COUNTDOWN JAPAN 22/23 day3 @幕張メッセ 12/30
- 2023/01/02
- 21:25
3日目。日を経るごとに参加者の平均年齢が上がっているようで、渋谷陽一による朝礼でのヤクルトの村上が56号ホームランを打った時の映像にも大きな拍手が起こっていた。
11:10〜 フレデリック [EARTH STAGE]
昨年の1ステージ開催時にも出演してこのステージに立ったフレデリック。もはやこのEARTH STAGEを代表する存在のバンドだと言っていいだろう。
ダンサブルなサウンドのSEでメンバー4人が登場すると、配信リリースされたばかりの最新曲「MYSTERY JOURNEY」からスタートする。数々のダンスアンセムを持ちながらもこうしていきなり最新曲で勝負するというあたりにこのバンドの進化し続けていくという姿勢が現れている。
「退屈がくたばる歌をあなたに届けるまで」
というフレーズはこれまでにも数々のキラーフレーズを生み出してきたこのバンドの最新形であるし、それはコロナ禍の中だからこそ生まれたものなのかもしれないとも思う。
「俺たちのCOUNTDOWN JAPAN、40分一本勝負、フレデリックはじめます!」
と三原健司(ボーカル&ギター)が挨拶すると、高橋武がドラムを連打し、ベースをうねらせまくる三原康司と赤頭隆児(ギター)がそのドラムセットの周りに集まってグルーヴを生み出す「KITAKU BEATS」というライブでおなじみの曲が鳴らされると、中盤で早くもキラーチューン「オンリーワンダー」が演奏される。前の方ではMVのダンスを踊っている人が見えるのもこのバンドのライブならではの光景であるし、そのダンスを踊れなかったり知らなかったりしても、みんな違ってみんな優勝と思うくらいに楽しいし、高橋が思いっきり手数を増やしているのもこのバンドならではのライブ、楽曲の進化の形である。
「人間っていうのは終わりの方の記憶の方が強く残る。みんながこの後にいろんなアーティストのライブ観ると思うけど、その後に海浜幕張で京葉線に乗る時に「なんかフレデリックが残ってるな」って少しでも思わせられたら俺達の勝ちです」
と健司がこのバンドならではのトップバッターとしての役割を口にすると、このフェスの短い時間の中でもダンサブルに踊らせまくるだけではなくてじっくりとそのサウンドに浸らせる「人魚のはなし」が演奏される。深く真っ青な照明に照らされるステージがまるで水中で人魚になったメンバーが舞っているのを見ているかのようだ。
そして2022年に開催された代々木体育館でのワンマンで数々のキラーチューンやアンセムたちを超えるような最強のアンセムへと進化したのが「ジャンキー」であり、スクリーンにはMVのダンスを踊る2人のうさぎの被り物ダンサーも映し出されることによって楽しさをさらに引き上げてくれる。やはり今のこの曲の力はフレデリックのこれまでの曲をも更新していることを感じさせるのであるが、
「2014年にこのフェスに初出演した時には新曲として演奏したこの曲がEARTH STAGEで鳴らされる日が来たらどうなるんやろうと思ってた。Mステにも紅白にもFIRST TAKEにも出てない曲だけど、この曲で踊ってくれ!」
と言って演奏されたのはもちろん「オドループ」であり、ステージ横の通路から駆け出すようにして中央の台の上に立ってギターソロを弾きまくる赤頭の姿はもちろん、観客の手拍子だけが響く瞬間の感動もこのステージだからこそ映えるものだ。その悲願はすでに過去に叶っているものでもあるのだが、それでもこのステージでこの曲を演奏するというのはこの曲がこのステージにふさわしいものであることを毎年確かめようとしているところもあるんじゃないかと思う。
そんな「オドループ」はこれまでにも何度となくフェスの最後を担ってきただけに、これでライブは終わりなのかと思ったのだが、
「普通のバンドならこれで終わりなんでしょうけど、フレデリックは違います。最後に新曲を演奏して終わります」
と言って演奏されたのはまだリリースされていない新曲「スパークルダンサー」。そのフレデリックのアンセムの系譜に連なるダンスチューンはこのバンドが今でもこれまでの代表曲だけに頼ることなく自分たちを更新しようとし続けていることがわかる。だから「ジャンキー」のような曲が生まれて、またこの曲が生まれている。そのストイックさこそがこのバンドが「オドループ」のバンドだけでは終わらなかった理由だ。
その「オドループ」はロシアにまで広がってバズっただけに今の世界の情勢にメンバーも苦悩していたが、このバンドの音楽にはそうやって国境を越えて届く力がある。それこそが世界を平和にしてくれるものになるんじゃないかとすら思うくらいに、フレデリックの音楽とライブは我々を幸せにしてくれる。
1.MYSTERY JOURNEY
2.KITAKU BEATS
3.オンリーワンダー
4.人魚のはなし
5.ジャンキー
6.オドループ
7.スパークルダンサー
12:15〜 KANA-BOON [EARTH STAGE]
フレデリック同様に昨年の1ステージ制でのこのフェスにも出演していたKANA-BOON。今年は正式にベースの遠藤昌巳がメンバーになってはじめての出演となる。
メンバーがステージに現れると、谷口鮪(ボーカル&ギター)の髪型がアフロと言っていいくらいのボリュームあるものになっているのが目を引かざるを得ないのであるが、その鮪がのっこらやたらとテンション高く、
「みんなー!ゆらゆらする!?」
と観客に問いかけると、いきなりの「ないものねだり」からスタート。古賀隼斗(ギター)も間奏では前に出てきてギターソロを鳴らすのであるが、その後のコロナ禍前はコール&レスポンスをしていた箇所では小泉貴裕(ドラム)もリズムを止めて観客の手拍子のみが響き渡る。それがこのEARTH STAGEの規模で見れるのはやはり圧巻であるし、KANA-BOONにはこのメインステージに立ち続けて欲しいと思う。
「飛ばして行くぞー!」
とさらに「フルドライブ」で踊らせまくると、遠藤もガンガン前に出てきてうねりまくるベースでグルーヴを生み出すのはKANA-BOONなりのラウドロックと言えるような爆音ロックサウンドの「ディストラクションビートミュージック」で、軽いダンスロックだと見られることも多いKANA-BOONのバンドサウンドの力強さを感じさせてくれるものである。それはもちろん遠藤の存在によって生まれたものでもある。
曲間では古賀が思わず鮪に
「その髪型はどうしたん?(笑)」
と問いかけると、
「音楽も髪型もボリュームがあった方がいいやろ(笑)」
とわかるようなわからないような答えを返すと、バンド史上の名曲「シルエット」が演奏される。個人的な話であるが、ジャンプアプリで全話順次公開中のNARUTOを読んでいるだけにこの曲を締める
「木の葉が飛んでゆく」
というフレーズがより一層沁みる。NARUTOを読んでなくてもこの曲の名曲っぷりはわかるけれど、読んでいると本当にKANA-BOONがNARUTOが大好きで、ナルトが成長していくのと同じように成長してきたんだなということがわかる。
そんなNARUTOの続きの物語のテーマ曲である最新シングルの「きらりらり」が続けて演奏されるというのもまたより沁みるような曲順であるが、それは
「大事にしたいものを持って 大人になれたよ」
という「シルエット」に連なる歌詞を大人になった今のKANA-BOONが歌っているからだ。ナルトも大人になって物語は次の世代へと受け継がれた。KANA-BOONの姿を見て育ったバンドもたくさんいるだろうけれど、それでもまだまだこのバンドはバトンを次の世代に渡すことなく自分たちが持ったままで走り続けている。
そんな「きらりらり」とアルバム「Honey & Darling」をリリースし、ツアーも行ってきた2022年を鮪は
「生きてて良かったと思えた年だった」
と口にした。復活したばかりの去年はまだそこまでは言えてなかったからこそ、その言葉にこもる実感に少し胸がギュッとなる感覚もあるのだが、そんなバンドは2023年には10周年としてすでに野音でのワンマンライブを行うことも発表しているし、その後にもたくさんの予定を組んでいるはず。つまりは「生きてて良かった」と思えた2022年を上回るような2023年が待っているということである。
そして鮪が
「KANA-BOONのロックバンドさを感じてくれー!」
と叫んでから演奏された「まっさら」のスピード感とパワー溢れるサウンド、さらにはメンバーのコーラスがKANA-BOONがカッコいいロックバンドであることを鳴らしている音と姿で示してくれると、最後にはフジファブリックの金澤ダイスケがプロデュースを手掛けたからこそのカラフルなキーボードの同期のサウンドが乗る「スターマーカー」がこのバンドが放つ生命力の強さをそのまま音にしているかのようにして鳴らされる。サビでは観客が腕を左右に振る姿も間奏での古賀が先導する手拍子も、ステージ上も客席もこの場にいる全員が生きているということを実感させてくれる。2022年に何回もライブを見たが、今こんなにも演奏する姿と音から生命力を感じさせてくれるバンドはいない。その力がそのまま見ている我々が生きていく力になっていく。2023年はさらにそれを強く感じさせてくれる年になるはずだが、最後に
「次はTシャツ屋さんでーす!」
と後輩を紹介する鮪は本当に頼もしいミュージシャンになったんだなと感じさせてくれる。
リハ.Torch of Liberty
リハ.ネリネ
1.ないものねだり
2.フルドライブ
3.ディストラクションビートミュージック
4.シルエット
5.きらりらり
6.まっさら
7.スターマーカー
13:20〜 ヤバイTシャツ屋さん [EARTH STAGE]
そうして先輩の鮪に紹介してもらったにもかかわらず、
こやま(ボーカル&ギター)「おでんつんつんつんつーん!」
しばた(ベース&ボーカル)「今2022年やぞ!」
とサウンドチェックの段階からふざけまくりながら曲を連発するらしさを全開にしているヤバイTシャツ屋さん。こちらも昨年に続いての出演であり、2022年は異例の「ぶどうかんツアー」も完遂したバンドである。
おなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEで3人が登場すると、いきなりの「あつまれ!パーティーピーポー」でスタートし、観客は踊りまくりながらも声は出さないという楽しみ方で、それはもりもと(ドラム)のツービートのドラムが疾走する「無線LANばり便利」では髪がだいぶ伸びた感じがするこやま(ボーカル&ギター)と、歌唱も演奏も安定感抜群のしばたありぼぼ(ベース&ボーカル)のツインボーカルも映える。一度座らせてからすぐに立ち上がらせるというパフォーマンスもありながら、前方優先エリアで聴いているとヤバTは改めてめちゃくちゃ音がデカいなと思う。
メンバーが観客に手拍子を促す「癒着☆NIGHT」ではやはりこやまがいつまで経っても「新曲」と紹介しながらも間奏では颯爽とステージ前に出てきてギターソロを弾く。ヤバTのサウンドは完全にパンク・メロコアバンドのそれであるが、それでもめちゃくちゃにしたりたくてもルールの範囲内で上手いことやろうというヤバTと観客のライブの作り方である。
しばた「KANA-BOONの古賀さんに似てるって言われまーす!」
こやま「それ言うんなら俺ー!」
というやり取りから、こやまが浜松の観光大使を務めているもりもとに対し、懐かしの波田陽区のギター侍ネタで
「でもあんた本当は栃木出身ですから!残念!」
と斬るも、もりもとは本当に浜松出身であり、かつ同じエンタの神様ネタである犬井ヒロシの
「自由だー!」
をしばたが叫ぶも世代的にあまり通じなくて微妙な空気になってしまう。
そんな自由過ぎるMCから最新シングル曲「ちらばれ!サマーピーポー」を冬フェスでも演奏すると、こやまの曲紹介も3月にリリースされるアルバムのものに変化している。今からアルバムが実に楽しみになる。
「Universal Serial Bus」で再びもりもとのツービートが疾駆すると、サビでの「yeah!!!!!」のフレーズで観客がメンバーに合わせてピースサインをするのもおなじみになった「NO MONEY DANCE」へと続く。他の年末のフェスでは観客が声を出せるものもあっただけに、この曲のコーラスをみんなで歌えたのだろうかと思うと羨ましくなる。まだ自分はこの曲で声を出したことがないからだ。でもそれは2023年には必ず叶うものになると信じている。
するとここでこやまが急に
「ヤバイTシャツ屋さんは紅白歌合戦に出るっていう目標があるんやけど、こんなにうるさい曲で紅白なんて出れんよなと思って、ヤバイTシャツ屋さんはこれから変わります!」
と言うとこやまもしばたも楽器を置いてハンドマイクで歌い始めたのは「dabscription」なのだが、もうBuyer Client名義で顔を隠しながら歌うのではなくて、普通にヤバTとして演奏するんかいというツッコミどころはありながらも、もりもとが自身のドラムセットのシンバルをターンテーブルのように擦るのが地味に面白い。最後にはやはり楽器を持ってパンク的なサウンドになるだけにイメチェンはしないというかできないということでもあるのだが。
なので終盤もテンポが速くなりまくるパンクな「ヤバみ」から始まり、イントロのこやまのギターサウンドを聴くだけでなんだか込み上げるものを感じるようにコロナ禍でなってきた「ハッピーウエディング前ソング」で声は出せなくても「キッス!キッス!」「入籍!入籍!」のフレーズをメンバーが歌うとより楽しさを引き上げてくれる。
そんなヤバTが2022年の最後に演奏したのは「かわE」であり、曲中には「やんけ!」の合唱を声を出さずにやり切り、それでも最高に楽しい時間を作ると、持ち時間がなかったのかメンバーは走ってステージを去っていった。そのスタミナは本当に驚異的であるし、やはりカッコいい。2022年はヤバTでしか作ることができない日本武道館も見れた。他にもいろんなフェスやイベントなんかでもライブを見た。そんな1年を超えるような1年が来ることが間違いないのは、毎作名盤でしかないアルバムを作り続けてきたヤバTだからだ。
リハ.喜志駅周辺なんもない
リハ.ウェイウェイ大学生
リハ.Hurray
リハ.ZORORI ROCK!!!
