a flood of circle Tour 「花降る空に不滅の歌を」 @千葉LOOK 2/24
- 2023/02/25
- 19:00
昨年はアルバムリリースがなかったので、2021年以来となるアルバム「花降る空に不滅の歌を」をリリースした、a flood of circleのツアーはやはりおなじみの千葉LOOKからスタート。すでに前日にもこの千葉LOOKで初日を迎えており、この日はツアー2日目。先日の荻窪TOP BEAT CLUBでアルバム全曲をライブで聴いているが、ツアーのワンマンでそこにどんな曲を組み合わせていくのだろうか。
当然のようにソールドアウトとなっているこの日は開演前にはThe Mirraz「気持ち悪りぃ」がBGMとして流れたりしている中、19時になると場内が暗転しておなじみのSEが鳴ってメンバーが登場。佐々木亮介(ボーカル&ギター)は鮮やかな金髪は変わらず、この日は黒の革ジャンというスタンダードな出で立ちで、いきなりギターを弾きながら歌い始めたのはアルバムのリード曲でもある「バードヘッドブルース」であるのだが、すでに複数回ライブで聴いている曲であるのに、それらのライブとは全く違う。もう「これは最後までもつのか?」ってくらいにこの時点で思いっきり声を張り上げまくっている。長距離走なのにスタートの瞬間に全力ダッシュしているかのようなその亮介の歌唱と表情はさながらロックンロールの修羅とすら思えるようなものであり、そう思うのはHISAYO(ベース)と渡邊一丘(ドラム)のリズムがさらに力強くなっているからである。渡邊はコーラスも務めるのであるが、亮介とは対照的に白というか銀というかな髪色の青木テツ(ギター)のギターも思いっきり歪みながら切り込んでくるかのようだ。
「おはようございます。a flood of circleです」
と亮介が挨拶すると、まさかの「Vampire Kila」という実に久しぶりの選曲が、声を出せるようになった客席の歓声を呼び、曲中にはその観客たちが大きな「シャラララ」のコーラスの声を重ねる。まさかこの曲でフラッドのライブに歓声や合唱が戻ってくるのを実感するなんて全く思わなかったけれど、やはり亮介が声を張り上げるようにして歌う
「まだ死ねない…」
のリフレインが沁みてきてしまうのは同世代(自分にとってもフラッドにとっても)のバンドマンの訃報を目にしてしまったばかりだからだ。それくらいにそのニュースに引っ張られてしまっている感覚が、この日だけはあった。
そのまま渡邊のリズムに合わせて客席からは手拍子がイントロから鳴り響く「Dancing Zombiez」でもやはり観客によるコーラスの声が実によく聞こえるし、みんなが歌いながら飛び跳ねている。その観客の声がバンドにさらなる躍動感を与えているかのような感覚すらあるし、我慢してきた分、今日だけは自分を解放しようという観客の想いの強さを感じる。千葉LOOK特有の、位置によってほとんど姿が見えないのは自分にとってはテツになってしまったのだけれど、亮介とともにギターの音は実に鋭いのがよくわかる。
その亮介がギターを下ろすと、テツと渡邊による勇壮なコーラスに合わせて観客も手を挙げながら歌うのは「Black Eye Blues」。かつてこの曲をこの会場で演奏していた時のように、客席に突入して行って観客に支えられながら歌うというパフォーマンスはまだできないけれど、それでも台なのか最前の柵なのかに足をかけて立つことによって歌っている亮介の姿はよく見える。歌唱に力を込めすぎてもはや途中では駄々をこねる子供のような変な声にすらなっていたけれど。
なぜか(千葉出身で千葉LOOKで今でもライブをやっているから?)
