メレンゲ ワンマンライブ @青山月見ル君想フ 6/8
- 2023/06/09
- 23:32
タイトルにこれといったものが入っていないことからもわかるように、トピックとなるようなことは何にもない。それでも、というかだからこそこうして見ることが出来ることが嬉しいメレンゲのワンマン。もはやこのバンドのライブくらいでしか行くことのない青山月見ル君想フでのワンマンは2月以来であるが、その時は遅刻してしまっただけに自分にとってはリベンジのライブでもある。
なんやかんや毎回この会場のライブがソールドアウトしているというのは、20周年を密かに迎えたこのバンドのライブに今でも足を運ぼうという人がたくさんいるからであるが、この日もソールドアウトで満員の観客(最近少し男性客も増えてきたかと思ったらこの日は10人くらいしかいなかった)の前に、19時を過ぎたあたりでメンバーが登場。
松江潤(ギター)、小野田尚史(ドラム)、山本健太(キーボード)という近年不動のサポートメンバーたちとともにタケシタツヨシ(ベース)、そしてクボケンジ(ボーカル&ギター)も登場するのであるが、クボは何年振りかというくらいに帽子を被らずに髪型を晒す形で登場。なんなら15年振りくらいじゃないかとすら思うくらいであるが、そのボサっとした、それだからこそ下北沢発のギターロックバンドであることを感じさせるような出で立ちはほとんど20年間変わっていないような感じすらある。
そんなクボと松江のギターが重たく鳴り響く「ソト」からスタートすると、サビに入る瞬間のタケシタが小野田や山本の方を見ながらベースを振りかぶるようなキメの仕草が地下のライブハウスでありながらもどこかまさに外に出て行くかのような開放感を感じさせる。それはメンバーの楽しそうな笑顔が見えることと無関係ではないだろう。
すると山本の美しいキーボードのイントロが響き、松江のギターもそのキーボードとメロディそのものが持つ美しさをさらに引き立てるようにして唸る「ムーンライト」は、ステージ背面に巨大な満月のオブジェが聳えるこの会場のために鳴らされているかのような曲だ。やはりその感覚と目に映る光景が夜に野外でこの曲を聴いているかのような感覚になる。つまりはメレンゲのライブや音楽はやはり我々の意識を違う世界へと連れて行ってくれるのである。
そんなメレンゲの曲には季節感を感じさせるものもたくさんあるし、実際にライブではそうして時期に合わせた曲もよく演奏されるのであるが、6月という夏に差し掛かった時期だからこそ、夏を感じさせるのは「シンメトリア」のメロディの爽やかさである。実際にはこの曲は結構季節を問わずに演奏されているし、「かじかんだ手」という冬を想起させるフレーズもあるがそれでも、
「青いスカート ビニール傘と
まだ終われない 夢のフレーバー」
というサビの歌詞、それに合わせて腕を上げる客席の光景、それを見渡すタケシタの嬉しそうな顔…クボのボーカルはハイトーン部分で少しキツそうでもあるが、その全てから自分は夏を想起する。かつて初めてメレンゲのライブを見た、忘れられない季節である夏の情景を。
そうしてバンドのあらゆる時期を早くも横断する選曲たちが鳴らされるのであるが、とりわけ「ソト」とともにデビューミニアルバム「ギンガ」に収録されている「ふきのとう」はささくれたったと言えるようなクボと松江のギターサウンドがこの時期のメレンゲのギターロックバンドさを改めて感じさせてくれるものだし、その重さの中から這い上がっていこうという意識が確かにその歌詞に滲んでいる。というかその精神を地中から顔を出すふきのとうに例えたクボの作家性はこの時期から遺憾なく発揮されていたことがわかる。
そんなサウンドから漂う暗さをギターサウンドというよりはメロディや全体の質感で表現しながらもサビではどこか温もりを感じさせるのは「hole」なのであるが、曲途中で松江が急にしゃがみ込んでしまい、ギターの音が途切れてしまう。それは機材トラブルによって松江のギターの電源類全てが入らなくなってしまったことが直後に本人の口から語られたのであるが、そうして音がなくなったからこそ、松江のギターがどれだけメレンゲにとって今や欠かせないものであるかを実感させてくれるものになった。
そうして松江がトラブルに対応する中、クボはこの日がまだ今年2回目のライブであることを告げると、
