キュウソネコカミ 「ヒッサツマエバ 〜きあいだめ〜」 GUEST:ウルフルズ @Zepp Haneda 12/5
- 2022/12/06
- 18:48
つい先日、ファンにとってこの上なく嬉しい発表もあったキュウソネコカミ。ついこの間Zepp DiverCityでツアーのワンマンをやっていたと思っていたはずなのにまた新しいツアーが始まり、しかも各地に豪華なゲストを迎えた対バンも含めたツアー。
ツアー16本目のこの日のZepp Hanedaのゲストはまさかのウルフルズ。関西出身だったりとなにかと共通点もある両者であるが、去年大阪で対バンする予定だったのが中止になってしまったことによって待望の邂逅である。他の会場のゲストが同世代なり後輩なりが多いだけにツアースケジュールを見るだけで大御所感が滲み出ている。
・ウルフルズ
そんなウルフルズは今年の夏には各地のフェスに精力的に出演しており、個人的にもラブシャで見て以来なので久々感はないが、もう30周年であるという事実を見ると本当に大ベテランだと思うし、形は変わりながらもこうしてライブを観ることができるのは子供だった頃に大ヒット曲たちを聴いたり子供ながらにカラオケで歌ったりしていただけに実に嬉しいところである。
やはりフォーマルであるが独特な出で立ちのメンバー3人が前に一列に並び、後ろには桜井秀俊(ギター。真心ブラザーズ)、浦清英(キーボード)という凄腕サポートメンバーが並ぶというのは夏フェス時と同じ編成であり、何色と形容していいかわからない、敢えて言うならば極彩色のスーツが鮮やかなトータス松本(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら歌い始めたのは今年リリースの最新アルバム「楽しいお仕事愛好会」収録の「ツーベーコーベー」。
「ロックバンドはつべこべ言わないの
つべこべ言ってもたかがロックンロール」
という歌詞が全てを示しているが、それはそのままウルフルズがロックバンドであり、今も新しい自分たちの表現を求め続けているバンドであることがわかる。
その「ツーベーコーベー」は桜井のギターも含めてブギー的なサウンドで踊れるロックなのだが、MV(当時はPVと言われていたが)でのダンス含めて、ウルフルズのブギーと言えばやっぱりこの曲である「借金大王」では客席からたくさんの腕が上がる。それが実に意外に感じたのは、もしかしたらキュウソファンの若い人はウルフルズの曲はおろか存在すら知らないんじゃないだろうかとも思っていたのだが、ウルフルズを見たくてこのライブに来た人や、自分のように昔からウルフルズを聴いていたという世代の人もたくさんいたんじゃないかと思われるし、キュウソと接点があって今日こうして対バンするバンドだからベストアルバムを聴いてきたという若いキュウソファンもいたのかもしれない。いずれにせよそこには招かれたベテラン的なアウェーな空気は全くなく、むしろ温かさすら感じられるのはキュウソの対バンライブだからこそのものであると自分は思っている。
「今日は短い時間だし、声を出したりすることはできないけれど、踊ることはできる!」
とトータスが口にして、ジョン・B・チョッパー(ベース)とサンコンJr.(ドラム)のグルーヴィーかつファンキーなリズムと、ハンドマイクになったトータスのタイトルまんまな歌詞が否が応でも我々を踊らせる「踊れ」もまた最新作収録曲であり、ヒット曲を交えながらも最新の自分たちの姿を見せていこうという姿勢は30周年を迎えても変わることはない。それはまだまだやりたいことややりたい音楽がたくさんあるということである。
それは最新作の最後の曲として収録されたことによって、30年間の中で山あり谷あり、紆余曲折ありながらもこれからもバンドを続けていくことを宣言するような「続けるズのテーマ」からも感じられるものであるが、それをユーモアを含めた歌詞で表現するのが実にウルフルズらしいし、キメ連発のリズムはやはりこのバンドがファンキーかつソウルフルなバンドであることを感じさせるし、そうしたロックを追求してきたバンドであるということもライブを見るといつも実感する。テレビで流れる大ヒット曲のイメージだけを持っている人はビックリするであろうくらいに。
その「続けるズのテーマ」のキメを打ったのを合図に曲間なく繋ぐようにして桜井のファンキーなカッティングからすぐさま「ガッツだぜ!!」をトータスが歌い始めるともちろん観客は沸き上がりまくる。大ヒット曲を持っているバンドの強さを一瞬にして感じさせてくれるし、今日本や世界に必要なのはこうした無軌道な猪突猛進さなんじゃないかということすら感じさせてくれるようなパワーの漲りっぷりである。誰しもが一緒に合唱したい曲であるが、トータスはそのタイトルフレーズで口に指を当てて「声出したらあかんで」的なことをジェスチャーで示してくれているというのも口うるさく説明しないウルフルズらしさと言える。
その「ガッツだぜ!!」がワンコーラス演奏されると再びキメを打ってサウンドが切り替わる。なんと短い時間の中で様々な曲を演奏するべく、バンドはメドレーを組んできているのである。なので現代の「ガッツだぜ!!」と言ってもいいくらいに聴いている我々を鼓舞するような「タタカエブリバディ」をトータスはステージを左右に動き回りながら歌う。その姿を見ていると、トータスは本当にあらゆる方向の観客のことを見ながら歌っていることに気付く。だからなんだか自分も何回も目が合ったような感覚になる。それは音楽を通したコミュニケーションをこのバンドが行ってきたということでもある。
その流れはメンバーがタイトルフレーズで声を重ねるとトータスは人差し指を頭上で左右に動かすという昭和的なポーズを取り、観客がそれを真似る「バカサバイバー」にも繋がっていく。ラブシャのライブでは最後に演奏されていた曲であるが、今この曲がこうしてセトリに入っているというのはウルフルズからのこのカオスかつディストピアな世の中をバカらしく笑って生きていこうぜというメッセージだと自分は受け取っている。
「どこ行こうかな?西宮かな?やっぱり西宮から近いけど大阪行こ!」
とトータスが言って演奏されたのはもちろん「大阪ストラット」で、ジョン・Bもセリフを交えるのだがトータスはセリフに「セイヤ」を入れ込んでくるというあたりはキュウソとの対バンだからこそのサービス精神であるし、個人的にも前日まで大阪に行っていただけにこれまでに聴いてきたどのタイミングよりも今聴くこの曲はタイムリーである。ある意味ではこのコテコテのコメディ感は他のどんな大ヒット曲よりもウルフルズらしい曲であるとも言える。
すると浦によるヴァン・ヘイレンを彷彿とさせるようなシンセのサウンドが神々しさを醸し出す「センチメンタルフィーバー 〜あなたが好きだから〜」でトータスのずば抜けた声量を生かした歌唱力を存分に感じさせる。何よりもこのメドレーは曲間全くなしで次々に曲を演奏しているだけに休む暇が全くない。その状態でここまで見事なボーカルを披露しているというのはトータスにもこのバンドにも老いという概念は全く当てはまらず、むしろ30年を超えてもさらに進化を続けているようにしか感じられない。
