ずっと真夜中でいいのに。 活動5年プレミアム「元素どろ団子TOUR」 @Zepp Haneda 5/31
- 2023/06/01
- 19:09
1月に開催された代々木体育館での2daysも今年屈指のベストライブとして鮮明に記憶に残っている、ずっと真夜中でいいのに。の次なるアクションは活動5周年を記念したFC会員限定アコースティックツアー「元素どろ団子TOUR」。FC会員であってもチケットが取れないというくらいの状況になっているが、無事にこの日のツアーファイナルのZepp Hanedaの2日目に参加できることに。
自分がZepp初めてずっと真夜中でいいのに。のライブを観たのは「今は今で誓いは笑みで」リリース時のZepp DiverCityでのものだったが、今や当たり前のようにライブの力に見合う場所としてアリーナでワンマンをやるようになっているだけに、ライブハウスで見ることができるのも久しぶりである。
慣れ親しんでいるZepp Hanedaはいわゆるフロントエリアが指定席、後方が立見席となっているのであるが、ステージを観て驚いたのは薄暗い中に完全に庭園が建築されていたからである。それはここがZeppであることを忘れてしまうくらいの規模と美しさで。
19時になるとステージの一段高い部分に置かれたピアノ、ギターのメンバーの2人が登場。ピアノは岸田勇気、ギターは菰口雄矢という代々木体育館でのライブにも参加していた2人であり、そこにランタンを持ったACAねも登場すると、ステージ中央の鳥籠のような中に入って椅子に座り、まるで讃美歌を歌うかのようにメロディを歌い始めた瞬間にステージ背面には星が煌めく。その演出によって真夜中の庭園で行われる秘密のライブに忍び込んだかのような気持ちになるのだが、ピアノとキーボードのみという普段のずとまよのライブでの、人数が多くて盛りまくることによって楽しさも倍増していくというのとは真逆と言っていいくらいのシンプルさであるが、だからこそACAねの歌声がいつも以上に引き立つし、それをダイレクトに感じられる。この曲は初期の頃のライブでもこうしてアコースティック形態で演奏されていたが、
「啖呵切って 寝るふりして
啖呵切って 練るふりして」
というフレーズで椅子に座りながらも足をジタバタさせるACAねの姿がその頃を思い出させてくれる。
こうした編成ということもあって、自分はその「グラスとラムレーズン」のような、これまでのライブにおいてアコースティックで演奏されていたり、音源でそうしたサウンドで収録されている曲ばかりが並ぶのかと思っていたのだけど、その予想は2曲目で「ハゼ馳せる果てるまで」が演奏されたことによって早くも心地よく裏切られる。しかしACAねの歌唱が普段のライブとガラッと変えることがなく、アレンジはされていてもメロディの根幹は変えていないからか、確かにバンドでのライブと同じようなグルーヴを感じる。だからこそACAねもワンコーラス歌った後に
「ずっと真夜中でいいのに。です」
と音をその瞬間だけ止めて挨拶をし、間奏では椅子に座ったままで振り付けを踊るようにしていたんだろうと思う。
菰口だけではなくてACAねもまたアコギを持って演奏されたのが、普段のライブでトップクラスの狂騒を生み出す「お勉強しといてよ」であるというあたりから、もうアコースティックだからそれに見合う曲云々というライブではないということを確かに感じさせてくれるのであるが、このアコギとピアノといういわゆるウワモノ、メロディの楽器しか鳴っていないはずであるのにリズム感を感じてしまうので、ステージの端に他に誰かいるんじゃないかとチラチラ見てしまったりしていたのだが、それはこのメンバーの編成とACAねの歌唱がリズミカルに響いているということの証明でもある。
「「元素どろ団子TOUR」ももうファイナルになってしまいました。今日は大田塩焼きそばとトンカツと餃子と団子を食べました。普段私はキーボードのコードかアコギから曲を作ることが多いんですけど、このツアーはそんな曲が生まれる形のピアノとアコギだけの編成です」
