ZION Tour (Here Comes The) SUN'n'JOY @LIQUIDROOM 3/2
- 2023/03/03
- 19:47
すでに今年の1月にも横浜の1000CLUBでワンマンを行なった、NICO Touches the Wallsの光村龍哉の新バンド、ZION。それはついにリリースされた(通販と会場物販、さらには北海道の道の駅での販売という形であるが)アルバム「SUN'n'JOY」のリリースツアーのものであり、この日の恵比寿LIQUIDROOMワンマンはそのツアーの追加公演となる。
昨年のアルバムリリース前には渋谷のWWW Xでもライブをやっているが、都内でのライブ自体がそもそもまだ希少(バンドは今は北海道を拠点にしており、このツアーの追加公演のファイナルも北海道である)であるだけに平日とはいえチケットは完売で、開演ギリギリに客席内に入ると係員から前や奥に詰めてくれというアナウンスが入るほど。それくらいにみんなこのバンドのライブを観たいと思っているのだろうし、きっとキャパ的にもこの日が初めてこのバンドのライブを見る日だという人もいたんじゃないかと思う。
そうして超満員の中、開演時間の19時を過ぎたところで場内が暗転して客席から拍手が起こり、メンバーがステージに現れる。光村はジャケットがどこかフォーマルに見える出で立ちであり、その光村を取り囲むようにメンバーがステージ上でぐるっと円になるような並びはこの5人ならでは。
光村がアコギを持つと、ゆったりとした空気が流れるようにメンバーが音を重ねていき、それがバンドの拠点である北海道の雪に覆われた情景を想起させる「Yowamushi」でスタートする。櫛野啓介(ギター)は早くも光村のボーカルにコーラスを重ね、キャップを被った姿がおなじみになりつつある佐藤慎之介(ベース)がグルーヴの土台を作り、そこに鳴橋大地(ドラム)のリズムと、どちらかというとエフェクターを駆使したりという飛び道具を使う側のギタリストである吉澤幸男の音が重なっていく。結論から言うと基本的にツアーであるために内容はほとんど変わらないので、詳細は1月の横浜のライブレポも参考にしていただきたい。
(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1151.html?sp)
なのでイントロから佐藤のベースのサウンドでグルーヴを生み出す「New Moanin'」と続くのも同じ流れであるが、そのバンドのグルーヴがより強靭なものになっているのが実によくわかる。本数は少ないながらもライブという場で演奏することによってバンドだけではなく曲も育っているということがハッキリとわかるような。それはこの曲からはエレキを弾きながら歌う光村の歌唱もそうであり、NICO時代からあんなに凄かった歌がさらに進化できるのかとすら思ってしまうくらいに伸びやかである。
そんなZIONはアルバムをリリースしたばかりであるが、すでにライブでは新曲を演奏している。それはリリースをした後も自分たちのスタジオで曲作りやセッションを継続しているということであるが、これまでのライブでも観客を驚かせていたのがこの序盤で演奏された新曲「Rinco」である。爽やかなメロディに乗って
「君をさらいたいよ」「真夏の太陽」
という韻を踏んだ歌詞が光村の伸びやかな歌唱によって歌われる、アルバムの中にはないタイプの曲。この曲を聴くと北海道にも太陽が照りつける夏が確かにやってくるんだよなとと思うし、そのシチュエーションで言うならはRISING SUN ROCK FESTIVALのSUN STAGEで鳴らされるのを見てみたいところであるし、光村の変わらぬメロディメーカーっぷりを感じさせてくれる曲でもある。
そんな光村はここでギターを下ろしてハンドマイクになるのだが、その光村が煽るまでもなく、佐藤のうねるようなベースのリズムに合わせて観客が手拍子をし、吉澤もその佐藤のベースに合わせて踊るような仕草を見せてから始まるのは光村が指揮者のようにメンバーの演奏をコントロールしてキメを連発する「Setogiwa」なのであるが、この曲での光村のスキャット的な歌唱も体も心も震えるくらいに本当に素晴らしいし、それはやはり横浜で見た時よりもさらに凄まじさを増しているのがハッキリとわかる。バンドのグルーヴがより強くなったことによって、そこに乗る歌唱も強くなるというのは当然のことであるが、この聴いた瞬間に誰のものかすぐにわかるような光村の声が今も最高と最強を更新し続けているというのが本当に頼もしいし嬉しくなる。
