MASH A&R pre. 『Treasure Tour』 出演:Panorama Panama Town / YAJICO GIRL / ユレニワ / Mercy Woodpecker @TSUTAYA O-Crest 11/11
- 2022/11/12
- 16:39
これまでにTHE ORAL CIGARETTESやフレデリック、LAMP IN TERRENなどを輩出してきたオーディション企画、MASH A&R。その中でもこのオーディションをきっかけに世に出てきた若手バンドたちによるライブツアーが開催。
Panorama Panama Town
YAJICO GIRL
ユレニワ
のキャリアを重ねてきた3組に加えてMercy Woodpeckerという若手バンドを加えた4組でのツアーのファイナルがこの日のTSUTAYA O-Crestであり、ファイナルらしく生配信も行われている。
しかし仕事で開演時間の18時30分に間に合わず、ぎっしり人で埋まったO-CrestではすでにMercy Woodpeckerがライブをしており、時間的にも空気的にも最後の曲の前だと思われるMCで
「2019年のMASH A&Rに出て。でもグランプリは取れなかった。正直に言うと…本当にすいません、正直に言います。なんでグランプリじゃないんだって思った。100%を出し切れた自信があったから。
でも負けたバンドとしてここに立ってるわけじゃない。俺たちを好きでいてくれる人がいたからオーディションライブに出れて。そこで好きになってくれた人がいるからこうして今日出れているのをわかってるから」
というMCは本当に包み隠さずに己の思いを打ち明けたものであり、そんな正直さ、実直さが最後に演奏された「日陰に咲く」の、この事務所でこれだけストレートなギターロックというのは実は珍しいというか、それだけで武器になるんじゃないだろうかと思った。それはもちろんその曲に自分たちの存在証明的な思いがこれでもかというくらいに乗っかっていたからだ。
・ユレニワ
コロナ禍になる前に渋谷のライブハウスでのサーキットイベントでライブを見たことがある、ユレニワ。まだデビュー当時、つまりはMASHのオーディションで名を知られたばかりのタイミングだったと思うが、千葉県出身のバンドという情報が引っかかったのもあった。それは千葉駅に張り出されているイベントのポスターなどにも名前が載っていたバンドだったからだ。
それから何年か越しでの邂逅となるこの日のライブは、SEが鳴ってメンバーが登場すると、サングラスをかけてGジャンを着たシロナカムラ(ボーカル&ギター)、爽やかなイケメンと言っていいようなタイプの種谷佳輝(ギター)、逆に家でベースばかり触ってそうに見える宮下レジナルド(ベース)の3人がステージ前から客席に乗り出さんとするくらいにノリノリで手を叩きまくる。
その時点で「こんなノリのバンドだったっけ?」と思ったのであるが、種谷がキーボードから曲中にギターに変わるという「まぼろしの夜に」で始まると、RENJU(ドラム)がMy Bloody Valentine「loveless」のTシャツを着ていることからもわかる通りにシューゲイザーをルーツに持つバンドであり、それを自分たちなりの轟音かつノイジーなギターサウンドに昇華していることがよくわかるのだが、シューゲイザーなどの音楽はその「靴を凝視する」というスタイル名からわかるように内省的な音楽であるのだが、このバンドはそんなサウンドを溌剌とした情熱を持って鳴らす。
それはシロがハンドマイクで観客に接近して歌う「恋人たちのヒム」もそうであるのだが、そうしたシューゲイザー的なサウンドかと思ったら急激にロックンロール的に展開したりと、1曲の中での展開が実に忙しない。その展開によって種谷と宮下も暴れ回るように楽器を鳴らしており、やっぱり「こんな感じだったっけ!?」と前に見た時のイメージからはかけ離れたバンドになっている。それが紛れもなく進化しているということもすぐにわかる。
そんなバンドの状況をシロは
「今度CLUB QUATTROでワンマンをやるんですけど、チケットを売る手段が手売りしかなくて。手売りって地道にやらなきゃいけないじゃないですか。だからその手売りチケットを買うと参加できるオープンチャットがあって、そこでだけ聴ける新曲を作りました。SNSのやり方下手くそかよ!閉じる方にばっかり行ってる(笑)」
とセルフツッコミを入れるのであるが、その新曲である「ひかりにひかれて」が、逆光の照明も相まってまさに光に向かっていくかのような輝きを持った曲になっている。こんな一聴してわかるような新曲をわざわざそんな閉じた形で公開したというのは、やっぱりライブに来てくれる人に対して何かを返したい、それは自分たちの最高の音楽であるべきだという思いによるものだろう。そう考えるとこの売り方は閉じているわけじゃなくて、わざわざ時間とお金を使って自分たちが立つ場所まで会いに来てくれる人への思いに溢れたものであることがわかる。世の中の流れからは逆行しているかもしれないけれど、この手法や選択を自分はこの上なくロックだと思っている。
そんなあらゆる意味で展開が激しい、まるでジェットコースターみたいなライブが一旦落ち着くのはバラード曲と言っていいような歌モノの「bianca」であるのだが、その曲タイトルから想起する存在はどうしてもドラゴンクエストVの主人公の幼なじみであり花嫁候補のビアンカである。サウンド的にここまでの曲の中では最もスッと耳に入ってくる歌詞的にはきっとそこよりも映画の登場人物から着想を得ているような感じもするのだが、個人的に聴いているとドラクエVがやりたくなってくる曲No.1である。
