メレンゲ 20周年ワンマンライブ vol.1 @新代田FEVER 12/6
- 2022/12/07
- 18:42
かつてはスリーピースバンドだったが、クボケンジ(ボーカル&ギター)とタケシタツヨシ(ベース)だけになっても時期によって様々なサポートメンバーたちの力を借りて続いてきたメレンゲがついに20周年を迎えた。
今年は夏などにも主に都内のライブハウスで精力的にライブを行ってきたけれど、20周年を迎えた今月は年末に数本のライブを開催。その1本目となるのがこの日の新代田FEVERでのワンマンである。
もはやメレンゲのライブくらいでしか来てない新代田FEVERは足元の立ち位置マークも消えたオールスタンディング。この日はソールドアウトこそしていないものの、ほぼほぼ客席は埋まっていると言っていいくらい。今やほとんど世間的な話題性がないバンドが平日にFEVERをこれくらい埋めているのは決して離れることのないファンがいるからこそだ。
19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると、タケシタを先頭にメンバーがステージに登場。この日も山本健太(キーボード)、小野田尚史(ドラム)、松江潤(ギター)というおなじみのサポートメンバーを加えての5人編成で、クボが挨拶すると山本の幽玄なキーボードのサウンドによる「ミュージックシーン」からスタートするというのは少し意外な展開であるが、曲中ではサポートメンバーもタケシタとともに手拍子をするというあたりはもう完全に今やこの5人でメレンゲのメンバーと言っていいくらいである。
なのだがハイファイなシンセのサウンドのダンスミュージックを取り入れた「バンドワゴン」と続くと、この日はクボの喉の調子があんまり良くなさそう(挨拶の時から少しそんな感じはしていた)で、特に高音部は張り上げるように歌うところはかなりきつそうですらある。それでもサビではたくさんの観客が腕を上げるという光景は何よりも楽曲の力が生み出しているものであると言える。
そんなクボは
「ありがとうございます」
という声もどこか少しいつもよりも張りがないような感じも受けるのであるが、20周年を迎えたことを
「休み休みだったりしたから、ギュッと凝縮したら3年くらい(笑)他の20年続いてるバンドに申し訳ないくらい(笑)」
と和ませてくれるあたりはいつものクボらしさだ。
「いつまで続けられますかね…」
というタケシタの言葉はまだ始まったばかりにして少し重い感じにさせてしまうのであるが。
するとクボがギターを掻き鳴らすようにしてから歌い始めたのは「カメレオン」であり、ギターロックバンドとしてのメレンゲのサウンドのキレ味とともに他のどんなバンドでも書くことができない珠玉のメロディと歌詞を今でも実感することができる。やはりクボは喉がキツそうであり、少し歌いきれていないところもあったけれど、自分がメレンゲというバンドに出会った頃の曲がこうして今でも聴けているというのは本当に嬉しいことである。
さらには山本のキーボードが浮遊感のある音を鳴らすのはバンド屈指の名曲「きらめく世界」。メレンゲの20年間を支えてきた名曲たちがこうして次々に演奏されていく。ステージを照らす、まさにグラデーションのような青い照明と「水平線」「波の音」などのフレーズが脳内に情景を喚起させる。そのイメージは初めてこの曲を聴いた20年近く前から決して色褪せることはない。それは今でもメレンゲがこうしてこの曲を目の前で歌い鳴らしてくれているからだ。
そんなクボのボーカルが一気に向上するというか、この日の状態でも出しやすい音程だったりするんだろうかと思えるくらいによく出ていたのは松江がタッピングも披露しながら爽やかな、でもどこか儚げなイメージを生み出す「アルカディア」で、クボは曲の最後に思いっきり
「イェー!」
と叫んだ。それはこの曲を歌っていて喉が開いていくような感覚があったのかもしれないが、やっぱりもっと歌っていれば声も出るようになるといろんなライブバンドを見ていると思うだけに、もっともっとライブをやって欲しいと思う。
そんな思いはバンドも持っているようで、来年はまたたくさん活動していくということをクボは口にするのだが、一方のタケシタはこの日のセトリの完成形を決めたらしく、
