新宿Song Book 出演:えーるず / THE 抱きしめるズ / 少年キッズボウイ / ザ・ラヂオカセッツ @新宿紅布 4/21
- 2023/04/22
- 19:57
今月初めに日比谷野音で行われた「若者のすべて」で転換中に流れていた中に、全然知らないバンドだけど一瞬で心を奪われた曲があった。そのバンドの名前は少年キッズボウイという、全く同じ意味の単語を三つ並べるというセンスの持ち主の7人組だった。知ってから毎日のように曲を聴いており、これはライブをやるなら観に行くしかないということで、少年キッズボウイが出演する新宿紅布のイベント「Song Book」へ。
・えーるず
なのだが新宿へ向かう電車が遅れてしまっただけに、着いて中に入った時にはすでにトップバッターのえーるずのライブが始まっていた。ギター&ボーカルの男性と、ベースとドラムは目元にラメのメイクを施したスリーピースバンド。
シティポップ的なサウンドかと思ったらいきなりギターが轟音ロックサウンドになったり(余談だがボーカルのたかはしけいごは鬼滅の刃の炭治郎役などでおなじみの声優の花江夏樹に似ていると思う)と、ギター、ベース、ドラムという自分たちが鳴らす楽器一つずつだけとは思えないサウンドのバラエティと表現力を見せてくれるのであるが、それに加えてベースのギギとドラムのふゆもコーラスではなくてボーカルとして歌うというのがさらなる曲の広がりを見せてくれるとともに、そうして歌い分けることによるキャッチーさまでをも感じさせてくれる。つまりはいきなり出会ってしまった、素晴らしい演奏技術とライブの技術を持つバンドだということである。
しかもたかはしは最初は自身にとってのトレードマークなんじゃないかと思っていたメガネを吹っ飛ばしてギターを弾きまくるのであるが、それはそうなってしまうくらいに思いっきり感情を込めたギターを弾いているということである。
挨拶くらいでMCらしい時間も全くなしで、ひたすらに曲を演奏しまくったことによって35分の持ち時間で15曲というファストコアパンクバンドも驚きのライブのテンポの良さ。全ては音楽で、曲で伝えると言わんばかりのストイックさ。心地良いサウンドに体がついつい反応して揺れてしまうのも、拳を挙げたくなるのも、全く曲を知らない、どんなバンドなのかも知らない状態で見たこのライブが素晴らしいものだったからだ。
・THE 抱きしめるズ
この日の出演者の中で昔から存在と名前だけを知っていたのがこのTHE 抱きしめるズであり、デビュー時のモテない高校生的なアー写と、銀杏BOYZのファンからも「パクり」と言われまくっていたことはよく覚えている。だがライブを見る機会は今までなかったために、この日が初遭遇となる。
そんなデビュー時のイメージとはメンバーの出で立ちや空気が全く違うのは、当時のメンバーはギターの篠崎大河(実はこの会場である紅布の店長でもある)以外は全員脱退しており、ギターだった篠崎がギターに転向、現在は長髪を靡かせながらギターを弾く姿が只者ではないのが一眼でわかる井上大輔と、いろんなバンドを経て年輪を重ねてきたのであろうことがわかるキモツ(ドラム)の三人組になっており、サポートとして大森靖子のバンドでもおなじみの、ステージ中央で真横を向くようなセッティングで演奏するベーシストのえらめぐみが参加している。
いざその音を鳴らし始めた瞬間に思ったのは、そうしたメンバーが参加していることによって、かつての下手だけど衝動やモラトリアムを逆噴射的に炸裂させているというバンドではなくなり、しっかりと音楽を、曲を聴かせようというモードにシフトしたということ。それによって元から持っていたキャッチーな部分、ポップなメロディが際立ちながらも、上手側でライブハウスの壁に体当たりするかのようにして飛び跳ねまくりながらギターを弾く篠崎の衝動も自分自身の内面へというよりバンドへ、ライブへと向かっていることがわかる。曲終わりのキュンポーズと、WBCメキシコ代表のレフトとして日本の得点を好守備で阻みまくったランディ・アロザレーナ(タンパベイ・レイズ)かと思うようなドヤ顔はよく分からないけれど。
そんな変化は篠崎の
「もう15年このバンドをやってるんだけど、ボーカルが脱退した時にマジでわかりやすく客が0人になって、その後に俺以外のメンバーが全員抜けて、俺がギターからボーカルになりました。かつては対バンのバンドをみんな解散させてやる!って思ってライブをやってたんだけど、そうやってても誰も解散しなかった(笑)
