ずっと真夜中でいいのに。 ROAD GAME「テクノプア」〜叢雲のつるぎ〜 @代々木第一体育館 1/15
- 2023/01/16
- 18:52
前日に続いてのずっと真夜中でいいのに。の代々木第一体育館での2日目。すでに公式からは2日間でライブの内容は変わらないことがアナウンスされているが、それでもやはり前日のライブを観ると、今1番凄まじいライブを体感させてくれるのがずとまよであるということを感じさせてくれるし、そう思えるライブを1本でも多く見ておきたいのである。
この日は開演前になるにつれて雨が降ってくるという生憎の天気であり、物販で販売しているカードゲームの対戦や交換などを楽しんでいる人たちは大丈夫だったんだろうかとも思う中、前日よりは少し早い18時過ぎに場内が暗転すると、前日同様に小山豊の三味線からスタート。というか基本的に前日と流れ自体は変わらない(というかこれは変えようがない)ので、この日は変わった部分や新たに発見したり感じた部分をメインにレポをしたいと思う。
(前日のレポはこちら
http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1152.html?sp)
編成も前日と同じメンバーが揃うと、最後にステージ2階部分の球体を突き破るようにして現れたACAねのツインテールの髪型や出で立ちも前日と同じ状態で「サターン」をギターを弾きながら歌い始め、曲中に
「ずっと真夜中でいいのに。です」
と自己紹介し、この日もアウトロの踊りまくるセッション的な演奏は最初には演奏されないのであるが、ACAねの声が前日よりもはるかに伸びやかであり、本人もキツそうではないことが聴いていてすぐにわかる。普通なら2daysのライブは2日目の方が喉を消耗していてキツくなって…というものになりがちなものだが、やはりそうした普通というものはあらゆる意味で規格外というか、我々の予想や想像のはるか上をいくずとまよには当てはまらないものなのだろうと思う。
その声の調子の良さによるものなのか、あるいはこの代々木体育館での声の響かせ方を前日で会得したのか、前日は歌入り部分で上手く入れなかった「MILABO」もこの日はもちろん入り部分から絶好調で、だからかステージ中央と客席2階スタンドのステージ寄り部分で曲タイトルに合わせて輝くミラーボールの光がより一層輝いているように感じられる。それはACAねの歌が、バンドの鳴らす音が人間の生命力のように力強く光り輝いているからであろう。
MCも台本があるために前日と変わることはないのであるが、そのMCを挟んでの「猫リセット」では間奏部分のゲーム音楽的なセッションの演奏で、前日は「秒針を噛む」の中で行われていたしゃもじ拍子を
「アリーナだけ」「スタンドだけ」
とこの曲中でも行っていた。それはずとまよのパフォーマンスとライブが内容は同じだとしても細部まで全てが同じものになるのではなくて、その日のテンションなどで変わっていくということを示している。それはこれまでのライブでもACAねが示してきたことでもある。
なので「秒針を噛む」のしゃもじ拍子は
「だんだん強く」「前から後ろへ」「後ろから前へ」
という難易度が高いものが残ったのであるが、それを易々とやってのけてみせる観客の一体感としゃもじの輝きは素晴らしいものがある。ちなみに初めて来た人は「なぜしゃもじ?」と思うかもしれないが、それはACAねいわく
「どんなに辛いことがあった日でも、ご飯をよそわなくてはいけないのです」
ということらしい。
そんな「秒針を噛む」では最後にACAねが思いっきり叫ぶようにして声を張り上げるように歌う場面が見れたというのも、この日のACAねの歌声の調子が絶好調だったということの証明である。まだライブ中盤だというのにその張り上げる歌声には心が震わされてしまうし、前日も本当に素晴らしいライブだったけれど、その「素晴らしさ」や「楽しさ」をずとまよは常に更新しようとしていることがハッキリとわかるのである。