「ピーズです!ピーズが2023年に生み出した最高のバラードを聴いてください!」
と先輩の名前を引き合いに出して笑わせてからそのまま亮介がハンドマイクで歌い始めたのは、かつて対バンしたこともあるお笑いコンビの金属バットが出演したMVが公開されたばかりの「如何様師のバラード」なのだが、ピーズの名を騙るというのもステージ上での動きも含めて亮介のMV通りの如何様師っぷりが感じられるような曲である。しかしサビのコーラスパートはあまりにキャッチーであるだけに観客の腕が上がりまくって合唱が起きるというのもフラッドだからこそであるが、まさかこの曲がMV化するとはアルバムリリース時には全く思ってなかった。
「暑いのは革ジャン着てるからなのか…」
と言いながらタオルで汗を拭う亮介に「そりゃ革ジャン着てないこっちですら暑いんだから、革ジャン着てたら暑いに決まってるだろう」と思いつつ、珍しく亮介が首にタオルをかけたまま歌う「Party Monster Bop」もやはり亮介の歌唱の力強さというか、声のぶっ放しっぷりが凄まじすぎて後半では歌い切れないくらいにすらなるのであるが、それくらいに会場も暑いけれどバンドのパフォーマンスも熱いということである。
すると逆に渡邊が首にタオルをかけながら亮介がギターを弾きつつ、
「お金ください〜。あるいはお酒ください〜。それかタオル買ってください〜。全部無理ならせめて…」
と「如何様師のバラード」の続きを歌うかのようにして
「笑って欲しいよダーリン」
と続けるのは「カメラソング」。フラッドのメロディの美しさを存分に実感させてくれる曲であるが、荻窪の時は演奏中に写真撮影を許可していたのに今回はそれがなかったのはただでさえステージが見づらい千葉LOOKであるがゆえだろうか。でもこの曲を聴いていると構えたくなるカメラはスマホなんかじゃなくて、一眼レフなどのちゃんとしたカメラだ。それでフラッドのライブを捉えるのはプロのカメラマンの仕事であるが、曲中で歌われている景色をそうしたカメラのフィルムに納めに行きたくなるかのような、そんな力がこの曲の穏やかなサウンドには確かに宿っている。
するとここで亮介はギターをアコギに持ち替えて、
「宴もたけなわだけど(多分使い方わかってない)、葬式みたいな曲やる〜。今日は誰かの葬式かもしれないけど、誰かの誕生日〜。みんな生きてるじゃん、おめでとう」
と、今このタイミングで何故こんなことを?と思ってしまうようなことを口にしてから演奏された「人工衛星のブルース」の間奏で亮介はアコギを弾きながら天井をじっと見ていた。亮介の頭に浮かんでいたであろう人物は誰だったんだろう。きっと自分がこの曲の
「あなたが側にいて欲しい」
というフレーズを聴いて思い浮かべていた人物とは違うだろう。ほとんど絡みがないような関係性だったから。でもこの年齢になるとそれぞれがそうしていなくなってしまった人のことを思わざるを得ないことも多くなってしまう。そういうことがあるたびに、今目の前にいてくれる人には生きていて欲しいと思う。亮介も、フラッドのメンバーたちも。できるなら互いに老衰しきってライブができない、観に行けないってなるくらいまで。
そのまま亮介がアコギを弾きながら、前半のぶっ飛ばしっぷりによって先ほどの「人工衛星のブルース」はファルセットボーカル部分が少しキツそうでありながらも、この曲では見事なまでに力強いボーカルを聴かせてくれるのはアルバムの収録順では最後の曲であり、ライブでもやはり最後を担うことが多くなっていた「花火を見に行こう」であり、この曲がこうして中盤に演奏されるというのも実に新鮮である。それは亮介が最後に
「花火を見に行こうぜ」
と歌い、その歌だけが響いてメンバーたちがステージから去っていくという締め方が定着してきていたからである。しかしこうして中盤に演奏されることによってどこか切り替わりポイントのように作用していたし、この曲が最後ではないということはアルバムリリース前とリリース後では全く違う内容のライブになるということもよくわかる。何よりもフラッドはここからまたどデカい花火を打ち上げようとしている。我々はこれからもそれを見に行こうとしているのである。
