Hi Cheers! 「Hi Cheers!のONE-MAN SHOW 〜集まろうぜ、渋Yeah!!〜 @duo music exchange 11/13
- 2022/11/14
- 18:46
YOASOBIのikuraやシンガーソングライターのにしななどが在籍していたアコースティックセッションユニット「ぷらそにか」に所属していた4人がバンドを結成したことによって生まれた、Hi Cheers!。
その経歴からしても全員がボーカルを務めることができるバンドということで、どんな形でのライブになるのか。2020年リリースのEP「ソーダ水はたいへん気持ちのよいものでした。」が実にポップで良い曲だと思ってはいたが、ライブを見るのはこの日のワンマンが初めてである。
duo music exchangeは床に立ち位置が貼られたスタンディング形式であるのだが、小沢健二などのBGMが流れているこの日の客席にいる人たちはやはりどこか普段自分が行っているロックバンドのライブの客層とは少しというか結構違うなと思うところも新鮮である。
開演時間の18時に場内が暗転すると、子供が母親に退屈なので遊びに行きたいとごねるナレーションが始まる。ステージ背面のスクリーンがテレビ画面のようになり、退屈しのぎにつけたテレビに「ハイチーマン」という戦隊ヒーローのような番組が始まるのだが、
「このご時世に人を1箇所に集めようとしている4人がいる」
という緊急ニュースが始まり、メンバー4人がマスコミに直撃されてハイチーマンの放送がなくなる、それなら直接会いに行こうと母親は子供を大好きなハイチーマンこと、Hi Cheers!のライブを見るために渋谷へと向かう…というオープニングからしてもこのバンドのメンバーたちがどういう人たちで、バンドがどういうライブをやりたいのかというのが伝わってくる。コンセプチュアルではあるけれど、堅苦しさや構える感じは全くない。ただ一つあるのは「楽しませたい」という一心のみだ。
オープニング映像が終わるとステージに登場したメンバーはみんな白シャツに自身のハイチーマンとしてのカラーのパンツとスカーフ着用という出で立ちであり、
上野正明(ブルー、ボーカル&ギター)
月川玲(レッド、ボーカル&ベース)
高村風太(グリーン、ボーカル&キーボード)
Chie(だいだい、ボーカル&ギター)
という4人に、サポートドラマーとしてたくろうが参加するというバンド編成で「愛じゃない!?」からスタートすると、高村をメインとしながらもそれぞれがパートごとにボーカルを取るという、バンド結成以前の経歴を踏まえてもコーラスグループがバンドになったという感じであるのだが、当たり前のように全員めちゃくちゃ歌が上手い。しかも歌だけじゃなくて楽器の演奏までも上手い。全員が優れたシンガーでありながらプレイヤーであるという、1番から4番まで、あるいは先発ローテーション4人目まで全員大谷翔平が並んでいるみたいな状態である。
そんなバンドが鳴らすのはどこまでもポップなサウンドのキャッチーな曲。その始まりであり最高峰と言えるようなデビュー曲「ABCがワカラナイ」がこんな2曲目という序盤に演奏されるというのも驚きであるが、その弾けるようなポップさと飛び跳ねたくなるようなキャッチーさによって観客はサビで腕を左右に振るという光景が生まれる。観客たちが本当にこのバンドのライブを楽しみにしていたということが伝わってくるし、声質の異なる男女4人で歌うからこその多層的なハーモニーはこのバンドでなければ体感できそうにないものである。
しかしそんなポップさ、キャッチーさの中にもハッとするような表現を感じさせるのが「(not)just for show」であり、作詞した高村の歌う
「狂おしいぜ
世界はいつも くだらないで溢れている
楽しもうぜ
不幸まで溶ける 甘い甘い接吻(キス)をして
息が止まるその瞬間までは」
