Hump Back pre. "HAVE LOVE TOUR 2022" @Zepp DiverCity 11/20
- 2022/11/21
- 19:53
もうツアーやりながらフェスやイベントや対バンに出まくり、ツアーが終わったらまたツアーが始まっているというくらいに毎日のようにライブをやっているだけに今が何のツアー、何のライブなのか忘れてしまいそうになるが、今年もそうしてライブをやりまくりながら新作EP「AGE OF LOVE」をリリースしたHump Backのそのリリースツアーがこの「HAVE LOVE TOUR」であり、この日の東京のZepp DiverCityはもうツアー後半戦である。
当たり前にチケットソールドアウト、立ち位置指定なしのDiverCityの客席は超満員の中、18時になるとおなじみのハナレグミのSEでメンバーが登場。ステージ背面にはバンドのロゴが張られているだけという、シンプル極まりないけれどいつも通りとしか言えない中でこの日もジャケットに赤いパンツという出で立ちの色合いが鮮やかな林萌々子(ボーカル&ギター)がギターを持って弾き語りのようにして
「明日が怖くなるほどに 君が君が美しかった
夜を越え朝迎え 君に会えたらそれでいいや」
とサビを歌い上げ、ギターを高く掲げてから髪の緑色の混じりっぷり率が高くなっているぴか(ベース)と、いつもと何ら変わらないように見える美咲(ドラム)のリズムが重なって「Lilly」からスタート。このオープニングのアレンジで超満員の観客がすでに完全に心を掴まれているのはやはり林の歌声の伸びやかさと声量の大きさによるものだろう。ライブハウスで生きてきた、これからもそこで生きていくバンドであるけれど、そのスケールを圧倒的に超えている。逆にその声とバンドのパフォーマンスによって、ライブハウスはこんなに凄いものが見れる場所なんだと思える。
「行けるとこまで行こうぜ!かっ飛ばせ!」
と言って早くも林がギターを抱えて下手側にジャンプするように衝動を炸裂させて演奏されたのは懐かしの「高速道路にて」という意外な選曲。しかし今音源で聴くと少し頼りない感じもしてしまうような初期の頃の曲すらも実に力強く鳴らされているというのはバンドの成長であり、それはやはりライブをやりまくってきたことによって得られたものだ。その演奏する姿と音の激しさはこの曲が収録された「hanamuke」がリリースされた5年前では想像出来なかったものであるだけに実に感慨深くなるが、それが特に記念碑的なライブでもない、ツアーの途中の1本のライブで感じられるというのが今のHump Backのライブの強さである。
「恋してる人おる?」
と林が観客に問いかけると、そこそこの数の観客が手を挙げ、その挙げた人を林が指差して
「恋をしてる、あなたのための歌」
と言って演奏されたのはもちろん「恋をしよう」であり、ここまでの2曲よりもギターの音の隙間を生かした、蒼さと甘酸っぱさを否応なしに感じさせるこの曲はどこかポップな感触を持った曲であるが、それは
「どうか僕に任せておくれよ」
というフレーズ部分などのメロディーのフックの強さによってそう感じるのかもしれないし、手を挙げた人たちはまさに自身の日々の生活のテーマとしてこの曲を聴いているのかもしれないとも思う。
そんな序盤によって始まった今回のツアーは「AGE OF LOVE」のリリースによるものであり、その収録曲の中で最初に披露されたのは曲中にダブ的なリズムが取り入れられるという明らかにバンドにとっては新境地に果敢に挑んだ「しょうもない」なのだが、曲後半ではそんなダブのフレーズを忘れてしまうくらいに美咲のドラムが一気に高速化&激しくなって、もはやパンクと言っていいくらいのものになる。そのビートに乗る林のボーカルもぴかのコーラスもとにかくその勢いに乗っかっていくというくらいに思いっきり声を張り上げるものになっており、この曲はこうしてライブで見ることで真価に気付くというか、むしろライブでこそ真価を発揮する曲だと言える。もしかしたらメンバーにはライブでこうした演奏をするイメージが始めから見えていたのかもしれない。
そんなパンクなビートはすぐさま曲間なく「宣誓」に繋がっていき、林は歌いながら口をマイクに押し付けるようにしてマイクスタンドをぐるっと動かすというテクニックで客席にさらに近づいて歌う。「しょうもない」の後半のパンクなビートをそのまま引き継いでいるだけに、元からパンク成分の強いこの曲がさらにパンクさを感じさせるものになっている。紛れもなくこの前半で感じたこの日のライブのイメージは「パンクだな〜」というものだった。
そんなすでに怒涛の前半でようやく一息つくようにして林は
「よく来たな〜。っていうかそりゃあ来るよな。ライブハウスより楽しいものなんかそうそうないもんな!」
と挨拶すらもさらにバンドと我々のテンションを上げるためのものとしてギターを鳴らしながら「生きて行く」を歌い始め、ぴかはおなじみのぴょんぴょんと飛び跳ねながら演奏するのであるが、ワンコーラス目で客席からは少し手拍子が起こっていた。それを見たのかはわからないが林は2コーラス目ですぐさま本来の歌詞を吹っ飛ばすようにして、
「周りがやってるからとか、そんなことここでは一切気にしなくていい!ただただ自分から湧き上がってくるものに任せろ!」
と叫ぶ。そう言われるまでもなくこのバンドのライブを見ていると勝手に拳が上がってしまうのであるが、それが林の言う通りに自分の中から湧き上がってきているものであることがわかる。その感覚こそがライブハウスでロックバンドを見ているというものだからこそ、このバンドのライブを見るのが好きなのだ。それはやっぱりワンマンのライブハウスが最も強く感じられるものだなということもこの日のシチュエーションが実感させてくれる。