「千葉LOOK、何回も来てるから別に行くところもなくて。SMAP × SMAPは終わったのにSMAT × SMATはずっとあるなって思いながら(笑)、2日間あるからたまには行かないところに行こうと思って、すぐそこの蕎麦屋に行ったら、お父さんと息子が2人で仲良く店を回してるとこで。座敷には明らかにお父さんのっぽいダウンジャケットとか帳簿が置いてあったりして、母親に出て行かれたけど戻ってきたと思ったらまた出て行かれて…っていう物語を想像してました(笑)」
という一聴すると意味不明な亮介の妄想も交えたMCはここに来ているような、つまりはすでにアルバムを聴き込んでいる人にはすぐに何の曲の前フリなのかわかったはずだ。それは「くたばれマイダーリン」には
「引越し蕎麦を食べるタイミング いつなの」
というフレーズがあるからなのだが、そのメロディアス極まりないフレーズは最後には
「ずっとそばにいてほしい
って言ってほしい
って言えない」
と同じ「そば」という単語を使いながら全く別の意味になるというのが亮介の作家性の素晴らしさを感じさせてくれる。間違いなくフラッドの熱狂だけではない名曲っぷりの流れに連なる曲である。
そんな新作曲から全く予想もつかない流れで繋がるのはなんと「Rock'N'Roll New School」というまさかの選曲であるのだが、イントロから「ハイホー」的なコーラスを観客が飛び上がりながら叫ぶことができるというのは声が出せるようになったこのツアーだからこそ楽しいものであるし、間奏では亮介とテツが向かい合うようにして学校のチャイムのような音を奏でる中、
「誰とも違ってていいぜ」
などのフレーズは「花降る空に不滅の歌を」の曲たちの歌詞やテーマに通じるものでもあると思う。
そしてイントロのワルツ的なリズムだけで名曲確定なアルバムタイトル曲「花降る空に不滅の歌を」に繋がると、サビでは渡邊のドラムが四つ打ちのリズムに変化して、そのメロディが炸裂するように鳴り響く。「ベイビー」という単語が頻発するのが印象的な曲であるが、それはきっとこうして目の前にいる我々に向けて歌われているということである。この有無を言わさぬようなキャッチー極まりないメロディと、それを最大限に引き出すことができる歌唱と演奏こそが、こうして我々がフラッドが大好きな理由であると思っている。現時点でのその最新の象徴と言えるような曲である。
すると一転して渡邊のドラムが力強く響き渡る「STARS」と、またしても意外すぎる選曲に。というかアルバムの曲以外は基本的にそうした曲ばかりであり、きっとこのツアー内でその曲たちが入れ替わっていくのがわかるからこそ、フラッドのツアーに何公演も行くのはやめられないのである。この曲が生まれた当時はまだフラッドはメンバーのラインナップがなかなか固定されない時代だっただけになかなか曲の進化を最大限に引き出すところまではいかなかったのであるが、今の最強のこの4人のフラッドでのこの「STARS」は間違いなく過去最高のものだ。そう思うとこの曲が収録されているアルバム「GOLDEN TIME」の曲をもっとライブで聴きたくなる。
そうした熱狂のロックンロールのフラッドサイドのサウンドでありながらも、歌詞から喪失感を強く感じさせるというアンバランスにも思えるような組み合わせが、そうした経験を胸に刻みながらも残されたものはこれから先も生きていかざるを得ない、進まなざるを得ないという思いにさせてくれる「GOOD LUCK MY FRIEND」へ。タイトルフレーズではテツと渡邊はもちろん、早くも観客も腕を上げながら声を重ねている。それはこの曲が、フラッドのメロディが歌いたくて仕方ないくらいにキャッチーなものであることの証明である。
そんなフラッドがツアーではほぼ欠かさずに、あらゆる時代、あらゆるメンバーとともに鳴らして育ててきたのが「プシケ」であり、イントロでは亮介、テツ、HISAYOの3人がドラムセットに向かい合うようにして音を鳴らすというのもこの曲ならではのものであるのだが、やはりこの日の日付けや千葉LOOKという場所を亮介が口にしてから、メンバーを1人ずつ紹介してはその音が重なり、最後に
「a flood of circle!」
