若者のすべて -YOUNG, ALIVE, IN LOVE MUSIC- #04 出演:Chilli Beans. / Tele / NEE / ねぐせ。 / マルシィ / ヤユヨ @日比谷野外大音楽堂 4/2
- 2023/04/03
- 23:40
かつては日比谷野音は春から秋までしかライブで使っていなかったために、そのスケジュールだったら今年は間違いなくこの日が野音始めになるはずだったのが、今年は試験的に冬にもライブが行われているだけにすでに2月にも野音でライブを見ている。
そのために早くも今年2回目の野音でのライブはLOVE MUSIC主催(サブタイトルもそれをもじったものになっている)の若手対バンイベント「若者のすべて」。TSUTAYA O-EASTで開催された第二回以来の参加であるが、今回は
Chilli Beans.
Tele
NEE
ねぐせ。
マルシィ
ヤユヨ
という実にこの春の時期にふさわしいフレッシュな6組が集結。天気も良いとは言えないけれど、悪いというわけでもないという絶妙な感じであるが、開演前から若手バンドの曲がBGMとして流れまくり、客席も立見席まで含めて若い観客で超満員という光景を見ると、春の野音のライブが戻ってきたんだなという気持ちになる。
15:00〜 Chilli Beans.
トップバッターとしてすでにライブハウスでは収まりきらない人気のChilli Beans.を配するというあたりに「ちゃんと最初から見に来てください」という主催者側のメッセージを感じる。昨年の超満員の豊洲PITワンマン以来に見るライブである。
ライブタイトルのアナウンスとともにおなじみのSEが流れてメンバーが登場すると、この野音の客席の光景に少し驚いているようなリアクションが実に新鮮に見える。Moto(ボーカル)は耳まで覆うようなタイプの黒い帽子を被り、Maika(ベース)はサングラスをかけ、Lily(ギター)はキャップを被り、Yuumi(サポートドラマー)は髪が短い金髪になってよりスポーティーになっている。
そんな初々しいリアクションを取りながらもMaikaのスラップベースが一気に会場の空気を変えるような重さを持って鳴らされる「See C Love」からスタートすると、去年はワンマン、今年は対バンとツアーをやりまくってきた成果が音として表れていることを確かに感じさせてくれる。帽子の耳当て部分を振り乱すようにしながらステージ上を動いて歌うMotoの歌唱もさらに芯が強くなっているように感じる。
それはMotoがマイクスタンドを握りしめてキーの低いボーカルを響かせる「neck」でも感じられることであるが、このグルーヴの強さでライブの空気を持っていけるバンドであるだけに今やこのキャパさえ超えるような存在になったのだと思うし、個人的にはLilyのギターが一気にノイジーになり、Motoが気持ち良さそうに自分たちの鳴らす音に乗っている「Digital Persona」がワンマンや主催ライブだけではなくてこうした短い持ち時間のライブでも聴けるのは実に嬉しいところである。
「大好きなジュンさん(主催者でありLOVE MUSICプロデューサーの三浦ジュン氏)のイベントに呼んでもらえて嬉しいです。Chilli Beans.としては初めての野音でのライブですが、気持ちいいですね〜」
と主催者への感謝、この場所に立てている感謝を告げると、Maikaのゴリゴリのベースの音が鳴るだけで歓声が湧き上がるのが本当に凄いなと思う「This Way」で再びMotoが体をくねらせながらキーの低いボーカルを響かせるのであるが、そのキーの低いボーカルの声量や力強さもさらに増しているあたり、ライブをやりまくってきたのが元から技術がめちゃ高かった個人個人の技術をさらに高めて、それがバンド全体のライブの強さに繋がって進化、レベルアップしていることがよくわかる。
すると客席が湧き上がったのは音源ではVaundyが参加している「rose」。もちろんVaundyは来なかったけれども、そのタイトルの通りに紫とは言えないくらいの赤と青の照明がステージを照らす中で、1人だけで歌うMotoの歌唱は完全にこの曲を自分たちのものにしてしまっていた。そもそもこのメンバーたちとVaundyが同じ音楽スクールだったっていうのが、田中将大と坂本勇人が高校に入るまでは同じチームだったというくらいの奇跡みたいなインパクトである。
するとグルーヴの強いロックバンドのサウンドの中にヒップホップやR&Bの要素を取り入れた「Tremolo」ではMaikaのラップ的な歌唱によるツインボーカルがさらに観客のテンションを上げてくれるように歌われる。Lilyもそうだが、こんなに演奏も強いのに歌唱までも全員が上手いというのが凄すぎる。始まるまでは曇っていた感の強かった空が、ライブが始まってから太陽がハッキリと見えるくらいに晴れてきたのはこのバンドのポジティブなエネルギーによるものだろう。
そしてMotoがラスト2曲であることを告げると、Yuumiのドラムが手数を一気に増やすことによってスピード感が増し、Motoもそれまで以上に元気いっぱいにステージを走り回りながら歌う「シェキララ」が一気に宇宙空間と言ってしまいたくなるようなところまで我々の意識を飛ばしてくれると、Motoの声も晴れた空高くにまで響き渡っていく。最初から上手かった歌唱もやはり見事なくらいに進化を果たしているのが広い会場に立つのがハッキリとわかるし、最後に演奏された「HAPPY END」の
「Oh I can fly」
というサビでの見事な伸びやかな歌唱はそれを示しているかのようであった。この短い時間で8曲も演奏できるというのは曲の短さ云々ではなくて、このバンドのライブでのアレンジ力と体力があってこそだ。
もうこの野音ですら小さいと思えるくらいのスケールを野外というシチュエーションで見ると感じるだけに、野外フェスのメインステージに立つ日も近い…と思ったらすでにJAPAN JAMでメインステージに立つのが決まっていた。間違いなくそのキャパに立つようなバンドになっているだけにそこでまたシェキララしたいし、新しいバンドシーンの幕開けになるというくらいに間違いなく必見。
1.See C Love
2.neck
3.Digital Persona
4.This Way
5.rose
6.Tremolo
7.シェキララ
8.HAPPY END
15:50〜 ねぐせ。
良くも悪くも自分のツイッターのTLに今1番出てくるバンドがねぐせ。と言っていい。良くもというのはライブを見たり曲を聞いたりしている人がたくさんいるからで、悪くもというのは何でこんなにも?というくらいにディスられたり炎上したりしているのも流れてくるからである。しかしいつだってどんなバンドだってそういう誰かがそう言ってるからじゃなくて、自分の目でライブを見てから決めるというスタンスであるためにこうしてライブを見る機会を楽しみにしていたバンドでもある。
すでにサウンドチェックの時点からなおと(ドラム)が元気いっぱいに叫びながら演奏していたのであるが、本番でKALMA「ねぇミスター」のSE(世代も近いバンド同士だが単純にメンバー自身が大ファンであるという)でメンバーが登場すると、りょたち(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら
「スペースシャトルで東京は日比谷野音まで〜」
と、この日の会場名を口にして、まさにこの瞬間の今ここを感じさせてくれながら「猫背と癖」でスタートすると、先日開催されたツタロックのセカンドステージ出演時にも満員だったということがよくわかるくらいにたくさんの人が腕を挙げていて、本当に今人気のバンドだなというのがわかるのだが、まだこの曲では体を揺らすようにして音に乗るという感じだったのが、「グッドな音楽を」ではなおやのギターが一気にノイジーになり、しょうともステージ前に出てきたり、時には2人で向かい合ったりするように演奏する姿からロックバンド以外の何者でもなさを確かに感じさせてくれる。りょたちは
「気持ちいい〜」
