633 「Bier Fest Tour 2022」 Guest:ストレイテナー / w.o.d. @豊洲PIT 12/6
- 2022/12/08
- 18:25
「バーベキューをこよなく愛する」という謎の新人バンド633がアルバム「SIX HUNDRED THIRTY THREE」をリリースしてデビューしていきなり話題になった。
顔出しもせずにアー写はアニメーションという正体不明の新人バンドが何故こんなにいきなり話題になっているのか。初のツアーの東京公演が都内最大級の豊洲PITといういきなりの巨大会場なのは何故なのか。対バンツアーの全公演にベテランと言っていいような存在であるストレイテナーと勢いのある若手バンド1組が出ているのは何故なのか。そんな謎だらけの633を知るために豊洲PITへ。すでにツアーに参加した人たちからは絶賛の声が上がっているが、いったい何者なんだろうか。
客席は前方がAブロック、後方がBブロックという分かれ方をしており、自分がいたBブロックは足元に立ち位置指定もないオールスタンディング。やはり豊洲は広いだけにBブロック、特に後方はかなりゆとりがあるというかディスタンスが保たれている状態である。
・ストレイテナー
客席のほとんどの人がストレイテナーのTシャツを着ているというのはさすが強固なファンベースを持つストレイテナーというか何というかであるが、今年はこの豊洲PITでツアーのワンマンを行ったテナーが3バンドのうちの1番手で出てくるというのがこの633のツアーがとんでもないものであることを示している。
おなじみの「STNR Rock and Roll」のSEでメンバー4人が登場すると、ナカヤマシンペイ(ドラム)が自身の座る椅子の上に立ち上がって観客を煽るようにしてから、青春的とも言えるような情景をどっしりとした演奏で鳴らす「Graffiti」からスタート。ホリエアツシ(ボーカル&ギター)の歌声の伸びやかさもあまり音が良くないイメージが強いこの会場の影響を感じさせないくらいだ。ひなっちこと日向秀和(ベース)も対バンに誘われた側としてリラックスしているからだろうか、いつも以上に笑顔が弾けながらベースを弾いているイメージである。
シンペイの力強いビートによって始まるのはthe telephonesのノブがMVに出演して踊りまくっていたこともリリース時に話題を呼んだ「VANISH」という実に久しぶりに聴く感覚の曲であるのだが、その演奏がかつて毎回ライブで演奏されていた時よりも圧倒的に強いような感覚がある。それはテナーが今でもロックバンドとしての衝動を持ち続けたままでバンドとしてさらに強く進化を果たしていることの証明を音でしているとも言える。
「俺たちストレイテナーです!」
とホリエが挨拶すると、
「このツアーは俺たちが毎公演出てるのと、若手が1組出てて。今日はw.o.d.が出てくれてるけど、リハを見てる段階でマジでこのツアーに出てる若手が強ぇ(笑)
Age Factoryもそうだし、cinema staffもそうだし。…cinema staffはちょっとこっち寄りだと思ってるけど(笑)でもcinema staffが「この3組の中に入れて嬉しい」って言ってくれたから」
と、何故かいないのにいじられるcinema staffにテナーとの関係性を感じさせるのは、この日のw.o.d.が初めての対バンでまだ慣れていないということもあるのだろう。
そんなテナーは「タイムリープ」というフェスなどでは滅多にやらないような曲を演奏するというのはライブのたびにセトリが変わるバンドの面目躍如と言えるけれど、この展開の激しさというか変わりっぷりはテナーのリズムの強さと演奏技術があるからこそできるものだなと思わせてくれる。
そんな中でホリエがキーボードを弾きながら歌うのは「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」であり、その歌唱が終わるとシンペイのリズムを皮切りにひなっちのうねりまくるベースとOJこと大山純(ギター)が掻き鳴らすギターが乗る。客席でもたくさんの腕が上がっていたが、スタンディングのライブハウスでの光景を見るとやはりロックバンドとしてのテナーのカッコよさを再確認できるし、この曲が日本のロックシーンの歴史に残るような大名曲であることが聴けばすぐにわかる。シンペイはドラムだけではなくコーラスまでも実に力強い。
さらには今やテナー随一の名曲でありライブ定番曲であり代表曲とも言える「シーグラス」をホリエが歌い始めると、冬であっても、というか冬だからこそまた来年の夏にこの曲をいろんな夏フェスで聴けたらいいなと思いを馳せさせる。ひなっちは最後のサビでぐるっと回るようにしてベースを弾き、シンペイは最後に立ち上がって腕を上げる。ホリエの歌声の伸びやかさや包容力も含めて、ただただエモーショナルでカッコいいロックバンドの姿である。
そんなバンドのグルーヴがテンポを落とした曲だからこそ強いことを感じさせるのはこれもまた久々というか、なんで今?とすら思ってしまうような「CLONE」であるが、どちらかというと聴き入るようなタイプの曲だと思っていたし、かつてよく演奏されていた頃もそうしたリアクションだった気がするこの曲がホリエとOJの轟音ギターの重なりがさらに増したことによって紛れもなくロックな曲へと変貌している。何というか経験を重ねて深みを増してきたロックバンドとしての重さを確かに感じさせるというか。ベテランになる、歳を重ねるということはマイナスではなくて、その音に説得力を宿らせることだということを感じさせてくれるかのようだ。
さらにホリエが鳴らすギターのコードが「もしや?」と思わせると、まさにそのコードによって始まったのは12月だからこその選曲であろう「TENDER」。穏やかなサウンドが一転して轟音になっていくというのはテナーならではの静と動の同居と言えるが、こうした昔からのファンはもちろん近年知ったファンをも歓喜させるような曲を短い時間の中にも入れてくるのはさすがであるし、何よりもその鳴らしている音でもってまだまだ若手に負けたくないという意思を示している。
