フジファブリック Dance Sing Revolution No.19 @中野サンプラザ 4/14
- 2023/04/15
- 19:21
先月まで対バンツアーを行い、各地で所縁のあるバンドと対バンを行ってきたフジファブリック。そんなフジファブリックが行う中野サンプラザでの最後のライブがこの日になるというのは、中野サンプラザが夏に再開発によって長い歴史に幕を閉じるからである。この会場はライブはもちろん、志村正彦のお別れ会が行われた会場でもあり、バンドにとって大切な場所である。
開演時間の19時になるとおなじみのSE「I Love You」が流れてメンバーが登場するのであるが、ステージ両サイド前方にはライザーが設置されているのも気になる中、この日も近年おなじみのサポートドラマーの伊藤大地を加えた4人編成で、メンバーが楽器を持つと1曲目はまさかの「TEENAGER」。山内総一郎(ボーカル&ギター)が
「中野ー!」
と叫ぶ中で、伊藤のシャープでありながら手数の多いドラムが志村正彦のボーカルによる原曲とはまた違うイメージを感じさせるが、それは久々に聴く山内ボーカルでのこの曲ということもあるはずだ。その山内の歌唱はやはり実に伸びやかに響いているのであるが、この曲を1曲目にしたのはフジファブリックが初めてこの会場でライブを行ったのが、この曲がタイトルになっているアルバム「TEENAGER」のツアーだったからという理由であるのだろう。客席からはこの日の物販で販売されている、指に装着するタイプのライトが光り、それがまるでアイドルのライブであるかのような光景を生み出すのであるが、そこはさすがフジファブリックのファンたちであり、リズムに合わせてしっかり手拍子も起こる。山内は歌詞に合わせて間奏ではAC/DCのアンガス・ヤングばりのギターソロを弾きまくってみせる。
するとどこかフジファブリックならではのアーバンさを音によって示すような、この中野という街のサブカルさと猥雑さが実に似合うサウンドによる「東京」ではAメロで山内がハンドマイクになってステージを歩き回り、ライザーの上に立って歌ってからギターを手にして弾きながら歌うのであるが、やはりサビでは手を振りながら指に装着したライトが光る客席の光景に目を奪われ、間奏では早くもメンバーのソロ回し的な演奏も披露される。そこからはこのバンドのメンバーそれぞれの演奏技術の高さを感じざるを得ない。
すると「Magic」でも観客の腕が左右に揺れる中、山内が煽るように口にしたことによって、間奏ではコーラスフレーズの合唱を促す。あまりそうした場面でも大合唱というほどにはならないというか、奥ゆかしいというか控えめなファンが多いバンドであるだけに「そんなに思いっきり歌っていいの?」的な空気も感じるけれども、それでも合唱が起こるのが確かに聞こえているのは山内の想いに観客が応えているからである。
山内のギターによるイントロから金澤のキーボードのサウンドによって一気に妖しい空気が会場を包むのは今やライブではおなじみの曲である「楽園」であり、この日はホールでのライブでありながらも映像などの演出は一切なしで、ひたすらに演奏と照明のみというストイックなライブの作り方だったのであるが、それによってこの曲ではバンドの衝動を可視化したかのような真っ赤な照明がステージを照らす。
新クールでの放送も始まったばかりの人気アニメ「Dr.STONE」のタイアップ曲でもあるだけに、この日の幅広い客層の中でも若い人(特に男性)もたくさんいたのはこの曲のタイアップ効果も少なからずあると思うし、そうしてベテランという経歴になっても新たなファンを獲得しようという意識によって活動してきたバンドだからこそ、この日のライブがソールドアウトしたところもあるのだろう。
そのベテランという経歴になったことを実感させるのは山内による
「今日はフジファブリック19周年のデビュー記念日です!」
という挨拶的なMCであり、もうそんな年月が経ったのか…ということを実感せざるを得ない。
そんな挨拶的なMCから、まさに19年前のこの日にリリースされたメジャーデビューシングル「桜の季節」が演奏されるのであるが、今になって山内のボーカルで聴いても、四季盤というコンセプトの元に、これだけ盛り上がり的な要素のない、むしろ絞るような引きまくるようなアレンジの曲でメジャーシーンに登場したこのバンドの異質さを実感できるし、どうしたって志村の後ろ姿というか存在を当時のように近く感じざるを得ないこの曲においても、そうした巨大な喪失を乗り越えてきたことによって逞しさと力強さを増した今の山内ボーカルのこの曲こそが曲のあるべき姿であると感じさせてくれるのである。先ほどまでは光るリングを振っていた観客たちもそれを使うことなく音に浸っているその集中力の高さというかバンドへの愛情に感動していた。
この日のライブタイトルには「Dance」という単語が入っていることによって演奏されたのかと思う「フラッシュダンス」、さらには山内のボーカルが見事なまでの伸びやかさを持ってホールいっぱいに響く「Small World」と、山内がメインボーカルに移行した後に生み出されてきた名曲たちが「桜の季節」と全く違和感なく並んで演奏されるというのもフジファブリックが止まることなく進んできたからであるが、そんなバンドの癒し担当とも言える金澤はさらに高くなった自身の機材のライザーから降りてステージ前に出てくると、この日のライブは配信も行っているということでカメラに向かって手を振ったり、ライブ前にコメント欄に「金澤ダイスケ」と名乗ってコメントをしたが、なりすましだと思われて誰も反応してくれなかったということを語るのだが、そのやり取りが長くなったことによって加藤慎一(ベース)から突っ込まれ、山内からは