でも今は本当にただバンドをやりたい、ライブをやりたいと思って活動しているし、できている。それはこうして一緒にバンドをやってくれるメンバーや、ぽつりぽつりと増えてきた、こうやってライブを見に来てくれるあなたのおかげ」
という言葉からも滲んでいる。その言葉が、このバンドが鳴らした新曲という、チューリップの「心の旅」をエモーショナルギターロックにしたような(かつてほどパンクというイメージが浮かぶサウンドではなくて、もっとしっかりポップに整理されている)曲が、同じような音楽を聴いて音楽に、バンドに目覚めて、色んな現実を知りながらも未だに音楽が他のどんなものよりも大事であり続けているという意味で自分が篠崎と同じような人間だからだ。
井上が髪を振り乱しまくりながらギターを弾いたことによって、えーるずのたかはしに続いてメガネが吹っ飛んで紛失しながらもキモツはメガネが見つかる前に次の曲を始めてしまうというのも含めて(あれだけの演奏をしているメンバー全員がコーラスに参加しているというあたりにやはりこのメンバーのプレイヤビリティの高さを感じざるを得ない)、篠崎の見た目通りのコミカルさやとっつき易さをバンドが発しているのであるが、そんな大人になった、でもレールの上を歩くだけのつまらない人生の大人ではなくて、今でも大好きなものにドキドキし続けながら周りの人達への思いやりを感じさせる大人になったというのが、このバンドの曲がそうあり続けたい自分のための音楽なんじゃないかと思えた。それはサウンドだけなら当時の自分のど真ん中そのものだったデビュー時よりもはるかに。篠崎自身はもちろん、THE 抱きしめるズは本当の意味でバンド名通りに目の前にいる人を音で抱きしめてくれるバンドになっていた。
・少年キッズボウイ
そして3番手として登場するのが、この日の自分のお目当てである、少年キッズボウイ。7人組バンドであるためにサウンドチェックの段階からステージはかなり窮屈そうでもあるのだが、このバンドだけサウンドチェックでしっかり曲を演奏していた理由はこの後にメンバーの口から明かされるのであった。きもすのトランペットの高らかな響きはこの時点で否が応でも期待を高まらせてくれる。
セッション的にメンバー全員が音を鳴らすイントロから、MVなどの映像で見るよりもさらに美人なアキラ(ボーカル)が自己紹介的な挨拶を何ヵ国語かで口にする「スラムドッグ・サリー」でスタートすると、そのどこか抒情や儚さをも感じさせるような内容の歌詞を飛びっきりキャッチーかつポップなメロディで歌うというこのバンドらしさが炸裂していく。それは7人という大所帯メンバーがみんな楽しそうな笑顔を浮かべながら演奏している姿を見ても感じられるものであるし、そんなこのバンドの曲を手がけるこーしくん(ボーカル)がタンバリンを叩きながら歌うことによって自然と我々も手拍子をしたくなってしまうからでもある。
一転して「だってTAKE it EASY」は、髪を結いてサングラスをかけていることによってMVなどよりもいかつい風貌(ある意味では新宿という場所に実に似合っていると言える)のGB(ドラム)と、実に幼い風貌の服部(ベース)というコントラストのリズム隊と、カッティングを軸とした山岸とカツマタのギター隊の演奏によって実に軽やかな、体が自然と左右に揺れるようなポップソングと、公式サイトのバイオグラフィーを見てもわかる通りに、メンバーそれぞれが幅広いジャンルやサウンドのアーティストの音楽を聴いてきたバンドとしての幅広さを感じさせてくれる。
そんなこのバンドは服部とカツマタがこの春から社会人になったことによって、メンバー全員が仕事とバンドを両立しているという状況になったことを明かし、だからこそまだ新入社員は有給が取れないためにサウンドチェックでしっかり曲を演奏したという理由が語られる。
「全然、少年でもキッズでもボウイでもない(笑)」
とメンバー自身からツッコミを入れられる状況になったというわけである。
そんなこのバンドが結成初期の段階ですでに名曲を生み出していたバンドであることがわかるのは「海を見に行く」であり、
「シャンディ・ガフ飲みかけた僕のグラスに浮かんだ歯痒い言葉」
