THE KEBABS 「THE KEBABS 必死」 @豊洲PIT 12/16
- 2022/12/17
- 20:28
絶賛a flood of circleもUNISON SQUARE GARDENもフル稼働中なのはいつも通りであるが、そのフラッドの佐々木亮介がボーカル、ユニゾンの田淵智也がベースのTHE KEBABSもまたフル稼働中なのもいつも通りである。なので年明けに開催されたアルバムのリリースツアーに続いてこの年末にもツアーを開催。東名阪だけとはいえ、ツアーファイナルとなるこの日はライブハウスとしては全国最大キャパの豊洲PITでのワンマン。夜景などによってどこかハイソサエティな雰囲気のある豊洲はあまりこのバンドには似合わない街な気もするけど。
開演時間の19時になると前説としてスタッフが登場して前説を行うのであるが、
「必死にやったんですけど売り切れませんでした(笑)」
というくらいに客席は実にゆとりがある状態。物販では会場限定CDが販売されているだけに長蛇の列ができていたが。
そんな前説の後にすぐに暗転してメンバーがステージに登場。田淵はテンション高く踊るようにしながらも手には缶チューハイのようなものが握られているのはこのバンドのライブならではであるし、亮介が革ジャンではなくジャージ的な出で立ちであるのもこのバンドのライブならでは。手に緑茶割りが握られているのはフラッドの時と変わらないものであるが。
亮介がTHE KEBABSの時のおなじみである紫色のボディのギターを弾きながら
「何気ない今日こそ 何気ない今日こそ とっても楽しい」
と歌い始める「ピアノのある部屋で」からスタートし、田淵も新井弘毅(ギター)も飛び跳ねながら演奏する姿が、まさに何気ないこの日を早くもとても楽しいものにしてくれている。アメリカ国旗的なペイントが施された新井のギターソロも実にメロディアスで、そのサウンドでも我々を楽しくさせてくれる。
さらにはもう完全に肌寒すぎる冬に突入していてもこの曲を聴けば春の陽気に包まれるような「うれしいきもち」と、どシンプルなロックンロールバンドでありながらもメロディアスな曲が続くというオープニング。そこには亮介のロックンロールでしかないしゃがれた歌声とはまた違う田淵のボーカルが聴ける(ユニゾンでは斎藤宏介がいるだけにメインで歌うことはまずないけれど普通に田淵は歌が上手い)という要素もあるかもしれないが、亮介と新井はその田淵のボーカル時に近寄ってその歌う姿をじっと見つめるというのもこのバンドらしい楽しさである。
観客も腕を上げたり飛び跳ねたりして思い思いに楽しんでいるのだが、そんな観客を
「かわいい!かわいい!」
と評した亮介が歌うのは新曲「かわかわ」。もうそのタイトルが全てというくらいに田淵と新井もタイトルフレーズをコーラスするのであるが、この冒頭からの流れで演奏されるのにふさわしいくらいにメロディアスな曲である。「プリクラ」はともかく「インスタ」というフレーズが飛び出す歌詞もそれぞれの普段の活動では聴くことができないものかもしれない。
ハンドマイクになったことによって身軽になった亮介は鈴木浩之(ドラム)のさらに強力かつ手数が増したドラムに乗せて歌いながらステージ左右の花道を進んでいく…そう、この日のライブは集客がそこまででもないことを逆に利用するかのように、ステージからそれぞれ上手と下手に花道が作られているのである。亮介がそこを歩み出ながら
「LOVE and PEACE! 戦争やめよう!」
というフレーズをより力を込めるようにして歌う「やさしくされたい」はひたすら無意味なことを歌詞にしているようなイメージすらあるTHE KEBABSが今この曲を誰に向かって歌っているのかということがよくわかる。新井も花道の先へ行ってギターソロを弾きまくるのはもちろん、田淵までもマイクスタンドを花道のすぐ手前に運びながら花道を進んで観客の目の前で演奏するという姿は実に新鮮であるが、新井も田淵もアンプにシールドを繋いでいるプレイヤーであるためにそのシールドが絡まないようにするローディーの方々が大変そうでもある。
亮介が腕を上げながら歌うことによってそのメロディがさらに伸びやかに感じる「Bチームでも」はデモCDのみでアルバム未収録という立ち位置であるだけにこうしてライブで聴くことができるのは嬉しいし、とかく音が良くないイメージが強いこの会場でも亮介の歌声はハッキリとしっかりと響く。それはフラッドとしてこの規模の会場、なんならホールなどでもライブをやってきた成果とも言えるだろうし、このバンドのシンプル極まりないバンドサウンドによるものとも言えるだろう。
派手な照明が次々に色を変えていく「ジャンケンはグー」では曲中に亮介が田淵に密着してのボーカルとコーラスの掛け合いも見せてくれるのであるが、音源では大胆にシンセのサウンドを導入しているこの曲でもTHE KEBABSは同期などを使わず、サポートメンバーを入れることもないだけに、新井のギターのカッティングがファンクの要素を強く感じさせるように鳴らされる。ライブで音源を再現できないなら別のやり方でやっちゃえばいいじゃんというTHE KEBABSのスタンスが伝わってくるかのようなアレンジである。
かと思えば田淵のゴリゴリのベースと鈴木の高速ドラム、さらにはもう演奏していながらにしてはしゃいでいるかのように花道に進んだりするメンバーの姿までもがTHE KEBABSのロックンロールであることを示すかのような「恐竜あらわる」と、信じられないくらいの猛スピードで次々に曲を演奏し、しかも機材チェンジもないだけによりテンポ良くライブが続いていくのであるが、その中でもこれだけサウンドやテイストが変わっていくというあたりは無邪気にしか見えないこのメンバーたちによるこのバンドがやはり達人の集団であることを示している。