そんな名曲や新作曲を中心としたメドレーの中にウルフルズが大ブレイク期を迎えた直後にリリースされたアルバム「Let's Go」収録の「ウルフルズA・A・Pのテーマ」という実に懐かしい曲が演奏され、トータスの動きに合わせて観客も体で「A・A・P」という文字を作るのであるが、途中でトータスの寸劇的なパートが挟まれるあたりではさすがにキュウソファンからは「これは曲が続いているのだろうか?」みたいな空気が漂ってくるのも実に面白い。
そうして曲が続いているのかどうなのかという空気を切り裂くようにメドレーはキメを打って再びメドレーの始点になった「続けるズのテーマ」へと戻り、サポートメンバーも含めた全員の紹介も含めたソロ回しも展開される。もうそのそれぞれの演奏を見るまでもなく、ここまでのライブでウルフルズが実はとんでもない技巧派バンドであることは見ている人には充分過ぎるくらいに伝わったのは間違いなく、メドレーが終わった際には自発的に客席から長く大きな拍手が起こっていた。それはダイレクトにバンドのパフォーマンスが素晴らしかったということへの声が出せないなりの観客からの感謝の示し方であった。
そんな拍手をもらったことにトータスは少し驚きながら再びギターを抱えると、去年に大阪で対バンするはずだったライブが残念ながら中止になってもこうしてキュウソとまた一緒にライブができていることの喜びを口にして、名残惜しそうにしながらもトータスがギターを弾きながら
「イェーイ!」
と歌い始めたのは問答無用の大名曲「バンザイ 〜好きでよかった〜」で、その不朽のメロディの力に会場が一体になっていく感覚がわかる。それくらいにウルフルズの音楽は90年代のヒット曲というだけではなくて、時代を超えて聴き継がれていくものであるということを改めて実感させてくれた。しかしこの曲などが大ヒットしていた時期に、こんなにも息が長く、かつ自分たちのファンキーさやグルーヴを突き詰めて活動していくバンドになるなんて誰が思っていただろうか。エンターテイメントでありながらも実はめちゃくちゃストイックなウルフルズのライブは去り際にジョン・Bが名残惜しくて涙を拭うという演技まで含めて間違いなくウルフルズにしかできない、実にウルフルズらしいライブだった。
トータスの口ぶりからしてもきっとウルフルズはキュウソのことを可愛がってくれているんだろうなということが伝わってくる。それは関西出身というのもあるだろうし、自分たちに通じるものがあるバンドだということもわかっているだろうけれど、自分はウルフルズがキュウソのライブを見て、その剥き出しの衝動を感じてまだまだ最前線で戦っていたいという刺激をもらっているんじゃないかと思っている。だからこうしてキュウソと一緒にライブハウスに立ち続けている。そんなことを感じさせてくれた、キュウソの対バンでのウルフルズのライブだった。
1.ツーベーコーベー
2.借金大王
3.踊れ
4.メドレー
続けるズのテーマ
ガッツだぜ!!
タタカエブリバディ
バカサバイバー
大阪ストラット
センチメンタルフィーバー 〜あなたが好きだから〜
ウルフルズ A・A・Pのテーマ
続けるズのテーマ
5.バンザイ 〜好きでよかった〜
・キュウソネコカミ
そんな大先輩の後を受けてのキュウソ。ウルフルズがあまりに凄すぎたためになかなかにプレッシャーも感じているところもあっただろうけれど、そうした状況でこそ本領を発揮できるバンドであるということもファンはみんなわかっているから期待したくなるのである。
何故かエルガーの「威風堂々」という神聖かつ荘厳なSEでメンバーがステージに出てくるだけにその段階でどこか笑い声が漏れ聞こえてくるのであるが、それは1曲目に選ばれた「優勝」のホーンサウンドに繋がるためのものだったりするのだろうか、と思いながらスカパラとのコラボ曲である「優勝」がこの日はさすがにスカパラホーンズは来ないためにそのサウンドは同期として流れるのであるがさすがキュウソとばかりにウルフルズの空気を1曲目で自分たちのものに塗り替えて見せる。それはつまり、ここに来た誰もがありとあらゆる様の優勝だということである。
そのまま我々の目をあらためて覚まさせるように「MEGA SHAKE IT!!」のイントロをヨコタシンノスケ(キーボード)が鳴らすと、ヤマサキセイヤ(ボーカル&ギター)はステージ前に置かれた台の上からギターを抱えて思いっきりジャンプするくらいに気合いが漲りまくっている。それは曲中のハウスミュージックのくだりを踊る観客もそうであるが、ドラムセットから立ち上がって踊るソゴウタイスケ(ドラム)はもちろん、サポートベーシストのシンディ(空きっ腹に酒)すらも一緒になって踊っているのもすっかりお馴染みの光景である。
「俺たちはいろんな曲でみんなに歌ってもらったりしてきたけど、まだ声出してコール&レスポンスしたりとかはできないから、コロナ禍だからこそのそうじゃない方法で!」
とヨコタが口にしてリフに合わせて手拍子の練習をするのはもちろん「ファントムバイブレーション」であるのだが、その練習の時点でセイヤも驚くくらいに大きな手拍子の音が返ってくるというあたりがコロナ禍の中でもライブをやりまくっては自分たちなりの闘い方を模索してきたキュウソならではである。セイヤの
「1日6時間くらいは見てるよね〜!」
という歌唱も実にテンションが高いが、間奏ではオカザワカズマ(ギター)とともにギターを抱えたままでぴょんぴょん飛び跳ねまくっている。その次の歌の入りのことを全く考慮していなさそうなブチ上がりっぷりが、やはりキュウソのメンバーはライブをやっている時が1番生きていることを実感できるんだろうなと思わせてくれる。
「この曲の認知度をもっと上げたい!」
と言ってオカザワがオリエンタルなギターフレーズを鳴らした段階では「これ何の曲だっけ?」と思ってしまっていたのは久しぶりにライブで聴く気がする「こみゅ力」なのであるが、ソゴウのドラムの強さを中心に普通にサウンドがカッコいい曲に感じられるようになっているというのは、今のキュウソがこの曲を演奏したらこうなるというキュウソのライブの強さを示していると言える。それはひたすらにライブを行い続けてきたからであるが、この曲の歌詞に共感できてしまうような人間だからキュウソが好きなのかもしれないと思ってしまうあたりはリリース当時、いや、新曲としてライブで演奏していた当時から変わらない。
セイヤ「いやいや、ウルフルズえぐいて!このツアーの対バンで1番曲数やっとる!メドレーにしてたけど数えたら12曲って!これを超えられるのはハルカミライしかおらん!(笑)」
ヨコタ「あいつら同じ曲3回とかやりよるからな(笑)」
セイヤ「にしてもウルフルズ30周年やで!?デビューした30年前、俺5歳!結成した34年前、俺1歳!