1.あつまれ!パーティーピーポー
2.無線LANばり便利
3.癒着☆NIGHT
4.ちらばれ!サマーピーポー
5.Universal Serial Bus
6.NO MONEY DANCE
7.dabscription
8.ヤバみ
9.ハッピーウエディング前ソング
10.かわE
14:15〜 amazarashi [GALAXY STAGE]
前回出演時はCOSMO STAGEであったが、今回はGALAXY STAGEに帰還。フェスに出るようなタイプでは全然ないが、それでもこのフェスには毎年のように出演してきたamazarashiである。
GALAXY STAGEの大きなステージを覆うように紗幕がかけられた中で時間になるとすぐさまその紗幕に歌詞が映し出されて演奏が始まる。どうやら時間前からすでにメンバーは紗幕の裏にスタンバイしていたようだが、秋田ひろむ(ボーカル&ギター)がポエトリーリーディングのように歌詞を口にしていく「感情道路七号線」からスタートし、歌詞とともにタイトル通りに炎が燃え盛るような映像も映し出される「火種」と続くのは2022年リリースのアルバム「七号線ロストボーイズ」の収録順通りであり、そのリリースツアーとも同様であるが、やはりこうして歌詞が映し出されていくとそれを情報として捉えるだけに実に客席の集中力が高いことがよくわかる。
「COUNTDOWN JAPAN 22/23、GALAXY STAGE!青森から来ました、amazarashiです!」
と秋田が実に喉の調子が良さそうな大きな声で挨拶すると、アニメ主題歌になったことによって少年と少女の映像も映し出される「境界線」でバンドの演奏がさらにロックに研ぎ澄まされていく。紗幕越しに見えるメンバーの演奏する姿も実に激しいものになっているのがよくわかる。
そんな中で秋田が育ち、今も住んでいる青森であろう街の映像が次々と映し出されるのは秋田がその青森でバンドを始めた時からの心情や経験を綴った「アオモリオルタナティブ」。フェスでこの曲が演奏されるというのは実に意外な感じもしたのであるが、激しいロックサウンドではなくて身を揺らすような落ち着いたサウンドは短い持ち時間の中でも良いアクセントになっていると言えるだろう。
そんなサウンドが再び力強くなっていくのは、歌詞とともに人形が爆破されるような映像が映し出されることでタイトル通りに「命」について想いを馳せざるを得ない「命にふさわしい」であり、この映像を見るといつもシングル盤に封入されていた、殺戮を目的で生み出された機械が自身の存在意義を問う物語のことを思い出す。2023年からはまたそうしたコンセプチュアルな物語を描くライブも見れたらなと思う。
そんな空気を切り裂くように青空の映像が映し出され、豊川真奈美(キーボード)によるタイトルフレーズのコーラスも美しく響く「空に歌えば」では秋田のボーカルもバンドの演奏も極まることによって客席でたくさんの腕が上がる。その光景にゾクっとしたのはそれは基本的にホール以上の会場で着席したまま観覧するというamazarashiのワンマンのスタイルでは絶対に見ることができないものだからだ。(かつては何回かだけライブハウスでワンマンをやり、そこで腕が上がったりすることもあったが)
でもやっぱりamazarashiの音楽やライブにはそうして体でダイレクトに反応したくなる衝動が確かに宿っていて、もしかしたら普段のワンマンでも本当はそうやって楽しみたいと思っている人もいるんじゃないかと思った。毎回ツアーに欠かさず参加してきた身であっても、そのフェスでしか見ることができない光景に確かに心が震えていた。
するとこの日はMCをしないのかな?とも思っていた中で秋田は
「amazarashiはこういうスタイルでライブをやってるからなかなかフェスに出れないんだけど、このフェスはずっと出してくれてる。トップバッターから始まって、だいぶ良い感じの時間に出ることができるようになった。10年後くらいにはトリができるかな」
とこのフェスへの想いを口にした。かつてはそれなりにいろんなフェスに出たりしたこと(なんなら野外フェスであるライジングサンにも出ていた)もあったけれど、今となっては本当にこのフェスだけ。でもこのフェスだけは毎年amazarashiを呼んでくれるから、1年の最後にこうやってamazarashiのライブを見ることができている。自分がずっと通い続けてきた大好きなフェスを秋田も大切な存在に思ってくれている。それがわかったことが本当に嬉しくて涙が出そうになってしまったし、何よりも秋田が10年後までもこうやってこのフェスに出ようとしている。amazarashiをずっと続けようとしている。それが伝わってくるのも本当に嬉しかったのだ。
そんな言葉の後に演奏されたのはかつての日本武道館ワンマンで曲の歌詞の全貌が明らかになった時の凄まじいインパクトが今でも忘れられない「独白」。その歌詞が次々に紗幕に映し出されていき、それを歌う秋田の歌唱にもこれ以上ないくらいに感情がこもる。
「今 再び私たちの手の中に」
と秋田が声を張り上げるリフレインは、amazarashiが出演することができるこのフェスが再び私たちの手の中に戻ってきた、またそれを我々が掴み取ることができたというようにも感じられた。演奏が終わって紗幕にamazarashiのロゴが映し出された時に上がった歓声や拍手の大きさももしかしたらワンマンの時以上のものだったかもしれない。
そんなフェスでしか見れないamazarashiのライブをずっと見ていたいから、10年後もさらにその先にもこのフェスに出演し続けていて欲しいのだ。
1.感情道路七号線
2.火種
3.境界線
4.アオモリオルタナティブ
5.命にふさわしい
6.空に歌えば
7.独白
15:20〜 9mm Parabellum Bullet [GALAXY STAGE]
初出演以降は欠かさずにこのフェスに出演し続けてきたこのフェスの番人バンドの一つである9mmも3年ぶりにこのフェスに帰還。かつてはEARTH STAGEのトリを務めたことがあるくらいの存在である。
おなじみのSEでサポートなしの4人編成でメンバーがステージに現れると、ステージ背面のスクリーンにはバンドのロゴが浮かび上がり、菅原卓郎(ボーカル&ギター)の
「9mm Parabellum Bulletです」
という挨拶から2022年にリリースされた、今の9mmの「Revolutionary」とでもいうような最新アルバム「TIGHTROPE」の1曲目に収録されている「Hourglass」からスタートし、キャップを被った滝善充(ギター)がギターをぶん回しながら演奏する姿も、髪型がかなりさっぱりした中村和彦(ベース)が低い位置のマイクにシャウトしまくる姿も、かみじょうちひろ(ドラム)のツーバスの連打も、9mmでしかない爆裂っぷりが早くも1曲目から、しかも最新アルバムの曲で展開されている。
その「TIGHTROPE」の収録順通りに演奏された「One More Time」はそのダフトパンクなタイトルからもわかるように今の9mmとしてのダンスロックチューンで我々を踊らせてくれるのであるが、滝はギターだけならずコーラスの声も実に大きく、つまりは見ていてすぐに絶好調であることがよくわかる。
その「One More Time」が今の9mmのダンスロックチューンであるならば、これまでの9mmのそれであることに間違いない「Black Market Blues」が続けて演奏され、卓郎は
「COUNTDOWN JAPANにたどり着いたぜー!」
とおなじみの歌詞を変えて歌い、曲中の観客の手拍子もスクリーンに客席が映し出されると後ろの方までびっしり入った人が手拍子をしているのがよくわかるし、その人数での手拍子だからこそ音が実に大きい。
さらには完全にライブ定番曲になった「名もなきヒーロー」での激しいロックサウンドに合わせて振り上げられる観客の腕の動きも実に激しくなるのであるが、この曲を年末に聴くと来年もいろんな場所で9mmに会えたらいいなと思わせてくれる。
すると卓郎が
「今年まではマイナスをゼロに戻すみたいな感じだったと思うけど、来年こそはゼロからプラスにしていく年にしましょう。
というのも我々は来年で19周年です。普通のバンドなら19周年を祝うということはしないんだろうけど、このバンド名なんで来年はいろんなことをやろうと思ってます!」
と来年のアニバーサリーイヤー(と言っていいのか)への期待を高まらせてくれると、
「次は夏の曲をやろうと思うんだが、完全に冬の中でやっても仕方ないんで、今からここは夏のROCK IN JAPAN FES.の会場になります。1,2、ハイ、なりました」
と無理矢理この会場を夏のロッキンに変えて演奏されたのはもちろんそのロッキンに出演した時にも演奏されていた「All We Need Is Summer Day」であり、バンドの熱すぎる演奏は確かに少しだけ夏のように思えなくもない。特に滝の季節感0の出で立ちは。当然9mmは2023年の夏にもロッキンに出演するはずなので、その時にはこの曲のコーラス部分を観客全員で合唱することができているようにと思う。それこそが卓郎の言っていたプラスになっていくことの1つだと思っているから。
そしてイントロから激しい演奏が繰り広げられ、キメでは滝と和彦が楽器を抱えたままジャンプする「The Revolutionary」を久しぶりに幕張メッセクラスの広い会場で聴くと、卓郎の
「染めたのさー!」
などの歌唱の見事さも含めて、ライブハウスもいいけど9mmは広いステージが似合うバンドだなと改めて思う。アウトロでメンバーに合わせて観客が飛び跳ねまくる光景も含めて、曲の持っているスケールがやはり実に大きなバンドだと思う。
そしてその全ての楽器によって発せられる轟音サウンドによって観客が頭を振りまくる「新しい光」ではステージ上の主に滝と和彦のアクションもさらに激しくなり、それはラストの「Punishment」でさらに極まる。というかやっぱり年末にはこの曲の耳をつんざくような爆音と轟音が鳴っていてくれないと物足りなく感じるのだ。だからなんだかライブが終わった後に「やっぱりCDJといえばこれだよな!」と思ったし、去り際に観客に手を振る和彦とかみじょうが実に良い笑顔だったのは自分と同じように思っていたんじゃないかと思う。
今年はまだ19/20までの5ステージ制ではない3ステージ制なだけに出演者を多くするために1組あたりの持ち時間が短くなっている。でも9mmはかつてEARTH STAGEに出演していた時は平気で15曲くらいやるようなバンドだった。今ではその「フェスなのにワンマンみたいな曲数」のバンドはハルカミライになった感もあるが、今でも9mmはやっぱりEARTHで見たい。このステージにはもっとそこに近い若いバンドもたくさんいるかもしれないけれど、この日の満員っぷりを見たらそれを夢見ずにはいられなくなってしまう。
リハ.(teenage) disaster
1.Hourglass
2.One More Time
3.Black Market Blues
4.名もなきヒーロー
5.All We Need Is Summer Day
6.The Revolutionary
7.新しい光