それは亮介と田淵が大好きなthe pillowsの影響を受けて作られた「枕を変えたら眠れない」の、聴いているだけで笑顔にならざるを得ないくらいにキャッチーかつポジティブな力に満ちた陽性のロックンロールもそうであるが、かつてユニゾンが掲げていた「ロックバンドは楽しい」という文言をこんなにも実践しているバンドはほかにないんじゃないかと思うくらいに、気が合う仲間たちとバンドをやるのって本当に楽しいんだろうなとその姿を見ていると思う。
「欲しいのはお前だけ」
のフレーズで思いっきり観客の方を指差して歌う亮介のロックンロールスターでしかないその姿も、全てが「楽しい」という感情に集約されていく。
なのだがここで演奏された、会場限定販売CDのタイトル曲になっている「ともだちのうた」はそんな空気がちょっと変わる。学校に来なくなってしまった友達に向けるように
「元気でいてくれ」
と繰り返されるこの曲は亮介と田淵の作る曲にどうしようもない切なさが宿ってきたことを感じさせるようなバラード曲だ。その曲を学生じゃなくなってもこんなにも説得力を持って響かせることができるボーカルは亮介以外にそうそういないであろうと聴いていて思うし、フラッドがこれまでに生み出してきた名バラード曲たちに連なるメロディの美しさも感じる曲である。
そんな曲を
「こんな良い曲あったんだ?って思ったでしょ?(笑)」
と紹介し、会場で販売されているCDに収録されていることを語りながらも、
「MCで物販の紹介するのはロックンロールじゃない(笑)」
とも言って他の物販の紹介はしないのであるが、やはりこのバンドというかこのメンバーとしては斬新な試みである花道について田淵は
「ユニゾンでフェスに出たりするとたまにあったりするんだけど、楽屋で「絶対使わないようにしよう」って話してる(笑)」
というくらいにやはりこうしたセットでライブをやるようなイメージがないが、亮介ともども
「めちゃくちゃ楽しい(笑)」
とこの花道を使えることを実に楽しんでいる様子。新井は
「序盤から使い過ぎた(笑)普通はもうちょっと勿体ぶって後半とかに使うもんじゃない?(笑)」
とサポート経験が豊富であるだけにこのバンドの花道の使い方が新鮮かつ斬新であるように感じているようだ。むしろ1番率先して花道を使いまくっている感すらあるが、こんなこの3人を見ることができるのはこのバンドのライブでしかないだろう。
「大阪のフェスに出る時に新井さんがコロナに感染して。3人で出るか、佐々木亮介弾き語りか、田淵の漫談かで悩んでたら田淵さんから新曲がいきなり送られてきて、明日やるぞって(笑)俺その日仙台でライブしていたのに(笑)まぁできちゃうけど(笑)」
というそんな新曲が生まれたエピソードを語ると、後に演奏されたのはまさかのさらなる新曲「パリはもえているか」。「ともだちのうた」がバラードであっただけに真逆と言っていいくらいのストレートなロックンロールサウンドの曲なのだが、このタイトルはやはり映画から取られていて、このバンドなりのその映画のテーマソングという愛情の示した方だったりするのだろうか。ともあれこうしてそれぞれが忙しい中でも新曲が生まれまくっているというのはこれからもこうしてTHE KEBABSのライブを見ることができる喜びをも感じられる。
そんな新曲もこのバンドも、この日ここに集まった観客も全てがすごくやばいだけにここで演奏されたのは新井がぴょんぴょん飛び跳ねながらギターを弾く姿が微笑ましい「すごいやばい」なのだが、何故か曲中にステージには大量のスモークが噴出されまくったことによってメンバーの姿が隠れるくらいになり、亮介は
「すごくケムすぎる」
と歌詞を変えて観客を笑わせてくれる。こうした演出もまた花道同様にこの規模の会場だからこそのものであるだろうけれど、今まではこうしたことをしてこなかっただけに実に新鮮である。
そんなメロディアスな「すごいやばい」から一気に急スピードになるのは「チェンソーだ!」であり、アニメ化される前からチェンソーマンへの愛を表明していた亮介ならではの曲である。
「悪魔が呼んでいる」
「鮫でも」
というフレーズからもそのチェンソーマン愛を感じられるのであるが、それをこんなにカッコいいダンスロックンロールへと昇華しているだけに、米津玄師「KICK BACK」には勝てないまでもなんらかの形でアニメとタイアップさせてあげたいと思う曲である。それくらいにタイムリーかつライブハウスで我々を踊らせてくれる。
さらにもう1つの新曲として演奏されたのはバンド名が入っているシリーズである「THE KEBABSを抱きしめて」であるが、このシリーズの中で最もタイトルの意味がわからないというのは特別ラブソングという感じでもない曲だからであるが、
「最終列車が来る前に 離れ離れになっちまう前に」
というサビのメロディの強さはさすが亮介であり田淵である。勢い一発の曲的な感じの曲ばかりというイメージが強いかもしれないが、こうしてメロディが本当に美しいからこそ、「亮介と田淵のバンド」という概念すら飛び越えてこうしてたくさんの人に愛され、その人たちを笑顔にしているのだ。というか実はこのバンドは普通にめちゃ良い曲を作りまくっていて、それが集まって名盤アルバムになっているバンドなのであるが。