バンドのMC担当の佐藤が
「ツアー、本当に一瞬でした。こうやって東京でライブをするのも9ヶ月ぶりとかなんですけど、本当に楽しみにしてました。最後まで楽しんでいってください」
と実にシンプルに、実直な性格を感じさせる挨拶をすると、そこから光村もギターで参加してセッション的なインストの演奏が始まる。ここまでは曲間を繋ぐようなライブアレンジによってライブが進んできたが、このバンドはこうしてライブ中にもさらにグルーヴを練り上げている。
そうした演奏から続くのは光村のメロディメーカーっぷりを最大限に感じられる、
「恋は幻」
というサビを締めるフレーズのインパクトが抜群な「Shield」であるのだが、ライブで聴くことによって後半に鳴橋のリズムが一気に倍に加速するように細かく刻まれるけれど、曲全体としてのリズムは速くなったようには感じられないという、ただ良い曲なのではなくて、そこに独特の違和感を忍ばせるというあたりがさすが光村のバンドである。
それはこのバンドの1番濃い面、深い面を見せるかのように曲中にもセッション的な演奏が行われて長尺になる「Jigsaw」もそうであるというのは、光村のルーツであるブルース的なサウンドと歌唱の曲であるにも関わらず、アウトロでは吉澤がタッピングギターを鳴らしまくっているからである。そのブルースとハードロックの融合と言えるようなアレンジと演奏は光村とこのメンバーによるバンド、ZIONだからこそのものである。そうした発見は前回のライブでは見落としていた部分かもしれないし、NICO時代にも曲にアレンジを施しまくってファンを驚かせていた光村の良い意味での飽き性的な部分が出ているのかもしれない。
新曲2曲目は疾走感を感じられる、やはりアルバムの中にはなかったタイプのロックナンバーであるのだが、その歌詞はよく聞くと
「若い芽は若いうちに摘め」
的なフレーズなんかもあるあたり、光村の捻くれた感性が炸裂しているものであるとも言える。とはいえこのサウンド、ジャンルの振れ幅はやはり新人バンドらしからぬものであり、ZIONがそうしたものを飛び越える存在のバンドであるということを感じさせてくれるのである。
すると曲間では鳴橋、吉澤、佐藤の3人が一旦ステージ袖に捌けていき、前回の時にはなかった展開に「?」と思っていると光村が
「次の曲は啓ちゃん(櫛野)と2人でやってみたいと思います」
と言い、光村がアコギで弾き語り形式で歌い始めたのは、前回のライブでは演奏されなかった「Leaves」であるのだが、櫛野は光村の1本のマイクを2人で挟むようにしてコーラスをするという形で参加。それはこの形が今のこの曲をライブで演奏する最適解なのかもしれないけれど、この形を見るとかつてNICOが河口湖ステラシアターでワンマンをやった時に対馬祥太郎とこうして1本のマイクで歌っていたな…なんてことを思い出してしまう。それは光村がやっていたバンドが今でも忘れられないくらいの景色や光景を我々に見せてきてくれたからである。
そんな光村と2人で歌う櫛野はここまでにも様々な曲で最もコーラスを重ねているメンバーでもあるのだが、3人がステージに戻ってくると、その光村と櫛野のギターが重なり合うことによって始まるのはインスト曲の「Innipi (N)」であり、歌詞や言葉がなくてもそこに重なる吉澤のものも含めた3本のギターの音がやはり北海道の雪景色を想起させる。それがどこか羽ばたいていくかのようにグルーヴを高めていく佐藤と鳴橋のリズムによって、我々聴き手が空を飛翔しながらその北海道の景色を眺める鳥になったかのような感覚にさせてくれる。それは間違いなくこの5人で北海道で音を鳴らしているからこそ生まれてきたものである。