「「旅人」から始まらないライブっていうのもいいなと思ってこういうセトリにしてみた」
と言っていたのだが、それがフリのようになってしまったことによってクボに
「今夜眠れなくなるぞ(笑)」
というツッコミを浴びせられる。この2人の漫才のような軽妙なやりとりも何年経っても変わることはないのだがクボは
「昔書いた曲がすごい古いものになってきてるっていうか。未来のことを歌った曲もそうじゃなくなっている」
と言いながらアコギを弾いて歌い始めたのは
「もしか僕にネコ型ロボットがいて…」
という、クボが大好きなドラえもんをテーマにした「タイムマシーンについて」。この曲を歌っている時にはクボの歌声は全く気にならないくらいになっていたのだが、それは
「ボクの「本当の言葉」は
たぶん人を嫌な気持ちにする
でも「嘘の言葉」で
君や誰かを頷かせるのは嫌だ」
などのクボに写生していただいて床の間に飾りたいくらいの名フレーズの数々を歌うクボの歌声を聴いていると、どんなに歌が上手い人や声量がある人が歌ってもこの曲はこんなに響きないだろうなと思う。このクボの儚い歌声で歌うからこそ、この曲がこんなにも響く。それはメレンゲの曲の全てがそうであるが、リリースから何年経ってもこの曲は自分にとっては古びることはない。ずっと未来の曲でありながら、ずっと今の曲であり続けている。
そのままクボのアコギと、今やあいみょんなどの大物アーティストのサポートメンバーである売れっ子ミュージシャンでありながらもずっとメレンゲとして活動してくれている山本のピアノの美しいメロディがタイトル通りにまぶしい光を曲にもたらしてくれるのは「まぶしい光」。ライブでは久しぶりに演奏されるのを聞いた気もするが、クボが言っていたようにタケシタの決めたセトリは歌うのが本当に難しいというかキツそうな曲ばかりだ。でもそんなこの曲のファルセット的なサビもなんとか歌おうとするクボのボーカルによってこの曲の名曲っぷりを感じることができているのである。
そんなメレンゲは今絶賛曲作り中ということであり、それがより一層来年の期待を募らせるのであるが、そんな新曲の中から演奏されたのは9月のライブでも新曲として披露されていた「アクアカイト」。タイトル通りに夏の海というか、そこへ仲間たちと一緒に向かうような情景が浮かぶような曲で、サウンドもリズムも心地良く体を揺らせるようなご機嫌かつ軽快なものになっているのであるが、前回聴いた時よりもはるかに完成形というか、練り上げられたようなアレンジに感じられるのは本当に日々曲作りをしていることを感じさせる。
小野田のパーカッションと松江のギターがオリエンタルな雰囲気を醸し出す「CAMPFIRE」がクボの森の中で声を上げるようなボーカルと相まってまたここから新しくライブが始まっていくように我々を昂らせると、ライブだからこそのイントロでのタケシタのベースソロから演奏されたのはそのタケシタがネタバレしたような感じになってしまった「旅人」であるが、ライブ中盤にマーチ的な、足をさらに前へと進ませるようなこの曲が演奏されることによってまだまだ行ける、まだまだここからというような気持ちにしてくれる。それをバンドもわかっているからこそライブで毎回(時には1曲目として)この曲を演奏しているのだろう。
曲間にはセッション的な演奏も挟まれたのは「さらさら'90s」と、ポップでありながらギターロック、あるいはギターロックでありながらポップというメレンゲの立ち位置や存在を示す曲が演奏される。この曲が収録されている、8年前リリースにしてアルバムとしては最新作であり続けている「CAMPFIRE」はリリース以降によりライブをやる機会が極端に減っていっただけにこうしてその曲をライブで聴けるのは実は貴重であると言える。
そして山本の弾くきらめくようなキーボードのサウンドに合わせてタケシタが右手を高く突き上げるのは「ラララ」。メジャーにいる時からそうであったが、メレンゲは本当にビジネス的に音楽を出来なかったバンドなんだなと思うのは、今人気があるポップなバンドがカバーしたら大ヒットしたり、TikTokでめちゃくちゃ使われるようなイメージがすぐに湧いてくるこんな名曲がシングルのカップリング曲であり、アルバムにも収録されていないからである。やはりクボのボーカルはこの後半の曲になってまた少しキツそうではあったけれど、こうした曲があって、その曲を演奏してくれているからこうしてずっとメレンゲのライブに来ていようと思える。それくらいの名曲である。だから