そんなこのバンドのメロディの素晴らしさ(というかそれはフラッドのソングライターの亮介とユニゾンのソングライターの田淵がいる段階で確定事項であるが)をこの上ないくらいに感じさせてくれるのは亮介が
「今年の冬はサンタクロースが来るといいね」
と歌詞を時期に合わせて歌い、途中にはやはり
「今年の夏は海に行こうぜ! 山にも行こうぜ! お祭りしようぜ!」
と高らかに叫ぶようにして歌う「ラビュラ」。今年は去年と違って夏フェス(ロッキン)でこのバンドのライブを見れた。そういう意味ではこの曲の歌詞に宿る哀愁を感じすぎてしまう世の中からは脱してきているのかもしれないが、それでもこの曲を聴くとどこにも行けなかった、何も出来なかった2020年の夏の悔しさが蘇ってくる。田淵が歌うサビのメロディの美しさがよりその想いを募らせることによって、今でも泣いてしまいそうになるくらいだ。
しかしMCはそんな感傷は一切感じさせることなく、最近はWurtSのライブのサポートもしているだけに実は1番忙しい存在である新井がスケジュールをくれないからあまり活動ができないと田淵が愚痴ると新井は
「なんかTHE KEBABSのライブが久しぶりだったから、俺こんな感じでステージ立っていいんだな〜って今日の最初の方はギター弾きながら笑っちゃった(笑)」
と言うのだが、それは新井がサポートミュージシャンであるだけではなくてれっきとしたこのバンドの現在進行形のメンバーであり、バンドマンであり続けているからこそ感じられることである。田淵も実は
「THE KEBABSの曲は練習しなくても大丈夫だろうと思ってたら初日の大阪で全然曲覚えてなくてめちゃくちゃ丁寧にリハやった(笑)」
とのこと。それは同時にフェスなどでも毎回セトリを変えるユニゾンの曲を常にしっかり練習して覚えているということでもある。それもまたこのバンドが活動しているからこそ感じられることである。
「開演20分くらい前にモニターで客席の様子見たら、オールナイトイベントの3時台くらいの感じだったけど、結構入ってるように見えるね。隣にバーベキュー場あるし、みんなでフットサルやって筋肉痛になってから花道でバーベキューやるか(笑)煙とか出て怒られるかもしれないけど(笑)」
というチケットが売り切れていなくて後ろの方には踊れるスペースがたくさんある状況だからこそのMCで田淵が笑わせつつ、花道を含めてステージ上を歩き回る亮介は
「油断するなよ!急に来るぞ!」
と口にすると本当にその言葉のとおりに「急に来る」が演奏されてまたライブモードに突入していく。しかもそれがガラッとスイッチが切り替わるような勢いに溢れるロックンロールであるだけにMCの緩さとのギャップが凄い。そもそもユニゾンではほぼ全くMCをしない田淵と、このメンバーだからこそ緩くなる亮介であるだけに。フラッドでもユニゾンでもそう感じるようなライブはほとんどない。
そんなTHE KEBABSの新曲シリーズの最後が田淵がタイトルのまんまのTシャツを着用している「ゴールデンキウイ」であり、なんで敢えてこのテーマを曲にしたのかというのが気になるところではあるが、その無意味性こそがTHE KEBABSのロックンロールの楽しさに繋がっているというのを証明するものである。というか「ゴールデンキウイ」に深読みするようなものが全くないのであるが、そんな無意味性のロックンロールの極みのような曲である。
さらにはこちらも「ジャンケンはグー」と同様にシンセを使った音源のサウンドが鈴木の高速かつ手数の多いリズムによって性急なロックンロールへとライブアレンジされる「てんとう虫の夏」で3人はやはり花道を先に進んで演奏して歌う。そうした姿やアレンジも含めてライブがそのまま音源になっていることも多いTHE KEBABSの中でも随一のライブ映えする曲になっている。だからこそライブだけで聴くと
「シンセサイザー」
というサビのフレーズがわけがわからないものになってもいるのだけど、それもまたTHE KEBABSだからこそ許されるものである。間奏では鈴木、田淵、新井の順にソロ回しが展開されて最後には3人がドラムセットに集まって音を合わせるのであるが、その隙にいったんステージから去った亮介は袖からビール6缶パックを持って出てきて当たり前のように開封して飲み始めるというのもこのバンドのライブだから許されるものである。(亮介は最近フラッドのライブではビールを飲んでいない)
ステージには再びスモークが立ち込めてくるのは「台風ブンブン」。もうストレート過ぎるくらいにストレートなロックンロールであるだけに新井のギターも田淵のベースも巧さというよりは思いっきり力を込めて鳴らすというようなものになっており、それを牽引する鈴木のドラムのビートも原曲よりさらに速くなっているというあたりがこのバンドのロックンロールバンドにしてライブバンドたる所以である。
その鈴木が祭囃子のようなビートで曲間を繋ぐと、そのリズムに合わせて田淵も踊るように花道に飛び出してくると、その花道に撮影スタッフを上げてステージ上でメンバーを至近距離で撮影するようになっての「猿でもできる」で観客も踊りまくる。ここにきてのこの爆裂っぷりもまたTHE KEBABSならではのスピード感によるものであるが、田淵だけではなく亮介も新井もカメラに向かって歌い演奏するだけにこのライブを映像として見れるのも楽しみになる。そんなスタッフも含めた自由っぷりもTHE KEBABSのライブならではというか、普通に映像作品用にライブを撮影してる中でこんなことをやったら間違いなく怒られるだろうけれど、それすらも楽しいものになっているのがこのバンドのライブである。