とアキラが歌い始める横でこーしくんが体育座りをしているというのはそのアキラの歌唱を活かそうとしてのパフォーマンスであるということがわかるのであるが、初期の曲であるからかこの曲はまだ最近の曲よりもギターロックという感覚が強い。それだけに山岸とカツマタの歪んだギターサウンドがバンドの、サウンドのカッコ良さに直結している曲でもある。
そうしたアキラのボーカルの分量が大きい曲の後には、こーしくんによる
「死にたいな。殺してくれ!!」
という衝撃的な絶唱的な歌唱が響き渡る「春の子供」へ。しかしそんな歌詞を含んでいながらもきもすのトランペットのサウンドなどがやはり楽曲そのもののイメージとしてはやはりポップに感じさせる。そのギャップというか、どんな歌詞や物語であってもそれを飛びっきりポップに響かせることができるというのが少年キッズボウイというバンドだということがライブを見るとよりよくわかる。
そんなこのバンドが今まさに新しい曲が生まれまくっている真っ只中であることを感じさせてくれるのが、服部のモータウン的なイントロのベースからこーしくんのポエトリーリーディング的な歌唱に繋がっていく未発表曲「In The City」。タイトルだけ見たら完全にThe Crashであるが、そこにはここまでの曲のポップさに加えて今までとは違うこのバンドのカッコ良さも確かに感じられるだけにリリースが楽しみであるし、個人的にはこうした曲こそ歌詞カードを見ながら聴きたいだけにフィジカルCDでのリリースもして欲しいと思っている。(今は配信のみ)
そんなこのバンドは物販で「バンドの攻略本」を販売しているのであるが、サングラスを外して厳つさが親しみやすさに少し変わったGBが
「バンドの攻略本って何?(笑)」
と問うとこーしくんが
「僕が書いた曲の漫画が載ってたりします。子供の頃は漫画家になりたかったんですけど、今はこうして楽しくバンドをやれています」
と解説。しかしこの日はその攻略本が10部しか販売されていなかっただけに、ライブ後に買いに行ったらすでに売り切れていた。それを買うためにもまたすぐにライブを見に行くしかないと思っている。
そんな独特な物販を販売していたりというスタンスのこのバンドの最新曲が、自分がハマり、こうしてライブに行くきっかけになった曲である「最終兵器ディスコ」。最初にMVを見た時に「これは令和の「Love & DISCO」(the telephones)だ」と思った。個人的2000年代後半以降最強のダンスアンセムであるあの曲と、そのさらに前の時代に世界を踊らせたDaft Punk「One More Time」のミッシングリンク。そんな大層なことを言いたくなってしまうのは、知ってから自分は毎朝この曲を聴いていて、聴くとどんなに憂鬱だったり眠かったりするような日でも前に進んでいけるような力をくれるからだ。
そんな魔法のような力を持ったポップミュージックを、客席のミラーボールが回る中でアキラは手を左右に振りながら歌う。まだそこまでライブ経験が豊富とは言えないバンドであるだけに、ボーカリスト2人は声量なども含めてまだまだライブをやっていけば伸び代しかないと思っているのだが、現時点でもアキラの声にはそんな超ド級のポップミュージックをさらにアンセムたらしめるような不思議な力が宿っていると思う。すでに自分はサビではメンバーと一緒に歌いまくれるくらいにこの曲を合唱していたのであるが、アキラのボーカルが完全に覚醒した時には何千、何万人という人と一緒にこの曲を歌えるような予感しかない。それくらいに2023年最大級のアンセムだと思っている。音源ではキーが上がりながらフェードアウトしていくのが割と早めに演奏が終わってしまい、「もっとこの曲に浸っていたい!」と思ってしまったくらいに。
そしてそんなアンセムによって熱狂した会場に最後投下されたのが、この曲が生まれたことによって状況が変わったという「ぼくらのラプソディー」。こちらも「最終兵器ディスコ」とは全く違う、アキラのヒップホップ的な歌唱なども含めた展開の多さも全て引っくるめてポップに集約していくような曲であるのだが、やはり
「ベイベー ぼくらが生まれた街で海賊たちがみんなを殺す
列に並んで、なけなしのパンと死んだプライドを差し出すのです。」
という絶望的な歌詞すらも、そんな状況の中から光を見出して歌い踊るためのポップミュージック。
