ハンブレッダーズ 「ヤバすぎるワンマンツアー2023」 @NHKホール 5/17
- 2023/05/18
- 21:16
ヤバすぎるスピードとはこのバンドの活動ペースだろうというくらいに、一昨年に大名盤アルバム「ギター」をリリースしたばかりだというのに、早くも去年フルアルバム「ヤバすぎるスピード」をリリースした、ハンブレッダーズ。
さらには今年すでにシングルまでリリースと、ヤバすぎるスピードは止まらない中で開催されるのが「ヤバすぎるワンマンツアー」。もちろんタイトルからしてもアルバムのリリースツアーであるわけだが、ファイナルとなるこの日のNHKホールは即完というあたりに今のこのバンドの状況がどれだけヤバすぎるスピードで拡大しているのかということがわかる。
隣というかすぐ近くの代々木第一体育館には派手な色の服を着たモノノフの方々がももクロのライブのために集まる中、18時30分くらいになるとメンバーの影アナウンスが入り、その少し後の18時35分くらいに場内が暗転しておなじみのさわやかなSEが流れてメンバーが登場すると、薄暗い中でもムツムロアキラ(ボーカル&ギター)は耳に両手を当てて観客の歓声を聞こうとしているのがわかる。その姿を見て観客が歓声を上げると、
「俺たちのライブはここで歌ってとか手拍子してとかそういう決まりはないんですけど、今日だけはみんなの声を聞かせて欲しいと思います。イェーって言えー!」
とロックの先人へのリスペクトを感じさせるコールをしてから「ヤバすぎるスピード」の1曲目に収録されている「起きろ!」を演奏し始め、金髪から茶髪という感じに色が少し大人しくなった感じがするでらし(ベース)、いきなりギターを弾きすぎってくらいに弾きまくる、新たなバンドシーンのギターヒーローukicaster(ギター)、表情はいつもと変わらないが、登場時からこちらも観客の声を浴びるようにドラムセットに座る前に立ち上がっていた木島(ドラム)の3人の、コーラスというにはあまりにデカすぎるタイトルフレーズの観客の合唱を聴こうと、ムツムロはそのタイトルフレーズ部分でマイクスタンドから少しだけ離れる。もうそのギターが鳴り響きまくるロックバンドのサウンドはタイトル通りにまさに我々の体も精神も目覚めさせてくれる。
でらしのゴリゴリのスラップが見た目以上に音が重く強いバンドだということを示してくれるライブアレンジから続くukicasterのイントロのリフからしてキャッチーさ全開な「ワールドイズマイン」ではそのでらしもukicasterもステージ上を飛び回るように(歩き回るという感じではないくらいの躍動感)動き、自身の立ち位置とは逆の位置のマイクでコーラスをするのもまた見ていて目が離せないし楽しくなってくる。間奏では「ギターソロ不要論」を不要と言うかのようにムツムロもukicasterもギターを弾きまくり、アウトロではステージに膝をついてギターを弾くukicasterの足の上にムツムロが足を乗せてギターを弾く…音だけを聴いているとしっかり演奏しているけれど、ステージ上の情報量はめちゃくちゃ多いし、やはりそれが見ていて本当に楽しくなってくる。たくさんの観客が腕を上げているのもそのメンバーの楽しさが客席に伝播しているからだ。
ソールドアウトで満員のこのNHKホールは3階席まであるし、客席に奥行きがあるので3500人というキャパ以上に広く、人が多く感じるのであるが、そんな客席を見たムツムロは
「この光景…漫画だったら見開きページになってる」
と言って「ユースレスマシン」収録の「見開きページ」はムツムロの妄想癖というか想像力が爆発している曲であるが、その曲間でのつなぎは本当に見事としか言いようがないし、こうして新作のツアーで新作以外の曲をそのつなぎに組み込んでみせるというあたりも実に見事である。
すると曲間で木島も立ち上がって観客の歓声を浴びながら、ムツムロに
「どうですか、この景色は?」
と聞かれると
「いいね!」
と親指を突き出すようにして「いいね」へと突入していく。その木島が見た目からは想像できないくらいにめちゃくちゃドラム上手いなと改めて思うのは、この曲のサビでukicasterとでらしとともにコーラスを重ねながら(つまりはドラムセットの方を見ないで横を向いた状態で)、ドラムセットの全ての機材を正確に連打しているからだ。頭や体の芯がブレずに腕だけが動くそのフォームも実に美しく見えるし、このバンドがこうしてホールやフェスの大きなステージに立てるようになったのはこのリズム隊の強さがあってこそだろう。そのリズム隊のもう1人であるでらしはukicasterと演奏しながら追いかけっこするかのようにステージ端まで行ったりしていたが。
しかしながら演奏での堂々たる姿とは対照的にメンバーは東京に拠点を移してもまだ渋谷の街には慣れず、
「ハンブレッダーズよりギャルの方が強い(笑)」
とすら言う始末。衣装が派手になったりすることも全くないだけに、そこは変わることのないメンバーの人間性が表れているとも言える。
「今日はワンマンでたくさん曲やれるから、みんなが普段再生してる曲をやります」
とやはり心憎いまでに上手い曲へのつなぎから演奏されたのはもちろん「再生」であるのだが、
「関連動画で偶然出会った歪な音楽
巻き戻してたらいつの間にか手放せなくなった
青春映画と対極の存在だった僕が
人混みの中でひとりになる為の秘密兵器」
「うるさい歌が終わるまでは
向かうところ敵なしだぜ
ビートはすぐ鳴り止むけど
心臓の音が続きを刻むんだ」
という好きな音楽を聴いている時の無敵感をこんなに見事に歌詞にできている曲は他に思いつかないと思うくらい。そのサビをメンバー全員で声を重ねているあたりに、それはムツムロだけではなくてこのメンバー全員が共有している思いであることがわかるし、それがこんなにも響くのは自分もまた
「そいつは世界以外の全てを変えてしまった」
「もう一度聴きたいからと遠回りして帰る」
という体験をして今に至っている人間だからである。
「東京に越してきましたんで、末永くよろしくお願いします」
とムツムロが東京の人へプロポーズするかのようにしてから演奏された「プロポーズ」からは早くも少しギアが変わり、疾走感のあるギターロックで拳を振り上げるというよりも歌詞とメロディをしっかり聴かせるという緩急で言うなら緩の部分に早くも入っていくのであるが、そうした曲だからこそukicasterのギターも自身のギターヒーローっぷりを見せつけるものではなくて歌を引き立てるようなプレイへと変わっていく。その辺りのバランスも本当に良いバンドだなと思う。
