Base Ball Bear 20th Anniversary 「(This Is The)Base Ball Bear part.3」 @日本武道館 11/10
- 2022/11/11
- 19:11
2010年の初武道館ワンマンも、2012年の2回目も1月3日の開催。なんでわざわざそんな集客キツそうな日にやるんだ、と思っていたBase Ball Bearと日本武道館の歴史。それから10年。ついにやってきた3回目の武道館ワンマンは20周年イヤーの最後の日であるこの11月10日。かつてのメンバーがスタンド席に座って登場したのも、今はいないメンバーが曲中に楽屋に戻って酒を飲んでいる姿がスクリーンに映し出された演出も、今でも本当に良く覚えているけれど、あれから今に至るまでにいろんなことがあったベボベの10年間とこれまでの20年間の集大成的な日である。
武道館の場内に入るとGO! GO! 7188、アジカン、サカナクション、BLANKY JET CITY、the telephones、the pillows、チャットモンチー、赤い公園、TRICERATOPS、SUPERCAR、フジファブリックなどのベボベに影響を与えたり、盟友と呼べるようなアーティストの曲が流れているというのもそんな特別な武道館ライブということを感じさせてくれる。
そんな武道館の場内が19時になるとフッと急に暗転。おなじみのXTCのSEが流れると、堀之内大介(ドラム)が暗転していてもわかる蛍光色の短パンを着て最初にステージに現れると、珍しく感じるような赤いワンピース姿の関根史織(ベース)、ジャケットの右側が黒、左側が青というアシンメトリーな色合いの小出祐介(ボーカル&ギター)と順番に現れ、3人が堀之内のドラムセットの前に集まると小出が両手で
「落ち着いて、落ち着いて」
とジェスチャー的な仕草を見せてから、3人の鳴らす音がバーン!と一気に合わさることによってこれ以上ないくらいに「始まった!」という気分にさせる「17才」からスタート。ステージには左右にスクリーンがあること以外は骨組みが見る角度によって三角形とも星形とも言えるような照明が組まれているだけという至極シンプルなものになっている。
それにしてもこの音の瑞々しさたるや。もう結成から20年経ってもベボベは全く変わらない。「あの若い頃の曲を今の年齢で!」的な感じも全くない。確かに4人から3人になってサウンドのバランスはガラッと変わったし、そうして3人になってからのグルーヴは確実に進化しているが、それでも今もあの頃と同じままな空気を纏っている。それはコロナ禍で活動ができない期間があったり、武道館が10年振りとはいえ、10年振りとかに会った友人はそりゃあ変わったと思うけれど、何ヶ月に一回は定期的に会い続けて来た友人があまり変化には気付かないように、ベボベがそうした変化や世の中の状況がありながらも休止したりすることなく毎年ツアーをやったりフェスに出たりすることによって会う機会がたくさんあったから変わらない印象を自分が持っているというのもあるはず。自分がそう思うということはこの「17才」で堀之内のリズムに合わせて手拍子をしていたたくさんの観客は同じように数ヶ月に1回は定期的にベボベに会っていて、その変わらなさを実感してきたはずだが、学生の頃にこの曲を聴いては
「明日会おうぜ」
というのを繰り返していた日々と本当に変わらないように響くのは自分もまた変わっていないと言えるのだろうか。
しかしながら
「どうもBase Ball Bearです」
と挨拶した小出はその表情からめちゃくちゃ緊張しているのがわかる。自分はファンクラブに加入していることもあってアリーナ真ん中の前から3列目という肉眼で表情まで見ることができる位置で見ていたのだが、この辺りではまぁ小出の顔は緊張感に満ちていた。だからこそ「DIARY KEY」では声が少しひっくり返ってしまった部分もあったのだが、一方で関根は本当にいつも通りというか、ちゃんと感情があるんだろうかとすら思ってしまうくらいにクールな表情でありながらも体を思いっきり動かしながらリズムを刻んでいる。完全に同世代中の同世代である関根がこうしてカッコいいバンドマンとしての姿を見せ続けてくれていると、自分も刺激をもらえる。同世代がこんなにもカッコよくてアグレッシブなライブをやっているんだから、まだまだ自分もそんな生き方をしていたい、枯れるわけにはいかないと思えるのだ。
堀之内のスネアやハイハットを叩く音が一気に強くなるのは、観客がフレーズに合わせて指で数字を示す「LOVE MATHEMATICS」。ステージからは色とりどりのレーザー光線が客席に向かって放たれていくという最小限にしてロックバンドの音や姿を邪魔することがない最大の効果をもたらす演出もありながら、小出の緊張感の強さによって若干客席も緊張感があったのが、この曲で腕や指を動かすことによってそれが解れていく感覚が確かにあった。というかそれは最初は観客もみんな感極まったような緊張感を持っていたのかもしれないが。
そんな観客だけではなく、自分自身の緊張感をさらに解きほぐすように小出が挨拶的なMCをするのだが、近年のライブではとかく長くなりがちなMCがここは少しあっさりしていたり、
「この武道館を感謝で埋め尽くしたい」
と、実にらしくないことを言っていたあたりはまだ緊張感が消えていなかったのかもしれない。
「では我々のメジャーデビュー曲を」
と言って演奏された「GIRL FRIEND」では3人によるタイトなキメに合わせて観客が腕を上げる。かつてのように腕を上げながら「オイ!」と声を出すことはできないし、ギターが1人だけになったことによってやはりサウンド自体も変わったと思わされるけれども、それでもこの曲の持つ青さや名曲っぷりは全く色褪せることがない。それは関根と堀之内によるタイトルフレーズのコーラスのレベルが年々向上しているからであり、そのコーラスの合間に叫ぶようにして歌う小出のボーカルにもかつてとは形は違うかもしれないけれど、言葉にすると同じ「衝動」というものが確かに宿っているからだ。
「絡まる赤い糸を前に 息を飲む人がいる」
というフレーズに合わせて照明が真っ赤になるあたりのスタッフの曲への理解度の強さもさすがとしか言えないものがある。
すると堀之内が暗くなったステージ上で曲間を繋ぐようにビートを刻むと、小出がギターで鳴らし始めたのはなんと「LOVE LETTER FROM HEART BEAT」の音源ではエフェクトボーカルによって歌唱されていたタイトルフレーズ部分のメロディ。もう何年振りかと思うようなこの曲はかつての武道館で演奏された光景を今でも覚えているし、それも踏まえた選曲だったのかもしれないけれど、堀之内のリズムが一気に細かくなるサビでの飛翔感はやはり我々のテンションを高揚させてくれるし、形は変われどベボベにはこうした過去と言える時期の曲と今の自分たちとの距離感が全くない。だから今でも今のベボベの、今の我々の曲として響く。それはベボベがずっと青春を歌っていることができる稀有なバンドということだ。