「そんなダイちゃんが好き(笑)」
と、このバンドが19年に渡って続いている根源とも言えるメンバーの人間性や関係性に触れる。ベテランと呼べるような存在になってもこうした部分は全く変わっていないあたりもまたフジファブリックである。
「この中野サンプラザで初めてライブをやったのは「TEENAGER」ツアーの時だったんだけど、ずっと立ちたかった会場に立てて本当に嬉しかったし、中野で見た桜が本当に綺麗だったのが忘れられない。もう葉桜になってしまったけれど、今日は春の歌をやろうと思って」
と言って演奏された「桜の季節」に続く春の曲は「Gum」。
「北海道くらい寒いらしい」
というフレーズは3月くらいの春の天候や気温を固有名詞を駆使して見事に言い表したものであるが、そこに志村正彦が書いたようですらあるフジファブリックらしさを感じる。しかしこの曲は山内がメインボーカルになってから書かれた曲であるというあたりが、志村の意志を継承しながら続いてきた、今のフジファブリックらしさとなって現れている。もしかしたら山内も志村の想いを継いだ上で新たなフジファブリックの春の名曲を作りたいという意思があったのかもしれない。
そんな山内がアコギに持ち替えると、その「Gum」も収録されているアルバム「LIFE」を今一度聴き直したということを語り、そこに収録されているインタールード的な曲と言ってもいい「sing」を、
「自分が歌う意味や理由はこの曲の中に全て入っていたなと改めて思った」
と言うように、その歌に想いを込めるようにしてアコギを弾きながら歌い始め、そこに加藤のベースと金澤のキーボードが乗っていく。3人だけで一発録りしたというレコーディングまんまのライブでの演奏である。
そのまま山内がギターをスラップするように弾いて演奏しながら歌うのは、ダークな雰囲気で始まってからサビではワルツ的なリズムになって一気に開放感を感じさせるように展開していく「音の庭」であり、そこにもまたフジファブリックらしい、良い意味でのポップでありながらも変態的な部分が滲み出ているし、そこを最大限に担っているのは金澤によるキーボードの音色である。近年リリースされた曲でそうして金澤の存在感が増しているのもフジファブリックがこの3人のバンドであることを強く伝えてくれる要素になっている。こんな展開の曲がNHK「みんなのうた」に起用されたというのもまた凄いというか、フジファブリックでなければありえないことだろう。
そんな金澤が一転して一音鳴らした瞬間に会場の空気を変えてしまうのは、フェスやイベントなどの短い持ち時間においてはハイライト的に演奏されることも多い、今やフジファブリック至上の名曲として音楽の教科書にまで載るようになった「若者のすべて」。まだこの曲の季節である夏というにはあまりに早い季節であるけれど、やはりこうしてこの曲を聞くと思い出してしまうこともたくさんある。でも今こうして山内がこの曲をギターを弾きながら歌っている姿を見ていると、志村が居なくなってしまってもこうしてフジファブリックが続いてきたことは間違いなく正しいことだったなと思う。あの時点でやめていたらこの曲がこんなに広まることも聞かれることも、フジファブリックにたくさんの人が出会うこともなかっただろうと思うからだ。
それを音だけでなく言葉でも感じさせるように山内は
「おそらくフジファブリックにとっては今日が最後の中野サンプラザでのライブです。この会場に志村君の歌が染み込んでいることを本当に嬉しく思います。あなたが作ったバンドが19年も続いてきました。これは凄いことです!」
とこのバンドを作った志村を称え、観客もこれ以上ないくらいに大きな拍手で応える。山内も
「もう志村君の歌を聴いたことがないっていう人も多いかもしれない」
「比べられたりもしたけど、そんなことはどうでもよくて。あれだけ凄いミュージシャンでありボーカリストなんだから」
と言っていたが、確かにもう志村が目の前で歌う姿は見ることができない。でもこうして山内が歌い、3人が続けていくことを選んだからこそ、今でも志村正彦というミュージシャンの存在や作った音楽に新たに出会う人がたくさんいる。こうして3人がフジファブリックを続けていることには、志村正彦というミュージシャンの存在と生み出した音楽を伝え続けていくという意思も間違いなくあるはずだし、その存在を見てきた我々も、こうしてフジファブリックのライブを見続けることによって志村の姿を思い出すことができるし、作ってきた音楽が素晴らしいものであることを今でも実感することができるのだ。
そんな「若者のすべて」からのこのMCはもうライブが終わってしまうかのような感じにもなってしまうのであるが、むしろここからの後半戦こそがライブタイトルの「Dance Sing」というものを感じさせるようなものであり、実際に気合いを入れるように声を発してから山内の煌めくギターのイントロが響いた「星降る夜になったら」では金澤と加藤によるサビのコーラスフレーズ、さらにはサビそのものまでも山内が観客に合唱を促す。腕を挙げた観客の手に光るライトがまさに星降る夜であることを感じさせてくれるし、この曲やタイトル曲、「若者のすべて」とこの会場で初めてライブをやった「TEENAGER」収録曲の名曲っぷり、ひいてはアルバムの名盤っぷりをリリースから15年以上経った今でも実感させてくれる。それは全く色褪せることなく、今でも求められ続けているものだ。
