メレンゲ ワンマンライブ2023 @月見ル君想フ 2/17
- 2023/02/18
- 20:21
昨年末には20周年記念ワンマンライブを行っていたメレンゲが、その周年を超えても(半分くらいは活動していなかった感もあるけど)今年も活動をしていくということを示すかのようにワンマンを開催。会場は今やすっかりバンドにとって最大のホームと言える会場になっている、青山の月見ル君想フである。
しかしこの日は仕事の都合で到着するのがだいぶ遅れてしまい、月見ル君想フに到着したのは19時半頃で、すでに冒頭2曲と最初のMCが終わっており、名曲「バスを待っている僕ら」を演奏している真っ最中だった。おなじみのハットを被ったクボケンジ(ボーカル&ギター)、タケシタツヨシ(ベース)に加えて、松江潤(ギター)、前髪が緑色に染まった小野田尚史(ドラム)、あいみょんやSuperflyなどのサポートをやるくらいの売れっ子になってもメレンゲのライブに参加し続けてくれている山本健太(キーボード)という近年不動の5人編成である。
「バスを待っている僕ら」はポップなサウンドがサビに行くにつれてじわじわと高まっていくグルーヴを感じさせてくれる曲であるが、一転して松江の歪んだギターのサウンドがギターロックバンドとしてのメレンゲらしさを感じさせてくれる「ふきのとう」では、どこかメレンゲの初期曲が持つ音の重さを感じさせてくれるし、それをデビューから20年経った今のメレンゲが演奏しても全く違和感はない。それはクボもタケシタも見た目が全く変わってないように見えるからでもあるが、やはり鳴らしている音の瑞々しさと現役感がそう感じさせてくれるのだ。
小野田による力強いキックの四つ打ちがイントロから気分を高まらせてくれる「hole」では山本の浮遊感を感じさせるキーボードの音色も良いアクセントになっているのであるが、ファルセット部分のボーカルは少しキツそうでありながらも、昨年12月に見た新代田FEVERの時よりはクボの声は伸びやかさを感じさせるものになっている。それは今年になってからは初めてとはいえ、年末にライブをやってきた上でのこのライブという、今までよりはスパンが短い中で練り上げられてきたライブの力ということもあるはずだ。
するとクボはそれまで弾いていたギターを下ろしてマイクスタンドに向かいながら、山本に目くばせをしてからピアノとクボのボーカルのみで始まったのは、リリース同時に映画「最終兵器彼女」のタイアップとなった名曲「すみか」。今となっては曲タイトルと同名のバンドがあまりにも有名になりすぎてしまったが、そのバンドの由来の片隅にでもこの曲の存在があってくれたらいいなと思うし、徐々にさりげなくでありながらもクボの歌唱を支えるようにバンドサウンドが重なっていくというアレンジも、
「あなたの事が好きで そう言える僕が好きで
その手のぬくもりで今日一日が終わればいい」
という歌詞も、全てがあまりに完璧過ぎて「参りました!」と思う気持ちはこの曲がリリースされた17年前から変わることはない。
そんなバラードと言っていいような曲だからこそ、タケシタは曲間に
「寒い」
と言うのだが、クボは逆に
「熱くなってる!」
とのこと。実はクボは先月初めてコロナに感染しており、それから復活したからこそ、こうしてライブをやれていることが実に楽しそうに見えた。人とほとんど関わらないようなイメージのクボがどんな経路で感染したのかは全くもって謎であるが。
そんなクボは昨年に映画のタイアップとして「バタフライ」という曲を生み出したのであるが、そのタイアップとしてはソロ名義であった曲をメレンゲとしてバンドでアレンジしたバージョンで披露する。クボはアコギ、松江がバンジョーという編成になることでカントリー色が実に強くなっているが、こうしてギターだけではない絃楽器を演奏できて、プロデューサーでもある松江がこのバンドに参加していることの意味を実感させてくれるものである。メレンゲでこうしたアレンジになるとは全く予想もしていなかったところであるが、これからこうしてまたメレンゲとして新曲を演奏する光景を今年も見れるのだろうか。