その「Innipi (N)」から繋がるように演奏されたのはアルバムの先行曲として世に放たれた「Hurricane」であるのだが、曲始まりでは佐藤がシンセベース、鳴橋がデジドラという形でリズムを鳴らしており、ZIONの中でも爽快なロックンロールと言えるようなこの曲が実はデジタルサウンドを最も取り入れた曲であるということがライブだと視覚的によりよくわかる。しかもその曲で光村は高らかに
「まだ歌っていたいよ」
と声を張り上げる。まだライブで聴くのは3回目だけれど、この曲を聴くといつも「まだ歌うことを選んでくれて本当にありがとう」と思う。それくらいにやはり光村のものでしかないこの声をここにいた人たちは必要としている。その声で歌う音楽じゃないと感じられないものがあることをわかっているからだ。
佐藤がMCで言っていたのだが、このツアーは横浜の時はまだだったが、ツアーの途中から観客が歓声を出すことができることになった。その観客の歓声というものを最も感じさせてくれるのが、櫛野がステージ前に出てきてギターを掻き鳴らしてから始まる、ステッペンウルフ「Born To Be Wild」のカバーという、誰もが聴いたことがあるだろう曲。そのサビでハンドマイクの光村はマイクを客席に向けて観客に歌わせるのであるが、佐藤と櫛野もコーラスをするだけにそこに重なっているという感じの観客の歓声になる。
それぞれにバンド歴はあるメンバーたちであるが、こうしてZIONのライブで観客の声が聞こえるようになったというのは声を出してはいけなかった時とどれくらい違うように感じられるのだろうか。正直、バンドの曲としては観客が一緒に歌えるような部分はまだ皆無と言えるのだが、これから先にはそうしてみんなで歌える曲も生まれたりするのだろうか。それは案外こうしたライブでの経験によって生まれてくるものなのかもしれないとも思う。
その「Born To Be Wild」に続いて、イントロでシェイカーを振りまくる光村を筆頭に真っ赤な照明がメンバーを照らす光景が、この曲でのバンドの燃え盛るようなグルーヴを可視化しているかのように思えるのは「Deathco lsland」であり、NICO時代からの光村のバンドグルーヴの最高到達点とすら言える曲だ。もちろんそれを引っ張るのは佐藤のベースであるのだが、MCを聞いていてもかなり天然な感じがするこの男の存在はこのバンドにとって実に大きいし、やはりそれは横浜の時以上に強く感じられるものになっている。観客も腕を上げたり、曲が終わると歓声を上げたりするのもそのバンドのグルーヴにダイレクトに反応しているからだ。
そんなグルーヴの化身と言えるような曲から一転するように、薄暗く照らされたステージに仄かな光が照らされる中でタイトルフレーズのリフレインを光村が繰り返し、メンバーの鳴らす音もその歌唱を支えるようにして厳かに鳴らされるのは「(Here Comes) SUN'n' JOY」というアルバムタイトルと言っていい曲であり、そのゴスペル的な歌唱は北海道の自然の豊かさや凍てつくような寒さを音で表現していると言えるだろう。
その「(Here Comes) SUN'n' JOY」は次の曲へのインタールードを担っている曲であるとも言える。その曲はバンド始動時に先行でリリースされたうちの1曲である「Eve」なのであるが、じっくりと音を重ねていくような滋味深い演奏も、しっかりと気持ちを込めて歌う光村の歌唱も、まるでこの曲が今のZIONというバンドであるということを示すかのよう。そこにはやはりどうしたって音から情景が浮かんでくるというのもあるのだが、時にファルセットを駆使しながらも、最後にはその美しく強い歌声で思いっきり歌い上げる光村のボーカルを聴いていると、こうしてこのバンドを始めてくれて、また我々の前に立って歌うことを選んでくれて本当にありがとうと思う。ある意味では光村という人間の持つ音楽的素養を、何の縛りもしがらみもなく最大限に発揮できるのがこのZIONというバンドなんじゃないかと思うくらいに。
アンコールではライブでおなじみの佐藤による手紙の朗読が「北の国からのテーマ」が流れながら始まるのであるが、この日は渋谷出身の吉澤の母親がライブを見に来ているということで、その母親に宛てた内容に。
元々は櫛野と一緒に音楽活動をしていた2017年頃に櫛野が
