yonige 「退屈ツアー」 @恵比寿LIQUIDROOM 11/22
- 2022/11/23
- 23:07
夏前には都内のあらゆるライブ会場を回る「山手線ツアー」をようやく開催した(本来はコロナ禍になる前に企画・発表されていた)yonigeが10月から早くも新たなツアーを開催。
この日の東京、LIQUIDROOMが珍しくファイナルではないこのツアーは「退屈ツアー」と名付けられ、そこにはyonigeのファンクラブのタイトルでもありながら過去の名曲を彷彿とさせるところもあるのだが、かつては「ライブがあまり好きじゃない」と公言していたけれど、こうして短期間でまたツアーを行うというのは牛丸ありさ(ボーカル&ギター)の心境も少し変わりつつあるということだろうか。
19時を少し過ぎたあたりで場内がスッと暗転してメンバーがステージに登場すると、牛丸は髪を後ろで2つにお団子のように結いており、それによって今までよりもどこか髪が短く見えるし、大きなピアスが輝いているのもよく見える。逆サイドのごっきん(ベース)も金髪がかなり短くなり、SPY × FAMILYのトバリーことフィオナを彷彿とさせるようなショートと言ってもいいくらいになっている。その見た目からしても今までとは異なるイメージを抱くが、この日も土器大洋(ギター&シンセ)とホリエ(ドラム)というもはやメンバーと言っていい存在の2人が牛丸とごっきんの後ろにいるのは変わらない。
そんな髪型ばかり見てしまいがちな牛丸が浮遊感のあるサウンドのギターを鳴らしながら歌い始めたのは最新曲「デウス・エクス・マキナ」であり、リズムの隙間を感じさせるようなバンドの演奏が後半でいきなり激しい轟音になり、特にホリエのドラムは重戦車を思わせるような速さと重さで、そこに重なるごっきんのベースもうねりまくっている。何よりも牛丸の歌唱がまたさらに進化したことがこの曲の抑揚のある展開で聴くと実によくわかる。
その牛丸のボーカルの進化をより強く感じられるのが早くもこの序盤で演奏された「リボルバー」であり、伸びやかさも声量も聴き手の目を覚まさせるくらいに素晴らしい。だからこそ土器のギターも今までよりもさらに激しく掻き鳴らせるようになったのだろうけれど、最初は固まらざるを得ないような展開の曲を聴いていた観客もサビでは腕を伸ばし、最後のサビ前では手拍子をする。その観客の姿に応えるかのように牛丸のボーカルもさらに伸びと声量を増す。そんな光景の素晴らしさを知っているからこそ、yonigeのライブに来るのはやめられないなと思うし、ここまで見事に歌われると自分自身もカラオケでこの曲を熱唱したくなってしまうくらいだ。
そのまま牛丸と土器のギターが轟音を鳴らす「顔で虫が死ぬ」でも同じようにサビではたくさんの腕が上がるのであるが、少し前にはこうしたギターロックと言えるタイプの曲をライブでほとんどやらなくなっていただけに、「三千世界」のリリースから山手線ツアーなどを経てバンドのモードも少し変わりつつあることを感じる。近年の曲も良いけれど、初期にも名曲がたくさんあるバンドであるだけにこうしてライブでその曲たちが聴けるのはやはり嬉しいことである。
そんなアッパーなギターロックの流れから一転して牛丸が歌い始めると同時に青い照明がメンバーを照らす「2月の水槽」では歪んだギターサウンドはそのままに一気にテンポやトーンを落として深く潜っていくような空気になるのであるが、そうした曲においても牛丸の歌唱は実に澄んでいる。その力によってこの水槽の中の水が実にキレイなものであるように感じられる。今でも日本武道館でのド派手な演出を思い出す曲であるが、あの頃よりもバンドは間違いなく進化している。それはライブを見て音を聴けばすぐにわかる。
するとここで早くも牛丸が
「美味しいものを食べて2kg太りました(笑)」
と挨拶する。いや、全然太ったようには見えないんですけど、と思っているとごっきんも
「私は2.5kg太りました(笑)yonige合わせて4.5kg重くなって戻ってまいりました(笑)」
と、山手線ツアーなど近年のライブではほとんどMCをすることがなかっただけに、この早いタイミングで2人が話し出したのは少し驚いてしまったのだが、
「やっぱり東京はハイソサエティーですね………なんなん?(笑)」
とあまりのリアクションの薄さにごっきんがセルフツッコミを入れるのも実に久しぶりである。
そんなMCを挟んで演奏されたのは牛丸による
