Base Ball Bear 「Guitar! Guitar! Drum! Drum! Bass! Bass!」 TOUR @渋谷CLUB QUATTRO 5/23
- 2023/05/25
- 19:14
すでにこのツアーは初日の千葉LOOKと翌月のZepp DiverCityと2公演見ているのであるが、このバンドと一緒に年齢を重ねてきたと思っている身としては今回のツアーの内容は1本でも多く見ておかないと、とここまでの2公演を見て実感したのでこの渋谷CLUB QUATTROで3公演目となる、Base Ball Bearの「Guitar! Guitar! Drum! Drum! Bass! Bass!」ツアーである。
実はこの日の前の公演になる、5月20日の札幌公演が小出祐介(ボーカル&ギター)の喉の不調によって開催当日に急遽延期になっていただけに当日渋谷に向かうまで本当に開催されるのかバンドの公式アカウントを随時チェックしていたのだが、そんな心配をよそにこの日は無事に開催。一応同じツアー内であるためにここまでに参加した2公演のライブレポは以下から。
千葉LOOK(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1165.html?sp)
Zepp DiverCity(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1180.html?sp)
平日とはいえさすがにこの規模だと超満員の渋谷CLUB QUATTRO(当日券も出ていたが、これ以上どこにいれるのかというくらいの満員っぷりである)の場内が19時を迎えたあたりで暗転しておなじみのXTCのSEが流れてメンバー3人がステージに登場すると、客席からは長くて鳴り止まないんじゃないかと思うくらいの長さと大きさの拍手と歓声が起こる。近年(特にコロナ禍以降)はその観客の想いが顕著に伝わる形になっているのだが、この日のそれは札幌が中止になってしまったからこその、小出に、バンドに待っていことを伝えるかのようですらある。そのファンの思いの強さに早くもグッときてしまっていたし、それはメンバーが楽器を持って堀之内大介のドラムセットの前に集まる通称「堀之内会議」まで続いていた。
そうして昨年リリースの最新シングルにして、ベボベの終わりなき青春バンドであることを爽やかなギターロックというベボベのシグネチャーサウンドで響かせる「海になりたい part.3」からスタートし、「GIRLFRIEND」ではイントロのキメのリズムに合わせて観客が「オイ!」と声を上げ、小出がこの曲において重要なメインリフを弾きながらボーカルをするという形になっているのはすでに見ているこのツアーのライブと変わらないのであるが、やはりどこかこれまでに見た2公演よりも固さを感じる。それは小出の表情から最も感じられるというくらいに、堀之内と関根史織(ベース)は笑顔であるが、そこには小出の「ライブを飛ばしてしまった」という悔いのようなものが滲み出ていたような気もしている。
しかし延期になった理由が「喉の不調」だったことから、歌唱がどうなのかと懸念していたが、思ったよりもはるかに小出はいつも通りと言っていいくらいに歌えていた。それは最初の挨拶的なMCで
小出「喉は良くなったんですけど、まだ鼻の調子が治りきってなくて。だから今日はいつもよりもスイートな僕のボーカルを堪能してもらえればと。スイートだろ〜?(笑)」
堀之内「ワイルドだろ〜?みたいに言うな!(笑)」
と言っていたことからも窺えるし、だからこそこの日はこうして開催することにしたのだろうが、このツアーについて
小出「去年は武道館に向けてっていうところでやってきましたけど、このツアーは特にリリースとかがあってのものじゃないから、何やってもいいツアーになってる。だから去年はみんな「BREEEEZE GIRL」始まったらとりあえず惰性で腕を上げるみたいな感じだったけど(笑)、今日は惰性じゃない楽しみ方ができるはずです(笑)」