「ヤバいギタリスト見つけた!ギター弾いてるのは見たことないけど!」
という意味不明な理由で吉澤に目をつけたことによって3人で活動するようになり、そこに光村と鳴橋が合流する形でこのバンドが始まったというところから始まり、メンバー紹介では佐藤がそれぞれの誕生日と、同じ誕生日の有名ミュージシャン
櫛野:マドンナ
光村:エイミー・マン
吉澤:ロバート・プラント
鳴橋:デーモン小暮閣下
佐藤:B.B.キング
であることを紹介して吉澤母への手紙とし、告知として5月から3ヶ月連続でバンドの本拠地スタジオであるホワイトハウスから発送する形で新曲をリリースすることを発表。完全予約商品という、このライブに来てすぐに申し込んだ人しか買えない(自分は無事に買えた)という形には賛否あるだろうけれど、発表の後に光村が佐藤に耳打ちをすると、
「今日の日付変わる時間に「Hurricane」と「Eve」がサブスクでも解禁されます」
と発表したあたり、完全にこうしてライブに来るコアリスナーだけに向けた活動やリリースになるということでもなさそうである。
佐藤はそのMCでZIONを「ワールドワイドなロックバンド」と口にしていたが、それが本音であるかどうかはわからないが、もしそうならまだまだ入り口や間口が狭すぎるな、とも思うけれど、光村はメジャーシーンのど真ん中で10年以上活動してきた。武道館でも3回もワンマンをやった。ある意味ではそうした、リリースしてタイアップがついてフェスに出まくって…という活動はもう経験している。そこには自分たちの活動には把握できないくらいにたくさんの人が携わっていたことも。
それを経験したからこそ、活動形態としては真逆に、閉じていると思われても仕方がないくらいに自分たちで流通なども行い、自分たちで全ての活動を運営していくというのは個人的には合点がいくところではある。それがワールドワイドに繋がるには果てしなく遠い道のりであるとも思うけれど、「あのNICO Touches the Wallsの光村龍哉の新バンド!」とド派手かつどでかく宣伝しまくってテレビで流れまくって…という形でデビューしていたらきっとまた近い将来に同じように終わってしまうし、そうした場所に適した音楽ではない、ただ自分たちと暮らす場所から湧き上がってくる音楽を一生鳴らし続けていたい。そんな意思をこのZIONの活動から自分は感じているからだ。
それは最後に演奏された、光村がアコギを弾きながら歌う、ミドルテンポの新曲からも感じられる。一聴すると地味なようにも感じられるし、まだ歌詞などの全貌はわからないけれど、それでも一歩ずつこのバンドで前に進んでいくことを示すような意思がこの曲には確かに感じられる。3ヶ月連続リリースの中にこの曲があるのかはわからないが、それでもZIONはまたこうしてすぐに我々の前に立って音を鳴らし、新たな曲を聴かせてくれるはずだ。
それはバンドがライブを心から楽しいと思っているからこそ、わずか2ヶ月でこんなにもさらに進化したと感じられるライブを見せてくれるのであるし、演奏が終わった後にステージ前に並んで観客に頭を下げるメンバーの姿からも感じられるものだった。本当に素晴らしいバンドが日本の音楽シーンに誕生した。
そう思うからこそ、こうしてツアーに行って、追加公演にまで足を運んでいる。いくら好きなバンドのボーカルだった男の新しいバンドとはいえ、曲とライブが良くなかったら平日に仕事終わりに何回もライブを観に行こうとは思わない。NICOの曲をもうライブで聴けない、光村以外の3人に会う機会がないのは寂しいけれど、今はNICOが活動終了してからの日々で1番ワクワクしている。これからこのZIONがどんな曲を生み出して、どんな景色を目でも脳内でも見せてくれて、どこまでそのグルーヴを研ぎ澄ませることができるかという未来を楽しみにできるからだ。そう思わせてくれるバンドを作った光村龍哉の凄さを本当の意味で、NICOをやっていた時よりも実感できる日がこれから何度だって訪れる予感がしている。
1.Yowamushi
2.New Moanin'
3.Rinco
4.Setogiwa
5.Shield
6.Jigsaw
7.新曲
8.Leaves
9.Innipi (N)
