫力と勢いが生まれていく。観客による熱量が確かにバンドに伝わり、それがまた観客に返っていく。そんな幸せな音楽の交歓が確かにあったからこそ、アンコールを求める手拍子に応えてメンバーもすぐに出てきてアンコールの演奏をしたのだろう。そうして誰も知らないようなバンドであっても、ライブハウスでバンドのライブを見ることへの喜びを確かに感じさせてくれた一夜だった。本当に今の若手バンドたちはみんな上手いし、自分たちのやりたい音楽性が確立されていると思う。この日の最後にこのGuest roomを見たからこそ、そう思えた。
終演後に少年キッズボウイのメンバーの方々と話していたら、何故か一緒に写真を撮ることになった。サインも写真もきっとこうやってメンバーが対応してくれるのはきっと今くらいだ。近い将来にはもっと大きなところで、メンバーが出て来れないくらいの状況になる。そうなっても少しも寂しくないのは、初めて聴いた瞬間からこのバンドはそこまで行くべき存在だと思っているからだ。
・ヒトリヨブランコ
しかしながら開演時間が18時という早さであるために開演には全然間に合わず、そもそもこれが何組目なのかわからないのだが、とりあえず着いた時には4人組バンド、ヒトリヨブランコがすでに演奏中。
ZAZEN BOYSのカシオマンこと吉兼聡を若くしたような見た目のボーカリスト・ムラカミカエデが最初はギターを弾きながら歌う曲はサイケデリック、その後からハンドマイクで歌う曲はシティポップ的な温かな柔らかい光が射すような曲という感じで短い時間の中でもガラッとサウンドが変わっていくのであるが、同期のピアノの音や女性コーラスの音も使いながら、下手の黒髪マッシュヘアのギタリスト・傘原けえは無表情を崩すことなくギターを弾き、上手の帽子を被ったベーシスト・あんどうけいたは大きく体を動かしながら音階も激しく動かすようにリズムを刻んでいる。ドラムはサポートメンバーであるが、4人組と書いたのはキーボードのせつこが今は休養中だからである。
生まれたばかりという新曲「百年ままごと」もそうしたシティポップ的なサウンドであるが、その中にロックバンドとしてのダイナミズムや肉体性を感じさせてくれるのがこのバンドの強みだと言えるだろうか。ともあれ演奏がめちゃくちゃ上手いからこそ、そう感じることができるのは間違いない。だからこそ完全に初見のバンドであったが、ライブが進むにつれて体が自然と揺れていた。そうやって体が反応してしまう音を確かに鳴らしているバンドであったし、心地良くもカッコいいバンドだった。
1.HI...JK
2.パズルゲーム
3.ハーフムーンコーク
4.百年ままごと(新曲)
5.ナイトライトトーキョー
・Navy Sugar
DJの影正一貴がandymoriやくるりからLemon Twigsまでを繋げるDJでさらに我々の体を揺らしてくれた後に登場したのは、4人組ロックバンドのNavy Sugarであり、客席の前の方にはこのバンドのタオルを持った人たちが待っているあたりからも、確固たるファン層を持っているバンドであることがよくわかる。
メンバーが登場すると、ヒトリヨブランコの時からドラムセットが変わっていなかったので、これは会場のセットを使っていくっていう日か、と思っていたのだが、実はそのドラマーのKeiはこのバンドのメンバーでありながらもヒトリヨブランコのサポートも務めているというダブルヘッダーであるという「マジかよ」と思わざるを得ないつながり。
というのはサビで堀内雄斗(ボーカル&ギター)の歌声に同期のコーラスを重ねながらも、サウンドもストレートなギターロックで、歌詞はラブソング的なものであるという、ヒトリヨブランコとは全くタイプの違うバンドだったからである。しかしながら時にはステージ前まで出てきたり、タッピングをも披露する村田隆嘉(ギター)はテクニカルさとロックバンドとしての歪みを上手く使い分け、見た目からしてindigo la Endの後鳥亮介を彷彿とさせるもっちー(ベース)はその指弾きでのうねりまくるリズムも後鳥を思わせるくらいに、落ち着いているように見えながらも実はプレイは全然落ち着いていないというタイプのベーシストである。