そんな歌詞を書いたシロはこのツアーのタイトルである「Treasure」について、
「宝物っていう意味で、自分にとっての宝物って何だろうって考えて、このツアーで毎回クサイこと言ってきたんだけど、やっぱり俺たちにとっての宝物はここにいてくれる、こうしてライブに来てくれるみんななんだ」
と語る。その語り口もどこかロックスターとしてのオーラを纏っているかのように感じさせるのであるが、そうしたボーカルに、バンドになれているからこそ最後の照明が激しく明滅する中で演奏された「Birthday」の轟音と、種谷の激しく頭を振りながら掻き鳴らすギターサウンド、宮下のうねりまくるベース、RENJUのタイトなドラム、そしてロックスター感もありながらもどこか3枚目な感じもしてしまうシロのボーカルが、ユレニワが自分が持っていたかつてのイメージよりも圧倒的にカッコいいバンドになっているということを証明していた。こんなに良いバンドになっていたなんて、と思うからこそ、これからはもっと頻繁にライブを見るバンドになるはずだ。
1.まぼろしの夜に
2.恋人たちのヒム
3.ひかりにひかれて
4.bianca
5.Birthday
・YAJICO GIRL
こちらもフェスのオープニングアクトなどで少しライブを見たことがある、YAJICO GIRL。ユレニワほど間が空いている感じはないけれど、それでも久しぶりに見るライブである。
ステージの上手、榎本陸(エキセントリックパフォーマー)の前には「Indoor Newtown Collective」というバンドのことを示す文字が光る中でメンバーが登場して神聖かつ浮遊感のある同期も含めたサウンドが鳴ると、バンドのアートワークも担う古谷駿(ドラム)とコーラスとして曲に彩りを与える武志綜真(ベース)がリズムを刻み始め、軽やかにステージに現れた、出で立ちからしてオシャレな四方颯人(ボーカル)の歌唱も含めて実にシティポップと呼びたくなるようなサウンドである。そんなオシャレなサウンドなのに歌詞は睡眠欲を素直すぎるくらい素直に言葉にした「寝たいんだ」という曲で始まるというのにはどことなくオシャレさとは少し違うユーモアを感じるのは大阪のバンドだからだろうか。
その四方はハンドマイクを持ち、決して広いわけではないこのO-Crestのステージ上を歩き回りながら歌うのであるが、「Better」や「雑談」でのそれはもはや踊りながら歌っていると言ってもいいレベルのものであり、だからこそシティポップという観客が体を揺らすという楽しみ方をしがちなライブでも観客がガンガン踊る。それは明らかに体を揺らすというレベルを超えているし、四方が誰よりも解放的に踊っているからこそ、その楽しさが客席に伝わっているのがよくわかる。
「今日はガンガン曲をやっていこうと思ってるので」
と、榎本の前の機材が自在に同期の音を変化させつつ、デジタルコーラス的な音すらも四方のボーカルに絡み合う「VIDEO GIRL」ではエレクトロの要素も取り入れたダンスポップと言ってもいいサウンドであり、なんならシティポップバンドというよりもダンスバンドと言いたくなるくらいだ。
しかしリリースされたばかりの、このバンドが掲げる「Newtown」というテーマに即した「美しき街」は夜の街の景色が脳内にすぐに想起される曲であり、そのサウンドに合わせた深く青い照明もそのムードを引き立てている。メンバーとは育った場所・地域は全く異なるけれど、自分もいわゆるニュータウンと呼ばれる街で育っただけに、自分がかつて住んでいた街や、そこが自分が離れてから開発されて高層マンションが立ち並ぶようになったのを見た時の少しの寂寞感も感じさせる。それはサウンドはもちろんJ-POP的と言っていいくらいにメロディーがキャッチー極まりないからであろう。
しかしそんなこのバンドがただなんとなく良いムードに浸らせるだけのバンドではなくて、ライブハウスで育ってきたロックバンドとしての素養も持ち合わせていることを示すのが、鮮やかな金髪が最もキッズ的に見える吉見和起(ギター)が前に出てきてギターを弾きまくる「Airride」から感じられる。こうした多様なサウンドを持っているバンドだからこそ、短い持ち時間の中でもたくさんの曲を演奏しようとしたことがよくわかる。
しかしここで四方は
「大阪の高校でこの5人でこのバンドを組んでから10年経った」
と、このバンドの実は長い歴史を口にすると、そのこの5人のバンドということを意識して作った大事な曲だという「FIVE」を演奏するのだが、それまでは踊りながら歌っているように見えた四方もこの曲ではマイクスタンドを使って歌に全ての力を注ぐ。だからこそその歌の上手さによってこの曲のメッセージが胸の奥にまで突き刺さってくる。ただこの5人でこうしてバンドをやっているということが1番大事なんだという思いを持っていることが確かにわかる。
そんな5人が最後に演奏したのは最新曲である、タイトルが孕む怖さというよりもどこかマリオのテレサ的なポップな存在として感じられるような「幽霊」であるのだが、「美しき街」などを聴いていると浮かぶ情景は夜の街並みだったりするが、この曲なんかはまさに今ここというライブハウスの情景が1番このバンドに合っているように感じる。