と、前回は読んでいた台本がないからかかつてのライブでのMCのような、歌声とのギャップがありすぎるか細い声でACAねが挨拶して食欲旺盛っぷりをも伝えると、そんなACAねの繊細さがそのまま歌詞に、曲になり、それがこのアコースティック編成だからこそより強く感じられる「Ham」でずとまよの音楽に潜む切なさをこれまで以上に感じさせたかと思ったら、穏やかなサウンドによる、自分がこの編成で1番聞きたかった曲である「マリンブルーの庭園」はまさに今我々の目の前に広がっているこの景色をそのまま具現化したかのようですらある。
「ジュエリーを着飾るアリスも 笑ってる」
というフレーズはいつものようにステージが薄暗いからこそ表情こそ見えないが、まさに今その庭園で笑いながら間奏で扇風琴を唸らせているACAねそのもののことであるかのような。
するとここでスタッフが普段のライブでは打楽器として使用されている電子レンジをステージに持ってくると、その中にこの日の来場者からの質問を投書してもらっているということで、
Q「好きな教科はなんですか?」
A「生物と図工」(場内「まぁそうだよな〜」というリアクション)
Q「猫ちゃんと一緒にライブやってください!」
→自身の近くに置かれた、ACAねの愛猫である真生姜ストリングスもどきというぬいぐるみを肩に乗せて喋らせる
Q「最近元気を貰いたい時にしていることは?」
A「ゼルダばっかりやってる。後は漫画とアニメ。最近「化物語」を見てる」
とのこと。その観客の拍手だけが響くリアクションというあたりが特段面白いことを言おうとしないずとまよのライブらしさである。
するとここでカバーコーナーが挟まれるのであるが、アメリカのR&B、ヒップホップユニットであるGroove Theory「Tell Me」はアコギとピアノだけということでジャズの要素すらも感じられるものになっているのだが、ステージ背面の星空から赤く燃えるような背景に変わることによって一流ミュージシャンたちの音のぶつかり合いであることを示しているかのよう。何よりもACAねの英語歌詞が実にスムースかつリズミカルであり、普段からこうした曲を聴いては自分で歌っているということがよくわかる。
さらには「化物語」を見ているということで、そのエンディングテーマであるSupercell「君の知らない物語」では再びステージ背面に星空が輝くのであるが、ステージセットと相まってその美しい光景はまるでこのシーンがアニメの中の一つかのようであり、なんならこのACAね歌唱バージョンがエンディングテーマになっていても全く違和感がないんじゃないかと思うくらい。つまりはその美しさを最も感じるのはやはりACAねのボーカルによってということなのである。
それだけではカバーシリーズは終わらずに、何と神聖かまってちゃんの「フロントメモリー 」という、この日のカバーの中では1番馴染みがあるというか、個人的に馴染みがありすぎる存在のバンドの曲なのであるが、神聖かまってちゃんのライブだとボーカルのの子は声にエフェクトをかけているし、どちらかというと川本真琴歌唱バージョンに近いのであるが、それでもこのACAなりのリズムと歌唱は原曲をめちゃくちゃ知っていてもACAねでしかないものだと感じられる。それはACAねが歌えば誰のどんな曲であってもACAねの曲になってしまうのである。それを改めて知らしめるかのようなカバーシリーズ(全曲ワンフレーズずつであるが)だったが
、この曲は実は昔、まだ自身の曲があまりなかった時代によく歌っていたらしいけれど、
「ガンバレないよガンバレないよ
Yo,そんなんじゃいけないよ
I,m bloody girling 主役はboringです
Say Yeah!」
というサビの歌詞もまたどこかずとまよらしさがあるだけに、ACAねとの子は実は気が合ったりするんじゃないかとも思った。