と亮介が叫ぶ瞬間のカタルシスに勝るものはないなと思う。
そしてテツがギターを鳴らし、渡邊がリズムを刻む中で亮介が
「俺たちとあなたたちの明日に捧げます!」
と言って演奏されたのはもちろん「シーガル」であるのだが、もうサビでは観客がめっちゃ歌う。亮介は特に「歌え!」的なことも全く言っていないのに歌っている。それはもう3年間くらいずっと歌うことが出来なくて溜め込んだものがあったからこそ爆発したものであるとも思う。やはりそれくらいにフラッドへの想いが強い人が集まっているということの証明でもあるその歌声を聴くだけでなんだか感動してしまっていた。歌いたくなるくらいに美しいメロディを持ったフラッドの曲を歌える状況が帰ってきたんだなって。
そしてアルバムの1曲目に収録されている、
「気づけば結局 佐々木亮介」
という驚きのフレーズが登場する「月夜の道を俺が行く」へ。ある意味ではそのフレーズこそが、亮介の内面や内省を歌った今回のアルバムを象徴するようなものであるが、
「愛してるぜBaby? ああうるせえ
なんの意味もない歌だ 電気の無駄だ」
という歌詞を歌う亮介だからこそ、
「俺が死んでも変わることはない世界
知ってるよ もう救いは待ってない」
というフレーズだけは、亮介が死んだら少なくともここにいる人、フラッドが好きな人にとっての世界は変わってしまうと思っている。それくらいに亮介の、フラッドの存在は我々の世界そのものになっているのだ。だからこそ、
「死んでたまるか」
と叫ぶ通りにずっと生きていて欲しいと思う。亮介の内面に潜るような歌詞も多いアルバムだけれど、結局は
「俺の夢を叶えるやつは俺しかいない
俺は行く 月夜の道を」
ということなのである。そうやってこれからも亮介も、フラッドも、我々も抱えているものを蹴っ飛ばしながら生きていくのである。
そんな「月夜の道を俺が行く」は歌詞に
「バイバイ」
というフレーズがあるだけに、この曲で終わりかとも思っていたのだが、まだアルバムの中には演奏されていない曲がある。
「千葉LOOKのサイトウ店長とは毎年東北を一緒に旅して東北ライブハウス大作戦で作られたライブハウスに行ったりしてるんだけど、海岸線沿いには高い壁ができたりしてて、景色も変わってるんだけど、食べ物とかもめちゃくちゃ美味しいから是非みんな行ってみて」
という言葉の後に演奏されたそれが亮介の弾き語り的に始まる「本気で生きているのなら」であるのだが、その亮介の歌唱は序盤からあんなにも飛ばしていたのにも関わらず、その序盤と全く変わらない熱量、声量を持って響いている。凄まじい喉の体力であり、やはりその姿はロックンロールの修羅である。そこに途中からバンドの音が重なっていくというのは、自身の内面や内省を歌いながらも、この4人で鳴らすことによってそれをフラッドというバンドの表現にしていくということだ。
「本気で生きているのなら やるべきことはたった一つ
踏み出せ」
というフレーズはいつだって、どんなことがあったって我々に踏み出していく力を与えてくれる。この日に見たフラッドのライブは改めて我々にそんなことを教えてくれたのであった。
アンコールでは荻窪の時と同様にテツがタバコを吸いながらステージに登場。それはこれからアンコールの定番的な光景になっていくのかもしれないが、亮介が渡邊に準備ができているかを確認してから演奏されたのは、もうひたすらにコーラスフレーズをみんなで大合唱するための曲であるかのような「Wolf Gang La La La」。まさかアンコールでこの曲を聴けるなんて全く思っていなかったけれど、亮介がHISAYOと向かい合うようにして演奏しながら、
「走れ走れ 狼よ」
と歌うこの曲はこれから28本ものツアーを回っていく、走り抜けていくバンドの意思そのもののようであった。つまりはまだまだその28本のうちの何本かを、できれば少しでも多く見たいと思わざるを得ないような。
