The Grand Year Of Top Beat a flood of circle / SIX LOUNGE 2/15 @TOP BEAT CLUB
- 2023/02/16
- 19:07
ロックンロールで転がり続けてきたバンドである、THE NEATBEATSがかねてからクラウドファンディングなどを募り、2月10日に新しくオープンしたばかりのライブハウスが荻窪のTOP BEAT CLUB。荻窪から少し歩いた位置にあるビルの地下にライブハウス、1階はカフェというかバー、2階はレコードショップというライブハウスだけではない複合型の音楽を楽しめる場所になっており、入り口には盟友や後輩からたくさんの花が届いている。
まだオープンから数日ということで会場も施設自体も実にキレイな、新築の匂いすらするのであるが、現場オペレーションが万全ではないのか、オープニングアクトのライブ中には入り口の前に人が密集していて中に入れないという事態に。(開演に間に合わなかったのが悪いんだけど)
それでも転換中に中に入ると、キャパはおおよそ新代田FEVERくらいの少し横に長い作りであるが、内装などはロックンロールバンドを輩出してきた新宿紅布を彷彿とさせる。オープン日にはTHE NEATBEATSがワンマンを行っているが、いきなりこんなに満員になるとは予想していなかったのかもしれない。
・SIX LOUNGE
ようやく中に入るとSIX LOUNGEがセッティング中であるのだが、やたらと転換時間が短かった理由は後にヤマグチユウモリ(ボーカル&ギター)のMCによるところもあったのかもしれない。自分がこの会場で初めてライブを見るバンドになるのがSIX LOUNGEである。
おなじみのSEでメンバーが登場すると、楽器を手にして演奏が始まったのは「いつか照らしてくれるだろう」という、ビートもサウンドもどちらかというとぶっ飛ばすというよりはしっかり自分たちの立っている場所を確かめるような選曲だ。実際にユウモリもナガマツシンタロウ(ドラム)もこの新しいライブハウスの隅々までをじっくり見るように演奏している。メガネ姿がおなじみになったイワオリク(ベース)は対照的に最前列にいる観客をよく見ていたようなイメージであるが、最前だけでなくたくさんの観客が
「泥だらけでピースマーク」
というフレーズに合わせて掲げていた拳を2本指に変えるのがライブハウスでSIX LOUNGEのライブを見るのがどれだけ幸せなことかというのを感じさせてくれる。
ユウモリがギターを弾きながら歌い始めただけで歓声が漏れるような音が聞こえた「天使のスーツケース」ではイワオもナガマツもビートを刻みながら、マイクを通さずに歌詞を口ずさんでいるのがよくわかる。それは歌いたくなるくらいにこのバンドのメロディから歌心が溢れているからであるが、その表情は実に笑顔であるし、それがハッキリと見えるくらいにこのライブハウスがステージが見やすくて、THE NEATBEATSがそういうところまでこだわって作ったんだろうなということがよくわかる。ちゃんと会場に作り手の愛情を感じる場所というか。
ナガマツのエイトビートが一気に激しくなることによって、ロマンチックなラブソングでありながらも音はロックンロールでしかない「STARSHIP」と、フェスとは異なる長尺の対バンライブだからこそのセトリの組み方をしている、つまりはこの日ならではのセトリであることを感じさせると、
「荻窪って初めて来ました!荻窪を知れば東京のことはだいたいわかると思ってます!」
と、それは果たしてどうだろうかと思うようなことをユウモリが口にすると、
「良い風が吹いてきてるんじゃないですか!」
と言って演奏されたのはもちろん、最新曲にして「僕のヒーローアカデミア」のエンディングテーマという過去最大のタイアップ曲となった「キタカゼ」。タイアップはレーベルによって決まるものであるし、ソニーへ移籍してメジャーに足を踏み入れたタイミングと合致したという意味では実に幸運であるが、元から持ち合わせていたメロディアスな要素はもちろんさらに伸ばしながらも、よくある「メジャーに行って変わった」的な感じとは全く無縁なくらいにストレートな、この3人の音だけが鳴っているロックンロール。まだ関東地方も北風が吹き荒ぶ寒い季節の真っ只中であるが、その今年の冬の風がこのバンドにとっての追い風になって欲しいと心から思う。本人たちももっとたくさんの人に聴いてもらいたいという思いを持ってメジャーに挑戦したことをインタビューで語っていただけに。
そんな変わらなさを証明するのが、メジャーに進出して最初にリリースされたEP「ジュネス」収録の「New Age Blues」である。イントロのナガマツのキックの四つ打ちのビートとそれに合わせる観客の手拍子というのは今までのバンドにはなかった要素であるが、それがキャッチーさと同時にサビでのロックンロールさをも増幅しているものになっていることが聴いていてすぐにわかる。
それが荒々しさが炸裂しまくる「LULU」から、ショートチューンゆえに2連発する「ピアシング」という、シンプルにロックンロールでしかないような曲へと繋がっていき、明らかに客席のノリも激しくなっていくのであるが、最近は大きなフェスのステージなどで見るとユウモリの歌唱の伸びやかさの素晴らしさが目立つことも多いが、この日はそれよりもスリーピースロックンロールバンドとしてのダイナミズムを感じるようなライブになっている感覚があった。
それは
「俺たち昨日もライブやってたんだけど、大分から飛行機で来たの。だからいつも使ってる機材を持って来れてなくて、今日もこの会場のアンプやセットを借りてやってる。そういういつもと違うところも見てもらえたらな」
とユウモリが言っていたとおりに、機材がロックンロールバンドの作ったライブハウスのものだったことも大きいのかもしれない。その音が大きくてもハッキリとクリアに聴こえるというあたりもさすがバンドマンが作ったライブハウスならではの音響の良さであるが、そんなMCの最後に