そんなライブの最後はやっぱり新井のリフが響く「THE KEBABSのテーマ」。亮介は缶ビール片手に鈴木のドラムセットの背後に回って
「イケメンですね〜 ドラム上手いですね〜」
と鈴木を褒めまくるバージョンに歌詞を変えて歌う。それはこうして鈴木も含めてこのメンバーでバンドをできていることの喜びを感じさせてくれる。まだ観客は声を出すことはできないけれど、
「いかしたやつら」
のフレーズを早くメンバーとまた一緒に歌いたいと思う。その思いは曲中のメンバーも跳び上がりまくる
「THE KEBABS!」
のフレーズで観客も飛び跳ねまくる姿として現れている。それが本当に楽しいし、その楽しいが全て音から感じられる。やはりTHE KEBABSはいかしたやつらでしかなかったのである。
アンコールで再びメンバーがステージに現れると、このツアーの物販のTシャツと来年3月に発売が決定した新作EPのフライヤーを持って登場してそれを花道の前まで歩いてしっかり観客に見せつけるようにする。Tシャツを持っているのはスタッフであるが、そのTシャツは最後には亮介のマイクスタンドに掛けられることになるのであるが、そんな視覚のみによる告知から亮介もギターを持ってすぐに演奏が始まったのは昨年リリースしたアルバム「セカンド」の最後に収録されていた「夢がいっぱい」であり、まさにそのタイトル通りでしかないくらいにロマンと楽しさがこの会場に溢れていく。来年も、これからもTHE KEBABSには夢がいっぱいであることがこの曲のサウンドと光景からははっきりと伝わってくる。亮介がこんな子供らしいとすら言えるような歌詞を書くとはという感じは今もあるけれど。
そんな「夢がいっぱい」の景色を新井が
「すげぇいいなと思った。やっぱりTHE KEBABS楽しいからまたすぐやりたいなって」
と口にするのだが、亮介と田淵からはやっぱりその新井が1番スケジュールを合わせるのが大変であるだけに、
「新井さん言ったからな!(笑)」
と言質を取ったように言うのだが、常にライブをやりまくっているフラッドやユニゾン以上にスケジュールを合わせられないというあたりに新井の忙しさが伺える。
そんなMCも含めてこの日のライブは新作EPに収録されるのだが、天邪鬼な亮介は
「このMCを収録できないように(笑)」
と山下達郎「クリスマス・イブ」を歌い始めて観客を爆笑させるのであるが、その歌詞の中で先ほどTシャツを持ってステージに登場してきたマネージャー氏がこの日のライブをもって卒業することへの労いを込めたものに変えて歌うことによって爆笑から一気にしんみりしたものにさせる亮介はやっぱり凄いしズルい。何よりも人と向き合ってきた人間だからこそこうしたことができるのだ。
そんなMCを経てもさらにロックンロールに突っ走るように鈴木のドラムの速さと手数がさらに増す「THE KEBABSは忙しい」でラストスパートへと突入すると、3人も再び花道に進みまくっていき、リリースは決まっていてもライブはまだ全く決まっていない多忙バンドとしての心境をロックンロールに乗せると、亮介が花道の先に缶ビール片手に突き進みながら、酒を持っている観客に「乾杯!」と缶を当てて飲みながら歌う「ロバート・デ・ニーロ」の
「ロバート・デ・ニーロの袖のボタン」
という1ミリも意味がないサビのフレーズがこんなにも壮大に響くというのがTHE KEBABSのロックンロールの魔法だ。そのフレーズを歌いながら缶ビールを高く掲げる亮介の姿を見るとこちらも腕を高く上げざるを得ないし、やっぱりTHE KEBABSはとんでもなくカッコいいバンドだと思える。こんな歌詞がロックンロールになるようなバンドなんて世界中のどこを探しても絶対にいないだろうから。
そんな「ロバート・デ・ニーロ」で大団円を迎えたかと思いきや、田淵は亮介に「あと1曲」的なジェスチャーをし、亮介がそれを鈴木と新井に伝えて演奏されたのはこの日2回目の「THE KEBABSのテーマ」なのだが亮介は
「おまけ〜 これはおまけ〜」
と初っ端から連呼し、鈴木が原曲とリズムを速くも遅くも変えまくることによって1回目とも音源とも全く違う「THE KEBABSのテーマ」になる。それでも
「THE KEBABS!」
のフレーズで飛び跳ねまくる部分は変えることなく、亮介、新井、田淵は花道へ進んで自分たちも飛び跳ねまくる。演奏後には観客に写真を撮ることを許可するあたりも含めてやっぱりTHE KEBABSはいかしたやつらだったのだ。
THE KEBABSを見ているといつも思うのは、フラッドのボーカルとユニゾンのベーシストがいるバンドなのにそれらのバンドを見終わった時とは全く違う感覚を抱くということ。つまりはTHE KEBABSはTHE KEBABSでしかないものを与えてくれるし、とかく曲や活動に意味を求めたり探ってしまうようになるくらいに歴が長くなり、シーンにおいて重要になったフラッドとユニゾンとは違って、THE KEBABSは良い意味で軽い。世の中がどうあっても、我々の状況がどうあっても、頭の中を空っぽにして楽しくさせてくれるロックンロール。これからもきっとそのまま変わることなくこのバンドは続いていくのだろうし、そのままで我々のことも幸せにしてくれ。
1.ピアノのある部屋で
2.うれしいきもち
3.かわかわ
4.やさしくされたい
5.Bチームでも
6.ジャンケンはグー
7.恐竜あらわる
8.枕を変えたら眠れない
9.ともだちのうた
10.パリはもえているか
11.すごいやばい
12.チェンソーだ!