正直言って自分はシティポップと形容されるようなバンドの音楽が苦手だったりすることも多いのだが、このバンドからは全くそうは感じなかったのはそうしたライブハウスの匂いがするバンドだからなんだと思った。そしてそれはこのバンドが所属するMASHの先輩バンドたちから脈々と受け継がれているということも。
1.寝たいんだ
2.Better
3.雑談
4.VIDEO BOY
5.美しき街
6.Airride
7.FIVE
8.幽霊
・Panorama Panama Town
そしてトリを務めるのは最近は毎月のようにライブを見ている存在である、Panorama Panama Townである。ある意味では自分がこの日このライブに来た理由とも言える存在であるが、そんなバンドがこのツアーのファイナルのトリ、つまりは本当にこのツアーの最後のライブを行うのである。
おなじみのSuede「Beautiful Ones」のSEでメンバーが登場すると、ストレートなギターロックと言えるような新曲「Knock」でスタートするのであるが、ストレートだからこそそこに乗る熱さがよくわかる。つまりは気合いが漲りまくっているということであるのだが、扉をノックするというこの曲のメッセージがこうして自分たちより若手のバンドたちに混ざってこのツアーに参加してきたこのバンドの心境そのままのように響く。サングラスをかけたタノアキヒコ(ベース)のリズムもグルーヴィーにうねりまくっている。
「はじめまして、Panorama Panama Townです」
と岩渕想太(ボーカル&ギター)が挨拶すると、イントロのバンドの音を合わせるような演奏からして熱量が溢れまくって音や姿に現れている「100yen coffee」という昨年リリースのアルバム「Faces」の曲がこうしたライブハウスで鳴らされ続けたことによって驚異的とも言える進化を遂げたことがよくわかる。長身でギターを弾きながら歌う岩渕の姿は実にスマートであるが、歌唱や思いっきり体を振るようにするギターはむしろ泥臭くすら見える。そこにポーカーフェイスな浪越康平(ギター)とすでに汗を飛び散らせているタノ、さらにはサポートドラマーのオオミハヤトまでもがタイトルフレーズでコーラスを重ねる。そのコーラスのトーンの低さと岩渕の熱量溢れるボーカルのコントラストが情熱とクールさを同時に湛えている。
すると岩渕が
「ほっといてくれ!」
と叫んでスタートしたのはパノパナのグルーヴィーなミクスチャーロック「フカンショウ」。まるでレッチリのごときと言っても全く言い過ぎではないと思っているが、元から爆発力を持っていたこの曲も「Faces」のクールさをライブハウスだからこその熱量を持って響かせることができるようになったからこそ、さらなる熱さを獲得している。それは腕を振り上げて飛び跳ねまくる観客の姿を見ていてよくわかるし、やはりキャリア、人気、ライブ力のどれもがこの日の中では飛び抜けている。
「調子どうっすか?楽しんでますか?」
と岩渕が問いかけると、この曲がこんなに熱くなるとは!と音源のイメージとはイントロから一変している「Faceless」で岩渕のラップではないけれど単語と単語の韻を重視したであろう歌詞のリズム感とオオミの手数を抑えたタイトなドラムがグルーヴを生み出し、それはまさに「頭が揺れる」という歌詞通りにクセにならざるを得ない印象的なギターリフを生み出しまくる浪越のギターによる「Strange Days」もそうであるが、
「忘れちゃってた風景
失くしかけてた情熱
それは心臓に刺さった棘のようで
君と出会ってしまって
走り出したストーリー
分からないやつなんて全部放っといて」
というコロナ禍を経験してもなお走り続けようとするバンドの意思を示したサビではやはりその思いに呼応するかのようにたくさんの人が腕を上げる。他のバンドを見に来た人もたくさんいただろうけど、そんな人たちをも全て巻き込んでしまうくらいのグルーヴである。
しかし岩渕は
「このツアーやることになって、なんで他のバンドよりも年上の俺たちが入っているんだろうって思ってたんだけど、ツアーが始まってみたら俺はYAJICOとユレニワのことが大好きだなってライブ見てて思った。このバンドたちはもっとデカくなるなって思ってる。
Treasure TourっていうタイトルなんでそれぞれのTreasureって何だろうなと思ったんだけど、俺はそれぞれのバンドだと思ってる。そのバンドがあるからこういうツアーができて、そこに集まってくれる人がいる」
とこのツアーのことを語るのだが、その語りからも1番の先輩、さらにはトリを務めるバンドとしての意気と責任感を感じさせる。
そんな言葉の後に演奏された、やはり浪越の刻むギターリフがクセになる「King's Eye」では岩渕が
「踊ろうぜー!」
と言って激しい演奏のイントロが追加され、音源としてはクールさを感じさせていたこの曲が完全に熱いライブアンセムへと変貌している。下北沢での対バンイベントなどライブを重ねまくってきたことによる進化と変化がこの曲を始めとした「Faces」の曲をライブで演奏すると感じられる。なんなら「Faces」の曲たちを今のライブバージョンで録音してリリースして欲しいくらいの凄まじさである。
