a flood of circle Tour 「花降る空に不滅の歌を」 @水戸LIGHT HOUSE 5/18
- 2023/05/19
- 19:45
先月には佐々木亮介のソロでのライブもありながら、3月のWBC日本優勝日の新代田FEVER以来のa flood of circleの「花降る空に不滅の歌を」ツアー。
2月からスタートして、もう来月にはファイナルを迎えるということで終盤になってきているが、この水戸LIGHT HOUSEはもはやフラッドが毎回ツアーでやるから来る場所という感じになりつつある。
いつも通りにキャパが小さい割にはステージが見やすい感覚があるのは同じようにフラッドが毎回ツアー初日にライブをやっている千葉LOOKと比べてしまうからかもしれないが、同じツアー内なので、その千葉LOOKでのレポ(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1175.html?sp)と横浜F.A.Dのレポ(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1181.html?sp)、新代田FEVERのレポ(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1187.html?sp)も合わせて見ていただきたい。
19時になるとおなじみのSEが流れてメンバーがステージに登場。渡邊一丘(ドラム)もHISAYO(ベース)も青木テツ(ギター)もいつもと変わらずに黒を基調とした衣装を着ているのだが、白の革ジャンを着た佐々木亮介(ボーカル&ギター)は髪色に赤が混じっており、さらに派手な見た目になっている。もう今やなんでも自分がちょっとでもやりたいと思ったことはやってみるというモードだったりするのだろうか。
そんな亮介が思いっきりギターを鳴らして歌い始めたのはこのツアーの1曲目としておなじみの「バードヘッドブルース」であるのだが、この規模感のライブハウスということもあってか、フラッドのライブ特有の爆音ロックンロールサウンドに頭をぶん殴られるような気分になる。それはツアーを経てきたことによってさらにこの曲がバンドの中に自然に入り込んでいるということでもある。
「おはようございます。a flood of circleです」
と亮介が挨拶すると、このツアーで久しぶりに演奏されている「Vampire Killa」がさらにそのロックンロールサウンドを加速させ、観客はマスクをしながらであれば声出しができるようになっているために、メンバー全員によるコーラスパートでは観客の声も重なり、それはテツがギターを高く掲げ、手拍子とともにコーラスで合唱になる「Dancing Zombiez」もまた然りであるが、この辺りは今回のツアーでおなじみのいきなりのぶっ放していく流れとはいえ、アウトロで亮介がステージ前に出てきて1人ブルージーにギターを鳴らしまくるというのはこのツアー中でもここまでしていただろうかとも思う。それはやはりツアーを重ねてきたことによって新作曲だけならず定番曲、これまでの代表曲も進化しているということである。
そんな亮介がハンドマイクになると、ソロライブでは大胆に解体→再構築されたバージョンをも披露していたが、やはりフラッドでのライブとなると猛々しいコーラスが響き渡る濃厚ブルース・ロックンロールになる「Black Eye Blues」をおなじみの緑茶割りを飲みながらそのロックンロールを歌うために持って生まれた歌声で歌うのであるが、曲間ではここが水戸だからか
「THE BACK HORNです」
とまさに如何様師のように自己紹介をしてから「如何様師のバラード」へ続くと、亮介は客席最前の柵に足をかけたと思ったら、実に久しぶりにそのまま客席に突入していく。その際に亮介に群がってカオスな状況になるのではなくて、モーゼの十戒よろしく亮介の通り道を開けるというあたりがさすがこうした亮介のパフォーマンスに慣れているフラッドファンたちだなと思う。コロナ禍になって以降はかつてのようになかなかこうしたライブが出来なくなっていたが、いよいよフラッドのライブも亮介の自由さをフルに発揮できるようになってきたなと思う瞬間であった。