と曲中に口にしたりと、この日比谷野音でライブができていることをすでに楽しみまくっている様子であるが、自分が想像していた以上にサウンド自体がロックバンドである。
それは
「名古屋の新栄の小さなライブハウスから来ました」
というりょたちの自己紹介にも現れていたが、間違いなく小さいライブハウスから始まって、ライブを積み重ねてきたバンドだからこそこうしてその積み重ねの上に今の状況があるというのが音を聴いていてわかるし、新曲として演奏された「愛してみてよ減るもんじゃないし」のなおとのパンクなビートからも確かに感じられるものだ。それが自然に拳を挙げるロックバンドとしてのライブになっている。
そんな中で演奏された「日常革命」はタイトル通りに日常の中の恋人同士のケンカしたりという日常の風景を歌詞にした曲であるのだが、J-POP的な方向へ寄せて行ってもおかしくないようなテーマの曲ですらも、間奏ではなおやが思いっきりギターをかき鳴らし、しょうとはステージに膝をつきながらベースを弾く。それはJ-POPに寄ったバンドのバラード曲なんかじゃなくて、衝動を込めたロックバンドとしてのロックバラードだった。音源で聴いていて良い曲だなとは思っていても、この曲にこんなに引き込まれるなんて思っていなかった。
そしてこのバンドの持ち味であるポジティブなパワーと笑顔が炸裂する「スーパー愛したい」ではそれぞれが今この瞬間に愛を伝えたいものを間奏で叫ぶのであるが、
なおや「花粉症でキツイけどめちゃくちゃ楽しい!」
などの合間にりょたちは
「フジファブリック大好きー!」
と叫ぶ。そりゃあライブタイトルに合わせてるんだろうという人もいるかもしれないが、それでも観客の中でもフジファブリックの存在も、「若者たちのすべて」というタイトルがそこから取られているということも、各アーティストのライブ前にピアノのイントロが流れても、知らないという人だって少なからずいる。でもこのバンドはそれを知っている。このイベントがどんな意味を持っているのかということも。それはやっぱりライブハウスで生まれて、ロックバンドを愛してここまで続いてきたバンドだからこそなのである。
だからこそ最後にりょたちがギターのストラップが外れながらもマイクスタンドを横に向けるようにして演奏された「死なない為の音楽よ」は失恋ソングでも赤裸々な性を歌うラブソングでもなく、
「死なない為の音楽よ
不要不急じゃない心の薬
死なない為の音楽よ
僕らなら幸せになれる」
と、コロナ禍になって散々言われまくった「音楽は不要不急」という言葉に抗うような歌詞を歌っている。自分は初めてこの曲を聴いた時にハンブレッダーズの「ライブハウスで会おうぜ」を思い出した。音楽が、ライブが、ライブハウスが好きな人が、それを愛することを衒いなく歌った、音楽に対してのラブソング。どんなラブソングよりも、自分はそうした音楽へのラブソングに共感してこれまで生きてきた。とかく色々言われることの多いバンドであるねぐせ。は、実は自分のような奴のためのバンドなのかもしれない。そう考えると、こんなにたくさんの人に求められている理由がよくわかる。
インタビューでりょたち本人が言っていたから書いても大丈夫だと思うが、
「ちょっと前にも僕の女性関係でSNSが炎上して…」
的なことを言っていた。別に自分はメンバーがファンに手を出そうが、取っ替え引っ替えしていようが自分には何ら実害はないから別に気にしないのだが、ただそうしたことが理由になってこのバンドの音楽を聴かなかったり、ディスる側に回る人が出てきてしまうのは本当にもったいないなと思った。それくらいに、ライブを見ればねぐせ。がカッコいいロックバンドであるということがすぐにわかったから。
リハ.片手にビール
リハ.最愛
1.猫背と癖
2.グッドな音楽を
3.愛してみてよ減るもんじゃないし (新曲)
4.日常革命
5.スーパー愛したい
6.死なないための音楽よ
16:40〜 Tele
谷口喜多朗(ボーカル&ギター)によるソロプロジェクトである、Tele。サウンドチェックの段階で
「練習しておかないと」
と言って「花瓶」でコール&レスポンスを巻き起こしていたが、確かに年齢が若いということはわかっていたが、これまでに公開されてきたアー写を見たり曲を聴いた感じでは「年齢は若いけれども大人びている」というイメージだったのが、その姿を見て「子供っぽいって思うくらいに若いな…」というものに一瞬で変わる。それくらいに見た目は幼いと言えるくらいである。
それは谷口がピンクのパーカーとパンツという季節に合わせたコーディネートをしていたからよりそう思ったところもあるかもしれないが、先にギター、キーボード、ベース、ドラムというサポートメンバーたちが車座になってスタンバイする中に谷口が登場すると、ギターの力毅(Cody Lee(李))がカッティングする中でハンドマイクを持って歌い始めた「ロックスター」は
「あぁ、ロックスター、誰かやつに教えてやれよ。
「とっくにお前はさ、誰かにとって奇跡なんだ。」って、」
という、ロックスターの存在も、その存在を見つめる人の存在も須く奇跡であるということを歌う、まさにこれからの時代のロックスターとなるバンドたちが集まったこのイベントのテーマソングであるかのように響く。ハイトーンな谷口の歌声は繊細さも感じさせるけれど、それでも弱々しさ的なものは全く感じない。確かにファルセット的な歌唱部分はライブを重ねればもっと良くなるとも思うけれど、繊細でありながらも凛とした強さを持ったボーカルである。
すると谷口がエレキギターを持っての「私小説」ではそのタイトル通りに
「小っ恥ずかしくて言えない程
夢の中で笑っていた
海抜の低いこの町で君は海を許せない」
などの歌詞がまさに私小説の一説のように情景を想起させる。それはこの野音が野外だからということもあるのかもしれないが、やはりこの歌詞を聴くととてもこんな幼い見た目の男が書いたとは思えない。
「バースデイ」のアウトロではここまでもすでに鉄壁の演奏を見せてきたバンドメンバーのソロ回しも行われるのであるが、その際にベースが森夏彦(ex.Shiggy Jr.、今はMrs. GREEN APPLEのサポート)、ドラムが森瑞希(RADWIMPSのサポート)というとんでもないリズム隊であることが明らかになり、力毅と合わせても、まだライブ経験がそんなにないにも関わらずこんなに演奏が素晴らしい理由がすぐにわかる。それは彼らのこれまでのサポートでの演奏を少しでも見てきた人ならすぐにわかるはずだ。
そんなバンドメンバーの演奏によって心地よく体を揺らす客席の姿が実にこの野音の光景としてよく似合う「comedy」から谷口が
「東京のど真ん中、丸の内。いきなり全てが全開になるというのは難しいでしょう。それは3月13日に声出しが解禁されたとはいえ。でも今日はマスクをしてなら歌ってもいい日ですから!本番ですよ!」
と言って演奏された「花瓶」ではサウンドチェックでの練習が本番となり、谷口が指揮者のように手を振りながら観客の合唱を促すという、音源を聴いていると意外にも思える形で観客とのコミュニケーションを取るのであるが、この曲に限らずTeleの曲はキーがめちゃくちゃ高いだけに、男性と女性でオクターブが分かれて合唱が起きていたのも無理なからぬところである。しかしその合唱がそんなキーにも関わらずしっかり聞こえるくらいに響いていたあたりにこの曲の持つキャッチーさ、Teleというアーティストの持つ良い意味での大衆性を感じさせてくれる。
そんなライブの最後に演奏されたのはテーマもサウンドも壮大な「鯨の子」。谷口の歌唱もバンドの演奏も、目の前にいる全ての人を飲み込むかのようなスケール。すでにワンマンはチケットが取れないくらいの存在になっているが、これはさらに大きなところまでそうして飲み込んでしまうんじゃないだろうか、と思うとともに曲や歌詞は洗練、成熟さを感じさせる谷口はライブでは年齢に見合った無邪気さを持ってこれからも進化していくような気がした。曲間に
「喜多朗ー!」
なんて声が飛び交いまくる存在だとは思ってなかったから。
リハ.花瓶
1.ロックスター
2.私小説
3.バースデイ
4.comedy
5.花瓶
6.鯨の子
17:30〜 ヤユヨ
