Getting Better 25th "2008" 振替公演 @下北沢シャングリラ 1/29
- 2023/01/30
- 19:03
かつてはROCK IN JAPAN FES.やCOUNTDOWN JAPANでもおなじみだった片平実を中心としたROCK DJチーム、Getting Betterが25周年を迎え、その記念公演を開催と思ったら世の中はコロナ禍に突入してしまい、結果的に2度の延期を経てようやく開催に漕ぎつけたものの、出演予定だったJam Fuzz Kidがメンバーのコロナ感染によって直前になってキャンセルと、やはり思い通りにはいかない中での開催となった。
なので出演者は
the telephones
TENDOUJI
というバンド2組と片平実をはじめとするGetting BetterのDJ陣という形に。
16時開場&開演というかなり早い時間に下北沢シャングリラの中に入るとすでにそこでは主催者の片平実がDJとして曲を流している。Oasis「All Around The World」をこれだけ爆音で聴けるのはこうしたライブハウスでのDJイベントくらいだよなぁと思いながら。
Arctic MonkeysやVampire Weekendという海外のロックバンドをメインにした土居研生、ダンスミュージック色の強いSPOTというDJたちが音を繋げると、片平実はこの日キャンセルになってしまったJam Fuzz Kidの曲を繋ぐセットでバンドへのリスペクトを示し、斎藤雄はこの日がGetting Betterで最後のDJということで、仲間のDJたちが横から紹介しまくるという送り出し方に。
18:20〜 TENDOUJI
DJ陣の後におなじみの賑やかなSEで登場したのはTENDOUJI。この日DJ達が流した海外のロックバンドからの影響が大きいと思われるバンドである。
穏やかなサウンドが鳴らされる中で上手側のモリタナオヒコ(ボーカル&ギター)が、今まさにこの状況のことを歌っているかのような「Happy Man」でスタートすると、トロピカルなイントロから一気に激しさを増し、その幸福感が溢れる「COCO」へと繋がり、モリタは
「こんな最高の夜を楽しみましょう!」
と曲中に口にする。それくらいにバンドもここまでのDJを楽しんでいるということであるが、観客も腕を上げたりして応えながらもスマホで撮影している人もいるというのがこのバンドの自由な楽しみ方を表しているし、その撮影しているスマホが必要以上に高く挙がらないことによって、その後ろで見ていてもステージが見えなくなることはないというあたりはこのバンドのファンの方々のライブにおける思いやりやリテラシーの高さを示していると言えるだろう。
そんな幸福感を感じさせるロックサウンドを鳴らすバンドでありながらも、ボーカル&ギターの一翼であり、モリタとは逆サイドの下手側でその重量感のある肉体で存在の強さを示しているアサノケンジ(ボーカル&ギター)がメインボーカルを務める曲である「NINJA BOX」からは奔放に見える彼が心に抱えるダークさも感じさせる。そうした曲ではモリタがフレーズを弾き、アサノがパワーコードでぶっ放すというギターのスイッチも実に見事である。
音源ではTHE BAWDIESのROYがゲストボーカルとして参加し、フジロック2021などでもコラボしている「CRAZY」ではROYの参加はさすがにないけれど、真っ赤な照明がこの曲とこのバンドが持つロック魂を燃え上がらせるように光る。ステージ真ん中でオーバーオールを着てベースを弾くヨシダタカマサと、激しく手数の多いドラムを叩くオオイナオユキによるリズムも実に力強い。こうしてライブを見るのは実に久しぶりであるのだが、かつてはインタビューでバンドを始めた年齢が遅かったがゆえの演奏技術の拙さを自分たちで口にしていたこともあったが、今はもうどこからどう見ても完全に演奏力のちゃんとあるバンドに進化している。アサノの放つ独特なオーラも含めて。
そんなこのバンドはギター、ベース、ドラムというスタンダードなバンドサウンドの中で様々なジャンル、それこそこの日DJたちが流していた、あらゆる海外のロックバンドたちに影響を受けたであろう幅広いジャンルやサウンドを自分たちの音楽として昇華しているバンドであるが、アサノがメインボーカルの「Something」、モリタがメインボーカルの「STEADY」はそうした幅広さはありながらも、持ち得るメロディの良さ、美しさを存分に感じさせてくれるミドルテンポの曲である。ともに歌唱力、声量ももはやこのキャパの会場がこのバンドにとって狭く感じられるくらいに響く。