そんなテナーはまだこの日は633のメンバーにちゃんと会えていないようであるが、ホリエはこの日の次のライブである仙台でのツアーファイナルで633のメンバーと打ち上げをしたいと口にし、ひなっちは633のメンバーたちが「ソーセージの化身」だということで、
「みんながこのツアーの打ち上げで笑顔でソーセージ食べてるの見て怖かったもん(笑)
みんなも家でソーセージ食べてたらそのソーセージに633が憑依してるかもしれないよ(笑)」
と笑わせてくれる。この持ち時間の短さでひなっちが喋りたくて仕方なさそうにしているくらいに楽しくて仕方ないということである。
そんなライブはホリエが
「あと2曲。ロックに行きます!」
と気合いを入れるようにすると、赤みが強い紫色の照明の光も相まって、宇宙空間で星同士が衝突するかのようにバチバチの演奏がぶつかりまくった上で一つに調和していくような「宇宙の夜 二人の朝」でまさにロックなクライマックスへと向かっていく。近年にこうした曲が生まれてライブ定番になっているということがテナーの変わらぬロックバンドっぷりを示している。
そして同期のサウンドが鳴る中で最後に演奏された、こちらも「TENDER」同様に冬を感じさせ、なおかつロックなテナーを感じさせる「冬の太陽」。メンバーの方を向いて楽しそうにベースを弾くひなっちの姿も、ぶっ叩きまくるシンペイのベースも、体を大きく動かしながら弾くOJのギターも。このテナーのロックな熱量はどこに繋がっているんだろうかとも思うけれど、今の若手バンドたちも確かに強いけれど、テナーも間違いなく強い。フェスなどはおろか、ワンマンでもやっていなかった曲たちをこんなに進化した形で鳴らしているのだから。背中を追う者たちにとって、この山はまだまだ高い。
1.Graffiti
2.VANISH
3.タイムリープ
4.SAD AND BEAUTIFUL WORLD
5.シーグラス
6.CLONE
7.TENDER
8.宇宙の夜 二人の朝
9.冬の太陽
・w.o.d.
リハの段階でホリエに絶賛されていたw.o.d.。もうツイッターを見ていたら名前を見ない日はないんじゃないかと思うくらいにどこかであらゆるライブに出ていて、それを自分の周りの音楽が好きな人が見ているというバンドである。個人的にライブを見るのは昨年の夏にa flood of circleの主催フェスに出演した時以来である。
メンバーがステージに登場すると、この広い豊洲PITのステージの真ん中にギュッとまとまるような配置の機材のシンプルさがテナーの後だからこそ逆に新鮮というか、楽器を取り替えたりしないくらいにストイックなバンドであることがわかるのであるが、9月にリリースしたばかりの最新フルアルバム「感情」のオープニングを飾る「リビド」「イカロス」という2連打によって会場の空気が一気にロックンロールに染まっていく。もう爆音で楽器を鳴らすのが何よりも気持ちが良くて最高だというのが中島元良(ドラム)の、こりゃあホリエに「強ぇ」って言われるわというくらいの超剛腕ドラムと、ワイルドな長い金髪を靡かせてダウンピッキングしまくる地を這うようなKen Mackyのベース、そしてどこかOKAMOTO'Sのオカモトショウをも彷彿とさせるようなサイトウタクヤ(ボーカル&ギター)のロックな曲を歌うために持って生まれたかのような歌声から伝わってくる。それでもアルバムを聴いた時の印象とおりに、どこか今回の作品によってただただ荒々しいだけというよりはグッと整理されたような感覚もある。それは中島のコーラスなどからも感じられる。
サイトウが
「ありがとう」
とだけ言ってすぐにまた「感情」収録曲の歪んだギターをぶっ放すような「馬鹿と虎馬」と続くと、客席では想像した以上にたくさんの腕が上がっている。テナーよりもはるかに若いバンドの新作曲を中心にした内容でこの状態になっているのが、このバンドを楽しみにこの日このライブに足を運んだ人たちもかなりいるということを感じさせるし、あるいはテナーファンにもこのバンドのロックンロールが浸透していることを感じさせる。
少し荒さというよりもロマンチックさや爽快感を自分たちのロックンロールに託しているようにも感じる「バニラ・スカイ」から、改めてそのタイトルを見るだけでテナーよりもはるかに若い世代であることを感じさせる「1994」と、この大きなステージでのテナーの後という状況であっても全く臆することなくというか、むしろいつも通りに堂々と自分たちのロックンロールを鳴らしているように見えるのは先輩バンドの凄さは分かりつつも、自分たちも同じステージに立ったら上も下もない、なんなら自分たちが1番カッコいいということを示そうとしているようにすら感じる。その堂々たる姿勢が鳴らしているロックンロールにさらに強い説得力を与えている。
その不遜とも言えるような大胆不敵さはセトリを間違えながらも
「9月にアルバムを出しました。今日、3バンド出てる中で言うのもなんですが、今年1番良いアルバムです」
と言ってしまえるところからも感じられる。
そんな「感情」収録曲の中から、ただ激しく荒々しいだけではない、このバンドの持つ情緒やメロディの美しさを感じさせるような「オレンジ」という聴かせるタイプの曲が演奏され、タイトルに合わせて照明もオレンジ色になるのだが、こうした曲にはテナーなどのバンドからの影響もあるのかもしれない。それはサイトウも
「高校生の時にコピーしていた」
とリスペクトを示していたからよりそう感じられるのであるが、
「俺たちは今日バンドで一つの楽屋を用意してもらったんだけど、ストレイテナーと633が同じ楽屋に押し込められててなんか申し訳ないなっていう(笑)」