「戦争ゲームを止める兵器がぼくにもあれば、、」
というこーしくんの叫びにも似たボーカルがカタルシスを生み出す中で響くきもすのファンファーレのようなトランペット。それはこれからの未来で音楽シーンの歴史を作っていくバンドのライブを初めて見ることができたことの喜びを自分に向けて鳴らす凱歌のようですらあった。
この日、自分たちのライブはもちろん、他の出演バンドのライブを誰よりも楽しんでいたのは客席で踊りまくっていたこのバンドのメンバーたちだった。それは平日は仕事をしたりしながらも、こうして大好きな音楽を浴びて、自分たちもまた大好きな音楽を鳴らすことによって7人が同じ方向を向き、同じ意思を持ってバンドに向かっているような。それはまさにバンドを始めたばかりの少年そのもの。つまりこのバンドはやはりキッズでありボウイであり、社会人になってもそうして生きていけるということを我々に示してくれている。
1.スラムドッグ・サリー
2.だってTAKE it EASY
3.海を見に行く
4.春の子供
5.In The City
6.最終兵器ディスコ
7.ぼくらのラプソディー
・ザ・ラヂオカセッツ
そんなすでに最高極まりないこの日のトリはザ・ラヂオカセッツ。THE 抱きしめるズの篠崎大河とは同世代ということからも、メンバーの見た目からもわかることであるが、すでに長いキャリアを持ち、その歴史の中で様々な変化を乗り越えながらも続いてきた5人組バンドである。
そうしたキャリアを持ち、数え切れないくらいにライブをやってきたであろうバンドであるだけに、5人のメンバーそれぞれの音の配置や聴かせ方のバランスが抜群。それはいきなり歌詞に「新宿Song Book」「レッドクロス」とこの日のライブタイトルや会場名を入れるという機転を利かせた、お笑いコンビ・Aマッソの加納と結婚している山下秀樹(ボーカル&ギター)の歌をしっかり伝えるためのサウンドでもあるのだろうけれど、個人的にはかつて活動休止する前は毎回ライブを見に行っていたバンドであるOverTheDogsの樋口三四郎が今はこのバンドのギタリストであり、久しぶりにギターを弾く姿を見れたのも嬉しかった。ハットを被ってガンガン前に出てギターを弾きまくるギター小僧っぷりは、顔を見ると年齢を重ねたことを感じたりもするけれど、全く変わることはない。
そんな嬉しい再会をもたらしてくれたこのバンドはわずか2ヶ月前にキーボードとして沢田レヲが加入して5人組になったということで、そのグッドメロディをよりキャッチーに彩る要素が増えたということであるのだが、MCも一部担当する渡辺ヒロ(ベース)、さらにはリズムの安定感とバンドとしてのカッコ良さを両立する手数と一打の強さで土台としてこの音楽を支える大谷ペン(ドラム)も含めて全員がコーラスではなくてボーカルを務めることができるという強みを持ったバンド(だからこそハットを吹っ飛ばすギタリストとしての激しさだけではなくて歌うこともできる三四郎というギタリストを求めたのであろう)であり、来月には「メンバーそれぞれがソロで出演する、5人での対バンライブ」という禁断の企画までも組める。今では全員が歌える、全然がソングライターという新世代バンドも増えてきているが、その世代の前からこのバンドはそれを実践し、それをグッドメロディのポップミュージックというもので統一してきたのである。
それは今最も「全員がソングライターであり歌えるバンド」の筆頭として名前が挙がるであろう、マカロニえんぴつに連なる部分にも感じられる。というか、タイミングや運などが噛み合っていれば、今マカロニえんぴつがいるような位置にまでこのバンドは行くことができていたのかもしれない。そう思うくらいのキャッチーなメロディとポップなサウンド。それに加えてアンコールの初期曲にして大事な曲であろう「東京」の前にはこの日の全出演者の名前を口にする優しさを見せ、少年キッズボウイのメンバーたちは飛び跳ねながら楽しみ、えーるずやTHE 抱きしめるズのメンバーは腕を挙げて応えていた。それはこの日ここに集まった人たちにとってのテーマ曲がこの「東京」だったということ。三四郎がTHE WHOのピート・タウンゼントばりに(THE 抱きしめるズの篠崎もそうしていた)腕をグルグルと回しまくって後ろに倒れてしまうという姿はポップでありながらもロックバンドに憧れてライブハウスで生きてきたバンドであることを示していた。現金を持ち合わせていなかったのだが、持っていたら全バンド音源を買おうと思うくらい、やっぱりライブハウスって素晴らしいなと思えた東京、新宿での一夜だった。