「久しぶりにやる曲」
と言って演奏された「嫌になる」は2016年の「夜になったら」収録曲というトップクラスに歴史を持っている曲であるが、やはりバンドの演奏(特に最後のサビのリズムだけになる部分の美咲のドラム)も林の歌唱も音源とは比べ物にならないくらいに力強くなっているが、サビの
「あぁ 嫌になっちゃうな
でもこんなのも たまには悪くないよな」
という歌詞は今もHump Backがリリースしている曲(新作なら「しょうもない」)に通じる人間の抱える感情を描いたものだ。生きていて楽しいことばかりではないし、かといって死にたくなるくらいにキツいことがあるわけでもない。そんなある意味では平凡とも言えるような毎日を生きていくためのロック。それもまたこのバンドが歌い続けてきたことである。
「プロポーズするように作りましたー!」
と林が叫んでから
「僕の歌を聴いて 恥ずかしいけど君の歌だよ
そしたら君は困った顔をする」
と歌う「ヘイベビ」は林が結婚したことを公表したことによって、自身の経験や体験をそのまま歌詞にした曲なんだなということがわかるし、特に近年は恋愛に限らずにそう感じる歌詞の曲が増えているのは、そうした歌詞だからこそ自分の感情を余すことなく乗せることができるからでもあるのだろう。髪が少し短くなったこともあってか、林はありとあらゆる意味でイケメンだなと思う。それはつまりカッコいい人間だなということである。
そんな林のかつての体験や経験が
「ミニストップよりセブンが好き
元バイト先」
というリアル過ぎる歌詞として現れているのが新作の「犬猫人間」であり、そのフレーズもそうだが林の単語の選び方と乗せ方、さらには韻の踏み方に至るまで、林の作家性の凄まじさが炸裂している曲だ。自分は完全に猫派だが、かつて林が飼っていた犬のことを歌った「ぎんのうた」という曲もあるだけにHump Backのメンバーは犬派というイメージが強い。実際にこの曲も猫を従える人という歌詞の内容になっている。
「今でもこの曲を歌うと当時のことを思い出す。凄く楽しかったけれど、すごく辛い別れもあった」
と林が回想するようにして演奏されたのは「hanamuke」の最後に収録されている「ゆれる」。
「悲しみはときに優しいものなのね
幸せはときに苦しいものなのね」
と、まさに悲しくも幸せでもあったであろうかつての自身の状況をそのまま描いたであろうこの曲を、今のバンドの強さで吹き飛ばすようにして音が鳴らされる。どちらかというと浸る曲というイメージがあったけれど、こうして今ライブで聴くと全く違う、そうした過去を忘れることなく前に進んでいくための曲に聞こえる。それは詳細な体験としては人それぞれだけれど、誰もがこの日までそうして生きてきたからこそ強い説得力を感じさせるように胸に沁み入るのだ。
続く「サーカス」もまた「hanamuke」収録曲であるのだが、この曲の持つ焦燥や寂寞といったイメージやマイナーなサウンドは今のHump Backとはまた少し違うというか、決して今のように少年少女に向けて歌っているというような曲ではない。ただただその当時の自分たちの心象を
「終わりの見えない夜にいつも僕たちは
クダラナイ小さな嘘に踊らされてるんだ
どこでも行けると信じた夜に僕たちは
泡色の車に乗って
空泳ぐクジラに願うんだ」
と描いている。その歌詞に宿る感情はきっと今の少年少女が抱えるリアルなものだろうし、バンドは後にこの歌詞に連なるような「クジラ」という曲を全く違う突き抜けるようなサウンドの曲として生み出している。今とは違うようでいて、確かに今のHump Backに繋がっているというのが曲と曲を繋ぐアレンジからも伝わってくる。だから今でも今のHump Backの音楽として響くのだ。
そんな懐かしい曲を演奏しながらもぴかは他の2人に最近不満があるようで、このツアーでこの日の前に上越と福井をTHE 2と回った際に、かつてスペシャ列伝ツアーを一緒に回り、その時には結構無茶な打ち上げをやっていたのを今でも忘れられないぴかは初日は「23時に閉まる風呂屋に行きたいから」という理由で去られた古舘佑太郎を2日目に強引に呼んで打ち上げを行ったらしいが、林と美咲が勝手に先に帰っていたのがお気に召さない様子。
しかし林が
「早く帰りたいな〜ってずっと思ってた(笑)」
と言うと美咲も、
「ぴかちゃんがドリンク取りに行ってる時にみんな「早く帰りたい」って言ってたで(笑)」
という衝撃の事実を明かし、ぴかは凹んでいた。酔っ払うと噛み癖があるというだけにメンバーたちはぴかの酒癖の悪さをわかっているのかもしれないが、そんな部分も含めてHump Backの打ち上げは実に楽しそうだ。林は古舘佑太郎が無言恐怖症なのか、
「萌々ちゃん、最近何してるの!?」
的などうでもいいことばかり話しかけてくるのが帰りたい要因だったという。実に意外な古舘の一面である。
そんなワンマンならではのぴかのMCの微妙な空気をぶった切るように鳴らされたのは
「最高速度で行こうぜー!」
と言って鳴らされた「閃光」。
「ねぇ こんな夜は会いに行くよ 君の元へ
笑えなくなるよ 止まりはしないぜ 最高速度」
というフレーズはまさに今こうして我々の前に来てライブをしているということを示すかのようなものであるが、そんな意思を感じられる曲だからこそ林のボーカルもバンドの演奏もより一層伸びやかに聞こえてくる。
そんなボーカルを響かせた林が
「幸せになりまーす!」
と叫んでから演奏されたのはこちらも「hanamuke」収録の「卒業」。どこかそのタイトル通りの別れの切なさを感じさせるようなサウンドに乗る
「愛しい人よ 戻らぬ日々よ
明日にはさよならなんだ」