その亮介が再びギターを持つと、性急なロックサウンドにマシンガンのように次々と言葉が放たれていく「Party Monster Bop」では天井が高いこのLIGHT HOUSEの客席頭上にあるミラーボールが煌めきながら回り始める。この辺りは毎回ライブをしに来ていることによって会場の人もフラッドの曲を理解してくれているということでもあるだろう。そんな些細なことにもなんだか嬉しくなるのである。
何故か覚えたてだというビートルズ「Don't Let Me Down」(SHANKがパンクにカバーしていることでもおなじみ)を口ずさみながら、
「もうメッセージとか伝えたいことなんて何もない〜。そんな奴のライブに金払って見に来てる〜。ざまあみろ〜(笑)
でも…」
と亮介が嘯きながら続けて
「ハイチーズ 笑って欲しいよダーリン」
と歌い始めた「カメラソング」の穏やかなサウンドと美しいメロディ、日常の何気ない瞬間を描写した歌詞がその言葉通りに我々を笑顔にしてくれる。この曲はフラッドの、スピッツに強い影響を受けている亮介のメロディメーカーっぷりがよくわかるような曲の最新系とも言えるだろう。ツアーが始まる前の荻窪で演奏された時の、この曲だけ写真撮影してもいいというのはなくなったようであるが。
すると亮介が今度はアコギに持ち替えて歌い始めたのは珠玉のバラード曲「人工衛星のブルース」。ここは日替わりで各バラード曲を歌う位置であるのだが、なんだかこの水戸という街の、駅から少し離れた場所にあるライブハウスという状況が、この日はこの曲が実に似合うように聞こえてきた。それは亮介が
「あなたがここにいてほしい」
と歌う通りに平日にもかかわらずこうしてここに我々が集まっているからこそそう感じられるのであり、亮介のファルセットボーカルも実に美しく、かつ切なく優しく響く。本当にどの曲を聴いてもフラッドのバラード曲は名曲しかないが、この曲も間違いなくそうである。
「1年ぶりにここに来たら店長の稲葉さんに「亮介、ビジュアル系目指してんのか?」って言われた(笑)」
と久しぶりのこの会場でのライブで会った人とのやり取りをも楽しそうに亮介が口にすると、
「ロックンロールしかない。これだけは手放せない」
と自身の変わることのない生き様を口にしてからそのままアコギを弾きながら歌い始めたのは、急に真夏日と言えるくらいに暑くなったこの日に実にふさわしい「花火を見に行こう」であるのだが、何千人もの人の前で鳴らされてもいいくらいのスケールを持っていると思っているこの曲がこの規模のライブハウスで鳴らされていると、それはそれでどこか情緒を強く感じられるのも観客が完全に半袖Tシャツ1枚でライブを見れるくらいの暑さになったこの日だからこそだろう。もちろん季節を問わない曲でもあるが、この気候で聴くからこそ、今年も花火が上がるような場所(=野外)でこの曲を聴くことができるだろうか、なんてことを考えたりしていた。
「水戸はセブンイレブンで売ってるお茶割りが日本で1番美味い(笑)そんな最高の場所にいるあなたたちに捧げます」
と、誰もが「セブンイレブンで買うものに味の違いないだろう」と心の中で突っ込んだであろう言葉の後には、そんな水戸の人に向けて「くたばれマイダーリン」が演奏されるというのもまた実に亮介らしい諧謔である。なのだがこの曲はダメダメなダーリンであっても
「ずっと思ってることなの
ずっとそばにいてほしい
って言ってほしい
って言えない
別にいい」
と心の内を伝えられない曲であり、つまりは水戸の人、今目の前にいてくれている人への亮介なりの愛情の表し方と言っていい曲なのである。
ここまではこのツアーですでに聴いている曲たちだったのだが、続くテツの爽やかなギターフレーズによって始まる「BLUE」は個人的にこのツアー内では初めて、このツアーでなくてもかなり久々にライブで聴く曲であるが、
「そのブルーの先へ 今 飛び立っていくのさ
悲しみの先へ 描けるだけの未来へ
そのブルーの先へ 夢が消えていく前に
さよなら 昨日までのブルー」
という歌詞が青さを抱えままでさらにその先へ進んでいくというバンドの意思を確かに感じさせてくれる。それはリリースから7年ほど経っても全く色褪せることなく、今もフラッドのロックンロールとライブから感じられるものである。出来ることならこの曲なんかを、今までフラッドを見たことないくらいにデカいステージで聴いてみたいと今も心から思っている。
