フレデリック 優游涵泳回遊宴 -FREDERHYTHM HALL 2023- @NHKホール 3/29
- 2023/03/30
- 18:42
昨年、このNHKホールのすぐ裏にある代々木体育館でワンマンを行ったさいの本編最後の「ジャンキー」のアウトロでのセッション的な演奏に合わせて、早くも新たなMYSTERY JOURNEYことツアーのスケジュールを発表するという演出を見せてくれた、フレデリック。
そのツアーは全国のライブハウスを細かく回るものになったが、そのファイナルがこの日のNHKホールワンマンである。すでに代々木に加えてその前には横浜アリーナや日本武道館でもワンマンをやっているアリーナ規模のバンドであるだけにこうしてホールで見れる機会は実は貴重である。
同じ事務所に所属するバンドマンたちの姿も客席には見える中、開演時間の19時を少し過ぎたところで場内が暗転すると、最新ミニアルバムの最後に収録されているインストのタイトル曲「優游涵泳回遊録」がSEとして流れ始めると、ステージ前に張られた紗幕にはそのアルバムタイトルの漢字が映し出され、本のようにページを捲るとメンバーの名前が書かれているというオープニング映像が。この辺りはさすがライブハウスでしかライブをやっていなかった時代からすでにこうした演出を使っていたフレデリックならではであるが、観客の拍手とともに紗幕が上がっていくとすでにそこにはメンバー4人がスタンバイしており、三原健司(ボーカル&ギター)もハンドマイクを持って腕を上げるポーズを取るようにしており、アルバム同様に「MYSTERY JOURNEY」からスタート。まさに今回のミニアルバムの起点となるように配信でリリースされた曲であるが、三原康司(ベース)のうねりまくるベースが否が応でも1曲目から観客の体を揺らす中、そのベースを始めとしたバンドの音の一つ一つから健司の高らかに歌い上げるような歌声が実にクリアに聞こえてくることに驚く。というのは自分の経験上、NHKホールはNHKの音楽番組(それこそ紅白歌合戦とか)の収録なんかでも使われている会場であるが、いうほど音が良いというイメージがなかったからであるが、それはメンバー自身も後で「ライブハウス編とZepp編とホール編で音作りを変えてきた」というバンド、チームの意識によるものが大きいと思われる。その取り組みによって我々はフレデリックの名曲を良い音で生で体感できているのだから。
健司がギターを手にすると、赤頭隆児(ギター)がぴょんぴょんと飛び跳ねながら、メンバー全員が顔と音を高橋武(ドラム)のリズムに合わせるようにイントロを鳴らし始めたのはおなじみの「KITAKU BEATS」であり、ステージからは無数のレーザー光線が客席に向かって放たれることによっても観客のテンションを上げてくれるのであるが、それ以上に毎回見るたびに驚かされる高橋の手数と打力の強さの増しっぷりによってさらにテンションが上がらざるを得ない。フレデリックは曲に様々なアレンジを施して演奏するバンドでもあるが、この曲は毎回演奏されていても毎回大胆に形を変えている。つまりはフレデリックがライブごとに進化を果たしているということを最も示している曲であるのだ。
再び健司がハンドマイクになる曲間を繋ぐのは康司のうねりまくるベースのリズムであり、やはりフレデリックの音楽やライブがこんなにも踊れるのはただ踊れるリズムを刻んでいるからではなくて、高橋とのこの強力な演奏があるからこそであることを示してくれるのであるが、康司はどこか服装も派手目であるのが目を惹く中、そのベースが繋いだのはなんと代々木体育館ではついに「オドループ」を超えたキラーチューンとして本編最後に演奏された「ジャンキー」。この日はダンサーなどの演出はなかったけれど、だからこそ前回のツアーでは最大のキラーチューンがこの位置で早くも演奏されているというのは、すでにバンドはこの曲を超えるキラーチューンを手に入れているということだ。のっけからフルスロットルで踊りまくる中でそんなフレデリックの恐ろしさをも実感していた。
そんな中で健司の伸びやかかつ見事な歌唱がこのホール中に響き渡るのは実に久しぶりに演奏された感じがする「飄々とエモーション」なのであるが、間奏で健司がステージ前の台の上に立って、
「NHK東京!みんなの声を聞かせてくれ!」
と言って観客の合唱が響いた瞬間に、この曲はまたこうしてみんなで声を出して歌えるようになったからこその選曲なんだとハッキリとわかった。その観客の大合唱を聞いた健司は
「みんな3年間の間にめちゃくちゃ歌上手くなってるやん!それに1番驚いたわ!ピッチめちゃくちゃ良いやん!でもピッチは適当で良いから、思いっきり歌ってくれ!」
と、歌えなかった期間が長かったからこそ、久しぶりに聞いた観客の合唱の凄さに驚いているのだが、でもやっぱり何よりも凄いのはその合唱を引っ張る健司の歌唱である。なんならこんなに広いホールでもマイクを通さなくても聞こえるんじゃないかと思うくらいの声量。フレデリックがアリーナやフェスのメインステージに立つようになったのは楽曲の力はもちろん、メンバーそれぞれの技量と、それが重なったバンドの力によるものであることがライブを見るとすぐにわかる。声出しができるライブも増えてきて、実際に自分自身も歌える喜びを感じられるようになってもこの合唱にもグッとくるけれども、フレデリックのワンマンでまた歌えているということもそうだが、それ以上にこの健司の歌唱にグッときていた。
