マカロニえんぴつ 「マカロックツアーvol.15 〜あやかりたい!煌めきビューチフルセッション編〜」 ゲスト:ユニコーン @Zepp DiverCity 5/19
- 2023/05/20
- 21:41
今年1月にマカロニえんぴつがさいたまスーパーアリーナでワンマンを行った際のエンディングで、今回のワンマンと対バンが入り混じるツアーの開催が発表された。そのスケジュールを見た時に「この日だけは絶対に行きたい」と思った。それがこの日のZepp DiverCityでの対バンライブ。マカロニえんぴつのワンマンよりも曲数が少ないのがわかっている対バンに行きたいと思ったのは、そのさいたまスーパーアリーナでも「ただただユニコーンになりたかった」とはっとりが憧れを口にしていた、ユニコーンとの対バンだからである。その思いの強さを知っているからこそ、この日だけは絶対に観たいと思ったのだ。
雨が強く降る中でZepp DiverCityに到着すると、やはりユニコーンとの対バンということでか、いつものマカロニえんぴつのワンマンよりも客層が幅広い感が強い。ユニコーンリアルタイムのファンの方々がこうして今でもライブハウスでのライブに足を運んでいるというのが実に心強く感じる。
・ユニコーン
早めの開演時間である18時30分になると場内が暗転し、歓声が上がるとともにユニコーンの物販の光る指輪的なアイテムも光る中で、ハードロックなSEが流れて、おそろいのツナギを着たユニコーンの5人がステージに。EBI(ベース)は泳ぐような仕草で立ち位置までたどり着き、川西幸一(ドラム)はセットに座るとスティックを振りかざすというやる気っぷりである。
髪型がアフロからだいぶ落ち着いたものになった奥田民生(ボーカル&ギター)と、髪色が最近おなじみの赤に染まりながらギターを持っているABEDON(キーボード&ギター)が向かい合いながら爽やかなイントロを鳴らすといきなり大歓声が起こったのは問答無用の大名曲「すばらしい日々」であるのだが、サビでたくさんの腕が上がる光景はまるでユニコーン側のワンマンに来たかのように全くアウェー感がない。ユニコーンを見たくて来た人がいるのはもちろん、マカロニえんぴつのファンもはっとりの影響もあってユニコーンの音楽を聴いているのがよくわかる。何よりももう30年も前の曲でありながらも全く色褪せることがないのは、メンバーの鳴らしている音に現役感しかないからであろう。
奥田民生は1曲目から
「ありがとうー!」
と曲中で叫びながら、ABEDONの前に置かれたカッコーの泣く時計が動くのも含めて実にユニコーンらしいシュールさが歌詞に現れている「OH! MY RADIO」と、解散前の名曲も再結成後の名曲も全く違和感なく並んでいる。それは最年長でありアニキ的なメンバーである川西のパワフル過ぎるドラムによって貫かれているものでもあると思う。EBIの見た目の若々しさもそうであるが、マジで変わらな過ぎるなと思うくらいの鉄人・超人っぷりである。
そんなメンバーたちを奥田民生は
「ギター、手島優!
ベース、堀内孝雄!
ドラム、西川きよし師匠!
キーボード、ポール・ウェラー!」
と、何故かABEDON以外は苗字をもじったいじりで紹介してメンバー自身も笑う中、じっくりとユニコーンの重厚なサウンドを味合わせてくれる「エコー」あたりでは手嶋いさむ(ギター)のめちゃくちゃ簡単に弾いているように見えてテクニカル極まりないギターが炸裂し、ABEDONがピアノを弾きながら歌う「青十紅」では歌詞に合わせてステージを照らす照明が青や赤に変わるという演出もありながら、メンバーそれぞれの強い個性をしっかりと見せてくれる。そんなバラバラに感じられる要素が合わさることでユニコーンというバンドになるというバランスはやはりこのバンドが奇跡的な存在であると実感させてくれる。
曲間でマイクスタンドがステージ前真ん中に置かれると、そこに飛び出して来たのは本来の立ち位置は手島の後ろであるEBIであり、タイトルからして「ウエストサイドストーリー」のオマージュであり、サウンドもブギーな「西の外れの物語」を歌うのであるが、ABEDONやEBIが当たり前のようにメインボーカルを取る曲があり、全員が歌えて全員が曲を作れるというスタイルはそのままマカロニえんぴつに受け継がれているものである。EBIは
「昨日10代の子と話す機会があったんだけど、「明日マカロニえんぴつと一緒にライブするんだ」って言ったら「凄ーい!」って言われました!」
と、どこか不純な感じがしなくもないエピソードを口にしていたけれど。
そんなEBIが自身の立ち位置に戻ってから曲タイトルをコールし、奥田民生が歌う中でそのEBIが車のパーツ名(正式名称がわからないものをわからないなりに口にするのが何度聞いても面白い)を叫ぶ「スペースカーボーイズ」へと続くあたりはアルバムとしては最新作である「ツイス島&シャウ島」の流れであるが、昨年のLove Music Fes(その時もマカロニえんぴつと一緒に出ていた)ではまだそのアルバムモード的なセトリだったのはこの日はだいぶ変化してきている。手島のタッピングが冴え渡りまくるあたりは全く変わらないけれど。
この日のライブをおニューの厚底ランニングシューズ着用で臨んでいるABEDONが軽やかにステージを飛び回るようにしてフライングVを持って(直接的な影響源ではないが、マカロニえんぴつの田辺由明同様にポップな曲の中でフライングVのロックな音を鳴らすというスタイルは共通している)、矢沢永吉よろしくな白いマイクスタンドを見事に捌きながら歌う「Boys & Girls」ではABEDONもピックを客席に投げ込む中、奥田民生はABEDONのギターアンプの上に置かれた大小のぐでたまのぬいぐるみの小さい方を客席に投げ込むというパフォーマンスでメンバーも観客も驚かせ、笑わせてくれる。そのユーモアと演奏や音のカッコよさの両立こそがユニコーンらしさだよなと改めて思う。
