板歯目 大阪名古屋ツーマン&東京ワンマンTOUR 2023 春 「ばんばんクソッタレツアー!」 @代官山SPACE ODD 4/22
- 2023/04/23
- 19:39
今年の1月に幕張メッセイベントホールで開催されたSPACE SHOWER TVの「LIVE HOLIC」に行った時に、司会の元[Alexandros]の庄村聡泰が
「出会っちまったバンド」
と評していたのが、まだ10代という若さのスリーピースバンド、板歯目。自身がアリーナクラスのバンドのメンバーとして活動し、様々なバンドと対バンしたり、ライブを見てきたサトヤスがそう言うくらいに衝撃的だったということでもあり、自分もその「出会っちまった」衝撃に引きずられるようにしてこの日の代官山SPACE ODDのワンマンへ。
その注目度の高さを表すようにかなり早めの段階からチケットがソールドアウトしていたこの日は客席後方まで超満員となっており、今のこのバンドへの期待と注目度の高さがわかるのであるが、パッと見で観客の8割以上が男性というのは少し意外であった。それゆえに開演前からハードコア・メタルバンドのライブかのような暑苦しさに満ちているし、若干ステージが見にくくもある。
17時30分という土曜日にしても早めな開演時間になるとメンバー3人がステージに登場。千乂詩音(ボーカル&ギター)は鮮やかな金髪で、LIVE HOLICで見た時はフォーマルな出で立ちだったイメージがあるゆーへー(ベース)は伸びた髪や服装も含めて完全に自身の憧れであるDIR EN GREYのToshiyaにそっくりと言える出で立ちになっている。ドラムの庵原大和はほとんどドラムセットに座った姿は見えないけれど、見た目的には最も地味というか、普通であると言える。
すると千乂が、まるでSuperfly「愛を込めて花束を」を彷彿とさせるメロディアスなギターを弾いたかと思いきや、ゆーへーのベースと庵原のドラムの音が加わると一気に重厚感が増していく「Holy Crazy」からスタートするのであるが、サビのタイトルフレーズではメンバーだけではなくて拳を振り上げた観客も声を発しているというあたりに、バンドと観客の双方が待ちに待った、溜め込んできたものを爆発させようとしているのを感じさせる。思えばバンド歴的にもまだ観客が歌える状況でのライブというのもそんなに経験していないはずだ。
すると早くもゆーへーがステージ前に出てきてスラップベースを弾きまくるイントロのライブアレンジが施されてから始まった「ちっちゃいカマキリ」ではそのゆーへーのベース、奇声を張り上げながら手数の多さと正確性、さらには一打の力強さを兼ね備えた庵原のドラム、昨今珍しいドスの効いた、ロックバンドのボーカルをやるために備わっているかのような千乂の歌声が、やはりこのバンドはメンバーそれぞれが化け物的なプレイヤーであり、それがバンドという集合体になることによって、このバンドでしかない凄まじいグルーヴを生み出しているということがよくわかるし、その音で頭をぶん殴られているかのような強さだ。さらには真っ赤な照明が燃え盛るステージと客席の熱さを表しているかのような「フリーダムスタンダード」と、テンポ良く駆け抜けていくようにアッパーな曲が続いていく。
それはライブ中ではそもそもリズム隊の2人は話さないし、千乂もまたあまり喋るのが得意ではない(正直、最初に話している声を聞いてあのボーカルスタイルを想像できる人はいないと思う)というのは
「「ばんばんクソッタレツアー」っていうアホみたいなツアー名をつけてしまいまして…」
と自虐するMCを聞いていてもわかるのであるが、そんな喋るのが得意ではない3人が楽器を持ってステージに立てば誰よりも雄弁になれるということを示すかのように「芸術は大爆発だ!」がまさに爆発的なエネルギーを持って鳴らされると、一転して歌詞に蒼さを感じるような切なさが宿っている「エバー」とガラッとイメージが変わるような曲を続けるのであるが、そこにこそこのバンドの二面性が表れているというか、ほとんどの曲が高校生の頃に書かれたからこそ、そうした蒼さを全開にした曲があるとも言えるし、それは脱退した前任ベーシストが書いたものであるからとも言える。
