もう今年も終わりということで、毎年恒例の個人的年間ベストディスクなどを。まずはベストディスクを20位から。
20. unity / Mrs. GREEN APPLE
活動休止を経てのシーズン2開幕を宣言する、Mrs. GREEN APPLEの再始動後初のミニアルバム。髙野清宗と山中綾華というリズム隊の脱退というあまりにショッキング過ぎるニュース、大森元貴のソロ活動、残った3人のビジュアルイメージの変化…。そうした要素を鑑みても大森のソロを拡張するような、ダンスボーカルグループ的な音楽性にシーズン2で変わっていくのかと思っていた。
しかしこの「unity」はリード曲の「ニュー・マイ・ノーマル」「ダンスホール」に顕著なように「あのミセス」がさらに進化した形で鳴らされている。ライブでもサポートのベースとドラムを加えた5人編成で活動を続けている。もしかしたらもうインディーズの時から大好きだったあのバンドとしてのミセスは終わってしまったのかもしれない…そんなことを思ってしまった自分のような奴を決して置いていくことのない、大森が歌うからこそ、若井と藤澤が演奏するからこそ、ミセスだからこそ鳴らせる、ミセスだけのギターロック。それはこの後にリリースされたシングル「Soranji」でもそうだった。ミニアルバムだからこの順位だが、フルアルバムでこのレベルの曲が揃っていたら年間1位にするくらい。ミセスなら来年そんなアルバムを必ず作ってくれるはずだ。
19. アダプト / サカナクション
前作「834.194」がかなりの難産というか、出る出る言われながらもなかなか出なかったことを踏まえると3年ぶりというスパンはサカナクションにとっては短いアルバムリリースとなるが、2枚組だった前作と比べても今回はコンパクトな内容となった。
コロナ禍におけるオンラインライブでもすでに演奏されていた「プラトー」や「月の椀」ではサカナクションとしての美しいメロディによるダンスミュージックを聴かせてくれるが、今作の肝はなんといっても「ショック!」だろう。MVにおいても両腕を脇を締めたり開けたりするダンスで我々の度肝を抜いたこの曲の凄まじいキャッチーさはサカナクションが今でもシーンを一瞬で塗り替えることができる力を持ったバンドであり続けていることを示している。このアルバムのリリースツアーのコンセプチュアルなワンマンも本当に素晴らしかっただけに、山口一郎と一緒にまたライブで「ショック!」ダンスを踊れる日を楽しみに待っている。
18. FLOWERS / go!go!vanillas
昨年のアルバム「PANDORA」を3位に選出したgo!go!vanillasが早くも新作アルバムをリリース。前作にあったような「one shot kill」のようなロックンロールな曲がないのは、このアルバムが東西のアリーナで開催されたワンマン「My Favorite Things」に参加していた、ファンファン(トランペット)、井上惇志(ピアノ)、手島宏夢(フィドル)というプレイヤーたちと作られたからであろう。
そのライブでも披露されていたHump Backの林萌々子との「Two of Us」も収録されているのだが、それも含めて「今自分たちがやりたいことだけをひたすらやった」ということが伝わってくるような曲とサウンドだ。バニラズはそもそもロックンロールという軸を持ちながらも世界中のありとあらゆる音楽を聴いているリスナーとしての興味・関心がそのままバンドの音楽性の幅広さに繋がってきたバンドであるが、「LIFE IS BEAUTIFUL」でその予兆はあったとはいえ、そのバニラズがここまでアイリッシュトラッド的なサウンドと相性の良いバンドとは思っていなかった。このアルバムの曲たちをライブでどう再現するのかも気になるところであるが、このバンドの「My Favorite Things」はきっとまた我々の人生を美しいと感じさせてくれるものになるはずだ。
17. The End of Yesterday / ELLEGARDEN
