Panorama Panama Town presents 「渦:渦 Vol.3」w/ Ivy to Fraudulent Game @新代田FEVER 2/25
- 2023/02/26
- 18:58
自身の主催フェス「パナフェス」や下北沢でのマンスリー対バンライブなど、同世代、後輩などあらゆるバンド、アーティストとの対バンを重ねまくっている、Panorama Panama Townの2マンライブシリーズ「渦:渦」。
今回は東阪での開催で、東京は新代田FEVERでの2days。前日は注目の若手オルタナバンド・鉄風東京を迎え、この2マンシリーズファイナルとなるこの日はIvy to Fraudulent Gameを迎えての開催。前日も見たかったところであるが、今回はこのファイナルに参加。
開演前には「カーマは気まぐれ」「ラジオスターの悲劇」などの懐かしの海外のヒット曲が流れているが、ほぼほぼ満員になっているあたりはさすが今やZepp規模でワンマンを行っているIvyとの対バンである。
・Ivy to Fraudulent Game
開演時間の18時ピッタリになると場内が暗転してSEが流れる。ゲストのIvy to Fraudulent Gameの登場である。昨年にギターの突然の脱退があって3人になったが、ircleの仲道良をサポートギターに迎えての4人編成というのは昨年末に見たCOUNTDOWN JAPANの時と変わらない。
この日も長身痩躯な体型に白シャツという爽やかな出で立ちの寺口宣明(ボーカル&ギター)が挨拶するとライブが始まる高鳴りが旅をするそれと重なるような、オープニングに実にふさわしい曲である「旅人」からスタート。金髪にピアスを多数装着しているライブキッズ的な見た目がずっと変わらないカワイリョウタロウ(ベース)が早くもその場で飛び跳ねながらベースを弾く一方で、作詞も手掛ける長髪ドラマー福島由也はバンド全体をしっかりコントロールするかのように冷静にビートを刻んでいる。このそれぞれが全くバラバラなように見える個人が一つのロックバンドとして音を重ねているというのがやはり実に面白いところである。
つい先日に3人になってから初めての新曲となる「B.O.Y.」を配信リリースしており、それが早くも演奏されると、音源ではデジタルサウンドの要素が強く感じられたのが、ライブだと完全にギター、ベース、ドラムというロックバンドでしかないものになっており、照明と相まってそれがこの曲のテーマである蒼さをより強く感じられるようになっている。ほとんどの人がライブで初めて聴く新曲でありながらも手拍子が起こるのは曲がキャッチーである証拠である。
しかしながらきっとこのバンドを観たくて来たという観客もいたのだろう、昨年リリースのアルバム「Singin' in the NOW」収録の、タイトル通りに疾走感溢れる「オーバーラン」では観客が腕を挙げて飛び跳ねまくっており、ゲスト側とは思えないくらいのホーム感を感じる盛り上がり。それはやはりカワイがステージ上で飛び跳ねまくっている熱量が、ステージと客席の距離が近いライブハウスであるがゆえにダイレクトに伝わっているのだろう。とかく寺口の見た目から端正なバンドというイメージを持たれがちであるが、こうしてライブを観るとむしろ泥臭いと言っていいくらいのロックバンドであるということがよくわかる。
そんな寺口はこの日の観客があまりに元気が良すぎることに驚きつつも、
「リハやってる時に岩渕があの細長い感じでやってきて(笑)あいつは人と話すのが苦手だと思うんだけど(笑)、俺たちのリハ始まったらすぐにいなくなったから、「ラーメンでも行ってきた?」って聞いたら「あ〜、まぁ、そう」って絶対行ってないのにそう答えてて。だから俺は嫌われてるのかな?って(笑)」
と同世代であるPanorama Panama Townの岩渕とのやり取りについて語って笑わせるのであるが、バンドマン同士でもそんな感じなのか、という意外性もあり、同じようなタイプとして親近感もあり。ステージ上で話していたり歌っている姿からはそういうイメージはあまり抱かないのであるが。
そんなMCの最後に寺口が
「久しぶりにライブでやる曲」
と言って演奏されたのは「B.O.Y.」の爽やかな青さとはまた違う、深い海中に潜るかのような青い照明に照らされる中で演奏された「she see sea」であり、
「別にパノパナとやるから演奏するってわけじゃないから(笑)」
と寺口は言っていたが、これまでの曲よりもはるかに構築感の強いバンドサウンドで、言うなればcinema staffの影響なんかも感じるのだが、それはこの新代田駅のすぐ近くにcinema staffの辻が経営している店があったりするからなんだろうか。
「She
お前はこの世で1番愛おしい
今の僕にとっては
Sea
お前はこの世で1番美しい
今の彼女にとっては」
という、このサビだけで物語や背景を描き出させるような歌詞を描く福島の文才っぷりはいずれ彼は作家として世の中に評価される日が来るんじゃないかと思うほど。その文に宿る切なさが寺口の儚さを含んだ低いキーの歌声によってさらに引き出されているのはこのバンドであるからこそのバランスである。
