ライブナタリー 5周年記念公演 "渋谷すばる × THE BAWDIES" @日比谷野外大音楽堂 2/5
- 2023/02/06
- 19:24
これまでにも「こことここ!?」という意外な組み合わせの対バンを開催してきたナタリーのライブ企画「ライブナタリー」が5周年を迎えたことによって特別公演を開催。すでに前日にもこれまた「この組み合わせ!?」という対バンライブが開催されているが、この日は渋谷すばるとTHE BAWDIESという、普通ならまず実現しないであろう組み合わせ。
日比谷野音は以前は春から秋にかけてしかライブで使えなかったのだが、今年は試験的に冬も使えるようにしているらしく、こんな時期にまさか野音でライブを見ることになるとは、と思うとともに過去最速の野音始めである。開演時間前にはすでに空は薄暗くなってきているが、雲ひとつない快晴で風もほとんど吹いていないというのは太陽のような存在であるこの2組の力によるものだろうか。
・THE BAWDIES
開演前にはThe Birthday「LOVE ROCKETS」や10-FEET「第ゼロ感」という映画「SLUM DUNK THE FIRST」のテーマソング、さらには盟友のthe telephones「sick rocks」までもがBGMとして流れている中、開演時間の17時30分を少し過ぎたあたりでステージが暗転して、ウィルソン・ピケット「ダンス天国」のSEが流れてメンバー4人がグレーのスーツを着て登場すると、TAXMAN(ギター)とJIM(ギター)、ROY(ベース&ボーカル)の手拍子に合わせて客席からも手拍子が起こる。THE BAWDIESのグッズを身につけた人も少なからずいたけれど、初めて見る人が多いと思っていただけに、のっけからこんなに手拍子が起こっていることに驚く。2021年の9月にここで行ったワンマンも素晴らしかった、THE BAWDIESの日比谷野音でのライブである。
SEの最後でROYがシャウトを響かせてからメンバーが楽器を手にすると、MARCY(ドラム)の一打目、一音目のあまりの爆音っぷりに、数え切れないくらいにライブを見ているのにビックリしてしまうのは、先月見たライブがこんな爆音を鳴らすことはないアコースティックセットでのライブだからかもしれないが、
「初めましての人もたくさんいると思います!でも遅れないようについてきてくださいね!」
とROYが挨拶して「IT'S TOO LATE」でスタートすると、サビでは驚くくらいにたくさんの人が腕を左右に振る。「え?マジで?」とその光景に驚いてしまったのは、この日のライブが発表された時からこの日はTHE BAWDIESはアウェーだろうなと思っていたからであるが、THE BAWDIESファンの人たちが腕を振る姿を見て、渋谷すばるのグッズのジャケットを着た人たちも腕を振ったり、手を挙げてくれているんだなというのがすぐにわかる。正直、1曲たりともTHE BAWDIESの曲を知らないという人だってたくさんいたと思う。でも渋谷すばるは今やフェスに出演したりもしているだけに、目当てじゃないアーティストのライブでも楽しもうとする、それが渋谷すばるのためにもなるし、棒立ちだったりつまんなそうにしていると本人が悪く言われてしまったりすることもきっとわかっているのだろう。その観客全体の熱狂っぷりによって、まるでTHE BAWDIESの1年半前の日比谷野音ワンマンの続きであるかのようにすら感じられた。渋谷すばるファンの方々は本当に優しいなと思いながら、その方々がアウトロでのROYの超ロングシャウトに驚いているのも確かに感じられた。THE BAWDIESファンとしては「この人も凄いでしょ?」と言いたくなるくらいにROYの肺活量はやはり凄まじいものがある。
なのでJIMがステージ前に出てきて飛び跳ねながらギターを弾きまくる(本当にどんな時でもJIMは楽しそうであるし、その姿が初めて見る人をも引き込んでいるところもあるはずだ)「YOU GOTTA DANCE」ではROYの合図に合わせて観客が飛び跳ねまくる。2月の野外という信じられない状況でも、上着を脱いでしまうくらいにもう熱く、暑くなっている。10年以上前にフェスなどに出始めた時も、この曲で初めて見る人たちを巻き込みまくっていたんだよな…と少し若手時代を思い出したりしていた。
「我々、小学生時代の同級生でこうやってずっとバンドをやってます。友達とか家族とかをもう超えた関係性っていうメンバーたちなんですけど、年末にメンバーに「お前俺たち以外に友達いるの?」って言われて(笑)
よくよく考えてみたら、いないなって思ったんですね(笑)でも今日出会えた渋谷すばるさんも、今日ライブを見てくれているあなたも友達になれると思ってます!あ、私めちゃくちゃ喋りますので(笑)ロック界の綾小路きみまろって呼ばれてます(笑)」
というROYの軽妙なMCで客席の至る所から笑い声が漏れるのが聞こえてくると、やっぱりこういう人ってなかなか他にはいないよな、と冷静に普段見ているこのバンドのMCが珍しいものであると再確認できるのだが、寒さを暖めるように演奏された「LEMONADE」ではTAXMANが前に出てきてギターを刻み、やはりサビではたくさんの観客の手が揺れる。なんならフェスなどに出演した時よりもはるかにホーム感を感じられるくらいだ。だからこそより一層見ていて楽しくなる。
1年半前のこの会場でのワンマンでも演奏されていた、アイズレー・ブラザーズのカバー「WHY WHEN LOVE IS GONE」という選曲は、自分たちがどういう音楽に影響を受けてバンドをやっているのか、ということを初めて見る人にもしっかり伝えるためのものだ。もちろんただ単に丸コピするのではなくて、2020年代も転がり続けていくロックンロールバンドとしてのビートやサウンドでのカバー。TAXMANだけではなくMARCYもコーラスを重ねているのがROYだけではなくてメンバー全員がこの曲を愛してきたからこそのカバーであるということを伝えてくれる。
