Mrs. GREEN APPLE Zepp Tour 2022 ゼンジン未到とリアライアンス 〜復誦編〜 @Zepp Haneda 11/15
- 2022/11/15
- 18:43
2020年2月という、「なんかコロナウイルスってのが出てきてるらしい」くらいの感じだった、ライブが開催できていたギリギリの時期に完遂されたアリーナツアー「エデンの園」をもってMrs. GREEN APPLEはPHASE 2に向けた充電期間に入った。
その期間にはバンド時代とはイメージもサウンドもガラッと変えた大森元貴(ボーカル&ギター)のソロ活動も話題になったが、PHASE 2開幕を待つ昨年の年末に飛び込んできた、高野清宗と山中綾華の脱退という信じられないニュース。それすらを超えて3人で帰還したミセスは春にミニアルバム「Unity」を、先日にはニューシングル「Soranji」をリリース。すでに7月には復活ワンマンをぴあアリーナで行い、自分が久しぶりにミセスのライブを見れたサマソニを始めとした各地のフェスにも出演していたが、そんな状態でのミセスの久しぶりのツアーは意外にも初となるZepp Tour。確かに1stアルバムで赤坂BLITZ、2ndアルバムではTOKYO DOME CITY HALLと恐るべき速さで会場の規模が大きくなっていたなということも思い出す。
「これ100%超えてんじゃない?」と思うくらいの超満員という言葉ですら足りないくらいの熱気に満ちたZepp Hanedaはやはり若い人がほとんどであり、かつて「Speaking」のシングルリリース時だったか、渋谷WWWでワンマンを行った際にドリンクバーでアルコールを頼んでいた人が全くいないくらいに客層が若かった(というかほぼ10代の中に紛れ込んでしまった感すらあった)ことも思い出す中、BGMが途切れるとついに始まるか、という空気になるのだがなかなか始まらない中、19時過ぎになると場内が暗転してメンバーがステージに現れる。サポートメンバーとしてドラマーのクラカズヒデユキ(ex.赤色のグリッター)、ベーシストの森夏彦(THE 2)を含めたバンド編成であるというのはフェスなどと変わらないものである。
赤い上着にラメが輝く黒いパンツを履いた大森がフッと息を吸い込むようにして歌い始めたのは、タイトル通りに青い照明がメンバーを照らす「藍」。確かにPHASE 1でも以外なくらいにフェスなどでもよく演奏されていた曲であるが、新体制になって新作も次々にリリースされている中で今のミセスがこの曲からスタートするとは全く想像していなかった。大森が「ジャンプ!」と観客をいきなり飛び跳ねさせまくる中、フォーマルな出で立ちの若井滉斗(ギター)のテクニカルなフレーズも健在であるが、やはりリズム隊が変わったことによって特にドラムのアタック感がかつて聴いていたこの曲よりも強くなったようなイメージだ。さすがに最初の曲だからか、ギターを弾きながら歌う大森はまだ自身の声を制御し切れていないような感じもあったのだが、初めてのZepp Hanedaでのライブということで緊張感があったりもしたのだろうか。
そんな「藍」での青い照明が黄色と白を基調にした、まさに光と呼べるようなものへと変化するのはシングル「僕のこと」のカップリング曲である「灯火」というレアな選曲であるが、そもそもミセスは「カップリングになんでこんな曲入れるの!?せめて両A面にすればいいのに!」と思ってしまうくらいに出し惜しみせずに名曲を収録しまくってきたバンドであり、そうした曲たちをワンマンでこうやって鳴らしてきたバンドであることを思い出させる。若井とは対称的にラフな服装で髪がかなり伸びた藤澤涼架(キーボード)がステージ上では元気良く腕を上げたりして観客を煽るようにする姿はかつてと全く変わることはないが、思った以上に今のミセスのライブがロックバンドであることを感じさせるようなオープニングである。
そんな「ロックバンドであること」をPHASE 2に入ってすぐに感じさせたのは「ニュー・マイ・ノーマル」であり、実にミセスらしい解放感に溢れた、一聴しただけで素晴らしい曲だとわかるようなキャッチーなメロディーが瞬時に場内を支配していく。遠めの位置だったのではっきりとは見えなかったが、歌っている大森の目元が光っていたのは顔にもラメ的なものをつけていたのだろうか。その大森も藤澤も若井も溢れんばかりの笑顔を見せながら飛び切りキャッチーなこの曲を演奏することによって、客席にも楽しいという感情が溢れてたくさんの腕が上がる。大森の歌唱も実に伸びやかになってきている。というかそうでないと歌うことができない曲であるが、そんな曲を聴いて、その曲を演奏するメンバーの姿を見ているだけで心が弾むような感覚になる。それはずっと変わることのないミセスのライブの持つ力である。そう、この段階で自分はミセスがバンドの本質が全く変わっていないということに気付き始めていた。
「この曲では特別なことがあります!」
とハンドマイクになった大森が言うと、「CHEERS」のイントロ煌びやかな同期のサウンドに合わせてステージ上が無数のミラーボールに照らされて輝く。その演出が特別なことかと思ったのだが、それはなんと
「この曲の演奏中は写真撮影オッケーです!動画はダメだけどね!写真だけね!」
と、まさかの写真撮影許可タイムとなり、客席からはたくさんのスマホが掲げられる。Aメロでギターを弾かない間はずっと親指を突き出して動かないという撮られるためのポーズを取っていた若井の姿もシュールで面白かったが、後半では藤澤が逆に自身のスマホで客席の様子を撮影するという逆転現象が起きているのもまた面白い。何よりも客席ではずっと写真を撮りまくっているのではなくて、数枚撮影したらスマホをしまって曲に合わせて飛び跳ねたりしていた人ばかりだったのが印象的だった。みんな写真を撮りたい気持ちはありながらも、それ以上に今目の前のライブを楽しもうとしているのが伝わってくるかのような。
そんな楽しみ尽くしたい我々もまだ声を出すことはできないために、メンバーによる勇壮なコーラスの「How-to」では大森がコーラスパートの前に