個人的にはそんな蒼さとは対照的にシュールかつユーモアな歌詞の曲がこのバンドらしさであると思っているのだが、それはタイトルフレーズをゲシュタルト崩壊するくらいに繰り返しまくる「アンチョビットマシンガン」で最も感じるし、その意味がないはずの歌詞でさえもこんなにも繰り返されると何かシリアスなメッセージが込められているのかもしれない…と思うくらいにこのバンドの術中にハマっている感があるのだが、そんな幻想を搔き消すような曲中でのメンバーのソロ回しではそれぞれが卓越したプレイヤビリティの高さを見せつけてくれる中、庵原はドラムソロでは空中を叩いている(つまりバスドラの音しか鳴らなくなる)というパフォーマンスを見せて笑わせてくれる。時にしっかりコーラスを務めながらも、時には奇声を発し、立ち上がったりもする庵原の存在こそがあらゆる意味で自由でしかないこのバンドの土台になっているのは間違いないだろう。
そんな庵原が作詞作曲を手がけるという、演奏面だけではなくて実はソングライティングの面でもこのメンバーたちが全員化け物であり、このバンドがその集合体であることを感じるのは「Ball & Cube with Vegetable」であるのだが、そんな曲のサビが実にメロディアスかつ伸びやかであるというあたりが、庵原が超絶テクニックだけではなくて歌心も持ったドラマーであるということがよくわかる。
千乂がMCを振っても全く話そうとしない2人は親指を立てたり、ゆーへーに至ってはベースの音を鳴らして返事したりするのであるが、そうして話を振るのは千乂が2人に
「2人とも勇気ある?大丈夫?」
と曲に繋がる振りもしているからであり、その振り通りの「勇気ついた」は四つ打ちのリズムとクリーントーンのギターというサウンドが観客の体を心地よく揺らしてくれるような軽快さを持った曲であり、その曲に続く「絵空」もまた庵原の作詞作曲による、このバンドの持つメロディの美しさ、キャッチーさと、それを表現するための演奏力の高さでもあるということを感じさせてくれる曲であり、なんならこうしたタイプの曲がライブハウスを超えた世の中の広い場所から求められたりしても全く不思議ではないし、なんならマジでこのバンドのこうしたメロディアスな曲がTVの中などから流れてくるようになる可能性を自分は感じまくっている。
でもやはりこのバンドらしさは千乂の書くシュールな、絶対このバンドじゃないと出てこないなと思うような歌詞だとも思うし、轟音サウンドに乗せて
「めんどくせーめんどくせー」
と連呼する「Y(ワニ)」はまさにそんな板歯目らしさが凝縮した曲であるとともに、そのサウンドや演奏もさらに激しくなっていくのは、ゆーへーが前に出てきてポーズを決めたり観客の方を指差したりするというV系バンド的なパフォーマンスをしながらもゴリゴリのベースを弾きまくる「KILLER, Muddy Greed」で、客席でも拳が振り上がりまくるくらいの熱狂を生み出す。そのゆーへーのパフォーマンスや姿が美しいとすら思ってしまったのは、彼が魅惑的なメイクを施しているからであるのだが、マジで見た目だけを見たらなんでこんなバラッバラ過ぎるくらいにバラバラな3人が同じバンドをやっているんだろうかと思う人もいるんじゃないかと思う。千乂の歌声も曲やサウンドが激しい曲が並んだこともあってか、さらに迫力を増してきている。
そんなこのバンドは去年配信で曲をリリースしまくっているのだが、その中の1曲であるのがタイトルだけでインパクト絶大な「ラブソングはいらない」。
「さっき見たな さっき聴いたな
みんな同じで飽き飽きすんだそういうの」
というラブソングへの強烈な皮肉的なメッセージ。自分はラブソングがあってもいいし、なくてもいいという性質であるのだが、いわゆるTVの音楽番組なんかで喧伝されるような「泣けるラブソング」的な曲で泣いた試しは全くない。むしろそうした曲に1ミリたりとも共感できずに生きてきたからこそ、逆にこのバンドのこうした歌詞や姿勢には強く共感しているというか、自分がライブを見て一発で惹かれて、こうしてワンマンまで足を運んだもちろんそのライブや鳴らしている音が凄まじいからという前提もありつつ、このバンドの(この曲に関しては作詞作曲ともに庵原)こうした精神に共感している部分もあるんじゃないだろうかとも思っている。
するとゆーへーがベースをチェンジして、椅子に座って弾くというスタイルになるのは、大切な人がお化けになってしまったという、つまりは喪失の悲しみを歌っているようでもありながらも、死んだではなくてお化けになったと歌うあたりがユーモラスにも感じられる「私が悲しいんです」であるのだが、緩急という意味で言えばこの曲は完全に緩の部分であり、このバンドがただひたすらに爆裂するだけではなくて、メロディを聴かせる部分をしっかり持ち合わせているということがわかるし、そうしたタイプの曲だからこそ、千乂の感情を思いっきり込めるフレーズを作ることによる表現力を感じさせてくれる。千乂はとかく声の良さを評価されることが多いボーカリストだと思うが、その表現力や歌唱力も実は素晴らしいものを持っているボーカリストだと改めてこうした曲を聴くと思う。