やっぱりこうしてライブを見ていられるのは当たり前のようでいて当たり前のことじゃない。フラッドだってメンバーが変わっていくたびにそう思ってきた。当たり前じゃないからこそ、少しでも多く自分の脳内にバンドの姿を刻み込んでおきたいのだ。どれだけライブに行ったとしても少なからず、「もっと行っておけば良かった」って思ってしまう。後悔してしまう。その後悔を少しでも減らすために、こうしてできる限りライブに行く。だから横浜F.A.D、新代田FEVER、水戸LIGHT HOUSE、Zepp Shinjukuとこのツアーを回るフラッドを観に行く。
「俺は行く 何度でも
俺は行く 何度目でも」
と歌っているように。
1.バードヘッドブルース
2.Vampire Kila
3.Dancing Zombiez
4.Black Eye Blues
5.如何様師のバラード
6.Party Monster Bop
7.カメラソング
8.人工衛星のブルース
9.花火を見に行こう
10.くたばれマイダーリン
11.Rock'N'Roll New School
12.花降る空に不滅の歌を
13.STARS
14.GOOD LUCK MY FRIEND
15.プシケ
16.シーガル
17.月夜の道を俺が行く
18.本気で生きているのなら
encore
19.Wolf Gang La La La
当然のようにソールドアウトとなっているこの日は開演前にはThe Mirraz「気持ち悪りぃ」がBGMとして流れたりしている中、19時になると場内が暗転しておなじみのSEが鳴ってメンバーが登場。佐々木亮介(ボーカル&ギター)は鮮やかな金髪は変わらず、この日は黒の革ジャンというスタンダードな出で立ちで、いきなりギターを弾きながら歌い始めたのはアルバムのリード曲でもある「バードヘッドブルース」であるのだが、すでに複数回ライブで聴いている曲であるのに、それらのライブとは全く違う。もう「これは最後までもつのか?」ってくらいにこの時点で思いっきり声を張り上げまくっている。長距離走なのにスタートの瞬間に全力ダッシュしているかのようなその亮介の歌唱と表情はさながらロックンロールの修羅とすら思えるようなものであり、そう思うのはHISAYO(ベース)と渡邊一丘(ドラム)のリズムがさらに力強くなっているからである。渡邊はコーラスも務めるのであるが、亮介とは対照的に白というか銀というかな髪色の青木テツ(ギター)のギターも思いっきり歪みながら切り込んでくるかのようだ。
「おはようございます。a flood of circleです」
と亮介が挨拶すると、まさかの「Vampire Kila」という実に久しぶりの選曲が、声を出せるようになった客席の歓声を呼び、曲中にはその観客たちが大きな「シャラララ」のコーラスの声を重ねる。まさかこの曲でフラッドのライブに歓声や合唱が戻ってくるのを実感するなんて全く思わなかったけれど、やはり亮介が声を張り上げるようにして歌う
「まだ死ねない…」
のリフレインが沁みてきてしまうのは同世代(自分にとってもフラッドにとっても)のバンドマンの訃報を目にしてしまったばかりだからだ。それくらいにそのニュースに引っ張られてしまっている感覚が、この日だけはあった。
そのまま渡邊のリズムに合わせて客席からは手拍子がイントロから鳴り響く「Dancing Zombiez」でもやはり観客によるコーラスの声が実によく聞こえるし、みんなが歌いながら飛び跳ねている。その観客の声がバンドにさらなる躍動感を与えているかのような感覚すらあるし、我慢してきた分、今日だけは自分を解放しようという観客の想いの強さを感じる。千葉LOOK特有の、位置によってほとんど姿が見えないのは自分にとってはテツになってしまったのだけれど、亮介とともにギターの音は実に鋭いのがよくわかる。
その亮介がギターを下ろすと、テツと渡邊による勇壮なコーラスに合わせて観客も手を挙げながら歌うのは「Black Eye Blues」。かつてこの曲をこの会場で演奏していた時のように、客席に突入して行って観客に支えられながら歌うというパフォーマンスはまだできないけれど、それでも台なのか最前の柵なのかに足をかけて立つことによって歌っている亮介の姿はよく見える。歌唱に力を込めすぎてもはや途中では駄々をこねる子供のような変な声にすらなっていたけれど。
なぜか(千葉出身で千葉LOOKで今でもライブをやっているから?)