さらに堀之内が曲間を繋ぐようなドラムが続くのであるが、今度はシンプルなエイトビートに小出のギターが乗るのはベボベのディスコグラフィーの中でも屈指の名曲である「short hair」。ベボベの青春はレモン色とばかりに黄色い照明が輝く中、小出の
「オーイェー!」
の叫びの後の
「変わり続ける君を、変わらず見ていたいよ」
も、さらにそれに続く
「たくさん失う 時がながれゆく
それでも僕は、君を待ってる」
も、図らずもベボベのバンド自身のことを言い当てる歌詞になったかのようだ。だからこそ元々名曲であったこの曲を近年のライブで聴くとより一層染み入るものがある。これからもこうしてライブが、できればまたここで見れるように、僕はベボベを待ってる。
するとイントロの複雑なイントロのアレンジが「これ何の曲だっけ?」と思ってしまうくらいに聴き馴染みのないものになり、そのイントロでの照明は黒や紫などの暗い色だったのが曲が始まってサビに入ると白などの光が降り注ぐようになるのはどこか聴いていると体が宙を浮いているかのような気持ちになる「初恋」。それはもしかしたら20年も続いているバンドのファンで居続けると忘れてしまう初恋の感覚がこんな感じだったんだろうかと感じさせてくれるようなものだ。この曲を作った時の小出もそんな感覚を思い出そうとしていたのかもしれないとも思う。
そんな小出は
「普段からライブに来てくださる中には我々のライブでの公開webラジオ的なMCを楽しみにしてくださっている方もいると思われますが、武道館は退館時間っていうのが決まってまして、それを過ぎると延長料金を取られるのでMCを短めにしようと思ってさっきのMCも短めにしました(笑)」
という裏事情を話すのだが、緊張のあまり&舞い上がり過ぎていて過去2回の武道館の記憶が全くないけれど、今回は血に足がついているからこうして冷静に話すことができる、というMCを短くするつもりが本当にあるのかというくらいに長くなりそうな展開となり、
「緊張の神様がいるわけですよ。コンビニの前にいる地元の先輩みたいな感じで「おう、緊張してんのか」って声をかけてくるような(笑)
その緊張の神様を遠ざけながら音楽の神様、武道館の神様と仲良くしていきたいと思う今回な訳ですよ」
と例え話からしてやたら長いのだが、小出はそうして普段と変わらずにこの武道館までの日々を心掛けていたという。他の2人はそんなこのライブまでをどう過ごしていたかというと、
関根「私も武道館を意識すると緊張するから、いつも通りを心がけてライブ前にいつも通りにスタバに行ってTwitterを開いたら、ベボベの関連ツイートで全身グッズを着てくれてるファンの方が「今から飛行機乗って武道館行きます!」ってツイートしてるのを見て泣いちゃった(笑)」
と、小出と堀之内からすぐさま
「感極まってんじゃん!」
と突っ込まれるエピソードを明かすのだが、その関根の話だけでこちらも泣きそうになってしまう。それくらいにこの日を楽しみにして生きてきた人たちがここに集結しているということだからだ。そう思うとこの空間、この瞬間がより愛おしく感じられてくる。
そして先程のMCの時点ですでに感極まっていることを口にしていた堀之内は
「さっきもすでに感極まってるって言ったけど、俺はライブでステージに立つとそうやっていつもよりも感情が溢れてくる。楽しい時もそう。今日もそうだっていうことはこれが俺にとってのいつも通りなんだろうなって」
と、実に冷静かつ理知的に自身のことを分析していたのだが、小出からは刈り上げた右側の髪を編み込むといういつもと違うことをやっていることを突っ込まれていた。その小出は
「こうして来てくれるあなたたちは僕たちの宝です」
と最後に口にするのであるが、さりげなく言ったかもしれないその言葉が本当に嬉しかったのは、いつもベボベの音楽やライブに力を貰って生きてきた我々がベボベにも紛れもなく何かを与えることができていることがわかるからだ。この言葉がより深く響くから、ずっとライブに来ていて、変わらずに見ていて本当によかったとまた感極まりそうになっていた。
そして小出がギターを刻みながら前に歩み出ると、その小出から堀之内、関根へとボーカルがリレーされていく、3人でバンドを続ける意思を3にまつわるフレーズで綴った「ポラリス」へ。堀之内歌唱時には小出と関根はドラム台の上に座り込んで演奏し、それを気にもしないで堀之内は
「武道館ー!」
と歌詞を変えて叫ぶ。間奏では小出と関根が2人揃って前に出てきて並んで音を鳴らしている。その光景が、こうして3人になってもまたここに戻ってくることができて本当に良かったと思うとともに、3人になってもこのバンドを続けてきたのも、そんなバンドを追い続けてきたのも間違いじゃなかったと思わせてくれる。ある意味ではこの曲は今回のハイライトの一つと言えるものだったかもしれない。
すると小出がゆっくりとギターを弾き始め、ステージからは白のみの照明が薄っすらとメンバーを照らす。それはかつてのこの武道館でのライブでも演奏されてきた「ホワイトワイライト」だ。どうしてもこの曲からは別れの切なさのような感覚をいつ聴いても感じさせるし、それはまだバンドが別れを経験していなかった過去の武道館でもそうだった。
それが曲が進み、最後のサビになると白だけではない光を感じさせる照明がメンバーを照らすようになる。確かにバンドには辛い別れもたくさんあった。それはきっとここにいた一人一人もそうだ。このバンドに出会ってから今に至るまでにそれぞれが様々な別れを経験してきたことと思う。でもその経験を経た上でこうして特別な日を迎えることができている。この日の「ホワイトワイライト」とその照明には別れだけではなく、それを経てきた人への祝福を確かに感じることができた。これからもきっとそれぞれにいろんな別れが訪れるだろうけれど、こうした日があればその人生を光が照らしてくれる。そう思えた、つまりはやはりまたベボベの音楽とライブに力を貰った瞬間だった。
そうしてやはり集大成感の強さを感じる曲が続く中で意外な選曲だったのはアルバムとしては最新作である「DIARY KEY」収録の「海へ」。確かにベボベならではのストレートかつ爽やかなギターロック回帰曲とも言えるのだが、「DIARY KEY」からこの日に演奏される曲としてこの曲が選ばれるとは思っていなかった。それはタイトルに合わせるように青く光る照明とともに、今のベボベのロックを10年振りの武道館に刻みつけるかのようだった。結局、変わったようでいて変わってないですよ、とバンドが武道館に言うかのように。
そして小出のイントロのギターの音が鳴っただけでたくさんの人が腕を伸ばす。それはこの武道館でもベボベの代表曲として演奏されていた「changes」だからである。やはり「オイ!オイ!」という観客の声こそ聞こえないし、今は小出が最後のサビに入る前に腕を上げながら歌うこともしない。でも
