Wienners / 夜の本気ダンス -カントーロード vol.30- @千葉LOOK 1/23
- 2023/01/24
- 19:32
これまでにも「このキャパで!?」と驚くような対バンを数多く展開してきた、水戸LIGHT HOUSEと千葉LOOKの共同企画「カントーロード」。その第30回はWiennersと夜の本気ダンス。サウンドは違えどどちらもライブハウスで自分たちのダンスミュージックを追及してきたバンドである。前日は水戸LIGHT HOUSEで開催され、この日は千葉LOOKでの開催。
・Wienners
スタンディングでぎっしり埋まった千葉LOOKの客席には開演前にはずっとWiennersのリミックスアルバムが流れている。実にわかりやすい登場順の示し方であるのだが、そのBGMが止んで場内が暗転するとおなじみのSEが流れ、普段からライブを見に来ているであろう観客が手拍子をする中でメンバー4人がステージに登場。玉屋2060%(ボーカル&ギター)が鮮やかなピンクの髪色になっているのが目を惹くし、どこか年明けだからこそのめでたさを自身の出で立ちで示しているようにも感じる。
玉屋も
「あけましておめでとうー!」
と観客に挨拶をすると、昨年リリースした最新アルバム「TREASURE」の1曲目に収録されている「SOLAR KIDS」からスタートすると、まさに太陽の子どもとしてのキャッチーなパンクサウンドで物理的にも精神的にも我々を熱くさせてくれるのであるが、音源で聴いていてもライブを見ると「これ、とんでもない曲だな」と思ってしまうのはレゲエやサンバなど次々に曲中にガラッとサウンドが変わっていくという展開の激しさによるものであるが、それは我々がその音によってダイレクトにノリ方が変わるからこそそう思うのである。
そのまま「GOD SAVE THE MUSIC」とアルバム通りの流れが続くのだが、
「Don't stop the music 鳴らす大きな音 大きな夢
Don't stop the music ここは我々の居場所
Don't stop the music だいぶ変な踊り 変なメロディー
Don't stop the music 誰も止められないのさ GOD SAVE THE MUSIC」
という歌詞は紛れもなくコロナ禍になって音楽やライブが攻撃されていた時に書いたものだろう。それをメッセージを伝えるためのバラード的な曲ではなくて、Wiennersでしかないキャッチーなパンクサウンドに乗せて歌うというのがこのバンドとしての闘い方だ。髭の先が緑色に染まっている560(ベース)も腕を上げてコーラスすることによって、それが客席にも広がっていく。その光景はライブハウスで生きてきたバンドがその生きる場所を守ってきた結果である。
「あけましておめでとうございます!俺たちも夜の本気ダンスも昨日が今年のライブ初めでした。もう楽しくて仕方なかったんだけど、今日はそんな昨日の楽しさを超えるから!
今年卯年だっけ?うさぎが月にいるみたいな伝説みたいなのあるじゃん?あの話って、インドで生まれたらしいよ」
と、2023年ということを見事に曲に繋げてみせたのは、イントロからインド音楽の要素を取り入れたダンスチューン「恋のバングラビート」。アサミサエ(シンセ&ボーカル)が中華服を着ているだけに国籍不明感が強いのであるが、その混合感こそがWiennersであると言える。普通のパンクバンドなら絶対に取り入れないサウンドすらも自分たちのダンスミュージックに取り入れることによって、唯一無二のものになるという。
そんな異国情緒が一気に日本をテーマにしたものになるのは
「We are Japanese traditional」
と日本人としての、日本のバンドとしての誇りを歌う「TRADITIONAL」であるが、「ハラキリ」「フジヤマ」などの単語が並ぶのはある意味では日本をよく知らない外国人がイメージする日本を歌った曲でもあるだけに、やはりどこか和のテイストの中にも異国情緒が感じられる。
するとアサミサエのキュートなボーカルが響き渡る「カンフーモンキー」はその出で立ち通りに中華圏の世界に連れて行ってくれる。Wiennersはパンクで世界中を旅させてくれるバンドとも言えるかもしれないが、「Justice 4」はそんな4人だからこそこの音楽が生まれているということを示すようなダンスチューンだ。玉屋のカッティングギターが自然に体を動かしてくれるし、ギター&ボーカルとは思えないくらいにやはりギターがめちゃくちゃ上手い。それはもちろん15年という長い歴史の中での経験と自身の腕の研磨あってこそだろうけれど、そのギターの技術があるからこそこんなにも観客を熱狂させ、踊らせることができているのである。
そんな玉屋はこうして2マンを行なっている夜の本気ダンスのことが大好きであり(560もめちゃくちゃ感情を込めて「大好き」と言っていた)、あの夜ダンが持つ色気やグルーヴは自分では作れないということを語るのであるが、
玉屋「米田くんのあのネクタイをバッて投げるやつ、めちゃくちゃカッコいいよね。俺もやってみたいわ〜」
560「ネクタイするの?(笑)そのパーカーの紐でいいじゃん(笑)」
玉屋「これ引っ張ったらギュッてなるだけだから!(笑)」
とやはりスタイリッシュにはならずにコミカルになるあたりはWiennersならではの空気感であるが、最新アルバムからの「FATCION」が再び様々な音楽性やジャンルを1曲の中に詰め込んでみせるWiennersらしさを感じさせてくれる。Wiennersは割とこうして最新アルバムの曲たちがセトリの中軸を担うバンドであるが、それは常に最新の曲たちが即戦力になるくらいの力を持った曲であり、それまでの自分たちを更新するような曲や作品を生み出してきたということだ。そんなアルバムを2年に1枚くらいのペース(リミックスなどの企画盤を含めたら毎年何かしらリリースされてる)で生み出し続け、リリースしてはツアーに明け暮れてきたライブバンドの強さをひしひしと感じられるのは持ち時間が長い2マンだからだ。