そんなACAねの歌の凄まじさを改めて感じざるを得ないカバーシリーズから、
「学生時代に書いた曲。当時、なんでだろう?って思うようなことがたくさんあった」
と、これまた初期のライブの時にはよく口にしていたACAねの学生時代の経験をそのまま歌詞と曲にしたという「優しくLAST SMILE」は岸田のピアノのメロディと、そこに寄り添うようなACAねの歌唱がタイトル通りに優しさを感じさせるのであるが、それよりもやはり世の中への違和感や周囲への不和という感情を炸裂させるようなサビでの歌唱こそがこの曲の最大の聴きどころであり核だと言えるだろう。
そんなずとまよは新曲を配信リリースしたばかりであるのだが、早くもその新曲「不法侵入」もこのアコースティック編成で演奏される。音源ではずとまよのシグネチャーと言えるような様々な楽器の音が入り、ベースがグルーヴするメロディアスなサイドの曲というような印象であるが、そうした装飾的な部分を全て取っ払った裸の状態がこのバージョンなのだろうというくらいにとにかくそのメロディの美しさが際立っている。ACAねがウインドチャイムなどのパーカッションと言えるような楽器を操るのもこの編成ならではと言えるのかもしれないが、それは通常のライブでこの曲が演奏されてこそわかるものでもある。
するとACAねが再びアコギを持ち、
「1人で弾き語りで歌います」
と言って岸田と菰口が一旦ステージから去ると、「朗らかな皮膚とて不服」にボーナストラック的に収録されていた「サターン」のACAね弾き語りバージョンへ。もう完全に歌とアコギだけという、まるでACAねがかつてこうして歌っていたんだろうなと路上ライブ時代のことを想起させるような究極にシンプルな形であるが、なのに何故こんなに弾き語りという形態からグルーヴというものを感じるのだろうか。
だからこそ間奏でみんなが踊っている姿が脳内に浮かんでくるし、サビでは体を左右に動かしたくなってしまう。それはこれまでにこの曲をそうして楽しんできたからこそなのかもしれないが、ともすると眠くなりがちですらあるアコギの弾き語りでそうまで思わせられたことはこれまでに他にない。そこからもACAねの歌唱の凄さの説明できなさを感じざるを得ないのであるが、ACAねを取り囲む鳥籠のようなセットに光が当たることによってその姿はまさに歌の精霊そのものであるかのようだった。
そのままACAねはアコギ弾き語りで「秒針を噛む」を歌い始めるのだが、2コーラス目から岸田と菰口がステージに戻ってきて演奏に再び加わるという形であることによって弾き語り部分ではメロディの美しさを、3人編成では曲のドラマチックさを感じさせてくれるアレンジになっている。普段のライブではおなじみの間奏でのコール&レスポンスはやはりこの形態ではなかったのであるが、それでもやはりこの曲の名曲っぷりを改めて感じさせてくれる。
そしてACAねの抱える激情をこの編成だからこその形で伝えてくれるのが実に久しぶりにライブで聞く「またね幻」であるのだが、曲が進むごとにACAねの歌唱がさらに強くなっていき、それを聴いているだけでACAねがどれだけ凄いボーカリストであるかということがわかる。この曲が生まれた経緯などは知る由もないのだけれど、それでもどこかその裏にあった悲しかったり壮絶だったりする別れを想起させてしまうというか。その凄まじい声量にありったけの感情を込めることができるのがACAねの凄まじさである。
そしてACAねが立ち上がりながら
「みんな、立ってもいいし、座ったままでもいいよ」