曲間でTAXMANがステージ前に出てきてブルージーなギターソロを弾いた後にROYのベースのイントロによって始まる「I'M IN LOVE WITH YOU」はその心がウキウキするようなサウンドがこの自然の中にある野音に実に似合っているなと思う曲だ。まだこの日はコーラスや間奏でのROYの短いシャウトに合わせて我々が声を出して歌うことはできないが、そうできる日は確実に近づいてきていると思う。それはTHE BAWDIESのライブの真価を最大限に発揮できる時がまた来るということだが、我々の声がなくても間奏で客席に近づいてギターソロを弾きまくるJIMはめちゃくちゃ楽しそうである。
「初めましてっていうことで、我々のデビュー曲を今日は演奏したいと思います!この曲は渋谷すばるさんに捧げたいと思います!」
と言って演奏されたのは、こうした対バンなどで演奏される(しかもライブの中盤で)のは珍しい「I BEG YOU」で、イントロではROY、JIM、TAXMANがそれぞれの楽器のヘッドを合わせるように向かい合って音を重ねる。そのロックンロールバンドとしての衝動が今も全く失われていないメンバーの姿を見て、ステージ袖にいた渋谷すばるや彼のファンの人たちが、「THE BAWDIESって、ロックバンドって楽しいな」って思っていてくれたらいいなと思う。
そんな渋谷すばるに対してROYは
「こうして一緒にライブができているのも何かの縁かと思いますんで、これからよろしくお願いします!」
とラブコールを送り、春に開催される自分たちの対バンツアーの告知をすると、
「我々は実はミュージカルもやっております。今からその準備に入ります」
と言って楽器を置いておなじみの劇場へ。この日は「舟山卓子とソウダセイジのラブストーリー・出会い編」という初めて見る人にもわかりやすめの演目だったのだが、袖でそれを見ていた渋谷すばるが間違いなくこの日誰よりもこの劇場で爆笑していた。そんなに笑うか!?と思うくらいに。見慣れてるからそう思ったのかもしれないが、見慣れているからこそ「そういえばこのストーリーって完結したんだっけ?」とも思う。
そんな劇場の
卓子「何かが始まる、そんな予感」
セイジ「HOT DOG、召し上がれ!」
の締めで客席からも笑いが起きてからの「HOT DOG」はやはりその場をさらに熱く、さらに楽しくさせてくれる。最後のサビ前での
「1,2,3,ハイ!」
のカウントで観客が一斉にジャンプし、腕が上がりまくっている光景なんて完全にワンマンそのものと言っていいくらいのレベルである。そんな観客の盛り上がりっぷりがバンドの演奏をより燃え上がらせているのがわかる。JIMの頭からは真冬の野外だからこその、蒸気すらも上がっているのが見えるから。
「今日はまだ歌えないですが、心の声を聞かせてください!初めて見る人からしたらなんて歌えばいいのかわからないかもしれないですけど、我々の曲は歌っていることは簡単ですので!」
と言って演奏された「LET'S GO BACK」でのメンバーのキャッチー極まりないコーラスが響く中、やはり客席ではたくさんの腕が上がっている。ライブハウスではなくて、ステージに向かってすり鉢状になっている野音の客席だからこそ、それがいつも以上によくわかる。その光景に感動してしまうのは、ちゃんと伝わっているんだなと思うから。THE BAWDIESのロックンロールに込めた思いや、ライブの楽しさが。本人たちも1年半前に特別な思いを口にしていたが、やはり好きなバンドが野音でライブをやるのは見逃したくないなと改めて思う。
そんなライブの最後はやはり、
「寒いんで、最後はみんなで打ち上げ花火のようになって飛び上がりましょう!」
と言って演奏された「JUST BE COOL」。サビでリズムに合わせて飛び跳ねていたら、前の席が足に当たって痛い思いをするのも野音でライブを見れているからだし、同じ思いをしたTHE BAWDIESのファンの人もたくさんいたはず。最後のサビ前ではROYの、周りのビルにいる人にまで聞こえているんじゃないかとすら思う強烈なシャウトが炸裂してから、
「行くぞ野音ー!」
と叫んで最後のサビの狂騒へと突入していった。やっぱり最後に演奏されるこの曲は「ちょっと落ち着け」なんて歌われてもそうはできない。こんなにも楽しくなってしまうのだから。
演奏が終わると大将ことTAXMANによる「わっしょい」はこの日はなかったものの、またいつか渋谷すばるのファンの人たちの前でそれができる日が来るんじゃないかと確かに思うことができた。するとROYは1人残ってマイクに向かって
「僕たちは普通の男の子に戻ります!」
と言ってマイクをステージに置いて去っていく。普段のフェスでもこれはよくやるのだが、「今のフェスに来るような若い人は元ネタ知らないって!」とそのたびに思っていたのだが、果たしてこの日のTHE BAWDIESのライブをホームにしてくれた渋谷すばるのファンの方々はこのネタをわかってくれていたのだろうか。
1.IT'S TOO LATE
2.YOU GOTTA DANCE
3.LEMONADE
4.WHY WHEN LOVE IS GONE
5.I'M IN LOVE WITH YOU
6.I BEG YOU
7.HOT DOG
8.LET'S GO BACK
9.JUST BE COOL
・渋谷すばる
スムーズな転換が終わると、渋谷すばるがバンドメンバーたちとともにステージへ。ライブを見るのは昨年のサマソニの時以来であるが、
ギター・新井弘毅(THE KEBABS)
ベース・安達貴史(ずっと真夜中でいいのに。など)
ドラム・茂木左(ピーズ)
キーボード・本間ドミノ(THE BOHEMIANS)
という、他のバンドが羨むくらいのロックンロールオールスターズと言っていいくらいのメンバーによるバンドである。
そんなメンバーたちをバックに渋谷すばる本人がエレキギターを弾きながら歌い始めたのは、こうして1人で音楽を鳴らし歌っていく決意を綴ったかのような、ソロデビューアルバム収録の「ライオン」なのであるが、
「光も影も
傷跡もやき跡も
オレのもの
オレのもの
俺だけのもの」