今年最も驚きというか、本当に出るのかというよりも、リリースされた今となっても本当に出たのか…と思うアルバムなのが、ELLEGARDENのオリジナルアルバムとしては実に16年ぶりになるという「The End of Yesterday」である。
しかし再始動後に最初にライブで披露されて配信もされたアルバム1曲目の「Mountain Top」がそうであるように、「あのギターとリズムの感じが来ない!?」と思った人もたくさんいるだろうし、実際にそうした「かつてのエルレ」的な曲は実に少ない。それは細美武士が
「そういう曲をやりたきゃ「Supernova」とか「Pizza Man」をやればいいわけで」
とインタビューで言っていたように、このアルバムでは活動休止していた10年間の期間の中でそれぞれが違う場所で得てきた経験や技術があるからこそ鳴らせるロックが鳴っている。だから「Perfect Summer」のような「これエルレの曲!?」と思うようなデジタルなリズムの曲すらもエルレの曲として鳴らすことができる。そしてその新しいバンドの姿、サウンドを見せないと新しいアルバムを作る意味がないという姿勢はそのままタイトルに表れている。このアルバムをもって、ついにELLEGARDENが復活したバンドから現在進行形のバンドになったのだ。本当におかえり。
16. 狂言 / Ado
「2022年を代表するアーティスト」と言われた時に最も名前が挙がるのは間違いなくAdoだろう。「ONE PIECE FILM RED」でのウタとしての歌唱は「この映画はAdoのMVだ」と言われたりするくらいにAdoの歌声がなくては成立することがなかった大ヒット映画だからである。
その映画の歌唱アルバムに先んじてリリースされた1stフルアルバムでも、そのあらゆるジャンル、サウンドを変幻自在かつ飛び抜けた歌唱力でAdoのものにしてしまう表現力は遺憾無く発揮されているし、後半に配置されることによってあの社会現象と言える大ヒットとなった「うっせぇわ」すらもアルバムの中の1曲として聴けるようになっているトータリティもさすがだ。
個人的に「今1番歌声が凄いボーカリストは誰か?」という問いには「ずっと真夜中でいいのに。のACAね」と答えるようにしているが、そのACAねもライブを見てそう思うようになった。でもAdoはまだライブを見ていない、このアルバムの音源を聴いただけでその問いに名前を挙げたくなる。それくらいに音源を聴いているだけでも震えるくらいの感情が歌声から放出されている。こんなボーカリストには今まで生きてきて出会ったことがない。それだけにCOUNTDOWN JAPANでライブでこの歌声を聴いたら自分はどんな感情を抱くのだろうか。楽しみでもあり、恐ろしくすら感じている存在。
15. 東京 / SUPER BEAVER
昨年にも名盤としか言えないような、それでいてこのバンドでしか歌えないメッセージが音楽に落とし込まれたアルバム「アイラヴユー」をリリースしているSUPER BEAVER。その曲たちを鳴らすライブも数多く行っていただけに、アルバムがこんなに早くリリースされるとは全く思っていなかったが、アリーナ、ホール、ライブハウスを回りながら1年に1枚新作を出す、しかもその新作が紛れもなくこのバンドそのものを曲で、音楽で示すものになっているというのが驚異的ですらある。
サウンドとしては大胆に変化したわけではないが、やはり特筆すべきはストレートなメロディとそこに乗る歌詞とメッセージだろう。決して難解な言葉を使っているわけではないが、
「愛されていて欲しい人がいる なんて贅沢な人生だ」(「東京」)
「楽しくありたいと願うと 「誰かのため」が増える人間冥利」(「スペシャル」)
「一緒に頑張ろうは なんか違うとずっと思ってる」(「ロマン」)
という歌詞たちがこんなにも響くのはそれがメンバーのMCや会話から広がったものであり、つまりはそれはそのままこのバンドの人間性を表している、メンバーの人間がそのまま音楽になっているからだ。このアルバムの後に早くもリリースされた「ひたむき」もまたこのバンドのことをそのまま歌ったかのような曲であるが、ここまでそう思えるバンドは他にいないからこそ、それぞれに頑張ってまた会おう。