と言って菰口の刻むアコギに乗せて原曲と変わらぬテンポで歌い始めたのは「残機」であるのだが、岸田はというと曲に合わせてヲタ芸的ですらある振り付けを(しっかりと動きにキレがあるというのはこのツアーで培ってきたものであろう)踊っていて、それが普段のずとまよのライブと地続きなものを感じさせてくれて微笑ましくなる。指定席の人もほとんどが立ち上がり、先ほどまでは踊っていた岸田のピアノの音も加わると、アコースティックでありながらも完全に普段のライブ同様の爆発力を感じさせるのであるが、それはACAねが普段と同様に電子レンジを打楽器として叩くようのハンマー的なものを持って歌っていたからかもしれない。薄暗いからこそシルエット的に映るその姿は本当に美しかった。
元から「1時間くらいの内容」と伝えられていただけに、果たしてアンコールはあるかなとも思っていたのだが、拍手に包まれながら3人で再びステージに戻ってくるとACAねはジャケットを着ており、
「これ、初めてライブをやった代官山LOOPの時に着てたやつです」
と、それが思い入れのあるものであり、今も大切にしている(グッズへのこだわりがめちゃくちゃ強いのもそうした部分によるものだろう)ことを感じさせると、6月4日にライブ配信をすることや、すでにリリースが決まっているアルバムのティザー公開など、今後もファンを喜ばせる発表と告知をすると、曲タイトルを言った上でなお
「脳裏上!」
と口にしてから演奏されたのはもちろん「脳裏上のクラッカー」。岸田の流麗なピアノと菰口の激しいギター、さらにはACAねによる扇風琴というソロも間奏に挟みながら、やはりアコースティックでありながらも普段と全く変わることのないグルーヴはそれこそがずとまよの音楽の、ACAねというボーカリストの魔力を感じさせるのだが、最後にACAねはやはり普段のライブ同様に思いっきり声を張り上げる。それがここ最近で1番心の奥深くにまで刺さって震えるような感覚になったのは、ACAねのボーカルが絶好調だったのはもちろんとして、ライブハウスという距離の近さによってよりダイレクトに響いてきたからだろう。
普通のツアーでライブハウスだったらもう絶望的にチケットが取れないくらいの存在になっているけれど、またFCツアーくらいではこの距離の近さでずとまよの音楽を、ACAねの歌唱を浴びれますようにと思わざるを得なかった。
演奏が終わるとステージに残ったACAねはステージ前に出てきてマイクを通すことなく、
「最初の頃はライブをやるのが苦手で、好きじゃなかった。その頃のライブはどろ団子だった。それでもこうやって見に来てくれるみんながずっといてくれるから、団子がキレイな、ピカピカな元素みたいなものになって、今日も本当に楽しかった。近づいて遠のいて、これからもよろしくお願いします!」
と喋ると、ツアーの閉幕を告げるようにクラッカーを鳴らしてからステージを去って行ったのだが、ライブ後には観客がステージに上がれる見学会とそれに参加した人に缶バッジの配布も行われた。ステージ上のそのセットの造形や、案内するスタッフのユーモラスさにも「さすがだな」と感心しながら、自分はセットだけではなくてまだ観客が残っていた客席の方も見てみた。ACAねはこの景色を見ながら歌っていたのだと。それを自分の視点で見れる機会なんてそうそうないだけに、改めてライブハウスの近さを実感していた。
普段の大人数でのずとまよのライブの凄まじさはこれまでに何度となくライブレポを書いてきたけれど、その普段のライブがACAねも含めた参加メンバーそれぞれの凄まじさ(それこそ村山☆潤や河村吉宏のようないろんな場所で活躍しているトッププレイヤーたちもいるだけに)を感じさせるものだとしたら、このアコースティック編成はただひたすらにACAねというボーカリストの凄まじさを改めて感じさせてくれるものだ。だからこそまた何年かに一回くらいはこの形でのライブを見ていたいし、目に見えるものが全てって思いたいのに、やはり目に見えるものではないACAねの歌声があまりに素晴らしすぎたのだ。
1.グラスとラムレーズン
2.ハゼ馳せる果てるまで
3.お勉強しといてよ
4.Ham
5.マリンブルーの庭園
6.Tell Me (Groove Theory)
7.君の知らない物語 (Supercell)