するとワルツ調のリズムから一気にロックンロールに展開していく、アルバムタイトル曲「花降る空に不滅の歌を」でもう限りなく100%に近い観客が思いっきり腕を振り上げている。アルバムリリース時からすでにフラッドの新たなアンセム誕生を感じさせてくれた曲はライブで演奏されるたびに間違いなくさらにそうした曲へと進化している。しかも曲後半に亮介が弾き語りっぽく歌うようなアレンジまでもが新たに施されたことによって、熱狂っぷりという意味ではこの日トップクラスだったかもしれないというくらいに。
そんな熱狂はHISAYOのベースの重いリズムとともにステージが真紅に染まっていく「ロックンロールバンド」へと引き継がれていくことによってさらに増していくのであるが、
「歌ってくれロックンロールバンド
今日が最後かもしれない
聴かせてくれロックンロールバンド
だから今日を生きている」
というサビのフレーズはそのままこんな平日の夜に水戸までフラッドのライブを見に来た我々の心境そのものだ。当たり前のように見ているライブも今日が最後かもしれないと思ってしまうような出来事があまりに多すぎた。それは様々な変遷を経てきたフラッドにおいてもそうだ。だからこそ後悔がないように、行ける時に見れるだけライブを見て、その姿を脳裏に焼き付けておく。そんな自分たちの思いに応えてくれるようにこの日もフラッドはロックンロールを鳴らしている。だからフラッドのライブを見るのがやめられなくて、こうして同じツアーに何回も足を運んでいるのである。
そして亮介とテツのギターがドライブするように鳴り響く「GOOD LUCK MY FRIEND」ではタイトルフレーズでメンバーだけではなくて観客の合唱も重なっていく。やはりそうなることによってフラッドの曲のメロディの良さがさらに引き立つし、普段生活していたら間違いなく周りに全くいない「フラッドが好きな人たち」がライブ中だけはすぐ隣にいて、みんなで歌うことのカタルシスをこれでもかというくらいに感じさせてくれる。
それくらいに歌えるか否かはフラッドのライブにおいても大きな要素だと思うだけに、コロナ禍の真っ只中でリリースされたことによって全く観客が歌うことが出来なかったアルバム「2020」と「伝説の夜を君と」の曲を軸にしたツアーをもう一回回って欲しいとすら思っている。名曲しかないあの名盤の曲たち(2作とも個人的年間ベストディスク1位)を観客みんなで歌えたらどんな光景が生まれるのだろうか。
そんな「GOOD LUCK MY FRIEND」の残響がステージに残る中でメンバーがドラムセットに向き合うようにしてイントロが鳴らされたのはもちろん「プシケ」であり、そのイントロに反応した観客たちが歓声を上げ、リズムに合わせて手拍子をする。そんな観客のリアクションも含めて、亮介が曲中でこの日の日付と会場名を口にした通りに、今この日この場所でしかないということを感じさせてくれる曲である。その感覚がこれ以上ないくらいにここに来た選択をした我々を鳴らしている音で肯定してくれるのである。
そのまま突入していった「シーガル」では亮介がイントロで「イェーイェーイェーイェー」と叫びまくるくらいに気合いが入りまくっているのであるが、そんな気合いがイントロで一気に飛び上がる観客のテンションをもさらに引き上げてくれる。フラッドは、亮介はいろんなライブハウスへの強い愛情を持っているからこそ、ツアーを回るたびにそのライブハウスを訪れてライブをやってきているわけだが、この水戸LIGHT HOUSEも間違いなくその一つであるということがその音や姿から確かに伝わってくる。大好きな場所やそこで生きている人がバンドに力を与えてくれているのだ。
そんな思いが曲となって表れたのは
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
と亮介が歌うことによって始まる「月夜の道を俺が行く」であるのだが、それは
「気付けば結局佐々木亮介」
と自身のフルネームを入れてしまうという衝撃的と言える歌詞が
「愛してるぜBaby!」
とサビで結ばれていくからだ。
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
