a flood of circle Tour 「花降る空に不滅の歌を」 @横浜F.A.D 3/10
- 2023/03/11
- 20:53
先月末にスタートした、a flood of circleの「花降る空に不滅の歌を」ツアー。その千葉LOOKでのツアー2日目に参加したばかりであるが、各地をくまなく回るライブバンドであるフラッドらしく、早くも関東では横浜F.A.Dへ。この合間には佐々木亮介(ボーカル&ギター)が新しく立ち上げた浅草東洋館での弾き語りライブもあったりと、さすがの動きっぷりである。
同じツアーなので、千葉LOOKの時のライブレポはこちら。
(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1175.html?sp)
今年初めに亮介と9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎が弾き語りで対バンをした時には椅子が並んでいたF.A.Dはこの日は当然制限なしのスタンディングで満員状態の中、19時になると場内が暗転しておなじみのSEが流れてメンバーがステージに登場。渡邊一丘(ドラム)が両手を上げて最初に現れると、亮介はこの日は白の革ジャンという出で立ちで、髪色が金髪なのはもうすっかり見慣れたものである。
そんなバンドが最初に鳴らしたのは、亮介のボーカルから始まる「バードヘッドブルース」というツアータイトルになっているアルバムのリード曲なのは千葉LOOKの時と変わらないが、その亮介の歌唱とバンドの演奏がその時よりもさらに研ぎ澄まされているのがすぐにわかるだけに、満員の観客はみんないきなり腕を上げている。その亮介の声に重なる渡邊のコーラスの声量のあまりの大きさからも、この日のライブへのバンドの漲る気合いが伝わってくる。
それは早くも千葉LOOKの2日目とは曲が入れ替わった(その時は「Vampire Kila」というレア曲だった)「The Beautiful Monkeys」でサビに入る前に渡邊が思いっきり合いの手というか、気合いが入りすぎて発してしまったというような声からもよくわかるのであるが、青木テツのキレ味鋭いギターサウンドも、HISAYOの体を激しく揺らしながら弾くベースからも、言葉にしなくても伝わってくる。フラッドがこのツアーを回ることでバンドとしてさらに進化しているのがはっきりとわかる。先月の荻窪TOP BEAT CLUBでのSIX LOUNGEとの対バンではアンコールに演奏していたのだが、千葉LOOKの2日目では演奏されていなかっただけに、ツアーではやらないのか?とも思っていたけれど、やはりこうしてアルバム曲以外を入れ替えてくるというあたりはさすがフラッドである。
それは続く「ミッドナイト・クローラー」もまた然りであり、代表曲の一つである「Dancing Zombiez」を入れ替えてもなおこの曲があるというフラッドのセトリの層の厚さたるや。この日はもう客席からメンバーが登場しただけで歓声が湧き上がっていたが、この曲のコーラスの「ヘヘヘイ」というフレーズでも渡邊に重ねるようにして合唱が起こるあたりが、千葉LOOKの時以上に(それはキャパ、動員数によるところが大きいのかもしれないが)フラッドのコロナ禍になる前のライブが戻ってきているんだなと感じさせてくれる。
すると亮介がギターを下ろしてハンドマイクで歌うのは千葉LOOKと同様に「Black Eye Blues」であるのだが、この曲はそれでもまだ完全にコロナ禍になる前のフラッドのライブが戻ってきているわけではないなと思ってしまうのは、かつては亮介が客席に突入していたのがこの曲だからである。だからこの日もあくまでステージ上を動き回りながら歌うという形なのだが、亮介は飛ばしすぎなんじゃないかと心配してしまうくらいに序盤からペース配分無視とばかりに声を張り上げまくっていて、その歌唱からもこの日のライブへの気合いの入りっぷりを感じさせてくれる。
それは亮介が
「横浜〜。F.A.D俺はしょっちゅう来てる〜。Fire And Dragonっていう店の名前の意味はわからないけど、地元バンドよりも来てる感じがするから、なんか来ると落ち着く〜」
