ツタロックフェス2023 supported by Tポイント @幕張メッセ国際展示場9〜11ホール 3/19
- 2023/03/20
- 22:46
「駅前TSUTAYAさんで 僕はビートルズを借りた セックス・ピストルズを借りた」
と鳴り止まないロックンロールの衝動を歌ったのは神聖かまってちゃんであるが(このフェスの時は毎回引用させてもらっている)、そのTSUTAYAさん主催のフェス、ツタロックが今年も幕張メッセにて開催。昨年は全席指定の1ステージのみだったが、今年はコロナ禍前と同様にスタンディングで2ステージ。メインのMASSIVE STAGEには抽選制の前方エリアが設けられているというのはコロナ禍を経たからこそであるが、かつては両ステージの時間被りなしで20組くらい観れたのが、今年は時間が被っているというのは少し残念なところでもある。
幕張メッセの9〜11ホールを使うというのは去年と変わらないが、10ホールが入り口兼休憩エリアやいろんなブースがあり、11ホールには物販販売とともにセカンドステージのCOSMIC STAGEがあるという、確かにコロナ禍になる前の開催もこんな感じだったなと思うステージ構成。朝早い時間にもかかわらず、物販もフォトスポットも開演前からたくさんの人が並んでいる。
10:30〜 illiomote (Opening Act) [COSMIC STAGE]
セカンドステージのCOSMIC STAGEに最初に登場するオープニングアクトはilliomote。全くノーマークだったのだが、YOCO(ボーカル&ギター)とMAIYA(ギター)の2人がステージに現れると、その出で立ちからして完全にロック。音楽としてだけではなくて、カルチャーとしてのロックを愛していることがわかるのだが、サポートのドラマーとマニピュレーターも含めた4人編成で、鳴らすサウンドも完全にオルタナ、グランジというロックサウンド。
「池袋から来ましたー!」
というYOCOの自己紹介は「池袋なのに何故バンド名は西表?」と思ってしまうのであるが、観客に手拍子を煽りながらパワーポップ、ポップパンク、再びオルタナ、さらにはR&Bと、USインディーから強い影響を受けて、その憧憬を自分たちでも追いかけて鳴らしているということがわかるし、そこに説得力を持たせるのはYOCOのパワフルなボーカルとMAIYAの轟音ギターサウンド。それは借り物ではなくて、自分たちはこうした音楽が好きで、自分たちがそれをやりたいからこうしてギターを手に取ったということを感じさせてくれる。どこかWet Legあたりに通じるものを感じさせるし、ファッション含めてひたすらに「カッコいい」という感想しか出てこないような新星がシーンに現れた20分間だった。
11:00〜 WurtS [MASSIVE STAGE]
開演前の主催者による注意事項のアナウンスも含めた前説では昨年の開催時にサウンドチェックを撮影していた人がいて注意したこと、今年はそうならないようにということを告げると、ステージにはアーティスト名の電飾が輝く。SEが鳴る中でおなじみのうさぎDJが先にステージに登場してからバンドメンバーに続いて目深に帽子を被って顔は見えない(髪を切ったり剃ったりしたのだろうかというくらいに帽子の下から髪が出ていない)WurtSがステージに登場すると、デジタルサウンドが流れてWurtSが歌い始める「Talking Box」からスタートし、曲中ではうさぎDJに合わせて早くも朝一から満員になっている客席から手拍子が起きる。WurtSがもう幕張メッセのフェスのメインステージに立つようなアーティストになったということを実感せざるを得ない。
するとWurtSもギターを弾きながら歌うのであるが、何よりも新井弘毅(THE KEBABS)のギターサウンドがライブ感をこれ以上ないくらいに感じさせてくれる「ふたり計画」で満員の観客に轟音ギターロックサウンドを浴びせると、そのまま吉岡紘希(ドラム)の性急なリズムによる「僕の個人主義」というWurtSのギターロック曲を畳み掛けていくのであるが、ベースが須田景凪のサポートでもおなじみの雲丹亀卓人(Sawagi)に変わっている。どうやら今年のChilli Beans.の対バン時から参加しているようだが、それによってバンドサウンドの重心がグッと低くなったようなイメージだ。
するとWurtSが満員の観客の多さに驚きながらも、そうして朝早くから来てくれている人への感謝を口にするとハンドマイクになって歌う「BOY MEETS GIRL」ではうさぎDJのトランペットソロ(もちろん音は鳴っていない)も披露されると、観客の期待をさらに煽るようなイントロのカウントによって始まる「SWAM」ではそのうさぎDJが前に出てきて踊るのであるが、その踊りのキレがさらに増しているという、ライブを重ねてきたことによる進化がこんなところにも現れている。
そうして音楽性の幅を広げ続けるWurtSの中でも最高にオシャレなブラスサウンドの「MOONRAKER」では新井もそのサウンドに合わせて踊るように体を動かしており、メンバー全員がWurtSの音楽を本当に好きで愛しているからこそこうしてサポートしているということがわかるのだが、再びWurtSもギターを掻き鳴らしながら歌う「SIREN」ではステージ中央に新井と雲丹亀が集まってWurtSを中心にして音を鳴らす。それはもはやソロプロジェクトという体でありながらも完全にWurtSという一つのロックバンドになっているということを感じさせてくれる。
WurtSのライブがめちゃくちゃテンポが良いのは曲間がほとんどないこと、曲自体がコンパクトな構成であることに加えて、WurtS自身があまり長く喋らないということもあるのだが、この日も最低限のことだけを口にしてから演奏された「ブルーベリーハニー」ではタイトルに合わせてステージに紫色の照明が当たる中でうさぎDJが可愛らしく踊ると、この尺の中では入ってくると思っていなかった「コズミック」で再びこのWurtSバンドのソリッドな轟音ギターロックを鳴らし、リハで演奏していたのでこちらももしかしたら今日はやらないかも…とも思っていた「リトルダンサー」もしっかり演奏してWurtSもマイクのコードをかなり気にしながらもステージを左右に動き回りながら歌い、何よりもうさぎDJが自分こそがリトルダンサーだと言わんばかりに踊りまくっている。その姿が実に微笑ましいのであるが、PEOPLE 1のItoがゲストに出てこなくても完全にこの曲がすでにこうしたフェスのキラーチューンになっている。それがリズムに合わせて飛び跳ねまくる観客の姿からわかる。
そして新井がギターを鳴らし、吉岡がビートを刻む中で最後に演奏されたのはもちろん「分かってないよ」であるのだが、この日のライブは声出しが解禁されているということもあって、WurtSはサビで何回も観客を煽るような仕草をして合唱を求めていた。研究者を自称するだけになかなか実体がわかりにくい存在でもあるのだが、WurtSはただ音楽を研究のために使っているのではなくて、自分が鳴らしている音楽でたくさんの人と繋がろうとしている。
それだけに、CDJの時にも言ったがツアーの東京がリキッドルームの規模なのは、分かってないよ。
1.Taking Box
2.ふたり計画
3.僕の個人主義
4.BOY MEETS GIRL
5.SWAM
6.MOONRAKER
7.SIREN
8.ブルーベリーハニー
9.コズミック
10.リトルダンサー
11.分かってないよ
12:00〜 神はサイコロを振らない [MASSIVE STAGE]
お、こっちのステージか!とタイムテーブルが発表された時に驚いたのがこの、神はサイコロを振らない。先月にORANGE RANGEのトリビュートバンドのアレンジレンジに柳田周作(ボーカル&ギター)がゲストボーカルとして参加したのを見ているが、こうしてバンドとしてのライブを見るのは初めてであるだけに、すでに幕張メッセでメインステージに立つようなバンドになっているんだなぁと実感。
メンバー4人が登場すると、柳田がもう聞き取れないくらいに声を張り上げて気合いを入れると、浮遊感のあるシーケンスのサウンドも取り入れた「巡る巡る」でスタートするのであるが、そうしたサウンドを取り入れながらもあくまでもロックバンドとしてのライブになっているのはバンドキッズ的な出で立ちの吉田喜一(ギター)と桐木岳貢(ベース)がステージ前の台の上に立ってガンガンに演奏しているからであるが、それはまさにロックバンドだからこそ鳴らせる煌めきを奏で、イメージさせてくれる青春ソング「キラキラ」もそうであるのだが、メインステージということで気合いが入りすぎているのか、柳田の歌唱は声がひっくり返りそうになるくらいに前のめりですらある。
その気合いが負けられない戦い的な歌詞とマッチするラウドかつエッジーなサウンドの「1on1」では演奏前に
「今日は声が出せるし、タオルも回せるから、タオル&レスポンスをしましょう!」
と柳田が言うと、ステージ左右のスクリーンにもしっかり「TOWEL AND RESPONSE」という文字が映し出され、タオル回しとともに合唱も行われるのであるが、そんなステージと客席ともにアッパーになる曲の後に再び浮遊感に包まれる「揺らめいて候」が演奏されることによって、サウンドもそこから想起できる情景も次々に目まぐるしく変化していく。
それはこの中盤にTHE FIRST TAKEで披露されてバズったバラード曲「夜永唄」を演奏するというところからもわかるのであるが、ライブでは柳田の歌を前面に押し出しながらも、黒川亮介(ドラム)がデジタルドラムでビートをキープするという形で演奏される。そうしてバンドでありながらもデジタルな形でのサウンドを取り入れているからこそ、こうしてジャンルレスと言っていいくらいにあらゆるタイプの曲を演奏できるバンドであることがわかる。
このMASSIVE STAGEのMASSIVEの意味を「巨大な」という意味であることを説明し、だからこそこのステージに立っていることの喜びを柳田が示すと、淡い照明に照らされながら体を揺らすような、夕暮れの海辺の情景が浮かぶような「LOVE」を演奏するのであるが、「夜永唄」からのこの情景という振れ幅は本当に凄い。フェスでここまでできるバンドは他にいないんじゃないかと思えるくらい。
しかしそれも全てはこのバンドで、このスタンスでロックシーンの頂点まで行きたいというバンドの精神性を感じさせるのは、タイトル通りに静謐に始まったかと思いきや、曲が進むにつれてまさに飛翔するかのようにロックバンドとしてのダイナミズムを増していき、最後には
「I wanna be a rock star」
とギターの残響の中でリフレインする。それはこのバンドがどんな存在になりたいのかということを示していたし、最後に演奏された「タイムファクター」のストレートにメロディを生かすバンドサウンドというアレンジは「夜永唄」がバズってもそれだけのバンドではない、まだまだ他に良い曲をたくさん持っているバンドだということを自分たちの演奏によって示していた。
音源で聴いても確かに現在のロックシーンのサウンドを自分たち1組だけでやってしまうかのような幅広さは感じる。でもライブで見ると当然ながらあらゆる時期の曲が繋がるだけにより一層それを強く感じる。その幅広さはもしかしたら捉え所がないバンドだと思われるかもしれないが、でもこのジャンルレス感こそが、神はサイコロを振らないというバンドらしさであることがわかった初遭遇であった。
1.巡る巡る
2.キラキラ
3.1on1
4.揺らめいて候
5.夜永唄
6.LOVE
7.夜間飛行
8.タイムファクター
13:00〜 KANA-BOON [MASSIVE STAGE]
普段、KANA-BOONはフェスに出演する時にはSEがないこともある。しかしこの日はアゲアゲな感じのSEでメンバーが登場すると、谷口鮪(ボーカル&ギター)のテンションがのっけからめちゃくちゃ高く、出てくるなり観客に呼びかけるようにしてから「フルドライブ」でスタートする。鮪は間奏でもギターソロを弾きまくる古賀隼斗の存在をアピールするような仕草を見せるくらいにテンションが高いのであるが、その高いテンションの鮪を支えるかのように小泉貴裕(ドラム)は軽快でありながらもどっしりとした四つ打ちを鳴らし、遠藤昌巳(ベース)はイントロから古賀とともに手拍子をする。その全てがあまりに熱く、バンドのこのライブへの意気込みの強さを感じさせてくれる。鮪は早くも自身のマイクスタンドをグルっと回して横を見ながら歌ったりと、やはりテンションMAXである。
この日のライブは観客がマスクをしていれば制限なく声を出せるということで、早くも演奏された「ないものねだり」では手拍子とともに、間奏ではついに
「ゆらゆらゆらゆら僕の心」
のフレーズでのコール&レスポンスが返ってくる。実に3年以上ぶり。コロナ禍になってからは手拍子をしたりという形で、声を出さずとも観客とのコミニケーションを図ってきたKANA-BOONの想いがようやく報われる日がやってきたのだ。だからフレーズ自体は決して感動するようなものではないけれど、コロナ禍に見てきたZeppやLINE CUBEなどでのKANA-BOONのライブを思い出してグッときてしまう。そのライブは精神の不調から脱した鮪の復活へのストーリーだったが、この日までそれが続いたことによって、それはKANA-BOONのライブの復活へのストーリーにもなったのだ。
そうして感動しているのに鮪は
「今日は俺の同居人のおっさんの41歳の誕生日だから、みんなでおめでとうを言ってほしい」
と言ってその様をスマホで撮影するのであるが(インタビューでその同居人の存在が明かされた時はビックリしたが、音響の仕事で他の現場へ行っているのでこの日は不在らしい)、それもまた観客が声を出せるようになったからこそであると言えるのだろうか。