10.Hurricane
11.Born To Be Wild
12.Deathco Island
13.(Here Comes) SUN'n' JOY
14.Eve
encore
15.新曲
昨年のアルバムリリース前には渋谷のWWW Xでもライブをやっているが、都内でのライブ自体がそもそもまだ希少(バンドは今は北海道を拠点にしており、このツアーの追加公演のファイナルも北海道である)であるだけに平日とはいえチケットは完売で、開演ギリギリに客席内に入ると係員から前や奥に詰めてくれというアナウンスが入るほど。それくらいにみんなこのバンドのライブを観たいと思っているのだろうし、きっとキャパ的にもこの日が初めてこのバンドのライブを見る日だという人もいたんじゃないかと思う。
そうして超満員の中、開演時間の19時を過ぎたところで場内が暗転して客席から拍手が起こり、メンバーがステージに現れる。光村はジャケットがどこかフォーマルに見える出で立ちであり、その光村を取り囲むようにメンバーがステージ上でぐるっと円になるような並びはこの5人ならでは。
光村がアコギを持つと、ゆったりとした空気が流れるようにメンバーが音を重ねていき、それがバンドの拠点である北海道の雪に覆われた情景を想起させる「Yowamushi」でスタートする。櫛野啓介(ギター)は早くも光村のボーカルにコーラスを重ね、キャップを被った姿がおなじみになりつつある佐藤慎之介(ベース)がグルーヴの土台を作り、そこに鳴橋大地(ドラム)のリズムと、どちらかというとエフェクターを駆使したりという飛び道具を使う側のギタリストである吉澤幸男の音が重なっていく。結論から言うと基本的にツアーであるために内容はほとんど変わらないので、詳細は1月の横浜のライブレポも参考にしていただきたい。
(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1151.html?sp)
なのでイントロから佐藤のベースのサウンドでグルーヴを生み出す「New Moanin'」と続くのも同じ流れであるが、そのバンドのグルーヴがより強靭なものになっているのが実によくわかる。本数は少ないながらもライブという場で演奏することによってバンドだけではなく曲も育っているということがハッキリとわかるような。それはこの曲からはエレキを弾きながら歌う光村の歌唱もそうであり、NICO時代からあんなに凄かった歌がさらに進化できるのかとすら思ってしまうくらいに伸びやかである。
そんなZIONはアルバムをリリースしたばかりであるが、すでにライブでは新曲を演奏している。それはリリースをした後も自分たちのスタジオで曲作りやセッションを継続しているということであるが、これまでのライブでも観客を驚かせていたのがこの序盤で演奏された新曲「Rinco」である。爽やかなメロディに乗って
「君をさらいたいよ」「真夏の太陽」
という韻を踏んだ歌詞が光村の伸びやかな歌唱によって歌われる、アルバムの中にはないタイプの曲。この曲を聴くと北海道にも太陽が照りつける夏が確かにやってくるんだよなとと思うし、そのシチュエーションで言うならはRISING SUN ROCK FESTIVALのSUN STAGEで鳴らされるのを見てみたいところであるし、光村の変わらぬメロディメーカーっぷりを感じさせてくれる曲でもある。
そんな光村はここでギターを下ろしてハンドマイクになるのだが、その光村が煽るまでもなく、佐藤のうねるようなベースのリズムに合わせて観客が手拍子をし、吉澤もその佐藤のベースに合わせて踊るような仕草を見せてから始まるのは光村が指揮者のようにメンバーの演奏をコントロールしてキメを連発する「Setogiwa」なのであるが、この曲での光村のスキャット的な歌唱も体も心も震えるくらいに本当に素晴らしいし、それはやはり横浜で見た時よりもさらに凄まじさを増しているのがハッキリとわかる。バンドのグルーヴがより強くなったことによって、そこに乗る歌唱も強くなるというのは当然のことであるが、この聴いた瞬間に誰のものかすぐにわかるような光村の声が今も最高と最強を更新し続けているというのが本当に頼もしいし嬉しくなる。