と言っていたように、このF.A.Dがバンドにとってもはやホームと言ってもいいくらいの場所になっていることも大きいのだろう。そんな場所だからこそ気合いが入らざるを得ないというか。
そのまま亮介がハンドマイクで歌う「如何様師のバラード」はMVに漫才コンビの金属バットが出演したことでも話題になった曲であるが、間奏では亮介が
「姐さん〜」「テッちゃん〜」「ナベちゃん〜」
とメンバーの名前を口にしてソロ回しが展開されるという場面も。そうして新作アルバムの曲がどんどんライブにおいて欠かせない曲になっていくのであるが、MVでの金属バットを騙す亮介の悪徳プロデューサー的な如何様師っぷりも必見の曲である。
そこから一気にスピード感を持って駆け抜けるかのような「Party Monster Bop」でもやはり渡邊のコーラスの声の大きさに驚かざるを得ないし、「カメラソング」は絵になる景色が多い横浜中華街エリアのライブハウスであるこのF.A.Dだからこそ、千葉や荻窪で聴いた時とはまた違う印象を受ける。ということはこれから先にいろんなライブハウスや地域で聴いたらまた違う聞こえ方をするということである。「Party〜」では汗を飛び散らせながら声を張り上げていた亮介もこの曲では自身のメロディメーカーっぷりを自分で示すかのようにその歌の、メロディの美しさを際立たせるような歌唱に徹している。
すると亮介が
「言いたいことなんて特にない」
と言いながらも、曲にメッセージを込めるようにして歌い始めたのはなんと「コインランドリー・ブルース」というレア曲。千葉LOOK2日目はここは「人工衛星のブルース」だっただけに、ブルースというかバラード的な曲を演奏する曲順なのかもしれないが、まさかこの曲が聴けるとは思わなかったし、序盤から飛ばし過ぎたことによってか亮介の歌声はファルセット部分が掠れたりもしていたのであるが、それが逆にこの曲に宿る切なさを最大限に引き出している。つまりは完全に曲の中に観客の意識が引き込まれているということである。
「a flood of circleはまだまだこっから行くから!ついて来いとかは言わないけど、ついて行きたくなるような曲をこれからも作るから!」
と、言いたいことやっぱりあるんじゃないかと思ってしまうようなことを亮介が口にすると、その言葉を曲に、音楽に落とし込んだかのような、亮介がアコギを弾きながら歌う「花火を見に行こう」へ。折しもこの日はWBCの日本対韓国の試合が行われていただけに、
「この世で一人だけ騙せないやつが
瞼の中観てる 9回裏のサヨナラ」
という歌詞がバンドの意思であるとともに、日本代表を応援するフレーズであるかのようにこの日だけは感じられた。フラッドは今でもずっとこのバンドでもっと大きな花火を打ち上げようとしている。それをこれからもずっと見に行きたいと思う。
「もう年に4回とかライブしに来てるから、会場のスタッフも悪ノリして「佐々木亮介のお〜い佐々木ハイ」っていうドリンク(亮介愛飲の緑茶ハイ)まで出てるんだけど(笑)、俺はこうして目の前にいてくれるあなた達にはずっと元気でいて欲しいと思ってる。そう思うしかできない自分に対しては、くたばれって思ってる」
と見事に曲タイトルに繋げてみせた「くたばれマイダーリン」はライブで初めて聴いた荻窪、先月の千葉LOOKの時はフラッドの美しいメロディを前面に押し出した曲というイメージが強かったが、そのイメージが少し変わったのは、ツアーで鳴らしてきたことによってより強靭なロックナンバーへと進化していたからだ。それこそがツアーの醍醐味であり、ツアーで鳴らされてこそ曲が完成するというものであるが、やはり渡邊のコーラスの強さが最もそれを担っているところと言えるような気もする。
「みんな、ハッピーかい?」
と不意に亮介が問いかけると、千葉LOOKの2日目では「Rock'n' Roll New School」だった部分は存在すら忘れかけていた、THE KEBABSのストレートなロックンロールに通じるとも言える「スーパーハッピーデイ」というまさかの選曲へ。こうしたレア曲が次々に聴けるんだからフラッドのツアーに複数参加するのはやめられないなと思うのだが、この曲のコーラスフレーズで客席から合唱が起きるというあたりはこうして平日に横浜までフラッドのワンマンに来るファンの愛情の深さを示していると言える。こんなレア曲でも演奏されればみんなが瞬時に歌うことができるのだから。こうしてフラッドのライブが見れてこの曲が聴けるというだけで、やっぱりこの日はスーパーハッピーデイなのである。