「君が大好き」
というフレーズはバンドからファンへ、ファンからバンドへと双方向に向けられたものであるし、この曲を聴けばいつどんな状況だって、
「水たまり 向こうの世界へ 迷いなく飛び込めるよ」
というフレーズの通りに翌日以降に自分が生きていく世界へ飛び込んで生きていくための力が湧いてくるのだ。
そんな「ラララ」がクライマックスを告げると、イントロでタケシタがステージ前に出てきて小野田のドラムのリズムに合わせて手拍子をするのはもちろん「ビスケット」で、観客もそのタケシタに合わせて手拍子をするのだが、タケシタが「もっと高く!」と言うかのように腕を高く挙げると、観客の腕も高く挙がる。その光景はメレンゲの曲はただ立って聴いているだけのものもあるけれど、こうしてみんなで楽しむことができるものでもあることを示してもくれる。それが日比谷野音や渋谷公会堂(現LINE CUBE SHIBUYA)という大きな会場で何千人もの観客を集めてライブをした時の光景を思い出させてくれるのだ。
クボ「あとどれくらい今みたいなライブできるかな?」
タケシタ「リアルに3年くらい?」
クボ「だってもう来年互いに45だからな(笑)」
タケシタ「そろそろアコースティックとかボサノバアレンジになるかもしれない(笑)」
と言い合いながらもできるところまでメレンゲを続けていくことを口にして最後に演奏されたのは山本が浮遊するかのような効果音を鳴らす「ユキノミチ」。冬になったことだし、この曲はやるだろうとは思っていた。でもこの曲はそうした冬のメレンゲのライブで何回も聴いてきたからこそ、あまりに思い入れがありすぎる。タケシタも
「この曲を聴いた時に一緒に(バンドを)やりたいと思った」
というくらいに、メレンゲがバンドになったきっかけの曲。個人的にも3月なのに大雪が降った渋谷公会堂ワンマン、バンドが一度だけ立ったCOUNTDOWN JAPANのGALAXY STAGE、もうなくなってしまってだいぶ経つ渋谷AXという大きなライブハウスでの初ワンマン…。人気バンドでもなかなか立てないような場所に確かにメレンゲが立っていたその全てで演奏されていた記憶がすぐに甦ってくる。まだ都内には雪は降っていないけれど、この曲を聴いている時は頭の中では雪が降って積もっている道を歩く2人の姿が浮かんでくる。そう思えるのは聞いている我々に想像力があるから。メレンゲの音楽とライブはその力がある人にこそ響くものだ。そんなバンドはなかなかいないからこそ、
「すぐ会えたりするんだろうか……
キミもたぶん 同じかなぁ……同じかなぁ…」
という締めのフレーズの通りに、すぐまたメレンゲに会えるように、バンドも我々に対してそう思っていてくれていたらなと思っている。
アンコールではタケシタが1人で先に登場し、
「漫談やっておいてって言われたので(笑)
この前、カミナリグモっていう子達のサポートをやったんだけど、最後にみんなで写真撮ったら「俺デカいな」って思って(笑)メレンゲにいるから目立たないけど、そうなんだなって(笑)
あと、チューナーっていうこの機械が壊れたから誰かにあげようと思ったんだけど、ステージから投げたら流血騒ぎになるから(笑)ピックを投げて、ピックを取った人にあげますね………。誰も欲しそうじゃない!(笑)」
という漫談は一定の成功を収めただけにメンバーを呼び込むとクボは
「じゃあ俺がそのチューナーもらうよ(笑)」
と言うのだがタケシタは
「1番いらないと思ってる人じゃん(笑)燃えないゴミにされるじゃん(笑)
とツッコミをいれ、小野田や松江も笑い合っているというあたりにこの5人でのメレンゲの空気感を感じられる。
そんな緩さを一閃するかのようにクボの号令を合図にバンドが演奏を始めたのは「火の鳥」。赤い照明がステージを照らす中、テンポを落としたどっしりとしたバンドの演奏が生物の輪廻転生というテーマを感じさせる音を鳴らす。それはもう会えることがない人にもいつかまた違う形として会うことができるかもしれないという願いを込めたものであり、クボにとってその人物が誰かを知っているだけにこの曲を聴いているとどこか胸が締め付けられるような気持ちになる。つまりは、何年経っても思い出してしまうということなのである。