という締めのフレーズを歌い上げた際の歌唱の伸びやかさは自身の頭上に広がる夜空に向かって伸びていくかのように素晴らしい。この時点でもうサマソニの時、あるいはグループ在籍時代に唯一見たことがあるMETROCKのライブを上回っているということがすぐにわかる。それくらいに歌の力が圧倒的に強い。そんな歌唱を彼のファンもこの曲では腕を上げたりせずにじっと見つめているというような感じで、どこか緊張感すら感じられる。
渋谷すばるがギターを置くと、新井らメンバーが
「あばれだす」「あふれだす」
というコーラスを重ね、観客もそのコーラスも含めたメンバーの鳴らす音や渋谷すばるの歌唱に合わせて腕を上げて体を揺らすのは「BUTT」と、一気にロックンロール色が強くなっていく。それは甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)を彷彿とさせるように渋谷すばるがブルースハープを吹き鳴らすからかもしれない。
そのヒロトらの影響は曲はもちろん歌詞にも強く表出しているというのは「ぼーにんげん」などの一聴すると語感のみで書いているかのようなシュールな言語感覚によるものだろう。それは新作をリリースするごとによりそうした傾向が強くなり意味が削ぎ落とされているザ・クロマニヨンズに通じるところと言えるかもしれない。なんなら、映像化もされているブルーハーツの野音ワンマンも自分の目で見たらこんな感じだったんだろうか、と思うくらいにシンプルな、完全にロックンロールとしか言えないサウンドとライブである。
渋谷すばるが再びエレキを弾きながら歌う「アナグラ生活」もクロマニヨンズの新曲と言われたら信じてしまうくらいにシンプルな歌詞によるロックンロールなのだが、その歌詞は
「ずっとここにいる
いつもここにいる
静かで邪魔がない
僕だけの秘密基地」
「僕だけの穴
誰とも会わない
飯風呂トイレ以外はここにいる」
という、華やかな世界で生きてきた人のものとは思えないくらいに怠惰というか自堕落というか、言うなれば我々の生活と変わらないようなことが歌われている。そんな歌詞がこんなにリアルさを持って書けるというのは彼自身が本当にこう思って生活しているからに間違いないわけで、そこには彼の人間性がそのまま歌詞に、音楽になっていると言える。サウンドはもちろん、こうした部分こそが最もロックンロールだと感じる部分である。
そんな渋谷すばるはどこかたどたどしい口調でこのライブナタリーの5周年を祝うと、
「人見知りが凄くてなかなかまだ面と向かって喋ることができないんですけど、このライブの告知動画でTHE BAWDIESが「同じ音楽を愛する仲間」って言ってくれたのが本当に嬉しかったです」
とTHE BAWDIESに対する感謝を口にする。それはTHE BAWDIESがライブで何度も自身のことを口にしてくれたという部分もあるのだろうし、もしかしたらずっとステージ袖でライブを見ては拍手をしていたROYの視線に気付いていたのかもしれない。
しかし、THE BAWDIESのファンの中には「MCこんな感じの人だったの?」って思った人もいたと思う。あれだけテレビのバラエティー番組に出ていた人とは思えないくらいに、カンペを見ながらだったりしたから。グループには喋りの達者なメンバーばかりがいたことによってその部分が目立たなかったのかもしれないが、そうして決して喋るのも、他人とコミュニケーションを取るのも上手くないような人間だからこそ、こうしてロックンロールが響いて、その音楽で生きていきたいと思ったんじゃないだろうか。つまりはMCひとつとってもそこに渋谷すばるの人間性が滲んでいるということである。
そんなロックンロールのシンプルさはしかし、クロマニヨンズのヒロトとマーシーもそうだが、時にはその歌詞や言葉の裏側にあるものが見えたりもする。それはこの男の「ベルトコンベアー」という曲もそうで、ただ単に工場のベルトコンベアーが流れていくことを歌っているように見えて、実は「流されていく人生に争って別の道に行く人生」のメタファーである。
「綺麗に並べられ 苦しそうで
なぜか悲しくなった
綺麗じゃないから 別の道へ
少し優しくなれた」
「何度も繰り返す 同じ道で
変わらないリズムで
最後の瞬間は 見れなかったけど
またね」
という歌詞から感じられるのは、やはりヒロトとマーシーがそうであるように、ロックンロールで生きていく者としての詩人・作家性。それを伝えるための歌唱の表現力。音源で聴くよりもさらに強くそう感じられるくらいに、渋谷すばるの歌唱はライブでもその一語一句がハッキリと聞き取れる。
すると安達がステージ端まで歩き、時には飛び跳ねるようなベースソロを弾くと、THE KEBABSのライブでもおなじみのぴょんぴょんジャンプするような新井のギターと、バンドメンバーのソロ回しが行われる。ハンドマイクを持って「もっともっと!」と渋谷すばるがその演奏を煽るようにすると、安達のベースがうねりまくるファンキーなサウンドの「きになる」へ。しかし歌詞は
「急激な気温差はやめてあげてください」
という実にシュールなものであり、ステージ前に出て歌う渋谷すばるの姿を見ていても少しクスッとしてしまうのは歌唱と演奏のカッコ良さとのギャップによるものだろうが、サマソニでも演奏されていた曲であるだけに、その時からの進化がもの凄くよくわかる。サマソニの時はどこか戦っているかのような表情をして歌っていたけれど、ステージ前で観客を煽るようにして楽しそうに歌う姿は渋谷すばるがこのバンドの演奏を完璧に乗りこなせるようになったんだなと思った。ライブができない期間が続いてから、ようやく自身のツアーができるようになってそこで得てきたグルーヴが確かにあることを感じさせる。つまりは名義こそソロであるが、この5人で渋谷すばるバンドと言っていいくらいに歌唱も演奏もわずか半年で段違いに進化しているのがわかる。
そんな歌唱と演奏がよりダイレクトなロックンロールとして鳴らされるのは、
「コンビニ寄ろう 人間だ
ビールを飲もう 人間だ」
と人間としての当たり前の生活や行動が歌われながらも、
「ミハッテンデ」「ヤッテラレナイ」