この日ステージ左右に設置されていたライザー。山内と加藤は確かにイントロでこの上に乗って演奏したりというシーンもあったが、それだけのために設置するはずがないと思っていたら、「バタアシParty Night」が始まるとステージには男性4人、女性3人のダンサーが登場し、そのライザーの上に乗ってMVでのダンスをキレキレの躍動感溢れる動きによって踊るという、果たして誰がこの使い方を予想していただろうかという形で使用されるのであるが、そのダンサーたちの見た目が明らかにビジュアルが良すぎることによって「単なるダンサーじゃないだろうな…」と思っていたが、この7人はフジファブリックの所属しているSMAの新人グループで、まさに来週デビューするというフジファブリックの19個下の後輩になるダンス&ボーカルグループZILLIONのメンバーたちであった。
しかしながらこうしてダンサーがライブに加わるというのはフジファブリックにとって初であるという。グッズの光るライトもそうであるし、そもそも次にどんな曲がリリースされるか全くわからないという音楽性も含めて、フジファブリックの活動にはタブーが全くと言っていいくらいにない。ベテランになるにつれてスタイルが固まっていくバンドがほとんどの中で、これだけ柔軟な精神を持っているバンドはそうそういないと思う。それは山内がこの日何度も
「いろんな人に支えられて、助けてもらってきた。僕は1人じゃ何もできないんだなって思った」
と言っていたように、周りにいてくれる人たちの存在や力を信じているからこそできることなのだろうと思うし、やはりそこにもフジファブリックの3人の人間性が滲み出ている。
そんなZILLIONのメンバーたちがステージから去ると、加藤が前に出てきてベースのイントロを鳴らしただけで歓声が湧き上がったのはバンド初期のダンスチューン「ダンス2000」であるのだが、志村がボーカルだった時代にライブでよく演奏されていたこの曲も山内のボーカルで聴くことに1ミリ足りとも違和感を感じないのは、やはりこの形こそが今のフジファブリックであり、山内の歌唱力の絶大な向上があったからである。金澤のシンセのフレーズなどは今聴いてもやっぱり変な曲だなと思うけれど、そこが愛されているのもまたフジファブリックというバンドなのである。
そうして踊る観客をさらに踊らせるのはやはり山内が気合いを発してからギターを鳴らし始めた「銀河」であり、客席では振り付けが揃うのも、そこに光るライトが付いていることによって光までもが揃うのも実に美しく感じるのであるが、山内はその歌唱力を存分に発揮しながらも間奏では志村がいた時と同じように、いや、フロントマンを背負った今はその当時よりもさらに派手にギターソロを弾きまくる。とてもボーカリストでありながら弾くようなギターではないのであるが、飄々として見える山内がめちゃくちゃ努力してきたんだろうなということがわかる。それによってギターが1本であっても全く物足りなさを感じさせない、フジファブリックの「銀河」のままになっている。
フジファブリックがコラボを果たしたフレデリック「オドループ」を筆頭に、女性がシュールなダンスを踊るというMVがバズることも当たり前になった時代であるが、その走りはこの曲だったんじゃないかと今になると思う。ちなみにこの曲のMVと「オドループ」のMVはどちらも監督をスミスが担当している。そういう部分にも両者に通じるところがあるのだ。
するとここまでも過去のドラマーの中で最もフジファブリックに似合うシャープさと手数の多さのドラムを叩いていた伊藤のリズムが一気に祭囃子的になり、山内の歌唱も和の要素を感じさせる表現力を発揮するのは、再びステージにZILLIONのメンバーが登場して、加藤とともにサビで手を出したり返したりというおなじみの振り付けを踊る「Feverman」。そのZILLIONの存在もあって客席も一面その振り付けを踊るのであるが、これまでもそうした景色を生み出してきた、今のフジファブリックのライブにおけるキラーチューンと言えるこの曲がこれまで以上の一体感を感じさせたのはやはりそれだけたくさんの人がいて、その人たちの思いが重なり合って一つになっているからだろう。山内の歌唱は張り上げすぎて少し不安定になってもきていたけれど、それだけ歌唱が前のめりになっている証拠でもある。
そんなライブも早くも次で最後の曲であるということで、声が出せるようになった客席からは「えー!?」という声も上がる(山内はさらにその声を煽る)のであるが、最後はライブのタイトルにもなっている最新曲「ミラクルレボリューション No.9」であり、ZILLIONからメンバー2人がステージに残って加藤とともにキメのフレーズ部分での振り付けをレクチャーする。J SPORTSのWBC中継のテーマソングになったことによって、振り付けもフォークボールの握りだったりするのであるが、いつの間にか加藤が完全に振り付けを教える役になっているのが地味に面白いし、昨年からすでにライブで演奏されており、その時にはフジファブリックの変態っぷりが極まった曲だと感じていたが、今ではむしろ完全にそういう曲として受け入れているくらいにスッと体に入ってきているのがフジファブリックの音楽の中毒性の恐ろしい部分である。曲中には「ダメ」というフレーズがあり、そこでは山内が大きくバツマークを手で作るシーンもあるのだが、今回のWBCで日本が劇的な試合を連発して世界一になったのはこの曲がテーマソングだったことも間違いなく関係していると思っている。それはやはり日本が世界一になった2009年の第2回WBCのJ SPORTS(というかその年の野球中継)のテーマソングだったのがこのバンドの「Sugar!!」だったから。フジファブリックがテーマソングを担当すれば日本が世界一になる可能性100%。だからこそ次の大会でもJ SPORTSには是非フジファブリックに曲を依頼して欲しいと、フジファブリックファンであり野球ファンとして願わざるを得ない。