「帽子を被らないでライブをするのは今日が最後かもしれない(笑)」
とこの日の自身の出で立ちがやはりレアなものであることを口にし、自身もハゲてきている(全然そうは見えないけど)ことを自覚した上で、先日シークレットゲストとして出演した盟友のGOING UNDER GROUNDの松本素生がハゲているのか敢えて剃っているのかわからないから良い歳の取り方をしていると褒めているのかなんなのかよくわからない評し方をするのだが、タケシタも
「彼は父親もそういう髪型だから(笑)」
と言って笑わせてくれるし、バンドぐるみで仲が良いことを改めて感じさせてくれる。
するとクボはこの数年で自身がメレンゲ以外の場所(ソロや新たなプロジェクトなど)で曲を作ってきたことを語り、その曲たちをこの日はメレンゲとしてバンドで鳴らすことを口にする。
実際にタケシタも「真夜中っぽいイメージがある」と評したクボのソロ曲「highway & castle」はそのタイトル通りに夜の高速道路を走りながら横に見える城のようなホテルという情景がハッキリと浮かんでくるものであるし、ソロではクボのボーカルとギター、山本のキーボードというシンプルな形だったのがリズムが加わったこと、そのリズムのベースがタケシタであり、ドラムが小野田であることによって紛れもなくメレンゲというバンドのものに昇華されている。
それはメレンゲにとっての最新曲の一つと言える「バタフライ」もそうで、クボがアコギ、松江がバンジョーという編成のサウンドも含めて、間違いなくこの5人でのメレンゲで演奏されることを念頭に置いて作られたであろう曲であろう曲である。イントロをメンバーたちが演奏する中でクボはこの曲がバタフライエフェクトをテーマにした曲であること、その意味通りに自分の活動が巡り巡って誰かの幸せや笑顔になって欲しいということを話たのであるが、こうしてメレンゲのライブに来ている人はライブが見れること、こうやって新曲が聴けることの幸せを実感していたはずだし、それはやはりクボが曲を作って、メレンゲがライブをしていることによる効果だ。つまりクボはすでにバタフライエフェクトを自らの音楽と活動によって起こしているのである。
さらにはこちらもソロ曲として生み出された「ロンダリング」は山本のピアノの音と、トラップ的とも言える小野田のリズムのみにクボの歌声が乗るワンコーラス目を終えてからタケシタのベースと松江のギターがさり気なく寄り添うように乗っていくというアレンジも含めてソロで聴いた時よりもアーバンな仕上がりになっているように感じる。薄暗い中でのピンク味が強い薄紫色の照明も含めて、クボのソロ曲はバンドで演奏されるとより真夜中感が増すというか。
そうしたソロや新曲のアレンジからも今のメレンゲはこの5人で成り立っているバンドであるということを強く感じられる。ベテランになるにつれてかつてのようにサポートメンバーが集められなくなるバンドもいたりするけれど、他のアーティストのサポートやプロデュース業でも多忙なこのメンバーたちが今でもずっとメレンゲのバンドメンバーとして力を貸してくれるというのは、彼らがクボが生み出す音楽、メレンゲの音楽の力を信じ続けていることの何よりの証拠である。こうして新曲やソロ曲をバンドたらしめていることも含めて、メレンゲは正式メンバーは2人だけだけれど、今が1番バンド然としていると言えるかもしれない。
そんな夜の曲たちを続けて演奏してきたからこそ、次に演奏された「まぶしい朝」はそうした夜を超えて朝を迎えたようにすら感じられる。だからこそ照明も一転して光が射すようなものへと変化していくのであるが、クボのファルセットボイスとそこに重なるタケシタのコーラスもまたその朝を迎えたという感覚を声で表現し、感じさせてくれる。それは我々がどんな絶望の中にいたとしても、必ず夜は明けて朝がやってくるということを示すかのように。
同期ではなくてバンドサウンドで浮遊感を感じさせながら、この曲が演奏されると個人的にここからまたライブが始まっていくような感じすらあるのはこの曲が毎回こうしてライブの仕切り直しのようにして演奏されてきたからであるという近年のメレンゲのライブの積み重ねによって確かな立ち位置を確立してきた「アルカディア」を響かせるとクボは
「ギターを長い時間持ってるのも疲れるから、最近運動してる。ジムに行くようになった」
と言って観客を驚かせ、拍手まで起こす。タケシタは