と設定に乗っかったMCをするというユーモアも感じさせてくれる。それはすでにライブ前からビールを飲んでこのツアーを謳歌していた影響もあるのかもしれないが。
そんなこのバンドを自分はロックンロールバンドだと思っているのはa flood of circleが可愛がっているバンドだからというのもあるかもしれないが、テナーのシンペイはこのバンドを「オルタナ」と称していて、それは「モーニング・グローリー」や「Mayday」という過去曲からはNirvanaなどからの強い影響を感じさせるからかもしれない。それはKenの出で立ちの印象によるものかもしれないが、今日本でこうした武骨とも言えるようなサウンドを鳴らしているバンドはほとんどいないだけに、そのひたすらにロックバンドとしてのカッコ良さを追求するような姿や楽曲はロックシーンの救世主たり得る存在になるかもしれないとすら思える。本人たちからしたらロックンロールだろうがオルタナだろうがグランジだろうがなんでもいいのかもしれないけれど。
社会に出て労働をしているとその気持ちめちゃくちゃわかるわ〜、というかそういうやつめっちゃいるわ〜と共感せざるを得ない、気に食わない奴への憤りや怒りを歌詞にし、それをその感情に任せたサウンドに乗せることでそれがなによりもロックになるということを示してくれるような「Fullface」でそのど迫力のスリーピースサウンドが爆発し、基本的にそこまで動き回るわけではないKenもステージ下手へと歩みながら、体を大きく動かしながら演奏している姿を見るとこのバンドはこうした大きなライブハウスも似合う存在なんじゃないかと思える。
そんな実にテンポの良い(曲自体も短い)ライブの最後に演奏されたのはこのバンド最大の代表曲と言える「踊る阿呆に見る阿呆」。そのタイトルとおりに阿呆になったかのように飛び跳ねまくって踊りまくる観客の姿は間違いなくこのバンドの鳴らす音に反応してそうならざるを得ない状態になっている。
演奏が終わるとすぐにステージから去っていくのも潔いが、自分たちが今持っている楽器だけでこんなにもカッコいいロックンロールを鳴らしているこのバンドの姿は、ただカッコいいというだけじゃなくて、楽器さえあれば自分もこんなバンドができるんじゃないだろうかと思わせてくれるようなかっこよさだ。もちろんただ楽器を持ってコピーしただけではこのバンドのようにカッコよくはなれないことは重々わかってはいるのだけれど。
1.リビド
2.イカロス
3.馬鹿と虎馬
4.バニラ・スカイ
5.1994
6.オレンジ
7.モーニング・グローリー
8.Mayday
9.Fullface
10.踊る阿呆に見る阿呆
・633
そしてこの日の主催にしてここまでの2組を抑えてトリを務めるという脅威の新人、633。当たり前だが自分がライブを見るのは初めてであり、顔出しもしていないバンドであるだけにどんなバンドなんだろうか。楽屋がストレイテナーと同じということは最初のツアーにしてさぞや仲良くなったことを感じさせるけれど。
ステージには紗幕が張られており、その向こう側にメンバーが登場するのがわかるとまだ暗転する前から客席から大きな拍手が起きるのであるが、実際に暗転するとメンバーは冬だからなのかそれぞれが暖かそうな帽子を被っていたり、下手のベースのLANTERN SMILEは名前の通りにランタンを持っていてそれが光っており、紗幕越しでしっかりは見えないけれど、ギターのSMOKEはソーセージ的な被り物を被っているようにも見える。
そんなメンバーによって鳴らされたのはデビューアルバム(まだそれ1枚しか出てないけど)の1曲目というこのバンドの始まりを鳴らした「Drink Up」であり、紗幕にはアー写になっているメンバーのアニメーション映像が映し出されるという映像と音楽の融合というコンセプチュアルなライブをデビュー直後にしてすでに出来ているというのは恐ろしいくらいの完成度の高さであり、今アメリカで再びブームになりつつあるポップパンク的なサウンドを力強く鳴らすメンバーの演奏も新人バンド的な衝動がありながらも新人らしからぬ音の圧力を感じるし、SOFT CREAM(ボーカル&ギター)の歌声は20年近く聴いてきたかのような、なんならまだその声の残像が頭に残っているかのような安心感すらある。つまりこの1曲目の段階でこのバンドが只者ではないことがわかるし、観客もそのストレートなサウンドにダイレクトに反応して腕を振り上げている。
すると紗幕には映像が映らずにメンバーの演奏する姿がうっすらとではあるが先ほどよりははっきりと見える「Sweet Rain」は何よりもそのメロディーがスイート極まりない。どことなく聞き覚えがあるというか、特にサビの最後のフレーズなんかは人数が増えたことによって表現力が増していったバンドの作曲者の曲からもよく感じられるものでもあるのだが、そんなメロディーの美しさに浸るための映像なしという選択だったのだと思われるし、それはDRUNK MONKEY(ドラム)の軽快なリズムに合わせてSOFT CREAMがタイトルフレーズを歌唱することによって観客が飛び跳ねまくる「Girls Don't Cry」もそうである。とにかく新人バンドらしからぬ深さと慈悲を感じさせるようなSOFT CREAMの歌声がこうしたパンク的なサウンドに実によく似合うということを思い出させてくれる…じゃなくて思い知らせてくれるかのような。
MCではメンバーそれぞれが自己紹介をするのであるが、「LANTERN SMILEは山育ちだから常にやまびこがかかっている」「DRUNK MONKEYは酒を飲みすぎて酒焼けして声が高くなりまくっている」という理由でなんだかヴォコーダーなどを通しているかのような声で自己紹介し、SMOKEはテレビ番組で声をそのまま使えない人に加工を施しているかのような声で
「みんな、ソーセージは何派?シャウエッセン派?打倒シャウエッセン!」