間奏に緩急をつけた新たなライブアレンジが施され、それによってフル尺での演奏がさらにロックさを感じさせる「勘冴えて悔しいわ」から一転してACAねがステージ2階部分でグロッケンを叩き、観客とバンドメンバーたちがリズムに合わせてしゃもじを叩く「雲丹と栗」ではマスコットキャラクターのうにぐり君も扉の中から客席を覗いていると、ベースの二家本亮介が中2階のホーン隊3人がいるスペースで寝転んでいると、その二家本をホーン隊の3人がしゃもじで叩きまくるというドSな場面が展開されている。戻ろうとする二家本をホーン隊が引っ張ったりする姿も含めて、このバンドのライブが素晴らしい理由がただ演奏が上手いメンバーが揃っているだけではなくて、そのメンバーたちが全員で楽しもうとして演奏し、パフォーマンスし、ライブを作っているからだということがよくわかる。ずとまよがライブを始めた初期にはタンクトップ姿で強面的な出で立ちだった(この日もリーゼントという髪型だけど)二家本がこんなにいじられるメンバーであるということがわかるのも、このメンバーたちで何本ものツアーを重ねてきたことによって生まれた関係性の結果である。そうした姿を見ていると、ずっと真夜中でいいのに。というのはACAねのソロプロジェクトではあるけれども、このメンバー全員によるバンドであるということもよくわかる。
その「このメンバー全員でずっと真夜中でいいのに。というバンド」というのはオープニングで格闘ゲームの配信をしていた、ミートたけしこと川村竜(ウッドベース)と、同じくオープニングで旅芸人のようにトランクを広げてあらゆるパーカッションを連打していた神谷洵平(ドラム)というアコースティックバンドのメンバーもそうであり、この日もACAねは電飾のついた改造自転車に乗ってアリーナ席最後方のアコースティックステージに移動すると、そのステージ上の椅子に座って「ばかじゃないのに」を歌い始めるというアコースティックコーナーへ。
アコースティックコーナーの編成も流れも前日と変わらないのであるが、やはりACAねの歌声が前日より伸びやかであるということが編成的によくわかる。「夜中のキスミ」の演奏前に中に缶の入ったバズーカをぶっ放し(野球場でよくTシャツなどを丸めて込めて客席に飛ばすというのをよくやっているが、あんな感じ)、会場で販売されていたおにぎりを食べ、曲の解説をして、曲中にはメンバーのソロ回しが行われるというのも前日と変わらないものであるのだが、やはりただでさえ河村吉宏と伊吹文裕という凄腕ドラマーが本隊バンドにいるというのに、神谷洵平までもがアコースティックとオープニングのためだけに参加しているというのはとんでもないことである。このライブの後に開催されるファンクラブツアーでは最小限の編成で廻ることが発表されているが、それはこの編成のような形になるのかもしれないし、どんな曲がどんなアレンジで演奏されるのかというのも実に楽しみなところである。
メインステージで本隊バンドが演奏を開始する中でACAねたちがやはり自転車で戻っていくというのも前日通りであったのだが、その戻っている時間にACAねが
「座って待ってて」
と言ったことによって、スタンド席では前日以上に「暗く黒く」を座ったまま聴いている人がたくさんいたというのは前日と違うところだ。それでもやはり1コーラス終わった後に一気にバンドの演奏が速く激しくなると、それまで座っていた人たちも一斉に立ち上がっていく。そりゃあこの曲のアウトロのカオスの極み的な演奏を座ったままで聴いているというのは無理な話である。
ACAねの声が絶好調であることによって、後半に並ぶキラーチューン「脳裏上のクラッカー」「ミラーチューン」というあたりではACAねの張り上げる歌詞にならないボーカルが次々に我々の心に突き刺さることによって揺らされていく。「脳裏上〜」では最後のサビでスタッフがクラッカーをACAねに向かってぶっ放し、ACAねの足がクラッカーに塗れてしまうのであるが、それでも前日は揺らいでいたボーカルが揺らぐことはこの日はないというのは慣れゆえだろうか。そのクラッカーに塗れた足元がスクリーンに映し出される様子も実に凛としたように感じられる。
そのACAねのボーカルの凄まじさは「ミラーチューン」でも健在であり、前日よりハートをあしらった銃を持ちながら歌う姿も実に軽やかに見えるし、タイトル通りに「MILABO」のように場内をミラーボールの輝きが照らす中、
「染まらないよ心臓 揺るがないんだ」