「きっとエッチなことばっかり考えてはそっちのけにした熱意はああ、もう」
「君のエッチなことばっかりやらかしてはでっちあげられたレッテルは」
という韻を意識したボーカルに少しドキッとしながらも軽快なリズムを奏でるごっきんがベースを上下に揺さぶるように弾くのが微笑ましい「あのこのゆくえ」は実に久しぶりにライブで聴く感じがする曲である。
「かたつむりになりたい
男も女もない、かたつむりになりたい」
という作品のタイトルになったフレーズの発想力はこの時点ですでに牛丸の作家性を予見していたとも言える。
そのリズムの軽快さによってアウトロからすぐさまイントロに繋がるというライブアレンジが施された「各駅停車」では2コーラス目で牛丸が少し歌詞が飛び気味だったのか、この日唯一と言っていいくらいにゴニョゴニョした歌い方になっていた姿に少しにやけてしまう。ツアーを重ねていることによってかつてよりはだいぶ歌詞が飛ぶ場面が減っただけに微笑ましく思えるというか。
ホリエのドラムのリズムからごっきんのイントロのベースへと実に自然に繋がるようなアレンジの「バイ・マイ・サイ」も含めて、yonigeのライブは実にテンポが良いがそれはMCが少ないからではなくてこうした曲と曲を繋げるアレンジによるものだし、そのアレンジもライブを、ツアーを、キャリアを重ねることによってより洗練されてきているのがよくわかる。そうしたアレンジが淡々と演奏しているように見えて実は高度なことを繰り返しているというyonigeのライブの魅力になっている。
すると薄っすらとした照明が淡くメンバーを照らし、ギターこそ轟音でありながらもその音から感じるイメージがガラッと変わるのは「ここじゃない場所」であり、曲の最後に牛丸がつぶやくように口にする
「いってらっしゃい、さよなら」
というまさにここじゃないと感じるような場所からお互いに離れていくように感じさせるフレーズを合図にここからは「健全な社会」以降のyonigeのモードへと突入していく。
そのモードの始まりとなったのは重いベースが引っ張るというよりは引きずるというような感覚を覚える「往生際」であるが、やはりこの曲でもサビの牛丸の歌唱の伸びは素晴らしい。ライブ初披露された武道館ワンマンの際にはこの曲では客席は凍りついていたが、土器とホリエも演奏しながらハイトーンなコーラスを重ねることも含めて、この曲は今にしてライブで真価を発揮している。それだけにまたこの曲を武道館のような天井が高い会場で聴きたいと思う。今の牛丸の歌唱ならその高い天井にもきっと届くと思うから。
すると土器がシンセを操作することによってまさに催眠状態に陥るかのような不穏なサウンドが流れるのは「催眠療法」であり、かつてのギターのフィードバックノイズとはまた違った形でサイケデリックさを感じさせてくれる。どこか怖い感じすらする曲であるだけに心地良くてもビールを飲みながら聴くことができそうにないのはそうすると意識を持っていかれそうになりそうだからである。
そうしてライブは中盤からさらに深いところへと潜っていくのであるが、かつて所属していたレーベルのコンピレーションCDに収録された「seed」はシンセなどの音を使わずに、ギター、ベース、ドラムという楽器のみで複雑な演奏とグルーヴを体現した曲である。山手線ツアーで演奏されてビックリした曲である(それほどまでに全然ライブで演奏されてこなかったから)が、もしかしたらこれからはワンマンではおなじみの曲になっていくのかもしれないとすら思えている。
わずかな曲間で牛丸がギターを交換すると、そのギターが切ない単音を響かせて始まったのはyonige屈指のバラード曲と言える「沙希」。実は読書家でもある牛丸(ロッキンオンジャパンの映画について語る連載コーナーでもその文才が発揮されていただけに早期終了は惜しい)が又吉直樹の小説にインスパイアされたことによって脳内に浮かぶ女性と男性のイメージ。ここまでハッキリとそれが浮かび上がる曲は今となっては希少とも言えるが、牛丸の歌唱もまたその曲の世界に引き込むかのような力を持つようになっている。
そんな牛丸がアコギに持ち替えて演奏されたのはライブではおなじみのアレンジによる「サイケデリックイエスタデイ」。そのアコースティック的なアレンジによって牛丸の歌の上手さがより際だっている。そればっかり言っているような感じもするが実際にそうなのだから仕方がないのである。個人的にはyonigeは今ならこうしたアレンジのライブもできると思うだけに、ビルボードなどでアコースティック的なライブも見てみたいと思う。そうした場所では2人は着飾ったりするのだろうかという点も含めて。