「さぁ、すべてがいま変わってく すべてが始まる
新現実 誰の物でもない 新しい自分
変わったのは僕自身だ」
というフレーズが何度だってバンドを、我々を生まれ変わらせてくれる。その感覚がまた明日からの日々を生きていくための力になるということを我々はこの20年の中で知っている。小出が最後に張り上げる歌声は、自分の限界をさらに超えようとしているかのように感じた。
そんな中で小出は
「我々は特に大ヒット曲があるわけでもないし、何か賞をもらったりしたことがあるわけでもない、自分たちでも無冠のバンドだと思っているんですけど、前回と前々回の武道館と今回が動員がほとんど変わらないんですよ。
過去2回は言っても1月3日っていう冬休み期間にやってて。今回平日じゃないですか。我々がタイアップとかをやりまくっていたのってそれこそ10年前の前回の武道館くらいまでだし、そんな勢いのあった若手の頃と、皆さんをふるいにかけまくってきた20周年のバンドが動員が同じってこれは凄いことですよ」
と口にするのだが、確かに2階スタンド席もほぼ満員と言っていいくらいに埋まっている。なんなら10年前よりも多い感じが個人的にはしていた。個人的にこの日1番感動したのはそこだった。もう勢いがある存在でもないけれど、それでも全国にはベボベをずっと聴いている人がたくさんいて、そんな人たちが今日ここに集まっている。そんな光景を見れた、それを実感できたということが。
「でも4人の頃の我々を好きな人がいるのも否定しないですし、それもありがたいことですけど、今こうして我々が10年振りに武道館に立っているのは3人で頑張ってきたからだっていうのも紛れもない事実です」
と続けると堀之内も関根も何も言わなくても大きく頷く。それはその実感はずっと3人が持ち続けてきたものだからだ。確かにファンの中にも4人の時が好きだったという人もいるし、3人体制になってから離れたという人もいるだろう。それでもこうして今になって武道館が埋まっているというのは3人がやってきたことが間違いではなかったということの何よりの証明だと思う。3人で続けてきたバンドと、そのバンドを信じ続けてきた人たち双方へのご褒美のような1日。そんな思いが確かに交差している。
そんなベボベはこの武道館に向けて新曲を生み出しのだが、
「今になってギタージャーン、ドラムドーン、ベースブーン、っていうキッズみたいな感覚に戻って作ることができた曲」
という「海になりたい part.3」をここで演奏する。インディーズ時代から続いてきた「海になりたい」シリーズは名曲と名高いpart.2を好きなファンも多いけれど、小出の言葉通りにこの今になっての、20周年を迎えてのpart.3が1番ストレートなギターロックに聴こえさえする。それは小出の言う通りにこれでいいんだという意識の変化によってそうなったところが1番大きいだろう。どこか包み込むような感覚があったpart.2よりも飲み込むような力を感じさせるというか。
その小出のMCの中にあった「ふるいにかけてきた」というのはストレートなギターロックからファンクやR&Bの要素を取り入れたグルーヴを感じさせるギターロックに変化した時期もあったことも含まれていると思うのだが、そのグルーヴの強化がバンドのポップさ、キャッチーさを感じさせるものになっていると感じるのが「すべては君のせいで」「「それって、for 誰?」part.1」という、ざっくりとバンドの歴史を前期と後期に分けると後期に入るような曲であり、こうして歴史を総括するような代表曲や新曲の流れで聴くとイメージ以上に堀之内の四つ打ちのリズムが強い曲たちであることにも気付く。そこに加わる関根のリズムがそれまでのダウンピッキング主体から一気に強力に、グルーヴィーになったのもこの時期の特徴であり、それはそのまま今の関根のバンド外活動にも繋がっていると思う。
そのグルーヴィーなベボベの原点と言える曲が、小出が前に出てきてカッティングを刻みまくる「十字架 You and I」で、確かにこの曲がリード曲として世に出た時のファンの戸惑いや驚きは凄まじかったが、かつて間奏で繰り広げられていたパフォーマンスも含めてすぐにライブに欠かせない曲になっていったのはまだブラックミュージックを取り入れるということが全然主流じゃなかった時代なだけに流行りを取り入れた的な薄いものではなくて、このバンドに元からあった素養が開花したものだと言えるだろう。様々な色のレーザーや照明が鮮やかに飛び交いまくる中、小出は間奏で思いっきりギターソロを弾きまくる。リリース時は2人で弾いていたギターを1人でも物足りなさを感じないレベルで、しかもボーカルもやりながら弾きこなしている。やっぱり小出は本当に凄い人だと思うし、その年齢を重ねての進化は同世代としてこの上ないくらいに力を与えてくれる。
そして小出がいきなりラップし始めたのはもちろん「The CUT」なのだが、ファンとしては今日はRHYMESTERが来るだろうという予想もしていたりしたけど、それすらも3人だけで演奏される。というか、3人になって初めての武道館はやはり3人だけで完結させないといけないものだし、それこそが「3人で頑張ってきた」ということの証明になるということにここまで見ていて気が付いた。
小出が関根と向かい合ってキレキレのラップをし、関根はうねりまくるベースを鳴らす。そのベースを生かすようなタイトな堀之内のドラムという、リズムとラップだけで展開する曲がサビでは小出のギターが乗ってヒップホップからギターロックになる。ベボベだからこその、ベボベだけのミクスチャーロック。それが確かに今のベボベのカッコ良さとして武道館に響き渡っていた。
そのうねりを獲得した関根のベースのイントロで始まり、小出のギターが加わると観客も再び拳を振り上げまくる。かつてこの曲のイントロで「オイ!オイ!」と声をあげていたのはほとんどが野太い声の男ばかりで、なんでベボベはこんなに男性ファンが多いんだろうかと思ったりもした「Stairway Generation」であるが、
「Stairway Generation 階段を あがれあがれ」
「あがるしかないようだ Stairway」
というサビのフレーズたちが、再びこのステージに立てたからこそのバンドからの決意表明のように響く。それは小出が思いっきり振り絞るようにして歌うボーカルからも確かに伝わってくるものだ。
「聞こえますか? 繋がれますか?」
と問いかけるこの曲は20年間でいろんな場所、時期で繋がってきた我々それぞれの信頼関係の曲だった。この日、この場所でのこのライブが聞こえ方を変えたのだ。
そして小出が少し切なさを感じるイントロのギターを鳴らし始める。それを聴いて、まだこの時点では明言していなかったけれど、この曲が最後の曲だなと思った。それはこれまでにそうして締められたライブを数え切れないくらいに見てきたから。