という締めのフレーズを思いっきり伸ばした後にタイトルフレーズを口にするというあたりは、ただ歌が上手い、声量があるというだけではなくて、そこに自身の感情をありったけ込めて歌うことができるからこそ我々に響くということを表している。そしてそれは誰にでもできることじゃなくて、歌を選び、歌に選ばれた存在の人にしかできない。自分の中ではその存在は2人いて、1人目のCoccoが歌の精霊だとするならば、2人目のACAねはやはり歌の天使と言っていい存在だろうか。それくらいに普通の人間の歌唱とはあまりに違いすぎるのだ。
そのACAねの歌唱が極まるのは、この日も村山☆潤の調子外れのピアニカのイントロがゲーム音楽セッション的に展開していく「正義」。ステージ2階中央で小山が指揮者のように手を振っているのも面白いが、そんな曲でACAねはステージ前を歩きながら歌うと、前日は「叢雲ー!」だった最後のサビ前の叫びがこの日は曲タイトルに合わせて
「ジャスティスー!」
に変わっている。声が前日よりも調子が良いのも「明日もあるから」という計算的な守りに入ってのことなんかではなくて、ただ本能的に声を出したら昨日より良く出た、あるいはこの会場での響かせ方がわかったというものだろう。だからこそその無垢さすら感じる叫びを聴いてゾクッとするというか、ブワッと込み上げてくるものがあるのだ。キーボードに重なるストリングス、テレビドラムも含めたらトリプルドラムというとんでもない音の厚さを誇るバンドの演奏であるが、それをも凌駕するというか、そのサウンド以上にしっかり響くのがACAねの歌声である。この日のこの曲のアウトロで張り上げた声も本当に凄まじく、そして素晴らしかった。
そしてここで前日同様に再び台本を取り出してこのツアーの趣旨を説明してから演奏された「残機」のコンセプトが見事にこのツアーのコンセプトと合致し、ステージからは炎とスモーク、さらには爆発まで起こるという演出総動員っぷりなのだが、
「ただ穏やかでいたい
誰にも迷惑かけたくはないと思うが
戦わないと 撫でてもらえない
単純明快でした」
というフレーズなどには「チェンソーマン」のエンディングテーマとしての、デンジからマキマへの心情を描いているように感じられる。ずとまよの歌詞は果てしなくシュールに感じるものも多々あるが、それでもしっかりそこにはこの曲では剣を手にしながら歌うACAなりの感情を封じ込めていると思う。この日のこの曲も確かにそれを感じさせるものだった。
アンコールではステージ2階部分に登場したACAねが、スクリーンに映る映像がモノクロに加工された中で歌う「胸の煙」から始まるというのは前日通りであるが、この日はそこにさらに「過眠」を加えるという前日とは違う流れに。バンドサウンドの分厚さで踊らせるのとは対照的な、ACAねの歌を前面に押し出したタイプのストリングスバラードと言える曲であるが、もちろん流れは全く同じであっても前日とは違うライブになっているということはここまででしっかり示しているのだが、それでもこうして曲を追加したのはこうして2日間どちらも来てくれている人への感謝のサプライズ的な意味合いが強いだろう。それが我々がさらに楽しくなれるということをACAねもメンバーもスタッフもきっとわかっているだろうから。
そしてこの日もバーチャルYouTuberのMori Calliopeがテレビドラムの前に積まれたブラウン管テレビの中に登場してリアルタイムでACAねのボーカルにキレ味鋭いラップを挟んでいく「綺羅キラー」ではACAねは前日以上にステージ前を歩き回り、Mori Calliopeが映るテレビを撫でるようにしていたのが印象的だ。その姿からはACAねがMori Calliopeのことを本当に可愛がっていて、一緒に歌えていることを幸せに思っていることが伝わってくる。
そのMori Calliopeも引き続き参加し、ステージにはマスコットキャラクターのうにぐり君も現れての「あいつら全員同窓会」では何故かメンバー全員の背中に風船が取り付けられ(もちろん飛べるようになるわけではないのだが)、
「お世話になります」
のフレーズで演奏が止まってステージ上にいる全員で観客に一礼する。本当にお世話になっているというか、こんなに楽しい思いをさせてもらっているのはこちら側なのにという思いでいっぱいであるが、それはきっとメンバー全員がこうしてずとまよのライブで演奏するのが楽しくて仕方がないという気持ちだからだろう。