ウルフルズにはできないことを俺たちはやっていく!」
とキュウソなりの捉え方でウルフルズへのリスペクトを口にすると、コロナ禍になった時にセイヤが風呂場でアコギを弾きながら大声で歌を歌っていたらマンションの換気扇を通して全住民に届いて苦情が来て引っ越したというエピソードを懇切丁寧に説明してからそれをそのまま歌詞にした「住環境」が演奏されるのであるが、この日もサビ前にジャンプすることを推奨するも、1サビ前ではほとんどジャンプが起こらずに「ここでジャンプ!」とばかりに練習させて2サビでようやくジャンプが揃う。それくらいに大掛かりな転調などをせずにぬるっとサビに入る曲だということである。
そんな「住環境」と対をなす新曲がセイヤがハマっていたという某漫画を読んで作られたという「真理」であり、セイヤも
「ただカッコいい曲!」
と言っていたが、前回のワンマンで聴いた時よりも確かにストレートにカッコいいバンドサウンドの曲になっているし、それはソゴウのドラムの手数とラウドとまでは行ききらないけれどノイジーなオカザワとセイヤのギターサウンドによるものだろう。
そんなセイヤはかつてトータス松本にブルースハープをもらったことがあり、そのブルースハープを使った曲を作ろうとしたものの、バンドでアレンジした上にそのハープを載せようとしたらキーが全く合わずに違うブルースハープを買ってきてそれを使ったというエピソードとともに、
「この曲はめちゃくちゃ仲の良い男女がいて、主人公の男が友情を超えた恋愛感情を女に抱いてしまうという曲だ。ここにいる誰しもがそんな経験をしたことがあるだろう?こいつらもそうだ」
とメンバーをさも経験者かのように言うのであるが4人はソゴウのドラムセットに集まって「経験ないよな?」と確認し合い、その間もセイヤは
「勇気を出して告白したいけれど、そうするとこの関係が終わってしまう…」
とやたら熱を込めて詳細に曲の説明をするのは自身にその経験があるからなんじゃないかと思ってしまうくらいに歌唱にも感情こもりまくりなのは「ぬいペニ」というレア曲であるが、セイヤのブルースハープとヨコタの座りながらのキーボードの演奏がタイトルだけ見るとネタ曲にも感じてしまうこの曲の持つ本来の切なさを感じさせるどころかさらに倍増させている。それもやはり今のキュウソの演奏の表現力あってこそであるが、まさかこの曲がこんなに胸が震える曲になるとは。それはいわゆる普通のラブソングではない、セイヤだから、キュウソだから作ることができるラブソングだからだろう。
そんな普段とは少し違う編成から元に戻ると、セイヤは突如
「イェーイ!」
と声を張り上げたので、これはまさかMCで前にやったと言っていたウルフルズのカバーか!?と思った次の瞬間にはそのフレーズを連呼しまくる「家」が演奏されているというキュウソでしかできない繋げ方。リハではやらないようにしようと言っていたのを本番でやってしまうのもテンションの昂りだと思われるが、実際に「キュウソが出演したことがない音楽番組のCMでやたら流れてる、もしかしたらキュウソで1番有名かもしれない曲」と紹介されたこの曲でメンバーも観客も飛び跳ねまくっていた。
「お待ちかねの曲!」
とセイヤが煽って演奏されたのは「サギグラファー」であり、お待ちかねなのか!?と思いながらも確かにキュウソど真ん中のバンドサウンドがさらに力強くなったのを実感していると、間奏の写真を撮るポーズの部分では「今だけ撮影可能」という看板を持ったスタッフが出てきて観客の撮影が可能に。なのでメンバー全員でステージ前に出てきてポーズを取って撮影タイムが始まるも、少しすると今度は「スマホしまえ」という看板が出てきて撮影タイムが終了し、
「今の看板が映ってるのを絶対にあげるんじゃねぇぞ〜。動画でそこが映ってたやつは編集してそこを切り取れ〜。それくらいはできるようになれ〜。いろいろうるさく言われがちな世の中だからな〜。俺はここに来てるお前たちがとやかく言われるのは見たくないからな〜」
とセイヤはマシンガンのごとくに喋りまくり、ヨコタからは「まだ曲の途中なんですけど」とツッコミが入り、あまりに長くなったことに耐えかねてから本来はソゴウのツッコミ→オカザワがギター鳴らすという順番の予定だったのがオカザワが先にギターを鳴らしてしまい、ソゴウが爆笑してしまうという予定通りにはいかないキュウソらしさ。最後にはセイヤが
「愛してくれよ 無加工のキュウソを」
と歌詞を変えて歌ったが、こうしたやり取りを含めて自分は飾ることもカッコつけすぎることもない(というかそれをやったらすぐにバレる)キュウソを愛している。
さらには「KMTR645」が演奏されて観客みんなで楽しく踊る…のかと思ったらペディグリーのくだりでは審判に扮した(どっからどう見ても本物にしか見えないくらいのクオリティの高さと入り込みっぷり)マネージャーのはいからさんもステージに現れ、セイヤとヨコタによってワールドカップの日本対スペインの奇跡のVAR判定のシーンを再現するという爆笑の演出が行われる。それはただ面白いネタをやったというわけではなく、この日の深夜に行われるクロアチア戦に臨む日本代表へのキュウソなりのエールだ。そうして好きなバンドやミュージシャンと、キュウソと一緒になって応援できるというのはスポーツの世界大会の素晴らしいところであるし、今のコロナ禍において「スポーツはよくてライブはダメなのか」的などちらかを引き摺り下ろそうとするようなことじゃなくて、どちらも今まで通りに自由に楽しめるようになって欲しいと思う。オカザワのネズミくんギターソロが薄れてしまうくらいにこのワールドカップネタのインパクトが強すぎてしまった感はあるが。