その「King's Eye」での熱さがミクスチャー的なサウンドへと変換される「世界最後になる歌は」ではもう飛び跳ねざるを得ないくらいの凄まじいグルーヴが会場を支配する。岩渕の歌唱時の動きも軽やかでありながらも力強さがあり、タノのうねりまくるベースはまさにグルーヴの申し子と言っていいくらいのレベルだ。かつてフェスなどでもよく演奏されていた曲でもあるけれど、今この曲をそうした場所で演奏したら絶対にたくさんの観客を掴めると思う。そう思うだけに、今こそこのバンドにいろんなフェスに出演して欲しいと思うのだ。
「世界最後になる歌はこんなもんでは伝わらないかもしれない」
と歌っているこの歌が今こそ伝わるべきだと思っているからこそ。
そして最後に演奏されたのはイントロのタノとオオミによるリズムのグルーヴからして、後輩たちに刺激されたことでさらに熱くなっていることがわかる「MOMO」。それを音だけではなくパフォーマンスでも示すかのように岩渕、浪越、タノがステージ最前の柵から客席に身を乗り出そうとするくらいに前のめりになって音を鳴らす。
演奏後に自分の前にいたパノパナファンであろう人が「なんか凄い感動しちゃった」と言っていたが、何回もライブを見てきた人にもそう思わせるくらいのパフォーマンスだったということだ。この日BGMとして流れていた曲に観客がノッてしまうくらいに強いオーラルやフレデリック、あるいは客席に松本大が見にきていたLAMP IN TERRENら、凄い先輩たちが上を見ればたくさんいる。でもこのツアーでパノパナが示したのは、自分たちも後輩にとってはそうした存在のバンドであるということだ。
自分のツイートやライブレポを見てくれている人がそれなりにいるのならば、このバンドの音楽やライブに今こそ触れて欲しいと思う。それくらいに、自分に影響力が少しでもあるのならばこのバンドに使いたいとすら思えるくらいに素晴らしいライブだった。そうしたライブができるバンドにパノパナはなったのだ。
しかしそれだけでは終わらず、アンコールでは岩渕が
「パノパナだけでやろうとも思ったけど、せっかくみんなで回ってきたツアーだから。ユレニワの好きな曲をやりたいと思います」
と言って呼び込んだのはシロナカムラで、岩渕とシロの2人の歌唱で「Cherie」を歌う。ロックンロール的なサウンドはパノパナの演奏としても実によく似合うものだけれど、シロは本当に気持ち良さそうに声を張り上げていた姿からも、本当にパノパナをリスペクトしていることがよくわかるし、パノパナの新曲としてリリースしてもいいくらいにハマっていた演奏からは、パノパナもまたユレニワのことが大好きなことが伝わってくる。岩渕はユレニワを
「昔の俺たちを見ているみたいだ」
と評していたけれど、そんなバンド同士だからこそ伝えられること、教えられることが確かにあるはずだし、またこうして一緒にライブをやる機会だっていくらでもあるはずだ。
そうしてユレニワのカバーを本人とのコラボで演奏した後にはもちろんYAJICO GIRLの四方を入れ替わりでステージに呼び込む。お互いにMASHに入る前からという長い付き合いである両者だからこそ、曲ができた時に四方が岩渕に送ったという「FIVE」をカバーし、やはり2人で歌うのだがパノパナに四方が加わったことで5人になった演奏はYAJICO GIRLのことを歌った曲がパノパナとYAJICO双方の曲であるかのようだ。なかなかパノパナではやらないタイプの曲であるだけに浪越はギターの入りを盛大にミスったことを後で陳謝していたが、そもそもこうした全く違うタイプの曲を容易く演奏できるあたりにパノパナのバンドとしての技術の高さを感じざるを得ない。
そうしたコラボの果ては、なんと浪越に代わってユレニワの種谷が、タノに代わってYAJICO GIRLの武志が参加したスペシャルバンドでの、
「今日ここに来た人、いい趣味してるね」
と言って演奏された「いい趣味してるね」で、頭を振りまくったりしながらギターを弾きまくる種谷は本当にパノパナのことが好きなことがわかるくらいにこの曲を自分のものにしている。その姿は常に見た目が一定の浪越とは真逆であるというのも面白いのだが、一方の武志はこんなロックなベースを弾ける人だったのか、と思うくらいにYAJICOとは全く違う太く強いベースを鳴らす。それはそのままYAJICOのルーツにロックがあるということを示していたのだが、こうして後輩を自分たちのライブに呼んで一緒に演奏するという懐の深さに、今のパノパナが後輩にとってどんな先輩なのかということを感じざるを得なかった。今年は主催フェスも開催したけれど、こうしたコラボを見るとそうしたフェスをやるべきバンドだと思う。他のバンドへの愛を持ち、愛されるバンドとして。
演奏終了後の出演者全員集合の写真撮影ももちろん1番先輩のパノパナの岩渕仕切りで執り行われたのだが、生配信があったこの日でもアンコールのライブからは配信されなかったという。岩渕はそれを
「やっぱり目の前に来てくれる、ライブハウスに来てくれる人が1番大事だから」
と言っていた。こうしたバンドたちの存在やライブハウスの存在が我々にとってのTreasureであり、全国に数え切れないほどたくさんあるライブハウスでは毎日のようにこうした楽しいライブが行われている。このTreasure Tourはそれを今一度示そうとしていたんじゃないかと思った。
1.Knock
2.100yen coffee
3.フカンショウ
4.Faceless
5.Strange Days