すると持ち場に戻ったABEDONが
「マカえん!」
と連呼しながらシンセを鳴らし、奥田民生が筒状の楽器の音を効果音的に鳴らしたり(楽器の名前が全くわからない)、デジタルパーカッションを叩いたりすると川西のリズムもダンサブルになり、客席頭上のミラーボールまで回り出すのはユニコーンのダンスミュージック「チラーRhythm」であり、曲中には川西のコーラスというかボーカル的なパートもあるあたりがさらにこの曲の煌めくような楽しさをさらに引き上げてくれる。とはいえ1曲1曲の振れ幅があまりにも広過ぎるだけに、曲に合わせて指輪を光らせるユニコーンファンの方々はもちろん、しっかりついていくマカロニえんぴつのファンも凄い。お互いの存在へのリスペクトが確かに感じられる。
すると奥田民生がイントロのギターを弾き始めただけで歓声が上がったのは「ヒゲとボイン」であるのだが、その古臭くなりそうなワードがユニコーンが歌い鳴らすことで全くそうはならないというのは何なんだろうかと思う。それはここまでの曲に比べるとシンプルなバンドサウンドもそうであるが、何となく自分もこの歌詞の主人公の悲哀がわかるような年齢になってきたな…と久しぶりに聴くこの曲は社会人になってそれなりの年月を経た今の自分に向き合わせてくれる曲に自分の中で変わったなと思った。昔は歌詞の意味を全然理解できていなかっただけに。
再びABEDONがギターを持ってステージ前まで出てくると、奥田民生はアコギを背中に回してカウベルを叩き、手島、EBIとともにドラムセット前に集まって小芝居的な動きを見せてから始まるのはもちろん、再結成後最初の曲になった「WAO!」であり、ABEDONは手島とともにさすがのギターテクを間奏で見せつけるのであるが、
「息が続かねぇ…」
のフレーズでは再び「マカえん!マカえん!」と連呼しまくることによって息が詰まる。その姿を見ていたら、マカロニえんぴつがもう一世代くらい上だったらユニコーンがやってなかった時期にABEDONがプロデュースして師弟関係になっていて…なんてこともあったんじゃないかとすら思ってしまう。1回しか来ないのがリリース当時驚きだったサビでは観客が腕を左右に振り、手島はテクニカルなのに爽やかなタッピングを見せる。なんだかそれはこれから20年後も30年後もそうして演奏しているような気さえしている。
すると奥田民生が
「これからやる曲は、マカロニえんぴつが出てきた時にはっとりにあげた。だから我々がこれからやるのはカバーです。カバーを本物とやります!」
と言ってからステージに現れたのは、去年くらいまでのアフロヘアにメガネという奥田民生の出で立ちになり切った、マカロニえんぴつのはっとりであり(奥田民生には「今その髪型じゃないから!」と言われながらも、ちゃんとライトブルーのツナギも着ている)、その名前の由来となった曲である「服部」を奥田民生とボーカルを分け合うようにして歌うのであるが、何度かこの曲でコラボしているというのもあるからか、はっとりは奥田民生が言う通りに完全にこの曲を自分のものにしているくらいのレベルで歌いこなしている。奥田民生が歌う場面ではスターを称えるような仕草を見せたり、あるいはABEDONと向かい合いながら歌ったり。このコラボでの「服部」は完全に、無敵のはっとりそのものであった。それくらいに1人の男の夢が叶っている瞬間を我々は見ていたのだ。
「大迷惑っていう名前のボーカリストが出てきたら「大迷惑」をそいつにあげるから(笑)その日まで頑張ります(笑)」
と奥田民生がそんなコラボの後に言ってから最後に演奏されたのは、2009年にユニコーンが再結成した時にロッキンの大トリで本編最後に演奏されていた光景が今でも忘れられない、ABEDONのデジタルボーカルも交えながらもロックバンドとしての重厚なサウンドを響かせる「HELLO」。
「加速せよ
タイムマシーン
君に会いにゆく」
「そう君が 泣いていた あの頃に もう一度 会いたくて
まだ君が 元気だった あの頃に 言いたくて」
というフレーズの数々が、ユニコーンが時を超えて我々に会うためにまた戻ってきた感慨を何度だって甦らせてくれる。はっとりの憧れは今もまだカッコいいロックバンドであり続けている。それを本人の前で示してくれているかのようだった。
はっとりもそうだと思うが、自分は世代的に解散する前のユニコーンを見たことがない。ユニコーンを知った時にはすでにバンドは解散していて、奥田民生はソロで数々のヒット曲を生み出しながら「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」の釣り会に毎回出演したり、浜田雅功に曲を提供していて、川西は同じ時代を駆け抜けてきた盟友であるJUN SKY WALKER(S)の宮田和弥の新バンドのジェット機のメンバーであり、ABEDONを名乗る前の阿部義晴は氣志團のプロデューサーだった。
それぞれがそれぞれの場所で確固たる位置を築いていたからこそ、また全員で集まってユニコーンをやるなんて自分は全く想像してなかった。永遠にライブを見ることはない伝説のバンドだと思っていた。
そんなバンドが再結成してからずっとこうしてライブをやり続けている。そんな幸せをこれから先もずっと味わっていたいし、それはジュンスカや筋肉少女帯もそう。そんなバンドたちがみんな戻ってきて今も元気に活動しているのを見ると、一度止まってしまってもまた走り続けているその姿は誰かがこの世を生きていく大いなる力になっていると思える。この日たくさんいたユニコーンのファンの方々を見てそんなことを思っていた。
1.すばらしい日々
2.OH! MY RADIO
3.エコー
4.青十紅
5.西の外れの物語
6.スペースカーボーイズ
7.Boys & Girls
8.チラーRhythm
9.ヒゲとボイン
10.WAO!