・えーるず
なのだが新宿へ向かう電車が遅れてしまっただけに、着いて中に入った時にはすでにトップバッターのえーるずのライブが始まっていた。ギター&ボーカルの男性と、ベースとドラムは目元にラメのメイクを施したスリーピースバンド。
シティポップ的なサウンドかと思ったらいきなりギターが轟音ロックサウンドになったり(余談だがボーカルのたかはしけいごは鬼滅の刃の炭治郎役などでおなじみの声優の花江夏樹に似ていると思う)と、ギター、ベース、ドラムという自分たちが鳴らす楽器一つずつだけとは思えないサウンドのバラエティと表現力を見せてくれるのであるが、それに加えてベースのギギとドラムのふゆもコーラスではなくてボーカルとして歌うというのがさらなる曲の広がりを見せてくれるとともに、そうして歌い分けることによるキャッチーさまでをも感じさせてくれる。つまりはいきなり出会ってしまった、素晴らしい演奏技術とライブの技術を持つバンドだということである。
しかもたかはしは最初は自身にとってのトレードマークなんじゃないかと思っていたメガネを吹っ飛ばしてギターを弾きまくるのであるが、それはそうなってしまうくらいに思いっきり感情を込めたギターを弾いているということである。
挨拶くらいでMCらしい時間も全くなしで、ひたすらに曲を演奏しまくったことによって35分の持ち時間で15曲というファストコアパンクバンドも驚きのライブのテンポの良さ。全ては音楽で、曲で伝えると言わんばかりのストイックさ。心地良いサウンドに体がついつい反応して揺れてしまうのも、拳を挙げたくなるのも、全く曲を知らない、どんなバンドなのかも知らない状態で見たこのライブが素晴らしいものだったからだ。
・THE 抱きしめるズ
この日の出演者の中で昔から存在と名前だけを知っていたのがこのTHE 抱きしめるズであり、デビュー時のモテない高校生的なアー写と、銀杏BOYZのファンからも「パクり」と言われまくっていたことはよく覚えている。だがライブを見る機会は今までなかったために、この日が初遭遇となる。
そんなデビュー時のイメージとはメンバーの出で立ちや空気が全く違うのは、当時のメンバーはギターの篠崎大河(実はこの会場である紅布の店長でもある)以外は全員脱退しており、ギターだった篠崎がギターに転向、現在は長髪を靡かせながらギターを弾く姿が只者ではないのが一眼でわかる井上大輔と、いろんなバンドを経て年輪を重ねてきたのであろうことがわかるキモツ(ドラム)の三人組になっており、サポートとして大森靖子のバンドでもおなじみの、ステージ中央で真横を向くようなセッティングで演奏するベーシストのえらめぐみが参加している。
いざその音を鳴らし始めた瞬間に思ったのは、そうしたメンバーが参加していることによって、かつての下手だけど衝動やモラトリアムを逆噴射的に炸裂させているというバンドではなくなり、しっかりと音楽を、曲を聴かせようというモードにシフトしたということ。それによって元から持っていたキャッチーな部分、ポップなメロディが際立ちながらも、上手側でライブハウスの壁に体当たりするかのようにして飛び跳ねまくりながらギターを弾く篠崎の衝動も自分自身の内面へというよりバンドへ、ライブへと向かっていることがわかる。曲終わりのキュンポーズと、WBCメキシコ代表のレフトとして日本の得点を好守備で阻みまくったランディ・アロザレーナ(タンパベイ・レイズ)かと思うようなドヤ顔はよく分からないけれど。
そんな変化は篠崎の
「もう15年このバンドをやってるんだけど、ボーカルが脱退した時にマジでわかりやすく客が0人になって、その後に俺以外のメンバーが全員抜けて、俺がギターからボーカルになりました。かつては対バンのバンドをみんな解散させてやる!って思ってライブをやってたんだけど、そうやってても誰も解散しなかった(笑)
でも今は本当にただバンドをやりたい、ライブをやりたいと思って活動しているし、できている。それはこうして一緒にバンドをやってくれるメンバーや、ぽつりぽつりと増えてきた、こうやってライブを見に来てくれるあなたのおかげ」