そんな鮪は新曲としてシリーズ第三弾となる「サクラノウタ」という曲を生み出したこととともに、
「俺は失恋してばっかりの人生やった。そんな俺がみんなに言えるのは、好きな人には好きだってちゃんと言った方がいいってこと」
と、曲が生み出された背景を口にしてからその曲を演奏するのだが、最初の「さくらのうた」はバンドとして衝動を炸裂させるような曲だった。それから10年経って、当時は少年だったKANA-BOONは大人になった。そのバンドとして、人間としての成長がこの「サクラノウタ」には滲んでいる。それはこの10年でたくさんの別れを経験してきたことによって書けたものだ。メンバーを照らす照明までも桜色なのがこのバンドの愛されっぷりを表している。
「もっと楽しくなれそう?それならおなじみの曲行くぞー!」
と鮪が言ってから演奏された「シルエット」ではそのバンドのテンションや意気込みが炸裂するように鳴らされる。この曲がライブで良くなかったことなんかないのであるが、それでもこうして聴くたびに良い曲だと思うし、NARUTOを全巻読み終わった後のタイミングだとより一層そう思える。
それはNARUTOの続編のBORUTOのテーマソングとして書かれた「きらりらり」もそうであり、BORUTOを読んでキャラクターや設定を理解するとより響くものがあるのは、
「大事にしてたものを持って 大人になれたよ」
と「シルエット」のフレーズを引用した歌詞があるように、ナルトもKANA-BOONも大人になったからである。共に長い物語を一緒に走り続けていて、まだまだ終わることがない。それでも今でも煌めき続けて生きている。
すると鮪は
「好きな人には好きって言った方がいいって言ったけど、それは好きなバンドに対してもそう。ずっと同じバンドを好きではいられないかもしれないし、生活環境が変わって忘れてしまうかもしれない。バンドだって永遠ではないけれど、俺たちは終わらないし、解散することはないから。それは俺たちには情熱があるから。このバンドを続けていきたいっていう、決して消えることのない情熱が」
と、最近居なくなって、もう会えなくなってしまった人たちの顔が浮かんでしまうようなことを言う。確かに、もっと好きって言っておけばよかった。その後悔は尽きることはないけれど、KANA-BOONは今も目の前で音を鳴らしていて、その言葉に絶大な説得力があるのはKANA-BOONが何度も危機や困難を乗り越えてバンドを続けているからだ。それは鮪の言う通りに情熱がないとできないことであるし、その言葉の後に、スクリーンに映像が映ることなく、ただただ肉眼でバンドの姿を見て欲しいと言っているかのようにして演奏された「まっさら」にはその情熱が溢れ出してまくっていた。そこにこの日は我々の声も乗せることができるからこそ、この日の「まっさら」のコーラスは今まで以上に力強かった。それはバンドとともにここにいた人たちのロックバンドに、ライブに対する情熱も重なっていたからだ。
そうして久しぶりの声出しでの「ないものねだり」以上のハイライトを「まっさら」が描き出すと、小泉がバスドラの四つ打ちを鳴らし、そこに同期のキーボードの音が乗る「スターマーカー」。NARUTOとともに「僕のヒーローアカデミア」も今アニメ放送中のところまで見たからこそ、この曲を聴いていて泣きそうになってしまう。この曲はヒロアカの文化祭編のタイアップであるが、その文化祭編は耳郎響香という強敵を倒せるようなヒーローになれないような存在が、ステージに立ってギターを持って歌を歌えばヒーローになれるということを示すような話だからだ。それはKANA-BOONがデビューしてからずっと自分にとってはヒーローのような存在のバンドだからこそそう思うことでもある。間奏での古賀の手拍子も、サビで観客の腕が左右に揺れるのも。
今までと変わらないようでいて、様々な出来事がありながらもそれを乗り越えて10年間メジャーシーンで生き抜いてきたバンドとしての別格のライブの力を実感せざるを得ないような40分間だった。我々もまだまだ乗り越えないといけないことがたくさんあるから、乗り越えてきたKANA-BOONがステージに立っている姿を過去最高に頼もしいと思っている。
1.フルドライブ
2.ないものねだり
3.サクラノウタ
4.シルエット
5.きらりらり
6.まっさら
7.スターマーカー
13:40〜 FOMARE [COSMIC STAGE]
KANA-BOONが終わった直後に始まるというタイムテーブルの都合上、COSMIC STAGEに移動した時にはすでに「これでダイブとかよく起きないな」というくらいに熱狂の1曲目「FROZEN」がすでに始まったところだったのだが、すでに客席はこのステージのキャパでは収まらないくらいの超満員になっているというあたりはさすがすでに大型フェスにもガンガン出ていて、当たり前にZeppクラスでもワンマンや主催ライブをやっている存在であるFOMAREである。自分もタイムテーブルが出た時には「FOMAREがこっちなのか」と思ったくらいにメインでもおかしくないレベルである。
小さいステージなので持ち時間が短いから、クライマックスがすぐにやってくるというのはアマダシンスケ(ボーカル&ベース)が歌い始めた段階で声が出せることによって客席からの合唱が起こった「Lani」の段階でわかるのであるが、カマタリョウガ(ギター)も、セットから立ち上がっているオグラユウタ(ドラム)もその客席の様子をじっと見ている。マスクをしているからまだ口元は見えないけれど、こうして自分たちの曲を思いっきり歌ってくれていることを嬉しく思っていることがその表情からよくわかる。
こうしたフェスなどの短い持ち時間でのライブにおける鉄板曲も固まっているくらいにライブをやりまくって生きているバンドであるが、そんな中にも昨年リリースしたフルアルバム「midori」収録の「80%」が披露され、パンク的なイメージも強いバンドではあるが、アマダの綴る詩世界の言語感覚の独特さにハッとさせられるような曲だ。特にサビの
「80%の愛を120%で追い越し」
というフレーズなどはお互いが同じ分量でいないとすれ違ってしまうということを実感させられる。
そんなアマダは2020年に開催が予定されていたこのフェスに出演するはずだったが、コロナ禍になって中止になっただけにようやくこうして出演することができた喜びを語ると、
「これは仲間の歌、恋人の歌、友達の歌…つまりはここにいるみんなの歌です!」
と言って、タイトルに合わせてステージを照らす照明がオレンジ色に染まる「夕暮れ」へ。その情景が浮かび上がるような歌詞とサウンドは普遍的な日常がどれだけ愛おしくて大切なものであるかということを感じさせてくれる。それは
「夕暮れがきれいだな
死ぬときもこんな感じがいいな」
と、それが終わってしまう可能性もすぐ近くに潜んでいることを歌っているからである。フェスだと朝イチの時間では喉が完全に開いていないこともあるアマダの歌唱もこの日は昼過ぎであるが故に実に伸びやかである。
そしてアマダは
「コロナ禍に作ったこの曲を今日はみんなで歌ってくれ!そして必ずライブハウスに行くと約束してくれ!」
と、声を張り上げてライブハウスへの想いを口にしてから演奏されたのはUSJのCM曲としてFOMAREの存在をお茶の間にも知らしめた、ポップサイドに大きく足を踏み入れた「愛する人」なのであるが、サビではアマダもカマタもマイクから離れて観客に合唱させ、それが超満員であることによって本当に良く響く。アマダはマイクスタンドを低くして、ステージに膝をつくようにして歌ったりしているが、声が出せないコロナ禍に作られたこの曲が、ようやくみんなの声で歌えるようになった。それはライブハウスの苦難などを乗り越えて辿り着いた今になってこの曲が本当の意味で完成したということだ。その光景を見ていたら、当たり前だったこの声がただ愛しかっただけなんだよな、と思わずにはいられなかった。
そんなクライマックスを描いてもまだライブは終わらず、何回だってやり直してみせるというバンドの意思を示すかのような疾走ショートチューン「Continue」が放たれて最後はやはり熱狂を生み出して終わるというあたりが、日夜ライブハウスでそうした光景を作っているこのバンドらしいなとも思ったが、こうしてみんなで合唱できるようになったことによってこのバンドの作ってきた曲たちの名曲っぷりがより浮き彫りになっている。それはこのバンドはここからもっと高く飛べる可能性に溢れているということだ。
1.FROZEN
2.Lani
3.80%
4.君と夜明け
5.夕暮れ
6.愛する人
7.Continue
15:00〜 フレデリック [MASSIVE STAGE]
もうここまでのアクトでだいぶ「観客が声を出せることでライブ自体がこの2〜3年と全く変わる」ということを実感してきているが、サウンドチェックの時点で観客を煽って声を出させるというあたりでフレデリックからも大いにそれを感じさせる。三原健司(ボーカル&ギター)が明らかにそれを求めているのがよくわかる。
本番では「ジャンキー」をミックスしたようなSEでメンバーが登場して、去年の代々木体育館でのライブなど、最後に演奏されることも多くなっていたその「ジャンキー」でスタートするという先制パンチっぷり。三原康司(ベース)のうねりまくる重いベースのリズムには踊らざるを得ないけれど、ハンドマイクを持って歌う健司の歌唱も気合い入りまくり。この日はこれまでに対バンしたりしている仲が良いバンドも多いだけに、負けず嫌いのこのバンドは絶対に負けたくないのであろう。
「40分一本勝負、フレデリックよろしくお願いします!」
と健司が挨拶してギターを持つと、高橋武(ドラム)のビートが疾走感を生み出し、赤頭隆児のギターがタイトル通りにスペイシーな浮遊感を感じさせてくれる「銀河の果てに連れ去って!」とリリースされたばかりの新作EP収録曲が早くも演奏されるのであるが、そこに不慣れ感などを一切感じさせないあたりはツアーなどですでに鳴らしてきて鍛え上げてきたからだろう。近年の曲ではかなりテンポが速いと思える曲なだけにフェスという場での即効性も抜群である。
すると高橋が強烈なドラムを連打して、その周りに集まったメンバーも激しく音を鳴らすというライブならではのアレンジとバンドサウンドの醍醐味を感じさせてくれる「KITAKU BEATS」では康司も赤頭もステージ前まで出てきて演奏し、そのサウンドが実に力強く我々を踊らせてくれるからこそ、帰りたくないというか、ずっとこうしてフレデリックの音楽で遊んでいたいと思わせてくれる。
そんな中で健司が
「知らない新曲でも踊れますか!?」
と観客に問いかけるのであるが、それはすでに「銀河の果てに連れ去って!」で実証しているとはいえ、続く新作収録曲の「虜」は赤頭の鳴らすギターがまるでシンセのようなサウンドを発するダンスチューンという実にフレデリックらしい曲であるのだが、再びハンドマイクになった健司によるサビの
「はなれられないの」
というフレーズはどうしても頭からはなれないし、癖になってしまうというあたりは我々がフレデリックの音楽の虜になってしまっていて離れられないということである。
するとバンドの鳴らすキメの一打、一音が実に力強い、健司がそのままハンドマイクでステージを左右に歩き回りながら歌う「Wake Me Up」は結果的に見たらこのセトリの中によく入ってるなと思う曲になっているが、健司は客席後方で誘導のために警棒を振っているスタッフの姿を
「スタッフも棒を振って踊ってるのかな?」
と笑わせながらも、
「フェスは知ってるアーティストを見るのもいいし、知らないアーティストを見てみるのもいい。知ってるアーティストの知らない新曲を聴いてみるのはもっといいんじゃないかと思う」
と、自由であるけれど音楽が大好きで貪欲な自身の楽しみ方を口にすると、ボートレースのCMソングとしてテレビで流れまくっている、フレデリックど真ん中のダンスチューン「スパークルダンサー」が演奏され、ステージからは無数のレーザー光線がワンマンライブかのように客席側に放たれていくのであるが、赤頭がジャンプしてそのレーザーを掴もうとしている姿には思わず笑ってしまう。
そして最後に高橋と康司が駆け抜けるようなライブならではのイントロのリズムを鳴らすと、赤頭がかすかに鳴らすギターの音で何の曲だかわかってしまうのは、
「ツタロック!この曲はみんな知ってるやろ!」
と健司が自信満々に叫んで演奏された「オドループ」であり、幕張メッセ中に手拍子のみの音も響き渡るのであるが、9年前の曲を最新の新曲たらしめているのは、アウトロでの超高速かつ激しいセッション的な演奏。ただ新曲を次々に生み出しているだけではなくて、代表曲もその新曲たちに負けないように日々進化を遂げている。それはバンド自身の技術や経験が進化をしていないとできないものであるだけに、改めてフレデリックというバンドの凄さを実感する。もう来週に迫ったNHKホールでのワンマンが否が応でも楽しみになってくる。そこで間違いなく、この日ですら「最高」と思った我々の記憶を鮮やかに更新してくれるはずだ。
自分は好きなバンド、アーティストがたくさんいる。だからフェスに来ると見たいアクトばかりで忙しい。でもフェスでのフレデリックのライブや健司の言葉は、そうして好きなバンドやアーティストがたくさんいる自分のような音楽好きな奴のことを肯定してくれているかのような感覚になる。もちろんワンマンで見るのが1番楽しいけれど、そんな感覚を与えてくれるからフェスでフレデリックを見るのはやめられないのである。
リハ.リリリピート
リハ.YONA YONA DANCE
1.ジャンキー
2.銀河の果てに連れ去って!