このバンドは2021年にコロナ禍でありながらも2枚のフルアルバムをリリースするという凄まじいペースで活動してきたのだが、その2021年の年末にリリースされた「Smoke!!」からはドラムのオオイが叩きながらボーカルも務める(作詞作曲もオオイが手がけているという多才っぷり)「Blur blur」が演奏され、オオイの素朴な歌声とパーティー感溢れるサウンドがこのイベントにふさわしく響く。今年はSUMMER SONICにBlurが出演することも発表されたが、それも含めたタイミングでのこの曲だったのだろうか。この日DJでも「Song 2」のリミックスをかけていたし。
そんなバンドはこの下北沢シャングリラに出演するのは初めてということであるが、アサノは楽屋で
「中学の先輩みたいな感じ」
と形容していた、the telephonesのメンバーたちと一緒にゲームをしていたら座っていた椅子を破壊してしまったというMCで笑いを取るのだが、モリタからは
「俺はまともな人だから朝10時に起きてるんですけど、この間ケンジが10時からインスタライブを始めたんですよ。でも全然画面に映らないから、弾き語りでもしようとギターの準備でもしてるのかな?って思ったら、イビキが聴こえてきて(笑)
起きたんじゃなくて、朝まで飲んで帰ってきて寝る前だったっていうことなんですけど(笑)、飲んで帰ってきて風呂入って歯も磨いてもなお人と繋がりたいってヤバくないですか?(笑)
しかもコメント欄に
「ケンジさんのイビキを聴きながら仕事頑張ります!」
って書いてるやつもいて(笑)なおのことヤバいなっていう(笑)」
というMCでさらなる爆笑を起こす。ちなみにTENDOUJIは千葉県は松戸(新松戸)の出身であり、主催の片平実は隣駅の馬橋の出身であり、片平が馬橋を「日本のロンドン」と呼んでいることを
「ヤバすぎる(笑)マジで松戸とかみんな来なくていいから(笑)」
と言っていたが、すぐ近くで育ち、今も生活している者としては松戸は千葉県屈指の美味しいラーメン屋が揃う街であり、TENDOUJIはその松戸の地域誌からもインタビューを受けているという、涌井秀章(西武→ロッテ→楽天→中日)以来の松戸のヒーロー的な存在であるということは記しておきたい。
そんな松戸のヒーロー、TENDOUJIならではの楽しいロックサウンドが鳴らされる「Killing Heads」ではキャッチーなコーラスをメンバー全員のみならず観客も腕を挙げながら歌い、一転してアサノボーカルの「D.T.A.」ではダークに始まりながらも後半で一気に爆発するという静から動へという展開の表現がどれだけ観客をアゲてくれるかということを示してくれる。ベースを立てるようにしてリズムを刻みまくるヨシダの姿もどこかシュールでありながらもバンドの背骨を支えている要素である。
そんなこのバンドのパンクさを感じさせるスピード感溢れるオオイのリズムによる「HEARTBEAT」はもはやアンセム的な輝きすら放っているように感じる。サビのタイトルフレーズが歌われる際に一気に観客の腕が上がり、景色が変わるのがわかるような。
かと思えばやはり曲後半で一気に激しくなる「THE DAY」ではアサノが最後には叫ぶようにして歌い、ギターを思いっきり掻き鳴らしたり、マイクスタンドを掴んでステージ前に出てきて歌ったり…この瞬間、このライブに全てを出し尽くそうとしているのも、自分たちが1番と言っていいくらいにそれを楽しんでいることも伝わってくる。
だからこそモリタは
「結構、俺らこういうDJイベントやパーティーに昔から呼んでもらってて。昔は「呼ばれたから出るか」ってだけだった。DJってうるさいし、チャラいし、たまにケンカしたりしてるし(笑)
でもコロナ禍になったりして、こういうイベントが俺たちを生かしてくれてるんだなって思える」
と、こうしたイベントへの愛を口にした。それは自分たちがこうしたイベントやパーティーとの相性が良いバンドだということをわかっているからだろうし、実際に
「こういうイベントで育ててもらった曲」
と言って演奏された「GROUPEEEEE」の多幸感は、酒を片手に音楽にノって楽しむというこうしたイベントにふさわしいものだなと思えた。でも、このバンドの地元の近くで生きてきた者としては、いつか松戸森のホール21でこのバンドのワンマンを見てみたいと思っている。
1.HAPPY MAN
2.COCO
3.NINJA BOX
4.CRAZY
5.Something
6.STEADY
7.Blur blur
8.Killing Heads
9.D.T.A.