13.THE KEBABSを抱きしめて
14.ラビュラ
15.急に来る
16.ゴールデンキウイ
17.てんとう虫の夏
18.台風ブンブン
19.猿でもできる
20.THE KEBABSのテーマ
encore
21.夢がいっぱい
22.THE KEBABSは忙しい
23.ロバート・デ・ニーロ
24.THE KEBABSのテーマ
開演時間の19時になると前説としてスタッフが登場して前説を行うのであるが、
「必死にやったんですけど売り切れませんでした(笑)」
というくらいに客席は実にゆとりがある状態。物販では会場限定CDが販売されているだけに長蛇の列ができていたが。
そんな前説の後にすぐに暗転してメンバーがステージに登場。田淵はテンション高く踊るようにしながらも手には缶チューハイのようなものが握られているのはこのバンドのライブならではであるし、亮介が革ジャンではなくジャージ的な出で立ちであるのもこのバンドのライブならでは。手に緑茶割りが握られているのはフラッドの時と変わらないものであるが。
亮介がTHE KEBABSの時のおなじみである紫色のボディのギターを弾きながら
「何気ない今日こそ 何気ない今日こそ とっても楽しい」
と歌い始める「ピアノのある部屋で」からスタートし、田淵も新井弘毅(ギター)も飛び跳ねながら演奏する姿が、まさに何気ないこの日を早くもとても楽しいものにしてくれている。アメリカ国旗的なペイントが施された新井のギターソロも実にメロディアスで、そのサウンドでも我々を楽しくさせてくれる。
さらにはもう完全に肌寒すぎる冬に突入していてもこの曲を聴けば春の陽気に包まれるような「うれしいきもち」と、どシンプルなロックンロールバンドでありながらもメロディアスな曲が続くというオープニング。そこには亮介のロックンロールでしかないしゃがれた歌声とはまた違う田淵のボーカルが聴ける(ユニゾンでは斎藤宏介がいるだけにメインで歌うことはまずないけれど普通に田淵は歌が上手い)という要素もあるかもしれないが、亮介と新井はその田淵のボーカル時に近寄ってその歌う姿をじっと見つめるというのもこのバンドらしい楽しさである。
観客も腕を上げたり飛び跳ねたりして思い思いに楽しんでいるのだが、そんな観客を
「かわいい!かわいい!」
と評した亮介が歌うのは新曲「かわかわ」。もうそのタイトルが全てというくらいに田淵と新井もタイトルフレーズをコーラスするのであるが、この冒頭からの流れで演奏されるのにふさわしいくらいにメロディアスな曲である。「プリクラ」はともかく「インスタ」というフレーズが飛び出す歌詞もそれぞれの普段の活動では聴くことができないものかもしれない。
ハンドマイクになったことによって身軽になった亮介は鈴木浩之(ドラム)のさらに強力かつ手数が増したドラムに乗せて歌いながらステージ左右の花道を進んでいく…そう、この日のライブは集客がそこまででもないことを逆に利用するかのように、ステージからそれぞれ上手と下手に花道が作られているのである。亮介がそこを歩み出ながら
「LOVE and PEACE! 戦争やめよう!」
というフレーズをより力を込めるようにして歌う「やさしくされたい」はひたすら無意味なことを歌詞にしているようなイメージすらあるTHE KEBABSが今この曲を誰に向かって歌っているのかということがよくわかる。新井も花道の先へ行ってギターソロを弾きまくるのはもちろん、田淵までもマイクスタンドを花道のすぐ手前に運びながら花道を進んで観客の目の前で演奏するという姿は実に新鮮であるが、新井も田淵もアンプにシールドを繋いでいるプレイヤーであるためにそのシールドが絡まないようにするローディーの方々が大変そうでもある。
亮介が腕を上げながら歌うことによってそのメロディがさらに伸びやかに感じる「Bチームでも」はデモCDのみでアルバム未収録という立ち位置であるだけにこうしてライブで聴くことができるのは嬉しいし、とかく音が良くないイメージが強いこの会場でも亮介の歌声はハッキリとしっかりと響く。それはフラッドとしてこの規模の会場、なんならホールなどでもライブをやってきた成果とも言えるだろうし、このバンドのシンプル極まりないバンドサウンドによるものとも言えるだろう。
派手な照明が次々に色を変えていく「ジャンケンはグー」では曲中に亮介が田淵に密着してのボーカルとコーラスの掛け合いも見せてくれるのであるが、音源では大胆にシンセのサウンドを導入しているこの曲でもTHE KEBABSは同期などを使わず、サポートメンバーを入れることもないだけに、新井のギターのカッティングがファンクの要素を強く感じさせるように鳴らされる。ライブで音源を再現できないなら別のやり方でやっちゃえばいいじゃんというTHE KEBABSのスタンスが伝わってくるかのようなアレンジである。
かと思えば田淵のゴリゴリのベースと鈴木の高速ドラム、さらにはもう演奏していながらにしてはしゃいでいるかのように花道に進んだりするメンバーの姿までもがTHE KEBABSのロックンロールであることを示すかのような「恐竜あらわる」と、信じられないくらいの猛スピードで次々に曲を演奏し、しかも機材チェンジもないだけによりテンポ良くライブが続いていくのであるが、その中でもこれだけサウンドやテイストが変わっていくというあたりは無邪気にしか見えないこのメンバーたちによるこのバンドがやはり達人の集団であることを示している。