8.フロントメモリー (神聖かまってちゃん)
9.優しくLAST SMILE
10.不法侵入
11.サターン (弾き語り)
12.秒針を噛む
13.またね幻
14.残機
encore
15.脳裏上のクラッカー
自分がZepp初めてずっと真夜中でいいのに。のライブを観たのは「今は今で誓いは笑みで」リリース時のZepp DiverCityでのものだったが、今や当たり前のようにライブの力に見合う場所としてアリーナでワンマンをやるようになっているだけに、ライブハウスで見ることができるのも久しぶりである。
慣れ親しんでいるZepp Hanedaはいわゆるフロントエリアが指定席、後方が立見席となっているのであるが、ステージを観て驚いたのは薄暗い中に完全に庭園が建築されていたからである。それはここがZeppであることを忘れてしまうくらいの規模と美しさで。
19時になるとステージの一段高い部分に置かれたピアノ、ギターのメンバーの2人が登場。ピアノは岸田勇気、ギターは菰口雄矢という代々木体育館でのライブにも参加していた2人であり、そこにランタンを持ったACAねも登場すると、ステージ中央の鳥籠のような中に入って椅子に座り、まるで讃美歌を歌うかのようにメロディを歌い始めた瞬間にステージ背面には星が煌めく。その演出によって真夜中の庭園で行われる秘密のライブに忍び込んだかのような気持ちになるのだが、ピアノとキーボードのみという普段のずとまよのライブでの、人数が多くて盛りまくることによって楽しさも倍増していくというのとは真逆と言っていいくらいのシンプルさであるが、だからこそACAねの歌声がいつも以上に引き立つし、それをダイレクトに感じられる。この曲は初期の頃のライブでもこうしてアコースティック形態で演奏されていたが、
「啖呵切って 寝るふりして
啖呵切って 練るふりして」
というフレーズで椅子に座りながらも足をジタバタさせるACAねの姿がその頃を思い出させてくれる。
こうした編成ということもあって、自分はその「グラスとラムレーズン」のような、これまでのライブにおいてアコースティックで演奏されていたり、音源でそうしたサウンドで収録されている曲ばかりが並ぶのかと思っていたのだけど、その予想は2曲目で「ハゼ馳せる果てるまで」が演奏されたことによって早くも心地よく裏切られる。しかしACAねの歌唱が普段のライブとガラッと変えることがなく、アレンジはされていてもメロディの根幹は変えていないからか、確かにバンドでのライブと同じようなグルーヴを感じる。だからこそACAねもワンコーラス歌った後に
「ずっと真夜中でいいのに。です」
と音をその瞬間だけ止めて挨拶をし、間奏では椅子に座ったままで振り付けを踊るようにしていたんだろうと思う。
菰口だけではなくてACAねもまたアコギを持って演奏されたのが、普段のライブでトップクラスの狂騒を生み出す「お勉強しといてよ」であるというあたりから、もうアコースティックだからそれに見合う曲云々というライブではないということを確かに感じさせてくれるのであるが、このアコギとピアノといういわゆるウワモノ、メロディの楽器しか鳴っていないはずであるのにリズム感を感じてしまうので、ステージの端に他に誰かいるんじゃないかとチラチラ見てしまったりしていたのだが、それはこのメンバーの編成とACAねの歌唱がリズミカルに響いているということの証明でもある。
「「元素どろ団子TOUR」ももうファイナルになってしまいました。今日は大田塩焼きそばとトンカツと餃子と団子を食べました。普段私はキーボードのコードかアコギから曲を作ることが多いんですけど、このツアーはそんな曲が生まれる形のピアノとアコギだけの編成です」