その流れの中に新作の中から入っているのは「パーティーを抜け出して」であり、確かに情景が誰しもの脳内に寸分の狂いもなく浮かんでくるようなサビの歌詞で腕が左右に揺れるという光景は実にムーディーであるが、しかし曲後半では一気にテンポが速くなって演奏が激しくなるというのは音源で聴く以上にライブで映える、進化を発揮する曲であるということだ。個人的には「ヤバすぎるスピード」の中で1番イメージが変わった曲であるだけに、またこのライブの後にヘッドホンの中という名の宇宙空間を漂いたくなってしまうのである。
そんな聴かせる流れを締めるのはとっておきのラブソングとも言える「ファイナルボーイフレンド」であり、ムツムロのロマンチックさが炸裂している曲でもあるのだが、何よりもそんな曲の歌詞の歌い出しに
「ジジイ」「ババア」
というあまりにも強すぎるフックを仕込んでいるあたりは何度聴いてもムツムロのソングライターとしての天賦の才を感じざるを得ない。そのフレーズがあることによって普通のラブソングとは全く違う違和感を仕込むことができるだけに。
そんな聴かせるパートの後にはムツムロ、でらし、ukicasterが一旦ステージから捌けると、木島のドラムソロが始まる。徐々に手数も強さも増していく様は本当に上手いドラマーだなと思うのであるが、どれだけ音が強くなっても表情が全く変わらないのも実は凄いことなんじゃないかとも思ったりもする。
そんなドラムソロからそのまま木島がイントロに繋げるビートを刻むとメンバーも戻ってきて、アルバムの流れでは「AI LOVE YOU」(アルバムのブックレットのメンバーによるライナーノーツに「ライブではやらないというかできない」と書いてあったが、本当にやらなかった)から続くことによってAIが人間の感情に触れて理解することによって自身にも感情が生まれて…というストーリーが想像できる「ヒューマンエラー」は単体で演奏されることによって曲自体のギターロックサウンドのカッコ良さを実感できるのであるが、ムツムロが若干歌詞を飛ばしたことこそが「ヒューマンエラー」だと言えるのだろうか。
さらにはukicasterのギターがハードなサウンドを鳴らす、ハンブレッダーズ流のミクスチャーロックとでも言うような「才能」はメンバーのルーツにあるレッチリからの影響を強く感じさせるのであるが、その新しい要素が完全にバンドのものとして血肉化されているのはこの19本というツアーでこの曲を鳴らし続けてきたからであり、さらにはレッチリの来日公演をメンバーが観に行ったりしていたこともあるだろう。
「頭が良すぎるとあんまりカッコよくないぜ?」
というサビの締めはやはりムツムロらしいキラーフレーズである。
そんなカッコいい演奏の後でも
ムツムロ「今日めちゃ暑くなかった?」
木島「あ…(何か言いかける)」
ムツムロ「どうぞ」
木島「いや、どうぞ」
でらし「木島さん、どうぞ」
木島「晴れたね、って(笑)」
ムツムロ「それだけ?(笑)噛み合わないね〜(笑)」
木島「いやいや(笑)」
ムツムロ「このツアーで一回でも噛み合ったことあった?(笑)」
となぜか木島には厳し目なのであるが、そんなMC中も一切笑うことのない男であるukicasterには
「喋れないから(笑)御伽の国の住人だから(笑)」
と喋らないことを容認しているという木島との違いっぷり。それはMCを含めたライブでのそれぞれの役割分担がハッキリとしているということである。
そんなMC中にも早くギターが弾きたくて仕方がなさそうなukicasterの圧によって演奏に入ると、タイトルフレーズのリズミカルな歌唱がリズムに重なってライブで鳴らされるとよりダンサブルになる「アイラブユー」では実にクラスの端っこにいるような人の持つ恋愛感情をリアルに描いてみせると、
「この後も常識の範疇で楽しんでください」
と言って演奏された「常識の範疇」ではukicasterが下手の1番横のスピーカーの前まで出て行ったことによって木島から明らかに見えなくなるのであるが、それでも木島がカウントを刻んでから曲を始めることによって、見えない位置にいても音は完璧に合っている。そんなギターヒーローであるukicasterは間奏でもガンガン前に出てギターを弾きまくるのであるが、その後ろでムツムロがukicasterのワウペダルを踏んで操作しているのもおそらくはこのバンドのライブでしか見ることができないであろうパフォーマンスである。
そんな曲間ではムツムロがギターに夢中になっているのをでらしが肩を叩いて現実に戻して…という形で「ギター」が始まるのだが、否が応でも拳を振り上げて声を上げざるを得ない「ギター」は、ハンブレッダーズのライブで声を出して歌うのがこんなに楽しいものなのかということを改めて感じさせてくれる。
それはこの曲が出てから声を出して歌える機会というのがつい最近までなかったし、コロナ禍になる前からライブを見ていたバンドだけれど、まだ当時はバンド自身がここまでの規模ではなかったし、こんなにみんなで歌える曲もほとんどなかった。だからこそほぼ初めてに近い、こんなにたくさんの人で歌うハンブレッダーズの曲は1人のための曲であっても、自分と同じような奴が世の中にはたくさんいるかもしれないと思わせてくれた。それは1人ではあっても孤独ではないというか。
ステージではukicasterが台の上に立って後ろを向くようにしてコーラスをしていたり、でらしも横を向きながらコーラスをしていたり。そうやってぐちゃぐちゃと言っていいくらいの状態になってでも演奏してしまう力がこの曲には確かにある。
「錆び付いたギターでぶっ壊す
もう全部 全部 全部
あの日からずっと待っていた時が今 来た
錆び付いたギターでぶっ壊す
もう全部 全部 全部
暗闇の中で微かな光を見た
ギター ギター ギター」
というサビの歌詞はどんな時代になってもギターの音を、ロックバンドの鳴らす音を信じ続けている者だからこそ書けるものだ。ムツムロはインタビューなどでアルバムとしての「ギター」を
「タイトル、「ギター」か「ロック」だなって思ってた」
と言っていたが、それはこのバンドの中でそれがイコールの存在であるということだ。