曲間の暗転中には合唱をしたことによってより昂った観客がメンバーの名前を大きな声で呼ぶのであるが、その声に対して周りの観客が拍手を送るというあたりにフレデリックのファンの暖かさ、バンドと音楽への愛情の強さが表れている。メンバーへの愛を示す行為に対して他の観客が賞賛しているのだから。フレデリックのライブがいつだって最高に楽しいのは、そうして周りにいる人を尊重できる人たちが集まっているということも間違いなく理由の一つとしてあるはずだ。
簡単な健司の挨拶を挟むと、再び健司の
「思い出にされるくらいなら 二度とあなたに歌わないよ」
という見事な歌唱が響き渡る「名悪役」へ。この曲もやはりバンドの演奏、とりわけ康司と高橋のリズムの強さがツアーを経てきてより鍛え上げられてきたということがわかる曲であるのだが、「ジャンキー」同様にこの曲もリリース時はライブの最後を担ったキラーチューンだったし、そうした時には歌詞をスクリーンに映して演奏したりしていた。でもこの日はそうした映像の演出はなしの真っ向勝負になっていたのは、やはりリリースを重ねてさらなるキラーチューンが増えたことによってこの曲のライブでの立ち位置や役割も変わってきていると思った。
そのバンドの演奏の強さをダイレクトに示すのは康司によるタイトルフレーズのコーラスがクセになることによって、まさに今この場所こそが音楽の桃源郷なんじゃないかと思わせてくれるような「TOGENKYO」から、浮遊感のあるサウンドを同期で使いながらも赤頭がジャキジャキとしたギターを刻み、リズムもうねりよりも疾走感を描き出す「蜃気楼」という流れであり、フレデリックはもちろん踊れるバンドであるけれども、それと同時にロックバンドであるということを改めて感じさせてくれる。それがフレデリックというバンド自身の推進力として音に表れているかのように。
かと思えば一転してステージは真っ暗闇になり、車のエンジン音が響くイントロから「midnight creative drive」へ。ステージ背面からは車のフロントライトのような光が薄らとメンバーを照らし、間奏の赤頭のギターソロでも絶妙にその真上ではなくて少しずらした位置にスポットライトが当たって、メンバーの姿がはっきりとは視認できないようになっているのは、まさに我々がフレデリックの運転する真夜中のドライブの中へ誘われていることを感じさせてくれる。健司はハンドマイクでステージ上を歩き回りながら歌っていることはわかるのであるが、
「いちびってしまった」
という単語を歌詞に使う曲に初めて出会ったと思う。ガラの悪い関西弁として「ろくでなしBLUES」で使われていたので意味は知っていたが、こんな普通の人なら絶対に使わないような単語を歌詞に入れてくるというあたりはさすが今までに数々の中毒性溢れるフレーズを生み出してきたフレデリックである。
そんな暗闇の中で康司の跳ねるようなベースと高橋のハイハットを軸にしたリズムが曲間を繋ぎ、健司が歌い始めることによって立ち上がってくるのは「ナイトステップ」であるのだが、直前の「midnight creative drive」に繋がるように、よりダブ的なサウンドで真夜中に合わせたアレンジが施されている。だからこそ原曲の軽快に踊るというよりもじっくりとその音とグルーヴに身を委ねるという形になっており、健司もサビではキーを下げて歌うことによって、より真夜中の暗闇の中にいるような感覚に浸らせてくれる。まさかこの曲がこんな形でアレンジされるとは…フレデリックの音楽での遊びっぷりは尽きることがないし、それが我々にも新たな楽しみ方を提示してくれている。これはワンマンじゃないと絶対に味わえないだけに、このツアーに参加することができた幸せをそのサウンドの中で噛み締めていた。
さらに夜が深く極まっていくのは、健司が
「峠の幽霊どこいった」
と思いっきり情感を込めて歌い始めた「峠の幽霊」であり、赤頭のギターは揺蕩うように、しかし康司のベースはうねりまくるように鳴らされるというメロディとリズムの静と動が我々を別世界に連れて行ってくれるかのようなサイケデリックさを放っていた。それはメンバーを照らす緑色の照明がステージ床で星形になって反射していたという視覚的な効果もあったかもしれないが、この真夜中の時間はフレデリックがただ性急なダンスビートで踊らせるバンドではなくて、様々な形で音と戯れるバンドであるということを音と演奏でもって示してくれていた。そうして夜の闇の中に引き込まれていくことは眠くなるのとは全く対照的に、むしろ感覚が研ぎ澄まされていくような感すらあった。音によって神経や細胞が目覚めていくかのような。
そんな真夜中の時間に終わりが来たことを告げるかのようにステージ前には紗幕が降りてきて、そこに日本中の様々な美しい景色が映し出されてから白い靄のようなものに切り替わった中で、その紗幕の裏にいるメンバーたちが鳴らし始めたのは「FEB」。タイトルは三原兄弟の生まれ月である2月のことであるが、もう過ぎ去ってしまったタイミングではあるけれど、白い靄が吹雪のようにも見えてくるような張り詰めた冷たさを感じさせるというのは今までのフレデリックにはなかったタイプの曲だ。1コーラスが終わると紗幕が上がり、逆にメンバーの背景とも言えるステージ背面のスクリーンに再び美しい映像が映し出されることによってメロディの美しさまでもが際立つこの曲はアルバムの中で最も伸び代があるというか、個人的にはアルバムを聴いた時に「アコースティックとかでもやれそうな曲だな」と思った。ということはこれから先のライブでそうしてアレンジが施される可能性が大いにあるということであるが、その時には自分の安易な想像なんかあっさり飛び越えてしまうようなアレンジになっているのだろう。