この日の出演者の中ではすでに昨年のロッキン出演時にライブを見ている、ヤユヨ。そういう意味ではすでに大きなステージも経験しているバンドであるとも言える。
サウンドチェックからすでにその去年の時とはまた違う、一段上に行ったようなオーラを纏っているのを感じさせたリコ(ボーカル&ギター)を筆頭に元気に、でもやはり他のメンバーからは初々しさを感じるようにステージに現れると、3月にリリースされたばかりの最新ミニアルバム「SPIRAL」収録の「愛をつかまえて」からスタートするのであるが、ぺっぺはギターではなくてキーボードを弾いており、今ではそうしたバンド以外の音を同期として流すバンドもたくさんいるけれど、あくまでこの4人で鳴らしている音だけでライブをするというロックバンドとしての矜持を感じさせるとともに、ギター、ベース、ドラムというだけではないサウンドによる表現の広がりも見せてくれる。
一転してリコがギターを掻き鳴らす「ここいちばんの恋」は「SPIRAL」の先行配信曲ということもあり、ヤユヨが「SPIRAL」以降の新たなモードに突入していることを感じさせるが、ぺっぺはキーボードのメロディからギターのノイジーなサウンドにガラッと変わり、はな(ベース)とすーちゃん(ドラム)も含めたメンバー全員でサビを歌うのがキャッチーさを際立たせているし、どんなに時代が変わっても
「君の前ではチャーミングな子でいたいのに
間違えてしまったみたい
君とならばそんなに高く感じないから
こんな小さいカフェラテに
400円払っちゃうな」
という女子の恋愛の心境と情景を描いた歌詞は自分なんかでは絶対に思い浮かばないものだと思う。
そのキャッチーさをタイトルフレーズのコーラスからも感じさせる「ユー!」ではリコがハンドマイクでステージ上を動き回りながら、まさにその「ユー!」が観客であるかのように客席を指差しながら歌ったりするのが一層それを際立たせる。それはどこかこの野音の情景に実によく似合っている。
そんなウキウキと心躍るようなキャッチーな曲たちから一転するのは、こちらも「SPIRAL」収録にしてぺっぺがキーボードを弾き、悩める内面を曝け出すかのような「POOL」であるのだが、短い持ち時間の中でもバンドの持つキャッチーなだけではない面を感じさせてくれるし、このキーボードとギターのスイッチという形も含めてバンドが完全に新たなステージに入ったと感じさせてくれる。
するとリコは開演前には雨が降るんじゃないかと思っていたらしいが、
「ヤユヨは雨バンドなんですけど、チリビ(Chilli Beans.)が晴れバンドらしいんで、チリビが晴れさせてくれた(笑)」
とチリビとの仲睦まじさを感じさせると、
「若者のすべてってことで、私たちが若者だった頃…今でも23歳なんで若者だと思ってますけど(笑)テヘッ(笑)(ポーズを取る)
今よりもっと若者だった頃に作った曲を!」
というリコのMCからもこうした大きなステージに立った経験や、大阪人ならではの明るさを感じさせると、バンド最大のキラーチューンの「さよなら前夜」がここにいる全ての若者と、かつて若者だったもののために放たれ、ぺっぺのギターもはなとすーちゃんのリズムも一気に力強さを増していくと、すーちゃんのキメから最後の曲に…と思ったらまさかのリコが歌い出しに入るのをミスってやり直すということに。
「これはご愛嬌ってことで(笑)」
と気を取り直して再度イントロから演奏された「futtou!!!」はそうした場面があったからこそリコはさらに気合いを入れた身振り手振りを交えて歌い、そこに3人のコーラスが重なることによってこのバンドの持ち味のキャッチーさを最後に最大級に感じさせてくれた。
この日の場内のBGMでは基本的に前半は若手バンド(このイベントにこれまでに出演したことがあるバンドも)の曲が流れていたが、ヤユヨの前にはチャットモンチーの「ハナノユメ」が流れた。それは主催者側からの、レジェンドと言えるような先輩バンドの位置まで行けるポテンシャルを持ってるバンドだというメッセージだったと自分も思っている。
リハ.キャンディ (飴ちゃんver.)
リハ.アイラブ
1.愛をつかまえて
2.ここいちばんの恋
3.ユー!
4.POOL
5.さよなら前夜
6.futtou!!!
18:20〜 マルシィ
この日初めてライブを見るバンドの中では最後に見ることとなる、マルシィ。なにぶん初めて見るものだからこのバンドのさわやかな色合いのタオルを持っている観客がたくさんいることに驚いてしまう。
すっかり陽が落ちて薄暗くなった野音のステージにメンバー3人とサポートドラマーが現れると、そんな薄暗いステージを音楽とそれに合わせた照明でもって光を当てるような「幸せの花束」からスタートすると、その闇の中から浮かび上がる吉田右京(ボーカル&ギター)の歌唱の美しさはもちろんのこと、shujiのギターのサウンドが音源で聴いたイメージよりもはるかにうなりを上げるロックなサウンドであることに驚く。手数の多さとタイトさを持ち合わせたサポートドラマーのリズムも含めて、一瞬でこのバンドに抱いていたイメージが変わるというのはねぐせ。と同様である。
この暗くなった空に光を当てるかのような「プラネタリウム」でもそれは同じで、髪色が鮮やかなフジイタクミのベースは本人が物理的に飛び跳ねるのと同じようにロックバンドとしての跳ね感を感じさせてくれると、赤と青のビビッドな照明が音と渾然一体となって客席に襲いかかってくるかのような「牙」のサウンドのノイジーさはもはやギターロックの中でもラウド寄りと言っていいくらいのものだ。このバンドもまたライブハウスでライブを重ねまくってきて今この位置にいるということがライブを見ればすぐにわかる。
吉田はこの野音のステージが憧れの場所であり、そこに自分たちが立てている喜びを口にしたのも、この野音で繰り広げられてきた数々の素晴らしいライブを彼らが目にしてきて、そこに自分たちが立つことを目標にしていたんじゃないかとも思うのであるが、
「みんなで一緒に歌うために作った」
という「大丈夫」では勇壮なコーラスフレーズを合唱する練習をしてから演奏され、見事に本番で合唱を巻き起こす。それは誰でも口ずさめるくらいのキャッチーさをこの曲のメロディが持っているからであるが、その合唱の声とたくさんの人が腕を上げている光景が、コロナ禍というライブシーンの危機を乗り越えて今こうした景色を見ることができている、本当に我々は「大丈夫」だったんだなと思わせてくれる。それはきっとこれからも音楽が、ライブがあればそうであると思わせてくれるのである。
するとガラッと空気が変わるのは現在の世界のポップミュージックの主流と言えるR&B的な同期のリズムと吉田の歌声から始まり、曲が進むにつれてshujiとフジイのサウンドも重なっていく「未来図」。この曲のMVを見た時のイメージも含めて、自分はこのバンドをJ-POP的なバンドだというイメージで見ていたのであるが、間奏でshujiとフジイが向かい合うようにして轟音を鳴らす姿は紛れもなくロックバンドそのものだ。こうしたタイプの曲でもそう感じさせてくれるくらいにマルシィは自分の想像以上にロックなライブをやるロックバンドだったのだ。
再び野音のステージに立てた喜びを吉田が口にしたあたりは本当にここが目標の場所だった、まさにバンドの「未来図」の中にあった場所だったことを感じさせてくれたが、最後に演奏された「絵空」へと連なる、まるでこの夜の野音で演奏するために生み出されたのかと思うくらいにハマっていた後半の流れはきっとバンドも自分たちで自分たちのどの楽曲を今この場所で演奏するべきかをわかっているのだろう。でもそこに計算や打算は感じられない。ひたすらにロックバンドとしての矜持とバンドのダイナミクスを感じさせてくれたマルシィとの初遭遇だった。野音でのハマりっぷりという意味ではこの日1番だったかもしれない。
マルシィの紹介としてよく「共感できる失恋ソング」的なものを見ることがある。でも自分はそうした歌詞には全く共感できない。そんなことを思ったり考えたりすることが全くないから。でもライブを見た時のカッコよさならば最大限に共感することができる。マルシィもねぐせ。もそういう意味でこの日に一気に共感できるバンドに変わった。自分のような奴にそう思わせてくれるバンドも、主催者もさすがだ。