6.King's Eye
7.世界最後になる歌は
8.MOMO
encore
9.Cherie w/ シロナカムラ(ユレニワ)
10.FIVE w/ 四方颯人 (YAJICO GIRL)
11.いい趣味してるね
Panorama Panama Town
YAJICO GIRL
ユレニワ
のキャリアを重ねてきた3組に加えてMercy Woodpeckerという若手バンドを加えた4組でのツアーのファイナルがこの日のTSUTAYA O-Crestであり、ファイナルらしく生配信も行われている。
しかし仕事で開演時間の18時30分に間に合わず、ぎっしり人で埋まったO-CrestではすでにMercy Woodpeckerがライブをしており、時間的にも空気的にも最後の曲の前だと思われるMCで
「2019年のMASH A&Rに出て。でもグランプリは取れなかった。正直に言うと…本当にすいません、正直に言います。なんでグランプリじゃないんだって思った。100%を出し切れた自信があったから。
でも負けたバンドとしてここに立ってるわけじゃない。俺たちを好きでいてくれる人がいたからオーディションライブに出れて。そこで好きになってくれた人がいるからこうして今日出れているのをわかってるから」
というMCは本当に包み隠さずに己の思いを打ち明けたものであり、そんな正直さ、実直さが最後に演奏された「日陰に咲く」の、この事務所でこれだけストレートなギターロックというのは実は珍しいというか、それだけで武器になるんじゃないだろうかと思った。それはもちろんその曲に自分たちの存在証明的な思いがこれでもかというくらいに乗っかっていたからだ。
・ユレニワ
コロナ禍になる前に渋谷のライブハウスでのサーキットイベントでライブを見たことがある、ユレニワ。まだデビュー当時、つまりはMASHのオーディションで名を知られたばかりのタイミングだったと思うが、千葉県出身のバンドという情報が引っかかったのもあった。それは千葉駅に張り出されているイベントのポスターなどにも名前が載っていたバンドだったからだ。
それから何年か越しでの邂逅となるこの日のライブは、SEが鳴ってメンバーが登場すると、サングラスをかけてGジャンを着たシロナカムラ(ボーカル&ギター)、爽やかなイケメンと言っていいようなタイプの種谷佳輝(ギター)、逆に家でベースばかり触ってそうに見える宮下レジナルド(ベース)の3人がステージ前から客席に乗り出さんとするくらいにノリノリで手を叩きまくる。
その時点で「こんなノリのバンドだったっけ?」と思ったのであるが、種谷がキーボードから曲中にギターに変わるという「まぼろしの夜に」で始まると、RENJU(ドラム)がMy Bloody Valentine「loveless」のTシャツを着ていることからもわかる通りにシューゲイザーをルーツに持つバンドであり、それを自分たちなりの轟音かつノイジーなギターサウンドに昇華していることがよくわかるのだが、シューゲイザーなどの音楽はその「靴を凝視する」というスタイル名からわかるように内省的な音楽であるのだが、このバンドはそんなサウンドを溌剌とした情熱を持って鳴らす。
それはシロがハンドマイクで観客に接近して歌う「恋人たちのヒム」もそうであるのだが、そうしたシューゲイザー的なサウンドかと思ったら急激にロックンロール的に展開したりと、1曲の中での展開が実に忙しない。その展開によって種谷と宮下も暴れ回るように楽器を鳴らしており、やっぱり「こんな感じだったっけ!?」と前に見た時のイメージからはかけ離れたバンドになっている。それが紛れもなく進化しているということもすぐにわかる。
そんなバンドの状況をシロは
「今度CLUB QUATTROでワンマンをやるんですけど、チケットを売る手段が手売りしかなくて。手売りって地道にやらなきゃいけないじゃないですか。だからその手売りチケットを買うと参加できるオープンチャットがあって、そこでだけ聴ける新曲を作りました。SNSのやり方下手くそかよ!閉じる方にばっかり行ってる(笑)」
とセルフツッコミを入れるのであるが、その新曲である「ひかりにひかれて」が、逆光の照明も相まってまさに光に向かっていくかのような輝きを持った曲になっている。こんな一聴してわかるような新曲をわざわざそんな閉じた形で公開したというのは、やっぱりライブに来てくれる人に対して何かを返したい、それは自分たちの最高の音楽であるべきだという思いによるものだろう。そう考えるとこの売り方は閉じているわけじゃなくて、わざわざ時間とお金を使って自分たちが立つ場所まで会いに来てくれる人への思いに溢れたものであることがわかる。世の中の流れからは逆行しているかもしれないけれど、この手法や選択を自分はこの上なくロックだと思っている。
そんなあらゆる意味で展開が激しい、まるでジェットコースターみたいなライブが一旦落ち着くのはバラード曲と言っていいような歌モノの「bianca」であるのだが、その曲タイトルから想起する存在はどうしてもドラゴンクエストVの主人公の幼なじみであり花嫁候補のビアンカである。サウンド的にここまでの曲の中では最もスッと耳に入ってくる歌詞的にはきっとそこよりも映画の登場人物から着想を得ているような感じもするのだが、個人的に聴いているとドラクエVがやりたくなってくる曲No.1である。
そんな歌詞を書いたシロはこのツアーのタイトルである「Treasure」について、