するとアサミが打ち込みのサウンドを鳴らし、玉屋はハンドマイクになってステージと客席の間の柵に足をかけ、天井に手をつきながらラップのような歌唱を見せるデジタルヒップホップの「ASTRO BOY」が世界どころか宇宙まで旅させてくれる。こうした、持ち時間30分のフェスではまずやらないような曲が聞けるのも2マンならではであるが、アサミと560も自分たちの立ち位置を入れ替わりながら歌唱し、演奏する。千葉LOOKは客席もステージもめちゃくちゃ狭いライブハウスであるが、そうした会場でのライブをやりまくってきたバンドとしての経験を感じることができる。
「ここにいる俺たちのための曲!」
と玉屋が言って演奏されたのは、イントロからこのバンドの出自でもあるハードコアパンクの要素も感じさせながらも、サビにいくにつれてキャッチーになっていく「MY LAND」なのであるが、
「This is a my land 奇怪な音出しても怒られないや
法律は皆無で難解な問題や苦難はなんもないや」
というフレーズはまさにこうしてライブハウスにいる我々のためのものであるし、
「毎日毎晩こじらせた 頭ん中ちょっとだけ晒してみ
そこにしかないような空想を 誰も止める権利なんて持っちゃいない」
というフレーズはこうしたこじらせたものがあるからこそ、こうやってライブハウスに集まっているんだよな、という自己を再確認させてくれるものだ。実際に玉屋も
「俺はお前が抱えているこじらせたものとか、趣味とか性癖とかを全部肯定してやりたいと思ってる!
だからお前も好きな音楽の前では全てを曝け出してくれ。Wiennersが好きなんでしょ?夜ダンが好きなんでしょ?だからここに来たんでしょ?せめて自分の好きな音楽の前では正直でいてください」
と口にしたのであるが、それが響くのはメンバーチェンジなどがありながらもその思いを曲げることなく進んできたバンドとしての姿を我々に見せてくれているからだ。
そんなMCの後に玉屋がギターを弾きながら歌い始め、その段階で560が腕を挙げる「UNITY」の
「UNITY UNITY とち狂った世界でも 全てはいつか一つになれるかな
UNITY UNITY ぶっ壊れた心だって 元どおり一つになれるかな」
というフレーズと、疾走するパンクのビートがまさに全てを肯定してくれるかのようだ。自分はパンクは「個」の音楽だと思っているけれど、その「個」が集まることによって生まれるものもあると思っているし、こうしたライブでその「個」が一瞬だけでも重なる瞬間を作り出してくれる音楽だとも思っている。そんな自分にとっての「パンク」をそのまま歌ってくれているのがこの曲だ。そんなパンクサウンドのビートを支えるKOZOのドラムは正確無比でありながらも実にしなやかで、こうして至近距離(とはいえ千葉LOOKはステージが低すぎてほとんど見えないこともある)で見るとめちゃくちゃ上手いドラマーだなということがわかる。間違いなくWiennersの屋台骨としてバンドを支えているのはこの男であるし、その前に立つ玉屋はこの日は観客が声を出してもいいということでサビで合唱を求める。それは紛れもなく「個」が一つになった瞬間であった。
そんなWiennersの、さらに言うなら日本のパンクのキラーチューンとして続いたのは「蒼天ディライト」で、玉屋とアサミがボーカルをスイッチしながら、客席ではリズムに合わせて合いの手的な手拍子が起こり、サビではその手が左右に揺れまくる。それは対バンライブのトップバッターとは思えないくらいに、まるでWiennersのツアー初日をこの千葉LOOKに見に来たかのように感じさせてくれた。それくらいにWiennersのライブはその場を全て持っていく力があるんだよなと思っていたら、
「最高すぎるから最後にもう一曲!」
と言ってショートチューンの「よろこびのうた」を追加し、玉屋は柵に足をかけながら横を向くようにしてマイクスタンドに向かって歌っていた。それは計算とか一切ない、ただただこの場の熱気によってバンドマンとしての本能がそうさせたかのようにしか見えなかった。フェスではよくライブを見てきたけれど、やっぱりライブハウスで見るWiennersは他のどんな会場で見るよりもカッコよかった。それはライブハウスで生きてきた生き様が音や鳴らしている姿に刻まれているからだ。
1.SOLAR KIDS
2.GOD SAVE THE MUSIC
3.恋のバングラビート
4.TRADITIONAL
5.カンフーモンキー
6.Justice 4
7.FATCION
8.ASTRO BOY
9.MY LAND
10.UNITY
11.蒼天ディライト
12.よろこびのうた
・夜の本気ダンス
転換中のBGMがArctic Monkeysなどの海外バンドのものに変わる。それはそうしたバンドに影響を受けてきたこのバンドが出てくる前だからだ。夜の本気ダンスがわずか2箇所ではあるけれどこのツアーのファイナルを締めるべくステージに立つ。
おなじみ「ロシアのビッグマフ」のSEで4人がステージに現れると、玉屋が口にしていたからか、4人がよりシュッとしているというかスタイリッシュに見える。その4人が楽器を手にするとおなじみの演奏から米田貴紀(ボーカル&ギター)が
「こんばんは、僕たち京都のバンド、夜の本気ダンスです」
と挨拶して、いきなりの「Crazy Dancer」の鈴鹿秋斗(ドラム)とマイケル(ベース)のビートによって一瞬で客席はまさにクレイジーなダンサーのように沸騰していく。観客が声を出せるということによってコーラス部分では鈴鹿の声に観客の合唱が重なっていくのであるが、夜ダンのライブでこうしてメンバーと一緒に歌うことができるのも本当に久しぶりのことである。その声が出せる、声が聞こえるということがバンドと観客の双方がより燃え上がっていく要素になっていくということがよくわかる。