とソーセージの化身として意味のよくわからないことを言い、SOFT CREAMからは
「諸説あるけど(笑)アルトバイエルン派とか(笑)」
と突っ込まれながら、冬になって枯れた木々の上には星空が広がり、そこに歌詞が映し出されていくという演出が重めのリズムのサウンドに乗るという「Aurora」が演奏されるのであるが、「Campsite」などの歌詞は本当にこのバンドがバーベキュー大好きなことをそのまま歌詞にしていることがわかる。ある意味では歌詞にほとんど意味がないからこそ、頭を空っぽにして楽しめるというのがこのバンドのライブの楽しみ方なのかもしれない。
そんな冬の情景から一気に夏に変わっていくのは「One Summer Day」であり、この曲では観客がメンバーと一緒に歌って夏を謳歌できるようなコーラスパートがある。そこはもちろん今はまだメンバーのみによって響くのであるが、それを夏の野外会場で聴いたらより一層このバンドのことが好きになりそうな予感がしている。SOFT CREAMも
「次に会えた時にはみんなで一緒に歌おう!」
と言っていただけに、まだまだこれからもライブをやっていくつもりでいるようだ。
序盤のポップパンクから始まり、中盤には紗幕にやはりメンバーのアニメーションが投影されることによってその演出にも見入ってしまうような「Rooftop Party」から、グルーヴの強さを感じさせるような「The Great Escape」という単なるポップパンクバンドというだけには止まらないような曲も演奏される。その幅の広さと表現力はまるでストレートなバンドサウンドから始まり、徐々にメンバーや機材が増えていって曲の幅が広がっていったベテランロックバンドかのようだ。このバンドはデビューアルバムでそんな他のバンドが20年くらいかかるようなことをやってのけている。やはり脅威の新人バンドである。
それはSOFT CREAMの歌唱にも現れており、メンバーのアニメーションが星座を作り出すという美しい映像とともに演奏された「Million」はこれまでに数々のバラード曲を歌ってきたベテランシンガーであるかのような渋さと説得力の強さを感じるような歌モノの曲になっている。そうした歌声が映像という武器を手に入れることによってさらに輝きを増している。紗幕越しでハッキリとは見えないけれど、果たしてこの歌声の持ち主はどんな目や口の形をしている人物なのだろうか。きっと爽やかながらもそこから音楽への強い想いと敬意を感じさせるような姿をしているに違いない。
そんな633はまだアルバム1枚で9曲しか世に出しておらず、当然9曲目には最後の曲としてまだ演奏されていなかった「Radio Song」が演奏される。紗幕にはまるでライブのエンドロールであるかのように歌詞などが次々と映し出されていき、こうした演出はこのバンドのライブがこれから先にさらにコンセプチュアルになっていくことを予感させるのであるが、それでもメンバーはステージから去らずに、
「633はもう曲がありませんが、アンコール代わりにストレイテナーの昔の曲をカバーします」
と言って演奏されたのはライブで聴くのはいつ以来だろうかと思う「BOUNDER ADVENTURE」。ツアーの横浜で先にライブを見た人たちのツイートから何となくこの辺りの曲をやるんだろうなと察していたのではあるが、実際にこうして聴くと荒々しいロックバンドだった頃のテナーの曲によって、スタンディングの客席はモッシュやダイブが起こるんじゃないかと思ってしまうくらいにみんなが腕を振り上げて飛び跳ねまくっている。それがこの633という新人バンドの演奏によってフレッシュさとともに洗練された楽曲の形になっている。
「ストレイテナー最高!w.o.d.最高!みんな最高!」
と言って紗幕の向こう側のメンバーたちは姿を消していったが、633もその2組に負けないくらいに、いや、やはりこれは633のツアーなんだよなと思うくらいに最高だった。
と、ここまでは設定に乗っかってきたが、ぶっちゃけ633はストレイテナーのメンバーたちによるバンドである。ただ、今のテナーが何の意味もなくこうした別名義での活動をするわけがないと思っているし、自分はその理由は演出よりもサウンド、楽曲にあると思っている。
それは633のサウンドが近年のテナーのものからはかなり距離があるような、それこそ「BOUNDER ADVENTURE」のようなインディーズ期の曲をセトリに入れてもおかしくないくらいにパンクと言っていいようなものになっているから。
それは今のアメリカの、ラッパーが急にポップパンクをやるような流れに乗っかったものというよりは、今自分たちがやりたいと思った音楽がこうしたものであり、でも今のテナーでそれをやるとどうしても意味が生まれてきてしまうだけに設定や歌詞をあえて無意味なものにして鳴らしているのじゃないだろうか。
と同時にそれは昔のこうしたサウンドの曲をやるのではなくて、今の4人でこうしたサウンドを鳴らす曲を作りたい、それによってもしかしたらインディーズ期の曲をこれからこの4人でブラッシュアップしてライブや音源で聴くことができるようになるような。そうした先の展開が見えるものになるんじゃないかとすら思っている。
何よりもちょっと前までは「丸くなった」「優しくなった」と言われることがよくあったテナーが、実は全然そんなことはなくて今もロックバンドとしての弾けるような衝動を持ち続けていて、それをサウンドとしても姿勢としても痛快なくらいにパンクであろうとしている。633の曲やライブはそんなテナーの本質を感じさせてくれるものだった。それだけにこれからのテナーも含めた活動が今まで以上に楽しみになるのだ。
1.Drink Up
2.Sweet Rain
3.Girls Don't Cry
4.Aurora
5.One Summer Day
6.Rooftop Party