「心の中で!」
と言って心の合唱をさせる。まだ活動再開してからサマソニのライブしか観れていないけれども、こうして声を出せないライブが当たり前になってきたようでいて、ミセスのライブで一緒に歌うことができないというのは凄く違和感があることなんだなと感じた。それくらいにこうした曲のコーラスで一緒に歌うのが当たり前のことだったということであり、それがどんどん巨大なものになっていくのを目の当たりにしてきたのだ。
すると曲間ではジャジーとも言えるような演奏が展開され、そこに青い照明が当たることによって、「「Unity」収録の「ブルーアンビエンス」はライブだとこんなアレンジのイントロが追加されるのか」なんて予想をしていたのだが、大森がギターを掻き鳴らした瞬間に照明が真っ赤に転換し、一気にラウドとも言えるような激しいバンドサウンドの「インフェルノ」に突入していくというライブアレンジが我々を心地良く裏切ってくれるあたりは実にミセスらしい高い技術を駆使した遊び心である。とはいえアニメタイアップとしてミセスの名をさらに広く世に知らしめたこの曲の
「永遠は無いんだと 無いんだと云フ
それもまたイイねと笑ってみる
輝けばいつかは光も絶える
僕らは命の火が消えるその日まで歩いてゆく」
というフレーズはまるでこの曲をリリースしてから今に至るまでのミセスの軌跡を言い当てているかのようだ。バンドには永遠なんてなかったんだということを我々は改めて痛感させられたからである。
そんな「インフェルノ」で燃え上がったギターロックとしてのミセスが続くのは、同期で流してもいるであろうコーラスが響くとやはり大森が
「心の中で!」
と声に出さない合唱を促す「No.7」。ちゃんと7曲目に持ってくるあたりの遊び心もミセスらしいが、実に久しぶりにライブで聴く感じがするこの曲では後半のまるで音頭のようなリズムになるアレンジも今でもそのまま演奏されて観客はそのリズムに合わせて手を叩き、大森はコーラスフレーズを歌いながらマイクの前を横切ったりすることによってコーラスが途切れ途切れに聞こえてくるというパフォーマンス面での遊び心も存分に発揮するという無邪気さもやはり変わらないミセスらしさを感じさせる。もう20代後半という年齢になってきているけれど、その少年のような無邪気さは初めてライブを見た時のまだ若井が高校生だった頃から変わっていない気さえする。
そんなミセスはこの日がツアー3本目というまだまだ序盤であるのだが大森は
「もうすっかり終わりが見えてきて…」
とおどけるあたりも実に大森らしいし、メンバー紹介時に若井をひたすら「岩井」と呼んで「若井な!」と突っ込まれたり、
「サポートメンバーを紹介します!」
と言ってリズム隊の2人を紹介するのかと思ったら藤澤をサポートメンバーとして紹介したりという悪戯っぷりはやはり変わることはない。
そうしてサポートメンバーも紹介してから演奏された「soFt-dRink」の爽やかなポップサウンドが、やはりミセスは何歳になってもビールなどのアルコールよりもジュースが似合うよなと思うし、それは客席にいるバンドのグッズを纏ったファンもそうだ。それは「CHEERS」のフレーズでもそうだが、ミセスのライブや音楽はアルコールの力を借りずとも最大限に楽しめるというような。だからこそこの日はドリンクにアルコールがなかったのかもしれない。ビールを飲もうとしていた自分はメニューを見て面食らってしまったけれども。
すると曲間では藤澤がキーボードで美しいメロディを奏でる。しかしこうしてキーボードのみで始まる曲はあったかな?と思っていると、大森はマイクスタンドを握りながら
「涼しい風吹く
青空の匂い
今日はダラッと過ごしてみようか」
と歌い始め、そこで藤澤の弾いたメロディが「青と夏」のものであったことに気付くのであるが、テンポをグッと落としたバラードバージョンと言っていいようなアレンジはオレンジ色の照明が実によくそのテンポとサウンドに似合っていたように、原曲の青空というよりも夕暮れの空が似合うようなものになっている。それでも最後にはやはり青く透き通るような照明になることによって、今のこのアレンジが過ぎ去った夏を思い返すような今の季節のものであることがわかる。フェスでミセスのライブを見ることができた今年の夏はやっぱり、僕らの夏だったんだなって思うことができるのだから。
そのアレンジから連なるようにすることによって、ミセス屈指の名曲が続編と言えるようにというか、同じテーマやサウンドとして響くようになるのはもちろん「僕のこと」。それはティーンエイジャーの主題歌という共通項があるからこそであるが、大森の歌唱はここにきて、こんなに歌うのが難しい曲になって極まってきている感すらあった。今でこそ圧倒されるような声量と歌唱力を兼ね備えた、選ばれし存在であるかのようなシンガーが次々に世に出現しているが、ミセスのライブを初めて見た時に大森の歌声にその感覚を抱いたことを思い出した。当たり前に聴く存在になったけれど、久しぶりにこうしてワンマンを見るとその当たり前さがとんでもなく凄まじいものだったということを実感させられる。真っ白い光に照らされることによって、サビで手を広げるようにして歌う姿はもはや歌の天使と言えるかのような神々しさすらあった。
そんな大森が自身の歌唱の絶好調さを示すように
「さぁ、」
と誰しもが聴きたくてたまらないであろう曲のフレーズをまだ誰も準備ができてない曲間にいきなり口ずさむことによって、
若井「今のはなんですか?」
大森「「さぁ、」ですよ」
という意味不明なやり取りが繰り広げられると、
大森「皆さん、ONE PIECEの映画は見ましたか?」
と問いかけてたくさんの(ほぼ全員と言っていいレベル)腕が上がり、中には2回見たという人も結構いた。そうして問いかけたメンバーも2回見ているらしく、初回は3人で観に行き、2回目はサポートの2人も含めて5人で観に行ったという。そんなエピソードからも今のミセスの関係性の良さが感じられるし、だからこそライブがこんなに楽しいものになっているのだということもわかる。
すると大森が藤澤に
