a flood of circle 「狂乱天国ナイト」 @東京キネマ倶楽部 1/27
- 2023/01/28
- 20:49
年間160本くらいライブを見る生活をしている中でトップクラスにライブを見ているであろうバンドがa flood of circleであり、そんなフラッドの2023年のライブ初めがこの日の「狂乱天国ナイト」である。
その曲タイトルをライブタイトルに冠するというのはかつてこのキネマ倶楽部で開催された「鬼殺しナイト」を彷彿とさせるものであり、あの時は「鬼ころし」を何回も演奏していたし、その前には3daysで全曲演奏ライブをやったりと、このキネマ倶楽部はフラッドの印象や記憶が強く残っている。
開演時間の19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると、会場にはおなじみのSEが流れ、「狂乱天国ナイトというタイトルでもSEはいつもと同じか」と思っていたら、キネマ倶楽部ならではの下手の階段上の踊り場に渡邊一丘(ドラム)が登場すると、上下ともに真っ白な衣装であり、それは首元に真っ白なスカーフのようなものを巻いた青木テツ(ギター)もそうなのだが、驚いたのは普段は基本的に黒のワンピースを着ているHISAYO(ベース)もこの日は白いワンピースを着ていることで客席からはやはり驚きの声が漏れる。この日は声を出してもいいというルールのライブではあるが、声を出そうとしたというよりは漏れてしまったというような。なので当然佐々木亮介(ボーカル&ギター)も白の革ジャンに白のパンツという出で立ちで、新しい年を迎えたことで真っ白に生まれ変わるというバンドの意識があるようにも感じられる。
ステージにはおなじみのブラックファルコンもセッティングされているのだが、亮介が手にしたのはそのギターではなくお茶割りの缶であり、テツとHISAYOのカオスを感じさせるコーラスによって、いきなりこの日のライブタイトルになっている「狂乱天国」から始まる。もちろん亮介は
「ふざけろよ Baby ダブル・ピースで
記念写真を撮りたい 待ち受けにしようよ
狂乱天国で」
というフレーズではマイクをスタンドに設置してダブルピースを作り、それが客席にも広がっていく。普段のライブならまず1曲目にはやらない曲なだけに、この日のライブが普段と全く違うものになるということがこの段階でわかる。
その予想通りに渡邊が力強いビートを叩き出すのは、かつてこのライブ同様にタイトルが冠された「鬼殺し」。実に久しぶりに演奏された感じがするし、その間に亮介はステージでは鬼殺しを飲まなくなった。その代わりにお茶割りを手放すことはなく、序盤からグイグイ飲みまくっている。だからか最近は歌唱も一時期よりは安定してきている感もあったが、この日はその亮介の声からしてめちゃくちゃ前のめりである。
なのでこちらも久々な、HISAYOのベースがイントロからうねりまくる「ミッドナイト・サンシャイン」では亮介がハンドマイクであることをいいことに高く飛び跳ね、その横でテツはギターソロを刻みまくる。どこかステージ上からは緊張感も感じられるけれど、観客はレア曲の連打っぷり、しかも体が動かざるを得ないくらいに激しい曲であるだけに沸きまくっている。
曲間らしい曲間もほとんどなしに次々に曲が演奏されていくのであるが、こうして続けて聴くことによって「ミッドナイト・サンシャイン」に通じるものがあると感じられるのは「ヴァイタル・サインズ」で、やはりハンドマイクとお茶割りを持ってステージを激しく歌う亮介の姿含めて、曲がリリースされた年代はかなり違う(なんなら10年くらい)けれど、フラッドというバンドの獰猛さは変わらないどころかさらに強くなっているということがわかる。だって2020年にリリースした曲のサビで亮介はもんどりうつようにしながら
「WE'RE GONNA DIE DIE DIE DIE DIE
WE'RE GONNA DIE DIE DIE DIE DIE
WE'RE GONNA DIE DIE DIE DIE DIE
WE'RE GONNA DIE DIE DIE DIE DIE」
とそのロックンロールを歌うために持って生まれた声をさらにしゃがれさせるようにして歌っているのだから。