「オープニングアクトに出てた、Sleeping Girls、大分の後輩なんです。そっちもよろしく」
と後輩の紹介をするというあたりはロックンロールバンドとしては最若手的なイメージがまだ強いこのバンドも頼れる先輩ポジションになってきたということであり、ユウモリの、3人の人間性を感じさせるものである。
そんなサウンドであってもミドルテンポでユウモリが歌い上げる「Morning Glow」ではやはりその歌の上手さ、声量の大きさが爆音を鳴らすロックンロールバンドとして何よりも大事なものであることを示してくれるし、こうした曲を観客に伝える表現力も実に素晴らしい。それはもちろんこうしてライブハウスでライブをやりまくって得てきたものでもあるのだろう。
するとユウモリは
「何から何まで歌ってくれってわけじゃないけど、気持ち良くなってきたら一緒に歌おう」
と言って、ギターを鳴らしながら「メリールー」のサビを歌い始める。するとそこにささやかながらも観客の歌声が重なっていく。それがやはりこの曲は本当に名曲だなと思えるものになる。みんなが歌いたくなるような曲なのだから。「ジュネス」で再録されたように、そのユウモリの歌をさらに引き立てるようなアレンジも随所に施されているが、
「ねぇ、わたし大人になりたくない」
のフレーズはやはりユウモリの歌唱も素晴らしいけれど、イワオとナガマツのリズムがさらに力強くなったから引き立つものでもあると思う。この部分は何度ライブで聴いても毎回胸が震えるような感覚があるだけに、このバンドを見たくてライブハウスに来た人が初めてライブで聴いたら泣いてしまうくらいのものだとすら思う。
すると終盤にまさにさらにスピードを上げるように「スピード」が演奏され、ロックンロールというよりはもはやパンクと言ってもいいくらいにそのビートもサウンドも疾駆すると、ロックンロールへの愛情を我々観客に問いかけるような「トラッシュ」ではユウモリがおなじみの歌いながら口をマイクに押し当ててマイクスタンドを回転させるという芸当を披露し、より下手側に寄るようにして歌う。それもまたこの曲をライブで演奏しまくって会得したパフォーマンスだろうと思われるが、ここにいた人たちやこのライブハウスに関わっている人たちは
「ロックンロールは大好きかい?」
と問いかけられて「Yes」と即答できる人たちだと思っている。
そしてユウモリが
「ヴィヴィアンの香りでバイバイ!」
と言って最後に演奏されたのはもちろんそのフレーズでサビが締められる「SWEET LITTLE SISTER」であるが、グラムロックスターかのように妖艶な顔立ちのナガマツの作詞家としてのロマンチストさと、実は作曲家としてもこんなに美しいメロディを書けるイワオというこの3人のバランスを感じさせてくれる曲である。そんな曲ですら、この日こうしてライブで演奏し続けてきてのこの曲であるだけに、さらに音と姿に熱量が宿る。ユウモリからもナガマツからも汗が飛び散っているのすらよく見えている。ライブハウスの熱さというものを体現してくれているかのような光景だった。
しかしユウモリが腕を見る(腕時計していただろうか?)と、それはまだ時間があるという合図であり、トドメとばかりにこの日3回目の「ピアシング」を叩きつけ、イワオは曲中に高くジャンプする。観客のノリもこの日最高レベルに激しいものになっている。それはこのバンドがこれからも変わることがないということを示すかのようだった。メジャーに行ってもこうしてライブハウスでロックンロールを鳴らすバンドでしかないのだから。それはもうこの3人でバンドをやればそうなるものなのだ。転がり続ける先輩たちがそうであるように。
1.いつか照らしてくれるだろう
2.天使のスーツケース
3.STARSHIP
4.キタカゼ
5.New Age Blues
6.LULU
7.ピアシング
8.ピアシング
9.Morning Glow
10.メリールー
11.スピード
12.トラッシュ
13.SWEET LITTLE SISTER
14.ピアシング
・a flood of circle
先月には東京キネマ倶楽部で「狂乱天国ナイト」という名の、普段とは全く違う内容・セトリのワンマンを行って2023年をスタートさせた、a flood of circle。当然ながらこのTOP BEAT CLUBでライブをやるのは初。そんなバンドが初めて立つステージを目撃できるというのは実に幸せなことである。
おなじみのSEでメンバーがステージに登場すると、佐々木亮介(ボーカル&ギター)は緑茶割りを手に持って、短めの金髪に黄色い革ジャンというちょっと鮮やかめの出で立ちになっている。青木テツ(ギター)、HISAYO(ベース)、渡邊一丘(ドラム)はいつもと変わらずという感じであるが、この日はニューアルバム「花降る空に不滅の歌を」の発売日であり、告知されていたようにその収録曲を収録順に演奏する内容ということで、1曲目は爆音ロックンロールの「月夜の道を俺が行く」。ライブで聴くとより勢いをつけるようなサウンドに聴こえるこの曲の何が凄いかというと、自分を曝け出すような歌詞が並んだ後のサビ前に
「気づけば結局 佐々木亮介」
と自分の名前を歌詞に出していることなのであるが、そんな自分を曝け出すような曲のサビが
「愛してるぜBaby? ああうるせえ
なんの意味もない歌だ 電気の無駄だ」
というものになっていて、それが爆音のロックンロールソングだというのがやっぱり結局佐々木亮介なのである。そしてそれは今作のアルバムのモードを示しているものであると言える。
続く「バードヘッドブルース」はすでに先月のワンマン前に曲が解禁され、そのライブでもお披露目されている曲であるが、さらにアッパーに突き抜けるかのようなロックンロールサウンドでテツがステージ前に出てきてギターソロを弾きまくる間奏も含めて、