「ジムに行くだけでこんなに拍手がもらえるとは(笑)」
と少し羨ましがっていたが、確かにクボは今までよりさらにシュッとしたような感じがするようにも見える。
そんなクボは以前のライブでタケシタが1曲目にやることに飽きてきているというか、決まりきっている感を持っているからこそ最初に演奏するのをやめたという、セッション的な演奏を経てからの、小野田のビートが力強く足を前に進めていくような感覚を感じる「旅人」で後半のスタートを切る。クボもギターを弾くけれども、それ以上に松江がタッピングをしたりとその変幻自在のギタープレイとスタイルで存在感を発揮しているのが実に頼もしく感じられる。
そんなこの日の中で最も夏のメレンゲのライブという要素を感じられたのが、このクライマックスの流れ。特に小野田の軽快な四つ打ちのリズムが曲のキャッチーさをさらに引き出す「午後の海」の
「水が跳ねて Tシャツがぬれて熱を奪う 僕らすぐ乾くよ
言葉じゃなく 繋がれるか 長い影二つ 伸びて今繋がったよ」
というサビの歌詞はそのまま情景が浮かぶし、ほぼ全くと言っていいくらいにそういう経験はないけれど、今年の夏は海に行って水をかけあったりしながら遊びたいな…と思わせてくれるくらいに。何よりもステージ上にいるメンバーがみんな本当に楽しそうな笑顔で演奏していて、観客もメレンゲのライブの中では随一というくらいに腕を上げている光景がそう思わせてくれるのだ。この日のライブが誰しもにとっても楽しくて、その楽しさをライブが終わった日常でも継続させていきたいと思うような。
そんなメレンゲの夏の最新曲がれっきとしたメレンゲの新曲である「アクアカイト」。こちらは小野田のエイトビートがバンドサウンド全体を力強く感じさせてくれる曲であり、やはりメレンゲというバンドとして演奏される前提で生まれた夏の曲であることがわかる。それがメレンゲの夏という物語がこれからも続いていくと思わせてくれる。すでにライブでは何度も演奏されている曲であるが、そんな新曲が聴くたびにバンド感を増しているように感じられるというのはメレンゲがこのメンバーで今も進化しているということである。
そんなライブの最後に演奏されたのは、山本の浮遊感のあるイントロがまさに宇宙空間を漂っているような感覚を与え、その直後に響く松江のギターが宇宙に煌めく星の輝きを感じさせるような、アニメ「宇宙兄弟」のタイアップとしてメレンゲの存在を広く知らしめた「クレーター」。
そんな代表曲と言っていいような曲であるが、実はライブで演奏される頻度はそこまで多くない。それはこの日もクボがなんとか振り絞るようにしながらも、やっぱり歌うのがキツそうに感じるところもあるからなのかとも思うけれど、背面に大きな満月があるこの会場だからこそ、いつかこの曲を聴きながら月に行けるような人が出てくるんじゃないかとすら思えるし、今でもこうしてこの曲をライブでやっていることによって、アニメを見ていた人が「この曲をライブで聴きたいからメレンゲのライブに行ってみようかな」とでも思ってくれたりしたら…。そう思うくらいにこの曲で鳴らされていたグルーヴ、アンサンブルはメレンゲがカッコいいロックバンドであり続けていることを証明していた。歌い切れなかったことによってか、タケシタらはまだ曲を演奏するかのような感じだったけれどクボがギターを下ろしてステージを去ったことによって本編は幕を閉じてしまったけれど。
それでもアンコールでしっかりメンバーは全員ステージに現れると、この日のセトリが夏らしい曲が多くなったことについて話し合うのであるが、選曲=クボ、曲順=タケシタという役割であるらしい。つまりソロ曲をバンドでやろうという提案はクボからのものであることがわかるのだが、メンバー全員がそれをメレンゲのものとしてプラスに捉えてライブに望んでいるということがよくわかる。
さらには来月にもこの会場で、2006年リリースの大名盤アルバム「星の出来事」の全曲演奏ライブを行うことを改めて告知すると、タケシタがステージ前に出てきてモータウン的なベースを弾く「クラシック」の煌めくようなキーボードとギターのサウンド、さらにはメロディが我々の心を弾ませてくれる。
「極東のあの先へと」