間奏ではこの日もメンバー紹介としてソロ回し的な演奏が繰り広げられるのであるが、扇風琴で参加するACAねは演奏する時に背中の風船を取り外し、演奏が終わると再び取り付けるというのがまた面白いし、何よりもこの曲のサビでの全員で一緒に飛び上がる時のメンバーも含めた一体感は、メンバー紹介で我々もクラップ担当として紹介されるくらいに、全員でこのシャイな空騒ぎを作り上げていると感じられるものだった。Open Reel Ensembleの吉田悠と吉田匡が肩を組んで踊っていたように、ずとまよの音楽が好きで、ライブを観たら踊り狂ってしまうような人たちといつかそうやって楽しめる日が来たら最高だなと思っていた。そしてこの日の絶好調さを示すようにACAねはこの曲の最後にも思いっきり声を張り上げていた。それはやっぱり本能というか、やろうと思ってやったというよりは、体が反応して声が出ていた、そうしたくなるくらいの空間が広がっていたからだと思っている。
そんな演奏を終えてステージからメンバーが去っていくと(河村や二家本が前転したり転がりながらステージから去っていくのがやんちゃ過ぎて面白い)、佐々木"コジロー"貴之(ギター)が1人だけステージに残っているのがこの日はよく見える。そのコジローがカッティングギターを鳴らし始めるとメンバー全員がステージに戻ってきて、ACAねが
「やりたがりだなぁ」
と言ってこの日も「サターン」のアウトロのセッションが展開されていく。良く見ると河村と伊吹がそれぞれ自分のではないドラムセットを叩いていたりと、メンバー全員がより自由に楽しみ、踊りまくっているのだが、ACAねはさらに
「手空きのスタッフさんたちも!」
とスタッフまでをもステージに呼び込み、その全員がしゃもじを持って踊りまくっている。その光景を見ていて、自分は楽器が全くできないが、もうステージ上で一緒に踊るだけでもいいからこのステージに参加してみたいなと思った。だってこんなに凄いメンバーたちがこんなに笑顔で踊りまくっている姿なんてほかに見れることがないから。それくらいに楽しくて仕方ないということだし、参加できたら本当に楽しいだろうなと思う。でもメンバー紹介で我々観客が紹介されたように、きっと我々もこの最高のダンスフロアの一員だとも思う。
「人生は他人の評価を気にしないで、自分の経験値を上げていくゲーム」
とACAねはMCで言っていたが、こんなに楽しいことばかりで経験値を上げていくことができたら、自分の人生は真のエンディングを迎えることができるんじゃないかと思う。
「叢雲閉幕」
という書道が掲げられ、ACAねがこの日も電車ボックスの中に入って帰っていくエンディングを見て、そんなことを思っていた。
暗転後には前日同様にFCツアーの開催と、カメラが多数入っていたこの日のライブが3月にACAねの解説つきでAbemaで放送されることが発表される。(ワールドカップの解説といい、Abemaはやはり攻めている)
さらには待望のフルアルバムが今年の春にリリースされることも告知される。そのアルバムがリリースされたらまたツアーでこのメンバーたちに会える。この日の観客退場時にもジャズを演奏していたアコースティックバンドのメンバーが観客の姿を見て手を振っていたり、最後にステージで踊っていたスタッフたちも含めて、もうずとまよのライブに関わる全ての人が大好きになっている。だからこそ、またこうやってみんなで集まって、シャイな空騒ぎをしたいと思うのだ。
年間160本くらいライブを見ていると、「今1番ライブが凄いのは誰ですか?」的なことを聞かれることがたまにある。そういう時は
「ボーカリストだったら、ずっと真夜中でいいのに。のACAね」
と答えるようにしているのだが、ボーカルだけではなくライブ全方位的に「ずっと真夜中でいいのに。」と答えるようになるだろうなと改めて思った2日間だった。人生がこんなに楽しい経験値上げばかりのゲームだったらいいのにと思うくらいに。
1.サターン
2.MILABO
3.居眠り遠征隊
4.お勉強しといてよ
5.猫リセット
6.勘ぐれい
7.秒針を噛む
8.勘冴えて悔しいわ
9.雲丹と栗
10.ばかじゃないのに Acoustic ver.
11.Dear Mr「F」 Acoustic ver.