堀之内「あれ惰性だったのかよ!(笑)」
と内容を実に簡潔かつユーモラスに説明するというのは完全にいつものベボベのライブである。
そんな小出のシャープなギターリフがイントロから響く「いまは僕の目を見て」、サビでの小出のファルセットボーカルがいつも以上にスイートに響き渡る「Shine On You Cypress Girl」、そしてこのツアーの最大の驚きの選曲の一つである、ベボベの持つ重さを持ったグルーヴが最大限に発揮されている「透明26時」という流れはツアー内では不動であるが、おそらくはこのツアーを終えたら聴けることは当分ないであろうものだ。(特に「Shine On〜」と「透明26時」はツアー初日にメンバーも「めちゃくちゃ久しぶりにやる」と言っていたし)
そんな曲を3人になった今のベボベでの演奏で聴ける幸せを噛み締めていると、Aメロで観客が手拍子をし、関根のキャッチーなコーラスが響く「愛してる」が「やっぱり今聴いてもめちゃくちゃ良い曲だよな」と思えるのであるが、そんな中でも小出は
「ちょっと鼻水が止まらなくて、鼻をかみたいんだけど、鼻をかむ音が聞こえるのって恥ずかしいじゃん?だからトイレの音姫みたいな感じで、鼻をかんでる時に堀之内さん音を何かしら鳴らしてもらっていいですか?」
と言って堀之内がエイトビートのドラムを叩いている間に小出が鼻をかみ、さらには水分補給までするという「音殿」が発動するのであるが、これに小出は計り知れない手応えを感じたようで、
「これ特許取ろう!(笑)これからステージでこういうことをするバンドは我々に許可を取りに来い!(笑)」
と「音殿」を特許申請しようとするのであるが、そのやりとりのツッコミの声がやたらとデカい堀之内について小出は
「僕らのマイクのレベルが8くらいだとしたら、堀之内さんのは4くらいにしておくんですけど、それだと僕と関根の声より大きくなっちゃうから、最終的に2くらいにしてる(笑)
なんでそんな声大きいのにボーカルやらなかったの?」
と聞くと
「あなたと一緒にバンドやってるからですよ!(笑)」
と返すのであるが、そこには面白いだけではなくて堀之内からの小出のボーカルへの信頼を確かに感じさせた。堀之内は
「俺がボーカルやっても売れねぇよ!(笑)
だからフー・ファイターズのデイヴ・グロールとか、VOLA & THE ORIENTAL MACHINEやってるアヒト・イナザワさんとか、ドラムからボーカルに転向って凄いなと思いますよ」
と続けるのであるが、そのトークすらもはやマイクを通さずに客席に聴こえているというのはQUATTROという今のベボベにとっては小さめ(メジャーデビューアルバム「C」のリリースツアーファイナルがこの会場だった)の規模であることを差し引いても、やはり素晴らしい声量である。それが1番生きるのは今のところこうしたMCであるけれど。
そんな爆笑のMCもいつもと変わらないのであるが、こちらもこのツアーでは不動の曲である「何才」でグルーヴ感のあるギターロックサウンドを響かせると、一転して今になるとシンプルにも感じられる堀之内のビートから始まり、小出が声を張り上げた歌唱で青春の情景を歌うギターロックサウンドはまさかの「東京ピラミッド」というインディーズ期の選曲。これは千葉でもDiverCityでもやっていなかっただけに驚きの選曲であったが、今のベボベがこの時期の曲をやっても懐古という感じは全くしない。今もずっとこの頃の気持ちやこの曲の情景が続いているかのような。そう思えるのはどんなことがあってもベボベが止まることなくライブをやり、リリースをして続いてきたバンドだからだろう。
個人的に今回のツアーで最も嬉しい選曲が、隠れたというにはあまりにもったいないカップリング曲である「BOYS MAY CRY」なのだが、やはり小出のカッティングから始まるイントロを聴くとこの曲をこうしてライブで聴くことができて本当に幸せだと思えるし、笑顔の堀之内もスティックでそれを後押しする間奏での手拍子が起こるのを見れるのも、ここにいる全員がこの名曲の存在を知っていると嬉しくなる。この日の状況でこの曲を聴くと、小出にも