その「she see sea」のアウトロで仲道がギターを取り替えると、そのまま福島がリズムキープしてシームレスに「東京」へ繋がるというライブアレンジも実に巧みである。それはもちろんバンドの、メンバーの技術があるからこそできることであるが、違う種類の「切なさ」をこの2曲で繋いでみせるという点も。数々のミュージシャンがテーマにしてきた「東京」をこのバンドが歌うことによって感じるのは旅立ち、別れの切なさである。それを実感する季節がもう近づいて来ているということを改めて感じさせてくれる。
こうした曲を長髪を振り乱しながら完璧に弾きこなす仲道の献身っぷりも本当に素晴らしいものがあるのだが、「Singin' in the NOW」の1曲目を担う「泪に唄えば」では最後のサビでカワイ、福島とともに仲道もコーラスを担う。その仲道のギターとコーラスによって、単なる3人+サポートギターという歪な形ではなくて、この4人でのロックバンドとしてのライブになっている。この辺りはさすが魂のロックバンドにして、ジャパニーズロックの救世主であるircleのギタリストであるが、この曲の締めの
「僕らは生かし生かされてる」
というフレーズは本当にその通りだと思う。音楽にまつわることでどれだけ悲しい思いをしたとしても、結局は音楽によって生きる力を貰って生かされているのだ。だからどんなことがあっても音楽を聴くこと、ライブを見ることはやめられないんだ。
意外にも寺口はこのFEVERに出るのが初めてであることを語るのであるが、観客としてはZAZEN BOYSとLOSTAGEの対バンを見に来たりしていたらしく、こうしてここでライブが出来たことの喜びを口にすると、
「あなたはあなたのままでいい。自分の感じたまま、自分の感情のままで」
と観客に語りかける。それは実はこの後のパノパナのライブで岩渕が口にしたことと全く同じことなのであるが、それは同世代だからというんじゃなくて、両者の精神が通じているからこそこうして対バンしている必然性を感じさせるものだった。
そんな寺口がギターを置いてハンドマイクを手にすると、カワイが手拍子を煽るようにして福島のリズムに合わせて場内で一面の手拍子が起こる「革命」へ。
「飼い慣らせ不安をこの歌で
飼い虚栄に手を噛まれたって」
というサビのフレーズでは寺口がマイクを口から離すようにすると、客席からは合唱が起こる。決してみんなで歌うことによってライブが成立するというタイプのバンドではないけれど、こうしてお互いの存在を確かめあってきたんだなということはわかる。その光景がまさにこの歌で不安を飼い慣らしてくれるのである。
寺口が再びギターを手にすると、「オーバーラン」や「泪に唄えば」とともに「Singin' in the NOW」の中からすでにライブの定番曲となっている「オートクチュール」が演奏され、やはりバンドの姿はソリッドかつアッパーなギターロックバンドと化していく。何よりも締めの
「特別なことが今日もある訳では無いんだけれど
貴方のその笑顔が今日も綺麗だな」
というフレーズを全く嫌味なく寺口に歌わせてしまう福島の詩才はやはりとんでもないものがある。それがこうしてこの日を特別な日だと思って笑顔になっている観客のためのものになっているところも含めて。
そして最後に演奏されたのはやはり「Mement Mori」。まぁ間違いなく演奏されるというか、自分が見たライブでは毎回やっている曲である。でもやっぱりこの日聴いたこの曲の
「生きる為生きていたってさ
いつかは死んでしまうから」
という歌詞が今までとは全く違うように響いたのは前日も含めて、大切な人がいなくなってしまうような報道があまりに多くなってしまったからだ。だからこそ、こうしてこの曲をバンドが目の前で鳴らしているのを今自分が聴けていることの尊さを実感せざるを得ないし、寺口が最後のサビ前に
「生きてるかい!?」
と問いかけてきたときにはどうしようもないくらいに生の実感を感じられた。それは曲が終わる瞬間に
「俺たちがあなたのためのロックバンド、Ivy to Fraudulent Gameです!」
という言葉通りに、このバンドが本当の意味で自分のためのバンドになった証明だった。
寺口は大晦日のCDJの大きなステージに立った時に、
「ここに来るまでの車の中で今年1年のことを思い出したら泣いちゃって。だからずっと寝てるフリをしてた」
と、隠すことなく自身の弱い部分を曝け出していた。それはこの日のMCで口にしていた言葉そのままだ。カッコいいバンドだけれど、完璧な人間じゃない。我々と同じように楽しい時は楽しいと感じ、悲しいことがあれば同じように落ち込んでしまう人間。それが音楽に、ステージにそのまま出ているバンドだと思うからこそ、彼らの曲をもっとたくさん浴びに行きたいと思う。
そうやって僕等は一つ一つを乗り越えながらも生きている。
1.旅人
2.B.O.Y.