そんなハッピーなアウトロと繋がるようにして鳴らされたワルツ的なイントロによって始まるのはアルバムタイトル曲の「花降る空に不滅の歌を」であるのだが、コーラスだけでなくワルツから四つ打ちに至るというリズムの変化を見せる渡邊のドラムはやはりツアー中に劇的な進化を果たしているのが聴いているとよくわかる。そんな渡邊の進化が一聴してフラッドの新たなアンセムであるとわかるこの曲をさらにそうしたものへと引き上げている。果たしてこのツアーが終わる頃にはこの曲はどんな景色を我々に見せてくれるようになっているのだろうか。亮介のボーカルもやはり最近のライブの中では不安定と言っていいくらいであるが、むしろそれがロックンロールバンドとしてのライブのカッコよさ、この日しかないライブらしさになっている。それは不安定ではあるとはいえ、決して声が出ていないというわけではなく、精神が肉体のさらに先へと走っているからだろう。
さらには赤い照明が照りつける中で亮介とテツがブルージーなギターを重ね合うことで客席から「まさか…」という空気が漂うと、一気にそのギターが加速するのはやはり「ロシナンテ」であり、観客から歓声が上がる。それくらいに久しぶりかつファンに愛されてきた曲であるということであるが、亮介が前に出てギターを弾く姿も、その亮介の歌声を支えて推進させるようなメンバーの演奏も、まさに何かを失くしながらそれでも進んできたフラッドだからこその説得力を感じさせるものになっているのだが、その
「何かを失くしながら それでも行かなくちゃ」
のフレーズでコーラスを重ねるのが亮介とただ1人ずっと一緒にバンドをやってきたドラムの渡邊であるというのがやはりフラッドの歴史であり意思が滲み出ている。もうこの曲を聴けただけでも、すでに千葉でツアーを見ていてもこうして横浜まで来て本当に良かったと思える。
そんな「ロシナンテ」の疾走感をさらに開放的にアッパーにするのはアルバムからの「GOOD LUCK MY FRIEND」であり、今回のアルバムを貫く亮介の内省的な心境の歌詞をこんなにアッパーなギターロックサウンドに託せるというのもまた佐々木亮介という人間だからであり、友人が居なくなってしまったという悲しさや切なさを抱えたまま突き進むのが生きていくものとしてのロックンロールであるということを示しているかのようであるし、最後のタイトルフレーズの歌唱ではメンバーだけではなく腕を上げた観客の声も重なっていく。この曲もまたこうしてライブで演奏されることによってアンセムになっていくということがわかる。
そんなコーラスの残響と余韻が残る中で亮介、テツ、HISAYOの3人が渡邊のドラムセットに向かい合う。その段階で何の曲なのかわかった観客達の歓声がメンバーの重ねる音が響くことによってさらに大きくなるのはもちろん「プシケ」であり、曲中には亮介がこの日の日付と会場名を口にしてからのメンバー紹介によって1人ずつの音が重なって、スポットライトが当たっていき、最後に亮介がバンド名を叫ぶ瞬間のカタルシスたるや。セトリが変わるというのはもちろん、その日その場所によって変わるこの曲がこうして演奏されるだけでやっぱりフラッドのツアーは何公演も行きたいと思える。
そのままテツが思いっきりギターを高く掲げるようにして轟音のイントロを鳴らすという「シーガル」がやはりこの日、この場所でのフラッドの気合いを炸裂させる。亮介は髪が汗に塗れることによってちょっと横ハネしているようにすら見えるが、飛ばしまくったこの日の終盤でもこの曲での歌唱の強さ、気迫は変わらないというか、いつも以上にすら感じられる。HISAYOも華麗にステップを踏むようにしてベースを弾いているが、その表情から笑顔が垣間見えるのはそのライブの良さを示しているし、まさに二代目・ギターの鬼と化したテツの音のキレ味までもさらに進化を果たしているのがよくわかる。
それは亮介が
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