「ピーズです!ピーズが2023年に生み出した最高のバラードを聴いてください!」
と先輩の名前を引き合いに出して笑わせてからそのまま亮介がハンドマイクで歌い始めたのは、かつて対バンしたこともあるお笑いコンビの金属バットが出演したMVが公開されたばかりの「如何様師のバラード」なのだが、ピーズの名を騙るというのもステージ上での動きも含めて亮介のMV通りの如何様師っぷりが感じられるような曲である。しかしサビのコーラスパートはあまりにキャッチーであるだけに観客の腕が上がりまくって合唱が起きるというのもフラッドだからこそであるが、まさかこの曲がMV化するとはアルバムリリース時には全く思ってなかった。
「暑いのは革ジャン着てるからなのか…」
と言いながらタオルで汗を拭う亮介に「そりゃ革ジャン着てないこっちですら暑いんだから、革ジャン着てたら暑いに決まってるだろう」と思いつつ、珍しく亮介が首にタオルをかけたまま歌う「Party Monster Bop」もやはり亮介の歌唱の力強さというか、声のぶっ放しっぷりが凄まじすぎて後半では歌い切れないくらいにすらなるのであるが、それくらいに会場も暑いけれどバンドのパフォーマンスも熱いということである。
すると逆に渡邊が首にタオルをかけながら亮介がギターを弾きつつ、
「お金ください〜。あるいはお酒ください〜。それかタオル買ってください〜。全部無理ならせめて…」
と「如何様師のバラード」の続きを歌うかのようにして
「笑って欲しいよダーリン」
と続けるのは「カメラソング」。フラッドのメロディの美しさを存分に実感させてくれる曲であるが、荻窪の時は演奏中に写真撮影を許可していたのに今回はそれがなかったのはただでさえステージが見づらい千葉LOOKであるがゆえだろうか。でもこの曲を聴いていると構えたくなるカメラはスマホなんかじゃなくて、一眼レフなどのちゃんとしたカメラだ。それでフラッドのライブを捉えるのはプロのカメラマンの仕事であるが、曲中で歌われている景色をそうしたカメラのフィルムに納めに行きたくなるかのような、そんな力がこの曲の穏やかなサウンドには確かに宿っている。
するとここで亮介はギターをアコギに持ち替えて、
「宴もたけなわだけど(多分使い方わかってない)、葬式みたいな曲やる〜。今日は誰かの葬式かもしれないけど、誰かの誕生日〜。みんな生きてるじゃん、おめでとう」
と、今このタイミングで何故こんなことを?と思ってしまうようなことを口にしてから演奏された「人工衛星のブルース」の間奏で亮介はアコギを弾きながら天井をじっと見ていた。亮介の頭に浮かんでいたであろう人物は誰だったんだろう。きっと自分がこの曲の
「あなたが側にいて欲しい」
というフレーズを聴いて思い浮かべていた人物とは違うだろう。ほとんど絡みがないような関係性だったから。でもこの年齢になるとそれぞれがそうしていなくなってしまった人のことを思わざるを得ないことも多くなってしまう。そういうことがあるたびに、今目の前にいてくれる人には生きていて欲しいと思う。亮介も、フラッドのメンバーたちも。できるなら互いに老衰しきってライブができない、観に行けないってなるくらいまで。
そのまま亮介がアコギを弾きながら、前半のぶっ飛ばしっぷりによって先ほどの「人工衛星のブルース」はファルセットボーカル部分が少しキツそうでありながらも、この曲では見事なまでに力強いボーカルを聴かせてくれるのはアルバムの収録順では最後の曲であり、ライブでもやはり最後を担うことが多くなっていた「花火を見に行こう」であり、この曲がこうして中盤に演奏されるというのも実に新鮮である。それは亮介が最後に
「花火を見に行こうぜ」
と歌い、その歌だけが響いてメンバーたちがステージから去っていくという締め方が定着してきていたからである。しかしこうして中盤に演奏されることによってどこか切り替わりポイントのように作用していたし、この曲が最後ではないということはアルバムリリース前とリリース後では全く違う内容のライブになるということもよくわかる。何よりもフラッドはここからまたどデカい花火を打ち上げようとしている。我々はこれからもそれを見に行こうとしているのである。
「千葉LOOK、何回も来てるから別に行くところもなくて。SMAP × SMAPは終わったのにSMAT × SMATはずっとあるなって思いながら(笑)、2日間あるからたまには行かないところに行こうと思って、すぐそこの蕎麦屋に行ったら、お父さんと息子が2人で仲良く店を回してるとこで。座敷には明らかにお父さんのっぽいダウンジャケットとか帳簿が置いてあったりして、母親に出て行かれたけど戻ってきたと思ったらまた出て行かれて…っていう物語を想像してました(笑)」