とも歌うこの曲を聴くといつも襟を正されるような気分になる。それは亮介だけではなくて誰しもにとってその通りであるからだ。だからこそこれからも自分の信じる通りに、いつもの道を行くしかないと思うのである。それはこうやってフラッドのライブに行き続けるということである。
そんなライブの最後に演奏されるのは亮介の弾き語り的に始まってから一気にバンドサウンドへと展開していく「本気で生きているのなら」であるのだが、ここまでの終盤の熱狂の流れとはまた違う、そのタイトルにもなっているメッセージを聴き手に突き刺すような曲であるのだが、亮介はそんな曲でも顔や首から汗をダラダラと流しながら歌う。それは歌唱に込めた感情や力からもわかるような激情のようなものがこの曲には確かにあるからだ。というか、それがないと歌えない曲だと言っていいかもしれない。だからこそ聞いていて心が震える。
自分はフラッドほど少しでも多くの音楽が好きな人、ロックバンドが好きな人、ライブが好きな人に聴いてもらいたい、観てもらいたいバンドはいないと思っているのであるが、やはりこの日のようなライブを見るとより一層そう思う。どうか少しでも多くの人にこのバンドが鳴らしているロックンロールとその生き様が届いて欲しいと心から思っている。
曲間ではメンバーの名前を呼んだり、大きな歓声をあげたりしないくらいに控えめな観客たちによる手拍子をメインとしたアンコールに応えてメンバーたちが笑顔でステージに戻ってくると、このツアーではおなじみになっているようにテツはタバコを吸いながら現れ、亮介が歌い始めた「伝説の夜を君と」をタバコを吸いながら自身のギターが入るまで待っているというような感じですらあったのだが、HISAYOによるハイトーンのコーラスがより強くなっているように感じるこの曲をこの日のアンコールで演奏したこと(自分が見た3公演は違う曲だった)は、きっとバンド側からしてもこの日のライブが伝説の夜と言い切れるくらいに手応えがあったということなのだろうし、そんな夜をこれからツアーファイナルに向けてさらに更新していくことができるという確信も得られていたはずだ。
自分が参加してきた3公演はアンコールは1曲だけで終わっていたが、さすがにこの「伝説の夜を君と」だけでは終わらないだろうと思っていたらやはりトドメとばかりに亮介がギターを鳴らしながら歌い始める「ミッドナイト・クローラー」の亮介早口ボーカルも含めてフラッド全部盛りみたいな曲でしっかりブチ上がらせて終わるあたりがさすがだ。そこも含めて新たな伝説の夜が生まれた水戸での一夜だったのだ。
年間150本以上ライブに行っていても、こうして同じツアーに4本も5本も行っているバンドはフラッドだけだ。それはフラッドがそうして毎回公演数が多いツアーを毎回やってきて、そこに行けばいつも「ここに来たのは間違ってなかった」と思わせてくれるようなライブを見せてくれたから。
そんなバンドのボーカルである亮介が最後に口にしたのは
「来月のファイナルの新宿、チケットいっぱいあるから来てね」
という言葉だった。それに反応して「行くよー!」と言っていた人もいたが、ここにいた人たちはみんな間違いなく行くだろう。新宿の新しいライブハウスでフラッドがワンマンをやる意味、この名盤アルバムをリリースしたツアーのファイナルでそこに立つ意味をわかっているだろうから。
でもそうでない人たちをどれだけ呼ぶことができるだろうかということを考えているのは、いろんなバンドのライブを観ていても、フラッドこそ武道館くらいの規模でワンマンをやるべきバンドだとずっと思っているからだ。自分の愛するバンドの愛する曲たちがそうした場所で鳴らされる光景を見てみたいから。来月、亮介がビックリするくらいにたくさんの人でZepp Shinjukuが埋まっていますように。
1.バードヘッドブルース
2.Vampire Kila
3.Dancing Zombiez
4.Black Eye Blues
5.如何様師のバラード
6.Party Monster Bop
7.カメラソング
8.人工衛星のブルース
9.花火を見に行こう
10.くたばれマイダーリン
11.BLUE
12.花降る空に不滅の歌を
13.ロックンロールバンド
14.GOOD LUCK MY FRIEND
15.プシケ
16.シーガル
17.月夜の道を俺が行く