といつも以上にしゃがれた声で歌い始めた「月夜の道を俺が行く」の歌詞の通りの「結局佐々木亮介」感。それはやはり転がり続けて生きていくロックンロールバンドであるということであるのだが、曲中の演奏の押し引き的な部分がよりハッキリしたアレンジになっているというのはツアーを重ねてきたことによる成果だろうし、その引きの部分が強くなったからこそ、サビでのバンドの演奏がより強く感じられるようになっている。荻窪でのアルバム全曲演奏ライブから亮介の弾き語りも含めて1ヶ月で4回この曲を聴いているが、それでも全く飽きない。ということは次にライブでこの曲を聴いた時にはまた全く違うものが聴ける、見れるということであり、やっぱりまだ何本でもフラッドのツアーに参加したいと思う。
すると亮介は先日、特に理由はなくても女川に行ったことを口にする。
「仙台から割とすぐに行けて、魚をぶっ殺して作った食べ物とかめちゃ美味いから、みんなも行ってみたらいいんじゃないかと思う。でも津波で住民の一割が飲み込まれたっていう話を聞いたら、俺は中途半端に生きていられないと思った。背中を蹴り上げられるような感じになった。俺が、本気で生きているのなら」
という言葉は、否が応でも明日であの日からもう12年も経つということを思い出してしまう。というか亮介もその意識があったからこそ口にしたのだろうけれど、亮介は今でもあの時のことを、あの時に被害に遭われた人のことを、あの時の我々の心境を忘れていない。そこにこそ亮介の優しさ、人間らしさを感じられるのであるが、「月夜の道を俺が行く」の
「死んでたまるか」
のフレーズも、亮介が弾き語りのように歌い始めてからバンドサウンドになる「本気で生きているのなら」も、声を涸らしながらでも叫ぶようにして歌うのは、やはり亮介が本気で生きているからだ。その姿を見ていると我々も常に100%ではなくても本気で生きていないといけないと思わされる。だからこうしてフラッドのライブに足を運んでいるのだ。それは亮介がこの曲で最後に歌う
「踏み出せ」
というフレーズをそうして示すことになると思っているからだ。だからこそこれからもそうやって生きていたいと心から思わせてくれるくらいに、本当に素晴らしいライブだった。
アンコールでは荻窪なライブ以降におなじみとなった、テツがタバコを吸いながらという渋いスタイルで登場して、亮介がすぐに
「ばいばーい」
と言うと演奏されたのはまさかの「The Key」という、フラッド屈指の大型タイアップ曲(アニメ「群青のマグメル」の主題歌)でありながらもリリース当時くらいしかライブで演奏されていなかった曲が今になって、今のより最強に吹っ切れた状態のフラッドで演奏されている。千葉LOOKの2日目のアンコールの「Wolf Gang La La La」にも驚いたけれど、この曲を聴けるなんて全く思ってなかった。それは愛する場所であるこの場所からまたこれから先の新たな扉を開けていくという意思を感じさせるくらいの開放感だった。だからこそ亮介は演奏が終わった後に
「ツアー、まだあと…20本くらいかな?覚えてないけど(笑)いっぱいやるから、また来れたら来てね」
と言ったのだ。それは同じツアーであってもこれから先にまた全く違う、今日より素晴らしいライブを見せるからという意味に聞こえたからだ。
最新アルバムの収録曲を全部聴けるのはもちろん、それ以外のセトリが変わるのがやっぱり嬉しいのは、どんな曲が聴けてもフラッドの曲は良い曲、好きな曲しかないなと思えるからであるが、ただセトリを入れ替えるだけではなくてそれを最高の状態での演奏で聴かせてくれる。だからこそフラッドのツアーに毎回こうして何公演も参加している。
そのライブの素晴らしさは亮介の声が涸れていても全く関係ないと思えるくらいに、その声と音に間違いなく強い意志と気迫が宿っていたからだ。今月にもう1回見れるこのツアーの新代田FEVERではどんなライブを見せてくれるのだろうか。こうしてアルバムを出してツアーをして、それを体感しているとやっぱり今年は自分にとってはフラッドの年になるなと思っている。
1.バードヘッドブルース
2.The Beautiful Monkeys
3.ミッドナイト・クローラー
4.Black Eye Blues
5.如何様師のバラード
6.Party Monster Bop
7.カメラソング
8.コインランドリー・ブルース
9.花火を見に行こう
10.くたばれマイダーリン
11.スーパーハッピーデイ
12.花降る空に不滅の歌を
