THE BAWDIES 「BIRTH OF THE REBELS TOUR 〜MARCYの復讐・TAXMANの逆襲〜」 @EX THEATER 11/8
- 2022/11/09
- 22:43
今年にガレージロック回帰作「STAND!」をリリースし、夏にはそのツアーも行ったTHE BAWDIES。さすがにまだリリースこそないが、それでもツアーを開催するのはライブバンドとしての性か、あるいはこのツアーのタイトルによるコンセプトゆえか。
そう、この日はバンドの愛されキャラであるMARCY(ドラム)の誕生日であるだけにどんなライブになるのか。選曲も含めて実に楽しみである。それはツアー初日であるだけにまだ誰も知らないという状況も含めて。
少し久しぶりの六本木EX THEATERは椅子や立ち位置指定もなくなっているが、それゆえに客席のスタンディング部分にかなり余裕がある中、開演時間の19時を過ぎたところで場内が暗転すると、流れてきたのはおなじみのSEではなく映画「トップガン」の主題歌というチョイスからしてもいつもと全く違うライブであることがわかるが、それは歌詞に「mercy」という単語が頻発するからだろうが、実際にステージに最初に現れたのもMARCYで、その MARCYがドラムセットに座るとその位置がステージのど真ん中であることに気付く。完全なるMARCYのための編成であり、これもまたいつもとは全く違う姿である。
そのMARCYがこれぞロックンロールのエイトビートというようなドラムソロを連打するというオープニングもいつもと違うが、機材も実にシンプルであるし、MARCYは超絶テクニックのドラマーというわけでは決してない。同世代に凄さまじいドラマーが多すぎるだけにスタイル自体は地味に感じることもあるが、こうしてタイトかつ正確なドラムソロを長い尺で聴くと、やはりTHE BAWDIESのロックンロールなビートを担っているのはこのMARCYのドラムであることがわかる。それはROYがベース&ボーカルであるという理由もあるけれど。
そんなドラムソロ中に他の3人がステージに現れると、なんとMARCYの横(つまりほぼステージ中央)にはTAXMAN(ギター&ボーカル)の姿が。JIM(ギター)の位置は変わらないが、バンドの絶対的支配者にして自分が目立たないと気に入らない男であるROY(ベース&ボーカル)が下手の1番端というあまりに新鮮すぎる立ち位置。
それゆえかROYは登場早々どこか不機嫌そうにも見えるのだが、それは1曲目が先月配信リリースされたばかりのTAXMANメインボーカル曲「LIES」だったかもしれない…というくらいにROYがベーシストに徹している。MARCYのドラムソロから繋がるべくして繋がるストレートなロックンロールであるが、いつもはTHE BAWDIESのライブはROYのシャウトボイスの連発であるだけに、濃厚豚骨や二郎系的な濃いロックンロール、ソウルミュージックから始まってそれが続いていくものであるが、この日は塩ラーメンから始まったかというくらいに全然違う。TAXMANボーカル曲で始まるとこんなに違うのかというくらいに違う。
さらにTAXMANボーカルの中ではポップなサウンドとキャッチーなメロディという、むしろTAXMANの声だからこそそう感じられる「LOVER BOY」と続くことによってこの時点で「これはマジで今まで数え切れないくらいに見てきたTHE BAWDIESのライブとは全く違うものになるな」ということがわかる。こうして冒頭からTAXMANボーカル曲の2連発を聴いていると、THE BAWDIESがTAXMANメインボーカルのバンドだったらこうした割とオーソドックスなギターロックバンドだったのかもしれない、とすら思ってしまうくらいにバンドのイメージがガラッと変わる。
それはROYがコーラスに徹していたからでもあり、逆にROYのボーカルがどれほど強いのかということを逆説的に証明するものでもあるわけだが、そんなROYは早くもここでこの立ち位置についてTAXMANとMARCYにツッコミを入れるのであるが、その2人は完全に今回はライブタイトルにもあるように「いつもはROYに虐げられているもの同士」でタッグを組んでいるので、この日は誕生日ということで主役のMARCYが立ち上がって