3.オーバーラン
4.she see sea
5.東京
6.泪に唄えば
7.革命
8.オートクチュール
9.Memento Mori
・Panorama Panama Town
そしていよいよPanorama Panama Townがこの対バンライブのファイナルを締めるべくステージへ。SEはもちろんおなじみのSuede「Beautiful Ones」で、このSEが鳴る瞬間はいつもNANO-MUGEN FES.やサマソニで見たSuedeのライブを思い出す。昨年は下北沢のBASEMENT BARをメインにたくさんライブを見たパノパナを2023年に初めて見るライブである。
「よろしく!」
とこちらも白シャツにネクタイとジャケットというフォーマルな出で立ちの岩渕想太(ボーカル&ギター)が挨拶すると、その瞬間にサポートドラマーのオオミハヤトも含めた4人が音を確かめるように、しかし爆音で重ね合うようにするとそれが徐々に「King's Eyes」のイントロへと輪郭を立ち上らせていく。そうしたライブならではのアレンジも含めて、いつも通りに飄々としたポーカーフェイスでありながらも一度耳にしたら離れなくなる印象的なリフを鳴らしまくる浪越康平(ギター)、身体の躍動っぷりがそのまま音となりグルーヴになっているタノアキヒコ(ベース)のメンバーによる演奏と音が、去年から小さなライブハウスで対バンライブなどをやりまくってきた成果として発せられている。
それは「100yen coffee」でもそうなのであるが、「Faces」の曲に音源を何倍も超えるような熱量とグルーヴを注ぎ込んでライブで鳴らせるようになったことによって、曲のイメージやポテンシャルはもちろん、客席のリアクションもガラッと変わった。リリース当時はどちらかというとクールなギターロックへと舵を切ったのかとも思っていたけれど、そんな曲たちが真価を発揮するかのようにグルーヴィーに、熱く鳴らされているのは間違いなくライブで演奏しまくってきたことによって曲が育ってきたからだ。その成長っぷりは小学生が一気に高校生になったかのような豹変っぷり、急進化っぷりである。
しかしそんなアルバム「Faces」もリリースは2021年11月ということで、もう1年半くらい経過している。未だにそれ以降のリリースはないが、バンドはライブでは新曲を披露していて、実際にこの日も早くもここで新曲が演奏されたのだが、その新曲はどこかニューウェーブの要素も感じるような、ダークなダンスロックサウンドで、岩渕の「猿真似」というフレーズを軸にして韻を踏んでいく歌詞が印象的な曲でもあるのだが、自分が知らない間に実はすでにリリースされていたんだろうか、と訝しんでしまうくらいに新曲とは思えないくらいにサビで観客の腕が上がり、飛び跳ねまくっている。それはこの曲がそれくらいの即効性を持った曲であるということである。
「さっき宣君(寺口)が言ってたけど、人と会話するのが苦手なので、いつも本当:8、嘘:2くらいの感じで話してしまう…」
という実に素直極まりない岩渕の挨拶を兼ねたMCから、やはり浪越のギターのリフとサウンド、さらには岩渕のタイトルフレーズのリフレインがクセになる「Algorithm」から、もうサポートと言えないくらいのレベルでバンドの演奏やグルーヴを力強いビートで牽引するオオミのドラムがタノのベース、岩渕と浪越のギターをも強力なものにしていく、この4人だからこそ(オオミはメンバーの学生時代からの友人である)のグルーヴが炸裂して曲をさらに輝かせる「Faceless」と、やはり「Faces」の収録曲を連発するのは当然なのである。それは今こそこの曲たちを最高に輝かせる演奏、ライブができるからである。
そんな中で「大事な曲」と言って演奏された「Knock!!!」は最初は静謐に始まるものの、曲中に一気に迫力と音圧を増していくという、1曲の中で静と動を同居させている曲だ。そのアレンジも今のバンドの状態と表現力だからこそよりその曲中のメリハリを感じられるものになっている。個人的にはやはりオオミのドラムがよりバンドの中に溶け合ってきていることによってそう強く感じられるようになっていると思うし、その演奏の強さがバンドがこれから新しい扉をノックしていこうとする意志を強いものとして感じられる。
そんな中で演奏されたもう1曲の新曲「Bad night」はすでに昨年からライブで何度も演奏されている、つまりはライブで練り上げられ、成長させてきたというライブハウスで生きるロックバンドだからこその新曲であるが、やはりそうしてライブで鳴らされてきたことによって、ダークな雰囲気のダンスロックサウンドが、ただ踊れるリズムというだけではなくて、強靭なグルーヴによって体が自然と動いてしまうというレベルのものになっている。リリース→ライブで鳴らして完成という通常の流れではなくて、すでに完成系と言える状態であるだけにリリースされてから演奏されたらよりとんでもない化け方をするような予感がしている。
そんなバンドサウンドを獲得しているからこそ、ここまでの曲の中では初期と言っていいくらいになる「ラプチャー」の演奏も実に粘り強いグルーヴを感じさせてくれるものになっている。それは岩渕の巻き舌も強く含んだボーカルによって感じられるところもあるだろうけれど、バンドのグルーヴが進化したことによって過去の曲もまた違った進化を果たしている。「ラプチャーの」という間奏前のタイトルフレーズでは岩渕が観客に合唱を促してそれが広がっていき、岩渕はステージ前に出てきてその客席を眺めているという実に懐かしい光景が戻ってきているのは実に感動的である。ライブハウスに立ち続けてきたバンドと、そこに通い続けてきた観客がいるからこそ。
