Ryosuke Sasaki presents "自由研究I" 佐々木亮介[LEO] ゲスト:Cwondo @新代田FEVER 4/27
- 2023/04/28
- 18:56
今年に入って最新アルバム「花降る空に不滅の歌を」をリリースしたa flood of circleで絶賛ツアー中、THE KEBABSでは春フェス出演が控えており、弾き語りでも浅草東洋館で新たなライブシリーズを始め…という全方位的に活動が止まらない状態にある佐々木亮介が、今度はソロの名義である佐々木亮介[LEO]でも新作ミニアルバム「HARIBO IS MY GOD」をリリース。一体いつ作っているのかという凄まじいリリース、活動ペースであるが、その新作リリース翌日に新代田FEVERでリリースパーティーを開催。
会場である新代田FEVERにちょうど開演時間の19時ちょうどくらいにギリギリで間に合うと、すでにドリンクカウンターの横に組まれたブースでDJ片平実が海外のThe Smith、The Cureなどのダークなロックバンドの曲を薄暗い場内でかけている。それはこの日の2組に合わせたものであることは間違いなけれど、かつてa flood of circleのDJ MIX CDをリリースしているくらいに(その際にはフラッドと片平実のタッグツアーも開催された)フラッドを、佐々木亮介を愛してきた片平実のDJが佐々木亮介の新作リリースパーティーで聴けるというのも実に嬉しいことである。
後半では佐々木亮介もDJブースに現れて、片平実と何やら話しながら2人で並んでいるあたりからも仲の良さが伺えるのであるが、おなじみRadiohead「Lotus Flower」のアレンジというかリミックスによって一瞬「この曲なんだっけ?」と聞き馴染みのある曲でも思わせてくれるあたりはさすがである。
・Cwondo
この日はフロアライブということで新代田FEVERの客席のど真ん中に機材が組まれているのだが、佐々木亮介がDJブースで片平実のDJを称えてから紹介したのは、ロックバンドNo Busesの近藤大彗のソロユニットであるCwondo。メガネをかけて、オシャレとは程遠い出で立ちの服装というのは秋葉原あたりにいそうな人という感じですらある。
しかしDJ機材によって電子音楽を鳴らし始めると、そこにサンプラーによるビートや自身の声を加えていき、誰よりもビートに合わせて頭を振りまくるという、こうした音楽を作る人が1番内向的な狂気を孕んでいるということを実感させてくれるようなパフォーマンス。しかしながらその音楽の中のキーボードのメロディなどは実に美しく響くというあたりには、ソロではこうした音楽をやりながらもやはり彼の中にはメロディメーカーとしての素養があることを感じさせてくれる。
「こんなど真ん中でライブやるの初めてです(笑)
学生の頃からa flood of circleが大好きで、ライブ見に行ったり、タワレコでやった弾き語りを見に行ったりしてた。だからもしかしたらここにいる人の隣でライブ見てたかもしれないし(笑)、こうして佐々木さんに呼んでもらえて本当に嬉しいです」
と、実際にはボソボソとたどたどしく喋るあたりもまたこの男の持つ狂気の部分を際立たせる要素だ。
このライブの直後、日付けが変わると新作アルバムがリリースされる(何気に佐々木亮介ばりの超ハイペースなリリースである)ことを告知し、早くもそのアルバムに収録される曲を演奏したりしていたのであるが、その音に浸るようにしながら体を揺らすことができるというのはNo Busesの音楽とは全く違うものであり、そのバンドとソロのサウンドの違いは亮介とフラッドとの違いとの共通点を感じさせるとともに、SUPERCARのボーカリストだったナカコーがバンドと並行してダンスミュージックに特化したソロプロジェクトのNYANTORAをやっていた時の頃を思い出す。それは今はむしろそうした音楽を鳴らして生きているナカコーの姿を思い出すくらいに、Cwondoの音楽があまりに本格的なエレクトロニックミュージックだったからだ。ロックンロールが当然大好きでバンドをやっている一方で、こうした音楽も好きでずっと聴いてきたということがわかる。本当に面白いし、興味深い存在の男だと思うのは終演後に物販でひたすらスマホをいじり倒している姿とともに、自分もCwondoと同じようにロックンロールもエレクトロニカ的な音楽も聴いてきた人間だという自負が少なからずあるから。
・佐々木亮介[LEO]
そんなCwondoをDJブースから称えている男が佐々木亮介。しかも転換時間では自身がDJとして曲をかけるのであるが、その曲がTHE KEBABS「チェンソーだ!」のリミックスなどもありながらも、まだリリースされていないデモ曲ばかりというあたりが「昨日アルバム出したばっかりですよね?」と本人に問いただしたくなるくらいの量産体制っぷりであり、どの曲もこのソロのサウンドに連なるものであるあたり、フラッドでも毎年のようにアルバムをリリースしているにもかかわらず、普段から家やツアー先などで浮かんだ曲を録音しまくっているんだろうなと思う。それは同時にきっとまたすぐ佐々木亮介としての新作や新曲が世に放たれて我々が聴けるようになるということである。