という言葉からも滲んでいる。その言葉が、このバンドが鳴らした新曲という、チューリップの「心の旅」をエモーショナルギターロックにしたような(かつてほどパンクというイメージが浮かぶサウンドではなくて、もっとしっかりポップに整理されている)曲が、同じような音楽を聴いて音楽に、バンドに目覚めて、色んな現実を知りながらも未だに音楽が他のどんなものよりも大事であり続けているという意味で自分が篠崎と同じような人間だからだ。
井上が髪を振り乱しまくりながらギターを弾いたことによって、えーるずのたかはしに続いてメガネが吹っ飛んで紛失しながらもキモツはメガネが見つかる前に次の曲を始めてしまうというのも含めて(あれだけの演奏をしているメンバー全員がコーラスに参加しているというあたりにやはりこのメンバーのプレイヤビリティの高さを感じざるを得ない)、篠崎の見た目通りのコミカルさやとっつき易さをバンドが発しているのであるが、そんな大人になった、でもレールの上を歩くだけのつまらない人生の大人ではなくて、今でも大好きなものにドキドキし続けながら周りの人達への思いやりを感じさせる大人になったというのが、このバンドの曲がそうあり続けたい自分のための音楽なんじゃないかと思えた。それはサウンドだけなら当時の自分のど真ん中そのものだったデビュー時よりもはるかに。篠崎自身はもちろん、THE 抱きしめるズは本当の意味でバンド名通りに目の前にいる人を音で抱きしめてくれるバンドになっていた。
・少年キッズボウイ
そして3番手として登場するのが、この日の自分のお目当てである、少年キッズボウイ。7人組バンドであるためにサウンドチェックの段階からステージはかなり窮屈そうでもあるのだが、このバンドだけサウンドチェックでしっかり曲を演奏していた理由はこの後にメンバーの口から明かされるのであった。きもすのトランペットの高らかな響きはこの時点で否が応でも期待を高まらせてくれる。
セッション的にメンバー全員が音を鳴らすイントロから、MVなどの映像で見るよりもさらに美人なアキラ(ボーカル)が自己紹介的な挨拶を何ヵ国語かで口にする「スラムドッグ・サリー」でスタートすると、そのどこか抒情や儚さをも感じさせるような内容の歌詞を飛びっきりキャッチーかつポップなメロディで歌うというこのバンドらしさが炸裂していく。それは7人という大所帯メンバーがみんな楽しそうな笑顔を浮かべながら演奏している姿を見ても感じられるものであるし、そんなこのバンドの曲を手がけるこーしくん(ボーカル)がタンバリンを叩きながら歌うことによって自然と我々も手拍子をしたくなってしまうからでもある。
一転して「だってTAKE it EASY」は、髪を結いてサングラスをかけていることによってMVなどよりもいかつい風貌(ある意味では新宿という場所に実に似合っていると言える)のGB(ドラム)と、実に幼い風貌の服部(ベース)というコントラストのリズム隊と、カッティングを軸とした山岸とカツマタのギター隊の演奏によって実に軽やかな、体が自然と左右に揺れるようなポップソングと、公式サイトのバイオグラフィーを見てもわかる通りに、メンバーそれぞれが幅広いジャンルやサウンドのアーティストの音楽を聴いてきたバンドとしての幅広さを感じさせてくれる。
そんなこのバンドは服部とカツマタがこの春から社会人になったことによって、メンバー全員が仕事とバンドを両立しているという状況になったことを明かし、だからこそまだ新入社員は有給が取れないためにサウンドチェックでしっかり曲を演奏したという理由が語られる。
「全然、少年でもキッズでもボウイでもない(笑)」
とメンバー自身からツッコミを入れられる状況になったというわけである。
そんなこのバンドが結成初期の段階ですでに名曲を生み出していたバンドであることがわかるのは「海を見に行く」であり、
「シャンディ・ガフ飲みかけた僕のグラスに浮かんだ歯痒い言葉」
とアキラが歌い始める横でこーしくんが体育座りをしているというのはそのアキラの歌唱を活かそうとしてのパフォーマンスであるということがわかるのであるが、初期の曲であるからかこの曲はまだ最近の曲よりもギターロックという感覚が強い。それだけに山岸とカツマタの歪んだギターサウンドがバンドの、サウンドのカッコ良さに直結している曲でもある。