12.夜中のキスミ Acoustic ver.
13.暗く黒く
14.脳裏上のクラッカー
15.ミラーチューン
16.正義
17.残機
encore
18.胸の煙
19.過眠
20.綺羅キラー
21.あいつら全員同窓会
encore2
22.サターン reprise
この日は開演前になるにつれて雨が降ってくるという生憎の天気であり、物販で販売しているカードゲームの対戦や交換などを楽しんでいる人たちは大丈夫だったんだろうかとも思う中、前日よりは少し早い18時過ぎに場内が暗転すると、前日同様に小山豊の三味線からスタート。というか基本的に前日と流れ自体は変わらない(というかこれは変えようがない)ので、この日は変わった部分や新たに発見したり感じた部分をメインにレポをしたいと思う。
(前日のレポはこちら
http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-1152.html?sp)
編成も前日と同じメンバーが揃うと、最後にステージ2階部分の球体を突き破るようにして現れたACAねのツインテールの髪型や出で立ちも前日と同じ状態で「サターン」をギターを弾きながら歌い始め、曲中に
「ずっと真夜中でいいのに。です」
と自己紹介し、この日もアウトロの踊りまくるセッション的な演奏は最初には演奏されないのであるが、ACAねの声が前日よりもはるかに伸びやかであり、本人もキツそうではないことが聴いていてすぐにわかる。普通なら2daysのライブは2日目の方が喉を消耗していてキツくなって…というものになりがちなものだが、やはりそうした普通というものはあらゆる意味で規格外というか、我々の予想や想像のはるか上をいくずとまよには当てはまらないものなのだろうと思う。
その声の調子の良さによるものなのか、あるいはこの代々木体育館での声の響かせ方を前日で会得したのか、前日は歌入り部分で上手く入れなかった「MILABO」もこの日はもちろん入り部分から絶好調で、だからかステージ中央と客席2階スタンドのステージ寄り部分で曲タイトルに合わせて輝くミラーボールの光がより一層輝いているように感じられる。それはACAねの歌が、バンドの鳴らす音が人間の生命力のように力強く光り輝いているからであろう。
MCも台本があるために前日と変わることはないのであるが、そのMCを挟んでの「猫リセット」では間奏部分のゲーム音楽的なセッションの演奏で、前日は「秒針を噛む」の中で行われていたしゃもじ拍子を
「アリーナだけ」「スタンドだけ」
とこの曲中でも行っていた。それはずとまよのパフォーマンスとライブが内容は同じだとしても細部まで全てが同じものになるのではなくて、その日のテンションなどで変わっていくということを示している。それはこれまでのライブでもACAねが示してきたことでもある。
なので「秒針を噛む」のしゃもじ拍子は
「だんだん強く」「前から後ろへ」「後ろから前へ」
という難易度が高いものが残ったのであるが、それを易々とやってのけてみせる観客の一体感としゃもじの輝きは素晴らしいものがある。ちなみに初めて来た人は「なぜしゃもじ?」と思うかもしれないが、それはACAねいわく
「どんなに辛いことがあった日でも、ご飯をよそわなくてはいけないのです」
ということらしい。
そんな「秒針を噛む」では最後にACAねが思いっきり叫ぶようにして声を張り上げるように歌う場面が見れたというのも、この日のACAねの歌声の調子が絶好調だったということの証明である。まだライブ中盤だというのにその張り上げる歌声には心が震わされてしまうし、前日も本当に素晴らしいライブだったけれど、その「素晴らしさ」や「楽しさ」をずとまよは常に更新しようとしていることがハッキリとわかるのである。