3.KITAKU BEATS
4.虜
5.Wake Me Up
6.スパークルダンサー
7.オドループ
16:00〜 go!go!vanillas [MASSIVE STAGE]
サウンドチェックでの「マジック」を始めたと思ったらすぐにやり直して笑わせてくれる、go!go!vanillas。牧達弥(ボーカル&ギター)も口にしていたように、絶賛ツアー中でのこのフェス出演であるが、そのサウンドチェックの段階からサポートキーボードが加わっているというのは昨年末にアルバム「FLOWERS」をリリースしてのライブでの変革が起きていることを感じさせてくれる。
しかしながら本番でメンバーが登場するとサポートキーボードはまだ参加せずにメンバー4人だけ、しかも1番キーボードが入りそうな最新アルバム「FLOWERS」収録の「HIGHER」で不在ということに少し驚いてしまうのであるが、ゴスペル的にメンバー全員の声が重なっていくというのは全員がボーカルを取れるバニラズだからこそできる曲だと言える。音源で聴いた時のイメージよりもサウンドから「ロック」な感覚を感じるのはさすがバニラズであり、ツアーを回って鍛え上げてきた成果が音になって出ている。
するとサポートキーボードも加わって演奏された「平成ペイン」ではジェットセイヤ(ドラム)が「オイ!オイ!」と煽りまくって観客も飛び跳ねる中、サビではおなじみの振り付けが広がっていく。こうしたフェスでそうしたバニラズ特有の楽しみ方をしている人がたくさんいると、本当にこのフェスのメインステージという規模に相応しいバンドになったんだなと思う。
「最後まで楽しんでいこうぜー!」
と牧が叫ぶと、そのキャッチーなメロディと間奏での牧、柳沢進太郎(ギター)、長谷川プリティ敬祐(ベース)がリズムに合わせてステップを踏む姿が言葉通りに我々を楽しくさせてくれる「お子さまプレート」と、「平成ペイン」もそうであったが観客が声を出せることによってその楽しさがさらに引き上がっていることがわかる。だからか柳沢も、髪色が赤くなったプリティも表情もアクションも実にテンションが高い。
牧がこうしてツアー中であるにもかかわらずこのフェスに出演できたことの喜びを語ると、春らしい青春の情景をハンドマイクで歌い上げるのは「青いの。」であり、キーボードが最も必要とされる曲でもある。歌い出しではプリティの姿に合わせて観客も裏拍の手拍子をするのであるが、青とピンクが入り混じる照明が実に似合うのも、今でも制服を着ていても違和感がないであろうくらいに若々しいこのメンバーたちだからである。
すると柳沢が今までよりも激しくギターを唸らせたりカッティングしたりする後ろでセイヤはスティックを放り投げている中、その柳沢によるテンションの高い手拍子の煽りから突入した「カウンターアクション」で一気にロックンロールに振り切れると、曲中では牧と柳沢が一本のマイクで2人で歌うというあまりに美しくカッコ良すぎるパフォーマンスも。しっかりそこを撮影していてライブ後に公開したスタッフもまた見事である。
今度は逆サイドのプリティが曲に入る前に腕で「EMA」という文字を作って始まる「エマ」もそれが完全に浸透してるなと思ったのは、ライブでおなじみのサビで腕を交互に上げるというノリ方をたくさんの観客がやっていたからで、バニラズのライブを見たことがある、普段から見に行っている人がこんなに多くなったんだなと実感せざるを得ない。
そうして「HIGHER」から始まった時点ではもっと「FLOWERS」に寄った内容になるかなと思ったのであるが、結果的には王道的な曲が並び、そこにキーボードが加わるというのは意外でもあったのだが、最後に演奏された「LIFE IS BEAUTIFUL」は牧の歌唱力、メンバーのコーラス力(特に曲後半のツインボーカル的になる柳沢)とキーボードのサウンド、こうしたアイリッシュ的なトラッドミュージックがルーツにあるバンドだからこそ、こうして演奏されているのを聴いていると我々の人生そのものを肯定してもらっている気になるし、そうして「人生は美しい」と思えるのはこのバンドのライブをこうして見れているからでもある。週末にはそれをホールワンマンで味わえるというのも本当に楽しみだし、そこでは「FLOWERS」の世界に浸らせてくれるはず。最後に牧がピックなんかを客席に投げ入れる際に声が上がったりするのも、声を出せるようになったからなんだよなとも思う。
リハ.マジック
リハ.one shot kill
1.HIGHER
2.平成ペイン
3.お子さまプレート
4.青いの。
5.カウンターアクション
6.エマ
7.LIFE IS BEAUTIFUL
17:00〜 Saucy Dog [MASSIVE STAGE]
せとゆいか(ドラム)のジストニア的な症状の発症によって、ツアーを途中から1ヶ月半ほどストップしていた、Saucy Dog。しかしこのフェスの2日前の神奈川からツアーを再開し、こうしてこのフェスにも2年連続での出演。今や紅白アーティストでもあるだけに、動員数ならトップクラスと言っていいくらいの超満員っぷりである。
おなじみのSEでメンバーが1人ずつステージに現れると、金髪混じりのパーマになった石原慎也(ボーカル&ギター)がギターを鳴らして歌い始めたのはなんといきなりの「シンデレラボーイ」であり、これには始まった瞬間に歓声が上がるのであるが、休養があった中でも自身の歌唱をさらに研ぎ澄ませていたのは間違いないと思うくらいに、元から歌も上手いし声量もあったボーカリストだったが、さらに聴き手の心の中に刺さってくるかのような凄みをその声が獲得している。それは上手く歌うというのはもちろんであるが、より感情を強く声に乗せることができるようになったというべきだろうか。だからライブで何回も聴いている曲であっても体も心も今まで以上に震えるような感覚になったのだ。
「ツタロック、盛り上がっていこう!」
と石原が観客に呼びかけて始まった「雀ノ欠伸」では秋澤和貴(ベース)がステージ前に置かれた台の上に立って演奏するという、ホールを回るツアーで新たに見せ方を考えて導入したパフォーマンスも見れるのであるが、やはり秋澤の表情はそれでも全く変わらないのが面白いし、歌詞に合わせてステージはオレンジの照明に照らされ、せとのドラムを叩きながらの流麗なコーラスも全くブランクを感じさせることはない。休んでいた期間も短いけれど、体に染み付いているところもあるのだろう。
すると石原が
「大事な曲を」
と言ってステージを足でドンドンと鳴らして始まったのはもちろん「いつか」であり、その歌唱もやはりさらに感情が強く乗っているのであるが、前半でこうしてこれまでの最大のキラーチューンであり代表曲を連発するというのを見て、サウシーのライブが石原のボーカルとともに明らかに変わったなと思った。
せとが復活したことを自身の口で観客に告げ、休止を発表した時にたくさんの温かい言葉を貰ったことに感謝を示すと、そのせとのドラムがさらに力強くなり、石原のギターの歪みも含めてこのバンドのロックバンドっぷりを感じさせる「メトロノウム」を演奏すると石原は、
「みんなが歌えるって本当にアーティストにとって嬉しいことなんですよ。だからずっと歌って欲しかった曲を歌ってもらっていいですか!」
と言って演奏された「優しさに溢れた世界で」ではスクリーンに映るメンバーの姿とともに歌詞が映し出される。それによって観客もその歌詞を見ながら歌えるのであるが、あれだけ素晴らしい歌唱を見せてくれていた石原がマイクから離れて観客の歌声を求めていて、それがこんなにも大きいものになっていることに感動してしまっていた。その光景を見ていたら、せめてこのライブ会場やその周りだけは
「それとひとつだけお願い
僕ら大袈裟な事じゃなくて
もっと優しさに溢れた世界で
笑ってたいと思ってるだけ」
という歌詞の通りの世界であって欲しいと思った。
そして石原は
「休止って言っても1ヶ月くらいだったけど、いろんな人から応援してもらえて。良いことばかり言ってもらったわけじゃないけど(笑)でも俺たちはこれから50年でも60年でもバンドを続けていきたいと思ってるから!みんなも生きてその時まで追いかけて欲しいと思ってます!
ここにいる人だけは、優しくてカッコいい怪物になろうぜ!」
と言って「怪物たちよ」を演奏する。「シンデレラボーイ」の大ヒットによってラブソングのイメージが強くなったかもしれないこのバンドのイメージを覆すような、強いメッセージを含んだこの曲を聴いていると、去年のこのフェスでこのバンドがサウンドチェックをしているのを撮影していた人がたくさんいて、運営が注意のアナウンスを流すということになったことを思い出した。あれ以降、春フェスや夏フェスなどいろんなところでサウシーのライブが撮影されて、それに伴ってメンバーが苦言を呈したり、SNSも荒れて…ということがあった。そうした経験もきっとこの曲には含まれていると思うが、そんな曲を石原は晴れやかな表情で、伸びやかなボーカルで歌っているのを見て、なんだか乗り越えたような感じがした。
それは高校サッカーのテーマとして作られた新たなアンセム「現在を生きるのだ。」もそうであるが、とにかくこうしてライブをやれていることが楽しくて、嬉しくて仕方がないという感情が石原の表情や歌声から溢れ出ていた。ここまで巨大な存在になったからこそ、いろんな人がライブに来るようになる。そこにはルールやマナーを全く知らない人もたくさんいるからこそ、諍いが発生したりする。でもそれを今のサウシーはポジティブなエネルギーで吹き飛ばそうとしているようだった。それは1ヶ月半の休止すらも後に振り返った時にはポジティブなこととして捉えられるようになるのかもしれないというくらいに。それくらいに今のこのバンドの強さ、タフさを感じられたライブだった。
1.シンデレラボーイ
2.雀ノ欠伸
3.いつか
4.メトロノウム
5.優しさに溢れた世界で
6.怪物たちよ
7.現在を生きるのだ。
18:00〜 04 Limited Sazabys [MASSIVE STAGE]
いや、この曲サウンドチェックでやるんかい、と思ってしまうような名曲をも惜しげもなく本番前に演奏してしまう、フォーリミ。主催フェスのYON FESも迫ってきている中であるが、今年もこうして春フェスにも精力的に出演するというあたりはさすが2022年のフェス出演数1位アーティストである。
おなじみのSEでメンバーが登場すると、この日は白いパーカーを着たGEN(ボーカル&ベース)が息を吸い込むようにして歌い始めた瞬間にKOUHEIのドラムを軸にしたパンクビートが響き渡る「Keep going」からスタートするのであるが、こうしていろんなバンドやアーティストを見てきた後にフォーリミの力強いパンクサウンドを聴くと、やっぱりこれだよな!と体が言っているような感覚になる。もうフェスも後半に差し掛かって疲れも感じがちなタイミングであるが、それでもさらに我を前に前に進ませてくれる。GENのハイトーン歌唱も絶好調である。
セッション的なバンドの演奏から突入した「Kitchen」では歌詞とリズムに合わせた手拍子もバッチリ決めた観客が踊りまくり、その歌詞もさることながら今この瞬間にこのサウンドを浴びているという実感がまさに、どこでもない今ここを感じさせてくれる「Now here, No where」とパンクバンドらしくテンポ良く次々に曲を連発していくと、
「今日は夜空に星がよく見えそうなんで、流星群を持ってまいりました!」
とGENが口にして突入した「midnight cruising」では曲中にRYU-TA(ギター)がカメラに向かって両腕で「T」の形を作る姿がアップで映し出されたりするのであるが、それもまたTポイントが協賛のこのフェスだからこそのものである。この曲での煌めく照明の演出の美しさの記憶が消し飛ぶくらいにRYU-TAのその姿の印象が強く残っている。
実際にフォーリミは自分たちがデザインされたTカードも作られたことがある(使ってないけど自分も持っている)のであるが、GENは最寄りのコンビニがファミリーマートであるために買い物をするたびにTポイントを貯めているのだが、HIROKAZ(ギター)はさすがに自分たちデザインのカードは恥ずかしくて使えず、RYU-TAも最初は使っていたけれど今はもう使っていないという。
そんなこのフェスだからこそのTポイントやTカードトークの緩さとは対照的に強く激しいパンクビートが鳴り響く「Every」と、昨年リリースのアルバム「Harvest」の内容がそうであったように、その強さと激しさはアルバムを、活動を重ねるたびにさらに増しているような感すらある。
それはGENがイントロで思いっきり振りかぶるようにしてから演奏された「monolith」もそうであるが、これだけ激しい曲でも決してルールを破ることなくダイブなどをしないで楽しんでいる人しかいないというあたりはフォーリミがコロナ禍になってから、守りたいものを守るために活動してきたのをファンもみんな見てきたからであろうし、KOUHEIが立ち上がって中指を立て、HIROKAZが「オイ!オイ!」と煽りながらレーザー光線が飛び交う「fiction」もこうしたアリーナクラスでもライブを重ねてきたフォーリミだからこその曲であり光景である。
そんな定番曲たちに繋がるのが「Harvest」収録の「Finder」であり、こうして連続して演奏されることによって、「fiction」を今のフォーリミでさらにハードな音像にして生まれた曲という印象を受ける。ツアーを細かく回って演奏しまくってきたことによって、自分が参加した千葉LOOKでの初日よりもはるかにこのキャパで演奏されるに相応しいスケールを獲得している。
するとGENはパーカーを脱いでTシャツのみになりながら、
「この音のWBCでホームランを打ちたいと思います」
と上手く時事ネタを取り入れながら、この時期ならではの「出会いと別れ」について
「望んでもいないのに勝手にやってきてしまう」
と口にしながら、それでも別れた人と再会する未来が来るように願いを込めるように「Terminal」を演奏するのだが、この幕張メッセで聴くと「YON EXPRESS」でのこの会場のワンマンというコロナ禍真っ只中に全席指定で開催されたライブのことや、その前にコロナ禍になって初めて開催された名古屋のアリーナでのワンマンのことを思い出してしまうのは、
「最高な世界になったらきっと愛せるんじゃないか」
という、あの時に願いを込めるようにして聴いていたフレーズ通りの世界にまた戻りつつあることを実感できているからだ。そう思えるくらいに、コロナ禍になってもフォーリミのライブに行き続けてきて良かったと思う。この曲を今までよりももっと好きになることができたから。
そして最後には、最近のフェスなどでは演奏されないことも増えてきていた「Squall」が、
「自分自身に生まれ変われ!」
というおなじみの前フリとともに放たれる。GENのボーカルはファルセット部分まで含めて一点の曇りもないのはまさに雨上がりの空のようであるが、こうして最後にこの曲を聴くと本当にKOUHEIのビートは力強いと思うし、それと同時にコーラスまでしているのは本当に凄い。衝動と客観性を兼ね備えたこのドラムを今年もYON FESで存分に浴びれたらと心から思う。
そうしてきっちり締めたかと思ったら、
「まだ少し時間残ってるんで、未来からの、メッセージ!」
と言ってショートパンクチューン「message」を追加した。「Remember」もそうであるが、こうした曲があって、それをこうしたフェスで時間をフルに使うために急遽演奏するというのは、曲を1曲でも多く演奏するのが最大のファンサービスだということをわかっているからであり、パンクバンドであるフォーリミとしてのフェスでの戦い方だ。そのフェスを自分たちで作ったYON FESまで、あと3週間。自分の中では春の中で最も楽しみなフェスの一つになっている。
リハ.My HERO
リハ.swim
リハ.Honey
1.Keep going
2.Kitchen
3.Now here, No where
4.midnight cruising
5.Every
6.monolith
7.fiction
8.Finder
9.Terminal
10.Squall
11.message
19:00〜 ハルカミライ [MASSIVE STAGE]
3日前に横浜F.A.Dで見て以来のハルカミライ。1週間のうちにキャパが100倍くらい違う会場でライブをするというのもライブをやり続けて生きているハルカミライだからこそである。
おなじみの関大地(ギター)、小松謙太(ドラム)、須藤俊(ベース)がセッティングが終わったステージに出てきて、この時間すらもギリギリまで目一杯に使うようにして「ファイト!!」のテンポを上げて演奏すると、橋本学(ボーカル)が巨大なフラッグを持ってステージに現れ、観客が声を出せるということで「君にしか」から幕張メッセでの大合唱を巻き起こす。ホールの場所は違うとはいえ、幕張メッセでハルカミライが合唱を巻き起こすのは2019年末のワンマン「A CRATER」以来だろうか、なんてことを思ったりするくらいに、もう数多くハルカミライのライブを見てきた場所になったんだよなと思う。
そのまま「カントリーロード」へ…という鉄板の流れであるのだが、普段は橋本が何かしら言葉を放つ間奏部分で関のギターが明らかにチューニングが合っておらず、チューニングをしてから間奏部分を演奏しなおすということになってしまう。しかしそれがミスだとか、そういうネガティブなものにはならずに、むしろ笑えるような展開になるのはハルカミライならではのライブの空気である。そう持っていけるパワーを持っているというか。それは赤い髪色にフェイスペイントという橋本が
「こんなナリしてますけど、水曜日のカンパネラが大好きです!」
と言って会場を和ませたからでもあるのだが、その後にやはり挟まれた「ファイト!!」でも大合唱を巻き起こすと、
「ツービートは好きですか!」
と橋本が問いかけた「俺達が呼んでいる」では関が自身のアンプをぶっ倒してしまうという一幕もあり、何やらトラブル続きの中でそのままショートチューン「フルアイビール」に間髪入れずに繋がっていくのだが、
須藤「なんかさー、固くない?俺たちが固くなってる」
とバンドの状態を察知した須藤の鶴の一声によって、小松によるトライバルなリズムの「フュージョン」から駆け抜けるようなツービートに合わせて橋本が歌う
「この指止まれ止まれ」
のフレーズに合わせて観客が拳ではなくて人差し指を掲げながら大合唱する「エース」へと繋がっていくことによって、いつものハルカミライらしさを取り戻していく。ひたすらに曲を演奏していくことでそうなっていくというのも実にハルカミライらしいものである。
「田舎育ちの人?田舎ってさ、イオン行くかTSUTAYA行くしかやることなかったよな!5枚で1000円でどれだけアルバム借りたことか」
とTSUTAYAへの思い入れを口にした橋本が高らかにタイトルコールをした「春のテーマ」はF.A.Dの時には意外と演奏されていなかっただけに嬉しい選曲であり、やはりこの曲をライブで聴いているとこここそが世界の真ん中だと思える。自分たちがそこに立っているのだと。ステージ前で橋本、関、須藤が固まって音を鳴らし、途中からはフラッグを振る橋本の姿によりそう思わされる。
すると
「曲変えたり増やしたりしてるからこのままいくと時間オーバーする(笑)」
と言ってやはり須藤がタイトルコールした「To Bring BACK MEMORIES」へと曲が差し替えられて演奏されると、そのままとびきりロマンチックな「Predawn」へとつながり、橋本の歌声は爆音のバンドサウンドに負けないくらいにこの巨大な規模の会場にまでしっかりと響き渡る。もちろんコーラスパートではそこに重なっていく観客の歌声も。久しぶりにこの規模で体感するハルカミライのライブの合唱は、こんなにたくさんハルカミライの曲を歌える人がたくさんいるんだということを実感させてくれる。
すると橋本は
「俺の姉ちゃんがTSUTAYAで店員さんやってたんだ。そしたらその店にハルカミライのコーナーを作ってくれた。本当に嬉しかった」
というエピソードを口にする。もしかしたら、初めてだったかもしれない店でのバンドの大展開。自分自身、昔よりもTSUTAYAに行かなくなった。というかTSUTAYAの店舗自体がなくなりつつある。毎週行っていた実家の近くのTSUTAYAももうない。それでも橋本のこの言葉からは、そうしてTSUTAYAが展開してくれていたおかげで知れたバンドがたくさんいたこと、橋本の姉のようにそこには「人気だから」とかではなく、その音楽を愛している人が本気で作ったものであったことを思い出す。TSUTAYAで借りたり買ったりしたCDには決してというか全然有名じゃないインディーズバンドのものもたくさんあったから。
そうしたエピソードの後に放たれた「アストロビスタ」で橋本は
「音楽の聴き方は変わっても、ライブは変わることはないぜー!全てのロックフェスに拍手!」
と叫んで讃える。それはこうしたフェスが
「こんなに楽しいことはないよ」
と言っていた、バンドの活動を支えているものの一つであるから。いつものように「宇宙飛行士」のフレーズに変えて歌っている時には目から涙が出てきてしまっていた。このTSUTAYAのフェスでしか聴けない「アストロビスタ」を自分が聴くことができていたから。
そんなクライマックスと言ってもいい曲の後で、小松をドラムセットからステージ前に呼んで4人で歌い始めると、橋本はさらにサビをほぼ丸々アカペラで歌うというアレンジにしてから「世界を終わらせて」を演奏する。スクリーンに映る観客がみんな拳を挙げて飛び跳ねまくっている。その光景を見ていると本当に幸せな場所にいることができていると思える。
そしてこちらもF.A.Dではやっていなかった「PEAK'D YELLOW」がやはり大合唱を巻き起こすと、
須藤「本当は今の曲で終わりだったんだけど、後残り6分もある(笑)」
橋本「初めてのフェスかよ!(笑)」
ということで追加されたのは「星世界航行曲」だったのだが、これはきっと本来は本編でやる予定だったのを入れ替えた曲だっただけにこの残り時間で演奏されたのだろう。橋本のファルセットも実に伸びやかであり、この幕張メッセのステージに立つべきバンドのボーカリストであることを感じさせると、さらに意外にもここまでやっていなかったショートチューンの「Tough to be a Hugh」を追加してさらなる大合唱と熱狂を巻き起こすのであるが、それでも
「まだ20秒ある!いける!」
と言ってさらに「To Bring BACK MEMORIES」を追加した。こんなライブはハルカミライにしかできない。だからどんな場所、どんな持ち時間のライブであっても見逃せないし、この日の橋本のMCでのTSUTAYAの思い出を共有できる、共感できるような世代や人生で本当に良かったなと思った。これからもこのフェスが続く限りは出演し続けて欲しい。必ず見に来るから。
リハ.ファイト!!