するとここで健司が長いMCに入ることを告げて観客を一度座らせるのであるが、このツアーのライブハウス編から新たに始めたという、高橋がステージ前に出てきて全員でマイクを持って話すという形に。しかも健司と康司はドラムのライザーの上に座って、高橋と赤頭の2人にMCを任せ、高橋がこうした形でMCをするようになった理由を、
「ライブハウス編でこうやって前に出てきて喋ったら来てくれた人との距離がさらに近くなるかなと思って始めたんだけど、結局Zepp編でもホール編でもやってる(笑)
これが成功だったかどうかは次のツアーのMCをどういう形でやってるかによってわかる…(笑)」
と説明している間に健司と康司はステージ袖に引っ込んでしまい、高橋と赤頭が繋がなければならなくなると、赤頭が
「兄ちゃんが去年結婚して結婚式に行ったんやけど、奥さんの方が披露宴の余興でピアノを弾くって言って、1曲目は思い出のクラシックの曲を弾いて、2曲目は奥さんのお姉さんと連弾で弾くってなって。その時に俺は
「これは「オドループ」弾くんだな」
って思って(笑)なんなら会場入った時にピアノがあるのを見て、
「あ、今日「オドループ」ね」
って思ったんやけど、連弾で弾いたのが2人の思い出の曲やった(笑)
誰にでも「オドループ」を知られてると思ったらあかんな、もっと頑張れっていう戒めやなって思ったお話でした(笑)」
という、意外にもしっかりとした話で拍手をもらうとちょうどいいタイミングで三原兄弟がステージに戻ってくる。果たして次回以降もMCはこの形なのだろうか。基本的にMCらしいMCはこの1箇所くらいしかないくらいに曲同士を繋げたりするアレンジによって実にライブのテンポが良いバンドなだけに1回のMCの比重は実に重いとも言える。
そんなMCでの意外な輝きを見せてくれた赤頭がギターをカッティングして始まるのは、代々木の時にはアンコールを締める曲として一夜のエンドロールのようですらあった「熱帯夜」。真夜中の暗さを表したような照明とは対照的な、真っ赤な照明がメンバーを照らす中でステージを歩きながら歌う健司はサビでは腕を左右に振る。それが客席にも広がって、1階から3階までの全ての客席の腕が左右に振れている様は壮観だ。康司のコーラスも効果的なこの曲はまたすぐにこの曲が似合うような季節がやってくるということを感じさせてくれる。
そして仰々しいイントロの音から、タイトル通りに宇宙空間を疾走するかのようなリズムとサウンドによる「銀河の果てまで連れ去って!」はすでに先日出演したフェスであるツタロックでもセトリに入って観客を驚かせていたが、それくらいに即効性の強い、ライブ映えする曲だということだ。しかしその時は確かやっていなかった気がする、間奏で康司が
「優游涵泳回遊宴」
というツアータイトルをリフレインするコーラスをしていたのはフェスではなくてツアーでこの曲を演奏していたからであり、それはすでにこのツアーの中で新作収録曲であるこの曲が進化しているということである。何よりもこの曲の駆け抜けるようなスピードは我々の意識や感覚を銀河の果てまで連れていってくれるのだ。それは日常ではない世界をフレデリックのライブが見せてくれているということ。
それをさらに加速させるのはこのNHKホールで健司が歌い、バンドが演奏することによって、この曲を提供した和田アキ子の魂がより乗り移ったような感覚すらある「YONA YONA DANCE」。それは
「踊らにゃ損です」
というフレーズの通りに指定席であることも厭わずに観客が飛び跳ねまくり、踊りまくっているからだ。やはりフレデリックのファンはみんなこの曲のメッセージをわかっているというか、高橋の力強さをさらに増したビートによって否が応でもそうなってしまうというか。そのどちらでもあるだろうけれど、つまりはやっぱり
「心踊れない毎日なんて 私気に食わないわ」
と最後に健司が歌い上げた通りなのだ。フレデリックのライブに来れば心が踊るような一日になるのをわかっているからこそ。
そして健司はここで早くもライブが残り2曲になってしまったことを明かすと、観客から
「えー!!!」
という声が上がる。こういうやり取りも久々だなと思うのだが、だからこそ健司は
「久しぶりに声が出せるフレデリックのワンマンであと2曲、そんなんでいいの!?」
と煽ってさらに大きな観客の「えー!!!」を引き出す。この声を介したバンドと観客のコミュニケーションが成立しているのが実に嬉しい。我々の気持ちをバンド側に伝えることができるからだ。
そんなラスト2曲のうちの2曲は、
「そんなあなたが嫌いです」
と健司が言ってから演奏された、これまた実に久しぶりにライブで聴いた感じがする、フレデリックのど真ん中なダンスチューン「スキライズム」。様々な曲のギターで変幻自在のサウンドを奏でできた赤頭はこの曲では普通ならシンセで弾くようなフレーズを鳴らし、間奏では健司が立っていた台の上に立って思いっきりギターソロを弾きまくる。ど真ん中だからこそ、そこにはやはり「オドループ」の遺伝子が宿っているのだが、あの曲だけでは終わらなかったのは全く違うタイプの曲も、系譜の上にある曲も、全方位的にフレデリックが自分たちのキラーチューンを更新してきたからだ。