8.Punishment
16:25〜 ACIDMAN [GALAXY STAGE]
フェス立ち上げ時はEARTH STAGEに出演し続け、このGALAXY STAGEになってからも毎年ずっと出演し続けてきたACIDMAN。もしかしたらもはや出演回数としては歴代トップクラスなんじゃないかというくらいにこのフェスの守護神であり続けているバンドである。
おなじみのSE「最後の国」で起こる手拍子に迎えられてメンバーがステージに現れると、大木伸夫(ボーカル&ギター)が
「COUNTDOWN JAPAN、熱く行くぞ!」
と気合いを入れるようにして最新アルバム「INNOCENCE」の「夜のために」からスタートし、そのスリーピースロックバンドの進化し続けるダイナミズムを存分に感じさせてくれると、星がきらめくような照明の効果とともに演奏され、浦山一悟(ドラム)の刻むリズムが観客を踊らせる「FREE STAR」では間奏で大木がステージ前に出てきて観客を煽るようにギターを弾く。佐藤雅俊(ベース)はなんならもうこの辺りでトレードマークのキャップを落としていたような感じすらする。
さらにはアニメ主題歌として若い人にもバンドの存在を知らしめた「Rebirth」のサビの解放感によって観客が飛び跳ねまくると、このフェスでは昔からずっと演奏され続けてきた「赤橙」と新旧のキラーチューンが続いて演奏されていく。そのキラーチューンのサウンドがそれぞれ全く異なるものになっているあたりがACIDMANというバンドの幅の広さを示していると言えるだろう。
「我々、11月にデビュー20周年を記念してSAIという主催フェスを、それはそれは豪華なアーティストたちに出てもらって開催したんですね。来てくれた人いますか?(上がる手を見て)センキュー。行きたかったけど行けなかったっていう人も、センキュー。何それ?っていう初めてACIDMANを見てくれてる人も、センキュー」
とやはりどこか大木の言い方はコミカルさを感じさせる中で、その大木が観客にスマホライトを掲げてもらおうとするも、最初はあんまり掲げる人がおらず再度お願いして客席でスマホライトが光る中で演奏されたのはこれもまた壮大なバラード曲にしてACIDMANの代表曲の一つである「ALMA」。そのスマホライトの明かりは生命の輝きであると同時に、本当に後ろの方までたくさんの観客がいることを実感させてくれるものになっていたのだ。
そして最後に演奏されたのはもちろんそのACIDMANのスリーピースギターロックバンドサウンドの極みと言える「ある証明」。大木のボーカルも激しく体を揺さぶりながらベースを弾く佐藤と一心不乱にドラムを叩く一悟のリズムもこれこそがスリーピースバンドの最高峰だなと思わせてくれるのだが、間奏では大木が
「今日はちょっとだけなら声が出せるみたいだから、周りの人の迷惑にならないくらいの声でみんなの声を聞かせてくれー!」
と叫ぶのであるが、言葉の分量が多すぎて明らかに本来ならすでに叫んでいるくらいの部分でもまだ叫べていなかったのであるが、それでもミスった感じを一切出さずにすぐさま叫んでいた大木はさすがだった。今までは
「みんなが声出せない分、俺が代わりに思いっきり叫ぶから!」
というものだったのが少しずつでも変化してきている。2023年にはかつてのように何にも気にすることなく大木と一緒にこの曲で叫ぶことができていますように。
ACIDMANは近年はずっとGALAXY STAGEに出ているが、かつてこのステージのトリとして出演した際にはEARTH STAGEのトリの人気バンドに動員を完全に持っていかれて、こんなに広いステージなのに前数列しか人がいないくらいに寂しい集客だった時すらあった。
でもこの日は本当に久しぶりにGALAXYを満員にしているACIDMANのライブが見れた。そうなったのはやはりSAIを開催して、それを観に来た他のバンドのファンの人たちがACIDMANのカッコ良さ、凄さに改めて気づいたからだろう。そういう意味でもSAIが持つ意義は実に大きいだけに、せめて5年に1回くらいのアニバーサリーの周期でまた開催して欲しいと思う。
1.夜のために
2.FREE STAR
3.Rebirth
4.赤橙
5.ALMA
6.ある証明
17:40〜 マキシマム ザ ホルモン [EARTH STAGE]
コロナ禍になって以降は出れるライブは全部出るとばかりに春も夏も冬もロッキンオンのフェスに出まくってきた、マキシマム ザ ホルモン。1ステージ開催だった昨年に続いて今年もこのフェスに出演。アニメ「チェンソーマン」のタイアップで再び大きな注目を集めるようになっているが、同じく「チェンソーマン」のエンディングを担当した女王蜂とタイムテーブルが被っているのは納得がいかないところである。
おなじみの賑やかなSEでメンバーが登場すると、マキシマムザ亮君(ボーカル&ギター)がギターを弾きながらブルーハーツの「月の爆撃機」を歌う「鬱くしきOP 〜月の爆撃機〜」からスタート。ということはもちろん続くのは「鬱くしき人々のうた」で、このバンドのメロディのキャッチーさを存分に感じさせてくれるオープニングである。
上ちゃん(ベース)のバキバキのスラップとダイスケはん(ボーカル)のデスボイスがホルモンの音の重さと強さを感じさせてくれる「「F」」ではもちろんフリーザが空を飛ぶ映像も映し出され、フリーザのナレーションの後には亮君のギターソロも鳴り響く。
かと思えばナヲ(ドラム&ボーカル)が曲中の自身のボーカルパートで前に出てきて歌う姿がどこかキラキラした加工が施された「maximum the hormone II 〜これからの麺カタコッテリの話をしよう〜」の最後のダイスケはんのセリフパートに亮君が「知らんがな!」とツッコミを入れると、ナヲがこの前にこのステージに出演していたDISH//の曲を使って
「猫になった君は私です!」
と挨拶すると、ダイスケはんは
「うっせぇうっせぇうっせぇわ!」
と、このステージのトリを務めるAdoの曲を使うというおなじみの共演者いじりが冴えまくる。ちなみにAdoの正体を探るべくケータリングエリアで「お前がAdoか!?」と探し回っていたという。
「アジカンの皆さん、時間押すと思うんで持ち時間リライトしてください!」
と言うのはそもそも喋りすぎているからであるが、それでも後半はシュールな映像が中学生ならではの無敵感を感じさせる「中二ザビーム」という意外な曲を演奏すると、「ロック番狂わせ」ではこのバンドの演奏技術の高さと音の強さが極まっていく。
今のホルモンはフェスに出るたびにかなりガラッとセトリを変えているのであるが、それでもメロディもサウンドもポップかつキャッチーな「糞ブレイキン脳ブレイキン・リリィー」という選曲には驚いてしまう。そこまで昔の曲という感じがしないのはあんまりアルバムが出ないバンドだからかもしれないが、もう15年も前にリリースされている曲であることにも驚く。
何故かダイスケはんが追悼の一環なのかアントニオ猪木のモノマネをするとスクリーンにアントニオ猪木の写真が浮かび上がり、まるで猪木の魂がダイスケはんに憑依するかのようにして演奏された「メス豚のケツにビンタ (キックも)」も含めて、何をどう考えたらこんなセトリになるんだろうかと思ってしまう。もちろんこうした普段フェスではほとんどやらない曲が聴けるのは嬉しいことであるが。
そしてやっぱり時間がなくて説明なしの一発勝負となった恋のおまじないの後に最後に演奏されたのはやはり「恋のスペルマ」で、スクリーンには何度見ても見入ってしまうような反則というくらいの映像も映し出される。2023年はフェスでこの曲が演奏された時にはMVの「フェスの楽しみ方講座」的な楽しみ方が戻ってきたらいいなと思うし、きっと近年のフェスで毎回のようにこの曲を演奏しているのはそういう思いをバンド側も持っているはずだと思っている。
それにしても1曲目がめちゃくちゃ短いとはいえ、まさかMCがやたら長いホルモンが他のこのステージに出演したアーティストたちより多い曲数を演奏しているとは、というところに驚いてしまっていた。
1.鬱くしきOP 〜月の爆撃機〜
2.鬱くしき人々のうた
3.「F」
4.maximum the hormone II 〜これからの麺カタコッテリの話をしよう〜
5.中二ザビーム
6.ロック番狂わせ
7.糞ブレイキン脳ブレイキン・リリィー
8.メス豚のケツにビンタ (キックも)
9.恋のスペルマ
18:45〜 ASIAN KUNG-FU GENERATION [EARTH STAGE]
毎年のようにこのフェスのEARTH STAGEのトリを担ってきた、アジカン。しかしながら今年はトリ前という位置での出演となる。アニメ「ぼっち・ざ・ろっく」で「転がる岩、君に朝が降る」がフィーチャーされたタイミングでもある。
2022年にリリースされた「プラネットフォークス」のツアーと同様にアチコ(Ropes)とGeorge(Mop of Head)のサポートメンバー2人を加えた6人編成でステージに登場。Georgeは前日のsumikaに続いての出演である。
伊地知潔のドラムを皮切りにメンバーが演奏を練り上げていく長尺のイントロによる「Re:Re:」からスタートし、ゴッチ(ボーカル&ギター)も楽しそうに体を揺らしながらギターを弾いて歌うと、早くも喜多建介のギターが唸りをあげる「リライト」へ。間奏では山田貴洋のベースがダブ的なサウンドの空気を作る中で、
「25%くらいまでなら声を出してもいいそうなんで、それくらいでコール&レスポンス。これ以上俺を炎上させないでくれっていう気持ちもあるけれど(笑)」
と言ってメンバーの演奏のボリュームも極限まで落とし、ゴッチも何故か小声になってコール&レスポンスが敢行されると、その後に一気に演奏のボリュームが上がることによってむしろ良いコントラストを描くようになっている。小声だったからこそ最後のサビで爆発力を感じられるというか。
ゴッチがイントロのギターを鳴らした瞬間に歓声が起こるのはもちろん「ソラニン」で、むしろワンマンではやらない時も多々あるのだけれど、そうした代表曲をフェスでしっかり演奏するというあたりは長く日本のロックシーンを牽引し続けてきて、何度となくトリを務めてきたバンドならではである。Georgeのキーボードもアチコのコーラスもこの曲では欠かせないものだということがよくわかる。
するとそのGeorgeとアチコを含めたメンバー紹介をしてから、「プラネットフォークス」の「You To You」を演奏すると、この曲ではゴッチのボーカルにアチコのコーラスが絡む中で喜多のハイトーンボイスも冴え渡り、Georgeがリズムに合わせて腕を動かすのも印象的だ。ツアーでは時によってサポートメンバーは変わったりしてきたが、この編成こそが今のアジカンと言っていいようなものである。
そして最新シングル曲「出町柳パラレルユニバース」がパワーポップ的なサウンドで演奏されて2023年に来るべき作品への期待を高まらせてくれると、伊地知の四つ打ちのリズムによって始まった「君という花」では観客が飛び跳ねたりしてそれぞれ思い思いに踊りまくる。その光景はゴッチの
「誰のマネとかもしなくていいから、好きに楽しんで」