リハ.フュージョン
リハ.結構速めのファイト!!
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!!
4.俺達が呼んでいる
5.フルアイビール
6.フュージョン
7.エース
8.春のテーマ
9.To Bring BACK MEMORIES
10.Predawn
11.アストロビスタ
12.世界を終わらせて
13.PEAK'D YELLOW
14.星世界航行曲
15.Tough to be a Hugh
16.To Bring BACK MEMORIES
20:00〜 [Alexandros] [MASSIVE STAGE]
そしてこの日のトリは[Alexandros]。フェスでもトリを務めて当たり前の存在ではあるのだが、この日が少しいつもと違うのは、サウンドチェックをしないバンドであるにもかかわらず、川上洋平(ボーカル&ギター)が本番前にステージに登場して、
「幕張!おとなしすぎるんじゃないのか![Alexandros]が出てくるのにそんなに大人しくていいのか!」
と煽って会場の歓声を煽っていたこと。ここまでに出演したバンドたちのライブで大合唱が起きているのを見て、いてもたってもいられなくなっているという感が溢れ出ている。
なので本番もスクリーンにはバンドロゴが映し出されるというトリならではの演出もある中で「Milk」のSEでメンバーがステージに登場すると、リアド(ドラム)がビートを刻み始め、磯部寛之(ベース)がステージ前に出てベースを鳴らし、白井眞輝(ギター)は客席に向かって耳を当てるような仕草をする。川上がイントロからマイクを客席に向けて始まった「Dracula La」からして、もう歌ってもらいたくて仕方がないんだなと思った。その観客の声を求めているというのは、久しぶりの声出し解禁ライブとなった昨年12月の代々木体育館でのワンマンを見てもわかっていたが、その観客の合唱がバンドに力を与えているということが見ていて本当によくわかる。
だからこそ川上が飛び跳ねるようにしてギターを弾きまくる「Baby's Alright」もいつも以上にソリッドかつ前のめりな感じを受けたのだし、リアドが強靭なビートを鳴らす中で川上がアコギに持ち替えて掻き鳴らすと磯部も白井もイントロから観客の「オイ!オイ!」という声を煽りまくる「Waitress, Waitress!」と、完全にこの日のセトリは観客を歌わせに、叫ばせに来ているということがすぐにわかる。
「今日は最高の夜になります!」
と、早くも汗を飛び散らせながら川上が口にすると、スクリーンには都会の夜景のアニメーションが映し出され、なんと実に久しぶりの「LAST MINUTE」がここで演奏される。決して全員で合唱するようなタイプの曲ではないけれど、高まったメンバーのテンションによる演奏とハンドマイクで歩き回りながらの川上による歌唱が、じわじわと熱を帯びていくグルーヴ、アンサンブルをさらに熱く感じさせてくれる。クールな曲というイメージが強いけれど、この日はまた違う一面を見せてくれたというのはやはり状況が変わった後のライブだからだろう。
するとイントロから大歓声が湧き上がった「Starrrrrrr」でももちろんコーラス、サビで大合唱となるのだが、それだけではなくて間奏では白井がギターソロを掻き鳴らすとバンドの演奏がピタッと止まってギターの音だけになる瞬間も。そうして定番の曲、代表曲にも新たな表情をつけてみせるというあたりが、これまでもあらゆる曲をライブでアレンジしては我々を驚かせてきたこのバンドだからこそである。フェスでサラッとこういうことをやってしまうあたりが本当にカッコいい。
そしてやはりドロスのライブでの合唱と言ったらこの曲であろう「Adventure」ではイントロから大合唱が起きて曲が始まったと思ったら、川上が演奏をストップさせる。何かしらトラブルがあったのかと思っていたら、
「もっと声出せんだろー!」
とさらなる声出しを煽るものだった。そうしてスクリーンに歌詞が映し出され、客席にマイクスタンドごとマイクを向ける川上の姿を見て、ああ、こうだった。フェスでトリをやるときのドロスのコロナ禍になる前のライブはこんな感じだったと、間違いなく戻ってきたような感覚を実感させてくれる。歌詞に「幕張」と入れるおなじみのアレンジも含めて、そうして煽るからこそ、「Adventure」ではこんなにも聴こえるものなのか、と思ってしまうくらいの大合唱が響き渡った。その合唱の大きさも忘れてしまいかけていた。そうやってここにいる全員を巻き込んでいけるのもまた[Alexandros]のライブだったのだ。
そんな最高の時間は最高すぎるがゆえにあっという間に終わってしまう。
「最高です、ツタロック!」
と川上が言ってジャケットを脱いでタンクトップ姿になってから最後に演奏されたのは、コロナ禍になってからリリースされたことによって、みんなで歌うためのコーラスフレーズでも長らく声が響くことがなかった「閃光」。ワンマンでは体感していたが、初めてのフェスでのこの曲のコーラス部分での遠慮なしでの大合唱は、この曲は間違いなくこうして我々がメンバーと一緒に歌うために作られたということを知らしめてくれるかのようだった。なんでドロスがこうしてフェスでトリを任されているのか。それは観客から発せられた力を自分たちのものにして何倍にもして目の前にいる人に返すことができるからだ。それを思い知らされた。川上は最後に
「これからもっと良い時代になるぜ!」
と言ったが、その言葉を信じざるを得ないくらいに、本当に素晴らしいライブと時間だった。
しかしやはりまだやりたりない!とばかりにメンバーはすぐさまアンコールでステージに登場。白井の煌めくようなギターが鳴らされて川上もステージ上で飛び跳ねまくりながら歌い始めたのはやはり「ワタリドリ」。川上の歌唱のまさに羽ばたきまくっているかのような素晴らしさ。そこには今この瞬間の川上の心境がそのまま反映されていた。川上だからこそ歌えるかのようなサビのファルセットでも遠慮なくマイクを客席に向けてくると、そんな超ハイトーンなフレーズでも合唱が起こる。ドロスのライブでの合唱でなら、普段は出ないような声域でもどこまでも出せるような気がする。そんな力をくれる。バンドが我々から貰っている力も間違いなくあるし、我々がバンドから貰っている力も間違いなくある。それを確かめさせてくれたような、久しぶりの合唱ができるドロスのフェスでのトリだった。
ドロスはコロナ禍になってからでもすぐに有観客ライブに踏み切り、ずっとライブを続けてはその都度、
「近い将来、できれば次に会える時には皆さんの声が聞けますように」
と言い続けてきた。それを見てきたからこそ、バンドが我々の声を求めているのはわかっていたけれど、それが本っ当に、1ミリの嘘もなく心の底から思い続けてきたことであるということがこれ以上ないくらいに伝わってきたのは、フェスでは実に珍しく最後にリアドがマイクを使って観客に感謝を告げ、それだけではなく再び全員でステージに戻ってきて客席を背景に写真撮影までもしたからだ。そんな普段はやらないようなことすらもやってしまいたくなるくらいに、我々の声はこんなにカッコいいバンドに必要とされている。我々観客、ファンがいてこそこんなに素晴らしいライブになる。忘れかけていたそんなことをまた思い知らせてくれたのが、本当に嬉しくて仕方がなかった。また忘れられない[Alexandros]のライブが一つ増えたのだった。
1.Dracula La
2.Baby's Alright
3.Waitress, Waitress!
4.LAST MINUTE
5.Starrrrrrr
6.Adventure
7.閃光
encore
8.ワタリドリ
20:45〜 bokula. (Closing Act) [COSMIC STAGE]
コロナ禍になる前の開催ではピエール中野がDJで務めたりしていたクロージングアクトも復活。今年リリースしたアルバム「FUSION」が素晴らしかった広島の若手4人組バンド、bokula.が今年のこのフェスの最後の時間を担う。
もうSEがELLEGARDEN「The Autumn Song」というだけで良いバンドであることがわかるのだが、ライブを見るのは初めてであるだけに音源を聴いていたよりもはるかにメンバーの出で立ちがパンクであることに驚いていると、「FUSION」の1曲目に入っている
「信じ抜くだけがロックじゃない
見せかけの拳はいらない」
という歌詞が真っ直ぐに響くギターロック「2001」からスタートし、タイトル的にもサウンド的にもKANA-BOONの影響を感じさせるような「ハグルマ」に繋がるというのはアルバムの曲順通りの流れであるが、この2曲を観ただけでもライブハウスでライブをやりまくって生きてきて、そこでの熱量や煌めきをそのまま音源にしているからこそアルバムが良い物になっているのだとわかる。もちろんそれは、えい(ボーカル&ギター)のメロディメーカーとしての資質あってこそのものであるが、その楽曲を最大限に輝かせることができるメンバーの演奏も上手いだけではなくて動きからもロックバンドとしての衝動がこもっている。
こうして最後まで残ってくれている観客に感謝しながらも、バンド自身も朝イチから会場に入って出演者たちのライブを見まくっていたというあたりに音楽が、バンドが好きでたまらないからこうして自分たちもバンドをやっているということがわかるし、それが衝動に繋がっているところもあると思うのであるが、えいが合言葉と口にしてから演奏された「愛してやまない一生を」ではクロージングアクトの枠とは思えないくらいに拳が上がって合唱が起きる。それはすでにこの曲や次の21歳の若者としての蒼さや葛藤が滲む「何者にもなれるな」もそうなのだが、ライブハウスで鳴らしまくってきたことによってすでにその曲たちがバンドにとってのアンセムになっているということがわかる。そんな今の自分たちの持ち得る最強のものを、自分たちの持っている力の全てを放出するかのようにして鳴らしている。金髪と黒髪の混ざった髪色のかじ(ギター)はガンガン前に出てきて時にはキラーフレーズを、時には爆音を鳴らし、見た目がやんちゃそうなさとぴー(ベース)もその見た目通りにステージ端まで動き回りながらベースを弾く。そんなメンバーたちを支えるかのような、見た目も1番普通なふじいしゅんすけさん(ドラム)のリズムは手数も多いし正確無比。良いバンドはドラムがしっかりしているという川上洋平の言葉を借りるならば、間違いなく良いバンドだ。(かじは[Alexandros]のファンらしい。確かにギターは白井と同じ物である)
そんな熱演によって帰ろうとしていた人も遠くで足を止めたりしてライブを見ており、えいもその人たちへも感謝を告げると、広島の田舎のライブハウス出身のバンドとしてのライブハウスへの想いを、この日ならではの「幕張メッセ」などを入れた歌詞に変えて歌う「この場所で.」あたりからはバンドのイメージが変わってきていた。鳴らしている音も姿も、ストレートなギターロックというよりはパンクだなと思った。
それはきっとバンドとしての精神性がそのままステージに表出しているとも思うのだが、最後の爆裂ショートチューン「満月じゃん。」ではさとぴーが上半身裸になり、えいもシャツをはだけさせながら、ほぼ上半身裸になっている。その姿を見て自分はサウンドは全く違えど、the HIATUSの細美武士とmasasucksを思い出した。それは脱ぐことが目的なんじゃなくて、あまりにも暑く熱くなってしまうから脱いでしまうという意味で。それくらいに熱かったからこそ、次はライブハウスでも再会したいと思った。
クロージングアクトとなるとさすがにアンコールはないよなぁと思っていたのだが、観客は手拍子を鳴らしている。するとメンバーも
「やっていいんですか!?」
と驚きながら、やはりパンクさしか感じないような、タイトル通りの高速ショートチューンの「一瞬」をまさに一瞬で鳴らし、
「最後まで本当にありがとう!気をつけて帰って!」
と言って次々にピックなどを客席に投げ込んだ。
ハルカミライ→[Alexandros]というライブの化け物であり本物でありBeastと言えるバンドたちの後に見ても全く見劣りしないどころか、このバンドがクロージングアクトで良かったと思えるようなライブを見せてくれたからこそ、25分の尺では全然足りないし、すでにそこに収まるようなバンドではない。何よりも、TSUTAYAはどれだけ店舗がなくなってもこうやって自分に新しい出会いを与えてくれる。そんなことを実感させてくれた、気持ち良く帰路につけるような最高のbokula.との初遭遇だった。
1.2001
2.ハグルマ
3.愛してやまない一生を
4.何者にもなれるな
5.この場所で.