のフレーズでクボが歌詞を変えることはなかったけれど、それでもこの部分の歌唱でハンドマイクになったクボはコーラスフレーズで観客にマイクを向ける。全然大きな声で歌う人もいないし、歌いたいと思っている人もいないくらいに穏やかなファンの方々しかいないメレンゲのライブだけれど、それでも、いや、そうだからこそ微かでも声が重なっていくことによる尊さを感じることができる。同じようにずっとメレンゲを聴いて、ライブに来て生き続けてきた人がこんなにまだいるという。
そんなライブの最後はイントロからタケシタが煽るまでもなくリズムに合わせて客席から手拍子が起こる「ビスケット」。もちろん曲中での
「叩いて」
のフレーズでパンパンと手を叩くというのもしっかり決まるのであるが、このアンコールの2曲は近年のメレンゲのライブではおなじみの曲であるというのはクボにとって歌いやすい曲であるんだろうなとも思う。それと同時にメンバーも、観客もみんなが笑顔になれる曲であることもわかっているはず。これからもこうやって「楽しい事」を互いに積み重ねていくことができれば。
演奏が終わった後に、全く奪い合いにならないどころか誰も拾おうとすらしなかったタケシタが客席に投げたピックも無事に観客に回収されたのはとりあえずホッとしたし、そこが実にメレンゲのライブ、メレンゲのファンらしいなと思った。自分がクボのピックをゲットした時も全く奪い合いにならず、終わった後に床に落ちていたことを思い出していた。
本編中でも書いた通りに、見るたびにメレンゲのこの5人でのバンド感が向上している。それはやはり新曲やソロ曲をこのメンバーたちでライブアレンジして演奏しているからだ。それはきっとこれから先にもっとそう感じることができるはず。なかなかちゃんとした音源にはならないけれど、それでもかつてのような開店休業状態ではなくて、少しずつでもメレンゲが前に進みながら、こうやって定期的にライブをやってくれている、今でもライブを見れていることが本当に嬉しい。それは見れない期間が何年間もあったからこそ。
しかしこのライブ後に販売開始された翌月のライブは開始時間からすぐに見た時にすでに売り切れていた。見たくて仕方ないので追加公演を是非お願いします。
1.ソト
2.ムーンライト
3.シンメトリア
4.ふきのとう
5.hole
6.highway & castle
7.バタフライ
8.ロンダリング
9.まぶしい朝
10.アルカディア
11.旅人
12.午後の海
13.アクアカイト
14.クレーター
encore
15.クラシック
16.ビスケット
なんやかんや毎回この会場のライブがソールドアウトしているというのは、20周年を密かに迎えたこのバンドのライブに今でも足を運ぼうという人がたくさんいるからであるが、この日もソールドアウトで満員の観客(最近少し男性客も増えてきたかと思ったらこの日は10人くらいしかいなかった)の前に、19時を過ぎたあたりでメンバーが登場。
松江潤(ギター)、小野田尚史(ドラム)、山本健太(キーボード)という近年不動のサポートメンバーたちとともにタケシタツヨシ(ベース)、そしてクボケンジ(ボーカル&ギター)も登場するのであるが、クボは何年振りかというくらいに帽子を被らずに髪型を晒す形で登場。なんなら15年振りくらいじゃないかとすら思うくらいであるが、そのボサっとした、それだからこそ下北沢発のギターロックバンドであることを感じさせるような出で立ちはほとんど20年間変わっていないような感じすらある。
そんなクボと松江のギターが重たく鳴り響く「ソト」からスタートすると、サビに入る瞬間のタケシタが小野田や山本の方を見ながらベースを振りかぶるようなキメの仕草が地下のライブハウスでありながらもどこかまさに外に出て行くかのような開放感を感じさせる。それはメンバーの楽しそうな笑顔が見えることと無関係ではないだろう。
すると山本の美しいキーボードのイントロが響き、松江のギターもそのキーボードとメロディそのものが持つ美しさをさらに引き立てるようにして唸る「ムーンライト」は、ステージ背面に巨大な満月のオブジェが聳えるこの会場のために鳴らされているかのような曲だ。やはりその感覚と目に映る光景が夜に野外でこの曲を聴いているかのような感覚になる。つまりはメレンゲのライブや音楽はやはり我々の意識を違う世界へと連れて行ってくれるのである。