13.ロシナンテ
14.GOOD LUCK MY FRIEND
15.プシケ
16.シーガル
17.月夜の道を俺が行く
18.本気で生きているのなら
encore
19.The Key
同じツアーなので、千葉LOOKの時のライブレポはこちら。
(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1175.html?sp)
今年初めに亮介と9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎が弾き語りで対バンをした時には椅子が並んでいたF.A.Dはこの日は当然制限なしのスタンディングで満員状態の中、19時になると場内が暗転しておなじみのSEが流れてメンバーがステージに登場。渡邊一丘(ドラム)が両手を上げて最初に現れると、亮介はこの日は白の革ジャンという出で立ちで、髪色が金髪なのはもうすっかり見慣れたものである。
そんなバンドが最初に鳴らしたのは、亮介のボーカルから始まる「バードヘッドブルース」というツアータイトルになっているアルバムのリード曲なのは千葉LOOKの時と変わらないが、その亮介の歌唱とバンドの演奏がその時よりもさらに研ぎ澄まされているのがすぐにわかるだけに、満員の観客はみんないきなり腕を上げている。その亮介の声に重なる渡邊のコーラスの声量のあまりの大きさからも、この日のライブへのバンドの漲る気合いが伝わってくる。
それは早くも千葉LOOKの2日目とは曲が入れ替わった(その時は「Vampire Kila」というレア曲だった)「The Beautiful Monkeys」でサビに入る前に渡邊が思いっきり合いの手というか、気合いが入りすぎて発してしまったというような声からもよくわかるのであるが、青木テツのキレ味鋭いギターサウンドも、HISAYOの体を激しく揺らしながら弾くベースからも、言葉にしなくても伝わってくる。フラッドがこのツアーを回ることでバンドとしてさらに進化しているのがはっきりとわかる。先月の荻窪TOP BEAT CLUBでのSIX LOUNGEとの対バンではアンコールに演奏していたのだが、千葉LOOKの2日目では演奏されていなかっただけに、ツアーではやらないのか?とも思っていたけれど、やはりこうしてアルバム曲以外を入れ替えてくるというあたりはさすがフラッドである。
それは続く「ミッドナイト・クローラー」もまた然りであり、代表曲の一つである「Dancing Zombiez」を入れ替えてもなおこの曲があるというフラッドのセトリの層の厚さたるや。この日はもう客席からメンバーが登場しただけで歓声が湧き上がっていたが、この曲のコーラスの「ヘヘヘイ」というフレーズでも渡邊に重ねるようにして合唱が起こるあたりが、千葉LOOKの時以上に(それはキャパ、動員数によるところが大きいのかもしれないが)フラッドのコロナ禍になる前のライブが戻ってきているんだなと感じさせてくれる。
すると亮介がギターを下ろしてハンドマイクで歌うのは千葉LOOKと同様に「Black Eye Blues」であるのだが、この曲はそれでもまだ完全にコロナ禍になる前のフラッドのライブが戻ってきているわけではないなと思ってしまうのは、かつては亮介が客席に突入していたのがこの曲だからである。だからこの日もあくまでステージ上を動き回りながら歌うという形なのだが、亮介は飛ばしすぎなんじゃないかと心配してしまうくらいに序盤からペース配分無視とばかりに声を張り上げまくっていて、その歌唱からもこの日のライブへの気合いの入りっぷりを感じさせてくれる。
それは亮介が
「横浜〜。F.A.D俺はしょっちゅう来てる〜。Fire And Dragonっていう店の名前の意味はわからないけど、地元バンドよりも来てる感じがするから、なんか来ると落ち着く〜」
と言っていたように、このF.A.Dがバンドにとってもはやホームと言ってもいいくらいの場所になっていることも大きいのだろう。そんな場所だからこそ気合いが入らざるを得ないというか。
そのまま亮介がハンドマイクで歌う「如何様師のバラード」はMVに漫才コンビの金属バットが出演したことでも話題になった曲であるが、間奏では亮介が
「姐さん〜」「テッちゃん〜」「ナベちゃん〜」