ここまで亮介が全くギターを持っていない。持っているのはマイクとお茶割りだけ。これは今日はそうしたコンセプトのライブなのか?とも思っていると、続く「Where Is My Freedom」もハンドマイク曲なのだが、サビのタイトルフレーズ歌唱部分で亮介がマイクを観客に向けていたように、こうしたハンドマイク歌唱の曲ではコーラスが重要な役割を担っている。だからテツもHISAYOも渡邊も曲ごとに代わる代わるコーラスを歌うのであるが、亮介が酒を飲みまくってアクセルのみを踏み込んでいるのとは対照的に3人のコーラスは実に安定しているというか、それぞれの声を曲に合わせて変えることでより生かしていることがわかるし、そのコーラス部分を我々観客も一緒に歌うというコンセプトでもあるんじゃないかということに気付く。ちなみに亮介はこの辺りですでにお茶割りが2本目に突入していた。
それはポエトリーリーディング的な歌い出しの歌詞を本来の「2016年2月3日」から
「2023年1月27日」
とこの日のものに変えて歌い、
「OH HISSE,OH HISSE,OH HISSE,LALALALA」
というコーラスをハンドマイクの亮介とメンバー、さらには観客が拳を振り上げて歌うことによって、この日からまた新たな航海の旅に出かけていくということを感じさせる「El Dorado」も間違いなくそうである。ここまで来るともう次に何の曲が来るのかを考えるのもバカらしくなるくらいのレア曲の連発っぷりである。
酒が進んでいることでテンションがさらに上がっているのか、亮介がリズムに合わせて飛び跳ねまくる、まさにフラッドのブルースの濃い部分の結晶というような「Blues Never Die (ブルースは二度死ぬ)」では曲中のガラッと明るくポップに転調する部分で、それまではひたすら薄暗かったステージが明るく照らされると、その光を吸収したかのように亮介はより一層高く激しく飛び跳ねまくる。そんな、ライブで聞くと音源以上に「どんな展開の曲なんだ」と思ってしまうこの曲は
「あと少し届かない あと少し分かり合えない
だけど止めらんないだけ だから辞めらんないだけ あーあ」
と締められるのであるが、この日の客席にいた人たちには間違いなく届いているし、分かり合えているはず。こうした曲たちを聞くことによってこんなにテンションが上がっている人たちなのだから。
「気持ち良かったらどんどんおかわりして〜。バーカウンターはあっち〜」
と本来のバーカウンターの位置とは真逆の方向を指差すくらいにご機嫌な亮介(観客の中には丁寧に本来の位置を指差してくれている人もいた)がギターを持つと、テツとともにブルージーなギターサウンドを弾き始めたのは「Don't Close The Gate -Session #5-」という、これが演奏されるのはいつ以来だろうかと思ってしまうくらいにレアなインスト曲。徐々にブルースからロックンロールへと演奏の熱が増していくと、亮介がギターを弾きながら階段を登って踊り場まで行き、テツもそれに続いて2人で踊り場に行ってギターを弾くのであるが、自分が見ていた位置的にその踊り場に立っている姿をほとんど見ることが出来なかったのはもう少し考えてポジショニングするべきであった。
そんなインスト曲の流れを引き継ぐように、パンク的と言っていいくらいの激しいビートに色鮮やかな照明が降り注ぎ、最初は亮介が「テキーラ」という単語だけを歌う「Tequila Club」はフラッドのアルコールシリーズの中では最もと言っていいくらいにレアな曲であるが、テキーラという酒の持つアルコール濃度の濃さはこの日のセトリの濃さに実にふさわしいものである。この曲自体は前半の曲に比べたらそこまで濃くないし重くもない曲であるけれど、やはり実に独特な展開の曲ではあるなと思う。
そんな酒と結びつくのは博打、それはこのいかがわしさを放つ街にあるキネマ倶楽部に実に似合う選曲であるのが「クレイジー・ギャンブラーズ」であり、このあたりからはブルースから一気にロックンロールへと振り切れていくような感覚もあったのだが、亮介はギターを弾きながら歌うことによってお茶割りを飲む暇がなくなっていく。しかしこの曲のコーラスもそうであるが、こうしてコーラスの比重が強い曲が続くことによって、フラッドにはこんなに我々が一緒に歌える曲がたくさんあったんだなということに気づく。バンド側は決して「歌え!」とも言わないし、メンバーがコーラスを止めることもないだけにほとんど観客の歌声は聞こえないけれど、それでもこうして歌えることによって解放されていく感覚というものを確かに感じることができる。