すると岩渕は今回Ivyを呼んで2マンをすることにした理由について、
「同世代だけど今まであんまりちゃんと2マンでやったことがなかったんだけど、去年Ivyが3人になった直後に神戸で対バンして。その時に宣君が
「俺は悲しいこととか辛いことも隠さずに口にする」
的なことを言ってて。確かに感情を隠していつもカッコつけてるのって嘘をついてることになるなって思って。
俺も最近個人的に悲しいこととかもあったりして。でもそういう悲しいっていう感情を隠したり蓋をしたりしなくていい。あなたが今抱えている感情をそのまま持ったままでいてください」
と言うのであるが、それは先ほどの寺口のMCとやはり全く同じ内容であった。互いにモデルもできそうなくらいのスタイルや見た目を持ったフロントマンでボーカリスト同士という以上に、そのフロントマンとしてどんな人間としてステージに立つべきかという精神性こそがこの両バンドの共通点であり、だからこうして対バンしているということがよくわかる。その悲しいことを感じざるを得ないことが最近立て続けにあっただけに、岩渕のその言葉をよりリアルに感じてしまうのだ。
そんな言葉の後だからこそ、「SO YOUNG」の轟音の中から立ち上がってくるギターフレーズと、鬱屈した感情までをも放出するかのような岩渕のボーカルは精神的な若さを感じさせるような躍動感に満ちていた。それゆえに岩渕が時折歌い切るのがキツそうな部分もあったのだが、それこそが若さ、蒼さを感じさせるような要素にすらなっているし、どこかこの曲が今まで以上にアンセム的な光すら感じさせてくれる。
そしてクライマックスはまさにタイトル通りに音がこの会場から溢れていきそうなくらいに激しく鳴らされる「氾濫」で、浪越のギターはよりノイジーにラウドになり、どこか弾いている表情も豊かになり、タノの動きもさらに激しいものになることでグルーヴがより強くなっていく。間奏ではリズムに乗って手拍子も起こるのであるが、その後にはよりたくさんの腕が上がるようになり、バンドの熱さがやはりダイレクトに届いている。それによって会場全体の熱量がさらに増してきているのがわかる。
そのグルーヴが最高潮に達するのはタノがサングラスをかけるということはこの曲が演奏される合図である「Rodeo」であり、クールなギターロックサウンドというような近年の作品や曲のイメージが吹っ飛ぶようなあまりの熱さ。もちろんタイトルフレーズではメンバーも観客も一斉に声を合わせて歌う。この熱さ、カッコ良さをなんとかたくさんの人に知らしめることはできないものだろうかと思うくらいに、やはり今のパノパナはこうした曲の力を100%どころか200%以上発揮できるバンドになっている。こうやってライブハウスでライブを繰り返すということがカッコいいバンドであり続けられることであるというのを証明するかのように。
そんなライブの最後に演奏されたのは、ニューウェーブやマッドチェスター的な浪越のギターサウンドのリフレインが癖になる「Strange Days」であり、ステージを照らし出す淡い照明がサビでパッと明るくなるという演出が、どこか熱狂の夜を越えて新しい朝が訪れることを表現しているかのようだった。それはそのまま
「君と出会ってしまって
走り出したストーリー
分からないやつなんて全部放っといて」
というフレーズの通りに、ここからまた新たなパノパナのストーリーが始まっていくことを予感させるようなライブだった。
アンコールで再びメンバーが登場すると、岩渕が時間がないながらも3月1日についに「Bad night」を配信リリースすることを発表し、さらには3月4日に下北沢でオールナイトのライブを開催することを発表。昨年もそうしたライブを行ってきたが、そうしてライブを積み重ね、対バンと交わってきたことは間違いなくバンドの力になっている。だから今年もそうしたライブをやっていくのだろうし、
「もうやりたいことしかやらないから」
という言葉が実に頼もしく感じられたのだった。
そんな告知の後には
「まだやってない、カッコいい曲がある」
と言ってイントロが鳴らされた段階でバンドも観客も高鳴らざるを得ない「MOMO」へ。この日は全く見せていなかった、岩渕の捲し立てるような早口ボーカルがミクスチャー由来のファンキーなサウンドとグルーヴに融合する、これぞパノパナと言えるような曲。それはフェスのオープニングアクトなどでシーンに登場した時に「これはとんでもないバンドが出てきたな」と思わざるを得なかった部分であるのだが、それは今間違いなくあの頃よりもさらに強くなっている。
コロナ禍になって悔しい思いもたくさんしてきたけれど、それでも折れずに進み続けてきたからこそのバンドの強さ。それを1番感じられるのは間違いなく今だ。この感覚がどうか今年はもっとたくさんの人に伝わって欲しい。今年初めて見たパノパナのライブはそんなことを感じさせてくれる、やっぱり今年もこうしてライブハウスでパノパナをたくさん見たいと思わせてくれるものだった。
悲しいことばかりでやるせなくなってしまうこともたくさんあるけれど、やはりライブの後に抱えていたこの日の自分の素直な感情は「楽しい」というものだった。それはライブハウスが、パノパナのライブが与えてくれたものなのである。
1.King's Eyes
2.100yen coffee
3.新曲
4.Algorithm
5.Faceless
6.Knock!!!