「俺はまだバードヘッド カラスサイズ脳ミソ
単純な生き物だ これしか出来ないんだ」
「カラスのアタマで生きていく」
というフレーズの通りに、いろんなジャンル、サウンドの曲を作ることができるようなソングライターが、それでもロックンロールに焦点を合わせて突き進むからこそこうなるというような曲だ。やはりリリース後というタイミングだからか、バンドの演奏も観客のノリも先月のワンマンの時よりもはるかに熱いように感じる。
そんなロックンロールな曲たちに熱狂できるのはバンドの鳴らしている音の激しさや熱さはもちろんのこと、今やLiSAにすら超名曲を提供したメロディメーカーである佐々木亮介の描くメロディの美しさがあるからだが、このアルバムでトップクラスにそれを感じさせてくれるのは亮介が
「くたばれ〜」
と言って演奏された「くたばれマイダーリン」であり、中指を立てるようにして歌う姿とは裏腹に、フラッドのこれまでの歴史にも数多く存在するミドルテンポの名曲たちに連なる曲だ。
「ずっと思ってたことなの
引越し蕎麦食べるタイミング
いつなの」
というフレーズが唐突に登場するアレンジはフラッドの、亮介の一筋縄ではいかなさを感じさせるが、亮介の描く女性視点の歌詞はやはりどこか独特な切なさを感じさせる。フィクションであるだろうに、本当にこの主人公やダーリンが存在していて、こういう心境を抱いて生活しているかのような。
亮介がギターを下ろすと、
「まともな人はこんなところにライブハウス作らない〜。まともな人はこんな店の存在に気付かない〜」
と亮介なりにこのライブハウスを作った人たちやライブハウスに来る人たちのことを称えると、
「2023年最も泣けるバラードを歌います」
と言うのだが、亮介がハンドマイクという形態でそんな曲を歌うわけがなく、やはりタイトルだけは「バラード」とついている「如何様師のバラード」はハンドマイク形態ならではのブルースやラウドさを感じさせるサウンドの曲だが、テンポはそうした曲たちの中でもかなり速めである。コロナによる規制がなくなったら、かつてのハンドマイク曲のようにこの曲でも客席に突入していくのだろうか、とも思うのだが、良い感じに酒が入っているのか、
「お金ください」
と歌う、まさにイカサマ師になり切って歌うかのような亮介の表情は実にご機嫌に見える。
すると亮介はブラックファルコンを肩にかけようとしたらストラップが外れていたためにホワイトファルコンに急遽ギターを変えると、まだアルバムがリリースされたばかりだからか、譜面台もステージに持ち込む。しかしその譜面台を見ながらではなく、ステージ前に出てきてマイクを通さずにアカペラでギターを鳴らしながら歌い始め、それが客席にまでしっかり響くのは「本気で生きているのなら」。
自分は前日にアルバムを買ってすでに聴いていたのだが、この曲は一聴した瞬間は「これを佐々木亮介ソロじゃなくてフラッドでやるのか」と思った。でも亮介のアカペラ歌唱を経てメンバーのバンドサウンドが重なっていくという様は、亮介だけではなくてフラッドの4人全員が、バンドが亮介の意思や精神を共有して、全員が本気で生きているからこそ、この曲はフラッドの曲になったのだと思う。ある意味では前作の「白状」や「伝説の夜を君と」の発展形とも言える曲であるし、リリース日にしてすでに「この曲、こんなにライブ映えする曲なのか…」と思うくらいのアンサンブル、グルーヴを獲得している。
「みんなスマホ持ってるでしょ?iPhoneとか、iPhoneのニセモノみたいなやつとか(笑)
次にやる曲「カメラソング」っていうタイトルだから、カメラで撮ってもいいよ」
と撮影許可が出た「カメラソング」は亮介特有の切なさとロマンチックさを兼ね備えたラブソングであるが、観客も全員がスマホで撮影するのではなくて一部の人だけが撮影していて、他の人たちは撮影することなくじっとステージを見ているというあたりは実にフラッドのファンらしい自由さを感じさせてくれる。撮るよりもノりたい、ちゃんと見たいという思いなのか、スマホをロッカーなどに預けていたのかはわからないが、写真に撮ることで残ることもあるし、撮らなくても残ることもあると思わせる歌詞が乗るこの曲もまた紛れもなくフラッドの名曲サイドに入ってくる曲である。
そんな切なさをロックンロールに吹っ飛ばしていくように演奏されたアルバムタイトル曲であり、珍しいワルツ調のリズムによって始まる「花降る空に不滅の歌を」の凄まじいアンセム感。なんならここまでに演奏された曲にも宿っていたそれをさらに上回るその感覚は、これからこの曲がライブで毎回のように演奏されていくことを予感させる。それこそ「シーガル」や「Dancing Zombiez」のように。フラッドの曲はライブで鳴らしてこそナンボ、それが完成形だとリリースがあるたびに思っているが、それを発売日のライブの時点で感じさせてくれるとは。ということは今月から始まるツアーを重ねていくことによってさらにこの曲は磨かれて成長していくということだ。渡邊の叩いてる時の表情が笑顔で満ちているのも実によくわかる。
そしてどこか居なくなってしまった人たちへの想いが重なっていくかのような「GOOD LUCK MY FRIEND」というボス的な曲がこの後半に位置しているのであるが、
「古臭いバンド 俺やっぱ好きだわ
終わってるなんて嘯く」
「最後の最後笑うのはさ
夢中で信じて 走り抜いた俺だけ
どこのどいつに笑われてもだ
宇宙に俺だけ 走り抜いたの俺だけ」
などのこの曲の歌詞の全てが、結局佐々木亮介と言ってしまうくらいに亮介らしさが炸裂している。というか亮介にしか書けない。亮介はインタビューでは歌詞が1番難しい、出てこないと言っているが、そう思うまで言葉を探し、自分の中に潜っているからこそ、こうした亮介でしか書けない歌詞が出てくるのだろう。メロディメーカーとしてはもちろん、その亮介の作詞家としての才ももっと評価されて欲しいと、彼の音楽を信じ続けてきた1人として思う。