間奏に緩急をつけた新たなライブアレンジが施され、それによってフル尺での演奏がさらにロックさを感じさせる「勘冴えて悔しいわ」から一転してACAねがステージ2階部分でグロッケンを叩き、観客とバンドメンバーたちがリズムに合わせてしゃもじを叩く「雲丹と栗」ではマスコットキャラクターのうにぐり君も扉の中から客席を覗いていると、ベースの二家本亮介が中2階のホーン隊3人がいるスペースで寝転んでいると、その二家本をホーン隊の3人がしゃもじで叩きまくるというドSな場面が展開されている。戻ろうとする二家本をホーン隊が引っ張ったりする姿も含めて、このバンドのライブが素晴らしい理由がただ演奏が上手いメンバーが揃っているだけではなくて、そのメンバーたちが全員で楽しもうとして演奏し、パフォーマンスし、ライブを作っているからだということがよくわかる。ずとまよがライブを始めた初期にはタンクトップ姿で強面的な出で立ちだった(この日もリーゼントという髪型だけど)二家本がこんなにいじられるメンバーであるということがわかるのも、このメンバーたちで何本ものツアーを重ねてきたことによって生まれた関係性の結果である。そうした姿を見ていると、ずっと真夜中でいいのに。というのはACAねのソロプロジェクトではあるけれども、このメンバー全員によるバンドであるということもよくわかる。
その「このメンバー全員でずっと真夜中でいいのに。というバンド」というのはオープニングで格闘ゲームの配信をしていた、ミートたけしこと川村竜(ウッドベース)と、同じくオープニングで旅芸人のようにトランクを広げてあらゆるパーカッションを連打していた神谷洵平(ドラム)というアコースティックバンドのメンバーもそうであり、この日もACAねは電飾のついた改造自転車に乗ってアリーナ席最後方のアコースティックステージに移動すると、そのステージ上の椅子に座って「ばかじゃないのに」を歌い始めるというアコースティックコーナーへ。
アコースティックコーナーの編成も流れも前日と変わらないのであるが、やはりACAねの歌声が前日より伸びやかであるということが編成的によくわかる。「夜中のキスミ」の演奏前に中に缶の入ったバズーカをぶっ放し(野球場でよくTシャツなどを丸めて込めて客席に飛ばすというのをよくやっているが、あんな感じ)、会場で販売されていたおにぎりを食べ、曲の解説をして、曲中にはメンバーのソロ回しが行われるというのも前日と変わらないものであるのだが、やはりただでさえ河村吉宏と伊吹文裕という凄腕ドラマーが本隊バンドにいるというのに、神谷洵平までもがアコースティックとオープニングのためだけに参加しているというのはとんでもないことである。このライブの後に開催されるファンクラブツアーでは最小限の編成で廻ることが発表されているが、それはこの編成のような形になるのかもしれないし、どんな曲がどんなアレンジで演奏されるのかというのも実に楽しみなところである。
メインステージで本隊バンドが演奏を開始する中でACAねたちがやはり自転車で戻っていくというのも前日通りであったのだが、その戻っている時間にACAねが
「座って待ってて」
と言ったことによって、スタンド席では前日以上に「暗く黒く」を座ったまま聴いている人がたくさんいたというのは前日と違うところだ。それでもやはり1コーラス終わった後に一気にバンドの演奏が速く激しくなると、それまで座っていた人たちも一斉に立ち上がっていく。そりゃあこの曲のアウトロのカオスの極み的な演奏を座ったままで聴いているというのは無理な話である。
ACAねの声が絶好調であることによって、後半に並ぶキラーチューン「脳裏上のクラッカー」「ミラーチューン」というあたりではACAねの張り上げる歌詞にならないボーカルが次々に我々の心に突き刺さることによって揺らされていく。「脳裏上〜」では最後のサビでスタッフがクラッカーをACAねに向かってぶっ放し、ACAねの足がクラッカーに塗れてしまうのであるが、それでも前日は揺らいでいたボーカルが揺らぐことはこの日はないというのは慣れゆえだろうか。そのクラッカーに塗れた足元がスクリーンに映し出される様子も実に凛としたように感じられる。
そのACAねのボーカルの凄まじさは「ミラーチューン」でも健在であり、前日よりハートをあしらった銃を持ちながら歌う姿も実に軽やかに見えるし、タイトル通りに「MILABO」のように場内をミラーボールの輝きが照らす中、
「染まらないよ心臓 揺るがないんだ」
という締めのフレーズを思いっきり伸ばした後にタイトルフレーズを口にするというあたりは、ただ歌が上手い、声量があるというだけではなくて、そこに自身の感情をありったけ込めて歌うことができるからこそ我々に響くということを表している。そしてそれは誰にでもできることじゃなくて、歌を選び、歌に選ばれた存在の人にしかできない。自分の中ではその存在は2人いて、1人目のCoccoが歌の精霊だとするならば、2人目のACAねはやはり歌の天使と言っていい存在だろうか。それくらいに普通の人間の歌唱とはあまりに違いすぎるのだ。