というサビの歌詞からはただ能天気に楽しいことをしたいと思っているのではなくて、むしろ楽しくないものや事象が多すぎる世の中だからこそ、こうして音楽で少しでも楽しくなれるようにという思いで曲やライブを作っていることが伝わってくる。それこそがポップソングのあるべき形なんじゃないかと自分は思っている。
そんなこのバンドは上野がMCで
「去年もここでワンマンをやらせてもらったんですけど、去年はなかなか「集まろう」とか言いづらい状況でした。なんなら僕らがデビューしたのもコロナ禍になってからだったんで、デビューシングルのレコーディングも4人で集まって歌入れすることができなくて、交代で1人ずつスタジオに入ってレコーディングしていた」
と言っていた通りに逆境中の逆境から始まることを余儀なくされたバンドである。だからこそそんな逆境やネガティヴに陥りそうな自分たちも音楽の力で少しでも楽しく活動していこうとしているかのような。言葉からもそんなことを感じさせるのであるが、この日観客がどこから来たのかを地方に分けて聞いていくというのも来てくれた観客一人一人に感謝を告げて繋がろうとする姿勢を感じさせるものである。
そんなMCの後にはイントロでドレミファソラシドの音階が使われるという、キャッチーさをこの上なく引き立たせるアレンジによる先月リリースの最新曲「ぐるぐるユニバース」が演奏されるのであるが、タイトルとサビに合わせて観客がタオルではなくてスカーフを振り回すというのも、そのスカーフがメンバーのトレードマークであるこのバンドならでは。この曲も個人的には「ABC〜」に並ぶくらいのキラーチューンだと思っているのだが、そんな曲がこうして勿体ぶることなく前半に演奏されることによってライブの流れをこの後にどう作っていくのか楽しみになる。
ベース&ボーカルという歌う上では最も難しいであろうポジションである月川がベースのリズムを刻みながら歌う「Hello」では改めてメンバーそれぞれの技術の高さを感じさせるし、その曲によって誰がメインボーカルを取るかによって違うバンドの曲なんじゃないかと思えるくらいの幅の広さを生み出している。
それは上野が歌う、このバンド名にちなむようにカメラのシャッター音がイントロで鳴る「SHUTTER CHANCE」もそうであり、少女的なボーカルの月川、少年性を感じさせる上野と、それぞれ違ったポップさを感じさせてくれる。
とはいえまだデビューしたばかりの新人と言っていい存在であり、まだフルレンジのアルバムもリリースしていないだけにワンマンをやるには未音源化の曲も演奏するだろうと思っていたのだが、やはりここでタイトル通りにオレンジ色の照明がメンバーを照らし、引き算のアプローチによってリズムをメインとした、月川がメインボーカルの「オレンジ色の憎いアンタ」では自分の位置からはduo名物の柱が邪魔で見えにくかったChieのギターも哀愁を感じさせるようにブルージーに響く。どちらかというとギタリスト2人のうち、リードギター的な役割を担っているのがパーマの当たり具合が強い髪型のChieであることがわかるのだが、そのギターの演奏も実に上手い。もう何もかも出来すぎてて感嘆してしまうくらいのレベルである。
そんなライブは実にテンポ良く曲を連発するというものになっているのだが、ここで一旦暗転してスクリーンにはハイチーマンの1143話という信じられないくらいの長寿番組の最新話として、この日のライブに集まるのを妨害しようとする悪の怪人カイサーン(ドラムのたくろうが務めたらしい)とハイチーマンが戦う映像が映し出されるのだが、敢えて棒読みして下手に演技することによって笑いを誘おうとしているかのような(特に高村)シュールさもありながらカイサーンを倒すと、カイサーンは倒れながら
「私も本当は集まりたかった…だって今夜は…」
と言ったところで映像が終わると、アコースティック編成になって椅子に座った4人が「今夜はBE-BOP TIME」を演奏するという、意味がなさそうに見えてちゃんと映像が曲の前フリになっているというあたりも実に見事である。