「宝物っていう意味で、自分にとっての宝物って何だろうって考えて、このツアーで毎回クサイこと言ってきたんだけど、やっぱり俺たちにとっての宝物はここにいてくれる、こうしてライブに来てくれるみんななんだ」
と語る。その語り口もどこかロックスターとしてのオーラを纏っているかのように感じさせるのであるが、そうしたボーカルに、バンドになれているからこそ最後の照明が激しく明滅する中で演奏された「Birthday」の轟音と、種谷の激しく頭を振りながら掻き鳴らすギターサウンド、宮下のうねりまくるベース、RENJUのタイトなドラム、そしてロックスター感もありながらもどこか3枚目な感じもしてしまうシロのボーカルが、ユレニワが自分が持っていたかつてのイメージよりも圧倒的にカッコいいバンドになっているということを証明していた。こんなに良いバンドになっていたなんて、と思うからこそ、これからはもっと頻繁にライブを見るバンドになるはずだ。
1.まぼろしの夜に
2.恋人たちのヒム
3.ひかりにひかれて
4.bianca
5.Birthday
・YAJICO GIRL
こちらもフェスのオープニングアクトなどで少しライブを見たことがある、YAJICO GIRL。ユレニワほど間が空いている感じはないけれど、それでも久しぶりに見るライブである。
ステージの上手、榎本陸(エキセントリックパフォーマー)の前には「Indoor Newtown Collective」というバンドのことを示す文字が光る中でメンバーが登場して神聖かつ浮遊感のある同期も含めたサウンドが鳴ると、バンドのアートワークも担う古谷駿(ドラム)とコーラスとして曲に彩りを与える武志綜真(ベース)がリズムを刻み始め、軽やかにステージに現れた、出で立ちからしてオシャレな四方颯人(ボーカル)の歌唱も含めて実にシティポップと呼びたくなるようなサウンドである。そんなオシャレなサウンドなのに歌詞は睡眠欲を素直すぎるくらい素直に言葉にした「寝たいんだ」という曲で始まるというのにはどことなくオシャレさとは少し違うユーモアを感じるのは大阪のバンドだからだろうか。
その四方はハンドマイクを持ち、決して広いわけではないこのO-Crestのステージ上を歩き回りながら歌うのであるが、「Better」や「雑談」でのそれはもはや踊りながら歌っていると言ってもいいレベルのものであり、だからこそシティポップという観客が体を揺らすという楽しみ方をしがちなライブでも観客がガンガン踊る。それは明らかに体を揺らすというレベルを超えているし、四方が誰よりも解放的に踊っているからこそ、その楽しさが客席に伝わっているのがよくわかる。
「今日はガンガン曲をやっていこうと思ってるので」
と、榎本の前の機材が自在に同期の音を変化させつつ、デジタルコーラス的な音すらも四方のボーカルに絡み合う「VIDEO GIRL」ではエレクトロの要素も取り入れたダンスポップと言ってもいいサウンドであり、なんならシティポップバンドというよりもダンスバンドと言いたくなるくらいだ。
しかしリリースされたばかりの、このバンドが掲げる「Newtown」というテーマに即した「美しき街」は夜の街の景色が脳内にすぐに想起される曲であり、そのサウンドに合わせた深く青い照明もそのムードを引き立てている。メンバーとは育った場所・地域は全く異なるけれど、自分もいわゆるニュータウンと呼ばれる街で育っただけに、自分がかつて住んでいた街や、そこが自分が離れてから開発されて高層マンションが立ち並ぶようになったのを見た時の少しの寂寞感も感じさせる。それはサウンドはもちろんJ-POP的と言っていいくらいにメロディーがキャッチー極まりないからであろう。
しかしそんなこのバンドがただなんとなく良いムードに浸らせるだけのバンドではなくて、ライブハウスで育ってきたロックバンドとしての素養も持ち合わせていることを示すのが、鮮やかな金髪が最もキッズ的に見える吉見和起(ギター)が前に出てきてギターを弾きまくる「Airride」から感じられる。こうした多様なサウンドを持っているバンドだからこそ、短い持ち時間の中でもたくさんの曲を演奏しようとしたことがよくわかる。
しかしここで四方は
「大阪の高校でこの5人でこのバンドを組んでから10年経った」
と、このバンドの実は長い歴史を口にすると、そのこの5人のバンドということを意識して作った大事な曲だという「FIVE」を演奏するのだが、それまでは踊りながら歌っているように見えた四方もこの曲ではマイクスタンドを使って歌に全ての力を注ぐ。だからこそその歌の上手さによってこの曲のメッセージが胸の奥にまで突き刺さってくる。ただこの5人でこうしてバンドをやっているということが1番大事なんだという思いを持っていることが確かにわかる。
そんな5人が最後に演奏したのは最新曲である、タイトルが孕む怖さというよりもどこかマリオのテレサ的なポップな存在として感じられるような「幽霊」であるのだが、「美しき街」などを聴いていると浮かぶ情景は夜の街並みだったりするが、この曲なんかはまさに今ここというライブハウスの情景が1番このバンドに合っているように感じる。
正直言って自分はシティポップと形容されるようなバンドの音楽が苦手だったりすることも多いのだが、このバンドからは全くそうは感じなかったのはそうしたライブハウスの匂いがするバンドだからなんだと思った。そしてそれはこのバンドが所属するMASHの先輩バンドたちから脈々と受け継がれているということも。