堀内の歌唱も、最前でタオルを持っている人がたくさんいることがわかるくらいに、めちゃくちゃ上手いというわけではないけれど、しかし丁寧に歌詞を歌い、そこに感情を込めている。本人としてもこのMilkywayで何度もライブをやっているだけに気合いが入っているところもあったのだろう。その歌唱と演奏によって最前にいる人たちがサビで手をあげたり、手拍子をするのが後ろの人たちにも広がっていくのを見ていると、もしかしたらほとんどまだ知られていないかもしれないけれど、そんなバンドの音楽によって救われ、生かされている人が確かにいるのだと実感することができる。
それは
「バンドって奇跡みたいなものだと思ってる」
と堀内が言っていたように、その奇跡を自分の目で見ることができるライブという場だからこそそう感じることができる。そしてやっぱりみんな演奏が本当に上手くて、この日はなんなんだと思ってしまったくらい。
・少年キッズボウイ
そして冒頭に書いた通りに、「LOVE MUSIC」出演後初となるライブの少年キッズボウイ。その効果もあってか、前回よりも幅広いというか、学生のような人から業界にいそうな大人まで様々な年代の人が客席に見える。というか出演時間を公式アカウントが載せていたこともあってか、この直前から明らかに先ほどまでよりも人が増えた。それくらいに注目されている存在ということである。
前回新宿紅布で見た時と同様にフィンガー5の「学園天国」(いろんなアーティストがカバーしている中でオリジナルと言えるこのバージョン)が流れてメンバーが登場すると、全員が青いツナギを着ている。そのかつてのRIP SLYMEや現在のユニコーンを彷彿とさせる出で立ちはアパレル業界にも身を置いているのがわかるくらいに、渋谷のライブハウスで見るとよりファッショナブルなドラムのGBによるプロデュース力によるものだろうか、とも思っていたらボーカル陣のこーしくんはツナギの上をはだけて黒いTシャツが露出するスタイル、アキラは白いツナギという他のメンバーとは違う形になっているのも見せ方として実に上手いし、前回着ていたバンド名がプリントされたコーチジャケットもこのツナギも欲しくなってくるので早めに物販で展開していただきたいと思う。
そのSEに乗ってメンバーが歌い、踊ってから呼吸を合わせるようにして音を鳴らすと、アキラによる挨拶的なセリフが音源通りに放たれて「スラムドッグ・サリー」からスタートするのだが、ボーカル2人はもちろん、高らかにその他のバンドとは一線を画すこのバンドだからこその管楽器の音を響かせるきもす(トランペット)もタンバリンを叩いているこーしくんと顔を合わせながら踊るのであるが、そのこーしくんはこの日もハットを被ってオシャレに決めたギタリスト・山岸のギターによる間奏で吉幾三「俺ら東京さ行くだ」のフレーズやORANGE RANGEのライブかのようなカチャーシーの歌唱も口ずさむ。
「音楽性の違いで解散するっていうのがカッコよくて言ってみたいから音楽性がバラバラなメンバーを集めた」
という、いや解散する前提なんかい、とツッコミたくなるような本気かどうかわからない動機によって集まったメンバーは見た目もバラバラだが、プロフィールの影響を受けた音楽も本当にバラバラであり、だからこそこうしてあらゆる時代や世代・ジャンルの音楽のフレーズを自分たちの曲の中に取り込むことができるのだろうし、そのリスナーとしての膨大なリファレンス(それは物販で販売されているバンドの攻略本掲載のこーしくんによる漫画を読むことでよりわかる)を咀嚼してこのメンバーによるバンドの音楽としてアウトプットする(その「このメンバーによる」という視座があるからこそ、曲を一聴しただけでは「そこからも影響受けてるの!?」と思うようなバンドの名前もたくさん出てくる)ソングライターのこーしくんも、その曲をアレンジすることでこのバンドの音楽たらしめているリードギターの山岸もやはり只者ではないというか、天才だなとライブを見るたびに、曲を聴くたびに思ってしまう。