とメンバーの名前を口にしてソロ回しが展開されるという場面も。そうして新作アルバムの曲がどんどんライブにおいて欠かせない曲になっていくのであるが、MVでの金属バットを騙す亮介の悪徳プロデューサー的な如何様師っぷりも必見の曲である。
そこから一気にスピード感を持って駆け抜けるかのような「Party Monster Bop」でもやはり渡邊のコーラスの声の大きさに驚かざるを得ないし、「カメラソング」は絵になる景色が多い横浜中華街エリアのライブハウスであるこのF.A.Dだからこそ、千葉や荻窪で聴いた時とはまた違う印象を受ける。ということはこれから先にいろんなライブハウスや地域で聴いたらまた違う聞こえ方をするということである。「Party〜」では汗を飛び散らせながら声を張り上げていた亮介もこの曲では自身のメロディメーカーっぷりを自分で示すかのようにその歌の、メロディの美しさを際立たせるような歌唱に徹している。
すると亮介が
「言いたいことなんて特にない」
と言いながらも、曲にメッセージを込めるようにして歌い始めたのはなんと「コインランドリー・ブルース」というレア曲。千葉LOOK2日目はここは「人工衛星のブルース」だっただけに、ブルースというかバラード的な曲を演奏する曲順なのかもしれないが、まさかこの曲が聴けるとは思わなかったし、序盤から飛ばし過ぎたことによってか亮介の歌声はファルセット部分が掠れたりもしていたのであるが、それが逆にこの曲に宿る切なさを最大限に引き出している。つまりは完全に曲の中に観客の意識が引き込まれているということである。
「a flood of circleはまだまだこっから行くから!ついて来いとかは言わないけど、ついて行きたくなるような曲をこれからも作るから!」
と、言いたいことやっぱりあるんじゃないかと思ってしまうようなことを亮介が口にすると、その言葉を曲に、音楽に落とし込んだかのような、亮介がアコギを弾きながら歌う「花火を見に行こう」へ。折しもこの日はWBCの日本対韓国の試合が行われていただけに、
「この世で一人だけ騙せないやつが
瞼の中観てる 9回裏のサヨナラ」
という歌詞がバンドの意思であるとともに、日本代表を応援するフレーズであるかのようにこの日だけは感じられた。フラッドは今でもずっとこのバンドでもっと大きな花火を打ち上げようとしている。それをこれからもずっと見に行きたいと思う。
「もう年に4回とかライブしに来てるから、会場のスタッフも悪ノリして「佐々木亮介のお〜い佐々木ハイ」っていうドリンク(亮介愛飲の緑茶ハイ)まで出てるんだけど(笑)、俺はこうして目の前にいてくれるあなた達にはずっと元気でいて欲しいと思ってる。そう思うしかできない自分に対しては、くたばれって思ってる」
と見事に曲タイトルに繋げてみせた「くたばれマイダーリン」はライブで初めて聴いた荻窪、先月の千葉LOOKの時はフラッドの美しいメロディを前面に押し出した曲というイメージが強かったが、そのイメージが少し変わったのは、ツアーで鳴らしてきたことによってより強靭なロックナンバーへと進化していたからだ。それこそがツアーの醍醐味であり、ツアーで鳴らされてこそ曲が完成するというものであるが、やはり渡邊のコーラスの強さが最もそれを担っているところと言えるような気もする。
「みんな、ハッピーかい?」
と不意に亮介が問いかけると、千葉LOOKの2日目では「Rock'n' Roll New School」だった部分は存在すら忘れかけていた、THE KEBABSのストレートなロックンロールに通じるとも言える「スーパーハッピーデイ」というまさかの選曲へ。こうしたレア曲が次々に聴けるんだからフラッドのツアーに複数参加するのはやめられないなと思うのだが、この曲のコーラスフレーズで客席から合唱が起きるというあたりはこうして平日に横浜までフラッドのワンマンに来るファンの愛情の深さを示していると言える。こんなレア曲でも演奏されればみんなが瞬時に歌うことができるのだから。こうしてフラッドのライブが見れてこの曲が聴けるというだけで、やっぱりこの日はスーパーハッピーデイなのである。