そのACAねの歌唱が極まるのは、この日も村山☆潤の調子外れのピアニカのイントロがゲーム音楽セッション的に展開していく「正義」。ステージ2階中央で小山が指揮者のように手を振っているのも面白いが、そんな曲でACAねはステージ前を歩きながら歌うと、前日は「叢雲ー!」だった最後のサビ前の叫びがこの日は曲タイトルに合わせて
「ジャスティスー!」
に変わっている。声が前日よりも調子が良いのも「明日もあるから」という計算的な守りに入ってのことなんかではなくて、ただ本能的に声を出したら昨日より良く出た、あるいはこの会場での響かせ方がわかったというものだろう。だからこそその無垢さすら感じる叫びを聴いてゾクッとするというか、ブワッと込み上げてくるものがあるのだ。キーボードに重なるストリングス、テレビドラムも含めたらトリプルドラムというとんでもない音の厚さを誇るバンドの演奏であるが、それをも凌駕するというか、そのサウンド以上にしっかり響くのがACAねの歌声である。この日のこの曲のアウトロで張り上げた声も本当に凄まじく、そして素晴らしかった。
そしてここで前日同様に再び台本を取り出してこのツアーの趣旨を説明してから演奏された「残機」のコンセプトが見事にこのツアーのコンセプトと合致し、ステージからは炎とスモーク、さらには爆発まで起こるという演出総動員っぷりなのだが、
「ただ穏やかでいたい
誰にも迷惑かけたくはないと思うが
戦わないと 撫でてもらえない
単純明快でした」
というフレーズなどには「チェンソーマン」のエンディングテーマとしての、デンジからマキマへの心情を描いているように感じられる。ずとまよの歌詞は果てしなくシュールに感じるものも多々あるが、それでもしっかりそこにはこの曲では剣を手にしながら歌うACAなりの感情を封じ込めていると思う。この日のこの曲も確かにそれを感じさせるものだった。
アンコールではステージ2階部分に登場したACAねが、スクリーンに映る映像がモノクロに加工された中で歌う「胸の煙」から始まるというのは前日通りであるが、この日はそこにさらに「過眠」を加えるという前日とは違う流れに。バンドサウンドの分厚さで踊らせるのとは対照的な、ACAねの歌を前面に押し出したタイプのストリングスバラードと言える曲であるが、もちろん流れは全く同じであっても前日とは違うライブになっているということはここまででしっかり示しているのだが、それでもこうして曲を追加したのはこうして2日間どちらも来てくれている人への感謝のサプライズ的な意味合いが強いだろう。それが我々がさらに楽しくなれるということをACAねもメンバーもスタッフもきっとわかっているだろうから。
そしてこの日もバーチャルYouTuberのMori Calliopeがテレビドラムの前に積まれたブラウン管テレビの中に登場してリアルタイムでACAねのボーカルにキレ味鋭いラップを挟んでいく「綺羅キラー」ではACAねは前日以上にステージ前を歩き回り、Mori Calliopeが映るテレビを撫でるようにしていたのが印象的だ。その姿からはACAねがMori Calliopeのことを本当に可愛がっていて、一緒に歌えていることを幸せに思っていることが伝わってくる。
そのMori Calliopeも引き続き参加し、ステージにはマスコットキャラクターのうにぐり君も現れての「あいつら全員同窓会」では何故かメンバー全員の背中に風船が取り付けられ(もちろん飛べるようになるわけではないのだが)、
「お世話になります」
のフレーズで演奏が止まってステージ上にいる全員で観客に一礼する。本当にお世話になっているというか、こんなに楽しい思いをさせてもらっているのはこちら側なのにという思いでいっぱいであるが、それはきっとメンバー全員がこうしてずとまよのライブで演奏するのが楽しくて仕方がないという気持ちだからだろう。