というフレーズは過去の恋人たちや好きな人との思い出を忘れることなく、でもこれからは今一緒にいる人と生きていくということの宣誓のようであった。そうした過去からの卒業ということを歌うことによって、この曲は学生だけではなく誰しもに当てはまる卒業ソングになっている。
そうして曲に込める思いが強くなっていくことによってバンドの演奏はさらに熱くなっていく。それを感じさせるのは美咲のドラムの連打によるイントロからして今のこのバンドの力強さと逞しさを感じざるを得ない「オレンジ」であり、林は歌いながらマイクスタンドを自らぶっ倒すようにするも、代わりに使おうとしたぴかのマイクスタンドではぴかが絶賛コーラス中ということで行き場がなくなってその場でジャンプしまくり、最終的にはスタッフが戻した自身のマイクスタンドで歌うことに。その姿には「ここでこうしてやろう」的な作為は全く感じられない。むしろ結果的にこのタイミングでそうなったというような。それがこのバンドから感じるロックの衝動であるし、それは「hanamuke」のリリース時よりも間違いなくさらに強くなっている。
「僕らは「AGE OF LOVE」というCDを出したのさ。形ないものを形にしたくてCDを出して、サブスクや配信は今のところやってないぜ。時代や流行りにあわせるのも大事だっていうのはわかってるけど」
と、林がギターを弾きながら語り始めたのは「AGE OF LOVE」だけではなく「hanamuke」も含めて自分たちの作品を手に取って愛してくれている人へ向けたメッセージであろうけれど、
「何回生まれ変わっても僕に産まれさせておくれ。何回だってHump Backのボーカルをやりたいんだ。人間じゃないのならば犬でも猫でもいいから、Hump Backに出会わせておくれ。
死んだら全て終わりにできるっていうのもわかるけど、生きてるからできることもあるんだぜ。生きてさえいれば、大体どうにかなるぜ。僕は僕たちの音楽が好きな人にずっと生きていて欲しいのさ」
と続ける。ここにいた人からしたらそれは何よりも大きな自身の生への肯定であろう。こんなにカッコいい人が自分に「生きていて欲しい」と言ってくれているのだから。自分は死にたい的な感情を全く持っていないけれど、少しでもそう思ってしまうことがある少年少女にこの言葉とこのバンドの音楽が届いて欲しいと思う。それが他のどんなものよりもそう思ってしまう自分自身のことを抱きしめてくれるから。
そんな思いを曲にしたのが「AGE OF LOVE」のリード曲である「がらくた讃歌」であり、
「忘れないでいて 少年少女よ 命あるだけで
素晴らしいんだ 美しいんだ oh yeah
大体なんでもなんとかなるぜ」
というフレーズはまさに先ほどの言葉と全く同じことを歌っている。それはファルセットを含めた林のボーカルの表現力がさらに向上しているからこそ説得力を感じさせるのであり、思考がそのまま曲になっているからそう感じるものでもある。
「愛し合っていて 愛し合っていて」
というフレーズをボーカルのみで歌う部分なんかは本当にこの瞬間が何よりも美しいものに思えるのだ。
そして美咲の入りのドラムロールが驚くくらいの迫力をもって響くようになっている「ティーンエイジサンセット」の
「スリーコード エイトビートに乗って
僕らの歌よ どうか突き抜けておくれよ」
のフレーズがこのバンドの音楽性だけでなく生き様までをも1行で言い当てながら、最後のサビ前の「yeah」と叫ぶ部分では林もぴかも振り切れるように音程なんかよりもとにかく声量と衝動が第一だと言わんばかりに声を張り上げる。そうして突入していく最後のサビから衝動を感じないわけがない。前半で感じたこのバンドのパンクさはこの後半においてさらに強く感じられる。それはサウンドだけではなく人間から感じられるパンクだからだ。
そのパンクさがよりサウンドとして現れるのは、生粋のライブバンドであるだけに「AGE OF LOVE」リリース前からライブで演奏しまくっていた、ツービートにメンバー全員のボーカルが重なる「僕らの時代」であるのだが、間奏のメンバーそれぞれのソロ回しでは林がぴかと美咲を、ぴかが林を「人妻」と紹介する。そんな紹介あるのか、とも思うけれど、「人妻」というワードからはどうしてもどこか「めちゃ大人」というイメージを抱いてしまいがちであるが、そんな人妻であるこのバンドのメンバーたちがこんなにも少年少女のままで音楽を鳴らし続けている。それはどんなに歳を重ねても誰もが精神は少年少女のままでいることができるということを示してくれているかのようだ。
そんな少年少女に歌うという意識が固まった曲だと思っているのが「拝啓、少年よ」であるのだが、
「ああ もう泣かないで」
と歌いながらもきっと客席では泣いていた人もたくさんいたはずだ。でもそれは弱くて泣いていたんじゃなくて、このバンドのロックバンドとしての、人間としてのカッコ良さによって出てきてしまった涙であろう。ぴかも頭をガンガン振り乱しながらベースを弾き、そのアクションは後半になるにつれてさらに激しくなってきている。
そんなここからアッパーに攻めまくるような形でクライマックスに向かうのかと思いきや、ここで演奏されたのは「きれいなもの」というバラード曲。よくあるライブ中盤に演奏するんじゃなくて、こうしてクライマックスに持ってくることによって照明もサウンドも含めて何もかもシンプルなこの曲がライブが終わった後も強く印象に残るし、それは「拝啓、少年よ」の
「ああ もう泣かないで」
というフレーズと続くように
「君のかわいい 小さな小さな目から
ぽつりと 涙がこぼれたよ」
というフレーズが歌われるからでもある。何よりも林の歌唱、とくに
「とても綺麗だったんだ」