長い髪を靡かせる西田一紀のギターのリフが実にキャッチーかつ、フジファブリック「TAIFU」あたりの影響もあるのかな?と思う「SHINY」はWienners同様に持ち時間が長い2マンだからこその選曲であると思うけれど、ダンスロックなのは間違いないけれどそのリフやメロディなどのあらゆる要素が実にポップであるということがライブで聞くとよくわかる。まるでタイトル通りに光を放っているというくらいだ。鈴鹿のドラムも手数がかなり増しており、曲がライブで演奏されるたびに進化しているということを実感する。
その進化を最も感じさせるのは昨年リリースのミニアルバム「armadillo」収録の「審美眼」だろう。イントロから大胆に取り入れた同期のサウンドが流れると、こんなに!?と思うくらいに観客が飛び跳ねまくる。それはハンドマイクになった米田が飛び跳ねまくっているからかもしれないが、当初は抵抗があったという「4人が鳴らしている以外の音を入れる」というのはダンスバンドとして間違いなくこのバンドの進化を促したことがよくわかる、凄まじい熱狂っぷりである。
そんな熱狂から一息おくように鈴鹿が喋り始めるのであるが、すでにめちゃくちゃ汗をかいているくらいに暑いのがよくわかる。そんな鈴鹿は
「昨日も水戸でこの対バンやったんやけどな、普通なら「昨日より盛り上がるぞー!」みたいに言うやん!今日は絶対にそうしないといかんねん!何故なら昨日が日曜日だったから!月曜日はどうやっても日曜日には勝てへんねん!一部の月曜日休みの美容室を除いては!(笑)
だから今日は月曜日が日曜日に勝つ日にしないといかんねん!」
とあまりにも独自の言い回しでこの日への気合いを口にすると、その鈴鹿が打つキメに合わせて米田がネクタイを外して「fuckin' so tired」へ。その瞬間の色気はやはりWiennersの玉屋が言うように誰にも真似できないものであるのだが、その米田はハンドマイクであることによって最もこの会場で自由に踊りまくっている。その姿がより観客をも解放して踊りまくらせてくれるのであるし、サビでコーラス的な声が若干聞こえてくるのも声が出せるライブだからこそである。
口には出さなかったが曲間なしですぐに「Afro」へ繋がっていくというのは宣言せずとも「本気ダンスタイム」に突入していたということかもしれないが、
「手を叩け」
のフレーズに合わせて観客が手を叩くと、西田はギターを弾きながら高くジャンプしまくるのだが、千葉LOOKは天井が低いだけに頭が天井にぶつかりそうなくらいになっている。それは運動能力が決して高そうには見えない西田もこのダンスサウンドに乗ることによって跳躍力が引き出されているかのようですらある。それくらいのジャンプ力の高さにはテンションが上がっているのがわかるし、こちらもテンションが上がらざるを得ない。
さらに曲間なく「Movin'」の複雑なイントロのドラムパターンに突入していくというのはこのバンドならではのライブのアレンジであり、セトリが変わればそうした部分も変わっていくという見どころのひとつであるが、鈴鹿のドラムを叩きながらのラップは何度見ても本当に見事だと思う。それは音源ではあのCreepy NutsのR-指定がラップしているのをドラムを叩きながらラップできるからである。
そんなアッパーに踊りまくる流れの中で、イントロで流れる同期音含めて雰囲気が変わるのは「armadillo」収録の「Wall Flower」であり、踊りまくるというよりは米田の歌を全面に押し出した、浸るというタイプの曲であるのだが、その米田はメガネを外して歌っている。その理由は
「あまりに汗をかきすぎていて、メガネがすべり落ちてくる(笑)」
というものだったのだが、それくらいに暑い空間になっていたということである。だからこそこの曲が良いアクセントになっていたし、「armadillo」はミニアルバムというサイズでありながらも収録曲のサウンドが実に幅広いなと思う。
そんなメガネを外した米田は観客が声を出せることになったことで客席から「フゥ〜!」という声が上がりまくることに
「君らコロナ前までそんな「フゥ〜!」って言ってなかったやん(笑)」
とツッコミを入れるのだが、
鈴鹿「やっぱり声を出せるって言っても口を大きく開けて叫ぶようにしたらマスクを貫通するかもしれないやん!?だから口をあんまり開けなくてもいい「フゥ〜!」になってるんやろ!?」
と鋭いんだか鋭くないんだかよくわからない指摘をし、色々とMCが展開しまくる中で結果的に鈴鹿がバンドにおけるすき焼きでいうところの「お麩」的な存在だということになり「おフゥ〜!」という声すら飛ぶようになる。ちょうど前日にTHE BAWDIESのメンバーが喋りまくるアコースティックライブを見たばかりなだけに、夜ダンもそうしたコンセプトでライブをやって欲しいとも思う。演奏5割、トーク5割くらいの。それくらいにMCが毎回本当に面白い。
そんな爆笑MCを挟んでからの後半はハッピーなダンスチューンの「LOVE CONNECTION」から始まるのであるが、サビではマイケルとともに観客もコーラスで声を上げる。それはやはり声を出すことができるからこその選曲だったのかもしれないが、西田だけではなく米田も天井に頭がぶつかりそうなくらいに飛び跳ねまくっている。長身であるだけによりそう思うし、それによってステージが見えづらいこの千葉LOOKでも顔や姿がしっかり見える。
そこから一変するように同期のサウンドも取り入れた「GIVE & TAKE」は音源で聴く分にはクールなダンスロックという感じなのだが、去年のツアーでも証明していたように、今や最も熱狂を生み出せる曲へと超絶進化している。そこまで高速なリズムではないからこそメンバーだけではなく観客もそのリズムに合わせて飛び跳ねまくることができるのであるが、こうした曲がライブでのキラーチューンに成長しているのを見るとこれからも夜ダンはそうして変化しながらも新たな名曲を作り続けていくんだろうなと思えるし、それは演奏の、特に鈴鹿とマイケルのリズムの強さがあるからこそである。