そのままゆーへいが座ってベースを弾く形で
「でぃーだっだらだっだらだらだら 鐘を鳴らしてディンドンディンドン」
という、対照的にもはや意味性などから解き放たれたかのようなお祭りソング「dingdong jungle」が演奏されるのだが、こうしてワンマンだからこその長い持ち時間のライブを見ることによって、改めて一面的には語ることができないくらいに様々な要素を持ったバンドであることがよくわかる。もはや客席はサウンドと歌詞の通りにお祭り騒ぎ的な状態になっているのだが。
しかしただ曲を演奏するだけではなく、曲間ではベースを戻したゆーへいがミニサイズペットボトルでベースを弾いたり、千乂がテルミンのような楽器を鳴らし、それをゆーへいにも演奏させて自身はその隙にゆーへいのベースを持ったり(弾きはしない)という悪戯っ子っぷりを見せる自由な演奏時間まで設けられるのであるが、そのテルミンは曲には一切使用されていないというあたりがライブに来てくれた人へのサービスでもあり、このバンドの自由さでもある。
そんな演奏から再びアッパーに攻めまくっていくように「でっかいサンダル」が鳴らされるのであるが、個人的にはこの曲の
「でっかいサンダル
そこに当てはめようとしないで
足は21.5
お前のサンダルは28.5」
という歌詞は少年ナイフかのように身近な、普通なら歌詞にならないようなことをも歌詞にしている発想力を感じさせながらも、大きな世界に対する小さな自分というメタファーのようにも感じられるあたりが、シュールなようでいて実は意味を孕んでいるというこのバンドらしさを最大限に感じられる曲なんじゃないかとも思っている。
すると千乂は前回のワンマンライブ時に自身が号泣してしまったことを明かし、
「もう泣かないから!」
と宣言しながら最後のブロックへと入っていくのであるが、
「花見へゴー!海へゴー!焼き芋ゴー!イルミネーション!」
という、四季を死ぬほど単純な言葉で言い換えたようなサビをあえて千乂が単調なように、感情を込めないように歌うのが面白い「沈む!」が独特の異様な一体感を醸成するのであるが、この歌詞はある意味ではコロナ禍において花見をしたり海に行ったりすることが出来なかった抑圧からの解放を目指していたり…と深読みしてしまう。
さらにはクライマックスへ向かって加速していくように、ゆーへーも自身のサイドから千乂の方へと歩いて行ってベースを弾きながら、サビではメンバー全員と観客による
「先生!」
の合唱が起きる「コドモドラゴン」ではバンドのサウンドもさらに重く強くなり、千乂の歌唱もそれに負けないようにドスっぷりを増していくと、メンバー自身に対して、さらには我々へ対しての警鐘であるかのようなメッセージの「まず疑ってかかれ」が放たれるのであるが、やはり自分も初対面の人などには最初は疑って接してしまうだけになかなか普通は共感できないようなことでも実に共感性が高いし、そんな歌詞を飛びっきりキャッチーなメロディに乗せ、それを観客も含めて全員で歌うことによってさらにキャッチーに響く。そういう意味ではこうしてようやく観客が一緒に歌えるようになったことでライブでの本領がさらに発揮できるようになったバンドと言えるのかもしれない。
そしてタイトル通りに(と言っていいのかわからないようなタイトルだけど)、3人の楽器が競い合うようにぶつかり合い、庵原はさらに奇声を上げながら立ち上がってドラムを叩き、ゆーへーは千乂の真後ろに立ってベースを立てるようにして弾くことによって、まるで千乂の背中からベースが生えているようにすら見える。そんな演奏している姿だけでこんなに笑わせてくれるようなバンドはそうそういないし、何よりもその演奏があまりに凄まじ過ぎるというのがこのバンドのライブでしか体感できないものだ。
そんなライブの最後を締めるのは最新配信曲であり、このツアーのタイトルにもなっている「くそったれ人生最悪の」であり、聴き手を煙に巻くようなシュールな歌詞の曲がたくさんあるこのバンドが
「さよなら人生最悪の出逢いに感謝しておくよ」
と、悔しさを抱え込むだけではなくてそれを持ったまま、そうした経験すらもプラスに捉えて前に進んでいこうというようなメッセージを、シンプルかつストレートなバンドサウンドに乗せて鳴らしている。それはこのバンドが自分たちの書く歌詞に最も相応しいメロディやサウンドはどういうものかということを自分たちで体得しているということを示しているかのようだった。