そんな「ギター」で加速したサウンドをさらに加速させ、観客の熱狂をさらに強くするのはアルバムからのリード曲である「光」であり、テンションが常に一定であるかのようなムツムロの歌唱も確かにこの辺りから一定ではなくて熱を帯びてきているように感じる。ライブという場で歌う、音を鳴らすことによって無意識のうちに熱くなってきているのがわかる。ステージ上が実にシンプルなのはバンドが演奏する姿こそが主役だからという意識によるものだろうけれど、それでも背面から真っ白な照明がメンバーを照らし出す様はまさにこのバンドの音楽そのものが「光」であるかのようですらあった。
さらにはそのタイトルの通りに曲後半になると木島のビートがもはやパンクと言っていいくらいの速さと強さになっていく「ヤバすぎるスピード」と、この後半に来ての畳み掛けっぷりはこのアルバムがバンドに新たなアンセムたちをもたらしたことを示しているし、そうなったことで過去曲を演奏する機会は減るかもしれないけれど、それはこのバンドが自分たちの曲を、ヤバすぎるスピードで音楽を更新していることの証明である。
「東京に来てもなんにも変わらない。浮ついたこともできないし、悪い遊びをするわけでもない。俺も忙しくて朝ごはんを抜いちゃう時もあるんだけど、この曲を聴いた明日くらいは、あなたに朝ごはんをしっかり食べて欲しいと思います」
と言って演奏されたのは「東京」。これまでにも数々のアーティストがそのタイトルの名曲を生み出してきたことはもちろんメンバーも知っているだろうし、その上で敢えて歌うことにした「東京」は大阪から東京に出てきた自身の心情をそのまま素直に歌うもの。
「東京に来てわかったことが一つだけあった
僕が本当に本当に願うのは
ド派手な成功じゃなくて
お金や権力じゃなくて
君と朝ごはんを食べることさ」
というサビこそが、ムツムロを、ハンブレッダーズというバンドのメンバーの人間性を示している。この曲が作れたということはつまり、これからもハンブレッダーズが変わることはないということである。それはハンブレッダーズにしか作ることができない視点での「東京」。これまでにも数々の名曲が生まれてきたこのタイトルに、今までの曲とは全く違うタイプの新たな名曲が加わったのである。
そしてムツムロはこのツアーがファイナルを迎えたことについて、
「ただの19本やったファイナルっていうんじゃなくて、みんなが声を出せるツアーを回ってファイナルを迎えられたのが3年ぶりで。もともと2020年に回るはずだったツアーが出来なくなっちゃったり、「ギター」のツアーも回ったりしたけど…。
コロナウィルスが蔓延し始めた時はこんなことになるなんて俺は全然思ってなくて。ライブハウスでクラスターが起きてしまって、俺の友達が働いてるライブハウスを「ライブハウスはこんな感じです!」って面白半分で入口の写真を撮りに来るような人がいたり…。だからライブがなくなってきた時に音響の甲斐さんが
「このままライブできなくて仕事なくなったら実家に帰らないといけないかもしれない…」
って言ったり、楽器やってくれてるタケさんが
「俺は先月まだ仕事あったから大丈夫だよ」
って気丈に振る舞っていたり…」
と話したところで、それまでも少し声が揺らいでいたムツムロは号泣してしまう。
そんな続けられないかもしれない、一緒にライブを作ることができなくなるかもしれないという期間があっても、自分たちのライブを作ってくれている人とずっとこうして一緒にツアーを最後まで回ることができたことの感慨が溢れ出していた。
自分がハンブレッダーズの音楽に強く共感しているのは、このバンドがひたすらに音楽への愛を歌ってきたバンドだから。そういう人間じゃないと「ライブハウスで会おうぜ」みたいな曲は生み出せないし、そんな人間だからこそ、音楽で生活している人への愛も最大限に持っている。その人たちがいてくれるから自分たちがライブができることも。
PA席にいた甲斐氏も、ステージ袖にいたタケ氏もそのムツムロの姿を見て少し下を向いたように見えた。それは彼らもムツムロの言葉によって込み上げてくるものがあったんだと思うし、捻くれているようでいてムツムロやハンブレッダーズのメンバーは周りにいる人たちのことを本当に大切にしていて、自分たちのことのように思っている優しさを持っていることがわかる。
それは泣いてしまったムツムロの言葉を引き継ぐようにしてでらしが
「ライブって僕らだけじゃ作れないんです。音響さんや楽器担当の人や照明さんとか、見えないところで何十人もの人が動いてくれている」
と言ったことからもわかる。その姿を見て、ハンブレッダーズの音楽はもちろん人間そのものがさらに好きになった。でらしがもう1人の楽器担当の人の名前が出て来なかったのはむしろ良いオチというか和めるポイントになっていたのも含めて。
そんな音楽で生きている人たちのことを話したMCの後だからこそ、「BGMになるなよ」がいつも以上に刺さる。さっきまで泣いていたムツムロも歌い始めるとしっかりといつものように歌う。ギターを掻き鳴らしながらの
「愛と平和を歌っても相変わらずな世界で
変わらず愛と平和を歌うのが僕の戦いさ
名前も顔もない人に後ろ指を指されても
フルボリュームの耳栓があるから
何も聞こえないんだ」
というハンブレッダーズの生き様を示すようなフレーズも、これだけ最高のライブを見ているにも関わらずまだ
「生きててよかった
そんな夜はいくつもあったけど
一番素晴らしい夜は
きっとまだ来てないんだ」
と思えることも。そんな夜を迎えるためにこうしてライブに足を運んでいるわけだけれど、そんな夜はこれから先も何度だって更新されていく。だからこそこれからも生きていけると思える。
「逆接の接続詞ばかり吐き出したって
大丈夫 君は生きていたっていいんだ」
というフレーズは間違いなく、目の前にいるかつてのムツムロ少年のような全ての人に対して歌われていたのだ。
そんなライブの最後を締めるくらいの存在になったのは、最新シングルのカップリングという位置でありながらもライブ定番になりつつある「THE SONG」。もはやパンクと言っていいくらいの激しいビート(木島の表情が変わらないのに鬼神の如きドラムを叩くギャップがめちゃくちゃ面白い)とギターサウンドに乗せてムツムロは
「これっぽっちの文字数で戦闘機よりも速く
絶好調にしてやる ヘッドフォンをしろ!」