インタールード的な音が流れてから、牛丸が平静を保つような歌唱で歌い始めると、ホリエのドラムの連打がジェットコースターが急降下するかのような展開を感じさせる「11月24日」へ。ライブでは毎回のように演奏されている曲であるが、図らずもそのタイトルの日付けの直近であるということにこの曲が演奏されることによって気付く。そのホリエの連打するドラムに牛丸のボーカルが重なることによって、どこか脳内がぐるぐる回るような感覚になるのはこの曲ならではのものである。
その「11月24日」から「健全な朝」へと繋がるのは「健全な社会」のアルバムの曲順通りであり、またライブのおなじみの流れでもあるのだが、こうしてじっくり演奏している姿を見ていると2人はまるでモデル(特に髪型も含めて牛丸は)のようにすら見えてくる。それくらいにライブそのものもビジュアルも進化して極まってきている感すらある。そう思う感覚もまたこの曲を聴いていると健全なものであるように思えてくる。
ライブハウスであるだけに派手な演出などはなく、照明の色味で曲のイメージを引き出すというシンプルな内容の中でも薄暗い中でメンバーそれぞれの前に置かれた電球の明かりが人間の生命そのもののように、またタイトルに合わせるかのように未来に希望を灯すように光る「あかるいみらい」はその地味なように見えるがこれ以上ないくらいの演出があまりに見事過ぎてサビのフレーズのように笑ってしまう。きっと独立したことによって本当に信頼できるチームでこうしたライブの一本一本を作っているんだろうなということがよくわかる。
すると牛丸がギターを下ろしてキーボードを弾くという近年のライブではおなじみの編成になって演奏されたのは「27歳」。この曲はCDとサブスクで歌詞やアレンジが違うという面白い試みを行った曲であるのだが、この日はCDバージョンで牛丸の弾くキーボードの切ないメロディが響く。そこに乗るのはおそらく27歳であろうOLの昼休みの思考を想像するという歌詞であるのが実にシュールだし、まるで牛丸脚本の映画のようですらある。
そんな深く潜りまくってきた(でもいつも通りのyonigeのライブであるとも言える)ライブをごっきんは
「冠婚葬祭全てが襲ってくるかのような」
という実に独特に例える。確かに前半の冠婚から中盤以降の葬祭へというのは言い得て妙と言えなくもないが、自分たちのライブを評する言葉としてそれでいいのかという感じもする。
「我々、この春から独立しまして。ツアーをやるのがどれだけ大変かということを思い知りましたよ。毎回自転車操業です。こんなこと聞きたくない?(笑)」
と明け透けに口にするごっきんのMCが聞けるのはやっぱり嬉しいけれど。
そんなMCからの終盤は再び一気に牛丸と土器のギターも、ごっきんとホリエのリズムも激しく加速する「ワンルーム」から。歌唱力とグルーヴが向上したことは間違いなくこうしたアッパーなギターロック的な曲にも好影響をもたらしているが、
「君の一番になれないけど
君もわたしの一番じゃないよ」
というキラーフレーズも含めてyonigeのラブソング的な面はこうした曲にこそ乗せやすいものだったんだなということに気付く。
さらにはタイトルからも感じられる開放感をサウンドと歌唱でも感じさせるのは「さよならプリズナー」であり、それももちろん牛丸の突き抜けるかのような歌唱によって最大限に感じることができるものだ。
「なんにもない なんにもない」
と繰り返されることによるキャッチーなフレーズがあるからこそ、
「ただ傷つけたことの 償い方がわからないんだ」
という過去の後悔がグサッと刺さる。しかしステージ上の4人、特に牛丸はそうした過去の諸々から完全に解放されているように感じられるのである。そうした意味でもリリース時よりも今の方が真価を発揮している曲と言えるかもしれない。
そして牛丸は
「独立したことによって、今までよりも一人一人の存在が大事だと思えるようになった。だから来てくれて本当にありがとう。またライブハウスで会いましょう」
と真摯に口にしたのだが、その言葉にこそ今のyonigeの全てがある。自分たちで全てを背負うようになったからこそ、自分たちが良いライブをしないとバンドが成り立たなくなってしまうということをきっとかつて以上によくわかっている。その思いが歌唱とグルーヴの進化に間違いなく繋がっている。どこかyonigeに今まで以上の人間味を感じられた。それはこれからもこうしてライブをやって生きていくということを感じさせてくれたからだ。