「ちゃんと用意してるから(笑)」
と本編最後のMCで言っていたように、アンコール待ちでは暗闇の中で長い時間セットチェンジが行われており、いざ明かりが点いてメンバーが登場すると、メンバーの機材がステージ中心にぎゅっと集まり、しかもツインドラムになっていたりと、明らかに機材が増えている。これはもしかして…と思っていると、山内がステージに招いたのは何とフレデリックのメンバー4人。しかもちゃんとこの日の物販のTシャツを着て、ライトまで持っているのであるが、赤頭隆児(ギター)は赤いライト2つを目に当てて目が光ってる人みたいな小ネタをしては山内に
「隆ちゃんはいつもそういうことするから!(笑)」
とツッコミを入れられながら、伊藤は参加せずに高橋武のドラムでコラボ曲「瞳のランデブー」を披露。どちらも変態的な中毒性を持つ曲を数々作ってきたバンドであり、その要素が掛け合わさった、やはり中毒性抜群の曲。ボーカルに専念する三原健司と山内が交互に歌い、サビでは声を重ねるのであるが、面白いのは赤頭のギターと金澤のキーボード、三原康司と加藤のベースがぶつからずに、それぞれフレーズごとに演奏を分けていること。これはライブで見るからこそわかりやすいものであるが、それぞれがバラバラなフレーズやサウンドを鳴らすのではなくて、一つの曲を全員で演奏しているというのがわかるし、フレデリックのワンマンに毎回行っている身としてはその赤頭のシンセを鳴らしているかのようなギターがどれだけ特異なもの、つまり赤頭のギターの音作りが普通のギタリストと全く違うものなのかがわかるし、曲を聴いても影響源が実にわかりづらいくらいにフレデリックの音楽という揺るぎないものを築き上げているフレデリックのルーツや影響源に実はフジファブリックがいたということが実によくわかるコラボである。だからこそ
「これだけで終わらないようにこれから何回でもやろう。なんなら次は我々をフレデリックのライブに呼んで(笑)絶対出るから(笑)」
と山内も言っていたように、これから先も何回だってこのコラボを見たくなる。出演日が同じであり、rockin'on JAPAN誌面にも両バンドのメンバーが集結したインタビューが掲載されたJAPAN JAMでまた見れたりするだろうか。
まだまだ一緒に喋ったりしていたい感が出まくりながらも山内がフレデリックを送り出すと、ここで常に前に進み続けるバンドとして早くも新たなツアーの開催を発表すると、そのいつだってこの日、この瞬間がスタートであることを音楽で、煌めくサウンドで示すように「STAR」が演奏される。伊藤の速さと手数を合わせ持ったドラムはやはり凄まじいが、光が飛び散るような照明もまたこの曲のイメージを完全に具現化していて、映像などは使わなかったけれども最大限に曲を生かす演出になっている。何よりやはりここにきての山内のホールの中に響き渡る歌唱の素晴らしさたるや。
「君の声はこだましてる
頭の中離れないよ
巡る思いは置いといて
さあ行きますか」
「「ヨーイ」の合図で踏みしめた
飛び出すのならここからだ
ハートの鐘が一つ鳴れば
さあ進むのさ」
というサビの歌詞からは、志村が居なくなってしまった直後という状況にもかかわらず、バンドが前に進んでいこうとしている意思を感じさせるし、それは今でも全く変わっていない。なくなっていくものや場所への思いを忘れずに持ちながら、それでもずっと変わらずに前に進み続ける。そんな感情が曲と音に宿っているからこそ、なんだかんだでもうリリースから12年も経つ曲であるのにフレッシュさが全く失われていないのである。
そんなライブの最後に山内が、
「これからも、遥か彼方まで行きましょう!」
と言って、場内の客電などの照明がすべて点いて、おそらくは観客の顔がステージからもよく見えるであろう中で演奏されたのはもちろんその歌詞をサビに含んでいる「徒然モノクローム」。志村ボーカル時代の曲を要所で演奏しながらも、最後にこうして山内がボーカルになってからの曲で締めるというのがやはり何よりも意味がある。それこそがこのバンドがただ続いてきただけではなくて、前に進みながら、進化しながら続いてきたことを示しているからだ。今でもそう感じられる曲を次々に生み出し続けているバンドだからこそ、山内も言っていたようにこれから先も終わることなく続いていく予感しかない。いや、バンドというものは必ずいつか終わりが来る。それはわかっていても、フジファブリックにその未来が訪れることが今は全く想像できない。そう思えるのが本当に幸せなことだと思っていた。
演奏が終わると再びフレデリックとZILLIONの全員を招いてステージ前に並んで一礼。しかしそれでもまだ喋り足りないとばかりに山内が喋るのであるが、最後に何故か急に金澤にマイクをパスしたりしながら、客席を背に写真撮影を行い、発表されたツアーのタイトルが「Particle Dreams」になることを明かし、
「意味はそのうちわかるから!」
と言っていたが、それはフジファブリックの20周年に向けた大きな花火と言える作品のタイトルになるはずだ。
山内も
「みんなも色々なことがあると思うけど」
と言っていた。確かにそれぞれに人との別れなど辛いことはたくさんあるだろう。でもそうした喪失、しかもバンドが終わってもおかしくないくらいに大きな喪失を経験したフジファブリックの3人が前に進み続けている姿は、我々がそうしたことに直面した時にも大きな力に、支えになってくれる。バンドが前に進み続けることによってたくさんの人に同じように前に進む力を、生きる力を与え続けている。そうして生きてきたバンドはもちろん、ファンや周りにいる人たちの逞しさもまた自分に前に進む力をくれる。音楽はもちろん、その意志や精神性にも、感動している!