7.Bad night
8.ラプチャー
9.SO YOUNG
10.氾濫
11.Rodeo
12.Strange Days
encore
13.MOMO
今回は東阪での開催で、東京は新代田FEVERでの2days。前日は注目の若手オルタナバンド・鉄風東京を迎え、この2マンシリーズファイナルとなるこの日はIvy to Fraudulent Gameを迎えての開催。前日も見たかったところであるが、今回はこのファイナルに参加。
開演前には「カーマは気まぐれ」「ラジオスターの悲劇」などの懐かしの海外のヒット曲が流れているが、ほぼほぼ満員になっているあたりはさすが今やZepp規模でワンマンを行っているIvyとの対バンである。
・Ivy to Fraudulent Game
開演時間の18時ピッタリになると場内が暗転してSEが流れる。ゲストのIvy to Fraudulent Gameの登場である。昨年にギターの突然の脱退があって3人になったが、ircleの仲道良をサポートギターに迎えての4人編成というのは昨年末に見たCOUNTDOWN JAPANの時と変わらない。
この日も長身痩躯な体型に白シャツという爽やかな出で立ちの寺口宣明(ボーカル&ギター)が挨拶するとライブが始まる高鳴りが旅をするそれと重なるような、オープニングに実にふさわしい曲である「旅人」からスタート。金髪にピアスを多数装着しているライブキッズ的な見た目がずっと変わらないカワイリョウタロウ(ベース)が早くもその場で飛び跳ねながらベースを弾く一方で、作詞も手掛ける長髪ドラマー福島由也はバンド全体をしっかりコントロールするかのように冷静にビートを刻んでいる。このそれぞれが全くバラバラなように見える個人が一つのロックバンドとして音を重ねているというのがやはり実に面白いところである。
つい先日に3人になってから初めての新曲となる「B.O.Y.」を配信リリースしており、それが早くも演奏されると、音源ではデジタルサウンドの要素が強く感じられたのが、ライブだと完全にギター、ベース、ドラムというロックバンドでしかないものになっており、照明と相まってそれがこの曲のテーマである蒼さをより強く感じられるようになっている。ほとんどの人がライブで初めて聴く新曲でありながらも手拍子が起こるのは曲がキャッチーである証拠である。
しかしながらきっとこのバンドを観たくて来たという観客もいたのだろう、昨年リリースのアルバム「Singin' in the NOW」収録の、タイトル通りに疾走感溢れる「オーバーラン」では観客が腕を挙げて飛び跳ねまくっており、ゲスト側とは思えないくらいのホーム感を感じる盛り上がり。それはやはりカワイがステージ上で飛び跳ねまくっている熱量が、ステージと客席の距離が近いライブハウスであるがゆえにダイレクトに伝わっているのだろう。とかく寺口の見た目から端正なバンドというイメージを持たれがちであるが、こうしてライブを観るとむしろ泥臭いと言っていいくらいのロックバンドであるということがよくわかる。
そんな寺口はこの日の観客があまりに元気が良すぎることに驚きつつも、
「リハやってる時に岩渕があの細長い感じでやってきて(笑)あいつは人と話すのが苦手だと思うんだけど(笑)、俺たちのリハ始まったらすぐにいなくなったから、「ラーメンでも行ってきた?」って聞いたら「あ〜、まぁ、そう」って絶対行ってないのにそう答えてて。だから俺は嫌われてるのかな?って(笑)」
と同世代であるPanorama Panama Townの岩渕とのやり取りについて語って笑わせるのであるが、バンドマン同士でもそんな感じなのか、という意外性もあり、同じようなタイプとして親近感もあり。ステージ上で話していたり歌っている姿からはそういうイメージはあまり抱かないのであるが。
そんなMCの最後に寺口が
「久しぶりにライブでやる曲」
と言って演奏されたのは「B.O.Y.」の爽やかな青さとはまた違う、深い海中に潜るかのような青い照明に照らされる中で演奏された「she see sea」であり、
「別にパノパナとやるから演奏するってわけじゃないから(笑)」
と寺口は言っていたが、これまでの曲よりもはるかに構築感の強いバンドサウンドで、言うなればcinema staffの影響なんかも感じるのだが、それはこの新代田駅のすぐ近くにcinema staffの辻が経営している店があったりするからなんだろうか。
「She
お前はこの世で1番愛おしい
今の僕にとっては
Sea
お前はこの世で1番美しい
今の彼女にとっては」
という、このサビだけで物語や背景を描き出させるような歌詞を描く福島の文才っぷりはいずれ彼は作家として世の中に評価される日が来るんじゃないかと思うほど。その文に宿る切なさが寺口の儚さを含んだ低いキーの歌声によってさらに引き出されているのはこのバンドであるからこそのバランスである。