それは亮介と田淵が大好きなthe pillowsの影響を受けて作られた「枕を変えたら眠れない」の、聴いているだけで笑顔にならざるを得ないくらいにキャッチーかつポジティブな力に満ちた陽性のロックンロールもそうであるが、かつてユニゾンが掲げていた「ロックバンドは楽しい」という文言をこんなにも実践しているバンドはほかにないんじゃないかと思うくらいに、気が合う仲間たちとバンドをやるのって本当に楽しいんだろうなとその姿を見ていると思う。
「欲しいのはお前だけ」
のフレーズで思いっきり観客の方を指差して歌う亮介のロックンロールスターでしかないその姿も、全てが「楽しい」という感情に集約されていく。
なのだがここで演奏された、会場限定販売CDのタイトル曲になっている「ともだちのうた」はそんな空気がちょっと変わる。学校に来なくなってしまった友達に向けるように
「元気でいてくれ」
と繰り返されるこの曲は亮介と田淵の作る曲にどうしようもない切なさが宿ってきたことを感じさせるようなバラード曲だ。その曲を学生じゃなくなってもこんなにも説得力を持って響かせることができるボーカルは亮介以外にそうそういないであろうと聴いていて思うし、フラッドがこれまでに生み出してきた名バラード曲たちに連なるメロディの美しさも感じる曲である。
そんな曲を
「こんな良い曲あったんだ?って思ったでしょ?(笑)」
と紹介し、会場で販売されているCDに収録されていることを語りながらも、
「MCで物販の紹介するのはロックンロールじゃない(笑)」
とも言って他の物販の紹介はしないのであるが、やはりこのバンドというかこのメンバーとしては斬新な試みである花道について田淵は
「ユニゾンでフェスに出たりするとたまにあったりするんだけど、楽屋で「絶対使わないようにしよう」って話してる(笑)」
というくらいにやはりこうしたセットでライブをやるようなイメージがないが、亮介ともども
「めちゃくちゃ楽しい(笑)」
とこの花道を使えることを実に楽しんでいる様子。新井は
「序盤から使い過ぎた(笑)普通はもうちょっと勿体ぶって後半とかに使うもんじゃない?(笑)」
とサポート経験が豊富であるだけにこのバンドの花道の使い方が新鮮かつ斬新であるように感じているようだ。むしろ1番率先して花道を使いまくっている感すらあるが、こんなこの3人を見ることができるのはこのバンドのライブでしかないだろう。
「大阪のフェスに出る時に新井さんがコロナに感染して。3人で出るか、佐々木亮介弾き語りか、田淵の漫談かで悩んでたら田淵さんから新曲がいきなり送られてきて、明日やるぞって(笑)俺その日仙台でライブしていたのに(笑)まぁできちゃうけど(笑)」
というそんな新曲が生まれたエピソードを語ると、後に演奏されたのはまさかのさらなる新曲「パリはもえているか」。「ともだちのうた」がバラードであっただけに真逆と言っていいくらいのストレートなロックンロールサウンドの曲なのだが、このタイトルはやはり映画から取られていて、このバンドなりのその映画のテーマソングという愛情の示した方だったりするのだろうか。ともあれこうしてそれぞれが忙しい中でも新曲が生まれまくっているというのはこれからもこうしてTHE KEBABSのライブを見ることができる喜びをも感じられる。
そんな新曲もこのバンドも、この日ここに集まった観客も全てがすごくやばいだけにここで演奏されたのは新井がぴょんぴょん飛び跳ねながらギターを弾く姿が微笑ましい「すごいやばい」なのだが、何故か曲中にステージには大量のスモークが噴出されまくったことによってメンバーの姿が隠れるくらいになり、亮介は
「すごくケムすぎる」
と歌詞を変えて観客を笑わせてくれる。こうした演出もまた花道同様にこの規模の会場だからこそのものであるだろうけれど、今まではこうしたことをしてこなかっただけに実に新鮮である。
そんなメロディアスな「すごいやばい」から一気に急スピードになるのは「チェンソーだ!」であり、アニメ化される前からチェンソーマンへの愛を表明していた亮介ならではの曲である。
「悪魔が呼んでいる」
「鮫でも」
というフレーズからもそのチェンソーマン愛を感じられるのであるが、それをこんなにカッコいいダンスロックンロールへと昇華しているだけに、米津玄師「KICK BACK」には勝てないまでもなんらかの形でアニメとタイアップさせてあげたいと思う曲である。それくらいにタイムリーかつライブハウスで我々を踊らせてくれる。
さらにもう1つの新曲として演奏されたのはバンド名が入っているシリーズである「THE KEBABSを抱きしめて」であるが、このシリーズの中で最もタイトルの意味がわからないというのは特別ラブソングという感じでもない曲だからであるが、
「最終列車が来る前に 離れ離れになっちまう前に」
というサビのメロディの強さはさすが亮介であり田淵である。勢い一発の曲的な感じの曲ばかりというイメージが強いかもしれないが、こうしてメロディが本当に美しいからこそ、「亮介と田淵のバンド」という概念すら飛び越えてこうしてたくさんの人に愛され、その人たちを笑顔にしているのだ。というか実はこのバンドは普通にめちゃ良い曲を作りまくっていて、それが集まって名盤アルバムになっているバンドなのであるが。
そんなこのバンドのメロディの素晴らしさ(というかそれはフラッドのソングライターの亮介とユニゾンのソングライターの田淵がいる段階で確定事項であるが)をこの上ないくらいに感じさせてくれるのは亮介が
「今年の冬はサンタクロースが来るといいね」
と歌詞を時期に合わせて歌い、途中にはやはり
「今年の夏は海に行こうぜ! 山にも行こうぜ! お祭りしようぜ!」