そんな牛丸の言葉の後だからこそより一層沁みるのが「対岸の彼女」で、ほとんど照明を落とした中で先ほどのようにメンバーの前に設置された電球が光る。それが曲が進むにつれて少しずつ照明が灯っていく。最後のサビの牛丸の
「ライターの火が風で消える夜に 迎えに行くよ」
というフレーズの声の張り上げっぷりとそこに宿る感情はこうしてツアーを、ライブをやることによって我々を迎えに来てくれたんだなと思える。それくらいに声に感情が乗っている。牛丸は自分の言葉を自分のパフォーマンスで示せるシンガーになったのだ。
そして最後に演奏されたのはたゆたうようなリズムの上に牛丸と土器の轟音ギターが鳴り響く「最愛の恋人たち」。「催眠療法」のようなシンセのサウンドではなくて、ノイジーなギターの音がどれだけサイケデリックなものかということを感じさせてくれる。それはMy Bloody ValentineやThe Jesus and Mary Chainかと思ってしまうくらいの音の圧力。それによって脳内がとろけそうにもなるのだが、演奏が終わってまだノイズが響く中でメンバーがステージからすぐに去っていくと現実に引き戻される。凄まじいバンドの表現力の進化を示すようなライブだった。
アンコールでは2人が独立したことによってファンクラブ「退屈倶楽部」を立ち上げたことを告知し、それに入会すると今回のツアーTシャツの色違いやポストカードやカレンダーを購入できることを告げる。
「このツアーは「退屈倶楽部」の会員を増やすためにやっている」
とのことだが、そのツアーの後には12月26日に下北沢SHELTERでのワンマンも決定。その新しいアー写が今までとは明らかに違う、綺麗な2人の姿になっているのも独立したからこそだろうか。
すると手で照明を遮るようにして観客のことをしっかり見ていた牛丸が聞きたいことがあると口にし、この日が初めてのyonigeのライブである人がどのくらいいるかを問いかけ、それなりの人が手を挙げる。それを見たごっきんは
「今までいた人はどこに行ったんや」
とツッコミを入れるのであるが、このタイミングで初めてライブに来た人がどんなきっかけでyonigeに出会ったのだろうかというのは気になるところであるし、そうした人がこれからも増えていく可能性を秘めているということでもある。
そうしてこのアンコールで演奏されたことによってこの東京の街を歌っている(本当はバンドの地元である大阪の寝屋川のこと)ように初めて感じられたのは「our time city」。やはり演奏が終わるとすぐにメンバーはステージから去っていくが、土器とホリエも含めてその演奏している表情が実に楽しそうに見えた。ライブをやって生活をしていくというのももちろんであるが、ライブが楽しいからこうして年に2回もツアーをやっていろんな場所へ行く。今のyonigeはそんなことを感じさせてくれるバンドになった。だからこの曲が心から楽しいと思えるようになった。
雑誌「音楽と人」の最新号のMy Hair is Badの椎木知仁のインタビューで、
「yonigeの牛丸とTHE 2の古舘佑太郎と3人でよく飲みに行くんですけど、あの2人は考えが真逆で。なんとしても上に行きたい古舘と、自分のやりたいことや好きなことしかやりたくない牛丸っていう」
という内容の話があった。バンドマン仲間にもそう思われるくらいに今の牛丸は、yonigeは意識や思考が全くブレていないということだ。そのやりたいことや好きなことしかやっていないから、本当に音楽を、バンドを楽しんでいるように見える。近いうちにチケット取ってあったけど中止になってしまったLINE CUBE SHIBUYAのワンマンもまた開催してくれたら。そう思うくらいに、yonigeというバンドはなくなったら替えがないバンドだ。
1.デウス・エクス・マキナ
2.リボルバー
3.顔で虫が死ぬ
4.2月の水槽
5.あのこのゆくえ
6.各駅停車
7.バイ・マイ・サイ
8.ここじゃない場所
9.往生際
10.催眠療法
11.seed
12.沙希
13.サイケデリックイエスタデイ
14.11月24日
15.健全な朝
16.あかるいみらい
17.27歳
18.ワンルーム
19.さよならプリズナー