11.服部 w/はっとり
12.HELLO
・マカロニえんぴつ
そんなはっとりの夢のような、自分たちのツアーのゲストにユニコーンが出て、そのライブを見て、コラボまでした後のマカロニえんぴつ。それだけに並々ならぬ気合いが漲っていると思われるが、それこそがツアーファイナルであるこの日にふさわしい感情であるとも言える。
おなじみのビートルズ「Mr.Bulldog」のSEでメンバーそれぞれがバンドのタオルを掲げながらステージに現れると、さすがにはっとり(ボーカル&ギター)も先ほどの奥田民生のコスプレ的な出で立ちから、いつものマカロニえんぴつでの姿に戻る中、試合開始を告げるサイレンの音が響き渡ってスタートしたのは、センバツ高校野球のテーマソングであり、3月リリースの最新ミニアルバム「wheel of life」の始まりを告げる曲でもある「PLAY.」。その青春の情景を描いた爽やかなサウンドはかつて阪神タイガースの今岡誠に憧れて野球をやっていた(バンドの10周年記念ムック本でもメンバー、スタッフと野球チームを作って試合をしている)はっとりにふさわしいものであるし、やはり試合が始まったばかりの選手のようにメンバーの演奏する音から気合いが溢れ出まくっている。それは自分たちの原点と言えるようなバンドのライブを見た直後だからだろう。
すると長谷川大喜(キーボード)によるキャッチーなイントロで歓声を上げた観客がリズムに合わせて手拍子する「レモンパイ」ではキャッチーなメロディとサウンドの中で田辺のハードロック由来の泣きのギターが響き渡る。もはやサポートの域を超える活躍をライブでも音源でも見せてくれている高浦"suzzy"充孝(ドラム)のコーラスも完全にバンドにとって欠かすことのできないものである。
「お台場、眺めがいいね!」
とはっとりが客席を見渡してからその間奏を口にすると、その通りにやはりAメロでは高野賢也(ベース)と向き合いながら笑顔でエアベースをする長谷川のキーボードがサビに入る前のフレーズだったりと大事なところを担う「眺めがいいね」を演奏して観客が飛び跳ねるのであるが、こうして旧曲をいつも以上にセトリに入れることができるのはアルバムツアーじゃないからだが、やはりこの曲の「眺め」と「長め」を掛けた歌詞ははっとりが初期の頃からすでに素晴らしいメロディメーカーであり作詞家であったことを示してくれている。
「マカロニえんぴつのライブって若い人が多いから…って気後してる人もいるだろうけど、ライブにおいてはおじさん、奥さん、あなたの方がベテランですから。バンドブームを実際に体験してきた人たちでしょう?それなら若い人たちに楽しみ方を教えてあげてください。
若い人は隣とかで年上の人がキツそうにしてたら助けてあげてね。そうやってみんなでこの特別な1日を作り上げていきましょう」
とはっとりが観客にライブにおける楽しみ方や相互扶助精神について伝えると、
「そんな皆さまも日々お国のため、自分のために頑張って働いていることと思いますので」
と言って長谷川がムーディーなピアノのイントロを弾く中ではっとりが音に合わせて踊り出し、しかも田辺と手を繋いでフォークダンスのような踊りすらするのであるが、実に久しぶりなこの曲はサウンドこそ全く違うものの、ユニコーン「働く男」へのアンサーソングであるためにこうしてこの日に演奏されたのだろう。そうした選曲からもはっとりのユニコーンへのリスペクトを感じることができる。
夕日を思わせるようなオレンジ色の照明がメンバーを照らし出すのが曲の持つ切なさを増幅させながらも、やはりライブハウスということでアリーナの時のように映像などを使うという演出はなく、ひたすらにメンバーの演奏が主役であるということをそのストレート極まりないタイトルによっても感じさせてくれる「MUSIC」から、長谷川のシンセのサウンドによって始まると予想できないようにパートごとに大きく展開していく、マカロニえんぴつによるプログレ絵巻とでもいうべき「TIME.」と続くのであるが、サビにミニアルバムのタイトルである「wheel of life」というフレーズが出てくることによって今回のライブがこのミニアルバムのリリースによるものだということが改めてわかるし、こんなに複雑な曲をしっかりライブでのものとして演奏できるというのはマカロニえんぴつのメンバーの演奏技術の高さがあってこそだろう。
田辺と高野のカウントによって長谷川のシンセによるオーケストラサウンドが流れるのはもちろん大ヒット曲「恋人ごっこ」であるのだが、曲最後の
「もう一度あなたといられるのなら」
のフレーズからの背後から光が射しているかのような照明、はっとりの実に力強い歌唱とメンバーの演奏はいつも以上にこの曲から「ロック」という感覚を感じた。それはユニコーンがそうであったように、世間からはポップなバンドとして見られているかもしれないけれど、バンドの核には確かにロックが最も大きく存在しているということをしっかり伝えるかのように。そんな気合いが確かに音に乗り移っていたのである。
そんな気合いを見せたはっとりがユニコーンを
「前座として出ていただいて…」
と言うと観客から「え〜!」という声も上がる中でメンバー紹介へ。こうした時に奥田民生のようにユーモラスにメンバーを紹介できないというあたりが課題であるようだが、音楽性だけではなく人間性的にもユニコーンから多大な影響を受けていることがわかるし、前日は自身を紹介するのを忘れていたと言いながら、
「東京に出てきて新しくバンドを始める時に、次のバンドはユニコーンみたいなバンドをやりたいと思ってキーボードの大ちゃんを誘った。こんな日が来たらもう死んでもいいと思っていたけれど、でもまだまだ死ねない」
とやはりこの日が自身にとってどんなライブよりも夢見ていたものであることを語ると、そんな生きることと死ぬことをテーマにした「リンジュー・ラブ」へと繋がっていく。長谷川のシンセ、高野のシンセベースというサウンドによって始まり、曲が進むにつれてバンドサウンドが強くなっていくことによって生まれるスケールの大きさはやはりこの演奏ができるメンバーが揃ったマカロニえんぴつだからこそできることである。さいたまスーパーアリーナの時は新曲として確かめるようにして聴いていた曲が、今は完全にバンドのものになっている。それはこのツアーはもちろん、春フェスなどにも出演し、実はひたすらにライブをやりまくって生きてきたバンドだからこそ得られたものだ。
そんなバンドサウンドの強さを改めて示すのはテンポこそゆったりとしたものであるがサウンドは重厚な「幸せやそれに似たもの」であるのだが、そのタイトルは夢が叶ったと言えるこの日だからこそより感じられるものがあるし、はっとりの歌唱も上手いながらもそれ以上に言葉の一つ一つに感情を思いっきり込めるようにして歌っていた。それが本当にはっとりが、メンバーが幸せを噛み締めているということを伝えてくれるし、そんな姿が見ているこちらをも幸せにしてくれる。必ず夢は叶うなんてことは全くないけれど、それでも思いの強さを信じ続けていればそんな未来を自分で作ることができるということを示してくれているかのような。
するとマカロニえんぴつのものとは思えない派手なシンセサウンドを長谷川が鳴らして、はっとりが珍しくギターを下ろしてハンドマイクで歌い始めたのは、まさかのユニコーン「Maybe Blue」のカバー。真っ青な照明がメンバーを照らしながら演奏するその姿は本当に若い頃のユニコーンがこの曲を演奏しているんじゃないかと思うくらいの瑞々しさ。(音源では奥田民生の声が当たり前ではあるが今とだいぶ違う)