そんなアルバムは最後に既発曲が並んでいる。試聴機対策はもちろん、最初に知ってる曲を並べて聴き手を注目させて…みたいな業界の法則や手法など一切知らんとばかりの曲順で演奏されたのは、ここでさらにブチ上がるべきロックンロールパーティーチューンの「Party Monster Bop」で、ここまでの曲もほとんどがライブ初披露とは思えないくらいの完成度の高さで鳴らされていたが、この曲は最近のライブでは毎回演奏されているだけにやはりバンドの練り上げてきた感が他の曲よりもさらに強い。それはつまり、アルバム後半、ライブ後半になるにつれてさらに熱くなっていく流れになっているということである。それは
「愛? 夢? 希望? 平和? は?」
というフレーズをメンバー全員が重ねるように歌う姿からも現れているが、あまりに熱くなりすぎたか、亮介はシャウトするように歌ったりと、歌唱法を大きく変えていた。それがこの日だけの勢いによるものだったのか、これからはこうしたアレンジで歌うのかはツアーにおける楽しみでもある。
「2023年にこうやってライブハウス作っちゃうなんて普通じゃないでしょ(笑)
でも2023年になっても戦争してるし、大地震(トルコで発生したもののことと思われる)もあるし」
という憂鬱になるような出来事ばかりの社会や世の中を音楽でもって照らし出すようにして亮介が
「真夏の夜空に輝く花火」
と歌だけで曲を始めたのは「花火を見に行こうぜ」。亮介がアコギを弾きながら歌うこの曲も今や完全に定番曲であり代表曲となったが、こうしてアルバムの流れとして最後に聴くとまた違った印象になる。それはまだまだフラッドは、ロックンロールは行けるという、これまでにも何度も感じてきたことを今でもまた感じさせてくれるのだ。それは去年この曲で見てきた景色があるからこそのこのアルバムの最後の曲というのもあるかもしれないが、今年も去年の代々木公園フリーライブ以上の大きな花火をフラッドと観に行けたら。最後に
「花火を見に行こうぜ」
と亮介の歌唱だけで演奏が終わってメンバーが去っていくという終わり方も、今までの曲とは全く違う余韻を我々に与えてくれるものだ。
アンコールでメンバーがステージに現れた時に観客がざわついていたのはテツがタバコを吸いながら出てきたからで、そのままアンプに灰皿を置いてタバコを吸い続けるのであるが、それは一服する間もなく出てきたということでもあるだろうけれど、最初の方はギター弾かないしなということもわかっていたかのように、HISAYOと渡邊のストレートなエイトビートのみの上に亮介のボーカルが乗って始まるのはSIX LOUNGEがフラッドの「GIFT ROCKS」に提供した「LADY LUCK」であり、新作を曲順通りに演奏するライブのアンコールは果たしてどんな曲なんだろうかと思っていたが、もうこれしかないという選曲であり、2コーラス目からは当然のようにユウモリも缶ビールを持ってステージに登場して亮介とボーカルを分け合うというコラボに。
これは昨年末の大阪でのSAKAI MEETINGの出演日が同日だった時にも行われたコラボであるが、こうして同じステージに立ってライブをする意味を存分に感じさせてくれるものだ。それと同時にフラッドがSIX LOUNGEから貰ったギフトであるこの曲を本当に大事にしているということも。だから亮介はユウモリと肩を組むようにしてユウモリの持つハンドマイク1本で2人で歌うというパフォーマンスも展開するのであるが、あまりの距離の近さにユウモリが笑ってしまって歌詞が飛んでしまう部分もあった。それくらいに両者がこのライブを楽しんでいて、その楽しんでいる姿が我々をさらに楽しくさせてくれるのである。
そうしてコラボを終えたユウモリがステージから去ると、タバコを吸い終わったテツがステージ前まで出てきてギターをかき鳴らしまくるのは「The Beautiful Monkeys」でこの日最大の熱狂を生み出すのであるが、亮介はマイクスタンドをテツの横に移動させて、テツの肩に寄りかかるようにしながら歌う。その光景は金髪の亮介と銀髪のテツという並びであるだけに、ロックンロールシーンの金閣銀閣兄弟とすら言えるくらいに微笑ましいもので、鳴らしている曲の凶暴性とのギャップが凄まじいことになっていた。つまりはやっぱりこの日もフラッドは最強かつ最高のロックンロールを鳴らしていたということだ。
去り際には最後に残った渡邊が
「みんなわかってると思うけど、アルバム今日発売だから。みんな買ってね!」
と告知して笑顔で手を振りながらステージを去る。そこには亮介の内面にフォーカスした内容のアルバムとは思えないくらいにバンド全体、メンバー全員の自信が滲み出ていた。各地を細かく周りまくるツアーでこのアルバムの曲たちを何度も聴けるのが本当に楽しみだ。「2020」「伝説の夜を君と」と2年連続で個人的年間ベストディスクとして表彰してきたが、このアルバムもやはり、暫定2023年の個人的ベストディスク、ダントツ一位。それも結局、佐々木亮介。
1.月夜の道を俺が行く
2.バードヘッドブルース
3.くたばれマイダーリン
4.如何様師のバラード
5.本気で生きているのなら
6.カメラソング
7.花降る空に不滅の歌を
8.GOOD LUCK MY FRIEND
9.Party Monster Bop
10.花火を見に行こう
encore
11.LADY LUCK w/ヤマグチユウモリ
12.The Beautiful Monkeys
このTOP BEAT CLUBのスケジュールを見ると、驚くくらいに今はロックンロールバンドばかりが名を連ねている。このキャパ即完のThe Birthdayなんかもワンマンを行う。そうしてライブを積み重ねることによって、これからこのライブハウスはロックンロールバンドにとっての聖地になっていくはずだ。