すると早くもこーしくんが休憩するかのようにステージ上で体育座りをする(体がデカいだけに体育座りをしてもステージ上で放つインパクトが強い)と、山岸のメロディアスなギターとアキラの叙情を感じさせる歌唱が、タイトル通りに1人で天気の良くない海を見に来たような情景を想起させるのは「海を見に行く」であるのだが、それはこのバンドの中ではきってのギターロックな曲であるというサウンドによってのものでもあるだろう。座っていたこーしくんも曲中にすぐに立ち上がると、やはりきもすやカツマタ(ギター)と向かい合うようにして体を揺らしている。自分たちの音楽が何よりも自分たちを気持ち良くしてくれるというように。
イントロで左利きのベーシストである服部のうねるようなリズムがGBのドラムと絡み合ってグルーヴを生み出すのは、紅布の時には演奏されていなかった「南池袋セントラルパーク」であり、そこにカツマタのカッティングギターやきもすのトランペットが重なることによってこのバンドでしかないグルーヴを生み出すのであるが、間奏でも服部のベースがイントロ同様にうねりまくるのを見ていると、やはりこのバンドはリズムという土台がしっかりしているからこそ、こうしてメンバー自身も我々も体も心も踊るような曲を生み出し、演奏することができるんだろうなと思う。そういう意味でもバンドのサウンドの骨格や土台を支えているのは服部とGBのリズムであると言える。そのグルーヴに乗る歌詞がどこか孤独であったりという心象風景を感じさせるのがこのバンドならではでもある。
そんな中でこの日も一際ド派手な出で立ちのGBが
「Milkywayでは19歳の頃に今日も出てる中島雄士さんがやってたバンドと対バンしてまして。こーしくん、覚えてるよね?」
と言うとこーしくんは
「あ、ああ!お、覚えてるよ!」
と逆に覚えてない演技をしているかのようなリアクションを取っていたのだが、その時に中島雄士がGOING STEADYのコピバンをやっているのを見て涙を流したという。自分自身がGOING STEADYに出会ったことによってロックバンドに、ライブにのめり込むことになったので、そのルーツがメンバーと共通しているというのも実に嬉しいことである。
そんなエモいMCをしたのはエモい曲をやるから、ということで演奏されたのはまだ音源になっていない「in the city」。紅布の時にも演奏されていた曲であるのだが、山岸とカツマタのギターがシューゲイザーと言っていいような轟音を鳴らす上にこーしくんのポエトリーリーディング的な歌詞が乗るという、今までにはなかったようなタイプの曲であり、このMilkywayはアイドルグループの方々もよく出演するからか、ステージの1番前が一段高いお立ち台のような形状になっており、こーしくんはそこに立って自身の感情を全てぶつけるようにして歌う。その歌詞には「ワールドトレードセンター」というワードも入っていることによって、2001年9月11日のことを思い出さざるを得ない。こーしくんはあの時に何歳で、どんな感情を抱いていて、そして今にしてこの歌詞を綴るに至ったのか。それを感じるためにも早く音源として繰り返し聴きたいと思うのだ。
すると今度は服の色が違うことによってキャッチーな魅力を振りまくアキラによる物販紹介が行われるのであるが、何故かカツマタが
「普通に物販紹介してるなぁと思って(笑)」
という理由で笑い出してしまい、
「なんで笑ってんだよ!」