1.TEENAGER
2.東京
3.Magic
4.楽園
5.桜の季節
6.フラッシュダンス
7.Small World
8.Gum
9.sing
10.音の庭
11.若者のすべて
12.星降る夜になったら
13.バタアシParty Night
14.ダンス2000
15.銀河
16.Feverman
17.ミラクルレボリューション No.9
encore
18.瞳のランデブー w/ フレデリック
19.STAR
20.徒然モノクローム
開演時間の19時になるとおなじみのSE「I Love You」が流れてメンバーが登場するのであるが、ステージ両サイド前方にはライザーが設置されているのも気になる中、この日も近年おなじみのサポートドラマーの伊藤大地を加えた4人編成で、メンバーが楽器を持つと1曲目はまさかの「TEENAGER」。山内総一郎(ボーカル&ギター)が
「中野ー!」
と叫ぶ中で、伊藤のシャープでありながら手数の多いドラムが志村正彦のボーカルによる原曲とはまた違うイメージを感じさせるが、それは久々に聴く山内ボーカルでのこの曲ということもあるはずだ。その山内の歌唱はやはり実に伸びやかに響いているのであるが、この曲を1曲目にしたのはフジファブリックが初めてこの会場でライブを行ったのが、この曲がタイトルになっているアルバム「TEENAGER」のツアーだったからという理由であるのだろう。客席からはこの日の物販で販売されている、指に装着するタイプのライトが光り、それがまるでアイドルのライブであるかのような光景を生み出すのであるが、そこはさすがフジファブリックのファンたちであり、リズムに合わせてしっかり手拍子も起こる。山内は歌詞に合わせて間奏ではAC/DCのアンガス・ヤングばりのギターソロを弾きまくってみせる。
するとどこかフジファブリックならではのアーバンさを音によって示すような、この中野という街のサブカルさと猥雑さが実に似合うサウンドによる「東京」ではAメロで山内がハンドマイクになってステージを歩き回り、ライザーの上に立って歌ってからギターを手にして弾きながら歌うのであるが、やはりサビでは手を振りながら指に装着したライトが光る客席の光景に目を奪われ、間奏では早くもメンバーのソロ回し的な演奏も披露される。そこからはこのバンドのメンバーそれぞれの演奏技術の高さを感じざるを得ない。
すると「Magic」でも観客の腕が左右に揺れる中、山内が煽るように口にしたことによって、間奏ではコーラスフレーズの合唱を促す。あまりそうした場面でも大合唱というほどにはならないというか、奥ゆかしいというか控えめなファンが多いバンドであるだけに「そんなに思いっきり歌っていいの?」的な空気も感じるけれども、それでも合唱が起こるのが確かに聞こえているのは山内の想いに観客が応えているからである。
山内のギターによるイントロから金澤のキーボードのサウンドによって一気に妖しい空気が会場を包むのは今やライブではおなじみの曲である「楽園」であり、この日はホールでのライブでありながらも映像などの演出は一切なしで、ひたすらに演奏と照明のみというストイックなライブの作り方だったのであるが、それによってこの曲ではバンドの衝動を可視化したかのような真っ赤な照明がステージを照らす。
新クールでの放送も始まったばかりの人気アニメ「Dr.STONE」のタイアップ曲でもあるだけに、この日の幅広い客層の中でも若い人(特に男性)もたくさんいたのはこの曲のタイアップ効果も少なからずあると思うし、そうしてベテランという経歴になっても新たなファンを獲得しようという意識によって活動してきたバンドだからこそ、この日のライブがソールドアウトしたところもあるのだろう。
そのベテランという経歴になったことを実感させるのは山内による
「今日はフジファブリック19周年のデビュー記念日です!」
という挨拶的なMCであり、もうそんな年月が経ったのか…ということを実感せざるを得ない。
そんな挨拶的なMCから、まさに19年前のこの日にリリースされたメジャーデビューシングル「桜の季節」が演奏されるのであるが、今になって山内のボーカルで聴いても、四季盤というコンセプトの元に、これだけ盛り上がり的な要素のない、むしろ絞るような引きまくるようなアレンジの曲でメジャーシーンに登場したこのバンドの異質さを実感できるし、どうしたって志村の後ろ姿というか存在を当時のように近く感じざるを得ないこの曲においても、そうした巨大な喪失を乗り越えてきたことによって逞しさと力強さを増した今の山内ボーカルのこの曲こそが曲のあるべき姿であると感じさせてくれるのである。先ほどまでは光るリングを振っていた観客たちもそれを使うことなく音に浸っているその集中力の高さというかバンドへの愛情に感動していた。
この日のライブタイトルには「Dance」という単語が入っていることによって演奏されたのかと思う「フラッシュダンス」、さらには山内のボーカルが見事なまでの伸びやかさを持ってホールいっぱいに響く「Small World」と、山内がメインボーカルに移行した後に生み出されてきた名曲たちが「桜の季節」と全く違和感なく並んで演奏されるというのもフジファブリックが止まることなく進んできたからであるが、そんなバンドの癒し担当とも言える金澤はさらに高くなった自身の機材のライザーから降りてステージ前に出てくると、この日のライブは配信も行っているということでカメラに向かって手を振ったり、ライブ前にコメント欄に「金澤ダイスケ」と名乗ってコメントをしたが、なりすましだと思われて誰も反応してくれなかったということを語るのだが、そのやり取りが長くなったことによって加藤慎一(ベース)から突っ込まれ、山内からは
「そんなダイちゃんが好き(笑)」
と、このバンドが19年に渡って続いている根源とも言えるメンバーの人間性や関係性に触れる。ベテランと呼べるような存在になってもこうした部分は全く変わっていないあたりもまたフジファブリックである。