というサビ最後のフレーズでの歌声こそが、綺麗だったんだと思えるからでもある。
そんな「涙」という単語は
「君が泣いた夜に ロックンロールは死んでしまった」
と林が弾き語りのように歌い始める「星丘公園」へと続く。むしろ少年期よりも今の方がライブや音楽に触れて涙が出ることが多くなったように自分自身で感じているけれど、それでもHump Backの曲に出てくる「涙」や「泣いた」というフレーズは過去のそうした経験に思いを馳せさせる…と思っていたらぴかが演奏をミスったのか(聴いててもわからないくらいだったけど)、思いっきり素で
「すいません」
と口にしたのがマイクに拾われていて笑ってしまった。どうやらそれは先ほどの打ち上げでメンバーみんなが帰りたいと思っていたのを引きずっていたことで出てしまったらしいが、それをカバーするかのように林は
「永遠なんて何処にもないんだろう」
というフレーズ部分で
「永遠なんてなくていい!今この瞬間だけあればいい!」
と叫ぶ。その瞬間が積み重なっていくことが人生になっていくということをこのバンドの音楽は感じさせてくれる。
そんなトラブルもあったこの日のライブの最後に演奏されたのは、
「親友に向けて書いた曲!」
と言って演奏された、穏やかなサウンドとリズムによる「君は僕のともだち」。
「誰かと結婚しても
誰かのママになっても
歳をとっても君は
僕の友だち」
というフレーズは、そのまま林やこのバンドのメンバーに当てはまる。つまり結婚していても、これから先に母親になったとしても、我々にとってはHump Backの友だちという関係性ではないけれど、ロックスターであり続けてくれるはず。それくらいにずっと変わることはないというか、むしろバンドもメンバーそれぞれもより強くなっているような感覚すらあるなと思うような、久しぶりのHump Backのライブハウスでのライブだった。
そんなことを思いながら、アンコールでメンバーが再び登場すると、100%キャパになったことによってライブハウスも少しずつ前に進んできている実感を口にしながら、
「今日、意外な曲や懐かしい曲が多かったやろ?
「hanamuke」がリリースされてから5年経ったから」
と、この日のセトリに「hanamuke」の収録曲が多く並んだ理由を口にすると、
「「hanamuke」を持ってる人ってどのくらいいる?」
と聞き、たくさんの人が手を挙げる。その光景を見た林は
「えー!めっちゃ嬉しいー!」
と本当に素直なリアクションを口にしていた。それは本編のMCでの「形のないものを形にしたくて」という言葉が、我々が手に取って大事にすることができるCDという形態を選んでいることを実感させてくれる。ちゃんと理由があった上でCDのリリースにこだわっているということだ。
そんなこの日フィーチャーされた「hanamuke」の中でこの日演奏されていない「ボーイズ・ドント・クライ」のタイトルを観客が口にした。それを聞いたメンバーは
「今日セトリに入れてないねんな〜」
と言っていたが、すぐさま目を合わせるようにしてから林がギターを鳴らし始めると、そのまま「ボーイズ・ドント・クライ」を演奏し始めた。セトリに入ってなくてもこうしてすぐに曲を演奏することができる。機材も必要なければ譜面も練習も、演出もなくてもいい。そんな姿こそがライブハウスで生きるバンドそのものだと思った。それこそがHump Backというバンドのカッコよさそのものであるというか。
「特別やで?」
と演奏した後にさらっと言うのも含めて、なんてカッコいいバンドなんだろうかと思った。少し、昔ミュージックステーションに出演した時にアクシデントによって急遽追加で曲を演奏した、ミッシェル・ガン・エレファントのカッコよさを思い出していた。
そんな3人が次に演奏するのはこうしてツアーで各地のライブハウスを巡っていくことを歌った「僕らは今日も車の中」なのであるが、穏やかなサウンドだからこそ一語一句しっかり聞き取れる歌詞の中に
「セットリストはそのままで」
というフレーズがあるのは、セトリを急遽追加した直後だからこそ少しクスッと笑えるというか、ニヤッとしてしまうかのような。きっとこれからもそうやっていろんな場所でこの日でしかないライブをやり続けてこのバンドは生きていくんだろうなと思った。
そんな大団円にふさわしい曲を演奏してもまだライブは終わらない。最後にトドメとばかりに演奏されたのは「番狂わせ」で、まだこんな最大級のキラーチューンが残っていたということに改めて驚かされるのであるが、ぴかは上手側まで走って行ってぴょんぴょん飛び跳ねながらベースを弾く。その表情も姿も、こうしてライブハウスに立っていることが生きている喜びを最も感じらんだろうなと思わせてくれる。だからこそどこかサビの
「イエス!」
のコーラスの声量も大きく感じる。そんな全てを踏まえても、自分の方が少し年上だけれどもこのバンドのように、
「おもろい大人になりたいわ」
と思うし、こうしてライブに行っても行っても足らんくらいに、しょうもない大人になりたいわって思う。そんな人生における番狂わせがきっと客席にいた若い人の中で起こっている。
Hump Backのライブハウスでのワンマンは、もっとライブハウスを、ライブそのものを好きにさせてくれる。昨年の、意識せずともやはり特別なものだった武道館ワンマンとは全く違うけれど、でもやっぱりこの日だけの特別なライブだった。それを毎日全国のどこかでやっているHump Backは本当にとんでもない、そしてどんな感情よりも先に「かっけぇ…」と思えるバンドだ。
1.Lilly
2.高速道路にて
3.恋をしよう
4.しょうもない
5.宣誓
6.生きて行く
7.嫌になる
8.ヘイベビ
9.犬猫人間