と、前回は読んでいた台本がないからかかつてのライブでのMCのような、歌声とのギャップがありすぎるか細い声でACAねが挨拶して食欲旺盛っぷりをも伝えると、そんなACAねの繊細さがそのまま歌詞に、曲になり、それがこのアコースティック編成だからこそより強く感じられる「Ham」でずとまよの音楽に潜む切なさをこれまで以上に感じさせたかと思ったら、穏やかなサウンドによる、自分がこの編成で1番聞きたかった曲である「マリンブルーの庭園」はまさに今我々の目の前に広がっているこの景色をそのまま具現化したかのようですらある。
「ジュエリーを着飾るアリスも 笑ってる」
というフレーズはいつものようにステージが薄暗いからこそ表情こそ見えないが、まさに今その庭園で笑いながら間奏で扇風琴を唸らせているACAねそのもののことであるかのような。
するとここでスタッフが普段のライブでは打楽器として使用されている電子レンジをステージに持ってくると、その中にこの日の来場者からの質問を投書してもらっているということで、
Q「好きな教科はなんですか?」
A「生物と図工」(場内「まぁそうだよな〜」というリアクション)
Q「猫ちゃんと一緒にライブやってください!」
→自身の近くに置かれた、ACAねの愛猫である真生姜ストリングスもどきというぬいぐるみを肩に乗せて喋らせる
Q「最近元気を貰いたい時にしていることは?」
A「ゼルダばっかりやってる。後は漫画とアニメ。最近「化物語」を見てる」
とのこと。その観客の拍手だけが響くリアクションというあたりが特段面白いことを言おうとしないずとまよのライブらしさである。
するとここでカバーコーナーが挟まれるのであるが、アメリカのR&B、ヒップホップユニットであるGroove Theory「Tell Me」はアコギとピアノだけということでジャズの要素すらも感じられるものになっているのだが、ステージ背面の星空から赤く燃えるような背景に変わることによって一流ミュージシャンたちの音のぶつかり合いであることを示しているかのよう。何よりもACAねの英語歌詞が実にスムースかつリズミカルであり、普段からこうした曲を聴いては自分で歌っているということがよくわかる。
さらには「化物語」を見ているということで、そのエンディングテーマであるSupercell「君の知らない物語」では再びステージ背面に星空が輝くのであるが、ステージセットと相まってその美しい光景はまるでこのシーンがアニメの中の一つかのようであり、なんならこのACAね歌唱バージョンがエンディングテーマになっていても全く違和感がないんじゃないかと思うくらい。つまりはその美しさを最も感じるのはやはりACAねのボーカルによってということなのである。
それだけではカバーシリーズは終わらずに、何と神聖かまってちゃんの「フロントメモリー 」という、この日のカバーの中では1番馴染みがあるというか、個人的に馴染みがありすぎる存在のバンドの曲なのであるが、神聖かまってちゃんのライブだとボーカルのの子は声にエフェクトをかけているし、どちらかというと川本真琴歌唱バージョンに近いのであるが、それでもこのACAなりのリズムと歌唱は原曲をめちゃくちゃ知っていてもACAねでしかないものだと感じられる。それはACAねが歌えば誰のどんな曲であってもACAねの曲になってしまうのである。それを改めて知らしめるかのようなカバーシリーズ(全曲ワンフレーズずつであるが)だったが
、この曲は実は昔、まだ自身の曲があまりなかった時代によく歌っていたらしいけれど、
「ガンバレないよガンバレないよ
Yo,そんなんじゃいけないよ
I,m bloody girling 主役はboringです
Say Yeah!」
というサビの歌詞もまたどこかずとまよらしさがあるだけに、ACAねとの子は実は気が合ったりするんじゃないかとも思った。
そんなACAねの歌の凄まじさを改めて感じざるを得ないカバーシリーズから、
「学生時代に書いた曲。当時、なんでだろう?って思うようなことがたくさんあった」