「BOYS MAY CRY 辛かったら
俺の胸で泣いたっていいよ」
と言いたくなる。この曲を演奏しているということが自分にとってはこのツアーに何公演も参加している最大の理由と言えるかもしれない。
そんな名曲からバンドのグルーヴと関根のコーラス、さらにはサビでのギターロックというよりもブラックミュージックを取り入れたリズムに合わせた観客の手拍子というベボベの音楽の形による「どうしよう」の余韻に包まれる中で小出は再び音殿を堀之内にお願いすると、そのリズムに合わせて水をシャカシャカと振ってから、
「この前の札幌でライブを飛ばしたのは通算2回目。前も今のチームになってから名古屋を飛ばしちゃったんだけど、昔のチームの時は「今日無理だ」って言ってるくらいに体調が悪い時にもライブやってた。当日、俺が朝からめちゃくちゃ体調キツい時のライブで、メンバーのソロの時間があって。その時に一旦袖に戻って「今日無理だって!」って言ってたんだけど、終わったらチーフマネージャーが
「今日のガッツはちゃんと伝わってるから」
って言ってきて(笑)
でも俺が伝えないのはガッツじゃなくて、ちゃんと時間とお金を使って来てくれた人にそれ相応のパフォーマンスをちゃんと見せたいっていうことで。だから無理だって思う時にちゃんと休めるようになったのはいいことでもあるというか。
それで言うと、最近僕、野外でサングラスかけてるんですよ。それはカッコつけてるんじゃなくて、目が光に弱いからかけてて。だからライブ前の照明も直接目に入らないようにしてもらったりしてるんだけど、夏の野外とかだと全然前が見えなかったりするから、当時のチーフマネージャーにずっと「サングラスかけさせてくれ」って言ってたのに、「ロックバンドのボーカルがサングラスかけるなんてダメだ」みたいなこと言われて。でもその人は今○○○○を担当してて。何人サングラスかけてるんだ!っていう(場内爆笑だったが「書くな」令が出たので規制)」
と今の自分たちの環境になったからこそキツい時に休めるようになったことを語るのであるが、今の普通の企業であったらすぐに問題になりそうな事案であり、関根は当時を振り返って
「私もその時にもっとこいちゃんに寄り添えばよかったなって。こいちゃん、元気出して手羽先でも食べに行こうぜ!って」
と言うのだが、小出と堀之内には
「体調悪い時に手羽先食べたくないだろ!(笑)」
とツッコミを入れられる。ちなみに関根はお腹を壊したことが一回もないくらいに強い肉体の持ち主だという。
そうして札幌を飛ばしてしまったことで札幌に行って帰るだけになってしまったメンバーにも小出が謝ると、そうしたことも含めてベボベがこれからも旅を続けていくことを歌う「風来」を聴いていると、そうしたツアーの移動や観光などの風景が浮かんでくる。今になってバンドは3人でそうしたことができることを楽しんでいるともこの前に見た時に話していたが、そんな関係性も含めて本当に頼もしく思える。
すると小出が高速でギターをカッティングする「曖してる」ではステージ中央に出てきた関根のベースが実に重く、力強く響くファンクロックと言える曲であり、後半に向かってさらにバンドの演奏の強度が増している。つまりは堀之内も
「小出さん、あなた絶好調ですよ」
と言っていたくらいの状態にバンドとしてなれているということである。
なのでベボベの青春的なギターロックが今もなおずっと続いているものであることを示すような「DIARY KEY」の頃にはもう病み上がりであることを忘れてしまうくらいの状況になっていたが、それは最後のサビ前でやはり堀之内のリズムに合わせて手拍子をする我々の楽しさと熱さがいつもと変わらないものであったからであり、それは小出のラップ、関根と堀之内のリズムの演奏だけで凄まじいグルーヴを生み出す「PARK」においてもそうだ。音に反応して腕が勝手に上がってしまうくらいのベボベの熱いライブが確かにこの日もあった。