10.ゆれる
11.サーカス
12.閃光
13.卒業
14.オレンジ
15.がらくた讃歌
16.ティーンエイジサンセット
17.僕らの時代
18.拝啓、少年よ
19.きれいなもの
20.星丘公園
21.君は僕のともだち
encore
22.ボーイズ・ドント・クライ
23.僕らは今日も車の中
24.番狂わせ
当たり前にチケットソールドアウト、立ち位置指定なしのDiverCityの客席は超満員の中、18時になるとおなじみのハナレグミのSEでメンバーが登場。ステージ背面にはバンドのロゴが張られているだけという、シンプル極まりないけれどいつも通りとしか言えない中でこの日もジャケットに赤いパンツという出で立ちの色合いが鮮やかな林萌々子(ボーカル&ギター)がギターを持って弾き語りのようにして
「明日が怖くなるほどに 君が君が美しかった
夜を越え朝迎え 君に会えたらそれでいいや」
とサビを歌い上げ、ギターを高く掲げてから髪の緑色の混じりっぷり率が高くなっているぴか(ベース)と、いつもと何ら変わらないように見える美咲(ドラム)のリズムが重なって「Lilly」からスタート。このオープニングのアレンジで超満員の観客がすでに完全に心を掴まれているのはやはり林の歌声の伸びやかさと声量の大きさによるものだろう。ライブハウスで生きてきた、これからもそこで生きていくバンドであるけれど、そのスケールを圧倒的に超えている。逆にその声とバンドのパフォーマンスによって、ライブハウスはこんなに凄いものが見れる場所なんだと思える。
「行けるとこまで行こうぜ!かっ飛ばせ!」
と言って早くも林がギターを抱えて下手側にジャンプするように衝動を炸裂させて演奏されたのは懐かしの「高速道路にて」という意外な選曲。しかし今音源で聴くと少し頼りない感じもしてしまうような初期の頃の曲すらも実に力強く鳴らされているというのはバンドの成長であり、それはやはりライブをやりまくってきたことによって得られたものだ。その演奏する姿と音の激しさはこの曲が収録された「hanamuke」がリリースされた5年前では想像出来なかったものであるだけに実に感慨深くなるが、それが特に記念碑的なライブでもない、ツアーの途中の1本のライブで感じられるというのが今のHump Backのライブの強さである。
「恋してる人おる?」
と林が観客に問いかけると、そこそこの数の観客が手を挙げ、その挙げた人を林が指差して
「恋をしてる、あなたのための歌」
と言って演奏されたのはもちろん「恋をしよう」であり、ここまでの2曲よりもギターの音の隙間を生かした、蒼さと甘酸っぱさを否応なしに感じさせるこの曲はどこかポップな感触を持った曲であるが、それは
「どうか僕に任せておくれよ」
というフレーズ部分などのメロディーのフックの強さによってそう感じるのかもしれないし、手を挙げた人たちはまさに自身の日々の生活のテーマとしてこの曲を聴いているのかもしれないとも思う。
そんな序盤によって始まった今回のツアーは「AGE OF LOVE」のリリースによるものであり、その収録曲の中で最初に披露されたのは曲中にダブ的なリズムが取り入れられるという明らかにバンドにとっては新境地に果敢に挑んだ「しょうもない」なのだが、曲後半ではそんなダブのフレーズを忘れてしまうくらいに美咲のドラムが一気に高速化&激しくなって、もはやパンクと言っていいくらいのものになる。そのビートに乗る林のボーカルもぴかのコーラスもとにかくその勢いに乗っかっていくというくらいに思いっきり声を張り上げるものになっており、この曲はこうしてライブで見ることで真価に気付くというか、むしろライブでこそ真価を発揮する曲だと言える。もしかしたらメンバーにはライブでこうした演奏をするイメージが始めから見えていたのかもしれない。
そんなパンクなビートはすぐさま曲間なく「宣誓」に繋がっていき、林は歌いながら口をマイクに押し付けるようにしてマイクスタンドをぐるっと動かすというテクニックで客席にさらに近づいて歌う。「しょうもない」の後半のパンクなビートをそのまま引き継いでいるだけに、元からパンク成分の強いこの曲がさらにパンクさを感じさせるものになっている。紛れもなくこの前半で感じたこの日のライブのイメージは「パンクだな〜」というものだった。
そんなすでに怒涛の前半でようやく一息つくようにして林は
「よく来たな〜。っていうかそりゃあ来るよな。ライブハウスより楽しいものなんかそうそうないもんな!」
と挨拶すらもさらにバンドと我々のテンションを上げるためのものとしてギターを鳴らしながら「生きて行く」を歌い始め、ぴかはおなじみのぴょんぴょんと飛び跳ねながら演奏するのであるが、ワンコーラス目で客席からは少し手拍子が起こっていた。それを見たのかはわからないが林は2コーラス目ですぐさま本来の歌詞を吹っ飛ばすようにして、
「周りがやってるからとか、そんなことここでは一切気にしなくていい!ただただ自分から湧き上がってくるものに任せろ!」
と叫ぶ。そう言われるまでもなくこのバンドのライブを見ていると勝手に拳が上がってしまうのであるが、それが林の言う通りに自分の中から湧き上がってきているものであることがわかる。その感覚こそがライブハウスでロックバンドを見ているというものだからこそ、このバンドのライブを見るのが好きなのだ。それはやっぱりワンマンのライブハウスが最も強く感じられるものだなということもこの日のシチュエーションが実感させてくれる。
「久しぶりにやる曲」
と言って演奏された「嫌になる」は2016年の「夜になったら」収録曲というトップクラスに歴史を持っている曲であるが、やはりバンドの演奏(特に最後のサビのリズムだけになる部分の美咲のドラム)も林の歌唱も音源とは比べ物にならないくらいに力強くなっているが、サビの