そんなメレンゲの曲には季節感を感じさせるものもたくさんあるし、実際にライブではそうして時期に合わせた曲もよく演奏されるのであるが、6月という夏に差し掛かった時期だからこそ、夏を感じさせるのは「シンメトリア」のメロディの爽やかさである。実際にはこの曲は結構季節を問わずに演奏されているし、「かじかんだ手」という冬を想起させるフレーズもあるがそれでも、
「青いスカート ビニール傘と
まだ終われない 夢のフレーバー」
というサビの歌詞、それに合わせて腕を上げる客席の光景、それを見渡すタケシタの嬉しそうな顔…クボのボーカルはハイトーン部分で少しキツそうでもあるが、その全てから自分は夏を想起する。かつて初めてメレンゲのライブを見た、忘れられない季節である夏の情景を。
そうしてバンドのあらゆる時期を早くも横断する選曲たちが鳴らされるのであるが、とりわけ「ソト」とともにデビューミニアルバム「ギンガ」に収録されている「ふきのとう」はささくれたったと言えるようなクボと松江のギターサウンドがこの時期のメレンゲのギターロックバンドさを改めて感じさせてくれるものだし、その重さの中から這い上がっていこうという意識が確かにその歌詞に滲んでいる。というかその精神を地中から顔を出すふきのとうに例えたクボの作家性はこの時期から遺憾なく発揮されていたことがわかる。
そんなサウンドから漂う暗さをギターサウンドというよりはメロディや全体の質感で表現しながらもサビではどこか温もりを感じさせるのは「hole」なのであるが、曲途中で松江が急にしゃがみ込んでしまい、ギターの音が途切れてしまう。それは機材トラブルによって松江のギターの電源類全てが入らなくなってしまったことが直後に本人の口から語られたのであるが、そうして音がなくなったからこそ、松江のギターがどれだけメレンゲにとって今や欠かせないものであるかを実感させてくれるものになった。
そうして松江がトラブルに対応する中、クボはこの日がまだ今年2回目のライブであることを告げると、
「帽子を被らないでライブをするのは今日が最後かもしれない(笑)」
とこの日の自身の出で立ちがやはりレアなものであることを口にし、自身もハゲてきている(全然そうは見えないけど)ことを自覚した上で、先日シークレットゲストとして出演した盟友のGOING UNDER GROUNDの松本素生がハゲているのか敢えて剃っているのかわからないから良い歳の取り方をしていると褒めているのかなんなのかよくわからない評し方をするのだが、タケシタも
「彼は父親もそういう髪型だから(笑)」
と言って笑わせてくれるし、バンドぐるみで仲が良いことを改めて感じさせてくれる。
するとクボはこの数年で自身がメレンゲ以外の場所(ソロや新たなプロジェクトなど)で曲を作ってきたことを語り、その曲たちをこの日はメレンゲとしてバンドで鳴らすことを口にする。
実際にタケシタも「真夜中っぽいイメージがある」と評したクボのソロ曲「highway & castle」はそのタイトル通りに夜の高速道路を走りながら横に見える城のようなホテルという情景がハッキリと浮かんでくるものであるし、ソロではクボのボーカルとギター、山本のキーボードというシンプルな形だったのがリズムが加わったこと、そのリズムのベースがタケシタであり、ドラムが小野田であることによって紛れもなくメレンゲというバンドのものに昇華されている。
それはメレンゲにとっての最新曲の一つと言える「バタフライ」もそうで、クボがアコギ、松江がバンジョーという編成のサウンドも含めて、間違いなくこの5人でのメレンゲで演奏されることを念頭に置いて作られたであろう曲であろう曲である。イントロをメンバーたちが演奏する中でクボはこの曲がバタフライエフェクトをテーマにした曲であること、その意味通りに自分の活動が巡り巡って誰かの幸せや笑顔になって欲しいということを話たのであるが、こうしてメレンゲのライブに来ている人はライブが見れること、こうやって新曲が聴けることの幸せを実感していたはずだし、それはやはりクボが曲を作って、メレンゲがライブをしていることによる効果だ。つまりクボはすでにバタフライエフェクトを自らの音楽と活動によって起こしているのである。
さらにはこちらもソロ曲として生み出された「ロンダリング」は山本のピアノの音と、トラップ的とも言える小野田のリズムのみにクボの歌声が乗るワンコーラス目を終えてからタケシタのベースと松江のギターがさり気なく寄り添うように乗っていくというアレンジも含めてソロで聴いた時よりもアーバンな仕上がりになっているように感じる。薄暗い中でのピンク味が強い薄紫色の照明も含めて、クボのソロ曲はバンドで演奏されるとより真夜中感が増すというか。