そうしたアキラのボーカルの分量が大きい曲の後には、こーしくんによる
「死にたいな。殺してくれ!!」
という衝撃的な絶唱的な歌唱が響き渡る「春の子供」へ。しかしそんな歌詞を含んでいながらもきもすのトランペットのサウンドなどがやはり楽曲そのもののイメージとしてはやはりポップに感じさせる。そのギャップというか、どんな歌詞や物語であってもそれを飛びっきりポップに響かせることができるというのが少年キッズボウイというバンドだということがライブを見るとよりよくわかる。
そんなこのバンドが今まさに新しい曲が生まれまくっている真っ只中であることを感じさせてくれるのが、服部のモータウン的なイントロのベースからこーしくんのポエトリーリーディング的な歌唱に繋がっていく未発表曲「In The City」。タイトルだけ見たら完全にThe Crashであるが、そこにはここまでの曲のポップさに加えて今までとは違うこのバンドのカッコ良さも確かに感じられるだけにリリースが楽しみであるし、個人的にはこうした曲こそ歌詞カードを見ながら聴きたいだけにフィジカルCDでのリリースもして欲しいと思っている。(今は配信のみ)
そんなこのバンドは物販で「バンドの攻略本」を販売しているのであるが、サングラスを外して厳つさが親しみやすさに少し変わったGBが
「バンドの攻略本って何?(笑)」
と問うとこーしくんが
「僕が書いた曲の漫画が載ってたりします。子供の頃は漫画家になりたかったんですけど、今はこうして楽しくバンドをやれています」
と解説。しかしこの日はその攻略本が10部しか販売されていなかっただけに、ライブ後に買いに行ったらすでに売り切れていた。それを買うためにもまたすぐにライブを見に行くしかないと思っている。
そんな独特な物販を販売していたりというスタンスのこのバンドの最新曲が、自分がハマり、こうしてライブに行くきっかけになった曲である「最終兵器ディスコ」。最初にMVを見た時に「これは令和の「Love & DISCO」(the telephones)だ」と思った。個人的2000年代後半以降最強のダンスアンセムであるあの曲と、そのさらに前の時代に世界を踊らせたDaft Punk「One More Time」のミッシングリンク。そんな大層なことを言いたくなってしまうのは、知ってから自分は毎朝この曲を聴いていて、聴くとどんなに憂鬱だったり眠かったりするような日でも前に進んでいけるような力をくれるからだ。
そんな魔法のような力を持ったポップミュージックを、客席のミラーボールが回る中でアキラは手を左右に振りながら歌う。まだそこまでライブ経験が豊富とは言えないバンドであるだけに、ボーカリスト2人は声量なども含めてまだまだライブをやっていけば伸び代しかないと思っているのだが、現時点でもアキラの声にはそんな超ド級のポップミュージックをさらにアンセムたらしめるような不思議な力が宿っていると思う。すでに自分はサビではメンバーと一緒に歌いまくれるくらいにこの曲を合唱していたのであるが、アキラのボーカルが完全に覚醒した時には何千、何万人という人と一緒にこの曲を歌えるような予感しかない。それくらいに2023年最大級のアンセムだと思っている。音源ではキーが上がりながらフェードアウトしていくのが割と早めに演奏が終わってしまい、「もっとこの曲に浸っていたい!」と思ってしまったくらいに。
そしてそんなアンセムによって熱狂した会場に最後投下されたのが、この曲が生まれたことによって状況が変わったという「ぼくらのラプソディー」。こちらも「最終兵器ディスコ」とは全く違う、アキラのヒップホップ的な歌唱なども含めた展開の多さも全て引っくるめてポップに集約していくような曲であるのだが、やはり
「ベイベー ぼくらが生まれた街で海賊たちがみんなを殺す
列に並んで、なけなしのパンと死んだプライドを差し出すのです。」
という絶望的な歌詞すらも、そんな状況の中から光を見出して歌い踊るためのポップミュージック。
「戦争ゲームを止める兵器がぼくにもあれば、、」
というこーしくんの叫びにも似たボーカルがカタルシスを生み出す中で響くきもすのファンファーレのようなトランペット。それはこれからの未来で音楽シーンの歴史を作っていくバンドのライブを初めて見ることができたことの喜びを自分に向けて鳴らす凱歌のようですらあった。