「あぁ 嫌になっちゃうな
でもこんなのも たまには悪くないよな」
という歌詞は今もHump Backがリリースしている曲(新作なら「しょうもない」)に通じる人間の抱える感情を描いたものだ。生きていて楽しいことばかりではないし、かといって死にたくなるくらいにキツいことがあるわけでもない。そんなある意味では平凡とも言えるような毎日を生きていくためのロック。それもまたこのバンドが歌い続けてきたことである。
「プロポーズするように作りましたー!」
と林が叫んでから
「僕の歌を聴いて 恥ずかしいけど君の歌だよ
そしたら君は困った顔をする」
と歌う「ヘイベビ」は林が結婚したことを公表したことによって、自身の経験や体験をそのまま歌詞にした曲なんだなということがわかるし、特に近年は恋愛に限らずにそう感じる歌詞の曲が増えているのは、そうした歌詞だからこそ自分の感情を余すことなく乗せることができるからでもあるのだろう。髪が少し短くなったこともあってか、林はありとあらゆる意味でイケメンだなと思う。それはつまりカッコいい人間だなということである。
そんな林のかつての体験や経験が
「ミニストップよりセブンが好き
元バイト先」
というリアル過ぎる歌詞として現れているのが新作の「犬猫人間」であり、そのフレーズもそうだが林の単語の選び方と乗せ方、さらには韻の踏み方に至るまで、林の作家性の凄まじさが炸裂している曲だ。自分は完全に猫派だが、かつて林が飼っていた犬のことを歌った「ぎんのうた」という曲もあるだけにHump Backのメンバーは犬派というイメージが強い。実際にこの曲も猫を従える人という歌詞の内容になっている。
「今でもこの曲を歌うと当時のことを思い出す。凄く楽しかったけれど、すごく辛い別れもあった」
と林が回想するようにして演奏されたのは「hanamuke」の最後に収録されている「ゆれる」。
「悲しみはときに優しいものなのね
幸せはときに苦しいものなのね」
と、まさに悲しくも幸せでもあったであろうかつての自身の状況をそのまま描いたであろうこの曲を、今のバンドの強さで吹き飛ばすようにして音が鳴らされる。どちらかというと浸る曲というイメージがあったけれど、こうして今ライブで聴くと全く違う、そうした過去を忘れることなく前に進んでいくための曲に聞こえる。それは詳細な体験としては人それぞれだけれど、誰もがこの日までそうして生きてきたからこそ強い説得力を感じさせるように胸に沁み入るのだ。
続く「サーカス」もまた「hanamuke」収録曲であるのだが、この曲の持つ焦燥や寂寞といったイメージやマイナーなサウンドは今のHump Backとはまた少し違うというか、決して今のように少年少女に向けて歌っているというような曲ではない。ただただその当時の自分たちの心象を
「終わりの見えない夜にいつも僕たちは
クダラナイ小さな嘘に踊らされてるんだ
どこでも行けると信じた夜に僕たちは
泡色の車に乗って
空泳ぐクジラに願うんだ」
と描いている。その歌詞に宿る感情はきっと今の少年少女が抱えるリアルなものだろうし、バンドは後にこの歌詞に連なるような「クジラ」という曲を全く違う突き抜けるようなサウンドの曲として生み出している。今とは違うようでいて、確かに今のHump Backに繋がっているというのが曲と曲を繋ぐアレンジからも伝わってくる。だから今でも今のHump Backの音楽として響くのだ。
そんな懐かしい曲を演奏しながらもぴかは他の2人に最近不満があるようで、このツアーでこの日の前に上越と福井をTHE 2と回った際に、かつてスペシャ列伝ツアーを一緒に回り、その時には結構無茶な打ち上げをやっていたのを今でも忘れられないぴかは初日は「23時に閉まる風呂屋に行きたいから」という理由で去られた古舘佑太郎を2日目に強引に呼んで打ち上げを行ったらしいが、林と美咲が勝手に先に帰っていたのがお気に召さない様子。
しかし林が
「早く帰りたいな〜ってずっと思ってた(笑)」
と言うと美咲も、
「ぴかちゃんがドリンク取りに行ってる時にみんな「早く帰りたい」って言ってたで(笑)」
という衝撃の事実を明かし、ぴかは凹んでいた。酔っ払うと噛み癖があるというだけにメンバーたちはぴかの酒癖の悪さをわかっているのかもしれないが、そんな部分も含めてHump Backの打ち上げは実に楽しそうだ。林は古舘佑太郎が無言恐怖症なのか、
「萌々ちゃん、最近何してるの!?」
的などうでもいいことばかり話しかけてくるのが帰りたい要因だったという。実に意外な古舘の一面である。
そんなワンマンならではのぴかのMCの微妙な空気をぶった切るように鳴らされたのは
「最高速度で行こうぜー!」
と言って鳴らされた「閃光」。
「ねぇ こんな夜は会いに行くよ 君の元へ
笑えなくなるよ 止まりはしないぜ 最高速度」
というフレーズはまさに今こうして我々の前に来てライブをしているということを示すかのようなものであるが、そんな意思を感じられる曲だからこそ林のボーカルもバンドの演奏もより一層伸びやかに聞こえてくる。
そんなボーカルを響かせた林が
「幸せになりまーす!」
と叫んでから演奏されたのはこちらも「hanamuke」収録の「卒業」。どこかそのタイトル通りの別れの切なさを感じさせるようなサウンドに乗る
「愛しい人よ 戻らぬ日々よ
明日にはさよならなんだ」
というフレーズは過去の恋人たちや好きな人との思い出を忘れることなく、でもこれからは今一緒にいる人と生きていくということの宣誓のようであった。そうした過去からの卒業ということを歌うことによって、この曲は学生だけではなく誰しもに当てはまる卒業ソングになっている。