リハ.最低最悪
1.幸せの花束
2.プラネタリウム
3.牙
4.大丈夫
5.未来図
6.絵空
19:10〜 NEE
すでに大型フェスへの出演経験がこの中で1番豊富という意味では文句なしのトリを務めることになる、NEE。個人的には見るはずだったCOUNTDOWN JAPANの年明け後のライブを体調不良で帰宅してしまって見れなかっただけに待望のライブである。
なのだが、サウンドチェックの段階から何やら時間が少し押し気味で、どうやら同期の機材周りにトラブルが発生しているようだ。それでもサウンドチェックで曲を演奏してから本番でメンバー4人がステージに登場し、くぅ(ボーカル&ギター)がここまで他のバンドのライブの盛り上がりを見てきてウズウズしていたと言わんばかりに観客を煽り、自らも飛び跳ねまくることによって観客をより飛び跳ねさせまくる、最大の代表曲にしてキラーチューンの「不革命前夜」からスタートするのであるが、長い髪を靡かせながらギターを弾いていた夕日が曲中にスタッフに向かって腕でバツ印を作る。どうやらやはり機材が故障してしまったようで、曲終わりでは一度ライブを止めて修復作業が行われ、勢いが止まって出鼻を挫かれてしまうような格好に。
しかしながらすぐに復旧して、くぅがギターを弾きながら歌う「アウトバーン」からはそのトラブルがむしろさらなる爆発力を生み出すかのような熱狂っぷりに。それは体を激しく動かしながら演奏するかほ(ベース)と、見た目からして只者じゃないのがわかる出で立ちの大樹(ドラム)のリズム隊の強さによってもたらされているものでもある。そこが1番「やっぱりレベル違うな…」と思うくらいの凄まじさに繋がっている。
「夜はまだまだこれからだぜー!」
とくぅが叫ぶと、まさにバンドの鉄壁っぷり、最強っぷりを示すかのような「ボキは最強」が演奏され、すっかり機材も直ったようなのだが、その同期のサウンドはネット音楽の要素も強いNEEのサウンドにはなくてはならないものであるが、もしそれが全くなくてもこの凄まじさと熱狂っぷりは変わらないんじゃないかと思うくらいにひたすら観客が飛び跳ねまくっている。自分がライブを見るのは昨年夏のSWEET LOVE SHOWER以来であるが、その時ですら凄まじかった音の強さがさらに強靭なものになっていて驚かされながらも踊らされてしまう。
それは2月に配信リリースされたばかりの最新曲「おもちゃ帝国」でもそうなのだが、この曲の歌詞やメッセージはまさに今この場所こそがNEEの作り出すおもちゃの帝国であるように感じさせてくれるし、NEEのおもちゃが次々に鳴り響いているかのようなサウンドは「おもちゃ帝国」というタイトルが実によく似合う。実際にくぅもかほもこの場所こそがそうであるかのように指差しながら歌ったりしている。
「今日は熱中症になる奴を出すのが目標。誰かぶっ倒れるくらいに熱くしてやるからな!」
とくぅが言ったとおりに、様々なタイプ、サウンドの曲を持つバンドであるが、この日はひたすらに「熱狂」という一点突破型のライブであることを示すように、個人的には歌詞からどこかおどろおどろしさを感じてしまうが、それが現世ならざるダンスミュージックとして我を忘れて踊りまくらざるを得ない「九鬼」から、本当に倒れるやつが出るんじゃないのかと思うくらいに畳みかけるような「第一次世界」では同じ曲なのかと思うくらいに目まぐるしく展開していくのであるが、それも全てがNEEの音楽としてまとまり、そんな展開を衝動をぶちまけるように演奏するからこその凄まじさを実感する。個人的には童謡を歌うかのようなかほのボーカルが聴けるのもこの曲での嬉しいポイントである。
そうして走り抜けるようなスピードで曲が次々に演奏されたことによって、あっという間に最後の曲になってしまったのは「月曜日の歌」で、くぅはとにかくもう何でもいいから歌え!という凄まじいテンションの高さで観客を煽りまくるのであるが、この日は日曜日ということで、
「簡単な事じゃない
僕ら傷だらけになったばかり
明日は臆病で素敵な月曜日の歌」
というフレーズが響くことによって、踊りながらもふと我にかえってしまう。明日は月曜日かと。でもこの日は新年度最初の月曜日の前の日。観客の中には明日から新たな生活を始め、そこで出会いが訪れるような人もたくさんいるはずだ。決して応援歌というわけではないというか、むしろ歌詞はくぅの内省的な面が表出している曲であるが、
「だけどいつか
忘れてしまうでしょう?
1人で歌う
月曜日の歌」
を1人じゃなくてこんなにたくさんの人と一緒に歌えたことだけは、明日からまた怒涛のように押し寄せては過ぎ去っていくような慌ただしさの中でも決して忘れないと思うのだ。
しかし観客のアンコールに応えてすぐさまメンバーが登場すると、本当に急遽決めたようで
「何の曲やろうか?リクエストして!」
と言って観客のリクエストを求めてから演奏されたのはまさかここで聴けるとは思ってなかった「万事思通」なのだが、くぅがスタッフに急いでギターを用意してもらったものの、音が出なくて焦り、すぐさま復旧するというあまりにリアルすぎるやり取りは本当に急遽演奏されたとわかるには充分過ぎるくらいであったが、そんな急遽のリクエストにも応えられるくらいに今このバンドはどんな曲でもすぐに演奏できるくらいのライブバンド状態になっている。
「わっしょいわっしょい」
などのフレーズが飛び出すことによって否が応でも祭囃子感を感じざるを得ないけれど、きっとくぅは家にいても踊ったりはしゃいだりすることはそんなにないタイプだろうと思う。でも音楽が鳴っている時はそれができる。というかそうなってしまう。NEEの音楽はくぅ自身やくぅのような人が少しでも人生を楽しく生きていくためのものだ。そう思わざるを得ないくらいに楽しすぎた熱狂の時間だったし、最後にメンバー全員がマイクに向かって一言ずつ叫んでからステージを去っていったのは、メンバー自身もこのライブが楽しすぎたことの証明であるかのようだった。
もちろんライブの地力的な強さは充分わかってはいた。しかしこの日のNEEはそんな予想を遥かに飛び越えるくらいの凄まじさだった。それはやはりライブを重ねてきたことはもちろん、リリースを重ねてきたこともあるかと思う。でもなんだかそれ以上に、バンドの精神がより定まったような印象を受けた。音の強さ、グルーヴにメンバーそれぞれの意思が強く出ていて、それが重なり合っているかのような。この野音でワンマンをやるなら…いや、次にワンマンをやるんならどこでだって見たい。ワンマンじゃなくてもライブをまた早く見たい。それくらいに翌日の月曜日はこのバンドのライブの余韻に浸っていた。
リハ.月曜日の歌
1.不革命前夜
2.アウトバーン
3.ボキは最強
4.おもちゃ帝国
5.九鬼
6.第一次世界
7.月曜日の歌
encore
8.万事思通
ライブが終わるとタイトルに合わせてフジファブリック「若者のすべて」が終演BGMとして流れた。まだ花火が上がるような季節ではないけれど、この日の出演者たちが見せてくれたフレッシュなライブの締めとして、人が出口に向かっていく中でも光を放つ野音のステージに流れる曲としてやっぱりこんなにふさわしい曲はない。
個人的にも好きなバンドが多すぎてフェスに若手バンドが出演したりしていても、今まで見てきたバンドを優先してなかなか被ったらライブが見れないことも多い。そうして普段はあまりライブが見れない若手バンドの煌めきを感じさせてくれるのがこのイベントだ。またこうしてライブで観たいバンドが増えてしまうことが悩ましくもあるけれど、それでもやっぱりそれを幸せに感じている。これから先もきっとそういうアーティストにたくさん出会うことができるのだから。
そのために早くも今年2回目の野音でのライブはLOVE MUSIC主催(サブタイトルもそれをもじったものになっている)の若手対バンイベント「若者のすべて」。TSUTAYA O-EASTで開催された第二回以来の参加であるが、今回は
Chilli Beans.