と歌うことによって、そうした人間としての生活すらも追いかけられてしまうというスターだからこその悩みを歌ったものであると感じられる「ワレワレハニンゲンダ」で、そうした感情をそのまま曲にして歌うことができるのもまた人間だなと、彼の人間性を感じることができるのだ。
そんな渋谷すばるが上着を脱いで長袖Tシャツになったのは完全に歌っていることで暑くなってきたからであるが、その出で立ちで
「爆音浴びたい」
と繰り返し歌われる「爆音」のまさに爆音ロックンロールサウンドに乗せて歌われる
「好きな音を 嫌いな奴と
聞いた時 何か変わるかな
知ってる人 知らない人
同じ音伝わるこの振動」
「目には見えないけど
鼓動が伝える感動
本当の事はいつだって誰にも見れない
今お前と感じてる 誰にも奪えない」
という歌詞。きっとロックが好きで、ライブが好きな人の誰もが抱えている感覚をこれほどまでに的確に歌詞にして歌うことができる。それは間違いなく渋谷すばるが我々と同じように音楽に救われて生きてきた人間だからこそできるものだ。この曲は2019年のデビューアルバムに収録された曲であるが、どこか今に至るまでのコロナ禍によって音楽やライブが不要不急と言われたことによる彼なりのアンサーであるようにも感じられるのは、どこかやはりそうしたものを引き寄せて重なってしまう業のようなものを持った表現者だからだろう。
そんな渋谷すばるの最新曲が今年配信された「ないしょダンス」なのだが、この曲は渋谷すばるがハンドマイクを持ち、中指を立てるようにしながら
「「お前は普通じゃない」
じゃあ普通ってなんなんだろ
みんなと同じ様にする事が普通なのか
誰かと同じ事するなんて吐き気がする
変わり者扱いされていつも一人ぼっち」
とまくしたてる。それはもしかしたらタイアップを受けて書いた部分もあるのかもしれないが、それでもここまでのライブを見ていると彼自身のかつての経験や感情を歌詞にしているとしか感じられない。それはラップ的な歌唱でもありながらも、サウンドからも感じられるのはヒップホップというより人生の悲哀を歌う様なブルース感。それもまたTHE BAWDIESの持つ音楽の要素の大きな一つであり、両者が通じているように感じるポイントであるが、その曲のサビは
「ご縁があったら
なんかあったら
あの世で一緒に踊りましょう
それまで約束内緒のダンス」
と歌われている。こうしてライブを見るというご縁ができたからこそ、またこうやって一緒に踊ることができる。そんなことを感じさせる、約束のような曲でもある。
そして最後に
「ライブナタリー5周年、本当におめでとうございます。また呼んでくださいね。やっぱり続いていって欲しいんですよ、こういう場所が。小さい頃からこういう場所に立ってきたから、ロックンロールが、ライブが、エンタメが鳴らされる場所がずっと続いていって欲しいと思ってます」
と渋谷すばるは口にした。自分は彼をずっとテレビの中の人だと今まで思っていた。でもテレビよりもずっとステージに立ち続けてきた人生を送ってきた人なんだよな、とその言葉を聞いて思った。きっと自分が普段からライブを見るようなロックバンド以外の形態でライブやコンサートをしている人もそう考えて今活動しているんじゃないだろうか、と思いながら、そんな彼の口から最初に出たのが「ロックンロール」という単語だったのが、これから先に彼が生きていく道を示しているようだった。
そんな言葉の後には本間の美しいピアノに渋谷すばるの力強く伸びやかな歌が乗る「素晴らしい世界に」が演奏される。徐々にバンドの音が重なって壮大になっていく中で
「どこかで誰かが叫ぶ声が
この心を引きずり出して
薄い胸を震わせるんだ」
というフレーズを胸を押さえるようにして歌う姿が強く印象に残る。この曲がリリースされたのは2020年11月だから、コロナ禍のことを書いたのか微妙なタイミングではあるけれど、その後には世界でもっと悲惨なことも起こっている。それらを知らないことにはできないけれど、1人でどうにかすることもできない。それでも、
「今が過ぎて 何気ない時
この思い この日々を
繋いでいよう
そこにはどんな景色があるだろう
世界は素晴らしい
そう思える明日へと
行こう 行こう その未来へ」
と、こうした景色を見ることができる瞬間があれば、世界は素晴らしいと思える。そんな感情が渋谷すばるの壮絶と言えるような歌唱から伝わってくる。もちろん歌が上手い人だけれど、ただ上手いだけじゃない。自分が歌うことによって伝えたいことがあって、それを目の前の人の心の奥底まで届ける事ができる歌唱。
グループを脱退した今でもたくさんの人がこの人のことを追いかけているのは、見た目がどうとかではなくて、この歌声の凄まじさと、そこには渋谷すばるという人間がそのまま鳴っていることをファンの人がみんなわかっているからだろう。その歌声の素晴らしさが、自分にもこの日本当に良くわかった。それはこの曲の歌唱を聴いて震えていたのは寒かったからではなくて、彼の歌に、音楽に感動していたからだ。
グループを脱退する時に自分は一度だけバンド形態で歌っていたライブでの彼の姿や表情(何より目の力)を思い出して、
「テレビの中の人じゃなくて、自分の目の前で歌うシンガーとして会える日が来ると思っている」
というようなことを書いた。それはこうして現実になったが、一つ違ったのは渋谷すばるはシンガーでありながら、紛れもなくロックスターとして自分の前に立って歌っていたということだった。この日、数々の伝説的なライブを見てきた日比谷野音で渋谷すばるのライブを見れて本当に良かったと思えた。
この日のライブを見るまでは渋谷すばるとTHE BAWDIESはかなり遠いというか、この機会がなかったら交わることはなかっただろうなと思っていた。
でも両者は、世の中の流行りやバズりに合わせたり狙ったりすることを一切せずに、自分たちの愛するロックンロールやブルースを自分たちがやりたいように鳴らしている同志だと思った。もしかしたらライブナタリーのスタッフはそれをわかっていてブッキングしたのかもしれないが、だからこそまたこの2組でのライブが見たいし、その時にはこの日は見れなかったコラボもあったり(劇場に渋谷すばるが出てくるとか)したら嬉しいなと思っていた。