そんな軽やかさを感じさせる「バタフライ」から、山本のキーボードを軸にしたイントロからして壮大さ、ドラマチックさを感じさせるのは「君に春を思う」であり、まだ寒さに震えるような気候も続く中だけれど、こうしてメレンゲがライブをやってくれて、この曲を演奏してくれる、それだけで春だと思える。
「未来になって今日が 幻になるまで
笑われるくらいに 笑ってて欲しい」
というサビでのクボがファルセットを駆使するフレーズなどは、誰もがわかる単語の組み合わせでありながらも、他の誰も歌ったことがない、クボだからこそ書ける、メレンゲだからこそ歌える歌詞の真髄である。そうした歌詞やフレーズの一つ一つがこうして今でもライブを見にきている人たちの心を支えてきた力になっている。どんなに斬新な歌詞を歌うバンドやアーティストが出てきても、クボの詩才だけは変わることなく光り続けている。
そのまま山本による浮遊感あるイントロのサウンドが流れ、そこにタケシタのベースとクボのボーカルが重なっていくだけで会場の空気が明らかに変わるのは、名曲だらけのこのバンドの中でも至上の名曲と言える「きらめく世界」。どんなに音楽の流行りや最先端の部分が変わったとしても、決して変わらない煌めきがこの曲にはある。そんな曲を数え切れないくらいにライブで聴いてきたからこそ、こうしてライブで聴いているとそこに様々な想いが重なって泣きそうになってしまう。それは今でもメレンゲが鳴らしているサウンドが瑞々しくて、この曲が20年近く経っても全く色褪せることがない名曲であり続けているから。日本のバンド、音楽の歴史に残るようなバンドにはなれないかもしれないけれど、この曲だけはどうか何百年後の世の中にも残り続けて欲しいと思う。それくらいにこうしてメレンゲのライブに来ている人もどんなに歳を重ねても一生忘れることのない曲だと思う。サビになると観客が一斉に腕を挙げるのも、バンドの鳴らす音の衝動や瑞々しさが自然とそうさせるのだ。
「季節外れだけど、夏の新曲」
と言って演奏された「アクアカイト」はそんな超名曲「きらめく世界」を今のメレンゲが作ったと言えるような曲だ。聴いているとサビに行くにつれて海の情景が脳内に広がっていくような爽やかさは、またいつか夏の野外でメレンゲのライブを見てみたいとも思わせてくれるし、こうして完全にアレンジが固まった新曲を演奏できるというのが、これからもさらなる新曲が聴けるんじゃないかと思わせてくれる。
すると一転してクボがギターを弾きながら
「サヨナラ もう会えないなぁ 忘れてあげるよ」
と歌い始めたのは初期メレンゲが純文学ギターロックと呼ばれていたことを思い出させてくれるような、美しいメロディと歌詞の融合と言えるような「声」。
「水たまりに浮かぶ星 踏みつけて消えた
逆さまの向こうは 違う世界があるのかい?」
というフレーズなども「君に春を思う」と同様に、難解な単語は全く使うことなく、他に誰も歌えない表現の歌詞になっている。そのフレーズ自体も美しいが、それが聴き手それぞれの脳内に浮かび上がらせてくれる情景も美しいものであるはずだ。この曲なんかを歌っている声を聴くと、やはりクボの歌声はどうしたってどうしようもないくらいに切なさを孕んでしまうものなんだよなと思う。だから聴いていて胸がギュッとなる感覚があるのだ。
この月見ル君想フはステージ背面に大きな満月が聳えるという異色にして異世界的な会場であるのだが、そんな会場で鳴らされたメレンゲの月ソングはもちろん「ムーンライト」。山本のキーボードの旋律が実に美しい中で、歌い出しからクボのボーカルとタケシタのコーラスが重なる。サビになるとその背面の満月を照らし出すかのようにそれまでよりも明るい、白と黄色の照明が光る。それはまるでこの曲がこの会場のテーマソングと言えるくらいに美しいものであった。「アクアカイト」もそうであるが、この曲はかつて日比谷野音でワンマンをやった時も夜空の下でハイライト的に鳴らされた曲であっただけに、またそうしたシチュエーションでも聴けたらと思う。