そうしてネタやMCをこれでもかと詰め込みまくったことによってもはや対バンライブの尺や内容というよりもワンマンに来たかのようですらあるのだが、それによって持ち時間が気になってきたことによって終盤は「ビビった」からひたすらに熱いキュウソのライブが展開されていく。
その「ビビった」でヨコタの煽りによって飛び跳ねまくり、「推しのいる生活」で腕を左右に上げながら同じ時代に生きることができていることに感謝する。そうした感情の根幹にあるのはやはりキュウソのバンドサウンドや歌唱がなによりも熱いということ。感情や衝動を衒いなく自分たちの曲に乗せることができるバンドだからこそ、これらの曲が我々一人一人にとって自分とキュウソのための曲になっていくのだ。どんなに笑えるようなネタが連発されてもキュウソの本質はここにある。
そしてソゴウがドラムを連打し始めるとヨコタは
「俺たちはウルフルズみたいにはなれないけど、俺たちなりのやり方で30年バンドを絶対続けます!22日にはタクロウが帰ってきてまた5人でライブができるようにもなります!ウルフルズみたいな大ヒット曲はないけど、俺たちが1番自信を持ってる曲!」
と熱くまくしたて、最後に「ハッピーポンコツ」が演奏される。確かにこの曲を聴けばキュウソがどんなバンドであるかということがわかる曲だし、この曲はいつだってどんな時だって我々を笑顔にしてくれる。それが30年、今10年ちょっとだからあと20年、それから先も続いてくれたらずっと人生が楽しいままでいられる。こうしてキュウソがライブハウスに立ち続けていてくれたら、何歳になってもライブハウスに行く理由ができる。30年を迎えた時にはお互いに50代になっているからこそ、これからも健康に長生きしなければいけないなと思った。何よりもキュウソはきっと30年を迎えても惰性で続けているんじゃなくて、牙を剥き出しにしてライブハウスに立ち続けているんだろうなと思えている。
アンコールではツアーTシャツに着替えたくらいですぐに出てきたんだろうなと思うくらいに早く登場すると、SNSで終演時間を聞かれた際に
「多分21時半くらいには終わると思う」
と言った時間が近づきつつあるためにかなり急いでいたのだが、そんな中でも
「仕事や学校もある中でこんな月曜日からわざわざライブハウスに来てくれて本当にありがとう」
とセイヤは口にする。確かに仕事を終わらせてからダッシュで羽田まで来るのはなかなか大変である。でも月曜日からライブがあって今週キツい、っていうんじゃなくて、何もない月曜日よりもキュウソのライブを見た月曜日はよりこの1週間を乗り越えるための気力を我々に与えてくれる。キュウソのライブレポで何回も書いてきたことだけれど、そうしてキュウソのライブは明日からの活力を自分に与えてくれる。だから毎回平日だろうとライブハウスに足を運ぶのだ。そのライブから得られる日々を生きる力をいつも感じさせてくれているバンドだから。
そんな思いが乗るのはもちろんキュウソ最高の熱さを持った「The band」で、ただでさえ熱いこの曲の中でセイヤは
「いつもライブハウス来てる人も、久しぶりに来た人もいるやろうけど、コロナ禍になってなかなかライブハウスに来るのに勇気がいる中でこうやってライブハウスに来てくれるみんなが俺は本当に好きや!このライブハウスの楽しさをここにいる人たちが周りの人に伝えていこうぜ!」
と叫ぶ。結局のところそれが全てなのだ。キュウソが過密スケジュールの中でツアーを周り、年に何回もそうしたツアーを行うのも、自分たちが楽しいと感じられるこうした場所を守ろうとしているのだ。それはきっと声が出せるようになったりしたらもっと楽しいものになることがわかっているからこそ、そうなるまでその場所を守り続けたい。キュウソは紛れもなくライブバンドであるけれど、同時にライブハウスバンドでもある。そんな思いがコロナ禍になってからのライブからは滲み出ている。
そんなコロナ禍でのキュウソのやり方の集大成とも言えるのが、ヨコタが中国四千年のリフを鳴らして始まる「お願いシェンロン」で、セイヤとともに観客がかめはめ波を連発すると間奏で久しぶりに見る感じがする筋斗雲が登場。メンバーがその筋斗雲を支えるように持つと、その上にセイヤが立ってポーズを決める。かつてはこの上に立って客席を泳いだりしていたが、それをせずともステージ上で筋斗雲に乗るというのがコロナ禍におけるキュウソのスタイルだ。てっきりそのまま筋斗雲に乗って退場していくのかとも思ったけれども、全員が再び楽器を手にして観客も腕を高く伸ばして元気玉を作る。その観客からの力を受け取って元気玉を放つセイヤは悟空そのものだった。その存在が我々を笑顔に、元気にしてくれる。最後に元気玉じゃないポーズを取っていたような気もしたけれど。
演奏が終わるとシンディも含めて1人ずつメンバー紹介。きっとこの5人でのキュウソを見れる機会はもうそうそうない。この誰もがキツかった時期にキュウソを支えてくれたシンディには本当に感謝している。彼がいなかったら今こうしてキュウソのライブを観ることができていなかったかもしれないから。
でもこの日もセイヤが何度も
「西宮の5人組、キュウソネコカミでした」
と言っていたように、キュウソはついにあの5人でのバンドに戻ろうとしている。まだタクロウが完璧に足並みを揃えて、というわけにはいかないだろうけれど、今タクロウが「ハッピーポンコツ」のサビ前でポーズを取る姿を見たら泣いてしまいそうな気がしている。それくらいにキュウソはあの5人でなければいけないバンドであるし、その5人のキュウソにいつも元気や希望や生きる力をもらってきた。
つまりは、ロックバンドでありたいだけで、リアルタイムで出会えたからライブが見れるの最高だね、という歌詞がその全てを示している。30周年を迎えるまでにあと何回くらい見れるだろうか。もう数え切れなくなっていたらいいな。
1.優勝
2.MEGA SHAKE IT!!