そんなDJの最後に新作収録の「Long Island Ice-tea」をかけると、亮介は片手に酒の入ったグラス、もう片手にはハンドマイクを持ってDJブースを降りて客席を歩き回りながら曲に合わせて歌う。その際に同じように酒を持った観客とグラスを合わせて乾杯したり、明らかに1人で来たであろう、端の方にいた若い男性の肩に腕を置いたりと、佐々木亮介主催による佐々木亮介のパーティーという感覚になっていく。曲タイトルはアイスティーであるが、亮介も観客もそんな洒落たものを飲んでいる人は1人もいなかったであろう。須くアルコールであると思われるし、フラッドのライブでは革ジャン着用の亮介は上下揃いのパジャマであるという点もホームパーティーさながらである。
そうして客席を練り歩いた亮介が客席中央のステージに辿り着くと、Primal Scream「スクリーマデリカ」のジャケ写がプリントされたエレキギターを手にして、パソコンで同期の音を流しながらギターを弾いて歌うというスタイルで「大脱走 / The Great Escape」を演奏して窮屈な社会や世の中から抜け出すようにしてこのパーティーに辿り着いたということを感じさせると、そのまま
「誰が邪魔しても お前を連れ出す」
という歌詞が、その脱走劇の仕掛け人が亮介であり、その仕掛けに乗って秘密基地にやってきたのが我々観客であるかのような「The Night Of Star Fish」へと繋がっていくのであるが、このスタイルであるがゆえにリズムは打ち込みで、亮介はその声にエフェクトをかけているソロのライブ仕様のサウンドになっているのだが、同期の音や普段のフラッドのライブに比べたらそこまで音量が大きいわけでもないし、そんなに弾きまくっているというわけでもないのにめちゃくちゃギターの音が耳に入ってくる。それはやはりどんなサウンドやジャンルであったとしても佐々木亮介がギターを鳴らせばそれはロックンロールになるということの証明である。
その亮介が普段の弾き語りでもおなじみのアコギに持ち替えると、
「Up, up, up, up」
というコーラス的なパートで同期のクワイアとともに観客も腕を上げて口ずさむ「Meme Song」で亮介は一気にヒップホップ的な歌唱へと振り切ると、
「君は今でも謎の生命体」
というフレーズが薄暗い会場の中でロマンチックに響く「Sofa Party」では現在のアメリカのスタンダードなポップサウンドと言っていいようなR&B的な同期のサウンドになることによって観客の体をゆったりと揺らすのであるが、ギターがそうであるように、やはりそのロックンロールを歌うために生まれてきたかのような歌声で歌うことによって、そうしたサウンドでもロックンロールになるとともに、フラッドでも全開に感じられる佐々木亮介のメロディメーカーっぷりを感じられる。
自分は正直言ってサマソニのヘッドライナーになるようなアーティストですらも現行のUSのヒップホップやR&Bは聞いても「何が良いのか全くわからん」と思ってしまうことが多いのであるが、亮介のソロはそうした音楽の影響をモロに受けていても全くそうは思わないどころか、リリースされればリピートしまくり、こうして早くライブで聴いてみたくて仕方がなくなる。それは本場のそうした音楽にはない歌謡性とそこに宿るメロディの力が亮介が作る曲には確かにあるからだと改めて思う。そしてそうして日本人だからこそのエッセンスをそこに加えるということが、日本でそうした音楽をやる上で最も重要なことであるとも。まんまトレースしたって面白くないし、聴く意味もない。でも亮介の音楽にはそうした音楽とは全く違う、この人が作って歌うからこそのものが確かにある。だから佐々木亮介というアーティストを心から愛して信頼しているのだ。フラッドとは全く異なる亮介のソロはそんなことを自分に実感させてくれる。
「Cwondo君と初めて会ったのはRUDE GALLERYのイベントで、渋谷で深夜にやった時で、SANABAGUN.の一平君(澤村一平)と一緒にやった時だったんだけど、めちゃくちゃカッコいいから一緒にやりたいなと思って声かけて。まさかa flood of circleのライブに来ていたなんて思わなかったけど(笑)」
と、自分がカッコいいと思ったアーティストが自分たちのファンであるということに少し恥ずかしさも感じていたようであるが、しかしながらフラッドを聴いてライブに来ていたからこそカッコいいアーティスト、バンドになったとも言える。ライブに来ていたくらいに好きだということは間違いなく影響を受けているということだから。