そして最後に演奏されたのは西田の性急なギターリフと手数が実に多い鈴鹿のリズムが、しかし難解さは一切なくキャッチーなダンスロックとして鳴らされる「TAKE MY HAND」なのだが、この曲の間奏では西田がステージ中央まで出てきて体を思いっきり逸らしながらギターソロを弾きまくると、米田が後ろからその西田を抱きしめるように支えるという場面も。暗めの赤い照明がさらにそのシーンにピッタリだったのだが、こんな色気というかエロスを演奏から発せられるバンドが他にいるだろうかと思うくらいだ。それは計算してやっていることではないかもしれないが、だからこそ夜ダンのライブは本当に絵になる。我を忘れて踊りまくりたくもなるけれど、ステージ上の光景からも目を離したくないと思えるのである。
アンコールでは鈴鹿が
「アジアン・カン」「THE 」
と観客に「フゥ〜!」と言わせるための単語を言いながら登場すると米田は
「改めて一緒に対バンさせてもらってライブを見ると、Wiennersみたいな曲は絶対作れないですね。本当に凄いバンドだと思ってます。
でもサウンドは全然違いますけど、この2組は「踊らせる」っていうことに関しては突出してるっていうか、そこに通じるものがあると思ってます」
とこの2組がこうして対バンをした理由を口にすると、
西田「Wiennersが「うさぎが月にいる」っていう話をしてはったでしょ。あの話を聞いて私は村上春樹の小説を思い出しましてね。そのタイトルが「ダンスダンスダンス」って言うんですよ」
と見事すぎるくらいにまとめてみせると、米田が客席に向かって前のめりになりながら「WHERE?」を演奏し始める。その曲中には
「せっかくだから面白いことをしようかな!」
と言うとWiennersの玉屋とアサミをステージに招く。玉屋はここぞとばかりに自身の首に巻いたネクタイを放り投げるというやりたかったパフォーマンスをすると、鈴鹿→玉屋→アサミ→米田の順番で
「WHERE IS」
のコール&レスポンスを行う。それができるのはもちろん我々観客が声を出して返すことができるから。それができるからこそのコラボが本当に楽しくもあり、こういうことがまたできるようになってきたんだな…と感慨深くもあった。
しかしその感慨を振り解くようにしてマイケルが
「踊れ千葉LOOK!」
と叫ぶと最後のサビでは玉屋とアサミも加わってこの日最高の熱狂を生み出していた。どちらも好きなバンドであるが、それがもっと好きになる。それこそがこの「カントーロード」というイベントなのである。
去年のツアーの東京のリキッドルームにも行ったし、その前には中野サンプラザのワンマンも行った。コロナ禍になってからも夜ダンのライブは何回も見ているけれど、その中でこの日が最も楽しかった。それは我々が声を出せるという要素はもちろんであるが、そうして我々が発する声によってバンドがさらに楽しく、さらに熱い演奏をするようになる。それを見て我々もさらに楽しくなって…という幸福な循環がこの日の千葉LOOKにはあったからだ。夜ダンは間違いなく我々観客の発するパワーを自分たちのものに変換することができるバンドだ。
コロナ禍ならではの制限された楽しみ方の中でも戦えるバンドであるということを配信ライブからずっと示したけれど、きっとこれからもっと楽しくなれる。もっと夜ダンのライブが凄くなっていくのを見ることができる。そこに我々が力を与えて、力を与えてもらうことができる。そんな確信が得られた、こんなに楽しくていいのかと思うような週始めの月曜日だった。
1.Crazy Dancer
2.SHINY
3.審美眼
4.fuckin' so tired
5.Afro
6.Movin'
7.Wall Flower
8.LOVE CONNECTION
9.GIVE & TAKE
10.TAKE MY HAND
encore
11.WHERE? w/ 玉屋2060%,アサミサエ
この「カントーロード」は自分はこれまでにも何度か参加しているが、昔は千葉県民でありながらも、千葉LOOKがツアーのスケジュールに入っていてもスルーすることも多かった。ステージは見えづらいし、そもそも人気のバンドだとチケットが当たらないし…と。
でもコロナ禍になってから、この千葉LOOKが客席に椅子を置いて30人くらいしか入れられない状況から再スタートして、ようやくこうしてフルキャパで観客が声を出せるところまできたのを見てきた。そのどんな時もサイトウ店長が店先に立って接客してくれたことも。
そんなライブハウスがすぐに行ける場所にあるということがどれだけ幸せなことなのかということを思い知った3年間でもあった。だからこれからは行ける限りはこうやって千葉LOOKに足を運びたいと思っているし、千葉に来てくれたWiennersと夜ダンに心からありがとうと思っている。
・Wienners
スタンディングでぎっしり埋まった千葉LOOKの客席には開演前にはずっとWiennersのリミックスアルバムが流れている。実にわかりやすい登場順の示し方であるのだが、そのBGMが止んで場内が暗転するとおなじみのSEが流れ、普段からライブを見に来ているであろう観客が手拍子をする中でメンバー4人がステージに登場。玉屋2060%(ボーカル&ギター)が鮮やかなピンクの髪色になっているのが目を惹くし、どこか年明けだからこそのめでたさを自身の出で立ちで示しているようにも感じる。
玉屋も
「あけましておめでとうー!」
と観客に挨拶をすると、昨年リリースした最新アルバム「TREASURE」の1曲目に収録されている「SOLAR KIDS」からスタートすると、まさに太陽の子どもとしてのキャッチーなパンクサウンドで物理的にも精神的にも我々を熱くさせてくれるのであるが、音源で聴いていてもライブを見ると「これ、とんでもない曲だな」と思ってしまうのはレゲエやサンバなど次々に曲中にガラッとサウンドが変わっていくという展開の激しさによるものであるが、それは我々がその音によってダイレクトにノリ方が変わるからこそそう思うのである。