そしてそんなフレデリックが
「今1番最後にやりたい曲!」
と言って演奏したのはもちろん最新作収録曲の「虜」で、健司はステージを歩き回り、時には膝をつきながら力を込めて歌うのであるが、曲中の
「どう考えたってもう どう考えたってもう」
というリフレインするフレーズを観客とコール&レスポンスさせる(他の合唱パートよりキーが低いのでどう響いているのかわからない)と、曲中で高橋を起点にしてメンバーのソロ回しが始まり、超絶ドラマーっぷりを見せつける高橋、うねるというよりもゴリゴリに押しまくる康司、カッティングを刻みまくる赤頭と、この曲とはまた違ったイメージの演奏を繰り広げてから3人の音が重なると、
「俺たちこの4人でフレデリックだけど、それだけじゃ足りない!あなたが必要なんです!フレデリックにとってあなたが大切なように、あなたにとってフレデリックが大切な存在でありますように!」
と口にした。それはもうこの曲で歌っている通りに
「はなれられないの」
という関係性に間違いなくなっているんだよな、と思っていたら、ステージ両サイドからま幕が閉じるようになり、閉じたと思ったら健司が顔を出して歌う中、その幕にはオープニング同様にライブタイトルが映し出され、本が閉じられるような映像が映ると同時に幕の中の演奏も終わる。ここまではド派手な演出がなかったからこそ、最後のこの演出には本当に驚かされた。やはりフレデリックのワンマンはフレデリックにしか絶対にできないものを見せてくれる。だからはなれられないんだよな、って思うくらいに。
しかしアンコールがあるのがわかっていたというのはまだやるべき曲を全てやってはいないからであり、幕が上がったステージに4人が再び登場すると、高橋と康司の疾走感を感じさせるようなライブならではのリズムのアレンジによって始まったのはもちろん「オドループ」であり、健司は歌詞を歌わずに
「2014年じゃない、最新の2023年のこの曲でみんなの声を聞かせてくれ!」
と煽ってサビでは観客の大合唱を巻き起こすと、間奏では赤頭が客席から見えないくらいのステージ袖まで行って助走をつけてから中央の台の上に乗ってギターソロを弾きまくるのであるが、健司が言ったようにこの曲を2023年の最新曲たらしめているのはアウトロのどんどん高速化していく演奏にあると言っていいだろう。ツタロックの時もそうだったけれど、飽きるくらいに音源でもライブでも聴いてきたこの曲を何度聴いても全く飽きないのはこうしてバンドによって曲が進化しているからだ。ある意味では「オドループ 2023ver.」というべきか。そんな曲だからリリースから9年も経っても未だにSNSで定期的にバズる。それは日本だけではなくて、言葉が伝わらないはずの遠い北の国であっても。
そしてそんな「オドループ」の後に、まさに最後の最後の曲として演奏されたのはボートレースのCMソングとしてお茶の間に流れまくっている「スパークルダンサー」。軽快なリズムとサウンドはどうしたって我々をウキウキとした気持ちにさせてくれるが、サビでは「熱帯夜」同様に、いや、テンポが速いだけにより高速で観客の腕が左右に揺れる。その光景を見て、やはりフレデリックはあの代々木のライブや今までの自分たちの曲を最新作でさらに更新したんだな、と思った。
「オドループ」だけで終わることなく「オワラセナイト」「オンリーワンダー」とキラーチューンを次々に生み出し、そのどれもが一回聴いたら忘れられない、何回でも聴きたくなる、他のバンドでは類を見ないくらいの中毒性に満ちている。そんなフレデリックの魔力の最新系がこの曲。ずっとライブに来ているからフレデリックの凄さは充分わかっていても、それでもやっぱり毎回凄いと思わされてしまう。この日も何度味わったかわからないその感覚を確かに味わえた日だったのだ。
演奏が終わると健司は
「世の中にはいろんな音楽やいろんな芸術がある。是非たくさんの音楽や芸術に触れて、好きになってください。そして俺たちの音楽に帰ってきてください。その時には100倍にして返しますんで!」
と言った。それは音楽を愛し、自分たちの音楽でひたすらに音楽への愛情を歌ってきたフレデリックが言うからこそ、説得力に満ちたものだった。いろんな音楽を聴いてライブに行っている自分のような奴を肯定してくれているかのような。
メンバーがステージから去るとステージ前に降りてきた紗幕にはバンドロゴが映し出される。余韻に浸りながらそれを撮影している人がたくさんいる…と思ったらその人たちが一斉に声を上げたのは、ロゴが次なるツアースケジュールに切り替わったからだ。健司も
「またすぐに次のワンマンやるから」
とは言っていたが、それをこんな形で有言実行して発表してしまうとは。やっぱりフレデリックは凄いバンドだ。ライブが終わってメンバーがステージから去った後までも我々を楽しませてくれるのだから。そんなバンドだからやっぱり、はなれられないの。
1.MYSTERY JOURNEY
2.KITAKU BEATS
3.ジャンキー
4.飄々とエモーション
5.名悪役
6.TOGENKYO
7.蜃気楼
8.midnight creative drive
9.ナイトステップ
10.峠の幽霊
11.FEB
12.熱帯夜
13.銀河の果てに連れ去って!