「涼ちゃん、どう?」
と無茶振りしてその「私は最強」の歌い出しを歌わせるのであるが、藤澤が見事なまでにしっかりハイトーン部分まで出して歌い切れたことに盛大な拍手が起こる。さすがは大森のボーカルにコーラスを重ねている男であるし、そこからは藤澤がコーラスなどの歌唱も弛まぬ努力を重ねていることを感じられるのだが、何故かさらに森に無茶振りすると案の定声がひっくり返りまくるのであるが、むしろそうなるのが普通である。
そんな曲を「じゃあ本家が」と言ってやはり完璧に歌うことができるのが大森であり、インタビューで「セルフカバーありきで作った」というくらいに映画内でAdoが歌唱しているバージョンを聴いてもミセスの曲でしかないこの曲がセルフカバーされることによってよりバンドサウンドが強く前に出たバランスになっている。それもまた大森の歌唱がバンドの演奏に埋もれないくらいに強いからこそできるアレンジであるし、セルフカバーのこの曲からは今のミセスこそ最強だという宣誓のように響く。
自分も今は普段生きていると割とこの曲のようなメンタリティであることが多いのであるが、この曲を聴いているとそんな精神をさらに増強してくれるような感覚になる。きっと自分以外にもこの曲から力を貰ったり、気持ちを奮い立たせたりしている人もたくさんいることだろう。間違いなく2022年の音楽シーンを最も代表する曲である。そんな曲をミセスが生み出したのである。そんなバンドを最強と言わずになんと言おうか。
そんな最強のバンドの強さだけではない温かさを感じさせるのは淡い照明による「Soup」であり、こうした曲がライブで挟まれることによって「私は最強」のような曲がより際立つ部分もあると思うし、メンバーの穏やかな人間性を曲からも演奏からも感じられる。
さらにはPHASE 1の締めくくりとしてリリースされたベスト的なアルバム「5」に収録された生の根源に迫るかのような壮大な「アボイドノート」と、正直言って今演奏されるとは思っていなかった曲が続くのであるが、「Soup」からもそうであるが、こうした曲はきっとホールなりアリーナなり、今までミセスが回ってきた大きな会場ならばそれに見合うような映像などの演出を使っていたことだろうと思う。それが本当にこの日は演奏と照明のみというのは久しぶりのライブハウスツアーだからこそだ。それだけでも充分見ている側を圧倒できるバンドであるということをこれらの曲は示している。
そんなミセスであるだけにそうした広い会場であったならばきっとダンサーがステージに登場していたであろう「ダンスホール」でもやはり煌びやかな照明と若井のカッティングを軸にした、メンバーの演奏のみというストロングスタイル。しかしそこには藤澤と森がイントロからクラップすることによって観客の力も加わっていく。だからこそ
「いつだって大丈夫
この世界はダンスホール
君が居るから愛を知ることがまた出来る
「大好き」を歌える」
というサビの歌詞がこの上ない説得力を感じさせる。大森のフェイクを入れまくる歌唱ももう明らかに歌えすぎているからこそできるものであり、後半になってのさらなる本領発揮感は本当に凄まじい。そのバンドの力は全て我々が感じられる「楽しい」という感情に繋がっている。
そんな中で大森と若井はこの「ゼンジン未到」というツアー名についての説明をしようとするのだが、若井が話そうとすると大森がノリやすいギターの音を鳴らして若井がギターに乗せて曲にして説明しようとするために全く頭に入ってこないというやり取りが繰り広げられるのだが、このタイトルはミセスが自主企画ライブやツアーでずっと掲げてきたもの。自分が2015年の3月に初めて見た、メジャーデビューを発表したミセスの自主企画ライブのタイトルも「ゼンジン未到とプログレス」というものであったことを思い出す。このタイトルを掲げることによってミセスのメンバーも当時一緒にライブをやっていたバンドたちのことを思い出したりしているんだろうか。
そんな自分が初めてライブを見た時にも演奏されていたインディーズ期の「スターダム」が実に7〜8年ぶり(ということはそのライブ以来演奏されていなかった?)に演奏されるのであるが、冴え渡る若井のタッピングなどを聴いていて、ミセスはあの頃からすでにライブの演奏力や完成度が凄まじかったバンドだったということを思い出す。それは「復誦編」というタイトルがついているだけに、新しい形になったことでバンド側も当時の気持ちを思い出そうとしているところもあるのかもしれない。
「時間は刻々と過ぎては去っていくけども
秒針は皆平等らしい」
という人間の真理を1フレーズで表してしまうような歌詞をすでに大森は10代の頃から書いていたということも。
その大森が描く「人間の真理」という歌詞の初期の最高峰と言えるのが大森自身も歌詞の内容的に「歌うのがキツい曲」と昔インタビューで語っていた「Twelve」収録の「パブリック」であるが、そうした歌詞を焦燥的なギターロックサウンドに載せていたのが、「青と夏」同様にこの曲もグッとテンポを落として、藤澤のキーボードの流麗なメロディを軸にしたものに生まれ変わっている。大森の自由自在な節回しの歌唱も含めてどこかジャジーなイメージも感じられるが、今この曲をミセスが鳴らすとしたらこうしたサウンドになるのだろうし、だからこそ
「その度になにかを欲しがって
人は自分の為に傷を負わす
醜いなりに心に宿る
優しさを精一杯に愛そうと
醜さも精一杯に愛そうと」
という歌詞も今こうして歌うことができているのだろう。
しかしながらこうしてライブを見るまでは「スターダム」も、「Twelve」ツアーファイナルの赤坂BLITZなどで聴いてきた「パブリック」も今になってまた聴けるなんて全く思っていなかった。でもこうして今になって復誦することによって、そうしたかつて見てきた素晴らしいライブの光景を思い出すことができる。それはそのまま自分がミセスと一緒に生きてきたということだ。