3.ファントムバイブレーション
4.こみゅ力
5.住環境
6.真理
7.ぬいペニ
8.家
9.サギグラファー
10.KMTR645
11.ビビった
12.推しのいる生活
13.ハッピーポンコツ
encore
14.The band
15.お願いシェンロン
ツアー16本目のこの日のZepp Hanedaのゲストはまさかのウルフルズ。関西出身だったりとなにかと共通点もある両者であるが、去年大阪で対バンする予定だったのが中止になってしまったことによって待望の邂逅である。他の会場のゲストが同世代なり後輩なりが多いだけにツアースケジュールを見るだけで大御所感が滲み出ている。
・ウルフルズ
そんなウルフルズは今年の夏には各地のフェスに精力的に出演しており、個人的にもラブシャで見て以来なので久々感はないが、もう30周年であるという事実を見ると本当に大ベテランだと思うし、形は変わりながらもこうしてライブを観ることができるのは子供だった頃に大ヒット曲たちを聴いたり子供ながらにカラオケで歌ったりしていただけに実に嬉しいところである。
やはりフォーマルであるが独特な出で立ちのメンバー3人が前に一列に並び、後ろには桜井秀俊(ギター。真心ブラザーズ)、浦清英(キーボード)という凄腕サポートメンバーが並ぶというのは夏フェス時と同じ編成であり、何色と形容していいかわからない、敢えて言うならば極彩色のスーツが鮮やかなトータス松本(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら歌い始めたのは今年リリースの最新アルバム「楽しいお仕事愛好会」収録の「ツーベーコーベー」。
「ロックバンドはつべこべ言わないの
つべこべ言ってもたかがロックンロール」
という歌詞が全てを示しているが、それはそのままウルフルズがロックバンドであり、今も新しい自分たちの表現を求め続けているバンドであることがわかる。
その「ツーベーコーベー」は桜井のギターも含めてブギー的なサウンドで踊れるロックなのだが、MV(当時はPVと言われていたが)でのダンス含めて、ウルフルズのブギーと言えばやっぱりこの曲である「借金大王」では客席からたくさんの腕が上がる。それが実に意外に感じたのは、もしかしたらキュウソファンの若い人はウルフルズの曲はおろか存在すら知らないんじゃないだろうかとも思っていたのだが、ウルフルズを見たくてこのライブに来た人や、自分のように昔からウルフルズを聴いていたという世代の人もたくさんいたんじゃないかと思われるし、キュウソと接点があって今日こうして対バンするバンドだからベストアルバムを聴いてきたという若いキュウソファンもいたのかもしれない。いずれにせよそこには招かれたベテラン的なアウェーな空気は全くなく、むしろ温かさすら感じられるのはキュウソの対バンライブだからこそのものであると自分は思っている。
「今日は短い時間だし、声を出したりすることはできないけれど、踊ることはできる!」
とトータスが口にして、ジョン・B・チョッパー(ベース)とサンコンJr.(ドラム)のグルーヴィーかつファンキーなリズムと、ハンドマイクになったトータスのタイトルまんまな歌詞が否が応でも我々を踊らせる「踊れ」もまた最新作収録曲であり、ヒット曲を交えながらも最新の自分たちの姿を見せていこうという姿勢は30周年を迎えても変わることはない。それはまだまだやりたいことややりたい音楽がたくさんあるということである。
それは最新作の最後の曲として収録されたことによって、30年間の中で山あり谷あり、紆余曲折ありながらもこれからもバンドを続けていくことを宣言するような「続けるズのテーマ」からも感じられるものであるが、それをユーモアを含めた歌詞で表現するのが実にウルフルズらしいし、キメ連発のリズムはやはりこのバンドがファンキーかつソウルフルなバンドであることを感じさせるし、そうしたロックを追求してきたバンドであるということもライブを見るといつも実感する。テレビで流れる大ヒット曲のイメージだけを持っている人はビックリするであろうくらいに。
その「続けるズのテーマ」のキメを打ったのを合図に曲間なく繋ぐようにして桜井のファンキーなカッティングからすぐさま「ガッツだぜ!!」をトータスが歌い始めるともちろん観客は沸き上がりまくる。大ヒット曲を持っているバンドの強さを一瞬にして感じさせてくれるし、今日本や世界に必要なのはこうした無軌道な猪突猛進さなんじゃないかということすら感じさせてくれるようなパワーの漲りっぷりである。誰しもが一緒に合唱したい曲であるが、トータスはそのタイトルフレーズで口に指を当てて「声出したらあかんで」的なことをジェスチャーで示してくれているというのも口うるさく説明しないウルフルズらしさと言える。
その「ガッツだぜ!!」がワンコーラス演奏されると再びキメを打ってサウンドが切り替わる。なんと短い時間の中で様々な曲を演奏するべく、バンドはメドレーを組んできているのである。なので現代の「ガッツだぜ!!」と言ってもいいくらいに聴いている我々を鼓舞するような「タタカエブリバディ」をトータスはステージを左右に動き回りながら歌う。その姿を見ていると、トータスは本当にあらゆる方向の観客のことを見ながら歌っていることに気付く。だからなんだか自分も何回も目が合ったような感覚になる。それは音楽を通したコミュニケーションをこのバンドが行ってきたということでもある。
その流れはメンバーがタイトルフレーズで声を重ねるとトータスは人差し指を頭上で左右に動かすという昭和的なポーズを取り、観客がそれを真似る「バカサバイバー」にも繋がっていく。ラブシャのライブでは最後に演奏されていた曲であるが、今この曲がこうしてセトリに入っているというのはウルフルズからのこのカオスかつディストピアな世の中をバカらしく笑って生きていこうぜというメッセージだと自分は受け取っている。
「どこ行こうかな?西宮かな?やっぱり西宮から近いけど大阪行こ!」
とトータスが言って演奏されたのはもちろん「大阪ストラット」で、ジョン・Bもセリフを交えるのだがトータスはセリフに「セイヤ」を入れ込んでくるというあたりはキュウソとの対バンだからこそのサービス精神であるし、個人的にも前日まで大阪に行っていただけにこれまでに聴いてきたどのタイミングよりも今聴くこの曲はタイムリーである。ある意味ではこのコテコテのコメディ感は他のどんな大ヒット曲よりもウルフルズらしい曲であるとも言える。
すると浦によるヴァン・ヘイレンを彷彿とさせるようなシンセのサウンドが神々しさを醸し出す「センチメンタルフィーバー 〜あなたが好きだから〜」でトータスのずば抜けた声量を生かした歌唱力を存分に感じさせる。何よりもこのメドレーは曲間全くなしで次々に曲を演奏しているだけに休む暇が全くない。その状態でここまで見事なボーカルを披露しているというのはトータスにもこのバンドにも老いという概念は全く当てはまらず、むしろ30年を超えてもさらに進化を続けているようにしか感じられない。