それはリリース前にライブで観客のコーラスを録音して、それを音源に使ったというエピソードを持つ「Beast Mode」のコーラスに最も顕著でもあるのだが、濃い曲を続けてきたことによってバンドの鳴らしている音も、前のめりに突き進んできたことによって亮介の歌唱も、つまりはフラッドというバンドこそがビーストであるということを感じさせるような凄まじい迫力である。それがどこかこのキネマ倶楽部の雰囲気にあったものであるというのも、ロックンロールバンドでありながらもフラッドが持っている昭和の歌謡曲のエッセンスでもあると思う。
「狂乱天国ナイト、キネマ倶楽部。まだまだパーティーしようぜ!」
と言って亮介がギターを掻き鳴らすのは、すでにライブではおなじみの曲になった「Party Monster Bop」であり、亮介の言葉の通りにこの曲の持つパーティー感、それはロックンロールがカッコよくも楽しいものであるということを感じさせてくれるものであるのだが、そんなこの曲が持つ空気が、MCが全くない一気飲みスタイルであることによって漂っていた少しばかりの緊張感を解きほぐしてくれる。そんな中でもテツのギターソロは強烈に鳴らされるのであるが、「Beast Mode」以降はテツのコーラスはもはや叫びというレベルに突入している感すらある。
すると亮介はギターを置いてタンバリンを手にしてそれを叩きながら、まだまだパーティーは続くとばかりに、これまた実に久しぶりの「Party!!!」を、自分の首にタンバリンをかけて歌い始める。これまでにはライブのクライマックスに演奏されることも多かった曲であり、それがフラッドのライブのロックンロールの幸福感を感じさせるものになっていたのだが、この中盤で演奏されることによって
「夜はこれからさBaby 悲しい気分はぶっ飛ばして」
というフレーズにリアリティを与えてくれる。亮介は曲中で歌いながらタンバリンを自身の首からHISAYOの首に通すというあたりもこの曲が持つ幸福感をさらに高めてくれるし、メンバーの表情がどんどん楽しそうになってきているのがよくわかる。我々はもちろんメンバーも狂乱天国の中にいるということである。
そんな狂乱天国というポップな国の中に我々を呼び込むかのように演奏されたのはどこかリズムが南国的な空気を感じさせながらもあくまでもロックンロールな「Welcome To Wonderland」であり、サビで観客の腕が左右に揺れるというのも割と直線的な盛り上がり方が多いフラッドのライブにおいては珍しいものであるが、
「Baby Baby」
などのコーラスフレーズはやはりキャッチーであり、一緒に歌いたくなってしまうものである。
そんな空気を切り裂くようにHISAYOの重いベースの音が響き渡るのはまさにHISAYOのことを歌ったかのような「Rex Girl」であり、亮介は2コーラス目でボーカルを徐々にHISAYOに譲りながら、サビでは叫ぶようにして「Rex!」のフレーズを歌う。再びハンドマイクになったことによってまた緑茶割りを飲みながらということでだいぶ酔っているようにも見えるけれど、むしろ声はさらにロックンロールらしくなっているとも言える。何より歌詞を飛ばしたり、グダグダなライブになるようなことは全くないというあたりはさすがだ。というかむしろさらに獰猛になってきている感すらあるのだが、それは原曲よりもはるかに演奏のテンポが速く、音が強く激しくなっているからそう感じるのである。
そしてクライマックスとばかりに亮介がタンバリンを叩き、観客も手拍子をする「Sweet Home Battle Field」では亮介が
「愛すべき鶯谷!」
などこのキネマ倶楽部だからこその歌詞に変えて歌うのであるが、亮介はハンドマイクであるだけにテツに近づいてスカーフ部分をいじったりすることによってテツに振り払われてしまう。そんな後でもテツはきっちり間奏でキレ味鋭いギターソロを鳴らしているだけに、この兄弟みたいなじゃれあいはもはやどちらが兄なのかわからなくなるくらいである。
そして
「ラスト!」
と亮介が言ってから演奏されたのは、先日の横浜F.A.Dの菅原卓郎との弾き語りでも演奏されていた「Black Eye Blues」なのだが、亮介のブルース的ともヒップホップ的とも言える歌唱による
「全ての街を回ってもまだ
全ての歌を歌ってもまだ
この国にブルースを流し込んでく
Black Eye Blues」