そんなシリアスに感じざるを得ないような我々の心境を解きほぐすように演奏されたのが、イントロのキメ連発のリズムに合わせて大森と若井を中心にメンバーがポーズを決めるような動きを取る「フロリジナル」。最新シングルのカップリングに収録された、「香り」をテーマにした曲であるが、どこか浮遊感を感じるような同期のサウンドもそうであるが、まさかライブでこんなにくだけた空気で演奏されるなんて思っていなかった。おそらくはタイミング的にも今後そうそうライブで聴けることはなさそうな曲であるだけに実に貴重なものになると思われる。
そんなこの日のライブの最後に演奏されたのは、自分が初めてライブで見た時も本編の最後に演奏されていた「CONFLICT」。クラカズによる激しいドラムの連打によってさらに迫力を増したバンドサウンドに降り注ぐ光のような照明。その真ん中で大森が抜群の声量と伸びやかさをもってして歌う
「いつかどうせ消えて往く
「今迄」の時間は 無駄じゃないと思いたい
だんだんいろんな事も忘れて往く
この今の気持ちだけは 忘れぬように」
という歌詞。それを聴いていて、今もあの頃と変わらないように自分に響いていると思った。あの頃に「今の気持ちだけは忘れぬように」と思ったように、今もそう思うことができている。
PHASE 2への移行宣言とそれに向けた活動休止。大森のソロ活動とリズム隊の脱退。自分から遠ざかっていくんじゃないかと思っていたミセスは今でも自分のすぐ近くにいた。もしかしたらいてくれることを選んだのかもしれないけれど、ミセスは変わってなんかいなかった。その実感を確かに手に入れることができた瞬間だった。
アンコールではツアーグッズに着替えたメンバーがステージに現れると、この日のライブが3本目にして1番あっという間に感じたという感想を語りながら、来年でミセスもついに10周年を迎えることを口にする。だからこそ何かしらのことを考えているらしいのだが、スタジアムなどの巨大な野外ワンマンだったりするのだろうか。今回がなかなか見たくてもチケットが取れない人が多い形だっただけに次はそうしたものになるんじゃないだろうかと思っているのだが。
そうして10周年を控えながらも、
「いつだって、StaRt!」
と言って演奏され、やはり大森が
「心の中で!」
と観客に言いながら自身は思いっきり叫ぶようにして始まったのはメジャーデビュー曲である「StaRt」。その叫びもバンドのサウンドも、カラフルでありながらも渾然一体となって我々に押し寄せてくる感覚は全く変わっていない。それは完璧に揃った
「お手を拝借」
での手拍子も。間奏で大森に合わせて観客が手を波のように動かす仕草も。もしかしたら、この曲をこんなに瑞々しく演奏し続けられていることこそがミセスが変わっていない所以なのかもしれない。若井がギターを抱えて高くジャンプする姿や、若井が藤澤のキーボードセットの中に入って2人で並んで演奏したり、逆に藤澤が演奏しないでステージを端から端まで走り回って観客の方を見る姿からも、今でもバンドとしての衝動を確かに感じさせてくれている。こうやってまた「忘れたくない」が増えていく。
そして最後の曲を演奏する前に大森は今から演奏するその曲が12月に公開される、二宮和也主演映画「ラーゲリより愛を込めて」の主題歌になっていることに触れ、
「先に我々は映画を見させてもらったんですけど、一言で言うと戦争映画。でもそれだけじゃないっていうか。主題歌をやってる、やってない関係なく見て欲しい映画だと思った。特に若い人に見てもらえたらなって思います」
と、率直な感想を口にしたのも自分がその映画によって心が動かされて曲が生まれたからだろう。
その曲、「Soranji」で大森はマイクスタンドを握り締めながら歌い始めるも、途中でマイクをスタンドから外して膝をつくようにして、まさに絶唱と言っていいくらいの歌唱を見せる。あの大森がそこまで魂を込めるようにして歌うくらいの曲。声量が凄い、歌唱力が凄いというだけではなくて、その曲に込めた思いを全て歌にして我々に届けることができる。その歌唱を聴いていて感動しない人が、心が動かない人がいるんだろうか。その瞬間に、「ああ、これだ」って思った。いつだって自分たちの音楽とライブの力で我々の体も心も震わせてくれる。毎回そう感じるのは毎回前回を上回ってきているから。それがMrs. GREEN APPLEというバンドだ。大森がそうした歌が歌えるのも、横に若井と藤澤がいて、この曲では大森にスポットが当たっていたり同期のリズムが使われていても、後ろにクラカズと森がいてくれるから。その声だけでそこまで感じさせてくれるようなバンドであり、ライブをすることができるから、ミセスの音楽をずっと聴いて、ライブをずっと見てきた。その感覚をこの日感じられたということは、ミセスが変わっていないんじゃなくて進化しているということの証明だった。だからこそ変わってしまった、大好きだった高野と山中が居なくなっても、これからもミセスを愛し続けていけると思った。本編同様にメンバーが演奏後に律儀すぎるくらい律儀に深々と長く頭を下げている姿もやっぱりそう思わせてくれたのだった。
昔、メディアに取り上げられるようになった時によく大森が言っていたのは、
「歌詞は僕が書いてるけど、それがどんな意味なのか、どうしてそういう歌詞なのかをメンバー全員に説明して、ちゃんと理解してもらった上でレコーディングしてる」
というもの。それはきっと今でもずっと変わっていないんだろうなとこの日ライブを見ていて思った。
何よりも、音楽やライブも、そうした発言や思想も含めて最大限にリスペクトしてきた、若いファンの中にいることによって自分がもう一回青春を味わえているような感覚をくれたミセスがこれからもずっと自分の中で大切なバンドであり続けてくれるということがわかったのが本当に嬉しかったのだ。これからも何回だってこの日のように聖なる力で浄化されるような、かつて見てきたライブのような「生きてて良かった」と思えるライブを見ることができるのだから。やっぱり、ミセスが最強。
1.藍
2.灯火
3.ニュー・マイ・ノーマル
4.CHEERS
5.How-to
6.インフェルノ
7.No.7
8.soFt-dRink
9.青と夏
10.僕のこと
11.私は最強
12.Soup