という言葉を実践しているかのようであるのだが、ゴッチは近年おなじみのアウトロで「大洋航路」のフレーズを重ねるというパフォーマンスも。ある意味ではそうしたことができるのが今のアジカンの自由さ、風通しの良さと言えるのかもしれない。
そしてゴッチがギターを置いてハンドマイクとなり、ステージ左右に伸びる通路まで歩いて行って歌う最後の曲は「Be Alright」。ゴッチが近づいてくるにつれて横の方にいる観客が手を振るのであるが、その楽しそうな姿はやはりどんな時代であってもアジカンがいればBe Alrightと思わせてくれる。演奏終了後に6人で肩を組んで観客に頭を下げる姿を、これからも何度でも見たいと思った。
アジカンはTVで使われたからといってすぐにセトリにその曲を入れたりするようなバンドではないので、「転がる岩〜」はまぁ演奏されなくても仕方ないとも思っていた。でもこのフェスの06/07で新曲として演奏されて初めてあの曲を聴いた時のことは今でもよく覚えている。それだけにまた翌年以降にあの曲をこのフェスで聴けたらなと思っている。
1.Re:Re:
2.リライト
3.ソラニン
4.You To You
5.出町柳パラレルユニバース
6.君という花 〜 大洋航路
7.Be Alright
19:50〜 Ado [EARTH STAGE]
ONE PIECE FILM REDでのウタの歌唱曲による「ウタの歌」が社会現象と言っていいくらいの状況を生み出した、Ado。フェス初出演であるだけに間違いなく今回のフェスの目玉と言っていい存在である。
Adoは一切顔出しをしていないだけに開演前には双眼鏡すらも使用禁止という厳しい撮影などに関するアナウンスが繰り返し流れると、開演時間になって音が鳴った瞬間にステージにかかっていた紗幕が落ちる。そこにはバンドメンバーがいてすでに演奏をしており、中央には紗幕で作られた箱状の中に確かにAdoがいることがわかる。そのシルエットから予想よりも髪が長く、身長も高いような感じがするのだが、いきなりウタの歌の中でVaundyが手掛けた「逆光」を歌い始めると、姿こそはうっすらとしか見えないが、その声量の凄まじさに一気に会場が持っていかれる。本当にあの声で、あんな風に歌えるんだ…ということがわかる。
しかも2曲目で早くも「うっせぇわ」が演奏されるとスクリーンには歌詞が次々に映し出され、その歌詞に思いっきりAdoの感情を込めた歌唱が乗る。バンドメンバーの演奏も含めて実にロックとしか言いようのないライブであるが、この曲をこの位置に持ってくることができるのもアルバム「狂言」以降にさらなるキラーチューンを世に送り出してきたからだろう。
紛れもなくそのキラーチューンの一つが、ONE PIECE FILM REDで起用された「私は最強」。後に曲提供をしたMrs. GREEN APPLEもセルフカバーをしており、そちらではバンドサウンドがより前面に出ているのであるが、生バンドでのライブだとこのAdoの歌唱バージョンでも音源以上にバンドサウンドが強く出た形になっている。何よりもどっからどう聴いてもミセスでしかないこの曲をこんなに自分のものとして歌いこなせる人がこの世に存在しているということにライブを見ると今でも驚かされる。
そのバンドサウンドがさらにロックに力強くなっていくのは「リベリオン」であるが、この曲の
「Check it lout lout!」
「Shake it out out!」
の歌唱の凄まじさたるや、日本中のどこを探してもこんな歌い方ができる人は他にいないだろうなと思ってしまうくらいだ。
MCこそ挟まないものの、曲間ではわずかな時間の暗転中に機材の交換が行われていると思われるのだが、それにしてもライブのテンポも実に良いし、その歌唱はとてもまだライブ経験がそこまでない人のものとは思えない。
「ONE PIECE FILM RED」の中でFAKE TYPE.が手がけたエレクトロスウィングな「ウタカタララバイ」と、ここからはまさにウタウタの実の能力者であるかのようにその歌の表情をくるくると変えていく。
それが極まるのは「Tot Musica」だろう。まさにウタが自身の能力で一つの国を破壊してしまうかのような圧倒的なパワーをその歌声で感じさせることの凄まじさたるや。Adoの歌の何がすごいかというと声量はもちろんのこと、その歌にありとあらゆる人間の感情を最大限に込めることができることだと思う。姿はハッキリとは見えないけれど、でも確かに目の前にいる人が歌っているからこそ感じられる人間としての感情。それによって聴いていてこんなに心が揺さぶられるのだろう。
そんな中でアコースティックギターの音色とともに穏やかな歌声で歌われることによってここまでの流れとガラッと変わるのは折坂悠太が手がけた「世界の続き」で、
「信じられる?信じられる?」
というサビの歌唱は先ほどまで思いっきり声を張り上げていた人のものとは思えないくらいの優しさを感じさせる。そこにどこか歌声による光に包まれるような感覚を覚えるのもAdoの歌声ならではのものだろう。
そんなFILM REDの旅路から抜け出すようにして一気に歌謡性を感じさせるメロディを歌い始めるのは椎名林檎が手がけた「行方知れず」。その歌詞もまた椎名林檎ワールド炸裂と言っていいものであるが、その椎名林檎をして自身の曲を歌ってもらいたいと思わせるくらいの存在であるということが今のAdoの凄さを感じざるを得ない。
そんな中でスクリーンには桜が舞う映像が映し出され、照明もピンク色になっていく中で演奏されたのはボカロ曲を歌唱した「千本桜」。この曲ではそれまで以上にAdoが紗幕の箱の中で舞うようにして歌っているのが見える。歌っている人の姿が見えないということに物足りなさを感じる人もいるかもしれないが、紛れもなくAdoは我々の目の前で自身を解放するかのようにして歌っているのだ。
そして個人的にもライブで聴くのを楽しみにしていた曲の一つが「踊」だ。ホーン的なサウンドをキーボードが担う中でサビの「ふわふわ」という単語での抑揚のつけ方はこれほどの歌唱力を持つAdoだからできるもの、一層映えるものだ。改めてここまでにこんなにも全くサウンドもジャンルも違う曲を歌いこなせる、乗りこなせるのは凄まじいという他ない。
するとここまで一切喋らなかったAdoがMCとして口を開く。そこにはこれだけ他の人では絶対に歌えないような歌を歌える人とは思えないくらいに
「まだまだ小娘」
など謙虚さを感じる言葉もありながら、やはりまだ喋りは慣れていないのか同じようなことを何度も繰り返すこともあったのだが、最後には
「2023年は私の歌でこの国をもっと元気にしたい。そして海外の国にも日本の音楽の素晴らしさを広めていきたい」
と、かねてから報道に出ていたとおりに海外進出を本格的に果たしていこうという翌年以降への強い決意を感じさせ、最後に演奏されたのはやはりそうした2023年のAdoの活動がこの国の音楽シーンに新たな時代を作るということを宣言するような「新時代」。スクリーンにはウタの映像も映し出され、
「新時代はこの未来だ
世界中全部 変えてしまえば 変えてしまえば」
というサビのフレーズがまさにAdoのMCをそのまま歌詞に、曲にしているかのように響く。本当に見れて良かった、この声を生で聴けて良かったと思うと同時に、Adoがこの景色を見て「フェスって楽しいな」と思ってくれたら嬉しいなと思っていた。
時にはAdoを批判する声として「ライブでは音源流してるだけ」的なものもあるが、そう言ってる人は間違いなくライブを見ていない人だろう。本当にちゃんとライブを見て歌を聴いたらそんなことは絶対言えないはずだし、聴いている側がこんなにも心が震えることはない。つまりAdoはやはり見事なまでに私は最強そのものなシンガーだったことがたくさんの人に伝わったであろう初のフェス出演だった。
1.逆光
2.うっせぇわ
3.私は最強
4.リベリオン
5.ウタカタララバイ
6.Tot Musica
7.世界のつづき
8.行方知れず
9.千本桜
10.踊
11.新時代
この日、ホルモンの時に前の男性二人組が1人はcoldrain、1人はAdoのTシャツを着ていた。きっと最後はそれぞれ好きな方を見て、終わってから合流して帰るのだろう。1ステージだけだった去年ではこんな光景を見ることは出来なかった。被る苦悩やそれを選ぶことの楽しさ。最大5ステージだっただけにまだ100%じゃないけど、かつてのこのフェスの楽しさが確かに戻ってきてることを感じていた。
11:10〜 フレデリック [EARTH STAGE]
昨年の1ステージ開催時にも出演してこのステージに立ったフレデリック。もはやこのEARTH STAGEを代表する存在のバンドだと言っていいだろう。
ダンサブルなサウンドのSEでメンバー4人が登場すると、配信リリースされたばかりの最新曲「MYSTERY JOURNEY」からスタートする。数々のダンスアンセムを持ちながらもこうしていきなり最新曲で勝負するというあたりにこのバンドの進化し続けていくという姿勢が現れている。
「退屈がくたばる歌をあなたに届けるまで」
というフレーズはこれまでにも数々のキラーフレーズを生み出してきたこのバンドの最新形であるし、それはコロナ禍の中だからこそ生まれたものなのかもしれないとも思う。
「俺たちのCOUNTDOWN JAPAN、40分一本勝負、フレデリックはじめます!」
と三原健司(ボーカル&ギター)が挨拶すると、高橋武がドラムを連打し、ベースをうねらせまくる三原康司と赤頭隆児(ギター)がそのドラムセットの周りに集まってグルーヴを生み出す「KITAKU BEATS」というライブでおなじみの曲が鳴らされると、中盤で早くもキラーチューン「オンリーワンダー」が演奏される。前の方ではMVのダンスを踊っている人が見えるのもこのバンドのライブならではの光景であるし、そのダンスを踊れなかったり知らなかったりしても、みんな違ってみんな優勝と思うくらいに楽しいし、高橋が思いっきり手数を増やしているのもこのバンドならではのライブ、楽曲の進化の形である。
「人間っていうのは終わりの方の記憶の方が強く残る。みんながこの後にいろんなアーティストのライブ観ると思うけど、その後に海浜幕張で京葉線に乗る時に「なんかフレデリックが残ってるな」って少しでも思わせられたら俺達の勝ちです」
と健司がこのバンドならではのトップバッターとしての役割を口にすると、このフェスの短い時間の中でもダンサブルに踊らせまくるだけではなくてじっくりとそのサウンドに浸らせる「人魚のはなし」が演奏される。深く真っ青な照明に照らされるステージがまるで水中で人魚になったメンバーが舞っているのを見ているかのようだ。
そして2022年に開催された代々木体育館でのワンマンで数々のキラーチューンやアンセムたちを超えるような最強のアンセムへと進化したのが「ジャンキー」であり、スクリーンにはMVのダンスを踊る2人のうさぎの被り物ダンサーも映し出されることによって楽しさをさらに引き上げてくれる。やはり今のこの曲の力はフレデリックのこれまでの曲をも更新していることを感じさせるのであるが、
「2014年にこのフェスに初出演した時には新曲として演奏したこの曲がEARTH STAGEで鳴らされる日が来たらどうなるんやろうと思ってた。Mステにも紅白にもFIRST TAKEにも出てない曲だけど、この曲で踊ってくれ!」