バンドのMC担当の佐藤が
「ツアー、本当に一瞬でした。こうやって東京でライブをするのも9ヶ月ぶりとかなんですけど、本当に楽しみにしてました。最後まで楽しんでいってください」
と実にシンプルに、実直な性格を感じさせる挨拶をすると、そこから光村もギターで参加してセッション的なインストの演奏が始まる。ここまでは曲間を繋ぐようなライブアレンジによってライブが進んできたが、このバンドはこうしてライブ中にもさらにグルーヴを練り上げている。
そうした演奏から続くのは光村のメロディメーカーっぷりを最大限に感じられる、
「恋は幻」
というサビを締めるフレーズのインパクトが抜群な「Shield」であるのだが、ライブで聴くことによって後半に鳴橋のリズムが一気に倍に加速するように細かく刻まれるけれど、曲全体としてのリズムは速くなったようには感じられないという、ただ良い曲なのではなくて、そこに独特の違和感を忍ばせるというあたりがさすが光村のバンドである。
それはこのバンドの1番濃い面、深い面を見せるかのように曲中にもセッション的な演奏が行われて長尺になる「Jigsaw」もそうであるというのは、光村のルーツであるブルース的なサウンドと歌唱の曲であるにも関わらず、アウトロでは吉澤がタッピングギターを鳴らしまくっているからである。そのブルースとハードロックの融合と言えるようなアレンジと演奏は光村とこのメンバーによるバンド、ZIONだからこそのものである。そうした発見は前回のライブでは見落としていた部分かもしれないし、NICO時代にも曲にアレンジを施しまくってファンを驚かせていた光村の良い意味での飽き性的な部分が出ているのかもしれない。
新曲2曲目は疾走感を感じられる、やはりアルバムの中にはなかったタイプのロックナンバーであるのだが、その歌詞はよく聞くと
「若い芽は若いうちに摘め」
的なフレーズなんかもあるあたり、光村の捻くれた感性が炸裂しているものであるとも言える。とはいえこのサウンド、ジャンルの振れ幅はやはり新人バンドらしからぬものであり、ZIONがそうしたものを飛び越える存在のバンドであるということを感じさせてくれるのである。
すると曲間では鳴橋、吉澤、佐藤の3人が一旦ステージ袖に捌けていき、前回の時にはなかった展開に「?」と思っていると光村が
「次の曲は啓ちゃん(櫛野)と2人でやってみたいと思います」
と言い、光村がアコギで弾き語り形式で歌い始めたのは、前回のライブでは演奏されなかった「Leaves」であるのだが、櫛野は光村の1本のマイクを2人で挟むようにしてコーラスをするという形で参加。それはこの形が今のこの曲をライブで演奏する最適解なのかもしれないけれど、この形を見るとかつてNICOが河口湖ステラシアターでワンマンをやった時に対馬祥太郎とこうして1本のマイクで歌っていたな…なんてことを思い出してしまう。それは光村がやっていたバンドが今でも忘れられないくらいの景色や光景を我々に見せてきてくれたからである。
そんな光村と2人で歌う櫛野はここまでにも様々な曲で最もコーラスを重ねているメンバーでもあるのだが、3人がステージに戻ってくると、その光村と櫛野のギターが重なり合うことによって始まるのはインスト曲の「Innipi (N)」であり、歌詞や言葉がなくてもそこに重なる吉澤のものも含めた3本のギターの音がやはり北海道の雪景色を想起させる。それがどこか羽ばたいていくかのようにグルーヴを高めていく佐藤と鳴橋のリズムによって、我々聴き手が空を飛翔しながらその北海道の景色を眺める鳥になったかのような感覚にさせてくれる。それは間違いなくこの5人で北海道で音を鳴らしているからこそ生まれてきたものである。
その「Innipi (N)」から繋がるように演奏されたのはアルバムの先行曲として世に放たれた「Hurricane」であるのだが、曲始まりでは佐藤がシンセベース、鳴橋がデジドラという形でリズムを鳴らしており、ZIONの中でも爽快なロックンロールと言えるようなこの曲が実はデジタルサウンドを最も取り入れた曲であるということがライブだと視覚的によりよくわかる。しかもその曲で光村は高らかに
「まだ歌っていたいよ」