13.アボイドノート
14.ダンスホール
15.スターダム
16.パブリック
17.フロリジナル
18.CONFLICT
encore
19.StaRt
20.Soranji
その期間にはバンド時代とはイメージもサウンドもガラッと変えた大森元貴(ボーカル&ギター)のソロ活動も話題になったが、PHASE 2開幕を待つ昨年の年末に飛び込んできた、高野清宗と山中綾華の脱退という信じられないニュース。それすらを超えて3人で帰還したミセスは春にミニアルバム「Unity」を、先日にはニューシングル「Soranji」をリリース。すでに7月には復活ワンマンをぴあアリーナで行い、自分が久しぶりにミセスのライブを見れたサマソニを始めとした各地のフェスにも出演していたが、そんな状態でのミセスの久しぶりのツアーは意外にも初となるZepp Tour。確かに1stアルバムで赤坂BLITZ、2ndアルバムではTOKYO DOME CITY HALLと恐るべき速さで会場の規模が大きくなっていたなということも思い出す。
「これ100%超えてんじゃない?」と思うくらいの超満員という言葉ですら足りないくらいの熱気に満ちたZepp Hanedaはやはり若い人がほとんどであり、かつて「Speaking」のシングルリリース時だったか、渋谷WWWでワンマンを行った際にドリンクバーでアルコールを頼んでいた人が全くいないくらいに客層が若かった(というかほぼ10代の中に紛れ込んでしまった感すらあった)ことも思い出す中、BGMが途切れるとついに始まるか、という空気になるのだがなかなか始まらない中、19時過ぎになると場内が暗転してメンバーがステージに現れる。サポートメンバーとしてドラマーのクラカズヒデユキ(ex.赤色のグリッター)、ベーシストの森夏彦(THE 2)を含めたバンド編成であるというのはフェスなどと変わらないものである。
赤い上着にラメが輝く黒いパンツを履いた大森がフッと息を吸い込むようにして歌い始めたのは、タイトル通りに青い照明がメンバーを照らす「藍」。確かにPHASE 1でも以外なくらいにフェスなどでもよく演奏されていた曲であるが、新体制になって新作も次々にリリースされている中で今のミセスがこの曲からスタートするとは全く想像していなかった。大森が「ジャンプ!」と観客をいきなり飛び跳ねさせまくる中、フォーマルな出で立ちの若井滉斗(ギター)のテクニカルなフレーズも健在であるが、やはりリズム隊が変わったことによって特にドラムのアタック感がかつて聴いていたこの曲よりも強くなったようなイメージだ。さすがに最初の曲だからか、ギターを弾きながら歌う大森はまだ自身の声を制御し切れていないような感じもあったのだが、初めてのZepp Hanedaでのライブということで緊張感があったりもしたのだろうか。
そんな「藍」での青い照明が黄色と白を基調にした、まさに光と呼べるようなものへと変化するのはシングル「僕のこと」のカップリング曲である「灯火」というレアな選曲であるが、そもそもミセスは「カップリングになんでこんな曲入れるの!?せめて両A面にすればいいのに!」と思ってしまうくらいに出し惜しみせずに名曲を収録しまくってきたバンドであり、そうした曲たちをワンマンでこうやって鳴らしてきたバンドであることを思い出させる。若井とは対称的にラフな服装で髪がかなり伸びた藤澤涼架(キーボード)がステージ上では元気良く腕を上げたりして観客を煽るようにする姿はかつてと全く変わることはないが、思った以上に今のミセスのライブがロックバンドであることを感じさせるようなオープニングである。
そんな「ロックバンドであること」をPHASE 2に入ってすぐに感じさせたのは「ニュー・マイ・ノーマル」であり、実にミセスらしい解放感に溢れた、一聴しただけで素晴らしい曲だとわかるようなキャッチーなメロディーが瞬時に場内を支配していく。遠めの位置だったのではっきりとは見えなかったが、歌っている大森の目元が光っていたのは顔にもラメ的なものをつけていたのだろうか。その大森も藤澤も若井も溢れんばかりの笑顔を見せながら飛び切りキャッチーなこの曲を演奏することによって、客席にも楽しいという感情が溢れてたくさんの腕が上がる。大森の歌唱も実に伸びやかになってきている。というかそうでないと歌うことができない曲であるが、そんな曲を聴いて、その曲を演奏するメンバーの姿を見ているだけで心が弾むような感覚になる。それはずっと変わることのないミセスのライブの持つ力である。そう、この段階で自分はミセスがバンドの本質が全く変わっていないということに気付き始めていた。
「この曲では特別なことがあります!」
とハンドマイクになった大森が言うと、「CHEERS」のイントロ煌びやかな同期のサウンドに合わせてステージ上が無数のミラーボールに照らされて輝く。その演出が特別なことかと思ったのだが、それはなんと
「この曲の演奏中は写真撮影オッケーです!動画はダメだけどね!写真だけね!」
と、まさかの写真撮影許可タイムとなり、客席からはたくさんのスマホが掲げられる。Aメロでギターを弾かない間はずっと親指を突き出して動かないという撮られるためのポーズを取っていた若井の姿もシュールで面白かったが、後半では藤澤が逆に自身のスマホで客席の様子を撮影するという逆転現象が起きているのもまた面白い。何よりも客席ではずっと写真を撮りまくっているのではなくて、数枚撮影したらスマホをしまって曲に合わせて飛び跳ねたりしていた人ばかりだったのが印象的だった。みんな写真を撮りたい気持ちはありながらも、それ以上に今目の前のライブを楽しもうとしているのが伝わってくるかのような。
そんな楽しみ尽くしたい我々もまだ声を出すことはできないために、メンバーによる勇壮なコーラスの「How-to」では大森がコーラスパートの前に
「心の中で!」
と言って心の合唱をさせる。まだ活動再開してからサマソニのライブしか観れていないけれども、こうして声を出せないライブが当たり前になってきたようでいて、ミセスのライブで一緒に歌うことができないというのは凄く違和感があることなんだなと感じた。それくらいにこうした曲のコーラスで一緒に歌うのが当たり前のことだったということであり、それがどんどん巨大なものになっていくのを目の当たりにしてきたのだ。