そしてそれが極まるのはイントロで観客が「オイ!オイ!」と叫びながら拳を振り上げまくる「yoakemae」であり、客席頭上のミラーボールも煌びやかに回る中で、この曲の音源をはるかに超える熱狂と迫力も、サビに入る瞬間の視界が一気に開けていくような感覚も全く変わっていない。いや、むしろ間違いなく進化している。これだけ聴いても飽きることなく熱狂している自分のようなファンがここにたくさんいるというのがその何よりの証拠である。
そんなライブの最後は小出が
「今日はありがとうございました、Base Ball Bearでした!」
と挨拶するや否や関根が中央に出てきてイントロの重いベースを鳴らす「Stairway Generation」。サビに入る前には小出がギターを唸らせるこの曲をライブの最後に聴くことによって、これからもベボベというバンドも、それを聴いている、見ている我々自身も「上がるしかないようだ」と思える。それをリリース時からお互いに色々あった中でも思い続けていられるということが本当に嬉しいし、心から頼もしく思えるのである。
アンコールで再びメンバー3人がステージに現れると、小出は本編で着用していたジャケットを脱いでTシャツ姿に。それがどこか本編よりも若々しさを感じさせる中で演奏されたのは、
「あたらしい朝は来るよ 僕らにも」
と、楽しいだけじゃないこともありながらもあくまで下ではなくて前を向くように歌われる「深朝」であり、この曲を聴くとまたここからライブが始まるような感じがしてくるのはこの曲がコンセプトアルバム「新呼吸」の1曲目という始まりを告げる曲であるからだが、まさかアンコールでこの曲が演奏されるとは、と思うのは千葉とDiverCityでは違う曲が演奏されていたからである。全ての公演のセトリを見ているわけではないが、こうしてアンコールでは毎回違う曲を演奏しているのかもしれないし、そうすることでメンバーも毎公演を新鮮な気持ちで行っているのかもしれない。
「アンコールありがとうございます。今年の夏はいろんなイベントにも出演しますし、7月には日比谷野音でのワンマンもございます。ここにいる皆さんとまたそこでお会いできたらと思います。その時には「BREEEEZE GIRL」も惰性じゃない感じで盛り上がってください(笑)」
とやはりユーモアを忘れることなく、毎年恒例になっているくらいに野音ライブのスケジュールが当たるのはあの場所にこのバンドが愛されているからだと思う「日比谷ノンフィクション」の開催を告知すると、最後に小出がギターを鳴らしてから歌い始めたのは、千葉とDiverCityではやはり演奏されていなかった(その2公演の最後の曲は「changes」だった)「short hair」。自分がここまでに見てきた2公演はベボベトップクラスの代表曲であり名曲であるこの曲が演奏されなくても成立していたものだった。でもやっぱりこの曲を聴くことができるのが本当に嬉しいのは、もう10年以上前にリリースされたこの曲がいつ聴いても全く色褪せることがない、いつの時代においても青春の曲でありながら、変わり続けるベボベを変わらずに見ていたいと思うからだ。最後にステージで
「ありがとうございました!」
とやはり生声で叫んでからステージを去った堀之内は、体は大きくなったし、もう父親になったけれど「C」のツアーファイナルでこのQUATTROで見た時からずっと変わらないようにも感じていた。
小出も告知していた通りに、7月には日比谷野音で恒例の「日比谷ノンフィクション」も開催される。それはベボベがやはり止まることのないバンドであることを示すライブであり、きっと今年も太陽神バンド伝説を継続する景色を見せてくれるんだろうなと楽しみになる。何よりもこの日、小出が元気であることを祝い合った人たちがまたみんなそこで集まれるというのが本当に嬉しいのである。
1.海になりたい part.3
2.GIRL FRIEND
3.いまは僕の目を見て
4.Shine On You Cypress Girl