14. Chilli Beans. / Chilli Beans.
デビューフルアルバムであるだけに、最初はどんなもんだろうかと思って聴いてみたが、確かにデビューアルバムだからこそのフレッシュさもありながらも、まるで5枚くらいアルバムをリリースして、その全てで毎回サウンドを変えてきたバンドの集大成的なアルバムのような、そんな完成度を誇るのがこのChilli Beans.のセルフタイトルアルバムである。
それを可能にしているのは全員がボーカリストとして確かな力量を持ったメンバーであること、レッチリなどの影響源を落とし込める技術とグルーヴをすでにバンドが持っているからであるが、特にMotoのハイトーンとロウトーンを曲によって変える歌唱はそのまま曲のイメージを決め、MaikaのベースとLilyのギターは延々とセッションしているのを聴いていたくなるほど。それらの要素がこんなにあらゆるサウンドやジャンルを軽やかに飛び越えるChilli Beans.の音楽として鳴らされている。「超斬新!」とか「世界の最先端と併走してる!」みたいなものではないけれど、自分はこのアルバムを聴いてこのバンドがこの国における全く新しいタイプのバンドだなと思っている。
13. フレデリズム3 / フレデリック
三原兄弟が「フルアルバムはそこまでのバンドをまとめたもの」というように、あるいはこれまでのフルアルバム2枚がそうであったように、フレデリックのアルバムはそれまでにリリースしてきたEPのリード曲や配信リリースされた曲などをまとめ、そこに新曲が何曲か追加されたものであるだけにバンドの動向を常に追っている身からするとそこまで新鮮さはない。実際にこのアルバムにも須田景凪とのコラボ盤収録曲から和田アキ子に提供した「YONA YONA DANCE」のセルフカバーまでもが収録されている。
しかしこのバンド最大の至上命題は「「オドループ」を超えるようなアンセムを作れるか?」ということでもあるのだが、ついにこのアルバムでそれが生まれた。それが「ジャンキー」であり、その音楽ジャンキーが作った音楽へのラブソングというメッセージやMVでのダンス、それを可視化した代々木体育館でのワンマンと、焼き直しではなくて今のバンドのアップデートした力でついにこの曲を生み出したのだ。
「オドループ」は世界中、それこそロシアでもバズりまくっただけに、今の世界情勢にメンバーは心を痛めているようでもあった。でもこのバンドの音楽が我々と同様にロシアの人々に届いたというのは、そこに住む人たちの中には踊ってたい夜を知りたい人もたくさんいるということだ。
12. Honey & Darling / KANA-BOON
遠藤昌巳(ベース)が加入して、今の4人になって初めての、また谷口鮪が精神の不調による休養から復活しての新生KANA-BOON初のフルアルバム。
先行リリースされた「Re:Pray」や「スターマーカー」からも顕著であるが、とにかく作品全体から強く漂ってくるのは人間の生命力だ。それは時には煌めくような輝きとして、時には力強いバンドサウンドとして。そしてそこにさらに魂を吹き込むような鮪のボーカルも圧倒的に強くなった。生命が終わってしまう一歩手前まで行ってしまったところから這い上がってきた人間だからこそ、このアルバムには確固たる生命力の強さが宿らせることができている。生きている人間にしかできないこと、そのどん底まで行った人間にしか鳴らせないものが確かにある。今のKANA-BOONはそれを自覚的に鳴らそうとしている。今年ライブを見た数え切れないくらいいるバンドの中で最も生命力を強く感じたのはこのバンドだったし、そのバンドだからこそ作ることができた作品。
11. TIGHTROPE / 9mm Parabellum Bullet
収録曲10曲、収録時間約35分。その再生したらあっという間に終わってしまうという駆け抜けっぷりには9mmの金字塔的なアルバムである「Revolutionary」を彷彿とさせた人もたくさんいるんじゃないだろうか。(「Revolutionary」も10曲、約33分)