というフレーズはまさにかつてこのキネマ倶楽部で持ち曲全曲演奏ライブをやり、その前には全都道府県ツアーをやった後に生まれた曲であったことを思い出させてくれるのだが、あの頃はまだフラッドは「めちゃくちゃメンバーが変わるバンド」だった。でも今はもうそんなイメージは全くない。愛すべきこの4人のままで続いていくイメージしかない。そんな4人で続いてきたことによるグルーヴがこの曲、さらにはこの日の曲には確かに宿っていた。だから亮介はやはり自身を解放するかのように飛び跳ねまくりながら歌っていたのだろう。
しかしそんな「Black Eye Blues」は最後ではなく、再びけたたましいコーラスが響くのはやはり「狂乱天国」で、明らかに1曲目の時よりもその狂乱っぷりが増しまくっているというのはメンバーの演奏と、やはりダブルピースをしながらもステージを転がり廻りながら歌う亮介の姿によって感じられたものだ。何というか、その歌唱はこのまま声が枯れても構わないというくらいに、明日なき暴走ロックンローラーのそのものだった。つまりはやはりフラッドはこんなにもカッコよくて凄まじいロックンロールバンドであるということに特化しまくった、狂乱天国ナイトだったのだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、テツだけはこの日のライブTシャツ(あまりに早く即完しただけに後で通販もされるというくらいに秀逸なデザイン)を着て登場すると、亮介がギターを持ってタイトルを口にしたのは、いよいよ発売が来月に迫ってきたニューアルバム「花降る空に不滅の歌を」の収録曲として配信されたばかりの「バードヘッドブルース」。フラッドのタイトルに「ブルース」がつく曲はタイトル通りにブルース色が強くなる傾向があるのだが、この曲はむしろブルースというより完全にロックンロールであり、フラッドだからこそのそのメロディの輝きっぷりはこれからこの曲を毎回ライブで聴くようになっていくのだろうし、なによりもアルバムと、それに伴うツアーが本当に楽しみになる。フラッドの新曲や新作はいつだってこうやって我々をワクワクさせてくれるのだ。
そして亮介が
「死ぬなよ〜」
と言ってからギターをかき鳴らしたのは、渡邊のリズムに合わせてHISAYOも観客も手拍子をする「Dancing Zombiez」。間奏でもアウトロでもギターソロを弾きまくるテツと亮介の姿と演奏を見ながら、この曲もサビの締めのタイトルフレーズや吐息が漏れるようなコーラスなど、観客が一緒に声を出して歌えるための曲だと思った。むしろそこにこそ「狂乱天国ナイト」の本質はあるんじゃないかと思った。酒を飲んで、体を揺らして、歌いまくる。客席がそうなることこそが狂乱天国であると。
それを示すための一気飲みスタイルは、20曲で1時間半という、席2時間制のラストオーダー30分前の飲み放題がどれだけあっという間のことであるかを示すようなものだった。
この日は演奏されなかった(そしてそれは実に珍しいことである)「シーガル」「プシケ」というフラッドの根幹を成すようなギターロック曲も、亮介のロマンチックさが溢れ出すような「Honey Moon Song」や「月に吠える」などのバラード曲も、フラッドはあらゆるタイプの名曲しかないバンドだと思っている。そんなフラッドの濃い部分をひたすら凝縮したようなセトリもまた、そのフラッドの濃い部分の曲も名曲しかないということを改めて感じさせてくれるようなものだった。そしてそれはこれからも更新されていくということがわかっているからこそ、フラッドのライブに行くのがやめられないのだ。それが普通に生きているよりも圧倒的に楽しくて、生きている実感を与えてくれるからこそ、また狂乱天国で待ち合わせしようぜ。その前に今年はアルバムのリリースとツアーもある。今年も数えきれなくなるくらいにフラッドのライブを見ていたい。
1.狂乱天国
2.鬼殺し
3.ミッドナイト・サンシャイン
4.ヴァイタル・サインズ
5.Where Is My Freedom
6.El Dorado
7.Blue Never Die (ブルースは二度死ぬ)
8.Don't Close The Gate -Session #5-
9.Tequila Club
10.クレイジー・ギャンブラーズ
11.Beast Mode
12.Party Monster Bop
13.Party!!!