7.The Great Escape
8.Million
9.Radio Song
10.BOUNDER ADVENTURE
顔出しもせずにアー写はアニメーションという正体不明の新人バンドが何故こんなにいきなり話題になっているのか。初のツアーの東京公演が都内最大級の豊洲PITといういきなりの巨大会場なのは何故なのか。対バンツアーの全公演にベテランと言っていいような存在であるストレイテナーと勢いのある若手バンド1組が出ているのは何故なのか。そんな謎だらけの633を知るために豊洲PITへ。すでにツアーに参加した人たちからは絶賛の声が上がっているが、いったい何者なんだろうか。
客席は前方がAブロック、後方がBブロックという分かれ方をしており、自分がいたBブロックは足元に立ち位置指定もないオールスタンディング。やはり豊洲は広いだけにBブロック、特に後方はかなりゆとりがあるというかディスタンスが保たれている状態である。
・ストレイテナー
客席のほとんどの人がストレイテナーのTシャツを着ているというのはさすが強固なファンベースを持つストレイテナーというか何というかであるが、今年はこの豊洲PITでツアーのワンマンを行ったテナーが3バンドのうちの1番手で出てくるというのがこの633のツアーがとんでもないものであることを示している。
おなじみの「STNR Rock and Roll」のSEでメンバー4人が登場すると、ナカヤマシンペイ(ドラム)が自身の座る椅子の上に立ち上がって観客を煽るようにしてから、青春的とも言えるような情景をどっしりとした演奏で鳴らす「Graffiti」からスタート。ホリエアツシ(ボーカル&ギター)の歌声の伸びやかさもあまり音が良くないイメージが強いこの会場の影響を感じさせないくらいだ。ひなっちこと日向秀和(ベース)も対バンに誘われた側としてリラックスしているからだろうか、いつも以上に笑顔が弾けながらベースを弾いているイメージである。
シンペイの力強いビートによって始まるのはthe telephonesのノブがMVに出演して踊りまくっていたこともリリース時に話題を呼んだ「VANISH」という実に久しぶりに聴く感覚の曲であるのだが、その演奏がかつて毎回ライブで演奏されていた時よりも圧倒的に強いような感覚がある。それはテナーが今でもロックバンドとしての衝動を持ち続けたままでバンドとしてさらに強く進化を果たしていることの証明を音でしているとも言える。
「俺たちストレイテナーです!」
とホリエが挨拶すると、
「このツアーは俺たちが毎公演出てるのと、若手が1組出てて。今日はw.o.d.が出てくれてるけど、リハを見てる段階でマジでこのツアーに出てる若手が強ぇ(笑)
Age Factoryもそうだし、cinema staffもそうだし。…cinema staffはちょっとこっち寄りだと思ってるけど(笑)でもcinema staffが「この3組の中に入れて嬉しい」って言ってくれたから」
と、何故かいないのにいじられるcinema staffにテナーとの関係性を感じさせるのは、この日のw.o.d.が初めての対バンでまだ慣れていないということもあるのだろう。
そんなテナーは「タイムリープ」というフェスなどでは滅多にやらないような曲を演奏するというのはライブのたびにセトリが変わるバンドの面目躍如と言えるけれど、この展開の激しさというか変わりっぷりはテナーのリズムの強さと演奏技術があるからこそできるものだなと思わせてくれる。
そんな中でホリエがキーボードを弾きながら歌うのは「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」であり、その歌唱が終わるとシンペイのリズムを皮切りにひなっちのうねりまくるベースとOJこと大山純(ギター)が掻き鳴らすギターが乗る。客席でもたくさんの腕が上がっていたが、スタンディングのライブハウスでの光景を見るとやはりロックバンドとしてのテナーのカッコよさを再確認できるし、この曲が日本のロックシーンの歴史に残るような大名曲であることが聴けばすぐにわかる。シンペイはドラムだけではなくコーラスまでも実に力強い。
さらには今やテナー随一の名曲でありライブ定番曲であり代表曲とも言える「シーグラス」をホリエが歌い始めると、冬であっても、というか冬だからこそまた来年の夏にこの曲をいろんな夏フェスで聴けたらいいなと思いを馳せさせる。ひなっちは最後のサビでぐるっと回るようにしてベースを弾き、シンペイは最後に立ち上がって腕を上げる。ホリエの歌声の伸びやかさや包容力も含めて、ただただエモーショナルでカッコいいロックバンドの姿である。
そんなバンドのグルーヴがテンポを落とした曲だからこそ強いことを感じさせるのはこれもまた久々というか、なんで今?とすら思ってしまうような「CLONE」であるが、どちらかというと聴き入るようなタイプの曲だと思っていたし、かつてよく演奏されていた頃もそうしたリアクションだった気がするこの曲がホリエとOJの轟音ギターの重なりがさらに増したことによって紛れもなくロックな曲へと変貌している。何というか経験を重ねて深みを増してきたロックバンドとしての重さを確かに感じさせるというか。ベテランになる、歳を重ねるということはマイナスではなくて、その音に説得力を宿らせることだということを感じさせてくれるかのようだ。
さらにホリエが鳴らすギターのコードが「もしや?」と思わせると、まさにそのコードによって始まったのは12月だからこその選曲であろう「TENDER」。穏やかなサウンドが一転して轟音になっていくというのはテナーならではの静と動の同居と言えるが、こうした昔からのファンはもちろん近年知ったファンをも歓喜させるような曲を短い時間の中にも入れてくるのはさすがであるし、何よりもその鳴らしている音でもってまだまだ若手に負けたくないという意思を示している。