そしてそのスピードこそが9mmのアルバムたちを名盤たらしめていたことがわかるアルバムでもあるのだが、決して速い曲や激しい曲ばかりが並んでいるアルバムというわけでもない。むしろ目立つのは先行リリースされた「泡沫」のような歌を軸にしたミドルテンポの曲だ。そこに乗るメッセージも含めて、このアルバムは滝善充の腕の不調によるライブ一時離脱をはじめとして、順風満帆ではないどころか危機を何度も乗り越えてきた9mmが今「Revolutionary」のような金字塔を作るとこうなるということを示している。でもやっぱり落ち着いたり年相応の形態に変わっていったり…ということはなく、今でも爆裂メタルサウンドも鳴らしまくっているというのがこれからも9mmが続いていくということを示している。この数年の綱渡り的な活動をタイトルにしたかのようなアルバムであるが、その綱は切れることが全くないかのように太く、固い。
10. プラネットフォークス / ASIAN KUNG-FU GENERATION
この企画を始めてから、アジカンは全ての作品で20位以内にランクインしている。それだけ長い期間にクオリティの高い作品を作り続けてきたということでもあるのだが、一部で言われている「ゴッチのソロをアジカンでやっているアルバム」という言説には自分はNOだと言いたいアルバムでもある。
それを最大限に示しているのは山田貴洋が作詞(作曲じゃなくて)でゴッチと共作している「雨音」という曲がこのアルバムに収録されていて、その曲のエレクトロなサウンドがライブも含めてこれまでのアジカンにはないアクセントの曲になっているからだ。そんな曲をゴッチ単独ではなくて山田と共作で生み出したというのが、4人の中で誰よりもアジカンらしさを理解している山田、複雑なリズムも美味しい料理もお手の物(中津川でのジャンケン大会で勝って食べたパスタも美味だった)な伊地知潔、ナチュラルボーン・ロックスターの喜多建介、そしてその3人に支えられている慈愛に満ちた視線を持つゴッチという4人だからこそこのアルバムが生まれたことに他ならない。それはそのままアジカンの未来が「Be Alright」と親指を立てることができるものであることを示している。サウンドというよりもそのメンバーの関係性が見えることによって、最もアジカンらしいアルバムになっている。
9. ニューマニア / ハルカミライ
これまでのハルカミライの曲や音源は「ライブで見てこそ真価を発揮する」というものだった。それは前作「THE BAND STAR」リリース時もそう書いたが、あまりにもライブが凄まじすぎるが故に、それをそのまま音源に封じ込めることができていないというか、そもそも音源とライブが別物であるだけにそれは無理な話だというか。
そんなハルカミライの「ニューマニア」がここまでの傑作になったのは、語弊を恐れずに言えばめちゃくちゃポップだから。パンクバンドとしての激しさというよりも、J-POPシーンや地上波のテレビのど真ん中で流れてもおかしくないくらいのポップさ。そのポップさがそもそも持っているこのバンドのメロディの素晴らしさやキャッチーさを最大限に引き出すものになった。つまりはこれまでのアルバムとは向いているベクトルが全く違うとも言えるのだが、
「ねえ逃げ出さない?ねえここから」
と歌うこのバンドとともに日常社会から逃げ出した先へ向かうのは紛れもなくあの熱狂に溢れたライブハウスだ。どこまでもポップになったとしても、このバンドほどそこへ誘ってくれるバンドは他にいない。
8. But wait. Cats? / [Alexandros]
そもそもがコロナ禍以降のロックシーンを代表するアンセムである「閃光」と「Rock The World」が収録されているということからして名盤確定なアルバムであり、サトヤス勇退からのリアドが正式メンバーとして加入して初めての、新生[Alexandros]としてのデビューアルバムでもある。
だからこそ並々ならぬ気合いが入っているというのは全方位に向けてメンバーが影響を受けてきたであろうジャンルやサウンドが取り入れられた幅広さからもわかるのであるが、リリース直後の夏フェス出演時には早くもこのアルバムの収録曲をほぼ全曲演奏していた。数々のフェスにおけるアンセムを持つこのバンドがその曲たちを演奏せずにこのアルバムの曲を演奏した。それは「今やりたいのがこの曲たちだから」というロックバンドとしての正しい本能によるものであり、やるからにはワンマンかと思うほどのあらゆる演出を用いて見ている誰もの度肝を抜くような完成度で鳴らす。その姿はロックスター以外の何者でもなかった。その位置を狙い、担い続けてきたこのバンドはこのアルバムでそれを不動のものとしたのだ。このバンドは、このアルバムを聴いている我々は、ちょっとどころかもっと強くなれる。