このアコースティックではたくろう不在のメンバー4人で、月川はシェイカーを振りながら歌い、ギタリスト勢はアコギに持ち替えているのだが、この曲ではアコースティックと言いながらもタイトル通りに高村のキーボードのメロディによって体が揺れてしまうような、アコースティックダンスナンバーになっている。こうした極限まで削ぎ落とした形でもダンスできるということは、これからもっといろんなアレンジで演奏されることになるだろうということである。
さらにアコースティックでもう1曲演奏されたのは月川とChieの女性メンバー2人による「monologue」なのだが、こうした削ぎ落としたサウンドであること、月川がほぼボーカルに専念していることによって、2人の歌の上手さと凄さを改めて感じられるものになっている。音源でもバンドというよりももっとJ-POP的なバラードという感じであったが、そうした曲であるだけにこのメンバーがそれぞれ1人でもそうした場所で活躍できる人であり、そんな人が集まったバンドであることがよくわかる。ある意味ではまだそこまで大々的には知られていないスターシンガーを集めたスーパーバンドと言っていいのかもしれない。
アコースティックからの転換では物販紹介を兼ねた映像が流れるのだが、
「手を洗うのが大事なこのご時世に手を洗った時に必要になるのがハンカチ!」
と物販で販売されているハンカチを紹介するのはよくわかるし、それは
「レジ袋が有料化したこのご時世に大事なのがエコバッグ!」
と物販のエコバッグを紹介するのもわかるが、
「黒いバッグに彩りを与えるための缶バッジ!」
さらには、
「CDプレイヤーを買ったはいいけどCDがないと聴けないからCDを買おう!」
と、どんどん力押し的な物販紹介になるし、すべて
「ポケットにもカバンにもお弁当箱にも入る!」
という紹介をされているのもまたシュールなのだが、最後のCDプレイヤーで再生されたCDが「恋はケ・セラ・セラ」であり、それを今からバンドが演奏するという繋ぎはやはり見事だ。オープニングから含めてこうした映像や演出も含めて全てが一つに繋がったライブになっている。
そんな「恋はケ・セラ・セラ」では先ほどのアコースティックの聴き入りっぷりから一変して、再び合流したたくろうがスティックを合わせるように手拍子を促し、それが客席に広がっていくことによってこのバンドの「楽しい」という空気に回帰していく。前半は自身のマイクスタンドの位置がなかなか決まらずに苦慮しているようにも見えた高村もそれが決まったことによってより歌唱が伸びやかになってきた感すらあるのだが、それはメンバー全員が曲を鳴らすことによってライブの空気を掴んできていると言ってもいいだろう。キメ連発のリズムの演奏も本当に上手いと思う。
さらには上野がメインボーカルを務めることによってタイトルからも感じられる蒼さを音で、歌で表現する「青いまま」はこのバンドの持っている空気感そのもののような爽やかな曲だ。それは青春の真っ只中にこのバンドがいて、それがずっと青いまま続いていくかのような。その音や声からは上野の、このメンバーの素直で実直な人間性が滲み出ている。そんな裏のなさを感じるからこそこの曲から青さの説得力を感じさせるのだ。
そんな青さに別れはつきものであり、ここで演奏されたのは遠くに行ってしまった「君」に想いを馳せるバラード「親愛なる遠い君へ」であり、やはりこうした曲では月川とChieという女性2人のボーカルがメインとなる。この2人も曲を経るにつれてさらに歌声が伸びやかになってきているが、作詞をした月川の個人的な経験がそのまま歌詞になっているのだろうか。そう思うくらいに歌詞からも歌声からも単なる別離ではない喪失感を感じるからだ。
そしてライブはもう終盤に来ていることを高村が告げると、自身が弾くキーボードのサウンドもさらに躍動感を増すのは「陳腐なラブソングのせいにして」という凄まじいタイトルのダンスソングであるが、曲の最後のサビ前に一旦ブレイクを入れると高村が映像ではなくて実際に物販紹介をする。先ほどの映像では紹介されなかったTシャツなども紹介するのだが、