Tele
NEE
ねぐせ。
マルシィ
ヤユヨ
という実にこの春の時期にふさわしいフレッシュな6組が集結。天気も良いとは言えないけれど、悪いというわけでもないという絶妙な感じであるが、開演前から若手バンドの曲がBGMとして流れまくり、客席も立見席まで含めて若い観客で超満員という光景を見ると、春の野音のライブが戻ってきたんだなという気持ちになる。
15:00〜 Chilli Beans.
トップバッターとしてすでにライブハウスでは収まりきらない人気のChilli Beans.を配するというあたりに「ちゃんと最初から見に来てください」という主催者側のメッセージを感じる。昨年の超満員の豊洲PITワンマン以来に見るライブである。
ライブタイトルのアナウンスとともにおなじみのSEが流れてメンバーが登場すると、この野音の客席の光景に少し驚いているようなリアクションが実に新鮮に見える。Moto(ボーカル)は耳まで覆うようなタイプの黒い帽子を被り、Maika(ベース)はサングラスをかけ、Lily(ギター)はキャップを被り、Yuumi(サポートドラマー)は髪が短い金髪になってよりスポーティーになっている。
そんな初々しいリアクションを取りながらもMaikaのスラップベースが一気に会場の空気を変えるような重さを持って鳴らされる「See C Love」からスタートすると、去年はワンマン、今年は対バンとツアーをやりまくってきた成果が音として表れていることを確かに感じさせてくれる。帽子の耳当て部分を振り乱すようにしながらステージ上を動いて歌うMotoの歌唱もさらに芯が強くなっているように感じる。
それはMotoがマイクスタンドを握りしめてキーの低いボーカルを響かせる「neck」でも感じられることであるが、このグルーヴの強さでライブの空気を持っていけるバンドであるだけに今やこのキャパさえ超えるような存在になったのだと思うし、個人的にはLilyのギターが一気にノイジーになり、Motoが気持ち良さそうに自分たちの鳴らす音に乗っている「Digital Persona」がワンマンや主催ライブだけではなくてこうした短い持ち時間のライブでも聴けるのは実に嬉しいところである。
「大好きなジュンさん(主催者でありLOVE MUSICプロデューサーの三浦ジュン氏)のイベントに呼んでもらえて嬉しいです。Chilli Beans.としては初めての野音でのライブですが、気持ちいいですね〜」
と主催者への感謝、この場所に立てている感謝を告げると、Maikaのゴリゴリのベースの音が鳴るだけで歓声が湧き上がるのが本当に凄いなと思う「This Way」で再びMotoが体をくねらせながらキーの低いボーカルを響かせるのであるが、そのキーの低いボーカルの声量や力強さもさらに増しているあたり、ライブをやりまくってきたのが元から技術がめちゃ高かった個人個人の技術をさらに高めて、それがバンド全体のライブの強さに繋がって進化、レベルアップしていることがよくわかる。
すると客席が湧き上がったのは音源ではVaundyが参加している「rose」。もちろんVaundyは来なかったけれども、そのタイトルの通りに紫とは言えないくらいの赤と青の照明がステージを照らす中で、1人だけで歌うMotoの歌唱は完全にこの曲を自分たちのものにしてしまっていた。そもそもこのメンバーたちとVaundyが同じ音楽スクールだったっていうのが、田中将大と坂本勇人が高校に入るまでは同じチームだったというくらいの奇跡みたいなインパクトである。
するとグルーヴの強いロックバンドのサウンドの中にヒップホップやR&Bの要素を取り入れた「Tremolo」ではMaikaのラップ的な歌唱によるツインボーカルがさらに観客のテンションを上げてくれるように歌われる。Lilyもそうだが、こんなに演奏も強いのに歌唱までも全員が上手いというのが凄すぎる。始まるまでは曇っていた感の強かった空が、ライブが始まってから太陽がハッキリと見えるくらいに晴れてきたのはこのバンドのポジティブなエネルギーによるものだろう。
そしてMotoがラスト2曲であることを告げると、Yuumiのドラムが手数を一気に増やすことによってスピード感が増し、Motoもそれまで以上に元気いっぱいにステージを走り回りながら歌う「シェキララ」が一気に宇宙空間と言ってしまいたくなるようなところまで我々の意識を飛ばしてくれると、Motoの声も晴れた空高くにまで響き渡っていく。最初から上手かった歌唱もやはり見事なくらいに進化を果たしているのが広い会場に立つのがハッキリとわかるし、最後に演奏された「HAPPY END」の
「Oh I can fly」
というサビでの見事な伸びやかな歌唱はそれを示しているかのようであった。この短い時間で8曲も演奏できるというのは曲の短さ云々ではなくて、このバンドのライブでのアレンジ力と体力があってこそだ。
もうこの野音ですら小さいと思えるくらいのスケールを野外というシチュエーションで見ると感じるだけに、野外フェスのメインステージに立つ日も近い…と思ったらすでにJAPAN JAMでメインステージに立つのが決まっていた。間違いなくそのキャパに立つようなバンドになっているだけにそこでまたシェキララしたいし、新しいバンドシーンの幕開けになるというくらいに間違いなく必見。
1.See C Love
2.neck
3.Digital Persona
4.This Way
5.rose
6.Tremolo
7.シェキララ
8.HAPPY END
15:50〜 ねぐせ。
良くも悪くも自分のツイッターのTLに今1番出てくるバンドがねぐせ。と言っていい。良くもというのはライブを見たり曲を聞いたりしている人がたくさんいるからで、悪くもというのは何でこんなにも?というくらいにディスられたり炎上したりしているのも流れてくるからである。しかしいつだってどんなバンドだってそういう誰かがそう言ってるからじゃなくて、自分の目でライブを見てから決めるというスタンスであるためにこうしてライブを見る機会を楽しみにしていたバンドでもある。
すでにサウンドチェックの時点からなおと(ドラム)が元気いっぱいに叫びながら演奏していたのであるが、本番でKALMA「ねぇミスター」のSE(世代も近いバンド同士だが単純にメンバー自身が大ファンであるという)でメンバーが登場すると、りょたち(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら
「スペースシャトルで東京は日比谷野音まで〜」
と、この日の会場名を口にして、まさにこの瞬間の今ここを感じさせてくれながら「猫背と癖」でスタートすると、先日開催されたツタロックのセカンドステージ出演時にも満員だったということがよくわかるくらいにたくさんの人が腕を挙げていて、本当に今人気のバンドだなというのがわかるのだが、まだこの曲では体を揺らすようにして音に乗るという感じだったのが、「グッドな音楽を」ではなおやのギターが一気にノイジーになり、しょうともステージ前に出てきたり、時には2人で向かい合ったりするように演奏する姿からロックバンド以外の何者でもなさを確かに感じさせてくれる。りょたちは
「気持ちいい〜」
と曲中に口にしたりと、この日比谷野音でライブができていることをすでに楽しみまくっている様子であるが、自分が想像していた以上にサウンド自体がロックバンドである。
それは
「名古屋の新栄の小さなライブハウスから来ました」
というりょたちの自己紹介にも現れていたが、間違いなく小さいライブハウスから始まって、ライブを積み重ねてきたバンドだからこそこうしてその積み重ねの上に今の状況があるというのが音を聴いていてわかるし、新曲として演奏された「愛してみてよ減るもんじゃないし」のなおとのパンクなビートからも確かに感じられるものだ。それが自然に拳を挙げるロックバンドとしてのライブになっている。