そんな場所にこれから何度も立って歴史を作っていくa flood of circleとSIX LOUNGEが初めてこの会場に立った記念すべき日。それは間違いなくロックンロールの新たな歴史の始まりの日と呼べるものだった。
まだオープンから数日ということで会場も施設自体も実にキレイな、新築の匂いすらするのであるが、現場オペレーションが万全ではないのか、オープニングアクトのライブ中には入り口の前に人が密集していて中に入れないという事態に。(開演に間に合わなかったのが悪いんだけど)
それでも転換中に中に入ると、キャパはおおよそ新代田FEVERくらいの少し横に長い作りであるが、内装などはロックンロールバンドを輩出してきた新宿紅布を彷彿とさせる。オープン日にはTHE NEATBEATSがワンマンを行っているが、いきなりこんなに満員になるとは予想していなかったのかもしれない。
・SIX LOUNGE
ようやく中に入るとSIX LOUNGEがセッティング中であるのだが、やたらと転換時間が短かった理由は後にヤマグチユウモリ(ボーカル&ギター)のMCによるところもあったのかもしれない。自分がこの会場で初めてライブを見るバンドになるのがSIX LOUNGEである。
おなじみのSEでメンバーが登場すると、楽器を手にして演奏が始まったのは「いつか照らしてくれるだろう」という、ビートもサウンドもどちらかというとぶっ飛ばすというよりはしっかり自分たちの立っている場所を確かめるような選曲だ。実際にユウモリもナガマツシンタロウ(ドラム)もこの新しいライブハウスの隅々までをじっくり見るように演奏している。メガネ姿がおなじみになったイワオリク(ベース)は対照的に最前列にいる観客をよく見ていたようなイメージであるが、最前だけでなくたくさんの観客が
「泥だらけでピースマーク」
というフレーズに合わせて掲げていた拳を2本指に変えるのがライブハウスでSIX LOUNGEのライブを見るのがどれだけ幸せなことかというのを感じさせてくれる。
ユウモリがギターを弾きながら歌い始めただけで歓声が漏れるような音が聞こえた「天使のスーツケース」ではイワオもナガマツもビートを刻みながら、マイクを通さずに歌詞を口ずさんでいるのがよくわかる。それは歌いたくなるくらいにこのバンドのメロディから歌心が溢れているからであるが、その表情は実に笑顔であるし、それがハッキリと見えるくらいにこのライブハウスがステージが見やすくて、THE NEATBEATSがそういうところまでこだわって作ったんだろうなということがよくわかる。ちゃんと会場に作り手の愛情を感じる場所というか。
ナガマツのエイトビートが一気に激しくなることによって、ロマンチックなラブソングでありながらも音はロックンロールでしかない「STARSHIP」と、フェスとは異なる長尺の対バンライブだからこそのセトリの組み方をしている、つまりはこの日ならではのセトリであることを感じさせると、
「荻窪って初めて来ました!荻窪を知れば東京のことはだいたいわかると思ってます!」
と、それは果たしてどうだろうかと思うようなことをユウモリが口にすると、
「良い風が吹いてきてるんじゃないですか!」
と言って演奏されたのはもちろん、最新曲にして「僕のヒーローアカデミア」のエンディングテーマという過去最大のタイアップ曲となった「キタカゼ」。タイアップはレーベルによって決まるものであるし、ソニーへ移籍してメジャーに足を踏み入れたタイミングと合致したという意味では実に幸運であるが、元から持ち合わせていたメロディアスな要素はもちろんさらに伸ばしながらも、よくある「メジャーに行って変わった」的な感じとは全く無縁なくらいにストレートな、この3人の音だけが鳴っているロックンロール。まだ関東地方も北風が吹き荒ぶ寒い季節の真っ只中であるが、その今年の冬の風がこのバンドにとっての追い風になって欲しいと心から思う。本人たちももっとたくさんの人に聴いてもらいたいという思いを持ってメジャーに挑戦したことをインタビューで語っていただけに。
そんな変わらなさを証明するのが、メジャーに進出して最初にリリースされたEP「ジュネス」収録の「New Age Blues」である。イントロのナガマツのキックの四つ打ちのビートとそれに合わせる観客の手拍子というのは今までのバンドにはなかった要素であるが、それがキャッチーさと同時にサビでのロックンロールさをも増幅しているものになっていることが聴いていてすぐにわかる。
それが荒々しさが炸裂しまくる「LULU」から、ショートチューンゆえに2連発する「ピアシング」という、シンプルにロックンロールでしかないような曲へと繋がっていき、明らかに客席のノリも激しくなっていくのであるが、最近は大きなフェスのステージなどで見るとユウモリの歌唱の伸びやかさの素晴らしさが目立つことも多いが、この日はそれよりもスリーピースロックンロールバンドとしてのダイナミズムを感じるようなライブになっている感覚があった。
それは
「俺たち昨日もライブやってたんだけど、大分から飛行機で来たの。だからいつも使ってる機材を持って来れてなくて、今日もこの会場のアンプやセットを借りてやってる。そういういつもと違うところも見てもらえたらな」
とユウモリが言っていたとおりに、機材がロックンロールバンドの作ったライブハウスのものだったことも大きいのかもしれない。その音が大きくてもハッキリとクリアに聴こえるというあたりもさすがバンドマンが作ったライブハウスならではの音響の良さであるが、そんなMCの最後に
「オープニングアクトに出てた、Sleeping Girls、大分の後輩なんです。そっちもよろしく」