20.対岸の彼女
21.最愛の恋人たち
encore
22.our time city
この日の東京、LIQUIDROOMが珍しくファイナルではないこのツアーは「退屈ツアー」と名付けられ、そこにはyonigeのファンクラブのタイトルでもありながら過去の名曲を彷彿とさせるところもあるのだが、かつては「ライブがあまり好きじゃない」と公言していたけれど、こうして短期間でまたツアーを行うというのは牛丸ありさ(ボーカル&ギター)の心境も少し変わりつつあるということだろうか。
19時を少し過ぎたあたりで場内がスッと暗転してメンバーがステージに登場すると、牛丸は髪を後ろで2つにお団子のように結いており、それによって今までよりもどこか髪が短く見えるし、大きなピアスが輝いているのもよく見える。逆サイドのごっきん(ベース)も金髪がかなり短くなり、SPY × FAMILYのトバリーことフィオナを彷彿とさせるようなショートと言ってもいいくらいになっている。その見た目からしても今までとは異なるイメージを抱くが、この日も土器大洋(ギター&シンセ)とホリエ(ドラム)というもはやメンバーと言っていい存在の2人が牛丸とごっきんの後ろにいるのは変わらない。
そんな髪型ばかり見てしまいがちな牛丸が浮遊感のあるサウンドのギターを鳴らしながら歌い始めたのは最新曲「デウス・エクス・マキナ」であり、リズムの隙間を感じさせるようなバンドの演奏が後半でいきなり激しい轟音になり、特にホリエのドラムは重戦車を思わせるような速さと重さで、そこに重なるごっきんのベースもうねりまくっている。何よりも牛丸の歌唱がまたさらに進化したことがこの曲の抑揚のある展開で聴くと実によくわかる。
その牛丸のボーカルの進化をより強く感じられるのが早くもこの序盤で演奏された「リボルバー」であり、伸びやかさも声量も聴き手の目を覚まさせるくらいに素晴らしい。だからこそ土器のギターも今までよりもさらに激しく掻き鳴らせるようになったのだろうけれど、最初は固まらざるを得ないような展開の曲を聴いていた観客もサビでは腕を伸ばし、最後のサビ前では手拍子をする。その観客の姿に応えるかのように牛丸のボーカルもさらに伸びと声量を増す。そんな光景の素晴らしさを知っているからこそ、yonigeのライブに来るのはやめられないなと思うし、ここまで見事に歌われると自分自身もカラオケでこの曲を熱唱したくなってしまうくらいだ。
そのまま牛丸と土器のギターが轟音を鳴らす「顔で虫が死ぬ」でも同じようにサビではたくさんの腕が上がるのであるが、少し前にはこうしたギターロックと言えるタイプの曲をライブでほとんどやらなくなっていただけに、「三千世界」のリリースから山手線ツアーなどを経てバンドのモードも少し変わりつつあることを感じる。近年の曲も良いけれど、初期にも名曲がたくさんあるバンドであるだけにこうしてライブでその曲たちが聴けるのはやはり嬉しいことである。
そんなアッパーなギターロックの流れから一転して牛丸が歌い始めると同時に青い照明がメンバーを照らす「2月の水槽」では歪んだギターサウンドはそのままに一気にテンポやトーンを落として深く潜っていくような空気になるのであるが、そうした曲においても牛丸の歌唱は実に澄んでいる。その力によってこの水槽の中の水が実にキレイなものであるように感じられる。今でも日本武道館でのド派手な演出を思い出す曲であるが、あの頃よりもバンドは間違いなく進化している。それはライブを見て音を聴けばすぐにわかる。
するとここで早くも牛丸が
「美味しいものを食べて2kg太りました(笑)」
と挨拶する。いや、全然太ったようには見えないんですけど、と思っているとごっきんも
「私は2.5kg太りました(笑)yonige合わせて4.5kg重くなって戻ってまいりました(笑)」
と、山手線ツアーなど近年のライブではほとんどMCをすることがなかっただけに、この早いタイミングで2人が話し出したのは少し驚いてしまったのだが、
「やっぱり東京はハイソサエティーですね………なんなん?(笑)」
とあまりのリアクションの薄さにごっきんがセルフツッコミを入れるのも実に久しぶりである。
そんなMCを挟んで演奏されたのは牛丸による
「きっとエッチなことばっかり考えてはそっちのけにした熱意はああ、もう」
「君のエッチなことばっかりやらかしてはでっちあげられたレッテルは」