と歌う。それはやはり好きな音楽を聴けば無敵になれるということを歌っている。ありとあらゆる言い回しや単語を駆使しながらも、やはりハンブレッダーズはずっと同じことを歌い続けている。それはやっぱり音楽への愛でしかない。世代も生き方も全く違うけれど、同じような思いを抱えて生きてきた人間として、このバンドのそんな生き様を心からリスペクトしているし、愛している。
アンコールで再びメンバーが登場すると、特に何も言うこともなく、バンド史上最大と言えるくらいのタイアップになった「またね」をこんなにも?というくらいにフラットに演奏する。「キラカード」など、NARUTOの世代からしたら驚くくらいに近代化した世界観のBORUTOの中に出てくるフレーズもしっかり盛り込んでいるが、核になっているのは
「僕らは違う手段で違う理屈で
同じ答えを夢見てる
君がさよならを言いたいなら
僕がまたねを付け足す
友達になれないはずなんてないだろ!」
という偉大な父親を持つBORUTOが同じように孤独を感じてきた境遇の人生の仲間に向けて歌っているかのようなサビだろう。そこを歌うのにハンブレッダーズほどふさわしいバンドはいないと思うのは、もう30歳になる年齢のメンバーであってもいつだって青春を歌ってきたバンドだからである。
するとここでムツムロとでらしを軸にした物販の紹介が行われ、メンバーたちもイチオシアイテムであるロンTに着替えたりしているのであるが、ファンクラブライブのお知らせに続いては本編最後に演奏された「THE SONG」のMVがこの日の夜に公開されることを発表するのであるが、その内容はツアー中の映像を使ったものであり、そこにはこの日のライブの模様も入るというヤバすぎるスピードっぷり。そのMVの発注に関してはメンバーも監督にブラック企業並みに無理をさせていることを自覚しているらしいが、
「ここにいる人がみんなリツイートしてくれたら3500は堅いから!」
というあたりは実にSNS世代らしいものである。
そんな長めの告知から、
「声が出せるようになったら絶対やりたいと思っていた曲」
と前置きして演奏されたのは、きらめくようなギターフレーズによる「DAY DREAM BEAT」であるのだが、最後のサビ前ではムツムロがマイクスタンドから離れる。そこに響く観客による大合唱。1人であることを歌った曲がこんなにもたくさんの1人によって歌われている。その1人全員をしっかりと照らし出すかのように客席は全ての照明が点いて明るくなる。ライブを見るたびに実感してきたことであるが、やっぱりこの日もハンブレッダーズの音楽が、この曲が、自分の歌だとハッキリわかったんだと思えた瞬間だった。最後の
「さよならなんて今すぐ撃ち抜けミュージック」
のフレーズの決まりっぷりは、このライブが終わってもまた帰り道にヘッドホンをつければこのバンドの音楽に会えるということを感じさせてくれたのだ。
そんなライブの最後に演奏されたのは、
「僕は辛いことやキツいことがあったら、逃げても全然良いと思ってる」
と言っての、まさにライブハウスやライブ会場、音楽そのものが日常や現実から逃げる場所であるということを加速するギターロックサウンドに乗せて歌う「逃飛行」。最後まで、というか最後にさらに運動量が上がるようにステージを走り回るでらしと、自身の生き様をここで全て表し、全て置いてくるかのようにギターを弾きまくるukicaster。キメでは観客もカウントを叫ぶ中、
「君が選んだBGMなら
どんな退屈でも越えていけるのさ
ロックンロールは魔法なんかじゃないけど」
というフレーズが、やっぱりこのバンドの音楽への愛の象徴のようにして響いた。やっぱりこのバンドは変わらないし、変わることはない。それを最後まで示すように。去り際の最後に木島が
「あざっした!」
とマイクを通さずにステージから去っていったのもまた、実に木島らしくて微笑ましかった。
しかし客電が点いて終演を告げるアナウンスが流れても、なおもアンコールを求める声と手拍子がやまない。さすがにコロナ禍になって以降はアナウンス流れたら終わるようになったもんな…と思っていたら、なんとメンバーが走ってステージに戻ってくる。そのあまりに予想外過ぎる光景に驚いてしまうし、見た目からしてもいわゆるロックスターというバンドではないし、なんならそうしたロックは不良がやるものというステレオタイプなイメージを持つ人からしたらこのバンドはロックに見えないかもしれない。でもこのバンドのこうした行動や精神性はどんなバンドよりもロックなものだと自分は思っているし、ムツムロが
「じゃあ、次はライブハウスで会いましょう」
と言って、ライブハウスへの想いを口にしてから演奏されたライブハウスの歌である「ライブハウスで会おうぜ」を演奏したこともそうである。
ムツムロが
「耳鳴りが愛しいから」
と歌詞を現在進行形に変えて歌うその演奏中には客席が「DAY DREAM BEAT」の最後と同じように客電が点いた状態になる。その中で響く
「ヘイ ロンリーベイビーズ
ライブハウスで会おうぜ」
の大合唱。その光景はきっと近い将来に日本武道館や大阪城ホールで見れるものになるという確信を感じさせた。スペシャのモンスターロックに出演した際に、マキシマム ザ ホルモンのダイスケはんすらも
「聴いて泣いてしまった」
と言っていたくらいに、ライブハウスを好きな、音楽を好きな人にきっと刺さる曲。でもこの日は少し違ったのは、涙を流したらすぐにバレてしまうくらいに薄暗いライブハウスではなかったということ。それでも構わないと思うくらいに、僕たちの音楽よ、このまま鳴り止まないでと思っていたけれど、このバンドがいる限りは鳴り止むことはない。ダブルアンコールということでこの時には演奏が終わったらすぐさまステージから去って行ったのも、本当に急遽アンコールに応えたことを示していた。
ハンブレッダーズの曲を聴いて、周りの客席にいる若い人を見て、自分が17歳の時のことを思い出してみる。あの頃、制服の内ポケットにMDウォークマンを入れて、授業中にもイヤホンを左腕の袖から出して、左手で頬をつくようにしてバレないようにパンクを聴いていた。
そんなことをしてまで音楽を聴きたかった、音楽に夢中で仕方がなかった自分に、大人になっても今の自分のような奴のために音楽を鳴らしてくれるバンドに出会えると伝えてやりたい。そんなバンドがハンブレッダーズであり、当時の、そして変わらずに音楽に夢中な今の自分の歌だとハッキリわかった、ヤバすぎるワンマンツアーのファイナルだった。
1.起きろ!