5.透明26時
6.愛してる
7.何才
8.東京ピラミッド
9.BOYS MAY CRY
10.どうしよう
11.風来
12.曖してる
13.DIARY KEY
14.PARK
15.yoakemae
16.Stairway Generation
encore
17.深朝
18.short hair
実はこの日の前の公演になる、5月20日の札幌公演が小出祐介(ボーカル&ギター)の喉の不調によって開催当日に急遽延期になっていただけに当日渋谷に向かうまで本当に開催されるのかバンドの公式アカウントを随時チェックしていたのだが、そんな心配をよそにこの日は無事に開催。一応同じツアー内であるためにここまでに参加した2公演のライブレポは以下から。
千葉LOOK(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1165.html?sp)
Zepp DiverCity(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1180.html?sp)
平日とはいえさすがにこの規模だと超満員の渋谷CLUB QUATTRO(当日券も出ていたが、これ以上どこにいれるのかというくらいの満員っぷりである)の場内が19時を迎えたあたりで暗転しておなじみのXTCのSEが流れてメンバー3人がステージに登場すると、客席からは長くて鳴り止まないんじゃないかと思うくらいの長さと大きさの拍手と歓声が起こる。近年(特にコロナ禍以降)はその観客の想いが顕著に伝わる形になっているのだが、この日のそれは札幌が中止になってしまったからこその、小出に、バンドに待っていことを伝えるかのようですらある。そのファンの思いの強さに早くもグッときてしまっていたし、それはメンバーが楽器を持って堀之内大介のドラムセットの前に集まる通称「堀之内会議」まで続いていた。
そうして昨年リリースの最新シングルにして、ベボベの終わりなき青春バンドであることを爽やかなギターロックというベボベのシグネチャーサウンドで響かせる「海になりたい part.3」からスタートし、「GIRLFRIEND」ではイントロのキメのリズムに合わせて観客が「オイ!」と声を上げ、小出がこの曲において重要なメインリフを弾きながらボーカルをするという形になっているのはすでに見ているこのツアーのライブと変わらないのであるが、やはりどこかこれまでに見た2公演よりも固さを感じる。それは小出の表情から最も感じられるというくらいに、堀之内と関根史織(ベース)は笑顔であるが、そこには小出の「ライブを飛ばしてしまった」という悔いのようなものが滲み出ていたような気もしている。
しかし延期になった理由が「喉の不調」だったことから、歌唱がどうなのかと懸念していたが、思ったよりもはるかに小出はいつも通りと言っていいくらいに歌えていた。それは最初の挨拶的なMCで
小出「喉は良くなったんですけど、まだ鼻の調子が治りきってなくて。だから今日はいつもよりもスイートな僕のボーカルを堪能してもらえればと。スイートだろ〜?(笑)」
堀之内「ワイルドだろ〜?みたいに言うな!(笑)」
と言っていたことからも窺えるし、だからこそこの日はこうして開催することにしたのだろうが、このツアーについて
小出「去年は武道館に向けてっていうところでやってきましたけど、このツアーは特にリリースとかがあってのものじゃないから、何やってもいいツアーになってる。だから去年はみんな「BREEEEZE GIRL」始まったらとりあえず惰性で腕を上げるみたいな感じだったけど(笑)、今日は惰性じゃない楽しみ方ができるはずです(笑)」
堀之内「あれ惰性だったのかよ!(笑)」
と内容を実に簡潔かつユーモラスに説明するというのは完全にいつものベボベのライブである。