14.Welcome To Wonderland
15.Rex Girl
16.Sweet Home Battle Field
17.Black Eye Blues
18.狂乱天国
encore
19.バードヘッドブルース
20.Dancing Zombiez
その曲タイトルをライブタイトルに冠するというのはかつてこのキネマ倶楽部で開催された「鬼殺しナイト」を彷彿とさせるものであり、あの時は「鬼ころし」を何回も演奏していたし、その前には3daysで全曲演奏ライブをやったりと、このキネマ倶楽部はフラッドの印象や記憶が強く残っている。
開演時間の19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると、会場にはおなじみのSEが流れ、「狂乱天国ナイトというタイトルでもSEはいつもと同じか」と思っていたら、キネマ倶楽部ならではの下手の階段上の踊り場に渡邊一丘(ドラム)が登場すると、上下ともに真っ白な衣装であり、それは首元に真っ白なスカーフのようなものを巻いた青木テツ(ギター)もそうなのだが、驚いたのは普段は基本的に黒のワンピースを着ているHISAYO(ベース)もこの日は白いワンピースを着ていることで客席からはやはり驚きの声が漏れる。この日は声を出してもいいというルールのライブではあるが、声を出そうとしたというよりは漏れてしまったというような。なので当然佐々木亮介(ボーカル&ギター)も白の革ジャンに白のパンツという出で立ちで、新しい年を迎えたことで真っ白に生まれ変わるというバンドの意識があるようにも感じられる。
ステージにはおなじみのブラックファルコンもセッティングされているのだが、亮介が手にしたのはそのギターではなくお茶割りの缶であり、テツとHISAYOのカオスを感じさせるコーラスによって、いきなりこの日のライブタイトルになっている「狂乱天国」から始まる。もちろん亮介は
「ふざけろよ Baby ダブル・ピースで
記念写真を撮りたい 待ち受けにしようよ
狂乱天国で」
というフレーズではマイクをスタンドに設置してダブルピースを作り、それが客席にも広がっていく。普段のライブならまず1曲目にはやらない曲なだけに、この日のライブが普段と全く違うものになるということがこの段階でわかる。
その予想通りに渡邊が力強いビートを叩き出すのは、かつてこのライブ同様にタイトルが冠された「鬼殺し」。実に久しぶりに演奏された感じがするし、その間に亮介はステージでは鬼殺しを飲まなくなった。その代わりにお茶割りを手放すことはなく、序盤からグイグイ飲みまくっている。だからか最近は歌唱も一時期よりは安定してきている感もあったが、この日はその亮介の声からしてめちゃくちゃ前のめりである。
なのでこちらも久々な、HISAYOのベースがイントロからうねりまくる「ミッドナイト・サンシャイン」では亮介がハンドマイクであることをいいことに高く飛び跳ね、その横でテツはギターソロを刻みまくる。どこかステージ上からは緊張感も感じられるけれど、観客はレア曲の連打っぷり、しかも体が動かざるを得ないくらいに激しい曲であるだけに沸きまくっている。
曲間らしい曲間もほとんどなしに次々に曲が演奏されていくのであるが、こうして続けて聴くことによって「ミッドナイト・サンシャイン」に通じるものがあると感じられるのは「ヴァイタル・サインズ」で、やはりハンドマイクとお茶割りを持ってステージを激しく歌う亮介の姿含めて、曲がリリースされた年代はかなり違う(なんなら10年くらい)けれど、フラッドというバンドの獰猛さは変わらないどころかさらに強くなっているということがわかる。だって2020年にリリースした曲のサビで亮介はもんどりうつようにしながら
「WE'RE GONNA DIE DIE DIE DIE DIE
WE'RE GONNA DIE DIE DIE DIE DIE
WE'RE GONNA DIE DIE DIE DIE DIE
WE'RE GONNA DIE DIE DIE DIE DIE」
とそのロックンロールを歌うために持って生まれた声をさらにしゃがれさせるようにして歌っているのだから。