サビのみではあったが、マカロニえんぴつのユニコーンへの愛を言葉だけではなくて演奏で伝えるようなこのパフォーマンスが、ユニコーンファンの方々にはどう感じられたのだろうか。本当に若い頃のユニコーンを見ているようだったと思っていてくれていたら最高だなと、この曲のリアルタイムを知らない世代として思っていた。
そしてクライマックスへ向かうべく、長谷川と高野がステージではしゃぎ回る「洗濯機と君とラヂオ」ではユニコーンファンの方々も含めてたくさんの腕が上がるのであるが、観客が声を出せるようになったことによって、曲中にも
「そんなもんですか?」「まだまだ行けますか?」
と観客を煽るようにしていたはっとりはサビでマイクの前を離れるようにすると観客の大合唱を巻き起こし、それはイントロで切ないライブならではのアレンジが追加されている「ワンドリンク別」でのタイトルフレーズの大合唱もそうなのであるが、この曲たちがこうしてライブハウスで性急なテンポで演奏されているのを見ると、今ではアリーナでライブをやったりテレビで見ることも増えているが、やっぱりマカロニえんぴつはこうしてライブハウスから始まって、ライブハウスで力を磨いてきたバンドであるということがわかる。それくらいに音もステージ上での姿も躍動感に満ちている。
そんな躍動感とスケールの大きさを同時に感じさせてくれるのは、はっとりが気合いを入れるようにしてから演奏された「星が泳ぐ」であるのだが、このライブハウス全体が星空に包まれるかのようなサウンドがライブハウスからはじまりながらもライブハウスを超えるバンドになった今のマカロニえんぴつのスケールを感じさせてくれる。そのあまりの感情を込めた演奏に体が震えるくらいに過去最高の「星が泳ぐ」だったのは、間違いなくこの日がバンドにとっての夢が叶った瞬間だったからだろう。「Maybe Blue」の演奏からもわかるように、この日ははっとりの夢でもありながらバンドの夢でもあるからだ。
そんなはっとりは前日にここで喋りすぎてしまったからか、
「今日は短めに。バカらしいこと、笑われるようなことから信じてあげてください。1人で信じられないのならば、周りにいる人と一緒に信じてあげてください」
とだけ伝える。それはきっとはっとり自身がユニコーンに憧れてきたことによってバカにされたり笑われたりしてきたことがあって、それでもこうしてその夢を叶えることができた実感があるからだろう。だからこそそこには強い説得力が宿っているのであるし、誰しもに「自分にもまだ出来ることがあるんじゃないか」と思わせてくれるのである。
そうした言葉の後に演奏されたのはこの日は「ヤングアダルト」だった。他の日のセトリを見ていないのだけれど、この日この曲を演奏したのは
「ハロー、絶望
その足でちゃんと立ってるかい?
無理にデタラメにしなくてもいいんだぜ
僕らに足りないのはいつだって
才能じゃなくって愛情なんだけどな」
というフレーズがかつてのユニコーンに憧れ続けたはっとり少年の心境そのものであり、
「夜を越えるための唄が死なないように
手首からもう涙が溢れないように」
というフレーズの通りにはっとりがユニコーンの唄を聴いて越えなくてはいけない夜を越えてきたということがわかるからだ。その見事過ぎるくらいに感情を揺さぶる歌唱を聴いて、憧れの存在とちゃんと並んだなんだなと思った。はっとりからしたらそんな感覚はないかもしれないけれど、自分は見ていて確かにそう感じていた。信じることで、続けてきたことでそこまでたどり着いたということを。
アンコールではメンバーがツアーTシャツに着替えてから登場し、長谷川がイントロのピアノを弾くことによって歓声が起こった「なんでもないよ、」というここまで演奏されていなかった必殺の曲が演奏される。
「会いたいとかね、そばに居たいとかね、守りたいとか
そんなんじゃなくて ただ僕より先に死なないでほしい
そんなんでもなくて、ああ、やめときゃよかったな
「何でもないよ」なんでもないよ、」
という歌詞がこの日は我々に向けてであり、また奥田民生を中心としたユニコーンのメンバーに向けて歌われているかのように聞こえた。でも奥田民生はフジファブリックの志村正彦が亡くなったことが発表された日のミュージックステーションで見たことがないくらいに悲しい顔をしていた。それだけに全員が最後までその人生を全うして欲しいと思う。この日の「なんでもないよ、」は単なる男女のラブソングではなくて、親しい人たち、大切な人たち全員に向けたものとして響いていた。
「満足できましたか?」
とそんな必殺曲を演奏した後にはっとりが観客に問いかけると、観客から
「まだー!」
という声が返ってきたことによって、
「奇遇ですね、我々もです」
と言ってステージになんとユニコーンのメンバー全員を招く。ライブ中と同じツナギ姿であるのだが、違うのはメンバー全員がハンドマイクを持っていることであり、ステージに出てきても5人で固まってずっと話をしているとはっとりから
「よろしいでしょうか?(笑)」
と声をかけられてようやくステージ前に並ぶというあたりが、今のユニコーンは本当に仲が良いということを感じさせてくれるのだが、はっとりがアコギを持って
「僕が1番好きなユニコーンの曲を皆さんと一緒に歌わせていただきます!」
と言って演奏されたのが「開店休業」という、いわゆる大ヒットシングルという曲ではないあたりが実にはっとりらしいチョイスであるのだが、ユニコーンのメンバー全員がマイクを持っているということはつまり5人のマイクリレーになるということで、しかも川西の割り振りがやたらと多くなっていたのは何かしらの狙いがあったのかもしれないが、マカロニえんぴつの中で1人ボーカルに加わったはっとりは自分たちが演奏するユニコーンの曲でユニコーンのメンバーが歌っているというこの光景をどう見ていたのだろうか。とにかくこの幸せを今回限りではなくてこれから何回でもはっとりに味わって欲しいし、我々にも味合わせて欲しいと思ったのである。
演奏が終わるとステージを去ろうとするユニコーンメンバーたちを呼び止めて、客席を背景にした写真撮影。実は今回のツアーでは他の日には撮影していなかったらしいが、それはやはりこのユニコーンのメンバーと同じステージにいるということを記憶だけではなくて記録としても残しておきたかったのだろう。その日に居合わせることができたのが本当に幸せだと思えるのは、メンバーの幸せという感情が溢れ出していたからだ。
それぞれ実は音楽的なルーツは違うメンバーたちであるが、それでもはっとりの夢はマカロニえんぴつというバンドとしての夢だ。もしマイケル・シェンカーグループと対バンする日が来ることがあれば、それは田辺の夢でもあり、やはりバンドの夢にもなる。その意識をバンドは「僕らは夢の中」で歌ってきたから。それはやめなきゃ続くものなのである。
この日はきっとはっとりにとってはどんなに大きな会場でライブをやるよりも目指していたものであり、実際にやれたことによって大事なものになったであろう日。あこがれを自分たちの力ですぐ隣にまで引き寄せた日だったのだから。
1. PLAY.
2.レモンパイ
3.眺めがいいね
4.働く女
5.MUSIC
6.TIME.