そんな名曲や新作曲を中心としたメドレーの中にウルフルズが大ブレイク期を迎えた直後にリリースされたアルバム「Let's Go」収録の「ウルフルズA・A・Pのテーマ」という実に懐かしい曲が演奏され、トータスの動きに合わせて観客も体で「A・A・P」という文字を作るのであるが、途中でトータスの寸劇的なパートが挟まれるあたりではさすがにキュウソファンからは「これは曲が続いているのだろうか?」みたいな空気が漂ってくるのも実に面白い。
そうして曲が続いているのかどうなのかという空気を切り裂くようにメドレーはキメを打って再びメドレーの始点になった「続けるズのテーマ」へと戻り、サポートメンバーも含めた全員の紹介も含めたソロ回しも展開される。もうそのそれぞれの演奏を見るまでもなく、ここまでのライブでウルフルズが実はとんでもない技巧派バンドであることは見ている人には充分過ぎるくらいに伝わったのは間違いなく、メドレーが終わった際には自発的に客席から長く大きな拍手が起こっていた。それはダイレクトにバンドのパフォーマンスが素晴らしかったということへの声が出せないなりの観客からの感謝の示し方であった。
そんな拍手をもらったことにトータスは少し驚きながら再びギターを抱えると、去年に大阪で対バンするはずだったライブが残念ながら中止になってもこうしてキュウソとまた一緒にライブができていることの喜びを口にして、名残惜しそうにしながらもトータスがギターを弾きながら
「イェーイ!」
と歌い始めたのは問答無用の大名曲「バンザイ 〜好きでよかった〜」で、その不朽のメロディの力に会場が一体になっていく感覚がわかる。それくらいにウルフルズの音楽は90年代のヒット曲というだけではなくて、時代を超えて聴き継がれていくものであるということを改めて実感させてくれた。しかしこの曲などが大ヒットしていた時期に、こんなにも息が長く、かつ自分たちのファンキーさやグルーヴを突き詰めて活動していくバンドになるなんて誰が思っていただろうか。エンターテイメントでありながらも実はめちゃくちゃストイックなウルフルズのライブは去り際にジョン・Bが名残惜しくて涙を拭うという演技まで含めて間違いなくウルフルズにしかできない、実にウルフルズらしいライブだった。
トータスの口ぶりからしてもきっとウルフルズはキュウソのことを可愛がってくれているんだろうなということが伝わってくる。それは関西出身というのもあるだろうし、自分たちに通じるものがあるバンドだということもわかっているだろうけれど、自分はウルフルズがキュウソのライブを見て、その剥き出しの衝動を感じてまだまだ最前線で戦っていたいという刺激をもらっているんじゃないかと思っている。だからこうしてキュウソと一緒にライブハウスに立ち続けている。そんなことを感じさせてくれた、キュウソの対バンでのウルフルズのライブだった。
1.ツーベーコーベー
2.借金大王
3.踊れ
4.メドレー
続けるズのテーマ
ガッツだぜ!!
タタカエブリバディ
バカサバイバー
大阪ストラット
センチメンタルフィーバー 〜あなたが好きだから〜
ウルフルズ A・A・Pのテーマ
続けるズのテーマ
5.バンザイ 〜好きでよかった〜
・キュウソネコカミ
そんな大先輩の後を受けてのキュウソ。ウルフルズがあまりに凄すぎたためになかなかにプレッシャーも感じているところもあっただろうけれど、そうした状況でこそ本領を発揮できるバンドであるということもファンはみんなわかっているから期待したくなるのである。
何故かエルガーの「威風堂々」という神聖かつ荘厳なSEでメンバーがステージに出てくるだけにその段階でどこか笑い声が漏れ聞こえてくるのであるが、それは1曲目に選ばれた「優勝」のホーンサウンドに繋がるためのものだったりするのだろうか、と思いながらスカパラとのコラボ曲である「優勝」がこの日はさすがにスカパラホーンズは来ないためにそのサウンドは同期として流れるのであるがさすがキュウソとばかりにウルフルズの空気を1曲目で自分たちのものに塗り替えて見せる。それはつまり、ここに来た誰もがありとあらゆる様の優勝だということである。
そのまま我々の目をあらためて覚まさせるように「MEGA SHAKE IT!!」のイントロをヨコタシンノスケ(キーボード)が鳴らすと、ヤマサキセイヤ(ボーカル&ギター)はステージ前に置かれた台の上からギターを抱えて思いっきりジャンプするくらいに気合いが漲りまくっている。それは曲中のハウスミュージックのくだりを踊る観客もそうであるが、ドラムセットから立ち上がって踊るソゴウタイスケ(ドラム)はもちろん、サポートベーシストのシンディ(空きっ腹に酒)すらも一緒になって踊っているのもすっかりお馴染みの光景である。
「俺たちはいろんな曲でみんなに歌ってもらったりしてきたけど、まだ声出してコール&レスポンスしたりとかはできないから、コロナ禍だからこそのそうじゃない方法で!」
とヨコタが口にしてリフに合わせて手拍子の練習をするのはもちろん「ファントムバイブレーション」であるのだが、その練習の時点でセイヤも驚くくらいに大きな手拍子の音が返ってくるというあたりがコロナ禍の中でもライブをやりまくっては自分たちなりの闘い方を模索してきたキュウソならではである。セイヤの
「1日6時間くらいは見てるよね〜!」
という歌唱も実にテンションが高いが、間奏ではオカザワカズマ(ギター)とともにギターを抱えたままでぴょんぴょん飛び跳ねまくっている。その次の歌の入りのことを全く考慮していなさそうなブチ上がりっぷりが、やはりキュウソのメンバーはライブをやっている時が1番生きていることを実感できるんだろうなと思わせてくれる。
「この曲の認知度をもっと上げたい!」
と言ってオカザワがオリエンタルなギターフレーズを鳴らした段階では「これ何の曲だっけ?」と思ってしまっていたのは久しぶりにライブで聴く気がする「こみゅ力」なのであるが、ソゴウのドラムの強さを中心に普通にサウンドがカッコいい曲に感じられるようになっているというのは、今のキュウソがこの曲を演奏したらこうなるというキュウソのライブの強さを示していると言える。それはひたすらにライブを行い続けてきたからであるが、この曲の歌詞に共感できてしまうような人間だからキュウソが好きなのかもしれないと思ってしまうあたりはリリース当時、いや、新曲としてライブで演奏していた当時から変わらない。
セイヤ「いやいや、ウルフルズえぐいて!このツアーの対バンで1番曲数やっとる!メドレーにしてたけど数えたら12曲って!これを超えられるのはハルカミライしかおらん!(笑)」
ヨコタ「あいつら同じ曲3回とかやりよるからな(笑)」
セイヤ「にしてもウルフルズ30周年やで!?デビューした30年前、俺5歳!結成した34年前、俺1歳!