と言って演奏されたのはもちろん「オドループ」であり、ステージ横の通路から駆け出すようにして中央の台の上に立ってギターソロを弾きまくる赤頭の姿はもちろん、観客の手拍子だけが響く瞬間の感動もこのステージだからこそ映えるものだ。その悲願はすでに過去に叶っているものでもあるのだが、それでもこのステージでこの曲を演奏するというのはこの曲がこのステージにふさわしいものであることを毎年確かめようとしているところもあるんじゃないかと思う。
そんな「オドループ」はこれまでにも何度となくフェスの最後を担ってきただけに、これでライブは終わりなのかと思ったのだが、
「普通のバンドならこれで終わりなんでしょうけど、フレデリックは違います。最後に新曲を演奏して終わります」
と言って演奏されたのはまだリリースされていない新曲「スパークルダンサー」。そのフレデリックのアンセムの系譜に連なるダンスチューンはこのバンドが今でもこれまでの代表曲だけに頼ることなく自分たちを更新しようとし続けていることがわかる。だから「ジャンキー」のような曲が生まれて、またこの曲が生まれている。そのストイックさこそがこのバンドが「オドループ」のバンドだけでは終わらなかった理由だ。
その「オドループ」はロシアにまで広がってバズっただけに今の世界の情勢にメンバーも苦悩していたが、このバンドの音楽にはそうやって国境を越えて届く力がある。それこそが世界を平和にしてくれるものになるんじゃないかとすら思うくらいに、フレデリックの音楽とライブは我々を幸せにしてくれる。
1.MYSTERY JOURNEY
2.KITAKU BEATS
3.オンリーワンダー
4.人魚のはなし
5.ジャンキー
6.オドループ
7.スパークルダンサー
12:15〜 KANA-BOON [EARTH STAGE]
フレデリック同様に昨年の1ステージ制でのこのフェスにも出演していたKANA-BOON。今年は正式にベースの遠藤昌巳がメンバーになってはじめての出演となる。
メンバーがステージに現れると、谷口鮪(ボーカル&ギター)の髪型がアフロと言っていいくらいのボリュームあるものになっているのが目を引かざるを得ないのであるが、その鮪がのっこらやたらとテンション高く、
「みんなー!ゆらゆらする!?」
と観客に問いかけると、いきなりの「ないものねだり」からスタート。古賀隼斗(ギター)も間奏では前に出てきてギターソロを鳴らすのであるが、その後のコロナ禍前はコール&レスポンスをしていた箇所では小泉貴裕(ドラム)もリズムを止めて観客の手拍子のみが響き渡る。それがこのEARTH STAGEの規模で見れるのはやはり圧巻であるし、KANA-BOONにはこのメインステージに立ち続けて欲しいと思う。
「飛ばして行くぞー!」
とさらに「フルドライブ」で踊らせまくると、遠藤もガンガン前に出てきてうねりまくるベースでグルーヴを生み出すのはKANA-BOONなりのラウドロックと言えるような爆音ロックサウンドの「ディストラクションビートミュージック」で、軽いダンスロックだと見られることも多いKANA-BOONのバンドサウンドの力強さを感じさせてくれるものである。それはもちろん遠藤の存在によって生まれたものでもある。
曲間では古賀が思わず鮪に
「その髪型はどうしたん?(笑)」
と問いかけると、
「音楽も髪型もボリュームがあった方がいいやろ(笑)」
とわかるようなわからないような答えを返すと、バンド史上の名曲「シルエット」が演奏される。個人的な話であるが、ジャンプアプリで全話順次公開中のNARUTOを読んでいるだけにこの曲を締める
「木の葉が飛んでゆく」
というフレーズがより一層沁みる。NARUTOを読んでなくてもこの曲の名曲っぷりはわかるけれど、読んでいると本当にKANA-BOONがNARUTOが大好きで、ナルトが成長していくのと同じように成長してきたんだなということがわかる。
そんなNARUTOの続きの物語のテーマ曲である最新シングルの「きらりらり」が続けて演奏されるというのもまたより沁みるような曲順であるが、それは
「大事にしたいものを持って 大人になれたよ」
という「シルエット」に連なる歌詞を大人になった今のKANA-BOONが歌っているからだ。ナルトも大人になって物語は次の世代へと受け継がれた。KANA-BOONの姿を見て育ったバンドもたくさんいるだろうけれど、それでもまだまだこのバンドはバトンを次の世代に渡すことなく自分たちが持ったままで走り続けている。
そんな「きらりらり」とアルバム「Honey & Darling」をリリースし、ツアーも行ってきた2022年を鮪は
「生きてて良かったと思えた年だった」
と口にした。復活したばかりの去年はまだそこまでは言えてなかったからこそ、その言葉にこもる実感に少し胸がギュッとなる感覚もあるのだが、そんなバンドは2023年には10周年としてすでに野音でのワンマンライブを行うことも発表しているし、その後にもたくさんの予定を組んでいるはず。つまりは「生きてて良かった」と思えた2022年を上回るような2023年が待っているということである。
そして鮪が
「KANA-BOONのロックバンドさを感じてくれー!」
と叫んでから演奏された「まっさら」のスピード感とパワー溢れるサウンド、さらにはメンバーのコーラスがKANA-BOONがカッコいいロックバンドであることを鳴らしている音と姿で示してくれると、最後にはフジファブリックの金澤ダイスケがプロデュースを手掛けたからこそのカラフルなキーボードの同期のサウンドが乗る「スターマーカー」がこのバンドが放つ生命力の強さをそのまま音にしているかのようにして鳴らされる。サビでは観客が腕を左右に振る姿も間奏での古賀が先導する手拍子も、ステージ上も客席もこの場にいる全員が生きているということを実感させてくれる。2022年に何回もライブを見たが、今こんなにも演奏する姿と音から生命力を感じさせてくれるバンドはいない。その力がそのまま見ている我々が生きていく力になっていく。2023年はさらにそれを強く感じさせてくれる年になるはずだが、最後に
「次はTシャツ屋さんでーす!」
と後輩を紹介する鮪は本当に頼もしいミュージシャンになったんだなと感じさせてくれる。
リハ.Torch of Liberty
リハ.ネリネ
1.ないものねだり
2.フルドライブ
3.ディストラクションビートミュージック
4.シルエット
5.きらりらり
6.まっさら
7.スターマーカー
13:20〜 ヤバイTシャツ屋さん [EARTH STAGE]
そうして先輩の鮪に紹介してもらったにもかかわらず、
こやま(ボーカル&ギター)「おでんつんつんつんつーん!」
しばた(ベース&ボーカル)「今2022年やぞ!」
とサウンドチェックの段階からふざけまくりながら曲を連発するらしさを全開にしているヤバイTシャツ屋さん。こちらも昨年に続いての出演であり、2022年は異例の「ぶどうかんツアー」も完遂したバンドである。
おなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEで3人が登場すると、いきなりの「あつまれ!パーティーピーポー」でスタートし、観客は踊りまくりながらも声は出さないという楽しみ方で、それはもりもと(ドラム)のツービートのドラムが疾走する「無線LANばり便利」では髪がだいぶ伸びた感じがするこやま(ボーカル&ギター)と、歌唱も演奏も安定感抜群のしばたありぼぼ(ベース&ボーカル)のツインボーカルも映える。一度座らせてからすぐに立ち上がらせるというパフォーマンスもありながら、前方優先エリアで聴いているとヤバTは改めてめちゃくちゃ音がデカいなと思う。
メンバーが観客に手拍子を促す「癒着☆NIGHT」ではやはりこやまがいつまで経っても「新曲」と紹介しながらも間奏では颯爽とステージ前に出てきてギターソロを弾く。ヤバTのサウンドは完全にパンク・メロコアバンドのそれであるが、それでもめちゃくちゃにしたりたくてもルールの範囲内で上手いことやろうというヤバTと観客のライブの作り方である。
しばた「KANA-BOONの古賀さんに似てるって言われまーす!」
こやま「それ言うんなら俺ー!」
というやり取りから、こやまが浜松の観光大使を務めているもりもとに対し、懐かしの波田陽区のギター侍ネタで
「でもあんた本当は栃木出身ですから!残念!」
と斬るも、もりもとは本当に浜松出身であり、かつ同じエンタの神様ネタである犬井ヒロシの
「自由だー!」
をしばたが叫ぶも世代的にあまり通じなくて微妙な空気になってしまう。
そんな自由過ぎるMCから最新シングル曲「ちらばれ!サマーピーポー」を冬フェスでも演奏すると、こやまの曲紹介も3月にリリースされるアルバムのものに変化している。今からアルバムが実に楽しみになる。
「Universal Serial Bus」で再びもりもとのツービートが疾駆すると、サビでの「yeah!!!!!」のフレーズで観客がメンバーに合わせてピースサインをするのもおなじみになった「NO MONEY DANCE」へと続く。他の年末のフェスでは観客が声を出せるものもあっただけに、この曲のコーラスをみんなで歌えたのだろうかと思うと羨ましくなる。まだ自分はこの曲で声を出したことがないからだ。でもそれは2023年には必ず叶うものになると信じている。
するとここでこやまが急に
「ヤバイTシャツ屋さんは紅白歌合戦に出るっていう目標があるんやけど、こんなにうるさい曲で紅白なんて出れんよなと思って、ヤバイTシャツ屋さんはこれから変わります!」
と言うとこやまもしばたも楽器を置いてハンドマイクで歌い始めたのは「dabscription」なのだが、もうBuyer Client名義で顔を隠しながら歌うのではなくて、普通にヤバTとして演奏するんかいというツッコミどころはありながらも、もりもとが自身のドラムセットのシンバルをターンテーブルのように擦るのが地味に面白い。最後にはやはり楽器を持ってパンク的なサウンドになるだけにイメチェンはしないというかできないということでもあるのだが。
なので終盤もテンポが速くなりまくるパンクな「ヤバみ」から始まり、イントロのこやまのギターサウンドを聴くだけでなんだか込み上げるものを感じるようにコロナ禍でなってきた「ハッピーウエディング前ソング」で声は出せなくても「キッス!キッス!」「入籍!入籍!」のフレーズをメンバーが歌うとより楽しさを引き上げてくれる。
そんなヤバTが2022年の最後に演奏したのは「かわE」であり、曲中には「やんけ!」の合唱を声を出さずにやり切り、それでも最高に楽しい時間を作ると、持ち時間がなかったのかメンバーは走ってステージを去っていった。そのスタミナは本当に驚異的であるし、やはりカッコいい。2022年はヤバTでしか作ることができない日本武道館も見れた。他にもいろんなフェスやイベントなんかでもライブを見た。そんな1年を超えるような1年が来ることが間違いないのは、毎作名盤でしかないアルバムを作り続けてきたヤバTだからだ。
リハ.喜志駅周辺なんもない
リハ.ウェイウェイ大学生
リハ.Hurray
リハ.ZORORI ROCK!!!