そんなMCから、同期のデジタルなR&Bサウンドに乗せて亮介がアコギを弾きながら
「あ〜 もう めんどくさいわ めんどくさい
夢は呪い 邪魔くさい もう現実バイビー」
と、自堕落なようでいて実は真理を射抜いているという実に亮介らしい歌詞(ソロでは「だり〜」と歌う「Blanket Song」という曲もある)の「夢は呪い」から新作モードへと突入すると、
「このpace このtasteじゃなきゃ
出来ない歌もあるのさ」
と韻の踏み方も絶好調にして自身の生き様を歌う「小さな世界」へという流れは直前に亮介が
「今日はダラダラやりたいなと思って」
と言っていたモードを体現するかのようなものである。ある意味では生き急いでいるかのようにハイペースで制作やライブを繰り返す亮介は実はマイペースに生きているだけなのかもしれないと思うほどに。かつてスペシャの番組に出演した時にもそのリリースペースについて聞かれた時に「曲が出来ちゃうから仕方ない」とも言っていたし。しかしダラダラやるというのがライブのテンポが悪いということには全くならない、むしろ普通のソロアーティストのライブよりもはるかにテンポが良いというあたりはさすがである。
しかしながらアコギを弾きながら「Baby 君のことだよ」を歌い始めると、急に同期の音が止まってしまう。なんとか復旧させようと亮介とマネージャー氏が奮闘する間、客席からは
「パソコン頑張れー!」
とパソコンを鼓舞する声が上がり、手拍子まで起こるという謎の一体感が発生するというのもわざわざ平日に新代田まで亮介のソロライブを観に来る人たちならではのものだろう。結果的にこの曲の時にはパソコンは復旧することができずにアコギでの弾き語りとなるのだが、亮介は観客にコーラスの合唱を求めながら真後ろを向いたりと、あらゆる方向の観客の表情を見ながら
「ギター持ってて良かったね〜」
と笑顔で弾き語りするのであるが、
「Oh baby 月が綺麗です
Oh baby 君のことだよ」
というサビのフレーズは亮介の文学少年っぷりを感じさせるとともに、これまでにフラッドでも月にまつわるロマンチックな歌詞を書いてきたのは夏目漱石が「I love you」をそう表現したことの影響があるんじゃないかとも思えてくる。
そうこうしている間にパソコンが復旧して音が出るようになると、一気にそれまでとは全く異なるデジタルなノイズサウンドが爆音で会場に鳴り響く。真っ赤な照明に照らされながら亮介が
「これは反則かもしれない曲だけど、カバーをやります」
と言ってハンドマイクで歌い始めたのはフラッドの「Black Eye Blues」なのであるが、そのサウンドはただのバンドでのバックトラックのカラオケというものではなくて、ソロ仕様にバキバキのデジタルサウンドを加えまくっており、さらには亮介は曲中に緑茶割りのおかわりをするべくステージから客席を通過してバーカウンターに歩いて行って緑茶割りをもらって戻ってくるというフリーダムっぷり。ある意味ではこれも1人だけでライブができて、しかも弾き語りではなくて同期の音が流れているソロの形態だからこそできるものだ。1人だけでのライブはその亮介1人の本質が浮かび上がってくるというか。
この日はフロアライブということで本来のライブなら立っているステージの上には「HARIBO IS MY GOD」のジャケ写の絵が飾られており、それを紹介しながら、亮介はこのライブから配信だけではなくて物販でCDが販売されていることにも触れるのであるが、
「今さらCD出すのなんて合理的に見たら間違ってるけど、俺は初めてスピッツを聴いた時に合理的に生きていくことをやめた(笑)」
と口にする。メジャーというシーンに所属しながらも、儲かるか儲からないかの二元論ではないところで亮介は生きている。自分がやりたいことをやって生きていくという。だから自分が出したければたとえ売れなくてもCDも出す。
その姿勢はこうして音楽を聴いてライブを観に行く側としても背筋を正されるというか、感じるものがある。人気があるから、これを見たりそれについて書けばリアクションがたくさんもらえるという理由で聴いたりライブを観たりするのではなくて、ただただ自分自身が心からかっこいいと思うものだけを聴いてライブを観に行く。そこには合理性というものが入り込んでくる余地はない。自分は死ぬまでそうやって生きていきたいと思っているし、佐々木亮介の生き様はそんな自分の生き方でいいんだなと思わせてくれる。だから佐々木亮介という男が自分のカッコ良さ(音楽だけではない部分も含めて)の基準になっている。