そんな中で演奏された「日常革命」はタイトル通りに日常の中の恋人同士のケンカしたりという日常の風景を歌詞にした曲であるのだが、J-POP的な方向へ寄せて行ってもおかしくないようなテーマの曲ですらも、間奏ではなおやが思いっきりギターをかき鳴らし、しょうとはステージに膝をつきながらベースを弾く。それはJ-POPに寄ったバンドのバラード曲なんかじゃなくて、衝動を込めたロックバンドとしてのロックバラードだった。音源で聴いていて良い曲だなとは思っていても、この曲にこんなに引き込まれるなんて思っていなかった。
そしてこのバンドの持ち味であるポジティブなパワーと笑顔が炸裂する「スーパー愛したい」ではそれぞれが今この瞬間に愛を伝えたいものを間奏で叫ぶのであるが、
なおや「花粉症でキツイけどめちゃくちゃ楽しい!」
などの合間にりょたちは
「フジファブリック大好きー!」
と叫ぶ。そりゃあライブタイトルに合わせてるんだろうという人もいるかもしれないが、それでも観客の中でもフジファブリックの存在も、「若者たちのすべて」というタイトルがそこから取られているということも、各アーティストのライブ前にピアノのイントロが流れても、知らないという人だって少なからずいる。でもこのバンドはそれを知っている。このイベントがどんな意味を持っているのかということも。それはやっぱりライブハウスで生まれて、ロックバンドを愛してここまで続いてきたバンドだからこそなのである。
だからこそ最後にりょたちがギターのストラップが外れながらもマイクスタンドを横に向けるようにして演奏された「死なない為の音楽よ」は失恋ソングでも赤裸々な性を歌うラブソングでもなく、
「死なない為の音楽よ
不要不急じゃない心の薬
死なない為の音楽よ
僕らなら幸せになれる」
と、コロナ禍になって散々言われまくった「音楽は不要不急」という言葉に抗うような歌詞を歌っている。自分は初めてこの曲を聴いた時にハンブレッダーズの「ライブハウスで会おうぜ」を思い出した。音楽が、ライブが、ライブハウスが好きな人が、それを愛することを衒いなく歌った、音楽に対してのラブソング。どんなラブソングよりも、自分はそうした音楽へのラブソングに共感してこれまで生きてきた。とかく色々言われることの多いバンドであるねぐせ。は、実は自分のような奴のためのバンドなのかもしれない。そう考えると、こんなにたくさんの人に求められている理由がよくわかる。
インタビューでりょたち本人が言っていたから書いても大丈夫だと思うが、
「ちょっと前にも僕の女性関係でSNSが炎上して…」
的なことを言っていた。別に自分はメンバーがファンに手を出そうが、取っ替え引っ替えしていようが自分には何ら実害はないから別に気にしないのだが、ただそうしたことが理由になってこのバンドの音楽を聴かなかったり、ディスる側に回る人が出てきてしまうのは本当にもったいないなと思った。それくらいに、ライブを見ればねぐせ。がカッコいいロックバンドであるということがすぐにわかったから。
リハ.片手にビール
リハ.最愛
1.猫背と癖
2.グッドな音楽を
3.愛してみてよ減るもんじゃないし (新曲)
4.日常革命
5.スーパー愛したい
6.死なないための音楽よ
16:40〜 Tele
谷口喜多朗(ボーカル&ギター)によるソロプロジェクトである、Tele。サウンドチェックの段階で
「練習しておかないと」
と言って「花瓶」でコール&レスポンスを巻き起こしていたが、確かに年齢が若いということはわかっていたが、これまでに公開されてきたアー写を見たり曲を聴いた感じでは「年齢は若いけれども大人びている」というイメージだったのが、その姿を見て「子供っぽいって思うくらいに若いな…」というものに一瞬で変わる。それくらいに見た目は幼いと言えるくらいである。
それは谷口がピンクのパーカーとパンツという季節に合わせたコーディネートをしていたからよりそう思ったところもあるかもしれないが、先にギター、キーボード、ベース、ドラムというサポートメンバーたちが車座になってスタンバイする中に谷口が登場すると、ギターの力毅(Cody Lee(李))がカッティングする中でハンドマイクを持って歌い始めた「ロックスター」は
「あぁ、ロックスター、誰かやつに教えてやれよ。
「とっくにお前はさ、誰かにとって奇跡なんだ。」って、」
という、ロックスターの存在も、その存在を見つめる人の存在も須く奇跡であるということを歌う、まさにこれからの時代のロックスターとなるバンドたちが集まったこのイベントのテーマソングであるかのように響く。ハイトーンな谷口の歌声は繊細さも感じさせるけれど、それでも弱々しさ的なものは全く感じない。確かにファルセット的な歌唱部分はライブを重ねればもっと良くなるとも思うけれど、繊細でありながらも凛とした強さを持ったボーカルである。
すると谷口がエレキギターを持っての「私小説」ではそのタイトル通りに
「小っ恥ずかしくて言えない程
夢の中で笑っていた
海抜の低いこの町で君は海を許せない」
などの歌詞がまさに私小説の一説のように情景を想起させる。それはこの野音が野外だからということもあるのかもしれないが、やはりこの歌詞を聴くととてもこんな幼い見た目の男が書いたとは思えない。
「バースデイ」のアウトロではここまでもすでに鉄壁の演奏を見せてきたバンドメンバーのソロ回しも行われるのであるが、その際にベースが森夏彦(ex.Shiggy Jr.、今はMrs. GREEN APPLEのサポート)、ドラムが森瑞希(RADWIMPSのサポート)というとんでもないリズム隊であることが明らかになり、力毅と合わせても、まだライブ経験がそんなにないにも関わらずこんなに演奏が素晴らしい理由がすぐにわかる。それは彼らのこれまでのサポートでの演奏を少しでも見てきた人ならすぐにわかるはずだ。
そんなバンドメンバーの演奏によって心地よく体を揺らす客席の姿が実にこの野音の光景としてよく似合う「comedy」から谷口が
「東京のど真ん中、丸の内。いきなり全てが全開になるというのは難しいでしょう。それは3月13日に声出しが解禁されたとはいえ。でも今日はマスクをしてなら歌ってもいい日ですから!本番ですよ!」
と言って演奏された「花瓶」ではサウンドチェックでの練習が本番となり、谷口が指揮者のように手を振りながら観客の合唱を促すという、音源を聴いていると意外にも思える形で観客とのコミュニケーションを取るのであるが、この曲に限らずTeleの曲はキーがめちゃくちゃ高いだけに、男性と女性でオクターブが分かれて合唱が起きていたのも無理なからぬところである。しかしその合唱がそんなキーにも関わらずしっかり聞こえるくらいに響いていたあたりにこの曲の持つキャッチーさ、Teleというアーティストの持つ良い意味での大衆性を感じさせてくれる。
そんなライブの最後に演奏されたのはテーマもサウンドも壮大な「鯨の子」。谷口の歌唱もバンドの演奏も、目の前にいる全ての人を飲み込むかのようなスケール。すでにワンマンはチケットが取れないくらいの存在になっているが、これはさらに大きなところまでそうして飲み込んでしまうんじゃないだろうか、と思うとともに曲や歌詞は洗練、成熟さを感じさせる谷口はライブでは年齢に見合った無邪気さを持ってこれからも進化していくような気がした。曲間に
「喜多朗ー!」
なんて声が飛び交いまくる存在だとは思ってなかったから。
リハ.花瓶
1.ロックスター
2.私小説
3.バースデイ
4.comedy
5.花瓶
6.鯨の子
17:30〜 ヤユヨ
この日の出演者の中ではすでに昨年のロッキン出演時にライブを見ている、ヤユヨ。そういう意味ではすでに大きなステージも経験しているバンドであるとも言える。