そんなハッピーなアウトロと繋がるようにして鳴らされたワルツ的なイントロによって始まるのはアルバムタイトル曲の「花降る空に不滅の歌を」であるのだが、コーラスだけでなくワルツから四つ打ちに至るというリズムの変化を見せる渡邊のドラムはやはりツアー中に劇的な進化を果たしているのが聴いているとよくわかる。そんな渡邊の進化が一聴してフラッドの新たなアンセムであるとわかるこの曲をさらにそうしたものへと引き上げている。果たしてこのツアーが終わる頃にはこの曲はどんな景色を我々に見せてくれるようになっているのだろうか。亮介のボーカルもやはり最近のライブの中では不安定と言っていいくらいであるが、むしろそれがロックンロールバンドとしてのライブのカッコよさ、この日しかないライブらしさになっている。それは不安定ではあるとはいえ、決して声が出ていないというわけではなく、精神が肉体のさらに先へと走っているからだろう。
さらには赤い照明が照りつける中で亮介とテツがブルージーなギターを重ね合うことで客席から「まさか…」という空気が漂うと、一気にそのギターが加速するのはやはり「ロシナンテ」であり、観客から歓声が上がる。それくらいに久しぶりかつファンに愛されてきた曲であるということであるが、亮介が前に出てギターを弾く姿も、その亮介の歌声を支えて推進させるようなメンバーの演奏も、まさに何かを失くしながらそれでも進んできたフラッドだからこその説得力を感じさせるものになっているのだが、その
「何かを失くしながら それでも行かなくちゃ」
のフレーズでコーラスを重ねるのが亮介とただ1人ずっと一緒にバンドをやってきたドラムの渡邊であるというのがやはりフラッドの歴史であり意思が滲み出ている。もうこの曲を聴けただけでも、すでに千葉でツアーを見ていてもこうして横浜まで来て本当に良かったと思える。
そんな「ロシナンテ」の疾走感をさらに開放的にアッパーにするのはアルバムからの「GOOD LUCK MY FRIEND」であり、今回のアルバムを貫く亮介の内省的な心境の歌詞をこんなにアッパーなギターロックサウンドに託せるというのもまた佐々木亮介という人間だからであり、友人が居なくなってしまったという悲しさや切なさを抱えたまま突き進むのが生きていくものとしてのロックンロールであるということを示しているかのようであるし、最後のタイトルフレーズの歌唱ではメンバーだけではなく腕を上げた観客の声も重なっていく。この曲もまたこうしてライブで演奏されることによってアンセムになっていくということがわかる。
そんなコーラスの残響と余韻が残る中で亮介、テツ、HISAYOの3人が渡邊のドラムセットに向かい合う。その段階で何の曲なのかわかった観客達の歓声がメンバーの重ねる音が響くことによってさらに大きくなるのはもちろん「プシケ」であり、曲中には亮介がこの日の日付と会場名を口にしてからのメンバー紹介によって1人ずつの音が重なって、スポットライトが当たっていき、最後に亮介がバンド名を叫ぶ瞬間のカタルシスたるや。セトリが変わるというのはもちろん、その日その場所によって変わるこの曲がこうして演奏されるだけでやっぱりフラッドのツアーは何公演も行きたいと思える。
そのままテツが思いっきりギターを高く掲げるようにして轟音のイントロを鳴らすという「シーガル」がやはりこの日、この場所でのフラッドの気合いを炸裂させる。亮介は髪が汗に塗れることによってちょっと横ハネしているようにすら見えるが、飛ばしまくったこの日の終盤でもこの曲での歌唱の強さ、気迫は変わらないというか、いつも以上にすら感じられる。HISAYOも華麗にステップを踏むようにしてベースを弾いているが、その表情から笑顔が垣間見えるのはそのライブの良さを示しているし、まさに二代目・ギターの鬼と化したテツの音のキレ味までもさらに進化を果たしているのがよくわかる。
それは亮介が
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
といつも以上にしゃがれた声で歌い始めた「月夜の道を俺が行く」の歌詞の通りの「結局佐々木亮介」感。それはやはり転がり続けて生きていくロックンロールバンドであるということであるのだが、曲中の演奏の押し引き的な部分がよりハッキリしたアレンジになっているというのはツアーを重ねてきたことによる成果だろうし、その引きの部分が強くなったからこそ、サビでのバンドの演奏がより強く感じられるようになっている。荻窪でのアルバム全曲演奏ライブから亮介の弾き語りも含めて1ヶ月で4回この曲を聴いているが、それでも全く飽きない。ということは次にライブでこの曲を聴いた時にはまた全く違うものが聴ける、見れるということであり、やっぱりまだ何本でもフラッドのツアーに参加したいと思う。