6.満月じゃん。
encore
7.一瞬
と鳴り止まないロックンロールの衝動を歌ったのは神聖かまってちゃんであるが(このフェスの時は毎回引用させてもらっている)、そのTSUTAYAさん主催のフェス、ツタロックが今年も幕張メッセにて開催。昨年は全席指定の1ステージのみだったが、今年はコロナ禍前と同様にスタンディングで2ステージ。メインのMASSIVE STAGEには抽選制の前方エリアが設けられているというのはコロナ禍を経たからこそであるが、かつては両ステージの時間被りなしで20組くらい観れたのが、今年は時間が被っているというのは少し残念なところでもある。
幕張メッセの9〜11ホールを使うというのは去年と変わらないが、10ホールが入り口兼休憩エリアやいろんなブースがあり、11ホールには物販販売とともにセカンドステージのCOSMIC STAGEがあるという、確かにコロナ禍になる前の開催もこんな感じだったなと思うステージ構成。朝早い時間にもかかわらず、物販もフォトスポットも開演前からたくさんの人が並んでいる。
10:30〜 illiomote (Opening Act) [COSMIC STAGE]
セカンドステージのCOSMIC STAGEに最初に登場するオープニングアクトはilliomote。全くノーマークだったのだが、YOCO(ボーカル&ギター)とMAIYA(ギター)の2人がステージに現れると、その出で立ちからして完全にロック。音楽としてだけではなくて、カルチャーとしてのロックを愛していることがわかるのだが、サポートのドラマーとマニピュレーターも含めた4人編成で、鳴らすサウンドも完全にオルタナ、グランジというロックサウンド。
「池袋から来ましたー!」
というYOCOの自己紹介は「池袋なのに何故バンド名は西表?」と思ってしまうのであるが、観客に手拍子を煽りながらパワーポップ、ポップパンク、再びオルタナ、さらにはR&Bと、USインディーから強い影響を受けて、その憧憬を自分たちでも追いかけて鳴らしているということがわかるし、そこに説得力を持たせるのはYOCOのパワフルなボーカルとMAIYAの轟音ギターサウンド。それは借り物ではなくて、自分たちはこうした音楽が好きで、自分たちがそれをやりたいからこうしてギターを手に取ったということを感じさせてくれる。どこかWet Legあたりに通じるものを感じさせるし、ファッション含めてひたすらに「カッコいい」という感想しか出てこないような新星がシーンに現れた20分間だった。
11:00〜 WurtS [MASSIVE STAGE]
開演前の主催者による注意事項のアナウンスも含めた前説では昨年の開催時にサウンドチェックを撮影していた人がいて注意したこと、今年はそうならないようにということを告げると、ステージにはアーティスト名の電飾が輝く。SEが鳴る中でおなじみのうさぎDJが先にステージに登場してからバンドメンバーに続いて目深に帽子を被って顔は見えない(髪を切ったり剃ったりしたのだろうかというくらいに帽子の下から髪が出ていない)WurtSがステージに登場すると、デジタルサウンドが流れてWurtSが歌い始める「Talking Box」からスタートし、曲中ではうさぎDJに合わせて早くも朝一から満員になっている客席から手拍子が起きる。WurtSがもう幕張メッセのフェスのメインステージに立つようなアーティストになったということを実感せざるを得ない。
するとWurtSもギターを弾きながら歌うのであるが、何よりも新井弘毅(THE KEBABS)のギターサウンドがライブ感をこれ以上ないくらいに感じさせてくれる「ふたり計画」で満員の観客に轟音ギターロックサウンドを浴びせると、そのまま吉岡紘希(ドラム)の性急なリズムによる「僕の個人主義」というWurtSのギターロック曲を畳み掛けていくのであるが、ベースが須田景凪のサポートでもおなじみの雲丹亀卓人(Sawagi)に変わっている。どうやら今年のChilli Beans.の対バン時から参加しているようだが、それによってバンドサウンドの重心がグッと低くなったようなイメージだ。
するとWurtSが満員の観客の多さに驚きながらも、そうして朝早くから来てくれている人への感謝を口にするとハンドマイクになって歌う「BOY MEETS GIRL」ではうさぎDJのトランペットソロ(もちろん音は鳴っていない)も披露されると、観客の期待をさらに煽るようなイントロのカウントによって始まる「SWAM」ではそのうさぎDJが前に出てきて踊るのであるが、その踊りのキレがさらに増しているという、ライブを重ねてきたことによる進化がこんなところにも現れている。
そうして音楽性の幅を広げ続けるWurtSの中でも最高にオシャレなブラスサウンドの「MOONRAKER」では新井もそのサウンドに合わせて踊るように体を動かしており、メンバー全員がWurtSの音楽を本当に好きで愛しているからこそこうしてサポートしているということがわかるのだが、再びWurtSもギターを掻き鳴らしながら歌う「SIREN」ではステージ中央に新井と雲丹亀が集まってWurtSを中心にして音を鳴らす。それはもはやソロプロジェクトという体でありながらも完全にWurtSという一つのロックバンドになっているということを感じさせてくれる。
WurtSのライブがめちゃくちゃテンポが良いのは曲間がほとんどないこと、曲自体がコンパクトな構成であることに加えて、WurtS自身があまり長く喋らないということもあるのだが、この日も最低限のことだけを口にしてから演奏された「ブルーベリーハニー」ではタイトルに合わせてステージに紫色の照明が当たる中でうさぎDJが可愛らしく踊ると、この尺の中では入ってくると思っていなかった「コズミック」で再びこのWurtSバンドのソリッドな轟音ギターロックを鳴らし、リハで演奏していたのでこちらももしかしたら今日はやらないかも…とも思っていた「リトルダンサー」もしっかり演奏してWurtSもマイクのコードをかなり気にしながらもステージを左右に動き回りながら歌い、何よりもうさぎDJが自分こそがリトルダンサーだと言わんばかりに踊りまくっている。その姿が実に微笑ましいのであるが、PEOPLE 1のItoがゲストに出てこなくても完全にこの曲がすでにこうしたフェスのキラーチューンになっている。それがリズムに合わせて飛び跳ねまくる観客の姿からわかる。
そして新井がギターを鳴らし、吉岡がビートを刻む中で最後に演奏されたのはもちろん「分かってないよ」であるのだが、この日のライブは声出しが解禁されているということもあって、WurtSはサビで何回も観客を煽るような仕草をして合唱を求めていた。研究者を自称するだけになかなか実体がわかりにくい存在でもあるのだが、WurtSはただ音楽を研究のために使っているのではなくて、自分が鳴らしている音楽でたくさんの人と繋がろうとしている。
それだけに、CDJの時にも言ったがツアーの東京がリキッドルームの規模なのは、分かってないよ。
1.Taking Box
2.ふたり計画
3.僕の個人主義
4.BOY MEETS GIRL
5.SWAM
6.MOONRAKER
7.SIREN
8.ブルーベリーハニー
9.コズミック
10.リトルダンサー
11.分かってないよ
12:00〜 神はサイコロを振らない [MASSIVE STAGE]
お、こっちのステージか!とタイムテーブルが発表された時に驚いたのがこの、神はサイコロを振らない。先月にORANGE RANGEのトリビュートバンドのアレンジレンジに柳田周作(ボーカル&ギター)がゲストボーカルとして参加したのを見ているが、こうしてバンドとしてのライブを見るのは初めてであるだけに、すでに幕張メッセでメインステージに立つようなバンドになっているんだなぁと実感。
メンバー4人が登場すると、柳田がもう聞き取れないくらいに声を張り上げて気合いを入れると、浮遊感のあるシーケンスのサウンドも取り入れた「巡る巡る」でスタートするのであるが、そうしたサウンドを取り入れながらもあくまでもロックバンドとしてのライブになっているのはバンドキッズ的な出で立ちの吉田喜一(ギター)と桐木岳貢(ベース)がステージ前の台の上に立ってガンガンに演奏しているからであるが、それはまさにロックバンドだからこそ鳴らせる煌めきを奏で、イメージさせてくれる青春ソング「キラキラ」もそうであるのだが、メインステージということで気合いが入りすぎているのか、柳田の歌唱は声がひっくり返りそうになるくらいに前のめりですらある。
その気合いが負けられない戦い的な歌詞とマッチするラウドかつエッジーなサウンドの「1on1」では演奏前に
「今日は声が出せるし、タオルも回せるから、タオル&レスポンスをしましょう!」
と柳田が言うと、ステージ左右のスクリーンにもしっかり「TOWEL AND RESPONSE」という文字が映し出され、タオル回しとともに合唱も行われるのであるが、そんなステージと客席ともにアッパーになる曲の後に再び浮遊感に包まれる「揺らめいて候」が演奏されることによって、サウンドもそこから想起できる情景も次々に目まぐるしく変化していく。
それはこの中盤にTHE FIRST TAKEで披露されてバズったバラード曲「夜永唄」を演奏するというところからもわかるのであるが、ライブでは柳田の歌を前面に押し出しながらも、黒川亮介(ドラム)がデジタルドラムでビートをキープするという形で演奏される。そうしてバンドでありながらもデジタルな形でのサウンドを取り入れているからこそ、こうしてジャンルレスと言っていいくらいにあらゆるタイプの曲を演奏できるバンドであることがわかる。
このMASSIVE STAGEのMASSIVEの意味を「巨大な」という意味であることを説明し、だからこそこのステージに立っていることの喜びを柳田が示すと、淡い照明に照らされながら体を揺らすような、夕暮れの海辺の情景が浮かぶような「LOVE」を演奏するのであるが、「夜永唄」からのこの情景という振れ幅は本当に凄い。フェスでここまでできるバンドは他にいないんじゃないかと思えるくらい。
しかしそれも全てはこのバンドで、このスタンスでロックシーンの頂点まで行きたいというバンドの精神性を感じさせるのは、タイトル通りに静謐に始まったかと思いきや、曲が進むにつれてまさに飛翔するかのようにロックバンドとしてのダイナミズムを増していき、最後には
「I wanna be a rock star」
とギターの残響の中でリフレインする。それはこのバンドがどんな存在になりたいのかということを示していたし、最後に演奏された「タイムファクター」のストレートにメロディを生かすバンドサウンドというアレンジは「夜永唄」がバズってもそれだけのバンドではない、まだまだ他に良い曲をたくさん持っているバンドだということを自分たちの演奏によって示していた。
音源で聴いても確かに現在のロックシーンのサウンドを自分たち1組だけでやってしまうかのような幅広さは感じる。でもライブで見ると当然ながらあらゆる時期の曲が繋がるだけにより一層それを強く感じる。その幅広さはもしかしたら捉え所がないバンドだと思われるかもしれないが、でもこのジャンルレス感こそが、神はサイコロを振らないというバンドらしさであることがわかった初遭遇であった。
1.巡る巡る
2.キラキラ
3.1on1
4.揺らめいて候
5.夜永唄
6.LOVE
7.夜間飛行
8.タイムファクター
13:00〜 KANA-BOON [MASSIVE STAGE]
普段、KANA-BOONはフェスに出演する時にはSEがないこともある。しかしこの日はアゲアゲな感じのSEでメンバーが登場すると、谷口鮪(ボーカル&ギター)のテンションがのっけからめちゃくちゃ高く、出てくるなり観客に呼びかけるようにしてから「フルドライブ」でスタートする。鮪は間奏でもギターソロを弾きまくる古賀隼斗の存在をアピールするような仕草を見せるくらいにテンションが高いのであるが、その高いテンションの鮪を支えるかのように小泉貴裕(ドラム)は軽快でありながらもどっしりとした四つ打ちを鳴らし、遠藤昌巳(ベース)はイントロから古賀とともに手拍子をする。その全てがあまりに熱く、バンドのこのライブへの意気込みの強さを感じさせてくれる。鮪は早くも自身のマイクスタンドをグルっと回して横を見ながら歌ったりと、やはりテンションMAXである。
この日のライブは観客がマスクをしていれば制限なく声を出せるということで、早くも演奏された「ないものねだり」では手拍子とともに、間奏ではついに
「ゆらゆらゆらゆら僕の心」
のフレーズでのコール&レスポンスが返ってくる。実に3年以上ぶり。コロナ禍になってからは手拍子をしたりという形で、声を出さずとも観客とのコミニケーションを図ってきたKANA-BOONの想いがようやく報われる日がやってきたのだ。だからフレーズ自体は決して感動するようなものではないけれど、コロナ禍に見てきたZeppやLINE CUBEなどでのKANA-BOONのライブを思い出してグッときてしまう。そのライブは精神の不調から脱した鮪の復活へのストーリーだったが、この日までそれが続いたことによって、それはKANA-BOONのライブの復活へのストーリーにもなったのだ。
そうして感動しているのに鮪は
「今日は俺の同居人のおっさんの41歳の誕生日だから、みんなでおめでとうを言ってほしい」
と言ってその様をスマホで撮影するのであるが(インタビューでその同居人の存在が明かされた時はビックリしたが、音響の仕事で他の現場へ行っているのでこの日は不在らしい)、それもまた観客が声を出せるようになったからこそであると言えるのだろうか。
そんな鮪は新曲としてシリーズ第三弾となる「サクラノウタ」という曲を生み出したこととともに、
「俺は失恋してばっかりの人生やった。そんな俺がみんなに言えるのは、好きな人には好きだってちゃんと言った方がいいってこと」
と、曲が生み出された背景を口にしてからその曲を演奏するのだが、最初の「さくらのうた」はバンドとして衝動を炸裂させるような曲だった。それから10年経って、当時は少年だったKANA-BOONは大人になった。そのバンドとして、人間としての成長がこの「サクラノウタ」には滲んでいる。それはこの10年でたくさんの別れを経験してきたことによって書けたものだ。メンバーを照らす照明までも桜色なのがこのバンドの愛されっぷりを表している。
「もっと楽しくなれそう?それならおなじみの曲行くぞー!」
と鮪が言ってから演奏された「シルエット」ではそのバンドのテンションや意気込みが炸裂するように鳴らされる。この曲がライブで良くなかったことなんかないのであるが、それでもこうして聴くたびに良い曲だと思うし、NARUTOを全巻読み終わった後のタイミングだとより一層そう思える。
それはNARUTOの続編のBORUTOのテーマソングとして書かれた「きらりらり」もそうであり、BORUTOを読んでキャラクターや設定を理解するとより響くものがあるのは、
「大事にしてたものを持って 大人になれたよ」
と「シルエット」のフレーズを引用した歌詞があるように、ナルトもKANA-BOONも大人になったからである。共に長い物語を一緒に走り続けていて、まだまだ終わることがない。それでも今でも煌めき続けて生きている。
すると鮪は
「好きな人には好きって言った方がいいって言ったけど、それは好きなバンドに対してもそう。ずっと同じバンドを好きではいられないかもしれないし、生活環境が変わって忘れてしまうかもしれない。バンドだって永遠ではないけれど、俺たちは終わらないし、解散することはないから。それは俺たちには情熱があるから。このバンドを続けていきたいっていう、決して消えることのない情熱が」
と、最近居なくなって、もう会えなくなってしまった人たちの顔が浮かんでしまうようなことを言う。確かに、もっと好きって言っておけばよかった。その後悔は尽きることはないけれど、KANA-BOONは今も目の前で音を鳴らしていて、その言葉に絶大な説得力があるのはKANA-BOONが何度も危機や困難を乗り越えてバンドを続けているからだ。それは鮪の言う通りに情熱がないとできないことであるし、その言葉の後に、スクリーンに映像が映ることなく、ただただ肉眼でバンドの姿を見て欲しいと言っているかのようにして演奏された「まっさら」にはその情熱が溢れ出してまくっていた。そこにこの日は我々の声も乗せることができるからこそ、この日の「まっさら」のコーラスは今まで以上に力強かった。それはバンドとともにここにいた人たちのロックバンドに、ライブに対する情熱も重なっていたからだ。
そうして久しぶりの声出しでの「ないものねだり」以上のハイライトを「まっさら」が描き出すと、小泉がバスドラの四つ打ちを鳴らし、そこに同期のキーボードの音が乗る「スターマーカー」。NARUTOとともに「僕のヒーローアカデミア」も今アニメ放送中のところまで見たからこそ、この曲を聴いていて泣きそうになってしまう。この曲はヒロアカの文化祭編のタイアップであるが、その文化祭編は耳郎響香という強敵を倒せるようなヒーローになれないような存在が、ステージに立ってギターを持って歌を歌えばヒーローになれるということを示すような話だからだ。それはKANA-BOONがデビューしてからずっと自分にとってはヒーローのような存在のバンドだからこそそう思うことでもある。間奏での古賀の手拍子も、サビで観客の腕が左右に揺れるのも。
今までと変わらないようでいて、様々な出来事がありながらもそれを乗り越えて10年間メジャーシーンで生き抜いてきたバンドとしての別格のライブの力を実感せざるを得ないような40分間だった。我々もまだまだ乗り越えないといけないことがたくさんあるから、乗り越えてきたKANA-BOONがステージに立っている姿を過去最高に頼もしいと思っている。