「ここで物販紹介するの絶対間違ってるよね?…まぁ俺がやるって言ったんだけど(笑)」
とセルフツッコミを入れるあたりがより楽しい雰囲気にさせてくれる。
しかしそんな高村は最後には真剣な面持ちで、
「僕らは一人一人が本当にバラバラな人間で。そんなメンバーに、バンドに向けて書いた曲を最後にやります」
と言って演奏されたのは「未来」。公開されているMVもどこかこの4人だからこその青春性を感じさせるものだったが、確かに普通ならこんなに全員が前に出れるようなメンバーだけでバンドを組まないだろう。ある意味ではこのチームには点取屋のフォワードしかいないのだから。
でもそんなバラバラで個性が強い4人がこのバンドになると自我を主張するのではなくて、このバンドのために自分の役割を全うすることができる。そうすることによってこのバンドとして伝えることができることがあるということをメンバーはきっとわかっているからだ。ただ歌が上手い人は今そこら辺探しても数え切れないくらいにいる中で、そうした歌の中に感情や想いを込めることができる歌の上手さを持った4人がこのHi Cheers!というバンドなのだ。
そうしてメンバーが演奏を終えてステージを去ると、オープニングの親子の会話が再び会場に流れる。
子「まだ聞きたいよ〜」
親「じゃあ手を叩きましょう」
というガイドによってアンコールを待つ手拍子が起こり、それが大きくなってきたところでメンバーがバンドTシャツ姿に着替えて登場。そのバンドTシャツは1枚ずつメンバーが染色して作っているという手間隙をかけたものであり、だからこそ少し印刷が上手くいかなかったものをメンバーが着ているという。
そんな物販紹介もありながらも、改めてこうして集まってくれた人たちに感謝を告げてから最後に演奏されたのは、高村が音楽に向けて作ったというメッセージを込めた「Music Goes Around」。とびきりポップなサウンドに乗せて歌われるのは
「言葉じゃきっと伝えきれないから
僕らは音に思いを乗せて
Sing it Loud
ほら Music Goes Round
楽しくなけりゃ音楽じゃなくて
そこには意味も理由もない
君の歌を僕に歌わせてくれよ」
という、自分たちがこうして音楽を鳴らし、その音楽が楽しくてポップなものになっている理由をそのまま歌った歌詞。そこには最後のフレーズにあるように集まってくれた人、聞いてくれる人のためにという思いもきっとあるはず。自分たちの歌でそうした人の人生や日常を輝かせる、楽しいものにするために。最後に最も感情を剥き出しにするような歌とキーボードを聴かせてくれた高村の姿からは確かにそんなことを感じさせたのだった。
演奏が終わるとステージ前にメンバーが並んで手を繋ぐのだが、サポートメンバーのたくろうが真ん中に来たことによって客席からは失笑も起こるのだが、
「カイサーンを演じてくれたから」
という理由でそのまま真ん中にして一礼してメンバーは去っていった。
すでに自分たちがどんなライブをやりたいか、どんなライブを作りたいかというのはまだ短いキャリアの中でも完全に定まっていると思う。これからライブを重ねていく中で歌の飛距離もライブの見せ方ももっとブラッシュアップされていくはずだけれど、そういう時にいきなりデカいステージから始まったというのではなくて、こうして手作り感すら感じられるような映像などによる小さなライブハウスから始まったというのはきっと他にかけがえのない経験になる。それはどんなことがあってもこうした場所に戻ってきてライブをすればこうした始まったばかりの時のことを思い出すことができるからだ。
自分はバンドサウンドが1番好きなだけに、このバンド以外の形でもいくらでも活動できそうな人たちがバンドという形を選んでくれたのが嬉しいし、何よりも我々の「楽しい」という感情をいろんなものから守ってくれてありがとう、ハイチーマン。
1.愛じゃない!?