1.あつまれ!パーティーピーポー
2.無線LANばり便利
3.癒着☆NIGHT
4.ちらばれ!サマーピーポー
5.Universal Serial Bus
6.NO MONEY DANCE
7.dabscription
8.ヤバみ
9.ハッピーウエディング前ソング
10.かわE
14:15〜 amazarashi [GALAXY STAGE]
前回出演時はCOSMO STAGEであったが、今回はGALAXY STAGEに帰還。フェスに出るようなタイプでは全然ないが、それでもこのフェスには毎年のように出演してきたamazarashiである。
GALAXY STAGEの大きなステージを覆うように紗幕がかけられた中で時間になるとすぐさまその紗幕に歌詞が映し出されて演奏が始まる。どうやら時間前からすでにメンバーは紗幕の裏にスタンバイしていたようだが、秋田ひろむ(ボーカル&ギター)がポエトリーリーディングのように歌詞を口にしていく「感情道路七号線」からスタートし、歌詞とともにタイトル通りに炎が燃え盛るような映像も映し出される「火種」と続くのは2022年リリースのアルバム「七号線ロストボーイズ」の収録順通りであり、そのリリースツアーとも同様であるが、やはりこうして歌詞が映し出されていくとそれを情報として捉えるだけに実に客席の集中力が高いことがよくわかる。
「COUNTDOWN JAPAN 22/23、GALAXY STAGE!青森から来ました、amazarashiです!」
と秋田が実に喉の調子が良さそうな大きな声で挨拶すると、アニメ主題歌になったことによって少年と少女の映像も映し出される「境界線」でバンドの演奏がさらにロックに研ぎ澄まされていく。紗幕越しに見えるメンバーの演奏する姿も実に激しいものになっているのがよくわかる。
そんな中で秋田が育ち、今も住んでいる青森であろう街の映像が次々と映し出されるのは秋田がその青森でバンドを始めた時からの心情や経験を綴った「アオモリオルタナティブ」。フェスでこの曲が演奏されるというのは実に意外な感じもしたのであるが、激しいロックサウンドではなくて身を揺らすような落ち着いたサウンドは短い持ち時間の中でも良いアクセントになっていると言えるだろう。
そんなサウンドが再び力強くなっていくのは、歌詞とともに人形が爆破されるような映像が映し出されることでタイトル通りに「命」について想いを馳せざるを得ない「命にふさわしい」であり、この映像を見るといつもシングル盤に封入されていた、殺戮を目的で生み出された機械が自身の存在意義を問う物語のことを思い出す。2023年からはまたそうしたコンセプチュアルな物語を描くライブも見れたらなと思う。
そんな空気を切り裂くように青空の映像が映し出され、豊川真奈美(キーボード)によるタイトルフレーズのコーラスも美しく響く「空に歌えば」では秋田のボーカルもバンドの演奏も極まることによって客席でたくさんの腕が上がる。その光景にゾクっとしたのはそれは基本的にホール以上の会場で着席したまま観覧するというamazarashiのワンマンのスタイルでは絶対に見ることができないものだからだ。(かつては何回かだけライブハウスでワンマンをやり、そこで腕が上がったりすることもあったが)
でもやっぱりamazarashiの音楽やライブにはそうして体でダイレクトに反応したくなる衝動が確かに宿っていて、もしかしたら普段のワンマンでも本当はそうやって楽しみたいと思っている人もいるんじゃないかと思った。毎回ツアーに欠かさず参加してきた身であっても、そのフェスでしか見ることができない光景に確かに心が震えていた。
するとこの日はMCをしないのかな?とも思っていた中で秋田は
「amazarashiはこういうスタイルでライブをやってるからなかなかフェスに出れないんだけど、このフェスはずっと出してくれてる。トップバッターから始まって、だいぶ良い感じの時間に出ることができるようになった。10年後くらいにはトリができるかな」
とこのフェスへの想いを口にした。かつてはそれなりにいろんなフェスに出たりしたこと(なんなら野外フェスであるライジングサンにも出ていた)もあったけれど、今となっては本当にこのフェスだけ。でもこのフェスだけは毎年amazarashiを呼んでくれるから、1年の最後にこうやってamazarashiのライブを見ることができている。自分がずっと通い続けてきた大好きなフェスを秋田も大切な存在に思ってくれている。それがわかったことが本当に嬉しくて涙が出そうになってしまったし、何よりも秋田が10年後までもこうやってこのフェスに出ようとしている。amazarashiをずっと続けようとしている。それが伝わってくるのも本当に嬉しかったのだ。
そんな言葉の後に演奏されたのはかつての日本武道館ワンマンで曲の歌詞の全貌が明らかになった時の凄まじいインパクトが今でも忘れられない「独白」。その歌詞が次々に紗幕に映し出されていき、それを歌う秋田の歌唱にもこれ以上ないくらいに感情がこもる。
「今 再び私たちの手の中に」
と秋田が声を張り上げるリフレインは、amazarashiが出演することができるこのフェスが再び私たちの手の中に戻ってきた、またそれを我々が掴み取ることができたというようにも感じられた。演奏が終わって紗幕にamazarashiのロゴが映し出された時に上がった歓声や拍手の大きさももしかしたらワンマンの時以上のものだったかもしれない。
そんなフェスでしか見れないamazarashiのライブをずっと見ていたいから、10年後もさらにその先にもこのフェスに出演し続けていて欲しいのだ。
1.感情道路七号線
2.火種
3.境界線
4.アオモリオルタナティブ
5.命にふさわしい
6.空に歌えば
7.独白
15:20〜 9mm Parabellum Bullet [GALAXY STAGE]
初出演以降は欠かさずにこのフェスに出演し続けてきたこのフェスの番人バンドの一つである9mmも3年ぶりにこのフェスに帰還。かつてはEARTH STAGEのトリを務めたことがあるくらいの存在である。
おなじみのSEでサポートなしの4人編成でメンバーがステージに現れると、ステージ背面のスクリーンにはバンドのロゴが浮かび上がり、菅原卓郎(ボーカル&ギター)の
「9mm Parabellum Bulletです」
という挨拶から2022年にリリースされた、今の9mmの「Revolutionary」とでもいうような最新アルバム「TIGHTROPE」の1曲目に収録されている「Hourglass」からスタートし、キャップを被った滝善充(ギター)がギターをぶん回しながら演奏する姿も、髪型がかなりさっぱりした中村和彦(ベース)が低い位置のマイクにシャウトしまくる姿も、かみじょうちひろ(ドラム)のツーバスの連打も、9mmでしかない爆裂っぷりが早くも1曲目から、しかも最新アルバムの曲で展開されている。
その「TIGHTROPE」の収録順通りに演奏された「One More Time」はそのダフトパンクなタイトルからもわかるように今の9mmとしてのダンスロックチューンで我々を踊らせてくれるのであるが、滝はギターだけならずコーラスの声も実に大きく、つまりは見ていてすぐに絶好調であることがよくわかる。
その「One More Time」が今の9mmのダンスロックチューンであるならば、これまでの9mmのそれであることに間違いない「Black Market Blues」が続けて演奏され、卓郎は
「COUNTDOWN JAPANにたどり着いたぜー!」
とおなじみの歌詞を変えて歌い、曲中の観客の手拍子もスクリーンに客席が映し出されると後ろの方までびっしり入った人が手拍子をしているのがよくわかるし、その人数での手拍子だからこそ音が実に大きい。
さらには完全にライブ定番曲になった「名もなきヒーロー」での激しいロックサウンドに合わせて振り上げられる観客の腕の動きも実に激しくなるのであるが、この曲を年末に聴くと来年もいろんな場所で9mmに会えたらいいなと思わせてくれる。
すると卓郎が
「今年まではマイナスをゼロに戻すみたいな感じだったと思うけど、来年こそはゼロからプラスにしていく年にしましょう。
というのも我々は来年で19周年です。普通のバンドなら19周年を祝うということはしないんだろうけど、このバンド名なんで来年はいろんなことをやろうと思ってます!」
と来年のアニバーサリーイヤー(と言っていいのか)への期待を高まらせてくれると、
「次は夏の曲をやろうと思うんだが、完全に冬の中でやっても仕方ないんで、今からここは夏のROCK IN JAPAN FES.の会場になります。1,2、ハイ、なりました」
と無理矢理この会場を夏のロッキンに変えて演奏されたのはもちろんそのロッキンに出演した時にも演奏されていた「All We Need Is Summer Day」であり、バンドの熱すぎる演奏は確かに少しだけ夏のように思えなくもない。特に滝の季節感0の出で立ちは。当然9mmは2023年の夏にもロッキンに出演するはずなので、その時にはこの曲のコーラス部分を観客全員で合唱することができているようにと思う。それこそが卓郎の言っていたプラスになっていくことの1つだと思っているから。
そしてイントロから激しい演奏が繰り広げられ、キメでは滝と和彦が楽器を抱えたままジャンプする「The Revolutionary」を久しぶりに幕張メッセクラスの広い会場で聴くと、卓郎の
「染めたのさー!」
などの歌唱の見事さも含めて、ライブハウスもいいけど9mmは広いステージが似合うバンドだなと改めて思う。アウトロでメンバーに合わせて観客が飛び跳ねまくる光景も含めて、曲の持っているスケールがやはり実に大きなバンドだと思う。
そしてその全ての楽器によって発せられる轟音サウンドによって観客が頭を振りまくる「新しい光」ではステージ上の主に滝と和彦のアクションもさらに激しくなり、それはラストの「Punishment」でさらに極まる。というかやっぱり年末にはこの曲の耳をつんざくような爆音と轟音が鳴っていてくれないと物足りなく感じるのだ。だからなんだかライブが終わった後に「やっぱりCDJといえばこれだよな!」と思ったし、去り際に観客に手を振る和彦とかみじょうが実に良い笑顔だったのは自分と同じように思っていたんじゃないかと思う。