10.HEARTBEAT
11.THE DAY
12.GROUPEEEEE
TENDOUJIのライブが終わるとすぐにDJ神啓文がドミコ「びりびりしびれる」をエフェクトしたりチョップしたりというDJアレンジで観客を沸かせる。その後にも様々な曲でそうしたアレンジを施すというのはさすが片平実とともにロッキンやCDJのDJブースに立ってきた男である。
19:40〜 the telephones
そんなDJのサウンドが少しずつ小さくなるにつれて場内が暗転して、おなじみの「Happiness, Happiness, Happiness」が流れてカラフルなカツラを被ったメンバーが登場するのであるが、ノブ(シンセ)は観客が声を出せるようになったことによって歓声を煽りながら、青いカツラをなかなか取ろうとせず、SEが止まるギリギリになって客席へ投げ入れる…と見せかけてステージ袖に投げるというあたりはいつも通りのノブらしさである。
「Getting Better、2回の延期を経て、ようやく開催できたぜー!」
とおなじみの唇サングラスをかけた石毛輝(ボーカル&ギター)が叫ぶと、いきなりメンバーの勇壮なコーラスが響き渡る「I Hate DISCOOOOOOO」からスタートし、ノブがステージ上を所狭しと駆け回りながら、石毛はサビでは
「歌ってくれー!」
と観客に声を求めながらギターを抱えてジャンプするという姿はtelephonesのライブも少しずつコロナ禍前のものに戻りつつあるということだ。そんな石毛は最後には
「I love Getting Better」
と歌詞を変えて歌うのもこのイベントへの愛ゆえである。
石毛のイントロのギターから性急なダンスパンクサウンドへと突入していくのは「sick rocks」であり、ノブがカウベルを叩きながらカウントする姿も実に熱い。これが満員のツアーでのライブだったらモッシュやダイブが起こっていたりしたかもしれないが、この日は酒を片手に体を揺らしながら音楽を楽しむというDJイベントならではの楽しみ方になっているのが少し新鮮でもある。石毛は何度も腕を挙げて「Getting Better!」と叫んでこのイベントへの愛を示している。
さらには「HABANERO」と代表曲にしてキラーチューンを連発して観客を揺らしまくると、ステージを歩き回るノブはカウベルを叩くスティックを頭上に放り投げるのであるが、天井が低いライブハウスであるがゆえに投げた瞬間に天井に当たり、当然のようにキャッチすることができないという姿は天然過ぎて笑わざるを得ないが、その姿を我々と同じように横で笑っている長島涼平(ベース)のうねりまくるベースラインとハイトーンのコーラスは安定感抜群であり、telephonesが演奏技術が高いバンドであるということを改めて示してくれる。
「Getting Betterに捧げます!」
と言って演奏された「Hyper Jump」では「Jump」の掛け声を合図に観客が飛び跳ねるのであるが、この曲がGetting Betterに捧げられたのは曲中にその「Getting Better」という歌詞が入っているからだ。「良くなっていく」という意味のこの単語はまさにその通りに徐々に戻ってきたライブシーンにも捧げられているかのようで、telephonesが今この曲に込めた思いが伝わってくる。かつてリリース当時に「誰が1番ジャンプしているか委員会」的なことをやっていた、ひたすらに狂騒の中にいた時には全く思わなかったことである。
MCでも観客が声を出せることによってノブが歓声を煽りまくると、石毛は
「1年4ヶ月延期しての開催。普通なら中止にしてると思います(笑)」
とこのイベントの不屈の闘志を称え、ここまではバンドのこれまでの代表曲ばかりだったが、ここからは去年リリースされた最新アルバム「Come on!!!」の中から、同期の鍵盤の音が入った「Get Stupid」へ。休業していた大宮のまぜそば屋を復活させた松本誠治のヘッドホンを装着した上での細かく刻むリズムがまさにタイトル通りにバカになったかのように我々観客の体を揺らしてくれると、石毛のハイトーンボイスによるサビでのタイトルフレーズの歌唱が実に色気を感じさせる「Hasta la Vista」と、もしかしたら近年の活動を追っていない人もいたかもしれないが、そんな人でも一発で覚えられるような、そして覚えたら忘れられないようなキャッチーさを持った曲である。つまりはコロナ禍という強い向かい風を喰らいながらも、活動休止から復活したtelephonesはかつてよりはるかに絶好調だということである。それくらいにダンスの部分とメロディアスな部分がかつてないレベルで融合している。