「そういえば声出しが解禁されたよね。でも特に誰も…(笑)」
とタケシタがおとなしいというか奥ゆかしいようなメレンゲファンのことを口にして笑いが起こると、
「笑い声が起こるのはいいよね(笑)」
と観客の笑い声を引き出すのはさすがであるが、今年始まってすぐにコロナになって出鼻を挫かれたクボは
「今年はたくさんライブやろうって話してたところでコロナに罹ってしまったんでね〜。みんなやって欲しい曲とかあったらTwitterとかで言ってね。「スターフルーツ」とかはキーが高いからやらないけど(笑)
対バンライブとかも全然やってないんで、久しぶりにやりたいんですけど、若手の知り合いとかもいないしねぇ。でもワンマンだとこうやってたくさん曲やれるんで」
と今年の活動への意気込みを口にすると(なんだか割と毎年のようにこう言っている気もするけど)、松江のギターがイントロから唸りを上げるように鳴らされる「シンメトリア」の爽やかなギターロックサウンドでクボは一瞬ボーカルに詰まったりしたかと思ったら、コーラスパートでは観客に向かってマイクスタンドを向ける。決して大合唱というわけではないが、それでも腕を挙げているたくさんの観客の声が確かに重なっているのがわかる。決してみんなで歌うような曲を作ってきたバンドではないけれど、それでもクボは、メレンゲはこうして時には観客の声を聴くことを望んでいる。歌える、歌いたくなるくらいのメロディを描いているということを確かめたい思いもあるのかもしれないし、かつては「盛り上がっているのが見たい」と言っていたこともあった。そこにはロックバンドとしての矜持というものもあるのかもしれない。
そんなメレンゲのロックバンドとしての音のカッコよさを感じられるのはこのサポートメンバーたちによる力が実に大きいのだが、特に小野田のドラムは体が反応して揺れてしまうくらいに力強いビートを叩き出しているのであるが、そんな小野田のイントロのリズムに合わせてタケシタが手拍子をし、観客も合わせて手拍子をするのはもちろん「ビスケット」で、クボが歌い始めて自身もベースを弾きながらもタケシタは表情で観客に手拍子を促すのであるが、
「叩いて二人分」
というフレーズでもバッチリ手拍子が起こるあたりはもう完全にずっとメレンゲのライブに来ている人たちが集まり続けているからだろう。もっとたくさんの人に存在や曲を知ってもらいたいと最大級に思っているバンドであるが、こうしてずっと観に来てくれる人がいてくれているだけでも幸せなことなんじゃないかとも思う。
「サポートメンバーのみなさん、今年もよろしくお願いします!」
とクボがメンバーたちに挨拶してから最後に演奏されたのは「火の鳥」。一説にはクボの親友であったフジファブリックの志村正彦のことを歌っているとも言われている曲であり、手塚治虫の漫画から取られているタイトルであるとも思うのだが、重厚さを感じさせるギターサウンドとリズムの上に乗る
「ツンドラのもっと向こう
君にだって会える
言えなかったことを言うよ」
という締めの歌詞はいつ聴いても胸が締め付けられるような気持ちになる。それはその歌唱や音に鳴らしているメンバーの感情が確かにこもっているからだ。そうできるバンドであるということが、メレンゲの名曲たちをライブでさらに輝かせることができる最大の要素だ。やっぱりメレンゲは今でもずっとカッコいいライブバンド、ロックバンドのままなのだ。
アンコールでは楽器を持って早くも演奏しようとするクボにタケシタがカンペのような紙を見せると、6月8日にこの会場で再びワンマンを開催することを発表する。その前にも何らかのライブをやろうと模索しているらしいが、日程が早いにもかかわらず発表できないというのは対バンライブだったりするのだろうか。
そんな今年も何回もメレンゲに会えるという嬉しい予告の後に演奏されたのは
「まだ季節的には冬だと思うから」