2.ABCがワカラナイ
3.(not)just for show
4.ぐるぐるユニバース
5.Hello
6.SHUTTER CHANCE
7.オレンジ色の憎いアンタ
8.今夜はBE-BOP TIME
9.monologue
10.恋はケ・セラ・セラ
11.青いまま
12.親愛なる遠い君へ
13.陳腐なラブソングのせいにして
14.未来
encore
15.Music Goes Around
その経歴からしても全員がボーカルを務めることができるバンドということで、どんな形でのライブになるのか。2020年リリースのEP「ソーダ水はたいへん気持ちのよいものでした。」が実にポップで良い曲だと思ってはいたが、ライブを見るのはこの日のワンマンが初めてである。
duo music exchangeは床に立ち位置が貼られたスタンディング形式であるのだが、小沢健二などのBGMが流れているこの日の客席にいる人たちはやはりどこか普段自分が行っているロックバンドのライブの客層とは少しというか結構違うなと思うところも新鮮である。
開演時間の18時に場内が暗転すると、子供が母親に退屈なので遊びに行きたいとごねるナレーションが始まる。ステージ背面のスクリーンがテレビ画面のようになり、退屈しのぎにつけたテレビに「ハイチーマン」という戦隊ヒーローのような番組が始まるのだが、
「このご時世に人を1箇所に集めようとしている4人がいる」
という緊急ニュースが始まり、メンバー4人がマスコミに直撃されてハイチーマンの放送がなくなる、それなら直接会いに行こうと母親は子供を大好きなハイチーマンこと、Hi Cheers!のライブを見るために渋谷へと向かう…というオープニングからしてもこのバンドのメンバーたちがどういう人たちで、バンドがどういうライブをやりたいのかというのが伝わってくる。コンセプチュアルではあるけれど、堅苦しさや構える感じは全くない。ただ一つあるのは「楽しませたい」という一心のみだ。
オープニング映像が終わるとステージに登場したメンバーはみんな白シャツに自身のハイチーマンとしてのカラーのパンツとスカーフ着用という出で立ちであり、
上野正明(ブルー、ボーカル&ギター)
月川玲(レッド、ボーカル&ベース)
高村風太(グリーン、ボーカル&キーボード)
Chie(だいだい、ボーカル&ギター)
という4人に、サポートドラマーとしてたくろうが参加するというバンド編成で「愛じゃない!?」からスタートすると、高村をメインとしながらもそれぞれがパートごとにボーカルを取るという、バンド結成以前の経歴を踏まえてもコーラスグループがバンドになったという感じであるのだが、当たり前のように全員めちゃくちゃ歌が上手い。しかも歌だけじゃなくて楽器の演奏までも上手い。全員が優れたシンガーでありながらプレイヤーであるという、1番から4番まで、あるいは先発ローテーション4人目まで全員大谷翔平が並んでいるみたいな状態である。
そんなバンドが鳴らすのはどこまでもポップなサウンドのキャッチーな曲。その始まりであり最高峰と言えるようなデビュー曲「ABCがワカラナイ」がこんな2曲目という序盤に演奏されるというのも驚きであるが、その弾けるようなポップさと飛び跳ねたくなるようなキャッチーさによって観客はサビで腕を左右に振るという光景が生まれる。観客たちが本当にこのバンドのライブを楽しみにしていたということが伝わってくるし、声質の異なる男女4人で歌うからこその多層的なハーモニーはこのバンドでなければ体感できそうにないものである。
しかしそんなポップさ、キャッチーさの中にもハッとするような表現を感じさせるのが「(not)just for show」であり、作詞した高村の歌う
「狂おしいぜ
世界はいつも くだらないで溢れている
楽しもうぜ
不幸まで溶ける 甘い甘い接吻(キス)をして
息が止まるその瞬間までは」
というサビの歌詞からはただ能天気に楽しいことをしたいと思っているのではなくて、むしろ楽しくないものや事象が多すぎる世の中だからこそ、こうして音楽で少しでも楽しくなれるようにという思いで曲やライブを作っていることが伝わってくる。それこそがポップソングのあるべき形なんじゃないかと自分は思っている。