それはここまでステージ上を軽やかに歩き回っていたノブがタイトルフレーズに合わせてパンチを繰り出し、それが観客にも広がっていく「Whoa Cha」もそうであるが、そのノブはあまりに白熱しすぎたのか、バランスを崩して誠治のドラムセットに突っ込みそうになってしまう。しかし誰よりも誠治がそのノブの姿を見て笑っているというのが今のtelephonesの楽しさに繋がっている関係性だと思う。
そんなノブが
「うわ!ここはどこだ!?」
といきなり錯乱してはこの下北沢が世界の中心であるということを叫ぶという全く意味のわからないやり取りから、大晦日に主催年越しライブをやった時に作ったタオルが5枚まだ物販で売っているということで、ノブが勝手に買う観客を決める。
「そこのハマ・オカモト君!ベースじゃなくてギターやってるハマ・オカモト君みたいな人!それからその後ろの、ハマ君と一緒にバンドやってそうな人!あとはそこのハマ君のバンドの会社の社長っぽい人!」
と目についた観客をいじりまくるのであるが、そうしたパフォーマンスが成立するのも観客が声を出せるようになったことによってできるようになったことだし、どこか懐かしい感じもしていた。ああ、昔もtelephonesは(というかノブは)こういうことをやっていたよな、って。
そんな感傷に浸っているのをさらに踊らせまくるように後半は「Monkey Discooooooo」の狂騒のシンセが鳴り、ビートに合わせて観客が拳を振り上げまくると、
「下北沢girl」
と、なかなか言いづらそうな、この日ならではの歌詞に変えて歌っていた石毛は間奏でおなじみのブリッジしてギターを弾きまくるという芸当を見せるのであるが、涼平がそのブリッジした状態の石毛の上に座ってベースを弾くというのも実にシュールで面白いし、これは本気の中にユーモアを含んだtelephonesのライブじゃないと見れないものだろう。
するとここで特別ゲストとしてステージに招かれたのは、体がデカすぎてぴちぴちの「I am DISCO」Tシャツを着て、唇サングラスをかけたTENDOUJIのアサノケンジ。そのアサノが石毛からギターを渡されると、イントロからアサノが完璧なギターを鳴らす「urban disco」というこの日ならではのコラボが展開されるのであるが、TENDOUJIのモリタはサングラスをかけてスマホでステージや客席を撮影、ヨシダは裸にオーバーオールを着て頭にTシャツを巻くという変人スタイルで乱入すると、神啓文を始めとしたこの日のDJたちもステージに登場して踊りまくる。そうしてこの会場にいる人みんなを巻き込んで、ここにいる誰もを最高に楽しく、幸せにしてくれる。それこそがtelephonesのライブの素晴らしさであるし、コロナ禍以降はなかなかこうしてステージに出演者たちが出てくるということも出来なかったけれど、それも少しずつ戻ってきつつある。つまりはtelephonesのライブの楽しさの最高値もまだまだ更新できるということだ。最後にアサノはTシャツを脱ぎ捨ててそのダイナミックボディをあらわにしていたが、余りに楽しすぎて感動すらしてしまっていた。
そんな光景を作ることができたGetting Betterとこの日の観客に感謝を告げるようにして愛とディスコを捧げて演奏されたのはもちろん「Love & DISCO」。その
「All night party people」
というフレーズはまさにこうしたパーティーを夜通し行ってきたこのイベントのDJたちやそこに集まる人たちにこそふさわしいものだ。そして何よりも我々も声を出して「DISCO」と叫ぶことができる。その楽しさを噛み締めることができる。まだまだtelephonesのライブは我々のことを楽しく、幸せにしてくれる。だからどんな状況になっても行くのをやめることができない。そんなことを感じさせてくれると石毛は最後に
「まだこの後にDJもあるから、みんな今日を最後まで楽しもうぜー!」
と言った。それはデビュー時から「FREE THROW」という曲を同名のDJパーティーのために作り、自分たちのツアーにもDJたちを招いてきたtelephonesだからこその、表現方法は違えど同じように音楽を愛する人たちへの愛情。さっきまでステージにいたTENDOUJIのアサノもいつの間にか酒を片手に客席におり、楽しそうな笑顔を浮かべていた。そうやって誰もが笑顔になれるのがtelephonesの音楽でありライブだ。それを示してくれる場であるGetting Betterが続いていて本当に良かったと思った。
1.I Hate DISCOOOOOOO
2.sick rocks
3.HABANERO
4.Hyper Jump
5.Get Stupid
6.Hasta la Vista
7.Whoa cha
8.Monkey Discooooooo