とクボが口にした「ユキノミチ」。今は2月。まだまだ雪が降る可能性もある季節だ。それはこの時期にこの曲を聴くと、2014年2月14日に渋谷公会堂(現在のLINE CUBE SHIBUYA)でのワンマンでこの曲を演奏した時のことを思い出す。その時は渋谷の街が雪に覆われるくらいの大雪で、渋谷駅から公会堂に向かう道がまさにユキノミチになっていたからだ。そんな数々の記憶がこの曲の切なさをさらに加速させていく。そうして聴き手の数だけ脳内に浮かぶ情景があるはずだ。ここに来てこの日最高の歌唱の伸びやかさと見事さを感じさせるクボが
「すぐ会えたりするんだろうか…」
と歌った時、今年はきっとまたすぐメレンゲに会えるんだろうなと思った。その時にはこの曲はもう演奏されない時期になっているだろうけれど、また別の季節の名曲たちを聴くことができるはずだし、きっと今年の冬にもメレンゲはライブをやってくれて、そこでまたこの曲を演奏してくれるはずだ。普段は降ると厄介なことばかりだけれど、その時だけは雪が降っていて欲しいな、なんてことを考えていた。
メレンゲがまだ3人組で、今よりもはるかに大きなステージに立って精力的にリリースなどの活動をしていた15年くらい前よりも、たくさんのカッコいいバンドの音楽を聴いて、ライブに行く機会が増えた。
それでも今になってもメレンゲのライブを見るとそうしたバンドたちに負けないくらいにカッコいいライブをやるバンドだと思える。だからこうして今でもライブを観に来ているのだし、そうやって他のいろんなバンドのライブを見ているからこそ、メレンゲは他のどのバンドでも作れない音楽を作っているバンドだということがわかる。メレンゲのライブでしか得られないものがあるということがわかる。それをこれからもずっと味わっていたい。20年を超えてもそう思えるっていうことは、30年を超えても、40年を超えてもそう思うっていうことだから、これからもどうかずっとよろしく。
1.燃えないゴミ
2.春雨の午後
3.バスを待っている僕ら
4.ふきのとう
5.hole
6.すみか
7.バタフライ
8.君に春を思う
9.きらめく世界
10.アクアカイト
11.声
12.ムーンライト
13.シンメトリア
14.ビスケット
15.火の鳥
encore
16.ユキノミチ
しかしこの日は仕事の都合で到着するのがだいぶ遅れてしまい、月見ル君想フに到着したのは19時半頃で、すでに冒頭2曲と最初のMCが終わっており、名曲「バスを待っている僕ら」を演奏している真っ最中だった。おなじみのハットを被ったクボケンジ(ボーカル&ギター)、タケシタツヨシ(ベース)に加えて、松江潤(ギター)、前髪が緑色に染まった小野田尚史(ドラム)、あいみょんやSuperflyなどのサポートをやるくらいの売れっ子になってもメレンゲのライブに参加し続けてくれている山本健太(キーボード)という近年不動の5人編成である。
「バスを待っている僕ら」はポップなサウンドがサビに行くにつれてじわじわと高まっていくグルーヴを感じさせてくれる曲であるが、一転して松江の歪んだギターのサウンドがギターロックバンドとしてのメレンゲらしさを感じさせてくれる「ふきのとう」では、どこかメレンゲの初期曲が持つ音の重さを感じさせてくれるし、それをデビューから20年経った今のメレンゲが演奏しても全く違和感はない。それはクボもタケシタも見た目が全く変わってないように見えるからでもあるが、やはり鳴らしている音の瑞々しさと現役感がそう感じさせてくれるのだ。
小野田による力強いキックの四つ打ちがイントロから気分を高まらせてくれる「hole」では山本の浮遊感を感じさせるキーボードの音色も良いアクセントになっているのであるが、ファルセット部分のボーカルは少しキツそうでありながらも、昨年12月に見た新代田FEVERの時よりはクボの声は伸びやかさを感じさせるものになっている。それは今年になってからは初めてとはいえ、年末にライブをやってきた上でのこのライブという、今までよりはスパンが短い中で練り上げられてきたライブの力ということもあるはずだ。