その予想通りに小出がサビを弾き語り的に歌って始まった「ドラマチック」では堀之内と関根のリズムが加わってバンドサウンドになった瞬間に銀テープが射出される。演出らしい演出はほとんどなかったこの日のライブの中で最も武道館だからこその演出を感じられた瞬間。観客がそれぞれ銀テープを掴もうと腕を宙に伸ばす。取れなかった人、掴んだ人が関根の姿に合わせて手拍子を始める。
もう夏ではないけれど、この日は日中帯は武道館の周りを半袖Tシャツ1枚で座ったりしている人も多かった。ベボベの晴れバンド伝説は野外ライブじゃなくても続いていたし、この日がこんなに良い天気と気候だったのはやっぱりベボベが武道館をやることによって引き寄せたものだったんじゃないかと思う。ベボベがこの曲を鳴らせばいつだってそこは夏になるんだから。
「また出会えそうで 一度きりのドラマ」
というフレーズの通りに、これで最後じゃない。またきっとどこかで、そしてここでも会える。でもこの日はこの日の一度きりのドラマだった。それはこの日の全てがドラマチックな瞬間だったということだ。
そうして本編が終わると、暗転した場内にフッと関根であろう人影が現れると、照明が点くことも話し始めることもなく3人がステージに現れて「風来」というほとんどライブで演奏されたことのない曲が鳴らされる。
それもそのはずで、2019年末にリリースされた「C3」収録のこの曲は2020年になってからいろんな街で鳴らされるはずだった。それがコロナ禍になったことによってツアーは中止になってしまい、この曲を演奏する機会はなくなってしまった。そんな曲を今こうして演奏したのは、また来年に新たなツアーが開催されることが決まり、そのツアーのいろんな場所でこの曲を鳴らしにいくという理由によるものだ。
小出「次は10年後と言わず、5年後なり3年後なり。皆さん、これからもそうして10年後も、20年後も、30年後も、50年後も会いましょう。解散は…」
堀之内「しません!(笑)解散は絶対にしません!(笑)」
と、時間をオーバーするのが確定しただけにここぞとばかりに喋りまくるのであるが、ある意味ではバンドのライブ中にはタブー的な「解散」という話題をこんなにカジュアルに扱うことができるのは自分たちにとってそれは1ミリもリアリティがないものだからだろう。20周年を超えても、節目的な武道館を超えても、これからも当たり前にベボベは続いていく。これからもきっとまたこうした場所で全国にいるファンが一堂に会することができる。それがわかったのが本当に、何よりも嬉しかったのだ。ベボベが音を鳴らし続けている限り、我々の青春も終わらないからだ。
そして小出が堀之内に
「叫びを聞かせてやれ!」
としつこいくらいに何度も何度も繰り返し、その度に堀之内が「オウ!」と叫んでから、かつてと同じようにシンバルをターンテーブルのようにこすりながらタイトルを叫んだのは「夕方ジェネレーション」。もう小出がイントロで横にいる人の肩に腕を置くことはないけれど、この日最も関根はステージ左右に動き回りながらベースを弾き、近くのスタンド席の観客に向かって手を振ったりする。そのメンバーを照らすのは淡い夕焼けのようなオレンジ色の照明。
「切なげなメロディーがお似合いのジェネレーション、夕方感大全開。」
というサビを小出はかつてほど張り上げるようには歌わなくなっているが、それでもこの曲を聴くと、今でもこのメロディーがお似合いなままの夕方ジェネレーションでいれているんじゃないかと思える。それはつまり今でもこの曲を自分のための曲だと思えているということである。小出の最後の「夕方」を「You gotta」と発音しているようなタイトルフレーズのリフレインを聴いていると本当にそう思う。
で、これで終わりだと自分は思っていた。あるいは「祭りのあと」が演奏されるものかと。12年前の初武道館ではアンコールで、10年前の2回目には1回目の続きとばかりに1曲目でこの曲を演奏していたからである。
でもこの日最後に演奏されたのは「ドライブ」だった。3人で続けていくという姿勢を示したのは「ポラリス」だったけれど、ずっとこの3人で生きていくという決意が固まったのが、深夜にスタジオを出てメンバーで車を走らせて海に行くという内容のMVのこの曲であると思っている。だから3人での初武道館の最後にはこの曲を演奏し、そこで「生きている音がする」ということを示さなければならなかったのだ。サビではその音が祝福のものであるかのように紙吹雪が降り注ぎ、アウトロでは武道館のアンコールだからこその光景である、場内の客電が全てついた状態になる。それはこの音が祝福であり、我々を照らしてくれる光であることを示すようだった。だからもう本当に感動して感極まるのを超えてしまっていた。そんな感覚は初武道館にも2回目の武道館にもなかった。今のベボベだからこそ出来た、3回目にして3人での最初の武道館ワンマンだったのだ。
10年前の武道館の時はメンバーと同世代の自分はまだまだ学生気分だった。きっとメンバーもそんな感じだったんじゃないかと思う。勢いにも、調子にも乗っていた。そんなムードの武道館だった。でもそれからさらに10年経っての武道館はお互いに年を重ねてしまったようだな、とは思うけれども、そんなかつての浮かれた空気は一切ないし、かと言って大御所バンドの記念碑的なライブというわけでもなかった。ただただベボベというバンドがどれだけ素晴らしいバンドであり続け、我々がこのバンドと歩んできた日々が美しいものであったことを確かめさせてくれるようなものだった。
正直、自分はこの日のライブを見るまでは「もしかしたらベボベを武道館で見れるのはこれが最後かもしれない」なんて思ったりもしていた。それは小出も口にしていたように、もう勢いがある若手バンドではないし、普段ワンマンをずっと見ていても、武道館がかつてよりも埋まるイメージが想像できていなかった。
でもそんな自分の予想をベボベは軽く超えてきた。ライブの内容、そこで鳴っている音の強さも含めて。
「10年後とは言わずに」
と小出も言っていたけれど、この日の客席の景色を見たらまた必ずこの武道館でベボベのライブを見れる日が来ると確信することができた。それは自分と同じようにこのバンドを愛し続けてきた人がこんなにもたくさんいたからこそ確信することができたものだった。
きっとこれからもお互いにいろんな困難なんかもあるだろうし、ここからさらなる大ブレイクということもないかもしれない。それでも僕はここで見れるベボベを待っている。
1.17才
2.DIARY KEY
3.LOVE MATHEMATICS
4.GIRL FRIEND
5.LOVE LETTER FROM HEART BEAT
6.short hair
7.初恋
8.ポラリス
9.ホワイトワイライト
10.海へ
11.changes
12.海になりたい part.3
13.すべては君のせいで
14.「それって、for 誰?」 part.1