この日、自分たちのライブはもちろん、他の出演バンドのライブを誰よりも楽しんでいたのは客席で踊りまくっていたこのバンドのメンバーたちだった。それは平日は仕事をしたりしながらも、こうして大好きな音楽を浴びて、自分たちもまた大好きな音楽を鳴らすことによって7人が同じ方向を向き、同じ意思を持ってバンドに向かっているような。それはまさにバンドを始めたばかりの少年そのもの。つまりこのバンドはやはりキッズでありボウイであり、社会人になってもそうして生きていけるということを我々に示してくれている。
1.スラムドッグ・サリー
2.だってTAKE it EASY
3.海を見に行く
4.春の子供
5.In The City
6.最終兵器ディスコ
7.ぼくらのラプソディー
・ザ・ラヂオカセッツ
そんなすでに最高極まりないこの日のトリはザ・ラヂオカセッツ。THE 抱きしめるズの篠崎大河とは同世代ということからも、メンバーの見た目からもわかることであるが、すでに長いキャリアを持ち、その歴史の中で様々な変化を乗り越えながらも続いてきた5人組バンドである。
そうしたキャリアを持ち、数え切れないくらいにライブをやってきたであろうバンドであるだけに、5人のメンバーそれぞれの音の配置や聴かせ方のバランスが抜群。それはいきなり歌詞に「新宿Song Book」「レッドクロス」とこの日のライブタイトルや会場名を入れるという機転を利かせた、お笑いコンビ・Aマッソの加納と結婚している山下秀樹(ボーカル&ギター)の歌をしっかり伝えるためのサウンドでもあるのだろうけれど、個人的にはかつて活動休止する前は毎回ライブを見に行っていたバンドであるOverTheDogsの樋口三四郎が今はこのバンドのギタリストであり、久しぶりにギターを弾く姿を見れたのも嬉しかった。ハットを被ってガンガン前に出てギターを弾きまくるギター小僧っぷりは、顔を見ると年齢を重ねたことを感じたりもするけれど、全く変わることはない。
そんな嬉しい再会をもたらしてくれたこのバンドはわずか2ヶ月前にキーボードとして沢田レヲが加入して5人組になったということで、そのグッドメロディをよりキャッチーに彩る要素が増えたということであるのだが、MCも一部担当する渡辺ヒロ(ベース)、さらにはリズムの安定感とバンドとしてのカッコ良さを両立する手数と一打の強さで土台としてこの音楽を支える大谷ペン(ドラム)も含めて全員がコーラスではなくてボーカルを務めることができるという強みを持ったバンド(だからこそハットを吹っ飛ばすギタリストとしての激しさだけではなくて歌うこともできる三四郎というギタリストを求めたのであろう)であり、来月には「メンバーそれぞれがソロで出演する、5人での対バンライブ」という禁断の企画までも組める。今では全員が歌える、全然がソングライターという新世代バンドも増えてきているが、その世代の前からこのバンドはそれを実践し、それをグッドメロディのポップミュージックというもので統一してきたのである。
それは今最も「全員がソングライターであり歌えるバンド」の筆頭として名前が挙がるであろう、マカロニえんぴつに連なる部分にも感じられる。というか、タイミングや運などが噛み合っていれば、今マカロニえんぴつがいるような位置にまでこのバンドは行くことができていたのかもしれない。そう思うくらいのキャッチーなメロディとポップなサウンド。それに加えてアンコールの初期曲にして大事な曲であろう「東京」の前にはこの日の全出演者の名前を口にする優しさを見せ、少年キッズボウイのメンバーたちは飛び跳ねながら楽しみ、えーるずやTHE 抱きしめるズのメンバーは腕を挙げて応えていた。それはこの日ここに集まった人たちにとってのテーマ曲がこの「東京」だったということ。三四郎がTHE WHOのピート・タウンゼントばりに(THE 抱きしめるズの篠崎もそうしていた)腕をグルグルと回しまくって後ろに倒れてしまうという姿はポップでありながらもロックバンドに憧れてライブハウスで生きてきたバンドであることを示していた。現金を持ち合わせていなかったのだが、持っていたら全バンド音源を買おうと思うくらい、やっぱりライブハウスって素晴らしいなと思えた東京、新宿での一夜だった。
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