14.YONA YONA DANCE
15.スキライズム
16.虜
encore
17.オドループ
18.スパークルダンサー
そのツアーは全国のライブハウスを細かく回るものになったが、そのファイナルがこの日のNHKホールワンマンである。すでに代々木に加えてその前には横浜アリーナや日本武道館でもワンマンをやっているアリーナ規模のバンドであるだけにこうしてホールで見れる機会は実は貴重である。
同じ事務所に所属するバンドマンたちの姿も客席には見える中、開演時間の19時を少し過ぎたところで場内が暗転すると、最新ミニアルバムの最後に収録されているインストのタイトル曲「優游涵泳回遊録」がSEとして流れ始めると、ステージ前に張られた紗幕にはそのアルバムタイトルの漢字が映し出され、本のようにページを捲るとメンバーの名前が書かれているというオープニング映像が。この辺りはさすがライブハウスでしかライブをやっていなかった時代からすでにこうした演出を使っていたフレデリックならではであるが、観客の拍手とともに紗幕が上がっていくとすでにそこにはメンバー4人がスタンバイしており、三原健司(ボーカル&ギター)もハンドマイクを持って腕を上げるポーズを取るようにしており、アルバム同様に「MYSTERY JOURNEY」からスタート。まさに今回のミニアルバムの起点となるように配信でリリースされた曲であるが、三原康司(ベース)のうねりまくるベースが否が応でも1曲目から観客の体を揺らす中、そのベースを始めとしたバンドの音の一つ一つから健司の高らかに歌い上げるような歌声が実にクリアに聞こえてくることに驚く。というのは自分の経験上、NHKホールはNHKの音楽番組(それこそ紅白歌合戦とか)の収録なんかでも使われている会場であるが、いうほど音が良いというイメージがなかったからであるが、それはメンバー自身も後で「ライブハウス編とZepp編とホール編で音作りを変えてきた」というバンド、チームの意識によるものが大きいと思われる。その取り組みによって我々はフレデリックの名曲を良い音で生で体感できているのだから。
健司がギターを手にすると、赤頭隆児(ギター)がぴょんぴょんと飛び跳ねながら、メンバー全員が顔と音を高橋武(ドラム)のリズムに合わせるようにイントロを鳴らし始めたのはおなじみの「KITAKU BEATS」であり、ステージからは無数のレーザー光線が客席に向かって放たれることによっても観客のテンションを上げてくれるのであるが、それ以上に毎回見るたびに驚かされる高橋の手数と打力の強さの増しっぷりによってさらにテンションが上がらざるを得ない。フレデリックは曲に様々なアレンジを施して演奏するバンドでもあるが、この曲は毎回演奏されていても毎回大胆に形を変えている。つまりはフレデリックがライブごとに進化を果たしているということを最も示している曲であるのだ。
再び健司がハンドマイクになる曲間を繋ぐのは康司のうねりまくるベースのリズムであり、やはりフレデリックの音楽やライブがこんなにも踊れるのはただ踊れるリズムを刻んでいるからではなくて、高橋とのこの強力な演奏があるからこそであることを示してくれるのであるが、康司はどこか服装も派手目であるのが目を惹く中、そのベースが繋いだのはなんと代々木体育館ではついに「オドループ」を超えたキラーチューンとして本編最後に演奏された「ジャンキー」。この日はダンサーなどの演出はなかったけれど、だからこそ前回のツアーでは最大のキラーチューンがこの位置で早くも演奏されているというのは、すでにバンドはこの曲を超えるキラーチューンを手に入れているということだ。のっけからフルスロットルで踊りまくる中でそんなフレデリックの恐ろしさをも実感していた。
そんな中で健司の伸びやかかつ見事な歌唱がこのホール中に響き渡るのは実に久しぶりに演奏された感じがする「飄々とエモーション」なのであるが、間奏で健司がステージ前の台の上に立って、
「NHK東京!みんなの声を聞かせてくれ!」
と言って観客の合唱が響いた瞬間に、この曲はまたこうしてみんなで声を出して歌えるようになったからこその選曲なんだとハッキリとわかった。その観客の大合唱を聞いた健司は
「みんな3年間の間にめちゃくちゃ歌上手くなってるやん!それに1番驚いたわ!ピッチめちゃくちゃ良いやん!でもピッチは適当で良いから、思いっきり歌ってくれ!」
と、歌えなかった期間が長かったからこそ、久しぶりに聞いた観客の合唱の凄さに驚いているのだが、でもやっぱり何よりも凄いのはその合唱を引っ張る健司の歌唱である。なんならこんなに広いホールでもマイクを通さなくても聞こえるんじゃないかと思うくらいの声量。フレデリックがアリーナやフェスのメインステージに立つようになったのは楽曲の力はもちろん、メンバーそれぞれの技量と、それが重なったバンドの力によるものであることがライブを見るとすぐにわかる。声出しができるライブも増えてきて、実際に自分自身も歌える喜びを感じられるようになってもこの合唱にもグッとくるけれども、フレデリックのワンマンでまた歌えているということもそうだが、それ以上にこの健司の歌唱にグッときていた。