サウンドチェックからすでにその去年の時とはまた違う、一段上に行ったようなオーラを纏っているのを感じさせたリコ(ボーカル&ギター)を筆頭に元気に、でもやはり他のメンバーからは初々しさを感じるようにステージに現れると、3月にリリースされたばかりの最新ミニアルバム「SPIRAL」収録の「愛をつかまえて」からスタートするのであるが、ぺっぺはギターではなくてキーボードを弾いており、今ではそうしたバンド以外の音を同期として流すバンドもたくさんいるけれど、あくまでこの4人で鳴らしている音だけでライブをするというロックバンドとしての矜持を感じさせるとともに、ギター、ベース、ドラムというだけではないサウンドによる表現の広がりも見せてくれる。
一転してリコがギターを掻き鳴らす「ここいちばんの恋」は「SPIRAL」の先行配信曲ということもあり、ヤユヨが「SPIRAL」以降の新たなモードに突入していることを感じさせるが、ぺっぺはキーボードのメロディからギターのノイジーなサウンドにガラッと変わり、はな(ベース)とすーちゃん(ドラム)も含めたメンバー全員でサビを歌うのがキャッチーさを際立たせているし、どんなに時代が変わっても
「君の前ではチャーミングな子でいたいのに
間違えてしまったみたい
君とならばそんなに高く感じないから
こんな小さいカフェラテに
400円払っちゃうな」
という女子の恋愛の心境と情景を描いた歌詞は自分なんかでは絶対に思い浮かばないものだと思う。
そのキャッチーさをタイトルフレーズのコーラスからも感じさせる「ユー!」ではリコがハンドマイクでステージ上を動き回りながら、まさにその「ユー!」が観客であるかのように客席を指差しながら歌ったりするのが一層それを際立たせる。それはどこかこの野音の情景に実によく似合っている。
そんなウキウキと心躍るようなキャッチーな曲たちから一転するのは、こちらも「SPIRAL」収録にしてぺっぺがキーボードを弾き、悩める内面を曝け出すかのような「POOL」であるのだが、短い持ち時間の中でもバンドの持つキャッチーなだけではない面を感じさせてくれるし、このキーボードとギターのスイッチという形も含めてバンドが完全に新たなステージに入ったと感じさせてくれる。
するとリコは開演前には雨が降るんじゃないかと思っていたらしいが、
「ヤユヨは雨バンドなんですけど、チリビ(Chilli Beans.)が晴れバンドらしいんで、チリビが晴れさせてくれた(笑)」
とチリビとの仲睦まじさを感じさせると、
「若者のすべてってことで、私たちが若者だった頃…今でも23歳なんで若者だと思ってますけど(笑)テヘッ(笑)(ポーズを取る)
今よりもっと若者だった頃に作った曲を!」
というリコのMCからもこうした大きなステージに立った経験や、大阪人ならではの明るさを感じさせると、バンド最大のキラーチューンの「さよなら前夜」がここにいる全ての若者と、かつて若者だったもののために放たれ、ぺっぺのギターもはなとすーちゃんのリズムも一気に力強さを増していくと、すーちゃんのキメから最後の曲に…と思ったらまさかのリコが歌い出しに入るのをミスってやり直すということに。
「これはご愛嬌ってことで(笑)」
と気を取り直して再度イントロから演奏された「futtou!!!」はそうした場面があったからこそリコはさらに気合いを入れた身振り手振りを交えて歌い、そこに3人のコーラスが重なることによってこのバンドの持ち味のキャッチーさを最後に最大級に感じさせてくれた。
この日の場内のBGMでは基本的に前半は若手バンド(このイベントにこれまでに出演したことがあるバンドも)の曲が流れていたが、ヤユヨの前にはチャットモンチーの「ハナノユメ」が流れた。それは主催者側からの、レジェンドと言えるような先輩バンドの位置まで行けるポテンシャルを持ってるバンドだというメッセージだったと自分も思っている。
リハ.キャンディ (飴ちゃんver.)
リハ.アイラブ
1.愛をつかまえて
2.ここいちばんの恋
3.ユー!
4.POOL
5.さよなら前夜
6.futtou!!!
18:20〜 マルシィ
この日初めてライブを見るバンドの中では最後に見ることとなる、マルシィ。なにぶん初めて見るものだからこのバンドのさわやかな色合いのタオルを持っている観客がたくさんいることに驚いてしまう。
すっかり陽が落ちて薄暗くなった野音のステージにメンバー3人とサポートドラマーが現れると、そんな薄暗いステージを音楽とそれに合わせた照明でもって光を当てるような「幸せの花束」からスタートすると、その闇の中から浮かび上がる吉田右京(ボーカル&ギター)の歌唱の美しさはもちろんのこと、shujiのギターのサウンドが音源で聴いたイメージよりもはるかにうなりを上げるロックなサウンドであることに驚く。手数の多さとタイトさを持ち合わせたサポートドラマーのリズムも含めて、一瞬でこのバンドに抱いていたイメージが変わるというのはねぐせ。と同様である。
この暗くなった空に光を当てるかのような「プラネタリウム」でもそれは同じで、髪色が鮮やかなフジイタクミのベースは本人が物理的に飛び跳ねるのと同じようにロックバンドとしての跳ね感を感じさせてくれると、赤と青のビビッドな照明が音と渾然一体となって客席に襲いかかってくるかのような「牙」のサウンドのノイジーさはもはやギターロックの中でもラウド寄りと言っていいくらいのものだ。このバンドもまたライブハウスでライブを重ねまくってきて今この位置にいるということがライブを見ればすぐにわかる。
吉田はこの野音のステージが憧れの場所であり、そこに自分たちが立てている喜びを口にしたのも、この野音で繰り広げられてきた数々の素晴らしいライブを彼らが目にしてきて、そこに自分たちが立つことを目標にしていたんじゃないかとも思うのであるが、
「みんなで一緒に歌うために作った」
という「大丈夫」では勇壮なコーラスフレーズを合唱する練習をしてから演奏され、見事に本番で合唱を巻き起こす。それは誰でも口ずさめるくらいのキャッチーさをこの曲のメロディが持っているからであるが、その合唱の声とたくさんの人が腕を上げている光景が、コロナ禍というライブシーンの危機を乗り越えて今こうした景色を見ることができている、本当に我々は「大丈夫」だったんだなと思わせてくれる。それはきっとこれからも音楽が、ライブがあればそうであると思わせてくれるのである。
するとガラッと空気が変わるのは現在の世界のポップミュージックの主流と言えるR&B的な同期のリズムと吉田の歌声から始まり、曲が進むにつれてshujiとフジイのサウンドも重なっていく「未来図」。この曲のMVを見た時のイメージも含めて、自分はこのバンドをJ-POP的なバンドだというイメージで見ていたのであるが、間奏でshujiとフジイが向かい合うようにして轟音を鳴らす姿は紛れもなくロックバンドそのものだ。こうしたタイプの曲でもそう感じさせてくれるくらいにマルシィは自分の想像以上にロックなライブをやるロックバンドだったのだ。
再び野音のステージに立てた喜びを吉田が口にしたあたりは本当にここが目標の場所だった、まさにバンドの「未来図」の中にあった場所だったことを感じさせてくれたが、最後に演奏された「絵空」へと連なる、まるでこの夜の野音で演奏するために生み出されたのかと思うくらいにハマっていた後半の流れはきっとバンドも自分たちで自分たちのどの楽曲を今この場所で演奏するべきかをわかっているのだろう。でもそこに計算や打算は感じられない。ひたすらにロックバンドとしての矜持とバンドのダイナミクスを感じさせてくれたマルシィとの初遭遇だった。野音でのハマりっぷりという意味ではこの日1番だったかもしれない。
マルシィの紹介としてよく「共感できる失恋ソング」的なものを見ることがある。でも自分はそうした歌詞には全く共感できない。そんなことを思ったり考えたりすることが全くないから。でもライブを見た時のカッコよさならば最大限に共感することができる。マルシィもねぐせ。もそういう意味でこの日に一気に共感できるバンドに変わった。自分のような奴にそう思わせてくれるバンドも、主催者もさすがだ。
リハ.最低最悪
1.幸せの花束