15.十字架 You and I
16.The Cut
17.Stairway Generation
18.ドラマチック
encore
19.風来
20.夕方ジェネレーション
21.ドライブ
武道館の場内に入るとGO! GO! 7188、アジカン、サカナクション、BLANKY JET CITY、the telephones、the pillows、チャットモンチー、赤い公園、TRICERATOPS、SUPERCAR、フジファブリックなどのベボベに影響を与えたり、盟友と呼べるようなアーティストの曲が流れているというのもそんな特別な武道館ライブということを感じさせてくれる。
そんな武道館の場内が19時になるとフッと急に暗転。おなじみのXTCのSEが流れると、堀之内大介(ドラム)が暗転していてもわかる蛍光色の短パンを着て最初にステージに現れると、珍しく感じるような赤いワンピース姿の関根史織(ベース)、ジャケットの右側が黒、左側が青というアシンメトリーな色合いの小出祐介(ボーカル&ギター)と順番に現れ、3人が堀之内のドラムセットの前に集まると小出が両手で
「落ち着いて、落ち着いて」
とジェスチャー的な仕草を見せてから、3人の鳴らす音がバーン!と一気に合わさることによってこれ以上ないくらいに「始まった!」という気分にさせる「17才」からスタート。ステージには左右にスクリーンがあること以外は骨組みが見る角度によって三角形とも星形とも言えるような照明が組まれているだけという至極シンプルなものになっている。
それにしてもこの音の瑞々しさたるや。もう結成から20年経ってもベボベは全く変わらない。「あの若い頃の曲を今の年齢で!」的な感じも全くない。確かに4人から3人になってサウンドのバランスはガラッと変わったし、そうして3人になってからのグルーヴは確実に進化しているが、それでも今もあの頃と同じままな空気を纏っている。それはコロナ禍で活動ができない期間があったり、武道館が10年振りとはいえ、10年振りとかに会った友人はそりゃあ変わったと思うけれど、何ヶ月に一回は定期的に会い続けて来た友人があまり変化には気付かないように、ベボベがそうした変化や世の中の状況がありながらも休止したりすることなく毎年ツアーをやったりフェスに出たりすることによって会う機会がたくさんあったから変わらない印象を自分が持っているというのもあるはず。自分がそう思うということはこの「17才」で堀之内のリズムに合わせて手拍子をしていたたくさんの観客は同じように数ヶ月に1回は定期的にベボベに会っていて、その変わらなさを実感してきたはずだが、学生の頃にこの曲を聴いては
「明日会おうぜ」
というのを繰り返していた日々と本当に変わらないように響くのは自分もまた変わっていないと言えるのだろうか。
しかしながら
「どうもBase Ball Bearです」
と挨拶した小出はその表情からめちゃくちゃ緊張しているのがわかる。自分はファンクラブに加入していることもあってアリーナ真ん中の前から3列目という肉眼で表情まで見ることができる位置で見ていたのだが、この辺りではまぁ小出の顔は緊張感に満ちていた。だからこそ「DIARY KEY」では声が少しひっくり返ってしまった部分もあったのだが、一方で関根は本当にいつも通りというか、ちゃんと感情があるんだろうかとすら思ってしまうくらいにクールな表情でありながらも体を思いっきり動かしながらリズムを刻んでいる。完全に同世代中の同世代である関根がこうしてカッコいいバンドマンとしての姿を見せ続けてくれていると、自分も刺激をもらえる。同世代がこんなにもカッコよくてアグレッシブなライブをやっているんだから、まだまだ自分もそんな生き方をしていたい、枯れるわけにはいかないと思えるのだ。
堀之内のスネアやハイハットを叩く音が一気に強くなるのは、観客がフレーズに合わせて指で数字を示す「LOVE MATHEMATICS」。ステージからは色とりどりのレーザー光線が客席に向かって放たれていくという最小限にしてロックバンドの音や姿を邪魔することがない最大の効果をもたらす演出もありながら、小出の緊張感の強さによって若干客席も緊張感があったのが、この曲で腕や指を動かすことによってそれが解れていく感覚が確かにあった。というかそれは最初は観客もみんな感極まったような緊張感を持っていたのかもしれないが。
そんな観客だけではなく、自分自身の緊張感をさらに解きほぐすように小出が挨拶的なMCをするのだが、近年のライブではとかく長くなりがちなMCがここは少しあっさりしていたり、
「この武道館を感謝で埋め尽くしたい」
と、実にらしくないことを言っていたあたりはまだ緊張感が消えていなかったのかもしれない。
「では我々のメジャーデビュー曲を」
と言って演奏された「GIRL FRIEND」では3人によるタイトなキメに合わせて観客が腕を上げる。かつてのように腕を上げながら「オイ!」と声を出すことはできないし、ギターが1人だけになったことによってやはりサウンド自体も変わったと思わされるけれども、それでもこの曲の持つ青さや名曲っぷりは全く色褪せることがない。それは関根と堀之内によるタイトルフレーズのコーラスのレベルが年々向上しているからであり、そのコーラスの合間に叫ぶようにして歌う小出のボーカルにもかつてとは形は違うかもしれないけれど、言葉にすると同じ「衝動」というものが確かに宿っているからだ。
「絡まる赤い糸を前に 息を飲む人がいる」
というフレーズに合わせて照明が真っ赤になるあたりのスタッフの曲への理解度の強さもさすがとしか言えないものがある。
すると堀之内が暗くなったステージ上で曲間を繋ぐようにビートを刻むと、小出がギターで鳴らし始めたのはなんと「LOVE LETTER FROM HEART BEAT」の音源ではエフェクトボーカルによって歌唱されていたタイトルフレーズ部分のメロディ。もう何年振りかと思うようなこの曲はかつての武道館で演奏された光景を今でも覚えているし、それも踏まえた選曲だったのかもしれないけれど、堀之内のリズムが一気に細かくなるサビでの飛翔感はやはり我々のテンションを高揚させてくれるし、形は変われどベボベにはこうした過去と言える時期の曲と今の自分たちとの距離感が全くない。だから今でも今のベボベの、今の我々の曲として響く。それはベボベがずっと青春を歌っていることができる稀有なバンドということだ。
さらに堀之内が曲間を繋ぐようなドラムが続くのであるが、今度はシンプルなエイトビートに小出のギターが乗るのはベボベのディスコグラフィーの中でも屈指の名曲である「short hair」。ベボベの青春はレモン色とばかりに黄色い照明が輝く中、小出の
「オーイェー!」
の叫びの後の
「変わり続ける君を、変わらず見ていたいよ」
も、さらにそれに続く
「たくさん失う 時がながれゆく
それでも僕は、君を待ってる」