それだけでアンコールは終わらず、最後に演奏されたのはやはりイントロで観客の手拍子が響く「クラシック」。クボの声もキツそうでもありながらも
「oh oh oh oh oh oh oh」
というコーラスフレーズで観客が腕を上げ、どこまでもポップでどこまでも楽しいメレンゲのライブになる。そもそも喉の調子が悪くてもバンドのライブが良くなかったというわけではない。クボの声はもちろん重要な要素だが、メレンゲというバンドの音がどんなにライブの回数が少なくなったり間隔が空いたりしてもいつだってこのバンドでしかないマジックを感じさせてくれる。それはこの曲の歌詞の通りにクボとタケシタが、サポートメンバーが
「いつだって精一杯笑う君」
の姿を見るために自分たちも精一杯音を鳴らしているからだ。それをわかっているから、これからもメレンゲが活動し続けてくれている限りはずっとライブに行き続けようと思っている。どんなに若くてカッコいいバンドが出てきても上書きされることのない、自分にとってずっと瑞々しいままでいるロックバンドだから。
演奏が終わるとタケシタは21日に行われる青山でのワンマンライブでの再会を約束して最後にステージから去っていった。今年も、きっとまたこれから先も。一時期は全く見ることが出来なかったメレンゲのライブを見れる機会があることが本当に嬉しい。2人が言っていたように活動していたのは20年間のうちの数年間くらいかもしれないが、それでも自分にとっては20年近くずっと頭や心の中にメレンゲの音楽があり続けていた。20周年おめでとうございます。30周年、40周年、50周年までどうかずっとよろしく。
1.ミュージックシーン
2.バンドワゴン
3.カメレオン
4.きらめく世界
5.アルカディア
6.タイムマシーンについて
7.まぶしい朝
8.アクアカイト
9.CAMPFIRE
10.旅人
11.さらさら'90s
12.ラララ
13.ビスケット
14.ユキノミチ
encore
15.火の鳥
16.クラシック
今年は夏などにも主に都内のライブハウスで精力的にライブを行ってきたけれど、20周年を迎えた今月は年末に数本のライブを開催。その1本目となるのがこの日の新代田FEVERでのワンマンである。
もはやメレンゲのライブくらいでしか来てない新代田FEVERは足元の立ち位置マークも消えたオールスタンディング。この日はソールドアウトこそしていないものの、ほぼほぼ客席は埋まっていると言っていいくらい。今やほとんど世間的な話題性がないバンドが平日にFEVERをこれくらい埋めているのは決して離れることのないファンがいるからこそだ。
19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると、タケシタを先頭にメンバーがステージに登場。この日も山本健太(キーボード)、小野田尚史(ドラム)、松江潤(ギター)というおなじみのサポートメンバーを加えての5人編成で、クボが挨拶すると山本の幽玄なキーボードのサウンドによる「ミュージックシーン」からスタートするというのは少し意外な展開であるが、曲中ではサポートメンバーもタケシタとともに手拍子をするというあたりはもう完全に今やこの5人でメレンゲのメンバーと言っていいくらいである。
なのだがハイファイなシンセのサウンドのダンスミュージックを取り入れた「バンドワゴン」と続くと、この日はクボの喉の調子があんまり良くなさそう(挨拶の時から少しそんな感じはしていた)で、特に高音部は張り上げるように歌うところはかなりきつそうですらある。それでもサビではたくさんの観客が腕を上げるという光景は何よりも楽曲の力が生み出しているものであると言える。
そんなクボは
「ありがとうございます」
という声もどこか少しいつもよりも張りがないような感じも受けるのであるが、20周年を迎えたことを
「休み休みだったりしたから、ギュッと凝縮したら3年くらい(笑)他の20年続いてるバンドに申し訳ないくらい(笑)」
と和ませてくれるあたりはいつものクボらしさだ。
「いつまで続けられますかね…」