7. コリンズ / 10-FEET
「もうアルバムは出ないんじゃないだろうか」とすら思うくらいに難産だった「The Fin.」からしたら割と早くアルバムが出来たな、と思っていたら5年というインターバルはその「The Fin.」のリリースと全く同じだった。そんなに空いた感覚がなかったのはシングルなどのリリースが定期的にあり、数え切れないくらいにやってきたライブで常にその新曲を演奏してきたからだろう。
その先行シングル曲である「ハローフィクサー」以降は3人以外の音であるシーケンスをより前面に押し出すようなサウンドになっているのであるが、それがバンドらしさを全く失っていないどころか、むしろ10-FEETとしてのミクスチャーロックさをさらに引き出しているのはその「ハローフィクサー」しかり、映画「SLAM DUNK」に起用された「第ゼロ感」しかり、そうしたサウンドの曲が名曲としか言えないくらいに、数々の名曲たちを更新する新たなアンセムになっているからだ。なんなら今の10-FEETのライブは「RIVER」や「goes on」をやらなくても成立するのもこの新曲たちの存在があるからであるし、これだけアルバムリリースペースはマイペースであっても失速しないどころか、さらに巨大な存在となり続けているのは京都大作戦の存在はもちろん、こうして素晴らしい曲であり作品をリリースし続けているバンドだからであることを改めて証明している。このアルバムに何曲か収録されているショートチューンたちはこれからもライブの持ち時間がギリギリの時などに鳴らされ、そこでさらなる熱狂を生み出してくれる景色が想像できる。
6. 酸欠少女 / さユり
2017年にリリースしたフルアルバム「ミカヅキの航海」が発売日のオリコンデイリーチャートで1位。このままビッグアーティストとしての道を歩んでいくようになるかと思いきや、弾き語りアルバム「め」のリリースこそ2020年にあったものの、実に5年の歳月を経てのセカンドアルバムリリースと、信じられないくらいに久しぶりのフルアルバム。
しかしタイトル曲「酸欠少女」、アニメの主題歌になった「花の塔」という冒頭2曲を聴いただけでもうこのアルバムが名盤であることがわかる。それと同時に入れ替わりが激しい女性シンガーソングライターという立ち位置でこれだけ長い期間アルバムが出なくてもさユりがその存在感を失うことがなかったこともわかる。それくらいにさユりにしか紡げないメロディがあって、さユりにしか歌えない歌がある。このアルバムはそんな曲だけで成り立っているし、改めてさユりが名曲だけを生み出してきたアーティストだということを実感させてくれる。かつてシングル発売時にタワレコのサイン会に行った時に自分は
「さユりさんのシングルはカップリング曲もタイトル曲に負けないくらいに良い曲しか入ってないからこうして毎回シングルを買ってます」
と伝えたら
「ああ、本当に嬉しい。ありがとうございます」
と言ってくれたことがある。それくらいに1曲1曲に手を抜くことができないから、これだけ時間が空いてしまうこともあるし、曲を生み出す時に自身の生きづらさがそのまま歌詞になったりもする。日本でその日に1番売れたアルバムを作っても変わることがなかったさユりの人間性や本質が今も泣きそうな酸欠少女のままで鳴っている。
5. Cとし生けるもの / リーガルリリー
リーガルリリーには初期から「リッケンバッカー」という蔦谷好位置も大絶賛していた名曲があって、本人たちもそれをわかっているのだろう、ライブでは必ず演奏するし、それをライブで研ぎ澄ませまくっている。でも今に至るまでリーガルリリーはその「リッケンバッカー」のような曲を量産することはしなかった。そうすれば今よりも売れているかもしれないし、ファンが喜ぶであろうことだってわかっているはず。でもそれを作ることなく、ただただ自分たちのインスピレーションの向かう方へ、自分たちが今本当にやりたいことの方へ向かい続けてきたバンドなのである。
それが今作「Cとし生けるもの」でも全く変わっていないというのは「東京」というタイトルの曲が
「ナイジェリアの風が」