そんな小出のシャープなギターリフがイントロから響く「いまは僕の目を見て」、サビでの小出のファルセットボーカルがいつも以上にスイートに響き渡る「Shine On You Cypress Girl」、そしてこのツアーの最大の驚きの選曲の一つである、ベボベの持つ重さを持ったグルーヴが最大限に発揮されている「透明26時」という流れはツアー内では不動であるが、おそらくはこのツアーを終えたら聴けることは当分ないであろうものだ。(特に「Shine On〜」と「透明26時」はツアー初日にメンバーも「めちゃくちゃ久しぶりにやる」と言っていたし)
そんな曲を3人になった今のベボベでの演奏で聴ける幸せを噛み締めていると、Aメロで観客が手拍子をし、関根のキャッチーなコーラスが響く「愛してる」が「やっぱり今聴いてもめちゃくちゃ良い曲だよな」と思えるのであるが、そんな中でも小出は
「ちょっと鼻水が止まらなくて、鼻をかみたいんだけど、鼻をかむ音が聞こえるのって恥ずかしいじゃん?だからトイレの音姫みたいな感じで、鼻をかんでる時に堀之内さん音を何かしら鳴らしてもらっていいですか?」
と言って堀之内がエイトビートのドラムを叩いている間に小出が鼻をかみ、さらには水分補給までするという「音殿」が発動するのであるが、これに小出は計り知れない手応えを感じたようで、
「これ特許取ろう!(笑)これからステージでこういうことをするバンドは我々に許可を取りに来い!(笑)」
と「音殿」を特許申請しようとするのであるが、そのやりとりのツッコミの声がやたらとデカい堀之内について小出は
「僕らのマイクのレベルが8くらいだとしたら、堀之内さんのは4くらいにしておくんですけど、それだと僕と関根の声より大きくなっちゃうから、最終的に2くらいにしてる(笑)
なんでそんな声大きいのにボーカルやらなかったの?」
と聞くと
「あなたと一緒にバンドやってるからですよ!(笑)」
と返すのであるが、そこには面白いだけではなくて堀之内からの小出のボーカルへの信頼を確かに感じさせた。堀之内は
「俺がボーカルやっても売れねぇよ!(笑)
だからフー・ファイターズのデイヴ・グロールとか、VOLA & THE ORIENTAL MACHINEやってるアヒト・イナザワさんとか、ドラムからボーカルに転向って凄いなと思いますよ」
と続けるのであるが、そのトークすらもはやマイクを通さずに客席に聴こえているというのはQUATTROという今のベボベにとっては小さめ(メジャーデビューアルバム「C」のリリースツアーファイナルがこの会場だった)の規模であることを差し引いても、やはり素晴らしい声量である。それが1番生きるのは今のところこうしたMCであるけれど。
そんな爆笑のMCもいつもと変わらないのであるが、こちらもこのツアーでは不動の曲である「何才」でグルーヴ感のあるギターロックサウンドを響かせると、一転して今になるとシンプルにも感じられる堀之内のビートから始まり、小出が声を張り上げた歌唱で青春の情景を歌うギターロックサウンドはまさかの「東京ピラミッド」というインディーズ期の選曲。これは千葉でもDiverCityでもやっていなかっただけに驚きの選曲であったが、今のベボベがこの時期の曲をやっても懐古という感じは全くしない。今もずっとこの頃の気持ちやこの曲の情景が続いているかのような。そう思えるのはどんなことがあってもベボベが止まることなくライブをやり、リリースをして続いてきたバンドだからだろう。
個人的に今回のツアーで最も嬉しい選曲が、隠れたというにはあまりにもったいないカップリング曲である「BOYS MAY CRY」なのだが、やはり小出のカッティングから始まるイントロを聴くとこの曲をこうしてライブで聴くことができて本当に幸せだと思えるし、笑顔の堀之内もスティックでそれを後押しする間奏での手拍子が起こるのを見れるのも、ここにいる全員がこの名曲の存在を知っていると嬉しくなる。この日の状況でこの曲を聴くと、小出にも
「BOYS MAY CRY 辛かったら
俺の胸で泣いたっていいよ」
と言いたくなる。この曲を演奏しているということが自分にとってはこのツアーに何公演も参加している最大の理由と言えるかもしれない。