そうして曲に込める思いが強くなっていくことによってバンドの演奏はさらに熱くなっていく。それを感じさせるのは美咲のドラムの連打によるイントロからして今のこのバンドの力強さと逞しさを感じざるを得ない「オレンジ」であり、林は歌いながらマイクスタンドを自らぶっ倒すようにするも、代わりに使おうとしたぴかのマイクスタンドではぴかが絶賛コーラス中ということで行き場がなくなってその場でジャンプしまくり、最終的にはスタッフが戻した自身のマイクスタンドで歌うことに。その姿には「ここでこうしてやろう」的な作為は全く感じられない。むしろ結果的にこのタイミングでそうなったというような。それがこのバンドから感じるロックの衝動であるし、それは「hanamuke」のリリース時よりも間違いなくさらに強くなっている。
「僕らは「AGE OF LOVE」というCDを出したのさ。形ないものを形にしたくてCDを出して、サブスクや配信は今のところやってないぜ。時代や流行りにあわせるのも大事だっていうのはわかってるけど」
と、林がギターを弾きながら語り始めたのは「AGE OF LOVE」だけではなく「hanamuke」も含めて自分たちの作品を手に取って愛してくれている人へ向けたメッセージであろうけれど、
「何回生まれ変わっても僕に産まれさせておくれ。何回だってHump Backのボーカルをやりたいんだ。人間じゃないのならば犬でも猫でもいいから、Hump Backに出会わせておくれ。
死んだら全て終わりにできるっていうのもわかるけど、生きてるからできることもあるんだぜ。生きてさえいれば、大体どうにかなるぜ。僕は僕たちの音楽が好きな人にずっと生きていて欲しいのさ」
と続ける。ここにいた人からしたらそれは何よりも大きな自身の生への肯定であろう。こんなにカッコいい人が自分に「生きていて欲しい」と言ってくれているのだから。自分は死にたい的な感情を全く持っていないけれど、少しでもそう思ってしまうことがある少年少女にこの言葉とこのバンドの音楽が届いて欲しいと思う。それが他のどんなものよりもそう思ってしまう自分自身のことを抱きしめてくれるから。
そんな思いを曲にしたのが「AGE OF LOVE」のリード曲である「がらくた讃歌」であり、
「忘れないでいて 少年少女よ 命あるだけで
素晴らしいんだ 美しいんだ oh yeah
大体なんでもなんとかなるぜ」
というフレーズはまさに先ほどの言葉と全く同じことを歌っている。それはファルセットを含めた林のボーカルの表現力がさらに向上しているからこそ説得力を感じさせるのであり、思考がそのまま曲になっているからそう感じるものでもある。
「愛し合っていて 愛し合っていて」
というフレーズをボーカルのみで歌う部分なんかは本当にこの瞬間が何よりも美しいものに思えるのだ。
そして美咲の入りのドラムロールが驚くくらいの迫力をもって響くようになっている「ティーンエイジサンセット」の
「スリーコード エイトビートに乗って
僕らの歌よ どうか突き抜けておくれよ」
のフレーズがこのバンドの音楽性だけでなく生き様までをも1行で言い当てながら、最後のサビ前の「yeah」と叫ぶ部分では林もぴかも振り切れるように音程なんかよりもとにかく声量と衝動が第一だと言わんばかりに声を張り上げる。そうして突入していく最後のサビから衝動を感じないわけがない。前半で感じたこのバンドのパンクさはこの後半においてさらに強く感じられる。それはサウンドだけではなく人間から感じられるパンクだからだ。
そのパンクさがよりサウンドとして現れるのは、生粋のライブバンドであるだけに「AGE OF LOVE」リリース前からライブで演奏しまくっていた、ツービートにメンバー全員のボーカルが重なる「僕らの時代」であるのだが、間奏のメンバーそれぞれのソロ回しでは林がぴかと美咲を、ぴかが林を「人妻」と紹介する。そんな紹介あるのか、とも思うけれど、「人妻」というワードからはどうしてもどこか「めちゃ大人」というイメージを抱いてしまいがちであるが、そんな人妻であるこのバンドのメンバーたちがこんなにも少年少女のままで音楽を鳴らし続けている。それはどんなに歳を重ねても誰もが精神は少年少女のままでいることができるということを示してくれているかのようだ。
そんな少年少女に歌うという意識が固まった曲だと思っているのが「拝啓、少年よ」であるのだが、
「ああ もう泣かないで」
と歌いながらもきっと客席では泣いていた人もたくさんいたはずだ。でもそれは弱くて泣いていたんじゃなくて、このバンドのロックバンドとしての、人間としてのカッコ良さによって出てきてしまった涙であろう。ぴかも頭をガンガン振り乱しながらベースを弾き、そのアクションは後半になるにつれてさらに激しくなってきている。
そんなここからアッパーに攻めまくるような形でクライマックスに向かうのかと思いきや、ここで演奏されたのは「きれいなもの」というバラード曲。よくあるライブ中盤に演奏するんじゃなくて、こうしてクライマックスに持ってくることによって照明もサウンドも含めて何もかもシンプルなこの曲がライブが終わった後も強く印象に残るし、それは「拝啓、少年よ」の
「ああ もう泣かないで」
というフレーズと続くように
「君のかわいい 小さな小さな目から
ぽつりと 涙がこぼれたよ」
というフレーズが歌われるからでもある。何よりも林の歌唱、とくに
「とても綺麗だったんだ」
というサビ最後のフレーズでの歌声こそが、綺麗だったんだと思えるからでもある。
そんな「涙」という単語は
「君が泣いた夜に ロックンロールは死んでしまった」