1.ライオン
2.BUTT
3.ぼーにんげん
4.アナグラ生活
5.ベルトコンベアー
6.きになる
7.ワレワレハニンゲンダ
8.爆音
9.ないしょダンス
10.素晴らしい世界に
日比谷野音は以前は春から秋にかけてしかライブで使えなかったのだが、今年は試験的に冬も使えるようにしているらしく、こんな時期にまさか野音でライブを見ることになるとは、と思うとともに過去最速の野音始めである。開演時間前にはすでに空は薄暗くなってきているが、雲ひとつない快晴で風もほとんど吹いていないというのは太陽のような存在であるこの2組の力によるものだろうか。
・THE BAWDIES
開演前にはThe Birthday「LOVE ROCKETS」や10-FEET「第ゼロ感」という映画「SLUM DUNK THE FIRST」のテーマソング、さらには盟友のthe telephones「sick rocks」までもがBGMとして流れている中、開演時間の17時30分を少し過ぎたあたりでステージが暗転して、ウィルソン・ピケット「ダンス天国」のSEが流れてメンバー4人がグレーのスーツを着て登場すると、TAXMAN(ギター)とJIM(ギター)、ROY(ベース&ボーカル)の手拍子に合わせて客席からも手拍子が起こる。THE BAWDIESのグッズを身につけた人も少なからずいたけれど、初めて見る人が多いと思っていただけに、のっけからこんなに手拍子が起こっていることに驚く。2021年の9月にここで行ったワンマンも素晴らしかった、THE BAWDIESの日比谷野音でのライブである。
SEの最後でROYがシャウトを響かせてからメンバーが楽器を手にすると、MARCY(ドラム)の一打目、一音目のあまりの爆音っぷりに、数え切れないくらいにライブを見ているのにビックリしてしまうのは、先月見たライブがこんな爆音を鳴らすことはないアコースティックセットでのライブだからかもしれないが、
「初めましての人もたくさんいると思います!でも遅れないようについてきてくださいね!」
とROYが挨拶して「IT'S TOO LATE」でスタートすると、サビでは驚くくらいにたくさんの人が腕を左右に振る。「え?マジで?」とその光景に驚いてしまったのは、この日のライブが発表された時からこの日はTHE BAWDIESはアウェーだろうなと思っていたからであるが、THE BAWDIESファンの人たちが腕を振る姿を見て、渋谷すばるのグッズのジャケットを着た人たちも腕を振ったり、手を挙げてくれているんだなというのがすぐにわかる。正直、1曲たりともTHE BAWDIESの曲を知らないという人だってたくさんいたと思う。でも渋谷すばるは今やフェスに出演したりもしているだけに、目当てじゃないアーティストのライブでも楽しもうとする、それが渋谷すばるのためにもなるし、棒立ちだったりつまんなそうにしていると本人が悪く言われてしまったりすることもきっとわかっているのだろう。その観客全体の熱狂っぷりによって、まるでTHE BAWDIESの1年半前の日比谷野音ワンマンの続きであるかのようにすら感じられた。渋谷すばるファンの方々は本当に優しいなと思いながら、その方々がアウトロでのROYの超ロングシャウトに驚いているのも確かに感じられた。THE BAWDIESファンとしては「この人も凄いでしょ?」と言いたくなるくらいにROYの肺活量はやはり凄まじいものがある。
なのでJIMがステージ前に出てきて飛び跳ねながらギターを弾きまくる(本当にどんな時でもJIMは楽しそうであるし、その姿が初めて見る人をも引き込んでいるところもあるはずだ)「YOU GOTTA DANCE」ではROYの合図に合わせて観客が飛び跳ねまくる。2月の野外という信じられない状況でも、上着を脱いでしまうくらいにもう熱く、暑くなっている。10年以上前にフェスなどに出始めた時も、この曲で初めて見る人たちを巻き込みまくっていたんだよな…と少し若手時代を思い出したりしていた。
「我々、小学生時代の同級生でこうやってずっとバンドをやってます。友達とか家族とかをもう超えた関係性っていうメンバーたちなんですけど、年末にメンバーに「お前俺たち以外に友達いるの?」って言われて(笑)
よくよく考えてみたら、いないなって思ったんですね(笑)でも今日出会えた渋谷すばるさんも、今日ライブを見てくれているあなたも友達になれると思ってます!あ、私めちゃくちゃ喋りますので(笑)ロック界の綾小路きみまろって呼ばれてます(笑)」
というROYの軽妙なMCで客席の至る所から笑い声が漏れるのが聞こえてくると、やっぱりこういう人ってなかなか他にはいないよな、と冷静に普段見ているこのバンドのMCが珍しいものであると再確認できるのだが、寒さを暖めるように演奏された「LEMONADE」ではTAXMANが前に出てきてギターを刻み、やはりサビではたくさんの観客の手が揺れる。なんならフェスなどに出演した時よりもはるかにホーム感を感じられるくらいだ。だからこそより一層見ていて楽しくなる。
1年半前のこの会場でのワンマンでも演奏されていた、アイズレー・ブラザーズのカバー「WHY WHEN LOVE IS GONE」という選曲は、自分たちがどういう音楽に影響を受けてバンドをやっているのか、ということを初めて見る人にもしっかり伝えるためのものだ。もちろんただ単に丸コピするのではなくて、2020年代も転がり続けていくロックンロールバンドとしてのビートやサウンドでのカバー。TAXMANだけではなくMARCYもコーラスを重ねているのがROYだけではなくてメンバー全員がこの曲を愛してきたからこそのカバーであるということを伝えてくれる。
曲間でTAXMANがステージ前に出てきてブルージーなギターソロを弾いた後にROYのベースのイントロによって始まる「I'M IN LOVE WITH YOU」はその心がウキウキするようなサウンドがこの自然の中にある野音に実に似合っているなと思う曲だ。まだこの日はコーラスや間奏でのROYの短いシャウトに合わせて我々が声を出して歌うことはできないが、そうできる日は確実に近づいてきていると思う。それはTHE BAWDIESのライブの真価を最大限に発揮できる時がまた来るということだが、我々の声がなくても間奏で客席に近づいてギターソロを弾きまくるJIMはめちゃくちゃ楽しそうである。