間奏ではこの日もメンバー紹介としてソロ回し的な演奏が繰り広げられるのであるが、扇風琴で参加するACAねは演奏する時に背中の風船を取り外し、演奏が終わると再び取り付けるというのがまた面白いし、何よりもこの曲のサビでの全員で一緒に飛び上がる時のメンバーも含めた一体感は、メンバー紹介で我々もクラップ担当として紹介されるくらいに、全員でこのシャイな空騒ぎを作り上げていると感じられるものだった。Open Reel Ensembleの吉田悠と吉田匡が肩を組んで踊っていたように、ずとまよの音楽が好きで、ライブを観たら踊り狂ってしまうような人たちといつかそうやって楽しめる日が来たら最高だなと思っていた。そしてこの日の絶好調さを示すようにACAねはこの曲の最後にも思いっきり声を張り上げていた。それはやっぱり本能というか、やろうと思ってやったというよりは、体が反応して声が出ていた、そうしたくなるくらいの空間が広がっていたからだと思っている。
そんな演奏を終えてステージからメンバーが去っていくと(河村や二家本が前転したり転がりながらステージから去っていくのがやんちゃ過ぎて面白い)、佐々木"コジロー"貴之(ギター)が1人だけステージに残っているのがこの日はよく見える。そのコジローがカッティングギターを鳴らし始めるとメンバー全員がステージに戻ってきて、ACAねが
「やりたがりだなぁ」
と言ってこの日も「サターン」のアウトロのセッションが展開されていく。良く見ると河村と伊吹がそれぞれ自分のではないドラムセットを叩いていたりと、メンバー全員がより自由に楽しみ、踊りまくっているのだが、ACAねはさらに
「手空きのスタッフさんたちも!」
とスタッフまでをもステージに呼び込み、その全員がしゃもじを持って踊りまくっている。その光景を見ていて、自分は楽器が全くできないが、もうステージ上で一緒に踊るだけでもいいからこのステージに参加してみたいなと思った。だってこんなに凄いメンバーたちがこんなに笑顔で踊りまくっている姿なんてほかに見れることがないから。それくらいに楽しくて仕方ないということだし、参加できたら本当に楽しいだろうなと思う。でもメンバー紹介で我々観客が紹介されたように、きっと我々もこの最高のダンスフロアの一員だとも思う。
「人生は他人の評価を気にしないで、自分の経験値を上げていくゲーム」
とACAねはMCで言っていたが、こんなに楽しいことばかりで経験値を上げていくことができたら、自分の人生は真のエンディングを迎えることができるんじゃないかと思う。
「叢雲閉幕」
という書道が掲げられ、ACAねがこの日も電車ボックスの中に入って帰っていくエンディングを見て、そんなことを思っていた。
暗転後には前日同様にFCツアーの開催と、カメラが多数入っていたこの日のライブが3月にACAねの解説つきでAbemaで放送されることが発表される。(ワールドカップの解説といい、Abemaはやはり攻めている)
さらには待望のフルアルバムが今年の春にリリースされることも告知される。そのアルバムがリリースされたらまたツアーでこのメンバーたちに会える。この日の観客退場時にもジャズを演奏していたアコースティックバンドのメンバーが観客の姿を見て手を振っていたり、最後にステージで踊っていたスタッフたちも含めて、もうずとまよのライブに関わる全ての人が大好きになっている。だからこそ、またこうやってみんなで集まって、シャイな空騒ぎをしたいと思うのだ。
年間160本くらいライブを見ていると、「今1番ライブが凄いのは誰ですか?」的なことを聞かれることがたまにある。そういう時は
「ボーカリストだったら、ずっと真夜中でいいのに。のACAね」
と答えるようにしているのだが、ボーカルだけではなくライブ全方位的に「ずっと真夜中でいいのに。」と答えるようになるだろうなと改めて思った2日間だった。人生がこんなに楽しい経験値上げばかりのゲームだったらいいのにと思うくらいに。
1.サターン
2.MILABO
3.居眠り遠征隊
4.お勉強しといてよ
5.猫リセット
6.勘ぐれい
7.秒針を噛む
8.勘冴えて悔しいわ
9.雲丹と栗
10.ばかじゃないのに Acoustic ver.
11.Dear Mr「F」 Acoustic ver.
12.夜中のキスミ Acoustic ver.
13.暗く黒く
14.脳裏上のクラッカー
15.ミラーチューン
16.正義
17.残機
encore
18.胸の煙
19.過眠
20.綺羅キラー
21.あいつら全員同窓会
encore2
22.サターン reprise
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