するとクボはそれまで弾いていたギターを下ろしてマイクスタンドに向かいながら、山本に目くばせをしてからピアノとクボのボーカルのみで始まったのは、リリース同時に映画「最終兵器彼女」のタイアップとなった名曲「すみか」。今となっては曲タイトルと同名のバンドがあまりにも有名になりすぎてしまったが、そのバンドの由来の片隅にでもこの曲の存在があってくれたらいいなと思うし、徐々にさりげなくでありながらもクボの歌唱を支えるようにバンドサウンドが重なっていくというアレンジも、
「あなたの事が好きで そう言える僕が好きで
その手のぬくもりで今日一日が終わればいい」
という歌詞も、全てがあまりに完璧過ぎて「参りました!」と思う気持ちはこの曲がリリースされた17年前から変わることはない。
そんなバラードと言っていいような曲だからこそ、タケシタは曲間に
「寒い」
と言うのだが、クボは逆に
「熱くなってる!」
とのこと。実はクボは先月初めてコロナに感染しており、それから復活したからこそ、こうしてライブをやれていることが実に楽しそうに見えた。人とほとんど関わらないようなイメージのクボがどんな経路で感染したのかは全くもって謎であるが。
そんなクボは昨年に映画のタイアップとして「バタフライ」という曲を生み出したのであるが、そのタイアップとしてはソロ名義であった曲をメレンゲとしてバンドでアレンジしたバージョンで披露する。クボはアコギ、松江がバンジョーという編成になることでカントリー色が実に強くなっているが、こうしてギターだけではない絃楽器を演奏できて、プロデューサーでもある松江がこのバンドに参加していることの意味を実感させてくれるものである。メレンゲでこうしたアレンジになるとは全く予想もしていなかったところであるが、これからこうしてまたメレンゲとして新曲を演奏する光景を今年も見れるのだろうか。
そんな軽やかさを感じさせる「バタフライ」から、山本のキーボードを軸にしたイントロからして壮大さ、ドラマチックさを感じさせるのは「君に春を思う」であり、まだ寒さに震えるような気候も続く中だけれど、こうしてメレンゲがライブをやってくれて、この曲を演奏してくれる、それだけで春だと思える。
「未来になって今日が 幻になるまで
笑われるくらいに 笑ってて欲しい」
というサビでのクボがファルセットを駆使するフレーズなどは、誰もがわかる単語の組み合わせでありながらも、他の誰も歌ったことがない、クボだからこそ書ける、メレンゲだからこそ歌える歌詞の真髄である。そうした歌詞やフレーズの一つ一つがこうして今でもライブを見にきている人たちの心を支えてきた力になっている。どんなに斬新な歌詞を歌うバンドやアーティストが出てきても、クボの詩才だけは変わることなく光り続けている。
そのまま山本による浮遊感あるイントロのサウンドが流れ、そこにタケシタのベースとクボのボーカルが重なっていくだけで会場の空気が明らかに変わるのは、名曲だらけのこのバンドの中でも至上の名曲と言える「きらめく世界」。どんなに音楽の流行りや最先端の部分が変わったとしても、決して変わらない煌めきがこの曲にはある。そんな曲を数え切れないくらいにライブで聴いてきたからこそ、こうしてライブで聴いているとそこに様々な想いが重なって泣きそうになってしまう。それは今でもメレンゲが鳴らしているサウンドが瑞々しくて、この曲が20年近く経っても全く色褪せることがない名曲であり続けているから。日本のバンド、音楽の歴史に残るようなバンドにはなれないかもしれないけれど、この曲だけはどうか何百年後の世の中にも残り続けて欲しいと思う。それくらいにこうしてメレンゲのライブに来ている人もどんなに歳を重ねても一生忘れることのない曲だと思う。サビになると観客が一斉に腕を挙げるのも、バンドの鳴らす音の衝動や瑞々しさが自然とそうさせるのだ。
「季節外れだけど、夏の新曲」