1.フルドライブ
2.ないものねだり
3.サクラノウタ
4.シルエット
5.きらりらり
6.まっさら
7.スターマーカー
13:40〜 FOMARE [COSMIC STAGE]
KANA-BOONが終わった直後に始まるというタイムテーブルの都合上、COSMIC STAGEに移動した時にはすでに「これでダイブとかよく起きないな」というくらいに熱狂の1曲目「FROZEN」がすでに始まったところだったのだが、すでに客席はこのステージのキャパでは収まらないくらいの超満員になっているというあたりはさすがすでに大型フェスにもガンガン出ていて、当たり前にZeppクラスでもワンマンや主催ライブをやっている存在であるFOMAREである。自分もタイムテーブルが出た時には「FOMAREがこっちなのか」と思ったくらいにメインでもおかしくないレベルである。
小さいステージなので持ち時間が短いから、クライマックスがすぐにやってくるというのはアマダシンスケ(ボーカル&ベース)が歌い始めた段階で声が出せることによって客席からの合唱が起こった「Lani」の段階でわかるのであるが、カマタリョウガ(ギター)も、セットから立ち上がっているオグラユウタ(ドラム)もその客席の様子をじっと見ている。マスクをしているからまだ口元は見えないけれど、こうして自分たちの曲を思いっきり歌ってくれていることを嬉しく思っていることがその表情からよくわかる。
こうしたフェスなどの短い持ち時間でのライブにおける鉄板曲も固まっているくらいにライブをやりまくって生きているバンドであるが、そんな中にも昨年リリースしたフルアルバム「midori」収録の「80%」が披露され、パンク的なイメージも強いバンドではあるが、アマダの綴る詩世界の言語感覚の独特さにハッとさせられるような曲だ。特にサビの
「80%の愛を120%で追い越し」
というフレーズなどはお互いが同じ分量でいないとすれ違ってしまうということを実感させられる。
そんなアマダは2020年に開催が予定されていたこのフェスに出演するはずだったが、コロナ禍になって中止になっただけにようやくこうして出演することができた喜びを語ると、
「これは仲間の歌、恋人の歌、友達の歌…つまりはここにいるみんなの歌です!」
と言って、タイトルに合わせてステージを照らす照明がオレンジ色に染まる「夕暮れ」へ。その情景が浮かび上がるような歌詞とサウンドは普遍的な日常がどれだけ愛おしくて大切なものであるかということを感じさせてくれる。それは
「夕暮れがきれいだな
死ぬときもこんな感じがいいな」
と、それが終わってしまう可能性もすぐ近くに潜んでいることを歌っているからである。フェスだと朝イチの時間では喉が完全に開いていないこともあるアマダの歌唱もこの日は昼過ぎであるが故に実に伸びやかである。
そしてアマダは
「コロナ禍に作ったこの曲を今日はみんなで歌ってくれ!そして必ずライブハウスに行くと約束してくれ!」
と、声を張り上げてライブハウスへの想いを口にしてから演奏されたのはUSJのCM曲としてFOMAREの存在をお茶の間にも知らしめた、ポップサイドに大きく足を踏み入れた「愛する人」なのであるが、サビではアマダもカマタもマイクから離れて観客に合唱させ、それが超満員であることによって本当に良く響く。アマダはマイクスタンドを低くして、ステージに膝をつくようにして歌ったりしているが、声が出せないコロナ禍に作られたこの曲が、ようやくみんなの声で歌えるようになった。それはライブハウスの苦難などを乗り越えて辿り着いた今になってこの曲が本当の意味で完成したということだ。その光景を見ていたら、当たり前だったこの声がただ愛しかっただけなんだよな、と思わずにはいられなかった。
そんなクライマックスを描いてもまだライブは終わらず、何回だってやり直してみせるというバンドの意思を示すかのような疾走ショートチューン「Continue」が放たれて最後はやはり熱狂を生み出して終わるというあたりが、日夜ライブハウスでそうした光景を作っているこのバンドらしいなとも思ったが、こうしてみんなで合唱できるようになったことによってこのバンドの作ってきた曲たちの名曲っぷりがより浮き彫りになっている。それはこのバンドはここからもっと高く飛べる可能性に溢れているということだ。
1.FROZEN
2.Lani
3.80%
4.君と夜明け
5.夕暮れ
6.愛する人
7.Continue
15:00〜 フレデリック [MASSIVE STAGE]
もうここまでのアクトでだいぶ「観客が声を出せることでライブ自体がこの2〜3年と全く変わる」ということを実感してきているが、サウンドチェックの時点で観客を煽って声を出させるというあたりでフレデリックからも大いにそれを感じさせる。三原健司(ボーカル&ギター)が明らかにそれを求めているのがよくわかる。
本番では「ジャンキー」をミックスしたようなSEでメンバーが登場して、去年の代々木体育館でのライブなど、最後に演奏されることも多くなっていたその「ジャンキー」でスタートするという先制パンチっぷり。三原康司(ベース)のうねりまくる重いベースのリズムには踊らざるを得ないけれど、ハンドマイクを持って歌う健司の歌唱も気合い入りまくり。この日はこれまでに対バンしたりしている仲が良いバンドも多いだけに、負けず嫌いのこのバンドは絶対に負けたくないのであろう。
「40分一本勝負、フレデリックよろしくお願いします!」
と健司が挨拶してギターを持つと、高橋武(ドラム)のビートが疾走感を生み出し、赤頭隆児のギターがタイトル通りにスペイシーな浮遊感を感じさせてくれる「銀河の果てに連れ去って!」とリリースされたばかりの新作EP収録曲が早くも演奏されるのであるが、そこに不慣れ感などを一切感じさせないあたりはツアーなどですでに鳴らしてきて鍛え上げてきたからだろう。近年の曲ではかなりテンポが速いと思える曲なだけにフェスという場での即効性も抜群である。
すると高橋が強烈なドラムを連打して、その周りに集まったメンバーも激しく音を鳴らすというライブならではのアレンジとバンドサウンドの醍醐味を感じさせてくれる「KITAKU BEATS」では康司も赤頭もステージ前まで出てきて演奏し、そのサウンドが実に力強く我々を踊らせてくれるからこそ、帰りたくないというか、ずっとこうしてフレデリックの音楽で遊んでいたいと思わせてくれる。
そんな中で健司が
「知らない新曲でも踊れますか!?」
と観客に問いかけるのであるが、それはすでに「銀河の果てに連れ去って!」で実証しているとはいえ、続く新作収録曲の「虜」は赤頭の鳴らすギターがまるでシンセのようなサウンドを発するダンスチューンという実にフレデリックらしい曲であるのだが、再びハンドマイクになった健司によるサビの
「はなれられないの」
というフレーズはどうしても頭からはなれないし、癖になってしまうというあたりは我々がフレデリックの音楽の虜になってしまっていて離れられないということである。
するとバンドの鳴らすキメの一打、一音が実に力強い、健司がそのままハンドマイクでステージを左右に歩き回りながら歌う「Wake Me Up」は結果的に見たらこのセトリの中によく入ってるなと思う曲になっているが、健司は客席後方で誘導のために警棒を振っているスタッフの姿を
「スタッフも棒を振って踊ってるのかな?」
と笑わせながらも、
「フェスは知ってるアーティストを見るのもいいし、知らないアーティストを見てみるのもいい。知ってるアーティストの知らない新曲を聴いてみるのはもっといいんじゃないかと思う」
と、自由であるけれど音楽が大好きで貪欲な自身の楽しみ方を口にすると、ボートレースのCMソングとしてテレビで流れまくっている、フレデリックど真ん中のダンスチューン「スパークルダンサー」が演奏され、ステージからは無数のレーザー光線がワンマンライブかのように客席側に放たれていくのであるが、赤頭がジャンプしてそのレーザーを掴もうとしている姿には思わず笑ってしまう。
そして最後に高橋と康司が駆け抜けるようなライブならではのイントロのリズムを鳴らすと、赤頭がかすかに鳴らすギターの音で何の曲だかわかってしまうのは、
「ツタロック!この曲はみんな知ってるやろ!」
と健司が自信満々に叫んで演奏された「オドループ」であり、幕張メッセ中に手拍子のみの音も響き渡るのであるが、9年前の曲を最新の新曲たらしめているのは、アウトロでの超高速かつ激しいセッション的な演奏。ただ新曲を次々に生み出しているだけではなくて、代表曲もその新曲たちに負けないように日々進化を遂げている。それはバンド自身の技術や経験が進化をしていないとできないものであるだけに、改めてフレデリックというバンドの凄さを実感する。もう来週に迫ったNHKホールでのワンマンが否が応でも楽しみになってくる。そこで間違いなく、この日ですら「最高」と思った我々の記憶を鮮やかに更新してくれるはずだ。
自分は好きなバンド、アーティストがたくさんいる。だからフェスに来ると見たいアクトばかりで忙しい。でもフェスでのフレデリックのライブや健司の言葉は、そうして好きなバンドやアーティストがたくさんいる自分のような音楽好きな奴のことを肯定してくれているかのような感覚になる。もちろんワンマンで見るのが1番楽しいけれど、そんな感覚を与えてくれるからフェスでフレデリックを見るのはやめられないのである。
リハ.リリリピート
リハ.YONA YONA DANCE
1.ジャンキー
2.銀河の果てに連れ去って!
3.KITAKU BEATS
4.虜
5.Wake Me Up
6.スパークルダンサー
7.オドループ
16:00〜 go!go!vanillas [MASSIVE STAGE]
サウンドチェックでの「マジック」を始めたと思ったらすぐにやり直して笑わせてくれる、go!go!vanillas。牧達弥(ボーカル&ギター)も口にしていたように、絶賛ツアー中でのこのフェス出演であるが、そのサウンドチェックの段階からサポートキーボードが加わっているというのは昨年末にアルバム「FLOWERS」をリリースしてのライブでの変革が起きていることを感じさせてくれる。
しかしながら本番でメンバーが登場するとサポートキーボードはまだ参加せずにメンバー4人だけ、しかも1番キーボードが入りそうな最新アルバム「FLOWERS」収録の「HIGHER」で不在ということに少し驚いてしまうのであるが、ゴスペル的にメンバー全員の声が重なっていくというのは全員がボーカルを取れるバニラズだからこそできる曲だと言える。音源で聴いた時のイメージよりもサウンドから「ロック」な感覚を感じるのはさすがバニラズであり、ツアーを回って鍛え上げてきた成果が音になって出ている。
するとサポートキーボードも加わって演奏された「平成ペイン」ではジェットセイヤ(ドラム)が「オイ!オイ!」と煽りまくって観客も飛び跳ねる中、サビではおなじみの振り付けが広がっていく。こうしたフェスでそうしたバニラズ特有の楽しみ方をしている人がたくさんいると、本当にこのフェスのメインステージという規模に相応しいバンドになったんだなと思う。
「最後まで楽しんでいこうぜー!」
と牧が叫ぶと、そのキャッチーなメロディと間奏での牧、柳沢進太郎(ギター)、長谷川プリティ敬祐(ベース)がリズムに合わせてステップを踏む姿が言葉通りに我々を楽しくさせてくれる「お子さまプレート」と、「平成ペイン」もそうであったが観客が声を出せることによってその楽しさがさらに引き上がっていることがわかる。だからか柳沢も、髪色が赤くなったプリティも表情もアクションも実にテンションが高い。
牧がこうしてツアー中であるにもかかわらずこのフェスに出演できたことの喜びを語ると、春らしい青春の情景をハンドマイクで歌い上げるのは「青いの。」であり、キーボードが最も必要とされる曲でもある。歌い出しではプリティの姿に合わせて観客も裏拍の手拍子をするのであるが、青とピンクが入り混じる照明が実に似合うのも、今でも制服を着ていても違和感がないであろうくらいに若々しいこのメンバーたちだからである。
すると柳沢が今までよりも激しくギターを唸らせたりカッティングしたりする後ろでセイヤはスティックを放り投げている中、その柳沢によるテンションの高い手拍子の煽りから突入した「カウンターアクション」で一気にロックンロールに振り切れると、曲中では牧と柳沢が一本のマイクで2人で歌うというあまりに美しくカッコ良すぎるパフォーマンスも。しっかりそこを撮影していてライブ後に公開したスタッフもまた見事である。
今度は逆サイドのプリティが曲に入る前に腕で「EMA」という文字を作って始まる「エマ」もそれが完全に浸透してるなと思ったのは、ライブでおなじみのサビで腕を交互に上げるというノリ方をたくさんの観客がやっていたからで、バニラズのライブを見たことがある、普段から見に行っている人がこんなに多くなったんだなと実感せざるを得ない。
そうして「HIGHER」から始まった時点ではもっと「FLOWERS」に寄った内容になるかなと思ったのであるが、結果的には王道的な曲が並び、そこにキーボードが加わるというのは意外でもあったのだが、最後に演奏された「LIFE IS BEAUTIFUL」は牧の歌唱力、メンバーのコーラス力(特に曲後半のツインボーカル的になる柳沢)とキーボードのサウンド、こうしたアイリッシュ的なトラッドミュージックがルーツにあるバンドだからこそ、こうして演奏されているのを聴いていると我々の人生そのものを肯定してもらっている気になるし、そうして「人生は美しい」と思えるのはこのバンドのライブをこうして見れているからでもある。週末にはそれをホールワンマンで味わえるというのも本当に楽しみだし、そこでは「FLOWERS」の世界に浸らせてくれるはず。最後に牧がピックなんかを客席に投げ入れる際に声が上がったりするのも、声を出せるようになったからなんだよなとも思う。
リハ.マジック
リハ.one shot kill
1.HIGHER
2.平成ペイン
3.お子さまプレート
4.青いの。
5.カウンターアクション
6.エマ
7.LIFE IS BEAUTIFUL
17:00〜 Saucy Dog [MASSIVE STAGE]
せとゆいか(ドラム)のジストニア的な症状の発症によって、ツアーを途中から1ヶ月半ほどストップしていた、Saucy Dog。しかしこのフェスの2日前の神奈川からツアーを再開し、こうしてこのフェスにも2年連続での出演。今や紅白アーティストでもあるだけに、動員数ならトップクラスと言っていいくらいの超満員っぷりである。
おなじみのSEでメンバーが1人ずつステージに現れると、金髪混じりのパーマになった石原慎也(ボーカル&ギター)がギターを鳴らして歌い始めたのはなんといきなりの「シンデレラボーイ」であり、これには始まった瞬間に歓声が上がるのであるが、休養があった中でも自身の歌唱をさらに研ぎ澄ませていたのは間違いないと思うくらいに、元から歌も上手いし声量もあったボーカリストだったが、さらに聴き手の心の中に刺さってくるかのような凄みをその声が獲得している。それは上手く歌うというのはもちろんであるが、より感情を強く声に乗せることができるようになったというべきだろうか。だからライブで何回も聴いている曲であっても体も心も今まで以上に震えるような感覚になったのだ。
「ツタロック、盛り上がっていこう!」
と石原が観客に呼びかけて始まった「雀ノ欠伸」では秋澤和貴(ベース)がステージ前に置かれた台の上に立って演奏するという、ホールを回るツアーで新たに見せ方を考えて導入したパフォーマンスも見れるのであるが、やはり秋澤の表情はそれでも全く変わらないのが面白いし、歌詞に合わせてステージはオレンジの照明に照らされ、せとのドラムを叩きながらの流麗なコーラスも全くブランクを感じさせることはない。休んでいた期間も短いけれど、体に染み付いているところもあるのだろう。
すると石原が
「大事な曲を」
と言ってステージを足でドンドンと鳴らして始まったのはもちろん「いつか」であり、その歌唱もやはりさらに感情が強く乗っているのであるが、前半でこうしてこれまでの最大のキラーチューンであり代表曲を連発するというのを見て、サウシーのライブが石原のボーカルとともに明らかに変わったなと思った。
せとが復活したことを自身の口で観客に告げ、休止を発表した時にたくさんの温かい言葉を貰ったことに感謝を示すと、そのせとのドラムがさらに力強くなり、石原のギターの歪みも含めてこのバンドのロックバンドっぷりを感じさせる「メトロノウム」を演奏すると石原は、
「みんなが歌えるって本当にアーティストにとって嬉しいことなんですよ。だからずっと歌って欲しかった曲を歌ってもらっていいですか!」
と言って演奏された「優しさに溢れた世界で」ではスクリーンに映るメンバーの姿とともに歌詞が映し出される。それによって観客もその歌詞を見ながら歌えるのであるが、あれだけ素晴らしい歌唱を見せてくれていた石原がマイクから離れて観客の歌声を求めていて、それがこんなにも大きいものになっていることに感動してしまっていた。その光景を見ていたら、せめてこのライブ会場やその周りだけは
「それとひとつだけお願い
僕ら大袈裟な事じゃなくて
もっと優しさに溢れた世界で
笑ってたいと思ってるだけ」
という歌詞の通りの世界であって欲しいと思った。
そして石原は
「休止って言っても1ヶ月くらいだったけど、いろんな人から応援してもらえて。良いことばかり言ってもらったわけじゃないけど(笑)でも俺たちはこれから50年でも60年でもバンドを続けていきたいと思ってるから!みんなも生きてその時まで追いかけて欲しいと思ってます!