と林が弾き語りのように歌い始める「星丘公園」へと続く。むしろ少年期よりも今の方がライブや音楽に触れて涙が出ることが多くなったように自分自身で感じているけれど、それでもHump Backの曲に出てくる「涙」や「泣いた」というフレーズは過去のそうした経験に思いを馳せさせる…と思っていたらぴかが演奏をミスったのか(聴いててもわからないくらいだったけど)、思いっきり素で
「すいません」
と口にしたのがマイクに拾われていて笑ってしまった。どうやらそれは先ほどの打ち上げでメンバーみんなが帰りたいと思っていたのを引きずっていたことで出てしまったらしいが、それをカバーするかのように林は
「永遠なんて何処にもないんだろう」
というフレーズ部分で
「永遠なんてなくていい!今この瞬間だけあればいい!」
と叫ぶ。その瞬間が積み重なっていくことが人生になっていくということをこのバンドの音楽は感じさせてくれる。
そんなトラブルもあったこの日のライブの最後に演奏されたのは、
「親友に向けて書いた曲!」
と言って演奏された、穏やかなサウンドとリズムによる「君は僕のともだち」。
「誰かと結婚しても
誰かのママになっても
歳をとっても君は
僕の友だち」
というフレーズは、そのまま林やこのバンドのメンバーに当てはまる。つまり結婚していても、これから先に母親になったとしても、我々にとってはHump Backの友だちという関係性ではないけれど、ロックスターであり続けてくれるはず。それくらいにずっと変わることはないというか、むしろバンドもメンバーそれぞれもより強くなっているような感覚すらあるなと思うような、久しぶりのHump Backのライブハウスでのライブだった。
そんなことを思いながら、アンコールでメンバーが再び登場すると、100%キャパになったことによってライブハウスも少しずつ前に進んできている実感を口にしながら、
「今日、意外な曲や懐かしい曲が多かったやろ?
「hanamuke」がリリースされてから5年経ったから」
と、この日のセトリに「hanamuke」の収録曲が多く並んだ理由を口にすると、
「「hanamuke」を持ってる人ってどのくらいいる?」
と聞き、たくさんの人が手を挙げる。その光景を見た林は
「えー!めっちゃ嬉しいー!」
と本当に素直なリアクションを口にしていた。それは本編のMCでの「形のないものを形にしたくて」という言葉が、我々が手に取って大事にすることができるCDという形態を選んでいることを実感させてくれる。ちゃんと理由があった上でCDのリリースにこだわっているということだ。
そんなこの日フィーチャーされた「hanamuke」の中でこの日演奏されていない「ボーイズ・ドント・クライ」のタイトルを観客が口にした。それを聞いたメンバーは
「今日セトリに入れてないねんな〜」
と言っていたが、すぐさま目を合わせるようにしてから林がギターを鳴らし始めると、そのまま「ボーイズ・ドント・クライ」を演奏し始めた。セトリに入ってなくてもこうしてすぐに曲を演奏することができる。機材も必要なければ譜面も練習も、演出もなくてもいい。そんな姿こそがライブハウスで生きるバンドそのものだと思った。それこそがHump Backというバンドのカッコよさそのものであるというか。
「特別やで?」
と演奏した後にさらっと言うのも含めて、なんてカッコいいバンドなんだろうかと思った。少し、昔ミュージックステーションに出演した時にアクシデントによって急遽追加で曲を演奏した、ミッシェル・ガン・エレファントのカッコよさを思い出していた。
そんな3人が次に演奏するのはこうしてツアーで各地のライブハウスを巡っていくことを歌った「僕らは今日も車の中」なのであるが、穏やかなサウンドだからこそ一語一句しっかり聞き取れる歌詞の中に
「セットリストはそのままで」
というフレーズがあるのは、セトリを急遽追加した直後だからこそ少しクスッと笑えるというか、ニヤッとしてしまうかのような。きっとこれからもそうやっていろんな場所でこの日でしかないライブをやり続けてこのバンドは生きていくんだろうなと思った。
そんな大団円にふさわしい曲を演奏してもまだライブは終わらない。最後にトドメとばかりに演奏されたのは「番狂わせ」で、まだこんな最大級のキラーチューンが残っていたということに改めて驚かされるのであるが、ぴかは上手側まで走って行ってぴょんぴょん飛び跳ねながらベースを弾く。その表情も姿も、こうしてライブハウスに立っていることが生きている喜びを最も感じらんだろうなと思わせてくれる。だからこそどこかサビの
「イエス!」
のコーラスの声量も大きく感じる。そんな全てを踏まえても、自分の方が少し年上だけれどもこのバンドのように、
「おもろい大人になりたいわ」
と思うし、こうしてライブに行っても行っても足らんくらいに、しょうもない大人になりたいわって思う。そんな人生における番狂わせがきっと客席にいた若い人の中で起こっている。
Hump Backのライブハウスでのワンマンは、もっとライブハウスを、ライブそのものを好きにさせてくれる。昨年の、意識せずともやはり特別なものだった武道館ワンマンとは全く違うけれど、でもやっぱりこの日だけの特別なライブだった。それを毎日全国のどこかでやっているHump Backは本当にとんでもない、そしてどんな感情よりも先に「かっけぇ…」と思えるバンドだ。
1.Lilly
2.高速道路にて
3.恋をしよう
4.しょうもない
5.宣誓
6.生きて行く
7.嫌になる
8.ヘイベビ
9.犬猫人間
10.ゆれる
11.サーカス
12.閃光
13.卒業
14.オレンジ
15.がらくた讃歌
16.ティーンエイジサンセット
17.僕らの時代
18.拝啓、少年よ
19.きれいなもの
20.星丘公園
21.君は僕のともだち
encore
22.ボーイズ・ドント・クライ
23.僕らは今日も車の中
24.番狂わせ