というタケシタの言葉はまだ始まったばかりにして少し重い感じにさせてしまうのであるが。
するとクボがギターを掻き鳴らすようにしてから歌い始めたのは「カメレオン」であり、ギターロックバンドとしてのメレンゲのサウンドのキレ味とともに他のどんなバンドでも書くことができない珠玉のメロディと歌詞を今でも実感することができる。やはりクボは喉がキツそうであり、少し歌いきれていないところもあったけれど、自分がメレンゲというバンドに出会った頃の曲がこうして今でも聴けているというのは本当に嬉しいことである。
さらには山本のキーボードが浮遊感のある音を鳴らすのはバンド屈指の名曲「きらめく世界」。メレンゲの20年間を支えてきた名曲たちがこうして次々に演奏されていく。ステージを照らす、まさにグラデーションのような青い照明と「水平線」「波の音」などのフレーズが脳内に情景を喚起させる。そのイメージは初めてこの曲を聴いた20年近く前から決して色褪せることはない。それは今でもメレンゲがこうしてこの曲を目の前で歌い鳴らしてくれているからだ。
そんなクボのボーカルが一気に向上するというか、この日の状態でも出しやすい音程だったりするんだろうかと思えるくらいによく出ていたのは松江がタッピングも披露しながら爽やかな、でもどこか儚げなイメージを生み出す「アルカディア」で、クボは曲の最後に思いっきり
「イェー!」
と叫んだ。それはこの曲を歌っていて喉が開いていくような感覚があったのかもしれないが、やっぱりもっと歌っていれば声も出るようになるといろんなライブバンドを見ていると思うだけに、もっともっとライブをやって欲しいと思う。
そんな思いはバンドも持っているようで、来年はまたたくさん活動していくということをクボは口にするのだが、一方のタケシタはこの日のセトリの完成形を決めたらしく、
「「旅人」から始まらないライブっていうのもいいなと思ってこういうセトリにしてみた」
と言っていたのだが、それがフリのようになってしまったことによってクボに
「今夜眠れなくなるぞ(笑)」
というツッコミを浴びせられる。この2人の漫才のような軽妙なやりとりも何年経っても変わることはないのだがクボは
「昔書いた曲がすごい古いものになってきてるっていうか。未来のことを歌った曲もそうじゃなくなっている」
と言いながらアコギを弾いて歌い始めたのは
「もしか僕にネコ型ロボットがいて…」
という、クボが大好きなドラえもんをテーマにした「タイムマシーンについて」。この曲を歌っている時にはクボの歌声は全く気にならないくらいになっていたのだが、それは
「ボクの「本当の言葉」は
たぶん人を嫌な気持ちにする
でも「嘘の言葉」で
君や誰かを頷かせるのは嫌だ」
などのクボに写生していただいて床の間に飾りたいくらいの名フレーズの数々を歌うクボの歌声を聴いていると、どんなに歌が上手い人や声量がある人が歌ってもこの曲はこんなに響きないだろうなと思う。このクボの儚い歌声で歌うからこそ、この曲がこんなにも響く。それはメレンゲの曲の全てがそうであるが、リリースから何年経ってもこの曲は自分にとっては古びることはない。ずっと未来の曲でありながら、ずっと今の曲であり続けている。
そのままクボのアコギと、今やあいみょんなどの大物アーティストのサポートメンバーである売れっ子ミュージシャンでありながらもずっとメレンゲとして活動してくれている山本のピアノの美しいメロディがタイトル通りにまぶしい光を曲にもたらしてくれるのは「まぶしい光」。ライブでは久しぶりに演奏されるのを聞いた気もするが、クボが言っていたようにタケシタの決めたセトリは歌うのが本当に難しいというかキツそうな曲ばかりだ。でもそんなこの曲のファルセット的なサビもなんとか歌おうとするクボのボーカルによってこの曲の名曲っぷりを感じることができているのである。
そんなメレンゲは今絶賛曲作り中ということであり、それがより一層来年の期待を募らせるのであるが、そんな新曲の中から演奏されたのは9月のライブでも新曲として披露されていた「アクアカイト」。タイトル通りに夏の海というか、そこへ仲間たちと一緒に向かうような情景が浮かぶような曲で、サウンドもリズムも心地良く体を揺らせるようなご機嫌かつ軽快なものになっているのであるが、前回聴いた時よりもはるかに完成形というか、練り上げられたようなアレンジに感じられるのは本当に日々曲作りをしていることを感じさせる。