その「she see sea」のアウトロで仲道がギターを取り替えると、そのまま福島がリズムキープしてシームレスに「東京」へ繋がるというライブアレンジも実に巧みである。それはもちろんバンドの、メンバーの技術があるからこそできることであるが、違う種類の「切なさ」をこの2曲で繋いでみせるという点も。数々のミュージシャンがテーマにしてきた「東京」をこのバンドが歌うことによって感じるのは旅立ち、別れの切なさである。それを実感する季節がもう近づいて来ているということを改めて感じさせてくれる。
こうした曲を長髪を振り乱しながら完璧に弾きこなす仲道の献身っぷりも本当に素晴らしいものがあるのだが、「Singin' in the NOW」の1曲目を担う「泪に唄えば」では最後のサビでカワイ、福島とともに仲道もコーラスを担う。その仲道のギターとコーラスによって、単なる3人+サポートギターという歪な形ではなくて、この4人でのロックバンドとしてのライブになっている。この辺りはさすが魂のロックバンドにして、ジャパニーズロックの救世主であるircleのギタリストであるが、この曲の締めの
「僕らは生かし生かされてる」
というフレーズは本当にその通りだと思う。音楽にまつわることでどれだけ悲しい思いをしたとしても、結局は音楽によって生きる力を貰って生かされているのだ。だからどんなことがあっても音楽を聴くこと、ライブを見ることはやめられないんだ。
意外にも寺口はこのFEVERに出るのが初めてであることを語るのであるが、観客としてはZAZEN BOYSとLOSTAGEの対バンを見に来たりしていたらしく、こうしてここでライブが出来たことの喜びを口にすると、
「あなたはあなたのままでいい。自分の感じたまま、自分の感情のままで」
と観客に語りかける。それは実はこの後のパノパナのライブで岩渕が口にしたことと全く同じことなのであるが、それは同世代だからというんじゃなくて、両者の精神が通じているからこそこうして対バンしている必然性を感じさせるものだった。
そんな寺口がギターを置いてハンドマイクを手にすると、カワイが手拍子を煽るようにして福島のリズムに合わせて場内で一面の手拍子が起こる「革命」へ。
「飼い慣らせ不安をこの歌で
飼い虚栄に手を噛まれたって」
というサビのフレーズでは寺口がマイクを口から離すようにすると、客席からは合唱が起こる。決してみんなで歌うことによってライブが成立するというタイプのバンドではないけれど、こうしてお互いの存在を確かめあってきたんだなということはわかる。その光景がまさにこの歌で不安を飼い慣らしてくれるのである。
寺口が再びギターを手にすると、「オーバーラン」や「泪に唄えば」とともに「Singin' in the NOW」の中からすでにライブの定番曲となっている「オートクチュール」が演奏され、やはりバンドの姿はソリッドかつアッパーなギターロックバンドと化していく。何よりも締めの
「特別なことが今日もある訳では無いんだけれど
貴方のその笑顔が今日も綺麗だな」
というフレーズを全く嫌味なく寺口に歌わせてしまう福島の詩才はやはりとんでもないものがある。それがこうしてこの日を特別な日だと思って笑顔になっている観客のためのものになっているところも含めて。
そして最後に演奏されたのはやはり「Mement Mori」。まぁ間違いなく演奏されるというか、自分が見たライブでは毎回やっている曲である。でもやっぱりこの日聴いたこの曲の
「生きる為生きていたってさ
いつかは死んでしまうから」
という歌詞が今までとは全く違うように響いたのは前日も含めて、大切な人がいなくなってしまうような報道があまりに多くなってしまったからだ。だからこそ、こうしてこの曲をバンドが目の前で鳴らしているのを今自分が聴けていることの尊さを実感せざるを得ないし、寺口が最後のサビ前に
「生きてるかい!?」
と問いかけてきたときにはどうしようもないくらいに生の実感を感じられた。それは曲が終わる瞬間に
「俺たちがあなたのためのロックバンド、Ivy to Fraudulent Gameです!」
という言葉通りに、このバンドが本当の意味で自分のためのバンドになった証明だった。
寺口は大晦日のCDJの大きなステージに立った時に、
「ここに来るまでの車の中で今年1年のことを思い出したら泣いちゃって。だからずっと寝てるフリをしてた」
と、隠すことなく自身の弱い部分を曝け出していた。それはこの日のMCで口にしていた言葉そのままだ。カッコいいバンドだけれど、完璧な人間じゃない。我々と同じように楽しい時は楽しいと感じ、悲しいことがあれば同じように落ち込んでしまう人間。それが音楽に、ステージにそのまま出ているバンドだと思うからこそ、彼らの曲をもっとたくさん浴びに行きたいと思う。
そうやって僕等は一つ一つを乗り越えながらも生きている。
1.旅人
2.B.O.Y.