と、これまた初期のライブの時にはよく口にしていたACAねの学生時代の経験をそのまま歌詞と曲にしたという「優しくLAST SMILE」は岸田のピアノのメロディと、そこに寄り添うようなACAねの歌唱がタイトル通りに優しさを感じさせるのであるが、それよりもやはり世の中への違和感や周囲への不和という感情を炸裂させるようなサビでの歌唱こそがこの曲の最大の聴きどころであり核だと言えるだろう。
そんなずとまよは新曲を配信リリースしたばかりであるのだが、早くもその新曲「不法侵入」もこのアコースティック編成で演奏される。音源ではずとまよのシグネチャーと言えるような様々な楽器の音が入り、ベースがグルーヴするメロディアスなサイドの曲というような印象であるが、そうした装飾的な部分を全て取っ払った裸の状態がこのバージョンなのだろうというくらいにとにかくそのメロディの美しさが際立っている。ACAねがウインドチャイムなどのパーカッションと言えるような楽器を操るのもこの編成ならではと言えるのかもしれないが、それは通常のライブでこの曲が演奏されてこそわかるものでもある。
するとACAねが再びアコギを持ち、
「1人で弾き語りで歌います」
と言って岸田と菰口が一旦ステージから去ると、「朗らかな皮膚とて不服」にボーナストラック的に収録されていた「サターン」のACAね弾き語りバージョンへ。もう完全に歌とアコギだけという、まるでACAねがかつてこうして歌っていたんだろうなと路上ライブ時代のことを想起させるような究極にシンプルな形であるが、なのに何故こんなに弾き語りという形態からグルーヴというものを感じるのだろうか。
だからこそ間奏でみんなが踊っている姿が脳内に浮かんでくるし、サビでは体を左右に動かしたくなってしまう。それはこれまでにこの曲をそうして楽しんできたからこそなのかもしれないが、ともすると眠くなりがちですらあるアコギの弾き語りでそうまで思わせられたことはこれまでに他にない。そこからもACAねの歌唱の凄さの説明できなさを感じざるを得ないのであるが、ACAねを取り囲む鳥籠のようなセットに光が当たることによってその姿はまさに歌の精霊そのものであるかのようだった。
そのままACAねはアコギ弾き語りで「秒針を噛む」を歌い始めるのだが、2コーラス目から岸田と菰口がステージに戻ってきて演奏に再び加わるという形であることによって弾き語り部分ではメロディの美しさを、3人編成では曲のドラマチックさを感じさせてくれるアレンジになっている。普段のライブではおなじみの間奏でのコール&レスポンスはやはりこの形態ではなかったのであるが、それでもやはりこの曲の名曲っぷりを改めて感じさせてくれる。
そしてACAねの抱える激情をこの編成だからこその形で伝えてくれるのが実に久しぶりにライブで聞く「またね幻」であるのだが、曲が進むごとにACAねの歌唱がさらに強くなっていき、それを聴いているだけでACAねがどれだけ凄いボーカリストであるかということがわかる。この曲が生まれた経緯などは知る由もないのだけれど、それでもどこかその裏にあった悲しかったり壮絶だったりする別れを想起させてしまうというか。その凄まじい声量にありったけの感情を込めることができるのがACAねの凄まじさである。
そしてACAねが立ち上がりながら
「みんな、立ってもいいし、座ったままでもいいよ」
と言って菰口の刻むアコギに乗せて原曲と変わらぬテンポで歌い始めたのは「残機」であるのだが、岸田はというと曲に合わせてヲタ芸的ですらある振り付けを(しっかりと動きにキレがあるというのはこのツアーで培ってきたものであろう)踊っていて、それが普段のずとまよのライブと地続きなものを感じさせてくれて微笑ましくなる。指定席の人もほとんどが立ち上がり、先ほどまでは踊っていた岸田のピアノの音も加わると、アコースティックでありながらも完全に普段のライブ同様の爆発力を感じさせるのであるが、それはACAねが普段と同様に電子レンジを打楽器として叩くようのハンマー的なものを持って歌っていたからかもしれない。薄暗いからこそシルエット的に映るその姿は本当に美しかった。