と後輩の紹介をするというあたりはロックンロールバンドとしては最若手的なイメージがまだ強いこのバンドも頼れる先輩ポジションになってきたということであり、ユウモリの、3人の人間性を感じさせるものである。
そんなサウンドであってもミドルテンポでユウモリが歌い上げる「Morning Glow」ではやはりその歌の上手さ、声量の大きさが爆音を鳴らすロックンロールバンドとして何よりも大事なものであることを示してくれるし、こうした曲を観客に伝える表現力も実に素晴らしい。それはもちろんこうしてライブハウスでライブをやりまくって得てきたものでもあるのだろう。
するとユウモリは
「何から何まで歌ってくれってわけじゃないけど、気持ち良くなってきたら一緒に歌おう」
と言って、ギターを鳴らしながら「メリールー」のサビを歌い始める。するとそこにささやかながらも観客の歌声が重なっていく。それがやはりこの曲は本当に名曲だなと思えるものになる。みんなが歌いたくなるような曲なのだから。「ジュネス」で再録されたように、そのユウモリの歌をさらに引き立てるようなアレンジも随所に施されているが、
「ねぇ、わたし大人になりたくない」
のフレーズはやはりユウモリの歌唱も素晴らしいけれど、イワオとナガマツのリズムがさらに力強くなったから引き立つものでもあると思う。この部分は何度ライブで聴いても毎回胸が震えるような感覚があるだけに、このバンドを見たくてライブハウスに来た人が初めてライブで聴いたら泣いてしまうくらいのものだとすら思う。
すると終盤にまさにさらにスピードを上げるように「スピード」が演奏され、ロックンロールというよりはもはやパンクと言ってもいいくらいにそのビートもサウンドも疾駆すると、ロックンロールへの愛情を我々観客に問いかけるような「トラッシュ」ではユウモリがおなじみの歌いながら口をマイクに押し当ててマイクスタンドを回転させるという芸当を披露し、より下手側に寄るようにして歌う。それもまたこの曲をライブで演奏しまくって会得したパフォーマンスだろうと思われるが、ここにいた人たちやこのライブハウスに関わっている人たちは
「ロックンロールは大好きかい?」
と問いかけられて「Yes」と即答できる人たちだと思っている。
そしてユウモリが
「ヴィヴィアンの香りでバイバイ!」
と言って最後に演奏されたのはもちろんそのフレーズでサビが締められる「SWEET LITTLE SISTER」であるが、グラムロックスターかのように妖艶な顔立ちのナガマツの作詞家としてのロマンチストさと、実は作曲家としてもこんなに美しいメロディを書けるイワオというこの3人のバランスを感じさせてくれる曲である。そんな曲ですら、この日こうしてライブで演奏し続けてきてのこの曲であるだけに、さらに音と姿に熱量が宿る。ユウモリからもナガマツからも汗が飛び散っているのすらよく見えている。ライブハウスの熱さというものを体現してくれているかのような光景だった。
しかしユウモリが腕を見る(腕時計していただろうか?)と、それはまだ時間があるという合図であり、トドメとばかりにこの日3回目の「ピアシング」を叩きつけ、イワオは曲中に高くジャンプする。観客のノリもこの日最高レベルに激しいものになっている。それはこのバンドがこれからも変わることがないということを示すかのようだった。メジャーに行ってもこうしてライブハウスでロックンロールを鳴らすバンドでしかないのだから。それはもうこの3人でバンドをやればそうなるものなのだ。転がり続ける先輩たちがそうであるように。
1.いつか照らしてくれるだろう
2.天使のスーツケース
3.STARSHIP
4.キタカゼ
5.New Age Blues
6.LULU
7.ピアシング
8.ピアシング
9.Morning Glow
10.メリールー
11.スピード
12.トラッシュ
13.SWEET LITTLE SISTER
14.ピアシング
・a flood of circle
先月には東京キネマ倶楽部で「狂乱天国ナイト」という名の、普段とは全く違う内容・セトリのワンマンを行って2023年をスタートさせた、a flood of circle。当然ながらこのTOP BEAT CLUBでライブをやるのは初。そんなバンドが初めて立つステージを目撃できるというのは実に幸せなことである。
おなじみのSEでメンバーがステージに登場すると、佐々木亮介(ボーカル&ギター)は緑茶割りを手に持って、短めの金髪に黄色い革ジャンというちょっと鮮やかめの出で立ちになっている。青木テツ(ギター)、HISAYO(ベース)、渡邊一丘(ドラム)はいつもと変わらずという感じであるが、この日はニューアルバム「花降る空に不滅の歌を」の発売日であり、告知されていたようにその収録曲を収録順に演奏する内容ということで、1曲目は爆音ロックンロールの「月夜の道を俺が行く」。ライブで聴くとより勢いをつけるようなサウンドに聴こえるこの曲の何が凄いかというと、自分を曝け出すような歌詞が並んだ後のサビ前に
「気づけば結局 佐々木亮介」
と自分の名前を歌詞に出していることなのであるが、そんな自分を曝け出すような曲のサビが
「愛してるぜBaby? ああうるせえ
なんの意味もない歌だ 電気の無駄だ」
というものになっていて、それが爆音のロックンロールソングだというのがやっぱり結局佐々木亮介なのである。そしてそれは今作のアルバムのモードを示しているものであると言える。
続く「バードヘッドブルース」はすでに先月のワンマン前に曲が解禁され、そのライブでもお披露目されている曲であるが、さらにアッパーに突き抜けるかのようなロックンロールサウンドでテツがステージ前に出てきてギターソロを弾きまくる間奏も含めて、
「俺はまだバードヘッド カラスサイズ脳ミソ
単純な生き物だ これしか出来ないんだ」
「カラスのアタマで生きていく」