2.ワールドイズマイン
3.見開きページ
4.いいね
5.再生
6.プロポーズ
7.パーティーを抜け出して
8.ファイナルボーイフレンド
9.ヒューマンエラー
10.才能
11.アイラブユー
12.常識の範疇
13.ギター
14.光
15.ヤバすぎるスピード
16.東京
17.BGMになるなよ
18.THE SONG
encore
19.またね
20.DAY DREAM BEAT
21.逃飛行
encore2
22.ライブハウスで会おうぜ
さらには今年すでにシングルまでリリースと、ヤバすぎるスピードは止まらない中で開催されるのが「ヤバすぎるワンマンツアー」。もちろんタイトルからしてもアルバムのリリースツアーであるわけだが、ファイナルとなるこの日のNHKホールは即完というあたりに今のこのバンドの状況がどれだけヤバすぎるスピードで拡大しているのかということがわかる。
隣というかすぐ近くの代々木第一体育館には派手な色の服を着たモノノフの方々がももクロのライブのために集まる中、18時30分くらいになるとメンバーの影アナウンスが入り、その少し後の18時35分くらいに場内が暗転しておなじみのさわやかなSEが流れてメンバーが登場すると、薄暗い中でもムツムロアキラ(ボーカル&ギター)は耳に両手を当てて観客の歓声を聞こうとしているのがわかる。その姿を見て観客が歓声を上げると、
「俺たちのライブはここで歌ってとか手拍子してとかそういう決まりはないんですけど、今日だけはみんなの声を聞かせて欲しいと思います。イェーって言えー!」
とロックの先人へのリスペクトを感じさせるコールをしてから「ヤバすぎるスピード」の1曲目に収録されている「起きろ!」を演奏し始め、金髪から茶髪という感じに色が少し大人しくなった感じがするでらし(ベース)、いきなりギターを弾きすぎってくらいに弾きまくる、新たなバンドシーンのギターヒーローukicaster(ギター)、表情はいつもと変わらないが、登場時からこちらも観客の声を浴びるようにドラムセットに座る前に立ち上がっていた木島(ドラム)の3人の、コーラスというにはあまりにデカすぎるタイトルフレーズの観客の合唱を聴こうと、ムツムロはそのタイトルフレーズ部分でマイクスタンドから少しだけ離れる。もうそのギターが鳴り響きまくるロックバンドのサウンドはタイトル通りにまさに我々の体も精神も目覚めさせてくれる。
でらしのゴリゴリのスラップが見た目以上に音が重く強いバンドだということを示してくれるライブアレンジから続くukicasterのイントロのリフからしてキャッチーさ全開な「ワールドイズマイン」ではそのでらしもukicasterもステージ上を飛び回るように(歩き回るという感じではないくらいの躍動感)動き、自身の立ち位置とは逆の位置のマイクでコーラスをするのもまた見ていて目が離せないし楽しくなってくる。間奏では「ギターソロ不要論」を不要と言うかのようにムツムロもukicasterもギターを弾きまくり、アウトロではステージに膝をついてギターを弾くukicasterの足の上にムツムロが足を乗せてギターを弾く…音だけを聴いているとしっかり演奏しているけれど、ステージ上の情報量はめちゃくちゃ多いし、やはりそれが見ていて本当に楽しくなってくる。たくさんの観客が腕を上げているのもそのメンバーの楽しさが客席に伝播しているからだ。
ソールドアウトで満員のこのNHKホールは3階席まであるし、客席に奥行きがあるので3500人というキャパ以上に広く、人が多く感じるのであるが、そんな客席を見たムツムロは
「この光景…漫画だったら見開きページになってる」
と言って「ユースレスマシン」収録の「見開きページ」はムツムロの妄想癖というか想像力が爆発している曲であるが、その曲間でのつなぎは本当に見事としか言いようがないし、こうして新作のツアーで新作以外の曲をそのつなぎに組み込んでみせるというあたりも実に見事である。
すると曲間で木島も立ち上がって観客の歓声を浴びながら、ムツムロに
「どうですか、この景色は?」
と聞かれると
「いいね!」
と親指を突き出すようにして「いいね」へと突入していく。その木島が見た目からは想像できないくらいにめちゃくちゃドラム上手いなと改めて思うのは、この曲のサビでukicasterとでらしとともにコーラスを重ねながら(つまりはドラムセットの方を見ないで横を向いた状態で)、ドラムセットの全ての機材を正確に連打しているからだ。頭や体の芯がブレずに腕だけが動くそのフォームも実に美しく見えるし、このバンドがこうしてホールやフェスの大きなステージに立てるようになったのはこのリズム隊の強さがあってこそだろう。そのリズム隊のもう1人であるでらしはukicasterと演奏しながら追いかけっこするかのようにステージ端まで行ったりしていたが。
しかしながら演奏での堂々たる姿とは対照的にメンバーは東京に拠点を移してもまだ渋谷の街には慣れず、
「ハンブレッダーズよりギャルの方が強い(笑)」
とすら言う始末。衣装が派手になったりすることも全くないだけに、そこは変わることのないメンバーの人間性が表れているとも言える。
「今日はワンマンでたくさん曲やれるから、みんなが普段再生してる曲をやります」
とやはり心憎いまでに上手い曲へのつなぎから演奏されたのはもちろん「再生」であるのだが、
「関連動画で偶然出会った歪な音楽
巻き戻してたらいつの間にか手放せなくなった
青春映画と対極の存在だった僕が
人混みの中でひとりになる為の秘密兵器」
「うるさい歌が終わるまでは
向かうところ敵なしだぜ
ビートはすぐ鳴り止むけど
心臓の音が続きを刻むんだ」
という好きな音楽を聴いている時の無敵感をこんなに見事に歌詞にできている曲は他に思いつかないと思うくらい。そのサビをメンバー全員で声を重ねているあたりに、それはムツムロだけではなくてこのメンバー全員が共有している思いであることがわかるし、それがこんなにも響くのは自分もまた
「そいつは世界以外の全てを変えてしまった」
「もう一度聴きたいからと遠回りして帰る」
という体験をして今に至っている人間だからである。
「東京に越してきましたんで、末永くよろしくお願いします」
とムツムロが東京の人へプロポーズするかのようにしてから演奏された「プロポーズ」からは早くも少しギアが変わり、疾走感のあるギターロックで拳を振り上げるというよりも歌詞とメロディをしっかり聴かせるという緩急で言うなら緩の部分に早くも入っていくのであるが、そうした曲だからこそukicasterのギターも自身のギターヒーローっぷりを見せつけるものではなくて歌を引き立てるようなプレイへと変わっていく。その辺りのバランスも本当に良いバンドだなと思う。