と言って演奏された「アクアカイト」はそんな超名曲「きらめく世界」を今のメレンゲが作ったと言えるような曲だ。聴いているとサビに行くにつれて海の情景が脳内に広がっていくような爽やかさは、またいつか夏の野外でメレンゲのライブを見てみたいとも思わせてくれるし、こうして完全にアレンジが固まった新曲を演奏できるというのが、これからもさらなる新曲が聴けるんじゃないかと思わせてくれる。
すると一転してクボがギターを弾きながら
「サヨナラ もう会えないなぁ 忘れてあげるよ」
と歌い始めたのは初期メレンゲが純文学ギターロックと呼ばれていたことを思い出させてくれるような、美しいメロディと歌詞の融合と言えるような「声」。
「水たまりに浮かぶ星 踏みつけて消えた
逆さまの向こうは 違う世界があるのかい?」
というフレーズなども「君に春を思う」と同様に、難解な単語は全く使うことなく、他に誰も歌えない表現の歌詞になっている。そのフレーズ自体も美しいが、それが聴き手それぞれの脳内に浮かび上がらせてくれる情景も美しいものであるはずだ。この曲なんかを歌っている声を聴くと、やはりクボの歌声はどうしたってどうしようもないくらいに切なさを孕んでしまうものなんだよなと思う。だから聴いていて胸がギュッとなる感覚があるのだ。
この月見ル君想フはステージ背面に大きな満月が聳えるという異色にして異世界的な会場であるのだが、そんな会場で鳴らされたメレンゲの月ソングはもちろん「ムーンライト」。山本のキーボードの旋律が実に美しい中で、歌い出しからクボのボーカルとタケシタのコーラスが重なる。サビになるとその背面の満月を照らし出すかのようにそれまでよりも明るい、白と黄色の照明が光る。それはまるでこの曲がこの会場のテーマソングと言えるくらいに美しいものであった。「アクアカイト」もそうであるが、この曲はかつて日比谷野音でワンマンをやった時も夜空の下でハイライト的に鳴らされた曲であっただけに、またそうしたシチュエーションでも聴けたらと思う。
「そういえば声出しが解禁されたよね。でも特に誰も…(笑)」
とタケシタがおとなしいというか奥ゆかしいようなメレンゲファンのことを口にして笑いが起こると、
「笑い声が起こるのはいいよね(笑)」
と観客の笑い声を引き出すのはさすがであるが、今年始まってすぐにコロナになって出鼻を挫かれたクボは
「今年はたくさんライブやろうって話してたところでコロナに罹ってしまったんでね〜。みんなやって欲しい曲とかあったらTwitterとかで言ってね。「スターフルーツ」とかはキーが高いからやらないけど(笑)
対バンライブとかも全然やってないんで、久しぶりにやりたいんですけど、若手の知り合いとかもいないしねぇ。でもワンマンだとこうやってたくさん曲やれるんで」
と今年の活動への意気込みを口にすると(なんだか割と毎年のようにこう言っている気もするけど)、松江のギターがイントロから唸りを上げるように鳴らされる「シンメトリア」の爽やかなギターロックサウンドでクボは一瞬ボーカルに詰まったりしたかと思ったら、コーラスパートでは観客に向かってマイクスタンドを向ける。決して大合唱というわけではないが、それでも腕を挙げているたくさんの観客の声が確かに重なっているのがわかる。決してみんなで歌うような曲を作ってきたバンドではないけれど、それでもクボは、メレンゲはこうして時には観客の声を聴くことを望んでいる。歌える、歌いたくなるくらいのメロディを描いているということを確かめたい思いもあるのかもしれないし、かつては「盛り上がっているのが見たい」と言っていたこともあった。そこにはロックバンドとしての矜持というものもあるのかもしれない。
そんなメレンゲのロックバンドとしての音のカッコよさを感じられるのはこのサポートメンバーたちによる力が実に大きいのだが、特に小野田のドラムは体が反応して揺れてしまうくらいに力強いビートを叩き出しているのであるが、そんな小野田のイントロのリズムに合わせてタケシタが手拍子をし、観客も合わせて手拍子をするのはもちろん「ビスケット」で、クボが歌い始めて自身もベースを弾きながらもタケシタは表情で観客に手拍子を促すのであるが、
「叩いて二人分」