1.寝たいんだ
2.Better
3.雑談
4.VIDEO BOY
5.美しき街
6.Airride
7.FIVE
8.幽霊
・Panorama Panama Town
そしてトリを務めるのは最近は毎月のようにライブを見ている存在である、Panorama Panama Townである。ある意味では自分がこの日このライブに来た理由とも言える存在であるが、そんなバンドがこのツアーのファイナルのトリ、つまりは本当にこのツアーの最後のライブを行うのである。
おなじみのSuede「Beautiful Ones」のSEでメンバーが登場すると、ストレートなギターロックと言えるような新曲「Knock」でスタートするのであるが、ストレートだからこそそこに乗る熱さがよくわかる。つまりは気合いが漲りまくっているということであるのだが、扉をノックするというこの曲のメッセージがこうして自分たちより若手のバンドたちに混ざってこのツアーに参加してきたこのバンドの心境そのままのように響く。サングラスをかけたタノアキヒコ(ベース)のリズムもグルーヴィーにうねりまくっている。
「はじめまして、Panorama Panama Townです」
と岩渕想太(ボーカル&ギター)が挨拶すると、イントロのバンドの音を合わせるような演奏からして熱量が溢れまくって音や姿に現れている「100yen coffee」という昨年リリースのアルバム「Faces」の曲がこうしたライブハウスで鳴らされ続けたことによって驚異的とも言える進化を遂げたことがよくわかる。長身でギターを弾きながら歌う岩渕の姿は実にスマートであるが、歌唱や思いっきり体を振るようにするギターはむしろ泥臭くすら見える。そこにポーカーフェイスな浪越康平(ギター)とすでに汗を飛び散らせているタノ、さらにはサポートドラマーのオオミハヤトまでもがタイトルフレーズでコーラスを重ねる。そのコーラスのトーンの低さと岩渕の熱量溢れるボーカルのコントラストが情熱とクールさを同時に湛えている。
すると岩渕が
「ほっといてくれ!」
と叫んでスタートしたのはパノパナのグルーヴィーなミクスチャーロック「フカンショウ」。まるでレッチリのごときと言っても全く言い過ぎではないと思っているが、元から爆発力を持っていたこの曲も「Faces」のクールさをライブハウスだからこその熱量を持って響かせることができるようになったからこそ、さらなる熱さを獲得している。それは腕を振り上げて飛び跳ねまくる観客の姿を見ていてよくわかるし、やはりキャリア、人気、ライブ力のどれもがこの日の中では飛び抜けている。
「調子どうっすか?楽しんでますか?」
と岩渕が問いかけると、この曲がこんなに熱くなるとは!と音源のイメージとはイントロから一変している「Faceless」で岩渕のラップではないけれど単語と単語の韻を重視したであろう歌詞のリズム感とオオミの手数を抑えたタイトなドラムがグルーヴを生み出し、それはまさに「頭が揺れる」という歌詞通りにクセにならざるを得ない印象的なギターリフを生み出しまくる浪越のギターによる「Strange Days」もそうであるが、
「忘れちゃってた風景
失くしかけてた情熱
それは心臓に刺さった棘のようで
君と出会ってしまって
走り出したストーリー
分からないやつなんて全部放っといて」
というコロナ禍を経験してもなお走り続けようとするバンドの意思を示したサビではやはりその思いに呼応するかのようにたくさんの人が腕を上げる。他のバンドを見に来た人もたくさんいただろうけど、そんな人たちをも全て巻き込んでしまうくらいのグルーヴである。
しかし岩渕は
「このツアーやることになって、なんで他のバンドよりも年上の俺たちが入っているんだろうって思ってたんだけど、ツアーが始まってみたら俺はYAJICOとユレニワのことが大好きだなってライブ見てて思った。このバンドたちはもっとデカくなるなって思ってる。
Treasure TourっていうタイトルなんでそれぞれのTreasureって何だろうなと思ったんだけど、俺はそれぞれのバンドだと思ってる。そのバンドがあるからこういうツアーができて、そこに集まってくれる人がいる」
とこのツアーのことを語るのだが、その語りからも1番の先輩、さらにはトリを務めるバンドとしての意気と責任感を感じさせる。
そんな言葉の後に演奏された、やはり浪越の刻むギターリフがクセになる「King's Eye」では岩渕が
「踊ろうぜー!」
と言って激しい演奏のイントロが追加され、音源としてはクールさを感じさせていたこの曲が完全に熱いライブアンセムへと変貌している。下北沢での対バンイベントなどライブを重ねまくってきたことによる進化と変化がこの曲を始めとした「Faces」の曲をライブで演奏すると感じられる。なんなら「Faces」の曲たちを今のライブバージョンで録音してリリースして欲しいくらいの凄まじさである。
その「King's Eye」での熱さがミクスチャー的なサウンドへと変換される「世界最後になる歌は」ではもう飛び跳ねざるを得ないくらいの凄まじいグルーヴが会場を支配する。岩渕の歌唱時の動きも軽やかでありながらも力強さがあり、タノのうねりまくるベースはまさにグルーヴの申し子と言っていいくらいのレベルだ。かつてフェスなどでもよく演奏されていた曲でもあるけれど、今この曲をそうした場所で演奏したら絶対にたくさんの観客を掴めると思う。そう思うだけに、今こそこのバンドにいろんなフェスに出演して欲しいと思うのだ。