そのまま「GOD SAVE THE MUSIC」とアルバム通りの流れが続くのだが、
「Don't stop the music 鳴らす大きな音 大きな夢
Don't stop the music ここは我々の居場所
Don't stop the music だいぶ変な踊り 変なメロディー
Don't stop the music 誰も止められないのさ GOD SAVE THE MUSIC」
という歌詞は紛れもなくコロナ禍になって音楽やライブが攻撃されていた時に書いたものだろう。それをメッセージを伝えるためのバラード的な曲ではなくて、Wiennersでしかないキャッチーなパンクサウンドに乗せて歌うというのがこのバンドとしての闘い方だ。髭の先が緑色に染まっている560(ベース)も腕を上げてコーラスすることによって、それが客席にも広がっていく。その光景はライブハウスで生きてきたバンドがその生きる場所を守ってきた結果である。
「あけましておめでとうございます!俺たちも夜の本気ダンスも昨日が今年のライブ初めでした。もう楽しくて仕方なかったんだけど、今日はそんな昨日の楽しさを超えるから!
今年卯年だっけ?うさぎが月にいるみたいな伝説みたいなのあるじゃん?あの話って、インドで生まれたらしいよ」
と、2023年ということを見事に曲に繋げてみせたのは、イントロからインド音楽の要素を取り入れたダンスチューン「恋のバングラビート」。アサミサエ(シンセ&ボーカル)が中華服を着ているだけに国籍不明感が強いのであるが、その混合感こそがWiennersであると言える。普通のパンクバンドなら絶対に取り入れないサウンドすらも自分たちのダンスミュージックに取り入れることによって、唯一無二のものになるという。
そんな異国情緒が一気に日本をテーマにしたものになるのは
「We are Japanese traditional」
と日本人としての、日本のバンドとしての誇りを歌う「TRADITIONAL」であるが、「ハラキリ」「フジヤマ」などの単語が並ぶのはある意味では日本をよく知らない外国人がイメージする日本を歌った曲でもあるだけに、やはりどこか和のテイストの中にも異国情緒が感じられる。
するとアサミサエのキュートなボーカルが響き渡る「カンフーモンキー」はその出で立ち通りに中華圏の世界に連れて行ってくれる。Wiennersはパンクで世界中を旅させてくれるバンドとも言えるかもしれないが、「Justice 4」はそんな4人だからこそこの音楽が生まれているということを示すようなダンスチューンだ。玉屋のカッティングギターが自然に体を動かしてくれるし、ギター&ボーカルとは思えないくらいにやはりギターがめちゃくちゃ上手い。それはもちろん15年という長い歴史の中での経験と自身の腕の研磨あってこそだろうけれど、そのギターの技術があるからこそこんなにも観客を熱狂させ、踊らせることができているのである。
そんな玉屋はこうして2マンを行なっている夜の本気ダンスのことが大好きであり(560もめちゃくちゃ感情を込めて「大好き」と言っていた)、あの夜ダンが持つ色気やグルーヴは自分では作れないということを語るのであるが、
玉屋「米田くんのあのネクタイをバッて投げるやつ、めちゃくちゃカッコいいよね。俺もやってみたいわ〜」
560「ネクタイするの?(笑)そのパーカーの紐でいいじゃん(笑)」
玉屋「これ引っ張ったらギュッてなるだけだから!(笑)」
とやはりスタイリッシュにはならずにコミカルになるあたりはWiennersならではの空気感であるが、最新アルバムからの「FATCION」が再び様々な音楽性やジャンルを1曲の中に詰め込んでみせるWiennersらしさを感じさせてくれる。Wiennersは割とこうして最新アルバムの曲たちがセトリの中軸を担うバンドであるが、それは常に最新の曲たちが即戦力になるくらいの力を持った曲であり、それまでの自分たちを更新するような曲や作品を生み出してきたということだ。そんなアルバムを2年に1枚くらいのペース(リミックスなどの企画盤を含めたら毎年何かしらリリースされてる)で生み出し続け、リリースしてはツアーに明け暮れてきたライブバンドの強さをひしひしと感じられるのは持ち時間が長い2マンだからだ。
するとアサミが打ち込みのサウンドを鳴らし、玉屋はハンドマイクになってステージと客席の間の柵に足をかけ、天井に手をつきながらラップのような歌唱を見せるデジタルヒップホップの「ASTRO BOY」が世界どころか宇宙まで旅させてくれる。こうした、持ち時間30分のフェスではまずやらないような曲が聞けるのも2マンならではであるが、アサミと560も自分たちの立ち位置を入れ替わりながら歌唱し、演奏する。千葉LOOKは客席もステージもめちゃくちゃ狭いライブハウスであるが、そうした会場でのライブをやりまくってきたバンドとしての経験を感じることができる。
「ここにいる俺たちのための曲!」
と玉屋が言って演奏されたのは、イントロからこのバンドの出自でもあるハードコアパンクの要素も感じさせながらも、サビにいくにつれてキャッチーになっていく「MY LAND」なのであるが、
「This is a my land 奇怪な音出しても怒られないや
法律は皆無で難解な問題や苦難はなんもないや」
というフレーズはまさにこうしてライブハウスにいる我々のためのものであるし、
「毎日毎晩こじらせた 頭ん中ちょっとだけ晒してみ
そこにしかないような空想を 誰も止める権利なんて持っちゃいない」
というフレーズはこうしたこじらせたものがあるからこそ、こうやってライブハウスに集まっているんだよな、という自己を再確認させてくれるものだ。実際に玉屋も
「俺はお前が抱えているこじらせたものとか、趣味とか性癖とかを全部肯定してやりたいと思ってる!