も、図らずもベボベのバンド自身のことを言い当てる歌詞になったかのようだ。だからこそ元々名曲であったこの曲を近年のライブで聴くとより一層染み入るものがある。これからもこうしてライブが、できればまたここで見れるように、僕はベボベを待ってる。
するとイントロの複雑なイントロのアレンジが「これ何の曲だっけ?」と思ってしまうくらいに聴き馴染みのないものになり、そのイントロでの照明は黒や紫などの暗い色だったのが曲が始まってサビに入ると白などの光が降り注ぐようになるのはどこか聴いていると体が宙を浮いているかのような気持ちになる「初恋」。それはもしかしたら20年も続いているバンドのファンで居続けると忘れてしまう初恋の感覚がこんな感じだったんだろうかと感じさせてくれるようなものだ。この曲を作った時の小出もそんな感覚を思い出そうとしていたのかもしれないとも思う。
そんな小出は
「普段からライブに来てくださる中には我々のライブでの公開webラジオ的なMCを楽しみにしてくださっている方もいると思われますが、武道館は退館時間っていうのが決まってまして、それを過ぎると延長料金を取られるのでMCを短めにしようと思ってさっきのMCも短めにしました(笑)」
という裏事情を話すのだが、緊張のあまり&舞い上がり過ぎていて過去2回の武道館の記憶が全くないけれど、今回は血に足がついているからこうして冷静に話すことができる、というMCを短くするつもりが本当にあるのかというくらいに長くなりそうな展開となり、
「緊張の神様がいるわけですよ。コンビニの前にいる地元の先輩みたいな感じで「おう、緊張してんのか」って声をかけてくるような(笑)
その緊張の神様を遠ざけながら音楽の神様、武道館の神様と仲良くしていきたいと思う今回な訳ですよ」
と例え話からしてやたら長いのだが、小出はそうして普段と変わらずにこの武道館までの日々を心掛けていたという。他の2人はそんなこのライブまでをどう過ごしていたかというと、
関根「私も武道館を意識すると緊張するから、いつも通りを心がけてライブ前にいつも通りにスタバに行ってTwitterを開いたら、ベボベの関連ツイートで全身グッズを着てくれてるファンの方が「今から飛行機乗って武道館行きます!」ってツイートしてるのを見て泣いちゃった(笑)」
と、小出と堀之内からすぐさま
「感極まってんじゃん!」
と突っ込まれるエピソードを明かすのだが、その関根の話だけでこちらも泣きそうになってしまう。それくらいにこの日を楽しみにして生きてきた人たちがここに集結しているということだからだ。そう思うとこの空間、この瞬間がより愛おしく感じられてくる。
そして先程のMCの時点ですでに感極まっていることを口にしていた堀之内は
「さっきもすでに感極まってるって言ったけど、俺はライブでステージに立つとそうやっていつもよりも感情が溢れてくる。楽しい時もそう。今日もそうだっていうことはこれが俺にとってのいつも通りなんだろうなって」
と、実に冷静かつ理知的に自身のことを分析していたのだが、小出からは刈り上げた右側の髪を編み込むといういつもと違うことをやっていることを突っ込まれていた。その小出は
「こうして来てくれるあなたたちは僕たちの宝です」
と最後に口にするのであるが、さりげなく言ったかもしれないその言葉が本当に嬉しかったのは、いつもベボベの音楽やライブに力を貰って生きてきた我々がベボベにも紛れもなく何かを与えることができていることがわかるからだ。この言葉がより深く響くから、ずっとライブに来ていて、変わらずに見ていて本当によかったとまた感極まりそうになっていた。
そして小出がギターを刻みながら前に歩み出ると、その小出から堀之内、関根へとボーカルがリレーされていく、3人でバンドを続ける意思を3にまつわるフレーズで綴った「ポラリス」へ。堀之内歌唱時には小出と関根はドラム台の上に座り込んで演奏し、それを気にもしないで堀之内は
「武道館ー!」
と歌詞を変えて叫ぶ。間奏では小出と関根が2人揃って前に出てきて並んで音を鳴らしている。その光景が、こうして3人になってもまたここに戻ってくることができて本当に良かったと思うとともに、3人になってもこのバンドを続けてきたのも、そんなバンドを追い続けてきたのも間違いじゃなかったと思わせてくれる。ある意味ではこの曲は今回のハイライトの一つと言えるものだったかもしれない。
すると小出がゆっくりとギターを弾き始め、ステージからは白のみの照明が薄っすらとメンバーを照らす。それはかつてのこの武道館でのライブでも演奏されてきた「ホワイトワイライト」だ。どうしてもこの曲からは別れの切なさのような感覚をいつ聴いても感じさせるし、それはまだバンドが別れを経験していなかった過去の武道館でもそうだった。
それが曲が進み、最後のサビになると白だけではない光を感じさせる照明がメンバーを照らすようになる。確かにバンドには辛い別れもたくさんあった。それはきっとここにいた一人一人もそうだ。このバンドに出会ってから今に至るまでにそれぞれが様々な別れを経験してきたことと思う。でもその経験を経た上でこうして特別な日を迎えることができている。この日の「ホワイトワイライト」とその照明には別れだけではなく、それを経てきた人への祝福を確かに感じることができた。これからもきっとそれぞれにいろんな別れが訪れるだろうけれど、こうした日があればその人生を光が照らしてくれる。そう思えた、つまりはやはりまたベボベの音楽とライブに力を貰った瞬間だった。
そうしてやはり集大成感の強さを感じる曲が続く中で意外な選曲だったのはアルバムとしては最新作である「DIARY KEY」収録の「海へ」。確かにベボベならではのストレートかつ爽やかなギターロック回帰曲とも言えるのだが、「DIARY KEY」からこの日に演奏される曲としてこの曲が選ばれるとは思っていなかった。それはタイトルに合わせるように青く光る照明とともに、今のベボベのロックを10年振りの武道館に刻みつけるかのようだった。結局、変わったようでいて変わってないですよ、とバンドが武道館に言うかのように。
そして小出のイントロのギターの音が鳴っただけでたくさんの人が腕を伸ばす。それはこの武道館でもベボベの代表曲として演奏されていた「changes」だからである。やはり「オイ!オイ!」という観客の声こそ聞こえないし、今は小出が最後のサビに入る前に腕を上げながら歌うこともしない。でも
「さぁ、すべてがいま変わってく すべてが始まる
新現実 誰の物でもない 新しい自分
変わったのは僕自身だ」
というフレーズが何度だってバンドを、我々を生まれ変わらせてくれる。その感覚がまた明日からの日々を生きていくための力になるということを我々はこの20年の中で知っている。小出が最後に張り上げる歌声は、自分の限界をさらに超えようとしているかのように感じた。
そんな中で小出は
「我々は特に大ヒット曲があるわけでもないし、何か賞をもらったりしたことがあるわけでもない、自分たちでも無冠のバンドだと思っているんですけど、前回と前々回の武道館と今回が動員がほとんど変わらないんですよ。