小野田のパーカッションと松江のギターがオリエンタルな雰囲気を醸し出す「CAMPFIRE」がクボの森の中で声を上げるようなボーカルと相まってまたここから新しくライブが始まっていくように我々を昂らせると、ライブだからこそのイントロでのタケシタのベースソロから演奏されたのはそのタケシタがネタバレしたような感じになってしまった「旅人」であるが、ライブ中盤にマーチ的な、足をさらに前へと進ませるようなこの曲が演奏されることによってまだまだ行ける、まだまだここからというような気持ちにしてくれる。それをバンドもわかっているからこそライブで毎回(時には1曲目として)この曲を演奏しているのだろう。
曲間にはセッション的な演奏も挟まれたのは「さらさら'90s」と、ポップでありながらギターロック、あるいはギターロックでありながらポップというメレンゲの立ち位置や存在を示す曲が演奏される。この曲が収録されている、8年前リリースにしてアルバムとしては最新作であり続けている「CAMPFIRE」はリリース以降によりライブをやる機会が極端に減っていっただけにこうしてその曲をライブで聴けるのは実は貴重であると言える。
そして山本の弾くきらめくようなキーボードのサウンドに合わせてタケシタが右手を高く突き上げるのは「ラララ」。メジャーにいる時からそうであったが、メレンゲは本当にビジネス的に音楽を出来なかったバンドなんだなと思うのは、今人気があるポップなバンドがカバーしたら大ヒットしたり、TikTokでめちゃくちゃ使われるようなイメージがすぐに湧いてくるこんな名曲がシングルのカップリング曲であり、アルバムにも収録されていないからである。やはりクボのボーカルはこの後半の曲になってまた少しキツそうではあったけれど、こうした曲があって、その曲を演奏してくれているからこうしてずっとメレンゲのライブに来ていようと思える。それくらいの名曲である。だから
「君が大好き」
というフレーズはバンドからファンへ、ファンからバンドへと双方向に向けられたものであるし、この曲を聴けばいつどんな状況だって、
「水たまり 向こうの世界へ 迷いなく飛び込めるよ」
というフレーズの通りに翌日以降に自分が生きていく世界へ飛び込んで生きていくための力が湧いてくるのだ。
そんな「ラララ」がクライマックスを告げると、イントロでタケシタがステージ前に出てきて小野田のドラムのリズムに合わせて手拍子をするのはもちろん「ビスケット」で、観客もそのタケシタに合わせて手拍子をするのだが、タケシタが「もっと高く!」と言うかのように腕を高く挙げると、観客の腕も高く挙がる。その光景はメレンゲの曲はただ立って聴いているだけのものもあるけれど、こうしてみんなで楽しむことができるものでもあることを示してもくれる。それが日比谷野音や渋谷公会堂(現LINE CUBE SHIBUYA)という大きな会場で何千人もの観客を集めてライブをした時の光景を思い出させてくれるのだ。
クボ「あとどれくらい今みたいなライブできるかな?」
タケシタ「リアルに3年くらい?」
クボ「だってもう来年互いに45だからな(笑)」
タケシタ「そろそろアコースティックとかボサノバアレンジになるかもしれない(笑)」
と言い合いながらもできるところまでメレンゲを続けていくことを口にして最後に演奏されたのは山本が浮遊するかのような効果音を鳴らす「ユキノミチ」。冬になったことだし、この曲はやるだろうとは思っていた。でもこの曲はそうした冬のメレンゲのライブで何回も聴いてきたからこそ、あまりに思い入れがありすぎる。タケシタも
「この曲を聴いた時に一緒に(バンドを)やりたいと思った」
というくらいに、メレンゲがバンドになったきっかけの曲。個人的にも3月なのに大雪が降った渋谷公会堂ワンマン、バンドが一度だけ立ったCOUNTDOWN JAPANのGALAXY STAGE、もうなくなってしまってだいぶ経つ渋谷AXという大きなライブハウスでの初ワンマン…。人気バンドでもなかなか立てないような場所に確かにメレンゲが立っていたその全てで演奏されていた記憶がすぐに甦ってくる。まだ都内には雪は降っていないけれど、この曲を聴いている時は頭の中では雪が降って積もっている道を歩く2人の姿が浮かんでくる。そう思えるのは聞いている我々に想像力があるから。メレンゲの音楽とライブはその力がある人にこそ響くものだ。そんなバンドはなかなかいないからこそ、