そんなテナーはまだこの日は633のメンバーにちゃんと会えていないようであるが、ホリエはこの日の次のライブである仙台でのツアーファイナルで633のメンバーと打ち上げをしたいと口にし、ひなっちは633のメンバーたちが「ソーセージの化身」だということで、
「みんながこのツアーの打ち上げで笑顔でソーセージ食べてるの見て怖かったもん(笑)
みんなも家でソーセージ食べてたらそのソーセージに633が憑依してるかもしれないよ(笑)」
と笑わせてくれる。この持ち時間の短さでひなっちが喋りたくて仕方なさそうにしているくらいに楽しくて仕方ないということである。
そんなライブはホリエが
「あと2曲。ロックに行きます!」
と気合いを入れるようにすると、赤みが強い紫色の照明の光も相まって、宇宙空間で星同士が衝突するかのようにバチバチの演奏がぶつかりまくった上で一つに調和していくような「宇宙の夜 二人の朝」でまさにロックなクライマックスへと向かっていく。近年にこうした曲が生まれてライブ定番になっているということがテナーの変わらぬロックバンドっぷりを示している。
そして同期のサウンドが鳴る中で最後に演奏された、こちらも「TENDER」同様に冬を感じさせ、なおかつロックなテナーを感じさせる「冬の太陽」。メンバーの方を向いて楽しそうにベースを弾くひなっちの姿も、ぶっ叩きまくるシンペイのベースも、体を大きく動かしながら弾くOJのギターも。このテナーのロックな熱量はどこに繋がっているんだろうかとも思うけれど、今の若手バンドたちも確かに強いけれど、テナーも間違いなく強い。フェスなどはおろか、ワンマンでもやっていなかった曲たちをこんなに進化した形で鳴らしているのだから。背中を追う者たちにとって、この山はまだまだ高い。
1.Graffiti
2.VANISH
3.タイムリープ
4.SAD AND BEAUTIFUL WORLD
5.シーグラス
6.CLONE
7.TENDER
8.宇宙の夜 二人の朝
9.冬の太陽
・w.o.d.
リハの段階でホリエに絶賛されていたw.o.d.。もうツイッターを見ていたら名前を見ない日はないんじゃないかと思うくらいにどこかであらゆるライブに出ていて、それを自分の周りの音楽が好きな人が見ているというバンドである。個人的にライブを見るのは昨年の夏にa flood of circleの主催フェスに出演した時以来である。
メンバーがステージに登場すると、この広い豊洲PITのステージの真ん中にギュッとまとまるような配置の機材のシンプルさがテナーの後だからこそ逆に新鮮というか、楽器を取り替えたりしないくらいにストイックなバンドであることがわかるのであるが、9月にリリースしたばかりの最新フルアルバム「感情」のオープニングを飾る「リビド」「イカロス」という2連打によって会場の空気が一気にロックンロールに染まっていく。もう爆音で楽器を鳴らすのが何よりも気持ちが良くて最高だというのが中島元良(ドラム)の、こりゃあホリエに「強ぇ」って言われるわというくらいの超剛腕ドラムと、ワイルドな長い金髪を靡かせてダウンピッキングしまくる地を這うようなKen Mackyのベース、そしてどこかOKAMOTO'Sのオカモトショウをも彷彿とさせるようなサイトウタクヤ(ボーカル&ギター)のロックな曲を歌うために持って生まれたかのような歌声から伝わってくる。それでもアルバムを聴いた時の印象とおりに、どこか今回の作品によってただただ荒々しいだけというよりはグッと整理されたような感覚もある。それは中島のコーラスなどからも感じられる。
サイトウが
「ありがとう」
とだけ言ってすぐにまた「感情」収録曲の歪んだギターをぶっ放すような「馬鹿と虎馬」と続くと、客席では想像した以上にたくさんの腕が上がっている。テナーよりもはるかに若いバンドの新作曲を中心にした内容でこの状態になっているのが、このバンドを楽しみにこの日このライブに足を運んだ人たちもかなりいるということを感じさせるし、あるいはテナーファンにもこのバンドのロックンロールが浸透していることを感じさせる。
少し荒さというよりもロマンチックさや爽快感を自分たちのロックンロールに託しているようにも感じる「バニラ・スカイ」から、改めてそのタイトルを見るだけでテナーよりもはるかに若い世代であることを感じさせる「1994」と、この大きなステージでのテナーの後という状況であっても全く臆することなくというか、むしろいつも通りに堂々と自分たちのロックンロールを鳴らしているように見えるのは先輩バンドの凄さは分かりつつも、自分たちも同じステージに立ったら上も下もない、なんなら自分たちが1番カッコいいということを示そうとしているようにすら感じる。その堂々たる姿勢が鳴らしているロックンロールにさらに強い説得力を与えている。
その不遜とも言えるような大胆不敵さはセトリを間違えながらも
「9月にアルバムを出しました。今日、3バンド出てる中で言うのもなんですが、今年1番良いアルバムです」
と言ってしまえるところからも感じられる。
そんな「感情」収録曲の中から、ただ激しく荒々しいだけではない、このバンドの持つ情緒やメロディの美しさを感じさせるような「オレンジ」という聴かせるタイプの曲が演奏され、タイトルに合わせて照明もオレンジ色になるのだが、こうした曲にはテナーなどのバンドからの影響もあるのかもしれない。それはサイトウも
「高校生の時にコピーしていた」
とリスペクトを示していたからよりそう感じられるのであるが、
「俺たちは今日バンドで一つの楽屋を用意してもらったんだけど、ストレイテナーと633が同じ楽屋に押し込められててなんか申し訳ないなっていう(笑)」
と設定に乗っかったMCをするというユーモアも感じさせてくれる。それはすでにライブ前からビールを飲んでこのツアーを謳歌していた影響もあるのかもしれないが。