曲間の暗転中には合唱をしたことによってより昂った観客がメンバーの名前を大きな声で呼ぶのであるが、その声に対して周りの観客が拍手を送るというあたりにフレデリックのファンの暖かさ、バンドと音楽への愛情の強さが表れている。メンバーへの愛を示す行為に対して他の観客が賞賛しているのだから。フレデリックのライブがいつだって最高に楽しいのは、そうして周りにいる人を尊重できる人たちが集まっているということも間違いなく理由の一つとしてあるはずだ。
簡単な健司の挨拶を挟むと、再び健司の
「思い出にされるくらいなら 二度とあなたに歌わないよ」
という見事な歌唱が響き渡る「名悪役」へ。この曲もやはりバンドの演奏、とりわけ康司と高橋のリズムの強さがツアーを経てきてより鍛え上げられてきたということがわかる曲であるのだが、「ジャンキー」同様にこの曲もリリース時はライブの最後を担ったキラーチューンだったし、そうした時には歌詞をスクリーンに映して演奏したりしていた。でもこの日はそうした映像の演出はなしの真っ向勝負になっていたのは、やはりリリースを重ねてさらなるキラーチューンが増えたことによってこの曲のライブでの立ち位置や役割も変わってきていると思った。
そのバンドの演奏の強さをダイレクトに示すのは康司によるタイトルフレーズのコーラスがクセになることによって、まさに今この場所こそが音楽の桃源郷なんじゃないかと思わせてくれるような「TOGENKYO」から、浮遊感のあるサウンドを同期で使いながらも赤頭がジャキジャキとしたギターを刻み、リズムもうねりよりも疾走感を描き出す「蜃気楼」という流れであり、フレデリックはもちろん踊れるバンドであるけれども、それと同時にロックバンドであるということを改めて感じさせてくれる。それがフレデリックというバンド自身の推進力として音に表れているかのように。
かと思えば一転してステージは真っ暗闇になり、車のエンジン音が響くイントロから「midnight creative drive」へ。ステージ背面からは車のフロントライトのような光が薄らとメンバーを照らし、間奏の赤頭のギターソロでも絶妙にその真上ではなくて少しずらした位置にスポットライトが当たって、メンバーの姿がはっきりとは視認できないようになっているのは、まさに我々がフレデリックの運転する真夜中のドライブの中へ誘われていることを感じさせてくれる。健司はハンドマイクでステージ上を歩き回りながら歌っていることはわかるのであるが、
「いちびってしまった」
という単語を歌詞に使う曲に初めて出会ったと思う。ガラの悪い関西弁として「ろくでなしBLUES」で使われていたので意味は知っていたが、こんな普通の人なら絶対に使わないような単語を歌詞に入れてくるというあたりはさすが今までに数々の中毒性溢れるフレーズを生み出してきたフレデリックである。
そんな暗闇の中で康司の跳ねるようなベースと高橋のハイハットを軸にしたリズムが曲間を繋ぎ、健司が歌い始めることによって立ち上がってくるのは「ナイトステップ」であるのだが、直前の「midnight creative drive」に繋がるように、よりダブ的なサウンドで真夜中に合わせたアレンジが施されている。だからこそ原曲の軽快に踊るというよりもじっくりとその音とグルーヴに身を委ねるという形になっており、健司もサビではキーを下げて歌うことによって、より真夜中の暗闇の中にいるような感覚に浸らせてくれる。まさかこの曲がこんな形でアレンジされるとは…フレデリックの音楽での遊びっぷりは尽きることがないし、それが我々にも新たな楽しみ方を提示してくれている。これはワンマンじゃないと絶対に味わえないだけに、このツアーに参加することができた幸せをそのサウンドの中で噛み締めていた。
さらに夜が深く極まっていくのは、健司が
「峠の幽霊どこいった」
と思いっきり情感を込めて歌い始めた「峠の幽霊」であり、赤頭のギターは揺蕩うように、しかし康司のベースはうねりまくるように鳴らされるというメロディとリズムの静と動が我々を別世界に連れて行ってくれるかのようなサイケデリックさを放っていた。それはメンバーを照らす緑色の照明がステージ床で星形になって反射していたという視覚的な効果もあったかもしれないが、この真夜中の時間はフレデリックがただ性急なダンスビートで踊らせるバンドではなくて、様々な形で音と戯れるバンドであるということを音と演奏でもって示してくれていた。そうして夜の闇の中に引き込まれていくことは眠くなるのとは全く対照的に、むしろ感覚が研ぎ澄まされていくような感すらあった。音によって神経や細胞が目覚めていくかのような。
そんな真夜中の時間に終わりが来たことを告げるかのようにステージ前には紗幕が降りてきて、そこに日本中の様々な美しい景色が映し出されてから白い靄のようなものに切り替わった中で、その紗幕の裏にいるメンバーたちが鳴らし始めたのは「FEB」。タイトルは三原兄弟の生まれ月である2月のことであるが、もう過ぎ去ってしまったタイミングではあるけれど、白い靄が吹雪のようにも見えてくるような張り詰めた冷たさを感じさせるというのは今までのフレデリックにはなかったタイプの曲だ。1コーラスが終わると紗幕が上がり、逆にメンバーの背景とも言えるステージ背面のスクリーンに再び美しい映像が映し出されることによってメロディの美しさまでもが際立つこの曲はアルバムの中で最も伸び代があるというか、個人的にはアルバムを聴いた時に「アコースティックとかでもやれそうな曲だな」と思った。ということはこれから先のライブでそうしてアレンジが施される可能性が大いにあるということであるが、その時には自分の安易な想像なんかあっさり飛び越えてしまうようなアレンジになっているのだろう。