アンコールではメンバーがこの日の物販で販売されている白のTシャツに着替えて登場し、このバンドのシグネチャーともいうような轟音サウンドとは対照的と言っていいような隙間を多く作った抑制されたサウンドに、高校生だった当時の夢を載せるかのような歌詞の「イチキュウ'89」を演奏し始めるのだが、本編最後でも少し感極まっているかのように見えた千乂は明らかに泣いていた。そもそもこの曲は歌ったら絶対に泣いてしまうと思っていたから封印していたらしいのであるが、そんな曲の封印を解いたということはやはりメンバーにとってもこの日のワンマンが特別なものであり、この日この場所に至るまでのバンドの歩んできた全ての日々を自分たちで抱きしめるようにしてこの曲を鳴らしたのであろう。
「君の夢になろう」
というフレーズを聴いて、こうして板歯目が歌っている姿を見て、自分は自分の夢に向かって歩いていこうと思える人も間違いなくたくさんいるはずだ。
すると千乂は
「さっきの「くそったれ人生最悪の」がクソ納得いかなかったんで、もう一回やります!」
と言って本当に「くそったれ人生最悪の」のやり直し演奏を始めるのであるが、自分は本編で聴いても特段ダメだったところはなかったと思っていたのだが、この2回目の演奏での爆発力を見て、ストレートに歌い鳴らすだけではなくて、こうして板歯目らしく鳴らしたかったんだなとも思った。それを自分たちで理解していて、瞬時に修正できるというあたりの自己認識力も素晴らしいが、それはやはりこの日自体をここにいる全員にとって素晴らしい日にするという思いがあるからこそだろう。
そうして満足な演奏かできたことによって笑顔を浮かべながら、自分たちが今着ているTシャツのデザイン(漫画のキャラになったメンバー3人の姿が描かれている)を、千乂が好きな漫画家に書いてもらった喜びを語りながら、後ろの方にいる観客にも見えるようにジャンプしたりすると、LIVE HOLICの時に自分が1番衝撃を受けた「地獄と地獄」がやはりこの日もトドメとばかりに演奏されるのであるが、あの時はゆーへーがスタッフにベースを持たせてそれを正面から弾くというとんでもないパフォーマンスを見せていたのだが、流石にこの日はそれはないにしてもゆーへーはバスドラの上に立ってベースを弾き、千乂の歌唱もバンドの演奏も音源で聴くよりも圧倒的に速さを増している。
「バンド名が読めない!」
という自虐によってまとめる曲であるが、確かに一見しただけでは読めないような名前たけれど、きっとこれから先はバンド名が読めないという人は減っていくだろう。それくらいにこの板歯目という名前はもっと広がっていくはずだ。
そう思っていたらさらに千乂が
「6月に配信する新曲を最後にやりまーす」
と言って新曲「SPANKY ALIEN」を初披露。イントロのスラップベースの悶絶するような凄まじさはこのバンドのカッコ良さを最大限に放出するようなもので、新曲とは思えないくらいにサビでは観客の腕がこれまでの代表曲たちと同じように上がりまくっている。それはこの曲がこれから先のこのバンドを担うアンセム的な曲になるということを予感させずにはいられないものだった。
演奏が終わると千乂が
「告知映像流れるから見て行ってね〜」
と言うと、ステージ背面に現れたスクリーンには6月にこの「SPANKY ALIEN」が配信されることが改めて告知されて音源としてもワンコーラス流れると、さらに全国ツアーの開催までもが発表されてスケジュールが映し出されるのだが、ファイナルの東京は渋谷WWW。個人的にはこの日の即完っぷりから考えたらQUATTROか、あるいはLIQUIDROOMまで行くんじゃないかとも思っていた。
ということは今の状況に比してキャパはかなり小さいということになるのだが、ライブ後にメンバー3人が物販に立って観客に接しているところに自分も参加させてもらうと、今のこのバンドはライブに来てくれる人全員としっかり向き合ってコミュニケーションを取ろうとしているんだなと思うし、それができるキャパを選んでいるとも言える。でもきっとすぐにそれを超える日が来る。というかもうその状況まで来ている。でもZeppクラスまで行っても変わらずにこうして物販に立っていそうな気もするし、それがこんなに化け物みたいに凄まじい演奏をするメンバーの親しみやすさ、距離の近さにもなっている。そんなバンドの本質が見えた板歯目のワンマンだった。
1.Holy Crazy
2.ちっちゃいカマキリ
3.フリーダムスタンダード
4.芸術は大爆発だ!
5.エバー
6.アンチョビットマシンガン
7.Ball & Cube with Vegetable
8.勇気ついた
9.絵空
10.Y(ワニ)
11.KILLER, Muddy Greed
12.ラブソングはいらない
13.私が悲しいんです
14.dingdong jungle
15.でっかいサンダル
16.沈む!