7.恋人ごっこ
8.リンジュー・ラブ
9.幸せやそれに似たもの
10.Maybe Blue
11.洗濯機と君とラヂオ
12.ワンドリンク別
13.星が泳ぐ
14.ヤングアダルト
encore
15.なんでもないよ、
16.開店休業 w/ ユニコーン
雨が強く降る中でZepp DiverCityに到着すると、やはりユニコーンとの対バンということでか、いつものマカロニえんぴつのワンマンよりも客層が幅広い感が強い。ユニコーンリアルタイムのファンの方々がこうして今でもライブハウスでのライブに足を運んでいるというのが実に心強く感じる。
・ユニコーン
早めの開演時間である18時30分になると場内が暗転し、歓声が上がるとともにユニコーンの物販の光る指輪的なアイテムも光る中で、ハードロックなSEが流れて、おそろいのツナギを着たユニコーンの5人がステージに。EBI(ベース)は泳ぐような仕草で立ち位置までたどり着き、川西幸一(ドラム)はセットに座るとスティックを振りかざすというやる気っぷりである。
髪型がアフロからだいぶ落ち着いたものになった奥田民生(ボーカル&ギター)と、髪色が最近おなじみの赤に染まりながらギターを持っているABEDON(キーボード&ギター)が向かい合いながら爽やかなイントロを鳴らすといきなり大歓声が起こったのは問答無用の大名曲「すばらしい日々」であるのだが、サビでたくさんの腕が上がる光景はまるでユニコーン側のワンマンに来たかのように全くアウェー感がない。ユニコーンを見たくて来た人がいるのはもちろん、マカロニえんぴつのファンもはっとりの影響もあってユニコーンの音楽を聴いているのがよくわかる。何よりももう30年も前の曲でありながらも全く色褪せることがないのは、メンバーの鳴らしている音に現役感しかないからであろう。
奥田民生は1曲目から
「ありがとうー!」
と曲中で叫びながら、ABEDONの前に置かれたカッコーの泣く時計が動くのも含めて実にユニコーンらしいシュールさが歌詞に現れている「OH! MY RADIO」と、解散前の名曲も再結成後の名曲も全く違和感なく並んでいる。それは最年長でありアニキ的なメンバーである川西のパワフル過ぎるドラムによって貫かれているものでもあると思う。EBIの見た目の若々しさもそうであるが、マジで変わらな過ぎるなと思うくらいの鉄人・超人っぷりである。
そんなメンバーたちを奥田民生は
「ギター、手島優!
ベース、堀内孝雄!
ドラム、西川きよし師匠!
キーボード、ポール・ウェラー!」
と、何故かABEDON以外は苗字をもじったいじりで紹介してメンバー自身も笑う中、じっくりとユニコーンの重厚なサウンドを味合わせてくれる「エコー」あたりでは手嶋いさむ(ギター)のめちゃくちゃ簡単に弾いているように見えてテクニカル極まりないギターが炸裂し、ABEDONがピアノを弾きながら歌う「青十紅」では歌詞に合わせてステージを照らす照明が青や赤に変わるという演出もありながら、メンバーそれぞれの強い個性をしっかりと見せてくれる。そんなバラバラに感じられる要素が合わさることでユニコーンというバンドになるというバランスはやはりこのバンドが奇跡的な存在であると実感させてくれる。
曲間でマイクスタンドがステージ前真ん中に置かれると、そこに飛び出して来たのは本来の立ち位置は手島の後ろであるEBIであり、タイトルからして「ウエストサイドストーリー」のオマージュであり、サウンドもブギーな「西の外れの物語」を歌うのであるが、ABEDONやEBIが当たり前のようにメインボーカルを取る曲があり、全員が歌えて全員が曲を作れるというスタイルはそのままマカロニえんぴつに受け継がれているものである。EBIは
「昨日10代の子と話す機会があったんだけど、「明日マカロニえんぴつと一緒にライブするんだ」って言ったら「凄ーい!」って言われました!」
と、どこか不純な感じがしなくもないエピソードを口にしていたけれど。
そんなEBIが自身の立ち位置に戻ってから曲タイトルをコールし、奥田民生が歌う中でそのEBIが車のパーツ名(正式名称がわからないものをわからないなりに口にするのが何度聞いても面白い)を叫ぶ「スペースカーボーイズ」へと続くあたりはアルバムとしては最新作である「ツイス島&シャウ島」の流れであるが、昨年のLove Music Fes(その時もマカロニえんぴつと一緒に出ていた)ではまだそのアルバムモード的なセトリだったのはこの日はだいぶ変化してきている。手島のタッピングが冴え渡りまくるあたりは全く変わらないけれど。
この日のライブをおニューの厚底ランニングシューズ着用で臨んでいるABEDONが軽やかにステージを飛び回るようにしてフライングVを持って(直接的な影響源ではないが、マカロニえんぴつの田辺由明同様にポップな曲の中でフライングVのロックな音を鳴らすというスタイルは共通している)、矢沢永吉よろしくな白いマイクスタンドを見事に捌きながら歌う「Boys & Girls」ではABEDONもピックを客席に投げ込む中、奥田民生はABEDONのギターアンプの上に置かれた大小のぐでたまのぬいぐるみの小さい方を客席に投げ込むというパフォーマンスでメンバーも観客も驚かせ、笑わせてくれる。そのユーモアと演奏や音のカッコよさの両立こそがユニコーンらしさだよなと改めて思う。
すると持ち場に戻ったABEDONが
「マカえん!」