そんなこのバンドを自分はロックンロールバンドだと思っているのはa flood of circleが可愛がっているバンドだからというのもあるかもしれないが、テナーのシンペイはこのバンドを「オルタナ」と称していて、それは「モーニング・グローリー」や「Mayday」という過去曲からはNirvanaなどからの強い影響を感じさせるからかもしれない。それはKenの出で立ちの印象によるものかもしれないが、今日本でこうした武骨とも言えるようなサウンドを鳴らしているバンドはほとんどいないだけに、そのひたすらにロックバンドとしてのカッコ良さを追求するような姿や楽曲はロックシーンの救世主たり得る存在になるかもしれないとすら思える。本人たちからしたらロックンロールだろうがオルタナだろうがグランジだろうがなんでもいいのかもしれないけれど。
社会に出て労働をしているとその気持ちめちゃくちゃわかるわ〜、というかそういうやつめっちゃいるわ〜と共感せざるを得ない、気に食わない奴への憤りや怒りを歌詞にし、それをその感情に任せたサウンドに乗せることでそれがなによりもロックになるということを示してくれるような「Fullface」でそのど迫力のスリーピースサウンドが爆発し、基本的にそこまで動き回るわけではないKenもステージ下手へと歩みながら、体を大きく動かしながら演奏している姿を見るとこのバンドはこうした大きなライブハウスも似合う存在なんじゃないかと思える。
そんな実にテンポの良い(曲自体も短い)ライブの最後に演奏されたのはこのバンド最大の代表曲と言える「踊る阿呆に見る阿呆」。そのタイトルとおりに阿呆になったかのように飛び跳ねまくって踊りまくる観客の姿は間違いなくこのバンドの鳴らす音に反応してそうならざるを得ない状態になっている。
演奏が終わるとすぐにステージから去っていくのも潔いが、自分たちが今持っている楽器だけでこんなにもカッコいいロックンロールを鳴らしているこのバンドの姿は、ただカッコいいというだけじゃなくて、楽器さえあれば自分もこんなバンドができるんじゃないだろうかと思わせてくれるようなかっこよさだ。もちろんただ楽器を持ってコピーしただけではこのバンドのようにカッコよくはなれないことは重々わかってはいるのだけれど。
1.リビド
2.イカロス
3.馬鹿と虎馬
4.バニラ・スカイ
5.1994
6.オレンジ
7.モーニング・グローリー
8.Mayday
9.Fullface
10.踊る阿呆に見る阿呆
・633
そしてこの日の主催にしてここまでの2組を抑えてトリを務めるという脅威の新人、633。当たり前だが自分がライブを見るのは初めてであり、顔出しもしていないバンドであるだけにどんなバンドなんだろうか。楽屋がストレイテナーと同じということは最初のツアーにしてさぞや仲良くなったことを感じさせるけれど。
ステージには紗幕が張られており、その向こう側にメンバーが登場するのがわかるとまだ暗転する前から客席から大きな拍手が起きるのであるが、実際に暗転するとメンバーは冬だからなのかそれぞれが暖かそうな帽子を被っていたり、下手のベースのLANTERN SMILEは名前の通りにランタンを持っていてそれが光っており、紗幕越しでしっかりは見えないけれど、ギターのSMOKEはソーセージ的な被り物を被っているようにも見える。
そんなメンバーによって鳴らされたのはデビューアルバム(まだそれ1枚しか出てないけど)の1曲目というこのバンドの始まりを鳴らした「Drink Up」であり、紗幕にはアー写になっているメンバーのアニメーション映像が映し出されるという映像と音楽の融合というコンセプチュアルなライブをデビュー直後にしてすでに出来ているというのは恐ろしいくらいの完成度の高さであり、今アメリカで再びブームになりつつあるポップパンク的なサウンドを力強く鳴らすメンバーの演奏も新人バンド的な衝動がありながらも新人らしからぬ音の圧力を感じるし、SOFT CREAM(ボーカル&ギター)の歌声は20年近く聴いてきたかのような、なんならまだその声の残像が頭に残っているかのような安心感すらある。つまりこの1曲目の段階でこのバンドが只者ではないことがわかるし、観客もそのストレートなサウンドにダイレクトに反応して腕を振り上げている。
すると紗幕には映像が映らずにメンバーの演奏する姿がうっすらとではあるが先ほどよりははっきりと見える「Sweet Rain」は何よりもそのメロディーがスイート極まりない。どことなく聞き覚えがあるというか、特にサビの最後のフレーズなんかは人数が増えたことによって表現力が増していったバンドの作曲者の曲からもよく感じられるものでもあるのだが、そんなメロディーの美しさに浸るための映像なしという選択だったのだと思われるし、それはDRUNK MONKEY(ドラム)の軽快なリズムに合わせてSOFT CREAMがタイトルフレーズを歌唱することによって観客が飛び跳ねまくる「Girls Don't Cry」もそうである。とにかく新人バンドらしからぬ深さと慈悲を感じさせるようなSOFT CREAMの歌声がこうしたパンク的なサウンドに実によく似合うということを思い出させてくれる…じゃなくて思い知らせてくれるかのような。
MCではメンバーそれぞれが自己紹介をするのであるが、「LANTERN SMILEは山育ちだから常にやまびこがかかっている」「DRUNK MONKEYは酒を飲みすぎて酒焼けして声が高くなりまくっている」という理由でなんだかヴォコーダーなどを通しているかのような声で自己紹介し、SMOKEはテレビ番組で声をそのまま使えない人に加工を施しているかのような声で
「みんな、ソーセージは何派?シャウエッセン派?打倒シャウエッセン!」
とソーセージの化身として意味のよくわからないことを言い、SOFT CREAMからは
「諸説あるけど(笑)アルトバイエルン派とか(笑)」