「初めましてっていうことで、我々のデビュー曲を今日は演奏したいと思います!この曲は渋谷すばるさんに捧げたいと思います!」
と言って演奏されたのは、こうした対バンなどで演奏される(しかもライブの中盤で)のは珍しい「I BEG YOU」で、イントロではROY、JIM、TAXMANがそれぞれの楽器のヘッドを合わせるように向かい合って音を重ねる。そのロックンロールバンドとしての衝動が今も全く失われていないメンバーの姿を見て、ステージ袖にいた渋谷すばるや彼のファンの人たちが、「THE BAWDIESって、ロックバンドって楽しいな」って思っていてくれたらいいなと思う。
そんな渋谷すばるに対してROYは
「こうして一緒にライブができているのも何かの縁かと思いますんで、これからよろしくお願いします!」
とラブコールを送り、春に開催される自分たちの対バンツアーの告知をすると、
「我々は実はミュージカルもやっております。今からその準備に入ります」
と言って楽器を置いておなじみの劇場へ。この日は「舟山卓子とソウダセイジのラブストーリー・出会い編」という初めて見る人にもわかりやすめの演目だったのだが、袖でそれを見ていた渋谷すばるが間違いなくこの日誰よりもこの劇場で爆笑していた。そんなに笑うか!?と思うくらいに。見慣れてるからそう思ったのかもしれないが、見慣れているからこそ「そういえばこのストーリーって完結したんだっけ?」とも思う。
そんな劇場の
卓子「何かが始まる、そんな予感」
セイジ「HOT DOG、召し上がれ!」
の締めで客席からも笑いが起きてからの「HOT DOG」はやはりその場をさらに熱く、さらに楽しくさせてくれる。最後のサビ前での
「1,2,3,ハイ!」
のカウントで観客が一斉にジャンプし、腕が上がりまくっている光景なんて完全にワンマンそのものと言っていいくらいのレベルである。そんな観客の盛り上がりっぷりがバンドの演奏をより燃え上がらせているのがわかる。JIMの頭からは真冬の野外だからこその、蒸気すらも上がっているのが見えるから。
「今日はまだ歌えないですが、心の声を聞かせてください!初めて見る人からしたらなんて歌えばいいのかわからないかもしれないですけど、我々の曲は歌っていることは簡単ですので!」
と言って演奏された「LET'S GO BACK」でのメンバーのキャッチー極まりないコーラスが響く中、やはり客席ではたくさんの腕が上がっている。ライブハウスではなくて、ステージに向かってすり鉢状になっている野音の客席だからこそ、それがいつも以上によくわかる。その光景に感動してしまうのは、ちゃんと伝わっているんだなと思うから。THE BAWDIESのロックンロールに込めた思いや、ライブの楽しさが。本人たちも1年半前に特別な思いを口にしていたが、やはり好きなバンドが野音でライブをやるのは見逃したくないなと改めて思う。
そんなライブの最後はやはり、
「寒いんで、最後はみんなで打ち上げ花火のようになって飛び上がりましょう!」
と言って演奏された「JUST BE COOL」。サビでリズムに合わせて飛び跳ねていたら、前の席が足に当たって痛い思いをするのも野音でライブを見れているからだし、同じ思いをしたTHE BAWDIESのファンの人もたくさんいたはず。最後のサビ前ではROYの、周りのビルにいる人にまで聞こえているんじゃないかとすら思う強烈なシャウトが炸裂してから、
「行くぞ野音ー!」
と叫んで最後のサビの狂騒へと突入していった。やっぱり最後に演奏されるこの曲は「ちょっと落ち着け」なんて歌われてもそうはできない。こんなにも楽しくなってしまうのだから。
演奏が終わると大将ことTAXMANによる「わっしょい」はこの日はなかったものの、またいつか渋谷すばるのファンの人たちの前でそれができる日が来るんじゃないかと確かに思うことができた。するとROYは1人残ってマイクに向かって
「僕たちは普通の男の子に戻ります!」
と言ってマイクをステージに置いて去っていく。普段のフェスでもこれはよくやるのだが、「今のフェスに来るような若い人は元ネタ知らないって!」とそのたびに思っていたのだが、果たしてこの日のTHE BAWDIESのライブをホームにしてくれた渋谷すばるのファンの方々はこのネタをわかってくれていたのだろうか。
1.IT'S TOO LATE
2.YOU GOTTA DANCE
3.LEMONADE
4.WHY WHEN LOVE IS GONE
5.I'M IN LOVE WITH YOU
6.I BEG YOU
7.HOT DOG
8.LET'S GO BACK
9.JUST BE COOL
・渋谷すばる
スムーズな転換が終わると、渋谷すばるがバンドメンバーたちとともにステージへ。ライブを見るのは昨年のサマソニの時以来であるが、
ギター・新井弘毅(THE KEBABS)
ベース・安達貴史(ずっと真夜中でいいのに。など)
ドラム・茂木左(ピーズ)
キーボード・本間ドミノ(THE BOHEMIANS)
という、他のバンドが羨むくらいのロックンロールオールスターズと言っていいくらいのメンバーによるバンドである。
そんなメンバーたちをバックに渋谷すばる本人がエレキギターを弾きながら歌い始めたのは、こうして1人で音楽を鳴らし歌っていく決意を綴ったかのような、ソロデビューアルバム収録の「ライオン」なのであるが、
「光も影も
傷跡もやき跡も
オレのもの
オレのもの
俺だけのもの」
という締めのフレーズを歌い上げた際の歌唱の伸びやかさは自身の頭上に広がる夜空に向かって伸びていくかのように素晴らしい。この時点でもうサマソニの時、あるいはグループ在籍時代に唯一見たことがあるMETROCKのライブを上回っているということがすぐにわかる。それくらいに歌の力が圧倒的に強い。そんな歌唱を彼のファンもこの曲では腕を上げたりせずにじっと見つめているというような感じで、どこか緊張感すら感じられる。