と連呼しながらシンセを鳴らし、奥田民生が筒状の楽器の音を効果音的に鳴らしたり(楽器の名前が全くわからない)、デジタルパーカッションを叩いたりすると川西のリズムもダンサブルになり、客席頭上のミラーボールまで回り出すのはユニコーンのダンスミュージック「チラーRhythm」であり、曲中には川西のコーラスというかボーカル的なパートもあるあたりがさらにこの曲の煌めくような楽しさをさらに引き上げてくれる。とはいえ1曲1曲の振れ幅があまりにも広過ぎるだけに、曲に合わせて指輪を光らせるユニコーンファンの方々はもちろん、しっかりついていくマカロニえんぴつのファンも凄い。お互いの存在へのリスペクトが確かに感じられる。
すると奥田民生がイントロのギターを弾き始めただけで歓声が上がったのは「ヒゲとボイン」であるのだが、その古臭くなりそうなワードがユニコーンが歌い鳴らすことで全くそうはならないというのは何なんだろうかと思う。それはここまでの曲に比べるとシンプルなバンドサウンドもそうであるが、何となく自分もこの歌詞の主人公の悲哀がわかるような年齢になってきたな…と久しぶりに聴くこの曲は社会人になってそれなりの年月を経た今の自分に向き合わせてくれる曲に自分の中で変わったなと思った。昔は歌詞の意味を全然理解できていなかっただけに。
再びABEDONがギターを持ってステージ前まで出てくると、奥田民生はアコギを背中に回してカウベルを叩き、手島、EBIとともにドラムセット前に集まって小芝居的な動きを見せてから始まるのはもちろん、再結成後最初の曲になった「WAO!」であり、ABEDONは手島とともにさすがのギターテクを間奏で見せつけるのであるが、
「息が続かねぇ…」
のフレーズでは再び「マカえん!マカえん!」と連呼しまくることによって息が詰まる。その姿を見ていたら、マカロニえんぴつがもう一世代くらい上だったらユニコーンがやってなかった時期にABEDONがプロデュースして師弟関係になっていて…なんてこともあったんじゃないかとすら思ってしまう。1回しか来ないのがリリース当時驚きだったサビでは観客が腕を左右に振り、手島はテクニカルなのに爽やかなタッピングを見せる。なんだかそれはこれから20年後も30年後もそうして演奏しているような気さえしている。
すると奥田民生が
「これからやる曲は、マカロニえんぴつが出てきた時にはっとりにあげた。だから我々がこれからやるのはカバーです。カバーを本物とやります!」
と言ってからステージに現れたのは、去年くらいまでのアフロヘアにメガネという奥田民生の出で立ちになり切った、マカロニえんぴつのはっとりであり(奥田民生には「今その髪型じゃないから!」と言われながらも、ちゃんとライトブルーのツナギも着ている)、その名前の由来となった曲である「服部」を奥田民生とボーカルを分け合うようにして歌うのであるが、何度かこの曲でコラボしているというのもあるからか、はっとりは奥田民生が言う通りに完全にこの曲を自分のものにしているくらいのレベルで歌いこなしている。奥田民生が歌う場面ではスターを称えるような仕草を見せたり、あるいはABEDONと向かい合いながら歌ったり。このコラボでの「服部」は完全に、無敵のはっとりそのものであった。それくらいに1人の男の夢が叶っている瞬間を我々は見ていたのだ。
「大迷惑っていう名前のボーカリストが出てきたら「大迷惑」をそいつにあげるから(笑)その日まで頑張ります(笑)」
と奥田民生がそんなコラボの後に言ってから最後に演奏されたのは、2009年にユニコーンが再結成した時にロッキンの大トリで本編最後に演奏されていた光景が今でも忘れられない、ABEDONのデジタルボーカルも交えながらもロックバンドとしての重厚なサウンドを響かせる「HELLO」。
「加速せよ
タイムマシーン
君に会いにゆく」
「そう君が 泣いていた あの頃に もう一度 会いたくて
まだ君が 元気だった あの頃に 言いたくて」
というフレーズの数々が、ユニコーンが時を超えて我々に会うためにまた戻ってきた感慨を何度だって甦らせてくれる。はっとりの憧れは今もまだカッコいいロックバンドであり続けている。それを本人の前で示してくれているかのようだった。
はっとりもそうだと思うが、自分は世代的に解散する前のユニコーンを見たことがない。ユニコーンを知った時にはすでにバンドは解散していて、奥田民生はソロで数々のヒット曲を生み出しながら「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」の釣り会に毎回出演したり、浜田雅功に曲を提供していて、川西は同じ時代を駆け抜けてきた盟友であるJUN SKY WALKER(S)の宮田和弥の新バンドのジェット機のメンバーであり、ABEDONを名乗る前の阿部義晴は氣志團のプロデューサーだった。
それぞれがそれぞれの場所で確固たる位置を築いていたからこそ、また全員で集まってユニコーンをやるなんて自分は全く想像してなかった。永遠にライブを見ることはない伝説のバンドだと思っていた。
そんなバンドが再結成してからずっとこうしてライブをやり続けている。そんな幸せをこれから先もずっと味わっていたいし、それはジュンスカや筋肉少女帯もそう。そんなバンドたちがみんな戻ってきて今も元気に活動しているのを見ると、一度止まってしまってもまた走り続けているその姿は誰かがこの世を生きていく大いなる力になっていると思える。この日たくさんいたユニコーンのファンの方々を見てそんなことを思っていた。
1.すばらしい日々
2.OH! MY RADIO
3.エコー
4.青十紅
5.西の外れの物語
6.スペースカーボーイズ
7.Boys & Girls
8.チラーRhythm
9.ヒゲとボイン
10.WAO!