3.オーバーラン
4.she see sea
5.東京
6.泪に唄えば
7.革命
8.オートクチュール
9.Memento Mori
・Panorama Panama Town
そしていよいよPanorama Panama Townがこの対バンライブのファイナルを締めるべくステージへ。SEはもちろんおなじみのSuede「Beautiful Ones」で、このSEが鳴る瞬間はいつもNANO-MUGEN FES.やサマソニで見たSuedeのライブを思い出す。昨年は下北沢のBASEMENT BARをメインにたくさんライブを見たパノパナを2023年に初めて見るライブである。
「よろしく!」
とこちらも白シャツにネクタイとジャケットというフォーマルな出で立ちの岩渕想太(ボーカル&ギター)が挨拶すると、その瞬間にサポートドラマーのオオミハヤトも含めた4人が音を確かめるように、しかし爆音で重ね合うようにするとそれが徐々に「King's Eyes」のイントロへと輪郭を立ち上らせていく。そうしたライブならではのアレンジも含めて、いつも通りに飄々としたポーカーフェイスでありながらも一度耳にしたら離れなくなる印象的なリフを鳴らしまくる浪越康平(ギター)、身体の躍動っぷりがそのまま音となりグルーヴになっているタノアキヒコ(ベース)のメンバーによる演奏と音が、去年から小さなライブハウスで対バンライブなどをやりまくってきた成果として発せられている。
それは「100yen coffee」でもそうなのであるが、「Faces」の曲に音源を何倍も超えるような熱量とグルーヴを注ぎ込んでライブで鳴らせるようになったことによって、曲のイメージやポテンシャルはもちろん、客席のリアクションもガラッと変わった。リリース当時はどちらかというとクールなギターロックへと舵を切ったのかとも思っていたけれど、そんな曲たちが真価を発揮するかのようにグルーヴィーに、熱く鳴らされているのは間違いなくライブで演奏しまくってきたことによって曲が育ってきたからだ。その成長っぷりは小学生が一気に高校生になったかのような豹変っぷり、急進化っぷりである。
しかしそんなアルバム「Faces」もリリースは2021年11月ということで、もう1年半くらい経過している。未だにそれ以降のリリースはないが、バンドはライブでは新曲を披露していて、実際にこの日も早くもここで新曲が演奏されたのだが、その新曲はどこかニューウェーブの要素も感じるような、ダークなダンスロックサウンドで、岩渕の「猿真似」というフレーズを軸にして韻を踏んでいく歌詞が印象的な曲でもあるのだが、自分が知らない間に実はすでにリリースされていたんだろうか、と訝しんでしまうくらいに新曲とは思えないくらいにサビで観客の腕が上がり、飛び跳ねまくっている。それはこの曲がそれくらいの即効性を持った曲であるということである。
「さっき宣君(寺口)が言ってたけど、人と会話するのが苦手なので、いつも本当:8、嘘:2くらいの感じで話してしまう…」
という実に素直極まりない岩渕の挨拶を兼ねたMCから、やはり浪越のギターのリフとサウンド、さらには岩渕のタイトルフレーズのリフレインがクセになる「Algorithm」から、もうサポートと言えないくらいのレベルでバンドの演奏やグルーヴを力強いビートで牽引するオオミのドラムがタノのベース、岩渕と浪越のギターをも強力なものにしていく、この4人だからこそ(オオミはメンバーの学生時代からの友人である)のグルーヴが炸裂して曲をさらに輝かせる「Faceless」と、やはり「Faces」の収録曲を連発するのは当然なのである。それは今こそこの曲たちを最高に輝かせる演奏、ライブができるからである。
そんな中で「大事な曲」と言って演奏された「Knock!!!」は最初は静謐に始まるものの、曲中に一気に迫力と音圧を増していくという、1曲の中で静と動を同居させている曲だ。そのアレンジも今のバンドの状態と表現力だからこそよりその曲中のメリハリを感じられるものになっている。個人的にはやはりオオミのドラムがよりバンドの中に溶け合ってきていることによってそう強く感じられるようになっていると思うし、その演奏の強さがバンドがこれから新しい扉をノックしていこうとする意志を強いものとして感じられる。
そんな中で演奏されたもう1曲の新曲「Bad night」はすでに昨年からライブで何度も演奏されている、つまりはライブで練り上げられ、成長させてきたというライブハウスで生きるロックバンドだからこその新曲であるが、やはりそうしてライブで鳴らされてきたことによって、ダークな雰囲気のダンスロックサウンドが、ただ踊れるリズムというだけではなくて、強靭なグルーヴによって体が自然と動いてしまうというレベルのものになっている。リリース→ライブで鳴らして完成という通常の流れではなくて、すでに完成系と言える状態であるだけにリリースされてから演奏されたらよりとんでもない化け方をするような予感がしている。
そんなバンドサウンドを獲得しているからこそ、ここまでの曲の中では初期と言っていいくらいになる「ラプチャー」の演奏も実に粘り強いグルーヴを感じさせてくれるものになっている。それは岩渕の巻き舌も強く含んだボーカルによって感じられるところもあるだろうけれど、バンドのグルーヴが進化したことによって過去の曲もまた違った進化を果たしている。「ラプチャーの」という間奏前のタイトルフレーズでは岩渕が観客に合唱を促してそれが広がっていき、岩渕はステージ前に出てきてその客席を眺めているという実に懐かしい光景が戻ってきているのは実に感動的である。ライブハウスに立ち続けてきたバンドと、そこに通い続けてきた観客がいるからこそ。