その流れの中に新作の中から入っているのは「パーティーを抜け出して」であり、確かに情景が誰しもの脳内に寸分の狂いもなく浮かんでくるようなサビの歌詞で腕が左右に揺れるという光景は実にムーディーであるが、しかし曲後半では一気にテンポが速くなって演奏が激しくなるというのは音源で聴く以上にライブで映える、進化を発揮する曲であるということだ。個人的には「ヤバすぎるスピード」の中で1番イメージが変わった曲であるだけに、またこのライブの後にヘッドホンの中という名の宇宙空間を漂いたくなってしまうのである。
そんな聴かせる流れを締めるのはとっておきのラブソングとも言える「ファイナルボーイフレンド」であり、ムツムロのロマンチックさが炸裂している曲でもあるのだが、何よりもそんな曲の歌詞の歌い出しに
「ジジイ」「ババア」
というあまりにも強すぎるフックを仕込んでいるあたりは何度聴いてもムツムロのソングライターとしての天賦の才を感じざるを得ない。そのフレーズがあることによって普通のラブソングとは全く違う違和感を仕込むことができるだけに。
そんな聴かせるパートの後にはムツムロ、でらし、ukicasterが一旦ステージから捌けると、木島のドラムソロが始まる。徐々に手数も強さも増していく様は本当に上手いドラマーだなと思うのであるが、どれだけ音が強くなっても表情が全く変わらないのも実は凄いことなんじゃないかとも思ったりもする。
そんなドラムソロからそのまま木島がイントロに繋げるビートを刻むとメンバーも戻ってきて、アルバムの流れでは「AI LOVE YOU」(アルバムのブックレットのメンバーによるライナーノーツに「ライブではやらないというかできない」と書いてあったが、本当にやらなかった)から続くことによってAIが人間の感情に触れて理解することによって自身にも感情が生まれて…というストーリーが想像できる「ヒューマンエラー」は単体で演奏されることによって曲自体のギターロックサウンドのカッコ良さを実感できるのであるが、ムツムロが若干歌詞を飛ばしたことこそが「ヒューマンエラー」だと言えるのだろうか。
さらにはukicasterのギターがハードなサウンドを鳴らす、ハンブレッダーズ流のミクスチャーロックとでも言うような「才能」はメンバーのルーツにあるレッチリからの影響を強く感じさせるのであるが、その新しい要素が完全にバンドのものとして血肉化されているのはこの19本というツアーでこの曲を鳴らし続けてきたからであり、さらにはレッチリの来日公演をメンバーが観に行ったりしていたこともあるだろう。
「頭が良すぎるとあんまりカッコよくないぜ?」
というサビの締めはやはりムツムロらしいキラーフレーズである。
そんなカッコいい演奏の後でも
ムツムロ「今日めちゃ暑くなかった?」
木島「あ…(何か言いかける)」
ムツムロ「どうぞ」
木島「いや、どうぞ」
でらし「木島さん、どうぞ」
木島「晴れたね、って(笑)」
ムツムロ「それだけ?(笑)噛み合わないね〜(笑)」
木島「いやいや(笑)」
ムツムロ「このツアーで一回でも噛み合ったことあった?(笑)」
となぜか木島には厳し目なのであるが、そんなMC中も一切笑うことのない男であるukicasterには
「喋れないから(笑)御伽の国の住人だから(笑)」
と喋らないことを容認しているという木島との違いっぷり。それはMCを含めたライブでのそれぞれの役割分担がハッキリとしているということである。
そんなMC中にも早くギターが弾きたくて仕方がなさそうなukicasterの圧によって演奏に入ると、タイトルフレーズのリズミカルな歌唱がリズムに重なってライブで鳴らされるとよりダンサブルになる「アイラブユー」では実にクラスの端っこにいるような人の持つ恋愛感情をリアルに描いてみせると、
「この後も常識の範疇で楽しんでください」
と言って演奏された「常識の範疇」ではukicasterが下手の1番横のスピーカーの前まで出て行ったことによって木島から明らかに見えなくなるのであるが、それでも木島がカウントを刻んでから曲を始めることによって、見えない位置にいても音は完璧に合っている。そんなギターヒーローであるukicasterは間奏でもガンガン前に出てギターを弾きまくるのであるが、その後ろでムツムロがukicasterのワウペダルを踏んで操作しているのもおそらくはこのバンドのライブでしか見ることができないであろうパフォーマンスである。
そんな曲間ではムツムロがギターに夢中になっているのをでらしが肩を叩いて現実に戻して…という形で「ギター」が始まるのだが、否が応でも拳を振り上げて声を上げざるを得ない「ギター」は、ハンブレッダーズのライブで声を出して歌うのがこんなに楽しいものなのかということを改めて感じさせてくれる。
それはこの曲が出てから声を出して歌える機会というのがつい最近までなかったし、コロナ禍になる前からライブを見ていたバンドだけれど、まだ当時はバンド自身がここまでの規模ではなかったし、こんなにみんなで歌える曲もほとんどなかった。だからこそほぼ初めてに近い、こんなにたくさんの人で歌うハンブレッダーズの曲は1人のための曲であっても、自分と同じような奴が世の中にはたくさんいるかもしれないと思わせてくれた。それは1人ではあっても孤独ではないというか。
ステージではukicasterが台の上に立って後ろを向くようにしてコーラスをしていたり、でらしも横を向きながらコーラスをしていたり。そうやってぐちゃぐちゃと言っていいくらいの状態になってでも演奏してしまう力がこの曲には確かにある。
「錆び付いたギターでぶっ壊す
もう全部 全部 全部
あの日からずっと待っていた時が今 来た
錆び付いたギターでぶっ壊す
もう全部 全部 全部
暗闇の中で微かな光を見た
ギター ギター ギター」
というサビの歌詞はどんな時代になってもギターの音を、ロックバンドの鳴らす音を信じ続けている者だからこそ書けるものだ。ムツムロはインタビューなどでアルバムとしての「ギター」を
「タイトル、「ギター」か「ロック」だなって思ってた」
と言っていたが、それはこのバンドの中でそれがイコールの存在であるということだ。
そんな「ギター」で加速したサウンドをさらに加速させ、観客の熱狂をさらに強くするのはアルバムからのリード曲である「光」であり、テンションが常に一定であるかのようなムツムロの歌唱も確かにこの辺りから一定ではなくて熱を帯びてきているように感じる。ライブという場で歌う、音を鳴らすことによって無意識のうちに熱くなってきているのがわかる。ステージ上が実にシンプルなのはバンドが演奏する姿こそが主役だからという意識によるものだろうけれど、それでも背面から真っ白な照明がメンバーを照らし出す様はまさにこのバンドの音楽そのものが「光」であるかのようですらあった。