11.服部 w/はっとり
12.HELLO
・マカロニえんぴつ
そんなはっとりの夢のような、自分たちのツアーのゲストにユニコーンが出て、そのライブを見て、コラボまでした後のマカロニえんぴつ。それだけに並々ならぬ気合いが漲っていると思われるが、それこそがツアーファイナルであるこの日にふさわしい感情であるとも言える。
おなじみのビートルズ「Mr.Bulldog」のSEでメンバーそれぞれがバンドのタオルを掲げながらステージに現れると、さすがにはっとり(ボーカル&ギター)も先ほどの奥田民生のコスプレ的な出で立ちから、いつものマカロニえんぴつでの姿に戻る中、試合開始を告げるサイレンの音が響き渡ってスタートしたのは、センバツ高校野球のテーマソングであり、3月リリースの最新ミニアルバム「wheel of life」の始まりを告げる曲でもある「PLAY.」。その青春の情景を描いた爽やかなサウンドはかつて阪神タイガースの今岡誠に憧れて野球をやっていた(バンドの10周年記念ムック本でもメンバー、スタッフと野球チームを作って試合をしている)はっとりにふさわしいものであるし、やはり試合が始まったばかりの選手のようにメンバーの演奏する音から気合いが溢れ出まくっている。それは自分たちの原点と言えるようなバンドのライブを見た直後だからだろう。
すると長谷川大喜(キーボード)によるキャッチーなイントロで歓声を上げた観客がリズムに合わせて手拍子する「レモンパイ」ではキャッチーなメロディとサウンドの中で田辺のハードロック由来の泣きのギターが響き渡る。もはやサポートの域を超える活躍をライブでも音源でも見せてくれている高浦"suzzy"充孝(ドラム)のコーラスも完全にバンドにとって欠かすことのできないものである。
「お台場、眺めがいいね!」
とはっとりが客席を見渡してからその間奏を口にすると、その通りにやはりAメロでは高野賢也(ベース)と向き合いながら笑顔でエアベースをする長谷川のキーボードがサビに入る前のフレーズだったりと大事なところを担う「眺めがいいね」を演奏して観客が飛び跳ねるのであるが、こうして旧曲をいつも以上にセトリに入れることができるのはアルバムツアーじゃないからだが、やはりこの曲の「眺め」と「長め」を掛けた歌詞ははっとりが初期の頃からすでに素晴らしいメロディメーカーであり作詞家であったことを示してくれている。
「マカロニえんぴつのライブって若い人が多いから…って気後してる人もいるだろうけど、ライブにおいてはおじさん、奥さん、あなたの方がベテランですから。バンドブームを実際に体験してきた人たちでしょう?それなら若い人たちに楽しみ方を教えてあげてください。
若い人は隣とかで年上の人がキツそうにしてたら助けてあげてね。そうやってみんなでこの特別な1日を作り上げていきましょう」
とはっとりが観客にライブにおける楽しみ方や相互扶助精神について伝えると、
「そんな皆さまも日々お国のため、自分のために頑張って働いていることと思いますので」
と言って長谷川がムーディーなピアノのイントロを弾く中ではっとりが音に合わせて踊り出し、しかも田辺と手を繋いでフォークダンスのような踊りすらするのであるが、実に久しぶりなこの曲はサウンドこそ全く違うものの、ユニコーン「働く男」へのアンサーソングであるためにこうしてこの日に演奏されたのだろう。そうした選曲からもはっとりのユニコーンへのリスペクトを感じることができる。
夕日を思わせるようなオレンジ色の照明がメンバーを照らし出すのが曲の持つ切なさを増幅させながらも、やはりライブハウスということでアリーナの時のように映像などを使うという演出はなく、ひたすらにメンバーの演奏が主役であるということをそのストレート極まりないタイトルによっても感じさせてくれる「MUSIC」から、長谷川のシンセのサウンドによって始まると予想できないようにパートごとに大きく展開していく、マカロニえんぴつによるプログレ絵巻とでもいうべき「TIME.」と続くのであるが、サビにミニアルバムのタイトルである「wheel of life」というフレーズが出てくることによって今回のライブがこのミニアルバムのリリースによるものだということが改めてわかるし、こんなに複雑な曲をしっかりライブでのものとして演奏できるというのはマカロニえんぴつのメンバーの演奏技術の高さがあってこそだろう。
田辺と高野のカウントによって長谷川のシンセによるオーケストラサウンドが流れるのはもちろん大ヒット曲「恋人ごっこ」であるのだが、曲最後の
「もう一度あなたといられるのなら」
のフレーズからの背後から光が射しているかのような照明、はっとりの実に力強い歌唱とメンバーの演奏はいつも以上にこの曲から「ロック」という感覚を感じた。それはユニコーンがそうであったように、世間からはポップなバンドとして見られているかもしれないけれど、バンドの核には確かにロックが最も大きく存在しているということをしっかり伝えるかのように。そんな気合いが確かに音に乗り移っていたのである。
そんな気合いを見せたはっとりがユニコーンを
「前座として出ていただいて…」
と言うと観客から「え〜!」という声も上がる中でメンバー紹介へ。こうした時に奥田民生のようにユーモラスにメンバーを紹介できないというあたりが課題であるようだが、音楽性だけではなく人間性的にもユニコーンから多大な影響を受けていることがわかるし、前日は自身を紹介するのを忘れていたと言いながら、
「東京に出てきて新しくバンドを始める時に、次のバンドはユニコーンみたいなバンドをやりたいと思ってキーボードの大ちゃんを誘った。こんな日が来たらもう死んでもいいと思っていたけれど、でもまだまだ死ねない」
とやはりこの日が自身にとってどんなライブよりも夢見ていたものであることを語ると、そんな生きることと死ぬことをテーマにした「リンジュー・ラブ」へと繋がっていく。長谷川のシンセ、高野のシンセベースというサウンドによって始まり、曲が進むにつれてバンドサウンドが強くなっていくことによって生まれるスケールの大きさはやはりこの演奏ができるメンバーが揃ったマカロニえんぴつだからこそできることである。さいたまスーパーアリーナの時は新曲として確かめるようにして聴いていた曲が、今は完全にバンドのものになっている。それはこのツアーはもちろん、春フェスなどにも出演し、実はひたすらにライブをやりまくって生きてきたバンドだからこそ得られたものだ。
そんなバンドサウンドの強さを改めて示すのはテンポこそゆったりとしたものであるがサウンドは重厚な「幸せやそれに似たもの」であるのだが、そのタイトルは夢が叶ったと言えるこの日だからこそより感じられるものがあるし、はっとりの歌唱も上手いながらもそれ以上に言葉の一つ一つに感情を思いっきり込めるようにして歌っていた。それが本当にはっとりが、メンバーが幸せを噛み締めているということを伝えてくれるし、そんな姿が見ているこちらをも幸せにしてくれる。必ず夢は叶うなんてことは全くないけれど、それでも思いの強さを信じ続けていればそんな未来を自分で作ることができるということを示してくれているかのような。
するとマカロニえんぴつのものとは思えない派手なシンセサウンドを長谷川が鳴らして、はっとりが珍しくギターを下ろしてハンドマイクで歌い始めたのは、まさかのユニコーン「Maybe Blue」のカバー。真っ青な照明がメンバーを照らしながら演奏するその姿は本当に若い頃のユニコーンがこの曲を演奏しているんじゃないかと思うくらいの瑞々しさ。(音源では奥田民生の声が当たり前ではあるが今とだいぶ違う)
サビのみではあったが、マカロニえんぴつのユニコーンへの愛を言葉だけではなくて演奏で伝えるようなこのパフォーマンスが、ユニコーンファンの方々にはどう感じられたのだろうか。本当に若い頃のユニコーンを見ているようだったと思っていてくれていたら最高だなと、この曲のリアルタイムを知らない世代として思っていた。
そしてクライマックスへ向かうべく、長谷川と高野がステージではしゃぎ回る「洗濯機と君とラヂオ」ではユニコーンファンの方々も含めてたくさんの腕が上がるのであるが、観客が声を出せるようになったことによって、曲中にも
「そんなもんですか?」「まだまだ行けますか?」
と観客を煽るようにしていたはっとりはサビでマイクの前を離れるようにすると観客の大合唱を巻き起こし、それはイントロで切ないライブならではのアレンジが追加されている「ワンドリンク別」でのタイトルフレーズの大合唱もそうなのであるが、この曲たちがこうしてライブハウスで性急なテンポで演奏されているのを見ると、今ではアリーナでライブをやったりテレビで見ることも増えているが、やっぱりマカロニえんぴつはこうしてライブハウスから始まって、ライブハウスで力を磨いてきたバンドであるということがわかる。それくらいに音もステージ上での姿も躍動感に満ちている。
そんな躍動感とスケールの大きさを同時に感じさせてくれるのは、はっとりが気合いを入れるようにしてから演奏された「星が泳ぐ」であるのだが、このライブハウス全体が星空に包まれるかのようなサウンドがライブハウスからはじまりながらもライブハウスを超えるバンドになった今のマカロニえんぴつのスケールを感じさせてくれる。そのあまりの感情を込めた演奏に体が震えるくらいに過去最高の「星が泳ぐ」だったのは、間違いなくこの日がバンドにとっての夢が叶った瞬間だったからだろう。「Maybe Blue」の演奏からもわかるように、この日ははっとりの夢でもありながらバンドの夢でもあるからだ。
そんなはっとりは前日にここで喋りすぎてしまったからか、
「今日は短めに。バカらしいこと、笑われるようなことから信じてあげてください。1人で信じられないのならば、周りにいる人と一緒に信じてあげてください」
とだけ伝える。それはきっとはっとり自身がユニコーンに憧れてきたことによってバカにされたり笑われたりしてきたことがあって、それでもこうしてその夢を叶えることができた実感があるからだろう。だからこそそこには強い説得力が宿っているのであるし、誰しもに「自分にもまだ出来ることがあるんじゃないか」と思わせてくれるのである。
そうした言葉の後に演奏されたのはこの日は「ヤングアダルト」だった。他の日のセトリを見ていないのだけれど、この日この曲を演奏したのは
「ハロー、絶望
その足でちゃんと立ってるかい?