ここにいる人だけは、優しくてカッコいい怪物になろうぜ!」
と言って「怪物たちよ」を演奏する。「シンデレラボーイ」の大ヒットによってラブソングのイメージが強くなったかもしれないこのバンドのイメージを覆すような、強いメッセージを含んだこの曲を聴いていると、去年のこのフェスでこのバンドがサウンドチェックをしているのを撮影していた人がたくさんいて、運営が注意のアナウンスを流すということになったことを思い出した。あれ以降、春フェスや夏フェスなどいろんなところでサウシーのライブが撮影されて、それに伴ってメンバーが苦言を呈したり、SNSも荒れて…ということがあった。そうした経験もきっとこの曲には含まれていると思うが、そんな曲を石原は晴れやかな表情で、伸びやかなボーカルで歌っているのを見て、なんだか乗り越えたような感じがした。
それは高校サッカーのテーマとして作られた新たなアンセム「現在を生きるのだ。」もそうであるが、とにかくこうしてライブをやれていることが楽しくて、嬉しくて仕方がないという感情が石原の表情や歌声から溢れ出ていた。ここまで巨大な存在になったからこそ、いろんな人がライブに来るようになる。そこにはルールやマナーを全く知らない人もたくさんいるからこそ、諍いが発生したりする。でもそれを今のサウシーはポジティブなエネルギーで吹き飛ばそうとしているようだった。それは1ヶ月半の休止すらも後に振り返った時にはポジティブなこととして捉えられるようになるのかもしれないというくらいに。それくらいに今のこのバンドの強さ、タフさを感じられたライブだった。
1.シンデレラボーイ
2.雀ノ欠伸
3.いつか
4.メトロノウム
5.優しさに溢れた世界で
6.怪物たちよ
7.現在を生きるのだ。
18:00〜 04 Limited Sazabys [MASSIVE STAGE]
いや、この曲サウンドチェックでやるんかい、と思ってしまうような名曲をも惜しげもなく本番前に演奏してしまう、フォーリミ。主催フェスのYON FESも迫ってきている中であるが、今年もこうして春フェスにも精力的に出演するというあたりはさすが2022年のフェス出演数1位アーティストである。
おなじみのSEでメンバーが登場すると、この日は白いパーカーを着たGEN(ボーカル&ベース)が息を吸い込むようにして歌い始めた瞬間にKOUHEIのドラムを軸にしたパンクビートが響き渡る「Keep going」からスタートするのであるが、こうしていろんなバンドやアーティストを見てきた後にフォーリミの力強いパンクサウンドを聴くと、やっぱりこれだよな!と体が言っているような感覚になる。もうフェスも後半に差し掛かって疲れも感じがちなタイミングであるが、それでもさらに我を前に前に進ませてくれる。GENのハイトーン歌唱も絶好調である。
セッション的なバンドの演奏から突入した「Kitchen」では歌詞とリズムに合わせた手拍子もバッチリ決めた観客が踊りまくり、その歌詞もさることながら今この瞬間にこのサウンドを浴びているという実感がまさに、どこでもない今ここを感じさせてくれる「Now here, No where」とパンクバンドらしくテンポ良く次々に曲を連発していくと、
「今日は夜空に星がよく見えそうなんで、流星群を持ってまいりました!」
とGENが口にして突入した「midnight cruising」では曲中にRYU-TA(ギター)がカメラに向かって両腕で「T」の形を作る姿がアップで映し出されたりするのであるが、それもまたTポイントが協賛のこのフェスだからこそのものである。この曲での煌めく照明の演出の美しさの記憶が消し飛ぶくらいにRYU-TAのその姿の印象が強く残っている。
実際にフォーリミは自分たちがデザインされたTカードも作られたことがある(使ってないけど自分も持っている)のであるが、GENは最寄りのコンビニがファミリーマートであるために買い物をするたびにTポイントを貯めているのだが、HIROKAZ(ギター)はさすがに自分たちデザインのカードは恥ずかしくて使えず、RYU-TAも最初は使っていたけれど今はもう使っていないという。
そんなこのフェスだからこそのTポイントやTカードトークの緩さとは対照的に強く激しいパンクビートが鳴り響く「Every」と、昨年リリースのアルバム「Harvest」の内容がそうであったように、その強さと激しさはアルバムを、活動を重ねるたびにさらに増しているような感すらある。
それはGENがイントロで思いっきり振りかぶるようにしてから演奏された「monolith」もそうであるが、これだけ激しい曲でも決してルールを破ることなくダイブなどをしないで楽しんでいる人しかいないというあたりはフォーリミがコロナ禍になってから、守りたいものを守るために活動してきたのをファンもみんな見てきたからであろうし、KOUHEIが立ち上がって中指を立て、HIROKAZが「オイ!オイ!」と煽りながらレーザー光線が飛び交う「fiction」もこうしたアリーナクラスでもライブを重ねてきたフォーリミだからこその曲であり光景である。
そんな定番曲たちに繋がるのが「Harvest」収録の「Finder」であり、こうして連続して演奏されることによって、「fiction」を今のフォーリミでさらにハードな音像にして生まれた曲という印象を受ける。ツアーを細かく回って演奏しまくってきたことによって、自分が参加した千葉LOOKでの初日よりもはるかにこのキャパで演奏されるに相応しいスケールを獲得している。
するとGENはパーカーを脱いでTシャツのみになりながら、
「この音のWBCでホームランを打ちたいと思います」
と上手く時事ネタを取り入れながら、この時期ならではの「出会いと別れ」について
「望んでもいないのに勝手にやってきてしまう」
と口にしながら、それでも別れた人と再会する未来が来るように願いを込めるように「Terminal」を演奏するのだが、この幕張メッセで聴くと「YON EXPRESS」でのこの会場のワンマンというコロナ禍真っ只中に全席指定で開催されたライブのことや、その前にコロナ禍になって初めて開催された名古屋のアリーナでのワンマンのことを思い出してしまうのは、
「最高な世界になったらきっと愛せるんじゃないか」
という、あの時に願いを込めるようにして聴いていたフレーズ通りの世界にまた戻りつつあることを実感できているからだ。そう思えるくらいに、コロナ禍になってもフォーリミのライブに行き続けてきて良かったと思う。この曲を今までよりももっと好きになることができたから。
そして最後には、最近のフェスなどでは演奏されないことも増えてきていた「Squall」が、
「自分自身に生まれ変われ!」
というおなじみの前フリとともに放たれる。GENのボーカルはファルセット部分まで含めて一点の曇りもないのはまさに雨上がりの空のようであるが、こうして最後にこの曲を聴くと本当にKOUHEIのビートは力強いと思うし、それと同時にコーラスまでしているのは本当に凄い。衝動と客観性を兼ね備えたこのドラムを今年もYON FESで存分に浴びれたらと心から思う。
そうしてきっちり締めたかと思ったら、
「まだ少し時間残ってるんで、未来からの、メッセージ!」
と言ってショートパンクチューン「message」を追加した。「Remember」もそうであるが、こうした曲があって、それをこうしたフェスで時間をフルに使うために急遽演奏するというのは、曲を1曲でも多く演奏するのが最大のファンサービスだということをわかっているからであり、パンクバンドであるフォーリミとしてのフェスでの戦い方だ。そのフェスを自分たちで作ったYON FESまで、あと3週間。自分の中では春の中で最も楽しみなフェスの一つになっている。
リハ.My HERO
リハ.swim
リハ.Honey
1.Keep going
2.Kitchen
3.Now here, No where
4.midnight cruising
5.Every
6.monolith
7.fiction
8.Finder
9.Terminal
10.Squall
11.message
19:00〜 ハルカミライ [MASSIVE STAGE]
3日前に横浜F.A.Dで見て以来のハルカミライ。1週間のうちにキャパが100倍くらい違う会場でライブをするというのもライブをやり続けて生きているハルカミライだからこそである。
おなじみの関大地(ギター)、小松謙太(ドラム)、須藤俊(ベース)がセッティングが終わったステージに出てきて、この時間すらもギリギリまで目一杯に使うようにして「ファイト!!」のテンポを上げて演奏すると、橋本学(ボーカル)が巨大なフラッグを持ってステージに現れ、観客が声を出せるということで「君にしか」から幕張メッセでの大合唱を巻き起こす。ホールの場所は違うとはいえ、幕張メッセでハルカミライが合唱を巻き起こすのは2019年末のワンマン「A CRATER」以来だろうか、なんてことを思ったりするくらいに、もう数多くハルカミライのライブを見てきた場所になったんだよなと思う。
そのまま「カントリーロード」へ…という鉄板の流れであるのだが、普段は橋本が何かしら言葉を放つ間奏部分で関のギターが明らかにチューニングが合っておらず、チューニングをしてから間奏部分を演奏しなおすということになってしまう。しかしそれがミスだとか、そういうネガティブなものにはならずに、むしろ笑えるような展開になるのはハルカミライならではのライブの空気である。そう持っていけるパワーを持っているというか。それは赤い髪色にフェイスペイントという橋本が
「こんなナリしてますけど、水曜日のカンパネラが大好きです!」
と言って会場を和ませたからでもあるのだが、その後にやはり挟まれた「ファイト!!」でも大合唱を巻き起こすと、
「ツービートは好きですか!」
と橋本が問いかけた「俺達が呼んでいる」では関が自身のアンプをぶっ倒してしまうという一幕もあり、何やらトラブル続きの中でそのままショートチューン「フルアイビール」に間髪入れずに繋がっていくのだが、
須藤「なんかさー、固くない?俺たちが固くなってる」
とバンドの状態を察知した須藤の鶴の一声によって、小松によるトライバルなリズムの「フュージョン」から駆け抜けるようなツービートに合わせて橋本が歌う
「この指止まれ止まれ」
のフレーズに合わせて観客が拳ではなくて人差し指を掲げながら大合唱する「エース」へと繋がっていくことによって、いつものハルカミライらしさを取り戻していく。ひたすらに曲を演奏していくことでそうなっていくというのも実にハルカミライらしいものである。
「田舎育ちの人?田舎ってさ、イオン行くかTSUTAYA行くしかやることなかったよな!5枚で1000円でどれだけアルバム借りたことか」
とTSUTAYAへの思い入れを口にした橋本が高らかにタイトルコールをした「春のテーマ」はF.A.Dの時には意外と演奏されていなかっただけに嬉しい選曲であり、やはりこの曲をライブで聴いているとこここそが世界の真ん中だと思える。自分たちがそこに立っているのだと。ステージ前で橋本、関、須藤が固まって音を鳴らし、途中からはフラッグを振る橋本の姿によりそう思わされる。
すると
「曲変えたり増やしたりしてるからこのままいくと時間オーバーする(笑)」
と言ってやはり須藤がタイトルコールした「To Bring BACK MEMORIES」へと曲が差し替えられて演奏されると、そのままとびきりロマンチックな「Predawn」へとつながり、橋本の歌声は爆音のバンドサウンドに負けないくらいにこの巨大な規模の会場にまでしっかりと響き渡る。もちろんコーラスパートではそこに重なっていく観客の歌声も。久しぶりにこの規模で体感するハルカミライのライブの合唱は、こんなにたくさんハルカミライの曲を歌える人がたくさんいるんだということを実感させてくれる。
すると橋本は
「俺の姉ちゃんがTSUTAYAで店員さんやってたんだ。そしたらその店にハルカミライのコーナーを作ってくれた。本当に嬉しかった」
というエピソードを口にする。もしかしたら、初めてだったかもしれない店でのバンドの大展開。自分自身、昔よりもTSUTAYAに行かなくなった。というかTSUTAYAの店舗自体がなくなりつつある。毎週行っていた実家の近くのTSUTAYAももうない。それでも橋本のこの言葉からは、そうしてTSUTAYAが展開してくれていたおかげで知れたバンドがたくさんいたこと、橋本の姉のようにそこには「人気だから」とかではなく、その音楽を愛している人が本気で作ったものであったことを思い出す。TSUTAYAで借りたり買ったりしたCDには決してというか全然有名じゃないインディーズバンドのものもたくさんあったから。
そうしたエピソードの後に放たれた「アストロビスタ」で橋本は
「音楽の聴き方は変わっても、ライブは変わることはないぜー!全てのロックフェスに拍手!」
と叫んで讃える。それはこうしたフェスが
「こんなに楽しいことはないよ」
と言っていた、バンドの活動を支えているものの一つであるから。いつものように「宇宙飛行士」のフレーズに変えて歌っている時には目から涙が出てきてしまっていた。このTSUTAYAのフェスでしか聴けない「アストロビスタ」を自分が聴くことができていたから。
そんなクライマックスと言ってもいい曲の後で、小松をドラムセットからステージ前に呼んで4人で歌い始めると、橋本はさらにサビをほぼ丸々アカペラで歌うというアレンジにしてから「世界を終わらせて」を演奏する。スクリーンに映る観客がみんな拳を挙げて飛び跳ねまくっている。その光景を見ていると本当に幸せな場所にいることができていると思える。
そしてこちらもF.A.Dではやっていなかった「PEAK'D YELLOW」がやはり大合唱を巻き起こすと、
須藤「本当は今の曲で終わりだったんだけど、後残り6分もある(笑)」
橋本「初めてのフェスかよ!(笑)」
ということで追加されたのは「星世界航行曲」だったのだが、これはきっと本来は本編でやる予定だったのを入れ替えた曲だっただけにこの残り時間で演奏されたのだろう。橋本のファルセットも実に伸びやかであり、この幕張メッセのステージに立つべきバンドのボーカリストであることを感じさせると、さらに意外にもここまでやっていなかったショートチューンの「Tough to be a Hugh」を追加してさらなる大合唱と熱狂を巻き起こすのであるが、それでも
「まだ20秒ある!いける!」
と言ってさらに「To Bring BACK MEMORIES」を追加した。こんなライブはハルカミライにしかできない。だからどんな場所、どんな持ち時間のライブであっても見逃せないし、この日の橋本のMCでのTSUTAYAの思い出を共有できる、共感できるような世代や人生で本当に良かったなと思った。これからもこのフェスが続く限りは出演し続けて欲しい。必ず見に来るから。
リハ.ファイト!!