ウルフルズにはできないことを俺たちはやっていく!」
とキュウソなりの捉え方でウルフルズへのリスペクトを口にすると、コロナ禍になった時にセイヤが風呂場でアコギを弾きながら大声で歌を歌っていたらマンションの換気扇を通して全住民に届いて苦情が来て引っ越したというエピソードを懇切丁寧に説明してからそれをそのまま歌詞にした「住環境」が演奏されるのであるが、この日もサビ前にジャンプすることを推奨するも、1サビ前ではほとんどジャンプが起こらずに「ここでジャンプ!」とばかりに練習させて2サビでようやくジャンプが揃う。それくらいに大掛かりな転調などをせずにぬるっとサビに入る曲だということである。
そんな「住環境」と対をなす新曲がセイヤがハマっていたという某漫画を読んで作られたという「真理」であり、セイヤも
「ただカッコいい曲!」
と言っていたが、前回のワンマンで聴いた時よりも確かにストレートにカッコいいバンドサウンドの曲になっているし、それはソゴウのドラムの手数とラウドとまでは行ききらないけれどノイジーなオカザワとセイヤのギターサウンドによるものだろう。
そんなセイヤはかつてトータス松本にブルースハープをもらったことがあり、そのブルースハープを使った曲を作ろうとしたものの、バンドでアレンジした上にそのハープを載せようとしたらキーが全く合わずに違うブルースハープを買ってきてそれを使ったというエピソードとともに、
「この曲はめちゃくちゃ仲の良い男女がいて、主人公の男が友情を超えた恋愛感情を女に抱いてしまうという曲だ。ここにいる誰しもがそんな経験をしたことがあるだろう?こいつらもそうだ」
とメンバーをさも経験者かのように言うのであるが4人はソゴウのドラムセットに集まって「経験ないよな?」と確認し合い、その間もセイヤは
「勇気を出して告白したいけれど、そうするとこの関係が終わってしまう…」
とやたら熱を込めて詳細に曲の説明をするのは自身にその経験があるからなんじゃないかと思ってしまうくらいに歌唱にも感情こもりまくりなのは「ぬいペニ」というレア曲であるが、セイヤのブルースハープとヨコタの座りながらのキーボードの演奏がタイトルだけ見るとネタ曲にも感じてしまうこの曲の持つ本来の切なさを感じさせるどころかさらに倍増させている。それもやはり今のキュウソの演奏の表現力あってこそであるが、まさかこの曲がこんなに胸が震える曲になるとは。それはいわゆる普通のラブソングではない、セイヤだから、キュウソだから作ることができるラブソングだからだろう。
そんな普段とは少し違う編成から元に戻ると、セイヤは突如
「イェーイ!」
と声を張り上げたので、これはまさかMCで前にやったと言っていたウルフルズのカバーか!?と思った次の瞬間にはそのフレーズを連呼しまくる「家」が演奏されているというキュウソでしかできない繋げ方。リハではやらないようにしようと言っていたのを本番でやってしまうのもテンションの昂りだと思われるが、実際に「キュウソが出演したことがない音楽番組のCMでやたら流れてる、もしかしたらキュウソで1番有名かもしれない曲」と紹介されたこの曲でメンバーも観客も飛び跳ねまくっていた。
「お待ちかねの曲!」
とセイヤが煽って演奏されたのは「サギグラファー」であり、お待ちかねなのか!?と思いながらも確かにキュウソど真ん中のバンドサウンドがさらに力強くなったのを実感していると、間奏の写真を撮るポーズの部分では「今だけ撮影可能」という看板を持ったスタッフが出てきて観客の撮影が可能に。なのでメンバー全員でステージ前に出てきてポーズを取って撮影タイムが始まるも、少しすると今度は「スマホしまえ」という看板が出てきて撮影タイムが終了し、
「今の看板が映ってるのを絶対にあげるんじゃねぇぞ〜。動画でそこが映ってたやつは編集してそこを切り取れ〜。それくらいはできるようになれ〜。いろいろうるさく言われがちな世の中だからな〜。俺はここに来てるお前たちがとやかく言われるのは見たくないからな〜」
とセイヤはマシンガンのごとくに喋りまくり、ヨコタからは「まだ曲の途中なんですけど」とツッコミが入り、あまりに長くなったことに耐えかねてから本来はソゴウのツッコミ→オカザワがギター鳴らすという順番の予定だったのがオカザワが先にギターを鳴らしてしまい、ソゴウが爆笑してしまうという予定通りにはいかないキュウソらしさ。最後にはセイヤが
「愛してくれよ 無加工のキュウソを」
と歌詞を変えて歌ったが、こうしたやり取りを含めて自分は飾ることもカッコつけすぎることもない(というかそれをやったらすぐにバレる)キュウソを愛している。
さらには「KMTR645」が演奏されて観客みんなで楽しく踊る…のかと思ったらペディグリーのくだりでは審判に扮した(どっからどう見ても本物にしか見えないくらいのクオリティの高さと入り込みっぷり)マネージャーのはいからさんもステージに現れ、セイヤとヨコタによってワールドカップの日本対スペインの奇跡のVAR判定のシーンを再現するという爆笑の演出が行われる。それはただ面白いネタをやったというわけではなく、この日の深夜に行われるクロアチア戦に臨む日本代表へのキュウソなりのエールだ。そうして好きなバンドやミュージシャンと、キュウソと一緒になって応援できるというのはスポーツの世界大会の素晴らしいところであるし、今のコロナ禍において「スポーツはよくてライブはダメなのか」的などちらかを引き摺り下ろそうとするようなことじゃなくて、どちらも今まで通りに自由に楽しめるようになって欲しいと思う。オカザワのネズミくんギターソロが薄れてしまうくらいにこのワールドカップネタのインパクトが強すぎてしまった感はあるが。
そうしてネタやMCをこれでもかと詰め込みまくったことによってもはや対バンライブの尺や内容というよりもワンマンに来たかのようですらあるのだが、それによって持ち時間が気になってきたことによって終盤は「ビビった」からひたすらに熱いキュウソのライブが展開されていく。