過去2回は言っても1月3日っていう冬休み期間にやってて。今回平日じゃないですか。我々がタイアップとかをやりまくっていたのってそれこそ10年前の前回の武道館くらいまでだし、そんな勢いのあった若手の頃と、皆さんをふるいにかけまくってきた20周年のバンドが動員が同じってこれは凄いことですよ」
と口にするのだが、確かに2階スタンド席もほぼ満員と言っていいくらいに埋まっている。なんなら10年前よりも多い感じが個人的にはしていた。個人的にこの日1番感動したのはそこだった。もう勢いがある存在でもないけれど、それでも全国にはベボベをずっと聴いている人がたくさんいて、そんな人たちが今日ここに集まっている。そんな光景を見れた、それを実感できたということが。
「でも4人の頃の我々を好きな人がいるのも否定しないですし、それもありがたいことですけど、今こうして我々が10年振りに武道館に立っているのは3人で頑張ってきたからだっていうのも紛れもない事実です」
と続けると堀之内も関根も何も言わなくても大きく頷く。それはその実感はずっと3人が持ち続けてきたものだからだ。確かにファンの中にも4人の時が好きだったという人もいるし、3人体制になってから離れたという人もいるだろう。それでもこうして今になって武道館が埋まっているというのは3人がやってきたことが間違いではなかったということの何よりの証明だと思う。3人で続けてきたバンドと、そのバンドを信じ続けてきた人たち双方へのご褒美のような1日。そんな思いが確かに交差している。
そんなベボベはこの武道館に向けて新曲を生み出しのだが、
「今になってギタージャーン、ドラムドーン、ベースブーン、っていうキッズみたいな感覚に戻って作ることができた曲」
という「海になりたい part.3」をここで演奏する。インディーズ時代から続いてきた「海になりたい」シリーズは名曲と名高いpart.2を好きなファンも多いけれど、小出の言葉通りにこの今になっての、20周年を迎えてのpart.3が1番ストレートなギターロックに聴こえさえする。それは小出の言う通りにこれでいいんだという意識の変化によってそうなったところが1番大きいだろう。どこか包み込むような感覚があったpart.2よりも飲み込むような力を感じさせるというか。
その小出のMCの中にあった「ふるいにかけてきた」というのはストレートなギターロックからファンクやR&Bの要素を取り入れたグルーヴを感じさせるギターロックに変化した時期もあったことも含まれていると思うのだが、そのグルーヴの強化がバンドのポップさ、キャッチーさを感じさせるものになっていると感じるのが「すべては君のせいで」「「それって、for 誰?」part.1」という、ざっくりとバンドの歴史を前期と後期に分けると後期に入るような曲であり、こうして歴史を総括するような代表曲や新曲の流れで聴くとイメージ以上に堀之内の四つ打ちのリズムが強い曲たちであることにも気付く。そこに加わる関根のリズムがそれまでのダウンピッキング主体から一気に強力に、グルーヴィーになったのもこの時期の特徴であり、それはそのまま今の関根のバンド外活動にも繋がっていると思う。
そのグルーヴィーなベボベの原点と言える曲が、小出が前に出てきてカッティングを刻みまくる「十字架 You and I」で、確かにこの曲がリード曲として世に出た時のファンの戸惑いや驚きは凄まじかったが、かつて間奏で繰り広げられていたパフォーマンスも含めてすぐにライブに欠かせない曲になっていったのはまだブラックミュージックを取り入れるということが全然主流じゃなかった時代なだけに流行りを取り入れた的な薄いものではなくて、このバンドに元からあった素養が開花したものだと言えるだろう。様々な色のレーザーや照明が鮮やかに飛び交いまくる中、小出は間奏で思いっきりギターソロを弾きまくる。リリース時は2人で弾いていたギターを1人でも物足りなさを感じないレベルで、しかもボーカルもやりながら弾きこなしている。やっぱり小出は本当に凄い人だと思うし、その年齢を重ねての進化は同世代としてこの上ないくらいに力を与えてくれる。
そして小出がいきなりラップし始めたのはもちろん「The CUT」なのだが、ファンとしては今日はRHYMESTERが来るだろうという予想もしていたりしたけど、それすらも3人だけで演奏される。というか、3人になって初めての武道館はやはり3人だけで完結させないといけないものだし、それこそが「3人で頑張ってきた」ということの証明になるということにここまで見ていて気が付いた。
小出が関根と向かい合ってキレキレのラップをし、関根はうねりまくるベースを鳴らす。そのベースを生かすようなタイトな堀之内のドラムという、リズムとラップだけで展開する曲がサビでは小出のギターが乗ってヒップホップからギターロックになる。ベボベだからこその、ベボベだけのミクスチャーロック。それが確かに今のベボベのカッコ良さとして武道館に響き渡っていた。
そのうねりを獲得した関根のベースのイントロで始まり、小出のギターが加わると観客も再び拳を振り上げまくる。かつてこの曲のイントロで「オイ!オイ!」と声をあげていたのはほとんどが野太い声の男ばかりで、なんでベボベはこんなに男性ファンが多いんだろうかと思ったりもした「Stairway Generation」であるが、
「Stairway Generation 階段を あがれあがれ」
「あがるしかないようだ Stairway」
というサビのフレーズたちが、再びこのステージに立てたからこそのバンドからの決意表明のように響く。それは小出が思いっきり振り絞るようにして歌うボーカルからも確かに伝わってくるものだ。
「聞こえますか? 繋がれますか?」
と問いかけるこの曲は20年間でいろんな場所、時期で繋がってきた我々それぞれの信頼関係の曲だった。この日、この場所でのこのライブが聞こえ方を変えたのだ。
そして小出が少し切なさを感じるイントロのギターを鳴らし始める。それを聴いて、まだこの時点では明言していなかったけれど、この曲が最後の曲だなと思った。それはこれまでにそうして締められたライブを数え切れないくらいに見てきたから。
その予想通りに小出がサビを弾き語り的に歌って始まった「ドラマチック」では堀之内と関根のリズムが加わってバンドサウンドになった瞬間に銀テープが射出される。演出らしい演出はほとんどなかったこの日のライブの中で最も武道館だからこその演出を感じられた瞬間。観客がそれぞれ銀テープを掴もうと腕を宙に伸ばす。取れなかった人、掴んだ人が関根の姿に合わせて手拍子を始める。
もう夏ではないけれど、この日は日中帯は武道館の周りを半袖Tシャツ1枚で座ったりしている人も多かった。ベボベの晴れバンド伝説は野外ライブじゃなくても続いていたし、この日がこんなに良い天気と気候だったのはやっぱりベボベが武道館をやることによって引き寄せたものだったんじゃないかと思う。ベボベがこの曲を鳴らせばいつだってそこは夏になるんだから。