とアキラに詰められることに。メンバーから最もいじられていて(終演後に攻略本を買ってサインをしてもらったらカツマタがいなくて山岸に「カツマタのサインっていります?」と言われたくらいに)最も天然なように見えるカツマタらしい一面である。
そんな物販紹介の後にはGBが客席のミラーボールを光り輝かせる。それと同時にライブならではのイントロ的なリズムを刻んで始まる、このバンドで最もミラーボールが似合う曲である、LOVE MUSICで披露された「最終兵器ディスコ」である。カツマタのカッティングによってミラーボールがさらに輝きを増す中、きもすのトランペットが高らかに鳴り響く間奏ではアキラとこーしくんがツイストのようなステップを踏む。サビではアキラが手を頭の上で左右に振るようにすると客席にもその姿が広がっていくのであるが、やはりこの曲はサビでどうしたって歌いたくなってしまう。それくらいに体も心も踊らせてくれる、令和の「Love & DISCO」。
「愛が無くなってすべて忘れて
二度と歌えないとしても
言葉じゃなくて身体でもなくて
君に笑って欲しいだけです。」
というサビの歌詞の通りに、この曲が流れればどんな時だって笑顔になれる。だから毎日この曲を聴いているのだ。それはメンバーが満面の笑みで演奏して踊っているからこそ、ライブだとより笑顔になれる。アキラの一聴すると特段強い記名性を持っていないように思える歌声も、間違いなくこのバンドの曲はこの人が歌うからこそこんなにも聴いている側を笑顔にしてくれる。きっとこれから先もさらにたくさんの曲でそうしたポップミュージックの魔法を体現するような歌声を響かせてくれるのだろうし、曲を作っているこーしくんが自身よりアキラをメインボーカルにしているのはこの歌声の特別さをわかっているからだろう。サビで先ほどのこーしくん同様にステージ前に出てきて体を揺らしながら歌う姿がよりそう感じさせてくれるのだ。
LOVE MUSIC出演時のような演奏しないでダンスをしているパートはライブではないけれど、いつかもっと大きなステージでいつかそれが見れると信じているし、もっともっとこの曲に浸りたい、踊り続けていたい。その時にはたくさんの人たちが肩を組んで踊りながら歌っているはずだ。そんな未来が自分には確かに見えている。こーしくんに
「こんなにとんでもないアンセムにしてキラーチューンが出来た瞬間って、やっぱり「これはできた!」って感覚があったんですか?」
って聞けばよかったってくらいに。
そんなライブの最後に演奏されたのは、メンバー全員が歌い出しを合わせて歌うことによって始まる「ぼくらのラプソディー」。メロではアキラが軽快なラップ的な歌唱も見せてくれるのであるが、
「ベイベー ぼくらが生まれた街で
海賊たちがみんなを殺す
列に並んで、なけなしのパンと
死んだプライドを差し出すのです。
というサビしかり、こーしくんによる
「戦争ゲームを止める兵器がぼくにもあれば、、」
というフレーズしかり、この曲の歌詞の状況は割と救いようがないようなものである。それでも、そんな状況でもこの音楽があれば誰もが歌い、踊ることができる。それは聴き手それぞれの救いようがない、絶望的な状況においてもそうであるということ。少年キッズボウイはそんな人々を救うために現れたヒーローバンドだ。だからこのバンドの曲を聴けばいつだって自分は無敵だと思える。間奏でのきもすのトランペットはそんな絶望的で救いのない状況に光が射してくるような感覚にしてくれる。つまりは、
「くだらないままで止めどない日々
バカみたいにぼくら歌ってる
当て所ないけど取り留めないけど
何か起こるのを待ってる」
ということ。間違いなくこのバンドにはこれからとんでもない何かが起こる。その瞬間を見逃さないようにしたいのだ。だからこそこうやってライブをやるのならいつだってできる限り足を運ぶ。