という韻を意識したボーカルに少しドキッとしながらも軽快なリズムを奏でるごっきんがベースを上下に揺さぶるように弾くのが微笑ましい「あのこのゆくえ」は実に久しぶりにライブで聴く感じがする曲である。
「かたつむりになりたい
男も女もない、かたつむりになりたい」
という作品のタイトルになったフレーズの発想力はこの時点ですでに牛丸の作家性を予見していたとも言える。
そのリズムの軽快さによってアウトロからすぐさまイントロに繋がるというライブアレンジが施された「各駅停車」では2コーラス目で牛丸が少し歌詞が飛び気味だったのか、この日唯一と言っていいくらいにゴニョゴニョした歌い方になっていた姿に少しにやけてしまう。ツアーを重ねていることによってかつてよりはだいぶ歌詞が飛ぶ場面が減っただけに微笑ましく思えるというか。
ホリエのドラムのリズムからごっきんのイントロのベースへと実に自然に繋がるようなアレンジの「バイ・マイ・サイ」も含めて、yonigeのライブは実にテンポが良いがそれはMCが少ないからではなくてこうした曲と曲を繋げるアレンジによるものだし、そのアレンジもライブを、ツアーを、キャリアを重ねることによってより洗練されてきているのがよくわかる。そうしたアレンジが淡々と演奏しているように見えて実は高度なことを繰り返しているというyonigeのライブの魅力になっている。
すると薄っすらとした照明が淡くメンバーを照らし、ギターこそ轟音でありながらもその音から感じるイメージがガラッと変わるのは「ここじゃない場所」であり、曲の最後に牛丸がつぶやくように口にする
「いってらっしゃい、さよなら」
というまさにここじゃないと感じるような場所からお互いに離れていくように感じさせるフレーズを合図にここからは「健全な社会」以降のyonigeのモードへと突入していく。
そのモードの始まりとなったのは重いベースが引っ張るというよりは引きずるというような感覚を覚える「往生際」であるが、やはりこの曲でもサビの牛丸の歌唱の伸びは素晴らしい。ライブ初披露された武道館ワンマンの際にはこの曲では客席は凍りついていたが、土器とホリエも演奏しながらハイトーンなコーラスを重ねることも含めて、この曲は今にしてライブで真価を発揮している。それだけにまたこの曲を武道館のような天井が高い会場で聴きたいと思う。今の牛丸の歌唱ならその高い天井にもきっと届くと思うから。
すると土器がシンセを操作することによってまさに催眠状態に陥るかのような不穏なサウンドが流れるのは「催眠療法」であり、かつてのギターのフィードバックノイズとはまた違った形でサイケデリックさを感じさせてくれる。どこか怖い感じすらする曲であるだけに心地良くてもビールを飲みながら聴くことができそうにないのはそうすると意識を持っていかれそうになりそうだからである。
そうしてライブは中盤からさらに深いところへと潜っていくのであるが、かつて所属していたレーベルのコンピレーションCDに収録された「seed」はシンセなどの音を使わずに、ギター、ベース、ドラムという楽器のみで複雑な演奏とグルーヴを体現した曲である。山手線ツアーで演奏されてビックリした曲である(それほどまでに全然ライブで演奏されてこなかったから)が、もしかしたらこれからはワンマンではおなじみの曲になっていくのかもしれないとすら思えている。
わずかな曲間で牛丸がギターを交換すると、そのギターが切ない単音を響かせて始まったのはyonige屈指のバラード曲と言える「沙希」。実は読書家でもある牛丸(ロッキンオンジャパンの映画について語る連載コーナーでもその文才が発揮されていただけに早期終了は惜しい)が又吉直樹の小説にインスパイアされたことによって脳内に浮かぶ女性と男性のイメージ。ここまでハッキリとそれが浮かび上がる曲は今となっては希少とも言えるが、牛丸の歌唱もまたその曲の世界に引き込むかのような力を持つようになっている。
そんな牛丸がアコギに持ち替えて演奏されたのはライブではおなじみのアレンジによる「サイケデリックイエスタデイ」。そのアコースティック的なアレンジによって牛丸の歌の上手さがより際だっている。そればっかり言っているような感じもするが実際にそうなのだから仕方がないのである。個人的にはyonigeは今ならこうしたアレンジのライブもできると思うだけに、ビルボードなどでアコースティック的なライブも見てみたいと思う。そうした場所では2人は着飾ったりするのだろうかという点も含めて。