ここまで亮介が全くギターを持っていない。持っているのはマイクとお茶割りだけ。これは今日はそうしたコンセプトのライブなのか?とも思っていると、続く「Where Is My Freedom」もハンドマイク曲なのだが、サビのタイトルフレーズ歌唱部分で亮介がマイクを観客に向けていたように、こうしたハンドマイク歌唱の曲ではコーラスが重要な役割を担っている。だからテツもHISAYOも渡邊も曲ごとに代わる代わるコーラスを歌うのであるが、亮介が酒を飲みまくってアクセルのみを踏み込んでいるのとは対照的に3人のコーラスは実に安定しているというか、それぞれの声を曲に合わせて変えることでより生かしていることがわかるし、そのコーラス部分を我々観客も一緒に歌うというコンセプトでもあるんじゃないかということに気付く。ちなみに亮介はこの辺りですでにお茶割りが2本目に突入していた。
それはポエトリーリーディング的な歌い出しの歌詞を本来の「2016年2月3日」から
「2023年1月27日」
とこの日のものに変えて歌い、
「OH HISSE,OH HISSE,OH HISSE,LALALALA」
というコーラスをハンドマイクの亮介とメンバー、さらには観客が拳を振り上げて歌うことによって、この日からまた新たな航海の旅に出かけていくということを感じさせる「El Dorado」も間違いなくそうである。ここまで来るともう次に何の曲が来るのかを考えるのもバカらしくなるくらいのレア曲の連発っぷりである。
酒が進んでいることでテンションがさらに上がっているのか、亮介がリズムに合わせて飛び跳ねまくる、まさにフラッドのブルースの濃い部分の結晶というような「Blues Never Die (ブルースは二度死ぬ)」では曲中のガラッと明るくポップに転調する部分で、それまではひたすら薄暗かったステージが明るく照らされると、その光を吸収したかのように亮介はより一層高く激しく飛び跳ねまくる。そんな、ライブで聞くと音源以上に「どんな展開の曲なんだ」と思ってしまうこの曲は
「あと少し届かない あと少し分かり合えない
だけど止めらんないだけ だから辞めらんないだけ あーあ」
と締められるのであるが、この日の客席にいた人たちには間違いなく届いているし、分かり合えているはず。こうした曲たちを聞くことによってこんなにテンションが上がっている人たちなのだから。
「気持ち良かったらどんどんおかわりして〜。バーカウンターはあっち〜」
と本来のバーカウンターの位置とは真逆の方向を指差すくらいにご機嫌な亮介(観客の中には丁寧に本来の位置を指差してくれている人もいた)がギターを持つと、テツとともにブルージーなギターサウンドを弾き始めたのは「Don't Close The Gate -Session #5-」という、これが演奏されるのはいつ以来だろうかと思ってしまうくらいにレアなインスト曲。徐々にブルースからロックンロールへと演奏の熱が増していくと、亮介がギターを弾きながら階段を登って踊り場まで行き、テツもそれに続いて2人で踊り場に行ってギターを弾くのであるが、自分が見ていた位置的にその踊り場に立っている姿をほとんど見ることが出来なかったのはもう少し考えてポジショニングするべきであった。
そんなインスト曲の流れを引き継ぐように、パンク的と言っていいくらいの激しいビートに色鮮やかな照明が降り注ぎ、最初は亮介が「テキーラ」という単語だけを歌う「Tequila Club」はフラッドのアルコールシリーズの中では最もと言っていいくらいにレアな曲であるが、テキーラという酒の持つアルコール濃度の濃さはこの日のセトリの濃さに実にふさわしいものである。この曲自体は前半の曲に比べたらそこまで濃くないし重くもない曲であるけれど、やはり実に独特な展開の曲ではあるなと思う。
そんな酒と結びつくのは博打、それはこのいかがわしさを放つ街にあるキネマ倶楽部に実に似合う選曲であるのが「クレイジー・ギャンブラーズ」であり、このあたりからはブルースから一気にロックンロールへと振り切れていくような感覚もあったのだが、亮介はギターを弾きながら歌うことによってお茶割りを飲む暇がなくなっていく。しかしこの曲のコーラスもそうであるが、こうしてコーラスの比重が強い曲が続くことによって、フラッドにはこんなに我々が一緒に歌える曲がたくさんあったんだなということに気づく。バンド側は決して「歌え!」とも言わないし、メンバーがコーラスを止めることもないだけにほとんど観客の歌声は聞こえないけれど、それでもこうして歌えることによって解放されていく感覚というものを確かに感じることができる。