と声を張り上げる。まだライブで聴くのは3回目だけれど、この曲を聴くといつも「まだ歌うことを選んでくれて本当にありがとう」と思う。それくらいにやはり光村のものでしかないこの声をここにいた人たちは必要としている。その声で歌う音楽じゃないと感じられないものがあることをわかっているからだ。
佐藤がMCで言っていたのだが、このツアーは横浜の時はまだだったが、ツアーの途中から観客が歓声を出すことができることになった。その観客の歓声というものを最も感じさせてくれるのが、櫛野がステージ前に出てきてギターを掻き鳴らしてから始まる、ステッペンウルフ「Born To Be Wild」のカバーという、誰もが聴いたことがあるだろう曲。そのサビでハンドマイクの光村はマイクを客席に向けて観客に歌わせるのであるが、佐藤と櫛野もコーラスをするだけにそこに重なっているという感じの観客の歓声になる。
それぞれにバンド歴はあるメンバーたちであるが、こうしてZIONのライブで観客の声が聞こえるようになったというのは声を出してはいけなかった時とどれくらい違うように感じられるのだろうか。正直、バンドの曲としては観客が一緒に歌えるような部分はまだ皆無と言えるのだが、これから先にはそうしてみんなで歌える曲も生まれたりするのだろうか。それは案外こうしたライブでの経験によって生まれてくるものなのかもしれないとも思う。
その「Born To Be Wild」に続いて、イントロでシェイカーを振りまくる光村を筆頭に真っ赤な照明がメンバーを照らす光景が、この曲でのバンドの燃え盛るようなグルーヴを可視化しているかのように思えるのは「Deathco lsland」であり、NICO時代からの光村のバンドグルーヴの最高到達点とすら言える曲だ。もちろんそれを引っ張るのは佐藤のベースであるのだが、MCを聞いていてもかなり天然な感じがするこの男の存在はこのバンドにとって実に大きいし、やはりそれは横浜の時以上に強く感じられるものになっている。観客も腕を上げたり、曲が終わると歓声を上げたりするのもそのバンドのグルーヴにダイレクトに反応しているからだ。
そんなグルーヴの化身と言えるような曲から一転するように、薄暗く照らされたステージに仄かな光が照らされる中でタイトルフレーズのリフレインを光村が繰り返し、メンバーの鳴らす音もその歌唱を支えるようにして厳かに鳴らされるのは「(Here Comes) SUN'n' JOY」というアルバムタイトルと言っていい曲であり、そのゴスペル的な歌唱は北海道の自然の豊かさや凍てつくような寒さを音で表現していると言えるだろう。
その「(Here Comes) SUN'n' JOY」は次の曲へのインタールードを担っている曲であるとも言える。その曲はバンド始動時に先行でリリースされたうちの1曲である「Eve」なのであるが、じっくりと音を重ねていくような滋味深い演奏も、しっかりと気持ちを込めて歌う光村の歌唱も、まるでこの曲が今のZIONというバンドであるということを示すかのよう。そこにはやはりどうしたって音から情景が浮かんでくるというのもあるのだが、時にファルセットを駆使しながらも、最後にはその美しく強い歌声で思いっきり歌い上げる光村のボーカルを聴いていると、こうしてこのバンドを始めてくれて、また我々の前に立って歌うことを選んでくれて本当にありがとうと思う。ある意味では光村という人間の持つ音楽的素養を、何の縛りもしがらみもなく最大限に発揮できるのがこのZIONというバンドなんじゃないかと思うくらいに。
アンコールではライブでおなじみの佐藤による手紙の朗読が「北の国からのテーマ」が流れながら始まるのであるが、この日は渋谷出身の吉澤の母親がライブを見に来ているということで、その母親に宛てた内容に。
元々は櫛野と一緒に音楽活動をしていた2017年頃に櫛野が
「ヤバいギタリスト見つけた!ギター弾いてるのは見たことないけど!」
という意味不明な理由で吉澤に目をつけたことによって3人で活動するようになり、そこに光村と鳴橋が合流する形でこのバンドが始まったというところから始まり、メンバー紹介では佐藤がそれぞれの誕生日と、同じ誕生日の有名ミュージシャン
櫛野:マドンナ