「この中野サンプラザで初めてライブをやったのは「TEENAGER」ツアーの時だったんだけど、ずっと立ちたかった会場に立てて本当に嬉しかったし、中野で見た桜が本当に綺麗だったのが忘れられない。もう葉桜になってしまったけれど、今日は春の歌をやろうと思って」
と言って演奏された「桜の季節」に続く春の曲は「Gum」。
「北海道くらい寒いらしい」
というフレーズは3月くらいの春の天候や気温を固有名詞を駆使して見事に言い表したものであるが、そこに志村正彦が書いたようですらあるフジファブリックらしさを感じる。しかしこの曲は山内がメインボーカルになってから書かれた曲であるというあたりが、志村の意志を継承しながら続いてきた、今のフジファブリックらしさとなって現れている。もしかしたら山内も志村の想いを継いだ上で新たなフジファブリックの春の名曲を作りたいという意思があったのかもしれない。
そんな山内がアコギに持ち替えると、その「Gum」も収録されているアルバム「LIFE」を今一度聴き直したということを語り、そこに収録されているインタールード的な曲と言ってもいい「sing」を、
「自分が歌う意味や理由はこの曲の中に全て入っていたなと改めて思った」
と言うように、その歌に想いを込めるようにしてアコギを弾きながら歌い始め、そこに加藤のベースと金澤のキーボードが乗っていく。3人だけで一発録りしたというレコーディングまんまのライブでの演奏である。
そのまま山内がギターをスラップするように弾いて演奏しながら歌うのは、ダークな雰囲気で始まってからサビではワルツ的なリズムになって一気に開放感を感じさせるように展開していく「音の庭」であり、そこにもまたフジファブリックらしい、良い意味でのポップでありながらも変態的な部分が滲み出ているし、そこを最大限に担っているのは金澤によるキーボードの音色である。近年リリースされた曲でそうして金澤の存在感が増しているのもフジファブリックがこの3人のバンドであることを強く伝えてくれる要素になっている。こんな展開の曲がNHK「みんなのうた」に起用されたというのもまた凄いというか、フジファブリックでなければありえないことだろう。
そんな金澤が一転して一音鳴らした瞬間に会場の空気を変えてしまうのは、フェスやイベントなどの短い持ち時間においてはハイライト的に演奏されることも多い、今やフジファブリック至上の名曲として音楽の教科書にまで載るようになった「若者のすべて」。まだこの曲の季節である夏というにはあまりに早い季節であるけれど、やはりこうしてこの曲を聞くと思い出してしまうこともたくさんある。でも今こうして山内がこの曲をギターを弾きながら歌っている姿を見ていると、志村が居なくなってしまってもこうしてフジファブリックが続いてきたことは間違いなく正しいことだったなと思う。あの時点でやめていたらこの曲がこんなに広まることも聞かれることも、フジファブリックにたくさんの人が出会うこともなかっただろうと思うからだ。
それを音だけでなく言葉でも感じさせるように山内は
「おそらくフジファブリックにとっては今日が最後の中野サンプラザでのライブです。この会場に志村君の歌が染み込んでいることを本当に嬉しく思います。あなたが作ったバンドが19年も続いてきました。これは凄いことです!」
とこのバンドを作った志村を称え、観客もこれ以上ないくらいに大きな拍手で応える。山内も
「もう志村君の歌を聴いたことがないっていう人も多いかもしれない」
「比べられたりもしたけど、そんなことはどうでもよくて。あれだけ凄いミュージシャンでありボーカリストなんだから」
と言っていたが、確かにもう志村が目の前で歌う姿は見ることができない。でもこうして山内が歌い、3人が続けていくことを選んだからこそ、今でも志村正彦というミュージシャンの存在や作った音楽に新たに出会う人がたくさんいる。こうして3人がフジファブリックを続けていることには、志村正彦というミュージシャンの存在と生み出した音楽を伝え続けていくという意思も間違いなくあるはずだし、その存在を見てきた我々も、こうしてフジファブリックのライブを見続けることによって志村の姿を思い出すことができるし、作ってきた音楽が素晴らしいものであることを今でも実感することができるのだ。
そんな「若者のすべて」からのこのMCはもうライブが終わってしまうかのような感じにもなってしまうのであるが、むしろここからの後半戦こそがライブタイトルの「Dance Sing」というものを感じさせるようなものであり、実際に気合いを入れるように声を発してから山内の煌めくギターのイントロが響いた「星降る夜になったら」では金澤と加藤によるサビのコーラスフレーズ、さらにはサビそのものまでも山内が観客に合唱を促す。腕を挙げた観客の手に光るライトがまさに星降る夜であることを感じさせてくれるし、この曲やタイトル曲、「若者のすべて」とこの会場で初めてライブをやった「TEENAGER」収録曲の名曲っぷり、ひいてはアルバムの名盤っぷりをリリースから15年以上経った今でも実感させてくれる。それは全く色褪せることなく、今でも求められ続けているものだ。
この日ステージ左右に設置されていたライザー。山内と加藤は確かにイントロでこの上に乗って演奏したりというシーンもあったが、それだけのために設置するはずがないと思っていたら、「バタアシParty Night」が始まるとステージには男性4人、女性3人のダンサーが登場し、そのライザーの上に乗ってMVでのダンスをキレキレの躍動感溢れる動きによって踊るという、果たして誰がこの使い方を予想していただろうかという形で使用されるのであるが、そのダンサーたちの見た目が明らかにビジュアルが良すぎることによって「単なるダンサーじゃないだろうな…」と思っていたが、この7人はフジファブリックの所属しているSMAの新人グループで、まさに来週デビューするというフジファブリックの19個下の後輩になるダンス&ボーカルグループZILLIONのメンバーたちであった。