それはリリース前にライブで観客のコーラスを録音して、それを音源に使ったというエピソードを持つ「Beast Mode」のコーラスに最も顕著でもあるのだが、濃い曲を続けてきたことによってバンドの鳴らしている音も、前のめりに突き進んできたことによって亮介の歌唱も、つまりはフラッドというバンドこそがビーストであるということを感じさせるような凄まじい迫力である。それがどこかこのキネマ倶楽部の雰囲気にあったものであるというのも、ロックンロールバンドでありながらもフラッドが持っている昭和の歌謡曲のエッセンスでもあると思う。
「狂乱天国ナイト、キネマ倶楽部。まだまだパーティーしようぜ!」
と言って亮介がギターを掻き鳴らすのは、すでにライブではおなじみの曲になった「Party Monster Bop」であり、亮介の言葉の通りにこの曲の持つパーティー感、それはロックンロールがカッコよくも楽しいものであるということを感じさせてくれるものであるのだが、そんなこの曲が持つ空気が、MCが全くない一気飲みスタイルであることによって漂っていた少しばかりの緊張感を解きほぐしてくれる。そんな中でもテツのギターソロは強烈に鳴らされるのであるが、「Beast Mode」以降はテツのコーラスはもはや叫びというレベルに突入している感すらある。
すると亮介はギターを置いてタンバリンを手にしてそれを叩きながら、まだまだパーティーは続くとばかりに、これまた実に久しぶりの「Party!!!」を、自分の首にタンバリンをかけて歌い始める。これまでにはライブのクライマックスに演奏されることも多かった曲であり、それがフラッドのライブのロックンロールの幸福感を感じさせるものになっていたのだが、この中盤で演奏されることによって
「夜はこれからさBaby 悲しい気分はぶっ飛ばして」
というフレーズにリアリティを与えてくれる。亮介は曲中で歌いながらタンバリンを自身の首からHISAYOの首に通すというあたりもこの曲が持つ幸福感をさらに高めてくれるし、メンバーの表情がどんどん楽しそうになってきているのがよくわかる。我々はもちろんメンバーも狂乱天国の中にいるということである。
そんな狂乱天国というポップな国の中に我々を呼び込むかのように演奏されたのはどこかリズムが南国的な空気を感じさせながらもあくまでもロックンロールな「Welcome To Wonderland」であり、サビで観客の腕が左右に揺れるというのも割と直線的な盛り上がり方が多いフラッドのライブにおいては珍しいものであるが、
「Baby Baby」
などのコーラスフレーズはやはりキャッチーであり、一緒に歌いたくなってしまうものである。
そんな空気を切り裂くようにHISAYOの重いベースの音が響き渡るのはまさにHISAYOのことを歌ったかのような「Rex Girl」であり、亮介は2コーラス目でボーカルを徐々にHISAYOに譲りながら、サビでは叫ぶようにして「Rex!」のフレーズを歌う。再びハンドマイクになったことによってまた緑茶割りを飲みながらということでだいぶ酔っているようにも見えるけれど、むしろ声はさらにロックンロールらしくなっているとも言える。何より歌詞を飛ばしたり、グダグダなライブになるようなことは全くないというあたりはさすがだ。というかむしろさらに獰猛になってきている感すらあるのだが、それは原曲よりもはるかに演奏のテンポが速く、音が強く激しくなっているからそう感じるのである。
そしてクライマックスとばかりに亮介がタンバリンを叩き、観客も手拍子をする「Sweet Home Battle Field」では亮介が
「愛すべき鶯谷!」
などこのキネマ倶楽部だからこその歌詞に変えて歌うのであるが、亮介はハンドマイクであるだけにテツに近づいてスカーフ部分をいじったりすることによってテツに振り払われてしまう。そんな後でもテツはきっちり間奏でキレ味鋭いギターソロを鳴らしているだけに、この兄弟みたいなじゃれあいはもはやどちらが兄なのかわからなくなるくらいである。
そして
「ラスト!」
と亮介が言ってから演奏されたのは、先日の横浜F.A.Dの菅原卓郎との弾き語りでも演奏されていた「Black Eye Blues」なのだが、亮介のブルース的ともヒップホップ的とも言える歌唱による
「全ての街を回ってもまだ
全ての歌を歌ってもまだ
この国にブルースを流し込んでく
Black Eye Blues」
というフレーズはまさにかつてこのキネマ倶楽部で持ち曲全曲演奏ライブをやり、その前には全都道府県ツアーをやった後に生まれた曲であったことを思い出させてくれるのだが、あの頃はまだフラッドは「めちゃくちゃメンバーが変わるバンド」だった。でも今はもうそんなイメージは全くない。愛すべきこの4人のままで続いていくイメージしかない。そんな4人で続いてきたことによるグルーヴがこの曲、さらにはこの日の曲には確かに宿っていた。だから亮介はやはり自身を解放するかのように飛び跳ねまくりながら歌っていたのだろう。