今年はまだ19/20までの5ステージ制ではない3ステージ制なだけに出演者を多くするために1組あたりの持ち時間が短くなっている。でも9mmはかつてEARTH STAGEに出演していた時は平気で15曲くらいやるようなバンドだった。今ではその「フェスなのにワンマンみたいな曲数」のバンドはハルカミライになった感もあるが、今でも9mmはやっぱりEARTHで見たい。このステージにはもっとそこに近い若いバンドもたくさんいるかもしれないけれど、この日の満員っぷりを見たらそれを夢見ずにはいられなくなってしまう。
リハ.(teenage) disaster
1.Hourglass
2.One More Time
3.Black Market Blues
4.名もなきヒーロー
5.All We Need Is Summer Day
6.The Revolutionary
7.新しい光
8.Punishment
16:25〜 ACIDMAN [GALAXY STAGE]
フェス立ち上げ時はEARTH STAGEに出演し続け、このGALAXY STAGEになってからも毎年ずっと出演し続けてきたACIDMAN。もしかしたらもはや出演回数としては歴代トップクラスなんじゃないかというくらいにこのフェスの守護神であり続けているバンドである。
おなじみのSE「最後の国」で起こる手拍子に迎えられてメンバーがステージに現れると、大木伸夫(ボーカル&ギター)が
「COUNTDOWN JAPAN、熱く行くぞ!」
と気合いを入れるようにして最新アルバム「INNOCENCE」の「夜のために」からスタートし、そのスリーピースロックバンドの進化し続けるダイナミズムを存分に感じさせてくれると、星がきらめくような照明の効果とともに演奏され、浦山一悟(ドラム)の刻むリズムが観客を踊らせる「FREE STAR」では間奏で大木がステージ前に出てきて観客を煽るようにギターを弾く。佐藤雅俊(ベース)はなんならもうこの辺りでトレードマークのキャップを落としていたような感じすらする。
さらにはアニメ主題歌として若い人にもバンドの存在を知らしめた「Rebirth」のサビの解放感によって観客が飛び跳ねまくると、このフェスでは昔からずっと演奏され続けてきた「赤橙」と新旧のキラーチューンが続いて演奏されていく。そのキラーチューンのサウンドがそれぞれ全く異なるものになっているあたりがACIDMANというバンドの幅の広さを示していると言えるだろう。
「我々、11月にデビュー20周年を記念してSAIという主催フェスを、それはそれは豪華なアーティストたちに出てもらって開催したんですね。来てくれた人いますか?(上がる手を見て)センキュー。行きたかったけど行けなかったっていう人も、センキュー。何それ?っていう初めてACIDMANを見てくれてる人も、センキュー」
とやはりどこか大木の言い方はコミカルさを感じさせる中で、その大木が観客にスマホライトを掲げてもらおうとするも、最初はあんまり掲げる人がおらず再度お願いして客席でスマホライトが光る中で演奏されたのはこれもまた壮大なバラード曲にしてACIDMANの代表曲の一つである「ALMA」。そのスマホライトの明かりは生命の輝きであると同時に、本当に後ろの方までたくさんの観客がいることを実感させてくれるものになっていたのだ。
そして最後に演奏されたのはもちろんそのACIDMANのスリーピースギターロックバンドサウンドの極みと言える「ある証明」。大木のボーカルも激しく体を揺さぶりながらベースを弾く佐藤と一心不乱にドラムを叩く一悟のリズムもこれこそがスリーピースバンドの最高峰だなと思わせてくれるのだが、間奏では大木が
「今日はちょっとだけなら声が出せるみたいだから、周りの人の迷惑にならないくらいの声でみんなの声を聞かせてくれー!」
と叫ぶのであるが、言葉の分量が多すぎて明らかに本来ならすでに叫んでいるくらいの部分でもまだ叫べていなかったのであるが、それでもミスった感じを一切出さずにすぐさま叫んでいた大木はさすがだった。今までは
「みんなが声出せない分、俺が代わりに思いっきり叫ぶから!」
というものだったのが少しずつでも変化してきている。2023年にはかつてのように何にも気にすることなく大木と一緒にこの曲で叫ぶことができていますように。
ACIDMANは近年はずっとGALAXY STAGEに出ているが、かつてこのステージのトリとして出演した際にはEARTH STAGEのトリの人気バンドに動員を完全に持っていかれて、こんなに広いステージなのに前数列しか人がいないくらいに寂しい集客だった時すらあった。
でもこの日は本当に久しぶりにGALAXYを満員にしているACIDMANのライブが見れた。そうなったのはやはりSAIを開催して、それを観に来た他のバンドのファンの人たちがACIDMANのカッコ良さ、凄さに改めて気づいたからだろう。そういう意味でもSAIが持つ意義は実に大きいだけに、せめて5年に1回くらいのアニバーサリーの周期でまた開催して欲しいと思う。
1.夜のために
2.FREE STAR
3.Rebirth
4.赤橙
5.ALMA
6.ある証明
17:40〜 マキシマム ザ ホルモン [EARTH STAGE]
コロナ禍になって以降は出れるライブは全部出るとばかりに春も夏も冬もロッキンオンのフェスに出まくってきた、マキシマム ザ ホルモン。1ステージ開催だった昨年に続いて今年もこのフェスに出演。アニメ「チェンソーマン」のタイアップで再び大きな注目を集めるようになっているが、同じく「チェンソーマン」のエンディングを担当した女王蜂とタイムテーブルが被っているのは納得がいかないところである。
おなじみの賑やかなSEでメンバーが登場すると、マキシマムザ亮君(ボーカル&ギター)がギターを弾きながらブルーハーツの「月の爆撃機」を歌う「鬱くしきOP 〜月の爆撃機〜」からスタート。ということはもちろん続くのは「鬱くしき人々のうた」で、このバンドのメロディのキャッチーさを存分に感じさせてくれるオープニングである。
上ちゃん(ベース)のバキバキのスラップとダイスケはん(ボーカル)のデスボイスがホルモンの音の重さと強さを感じさせてくれる「「F」」ではもちろんフリーザが空を飛ぶ映像も映し出され、フリーザのナレーションの後には亮君のギターソロも鳴り響く。
かと思えばナヲ(ドラム&ボーカル)が曲中の自身のボーカルパートで前に出てきて歌う姿がどこかキラキラした加工が施された「maximum the hormone II 〜これからの麺カタコッテリの話をしよう〜」の最後のダイスケはんのセリフパートに亮君が「知らんがな!」とツッコミを入れると、ナヲがこの前にこのステージに出演していたDISH//の曲を使って
「猫になった君は私です!」
と挨拶すると、ダイスケはんは
「うっせぇうっせぇうっせぇわ!」
と、このステージのトリを務めるAdoの曲を使うというおなじみの共演者いじりが冴えまくる。ちなみにAdoの正体を探るべくケータリングエリアで「お前がAdoか!?」と探し回っていたという。
「アジカンの皆さん、時間押すと思うんで持ち時間リライトしてください!」
と言うのはそもそも喋りすぎているからであるが、それでも後半はシュールな映像が中学生ならではの無敵感を感じさせる「中二ザビーム」という意外な曲を演奏すると、「ロック番狂わせ」ではこのバンドの演奏技術の高さと音の強さが極まっていく。
今のホルモンはフェスに出るたびにかなりガラッとセトリを変えているのであるが、それでもメロディもサウンドもポップかつキャッチーな「糞ブレイキン脳ブレイキン・リリィー」という選曲には驚いてしまう。そこまで昔の曲という感じがしないのはあんまりアルバムが出ないバンドだからかもしれないが、もう15年も前にリリースされている曲であることにも驚く。
何故かダイスケはんが追悼の一環なのかアントニオ猪木のモノマネをするとスクリーンにアントニオ猪木の写真が浮かび上がり、まるで猪木の魂がダイスケはんに憑依するかのようにして演奏された「メス豚のケツにビンタ (キックも)」も含めて、何をどう考えたらこんなセトリになるんだろうかと思ってしまう。もちろんこうした普段フェスではほとんどやらない曲が聴けるのは嬉しいことであるが。
そしてやっぱり時間がなくて説明なしの一発勝負となった恋のおまじないの後に最後に演奏されたのはやはり「恋のスペルマ」で、スクリーンには何度見ても見入ってしまうような反則というくらいの映像も映し出される。2023年はフェスでこの曲が演奏された時にはMVの「フェスの楽しみ方講座」的な楽しみ方が戻ってきたらいいなと思うし、きっと近年のフェスで毎回のようにこの曲を演奏しているのはそういう思いをバンド側も持っているはずだと思っている。
それにしても1曲目がめちゃくちゃ短いとはいえ、まさかMCがやたら長いホルモンが他のこのステージに出演したアーティストたちより多い曲数を演奏しているとは、というところに驚いてしまっていた。
1.鬱くしきOP 〜月の爆撃機〜
2.鬱くしき人々のうた
3.「F」
4.maximum the hormone II 〜これからの麺カタコッテリの話をしよう〜
5.中二ザビーム
6.ロック番狂わせ
7.糞ブレイキン脳ブレイキン・リリィー
8.メス豚のケツにビンタ (キックも)
9.恋のスペルマ
18:45〜 ASIAN KUNG-FU GENERATION [EARTH STAGE]
毎年のようにこのフェスのEARTH STAGEのトリを担ってきた、アジカン。しかしながら今年はトリ前という位置での出演となる。アニメ「ぼっち・ざ・ろっく」で「転がる岩、君に朝が降る」がフィーチャーされたタイミングでもある。
2022年にリリースされた「プラネットフォークス」のツアーと同様にアチコ(Ropes)とGeorge(Mop of Head)のサポートメンバー2人を加えた6人編成でステージに登場。Georgeは前日のsumikaに続いての出演である。
伊地知潔のドラムを皮切りにメンバーが演奏を練り上げていく長尺のイントロによる「Re:Re:」からスタートし、ゴッチ(ボーカル&ギター)も楽しそうに体を揺らしながらギターを弾いて歌うと、早くも喜多建介のギターが唸りをあげる「リライト」へ。間奏では山田貴洋のベースがダブ的なサウンドの空気を作る中で、