17.コドモドラゴン
18.まず疑ってかかれ
19.バトルカメ
20.くそったれ人生最悪の
encore
21.イチキュウ'89
22.くそったれ人生最悪の
23.地獄と地獄
24.SPANKY ALIEN (新曲)
「出会っちまったバンド」
と評していたのが、まだ10代という若さのスリーピースバンド、板歯目。自身がアリーナクラスのバンドのメンバーとして活動し、様々なバンドと対バンしたり、ライブを見てきたサトヤスがそう言うくらいに衝撃的だったということでもあり、自分もその「出会っちまった」衝撃に引きずられるようにしてこの日の代官山SPACE ODDのワンマンへ。
その注目度の高さを表すようにかなり早めの段階からチケットがソールドアウトしていたこの日は客席後方まで超満員となっており、今のこのバンドへの期待と注目度の高さがわかるのであるが、パッと見で観客の8割以上が男性というのは少し意外であった。それゆえに開演前からハードコア・メタルバンドのライブかのような暑苦しさに満ちているし、若干ステージが見にくくもある。
17時30分という土曜日にしても早めな開演時間になるとメンバー3人がステージに登場。千乂詩音(ボーカル&ギター)は鮮やかな金髪で、LIVE HOLICで見た時はフォーマルな出で立ちだったイメージがあるゆーへー(ベース)は伸びた髪や服装も含めて完全に自身の憧れであるDIR EN GREYのToshiyaにそっくりと言える出で立ちになっている。ドラムの庵原大和はほとんどドラムセットに座った姿は見えないけれど、見た目的には最も地味というか、普通であると言える。
すると千乂が、まるでSuperfly「愛を込めて花束を」を彷彿とさせるメロディアスなギターを弾いたかと思いきや、ゆーへーのベースと庵原のドラムの音が加わると一気に重厚感が増していく「Holy Crazy」からスタートするのであるが、サビのタイトルフレーズではメンバーだけではなくて拳を振り上げた観客も声を発しているというあたりに、バンドと観客の双方が待ちに待った、溜め込んできたものを爆発させようとしているのを感じさせる。思えばバンド歴的にもまだ観客が歌える状況でのライブというのもそんなに経験していないはずだ。
すると早くもゆーへーがステージ前に出てきてスラップベースを弾きまくるイントロのライブアレンジが施されてから始まった「ちっちゃいカマキリ」ではそのゆーへーのベース、奇声を張り上げながら手数の多さと正確性、さらには一打の力強さを兼ね備えた庵原のドラム、昨今珍しいドスの効いた、ロックバンドのボーカルをやるために備わっているかのような千乂の歌声が、やはりこのバンドはメンバーそれぞれが化け物的なプレイヤーであり、それがバンドという集合体になることによって、このバンドでしかない凄まじいグルーヴを生み出しているということがよくわかるし、その音で頭をぶん殴られているかのような強さだ。さらには真っ赤な照明が燃え盛るステージと客席の熱さを表しているかのような「フリーダムスタンダード」と、テンポ良く駆け抜けていくようにアッパーな曲が続いていく。
それはライブ中ではそもそもリズム隊の2人は話さないし、千乂もまたあまり喋るのが得意ではない(正直、最初に話している声を聞いてあのボーカルスタイルを想像できる人はいないと思う)というのは
「「ばんばんクソッタレツアー」っていうアホみたいなツアー名をつけてしまいまして…」
と自虐するMCを聞いていてもわかるのであるが、そんな喋るのが得意ではない3人が楽器を持ってステージに立てば誰よりも雄弁になれるということを示すかのように「芸術は大爆発だ!」がまさに爆発的なエネルギーを持って鳴らされると、一転して歌詞に蒼さを感じるような切なさが宿っている「エバー」とガラッとイメージが変わるような曲を続けるのであるが、そこにこそこのバンドの二面性が表れているというか、ほとんどの曲が高校生の頃に書かれたからこそ、そうした蒼さを全開にした曲があるとも言えるし、それは脱退した前任ベーシストが書いたものであるからとも言える。
個人的にはそんな蒼さとは対照的にシュールかつユーモアな歌詞の曲がこのバンドらしさであると思っているのだが、それはタイトルフレーズをゲシュタルト崩壊するくらいに繰り返しまくる「アンチョビットマシンガン」で最も感じるし、その意味がないはずの歌詞でさえもこんなにも繰り返されると何かシリアスなメッセージが込められているのかもしれない…と思うくらいにこのバンドの術中にハマっている感があるのだが、そんな幻想を搔き消すような曲中でのメンバーのソロ回しではそれぞれが卓越したプレイヤビリティの高さを見せつけてくれる中、庵原はドラムソロでは空中を叩いている(つまりバスドラの音しか鳴らなくなる)というパフォーマンスを見せて笑わせてくれる。時にしっかりコーラスを務めながらも、時には奇声を発し、立ち上がったりもする庵原の存在こそがあらゆる意味で自由でしかないこのバンドの土台になっているのは間違いないだろう。