渋谷すばるがギターを置くと、新井らメンバーが
「あばれだす」「あふれだす」
というコーラスを重ね、観客もそのコーラスも含めたメンバーの鳴らす音や渋谷すばるの歌唱に合わせて腕を上げて体を揺らすのは「BUTT」と、一気にロックンロール色が強くなっていく。それは甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)を彷彿とさせるように渋谷すばるがブルースハープを吹き鳴らすからかもしれない。
そのヒロトらの影響は曲はもちろん歌詞にも強く表出しているというのは「ぼーにんげん」などの一聴すると語感のみで書いているかのようなシュールな言語感覚によるものだろう。それは新作をリリースするごとによりそうした傾向が強くなり意味が削ぎ落とされているザ・クロマニヨンズに通じるところと言えるかもしれない。なんなら、映像化もされているブルーハーツの野音ワンマンも自分の目で見たらこんな感じだったんだろうか、と思うくらいにシンプルな、完全にロックンロールとしか言えないサウンドとライブである。
渋谷すばるが再びエレキを弾きながら歌う「アナグラ生活」もクロマニヨンズの新曲と言われたら信じてしまうくらいにシンプルな歌詞によるロックンロールなのだが、その歌詞は
「ずっとここにいる
いつもここにいる
静かで邪魔がない
僕だけの秘密基地」
「僕だけの穴
誰とも会わない
飯風呂トイレ以外はここにいる」
という、華やかな世界で生きてきた人のものとは思えないくらいに怠惰というか自堕落というか、言うなれば我々の生活と変わらないようなことが歌われている。そんな歌詞がこんなにリアルさを持って書けるというのは彼自身が本当にこう思って生活しているからに間違いないわけで、そこには彼の人間性がそのまま歌詞に、音楽になっていると言える。サウンドはもちろん、こうした部分こそが最もロックンロールだと感じる部分である。
そんな渋谷すばるはどこかたどたどしい口調でこのライブナタリーの5周年を祝うと、
「人見知りが凄くてなかなかまだ面と向かって喋ることができないんですけど、このライブの告知動画でTHE BAWDIESが「同じ音楽を愛する仲間」って言ってくれたのが本当に嬉しかったです」
とTHE BAWDIESに対する感謝を口にする。それはTHE BAWDIESがライブで何度も自身のことを口にしてくれたという部分もあるのだろうし、もしかしたらずっとステージ袖でライブを見ては拍手をしていたROYの視線に気付いていたのかもしれない。
しかし、THE BAWDIESのファンの中には「MCこんな感じの人だったの?」って思った人もいたと思う。あれだけテレビのバラエティー番組に出ていた人とは思えないくらいに、カンペを見ながらだったりしたから。グループには喋りの達者なメンバーばかりがいたことによってその部分が目立たなかったのかもしれないが、そうして決して喋るのも、他人とコミュニケーションを取るのも上手くないような人間だからこそ、こうしてロックンロールが響いて、その音楽で生きていきたいと思ったんじゃないだろうか。つまりはMCひとつとってもそこに渋谷すばるの人間性が滲んでいるということである。
そんなロックンロールのシンプルさはしかし、クロマニヨンズのヒロトとマーシーもそうだが、時にはその歌詞や言葉の裏側にあるものが見えたりもする。それはこの男の「ベルトコンベアー」という曲もそうで、ただ単に工場のベルトコンベアーが流れていくことを歌っているように見えて、実は「流されていく人生に争って別の道に行く人生」のメタファーである。
「綺麗に並べられ 苦しそうで
なぜか悲しくなった
綺麗じゃないから 別の道へ
少し優しくなれた」
「何度も繰り返す 同じ道で
変わらないリズムで
最後の瞬間は 見れなかったけど
またね」
という歌詞から感じられるのは、やはりヒロトとマーシーがそうであるように、ロックンロールで生きていく者としての詩人・作家性。それを伝えるための歌唱の表現力。音源で聴くよりもさらに強くそう感じられるくらいに、渋谷すばるの歌唱はライブでもその一語一句がハッキリと聞き取れる。
すると安達がステージ端まで歩き、時には飛び跳ねるようなベースソロを弾くと、THE KEBABSのライブでもおなじみのぴょんぴょんジャンプするような新井のギターと、バンドメンバーのソロ回しが行われる。ハンドマイクを持って「もっともっと!」と渋谷すばるがその演奏を煽るようにすると、安達のベースがうねりまくるファンキーなサウンドの「きになる」へ。しかし歌詞は
「急激な気温差はやめてあげてください」
という実にシュールなものであり、ステージ前に出て歌う渋谷すばるの姿を見ていても少しクスッとしてしまうのは歌唱と演奏のカッコ良さとのギャップによるものだろうが、サマソニでも演奏されていた曲であるだけに、その時からの進化がもの凄くよくわかる。サマソニの時はどこか戦っているかのような表情をして歌っていたけれど、ステージ前で観客を煽るようにして楽しそうに歌う姿は渋谷すばるがこのバンドの演奏を完璧に乗りこなせるようになったんだなと思った。ライブができない期間が続いてから、ようやく自身のツアーができるようになってそこで得てきたグルーヴが確かにあることを感じさせる。つまりは名義こそソロであるが、この5人で渋谷すばるバンドと言っていいくらいに歌唱も演奏もわずか半年で段違いに進化しているのがわかる。
そんな歌唱と演奏がよりダイレクトなロックンロールとして鳴らされるのは、
「コンビニ寄ろう 人間だ
ビールを飲もう 人間だ」
と人間としての当たり前の生活や行動が歌われながらも、
「ミハッテンデ」「ヤッテラレナイ」
と歌うことによって、そうした人間としての生活すらも追いかけられてしまうというスターだからこその悩みを歌ったものであると感じられる「ワレワレハニンゲンダ」で、そうした感情をそのまま曲にして歌うことができるのもまた人間だなと、彼の人間性を感じることができるのだ。
そんな渋谷すばるが上着を脱いで長袖Tシャツになったのは完全に歌っていることで暑くなってきたからであるが、その出で立ちで