18.本気で生きているのなら
encore
19.伝説の夜を君と
20.ミッドナイト・クローラー
2月からスタートして、もう来月にはファイナルを迎えるということで終盤になってきているが、この水戸LIGHT HOUSEはもはやフラッドが毎回ツアーでやるから来る場所という感じになりつつある。
いつも通りにキャパが小さい割にはステージが見やすい感覚があるのは同じようにフラッドが毎回ツアー初日にライブをやっている千葉LOOKと比べてしまうからかもしれないが、同じツアー内なので、その千葉LOOKでのレポ(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1175.html?sp)と横浜F.A.Dのレポ(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1181.html?sp)、新代田FEVERのレポ(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1187.html?sp)も合わせて見ていただきたい。
19時になるとおなじみのSEが流れてメンバーがステージに登場。渡邊一丘(ドラム)もHISAYO(ベース)も青木テツ(ギター)もいつもと変わらずに黒を基調とした衣装を着ているのだが、白の革ジャンを着た佐々木亮介(ボーカル&ギター)は髪色に赤が混じっており、さらに派手な見た目になっている。もう今やなんでも自分がちょっとでもやりたいと思ったことはやってみるというモードだったりするのだろうか。
そんな亮介が思いっきりギターを鳴らして歌い始めたのはこのツアーの1曲目としておなじみの「バードヘッドブルース」であるのだが、この規模感のライブハウスということもあってか、フラッドのライブ特有の爆音ロックンロールサウンドに頭をぶん殴られるような気分になる。それはツアーを経てきたことによってさらにこの曲がバンドの中に自然に入り込んでいるということでもある。
「おはようございます。a flood of circleです」
と亮介が挨拶すると、このツアーで久しぶりに演奏されている「Vampire Killa」がさらにそのロックンロールサウンドを加速させ、観客はマスクをしながらであれば声出しができるようになっているために、メンバー全員によるコーラスパートでは観客の声も重なり、それはテツがギターを高く掲げ、手拍子とともにコーラスで合唱になる「Dancing Zombiez」もまた然りであるが、この辺りは今回のツアーでおなじみのいきなりのぶっ放していく流れとはいえ、アウトロで亮介がステージ前に出てきて1人ブルージーにギターを鳴らしまくるというのはこのツアー中でもここまでしていただろうかとも思う。それはやはりツアーを重ねてきたことによって新作曲だけならず定番曲、これまでの代表曲も進化しているということである。
そんな亮介がハンドマイクになると、ソロライブでは大胆に解体→再構築されたバージョンをも披露していたが、やはりフラッドでのライブとなると猛々しいコーラスが響き渡る濃厚ブルース・ロックンロールになる「Black Eye Blues」をおなじみの緑茶割りを飲みながらそのロックンロールを歌うために持って生まれた歌声で歌うのであるが、曲間ではここが水戸だからか
「THE BACK HORNです」
とまさに如何様師のように自己紹介をしてから「如何様師のバラード」へ続くと、亮介は客席最前の柵に足をかけたと思ったら、実に久しぶりにそのまま客席に突入していく。その際に亮介に群がってカオスな状況になるのではなくて、モーゼの十戒よろしく亮介の通り道を開けるというあたりがさすがこうした亮介のパフォーマンスに慣れているフラッドファンたちだなと思う。コロナ禍になって以降はかつてのようになかなかこうしたライブが出来なくなっていたが、いよいよフラッドのライブも亮介の自由さをフルに発揮できるようになってきたなと思う瞬間であった。
その亮介が再びギターを持つと、性急なロックサウンドにマシンガンのように次々と言葉が放たれていく「Party Monster Bop」では天井が高いこのLIGHT HOUSEの客席頭上にあるミラーボールが煌めきながら回り始める。この辺りは毎回ライブをしに来ていることによって会場の人もフラッドの曲を理解してくれているということでもあるだろう。そんな些細なことにもなんだか嬉しくなるのである。