そうしたソロや新曲のアレンジからも今のメレンゲはこの5人で成り立っているバンドであるということを強く感じられる。ベテランになるにつれてかつてのようにサポートメンバーが集められなくなるバンドもいたりするけれど、他のアーティストのサポートやプロデュース業でも多忙なこのメンバーたちが今でもずっとメレンゲのバンドメンバーとして力を貸してくれるというのは、彼らがクボが生み出す音楽、メレンゲの音楽の力を信じ続けていることの何よりの証拠である。こうして新曲やソロ曲をバンドたらしめていることも含めて、メレンゲは正式メンバーは2人だけだけれど、今が1番バンド然としていると言えるかもしれない。
そんな夜の曲たちを続けて演奏してきたからこそ、次に演奏された「まぶしい朝」はそうした夜を超えて朝を迎えたようにすら感じられる。だからこそ照明も一転して光が射すようなものへと変化していくのであるが、クボのファルセットボイスとそこに重なるタケシタのコーラスもまたその朝を迎えたという感覚を声で表現し、感じさせてくれる。それは我々がどんな絶望の中にいたとしても、必ず夜は明けて朝がやってくるということを示すかのように。
同期ではなくてバンドサウンドで浮遊感を感じさせながら、この曲が演奏されると個人的にここからまたライブが始まっていくような感じすらあるのはこの曲が毎回こうしてライブの仕切り直しのようにして演奏されてきたからであるという近年のメレンゲのライブの積み重ねによって確かな立ち位置を確立してきた「アルカディア」を響かせるとクボは
「ギターを長い時間持ってるのも疲れるから、最近運動してる。ジムに行くようになった」
と言って観客を驚かせ、拍手まで起こす。タケシタは
「ジムに行くだけでこんなに拍手がもらえるとは(笑)」
と少し羨ましがっていたが、確かにクボは今までよりさらにシュッとしたような感じがするようにも見える。
そんなクボは以前のライブでタケシタが1曲目にやることに飽きてきているというか、決まりきっている感を持っているからこそ最初に演奏するのをやめたという、セッション的な演奏を経てからの、小野田のビートが力強く足を前に進めていくような感覚を感じる「旅人」で後半のスタートを切る。クボもギターを弾くけれども、それ以上に松江がタッピングをしたりとその変幻自在のギタープレイとスタイルで存在感を発揮しているのが実に頼もしく感じられる。
そんなこの日の中で最も夏のメレンゲのライブという要素を感じられたのが、このクライマックスの流れ。特に小野田の軽快な四つ打ちのリズムが曲のキャッチーさをさらに引き出す「午後の海」の
「水が跳ねて Tシャツがぬれて熱を奪う 僕らすぐ乾くよ
言葉じゃなく 繋がれるか 長い影二つ 伸びて今繋がったよ」
というサビの歌詞はそのまま情景が浮かぶし、ほぼ全くと言っていいくらいにそういう経験はないけれど、今年の夏は海に行って水をかけあったりしながら遊びたいな…と思わせてくれるくらいに。何よりもステージ上にいるメンバーがみんな本当に楽しそうな笑顔で演奏していて、観客もメレンゲのライブの中では随一というくらいに腕を上げている光景がそう思わせてくれるのだ。この日のライブが誰しもにとっても楽しくて、その楽しさをライブが終わった日常でも継続させていきたいと思うような。
そんなメレンゲの夏の最新曲がれっきとしたメレンゲの新曲である「アクアカイト」。こちらは小野田のエイトビートがバンドサウンド全体を力強く感じさせてくれる曲であり、やはりメレンゲというバンドとして演奏される前提で生まれた夏の曲であることがわかる。それがメレンゲの夏という物語がこれからも続いていくと思わせてくれる。すでにライブでは何度も演奏されている曲であるが、そんな新曲が聴くたびにバンド感を増しているように感じられるというのはメレンゲがこのメンバーで今も進化しているということである。
そんなライブの最後に演奏されたのは、山本の浮遊感のあるイントロがまさに宇宙空間を漂っているような感覚を与え、その直後に響く松江のギターが宇宙に煌めく星の輝きを感じさせるような、アニメ「宇宙兄弟」のタイアップとしてメレンゲの存在を広く知らしめた「クレーター」。