さらにはそのタイトルの通りに曲後半になると木島のビートがもはやパンクと言っていいくらいの速さと強さになっていく「ヤバすぎるスピード」と、この後半に来ての畳み掛けっぷりはこのアルバムがバンドに新たなアンセムたちをもたらしたことを示しているし、そうなったことで過去曲を演奏する機会は減るかもしれないけれど、それはこのバンドが自分たちの曲を、ヤバすぎるスピードで音楽を更新していることの証明である。
「東京に来てもなんにも変わらない。浮ついたこともできないし、悪い遊びをするわけでもない。俺も忙しくて朝ごはんを抜いちゃう時もあるんだけど、この曲を聴いた明日くらいは、あなたに朝ごはんをしっかり食べて欲しいと思います」
と言って演奏されたのは「東京」。これまでにも数々のアーティストがそのタイトルの名曲を生み出してきたことはもちろんメンバーも知っているだろうし、その上で敢えて歌うことにした「東京」は大阪から東京に出てきた自身の心情をそのまま素直に歌うもの。
「東京に来てわかったことが一つだけあった
僕が本当に本当に願うのは
ド派手な成功じゃなくて
お金や権力じゃなくて
君と朝ごはんを食べることさ」
というサビこそが、ムツムロを、ハンブレッダーズというバンドのメンバーの人間性を示している。この曲が作れたということはつまり、これからもハンブレッダーズが変わることはないということである。それはハンブレッダーズにしか作ることができない視点での「東京」。これまでにも数々の名曲が生まれてきたこのタイトルに、今までの曲とは全く違うタイプの新たな名曲が加わったのである。
そしてムツムロはこのツアーがファイナルを迎えたことについて、
「ただの19本やったファイナルっていうんじゃなくて、みんなが声を出せるツアーを回ってファイナルを迎えられたのが3年ぶりで。もともと2020年に回るはずだったツアーが出来なくなっちゃったり、「ギター」のツアーも回ったりしたけど…。
コロナウィルスが蔓延し始めた時はこんなことになるなんて俺は全然思ってなくて。ライブハウスでクラスターが起きてしまって、俺の友達が働いてるライブハウスを「ライブハウスはこんな感じです!」って面白半分で入口の写真を撮りに来るような人がいたり…。だからライブがなくなってきた時に音響の甲斐さんが
「このままライブできなくて仕事なくなったら実家に帰らないといけないかもしれない…」
って言ったり、楽器やってくれてるタケさんが
「俺は先月まだ仕事あったから大丈夫だよ」
って気丈に振る舞っていたり…」
と話したところで、それまでも少し声が揺らいでいたムツムロは号泣してしまう。
そんな続けられないかもしれない、一緒にライブを作ることができなくなるかもしれないという期間があっても、自分たちのライブを作ってくれている人とずっとこうして一緒にツアーを最後まで回ることができたことの感慨が溢れ出していた。
自分がハンブレッダーズの音楽に強く共感しているのは、このバンドがひたすらに音楽への愛を歌ってきたバンドだから。そういう人間じゃないと「ライブハウスで会おうぜ」みたいな曲は生み出せないし、そんな人間だからこそ、音楽で生活している人への愛も最大限に持っている。その人たちがいてくれるから自分たちがライブができることも。
PA席にいた甲斐氏も、ステージ袖にいたタケ氏もそのムツムロの姿を見て少し下を向いたように見えた。それは彼らもムツムロの言葉によって込み上げてくるものがあったんだと思うし、捻くれているようでいてムツムロやハンブレッダーズのメンバーは周りにいる人たちのことを本当に大切にしていて、自分たちのことのように思っている優しさを持っていることがわかる。
それは泣いてしまったムツムロの言葉を引き継ぐようにしてでらしが
「ライブって僕らだけじゃ作れないんです。音響さんや楽器担当の人や照明さんとか、見えないところで何十人もの人が動いてくれている」
と言ったことからもわかる。その姿を見て、ハンブレッダーズの音楽はもちろん人間そのものがさらに好きになった。でらしがもう1人の楽器担当の人の名前が出て来なかったのはむしろ良いオチというか和めるポイントになっていたのも含めて。
そんな音楽で生きている人たちのことを話したMCの後だからこそ、「BGMになるなよ」がいつも以上に刺さる。さっきまで泣いていたムツムロも歌い始めるとしっかりといつものように歌う。ギターを掻き鳴らしながらの
「愛と平和を歌っても相変わらずな世界で
変わらず愛と平和を歌うのが僕の戦いさ
名前も顔もない人に後ろ指を指されても
フルボリュームの耳栓があるから
何も聞こえないんだ」
というハンブレッダーズの生き様を示すようなフレーズも、これだけ最高のライブを見ているにも関わらずまだ
「生きててよかった
そんな夜はいくつもあったけど
一番素晴らしい夜は
きっとまだ来てないんだ」
と思えることも。そんな夜を迎えるためにこうしてライブに足を運んでいるわけだけれど、そんな夜はこれから先も何度だって更新されていく。だからこそこれからも生きていけると思える。
「逆接の接続詞ばかり吐き出したって
大丈夫 君は生きていたっていいんだ」
というフレーズは間違いなく、目の前にいるかつてのムツムロ少年のような全ての人に対して歌われていたのだ。
そんなライブの最後を締めるくらいの存在になったのは、最新シングルのカップリングという位置でありながらもライブ定番になりつつある「THE SONG」。もはやパンクと言っていいくらいの激しいビート(木島の表情が変わらないのに鬼神の如きドラムを叩くギャップがめちゃくちゃ面白い)とギターサウンドに乗せてムツムロは
「これっぽっちの文字数で戦闘機よりも速く
絶好調にしてやる ヘッドフォンをしろ!」
と歌う。それはやはり好きな音楽を聴けば無敵になれるということを歌っている。ありとあらゆる言い回しや単語を駆使しながらも、やはりハンブレッダーズはずっと同じことを歌い続けている。それはやっぱり音楽への愛でしかない。世代も生き方も全く違うけれど、同じような思いを抱えて生きてきた人間として、このバンドのそんな生き様を心からリスペクトしているし、愛している。
アンコールで再びメンバーが登場すると、特に何も言うこともなく、バンド史上最大と言えるくらいのタイアップになった「またね」をこんなにも?というくらいにフラットに演奏する。「キラカード」など、NARUTOの世代からしたら驚くくらいに近代化した世界観のBORUTOの中に出てくるフレーズもしっかり盛り込んでいるが、核になっているのは