「25%くらいまでなら声を出してもいいそうなんで、それくらいでコール&レスポンス。これ以上俺を炎上させないでくれっていう気持ちもあるけれど(笑)」
と言ってメンバーの演奏のボリュームも極限まで落とし、ゴッチも何故か小声になってコール&レスポンスが敢行されると、その後に一気に演奏のボリュームが上がることによってむしろ良いコントラストを描くようになっている。小声だったからこそ最後のサビで爆発力を感じられるというか。
ゴッチがイントロのギターを鳴らした瞬間に歓声が起こるのはもちろん「ソラニン」で、むしろワンマンではやらない時も多々あるのだけれど、そうした代表曲をフェスでしっかり演奏するというあたりは長く日本のロックシーンを牽引し続けてきて、何度となくトリを務めてきたバンドならではである。Georgeのキーボードもアチコのコーラスもこの曲では欠かせないものだということがよくわかる。
するとそのGeorgeとアチコを含めたメンバー紹介をしてから、「プラネットフォークス」の「You To You」を演奏すると、この曲ではゴッチのボーカルにアチコのコーラスが絡む中で喜多のハイトーンボイスも冴え渡り、Georgeがリズムに合わせて腕を動かすのも印象的だ。ツアーでは時によってサポートメンバーは変わったりしてきたが、この編成こそが今のアジカンと言っていいようなものである。
そして最新シングル曲「出町柳パラレルユニバース」がパワーポップ的なサウンドで演奏されて2023年に来るべき作品への期待を高まらせてくれると、伊地知の四つ打ちのリズムによって始まった「君という花」では観客が飛び跳ねたりしてそれぞれ思い思いに踊りまくる。その光景はゴッチの
「誰のマネとかもしなくていいから、好きに楽しんで」
という言葉を実践しているかのようであるのだが、ゴッチは近年おなじみのアウトロで「大洋航路」のフレーズを重ねるというパフォーマンスも。ある意味ではそうしたことができるのが今のアジカンの自由さ、風通しの良さと言えるのかもしれない。
そしてゴッチがギターを置いてハンドマイクとなり、ステージ左右に伸びる通路まで歩いて行って歌う最後の曲は「Be Alright」。ゴッチが近づいてくるにつれて横の方にいる観客が手を振るのであるが、その楽しそうな姿はやはりどんな時代であってもアジカンがいればBe Alrightと思わせてくれる。演奏終了後に6人で肩を組んで観客に頭を下げる姿を、これからも何度でも見たいと思った。
アジカンはTVで使われたからといってすぐにセトリにその曲を入れたりするようなバンドではないので、「転がる岩〜」はまぁ演奏されなくても仕方ないとも思っていた。でもこのフェスの06/07で新曲として演奏されて初めてあの曲を聴いた時のことは今でもよく覚えている。それだけにまた翌年以降にあの曲をこのフェスで聴けたらなと思っている。
1.Re:Re:
2.リライト
3.ソラニン
4.You To You
5.出町柳パラレルユニバース
6.君という花 〜 大洋航路
7.Be Alright
19:50〜 Ado [EARTH STAGE]
ONE PIECE FILM REDでのウタの歌唱曲による「ウタの歌」が社会現象と言っていいくらいの状況を生み出した、Ado。フェス初出演であるだけに間違いなく今回のフェスの目玉と言っていい存在である。
Adoは一切顔出しをしていないだけに開演前には双眼鏡すらも使用禁止という厳しい撮影などに関するアナウンスが繰り返し流れると、開演時間になって音が鳴った瞬間にステージにかかっていた紗幕が落ちる。そこにはバンドメンバーがいてすでに演奏をしており、中央には紗幕で作られた箱状の中に確かにAdoがいることがわかる。そのシルエットから予想よりも髪が長く、身長も高いような感じがするのだが、いきなりウタの歌の中でVaundyが手掛けた「逆光」を歌い始めると、姿こそはうっすらとしか見えないが、その声量の凄まじさに一気に会場が持っていかれる。本当にあの声で、あんな風に歌えるんだ…ということがわかる。
しかも2曲目で早くも「うっせぇわ」が演奏されるとスクリーンには歌詞が次々に映し出され、その歌詞に思いっきりAdoの感情を込めた歌唱が乗る。バンドメンバーの演奏も含めて実にロックとしか言いようのないライブであるが、この曲をこの位置に持ってくることができるのもアルバム「狂言」以降にさらなるキラーチューンを世に送り出してきたからだろう。
紛れもなくそのキラーチューンの一つが、ONE PIECE FILM REDで起用された「私は最強」。後に曲提供をしたMrs. GREEN APPLEもセルフカバーをしており、そちらではバンドサウンドがより前面に出ているのであるが、生バンドでのライブだとこのAdoの歌唱バージョンでも音源以上にバンドサウンドが強く出た形になっている。何よりもどっからどう聴いてもミセスでしかないこの曲をこんなに自分のものとして歌いこなせる人がこの世に存在しているということにライブを見ると今でも驚かされる。
そのバンドサウンドがさらにロックに力強くなっていくのは「リベリオン」であるが、この曲の
「Check it lout lout!」
「Shake it out out!」
の歌唱の凄まじさたるや、日本中のどこを探してもこんな歌い方ができる人は他にいないだろうなと思ってしまうくらいだ。
MCこそ挟まないものの、曲間ではわずかな時間の暗転中に機材の交換が行われていると思われるのだが、それにしてもライブのテンポも実に良いし、その歌唱はとてもまだライブ経験がそこまでない人のものとは思えない。
「ONE PIECE FILM RED」の中でFAKE TYPE.が手がけたエレクトロスウィングな「ウタカタララバイ」と、ここからはまさにウタウタの実の能力者であるかのようにその歌の表情をくるくると変えていく。
それが極まるのは「Tot Musica」だろう。まさにウタが自身の能力で一つの国を破壊してしまうかのような圧倒的なパワーをその歌声で感じさせることの凄まじさたるや。Adoの歌の何がすごいかというと声量はもちろんのこと、その歌にありとあらゆる人間の感情を最大限に込めることができることだと思う。姿はハッキリとは見えないけれど、でも確かに目の前にいる人が歌っているからこそ感じられる人間としての感情。それによって聴いていてこんなに心が揺さぶられるのだろう。
そんな中でアコースティックギターの音色とともに穏やかな歌声で歌われることによってここまでの流れとガラッと変わるのは折坂悠太が手がけた「世界の続き」で、
「信じられる?信じられる?」
というサビの歌唱は先ほどまで思いっきり声を張り上げていた人のものとは思えないくらいの優しさを感じさせる。そこにどこか歌声による光に包まれるような感覚を覚えるのもAdoの歌声ならではのものだろう。
そんなFILM REDの旅路から抜け出すようにして一気に歌謡性を感じさせるメロディを歌い始めるのは椎名林檎が手がけた「行方知れず」。その歌詞もまた椎名林檎ワールド炸裂と言っていいものであるが、その椎名林檎をして自身の曲を歌ってもらいたいと思わせるくらいの存在であるということが今のAdoの凄さを感じざるを得ない。
そんな中でスクリーンには桜が舞う映像が映し出され、照明もピンク色になっていく中で演奏されたのはボカロ曲を歌唱した「千本桜」。この曲ではそれまで以上にAdoが紗幕の箱の中で舞うようにして歌っているのが見える。歌っている人の姿が見えないということに物足りなさを感じる人もいるかもしれないが、紛れもなくAdoは我々の目の前で自身を解放するかのようにして歌っているのだ。
そして個人的にもライブで聴くのを楽しみにしていた曲の一つが「踊」だ。ホーン的なサウンドをキーボードが担う中でサビの「ふわふわ」という単語での抑揚のつけ方はこれほどの歌唱力を持つAdoだからできるもの、一層映えるものだ。改めてここまでにこんなにも全くサウンドもジャンルも違う曲を歌いこなせる、乗りこなせるのは凄まじいという他ない。
するとここまで一切喋らなかったAdoがMCとして口を開く。そこにはこれだけ他の人では絶対に歌えないような歌を歌える人とは思えないくらいに
「まだまだ小娘」
など謙虚さを感じる言葉もありながら、やはりまだ喋りは慣れていないのか同じようなことを何度も繰り返すこともあったのだが、最後には
「2023年は私の歌でこの国をもっと元気にしたい。そして海外の国にも日本の音楽の素晴らしさを広めていきたい」
と、かねてから報道に出ていたとおりに海外進出を本格的に果たしていこうという翌年以降への強い決意を感じさせ、最後に演奏されたのはやはりそうした2023年のAdoの活動がこの国の音楽シーンに新たな時代を作るということを宣言するような「新時代」。スクリーンにはウタの映像も映し出され、
「新時代はこの未来だ
世界中全部 変えてしまえば 変えてしまえば」
というサビのフレーズがまさにAdoのMCをそのまま歌詞に、曲にしているかのように響く。本当に見れて良かった、この声を生で聴けて良かったと思うと同時に、Adoがこの景色を見て「フェスって楽しいな」と思ってくれたら嬉しいなと思っていた。
時にはAdoを批判する声として「ライブでは音源流してるだけ」的なものもあるが、そう言ってる人は間違いなくライブを見ていない人だろう。本当にちゃんとライブを見て歌を聴いたらそんなことは絶対言えないはずだし、聴いている側がこんなにも心が震えることはない。つまりAdoはやはり見事なまでに私は最強そのものなシンガーだったことがたくさんの人に伝わったであろう初のフェス出演だった。
1.逆光
2.うっせぇわ
3.私は最強
4.リベリオン
5.ウタカタララバイ
6.Tot Musica
7.世界のつづき
8.行方知れず
9.千本桜
10.踊
11.新時代
この日、ホルモンの時に前の男性二人組が1人はcoldrain、1人はAdoのTシャツを着ていた。きっと最後はそれぞれ好きな方を見て、終わってから合流して帰るのだろう。1ステージだけだった去年ではこんな光景を見ることは出来なかった。被る苦悩やそれを選ぶことの楽しさ。最大5ステージだっただけにまだ100%じゃないけど、かつてのこのフェスの楽しさが確かに戻ってきてることを感じていた。