そんな庵原が作詞作曲を手がけるという、演奏面だけではなくて実はソングライティングの面でもこのメンバーたちが全員化け物であり、このバンドがその集合体であることを感じるのは「Ball & Cube with Vegetable」であるのだが、そんな曲のサビが実にメロディアスかつ伸びやかであるというあたりが、庵原が超絶テクニックだけではなくて歌心も持ったドラマーであるということがよくわかる。
千乂がMCを振っても全く話そうとしない2人は親指を立てたり、ゆーへーに至ってはベースの音を鳴らして返事したりするのであるが、そうして話を振るのは千乂が2人に
「2人とも勇気ある?大丈夫?」
と曲に繋がる振りもしているからであり、その振り通りの「勇気ついた」は四つ打ちのリズムとクリーントーンのギターというサウンドが観客の体を心地よく揺らしてくれるような軽快さを持った曲であり、その曲に続く「絵空」もまた庵原の作詞作曲による、このバンドの持つメロディの美しさ、キャッチーさと、それを表現するための演奏力の高さでもあるということを感じさせてくれる曲であり、なんならこうしたタイプの曲がライブハウスを超えた世の中の広い場所から求められたりしても全く不思議ではないし、なんならマジでこのバンドのこうしたメロディアスな曲がTVの中などから流れてくるようになる可能性を自分は感じまくっている。
でもやはりこのバンドらしさは千乂の書くシュールな、絶対このバンドじゃないと出てこないなと思うような歌詞だとも思うし、轟音サウンドに乗せて
「めんどくせーめんどくせー」
と連呼する「Y(ワニ)」はまさにそんな板歯目らしさが凝縮した曲であるとともに、そのサウンドや演奏もさらに激しくなっていくのは、ゆーへーが前に出てきてポーズを決めたり観客の方を指差したりするというV系バンド的なパフォーマンスをしながらもゴリゴリのベースを弾きまくる「KILLER, Muddy Greed」で、客席でも拳が振り上がりまくるくらいの熱狂を生み出す。そのゆーへーのパフォーマンスや姿が美しいとすら思ってしまったのは、彼が魅惑的なメイクを施しているからであるのだが、マジで見た目だけを見たらなんでこんなバラッバラ過ぎるくらいにバラバラな3人が同じバンドをやっているんだろうかと思う人もいるんじゃないかと思う。千乂の歌声も曲やサウンドが激しい曲が並んだこともあってか、さらに迫力を増してきている。
そんなこのバンドは去年配信で曲をリリースしまくっているのだが、その中の1曲であるのがタイトルだけでインパクト絶大な「ラブソングはいらない」。
「さっき見たな さっき聴いたな
みんな同じで飽き飽きすんだそういうの」
というラブソングへの強烈な皮肉的なメッセージ。自分はラブソングがあってもいいし、なくてもいいという性質であるのだが、いわゆるTVの音楽番組なんかで喧伝されるような「泣けるラブソング」的な曲で泣いた試しは全くない。むしろそうした曲に1ミリたりとも共感できずに生きてきたからこそ、逆にこのバンドのこうした歌詞や姿勢には強く共感しているというか、自分がライブを見て一発で惹かれて、こうしてワンマンまで足を運んだもちろんそのライブや鳴らしている音が凄まじいからという前提もありつつ、このバンドの(この曲に関しては作詞作曲ともに庵原)こうした精神に共感している部分もあるんじゃないだろうかとも思っている。
するとゆーへーがベースをチェンジして、椅子に座って弾くというスタイルになるのは、大切な人がお化けになってしまったという、つまりは喪失の悲しみを歌っているようでもありながらも、死んだではなくてお化けになったと歌うあたりがユーモラスにも感じられる「私が悲しいんです」であるのだが、緩急という意味で言えばこの曲は完全に緩の部分であり、このバンドがただひたすらに爆裂するだけではなくて、メロディを聴かせる部分をしっかり持ち合わせているということがわかるし、そうしたタイプの曲だからこそ、千乂の感情を思いっきり込めるフレーズを作ることによる表現力を感じさせてくれる。千乂はとかく声の良さを評価されることが多いボーカリストだと思うが、その表現力や歌唱力も実は素晴らしいものを持っているボーカリストだと改めてこうした曲を聴くと思う。
そのままゆーへいが座ってベースを弾く形で
「でぃーだっだらだっだらだらだら 鐘を鳴らしてディンドンディンドン」