するとここで健司が長いMCに入ることを告げて観客を一度座らせるのであるが、このツアーのライブハウス編から新たに始めたという、高橋がステージ前に出てきて全員でマイクを持って話すという形に。しかも健司と康司はドラムのライザーの上に座って、高橋と赤頭の2人にMCを任せ、高橋がこうした形でMCをするようになった理由を、
「ライブハウス編でこうやって前に出てきて喋ったら来てくれた人との距離がさらに近くなるかなと思って始めたんだけど、結局Zepp編でもホール編でもやってる(笑)
これが成功だったかどうかは次のツアーのMCをどういう形でやってるかによってわかる…(笑)」
と説明している間に健司と康司はステージ袖に引っ込んでしまい、高橋と赤頭が繋がなければならなくなると、赤頭が
「兄ちゃんが去年結婚して結婚式に行ったんやけど、奥さんの方が披露宴の余興でピアノを弾くって言って、1曲目は思い出のクラシックの曲を弾いて、2曲目は奥さんのお姉さんと連弾で弾くってなって。その時に俺は
「これは「オドループ」弾くんだな」
って思って(笑)なんなら会場入った時にピアノがあるのを見て、
「あ、今日「オドループ」ね」
って思ったんやけど、連弾で弾いたのが2人の思い出の曲やった(笑)
誰にでも「オドループ」を知られてると思ったらあかんな、もっと頑張れっていう戒めやなって思ったお話でした(笑)」
という、意外にもしっかりとした話で拍手をもらうとちょうどいいタイミングで三原兄弟がステージに戻ってくる。果たして次回以降もMCはこの形なのだろうか。基本的にMCらしいMCはこの1箇所くらいしかないくらいに曲同士を繋げたりするアレンジによって実にライブのテンポが良いバンドなだけに1回のMCの比重は実に重いとも言える。
そんなMCでの意外な輝きを見せてくれた赤頭がギターをカッティングして始まるのは、代々木の時にはアンコールを締める曲として一夜のエンドロールのようですらあった「熱帯夜」。真夜中の暗さを表したような照明とは対照的な、真っ赤な照明がメンバーを照らす中でステージを歩きながら歌う健司はサビでは腕を左右に振る。それが客席にも広がって、1階から3階までの全ての客席の腕が左右に振れている様は壮観だ。康司のコーラスも効果的なこの曲はまたすぐにこの曲が似合うような季節がやってくるということを感じさせてくれる。
そして仰々しいイントロの音から、タイトル通りに宇宙空間を疾走するかのようなリズムとサウンドによる「銀河の果てまで連れ去って!」はすでに先日出演したフェスであるツタロックでもセトリに入って観客を驚かせていたが、それくらいに即効性の強い、ライブ映えする曲だということだ。しかしその時は確かやっていなかった気がする、間奏で康司が
「優游涵泳回遊宴」
というツアータイトルをリフレインするコーラスをしていたのはフェスではなくてツアーでこの曲を演奏していたからであり、それはすでにこのツアーの中で新作収録曲であるこの曲が進化しているということである。何よりもこの曲の駆け抜けるようなスピードは我々の意識や感覚を銀河の果てまで連れていってくれるのだ。それは日常ではない世界をフレデリックのライブが見せてくれているということ。
それをさらに加速させるのはこのNHKホールで健司が歌い、バンドが演奏することによって、この曲を提供した和田アキ子の魂がより乗り移ったような感覚すらある「YONA YONA DANCE」。それは
「踊らにゃ損です」
というフレーズの通りに指定席であることも厭わずに観客が飛び跳ねまくり、踊りまくっているからだ。やはりフレデリックのファンはみんなこの曲のメッセージをわかっているというか、高橋の力強さをさらに増したビートによって否が応でもそうなってしまうというか。そのどちらでもあるだろうけれど、つまりはやっぱり
「心踊れない毎日なんて 私気に食わないわ」
と最後に健司が歌い上げた通りなのだ。フレデリックのライブに来れば心が踊るような一日になるのをわかっているからこそ。
そして健司はここで早くもライブが残り2曲になってしまったことを明かすと、観客から
「えー!!!」
という声が上がる。こういうやり取りも久々だなと思うのだが、だからこそ健司は
「久しぶりに声が出せるフレデリックのワンマンであと2曲、そんなんでいいの!?」
と煽ってさらに大きな観客の「えー!!!」を引き出す。この声を介したバンドと観客のコミュニケーションが成立しているのが実に嬉しい。我々の気持ちをバンド側に伝えることができるからだ。
そんなラスト2曲のうちの2曲は、
「そんなあなたが嫌いです」
と健司が言ってから演奏された、これまた実に久しぶりにライブで聴いた感じがする、フレデリックのど真ん中なダンスチューン「スキライズム」。様々な曲のギターで変幻自在のサウンドを奏でできた赤頭はこの曲では普通ならシンセで弾くようなフレーズを鳴らし、間奏では健司が立っていた台の上に立って思いっきりギターソロを弾きまくる。ど真ん中だからこそ、そこにはやはり「オドループ」の遺伝子が宿っているのだが、あの曲だけでは終わらなかったのは全く違うタイプの曲も、系譜の上にある曲も、全方位的にフレデリックが自分たちのキラーチューンを更新してきたからだ。
そしてそんなフレデリックが