というフレーズで始まるという支離滅裂にすら感じさせる歌詞で描かれていることからもわかるが、そんな自分たちを変えないままで「リッケンバッカー」的ではない名曲たちが揃ったのがこのアルバムだ。そこには今や化け物じみていると言っていいくらいに凄まじい迫力を誇る海とゆきやまのリズムの強さもしっかり封じ込められている。つまりは誰になんと言われようと自分たちの進んできた道が正しかったこと、これからもそうやって生きていくということを曲で、音で証明しているアルバム。まだ見たことがない人は一度是非ライブを見て欲しい。マジで意識や価値観が鳴らされている音によってぶっ飛ばされるから。
4. Come On!!! / the telephones
活動休止から復活しての前作「NEW!」も新たなthe telephonesの始まりを告げるような素晴らしかった作品だったが、今回の復活してからの2作目となる「Come On!!!」もやはり素晴らしい作品になった。
それはこのアルバムにはthe telephonesの代名詞とも言える「DISCO」という単語の入った曲がないということからも、そうしたこのバンドのイメージであるディスコパンク的なサウンドに縛られることなく、自由に今の自分たちがやりたいダンスミュージックを追求していることがわかるし、そこにはコロナ禍になってから制作されたことで、家の中で踊れるようにという想いがあったことも石毛輝はインタビューで語っていた。
その起点とも言える、いつどんな場所、どんな季節でも夏を感じさせてくれるトロピカルな「Caribbean」はアルバムラストに配し、むしろライブでもクライマックスを担うようになったアンセム性の高い「Yellow Panda」が中盤にいるという構図もとかく最後を壮大に締めがちだったこれまでのtelephonesのアルバムとは違う流れでもあるのだが、だからこそこのバンドの持つ実は最大の武器がひたすらにキャッチーなメロディであることが今まで以上にわかるアルバムになっている。ただ闇雲にはしゃぐだけでもないし、かと言って年相応に落ち着くわけでもない。そんなtelephonesの今の強さがなんなのかがこのアルバムにはしっかり封じ込められている。コロナ禍になって自分たちのライブの在り方に苦悩する期間もあったということをメンバーは口にしていたが、これからもtelephonesは絶対に大丈夫だし、これからも我々の精神を解放させて踊らせてくれるということをこのアルバムは示している。そんなアルバムのタイトルはやはりライブハウスに我々を誘っているのだ。
3. Harvest / 04 Limited Sazabys
もうリリースから4年も経った前作アルバム「SOIL」を聴いたときに腹が決まったというか、意思が統一されたアルバムだなと思った。それまではあらゆる音楽からの影響をフォーリミとして鳴らしていたのが、フォーリミはメロディックパンクバンドであり、これからもそうしたバンドとして生きていくということを宣言しているような。
4年ぶりとなる今回の「Harvest」もその延長線上にあるというか、収穫というタイトルが示すとおりに「SOIL」から今に至るまでのメロディックパンクバンドとしてのフォーリミの集大成のようなアルバムだ。それはそのサウンドこそがフォーリミのメロディの美しさが1番生きるものであるという確信をバンドが得たのかもしれないし、だからこそ「Honey」のような一聴するとパンクという感じがしないような、歌メロをひたすら研ぎ澄ませたような曲すらもあくまでパンクバンドとしてのポップな曲として響いているし、この曲は記念碑的なワンマンでしか演奏されない「Give me」のようにファンに長く深く愛されていく曲になっていく予感がしている。
そうして「これがフォーリミだ」と力強く宣言するようなこのアルバムを作った後にフォーリミはどこへ向かうのか。やりたいこともまだまだたくさんあるだろうけれど、往々にしてパンクバンドの寿命は短いということは歴史が物語っている。それでもパンクバンドとしてこんなに素晴らしい作品を作り出したフォーリミはそんな歴史を覆してくれると思っているし、きっと結局ずっとフォーリミが好きなはず。
2. For. / sumika
メジャーに移籍してから3枚目のアルバム。ほぼ1年に1枚くらいのペースでアルバムをリリースしてきたバンドであるし、これまでの2枚ですでにバンドの持っている幅の広さというものもしっかり打ち出してきた。そんな3枚目というタイミングでsumikaがこれほど素晴らしいアルバムを作ってくるとは想定していなかった。