「すぐ会えたりするんだろうか……
キミもたぶん 同じかなぁ……同じかなぁ…」
という締めのフレーズの通りに、すぐまたメレンゲに会えるように、バンドも我々に対してそう思っていてくれていたらなと思っている。
アンコールではタケシタが1人で先に登場し、
「漫談やっておいてって言われたので(笑)
この前、カミナリグモっていう子達のサポートをやったんだけど、最後にみんなで写真撮ったら「俺デカいな」って思って(笑)メレンゲにいるから目立たないけど、そうなんだなって(笑)
あと、チューナーっていうこの機械が壊れたから誰かにあげようと思ったんだけど、ステージから投げたら流血騒ぎになるから(笑)ピックを投げて、ピックを取った人にあげますね………。誰も欲しそうじゃない!(笑)」
という漫談は一定の成功を収めただけにメンバーを呼び込むとクボは
「じゃあ俺がそのチューナーもらうよ(笑)」
と言うのだがタケシタは
「1番いらないと思ってる人じゃん(笑)燃えないゴミにされるじゃん(笑)
とツッコミをいれ、小野田や松江も笑い合っているというあたりにこの5人でのメレンゲの空気感を感じられる。
そんな緩さを一閃するかのようにクボの号令を合図にバンドが演奏を始めたのは「火の鳥」。赤い照明がステージを照らす中、テンポを落としたどっしりとしたバンドの演奏が生物の輪廻転生というテーマを感じさせる音を鳴らす。それはもう会えることがない人にもいつかまた違う形として会うことができるかもしれないという願いを込めたものであり、クボにとってその人物が誰かを知っているだけにこの曲を聴いているとどこか胸が締め付けられるような気持ちになる。つまりは、何年経っても思い出してしまうということなのである。
それだけでアンコールは終わらず、最後に演奏されたのはやはりイントロで観客の手拍子が響く「クラシック」。クボの声もキツそうでもありながらも
「oh oh oh oh oh oh oh」
というコーラスフレーズで観客が腕を上げ、どこまでもポップでどこまでも楽しいメレンゲのライブになる。そもそも喉の調子が悪くてもバンドのライブが良くなかったというわけではない。クボの声はもちろん重要な要素だが、メレンゲというバンドの音がどんなにライブの回数が少なくなったり間隔が空いたりしてもいつだってこのバンドでしかないマジックを感じさせてくれる。それはこの曲の歌詞の通りにクボとタケシタが、サポートメンバーが
「いつだって精一杯笑う君」
の姿を見るために自分たちも精一杯音を鳴らしているからだ。それをわかっているから、これからもメレンゲが活動し続けてくれている限りはずっとライブに行き続けようと思っている。どんなに若くてカッコいいバンドが出てきても上書きされることのない、自分にとってずっと瑞々しいままでいるロックバンドだから。
演奏が終わるとタケシタは21日に行われる青山でのワンマンライブでの再会を約束して最後にステージから去っていった。今年も、きっとまたこれから先も。一時期は全く見ることが出来なかったメレンゲのライブを見れる機会があることが本当に嬉しい。2人が言っていたように活動していたのは20年間のうちの数年間くらいかもしれないが、それでも自分にとっては20年近くずっと頭や心の中にメレンゲの音楽があり続けていた。20周年おめでとうございます。30周年、40周年、50周年までどうかずっとよろしく。
1.ミュージックシーン
2.バンドワゴン
3.カメレオン
4.きらめく世界
5.アルカディア
6.タイムマシーンについて
7.まぶしい朝
8.アクアカイト
9.CAMPFIRE
10.旅人
11.さらさら'90s
12.ラララ
13.ビスケット
14.ユキノミチ
encore
15.火の鳥
16.クラシック
633 「Bier Fest Tour 2022」 Guest:ストレイテナー / w.o.d. @豊洲PIT 12/6 ホーム
キュウソネコカミ 「ヒッサツマエバ 〜きあいだめ〜」 GUEST:ウルフルズ @Zepp Haneda 12/5