インタールード的な音が流れてから、牛丸が平静を保つような歌唱で歌い始めると、ホリエのドラムの連打がジェットコースターが急降下するかのような展開を感じさせる「11月24日」へ。ライブでは毎回のように演奏されている曲であるが、図らずもそのタイトルの日付けの直近であるということにこの曲が演奏されることによって気付く。そのホリエの連打するドラムに牛丸のボーカルが重なることによって、どこか脳内がぐるぐる回るような感覚になるのはこの曲ならではのものである。
その「11月24日」から「健全な朝」へと繋がるのは「健全な社会」のアルバムの曲順通りであり、またライブのおなじみの流れでもあるのだが、こうしてじっくり演奏している姿を見ていると2人はまるでモデル(特に髪型も含めて牛丸は)のようにすら見えてくる。それくらいにライブそのものもビジュアルも進化して極まってきている感すらある。そう思う感覚もまたこの曲を聴いていると健全なものであるように思えてくる。
ライブハウスであるだけに派手な演出などはなく、照明の色味で曲のイメージを引き出すというシンプルな内容の中でも薄暗い中でメンバーそれぞれの前に置かれた電球の明かりが人間の生命そのもののように、またタイトルに合わせるかのように未来に希望を灯すように光る「あかるいみらい」はその地味なように見えるがこれ以上ないくらいの演出があまりに見事過ぎてサビのフレーズのように笑ってしまう。きっと独立したことによって本当に信頼できるチームでこうしたライブの一本一本を作っているんだろうなということがよくわかる。
すると牛丸がギターを下ろしてキーボードを弾くという近年のライブではおなじみの編成になって演奏されたのは「27歳」。この曲はCDとサブスクで歌詞やアレンジが違うという面白い試みを行った曲であるのだが、この日はCDバージョンで牛丸の弾くキーボードの切ないメロディが響く。そこに乗るのはおそらく27歳であろうOLの昼休みの思考を想像するという歌詞であるのが実にシュールだし、まるで牛丸脚本の映画のようですらある。
そんな深く潜りまくってきた(でもいつも通りのyonigeのライブであるとも言える)ライブをごっきんは
「冠婚葬祭全てが襲ってくるかのような」
という実に独特に例える。確かに前半の冠婚から中盤以降の葬祭へというのは言い得て妙と言えなくもないが、自分たちのライブを評する言葉としてそれでいいのかという感じもする。
「我々、この春から独立しまして。ツアーをやるのがどれだけ大変かということを思い知りましたよ。毎回自転車操業です。こんなこと聞きたくない?(笑)」
と明け透けに口にするごっきんのMCが聞けるのはやっぱり嬉しいけれど。
そんなMCからの終盤は再び一気に牛丸と土器のギターも、ごっきんとホリエのリズムも激しく加速する「ワンルーム」から。歌唱力とグルーヴが向上したことは間違いなくこうしたアッパーなギターロック的な曲にも好影響をもたらしているが、
「君の一番になれないけど
君もわたしの一番じゃないよ」
というキラーフレーズも含めてyonigeのラブソング的な面はこうした曲にこそ乗せやすいものだったんだなということに気付く。
さらにはタイトルからも感じられる開放感をサウンドと歌唱でも感じさせるのは「さよならプリズナー」であり、それももちろん牛丸の突き抜けるかのような歌唱によって最大限に感じることができるものだ。
「なんにもない なんにもない」
と繰り返されることによるキャッチーなフレーズがあるからこそ、
「ただ傷つけたことの 償い方がわからないんだ」
という過去の後悔がグサッと刺さる。しかしステージ上の4人、特に牛丸はそうした過去の諸々から完全に解放されているように感じられるのである。そうした意味でもリリース時よりも今の方が真価を発揮している曲と言えるかもしれない。
そして牛丸は
「独立したことによって、今までよりも一人一人の存在が大事だと思えるようになった。だから来てくれて本当にありがとう。またライブハウスで会いましょう」
と真摯に口にしたのだが、その言葉にこそ今のyonigeの全てがある。自分たちで全てを背負うようになったからこそ、自分たちが良いライブをしないとバンドが成り立たなくなってしまうということをきっとかつて以上によくわかっている。その思いが歌唱とグルーヴの進化に間違いなく繋がっている。どこかyonigeに今まで以上の人間味を感じられた。それはこれからもこうしてライブをやって生きていくということを感じさせてくれたからだ。