そんな代表曲と言っていいような曲であるが、実はライブで演奏される頻度はそこまで多くない。それはこの日もクボがなんとか振り絞るようにしながらも、やっぱり歌うのがキツそうに感じるところもあるからなのかとも思うけれど、背面に大きな満月があるこの会場だからこそ、いつかこの曲を聴きながら月に行けるような人が出てくるんじゃないかとすら思えるし、今でもこうしてこの曲をライブでやっていることによって、アニメを見ていた人が「この曲をライブで聴きたいからメレンゲのライブに行ってみようかな」とでも思ってくれたりしたら…。そう思うくらいにこの曲で鳴らされていたグルーヴ、アンサンブルはメレンゲがカッコいいロックバンドであり続けていることを証明していた。歌い切れなかったことによってか、タケシタらはまだ曲を演奏するかのような感じだったけれどクボがギターを下ろしてステージを去ったことによって本編は幕を閉じてしまったけれど。
それでもアンコールでしっかりメンバーは全員ステージに現れると、この日のセトリが夏らしい曲が多くなったことについて話し合うのであるが、選曲=クボ、曲順=タケシタという役割であるらしい。つまりソロ曲をバンドでやろうという提案はクボからのものであることがわかるのだが、メンバー全員がそれをメレンゲのものとしてプラスに捉えてライブに望んでいるということがよくわかる。
さらには来月にもこの会場で、2006年リリースの大名盤アルバム「星の出来事」の全曲演奏ライブを行うことを改めて告知すると、タケシタがステージ前に出てきてモータウン的なベースを弾く「クラシック」の煌めくようなキーボードとギターのサウンド、さらにはメロディが我々の心を弾ませてくれる。
「極東のあの先へと」
のフレーズでクボが歌詞を変えることはなかったけれど、それでもこの部分の歌唱でハンドマイクになったクボはコーラスフレーズで観客にマイクを向ける。全然大きな声で歌う人もいないし、歌いたいと思っている人もいないくらいに穏やかなファンの方々しかいないメレンゲのライブだけれど、それでも、いや、そうだからこそ微かでも声が重なっていくことによる尊さを感じることができる。同じようにずっとメレンゲを聴いて、ライブに来て生き続けてきた人がこんなにまだいるという。
そんなライブの最後はイントロからタケシタが煽るまでもなくリズムに合わせて客席から手拍子が起こる「ビスケット」。もちろん曲中での
「叩いて」
のフレーズでパンパンと手を叩くというのもしっかり決まるのであるが、このアンコールの2曲は近年のメレンゲのライブではおなじみの曲であるというのはクボにとって歌いやすい曲であるんだろうなとも思う。それと同時にメンバーも、観客もみんなが笑顔になれる曲であることもわかっているはず。これからもこうやって「楽しい事」を互いに積み重ねていくことができれば。
演奏が終わった後に、全く奪い合いにならないどころか誰も拾おうとすらしなかったタケシタが客席に投げたピックも無事に観客に回収されたのはとりあえずホッとしたし、そこが実にメレンゲのライブ、メレンゲのファンらしいなと思った。自分がクボのピックをゲットした時も全く奪い合いにならず、終わった後に床に落ちていたことを思い出していた。
本編中でも書いた通りに、見るたびにメレンゲのこの5人でのバンド感が向上している。それはやはり新曲やソロ曲をこのメンバーたちでライブアレンジして演奏しているからだ。それはきっとこれから先にもっとそう感じることができるはず。なかなかちゃんとした音源にはならないけれど、それでもかつてのような開店休業状態ではなくて、少しずつでもメレンゲが前に進みながら、こうやって定期的にライブをやってくれている、今でもライブを見れていることが本当に嬉しい。それは見れない期間が何年間もあったからこそ。
しかしこのライブ後に販売開始された翌月のライブは開始時間からすぐに見た時にすでに売り切れていた。見たくて仕方ないので追加公演を是非お願いします。
1.ソト
2.ムーンライト
3.シンメトリア
4.ふきのとう
5.hole
6.highway & castle
7.バタフライ
8.ロンダリング
9.まぶしい朝
10.アルカディア
11.旅人
12.午後の海
13.アクアカイト
14.クレーター
encore
15.クラシック
16.ビスケット
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