そんな佐々木亮介の音楽としてのカッコ良さの最新系であるのがアルバムタイトル曲である「HARIBO IS MY GOD」であるのだが、かねてから亮介が大好きだと公言してきたハリボー(グミのお菓子)を冠したこの曲はヒップホップ、R&Bというサウンドにグランジかつノイジーなギターが乗るという、今の若いアメリカのラッパーやR&Bシンガーも取り入れている形態のものではあるのだが、やはり亮介がそうしたギターを鳴らすとリアルタイムでグランジなどのアメリカのオルタナギターロックを聴いてきた者としてのサウンドであるということが感じられる。つまりはそれはこうしたサウンドが亮介から自然に出てきていると思えるような。
それはソロでのバンドサウンド(このソロプロジェクト開始当時はウエノコウジや弓木英梨乃らによるバンド編成でもライブをやっていた)をデジタルサウンドに変換したパーティーチューン「Snowy Snowy Day, YA!」もそうであるのだが、タイトル通りに完全なる冬の時期の曲でもこの季節に演奏されることに違和感を感じないのは、この会場内が外界から隔離された秘密基地のようですらあるからだろうか。時に亮介が弾き語りで歌うこともある「Fly me to the moon」を歌詞として取り入れていたりというあたりも亮介のルーツがそのまま自身の音楽として出ている。
そして個人的にヒップホップ、R&B的なサウンドに亮介の歌謡性や歌心が最大限に注入された曲だと思っているのが新作収録曲の「JUDY JUDY JUDY」。先行配信された時から名曲だと思っていたが、こうしてタイトルフレーズを同期のクワイアに任せるという形でのライブで聴くとより一層それを実感することができる。亮介もあらゆる方向の観客を見て笑顔を浮かべて歌っている姿が、やはりこうして観に来て良かったなと思わせてくれるし、それはフロアライブという距離の近さだからこそより実感できることでもある。
さらにはこのライブのタイトルにもなっている「自由研究」では「チューペット」などの夏休みの情景を想起させる歌詞が歌われる中で亮介は
「俺のテーマはいつも決まってる
君だよBaby」
と歌うのであるが、それは観客の方を指差しながら歌うけれど、我々観客にとってもそうなのだ。もし自分が今自由研究をやるとしたら「何故佐々木亮介はこんなにハイペースに様々なタイプの音楽を生み出し、それがどれも素晴らしいのか」というテーマにするだろう。実際に自由研究をやるなんてのは中学生くらいまでだろうけれど、亮介はずっとそのメンタリティを持って生きているかのような。だからこそ我々にとってのテーマも君=亮介なのである。
そして最後の曲は
「今ドイツにいる友達と作った曲で…今日日本に帰ってきてるのかな?でも君がドイツ人だろうと日本人だろうとウクライナ人だろうとロシア人だろうとどうでもいい」
と口にしてから演奏された「We Alright」。その言葉は人種や国籍としてどうこうではなくてその人自身を亮介が見ているという生きる姿勢を感じさせるし、何がどうあれロシア人であるというだけで非難したりするのは愚かなことであるということを改めて確かなものにしてくれるのであるが、この曲はROTH BART BARONの三船雅也と一緒に作った曲であり、その友達というのもこの曲で一瞬聴いただけでそれとわかる神聖なハイトーンコーラスを歌っている三船のことだろうけれど、亮介のソロに参加して以降、アジカンの客演やTV番組での絶賛、さらにはBiSHのアイナ・ジ・エンドとのコラボなど、瞬く間にオーバーグラウンドな方へ飛んで行った三船が今でも亮介と友達であり続けているということが亮介の口振りからわかるのが本当に嬉しい。それは両者がやはり合理性よりも人間性や音楽性を何よりも大事にして生きているということがわかるからだ。いろんなことがある世の中、社会だけれど、佐々木亮介がこうして
「We Alright どんだけ間違っても
We Alright どんだけはみだしても
We Alright 味方でいるぜ」
と歌ってくれていればやはりWe Alrightだと思える。そういう力が亮介の音楽と歌には確かに宿っているということを感じさせてくれるような自由研究だった。
ライブが終わると再びDJブースには片平実が現れて、今度は余韻を噛み締めさせてくれるようなチルなサウンドの曲をかける。酒を飲んだり写真を撮ったり体を揺らしたり。それぞれの思い思いの楽しみ方でライブ後の時間を過ごす中、自分はやはり改めて佐々木亮介の音楽や生き様が自分にとっての「カッコいい」の基準になっていることを実感していた。だからこそフラッドだけではなくソロも弾き語りも観に行けるのなら可能な限り観に行こうと思っている。俺のテーマはいつも決まってる。佐々木だからだ。
1.Long Island Ice-tea
2.大脱走 / The Great Escape
3.The Night Of Star Fish
4.Meme Song
5.Sofa Party
6.小さな世界
7.夢は呪い
8.Baby 君のことだよ
9.Black Eye Blues
10.HARIBO IS MY GOD
11.Snowy Snowy Day, YA!