9.urban disco w/ アサノケンジ
10.Love & DISCO
最後のDJではボスこと片平実が、
「来月からもオールナイトでこのイベントを続けていく。なんでやるのかって言われたら、やりたいから」
と口にした。騒がしい客席もみんなその言葉をじっと聞いていた。これからの自分たちの遊ぶ場所についての未来の話だから。個人的にはもうオールナイトは生活リズム的に厳しいんだよな…と思いつつ、今では当たり前のようにライブを見ている夜の本気ダンスもこのGetting Betterのオールナイトイベントで初めてライブを見たんだよな、と思った。そうした新しい音楽との出会いを与えてくれる場所がずっと続いて、また周年の時にはこうしてバンドたちが祝いにきて、そこに我々が集まれるように、と片平実がこの日の出演者たち(Jam Fuzz Kid含めて)の曲をかけるというDJなりの出演者へのリスペクトを目と耳にしながら思っていた。
なので出演者は
the telephones
TENDOUJI
というバンド2組と片平実をはじめとするGetting BetterのDJ陣という形に。
16時開場&開演というかなり早い時間に下北沢シャングリラの中に入るとすでにそこでは主催者の片平実がDJとして曲を流している。Oasis「All Around The World」をこれだけ爆音で聴けるのはこうしたライブハウスでのDJイベントくらいだよなぁと思いながら。
Arctic MonkeysやVampire Weekendという海外のロックバンドをメインにした土居研生、ダンスミュージック色の強いSPOTというDJたちが音を繋げると、片平実はこの日キャンセルになってしまったJam Fuzz Kidの曲を繋ぐセットでバンドへのリスペクトを示し、斎藤雄はこの日がGetting Betterで最後のDJということで、仲間のDJたちが横から紹介しまくるという送り出し方に。
18:20〜 TENDOUJI
DJ陣の後におなじみの賑やかなSEで登場したのはTENDOUJI。この日DJ達が流した海外のロックバンドからの影響が大きいと思われるバンドである。
穏やかなサウンドが鳴らされる中で上手側のモリタナオヒコ(ボーカル&ギター)が、今まさにこの状況のことを歌っているかのような「Happy Man」でスタートすると、トロピカルなイントロから一気に激しさを増し、その幸福感が溢れる「COCO」へと繋がり、モリタは
「こんな最高の夜を楽しみましょう!」
と曲中に口にする。それくらいにバンドもここまでのDJを楽しんでいるということであるが、観客も腕を上げたりして応えながらもスマホで撮影している人もいるというのがこのバンドの自由な楽しみ方を表しているし、その撮影しているスマホが必要以上に高く挙がらないことによって、その後ろで見ていてもステージが見えなくなることはないというあたりはこのバンドのファンの方々のライブにおける思いやりやリテラシーの高さを示していると言えるだろう。
そんな幸福感を感じさせるロックサウンドを鳴らすバンドでありながらも、ボーカル&ギターの一翼であり、モリタとは逆サイドの下手側でその重量感のある肉体で存在の強さを示しているアサノケンジ(ボーカル&ギター)がメインボーカルを務める曲である「NINJA BOX」からは奔放に見える彼が心に抱えるダークさも感じさせる。そうした曲ではモリタがフレーズを弾き、アサノがパワーコードでぶっ放すというギターのスイッチも実に見事である。
音源ではTHE BAWDIESのROYがゲストボーカルとして参加し、フジロック2021などでもコラボしている「CRAZY」ではROYの参加はさすがにないけれど、真っ赤な照明がこの曲とこのバンドが持つロック魂を燃え上がらせるように光る。ステージ真ん中でオーバーオールを着てベースを弾くヨシダタカマサと、激しく手数の多いドラムを叩くオオイナオユキによるリズムも実に力強い。こうしてライブを見るのは実に久しぶりであるのだが、かつてはインタビューでバンドを始めた年齢が遅かったがゆえの演奏技術の拙さを自分たちで口にしていたこともあったが、今はもうどこからどう見ても完全に演奏力のちゃんとあるバンドに進化している。アサノの放つ独特なオーラも含めて。
そんなこのバンドはギター、ベース、ドラムというスタンダードなバンドサウンドの中で様々なジャンル、それこそこの日DJたちが流していた、あらゆる海外のロックバンドたちに影響を受けたであろう幅広いジャンルやサウンドを自分たちの音楽として昇華しているバンドであるが、アサノがメインボーカルの「Something」、モリタがメインボーカルの「STEADY」はそうした幅広さはありながらも、持ち得るメロディの良さ、美しさを存分に感じさせてくれるミドルテンポの曲である。ともに歌唱力、声量ももはやこのキャパの会場がこのバンドにとって狭く感じられるくらいに響く。