何故か覚えたてだというビートルズ「Don't Let Me Down」(SHANKがパンクにカバーしていることでもおなじみ)を口ずさみながら、
「もうメッセージとか伝えたいことなんて何もない〜。そんな奴のライブに金払って見に来てる〜。ざまあみろ〜(笑)
でも…」
と亮介が嘯きながら続けて
「ハイチーズ 笑って欲しいよダーリン」
と歌い始めた「カメラソング」の穏やかなサウンドと美しいメロディ、日常の何気ない瞬間を描写した歌詞がその言葉通りに我々を笑顔にしてくれる。この曲はフラッドの、スピッツに強い影響を受けている亮介のメロディメーカーっぷりがよくわかるような曲の最新系とも言えるだろう。ツアーが始まる前の荻窪で演奏された時の、この曲だけ写真撮影してもいいというのはなくなったようであるが。
すると亮介が今度はアコギに持ち替えて歌い始めたのは珠玉のバラード曲「人工衛星のブルース」。ここは日替わりで各バラード曲を歌う位置であるのだが、なんだかこの水戸という街の、駅から少し離れた場所にあるライブハウスという状況が、この日はこの曲が実に似合うように聞こえてきた。それは亮介が
「あなたがここにいてほしい」
と歌う通りに平日にもかかわらずこうしてここに我々が集まっているからこそそう感じられるのであり、亮介のファルセットボーカルも実に美しく、かつ切なく優しく響く。本当にどの曲を聴いてもフラッドのバラード曲は名曲しかないが、この曲も間違いなくそうである。
「1年ぶりにここに来たら店長の稲葉さんに「亮介、ビジュアル系目指してんのか?」って言われた(笑)」
と久しぶりのこの会場でのライブで会った人とのやり取りをも楽しそうに亮介が口にすると、
「ロックンロールしかない。これだけは手放せない」
と自身の変わることのない生き様を口にしてからそのままアコギを弾きながら歌い始めたのは、急に真夏日と言えるくらいに暑くなったこの日に実にふさわしい「花火を見に行こう」であるのだが、何千人もの人の前で鳴らされてもいいくらいのスケールを持っていると思っているこの曲がこの規模のライブハウスで鳴らされていると、それはそれでどこか情緒を強く感じられるのも観客が完全に半袖Tシャツ1枚でライブを見れるくらいの暑さになったこの日だからこそだろう。もちろん季節を問わない曲でもあるが、この気候で聴くからこそ、今年も花火が上がるような場所(=野外)でこの曲を聴くことができるだろうか、なんてことを考えたりしていた。
「水戸はセブンイレブンで売ってるお茶割りが日本で1番美味い(笑)そんな最高の場所にいるあなたたちに捧げます」
と、誰もが「セブンイレブンで買うものに味の違いないだろう」と心の中で突っ込んだであろう言葉の後には、そんな水戸の人に向けて「くたばれマイダーリン」が演奏されるというのもまた実に亮介らしい諧謔である。なのだがこの曲はダメダメなダーリンであっても
「ずっと思ってることなの
ずっとそばにいてほしい
って言ってほしい
って言えない
別にいい」
と心の内を伝えられない曲であり、つまりは水戸の人、今目の前にいてくれている人への亮介なりの愛情の表し方と言っていい曲なのである。
ここまではこのツアーですでに聴いている曲たちだったのだが、続くテツの爽やかなギターフレーズによって始まる「BLUE」は個人的にこのツアー内では初めて、このツアーでなくてもかなり久々にライブで聴く曲であるが、
「そのブルーの先へ 今 飛び立っていくのさ
悲しみの先へ 描けるだけの未来へ
そのブルーの先へ 夢が消えていく前に
さよなら 昨日までのブルー」
という歌詞が青さを抱えままでさらにその先へ進んでいくというバンドの意思を確かに感じさせてくれる。それはリリースから7年ほど経っても全く色褪せることなく、今もフラッドのロックンロールとライブから感じられるものである。出来ることならこの曲なんかを、今までフラッドを見たことないくらいにデカいステージで聴いてみたいと今も心から思っている。