無理にデタラメにしなくてもいいんだぜ
僕らに足りないのはいつだって
才能じゃなくって愛情なんだけどな」
というフレーズがかつてのユニコーンに憧れ続けたはっとり少年の心境そのものであり、
「夜を越えるための唄が死なないように
手首からもう涙が溢れないように」
というフレーズの通りにはっとりがユニコーンの唄を聴いて越えなくてはいけない夜を越えてきたということがわかるからだ。その見事過ぎるくらいに感情を揺さぶる歌唱を聴いて、憧れの存在とちゃんと並んだなんだなと思った。はっとりからしたらそんな感覚はないかもしれないけれど、自分は見ていて確かにそう感じていた。信じることで、続けてきたことでそこまでたどり着いたということを。
アンコールではメンバーがツアーTシャツに着替えてから登場し、長谷川がイントロのピアノを弾くことによって歓声が起こった「なんでもないよ、」というここまで演奏されていなかった必殺の曲が演奏される。
「会いたいとかね、そばに居たいとかね、守りたいとか
そんなんじゃなくて ただ僕より先に死なないでほしい
そんなんでもなくて、ああ、やめときゃよかったな
「何でもないよ」なんでもないよ、」
という歌詞がこの日は我々に向けてであり、また奥田民生を中心としたユニコーンのメンバーに向けて歌われているかのように聞こえた。でも奥田民生はフジファブリックの志村正彦が亡くなったことが発表された日のミュージックステーションで見たことがないくらいに悲しい顔をしていた。それだけに全員が最後までその人生を全うして欲しいと思う。この日の「なんでもないよ、」は単なる男女のラブソングではなくて、親しい人たち、大切な人たち全員に向けたものとして響いていた。
「満足できましたか?」
とそんな必殺曲を演奏した後にはっとりが観客に問いかけると、観客から
「まだー!」
という声が返ってきたことによって、
「奇遇ですね、我々もです」
と言ってステージになんとユニコーンのメンバー全員を招く。ライブ中と同じツナギ姿であるのだが、違うのはメンバー全員がハンドマイクを持っていることであり、ステージに出てきても5人で固まってずっと話をしているとはっとりから
「よろしいでしょうか?(笑)」
と声をかけられてようやくステージ前に並ぶというあたりが、今のユニコーンは本当に仲が良いということを感じさせてくれるのだが、はっとりがアコギを持って
「僕が1番好きなユニコーンの曲を皆さんと一緒に歌わせていただきます!」
と言って演奏されたのが「開店休業」という、いわゆる大ヒットシングルという曲ではないあたりが実にはっとりらしいチョイスであるのだが、ユニコーンのメンバー全員がマイクを持っているということはつまり5人のマイクリレーになるということで、しかも川西の割り振りがやたらと多くなっていたのは何かしらの狙いがあったのかもしれないが、マカロニえんぴつの中で1人ボーカルに加わったはっとりは自分たちが演奏するユニコーンの曲でユニコーンのメンバーが歌っているというこの光景をどう見ていたのだろうか。とにかくこの幸せを今回限りではなくてこれから何回でもはっとりに味わって欲しいし、我々にも味合わせて欲しいと思ったのである。
演奏が終わるとステージを去ろうとするユニコーンメンバーたちを呼び止めて、客席を背景にした写真撮影。実は今回のツアーでは他の日には撮影していなかったらしいが、それはやはりこのユニコーンのメンバーと同じステージにいるということを記憶だけではなくて記録としても残しておきたかったのだろう。その日に居合わせることができたのが本当に幸せだと思えるのは、メンバーの幸せという感情が溢れ出していたからだ。
それぞれ実は音楽的なルーツは違うメンバーたちであるが、それでもはっとりの夢はマカロニえんぴつというバンドとしての夢だ。もしマイケル・シェンカーグループと対バンする日が来ることがあれば、それは田辺の夢でもあり、やはりバンドの夢にもなる。その意識をバンドは「僕らは夢の中」で歌ってきたから。それはやめなきゃ続くものなのである。
この日はきっとはっとりにとってはどんなに大きな会場でライブをやるよりも目指していたものであり、実際にやれたことによって大事なものになったであろう日。あこがれを自分たちの力ですぐ隣にまで引き寄せた日だったのだから。
1. PLAY.
2.レモンパイ
3.眺めがいいね
4.働く女
5.MUSIC
6.TIME.
7.恋人ごっこ
8.リンジュー・ラブ
9.幸せやそれに似たもの
10.Maybe Blue
11.洗濯機と君とラヂオ
12.ワンドリンク別
13.星が泳ぐ
14.ヤングアダルト
encore
15.なんでもないよ、
16.開店休業 w/ ユニコーン