そんなこのバンドは上野がMCで
「去年もここでワンマンをやらせてもらったんですけど、去年はなかなか「集まろう」とか言いづらい状況でした。なんなら僕らがデビューしたのもコロナ禍になってからだったんで、デビューシングルのレコーディングも4人で集まって歌入れすることができなくて、交代で1人ずつスタジオに入ってレコーディングしていた」
と言っていた通りに逆境中の逆境から始まることを余儀なくされたバンドである。だからこそそんな逆境やネガティヴに陥りそうな自分たちも音楽の力で少しでも楽しく活動していこうとしているかのような。言葉からもそんなことを感じさせるのであるが、この日観客がどこから来たのかを地方に分けて聞いていくというのも来てくれた観客一人一人に感謝を告げて繋がろうとする姿勢を感じさせるものである。
そんなMCの後にはイントロでドレミファソラシドの音階が使われるという、キャッチーさをこの上なく引き立たせるアレンジによる先月リリースの最新曲「ぐるぐるユニバース」が演奏されるのであるが、タイトルとサビに合わせて観客がタオルではなくてスカーフを振り回すというのも、そのスカーフがメンバーのトレードマークであるこのバンドならでは。この曲も個人的には「ABC〜」に並ぶくらいのキラーチューンだと思っているのだが、そんな曲がこうして勿体ぶることなく前半に演奏されることによってライブの流れをこの後にどう作っていくのか楽しみになる。
ベース&ボーカルという歌う上では最も難しいであろうポジションである月川がベースのリズムを刻みながら歌う「Hello」では改めてメンバーそれぞれの技術の高さを感じさせるし、その曲によって誰がメインボーカルを取るかによって違うバンドの曲なんじゃないかと思えるくらいの幅の広さを生み出している。
それは上野が歌う、このバンド名にちなむようにカメラのシャッター音がイントロで鳴る「SHUTTER CHANCE」もそうであり、少女的なボーカルの月川、少年性を感じさせる上野と、それぞれ違ったポップさを感じさせてくれる。
とはいえまだデビューしたばかりの新人と言っていい存在であり、まだフルレンジのアルバムもリリースしていないだけにワンマンをやるには未音源化の曲も演奏するだろうと思っていたのだが、やはりここでタイトル通りにオレンジ色の照明がメンバーを照らし、引き算のアプローチによってリズムをメインとした、月川がメインボーカルの「オレンジ色の憎いアンタ」では自分の位置からはduo名物の柱が邪魔で見えにくかったChieのギターも哀愁を感じさせるようにブルージーに響く。どちらかというとギタリスト2人のうち、リードギター的な役割を担っているのがパーマの当たり具合が強い髪型のChieであることがわかるのだが、そのギターの演奏も実に上手い。もう何もかも出来すぎてて感嘆してしまうくらいのレベルである。
そんなライブは実にテンポ良く曲を連発するというものになっているのだが、ここで一旦暗転してスクリーンにはハイチーマンの1143話という信じられないくらいの長寿番組の最新話として、この日のライブに集まるのを妨害しようとする悪の怪人カイサーン(ドラムのたくろうが務めたらしい)とハイチーマンが戦う映像が映し出されるのだが、敢えて棒読みして下手に演技することによって笑いを誘おうとしているかのような(特に高村)シュールさもありながらカイサーンを倒すと、カイサーンは倒れながら
「私も本当は集まりたかった…だって今夜は…」
と言ったところで映像が終わると、アコースティック編成になって椅子に座った4人が「今夜はBE-BOP TIME」を演奏するという、意味がなさそうに見えてちゃんと映像が曲の前フリになっているというあたりも実に見事である。
このアコースティックではたくろう不在のメンバー4人で、月川はシェイカーを振りながら歌い、ギタリスト勢はアコギに持ち替えているのだが、この曲ではアコースティックと言いながらもタイトル通りに高村のキーボードのメロディによって体が揺れてしまうような、アコースティックダンスナンバーになっている。こうした極限まで削ぎ落とした形でもダンスできるということは、これからもっといろんなアレンジで演奏されることになるだろうということである。