と高らかに叫ぶようにして歌う「ラビュラ」。今年は去年と違って夏フェス(ロッキン)でこのバンドのライブを見れた。そういう意味ではこの曲の歌詞に宿る哀愁を感じすぎてしまう世の中からは脱してきているのかもしれないが、それでもこの曲を聴くとどこにも行けなかった、何も出来なかった2020年の夏の悔しさが蘇ってくる。田淵が歌うサビのメロディの美しさがよりその想いを募らせることによって、今でも泣いてしまいそうになるくらいだ。
しかしMCはそんな感傷は一切感じさせることなく、最近はWurtSのライブのサポートもしているだけに実は1番忙しい存在である新井がスケジュールをくれないからあまり活動ができないと田淵が愚痴ると新井は
「なんかTHE KEBABSのライブが久しぶりだったから、俺こんな感じでステージ立っていいんだな〜って今日の最初の方はギター弾きながら笑っちゃった(笑)」
と言うのだが、それは新井がサポートミュージシャンであるだけではなくてれっきとしたこのバンドの現在進行形のメンバーであり、バンドマンであり続けているからこそ感じられることである。田淵も実は
「THE KEBABSの曲は練習しなくても大丈夫だろうと思ってたら初日の大阪で全然曲覚えてなくてめちゃくちゃ丁寧にリハやった(笑)」
とのこと。それは同時にフェスなどでも毎回セトリを変えるユニゾンの曲を常にしっかり練習して覚えているということでもある。それもまたこのバンドが活動しているからこそ感じられることである。
「開演20分くらい前にモニターで客席の様子見たら、オールナイトイベントの3時台くらいの感じだったけど、結構入ってるように見えるね。隣にバーベキュー場あるし、みんなでフットサルやって筋肉痛になってから花道でバーベキューやるか(笑)煙とか出て怒られるかもしれないけど(笑)」
というチケットが売り切れていなくて後ろの方には踊れるスペースがたくさんある状況だからこそのMCで田淵が笑わせつつ、花道を含めてステージ上を歩き回る亮介は
「油断するなよ!急に来るぞ!」
と口にすると本当にその言葉のとおりに「急に来る」が演奏されてまたライブモードに突入していく。しかもそれがガラッとスイッチが切り替わるような勢いに溢れるロックンロールであるだけにMCの緩さとのギャップが凄い。そもそもユニゾンではほぼ全くMCをしない田淵と、このメンバーだからこそ緩くなる亮介であるだけに。フラッドでもユニゾンでもそう感じるようなライブはほとんどない。
そんなTHE KEBABSの新曲シリーズの最後が田淵がタイトルのまんまのTシャツを着用している「ゴールデンキウイ」であり、なんで敢えてこのテーマを曲にしたのかというのが気になるところではあるが、その無意味性こそがTHE KEBABSのロックンロールの楽しさに繋がっているというのを証明するものである。というか「ゴールデンキウイ」に深読みするようなものが全くないのであるが、そんな無意味性のロックンロールの極みのような曲である。
さらにはこちらも「ジャンケンはグー」と同様にシンセを使った音源のサウンドが鈴木の高速かつ手数の多いリズムによって性急なロックンロールへとライブアレンジされる「てんとう虫の夏」で3人はやはり花道を先に進んで演奏して歌う。そうした姿やアレンジも含めてライブがそのまま音源になっていることも多いTHE KEBABSの中でも随一のライブ映えする曲になっている。だからこそライブだけで聴くと
「シンセサイザー」
というサビのフレーズがわけがわからないものになってもいるのだけど、それもまたTHE KEBABSだからこそ許されるものである。間奏では鈴木、田淵、新井の順にソロ回しが展開されて最後には3人がドラムセットに集まって音を合わせるのであるが、その隙にいったんステージから去った亮介は袖からビール6缶パックを持って出てきて当たり前のように開封して飲み始めるというのもこのバンドのライブだから許されるものである。(亮介は最近フラッドのライブではビールを飲んでいない)
ステージには再びスモークが立ち込めてくるのは「台風ブンブン」。もうストレート過ぎるくらいにストレートなロックンロールであるだけに新井のギターも田淵のベースも巧さというよりは思いっきり力を込めて鳴らすというようなものになっており、それを牽引する鈴木のドラムのビートも原曲よりさらに速くなっているというあたりがこのバンドのロックンロールバンドにしてライブバンドたる所以である。
その鈴木が祭囃子のようなビートで曲間を繋ぐと、そのリズムに合わせて田淵も踊るように花道に飛び出してくると、その花道に撮影スタッフを上げてステージ上でメンバーを至近距離で撮影するようになっての「猿でもできる」で観客も踊りまくる。ここにきてのこの爆裂っぷりもまたTHE KEBABSならではのスピード感によるものであるが、田淵だけではなく亮介も新井もカメラに向かって歌い演奏するだけにこのライブを映像として見れるのも楽しみになる。そんなスタッフも含めた自由っぷりもTHE KEBABSのライブならではというか、普通に映像作品用にライブを撮影してる中でこんなことをやったら間違いなく怒られるだろうけれど、それすらも楽しいものになっているのがこのバンドのライブである。
そんなライブの最後はやっぱり新井のリフが響く「THE KEBABSのテーマ」。亮介は缶ビール片手に鈴木のドラムセットの背後に回って
「イケメンですね〜 ドラム上手いですね〜」
と鈴木を褒めまくるバージョンに歌詞を変えて歌う。それはこうして鈴木も含めてこのメンバーでバンドをできていることの喜びを感じさせてくれる。まだ観客は声を出すことはできないけれど、