「今1番最後にやりたい曲!」
と言って演奏したのはもちろん最新作収録曲の「虜」で、健司はステージを歩き回り、時には膝をつきながら力を込めて歌うのであるが、曲中の
「どう考えたってもう どう考えたってもう」
というリフレインするフレーズを観客とコール&レスポンスさせる(他の合唱パートよりキーが低いのでどう響いているのかわからない)と、曲中で高橋を起点にしてメンバーのソロ回しが始まり、超絶ドラマーっぷりを見せつける高橋、うねるというよりもゴリゴリに押しまくる康司、カッティングを刻みまくる赤頭と、この曲とはまた違ったイメージの演奏を繰り広げてから3人の音が重なると、
「俺たちこの4人でフレデリックだけど、それだけじゃ足りない!あなたが必要なんです!フレデリックにとってあなたが大切なように、あなたにとってフレデリックが大切な存在でありますように!」
と口にした。それはもうこの曲で歌っている通りに
「はなれられないの」
という関係性に間違いなくなっているんだよな、と思っていたら、ステージ両サイドからま幕が閉じるようになり、閉じたと思ったら健司が顔を出して歌う中、その幕にはオープニング同様にライブタイトルが映し出され、本が閉じられるような映像が映ると同時に幕の中の演奏も終わる。ここまではド派手な演出がなかったからこそ、最後のこの演出には本当に驚かされた。やはりフレデリックのワンマンはフレデリックにしか絶対にできないものを見せてくれる。だからはなれられないんだよな、って思うくらいに。
しかしアンコールがあるのがわかっていたというのはまだやるべき曲を全てやってはいないからであり、幕が上がったステージに4人が再び登場すると、高橋と康司の疾走感を感じさせるようなライブならではのリズムのアレンジによって始まったのはもちろん「オドループ」であり、健司は歌詞を歌わずに
「2014年じゃない、最新の2023年のこの曲でみんなの声を聞かせてくれ!」
と煽ってサビでは観客の大合唱を巻き起こすと、間奏では赤頭が客席から見えないくらいのステージ袖まで行って助走をつけてから中央の台の上に乗ってギターソロを弾きまくるのであるが、健司が言ったようにこの曲を2023年の最新曲たらしめているのはアウトロのどんどん高速化していく演奏にあると言っていいだろう。ツタロックの時もそうだったけれど、飽きるくらいに音源でもライブでも聴いてきたこの曲を何度聴いても全く飽きないのはこうしてバンドによって曲が進化しているからだ。ある意味では「オドループ 2023ver.」というべきか。そんな曲だからリリースから9年も経っても未だにSNSで定期的にバズる。それは日本だけではなくて、言葉が伝わらないはずの遠い北の国であっても。
そしてそんな「オドループ」の後に、まさに最後の最後の曲として演奏されたのはボートレースのCMソングとしてお茶の間に流れまくっている「スパークルダンサー」。軽快なリズムとサウンドはどうしたって我々をウキウキとした気持ちにさせてくれるが、サビでは「熱帯夜」同様に、いや、テンポが速いだけにより高速で観客の腕が左右に揺れる。その光景を見て、やはりフレデリックはあの代々木のライブや今までの自分たちの曲を最新作でさらに更新したんだな、と思った。
「オドループ」だけで終わることなく「オワラセナイト」「オンリーワンダー」とキラーチューンを次々に生み出し、そのどれもが一回聴いたら忘れられない、何回でも聴きたくなる、他のバンドでは類を見ないくらいの中毒性に満ちている。そんなフレデリックの魔力の最新系がこの曲。ずっとライブに来ているからフレデリックの凄さは充分わかっていても、それでもやっぱり毎回凄いと思わされてしまう。この日も何度味わったかわからないその感覚を確かに味わえた日だったのだ。
演奏が終わると健司は
「世の中にはいろんな音楽やいろんな芸術がある。是非たくさんの音楽や芸術に触れて、好きになってください。そして俺たちの音楽に帰ってきてください。その時には100倍にして返しますんで!」
と言った。それは音楽を愛し、自分たちの音楽でひたすらに音楽への愛情を歌ってきたフレデリックが言うからこそ、説得力に満ちたものだった。いろんな音楽を聴いてライブに行っている自分のような奴を肯定してくれているかのような。
メンバーがステージから去るとステージ前に降りてきた紗幕にはバンドロゴが映し出される。余韻に浸りながらそれを撮影している人がたくさんいる…と思ったらその人たちが一斉に声を上げたのは、ロゴが次なるツアースケジュールに切り替わったからだ。健司も
「またすぐに次のワンマンやるから」
とは言っていたが、それをこんな形で有言実行して発表してしまうとは。やっぱりフレデリックは凄いバンドだ。ライブが終わってメンバーがステージから去った後までも我々を楽しませてくれるのだから。そんなバンドだからやっぱり、はなれられないの。
1.MYSTERY JOURNEY
2.KITAKU BEATS
3.ジャンキー
4.飄々とエモーション
5.名悪役
6.TOGENKYO
7.蜃気楼
8.midnight creative drive
9.ナイトステップ
10.峠の幽霊
11.FEB
12.熱帯夜
13.銀河の果てに連れ去って!
14.YONA YONA DANCE
15.スキライズム
16.虜
encore
17.オドループ
18.スパークルダンサー