このバンドは2021年にコロナ禍でありながらも2枚のフルアルバムをリリースするという凄まじいペースで活動してきたのだが、その2021年の年末にリリースされた「Smoke!!」からはドラムのオオイが叩きながらボーカルも務める(作詞作曲もオオイが手がけているという多才っぷり)「Blur blur」が演奏され、オオイの素朴な歌声とパーティー感溢れるサウンドがこのイベントにふさわしく響く。今年はSUMMER SONICにBlurが出演することも発表されたが、それも含めたタイミングでのこの曲だったのだろうか。この日DJでも「Song 2」のリミックスをかけていたし。
そんなバンドはこの下北沢シャングリラに出演するのは初めてということであるが、アサノは楽屋で
「中学の先輩みたいな感じ」
と形容していた、the telephonesのメンバーたちと一緒にゲームをしていたら座っていた椅子を破壊してしまったというMCで笑いを取るのだが、モリタからは
「俺はまともな人だから朝10時に起きてるんですけど、この間ケンジが10時からインスタライブを始めたんですよ。でも全然画面に映らないから、弾き語りでもしようとギターの準備でもしてるのかな?って思ったら、イビキが聴こえてきて(笑)
起きたんじゃなくて、朝まで飲んで帰ってきて寝る前だったっていうことなんですけど(笑)、飲んで帰ってきて風呂入って歯も磨いてもなお人と繋がりたいってヤバくないですか?(笑)
しかもコメント欄に
「ケンジさんのイビキを聴きながら仕事頑張ります!」
って書いてるやつもいて(笑)なおのことヤバいなっていう(笑)」
というMCでさらなる爆笑を起こす。ちなみにTENDOUJIは千葉県は松戸(新松戸)の出身であり、主催の片平実は隣駅の馬橋の出身であり、片平が馬橋を「日本のロンドン」と呼んでいることを
「ヤバすぎる(笑)マジで松戸とかみんな来なくていいから(笑)」
と言っていたが、すぐ近くで育ち、今も生活している者としては松戸は千葉県屈指の美味しいラーメン屋が揃う街であり、TENDOUJIはその松戸の地域誌からもインタビューを受けているという、涌井秀章(西武→ロッテ→楽天→中日)以来の松戸のヒーロー的な存在であるということは記しておきたい。
そんな松戸のヒーロー、TENDOUJIならではの楽しいロックサウンドが鳴らされる「Killing Heads」ではキャッチーなコーラスをメンバー全員のみならず観客も腕を挙げながら歌い、一転してアサノボーカルの「D.T.A.」ではダークに始まりながらも後半で一気に爆発するという静から動へという展開の表現がどれだけ観客をアゲてくれるかということを示してくれる。ベースを立てるようにしてリズムを刻みまくるヨシダの姿もどこかシュールでありながらもバンドの背骨を支えている要素である。
そんなこのバンドのパンクさを感じさせるスピード感溢れるオオイのリズムによる「HEARTBEAT」はもはやアンセム的な輝きすら放っているように感じる。サビのタイトルフレーズが歌われる際に一気に観客の腕が上がり、景色が変わるのがわかるような。
かと思えばやはり曲後半で一気に激しくなる「THE DAY」ではアサノが最後には叫ぶようにして歌い、ギターを思いっきり掻き鳴らしたり、マイクスタンドを掴んでステージ前に出てきて歌ったり…この瞬間、このライブに全てを出し尽くそうとしているのも、自分たちが1番と言っていいくらいにそれを楽しんでいることも伝わってくる。
だからこそモリタは
「結構、俺らこういうDJイベントやパーティーに昔から呼んでもらってて。昔は「呼ばれたから出るか」ってだけだった。DJってうるさいし、チャラいし、たまにケンカしたりしてるし(笑)
でもコロナ禍になったりして、こういうイベントが俺たちを生かしてくれてるんだなって思える」
と、こうしたイベントへの愛を口にした。それは自分たちがこうしたイベントやパーティーとの相性が良いバンドだということをわかっているからだろうし、実際に
「こういうイベントで育ててもらった曲」
と言って演奏された「GROUPEEEEE」の多幸感は、酒を片手に音楽にノって楽しむというこうしたイベントにふさわしいものだなと思えた。でも、このバンドの地元の近くで生きてきた者としては、いつか松戸森のホール21でこのバンドのワンマンを見てみたいと思っている。
1.HAPPY MAN
2.COCO
3.NINJA BOX
4.CRAZY
5.Something
6.STEADY
7.Blur blur
8.Killing Heads
9.D.T.A.