「また出会えそうで 一度きりのドラマ」
というフレーズの通りに、これで最後じゃない。またきっとどこかで、そしてここでも会える。でもこの日はこの日の一度きりのドラマだった。それはこの日の全てがドラマチックな瞬間だったということだ。
そうして本編が終わると、暗転した場内にフッと関根であろう人影が現れると、照明が点くことも話し始めることもなく3人がステージに現れて「風来」というほとんどライブで演奏されたことのない曲が鳴らされる。
それもそのはずで、2019年末にリリースされた「C3」収録のこの曲は2020年になってからいろんな街で鳴らされるはずだった。それがコロナ禍になったことによってツアーは中止になってしまい、この曲を演奏する機会はなくなってしまった。そんな曲を今こうして演奏したのは、また来年に新たなツアーが開催されることが決まり、そのツアーのいろんな場所でこの曲を鳴らしにいくという理由によるものだ。
小出「次は10年後と言わず、5年後なり3年後なり。皆さん、これからもそうして10年後も、20年後も、30年後も、50年後も会いましょう。解散は…」
堀之内「しません!(笑)解散は絶対にしません!(笑)」
と、時間をオーバーするのが確定しただけにここぞとばかりに喋りまくるのであるが、ある意味ではバンドのライブ中にはタブー的な「解散」という話題をこんなにカジュアルに扱うことができるのは自分たちにとってそれは1ミリもリアリティがないものだからだろう。20周年を超えても、節目的な武道館を超えても、これからも当たり前にベボベは続いていく。これからもきっとまたこうした場所で全国にいるファンが一堂に会することができる。それがわかったのが本当に、何よりも嬉しかったのだ。ベボベが音を鳴らし続けている限り、我々の青春も終わらないからだ。
そして小出が堀之内に
「叫びを聞かせてやれ!」
としつこいくらいに何度も何度も繰り返し、その度に堀之内が「オウ!」と叫んでから、かつてと同じようにシンバルをターンテーブルのようにこすりながらタイトルを叫んだのは「夕方ジェネレーション」。もう小出がイントロで横にいる人の肩に腕を置くことはないけれど、この日最も関根はステージ左右に動き回りながらベースを弾き、近くのスタンド席の観客に向かって手を振ったりする。そのメンバーを照らすのは淡い夕焼けのようなオレンジ色の照明。
「切なげなメロディーがお似合いのジェネレーション、夕方感大全開。」
というサビを小出はかつてほど張り上げるようには歌わなくなっているが、それでもこの曲を聴くと、今でもこのメロディーがお似合いなままの夕方ジェネレーションでいれているんじゃないかと思える。それはつまり今でもこの曲を自分のための曲だと思えているということである。小出の最後の「夕方」を「You gotta」と発音しているようなタイトルフレーズのリフレインを聴いていると本当にそう思う。
で、これで終わりだと自分は思っていた。あるいは「祭りのあと」が演奏されるものかと。12年前の初武道館ではアンコールで、10年前の2回目には1回目の続きとばかりに1曲目でこの曲を演奏していたからである。
でもこの日最後に演奏されたのは「ドライブ」だった。3人で続けていくという姿勢を示したのは「ポラリス」だったけれど、ずっとこの3人で生きていくという決意が固まったのが、深夜にスタジオを出てメンバーで車を走らせて海に行くという内容のMVのこの曲であると思っている。だから3人での初武道館の最後にはこの曲を演奏し、そこで「生きている音がする」ということを示さなければならなかったのだ。サビではその音が祝福のものであるかのように紙吹雪が降り注ぎ、アウトロでは武道館のアンコールだからこその光景である、場内の客電が全てついた状態になる。それはこの音が祝福であり、我々を照らしてくれる光であることを示すようだった。だからもう本当に感動して感極まるのを超えてしまっていた。そんな感覚は初武道館にも2回目の武道館にもなかった。今のベボベだからこそ出来た、3回目にして3人での最初の武道館ワンマンだったのだ。
10年前の武道館の時はメンバーと同世代の自分はまだまだ学生気分だった。きっとメンバーもそんな感じだったんじゃないかと思う。勢いにも、調子にも乗っていた。そんなムードの武道館だった。でもそれからさらに10年経っての武道館はお互いに年を重ねてしまったようだな、とは思うけれども、そんなかつての浮かれた空気は一切ないし、かと言って大御所バンドの記念碑的なライブというわけでもなかった。ただただベボベというバンドがどれだけ素晴らしいバンドであり続け、我々がこのバンドと歩んできた日々が美しいものであったことを確かめさせてくれるようなものだった。
正直、自分はこの日のライブを見るまでは「もしかしたらベボベを武道館で見れるのはこれが最後かもしれない」なんて思ったりもしていた。それは小出も口にしていたように、もう勢いがある若手バンドではないし、普段ワンマンをずっと見ていても、武道館がかつてよりも埋まるイメージが想像できていなかった。
でもそんな自分の予想をベボベは軽く超えてきた。ライブの内容、そこで鳴っている音の強さも含めて。
「10年後とは言わずに」
と小出も言っていたけれど、この日の客席の景色を見たらまた必ずこの武道館でベボベのライブを見れる日が来ると確信することができた。それは自分と同じようにこのバンドを愛し続けてきた人がこんなにもたくさんいたからこそ確信することができたものだった。
きっとこれからもお互いにいろんな困難なんかもあるだろうし、ここからさらなる大ブレイクということもないかもしれない。それでも僕はここで見れるベボベを待っている。
1.17才
2.DIARY KEY
3.LOVE MATHEMATICS
4.GIRL FRIEND
5.LOVE LETTER FROM HEART BEAT
6.short hair
7.初恋
8.ポラリス
9.ホワイトワイライト
10.海へ
11.changes
12.海になりたい part.3
13.すべては君のせいで
14.「それって、for 誰?」 part.1
15.十字架 You and I
16.The Cut
17.Stairway Generation
18.ドラマチック
encore
19.風来
20.夕方ジェネレーション
21.ドライブ
MASH A&R pre. 『Treasure Tour』 出演:Panorama Panama Town / YAJICO GIRL / ユレニワ / Mercy Woodpecker @TSUTAYA O-Crest 11/11 ホーム
THE BAWDIES 「BIRTH OF THE REBELS TOUR 〜MARCYの復讐・TAXMANの逆襲〜」 @EX THEATER 11/8