というフレーズの通りに、いろんなジャンル、サウンドの曲を作ることができるようなソングライターが、それでもロックンロールに焦点を合わせて突き進むからこそこうなるというような曲だ。やはりリリース後というタイミングだからか、バンドの演奏も観客のノリも先月のワンマンの時よりもはるかに熱いように感じる。
そんなロックンロールな曲たちに熱狂できるのはバンドの鳴らしている音の激しさや熱さはもちろんのこと、今やLiSAにすら超名曲を提供したメロディメーカーである佐々木亮介の描くメロディの美しさがあるからだが、このアルバムでトップクラスにそれを感じさせてくれるのは亮介が
「くたばれ〜」
と言って演奏された「くたばれマイダーリン」であり、中指を立てるようにして歌う姿とは裏腹に、フラッドのこれまでの歴史にも数多く存在するミドルテンポの名曲たちに連なる曲だ。
「ずっと思ってたことなの
引越し蕎麦食べるタイミング
いつなの」
というフレーズが唐突に登場するアレンジはフラッドの、亮介の一筋縄ではいかなさを感じさせるが、亮介の描く女性視点の歌詞はやはりどこか独特な切なさを感じさせる。フィクションであるだろうに、本当にこの主人公やダーリンが存在していて、こういう心境を抱いて生活しているかのような。
亮介がギターを下ろすと、
「まともな人はこんなところにライブハウス作らない〜。まともな人はこんな店の存在に気付かない〜」
と亮介なりにこのライブハウスを作った人たちやライブハウスに来る人たちのことを称えると、
「2023年最も泣けるバラードを歌います」
と言うのだが、亮介がハンドマイクという形態でそんな曲を歌うわけがなく、やはりタイトルだけは「バラード」とついている「如何様師のバラード」はハンドマイク形態ならではのブルースやラウドさを感じさせるサウンドの曲だが、テンポはそうした曲たちの中でもかなり速めである。コロナによる規制がなくなったら、かつてのハンドマイク曲のようにこの曲でも客席に突入していくのだろうか、とも思うのだが、良い感じに酒が入っているのか、
「お金ください」
と歌う、まさにイカサマ師になり切って歌うかのような亮介の表情は実にご機嫌に見える。
すると亮介はブラックファルコンを肩にかけようとしたらストラップが外れていたためにホワイトファルコンに急遽ギターを変えると、まだアルバムがリリースされたばかりだからか、譜面台もステージに持ち込む。しかしその譜面台を見ながらではなく、ステージ前に出てきてマイクを通さずにアカペラでギターを鳴らしながら歌い始め、それが客席にまでしっかり響くのは「本気で生きているのなら」。
自分は前日にアルバムを買ってすでに聴いていたのだが、この曲は一聴した瞬間は「これを佐々木亮介ソロじゃなくてフラッドでやるのか」と思った。でも亮介のアカペラ歌唱を経てメンバーのバンドサウンドが重なっていくという様は、亮介だけではなくてフラッドの4人全員が、バンドが亮介の意思や精神を共有して、全員が本気で生きているからこそ、この曲はフラッドの曲になったのだと思う。ある意味では前作の「白状」や「伝説の夜を君と」の発展形とも言える曲であるし、リリース日にしてすでに「この曲、こんなにライブ映えする曲なのか…」と思うくらいのアンサンブル、グルーヴを獲得している。
「みんなスマホ持ってるでしょ?iPhoneとか、iPhoneのニセモノみたいなやつとか(笑)
次にやる曲「カメラソング」っていうタイトルだから、カメラで撮ってもいいよ」
と撮影許可が出た「カメラソング」は亮介特有の切なさとロマンチックさを兼ね備えたラブソングであるが、観客も全員がスマホで撮影するのではなくて一部の人だけが撮影していて、他の人たちは撮影することなくじっとステージを見ているというあたりは実にフラッドのファンらしい自由さを感じさせてくれる。撮るよりもノりたい、ちゃんと見たいという思いなのか、スマホをロッカーなどに預けていたのかはわからないが、写真に撮ることで残ることもあるし、撮らなくても残ることもあると思わせる歌詞が乗るこの曲もまた紛れもなくフラッドの名曲サイドに入ってくる曲である。
そんな切なさをロックンロールに吹っ飛ばしていくように演奏されたアルバムタイトル曲であり、珍しいワルツ調のリズムによって始まる「花降る空に不滅の歌を」の凄まじいアンセム感。なんならここまでに演奏された曲にも宿っていたそれをさらに上回るその感覚は、これからこの曲がライブで毎回のように演奏されていくことを予感させる。それこそ「シーガル」や「Dancing Zombiez」のように。フラッドの曲はライブで鳴らしてこそナンボ、それが完成形だとリリースがあるたびに思っているが、それを発売日のライブの時点で感じさせてくれるとは。ということは今月から始まるツアーを重ねていくことによってさらにこの曲は磨かれて成長していくということだ。渡邊の叩いてる時の表情が笑顔で満ちているのも実によくわかる。
そしてどこか居なくなってしまった人たちへの想いが重なっていくかのような「GOOD LUCK MY FRIEND」というボス的な曲がこの後半に位置しているのであるが、
「古臭いバンド 俺やっぱ好きだわ
終わってるなんて嘯く」
「最後の最後笑うのはさ
夢中で信じて 走り抜いた俺だけ
どこのどいつに笑われてもだ
宇宙に俺だけ 走り抜いたの俺だけ」
などのこの曲の歌詞の全てが、結局佐々木亮介と言ってしまうくらいに亮介らしさが炸裂している。というか亮介にしか書けない。亮介はインタビューでは歌詞が1番難しい、出てこないと言っているが、そう思うまで言葉を探し、自分の中に潜っているからこそ、こうした亮介でしか書けない歌詞が出てくるのだろう。メロディメーカーとしてはもちろん、その亮介の作詞家としての才ももっと評価されて欲しいと、彼の音楽を信じ続けてきた1人として思う。