2.プラネタリウム
3.牙
4.大丈夫
5.未来図
6.絵空
19:10〜 NEE
すでに大型フェスへの出演経験がこの中で1番豊富という意味では文句なしのトリを務めることになる、NEE。個人的には見るはずだったCOUNTDOWN JAPANの年明け後のライブを体調不良で帰宅してしまって見れなかっただけに待望のライブである。
なのだが、サウンドチェックの段階から何やら時間が少し押し気味で、どうやら同期の機材周りにトラブルが発生しているようだ。それでもサウンドチェックで曲を演奏してから本番でメンバー4人がステージに登場し、くぅ(ボーカル&ギター)がここまで他のバンドのライブの盛り上がりを見てきてウズウズしていたと言わんばかりに観客を煽り、自らも飛び跳ねまくることによって観客をより飛び跳ねさせまくる、最大の代表曲にしてキラーチューンの「不革命前夜」からスタートするのであるが、長い髪を靡かせながらギターを弾いていた夕日が曲中にスタッフに向かって腕でバツ印を作る。どうやらやはり機材が故障してしまったようで、曲終わりでは一度ライブを止めて修復作業が行われ、勢いが止まって出鼻を挫かれてしまうような格好に。
しかしながらすぐに復旧して、くぅがギターを弾きながら歌う「アウトバーン」からはそのトラブルがむしろさらなる爆発力を生み出すかのような熱狂っぷりに。それは体を激しく動かしながら演奏するかほ(ベース)と、見た目からして只者じゃないのがわかる出で立ちの大樹(ドラム)のリズム隊の強さによってもたらされているものでもある。そこが1番「やっぱりレベル違うな…」と思うくらいの凄まじさに繋がっている。
「夜はまだまだこれからだぜー!」
とくぅが叫ぶと、まさにバンドの鉄壁っぷり、最強っぷりを示すかのような「ボキは最強」が演奏され、すっかり機材も直ったようなのだが、その同期のサウンドはネット音楽の要素も強いNEEのサウンドにはなくてはならないものであるが、もしそれが全くなくてもこの凄まじさと熱狂っぷりは変わらないんじゃないかと思うくらいにひたすら観客が飛び跳ねまくっている。自分がライブを見るのは昨年夏のSWEET LOVE SHOWER以来であるが、その時ですら凄まじかった音の強さがさらに強靭なものになっていて驚かされながらも踊らされてしまう。
それは2月に配信リリースされたばかりの最新曲「おもちゃ帝国」でもそうなのだが、この曲の歌詞やメッセージはまさに今この場所こそがNEEの作り出すおもちゃの帝国であるように感じさせてくれるし、NEEのおもちゃが次々に鳴り響いているかのようなサウンドは「おもちゃ帝国」というタイトルが実によく似合う。実際にくぅもかほもこの場所こそがそうであるかのように指差しながら歌ったりしている。
「今日は熱中症になる奴を出すのが目標。誰かぶっ倒れるくらいに熱くしてやるからな!」
とくぅが言ったとおりに、様々なタイプ、サウンドの曲を持つバンドであるが、この日はひたすらに「熱狂」という一点突破型のライブであることを示すように、個人的には歌詞からどこかおどろおどろしさを感じてしまうが、それが現世ならざるダンスミュージックとして我を忘れて踊りまくらざるを得ない「九鬼」から、本当に倒れるやつが出るんじゃないのかと思うくらいに畳みかけるような「第一次世界」では同じ曲なのかと思うくらいに目まぐるしく展開していくのであるが、それも全てがNEEの音楽としてまとまり、そんな展開を衝動をぶちまけるように演奏するからこその凄まじさを実感する。個人的には童謡を歌うかのようなかほのボーカルが聴けるのもこの曲での嬉しいポイントである。
そうして走り抜けるようなスピードで曲が次々に演奏されたことによって、あっという間に最後の曲になってしまったのは「月曜日の歌」で、くぅはとにかくもう何でもいいから歌え!という凄まじいテンションの高さで観客を煽りまくるのであるが、この日は日曜日ということで、
「簡単な事じゃない
僕ら傷だらけになったばかり
明日は臆病で素敵な月曜日の歌」
というフレーズが響くことによって、踊りながらもふと我にかえってしまう。明日は月曜日かと。でもこの日は新年度最初の月曜日の前の日。観客の中には明日から新たな生活を始め、そこで出会いが訪れるような人もたくさんいるはずだ。決して応援歌というわけではないというか、むしろ歌詞はくぅの内省的な面が表出している曲であるが、
「だけどいつか
忘れてしまうでしょう?
1人で歌う
月曜日の歌」
を1人じゃなくてこんなにたくさんの人と一緒に歌えたことだけは、明日からまた怒涛のように押し寄せては過ぎ去っていくような慌ただしさの中でも決して忘れないと思うのだ。
しかし観客のアンコールに応えてすぐさまメンバーが登場すると、本当に急遽決めたようで
「何の曲やろうか?リクエストして!」
と言って観客のリクエストを求めてから演奏されたのはまさかここで聴けるとは思ってなかった「万事思通」なのだが、くぅがスタッフに急いでギターを用意してもらったものの、音が出なくて焦り、すぐさま復旧するというあまりにリアルすぎるやり取りは本当に急遽演奏されたとわかるには充分過ぎるくらいであったが、そんな急遽のリクエストにも応えられるくらいに今このバンドはどんな曲でもすぐに演奏できるくらいのライブバンド状態になっている。
「わっしょいわっしょい」
などのフレーズが飛び出すことによって否が応でも祭囃子感を感じざるを得ないけれど、きっとくぅは家にいても踊ったりはしゃいだりすることはそんなにないタイプだろうと思う。でも音楽が鳴っている時はそれができる。というかそうなってしまう。NEEの音楽はくぅ自身やくぅのような人が少しでも人生を楽しく生きていくためのものだ。そう思わざるを得ないくらいに楽しすぎた熱狂の時間だったし、最後にメンバー全員がマイクに向かって一言ずつ叫んでからステージを去っていったのは、メンバー自身もこのライブが楽しすぎたことの証明であるかのようだった。
もちろんライブの地力的な強さは充分わかってはいた。しかしこの日のNEEはそんな予想を遥かに飛び越えるくらいの凄まじさだった。それはやはりライブを重ねてきたことはもちろん、リリースを重ねてきたこともあるかと思う。でもなんだかそれ以上に、バンドの精神がより定まったような印象を受けた。音の強さ、グルーヴにメンバーそれぞれの意思が強く出ていて、それが重なり合っているかのような。この野音でワンマンをやるなら…いや、次にワンマンをやるんならどこでだって見たい。ワンマンじゃなくてもライブをまた早く見たい。それくらいに翌日の月曜日はこのバンドのライブの余韻に浸っていた。
リハ.月曜日の歌
1.不革命前夜
2.アウトバーン
3.ボキは最強
4.おもちゃ帝国
5.九鬼
6.第一次世界
7.月曜日の歌
encore
8.万事思通
ライブが終わるとタイトルに合わせてフジファブリック「若者のすべて」が終演BGMとして流れた。まだ花火が上がるような季節ではないけれど、この日の出演者たちが見せてくれたフレッシュなライブの締めとして、人が出口に向かっていく中でも光を放つ野音のステージに流れる曲としてやっぱりこんなにふさわしい曲はない。
個人的にも好きなバンドが多すぎてフェスに若手バンドが出演したりしていても、今まで見てきたバンドを優先してなかなか被ったらライブが見れないことも多い。そうして普段はあまりライブが見れない若手バンドの煌めきを感じさせてくれるのがこのイベントだ。またこうしてライブで観たいバンドが増えてしまうことが悩ましくもあるけれど、それでもやっぱりそれを幸せに感じている。これから先もきっとそういうアーティストにたくさん出会うことができるのだから。
ヤバイTシャツ屋さん "Tank-top Flower for Friends" ONE-MAN HALL TOUR 2023 @LINE CUBE SHIBUYA 4/7 ホーム
秋山黄色 「MY COLOR」 @Zepp Haneda 3/31