12.JUDY JUDY JUDY
13.自由研究
14.We Alright
会場である新代田FEVERにちょうど開演時間の19時ちょうどくらいにギリギリで間に合うと、すでにドリンクカウンターの横に組まれたブースでDJ片平実が海外のThe Smith、The Cureなどのダークなロックバンドの曲を薄暗い場内でかけている。それはこの日の2組に合わせたものであることは間違いなけれど、かつてa flood of circleのDJ MIX CDをリリースしているくらいに(その際にはフラッドと片平実のタッグツアーも開催された)フラッドを、佐々木亮介を愛してきた片平実のDJが佐々木亮介の新作リリースパーティーで聴けるというのも実に嬉しいことである。
後半では佐々木亮介もDJブースに現れて、片平実と何やら話しながら2人で並んでいるあたりからも仲の良さが伺えるのであるが、おなじみRadiohead「Lotus Flower」のアレンジというかリミックスによって一瞬「この曲なんだっけ?」と聞き馴染みのある曲でも思わせてくれるあたりはさすがである。
・Cwondo
この日はフロアライブということで新代田FEVERの客席のど真ん中に機材が組まれているのだが、佐々木亮介がDJブースで片平実のDJを称えてから紹介したのは、ロックバンドNo Busesの近藤大彗のソロユニットであるCwondo。メガネをかけて、オシャレとは程遠い出で立ちの服装というのは秋葉原あたりにいそうな人という感じですらある。
しかしDJ機材によって電子音楽を鳴らし始めると、そこにサンプラーによるビートや自身の声を加えていき、誰よりもビートに合わせて頭を振りまくるという、こうした音楽を作る人が1番内向的な狂気を孕んでいるということを実感させてくれるようなパフォーマンス。しかしながらその音楽の中のキーボードのメロディなどは実に美しく響くというあたりには、ソロではこうした音楽をやりながらもやはり彼の中にはメロディメーカーとしての素養があることを感じさせてくれる。
「こんなど真ん中でライブやるの初めてです(笑)
学生の頃からa flood of circleが大好きで、ライブ見に行ったり、タワレコでやった弾き語りを見に行ったりしてた。だからもしかしたらここにいる人の隣でライブ見てたかもしれないし(笑)、こうして佐々木さんに呼んでもらえて本当に嬉しいです」
と、実際にはボソボソとたどたどしく喋るあたりもまたこの男の持つ狂気の部分を際立たせる要素だ。
このライブの直後、日付けが変わると新作アルバムがリリースされる(何気に佐々木亮介ばりの超ハイペースなリリースである)ことを告知し、早くもそのアルバムに収録される曲を演奏したりしていたのであるが、その音に浸るようにしながら体を揺らすことができるというのはNo Busesの音楽とは全く違うものであり、そのバンドとソロのサウンドの違いは亮介とフラッドとの違いとの共通点を感じさせるとともに、SUPERCARのボーカリストだったナカコーがバンドと並行してダンスミュージックに特化したソロプロジェクトのNYANTORAをやっていた時の頃を思い出す。それは今はむしろそうした音楽を鳴らして生きているナカコーの姿を思い出すくらいに、Cwondoの音楽があまりに本格的なエレクトロニックミュージックだったからだ。ロックンロールが当然大好きでバンドをやっている一方で、こうした音楽も好きでずっと聴いてきたということがわかる。本当に面白いし、興味深い存在の男だと思うのは終演後に物販でひたすらスマホをいじり倒している姿とともに、自分もCwondoと同じようにロックンロールもエレクトロニカ的な音楽も聴いてきた人間だという自負が少なからずあるから。
・佐々木亮介[LEO]
そんなCwondoをDJブースから称えている男が佐々木亮介。しかも転換時間では自身がDJとして曲をかけるのであるが、その曲がTHE KEBABS「チェンソーだ!」のリミックスなどもありながらも、まだリリースされていないデモ曲ばかりというあたりが「昨日アルバム出したばっかりですよね?」と本人に問いただしたくなるくらいの量産体制っぷりであり、どの曲もこのソロのサウンドに連なるものであるあたり、フラッドでも毎年のようにアルバムをリリースしているにもかかわらず、普段から家やツアー先などで浮かんだ曲を録音しまくっているんだろうなと思う。それは同時にきっとまたすぐ佐々木亮介としての新作や新曲が世に放たれて我々が聴けるようになるということである。