するとワルツ調のリズムから一気にロックンロールに展開していく、アルバムタイトル曲「花降る空に不滅の歌を」でもう限りなく100%に近い観客が思いっきり腕を振り上げている。アルバムリリース時からすでにフラッドの新たなアンセム誕生を感じさせてくれた曲はライブで演奏されるたびに間違いなくさらにそうした曲へと進化している。しかも曲後半に亮介が弾き語りっぽく歌うようなアレンジまでもが新たに施されたことによって、熱狂っぷりという意味ではこの日トップクラスだったかもしれないというくらいに。
そんな熱狂はHISAYOのベースの重いリズムとともにステージが真紅に染まっていく「ロックンロールバンド」へと引き継がれていくことによってさらに増していくのであるが、
「歌ってくれロックンロールバンド
今日が最後かもしれない
聴かせてくれロックンロールバンド
だから今日を生きている」
というサビのフレーズはそのままこんな平日の夜に水戸までフラッドのライブを見に来た我々の心境そのものだ。当たり前のように見ているライブも今日が最後かもしれないと思ってしまうような出来事があまりに多すぎた。それは様々な変遷を経てきたフラッドにおいてもそうだ。だからこそ後悔がないように、行ける時に見れるだけライブを見て、その姿を脳裏に焼き付けておく。そんな自分たちの思いに応えてくれるようにこの日もフラッドはロックンロールを鳴らしている。だからフラッドのライブを見るのがやめられなくて、こうして同じツアーに何回も足を運んでいるのである。
そして亮介とテツのギターがドライブするように鳴り響く「GOOD LUCK MY FRIEND」ではタイトルフレーズでメンバーだけではなくて観客の合唱も重なっていく。やはりそうなることによってフラッドの曲のメロディの良さがさらに引き立つし、普段生活していたら間違いなく周りに全くいない「フラッドが好きな人たち」がライブ中だけはすぐ隣にいて、みんなで歌うことのカタルシスをこれでもかというくらいに感じさせてくれる。
それくらいに歌えるか否かはフラッドのライブにおいても大きな要素だと思うだけに、コロナ禍の真っ只中でリリースされたことによって全く観客が歌うことが出来なかったアルバム「2020」と「伝説の夜を君と」の曲を軸にしたツアーをもう一回回って欲しいとすら思っている。名曲しかないあの名盤の曲たち(2作とも個人的年間ベストディスク1位)を観客みんなで歌えたらどんな光景が生まれるのだろうか。
そんな「GOOD LUCK MY FRIEND」の残響がステージに残る中でメンバーがドラムセットに向き合うようにしてイントロが鳴らされたのはもちろん「プシケ」であり、そのイントロに反応した観客たちが歓声を上げ、リズムに合わせて手拍子をする。そんな観客のリアクションも含めて、亮介が曲中でこの日の日付と会場名を口にした通りに、今この日この場所でしかないということを感じさせてくれる曲である。その感覚がこれ以上ないくらいにここに来た選択をした我々を鳴らしている音で肯定してくれるのである。
そのまま突入していった「シーガル」では亮介がイントロで「イェーイェーイェーイェー」と叫びまくるくらいに気合いが入りまくっているのであるが、そんな気合いがイントロで一気に飛び上がる観客のテンションをもさらに引き上げてくれる。フラッドは、亮介はいろんなライブハウスへの強い愛情を持っているからこそ、ツアーを回るたびにそのライブハウスを訪れてライブをやってきているわけだが、この水戸LIGHT HOUSEも間違いなくその一つであるということがその音や姿から確かに伝わってくる。大好きな場所やそこで生きている人がバンドに力を与えてくれているのだ。
そんな思いが曲となって表れたのは
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
と亮介が歌うことによって始まる「月夜の道を俺が行く」であるのだが、それは
「気付けば結局佐々木亮介」
と自身のフルネームを入れてしまうという衝撃的と言える歌詞が
「愛してるぜBaby!」
とサビで結ばれていくからだ。
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
とも歌うこの曲を聴くといつも襟を正されるような気分になる。それは亮介だけではなくて誰しもにとってその通りであるからだ。だからこそこれからも自分の信じる通りに、いつもの道を行くしかないと思うのである。それはこうやってフラッドのライブに行き続けるということである。