だからお前も好きな音楽の前では全てを曝け出してくれ。Wiennersが好きなんでしょ?夜ダンが好きなんでしょ?だからここに来たんでしょ?せめて自分の好きな音楽の前では正直でいてください」
と口にしたのであるが、それが響くのはメンバーチェンジなどがありながらもその思いを曲げることなく進んできたバンドとしての姿を我々に見せてくれているからだ。
そんなMCの後に玉屋がギターを弾きながら歌い始め、その段階で560が腕を挙げる「UNITY」の
「UNITY UNITY とち狂った世界でも 全てはいつか一つになれるかな
UNITY UNITY ぶっ壊れた心だって 元どおり一つになれるかな」
というフレーズと、疾走するパンクのビートがまさに全てを肯定してくれるかのようだ。自分はパンクは「個」の音楽だと思っているけれど、その「個」が集まることによって生まれるものもあると思っているし、こうしたライブでその「個」が一瞬だけでも重なる瞬間を作り出してくれる音楽だとも思っている。そんな自分にとっての「パンク」をそのまま歌ってくれているのがこの曲だ。そんなパンクサウンドのビートを支えるKOZOのドラムは正確無比でありながらも実にしなやかで、こうして至近距離(とはいえ千葉LOOKはステージが低すぎてほとんど見えないこともある)で見るとめちゃくちゃ上手いドラマーだなということがわかる。間違いなくWiennersの屋台骨としてバンドを支えているのはこの男であるし、その前に立つ玉屋はこの日は観客が声を出してもいいということでサビで合唱を求める。それは紛れもなく「個」が一つになった瞬間であった。
そんなWiennersの、さらに言うなら日本のパンクのキラーチューンとして続いたのは「蒼天ディライト」で、玉屋とアサミがボーカルをスイッチしながら、客席ではリズムに合わせて合いの手的な手拍子が起こり、サビではその手が左右に揺れまくる。それは対バンライブのトップバッターとは思えないくらいに、まるでWiennersのツアー初日をこの千葉LOOKに見に来たかのように感じさせてくれた。それくらいにWiennersのライブはその場を全て持っていく力があるんだよなと思っていたら、
「最高すぎるから最後にもう一曲!」
と言ってショートチューンの「よろこびのうた」を追加し、玉屋は柵に足をかけながら横を向くようにしてマイクスタンドに向かって歌っていた。それは計算とか一切ない、ただただこの場の熱気によってバンドマンとしての本能がそうさせたかのようにしか見えなかった。フェスではよくライブを見てきたけれど、やっぱりライブハウスで見るWiennersは他のどんな会場で見るよりもカッコよかった。それはライブハウスで生きてきた生き様が音や鳴らしている姿に刻まれているからだ。
1.SOLAR KIDS
2.GOD SAVE THE MUSIC
3.恋のバングラビート
4.TRADITIONAL
5.カンフーモンキー
6.Justice 4
7.FATCION
8.ASTRO BOY
9.MY LAND
10.UNITY
11.蒼天ディライト
12.よろこびのうた
・夜の本気ダンス
転換中のBGMがArctic Monkeysなどの海外バンドのものに変わる。それはそうしたバンドに影響を受けてきたこのバンドが出てくる前だからだ。夜の本気ダンスがわずか2箇所ではあるけれどこのツアーのファイナルを締めるべくステージに立つ。
おなじみ「ロシアのビッグマフ」のSEで4人がステージに現れると、玉屋が口にしていたからか、4人がよりシュッとしているというかスタイリッシュに見える。その4人が楽器を手にするとおなじみの演奏から米田貴紀(ボーカル&ギター)が
「こんばんは、僕たち京都のバンド、夜の本気ダンスです」
と挨拶して、いきなりの「Crazy Dancer」の鈴鹿秋斗(ドラム)とマイケル(ベース)のビートによって一瞬で客席はまさにクレイジーなダンサーのように沸騰していく。観客が声を出せるということによってコーラス部分では鈴鹿の声に観客の合唱が重なっていくのであるが、夜ダンのライブでこうしてメンバーと一緒に歌うことができるのも本当に久しぶりのことである。その声が出せる、声が聞こえるということがバンドと観客の双方がより燃え上がっていく要素になっていくということがよくわかる。
長い髪を靡かせる西田一紀のギターのリフが実にキャッチーかつ、フジファブリック「TAIFU」あたりの影響もあるのかな?と思う「SHINY」はWienners同様に持ち時間が長い2マンだからこその選曲であると思うけれど、ダンスロックなのは間違いないけれどそのリフやメロディなどのあらゆる要素が実にポップであるということがライブで聞くとよくわかる。まるでタイトル通りに光を放っているというくらいだ。鈴鹿のドラムも手数がかなり増しており、曲がライブで演奏されるたびに進化しているということを実感する。
その進化を最も感じさせるのは昨年リリースのミニアルバム「armadillo」収録の「審美眼」だろう。イントロから大胆に取り入れた同期のサウンドが流れると、こんなに!?と思うくらいに観客が飛び跳ねまくる。それはハンドマイクになった米田が飛び跳ねまくっているからかもしれないが、当初は抵抗があったという「4人が鳴らしている以外の音を入れる」というのはダンスバンドとして間違いなくこのバンドの進化を促したことがよくわかる、凄まじい熱狂っぷりである。