「僕らは違う手段で違う理屈で
同じ答えを夢見てる
君がさよならを言いたいなら
僕がまたねを付け足す
友達になれないはずなんてないだろ!」
という偉大な父親を持つBORUTOが同じように孤独を感じてきた境遇の人生の仲間に向けて歌っているかのようなサビだろう。そこを歌うのにハンブレッダーズほどふさわしいバンドはいないと思うのは、もう30歳になる年齢のメンバーであってもいつだって青春を歌ってきたバンドだからである。
するとここでムツムロとでらしを軸にした物販の紹介が行われ、メンバーたちもイチオシアイテムであるロンTに着替えたりしているのであるが、ファンクラブライブのお知らせに続いては本編最後に演奏された「THE SONG」のMVがこの日の夜に公開されることを発表するのであるが、その内容はツアー中の映像を使ったものであり、そこにはこの日のライブの模様も入るというヤバすぎるスピードっぷり。そのMVの発注に関してはメンバーも監督にブラック企業並みに無理をさせていることを自覚しているらしいが、
「ここにいる人がみんなリツイートしてくれたら3500は堅いから!」
というあたりは実にSNS世代らしいものである。
そんな長めの告知から、
「声が出せるようになったら絶対やりたいと思っていた曲」
と前置きして演奏されたのは、きらめくようなギターフレーズによる「DAY DREAM BEAT」であるのだが、最後のサビ前ではムツムロがマイクスタンドから離れる。そこに響く観客による大合唱。1人であることを歌った曲がこんなにもたくさんの1人によって歌われている。その1人全員をしっかりと照らし出すかのように客席は全ての照明が点いて明るくなる。ライブを見るたびに実感してきたことであるが、やっぱりこの日もハンブレッダーズの音楽が、この曲が、自分の歌だとハッキリわかったんだと思えた瞬間だった。最後の
「さよならなんて今すぐ撃ち抜けミュージック」
のフレーズの決まりっぷりは、このライブが終わってもまた帰り道にヘッドホンをつければこのバンドの音楽に会えるということを感じさせてくれたのだ。
そんなライブの最後に演奏されたのは、
「僕は辛いことやキツいことがあったら、逃げても全然良いと思ってる」
と言っての、まさにライブハウスやライブ会場、音楽そのものが日常や現実から逃げる場所であるということを加速するギターロックサウンドに乗せて歌う「逃飛行」。最後まで、というか最後にさらに運動量が上がるようにステージを走り回るでらしと、自身の生き様をここで全て表し、全て置いてくるかのようにギターを弾きまくるukicaster。キメでは観客もカウントを叫ぶ中、
「君が選んだBGMなら
どんな退屈でも越えていけるのさ
ロックンロールは魔法なんかじゃないけど」
というフレーズが、やっぱりこのバンドの音楽への愛の象徴のようにして響いた。やっぱりこのバンドは変わらないし、変わることはない。それを最後まで示すように。去り際の最後に木島が
「あざっした!」
とマイクを通さずにステージから去っていったのもまた、実に木島らしくて微笑ましかった。
しかし客電が点いて終演を告げるアナウンスが流れても、なおもアンコールを求める声と手拍子がやまない。さすがにコロナ禍になって以降はアナウンス流れたら終わるようになったもんな…と思っていたら、なんとメンバーが走ってステージに戻ってくる。そのあまりに予想外過ぎる光景に驚いてしまうし、見た目からしてもいわゆるロックスターというバンドではないし、なんならそうしたロックは不良がやるものというステレオタイプなイメージを持つ人からしたらこのバンドはロックに見えないかもしれない。でもこのバンドのこうした行動や精神性はどんなバンドよりもロックなものだと自分は思っているし、ムツムロが
「じゃあ、次はライブハウスで会いましょう」
と言って、ライブハウスへの想いを口にしてから演奏されたライブハウスの歌である「ライブハウスで会おうぜ」を演奏したこともそうである。
ムツムロが
「耳鳴りが愛しいから」
と歌詞を現在進行形に変えて歌うその演奏中には客席が「DAY DREAM BEAT」の最後と同じように客電が点いた状態になる。その中で響く
「ヘイ ロンリーベイビーズ
ライブハウスで会おうぜ」
の大合唱。その光景はきっと近い将来に日本武道館や大阪城ホールで見れるものになるという確信を感じさせた。スペシャのモンスターロックに出演した際に、マキシマム ザ ホルモンのダイスケはんすらも
「聴いて泣いてしまった」
と言っていたくらいに、ライブハウスを好きな、音楽を好きな人にきっと刺さる曲。でもこの日は少し違ったのは、涙を流したらすぐにバレてしまうくらいに薄暗いライブハウスではなかったということ。それでも構わないと思うくらいに、僕たちの音楽よ、このまま鳴り止まないでと思っていたけれど、このバンドがいる限りは鳴り止むことはない。ダブルアンコールということでこの時には演奏が終わったらすぐさまステージから去って行ったのも、本当に急遽アンコールに応えたことを示していた。
ハンブレッダーズの曲を聴いて、周りの客席にいる若い人を見て、自分が17歳の時のことを思い出してみる。あの頃、制服の内ポケットにMDウォークマンを入れて、授業中にもイヤホンを左腕の袖から出して、左手で頬をつくようにしてバレないようにパンクを聴いていた。
そんなことをしてまで音楽を聴きたかった、音楽に夢中で仕方がなかった自分に、大人になっても今の自分のような奴のために音楽を鳴らしてくれるバンドに出会えると伝えてやりたい。そんなバンドがハンブレッダーズであり、当時の、そして変わらずに音楽に夢中な今の自分の歌だとハッキリわかった、ヤバすぎるワンマンツアーのファイナルだった。
1.起きろ!
2.ワールドイズマイン
3.見開きページ
4.いいね
5.再生
6.プロポーズ
7.パーティーを抜け出して
8.ファイナルボーイフレンド
9.ヒューマンエラー
10.才能
11.アイラブユー
12.常識の範疇
13.ギター
14.光
15.ヤバすぎるスピード
16.東京
17.BGMになるなよ
18.THE SONG
encore
19.またね
20.DAY DREAM BEAT
21.逃飛行
encore2
22.ライブハウスで会おうぜ
a flood of circle Tour 「花降る空に不滅の歌を」 @水戸LIGHT HOUSE 5/18 ホーム
「セセルヨル」 出演:Enfants / ウソツキ / 森大翔 @duo MUSIC EXCHANGE 5/16