そんなライブの最後に演奏されるのは亮介の弾き語り的に始まってから一気にバンドサウンドへと展開していく「本気で生きているのなら」であるのだが、ここまでの終盤の熱狂の流れとはまた違う、そのタイトルにもなっているメッセージを聴き手に突き刺すような曲であるのだが、亮介はそんな曲でも顔や首から汗をダラダラと流しながら歌う。それは歌唱に込めた感情や力からもわかるような激情のようなものがこの曲には確かにあるからだ。というか、それがないと歌えない曲だと言っていいかもしれない。だからこそ聞いていて心が震える。
自分はフラッドほど少しでも多くの音楽が好きな人、ロックバンドが好きな人、ライブが好きな人に聴いてもらいたい、観てもらいたいバンドはいないと思っているのであるが、やはりこの日のようなライブを見るとより一層そう思う。どうか少しでも多くの人にこのバンドが鳴らしているロックンロールとその生き様が届いて欲しいと心から思っている。
曲間ではメンバーの名前を呼んだり、大きな歓声をあげたりしないくらいに控えめな観客たちによる手拍子をメインとしたアンコールに応えてメンバーたちが笑顔でステージに戻ってくると、このツアーではおなじみになっているようにテツはタバコを吸いながら現れ、亮介が歌い始めた「伝説の夜を君と」をタバコを吸いながら自身のギターが入るまで待っているというような感じですらあったのだが、HISAYOによるハイトーンのコーラスがより強くなっているように感じるこの曲をこの日のアンコールで演奏したこと(自分が見た3公演は違う曲だった)は、きっとバンド側からしてもこの日のライブが伝説の夜と言い切れるくらいに手応えがあったということなのだろうし、そんな夜をこれからツアーファイナルに向けてさらに更新していくことができるという確信も得られていたはずだ。
自分が参加してきた3公演はアンコールは1曲だけで終わっていたが、さすがにこの「伝説の夜を君と」だけでは終わらないだろうと思っていたらやはりトドメとばかりに亮介がギターを鳴らしながら歌い始める「ミッドナイト・クローラー」の亮介早口ボーカルも含めてフラッド全部盛りみたいな曲でしっかりブチ上がらせて終わるあたりがさすがだ。そこも含めて新たな伝説の夜が生まれた水戸での一夜だったのだ。
年間150本以上ライブに行っていても、こうして同じツアーに4本も5本も行っているバンドはフラッドだけだ。それはフラッドがそうして毎回公演数が多いツアーを毎回やってきて、そこに行けばいつも「ここに来たのは間違ってなかった」と思わせてくれるようなライブを見せてくれたから。
そんなバンドのボーカルである亮介が最後に口にしたのは
「来月のファイナルの新宿、チケットいっぱいあるから来てね」
という言葉だった。それに反応して「行くよー!」と言っていた人もいたが、ここにいた人たちはみんな間違いなく行くだろう。新宿の新しいライブハウスでフラッドがワンマンをやる意味、この名盤アルバムをリリースしたツアーのファイナルでそこに立つ意味をわかっているだろうから。
でもそうでない人たちをどれだけ呼ぶことができるだろうかということを考えているのは、いろんなバンドのライブを観ていても、フラッドこそ武道館くらいの規模でワンマンをやるべきバンドだとずっと思っているからだ。自分の愛するバンドの愛する曲たちがそうした場所で鳴らされる光景を見てみたいから。来月、亮介がビックリするくらいにたくさんの人でZepp Shinjukuが埋まっていますように。
1.バードヘッドブルース
2.Vampire Kila
3.Dancing Zombiez
4.Black Eye Blues
5.如何様師のバラード
6.Party Monster Bop
7.カメラソング
8.人工衛星のブルース
9.花火を見に行こう
10.くたばれマイダーリン
11.BLUE
12.花降る空に不滅の歌を
13.ロックンロールバンド
14.GOOD LUCK MY FRIEND
15.プシケ
16.シーガル
17.月夜の道を俺が行く
18.本気で生きているのなら
encore
19.伝説の夜を君と
20.ミッドナイト・クローラー
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