そんな名曲からバンドのグルーヴと関根のコーラス、さらにはサビでのギターロックというよりもブラックミュージックを取り入れたリズムに合わせた観客の手拍子というベボベの音楽の形による「どうしよう」の余韻に包まれる中で小出は再び音殿を堀之内にお願いすると、そのリズムに合わせて水をシャカシャカと振ってから、
「この前の札幌でライブを飛ばしたのは通算2回目。前も今のチームになってから名古屋を飛ばしちゃったんだけど、昔のチームの時は「今日無理だ」って言ってるくらいに体調が悪い時にもライブやってた。当日、俺が朝からめちゃくちゃ体調キツい時のライブで、メンバーのソロの時間があって。その時に一旦袖に戻って「今日無理だって!」って言ってたんだけど、終わったらチーフマネージャーが
「今日のガッツはちゃんと伝わってるから」
って言ってきて(笑)
でも俺が伝えないのはガッツじゃなくて、ちゃんと時間とお金を使って来てくれた人にそれ相応のパフォーマンスをちゃんと見せたいっていうことで。だから無理だって思う時にちゃんと休めるようになったのはいいことでもあるというか。
それで言うと、最近僕、野外でサングラスかけてるんですよ。それはカッコつけてるんじゃなくて、目が光に弱いからかけてて。だからライブ前の照明も直接目に入らないようにしてもらったりしてるんだけど、夏の野外とかだと全然前が見えなかったりするから、当時のチーフマネージャーにずっと「サングラスかけさせてくれ」って言ってたのに、「ロックバンドのボーカルがサングラスかけるなんてダメだ」みたいなこと言われて。でもその人は今○○○○を担当してて。何人サングラスかけてるんだ!っていう(場内爆笑だったが「書くな」令が出たので規制)」
と今の自分たちの環境になったからこそキツい時に休めるようになったことを語るのであるが、今の普通の企業であったらすぐに問題になりそうな事案であり、関根は当時を振り返って
「私もその時にもっとこいちゃんに寄り添えばよかったなって。こいちゃん、元気出して手羽先でも食べに行こうぜ!って」
と言うのだが、小出と堀之内には
「体調悪い時に手羽先食べたくないだろ!(笑)」
とツッコミを入れられる。ちなみに関根はお腹を壊したことが一回もないくらいに強い肉体の持ち主だという。
そうして札幌を飛ばしてしまったことで札幌に行って帰るだけになってしまったメンバーにも小出が謝ると、そうしたことも含めてベボベがこれからも旅を続けていくことを歌う「風来」を聴いていると、そうしたツアーの移動や観光などの風景が浮かんでくる。今になってバンドは3人でそうしたことができることを楽しんでいるともこの前に見た時に話していたが、そんな関係性も含めて本当に頼もしく思える。
すると小出が高速でギターをカッティングする「曖してる」ではステージ中央に出てきた関根のベースが実に重く、力強く響くファンクロックと言える曲であり、後半に向かってさらにバンドの演奏の強度が増している。つまりは堀之内も
「小出さん、あなた絶好調ですよ」
と言っていたくらいの状態にバンドとしてなれているということである。
なのでベボベの青春的なギターロックが今もなおずっと続いているものであることを示すような「DIARY KEY」の頃にはもう病み上がりであることを忘れてしまうくらいの状況になっていたが、それは最後のサビ前でやはり堀之内のリズムに合わせて手拍子をする我々の楽しさと熱さがいつもと変わらないものであったからであり、それは小出のラップ、関根と堀之内のリズムの演奏だけで凄まじいグルーヴを生み出す「PARK」においてもそうだ。音に反応して腕が勝手に上がってしまうくらいのベボベの熱いライブが確かにこの日もあった。
そしてそれが極まるのはイントロで観客が「オイ!オイ!」と叫びながら拳を振り上げまくる「yoakemae」であり、客席頭上のミラーボールも煌びやかに回る中で、この曲の音源をはるかに超える熱狂と迫力も、サビに入る瞬間の視界が一気に開けていくような感覚も全く変わっていない。いや、むしろ間違いなく進化している。これだけ聴いても飽きることなく熱狂している自分のようなファンがここにたくさんいるというのがその何よりの証拠である。