そんなアルバムは最後に既発曲が並んでいる。試聴機対策はもちろん、最初に知ってる曲を並べて聴き手を注目させて…みたいな業界の法則や手法など一切知らんとばかりの曲順で演奏されたのは、ここでさらにブチ上がるべきロックンロールパーティーチューンの「Party Monster Bop」で、ここまでの曲もほとんどがライブ初披露とは思えないくらいの完成度の高さで鳴らされていたが、この曲は最近のライブでは毎回演奏されているだけにやはりバンドの練り上げてきた感が他の曲よりもさらに強い。それはつまり、アルバム後半、ライブ後半になるにつれてさらに熱くなっていく流れになっているということである。それは
「愛? 夢? 希望? 平和? は?」
というフレーズをメンバー全員が重ねるように歌う姿からも現れているが、あまりに熱くなりすぎたか、亮介はシャウトするように歌ったりと、歌唱法を大きく変えていた。それがこの日だけの勢いによるものだったのか、これからはこうしたアレンジで歌うのかはツアーにおける楽しみでもある。
「2023年にこうやってライブハウス作っちゃうなんて普通じゃないでしょ(笑)
でも2023年になっても戦争してるし、大地震(トルコで発生したもののことと思われる)もあるし」
という憂鬱になるような出来事ばかりの社会や世の中を音楽でもって照らし出すようにして亮介が
「真夏の夜空に輝く花火」
と歌だけで曲を始めたのは「花火を見に行こうぜ」。亮介がアコギを弾きながら歌うこの曲も今や完全に定番曲であり代表曲となったが、こうしてアルバムの流れとして最後に聴くとまた違った印象になる。それはまだまだフラッドは、ロックンロールは行けるという、これまでにも何度も感じてきたことを今でもまた感じさせてくれるのだ。それは去年この曲で見てきた景色があるからこそのこのアルバムの最後の曲というのもあるかもしれないが、今年も去年の代々木公園フリーライブ以上の大きな花火をフラッドと観に行けたら。最後に
「花火を見に行こうぜ」
と亮介の歌唱だけで演奏が終わってメンバーが去っていくという終わり方も、今までの曲とは全く違う余韻を我々に与えてくれるものだ。
アンコールでメンバーがステージに現れた時に観客がざわついていたのはテツがタバコを吸いながら出てきたからで、そのままアンプに灰皿を置いてタバコを吸い続けるのであるが、それは一服する間もなく出てきたということでもあるだろうけれど、最初の方はギター弾かないしなということもわかっていたかのように、HISAYOと渡邊のストレートなエイトビートのみの上に亮介のボーカルが乗って始まるのはSIX LOUNGEがフラッドの「GIFT ROCKS」に提供した「LADY LUCK」であり、新作を曲順通りに演奏するライブのアンコールは果たしてどんな曲なんだろうかと思っていたが、もうこれしかないという選曲であり、2コーラス目からは当然のようにユウモリも缶ビールを持ってステージに登場して亮介とボーカルを分け合うというコラボに。
これは昨年末の大阪でのSAKAI MEETINGの出演日が同日だった時にも行われたコラボであるが、こうして同じステージに立ってライブをする意味を存分に感じさせてくれるものだ。それと同時にフラッドがSIX LOUNGEから貰ったギフトであるこの曲を本当に大事にしているということも。だから亮介はユウモリと肩を組むようにしてユウモリの持つハンドマイク1本で2人で歌うというパフォーマンスも展開するのであるが、あまりの距離の近さにユウモリが笑ってしまって歌詞が飛んでしまう部分もあった。それくらいに両者がこのライブを楽しんでいて、その楽しんでいる姿が我々をさらに楽しくさせてくれるのである。
そうしてコラボを終えたユウモリがステージから去ると、タバコを吸い終わったテツがステージ前まで出てきてギターをかき鳴らしまくるのは「The Beautiful Monkeys」でこの日最大の熱狂を生み出すのであるが、亮介はマイクスタンドをテツの横に移動させて、テツの肩に寄りかかるようにしながら歌う。その光景は金髪の亮介と銀髪のテツという並びであるだけに、ロックンロールシーンの金閣銀閣兄弟とすら言えるくらいに微笑ましいもので、鳴らしている曲の凶暴性とのギャップが凄まじいことになっていた。つまりはやっぱりこの日もフラッドは最強かつ最高のロックンロールを鳴らしていたということだ。
去り際には最後に残った渡邊が
「みんなわかってると思うけど、アルバム今日発売だから。みんな買ってね!」
と告知して笑顔で手を振りながらステージを去る。そこには亮介の内面にフォーカスした内容のアルバムとは思えないくらいにバンド全体、メンバー全員の自信が滲み出ていた。各地を細かく周りまくるツアーでこのアルバムの曲たちを何度も聴けるのが本当に楽しみだ。「2020」「伝説の夜を君と」と2年連続で個人的年間ベストディスクとして表彰してきたが、このアルバムもやはり、暫定2023年の個人的ベストディスク、ダントツ一位。それも結局、佐々木亮介。
1.月夜の道を俺が行く
2.バードヘッドブルース
3.くたばれマイダーリン
4.如何様師のバラード
5.本気で生きているのなら
6.カメラソング
7.花降る空に不滅の歌を
8.GOOD LUCK MY FRIEND
9.Party Monster Bop
10.花火を見に行こう
encore
11.LADY LUCK w/ヤマグチユウモリ
12.The Beautiful Monkeys
このTOP BEAT CLUBのスケジュールを見ると、驚くくらいに今はロックンロールバンドばかりが名を連ねている。このキャパ即完のThe Birthdayなんかもワンマンを行う。そうしてライブを積み重ねることによって、これからこのライブハウスはロックンロールバンドにとっての聖地になっていくはずだ。
そんな場所にこれから何度も立って歴史を作っていくa flood of circleとSIX LOUNGEが初めてこの会場に立った記念すべき日。それは間違いなくロックンロールの新たな歴史の始まりの日と呼べるものだった。