その「ビビった」でヨコタの煽りによって飛び跳ねまくり、「推しのいる生活」で腕を左右に上げながら同じ時代に生きることができていることに感謝する。そうした感情の根幹にあるのはやはりキュウソのバンドサウンドや歌唱がなによりも熱いということ。感情や衝動を衒いなく自分たちの曲に乗せることができるバンドだからこそ、これらの曲が我々一人一人にとって自分とキュウソのための曲になっていくのだ。どんなに笑えるようなネタが連発されてもキュウソの本質はここにある。
そしてソゴウがドラムを連打し始めるとヨコタは
「俺たちはウルフルズみたいにはなれないけど、俺たちなりのやり方で30年バンドを絶対続けます!22日にはタクロウが帰ってきてまた5人でライブができるようにもなります!ウルフルズみたいな大ヒット曲はないけど、俺たちが1番自信を持ってる曲!」
と熱くまくしたて、最後に「ハッピーポンコツ」が演奏される。確かにこの曲を聴けばキュウソがどんなバンドであるかということがわかる曲だし、この曲はいつだってどんな時だって我々を笑顔にしてくれる。それが30年、今10年ちょっとだからあと20年、それから先も続いてくれたらずっと人生が楽しいままでいられる。こうしてキュウソがライブハウスに立ち続けていてくれたら、何歳になってもライブハウスに行く理由ができる。30年を迎えた時にはお互いに50代になっているからこそ、これからも健康に長生きしなければいけないなと思った。何よりもキュウソはきっと30年を迎えても惰性で続けているんじゃなくて、牙を剥き出しにしてライブハウスに立ち続けているんだろうなと思えている。
アンコールではツアーTシャツに着替えたくらいですぐに出てきたんだろうなと思うくらいに早く登場すると、SNSで終演時間を聞かれた際に
「多分21時半くらいには終わると思う」
と言った時間が近づきつつあるためにかなり急いでいたのだが、そんな中でも
「仕事や学校もある中でこんな月曜日からわざわざライブハウスに来てくれて本当にありがとう」
とセイヤは口にする。確かに仕事を終わらせてからダッシュで羽田まで来るのはなかなか大変である。でも月曜日からライブがあって今週キツい、っていうんじゃなくて、何もない月曜日よりもキュウソのライブを見た月曜日はよりこの1週間を乗り越えるための気力を我々に与えてくれる。キュウソのライブレポで何回も書いてきたことだけれど、そうしてキュウソのライブは明日からの活力を自分に与えてくれる。だから毎回平日だろうとライブハウスに足を運ぶのだ。そのライブから得られる日々を生きる力をいつも感じさせてくれているバンドだから。
そんな思いが乗るのはもちろんキュウソ最高の熱さを持った「The band」で、ただでさえ熱いこの曲の中でセイヤは
「いつもライブハウス来てる人も、久しぶりに来た人もいるやろうけど、コロナ禍になってなかなかライブハウスに来るのに勇気がいる中でこうやってライブハウスに来てくれるみんなが俺は本当に好きや!このライブハウスの楽しさをここにいる人たちが周りの人に伝えていこうぜ!」
と叫ぶ。結局のところそれが全てなのだ。キュウソが過密スケジュールの中でツアーを周り、年に何回もそうしたツアーを行うのも、自分たちが楽しいと感じられるこうした場所を守ろうとしているのだ。それはきっと声が出せるようになったりしたらもっと楽しいものになることがわかっているからこそ、そうなるまでその場所を守り続けたい。キュウソは紛れもなくライブバンドであるけれど、同時にライブハウスバンドでもある。そんな思いがコロナ禍になってからのライブからは滲み出ている。
そんなコロナ禍でのキュウソのやり方の集大成とも言えるのが、ヨコタが中国四千年のリフを鳴らして始まる「お願いシェンロン」で、セイヤとともに観客がかめはめ波を連発すると間奏で久しぶりに見る感じがする筋斗雲が登場。メンバーがその筋斗雲を支えるように持つと、その上にセイヤが立ってポーズを決める。かつてはこの上に立って客席を泳いだりしていたが、それをせずともステージ上で筋斗雲に乗るというのがコロナ禍におけるキュウソのスタイルだ。てっきりそのまま筋斗雲に乗って退場していくのかとも思ったけれども、全員が再び楽器を手にして観客も腕を高く伸ばして元気玉を作る。その観客からの力を受け取って元気玉を放つセイヤは悟空そのものだった。その存在が我々を笑顔に、元気にしてくれる。最後に元気玉じゃないポーズを取っていたような気もしたけれど。
演奏が終わるとシンディも含めて1人ずつメンバー紹介。きっとこの5人でのキュウソを見れる機会はもうそうそうない。この誰もがキツかった時期にキュウソを支えてくれたシンディには本当に感謝している。彼がいなかったら今こうしてキュウソのライブを観ることができていなかったかもしれないから。
でもこの日もセイヤが何度も
「西宮の5人組、キュウソネコカミでした」
と言っていたように、キュウソはついにあの5人でのバンドに戻ろうとしている。まだタクロウが完璧に足並みを揃えて、というわけにはいかないだろうけれど、今タクロウが「ハッピーポンコツ」のサビ前でポーズを取る姿を見たら泣いてしまいそうな気がしている。それくらいにキュウソはあの5人でなければいけないバンドであるし、その5人のキュウソにいつも元気や希望や生きる力をもらってきた。
つまりは、ロックバンドでありたいだけで、リアルタイムで出会えたからライブが見れるの最高だね、という歌詞がその全てを示している。30周年を迎えるまでにあと何回くらい見れるだろうか。もう数え切れなくなっていたらいいな。
1.優勝
2.MEGA SHAKE IT!!
3.ファントムバイブレーション
4.こみゅ力
5.住環境
6.真理
7.ぬいペニ
8.家
9.サギグラファー
10.KMTR645
11.ビビった
12.推しのいる生活
13.ハッピーポンコツ
encore
14.The band
15.お願いシェンロン