すると岩渕は今回Ivyを呼んで2マンをすることにした理由について、
「同世代だけど今まであんまりちゃんと2マンでやったことがなかったんだけど、去年Ivyが3人になった直後に神戸で対バンして。その時に宣君が
「俺は悲しいこととか辛いことも隠さずに口にする」
的なことを言ってて。確かに感情を隠していつもカッコつけてるのって嘘をついてることになるなって思って。
俺も最近個人的に悲しいこととかもあったりして。でもそういう悲しいっていう感情を隠したり蓋をしたりしなくていい。あなたが今抱えている感情をそのまま持ったままでいてください」
と言うのであるが、それは先ほどの寺口のMCとやはり全く同じ内容であった。互いにモデルもできそうなくらいのスタイルや見た目を持ったフロントマンでボーカリスト同士という以上に、そのフロントマンとしてどんな人間としてステージに立つべきかという精神性こそがこの両バンドの共通点であり、だからこうして対バンしているということがよくわかる。その悲しいことを感じざるを得ないことが最近立て続けにあっただけに、岩渕のその言葉をよりリアルに感じてしまうのだ。
そんな言葉の後だからこそ、「SO YOUNG」の轟音の中から立ち上がってくるギターフレーズと、鬱屈した感情までをも放出するかのような岩渕のボーカルは精神的な若さを感じさせるような躍動感に満ちていた。それゆえに岩渕が時折歌い切るのがキツそうな部分もあったのだが、それこそが若さ、蒼さを感じさせるような要素にすらなっているし、どこかこの曲が今まで以上にアンセム的な光すら感じさせてくれる。
そしてクライマックスはまさにタイトル通りに音がこの会場から溢れていきそうなくらいに激しく鳴らされる「氾濫」で、浪越のギターはよりノイジーにラウドになり、どこか弾いている表情も豊かになり、タノの動きもさらに激しいものになることでグルーヴがより強くなっていく。間奏ではリズムに乗って手拍子も起こるのであるが、その後にはよりたくさんの腕が上がるようになり、バンドの熱さがやはりダイレクトに届いている。それによって会場全体の熱量がさらに増してきているのがわかる。
そのグルーヴが最高潮に達するのはタノがサングラスをかけるということはこの曲が演奏される合図である「Rodeo」であり、クールなギターロックサウンドというような近年の作品や曲のイメージが吹っ飛ぶようなあまりの熱さ。もちろんタイトルフレーズではメンバーも観客も一斉に声を合わせて歌う。この熱さ、カッコ良さをなんとかたくさんの人に知らしめることはできないものだろうかと思うくらいに、やはり今のパノパナはこうした曲の力を100%どころか200%以上発揮できるバンドになっている。こうやってライブハウスでライブを繰り返すということがカッコいいバンドであり続けられることであるというのを証明するかのように。
そんなライブの最後に演奏されたのは、ニューウェーブやマッドチェスター的な浪越のギターサウンドのリフレインが癖になる「Strange Days」であり、ステージを照らし出す淡い照明がサビでパッと明るくなるという演出が、どこか熱狂の夜を越えて新しい朝が訪れることを表現しているかのようだった。それはそのまま
「君と出会ってしまって
走り出したストーリー
分からないやつなんて全部放っといて」
というフレーズの通りに、ここからまた新たなパノパナのストーリーが始まっていくことを予感させるようなライブだった。
アンコールで再びメンバーが登場すると、岩渕が時間がないながらも3月1日についに「Bad night」を配信リリースすることを発表し、さらには3月4日に下北沢でオールナイトのライブを開催することを発表。昨年もそうしたライブを行ってきたが、そうしてライブを積み重ね、対バンと交わってきたことは間違いなくバンドの力になっている。だから今年もそうしたライブをやっていくのだろうし、
「もうやりたいことしかやらないから」
という言葉が実に頼もしく感じられたのだった。
そんな告知の後には
「まだやってない、カッコいい曲がある」
と言ってイントロが鳴らされた段階でバンドも観客も高鳴らざるを得ない「MOMO」へ。この日は全く見せていなかった、岩渕の捲し立てるような早口ボーカルがミクスチャー由来のファンキーなサウンドとグルーヴに融合する、これぞパノパナと言えるような曲。それはフェスのオープニングアクトなどでシーンに登場した時に「これはとんでもないバンドが出てきたな」と思わざるを得なかった部分であるのだが、それは今間違いなくあの頃よりもさらに強くなっている。
コロナ禍になって悔しい思いもたくさんしてきたけれど、それでも折れずに進み続けてきたからこそのバンドの強さ。それを1番感じられるのは間違いなく今だ。この感覚がどうか今年はもっとたくさんの人に伝わって欲しい。今年初めて見たパノパナのライブはそんなことを感じさせてくれる、やっぱり今年もこうしてライブハウスでパノパナをたくさん見たいと思わせてくれるものだった。
悲しいことばかりでやるせなくなってしまうこともたくさんあるけれど、やはりライブの後に抱えていたこの日の自分の素直な感情は「楽しい」というものだった。それはライブハウスが、パノパナのライブが与えてくれたものなのである。
1.King's Eyes
2.100yen coffee
3.新曲
4.Algorithm
5.Faceless
6.Knock!!!
7.Bad night
8.ラプチャー
9.SO YOUNG
10.氾濫
11.Rodeo
12.Strange Days
encore
13.MOMO
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