すると亮介は先日、特に理由はなくても女川に行ったことを口にする。
「仙台から割とすぐに行けて、魚をぶっ殺して作った食べ物とかめちゃ美味いから、みんなも行ってみたらいいんじゃないかと思う。でも津波で住民の一割が飲み込まれたっていう話を聞いたら、俺は中途半端に生きていられないと思った。背中を蹴り上げられるような感じになった。俺が、本気で生きているのなら」
という言葉は、否が応でも明日であの日からもう12年も経つということを思い出してしまう。というか亮介もその意識があったからこそ口にしたのだろうけれど、亮介は今でもあの時のことを、あの時に被害に遭われた人のことを、あの時の我々の心境を忘れていない。そこにこそ亮介の優しさ、人間らしさを感じられるのであるが、「月夜の道を俺が行く」の
「死んでたまるか」
のフレーズも、亮介が弾き語りのように歌い始めてからバンドサウンドになる「本気で生きているのなら」も、声を涸らしながらでも叫ぶようにして歌うのは、やはり亮介が本気で生きているからだ。その姿を見ていると我々も常に100%ではなくても本気で生きていないといけないと思わされる。だからこうしてフラッドのライブに足を運んでいるのだ。それは亮介がこの曲で最後に歌う
「踏み出せ」
というフレーズをそうして示すことになると思っているからだ。だからこそこれからもそうやって生きていたいと心から思わせてくれるくらいに、本当に素晴らしいライブだった。
アンコールでは荻窪なライブ以降におなじみとなった、テツがタバコを吸いながらという渋いスタイルで登場して、亮介がすぐに
「ばいばーい」
と言うと演奏されたのはまさかの「The Key」という、フラッド屈指の大型タイアップ曲(アニメ「群青のマグメル」の主題歌)でありながらもリリース当時くらいしかライブで演奏されていなかった曲が今になって、今のより最強に吹っ切れた状態のフラッドで演奏されている。千葉LOOKの2日目のアンコールの「Wolf Gang La La La」にも驚いたけれど、この曲を聴けるなんて全く思ってなかった。それは愛する場所であるこの場所からまたこれから先の新たな扉を開けていくという意思を感じさせるくらいの開放感だった。だからこそ亮介は演奏が終わった後に
「ツアー、まだあと…20本くらいかな?覚えてないけど(笑)いっぱいやるから、また来れたら来てね」
と言ったのだ。それは同じツアーであってもこれから先にまた全く違う、今日より素晴らしいライブを見せるからという意味に聞こえたからだ。
最新アルバムの収録曲を全部聴けるのはもちろん、それ以外のセトリが変わるのがやっぱり嬉しいのは、どんな曲が聴けてもフラッドの曲は良い曲、好きな曲しかないなと思えるからであるが、ただセトリを入れ替えるだけではなくてそれを最高の状態での演奏で聴かせてくれる。だからこそフラッドのツアーに毎回こうして何公演も参加している。
そのライブの素晴らしさは亮介の声が涸れていても全く関係ないと思えるくらいに、その声と音に間違いなく強い意志と気迫が宿っていたからだ。今月にもう1回見れるこのツアーの新代田FEVERではどんなライブを見せてくれるのだろうか。こうしてアルバムを出してツアーをして、それを体感しているとやっぱり今年は自分にとってはフラッドの年になるなと思っている。
1.バードヘッドブルース
2.The Beautiful Monkeys
3.ミッドナイト・クローラー
4.Black Eye Blues
5.如何様師のバラード
6.Party Monster Bop
7.カメラソング
8.コインランドリー・ブルース
9.花火を見に行こう
10.くたばれマイダーリン
11.スーパーハッピーデイ
12.花降る空に不滅の歌を
13.ロシナンテ
14.GOOD LUCK MY FRIEND
15.プシケ
16.シーガル
17.月夜の道を俺が行く
18.本気で生きているのなら
encore
19.The Key
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