10.HEARTBEAT
11.THE DAY
12.GROUPEEEEE
TENDOUJIのライブが終わるとすぐにDJ神啓文がドミコ「びりびりしびれる」をエフェクトしたりチョップしたりというDJアレンジで観客を沸かせる。その後にも様々な曲でそうしたアレンジを施すというのはさすが片平実とともにロッキンやCDJのDJブースに立ってきた男である。
19:40〜 the telephones
そんなDJのサウンドが少しずつ小さくなるにつれて場内が暗転して、おなじみの「Happiness, Happiness, Happiness」が流れてカラフルなカツラを被ったメンバーが登場するのであるが、ノブ(シンセ)は観客が声を出せるようになったことによって歓声を煽りながら、青いカツラをなかなか取ろうとせず、SEが止まるギリギリになって客席へ投げ入れる…と見せかけてステージ袖に投げるというあたりはいつも通りのノブらしさである。
「Getting Better、2回の延期を経て、ようやく開催できたぜー!」
とおなじみの唇サングラスをかけた石毛輝(ボーカル&ギター)が叫ぶと、いきなりメンバーの勇壮なコーラスが響き渡る「I Hate DISCOOOOOOO」からスタートし、ノブがステージ上を所狭しと駆け回りながら、石毛はサビでは
「歌ってくれー!」
と観客に声を求めながらギターを抱えてジャンプするという姿はtelephonesのライブも少しずつコロナ禍前のものに戻りつつあるということだ。そんな石毛は最後には
「I love Getting Better」
と歌詞を変えて歌うのもこのイベントへの愛ゆえである。
石毛のイントロのギターから性急なダンスパンクサウンドへと突入していくのは「sick rocks」であり、ノブがカウベルを叩きながらカウントする姿も実に熱い。これが満員のツアーでのライブだったらモッシュやダイブが起こっていたりしたかもしれないが、この日は酒を片手に体を揺らしながら音楽を楽しむというDJイベントならではの楽しみ方になっているのが少し新鮮でもある。石毛は何度も腕を挙げて「Getting Better!」と叫んでこのイベントへの愛を示している。
さらには「HABANERO」と代表曲にしてキラーチューンを連発して観客を揺らしまくると、ステージを歩き回るノブはカウベルを叩くスティックを頭上に放り投げるのであるが、天井が低いライブハウスであるがゆえに投げた瞬間に天井に当たり、当然のようにキャッチすることができないという姿は天然過ぎて笑わざるを得ないが、その姿を我々と同じように横で笑っている長島涼平(ベース)のうねりまくるベースラインとハイトーンのコーラスは安定感抜群であり、telephonesが演奏技術が高いバンドであるということを改めて示してくれる。
「Getting Betterに捧げます!」
と言って演奏された「Hyper Jump」では「Jump」の掛け声を合図に観客が飛び跳ねるのであるが、この曲がGetting Betterに捧げられたのは曲中にその「Getting Better」という歌詞が入っているからだ。「良くなっていく」という意味のこの単語はまさにその通りに徐々に戻ってきたライブシーンにも捧げられているかのようで、telephonesが今この曲に込めた思いが伝わってくる。かつてリリース当時に「誰が1番ジャンプしているか委員会」的なことをやっていた、ひたすらに狂騒の中にいた時には全く思わなかったことである。
MCでも観客が声を出せることによってノブが歓声を煽りまくると、石毛は
「1年4ヶ月延期しての開催。普通なら中止にしてると思います(笑)」
とこのイベントの不屈の闘志を称え、ここまではバンドのこれまでの代表曲ばかりだったが、ここからは去年リリースされた最新アルバム「Come on!!!」の中から、同期の鍵盤の音が入った「Get Stupid」へ。休業していた大宮のまぜそば屋を復活させた松本誠治のヘッドホンを装着した上での細かく刻むリズムがまさにタイトル通りにバカになったかのように我々観客の体を揺らしてくれると、石毛のハイトーンボイスによるサビでのタイトルフレーズの歌唱が実に色気を感じさせる「Hasta la Vista」と、もしかしたら近年の活動を追っていない人もいたかもしれないが、そんな人でも一発で覚えられるような、そして覚えたら忘れられないようなキャッチーさを持った曲である。つまりはコロナ禍という強い向かい風を喰らいながらも、活動休止から復活したtelephonesはかつてよりはるかに絶好調だということである。それくらいにダンスの部分とメロディアスな部分がかつてないレベルで融合している。
それはここまでステージ上を軽やかに歩き回っていたノブがタイトルフレーズに合わせてパンチを繰り出し、それが観客にも広がっていく「Whoa Cha」もそうであるが、そのノブはあまりに白熱しすぎたのか、バランスを崩して誠治のドラムセットに突っ込みそうになってしまう。しかし誰よりも誠治がそのノブの姿を見て笑っているというのが今のtelephonesの楽しさに繋がっている関係性だと思う。
そんなノブが
「うわ!ここはどこだ!?」