そんな牛丸の言葉の後だからこそより一層沁みるのが「対岸の彼女」で、ほとんど照明を落とした中で先ほどのようにメンバーの前に設置された電球が光る。それが曲が進むにつれて少しずつ照明が灯っていく。最後のサビの牛丸の
「ライターの火が風で消える夜に 迎えに行くよ」
というフレーズの声の張り上げっぷりとそこに宿る感情はこうしてツアーを、ライブをやることによって我々を迎えに来てくれたんだなと思える。それくらいに声に感情が乗っている。牛丸は自分の言葉を自分のパフォーマンスで示せるシンガーになったのだ。
そして最後に演奏されたのはたゆたうようなリズムの上に牛丸と土器の轟音ギターが鳴り響く「最愛の恋人たち」。「催眠療法」のようなシンセのサウンドではなくて、ノイジーなギターの音がどれだけサイケデリックなものかということを感じさせてくれる。それはMy Bloody ValentineやThe Jesus and Mary Chainかと思ってしまうくらいの音の圧力。それによって脳内がとろけそうにもなるのだが、演奏が終わってまだノイズが響く中でメンバーがステージからすぐに去っていくと現実に引き戻される。凄まじいバンドの表現力の進化を示すようなライブだった。
アンコールでは2人が独立したことによってファンクラブ「退屈倶楽部」を立ち上げたことを告知し、それに入会すると今回のツアーTシャツの色違いやポストカードやカレンダーを購入できることを告げる。
「このツアーは「退屈倶楽部」の会員を増やすためにやっている」
とのことだが、そのツアーの後には12月26日に下北沢SHELTERでのワンマンも決定。その新しいアー写が今までとは明らかに違う、綺麗な2人の姿になっているのも独立したからこそだろうか。
すると手で照明を遮るようにして観客のことをしっかり見ていた牛丸が聞きたいことがあると口にし、この日が初めてのyonigeのライブである人がどのくらいいるかを問いかけ、それなりの人が手を挙げる。それを見たごっきんは
「今までいた人はどこに行ったんや」
とツッコミを入れるのであるが、このタイミングで初めてライブに来た人がどんなきっかけでyonigeに出会ったのだろうかというのは気になるところであるし、そうした人がこれからも増えていく可能性を秘めているということでもある。
そうしてこのアンコールで演奏されたことによってこの東京の街を歌っている(本当はバンドの地元である大阪の寝屋川のこと)ように初めて感じられたのは「our time city」。やはり演奏が終わるとすぐにメンバーはステージから去っていくが、土器とホリエも含めてその演奏している表情が実に楽しそうに見えた。ライブをやって生活をしていくというのももちろんであるが、ライブが楽しいからこうして年に2回もツアーをやっていろんな場所へ行く。今のyonigeはそんなことを感じさせてくれるバンドになった。だからこの曲が心から楽しいと思えるようになった。
雑誌「音楽と人」の最新号のMy Hair is Badの椎木知仁のインタビューで、
「yonigeの牛丸とTHE 2の古舘佑太郎と3人でよく飲みに行くんですけど、あの2人は考えが真逆で。なんとしても上に行きたい古舘と、自分のやりたいことや好きなことしかやりたくない牛丸っていう」
という内容の話があった。バンドマン仲間にもそう思われるくらいに今の牛丸は、yonigeは意識や思考が全くブレていないということだ。そのやりたいことや好きなことしかやっていないから、本当に音楽を、バンドを楽しんでいるように見える。近いうちにチケット取ってあったけど中止になってしまったLINE CUBE SHIBUYAのワンマンもまた開催してくれたら。そう思うくらいに、yonigeというバンドはなくなったら替えがないバンドだ。
1.デウス・エクス・マキナ
2.リボルバー
3.顔で虫が死ぬ
4.2月の水槽
5.あのこのゆくえ
6.各駅停車
7.バイ・マイ・サイ
8.ここじゃない場所
9.往生際
10.催眠療法
11.seed
12.沙希
13.サイケデリックイエスタデイ
14.11月24日
15.健全な朝
16.あかるいみらい
17.27歳
18.ワンルーム
19.さよならプリズナー
20.対岸の彼女
21.最愛の恋人たち
encore
22.our time city
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