おそらくはこの日の観客はそれぞれ仕事を終わらせてこの会場に来た人ばかりだろう。それは少年キッズボウイのメンバーたちもそうだ。そんな抑圧された状況から解放されるのがライブという場だからこそ、こんなにもメンバーは自分たちのライブを楽しみ、他の出演者のライブもメンバー全員で誰よりも楽しんでいる。その姿を本当に素敵だと思ったのは、それこそが平日のライブハウスに足を運ぶ理由だと思うからだ。
自分は自分自身のことを大好きなわけではないけれど、それでもこれだけたくさん音楽を聴いて、ライブを見てきた自分の感覚だけは何よりも信頼している。その感覚にこの数年で新たに最も刺さってきたバンドは間違いなくこの少年キッズボウイだ。それくらいに今このバンドを毎日聴いているし、もはや恋をしている。
1.スラムドッグ・サリー
2.海を見に行く
3.南池袋セントラルパーク
4.in the city
5.最終兵器ディスコ
6.ぼくらのラプソディー
・Guest room
ライブ後に客席で展開された少年キッズボウイの物販が盛り上がりを見せる中、機材トラブルの影響によって22時を過ぎてから始まった、トリのGuest room。男女混成の5人組バンドであり、髪色、衣装ともに派手な海沼みなみ(ボーカル)を中心にして、他のメンバーが取り囲むように並んで演奏するというスタイルのバンドであるのだが、恐らくは機材というのは菊地かれんのシンセサイザーであろうと思われるけれど、そのシンセやキーボードの音色を取り入れながら、ジャズやR&Bなどを取り入れたバンドサウンドは確かな演奏力とメンバー同士のコンタクト能力がなければ間違いなく成立しないものであろう。
下手端の阿部達彦(ベース)は[Alexandros]を勇退した庄村聡泰に、上手端の原田顕彰はサングラスによるところもあるのかNulbarichのJQに似ていたりと、見た目からしてめちゃくちゃ演奏が上手そうなメンバーたちであるのだが、それを支える石澤衛(ドラム)の正確かつジャズの素養を感じさせるビートなど、見た目だけではなくて演奏自体もめちゃくちゃ上手いし、海沼の歌唱もそうした音楽性だからこその響かせ方を熟知しているようなスキルと経験を感じさせる。何よりも見ていて華があるというあたりはさすが「出れんの!?サマソニ」枠でサマソニに出演もしたバンドである。
時間が押してしまったことを海沼が謝罪しながらも、このバンドを見に来たであろう人も遅い時間にも関わらずたくさん残っており、何よりも少年キッズボウイのメンバーたち(特にGB)がめちゃくちゃ声を出してノリまくっている。そんな観客の熱量によってか、バンドメンバーもこうしたサウンドだとただオシャレなだけという感じになりがちでもある中、全くそんなことなく阿部も時に右腕を高く挙げてギターを弾くなど、ロックさを感じる熱さを発揮することによって、さらにバンドの演奏に迫力と勢いが生まれていく。観客による熱量が確かにバンドに伝わり、それがまた観客に返っていく。そんな幸せな音楽の交歓が確かにあったからこそ、アンコールを求める手拍子に応えてメンバーもすぐに出てきてアンコールの演奏をしたのだろう。そうして誰も知らないようなバンドであっても、ライブハウスでバンドのライブを見ることへの喜びを確かに感じさせてくれた一夜だった。本当に今の若手バンドたちはみんな上手いし、自分たちのやりたい音楽性が確立されていると思う。この日の最後にこのGuest roomを見たからこそ、そう思えた。
終演後に少年キッズボウイのメンバーの方々と話していたら、何故か一緒に写真を撮ることになった。サインも写真もきっとこうやってメンバーが対応してくれるのはきっと今くらいだ。近い将来にはもっと大きなところで、メンバーが出て来れないくらいの状況になる。そうなっても少しも寂しくないのは、初めて聴いた瞬間からこのバンドはそこまで行くべき存在だと思っているからだ。
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