そんな熱狂から一息おくように鈴鹿が喋り始めるのであるが、すでにめちゃくちゃ汗をかいているくらいに暑いのがよくわかる。そんな鈴鹿は
「昨日も水戸でこの対バンやったんやけどな、普通なら「昨日より盛り上がるぞー!」みたいに言うやん!今日は絶対にそうしないといかんねん!何故なら昨日が日曜日だったから!月曜日はどうやっても日曜日には勝てへんねん!一部の月曜日休みの美容室を除いては!(笑)
だから今日は月曜日が日曜日に勝つ日にしないといかんねん!」
とあまりにも独自の言い回しでこの日への気合いを口にすると、その鈴鹿が打つキメに合わせて米田がネクタイを外して「fuckin' so tired」へ。その瞬間の色気はやはりWiennersの玉屋が言うように誰にも真似できないものであるのだが、その米田はハンドマイクであることによって最もこの会場で自由に踊りまくっている。その姿がより観客をも解放して踊りまくらせてくれるのであるし、サビでコーラス的な声が若干聞こえてくるのも声が出せるライブだからこそである。
口には出さなかったが曲間なしですぐに「Afro」へ繋がっていくというのは宣言せずとも「本気ダンスタイム」に突入していたということかもしれないが、
「手を叩け」
のフレーズに合わせて観客が手を叩くと、西田はギターを弾きながら高くジャンプしまくるのだが、千葉LOOKは天井が低いだけに頭が天井にぶつかりそうなくらいになっている。それは運動能力が決して高そうには見えない西田もこのダンスサウンドに乗ることによって跳躍力が引き出されているかのようですらある。それくらいのジャンプ力の高さにはテンションが上がっているのがわかるし、こちらもテンションが上がらざるを得ない。
さらに曲間なく「Movin'」の複雑なイントロのドラムパターンに突入していくというのはこのバンドならではのライブのアレンジであり、セトリが変わればそうした部分も変わっていくという見どころのひとつであるが、鈴鹿のドラムを叩きながらのラップは何度見ても本当に見事だと思う。それは音源ではあのCreepy NutsのR-指定がラップしているのをドラムを叩きながらラップできるからである。
そんなアッパーに踊りまくる流れの中で、イントロで流れる同期音含めて雰囲気が変わるのは「armadillo」収録の「Wall Flower」であり、踊りまくるというよりは米田の歌を全面に押し出した、浸るというタイプの曲であるのだが、その米田はメガネを外して歌っている。その理由は
「あまりに汗をかきすぎていて、メガネがすべり落ちてくる(笑)」
というものだったのだが、それくらいに暑い空間になっていたということである。だからこそこの曲が良いアクセントになっていたし、「armadillo」はミニアルバムというサイズでありながらも収録曲のサウンドが実に幅広いなと思う。
そんなメガネを外した米田は観客が声を出せることになったことで客席から「フゥ〜!」という声が上がりまくることに
「君らコロナ前までそんな「フゥ〜!」って言ってなかったやん(笑)」
とツッコミを入れるのだが、
鈴鹿「やっぱり声を出せるって言っても口を大きく開けて叫ぶようにしたらマスクを貫通するかもしれないやん!?だから口をあんまり開けなくてもいい「フゥ〜!」になってるんやろ!?」
と鋭いんだか鋭くないんだかよくわからない指摘をし、色々とMCが展開しまくる中で結果的に鈴鹿がバンドにおけるすき焼きでいうところの「お麩」的な存在だということになり「おフゥ〜!」という声すら飛ぶようになる。ちょうど前日にTHE BAWDIESのメンバーが喋りまくるアコースティックライブを見たばかりなだけに、夜ダンもそうしたコンセプトでライブをやって欲しいとも思う。演奏5割、トーク5割くらいの。それくらいにMCが毎回本当に面白い。
そんな爆笑MCを挟んでからの後半はハッピーなダンスチューンの「LOVE CONNECTION」から始まるのであるが、サビではマイケルとともに観客もコーラスで声を上げる。それはやはり声を出すことができるからこその選曲だったのかもしれないが、西田だけではなく米田も天井に頭がぶつかりそうなくらいに飛び跳ねまくっている。長身であるだけによりそう思うし、それによってステージが見えづらいこの千葉LOOKでも顔や姿がしっかり見える。
そこから一変するように同期のサウンドも取り入れた「GIVE & TAKE」は音源で聴く分にはクールなダンスロックという感じなのだが、去年のツアーでも証明していたように、今や最も熱狂を生み出せる曲へと超絶進化している。そこまで高速なリズムではないからこそメンバーだけではなく観客もそのリズムに合わせて飛び跳ねまくることができるのであるが、こうした曲がライブでのキラーチューンに成長しているのを見るとこれからも夜ダンはそうして変化しながらも新たな名曲を作り続けていくんだろうなと思えるし、それは演奏の、特に鈴鹿とマイケルのリズムの強さがあるからこそである。