先行リリースされた「Shake & Shake」や「Jasmine」という曲からの一瞬でその場を塗り替えてしまうようなアンセム感はアルバムへの期待を高まらせていたものでもあるが、片岡健太が
「一度バンドを終わらせるつもりで作った」
と制作背景をインタビューで語っていたように、確かに「Chime」も「AMUSIC」も良いアルバムだったが、このままの流れでアルバムをリリースしても「ホールツアーを回れるくらいのバンド」として落ち着いてしまうという危機感もあったんじゃないかと思う。そこだけにとどまることのない勝負の3作目。その勝負にバンドは曲、音楽の力で勝った。それはこのアルバムには優等生的なsumikaのイメージだけではない、「Babel」や「言葉と心」という曲があることによって喜怒哀楽全ての感情を1枚のアルバムで体現しているからであり、だからこそ聴き手がどんな感情の時にも寄り添ってくれたり背中を叩いてくれたりするアルバムになっているということだ。
そんな勝負に勝ったアルバムを作ったバンドは来年5月に横浜スタジアムでワンマンを行う。その規模で響かせるべき音楽がこのアルバムだということ。そのワンマンを経てsumikaが日本を代表するモンスターバンドになった時に、そこに達した最大の理由がこのアルバムだったと言えるような名盤がついに生まれた。
1. ONE MORE SHABON / 秋山黄色
CDを買ってきて最初に再生した時に真っ先に抱いた感想は「なんてノリにくい、複雑なリズムの曲とアルバムなんだ」ということ。こちらが乗ろうとしている通りのリズムで全然ドラムが鳴ってこない。だから聴いていてこちらの予想通りに全然いかない。それはそのまま自分の脳内や体内にはなかったリズムの音楽ということであるのだが、そうしてリズムが複雑になるとそこに乗るメロディも難解なもの、マニアックなものになってしまうと思っているのだけれど、秋山黄色の「ONE MORE SHABON」の楽曲のメロディには難解さやマニアックさ、とっつきにくさは全く感じない。「From DROPOUT」、「FIZZY POP SYNDROME」というアルバムたちで得たもの、確立したもの=それはつまり秋山黄色のとびっきりキャッチーなメロディが新しいリズムと融合している。それこそが自分がこのアルバムを1位に選出した理由だ。
ただ中には「なんでこいつを選ぶんだ」と思う人もいるかもしれないし、もちろん選んだからには先月の報道に触れないわけにはいかないと思う。もちろんやってしまったことはどんな理由があれ悪いことであるし、きっとそう報じられた事実もイメージも消えることはないだろうし、ずっとそういう目で見てくる人だっているだろう。
でも同じように秋山黄色が生み出したこの素晴らしい作品や今までの楽曲、ライブで口にしてきた言葉、そこで覚えた感動も決して消えることはない。これから先にもっと素晴らしいものを作って返していくしかないと思うくらいに自分がこの男が帰ってくるのを待っているのは、彼の音楽やライブから確かな人間としての優しさや温もりを感じてきたからであるし、もう音楽がなくなったら生きていけない人だとも思っているから。もし仮に世の中の誰しもが待っていなくても自分はもう一度どこかで会えたらいいなって、と思っているけれど、そう思ってる人はたくさんいるはず。その人たちもまた秋山黄色の音楽があるから、この世の中を生きることができたはず。そんな力を持った、今年最高傑作のアルバム「ONE MORE SHABON」。
「君が持つのならば拳銃だって怖くない」(「アク」)
秋山黄色にこのフレーズを言ってあげたい。
・20位以内には入らなかった2022年の名盤たち(順不同)
PROJECT / Hello Sleepwalkers
ヤバすぎるスピード / ハンブレッダーズ
MOONRAKER / WurtS
瞳へ落ちるよレコード / あいみょん
こんな時にかぎって満月か / TETORA
Ninja of For / the band apart
#4 / CRYAMY
七号線ロストボーイズ / amazarashi
angels / My Hair is Bad
Doping Panda / DOPING PANDA
伸び仕草懲りて暇乞い / ずっと真夜中でいいのに。
えんど・おぶ・ざ・わーるど / 東京初期衝動