すると曲間ではジャジーとも言えるような演奏が展開され、そこに青い照明が当たることによって、「「Unity」収録の「ブルーアンビエンス」はライブだとこんなアレンジのイントロが追加されるのか」なんて予想をしていたのだが、大森がギターを掻き鳴らした瞬間に照明が真っ赤に転換し、一気にラウドとも言えるような激しいバンドサウンドの「インフェルノ」に突入していくというライブアレンジが我々を心地良く裏切ってくれるあたりは実にミセスらしい高い技術を駆使した遊び心である。とはいえアニメタイアップとしてミセスの名をさらに広く世に知らしめたこの曲の
「永遠は無いんだと 無いんだと云フ
それもまたイイねと笑ってみる
輝けばいつかは光も絶える
僕らは命の火が消えるその日まで歩いてゆく」
というフレーズはまるでこの曲をリリースしてから今に至るまでのミセスの軌跡を言い当てているかのようだ。バンドには永遠なんてなかったんだということを我々は改めて痛感させられたからである。
そんな「インフェルノ」で燃え上がったギターロックとしてのミセスが続くのは、同期で流してもいるであろうコーラスが響くとやはり大森が
「心の中で!」
と声に出さない合唱を促す「No.7」。ちゃんと7曲目に持ってくるあたりの遊び心もミセスらしいが、実に久しぶりにライブで聴く感じがするこの曲では後半のまるで音頭のようなリズムになるアレンジも今でもそのまま演奏されて観客はそのリズムに合わせて手を叩き、大森はコーラスフレーズを歌いながらマイクの前を横切ったりすることによってコーラスが途切れ途切れに聞こえてくるというパフォーマンス面での遊び心も存分に発揮するという無邪気さもやはり変わらないミセスらしさを感じさせる。もう20代後半という年齢になってきているけれど、その少年のような無邪気さは初めてライブを見た時のまだ若井が高校生だった頃から変わっていない気さえする。
そんなミセスはこの日がツアー3本目というまだまだ序盤であるのだが大森は
「もうすっかり終わりが見えてきて…」
とおどけるあたりも実に大森らしいし、メンバー紹介時に若井をひたすら「岩井」と呼んで「若井な!」と突っ込まれたり、
「サポートメンバーを紹介します!」
と言ってリズム隊の2人を紹介するのかと思ったら藤澤をサポートメンバーとして紹介したりという悪戯っぷりはやはり変わることはない。
そうしてサポートメンバーも紹介してから演奏された「soFt-dRink」の爽やかなポップサウンドが、やはりミセスは何歳になってもビールなどのアルコールよりもジュースが似合うよなと思うし、それは客席にいるバンドのグッズを纏ったファンもそうだ。それは「CHEERS」のフレーズでもそうだが、ミセスのライブや音楽はアルコールの力を借りずとも最大限に楽しめるというような。だからこそこの日はドリンクにアルコールがなかったのかもしれない。ビールを飲もうとしていた自分はメニューを見て面食らってしまったけれども。
すると曲間では藤澤がキーボードで美しいメロディを奏でる。しかしこうしてキーボードのみで始まる曲はあったかな?と思っていると、大森はマイクスタンドを握りながら
「涼しい風吹く
青空の匂い
今日はダラッと過ごしてみようか」
と歌い始め、そこで藤澤の弾いたメロディが「青と夏」のものであったことに気付くのであるが、テンポをグッと落としたバラードバージョンと言っていいようなアレンジはオレンジ色の照明が実によくそのテンポとサウンドに似合っていたように、原曲の青空というよりも夕暮れの空が似合うようなものになっている。それでも最後にはやはり青く透き通るような照明になることによって、今のこのアレンジが過ぎ去った夏を思い返すような今の季節のものであることがわかる。フェスでミセスのライブを見ることができた今年の夏はやっぱり、僕らの夏だったんだなって思うことができるのだから。
そのアレンジから連なるようにすることによって、ミセス屈指の名曲が続編と言えるようにというか、同じテーマやサウンドとして響くようになるのはもちろん「僕のこと」。それはティーンエイジャーの主題歌という共通項があるからこそであるが、大森の歌唱はここにきて、こんなに歌うのが難しい曲になって極まってきている感すらあった。今でこそ圧倒されるような声量と歌唱力を兼ね備えた、選ばれし存在であるかのようなシンガーが次々に世に出現しているが、ミセスのライブを初めて見た時に大森の歌声にその感覚を抱いたことを思い出した。当たり前に聴く存在になったけれど、久しぶりにこうしてワンマンを見るとその当たり前さがとんでもなく凄まじいものだったということを実感させられる。真っ白い光に照らされることによって、サビで手を広げるようにして歌う姿はもはや歌の天使と言えるかのような神々しさすらあった。
そんな大森が自身の歌唱の絶好調さを示すように
「さぁ、」
と誰しもが聴きたくてたまらないであろう曲のフレーズをまだ誰も準備ができてない曲間にいきなり口ずさむことによって、
若井「今のはなんですか?」
大森「「さぁ、」ですよ」
という意味不明なやり取りが繰り広げられると、
大森「皆さん、ONE PIECEの映画は見ましたか?」
と問いかけてたくさんの(ほぼ全員と言っていいレベル)腕が上がり、中には2回見たという人も結構いた。そうして問いかけたメンバーも2回見ているらしく、初回は3人で観に行き、2回目はサポートの2人も含めて5人で観に行ったという。そんなエピソードからも今のミセスの関係性の良さが感じられるし、だからこそライブがこんなに楽しいものになっているのだということもわかる。
すると大森が藤澤に
「涼ちゃん、どう?」
と無茶振りしてその「私は最強」の歌い出しを歌わせるのであるが、藤澤が見事なまでにしっかりハイトーン部分まで出して歌い切れたことに盛大な拍手が起こる。さすがは大森のボーカルにコーラスを重ねている男であるし、そこからは藤澤がコーラスなどの歌唱も弛まぬ努力を重ねていることを感じられるのだが、何故かさらに森に無茶振りすると案の定声がひっくり返りまくるのであるが、むしろそうなるのが普通である。