というフレーズでもバッチリ手拍子が起こるあたりはもう完全にずっとメレンゲのライブに来ている人たちが集まり続けているからだろう。もっとたくさんの人に存在や曲を知ってもらいたいと最大級に思っているバンドであるが、こうしてずっと観に来てくれる人がいてくれているだけでも幸せなことなんじゃないかとも思う。
「サポートメンバーのみなさん、今年もよろしくお願いします!」
とクボがメンバーたちに挨拶してから最後に演奏されたのは「火の鳥」。一説にはクボの親友であったフジファブリックの志村正彦のことを歌っているとも言われている曲であり、手塚治虫の漫画から取られているタイトルであるとも思うのだが、重厚さを感じさせるギターサウンドとリズムの上に乗る
「ツンドラのもっと向こう
君にだって会える
言えなかったことを言うよ」
という締めの歌詞はいつ聴いても胸が締め付けられるような気持ちになる。それはその歌唱や音に鳴らしているメンバーの感情が確かにこもっているからだ。そうできるバンドであるということが、メレンゲの名曲たちをライブでさらに輝かせることができる最大の要素だ。やっぱりメレンゲは今でもずっとカッコいいライブバンド、ロックバンドのままなのだ。
アンコールでは楽器を持って早くも演奏しようとするクボにタケシタがカンペのような紙を見せると、6月8日にこの会場で再びワンマンを開催することを発表する。その前にも何らかのライブをやろうと模索しているらしいが、日程が早いにもかかわらず発表できないというのは対バンライブだったりするのだろうか。
そんな今年も何回もメレンゲに会えるという嬉しい予告の後に演奏されたのは
「まだ季節的には冬だと思うから」
とクボが口にした「ユキノミチ」。今は2月。まだまだ雪が降る可能性もある季節だ。それはこの時期にこの曲を聴くと、2014年2月14日に渋谷公会堂(現在のLINE CUBE SHIBUYA)でのワンマンでこの曲を演奏した時のことを思い出す。その時は渋谷の街が雪に覆われるくらいの大雪で、渋谷駅から公会堂に向かう道がまさにユキノミチになっていたからだ。そんな数々の記憶がこの曲の切なさをさらに加速させていく。そうして聴き手の数だけ脳内に浮かぶ情景があるはずだ。ここに来てこの日最高の歌唱の伸びやかさと見事さを感じさせるクボが
「すぐ会えたりするんだろうか…」
と歌った時、今年はきっとまたすぐメレンゲに会えるんだろうなと思った。その時にはこの曲はもう演奏されない時期になっているだろうけれど、また別の季節の名曲たちを聴くことができるはずだし、きっと今年の冬にもメレンゲはライブをやってくれて、そこでまたこの曲を演奏してくれるはずだ。普段は降ると厄介なことばかりだけれど、その時だけは雪が降っていて欲しいな、なんてことを考えていた。
メレンゲがまだ3人組で、今よりもはるかに大きなステージに立って精力的にリリースなどの活動をしていた15年くらい前よりも、たくさんのカッコいいバンドの音楽を聴いて、ライブに行く機会が増えた。
それでも今になってもメレンゲのライブを見るとそうしたバンドたちに負けないくらいにカッコいいライブをやるバンドだと思える。だからこうして今でもライブを観に来ているのだし、そうやって他のいろんなバンドのライブを見ているからこそ、メレンゲは他のどのバンドでも作れない音楽を作っているバンドだということがわかる。メレンゲのライブでしか得られないものがあるということがわかる。それをこれからもずっと味わっていたい。20年を超えてもそう思えるっていうことは、30年を超えても、40年を超えてもそう思うっていうことだから、これからもどうかずっとよろしく。
1.燃えないゴミ
2.春雨の午後
3.バスを待っている僕ら
4.ふきのとう
5.hole
6.すみか
7.バタフライ
8.君に春を思う
9.きらめく世界
10.アクアカイト
11.声
12.ムーンライト
13.シンメトリア
14.ビスケット
15.火の鳥
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