さらにアコースティックでもう1曲演奏されたのは月川とChieの女性メンバー2人による「monologue」なのだが、こうした削ぎ落としたサウンドであること、月川がほぼボーカルに専念していることによって、2人の歌の上手さと凄さを改めて感じられるものになっている。音源でもバンドというよりももっとJ-POP的なバラードという感じであったが、そうした曲であるだけにこのメンバーがそれぞれ1人でもそうした場所で活躍できる人であり、そんな人が集まったバンドであることがよくわかる。ある意味ではまだそこまで大々的には知られていないスターシンガーを集めたスーパーバンドと言っていいのかもしれない。
アコースティックからの転換では物販紹介を兼ねた映像が流れるのだが、
「手を洗うのが大事なこのご時世に手を洗った時に必要になるのがハンカチ!」
と物販で販売されているハンカチを紹介するのはよくわかるし、それは
「レジ袋が有料化したこのご時世に大事なのがエコバッグ!」
と物販のエコバッグを紹介するのもわかるが、
「黒いバッグに彩りを与えるための缶バッジ!」
さらには、
「CDプレイヤーを買ったはいいけどCDがないと聴けないからCDを買おう!」
と、どんどん力押し的な物販紹介になるし、すべて
「ポケットにもカバンにもお弁当箱にも入る!」
という紹介をされているのもまたシュールなのだが、最後のCDプレイヤーで再生されたCDが「恋はケ・セラ・セラ」であり、それを今からバンドが演奏するという繋ぎはやはり見事だ。オープニングから含めてこうした映像や演出も含めて全てが一つに繋がったライブになっている。
そんな「恋はケ・セラ・セラ」では先ほどのアコースティックの聴き入りっぷりから一変して、再び合流したたくろうがスティックを合わせるように手拍子を促し、それが客席に広がっていくことによってこのバンドの「楽しい」という空気に回帰していく。前半は自身のマイクスタンドの位置がなかなか決まらずに苦慮しているようにも見えた高村もそれが決まったことによってより歌唱が伸びやかになってきた感すらあるのだが、それはメンバー全員が曲を鳴らすことによってライブの空気を掴んできていると言ってもいいだろう。キメ連発のリズムの演奏も本当に上手いと思う。
さらには上野がメインボーカルを務めることによってタイトルからも感じられる蒼さを音で、歌で表現する「青いまま」はこのバンドの持っている空気感そのもののような爽やかな曲だ。それは青春の真っ只中にこのバンドがいて、それがずっと青いまま続いていくかのような。その音や声からは上野の、このメンバーの素直で実直な人間性が滲み出ている。そんな裏のなさを感じるからこそこの曲から青さの説得力を感じさせるのだ。
そんな青さに別れはつきものであり、ここで演奏されたのは遠くに行ってしまった「君」に想いを馳せるバラード「親愛なる遠い君へ」であり、やはりこうした曲では月川とChieという女性2人のボーカルがメインとなる。この2人も曲を経るにつれてさらに歌声が伸びやかになってきているが、作詞をした月川の個人的な経験がそのまま歌詞になっているのだろうか。そう思うくらいに歌詞からも歌声からも単なる別離ではない喪失感を感じるからだ。
そしてライブはもう終盤に来ていることを高村が告げると、自身が弾くキーボードのサウンドもさらに躍動感を増すのは「陳腐なラブソングのせいにして」という凄まじいタイトルのダンスソングであるが、曲の最後のサビ前に一旦ブレイクを入れると高村が映像ではなくて実際に物販紹介をする。先ほどの映像では紹介されなかったTシャツなども紹介するのだが、
「ここで物販紹介するの絶対間違ってるよね?…まぁ俺がやるって言ったんだけど(笑)」
とセルフツッコミを入れるあたりがより楽しい雰囲気にさせてくれる。
しかしそんな高村は最後には真剣な面持ちで、
「僕らは一人一人が本当にバラバラな人間で。そんなメンバーに、バンドに向けて書いた曲を最後にやります」