そんな曲を「じゃあ本家が」と言ってやはり完璧に歌うことができるのが大森であり、インタビューで「セルフカバーありきで作った」というくらいに映画内でAdoが歌唱しているバージョンを聴いてもミセスの曲でしかないこの曲がセルフカバーされることによってよりバンドサウンドが強く前に出たバランスになっている。それもまた大森の歌唱がバンドの演奏に埋もれないくらいに強いからこそできるアレンジであるし、セルフカバーのこの曲からは今のミセスこそ最強だという宣誓のように響く。
自分も今は普段生きていると割とこの曲のようなメンタリティであることが多いのであるが、この曲を聴いているとそんな精神をさらに増強してくれるような感覚になる。きっと自分以外にもこの曲から力を貰ったり、気持ちを奮い立たせたりしている人もたくさんいることだろう。間違いなく2022年の音楽シーンを最も代表する曲である。そんな曲をミセスが生み出したのである。そんなバンドを最強と言わずになんと言おうか。
そんな最強のバンドの強さだけではない温かさを感じさせるのは淡い照明による「Soup」であり、こうした曲がライブで挟まれることによって「私は最強」のような曲がより際立つ部分もあると思うし、メンバーの穏やかな人間性を曲からも演奏からも感じられる。
さらにはPHASE 1の締めくくりとしてリリースされたベスト的なアルバム「5」に収録された生の根源に迫るかのような壮大な「アボイドノート」と、正直言って今演奏されるとは思っていなかった曲が続くのであるが、「Soup」からもそうであるが、こうした曲はきっとホールなりアリーナなり、今までミセスが回ってきた大きな会場ならばそれに見合うような映像などの演出を使っていたことだろうと思う。それが本当にこの日は演奏と照明のみというのは久しぶりのライブハウスツアーだからこそだ。それだけでも充分見ている側を圧倒できるバンドであるということをこれらの曲は示している。
そんなミセスであるだけにそうした広い会場であったならばきっとダンサーがステージに登場していたであろう「ダンスホール」でもやはり煌びやかな照明と若井のカッティングを軸にした、メンバーの演奏のみというストロングスタイル。しかしそこには藤澤と森がイントロからクラップすることによって観客の力も加わっていく。だからこそ
「いつだって大丈夫
この世界はダンスホール
君が居るから愛を知ることがまた出来る
「大好き」を歌える」
というサビの歌詞がこの上ない説得力を感じさせる。大森のフェイクを入れまくる歌唱ももう明らかに歌えすぎているからこそできるものであり、後半になってのさらなる本領発揮感は本当に凄まじい。そのバンドの力は全て我々が感じられる「楽しい」という感情に繋がっている。
そんな中で大森と若井はこの「ゼンジン未到」というツアー名についての説明をしようとするのだが、若井が話そうとすると大森がノリやすいギターの音を鳴らして若井がギターに乗せて曲にして説明しようとするために全く頭に入ってこないというやり取りが繰り広げられるのだが、このタイトルはミセスが自主企画ライブやツアーでずっと掲げてきたもの。自分が2015年の3月に初めて見た、メジャーデビューを発表したミセスの自主企画ライブのタイトルも「ゼンジン未到とプログレス」というものであったことを思い出す。このタイトルを掲げることによってミセスのメンバーも当時一緒にライブをやっていたバンドたちのことを思い出したりしているんだろうか。
そんな自分が初めてライブを見た時にも演奏されていたインディーズ期の「スターダム」が実に7〜8年ぶり(ということはそのライブ以来演奏されていなかった?)に演奏されるのであるが、冴え渡る若井のタッピングなどを聴いていて、ミセスはあの頃からすでにライブの演奏力や完成度が凄まじかったバンドだったということを思い出す。それは「復誦編」というタイトルがついているだけに、新しい形になったことでバンド側も当時の気持ちを思い出そうとしているところもあるのかもしれない。
「時間は刻々と過ぎては去っていくけども
秒針は皆平等らしい」
という人間の真理を1フレーズで表してしまうような歌詞をすでに大森は10代の頃から書いていたということも。
その大森が描く「人間の真理」という歌詞の初期の最高峰と言えるのが大森自身も歌詞の内容的に「歌うのがキツい曲」と昔インタビューで語っていた「Twelve」収録の「パブリック」であるが、そうした歌詞を焦燥的なギターロックサウンドに載せていたのが、「青と夏」同様にこの曲もグッとテンポを落として、藤澤のキーボードの流麗なメロディを軸にしたものに生まれ変わっている。大森の自由自在な節回しの歌唱も含めてどこかジャジーなイメージも感じられるが、今この曲をミセスが鳴らすとしたらこうしたサウンドになるのだろうし、だからこそ
「その度になにかを欲しがって
人は自分の為に傷を負わす
醜いなりに心に宿る
優しさを精一杯に愛そうと
醜さも精一杯に愛そうと」
という歌詞も今こうして歌うことができているのだろう。
しかしながらこうしてライブを見るまでは「スターダム」も、「Twelve」ツアーファイナルの赤坂BLITZなどで聴いてきた「パブリック」も今になってまた聴けるなんて全く思っていなかった。でもこうして今になって復誦することによって、そうしたかつて見てきた素晴らしいライブの光景を思い出すことができる。それはそのまま自分がミセスと一緒に生きてきたということだ。
そんなシリアスに感じざるを得ないような我々の心境を解きほぐすように演奏されたのが、イントロのキメ連発のリズムに合わせて大森と若井を中心にメンバーがポーズを決めるような動きを取る「フロリジナル」。最新シングルのカップリングに収録された、「香り」をテーマにした曲であるが、どこか浮遊感を感じるような同期のサウンドもそうであるが、まさかライブでこんなにくだけた空気で演奏されるなんて思っていなかった。おそらくはタイミング的にも今後そうそうライブで聴けることはなさそうな曲であるだけに実に貴重なものになると思われる。