という、対照的にもはや意味性などから解き放たれたかのようなお祭りソング「dingdong jungle」が演奏されるのだが、こうしてワンマンだからこその長い持ち時間のライブを見ることによって、改めて一面的には語ることができないくらいに様々な要素を持ったバンドであることがよくわかる。もはや客席はサウンドと歌詞の通りにお祭り騒ぎ的な状態になっているのだが。
しかしただ曲を演奏するだけではなく、曲間ではベースを戻したゆーへいがミニサイズペットボトルでベースを弾いたり、千乂がテルミンのような楽器を鳴らし、それをゆーへいにも演奏させて自身はその隙にゆーへいのベースを持ったり(弾きはしない)という悪戯っ子っぷりを見せる自由な演奏時間まで設けられるのであるが、そのテルミンは曲には一切使用されていないというあたりがライブに来てくれた人へのサービスでもあり、このバンドの自由さでもある。
そんな演奏から再びアッパーに攻めまくっていくように「でっかいサンダル」が鳴らされるのであるが、個人的にはこの曲の
「でっかいサンダル
そこに当てはめようとしないで
足は21.5
お前のサンダルは28.5」
という歌詞は少年ナイフかのように身近な、普通なら歌詞にならないようなことをも歌詞にしている発想力を感じさせながらも、大きな世界に対する小さな自分というメタファーのようにも感じられるあたりが、シュールなようでいて実は意味を孕んでいるというこのバンドらしさを最大限に感じられる曲なんじゃないかとも思っている。
すると千乂は前回のワンマンライブ時に自身が号泣してしまったことを明かし、
「もう泣かないから!」
と宣言しながら最後のブロックへと入っていくのであるが、
「花見へゴー!海へゴー!焼き芋ゴー!イルミネーション!」
という、四季を死ぬほど単純な言葉で言い換えたようなサビをあえて千乂が単調なように、感情を込めないように歌うのが面白い「沈む!」が独特の異様な一体感を醸成するのであるが、この歌詞はある意味ではコロナ禍において花見をしたり海に行ったりすることが出来なかった抑圧からの解放を目指していたり…と深読みしてしまう。
さらにはクライマックスへ向かって加速していくように、ゆーへーも自身のサイドから千乂の方へと歩いて行ってベースを弾きながら、サビではメンバー全員と観客による
「先生!」
の合唱が起きる「コドモドラゴン」ではバンドのサウンドもさらに重く強くなり、千乂の歌唱もそれに負けないようにドスっぷりを増していくと、メンバー自身に対して、さらには我々へ対しての警鐘であるかのようなメッセージの「まず疑ってかかれ」が放たれるのであるが、やはり自分も初対面の人などには最初は疑って接してしまうだけになかなか普通は共感できないようなことでも実に共感性が高いし、そんな歌詞を飛びっきりキャッチーなメロディに乗せ、それを観客も含めて全員で歌うことによってさらにキャッチーに響く。そういう意味ではこうしてようやく観客が一緒に歌えるようになったことでライブでの本領がさらに発揮できるようになったバンドと言えるのかもしれない。
そしてタイトル通りに(と言っていいのかわからないようなタイトルだけど)、3人の楽器が競い合うようにぶつかり合い、庵原はさらに奇声を上げながら立ち上がってドラムを叩き、ゆーへーは千乂の真後ろに立ってベースを立てるようにして弾くことによって、まるで千乂の背中からベースが生えているようにすら見える。そんな演奏している姿だけでこんなに笑わせてくれるようなバンドはそうそういないし、何よりもその演奏があまりに凄まじ過ぎるというのがこのバンドのライブでしか体感できないものだ。
そんなライブの最後を締めるのは最新配信曲であり、このツアーのタイトルにもなっている「くそったれ人生最悪の」であり、聴き手を煙に巻くようなシュールな歌詞の曲がたくさんあるこのバンドが
「さよなら人生最悪の出逢いに感謝しておくよ」
と、悔しさを抱え込むだけではなくてそれを持ったまま、そうした経験すらもプラスに捉えて前に進んでいこうというようなメッセージを、シンプルかつストレートなバンドサウンドに乗せて鳴らしている。それはこのバンドが自分たちの書く歌詞に最も相応しいメロディやサウンドはどういうものかということを自分たちで体得しているということを示しているかのようだった。
アンコールではメンバーがこの日の物販で販売されている白のTシャツに着替えて登場し、このバンドのシグネチャーともいうような轟音サウンドとは対照的と言っていいような隙間を多く作った抑制されたサウンドに、高校生だった当時の夢を載せるかのような歌詞の「イチキュウ'89」を演奏し始めるのだが、本編最後でも少し感極まっているかのように見えた千乂は明らかに泣いていた。そもそもこの曲は歌ったら絶対に泣いてしまうと思っていたから封印していたらしいのであるが、そんな曲の封印を解いたということはやはりメンバーにとってもこの日のワンマンが特別なものであり、この日この場所に至るまでのバンドの歩んできた全ての日々を自分たちで抱きしめるようにしてこの曲を鳴らしたのであろう。