という一聴すると意味不明な亮介の妄想も交えたMCはここに来ているような、つまりはすでにアルバムを聴き込んでいる人にはすぐに何の曲の前フリなのかわかったはずだ。それは「くたばれマイダーリン」には
「引越し蕎麦を食べるタイミング いつなの」
というフレーズがあるからなのだが、そのメロディアス極まりないフレーズは最後には
「ずっとそばにいてほしい
って言ってほしい
って言えない」
と同じ「そば」という単語を使いながら全く別の意味になるというのが亮介の作家性の素晴らしさを感じさせてくれる。間違いなくフラッドの熱狂だけではない名曲っぷりの流れに連なる曲である。
そんな新作曲から全く予想もつかない流れで繋がるのはなんと「Rock'N'Roll New School」というまさかの選曲であるのだが、イントロから「ハイホー」的なコーラスを観客が飛び上がりながら叫ぶことができるというのは声が出せるようになったこのツアーだからこそ楽しいものであるし、間奏では亮介とテツが向かい合うようにして学校のチャイムのような音を奏でる中、
「誰とも違ってていいぜ」
などのフレーズは「花降る空に不滅の歌を」の曲たちの歌詞やテーマに通じるものでもあると思う。
そしてイントロのワルツ的なリズムだけで名曲確定なアルバムタイトル曲「花降る空に不滅の歌を」に繋がると、サビでは渡邊のドラムが四つ打ちのリズムに変化して、そのメロディが炸裂するように鳴り響く。「ベイビー」という単語が頻発するのが印象的な曲であるが、それはきっとこうして目の前にいる我々に向けて歌われているということである。この有無を言わさぬようなキャッチー極まりないメロディと、それを最大限に引き出すことができる歌唱と演奏こそが、こうして我々がフラッドが大好きな理由であると思っている。現時点でのその最新の象徴と言えるような曲である。
すると一転して渡邊のドラムが力強く響き渡る「STARS」と、またしても意外すぎる選曲に。というかアルバムの曲以外は基本的にそうした曲ばかりであり、きっとこのツアー内でその曲たちが入れ替わっていくのがわかるからこそ、フラッドのツアーに何公演も行くのはやめられないのである。この曲が生まれた当時はまだフラッドはメンバーのラインナップがなかなか固定されない時代だっただけになかなか曲の進化を最大限に引き出すところまではいかなかったのであるが、今の最強のこの4人のフラッドでのこの「STARS」は間違いなく過去最高のものだ。そう思うとこの曲が収録されているアルバム「GOLDEN TIME」の曲をもっとライブで聴きたくなる。
そうした熱狂のロックンロールのフラッドサイドのサウンドでありながらも、歌詞から喪失感を強く感じさせるというアンバランスにも思えるような組み合わせが、そうした経験を胸に刻みながらも残されたものはこれから先も生きていかざるを得ない、進まなざるを得ないという思いにさせてくれる「GOOD LUCK MY FRIEND」へ。タイトルフレーズではテツと渡邊はもちろん、早くも観客も腕を上げながら声を重ねている。それはこの曲が、フラッドのメロディが歌いたくて仕方ないくらいにキャッチーなものであることの証明である。
そんなフラッドがツアーではほぼ欠かさずに、あらゆる時代、あらゆるメンバーとともに鳴らして育ててきたのが「プシケ」であり、イントロでは亮介、テツ、HISAYOの3人がドラムセットに向かい合うようにして音を鳴らすというのもこの曲ならではのものであるのだが、やはりこの日の日付けや千葉LOOKという場所を亮介が口にしてから、メンバーを1人ずつ紹介してはその音が重なり、最後に
「a flood of circle!」
と亮介が叫ぶ瞬間のカタルシスに勝るものはないなと思う。
そしてテツがギターを鳴らし、渡邊がリズムを刻む中で亮介が
「俺たちとあなたたちの明日に捧げます!」
と言って演奏されたのはもちろん「シーガル」であるのだが、もうサビでは観客がめっちゃ歌う。亮介は特に「歌え!」的なことも全く言っていないのに歌っている。それはもう3年間くらいずっと歌うことが出来なくて溜め込んだものがあったからこそ爆発したものであるとも思う。やはりそれくらいにフラッドへの想いが強い人が集まっているということの証明でもあるその歌声を聴くだけでなんだか感動してしまっていた。歌いたくなるくらいに美しいメロディを持ったフラッドの曲を歌える状況が帰ってきたんだなって。
そしてアルバムの1曲目に収録されている、
「気づけば結局 佐々木亮介」
という驚きのフレーズが登場する「月夜の道を俺が行く」へ。ある意味ではそのフレーズこそが、亮介の内面や内省を歌った今回のアルバムを象徴するようなものであるが、