「爆音浴びたい」
と繰り返し歌われる「爆音」のまさに爆音ロックンロールサウンドに乗せて歌われる
「好きな音を 嫌いな奴と
聞いた時 何か変わるかな
知ってる人 知らない人
同じ音伝わるこの振動」
「目には見えないけど
鼓動が伝える感動
本当の事はいつだって誰にも見れない
今お前と感じてる 誰にも奪えない」
という歌詞。きっとロックが好きで、ライブが好きな人の誰もが抱えている感覚をこれほどまでに的確に歌詞にして歌うことができる。それは間違いなく渋谷すばるが我々と同じように音楽に救われて生きてきた人間だからこそできるものだ。この曲は2019年のデビューアルバムに収録された曲であるが、どこか今に至るまでのコロナ禍によって音楽やライブが不要不急と言われたことによる彼なりのアンサーであるようにも感じられるのは、どこかやはりそうしたものを引き寄せて重なってしまう業のようなものを持った表現者だからだろう。
そんな渋谷すばるの最新曲が今年配信された「ないしょダンス」なのだが、この曲は渋谷すばるがハンドマイクを持ち、中指を立てるようにしながら
「「お前は普通じゃない」
じゃあ普通ってなんなんだろ
みんなと同じ様にする事が普通なのか
誰かと同じ事するなんて吐き気がする
変わり者扱いされていつも一人ぼっち」
とまくしたてる。それはもしかしたらタイアップを受けて書いた部分もあるのかもしれないが、それでもここまでのライブを見ていると彼自身のかつての経験や感情を歌詞にしているとしか感じられない。それはラップ的な歌唱でもありながらも、サウンドからも感じられるのはヒップホップというより人生の悲哀を歌う様なブルース感。それもまたTHE BAWDIESの持つ音楽の要素の大きな一つであり、両者が通じているように感じるポイントであるが、その曲のサビは
「ご縁があったら
なんかあったら
あの世で一緒に踊りましょう
それまで約束内緒のダンス」
と歌われている。こうしてライブを見るというご縁ができたからこそ、またこうやって一緒に踊ることができる。そんなことを感じさせる、約束のような曲でもある。
そして最後に
「ライブナタリー5周年、本当におめでとうございます。また呼んでくださいね。やっぱり続いていって欲しいんですよ、こういう場所が。小さい頃からこういう場所に立ってきたから、ロックンロールが、ライブが、エンタメが鳴らされる場所がずっと続いていって欲しいと思ってます」
と渋谷すばるは口にした。自分は彼をずっとテレビの中の人だと今まで思っていた。でもテレビよりもずっとステージに立ち続けてきた人生を送ってきた人なんだよな、とその言葉を聞いて思った。きっと自分が普段からライブを見るようなロックバンド以外の形態でライブやコンサートをしている人もそう考えて今活動しているんじゃないだろうか、と思いながら、そんな彼の口から最初に出たのが「ロックンロール」という単語だったのが、これから先に彼が生きていく道を示しているようだった。
そんな言葉の後には本間の美しいピアノに渋谷すばるの力強く伸びやかな歌が乗る「素晴らしい世界に」が演奏される。徐々にバンドの音が重なって壮大になっていく中で
「どこかで誰かが叫ぶ声が
この心を引きずり出して
薄い胸を震わせるんだ」
というフレーズを胸を押さえるようにして歌う姿が強く印象に残る。この曲がリリースされたのは2020年11月だから、コロナ禍のことを書いたのか微妙なタイミングではあるけれど、その後には世界でもっと悲惨なことも起こっている。それらを知らないことにはできないけれど、1人でどうにかすることもできない。それでも、
「今が過ぎて 何気ない時
この思い この日々を
繋いでいよう
そこにはどんな景色があるだろう
世界は素晴らしい
そう思える明日へと
行こう 行こう その未来へ」
と、こうした景色を見ることができる瞬間があれば、世界は素晴らしいと思える。そんな感情が渋谷すばるの壮絶と言えるような歌唱から伝わってくる。もちろん歌が上手い人だけれど、ただ上手いだけじゃない。自分が歌うことによって伝えたいことがあって、それを目の前の人の心の奥底まで届ける事ができる歌唱。
グループを脱退した今でもたくさんの人がこの人のことを追いかけているのは、見た目がどうとかではなくて、この歌声の凄まじさと、そこには渋谷すばるという人間がそのまま鳴っていることをファンの人がみんなわかっているからだろう。その歌声の素晴らしさが、自分にもこの日本当に良くわかった。それはこの曲の歌唱を聴いて震えていたのは寒かったからではなくて、彼の歌に、音楽に感動していたからだ。
グループを脱退する時に自分は一度だけバンド形態で歌っていたライブでの彼の姿や表情(何より目の力)を思い出して、
「テレビの中の人じゃなくて、自分の目の前で歌うシンガーとして会える日が来ると思っている」
というようなことを書いた。それはこうして現実になったが、一つ違ったのは渋谷すばるはシンガーでありながら、紛れもなくロックスターとして自分の前に立って歌っていたということだった。この日、数々の伝説的なライブを見てきた日比谷野音で渋谷すばるのライブを見れて本当に良かったと思えた。
この日のライブを見るまでは渋谷すばるとTHE BAWDIESはかなり遠いというか、この機会がなかったら交わることはなかっただろうなと思っていた。
でも両者は、世の中の流行りやバズりに合わせたり狙ったりすることを一切せずに、自分たちの愛するロックンロールやブルースを自分たちがやりたいように鳴らしている同志だと思った。もしかしたらライブナタリーのスタッフはそれをわかっていてブッキングしたのかもしれないが、だからこそまたこの2組でのライブが見たいし、その時にはこの日は見れなかったコラボもあったり(劇場に渋谷すばるが出てくるとか)したら嬉しいなと思っていた。
1.ライオン
2.BUTT
3.ぼーにんげん
4.アナグラ生活
5.ベルトコンベアー
6.きになる
7.ワレワレハニンゲンダ
8.爆音
9.ないしょダンス
10.素晴らしい世界に
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