そして最後に演奏されたのは西田の性急なギターリフと手数が実に多い鈴鹿のリズムが、しかし難解さは一切なくキャッチーなダンスロックとして鳴らされる「TAKE MY HAND」なのだが、この曲の間奏では西田がステージ中央まで出てきて体を思いっきり逸らしながらギターソロを弾きまくると、米田が後ろからその西田を抱きしめるように支えるという場面も。暗めの赤い照明がさらにそのシーンにピッタリだったのだが、こんな色気というかエロスを演奏から発せられるバンドが他にいるだろうかと思うくらいだ。それは計算してやっていることではないかもしれないが、だからこそ夜ダンのライブは本当に絵になる。我を忘れて踊りまくりたくもなるけれど、ステージ上の光景からも目を離したくないと思えるのである。
アンコールでは鈴鹿が
「アジアン・カン」「THE 」
と観客に「フゥ〜!」と言わせるための単語を言いながら登場すると米田は
「改めて一緒に対バンさせてもらってライブを見ると、Wiennersみたいな曲は絶対作れないですね。本当に凄いバンドだと思ってます。
でもサウンドは全然違いますけど、この2組は「踊らせる」っていうことに関しては突出してるっていうか、そこに通じるものがあると思ってます」
とこの2組がこうして対バンをした理由を口にすると、
西田「Wiennersが「うさぎが月にいる」っていう話をしてはったでしょ。あの話を聞いて私は村上春樹の小説を思い出しましてね。そのタイトルが「ダンスダンスダンス」って言うんですよ」
と見事すぎるくらいにまとめてみせると、米田が客席に向かって前のめりになりながら「WHERE?」を演奏し始める。その曲中には
「せっかくだから面白いことをしようかな!」
と言うとWiennersの玉屋とアサミをステージに招く。玉屋はここぞとばかりに自身の首に巻いたネクタイを放り投げるというやりたかったパフォーマンスをすると、鈴鹿→玉屋→アサミ→米田の順番で
「WHERE IS」
のコール&レスポンスを行う。それができるのはもちろん我々観客が声を出して返すことができるから。それができるからこそのコラボが本当に楽しくもあり、こういうことがまたできるようになってきたんだな…と感慨深くもあった。
しかしその感慨を振り解くようにしてマイケルが
「踊れ千葉LOOK!」
と叫ぶと最後のサビでは玉屋とアサミも加わってこの日最高の熱狂を生み出していた。どちらも好きなバンドであるが、それがもっと好きになる。それこそがこの「カントーロード」というイベントなのである。
去年のツアーの東京のリキッドルームにも行ったし、その前には中野サンプラザのワンマンも行った。コロナ禍になってからも夜ダンのライブは何回も見ているけれど、その中でこの日が最も楽しかった。それは我々が声を出せるという要素はもちろんであるが、そうして我々が発する声によってバンドがさらに楽しく、さらに熱い演奏をするようになる。それを見て我々もさらに楽しくなって…という幸福な循環がこの日の千葉LOOKにはあったからだ。夜ダンは間違いなく我々観客の発するパワーを自分たちのものに変換することができるバンドだ。
コロナ禍ならではの制限された楽しみ方の中でも戦えるバンドであるということを配信ライブからずっと示したけれど、きっとこれからもっと楽しくなれる。もっと夜ダンのライブが凄くなっていくのを見ることができる。そこに我々が力を与えて、力を与えてもらうことができる。そんな確信が得られた、こんなに楽しくていいのかと思うような週始めの月曜日だった。
1.Crazy Dancer
2.SHINY
3.審美眼
4.fuckin' so tired
5.Afro
6.Movin'
7.Wall Flower
8.LOVE CONNECTION
9.GIVE & TAKE
10.TAKE MY HAND
encore
11.WHERE? w/ 玉屋2060%,アサミサエ
この「カントーロード」は自分はこれまでにも何度か参加しているが、昔は千葉県民でありながらも、千葉LOOKがツアーのスケジュールに入っていてもスルーすることも多かった。ステージは見えづらいし、そもそも人気のバンドだとチケットが当たらないし…と。
でもコロナ禍になってから、この千葉LOOKが客席に椅子を置いて30人くらいしか入れられない状況から再スタートして、ようやくこうしてフルキャパで観客が声を出せるところまできたのを見てきた。そのどんな時もサイトウ店長が店先に立って接客してくれたことも。
そんなライブハウスがすぐに行ける場所にあるということがどれだけ幸せなことなのかということを思い知った3年間でもあった。だからこれからは行ける限りはこうやって千葉LOOKに足を運びたいと思っているし、千葉に来てくれたWiennersと夜ダンに心からありがとうと思っている。
「ハンブレッダーズ方向性会議」 ハンブレッダーズ / 四星球 @Zepp Haneda 1/25 ホーム
THE BAWDIES 「THE HAPPY NEW YEAR ACOUSTIC SESSION 2023 〜話して、笑って、歌って、福来て!〜」 @東京キネマ倶楽部 1/22