元から「1時間くらいの内容」と伝えられていただけに、果たしてアンコールはあるかなとも思っていたのだが、拍手に包まれながら3人で再びステージに戻ってくるとACAねはジャケットを着ており、
「これ、初めてライブをやった代官山LOOPの時に着てたやつです」
と、それが思い入れのあるものであり、今も大切にしている(グッズへのこだわりがめちゃくちゃ強いのもそうした部分によるものだろう)ことを感じさせると、6月4日にライブ配信をすることや、すでにリリースが決まっているアルバムのティザー公開など、今後もファンを喜ばせる発表と告知をすると、曲タイトルを言った上でなお
「脳裏上!」
と口にしてから演奏されたのはもちろん「脳裏上のクラッカー」。岸田の流麗なピアノと菰口の激しいギター、さらにはACAねによる扇風琴というソロも間奏に挟みながら、やはりアコースティックでありながらも普段と全く変わることのないグルーヴはそれこそがずとまよの音楽の、ACAねというボーカリストの魔力を感じさせるのだが、最後にACAねはやはり普段のライブ同様に思いっきり声を張り上げる。それがここ最近で1番心の奥深くにまで刺さって震えるような感覚になったのは、ACAねのボーカルが絶好調だったのはもちろんとして、ライブハウスという距離の近さによってよりダイレクトに響いてきたからだろう。
普通のツアーでライブハウスだったらもう絶望的にチケットが取れないくらいの存在になっているけれど、またFCツアーくらいではこの距離の近さでずとまよの音楽を、ACAねの歌唱を浴びれますようにと思わざるを得なかった。
演奏が終わるとステージに残ったACAねはステージ前に出てきてマイクを通すことなく、
「最初の頃はライブをやるのが苦手で、好きじゃなかった。その頃のライブはどろ団子だった。それでもこうやって見に来てくれるみんながずっといてくれるから、団子がキレイな、ピカピカな元素みたいなものになって、今日も本当に楽しかった。近づいて遠のいて、これからもよろしくお願いします!」
と喋ると、ツアーの閉幕を告げるようにクラッカーを鳴らしてからステージを去って行ったのだが、ライブ後には観客がステージに上がれる見学会とそれに参加した人に缶バッジの配布も行われた。ステージ上のそのセットの造形や、案内するスタッフのユーモラスさにも「さすがだな」と感心しながら、自分はセットだけではなくてまだ観客が残っていた客席の方も見てみた。ACAねはこの景色を見ながら歌っていたのだと。それを自分の視点で見れる機会なんてそうそうないだけに、改めてライブハウスの近さを実感していた。
普段の大人数でのずとまよのライブの凄まじさはこれまでに何度となくライブレポを書いてきたけれど、その普段のライブがACAねも含めた参加メンバーそれぞれの凄まじさ(それこそ村山☆潤や河村吉宏のようないろんな場所で活躍しているトッププレイヤーたちもいるだけに)を感じさせるものだとしたら、このアコースティック編成はただひたすらにACAねというボーカリストの凄まじさを改めて感じさせてくれるものだ。だからこそまた何年かに一回くらいはこの形でのライブを見ていたいし、目に見えるものが全てって思いたいのに、やはり目に見えるものではないACAねの歌声があまりに素晴らしすぎたのだ。
1.グラスとラムレーズン
2.ハゼ馳せる果てるまで
3.お勉強しといてよ
4.Ham
5.マリンブルーの庭園
6.Tell Me (Groove Theory)
7.君の知らない物語 (Supercell)
8.フロントメモリー (神聖かまってちゃん)
9.優しくLAST SMILE
10.不法侵入
11.サターン (弾き語り)
12.秒針を噛む
13.またね幻
14.残機
encore
15.脳裏上のクラッカー
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