そんなDJの最後に新作収録の「Long Island Ice-tea」をかけると、亮介は片手に酒の入ったグラス、もう片手にはハンドマイクを持ってDJブースを降りて客席を歩き回りながら曲に合わせて歌う。その際に同じように酒を持った観客とグラスを合わせて乾杯したり、明らかに1人で来たであろう、端の方にいた若い男性の肩に腕を置いたりと、佐々木亮介主催による佐々木亮介のパーティーという感覚になっていく。曲タイトルはアイスティーであるが、亮介も観客もそんな洒落たものを飲んでいる人は1人もいなかったであろう。須くアルコールであると思われるし、フラッドのライブでは革ジャン着用の亮介は上下揃いのパジャマであるという点もホームパーティーさながらである。
そうして客席を練り歩いた亮介が客席中央のステージに辿り着くと、Primal Scream「スクリーマデリカ」のジャケ写がプリントされたエレキギターを手にして、パソコンで同期の音を流しながらギターを弾いて歌うというスタイルで「大脱走 / The Great Escape」を演奏して窮屈な社会や世の中から抜け出すようにしてこのパーティーに辿り着いたということを感じさせると、そのまま
「誰が邪魔しても お前を連れ出す」
という歌詞が、その脱走劇の仕掛け人が亮介であり、その仕掛けに乗って秘密基地にやってきたのが我々観客であるかのような「The Night Of Star Fish」へと繋がっていくのであるが、このスタイルであるがゆえにリズムは打ち込みで、亮介はその声にエフェクトをかけているソロのライブ仕様のサウンドになっているのだが、同期の音や普段のフラッドのライブに比べたらそこまで音量が大きいわけでもないし、そんなに弾きまくっているというわけでもないのにめちゃくちゃギターの音が耳に入ってくる。それはやはりどんなサウンドやジャンルであったとしても佐々木亮介がギターを鳴らせばそれはロックンロールになるということの証明である。
その亮介が普段の弾き語りでもおなじみのアコギに持ち替えると、
「Up, up, up, up」
というコーラス的なパートで同期のクワイアとともに観客も腕を上げて口ずさむ「Meme Song」で亮介は一気にヒップホップ的な歌唱へと振り切ると、
「君は今でも謎の生命体」
というフレーズが薄暗い会場の中でロマンチックに響く「Sofa Party」では現在のアメリカのスタンダードなポップサウンドと言っていいようなR&B的な同期のサウンドになることによって観客の体をゆったりと揺らすのであるが、ギターがそうであるように、やはりそのロックンロールを歌うために生まれてきたかのような歌声で歌うことによって、そうしたサウンドでもロックンロールになるとともに、フラッドでも全開に感じられる佐々木亮介のメロディメーカーっぷりを感じられる。
自分は正直言ってサマソニのヘッドライナーになるようなアーティストですらも現行のUSのヒップホップやR&Bは聞いても「何が良いのか全くわからん」と思ってしまうことが多いのであるが、亮介のソロはそうした音楽の影響をモロに受けていても全くそうは思わないどころか、リリースされればリピートしまくり、こうして早くライブで聴いてみたくて仕方がなくなる。それは本場のそうした音楽にはない歌謡性とそこに宿るメロディの力が亮介が作る曲には確かにあるからだと改めて思う。そしてそうして日本人だからこそのエッセンスをそこに加えるということが、日本でそうした音楽をやる上で最も重要なことであるとも。まんまトレースしたって面白くないし、聴く意味もない。でも亮介の音楽にはそうした音楽とは全く違う、この人が作って歌うからこそのものが確かにある。だから佐々木亮介というアーティストを心から愛して信頼しているのだ。フラッドとは全く異なる亮介のソロはそんなことを自分に実感させてくれる。
「Cwondo君と初めて会ったのはRUDE GALLERYのイベントで、渋谷で深夜にやった時で、SANABAGUN.の一平君(澤村一平)と一緒にやった時だったんだけど、めちゃくちゃカッコいいから一緒にやりたいなと思って声かけて。まさかa flood of circleのライブに来ていたなんて思わなかったけど(笑)」
と、自分がカッコいいと思ったアーティストが自分たちのファンであるということに少し恥ずかしさも感じていたようであるが、しかしながらフラッドを聴いてライブに来ていたからこそカッコいいアーティスト、バンドになったとも言える。ライブに来ていたくらいに好きだということは間違いなく影響を受けているということだから。
そんなMCから、同期のデジタルなR&Bサウンドに乗せて亮介がアコギを弾きながら
「あ〜 もう めんどくさいわ めんどくさい
夢は呪い 邪魔くさい もう現実バイビー」
と、自堕落なようでいて実は真理を射抜いているという実に亮介らしい歌詞(ソロでは「だり〜」と歌う「Blanket Song」という曲もある)の「夢は呪い」から新作モードへと突入すると、
「このpace このtasteじゃなきゃ
出来ない歌もあるのさ」