「世界最後になる歌はこんなもんでは伝わらないかもしれない」
と歌っているこの歌が今こそ伝わるべきだと思っているからこそ。
そして最後に演奏されたのはイントロのタノとオオミによるリズムのグルーヴからして、後輩たちに刺激されたことでさらに熱くなっていることがわかる「MOMO」。それを音だけではなくパフォーマンスでも示すかのように岩渕、浪越、タノがステージ最前の柵から客席に身を乗り出そうとするくらいに前のめりになって音を鳴らす。
演奏後に自分の前にいたパノパナファンであろう人が「なんか凄い感動しちゃった」と言っていたが、何回もライブを見てきた人にもそう思わせるくらいのパフォーマンスだったということだ。この日BGMとして流れていた曲に観客がノッてしまうくらいに強いオーラルやフレデリック、あるいは客席に松本大が見にきていたLAMP IN TERRENら、凄い先輩たちが上を見ればたくさんいる。でもこのツアーでパノパナが示したのは、自分たちも後輩にとってはそうした存在のバンドであるということだ。
自分のツイートやライブレポを見てくれている人がそれなりにいるのならば、このバンドの音楽やライブに今こそ触れて欲しいと思う。それくらいに、自分に影響力が少しでもあるのならばこのバンドに使いたいとすら思えるくらいに素晴らしいライブだった。そうしたライブができるバンドにパノパナはなったのだ。
しかしそれだけでは終わらず、アンコールでは岩渕が
「パノパナだけでやろうとも思ったけど、せっかくみんなで回ってきたツアーだから。ユレニワの好きな曲をやりたいと思います」
と言って呼び込んだのはシロナカムラで、岩渕とシロの2人の歌唱で「Cherie」を歌う。ロックンロール的なサウンドはパノパナの演奏としても実によく似合うものだけれど、シロは本当に気持ち良さそうに声を張り上げていた姿からも、本当にパノパナをリスペクトしていることがよくわかるし、パノパナの新曲としてリリースしてもいいくらいにハマっていた演奏からは、パノパナもまたユレニワのことが大好きなことが伝わってくる。岩渕はユレニワを
「昔の俺たちを見ているみたいだ」
と評していたけれど、そんなバンド同士だからこそ伝えられること、教えられることが確かにあるはずだし、またこうして一緒にライブをやる機会だっていくらでもあるはずだ。
そうしてユレニワのカバーを本人とのコラボで演奏した後にはもちろんYAJICO GIRLの四方を入れ替わりでステージに呼び込む。お互いにMASHに入る前からという長い付き合いである両者だからこそ、曲ができた時に四方が岩渕に送ったという「FIVE」をカバーし、やはり2人で歌うのだがパノパナに四方が加わったことで5人になった演奏はYAJICO GIRLのことを歌った曲がパノパナとYAJICO双方の曲であるかのようだ。なかなかパノパナではやらないタイプの曲であるだけに浪越はギターの入りを盛大にミスったことを後で陳謝していたが、そもそもこうした全く違うタイプの曲を容易く演奏できるあたりにパノパナのバンドとしての技術の高さを感じざるを得ない。
そうしたコラボの果ては、なんと浪越に代わってユレニワの種谷が、タノに代わってYAJICO GIRLの武志が参加したスペシャルバンドでの、
「今日ここに来た人、いい趣味してるね」
と言って演奏された「いい趣味してるね」で、頭を振りまくったりしながらギターを弾きまくる種谷は本当にパノパナのことが好きなことがわかるくらいにこの曲を自分のものにしている。その姿は常に見た目が一定の浪越とは真逆であるというのも面白いのだが、一方の武志はこんなロックなベースを弾ける人だったのか、と思うくらいにYAJICOとは全く違う太く強いベースを鳴らす。それはそのままYAJICOのルーツにロックがあるということを示していたのだが、こうして後輩を自分たちのライブに呼んで一緒に演奏するという懐の深さに、今のパノパナが後輩にとってどんな先輩なのかということを感じざるを得なかった。今年は主催フェスも開催したけれど、こうしたコラボを見るとそうしたフェスをやるべきバンドだと思う。他のバンドへの愛を持ち、愛されるバンドとして。
演奏終了後の出演者全員集合の写真撮影ももちろん1番先輩のパノパナの岩渕仕切りで執り行われたのだが、生配信があったこの日でもアンコールのライブからは配信されなかったという。岩渕はそれを
「やっぱり目の前に来てくれる、ライブハウスに来てくれる人が1番大事だから」
と言っていた。こうしたバンドたちの存在やライブハウスの存在が我々にとってのTreasureであり、全国に数え切れないほどたくさんあるライブハウスでは毎日のようにこうした楽しいライブが行われている。このTreasure Tourはそれを今一度示そうとしていたんじゃないかと思った。
1.Knock
2.100yen coffee
3.フカンショウ
4.Faceless
5.Strange Days
6.King's Eye
7.世界最後になる歌は
8.MOMO
encore
9.Cherie w/ シロナカムラ(ユレニワ)
10.FIVE w/ 四方颯人 (YAJICO GIRL)
11.いい趣味してるね
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