と言って演奏されたのは「未来」。公開されているMVもどこかこの4人だからこその青春性を感じさせるものだったが、確かに普通ならこんなに全員が前に出れるようなメンバーだけでバンドを組まないだろう。ある意味ではこのチームには点取屋のフォワードしかいないのだから。
でもそんなバラバラで個性が強い4人がこのバンドになると自我を主張するのではなくて、このバンドのために自分の役割を全うすることができる。そうすることによってこのバンドとして伝えることができることがあるということをメンバーはきっとわかっているからだ。ただ歌が上手い人は今そこら辺探しても数え切れないくらいにいる中で、そうした歌の中に感情や想いを込めることができる歌の上手さを持った4人がこのHi Cheers!というバンドなのだ。
そうしてメンバーが演奏を終えてステージを去ると、オープニングの親子の会話が再び会場に流れる。
子「まだ聞きたいよ〜」
親「じゃあ手を叩きましょう」
というガイドによってアンコールを待つ手拍子が起こり、それが大きくなってきたところでメンバーがバンドTシャツ姿に着替えて登場。そのバンドTシャツは1枚ずつメンバーが染色して作っているという手間隙をかけたものであり、だからこそ少し印刷が上手くいかなかったものをメンバーが着ているという。
そんな物販紹介もありながらも、改めてこうして集まってくれた人たちに感謝を告げてから最後に演奏されたのは、高村が音楽に向けて作ったというメッセージを込めた「Music Goes Around」。とびきりポップなサウンドに乗せて歌われるのは
「言葉じゃきっと伝えきれないから
僕らは音に思いを乗せて
Sing it Loud
ほら Music Goes Round
楽しくなけりゃ音楽じゃなくて
そこには意味も理由もない
君の歌を僕に歌わせてくれよ」
という、自分たちがこうして音楽を鳴らし、その音楽が楽しくてポップなものになっている理由をそのまま歌った歌詞。そこには最後のフレーズにあるように集まってくれた人、聞いてくれる人のためにという思いもきっとあるはず。自分たちの歌でそうした人の人生や日常を輝かせる、楽しいものにするために。最後に最も感情を剥き出しにするような歌とキーボードを聴かせてくれた高村の姿からは確かにそんなことを感じさせたのだった。
演奏が終わるとステージ前にメンバーが並んで手を繋ぐのだが、サポートメンバーのたくろうが真ん中に来たことによって客席からは失笑も起こるのだが、
「カイサーンを演じてくれたから」
という理由でそのまま真ん中にして一礼してメンバーは去っていった。
すでに自分たちがどんなライブをやりたいか、どんなライブを作りたいかというのはまだ短いキャリアの中でも完全に定まっていると思う。これからライブを重ねていく中で歌の飛距離もライブの見せ方ももっとブラッシュアップされていくはずだけれど、そういう時にいきなりデカいステージから始まったというのではなくて、こうして手作り感すら感じられるような映像などによる小さなライブハウスから始まったというのはきっと他にかけがえのない経験になる。それはどんなことがあってもこうした場所に戻ってきてライブをすればこうした始まったばかりの時のことを思い出すことができるからだ。
自分はバンドサウンドが1番好きなだけに、このバンド以外の形でもいくらでも活動できそうな人たちがバンドという形を選んでくれたのが嬉しいし、何よりも我々の「楽しい」という感情をいろんなものから守ってくれてありがとう、ハイチーマン。
1.愛じゃない!?
2.ABCがワカラナイ
3.(not)just for show
4.ぐるぐるユニバース
5.Hello
6.SHUTTER CHANCE
7.オレンジ色の憎いアンタ
8.今夜はBE-BOP TIME
9.monologue
10.恋はケ・セラ・セラ
11.青いまま
12.親愛なる遠い君へ
13.陳腐なラブソングのせいにして
14.未来
encore
15.Music Goes Around
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