光村:エイミー・マン
吉澤:ロバート・プラント
鳴橋:デーモン小暮閣下
佐藤:B.B.キング
であることを紹介して吉澤母への手紙とし、告知として5月から3ヶ月連続でバンドの本拠地スタジオであるホワイトハウスから発送する形で新曲をリリースすることを発表。完全予約商品という、このライブに来てすぐに申し込んだ人しか買えない(自分は無事に買えた)という形には賛否あるだろうけれど、発表の後に光村が佐藤に耳打ちをすると、
「今日の日付変わる時間に「Hurricane」と「Eve」がサブスクでも解禁されます」
と発表したあたり、完全にこうしてライブに来るコアリスナーだけに向けた活動やリリースになるということでもなさそうである。
佐藤はそのMCでZIONを「ワールドワイドなロックバンド」と口にしていたが、それが本音であるかどうかはわからないが、もしそうならまだまだ入り口や間口が狭すぎるな、とも思うけれど、光村はメジャーシーンのど真ん中で10年以上活動してきた。武道館でも3回もワンマンをやった。ある意味ではそうした、リリースしてタイアップがついてフェスに出まくって…という活動はもう経験している。そこには自分たちの活動には把握できないくらいにたくさんの人が携わっていたことも。
それを経験したからこそ、活動形態としては真逆に、閉じていると思われても仕方がないくらいに自分たちで流通なども行い、自分たちで全ての活動を運営していくというのは個人的には合点がいくところではある。それがワールドワイドに繋がるには果てしなく遠い道のりであるとも思うけれど、「あのNICO Touches the Wallsの光村龍哉の新バンド!」とド派手かつどでかく宣伝しまくってテレビで流れまくって…という形でデビューしていたらきっとまた近い将来に同じように終わってしまうし、そうした場所に適した音楽ではない、ただ自分たちと暮らす場所から湧き上がってくる音楽を一生鳴らし続けていたい。そんな意思をこのZIONの活動から自分は感じているからだ。
それは最後に演奏された、光村がアコギを弾きながら歌う、ミドルテンポの新曲からも感じられる。一聴すると地味なようにも感じられるし、まだ歌詞などの全貌はわからないけれど、それでも一歩ずつこのバンドで前に進んでいくことを示すような意思がこの曲には確かに感じられる。3ヶ月連続リリースの中にこの曲があるのかはわからないが、それでもZIONはまたこうしてすぐに我々の前に立って音を鳴らし、新たな曲を聴かせてくれるはずだ。
それはバンドがライブを心から楽しいと思っているからこそ、わずか2ヶ月でこんなにもさらに進化したと感じられるライブを見せてくれるのであるし、演奏が終わった後にステージ前に並んで観客に頭を下げるメンバーの姿からも感じられるものだった。本当に素晴らしいバンドが日本の音楽シーンに誕生した。
そう思うからこそ、こうしてツアーに行って、追加公演にまで足を運んでいる。いくら好きなバンドのボーカルだった男の新しいバンドとはいえ、曲とライブが良くなかったら平日に仕事終わりに何回もライブを観に行こうとは思わない。NICOの曲をもうライブで聴けない、光村以外の3人に会う機会がないのは寂しいけれど、今はNICOが活動終了してからの日々で1番ワクワクしている。これからこのZIONがどんな曲を生み出して、どんな景色を目でも脳内でも見せてくれて、どこまでそのグルーヴを研ぎ澄ませることができるかという未来を楽しみにできるからだ。そう思わせてくれるバンドを作った光村龍哉の凄さを本当の意味で、NICOをやっていた時よりも実感できる日がこれから何度だって訪れる予感がしている。
1.Yowamushi
2.New Moanin'
3.Rinco
4.Setogiwa
5.Shield
6.Jigsaw
7.新曲
8.Leaves
9.Innipi (N)
10.Hurricane
11.Born To Be Wild
12.Deathco Island
13.(Here Comes) SUN'n' JOY
14.Eve
encore
15.新曲
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