ハッピーエンドへの期待は / マカロニえんぴつ
HAKKOH / SAKANAMON
Cocoon for the Golden Future / Fear, and Loathing in Las Vegas
A revolution / LOVE PSYCHEDELICO
帝国喫茶 / 帝国喫茶
リノセント / LUNKHEAD
Versus the night / yama
アンサンブル・プレイ / Creepy Nuts
Tough Layer / Scoobie Do
ANTHEMICS / The Ravens
ウタの歌 ONE PIECE FILM RED / Ado
1999 / にしな
TREASURE / The Wienners
Nonnegative / coldrain
サニーボトル / Saucy Dog
ミメーシス / 日食なつこ
STEADY / SHANK
Actor / 緑黄色社会
慈愚挫愚 参 -夢幻- / -真天地開闢集団- ジグザグ
超天獄 / 大森靖子
LANDER / LiSA
Les Mise blue / Syrup16g
SIX HUNDRED THIRTY THREE / 633
感情 / w.o.d
AFJB / AFJB
Break and Cross the Walls II / MAN WITH A MISSION
・2022年の20曲 (順不同)
KICK BACK / 米津玄師
ひたむき / SUPER BEAVER
スペシャル / SUPER BEAVER
SKETCH / 秋山黄色
私は最強 / Mrs. GREEN APPLE
ニュー・マイ・ノーマル / Mrs. GREEN APPLE
Honey / 04 Limited Sazabys
Rock The World / [Alexandros]
花の塔 / さユり
花火を見に行こう / a flood of circle
悲しいロック / CRYAMY
カオスが極まる / UNISON SQUARE GARDEN
ジャンキー / フレデリック
ショック! / サカナクション
ミラーチューン / ずっと真夜中でいいのに。
GOLD / KOTORI
恋のジャーナル / THE 2
つばさ / ハルカミライ
Starawberry Margarita / ELLEGARDEN
世界の終わりと夜明け前 / 東京初期衝動
・表彰2022
MVP:ハルカミライ
最優秀公演賞:[Alexandros] @代々木第一体育館 12/8
ヤバイTシャツ屋さん @日本武道館 8/25
新人王:Chilli Beans.
カムバック賞:ELLEGARDEN
きっとあの報道がなければMVPは秋山黄色にしていた。それくらいに作品もライブも素晴らしかった。しかしながらやはりこの件があった年にMVPにすることはできない。そうしたネガティブなことがない年にまたMVPにしたいという思いを込めて、MVPはチケットさえ取れるなら年間何十本でも観に行きたいと思えるライブを毎日のように日本のどこかでやりながらも音源もリリースしてきたハルカミライに。それはそのくらいにハルカミライのライブが毎回違うものであり、毎回が伝説というくらいのものであるからだ。年間163本ライブに行っていてそこまで思えるバンドはなかなかいない。
そんなライブに行きまくる生活を続ける中での最優秀公演に選んだのは[Alexandros]の代々木体育館でのワンマン。それはもちろん声を出せる、一緒に歌えるという要素があってこそであるが、今年の秋以降にそうした声が出せるライブに何回か参加できて、声が出せない期間でもライブにずっと行き続けて良かったと思えた。
それは声が出せない期間にライブに行き続けたからこそ、我々が声を出せる、一緒に歌えるということがどれだけ尊いことで、感動できることなのかということを今ならコロナ禍になる前よりもわかるから。それを最も感じさせてくれたのが[Alexandros]の代々木体育館だった。
それとはまた別の意味で忘れられない初武道館ライブ-それは絶対にこのバンドにしかできないライブ-を見せてくれたヤバTは来年アルバムをリリースすることを発表している。来年の年間ベスト、MVPとしてすでに最有力になる予感を感じさせてくれる。つまりはそうした発表が来年までも、これから先も生きてライブに行き続けたいと思わせてくれるのだ。