と突っ込まれながら、冬になって枯れた木々の上には星空が広がり、そこに歌詞が映し出されていくという演出が重めのリズムのサウンドに乗るという「Aurora」が演奏されるのであるが、「Campsite」などの歌詞は本当にこのバンドがバーベキュー大好きなことをそのまま歌詞にしていることがわかる。ある意味では歌詞にほとんど意味がないからこそ、頭を空っぽにして楽しめるというのがこのバンドのライブの楽しみ方なのかもしれない。
そんな冬の情景から一気に夏に変わっていくのは「One Summer Day」であり、この曲では観客がメンバーと一緒に歌って夏を謳歌できるようなコーラスパートがある。そこはもちろん今はまだメンバーのみによって響くのであるが、それを夏の野外会場で聴いたらより一層このバンドのことが好きになりそうな予感がしている。SOFT CREAMも
「次に会えた時にはみんなで一緒に歌おう!」
と言っていただけに、まだまだこれからもライブをやっていくつもりでいるようだ。
序盤のポップパンクから始まり、中盤には紗幕にやはりメンバーのアニメーションが投影されることによってその演出にも見入ってしまうような「Rooftop Party」から、グルーヴの強さを感じさせるような「The Great Escape」という単なるポップパンクバンドというだけには止まらないような曲も演奏される。その幅の広さと表現力はまるでストレートなバンドサウンドから始まり、徐々にメンバーや機材が増えていって曲の幅が広がっていったベテランロックバンドかのようだ。このバンドはデビューアルバムでそんな他のバンドが20年くらいかかるようなことをやってのけている。やはり脅威の新人バンドである。
それはSOFT CREAMの歌唱にも現れており、メンバーのアニメーションが星座を作り出すという美しい映像とともに演奏された「Million」はこれまでに数々のバラード曲を歌ってきたベテランシンガーであるかのような渋さと説得力の強さを感じるような歌モノの曲になっている。そうした歌声が映像という武器を手に入れることによってさらに輝きを増している。紗幕越しでハッキリとは見えないけれど、果たしてこの歌声の持ち主はどんな目や口の形をしている人物なのだろうか。きっと爽やかながらもそこから音楽への強い想いと敬意を感じさせるような姿をしているに違いない。
そんな633はまだアルバム1枚で9曲しか世に出しておらず、当然9曲目には最後の曲としてまだ演奏されていなかった「Radio Song」が演奏される。紗幕にはまるでライブのエンドロールであるかのように歌詞などが次々と映し出されていき、こうした演出はこのバンドのライブがこれから先にさらにコンセプチュアルになっていくことを予感させるのであるが、それでもメンバーはステージから去らずに、
「633はもう曲がありませんが、アンコール代わりにストレイテナーの昔の曲をカバーします」
と言って演奏されたのはライブで聴くのはいつ以来だろうかと思う「BOUNDER ADVENTURE」。ツアーの横浜で先にライブを見た人たちのツイートから何となくこの辺りの曲をやるんだろうなと察していたのではあるが、実際にこうして聴くと荒々しいロックバンドだった頃のテナーの曲によって、スタンディングの客席はモッシュやダイブが起こるんじゃないかと思ってしまうくらいにみんなが腕を振り上げて飛び跳ねまくっている。それがこの633という新人バンドの演奏によってフレッシュさとともに洗練された楽曲の形になっている。
「ストレイテナー最高!w.o.d.最高!みんな最高!」
と言って紗幕の向こう側のメンバーたちは姿を消していったが、633もその2組に負けないくらいに、いや、やはりこれは633のツアーなんだよなと思うくらいに最高だった。
と、ここまでは設定に乗っかってきたが、ぶっちゃけ633はストレイテナーのメンバーたちによるバンドである。ただ、今のテナーが何の意味もなくこうした別名義での活動をするわけがないと思っているし、自分はその理由は演出よりもサウンド、楽曲にあると思っている。
それは633のサウンドが近年のテナーのものからはかなり距離があるような、それこそ「BOUNDER ADVENTURE」のようなインディーズ期の曲をセトリに入れてもおかしくないくらいにパンクと言っていいようなものになっているから。
それは今のアメリカの、ラッパーが急にポップパンクをやるような流れに乗っかったものというよりは、今自分たちがやりたいと思った音楽がこうしたものであり、でも今のテナーでそれをやるとどうしても意味が生まれてきてしまうだけに設定や歌詞をあえて無意味なものにして鳴らしているのじゃないだろうか。
と同時にそれは昔のこうしたサウンドの曲をやるのではなくて、今の4人でこうしたサウンドを鳴らす曲を作りたい、それによってもしかしたらインディーズ期の曲をこれからこの4人でブラッシュアップしてライブや音源で聴くことができるようになるような。そうした先の展開が見えるものになるんじゃないかとすら思っている。
何よりもちょっと前までは「丸くなった」「優しくなった」と言われることがよくあったテナーが、実は全然そんなことはなくて今もロックバンドとしての弾けるような衝動を持ち続けていて、それをサウンドとしても姿勢としても痛快なくらいにパンクであろうとしている。633の曲やライブはそんなテナーの本質を感じさせてくれるものだった。それだけにこれからのテナーも含めた活動が今まで以上に楽しみになるのだ。
1.Drink Up
2.Sweet Rain
3.Girls Don't Cry
4.Aurora
5.One Summer Day
6.Rooftop Party
7.The Great Escape
8.Million
9.Radio Song
10.BOUNDER ADVENTURE
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