しかしながらこうしてダンサーがライブに加わるというのはフジファブリックにとって初であるという。グッズの光るライトもそうであるし、そもそも次にどんな曲がリリースされるか全くわからないという音楽性も含めて、フジファブリックの活動にはタブーが全くと言っていいくらいにない。ベテランになるにつれてスタイルが固まっていくバンドがほとんどの中で、これだけ柔軟な精神を持っているバンドはそうそういないと思う。それは山内がこの日何度も
「いろんな人に支えられて、助けてもらってきた。僕は1人じゃ何もできないんだなって思った」
と言っていたように、周りにいてくれる人たちの存在や力を信じているからこそできることなのだろうと思うし、やはりそこにもフジファブリックの3人の人間性が滲み出ている。
そんなZILLIONのメンバーたちがステージから去ると、加藤が前に出てきてベースのイントロを鳴らしただけで歓声が湧き上がったのはバンド初期のダンスチューン「ダンス2000」であるのだが、志村がボーカルだった時代にライブでよく演奏されていたこの曲も山内のボーカルで聴くことに1ミリ足りとも違和感を感じないのは、やはりこの形こそが今のフジファブリックであり、山内の歌唱力の絶大な向上があったからである。金澤のシンセのフレーズなどは今聴いてもやっぱり変な曲だなと思うけれど、そこが愛されているのもまたフジファブリックというバンドなのである。
そうして踊る観客をさらに踊らせるのはやはり山内が気合いを発してからギターを鳴らし始めた「銀河」であり、客席では振り付けが揃うのも、そこに光るライトが付いていることによって光までもが揃うのも実に美しく感じるのであるが、山内はその歌唱力を存分に発揮しながらも間奏では志村がいた時と同じように、いや、フロントマンを背負った今はその当時よりもさらに派手にギターソロを弾きまくる。とてもボーカリストでありながら弾くようなギターではないのであるが、飄々として見える山内がめちゃくちゃ努力してきたんだろうなということがわかる。それによってギターが1本であっても全く物足りなさを感じさせない、フジファブリックの「銀河」のままになっている。
フジファブリックがコラボを果たしたフレデリック「オドループ」を筆頭に、女性がシュールなダンスを踊るというMVがバズることも当たり前になった時代であるが、その走りはこの曲だったんじゃないかと今になると思う。ちなみにこの曲のMVと「オドループ」のMVはどちらも監督をスミスが担当している。そういう部分にも両者に通じるところがあるのだ。
するとここまでも過去のドラマーの中で最もフジファブリックに似合うシャープさと手数の多さのドラムを叩いていた伊藤のリズムが一気に祭囃子的になり、山内の歌唱も和の要素を感じさせる表現力を発揮するのは、再びステージにZILLIONのメンバーが登場して、加藤とともにサビで手を出したり返したりというおなじみの振り付けを踊る「Feverman」。そのZILLIONの存在もあって客席も一面その振り付けを踊るのであるが、これまでもそうした景色を生み出してきた、今のフジファブリックのライブにおけるキラーチューンと言えるこの曲がこれまで以上の一体感を感じさせたのはやはりそれだけたくさんの人がいて、その人たちの思いが重なり合って一つになっているからだろう。山内の歌唱は張り上げすぎて少し不安定になってもきていたけれど、それだけ歌唱が前のめりになっている証拠でもある。
そんなライブも早くも次で最後の曲であるということで、声が出せるようになった客席からは「えー!?」という声も上がる(山内はさらにその声を煽る)のであるが、最後はライブのタイトルにもなっている最新曲「ミラクルレボリューション No.9」であり、ZILLIONからメンバー2人がステージに残って加藤とともにキメのフレーズ部分での振り付けをレクチャーする。J SPORTSのWBC中継のテーマソングになったことによって、振り付けもフォークボールの握りだったりするのであるが、いつの間にか加藤が完全に振り付けを教える役になっているのが地味に面白いし、昨年からすでにライブで演奏されており、その時にはフジファブリックの変態っぷりが極まった曲だと感じていたが、今ではむしろ完全にそういう曲として受け入れているくらいにスッと体に入ってきているのがフジファブリックの音楽の中毒性の恐ろしい部分である。曲中には「ダメ」というフレーズがあり、そこでは山内が大きくバツマークを手で作るシーンもあるのだが、今回のWBCで日本が劇的な試合を連発して世界一になったのはこの曲がテーマソングだったことも間違いなく関係していると思っている。それはやはり日本が世界一になった2009年の第2回WBCのJ SPORTS(というかその年の野球中継)のテーマソングだったのがこのバンドの「Sugar!!」だったから。フジファブリックがテーマソングを担当すれば日本が世界一になる可能性100%。だからこそ次の大会でもJ SPORTSには是非フジファブリックに曲を依頼して欲しいと、フジファブリックファンであり野球ファンとして願わざるを得ない。
「ちゃんと用意してるから(笑)」
と本編最後のMCで言っていたように、アンコール待ちでは暗闇の中で長い時間セットチェンジが行われており、いざ明かりが点いてメンバーが登場すると、メンバーの機材がステージ中心にぎゅっと集まり、しかもツインドラムになっていたりと、明らかに機材が増えている。これはもしかして…と思っていると、山内がステージに招いたのは何とフレデリックのメンバー4人。しかもちゃんとこの日の物販のTシャツを着て、ライトまで持っているのであるが、赤頭隆児(ギター)は赤いライト2つを目に当てて目が光ってる人みたいな小ネタをしては山内に