「君の夢になろう」
というフレーズを聴いて、こうして板歯目が歌っている姿を見て、自分は自分の夢に向かって歩いていこうと思える人も間違いなくたくさんいるはずだ。
すると千乂は
「さっきの「くそったれ人生最悪の」がクソ納得いかなかったんで、もう一回やります!」
と言って本当に「くそったれ人生最悪の」のやり直し演奏を始めるのであるが、自分は本編で聴いても特段ダメだったところはなかったと思っていたのだが、この2回目の演奏での爆発力を見て、ストレートに歌い鳴らすだけではなくて、こうして板歯目らしく鳴らしたかったんだなとも思った。それを自分たちで理解していて、瞬時に修正できるというあたりの自己認識力も素晴らしいが、それはやはりこの日自体をここにいる全員にとって素晴らしい日にするという思いがあるからこそだろう。
そうして満足な演奏かできたことによって笑顔を浮かべながら、自分たちが今着ているTシャツのデザイン(漫画のキャラになったメンバー3人の姿が描かれている)を、千乂が好きな漫画家に書いてもらった喜びを語りながら、後ろの方にいる観客にも見えるようにジャンプしたりすると、LIVE HOLICの時に自分が1番衝撃を受けた「地獄と地獄」がやはりこの日もトドメとばかりに演奏されるのであるが、あの時はゆーへーがスタッフにベースを持たせてそれを正面から弾くというとんでもないパフォーマンスを見せていたのだが、流石にこの日はそれはないにしてもゆーへーはバスドラの上に立ってベースを弾き、千乂の歌唱もバンドの演奏も音源で聴くよりも圧倒的に速さを増している。
「バンド名が読めない!」
という自虐によってまとめる曲であるが、確かに一見しただけでは読めないような名前たけれど、きっとこれから先はバンド名が読めないという人は減っていくだろう。それくらいにこの板歯目という名前はもっと広がっていくはずだ。
そう思っていたらさらに千乂が
「6月に配信する新曲を最後にやりまーす」
と言って新曲「SPANKY ALIEN」を初披露。イントロのスラップベースの悶絶するような凄まじさはこのバンドのカッコ良さを最大限に放出するようなもので、新曲とは思えないくらいにサビでは観客の腕がこれまでの代表曲たちと同じように上がりまくっている。それはこの曲がこれから先のこのバンドを担うアンセム的な曲になるということを予感させずにはいられないものだった。
演奏が終わると千乂が
「告知映像流れるから見て行ってね〜」
と言うと、ステージ背面に現れたスクリーンには6月にこの「SPANKY ALIEN」が配信されることが改めて告知されて音源としてもワンコーラス流れると、さらに全国ツアーの開催までもが発表されてスケジュールが映し出されるのだが、ファイナルの東京は渋谷WWW。個人的にはこの日の即完っぷりから考えたらQUATTROか、あるいはLIQUIDROOMまで行くんじゃないかとも思っていた。
ということは今の状況に比してキャパはかなり小さいということになるのだが、ライブ後にメンバー3人が物販に立って観客に接しているところに自分も参加させてもらうと、今のこのバンドはライブに来てくれる人全員としっかり向き合ってコミュニケーションを取ろうとしているんだなと思うし、それができるキャパを選んでいるとも言える。でもきっとすぐにそれを超える日が来る。というかもうその状況まで来ている。でもZeppクラスまで行っても変わらずにこうして物販に立っていそうな気もするし、それがこんなに化け物みたいに凄まじい演奏をするメンバーの親しみやすさ、距離の近さにもなっている。そんなバンドの本質が見えた板歯目のワンマンだった。
1.Holy Crazy
2.ちっちゃいカマキリ
3.フリーダムスタンダード
4.芸術は大爆発だ!
5.エバー
6.アンチョビットマシンガン
7.Ball & Cube with Vegetable
8.勇気ついた
9.絵空
10.Y(ワニ)
11.KILLER, Muddy Greed
12.ラブソングはいらない
13.私が悲しいんです
14.dingdong jungle
15.でっかいサンダル
16.沈む!
17.コドモドラゴン
18.まず疑ってかかれ
19.バトルカメ
20.くそったれ人生最悪の
encore
21.イチキュウ'89
22.くそったれ人生最悪の
23.地獄と地獄
24.SPANKY ALIEN (新曲)
ヒトリエ 「10年後のルームシック・ガールズエスケープTOUR」 @LIQUIDROOM 4/25 ホーム
新宿Song Book 出演:えーるず / THE 抱きしめるズ / 少年キッズボウイ / ザ・ラヂオカセッツ @新宿紅布 4/21