「愛してるぜBaby? ああうるせえ
なんの意味もない歌だ 電気の無駄だ」
という歌詞を歌う亮介だからこそ、
「俺が死んでも変わることはない世界
知ってるよ もう救いは待ってない」
というフレーズだけは、亮介が死んだら少なくともここにいる人、フラッドが好きな人にとっての世界は変わってしまうと思っている。それくらいに亮介の、フラッドの存在は我々の世界そのものになっているのだ。だからこそ、
「死んでたまるか」
と叫ぶ通りにずっと生きていて欲しいと思う。亮介の内面に潜るような歌詞も多いアルバムだけれど、結局は
「俺の夢を叶えるやつは俺しかいない
俺は行く 月夜の道を」
ということなのである。そうやってこれからも亮介も、フラッドも、我々も抱えているものを蹴っ飛ばしながら生きていくのである。
そんな「月夜の道を俺が行く」は歌詞に
「バイバイ」
というフレーズがあるだけに、この曲で終わりかとも思っていたのだが、まだアルバムの中には演奏されていない曲がある。
「千葉LOOKのサイトウ店長とは毎年東北を一緒に旅して東北ライブハウス大作戦で作られたライブハウスに行ったりしてるんだけど、海岸線沿いには高い壁ができたりしてて、景色も変わってるんだけど、食べ物とかもめちゃくちゃ美味しいから是非みんな行ってみて」
という言葉の後に演奏されたそれが亮介の弾き語り的に始まる「本気で生きているのなら」であるのだが、その亮介の歌唱は序盤からあんなにも飛ばしていたのにも関わらず、その序盤と全く変わらない熱量、声量を持って響いている。凄まじい喉の体力であり、やはりその姿はロックンロールの修羅である。そこに途中からバンドの音が重なっていくというのは、自身の内面や内省を歌いながらも、この4人で鳴らすことによってそれをフラッドというバンドの表現にしていくということだ。
「本気で生きているのなら やるべきことはたった一つ
踏み出せ」
というフレーズはいつだって、どんなことがあったって我々に踏み出していく力を与えてくれる。この日に見たフラッドのライブは改めて我々にそんなことを教えてくれたのであった。
アンコールでは荻窪の時と同様にテツがタバコを吸いながらステージに登場。それはこれからアンコールの定番的な光景になっていくのかもしれないが、亮介が渡邊に準備ができているかを確認してから演奏されたのは、もうひたすらにコーラスフレーズをみんなで大合唱するための曲であるかのような「Wolf Gang La La La」。まさかアンコールでこの曲を聴けるなんて全く思っていなかったけれど、亮介がHISAYOと向かい合うようにして演奏しながら、
「走れ走れ 狼よ」
と歌うこの曲はこれから28本ものツアーを回っていく、走り抜けていくバンドの意思そのもののようであった。つまりはまだまだその28本のうちの何本かを、できれば少しでも多く見たいと思わざるを得ないような。
やっぱりこうしてライブを見ていられるのは当たり前のようでいて当たり前のことじゃない。フラッドだってメンバーが変わっていくたびにそう思ってきた。当たり前じゃないからこそ、少しでも多く自分の脳内にバンドの姿を刻み込んでおきたいのだ。どれだけライブに行ったとしても少なからず、「もっと行っておけば良かった」って思ってしまう。後悔してしまう。その後悔を少しでも減らすために、こうしてできる限りライブに行く。だから横浜F.A.D、新代田FEVER、水戸LIGHT HOUSE、Zepp Shinjukuとこのツアーを回るフラッドを観に行く。
「俺は行く 何度でも
俺は行く 何度目でも」
と歌っているように。
1.バードヘッドブルース
2.Vampire Kila
3.Dancing Zombiez
4.Black Eye Blues
5.如何様師のバラード
6.Party Monster Bop
7.カメラソング
8.人工衛星のブルース
9.花火を見に行こう
10.くたばれマイダーリン
11.Rock'N'Roll New School
12.花降る空に不滅の歌を
13.STARS
14.GOOD LUCK MY FRIEND
15.プシケ
16.シーガル
17.月夜の道を俺が行く
18.本気で生きているのなら
encore
19.Wolf Gang La La La
Panorama Panama Town presents 「渦:渦 Vol.3」w/ Ivy to Fraudulent Game @新代田FEVER 2/25 ホーム
GRAPEVINE in a lifetime presents another sky @中野サンプラザ 2/23