「いかしたやつら」
のフレーズを早くメンバーとまた一緒に歌いたいと思う。その思いは曲中のメンバーも跳び上がりまくる
「THE KEBABS!」
のフレーズで観客も飛び跳ねまくる姿として現れている。それが本当に楽しいし、その楽しいが全て音から感じられる。やはりTHE KEBABSはいかしたやつらでしかなかったのである。
アンコールで再びメンバーがステージに現れると、このツアーの物販のTシャツと来年3月に発売が決定した新作EPのフライヤーを持って登場してそれを花道の前まで歩いてしっかり観客に見せつけるようにする。Tシャツを持っているのはスタッフであるが、そのTシャツは最後には亮介のマイクスタンドに掛けられることになるのであるが、そんな視覚のみによる告知から亮介もギターを持ってすぐに演奏が始まったのは昨年リリースしたアルバム「セカンド」の最後に収録されていた「夢がいっぱい」であり、まさにそのタイトル通りでしかないくらいにロマンと楽しさがこの会場に溢れていく。来年も、これからもTHE KEBABSには夢がいっぱいであることがこの曲のサウンドと光景からははっきりと伝わってくる。亮介がこんな子供らしいとすら言えるような歌詞を書くとはという感じは今もあるけれど。
そんな「夢がいっぱい」の景色を新井が
「すげぇいいなと思った。やっぱりTHE KEBABS楽しいからまたすぐやりたいなって」
と口にするのだが、亮介と田淵からはやっぱりその新井が1番スケジュールを合わせるのが大変であるだけに、
「新井さん言ったからな!(笑)」
と言質を取ったように言うのだが、常にライブをやりまくっているフラッドやユニゾン以上にスケジュールを合わせられないというあたりに新井の忙しさが伺える。
そんなMCも含めてこの日のライブは新作EPに収録されるのだが、天邪鬼な亮介は
「このMCを収録できないように(笑)」
と山下達郎「クリスマス・イブ」を歌い始めて観客を爆笑させるのであるが、その歌詞の中で先ほどTシャツを持ってステージに登場してきたマネージャー氏がこの日のライブをもって卒業することへの労いを込めたものに変えて歌うことによって爆笑から一気にしんみりしたものにさせる亮介はやっぱり凄いしズルい。何よりも人と向き合ってきた人間だからこそこうしたことができるのだ。
そんなMCを経てもさらにロックンロールに突っ走るように鈴木のドラムの速さと手数がさらに増す「THE KEBABSは忙しい」でラストスパートへと突入すると、3人も再び花道に進みまくっていき、リリースは決まっていてもライブはまだ全く決まっていない多忙バンドとしての心境をロックンロールに乗せると、亮介が花道の先に缶ビール片手に突き進みながら、酒を持っている観客に「乾杯!」と缶を当てて飲みながら歌う「ロバート・デ・ニーロ」の
「ロバート・デ・ニーロの袖のボタン」
という1ミリも意味がないサビのフレーズがこんなにも壮大に響くというのがTHE KEBABSのロックンロールの魔法だ。そのフレーズを歌いながら缶ビールを高く掲げる亮介の姿を見るとこちらも腕を高く上げざるを得ないし、やっぱりTHE KEBABSはとんでもなくカッコいいバンドだと思える。こんな歌詞がロックンロールになるようなバンドなんて世界中のどこを探しても絶対にいないだろうから。
そんな「ロバート・デ・ニーロ」で大団円を迎えたかと思いきや、田淵は亮介に「あと1曲」的なジェスチャーをし、亮介がそれを鈴木と新井に伝えて演奏されたのはこの日2回目の「THE KEBABSのテーマ」なのだが亮介は
「おまけ〜 これはおまけ〜」
と初っ端から連呼し、鈴木が原曲とリズムを速くも遅くも変えまくることによって1回目とも音源とも全く違う「THE KEBABSのテーマ」になる。それでも
「THE KEBABS!」
のフレーズで飛び跳ねまくる部分は変えることなく、亮介、新井、田淵は花道へ進んで自分たちも飛び跳ねまくる。演奏後には観客に写真を撮ることを許可するあたりも含めてやっぱりTHE KEBABSはいかしたやつらだったのだ。
THE KEBABSを見ているといつも思うのは、フラッドのボーカルとユニゾンのベーシストがいるバンドなのにそれらのバンドを見終わった時とは全く違う感覚を抱くということ。つまりはTHE KEBABSはTHE KEBABSでしかないものを与えてくれるし、とかく曲や活動に意味を求めたり探ってしまうようになるくらいに歴が長くなり、シーンにおいて重要になったフラッドとユニゾンとは違って、THE KEBABSは良い意味で軽い。世の中がどうあっても、我々の状況がどうあっても、頭の中を空っぽにして楽しくさせてくれるロックンロール。これからもきっとそのまま変わることなくこのバンドは続いていくのだろうし、そのままで我々のことも幸せにしてくれ。
1.ピアノのある部屋で
2.うれしいきもち
3.かわかわ
4.やさしくされたい
5.Bチームでも
6.ジャンケンはグー
7.恐竜あらわる
8.枕を変えたら眠れない
9.ともだちのうた
10.パリはもえているか
11.すごいやばい
12.チェンソーだ!
13.THE KEBABSを抱きしめて
14.ラビュラ
15.急に来る
16.ゴールデンキウイ
17.てんとう虫の夏
18.台風ブンブン
19.猿でもできる
20.THE KEBABSのテーマ
encore
21.夢がいっぱい
22.THE KEBABSは忙しい
23.ロバート・デ・ニーロ
24.THE KEBABSのテーマ