リハ.フュージョン
リハ.結構速めのファイト!!
1.君にしか
2.カントリーロード
3.ファイト!!
4.俺達が呼んでいる
5.フルアイビール
6.フュージョン
7.エース
8.春のテーマ
9.To Bring BACK MEMORIES
10.Predawn
11.アストロビスタ
12.世界を終わらせて
13.PEAK'D YELLOW
14.星世界航行曲
15.Tough to be a Hugh
16.To Bring BACK MEMORIES
20:00〜 [Alexandros] [MASSIVE STAGE]
そしてこの日のトリは[Alexandros]。フェスでもトリを務めて当たり前の存在ではあるのだが、この日が少しいつもと違うのは、サウンドチェックをしないバンドであるにもかかわらず、川上洋平(ボーカル&ギター)が本番前にステージに登場して、
「幕張!おとなしすぎるんじゃないのか![Alexandros]が出てくるのにそんなに大人しくていいのか!」
と煽って会場の歓声を煽っていたこと。ここまでに出演したバンドたちのライブで大合唱が起きているのを見て、いてもたってもいられなくなっているという感が溢れ出ている。
なので本番もスクリーンにはバンドロゴが映し出されるというトリならではの演出もある中で「Milk」のSEでメンバーがステージに登場すると、リアド(ドラム)がビートを刻み始め、磯部寛之(ベース)がステージ前に出てベースを鳴らし、白井眞輝(ギター)は客席に向かって耳を当てるような仕草をする。川上がイントロからマイクを客席に向けて始まった「Dracula La」からして、もう歌ってもらいたくて仕方がないんだなと思った。その観客の声を求めているというのは、久しぶりの声出し解禁ライブとなった昨年12月の代々木体育館でのワンマンを見てもわかっていたが、その観客の合唱がバンドに力を与えているということが見ていて本当によくわかる。
だからこそ川上が飛び跳ねるようにしてギターを弾きまくる「Baby's Alright」もいつも以上にソリッドかつ前のめりな感じを受けたのだし、リアドが強靭なビートを鳴らす中で川上がアコギに持ち替えて掻き鳴らすと磯部も白井もイントロから観客の「オイ!オイ!」という声を煽りまくる「Waitress, Waitress!」と、完全にこの日のセトリは観客を歌わせに、叫ばせに来ているということがすぐにわかる。
「今日は最高の夜になります!」
と、早くも汗を飛び散らせながら川上が口にすると、スクリーンには都会の夜景のアニメーションが映し出され、なんと実に久しぶりの「LAST MINUTE」がここで演奏される。決して全員で合唱するようなタイプの曲ではないけれど、高まったメンバーのテンションによる演奏とハンドマイクで歩き回りながらの川上による歌唱が、じわじわと熱を帯びていくグルーヴ、アンサンブルをさらに熱く感じさせてくれる。クールな曲というイメージが強いけれど、この日はまた違う一面を見せてくれたというのはやはり状況が変わった後のライブだからだろう。
するとイントロから大歓声が湧き上がった「Starrrrrrr」でももちろんコーラス、サビで大合唱となるのだが、それだけではなくて間奏では白井がギターソロを掻き鳴らすとバンドの演奏がピタッと止まってギターの音だけになる瞬間も。そうして定番の曲、代表曲にも新たな表情をつけてみせるというあたりが、これまでもあらゆる曲をライブでアレンジしては我々を驚かせてきたこのバンドだからこそである。フェスでサラッとこういうことをやってしまうあたりが本当にカッコいい。
そしてやはりドロスのライブでの合唱と言ったらこの曲であろう「Adventure」ではイントロから大合唱が起きて曲が始まったと思ったら、川上が演奏をストップさせる。何かしらトラブルがあったのかと思っていたら、
「もっと声出せんだろー!」
とさらなる声出しを煽るものだった。そうしてスクリーンに歌詞が映し出され、客席にマイクスタンドごとマイクを向ける川上の姿を見て、ああ、こうだった。フェスでトリをやるときのドロスのコロナ禍になる前のライブはこんな感じだったと、間違いなく戻ってきたような感覚を実感させてくれる。歌詞に「幕張」と入れるおなじみのアレンジも含めて、そうして煽るからこそ、「Adventure」ではこんなにも聴こえるものなのか、と思ってしまうくらいの大合唱が響き渡った。その合唱の大きさも忘れてしまいかけていた。そうやってここにいる全員を巻き込んでいけるのもまた[Alexandros]のライブだったのだ。
そんな最高の時間は最高すぎるがゆえにあっという間に終わってしまう。
「最高です、ツタロック!」
と川上が言ってジャケットを脱いでタンクトップ姿になってから最後に演奏されたのは、コロナ禍になってからリリースされたことによって、みんなで歌うためのコーラスフレーズでも長らく声が響くことがなかった「閃光」。ワンマンでは体感していたが、初めてのフェスでのこの曲のコーラス部分での遠慮なしでの大合唱は、この曲は間違いなくこうして我々がメンバーと一緒に歌うために作られたということを知らしめてくれるかのようだった。なんでドロスがこうしてフェスでトリを任されているのか。それは観客から発せられた力を自分たちのものにして何倍にもして目の前にいる人に返すことができるからだ。それを思い知らされた。川上は最後に
「これからもっと良い時代になるぜ!」
と言ったが、その言葉を信じざるを得ないくらいに、本当に素晴らしいライブと時間だった。
しかしやはりまだやりたりない!とばかりにメンバーはすぐさまアンコールでステージに登場。白井の煌めくようなギターが鳴らされて川上もステージ上で飛び跳ねまくりながら歌い始めたのはやはり「ワタリドリ」。川上の歌唱のまさに羽ばたきまくっているかのような素晴らしさ。そこには今この瞬間の川上の心境がそのまま反映されていた。川上だからこそ歌えるかのようなサビのファルセットでも遠慮なくマイクを客席に向けてくると、そんな超ハイトーンなフレーズでも合唱が起こる。ドロスのライブでの合唱でなら、普段は出ないような声域でもどこまでも出せるような気がする。そんな力をくれる。バンドが我々から貰っている力も間違いなくあるし、我々がバンドから貰っている力も間違いなくある。それを確かめさせてくれたような、久しぶりの合唱ができるドロスのフェスでのトリだった。
ドロスはコロナ禍になってからでもすぐに有観客ライブに踏み切り、ずっとライブを続けてはその都度、
「近い将来、できれば次に会える時には皆さんの声が聞けますように」
と言い続けてきた。それを見てきたからこそ、バンドが我々の声を求めているのはわかっていたけれど、それが本っ当に、1ミリの嘘もなく心の底から思い続けてきたことであるということがこれ以上ないくらいに伝わってきたのは、フェスでは実に珍しく最後にリアドがマイクを使って観客に感謝を告げ、それだけではなく再び全員でステージに戻ってきて客席を背景に写真撮影までもしたからだ。そんな普段はやらないようなことすらもやってしまいたくなるくらいに、我々の声はこんなにカッコいいバンドに必要とされている。我々観客、ファンがいてこそこんなに素晴らしいライブになる。忘れかけていたそんなことをまた思い知らせてくれたのが、本当に嬉しくて仕方がなかった。また忘れられない[Alexandros]のライブが一つ増えたのだった。
1.Dracula La
2.Baby's Alright
3.Waitress, Waitress!
4.LAST MINUTE
5.Starrrrrrr
6.Adventure
7.閃光
encore
8.ワタリドリ
20:45〜 bokula. (Closing Act) [COSMIC STAGE]
コロナ禍になる前の開催ではピエール中野がDJで務めたりしていたクロージングアクトも復活。今年リリースしたアルバム「FUSION」が素晴らしかった広島の若手4人組バンド、bokula.が今年のこのフェスの最後の時間を担う。
もうSEがELLEGARDEN「The Autumn Song」というだけで良いバンドであることがわかるのだが、ライブを見るのは初めてであるだけに音源を聴いていたよりもはるかにメンバーの出で立ちがパンクであることに驚いていると、「FUSION」の1曲目に入っている
「信じ抜くだけがロックじゃない
見せかけの拳はいらない」
という歌詞が真っ直ぐに響くギターロック「2001」からスタートし、タイトル的にもサウンド的にもKANA-BOONの影響を感じさせるような「ハグルマ」に繋がるというのはアルバムの曲順通りの流れであるが、この2曲を観ただけでもライブハウスでライブをやりまくって生きてきて、そこでの熱量や煌めきをそのまま音源にしているからこそアルバムが良い物になっているのだとわかる。もちろんそれは、えい(ボーカル&ギター)のメロディメーカーとしての資質あってこそのものであるが、その楽曲を最大限に輝かせることができるメンバーの演奏も上手いだけではなくて動きからもロックバンドとしての衝動がこもっている。
こうして最後まで残ってくれている観客に感謝しながらも、バンド自身も朝イチから会場に入って出演者たちのライブを見まくっていたというあたりに音楽が、バンドが好きでたまらないからこうして自分たちもバンドをやっているということがわかるし、それが衝動に繋がっているところもあると思うのであるが、えいが合言葉と口にしてから演奏された「愛してやまない一生を」ではクロージングアクトの枠とは思えないくらいに拳が上がって合唱が起きる。それはすでにこの曲や次の21歳の若者としての蒼さや葛藤が滲む「何者にもなれるな」もそうなのだが、ライブハウスで鳴らしまくってきたことによってすでにその曲たちがバンドにとってのアンセムになっているということがわかる。そんな今の自分たちの持ち得る最強のものを、自分たちの持っている力の全てを放出するかのようにして鳴らしている。金髪と黒髪の混ざった髪色のかじ(ギター)はガンガン前に出てきて時にはキラーフレーズを、時には爆音を鳴らし、見た目がやんちゃそうなさとぴー(ベース)もその見た目通りにステージ端まで動き回りながらベースを弾く。そんなメンバーたちを支えるかのような、見た目も1番普通なふじいしゅんすけさん(ドラム)のリズムは手数も多いし正確無比。良いバンドはドラムがしっかりしているという川上洋平の言葉を借りるならば、間違いなく良いバンドだ。(かじは[Alexandros]のファンらしい。確かにギターは白井と同じ物である)
そんな熱演によって帰ろうとしていた人も遠くで足を止めたりしてライブを見ており、えいもその人たちへも感謝を告げると、広島の田舎のライブハウス出身のバンドとしてのライブハウスへの想いを、この日ならではの「幕張メッセ」などを入れた歌詞に変えて歌う「この場所で.」あたりからはバンドのイメージが変わってきていた。鳴らしている音も姿も、ストレートなギターロックというよりはパンクだなと思った。
それはきっとバンドとしての精神性がそのままステージに表出しているとも思うのだが、最後の爆裂ショートチューン「満月じゃん。」ではさとぴーが上半身裸になり、えいもシャツをはだけさせながら、ほぼ上半身裸になっている。その姿を見て自分はサウンドは全く違えど、the HIATUSの細美武士とmasasucksを思い出した。それは脱ぐことが目的なんじゃなくて、あまりにも暑く熱くなってしまうから脱いでしまうという意味で。それくらいに熱かったからこそ、次はライブハウスでも再会したいと思った。
クロージングアクトとなるとさすがにアンコールはないよなぁと思っていたのだが、観客は手拍子を鳴らしている。するとメンバーも
「やっていいんですか!?」
と驚きながら、やはりパンクさしか感じないような、タイトル通りの高速ショートチューンの「一瞬」をまさに一瞬で鳴らし、
「最後まで本当にありがとう!気をつけて帰って!」
と言って次々にピックなどを客席に投げ込んだ。
ハルカミライ→[Alexandros]というライブの化け物であり本物でありBeastと言えるバンドたちの後に見ても全く見劣りしないどころか、このバンドがクロージングアクトで良かったと思えるようなライブを見せてくれたからこそ、25分の尺では全然足りないし、すでにそこに収まるようなバンドではない。何よりも、TSUTAYAはどれだけ店舗がなくなってもこうやって自分に新しい出会いを与えてくれる。そんなことを実感させてくれた、気持ち良く帰路につけるような最高のbokula.との初遭遇だった。
1.2001
2.ハグルマ
3.愛してやまない一生を
4.何者にもなれるな
5.この場所で.
6.満月じゃん。
encore
7.一瞬
エレファントカシマシ 35th ANNIVERSARY TOUR 2023 YES. I. DO @有明アリーナ 3/21 ホーム
SHELTER pre. レイラ×サバシスター "Homecoming Tour" GUEST:Dr.DOWNER @F.A.D YOKOHAMA 3/18