そんなこの日のライブの最後に演奏されたのは、自分が初めてライブで見た時も本編の最後に演奏されていた「CONFLICT」。クラカズによる激しいドラムの連打によってさらに迫力を増したバンドサウンドに降り注ぐ光のような照明。その真ん中で大森が抜群の声量と伸びやかさをもってして歌う
「いつかどうせ消えて往く
「今迄」の時間は 無駄じゃないと思いたい
だんだんいろんな事も忘れて往く
この今の気持ちだけは 忘れぬように」
という歌詞。それを聴いていて、今もあの頃と変わらないように自分に響いていると思った。あの頃に「今の気持ちだけは忘れぬように」と思ったように、今もそう思うことができている。
PHASE 2への移行宣言とそれに向けた活動休止。大森のソロ活動とリズム隊の脱退。自分から遠ざかっていくんじゃないかと思っていたミセスは今でも自分のすぐ近くにいた。もしかしたらいてくれることを選んだのかもしれないけれど、ミセスは変わってなんかいなかった。その実感を確かに手に入れることができた瞬間だった。
アンコールではツアーグッズに着替えたメンバーがステージに現れると、この日のライブが3本目にして1番あっという間に感じたという感想を語りながら、来年でミセスもついに10周年を迎えることを口にする。だからこそ何かしらのことを考えているらしいのだが、スタジアムなどの巨大な野外ワンマンだったりするのだろうか。今回がなかなか見たくてもチケットが取れない人が多い形だっただけに次はそうしたものになるんじゃないだろうかと思っているのだが。
そうして10周年を控えながらも、
「いつだって、StaRt!」
と言って演奏され、やはり大森が
「心の中で!」
と観客に言いながら自身は思いっきり叫ぶようにして始まったのはメジャーデビュー曲である「StaRt」。その叫びもバンドのサウンドも、カラフルでありながらも渾然一体となって我々に押し寄せてくる感覚は全く変わっていない。それは完璧に揃った
「お手を拝借」
での手拍子も。間奏で大森に合わせて観客が手を波のように動かす仕草も。もしかしたら、この曲をこんなに瑞々しく演奏し続けられていることこそがミセスが変わっていない所以なのかもしれない。若井がギターを抱えて高くジャンプする姿や、若井が藤澤のキーボードセットの中に入って2人で並んで演奏したり、逆に藤澤が演奏しないでステージを端から端まで走り回って観客の方を見る姿からも、今でもバンドとしての衝動を確かに感じさせてくれている。こうやってまた「忘れたくない」が増えていく。
そして最後の曲を演奏する前に大森は今から演奏するその曲が12月に公開される、二宮和也主演映画「ラーゲリより愛を込めて」の主題歌になっていることに触れ、
「先に我々は映画を見させてもらったんですけど、一言で言うと戦争映画。でもそれだけじゃないっていうか。主題歌をやってる、やってない関係なく見て欲しい映画だと思った。特に若い人に見てもらえたらなって思います」
と、率直な感想を口にしたのも自分がその映画によって心が動かされて曲が生まれたからだろう。
その曲、「Soranji」で大森はマイクスタンドを握り締めながら歌い始めるも、途中でマイクをスタンドから外して膝をつくようにして、まさに絶唱と言っていいくらいの歌唱を見せる。あの大森がそこまで魂を込めるようにして歌うくらいの曲。声量が凄い、歌唱力が凄いというだけではなくて、その曲に込めた思いを全て歌にして我々に届けることができる。その歌唱を聴いていて感動しない人が、心が動かない人がいるんだろうか。その瞬間に、「ああ、これだ」って思った。いつだって自分たちの音楽とライブの力で我々の体も心も震わせてくれる。毎回そう感じるのは毎回前回を上回ってきているから。それがMrs. GREEN APPLEというバンドだ。大森がそうした歌が歌えるのも、横に若井と藤澤がいて、この曲では大森にスポットが当たっていたり同期のリズムが使われていても、後ろにクラカズと森がいてくれるから。その声だけでそこまで感じさせてくれるようなバンドであり、ライブをすることができるから、ミセスの音楽をずっと聴いて、ライブをずっと見てきた。その感覚をこの日感じられたということは、ミセスが変わっていないんじゃなくて進化しているということの証明だった。だからこそ変わってしまった、大好きだった高野と山中が居なくなっても、これからもミセスを愛し続けていけると思った。本編同様にメンバーが演奏後に律儀すぎるくらい律儀に深々と長く頭を下げている姿もやっぱりそう思わせてくれたのだった。
昔、メディアに取り上げられるようになった時によく大森が言っていたのは、
「歌詞は僕が書いてるけど、それがどんな意味なのか、どうしてそういう歌詞なのかをメンバー全員に説明して、ちゃんと理解してもらった上でレコーディングしてる」
というもの。それはきっと今でもずっと変わっていないんだろうなとこの日ライブを見ていて思った。
何よりも、音楽やライブも、そうした発言や思想も含めて最大限にリスペクトしてきた、若いファンの中にいることによって自分がもう一回青春を味わえているような感覚をくれたミセスがこれからもずっと自分の中で大切なバンドであり続けてくれるということがわかったのが本当に嬉しかったのだ。これからも何回だってこの日のように聖なる力で浄化されるような、かつて見てきたライブのような「生きてて良かった」と思えるライブを見ることができるのだから。やっぱり、ミセスが最強。
1.藍
2.灯火
3.ニュー・マイ・ノーマル
4.CHEERS
5.How-to
6.インフェルノ
7.No.7
8.soFt-dRink
9.青と夏
10.僕のこと
11.私は最強
12.Soup
13.アボイドノート
14.ダンスホール
15.スターダム
16.パブリック
17.フロリジナル
18.CONFLICT
encore
19.StaRt
20.Soranji
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