と韻の踏み方も絶好調にして自身の生き様を歌う「小さな世界」へという流れは直前に亮介が
「今日はダラダラやりたいなと思って」
と言っていたモードを体現するかのようなものである。ある意味では生き急いでいるかのようにハイペースで制作やライブを繰り返す亮介は実はマイペースに生きているだけなのかもしれないと思うほどに。かつてスペシャの番組に出演した時にもそのリリースペースについて聞かれた時に「曲が出来ちゃうから仕方ない」とも言っていたし。しかしダラダラやるというのがライブのテンポが悪いということには全くならない、むしろ普通のソロアーティストのライブよりもはるかにテンポが良いというあたりはさすがである。
しかしながらアコギを弾きながら「Baby 君のことだよ」を歌い始めると、急に同期の音が止まってしまう。なんとか復旧させようと亮介とマネージャー氏が奮闘する間、客席からは
「パソコン頑張れー!」
とパソコンを鼓舞する声が上がり、手拍子まで起こるという謎の一体感が発生するというのもわざわざ平日に新代田まで亮介のソロライブを観に来る人たちならではのものだろう。結果的にこの曲の時にはパソコンは復旧することができずにアコギでの弾き語りとなるのだが、亮介は観客にコーラスの合唱を求めながら真後ろを向いたりと、あらゆる方向の観客の表情を見ながら
「ギター持ってて良かったね〜」
と笑顔で弾き語りするのであるが、
「Oh baby 月が綺麗です
Oh baby 君のことだよ」
というサビのフレーズは亮介の文学少年っぷりを感じさせるとともに、これまでにフラッドでも月にまつわるロマンチックな歌詞を書いてきたのは夏目漱石が「I love you」をそう表現したことの影響があるんじゃないかとも思えてくる。
そうこうしている間にパソコンが復旧して音が出るようになると、一気にそれまでとは全く異なるデジタルなノイズサウンドが爆音で会場に鳴り響く。真っ赤な照明に照らされながら亮介が
「これは反則かもしれない曲だけど、カバーをやります」
と言ってハンドマイクで歌い始めたのはフラッドの「Black Eye Blues」なのであるが、そのサウンドはただのバンドでのバックトラックのカラオケというものではなくて、ソロ仕様にバキバキのデジタルサウンドを加えまくっており、さらには亮介は曲中に緑茶割りのおかわりをするべくステージから客席を通過してバーカウンターに歩いて行って緑茶割りをもらって戻ってくるというフリーダムっぷり。ある意味ではこれも1人だけでライブができて、しかも弾き語りではなくて同期の音が流れているソロの形態だからこそできるものだ。1人だけでのライブはその亮介1人の本質が浮かび上がってくるというか。
この日はフロアライブということで本来のライブなら立っているステージの上には「HARIBO IS MY GOD」のジャケ写の絵が飾られており、それを紹介しながら、亮介はこのライブから配信だけではなくて物販でCDが販売されていることにも触れるのであるが、
「今さらCD出すのなんて合理的に見たら間違ってるけど、俺は初めてスピッツを聴いた時に合理的に生きていくことをやめた(笑)」
と口にする。メジャーというシーンに所属しながらも、儲かるか儲からないかの二元論ではないところで亮介は生きている。自分がやりたいことをやって生きていくという。だから自分が出したければたとえ売れなくてもCDも出す。
その姿勢はこうして音楽を聴いてライブを観に行く側としても背筋を正されるというか、感じるものがある。人気があるから、これを見たりそれについて書けばリアクションがたくさんもらえるという理由で聴いたりライブを観たりするのではなくて、ただただ自分自身が心からかっこいいと思うものだけを聴いてライブを観に行く。そこには合理性というものが入り込んでくる余地はない。自分は死ぬまでそうやって生きていきたいと思っているし、佐々木亮介の生き様はそんな自分の生き方でいいんだなと思わせてくれる。だから佐々木亮介という男が自分のカッコ良さ(音楽だけではない部分も含めて)の基準になっている。
そんな佐々木亮介の音楽としてのカッコ良さの最新系であるのがアルバムタイトル曲である「HARIBO IS MY GOD」であるのだが、かねてから亮介が大好きだと公言してきたハリボー(グミのお菓子)を冠したこの曲はヒップホップ、R&Bというサウンドにグランジかつノイジーなギターが乗るという、今の若いアメリカのラッパーやR&Bシンガーも取り入れている形態のものではあるのだが、やはり亮介がそうしたギターを鳴らすとリアルタイムでグランジなどのアメリカのオルタナギターロックを聴いてきた者としてのサウンドであるということが感じられる。つまりはそれはこうしたサウンドが亮介から自然に出てきていると思えるような。