しかしそんな「Black Eye Blues」は最後ではなく、再びけたたましいコーラスが響くのはやはり「狂乱天国」で、明らかに1曲目の時よりもその狂乱っぷりが増しまくっているというのはメンバーの演奏と、やはりダブルピースをしながらもステージを転がり廻りながら歌う亮介の姿によって感じられたものだ。何というか、その歌唱はこのまま声が枯れても構わないというくらいに、明日なき暴走ロックンローラーのそのものだった。つまりはやはりフラッドはこんなにもカッコよくて凄まじいロックンロールバンドであるということに特化しまくった、狂乱天国ナイトだったのだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、テツだけはこの日のライブTシャツ(あまりに早く即完しただけに後で通販もされるというくらいに秀逸なデザイン)を着て登場すると、亮介がギターを持ってタイトルを口にしたのは、いよいよ発売が来月に迫ってきたニューアルバム「花降る空に不滅の歌を」の収録曲として配信されたばかりの「バードヘッドブルース」。フラッドのタイトルに「ブルース」がつく曲はタイトル通りにブルース色が強くなる傾向があるのだが、この曲はむしろブルースというより完全にロックンロールであり、フラッドだからこそのそのメロディの輝きっぷりはこれからこの曲を毎回ライブで聴くようになっていくのだろうし、なによりもアルバムと、それに伴うツアーが本当に楽しみになる。フラッドの新曲や新作はいつだってこうやって我々をワクワクさせてくれるのだ。
そして亮介が
「死ぬなよ〜」
と言ってからギターをかき鳴らしたのは、渡邊のリズムに合わせてHISAYOも観客も手拍子をする「Dancing Zombiez」。間奏でもアウトロでもギターソロを弾きまくるテツと亮介の姿と演奏を見ながら、この曲もサビの締めのタイトルフレーズや吐息が漏れるようなコーラスなど、観客が一緒に声を出して歌えるための曲だと思った。むしろそこにこそ「狂乱天国ナイト」の本質はあるんじゃないかと思った。酒を飲んで、体を揺らして、歌いまくる。客席がそうなることこそが狂乱天国であると。
それを示すための一気飲みスタイルは、20曲で1時間半という、席2時間制のラストオーダー30分前の飲み放題がどれだけあっという間のことであるかを示すようなものだった。
この日は演奏されなかった(そしてそれは実に珍しいことである)「シーガル」「プシケ」というフラッドの根幹を成すようなギターロック曲も、亮介のロマンチックさが溢れ出すような「Honey Moon Song」や「月に吠える」などのバラード曲も、フラッドはあらゆるタイプの名曲しかないバンドだと思っている。そんなフラッドの濃い部分をひたすら凝縮したようなセトリもまた、そのフラッドの濃い部分の曲も名曲しかないということを改めて感じさせてくれるようなものだった。そしてそれはこれからも更新されていくということがわかっているからこそ、フラッドのライブに行くのがやめられないのだ。それが普通に生きているよりも圧倒的に楽しくて、生きている実感を与えてくれるからこそ、また狂乱天国で待ち合わせしようぜ。その前に今年はアルバムのリリースとツアーもある。今年も数えきれなくなるくらいにフラッドのライブを見ていたい。
1.狂乱天国
2.鬼殺し
3.ミッドナイト・サンシャイン
4.ヴァイタル・サインズ
5.Where Is My Freedom
6.El Dorado
7.Blue Never Die (ブルースは二度死ぬ)
8.Don't Close The Gate -Session #5-
9.Tequila Club
10.クレイジー・ギャンブラーズ
11.Beast Mode
12.Party Monster Bop
13.Party!!!
14.Welcome To Wonderland
15.Rex Girl
16.Sweet Home Battle Field
17.Black Eye Blues
18.狂乱天国
encore
19.バードヘッドブルース
20.Dancing Zombiez
Getting Better 25th "2008" 振替公演 @下北沢シャングリラ 1/29 ホーム
「ハンブレッダーズ方向性会議」 ハンブレッダーズ / 四星球 @Zepp Haneda 1/25