そんなライブの最後は小出が
「今日はありがとうございました、Base Ball Bearでした!」
と挨拶するや否や関根が中央に出てきてイントロの重いベースを鳴らす「Stairway Generation」。サビに入る前には小出がギターを唸らせるこの曲をライブの最後に聴くことによって、これからもベボベというバンドも、それを聴いている、見ている我々自身も「上がるしかないようだ」と思える。それをリリース時からお互いに色々あった中でも思い続けていられるということが本当に嬉しいし、心から頼もしく思えるのである。
アンコールで再びメンバー3人がステージに現れると、小出は本編で着用していたジャケットを脱いでTシャツ姿に。それがどこか本編よりも若々しさを感じさせる中で演奏されたのは、
「あたらしい朝は来るよ 僕らにも」
と、楽しいだけじゃないこともありながらもあくまで下ではなくて前を向くように歌われる「深朝」であり、この曲を聴くとまたここからライブが始まるような感じがしてくるのはこの曲がコンセプトアルバム「新呼吸」の1曲目という始まりを告げる曲であるからだが、まさかアンコールでこの曲が演奏されるとは、と思うのは千葉とDiverCityでは違う曲が演奏されていたからである。全ての公演のセトリを見ているわけではないが、こうしてアンコールでは毎回違う曲を演奏しているのかもしれないし、そうすることでメンバーも毎公演を新鮮な気持ちで行っているのかもしれない。
「アンコールありがとうございます。今年の夏はいろんなイベントにも出演しますし、7月には日比谷野音でのワンマンもございます。ここにいる皆さんとまたそこでお会いできたらと思います。その時には「BREEEEZE GIRL」も惰性じゃない感じで盛り上がってください(笑)」
とやはりユーモアを忘れることなく、毎年恒例になっているくらいに野音ライブのスケジュールが当たるのはあの場所にこのバンドが愛されているからだと思う「日比谷ノンフィクション」の開催を告知すると、最後に小出がギターを鳴らしてから歌い始めたのは、千葉とDiverCityではやはり演奏されていなかった(その2公演の最後の曲は「changes」だった)「short hair」。自分がここまでに見てきた2公演はベボベトップクラスの代表曲であり名曲であるこの曲が演奏されなくても成立していたものだった。でもやっぱりこの曲を聴くことができるのが本当に嬉しいのは、もう10年以上前にリリースされたこの曲がいつ聴いても全く色褪せることがない、いつの時代においても青春の曲でありながら、変わり続けるベボベを変わらずに見ていたいと思うからだ。最後にステージで
「ありがとうございました!」
とやはり生声で叫んでからステージを去った堀之内は、体は大きくなったし、もう父親になったけれど「C」のツアーファイナルでこのQUATTROで見た時からずっと変わらないようにも感じていた。
小出も告知していた通りに、7月には日比谷野音で恒例の「日比谷ノンフィクション」も開催される。それはベボベがやはり止まることのないバンドであることを示すライブであり、きっと今年も太陽神バンド伝説を継続する景色を見せてくれるんだろうなと楽しみになる。何よりもこの日、小出が元気であることを祝い合った人たちがまたみんなそこで集まれるというのが本当に嬉しいのである。
1.海になりたい part.3
2.GIRL FRIEND
3.いまは僕の目を見て
4.Shine On You Cypress Girl
5.透明26時
6.愛してる
7.何才
8.東京ピラミッド
9.BOYS MAY CRY
10.どうしよう
11.風来
12.曖してる
13.DIARY KEY
14.PARK
15.yoakemae
16.Stairway Generation
encore
17.深朝
18.short hair