それはソロでのバンドサウンド(このソロプロジェクト開始当時はウエノコウジや弓木英梨乃らによるバンド編成でもライブをやっていた)をデジタルサウンドに変換したパーティーチューン「Snowy Snowy Day, YA!」もそうであるのだが、タイトル通りに完全なる冬の時期の曲でもこの季節に演奏されることに違和感を感じないのは、この会場内が外界から隔離された秘密基地のようですらあるからだろうか。時に亮介が弾き語りで歌うこともある「Fly me to the moon」を歌詞として取り入れていたりというあたりも亮介のルーツがそのまま自身の音楽として出ている。
そして個人的にヒップホップ、R&B的なサウンドに亮介の歌謡性や歌心が最大限に注入された曲だと思っているのが新作収録曲の「JUDY JUDY JUDY」。先行配信された時から名曲だと思っていたが、こうしてタイトルフレーズを同期のクワイアに任せるという形でのライブで聴くとより一層それを実感することができる。亮介もあらゆる方向の観客を見て笑顔を浮かべて歌っている姿が、やはりこうして観に来て良かったなと思わせてくれるし、それはフロアライブという距離の近さだからこそより実感できることでもある。
さらにはこのライブのタイトルにもなっている「自由研究」では「チューペット」などの夏休みの情景を想起させる歌詞が歌われる中で亮介は
「俺のテーマはいつも決まってる
君だよBaby」
と歌うのであるが、それは観客の方を指差しながら歌うけれど、我々観客にとってもそうなのだ。もし自分が今自由研究をやるとしたら「何故佐々木亮介はこんなにハイペースに様々なタイプの音楽を生み出し、それがどれも素晴らしいのか」というテーマにするだろう。実際に自由研究をやるなんてのは中学生くらいまでだろうけれど、亮介はずっとそのメンタリティを持って生きているかのような。だからこそ我々にとってのテーマも君=亮介なのである。
そして最後の曲は
「今ドイツにいる友達と作った曲で…今日日本に帰ってきてるのかな?でも君がドイツ人だろうと日本人だろうとウクライナ人だろうとロシア人だろうとどうでもいい」
と口にしてから演奏された「We Alright」。その言葉は人種や国籍としてどうこうではなくてその人自身を亮介が見ているという生きる姿勢を感じさせるし、何がどうあれロシア人であるというだけで非難したりするのは愚かなことであるということを改めて確かなものにしてくれるのであるが、この曲はROTH BART BARONの三船雅也と一緒に作った曲であり、その友達というのもこの曲で一瞬聴いただけでそれとわかる神聖なハイトーンコーラスを歌っている三船のことだろうけれど、亮介のソロに参加して以降、アジカンの客演やTV番組での絶賛、さらにはBiSHのアイナ・ジ・エンドとのコラボなど、瞬く間にオーバーグラウンドな方へ飛んで行った三船が今でも亮介と友達であり続けているということが亮介の口振りからわかるのが本当に嬉しい。それは両者がやはり合理性よりも人間性や音楽性を何よりも大事にして生きているということがわかるからだ。いろんなことがある世の中、社会だけれど、佐々木亮介がこうして
「We Alright どんだけ間違っても
We Alright どんだけはみだしても
We Alright 味方でいるぜ」
と歌ってくれていればやはりWe Alrightだと思える。そういう力が亮介の音楽と歌には確かに宿っているということを感じさせてくれるような自由研究だった。
ライブが終わると再びDJブースには片平実が現れて、今度は余韻を噛み締めさせてくれるようなチルなサウンドの曲をかける。酒を飲んだり写真を撮ったり体を揺らしたり。それぞれの思い思いの楽しみ方でライブ後の時間を過ごす中、自分はやはり改めて佐々木亮介の音楽や生き様が自分にとっての「カッコいい」の基準になっていることを実感していた。だからこそフラッドだけではなくソロも弾き語りも観に行けるのなら可能な限り観に行こうと思っている。俺のテーマはいつも決まってる。佐々木だからだ。
1.Long Island Ice-tea
2.大脱走 / The Great Escape
3.The Night Of Star Fish
4.Meme Song
5.Sofa Party
6.小さな世界
7.夢は呪い
8.Baby 君のことだよ
9.Black Eye Blues
10.HARIBO IS MY GOD
11.Snowy Snowy Day, YA!
12.JUDY JUDY JUDY
13.自由研究
14.We Alright
The Mirraz presents シン・Pyramid de 427 part13 @西永福JAM 4/29 ホーム
ヒトリエ 「10年後のルームシック・ガールズエスケープTOUR」 @LIQUIDROOM 4/25