「隆ちゃんはいつもそういうことするから!(笑)」
とツッコミを入れられながら、伊藤は参加せずに高橋武のドラムでコラボ曲「瞳のランデブー」を披露。どちらも変態的な中毒性を持つ曲を数々作ってきたバンドであり、その要素が掛け合わさった、やはり中毒性抜群の曲。ボーカルに専念する三原健司と山内が交互に歌い、サビでは声を重ねるのであるが、面白いのは赤頭のギターと金澤のキーボード、三原康司と加藤のベースがぶつからずに、それぞれフレーズごとに演奏を分けていること。これはライブで見るからこそわかりやすいものであるが、それぞれがバラバラなフレーズやサウンドを鳴らすのではなくて、一つの曲を全員で演奏しているというのがわかるし、フレデリックのワンマンに毎回行っている身としてはその赤頭のシンセを鳴らしているかのようなギターがどれだけ特異なもの、つまり赤頭のギターの音作りが普通のギタリストと全く違うものなのかがわかるし、曲を聴いても影響源が実にわかりづらいくらいにフレデリックの音楽という揺るぎないものを築き上げているフレデリックのルーツや影響源に実はフジファブリックがいたということが実によくわかるコラボである。だからこそ
「これだけで終わらないようにこれから何回でもやろう。なんなら次は我々をフレデリックのライブに呼んで(笑)絶対出るから(笑)」
と山内も言っていたように、これから先も何回だってこのコラボを見たくなる。出演日が同じであり、rockin'on JAPAN誌面にも両バンドのメンバーが集結したインタビューが掲載されたJAPAN JAMでまた見れたりするだろうか。
まだまだ一緒に喋ったりしていたい感が出まくりながらも山内がフレデリックを送り出すと、ここで常に前に進み続けるバンドとして早くも新たなツアーの開催を発表すると、そのいつだってこの日、この瞬間がスタートであることを音楽で、煌めくサウンドで示すように「STAR」が演奏される。伊藤の速さと手数を合わせ持ったドラムはやはり凄まじいが、光が飛び散るような照明もまたこの曲のイメージを完全に具現化していて、映像などは使わなかったけれども最大限に曲を生かす演出になっている。何よりやはりここにきての山内のホールの中に響き渡る歌唱の素晴らしさたるや。
「君の声はこだましてる
頭の中離れないよ
巡る思いは置いといて
さあ行きますか」
「「ヨーイ」の合図で踏みしめた
飛び出すのならここからだ
ハートの鐘が一つ鳴れば
さあ進むのさ」
というサビの歌詞からは、志村が居なくなってしまった直後という状況にもかかわらず、バンドが前に進んでいこうとしている意思を感じさせるし、それは今でも全く変わっていない。なくなっていくものや場所への思いを忘れずに持ちながら、それでもずっと変わらずに前に進み続ける。そんな感情が曲と音に宿っているからこそ、なんだかんだでもうリリースから12年も経つ曲であるのにフレッシュさが全く失われていないのである。
そんなライブの最後に山内が、
「これからも、遥か彼方まで行きましょう!」
と言って、場内の客電などの照明がすべて点いて、おそらくは観客の顔がステージからもよく見えるであろう中で演奏されたのはもちろんその歌詞をサビに含んでいる「徒然モノクローム」。志村ボーカル時代の曲を要所で演奏しながらも、最後にこうして山内がボーカルになってからの曲で締めるというのがやはり何よりも意味がある。それこそがこのバンドがただ続いてきただけではなくて、前に進みながら、進化しながら続いてきたことを示しているからだ。今でもそう感じられる曲を次々に生み出し続けているバンドだからこそ、山内も言っていたようにこれから先も終わることなく続いていく予感しかない。いや、バンドというものは必ずいつか終わりが来る。それはわかっていても、フジファブリックにその未来が訪れることが今は全く想像できない。そう思えるのが本当に幸せなことだと思っていた。
演奏が終わると再びフレデリックとZILLIONの全員を招いてステージ前に並んで一礼。しかしそれでもまだ喋り足りないとばかりに山内が喋るのであるが、最後に何故か急に金澤にマイクをパスしたりしながら、客席を背に写真撮影を行い、発表されたツアーのタイトルが「Particle Dreams」になることを明かし、
「意味はそのうちわかるから!」
と言っていたが、それはフジファブリックの20周年に向けた大きな花火と言える作品のタイトルになるはずだ。
山内も
「みんなも色々なことがあると思うけど」
と言っていた。確かにそれぞれに人との別れなど辛いことはたくさんあるだろう。でもそうした喪失、しかもバンドが終わってもおかしくないくらいに大きな喪失を経験したフジファブリックの3人が前に進み続けている姿は、我々がそうしたことに直面した時にも大きな力に、支えになってくれる。バンドが前に進み続けることによってたくさんの人に同じように前に進む力を、生きる力を与え続けている。そうして生きてきたバンドはもちろん、ファンや周りにいる人たちの逞しさもまた自分に前に進む力をくれる。音楽はもちろん、その意志や精神性にも、感動している!
1.TEENAGER
2.東京
3.Magic
4.楽園
5.桜の季節
6.フラッシュダンス
7.Small World
8.Gum
9.sing
10.音の庭
11.若者のすべて
12.星降る夜になったら
13.バタアシParty Night
14.ダンス2000
15.銀河
16.Feverman
17.ミラクルレボリューション No.9
encore
18.瞳のランデブー w/ フレデリック
19.STAR
20.徒然モノクローム
THE BAWDIES 「LET'S BE FRIENDS! TOUR」 GUEST:ドミコ @代官山UNIT 4/16 ホーム
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