といきなり錯乱してはこの下北沢が世界の中心であるということを叫ぶという全く意味のわからないやり取りから、大晦日に主催年越しライブをやった時に作ったタオルが5枚まだ物販で売っているということで、ノブが勝手に買う観客を決める。
「そこのハマ・オカモト君!ベースじゃなくてギターやってるハマ・オカモト君みたいな人!それからその後ろの、ハマ君と一緒にバンドやってそうな人!あとはそこのハマ君のバンドの会社の社長っぽい人!」
と目についた観客をいじりまくるのであるが、そうしたパフォーマンスが成立するのも観客が声を出せるようになったことによってできるようになったことだし、どこか懐かしい感じもしていた。ああ、昔もtelephonesは(というかノブは)こういうことをやっていたよな、って。
そんな感傷に浸っているのをさらに踊らせまくるように後半は「Monkey Discooooooo」の狂騒のシンセが鳴り、ビートに合わせて観客が拳を振り上げまくると、
「下北沢girl」
と、なかなか言いづらそうな、この日ならではの歌詞に変えて歌っていた石毛は間奏でおなじみのブリッジしてギターを弾きまくるという芸当を見せるのであるが、涼平がそのブリッジした状態の石毛の上に座ってベースを弾くというのも実にシュールで面白いし、これは本気の中にユーモアを含んだtelephonesのライブじゃないと見れないものだろう。
するとここで特別ゲストとしてステージに招かれたのは、体がデカすぎてぴちぴちの「I am DISCO」Tシャツを着て、唇サングラスをかけたTENDOUJIのアサノケンジ。そのアサノが石毛からギターを渡されると、イントロからアサノが完璧なギターを鳴らす「urban disco」というこの日ならではのコラボが展開されるのであるが、TENDOUJIのモリタはサングラスをかけてスマホでステージや客席を撮影、ヨシダは裸にオーバーオールを着て頭にTシャツを巻くという変人スタイルで乱入すると、神啓文を始めとしたこの日のDJたちもステージに登場して踊りまくる。そうしてこの会場にいる人みんなを巻き込んで、ここにいる誰もを最高に楽しく、幸せにしてくれる。それこそがtelephonesのライブの素晴らしさであるし、コロナ禍以降はなかなかこうしてステージに出演者たちが出てくるということも出来なかったけれど、それも少しずつ戻ってきつつある。つまりはtelephonesのライブの楽しさの最高値もまだまだ更新できるということだ。最後にアサノはTシャツを脱ぎ捨ててそのダイナミックボディをあらわにしていたが、余りに楽しすぎて感動すらしてしまっていた。
そんな光景を作ることができたGetting Betterとこの日の観客に感謝を告げるようにして愛とディスコを捧げて演奏されたのはもちろん「Love & DISCO」。その
「All night party people」
というフレーズはまさにこうしたパーティーを夜通し行ってきたこのイベントのDJたちやそこに集まる人たちにこそふさわしいものだ。そして何よりも我々も声を出して「DISCO」と叫ぶことができる。その楽しさを噛み締めることができる。まだまだtelephonesのライブは我々のことを楽しく、幸せにしてくれる。だからどんな状況になっても行くのをやめることができない。そんなことを感じさせてくれると石毛は最後に
「まだこの後にDJもあるから、みんな今日を最後まで楽しもうぜー!」
と言った。それはデビュー時から「FREE THROW」という曲を同名のDJパーティーのために作り、自分たちのツアーにもDJたちを招いてきたtelephonesだからこその、表現方法は違えど同じように音楽を愛する人たちへの愛情。さっきまでステージにいたTENDOUJIのアサノもいつの間にか酒を片手に客席におり、楽しそうな笑顔を浮かべていた。そうやって誰もが笑顔になれるのがtelephonesの音楽でありライブだ。それを示してくれる場であるGetting Betterが続いていて本当に良かったと思った。
1.I Hate DISCOOOOOOO
2.sick rocks
3.HABANERO
4.Hyper Jump
5.Get Stupid
6.Hasta la Vista
7.Whoa cha
8.Monkey Discooooooo
9.urban disco w/ アサノケンジ
10.Love & DISCO
最後のDJではボスこと片平実が、
「来月からもオールナイトでこのイベントを続けていく。なんでやるのかって言われたら、やりたいから」
と口にした。騒がしい客席もみんなその言葉をじっと聞いていた。これからの自分たちの遊ぶ場所についての未来の話だから。個人的にはもうオールナイトは生活リズム的に厳しいんだよな…と思いつつ、今では当たり前のようにライブを見ている夜の本気ダンスもこのGetting Betterのオールナイトイベントで初めてライブを見たんだよな、と思った。そうした新しい音楽との出会いを与えてくれる場所がずっと続いて、また周年の時にはこうしてバンドたちが祝いにきて、そこに我々が集まれるように、と片平実がこの日の出演者たち(Jam Fuzz Kid含めて)の曲をかけるというDJなりの出演者へのリスペクトを目と耳にしながら思っていた。