「どうも、THE BAWDIESでーす」
と普段はROYがやる挨拶すらもしてしまう。そんなこの日の主役のMARCYは特別待遇で1人部屋の楽屋を与えられたということだが、普段は「1人の時間が欲しい」とよく言いながらも、寂しいのかちょくちょく3人の楽屋を覗きに来ていたという。
しかしこのわずか2曲からすでにそうしてMARCYエピソードが飛び出すだけにJIMから
「MCが長い!(笑)早く曲に行きたい!(笑)」
と突っ込まれると、MARCYが
「じゃあ僕が歌いまーす」
と言ってドラムを叩きながら歌い始めたのは、「THE EDGE」のシングルの初回特典DVDでの「メンバーそれぞれが新しいことに挑戦する」企画の中でMARCYがメインボーカルに挑戦していた曲である「THE LOVE IS GONE」という正式音源化されていない超レア曲。当然ながらドラムを叩きながら歌うMARCYの姿に観客は驚きながらも笑顔で腕を挙げるのだが、これは間違いなくこのツアーでしか見れないものだろう。だって普段は喋ることすらためらうくらいのMARCYが人前で、しかもステージのど真ん中で歌っているのだから。
いつもとは真逆にROYに
「お前ちゃんとベース弾けよ」
と強気に言っていたTAXMANが
「じゃあお前次の曲歌っていいよ」
と言って始まったのは、JIMが軽やかにステージ上を動き回りながら歌う「KICKS!」なのだが、この曲はTAXMANとROYのツインボーカル的な、2人が交互に歌い、時には混ざり合うからこそキャッチーになる曲である。ここまでの曲の中では最もライブでおなじみの曲であるだけに観客もどこか安心感を持って「Hey!」のコーラスに合わせて腕を挙げるのであるが、当然ながらROYは
「いやいやいや!これ半分しか歌ってないから!」
とダダをコネ始めるので、それならばと実に久しぶりに「FEELIN' FREE」が演奏されてようやくこの日にROYのシャウトボーカルが響き渡るのだが、この曲ではエフェクティブなギターを鳴らすTAXMANが間奏で前に出てきて膝をつくようにしてギターソロを弾きまくるなど、やはりこの日はROYボーカル曲を演奏しても主役は真ん中の2人という感じになってしまうのはこの立ち位置ならではである。
そんなこの日のTHE BAWDIESの姿をTAXMANとMARCYは
「シン・THE BAWDIESですよ」
とこれこそが新しいTHE BAWDIESであることをアピールするのだが、往生際が悪いROYはやはり
「今お前の前にいるお客さんは本当は俺を近くで見たくて真ん中にいるんだからな!そしたら真ん中がお前だったから、今ガッカリしてるぞ!」
と反論するとTAXMANは
「いやー、今日はなんか俺たちだけじゃなくて、君たちも輝いてるね(笑)」
とこの編成を観客が喜んでいることへの手応えを語る。このメンバーのパワーバランスの変化もまたいつもとは違ったこの日ならではの面白い部分である。
なのでTAXMANが力強く
「OK、カモンROY!」
とROYにイントロのベースを要求して始まったのはやはりTAXMANメインボーカルの荒々しいロックンロールナンバー「SO LONG SO LONG」。間奏ではMARCYのドラムソロも挟まれるのだが、普段のライブではワンマンでも1曲、あるいは多くても2曲くらいなTAXMANメインボーカル曲がすでに序盤だけで3曲も演奏されているというのはTAXMANファンにはたまらないことだと思われるが、TAXMANファンはちゃんと察して真ん中あたりにいたのか、あるいはROYの言う通りにいつも通りに真ん中にはROYファンがいたのだろうか。
するとここで再び
「もううるさいからお前歌っていいよ」
とTAXMANがROYに歌唱を許可して始まったのは「LET'S GO BACK」なのだが、やはりイントロではTAXMANが前に出てきてギターを鳴らして始まるだけにTAXMANが主役っぽい感じは否めない。サビではそんなメンバーたちが全員で合唱するのであるが、今はライブハウスでも25%の歓声を出して大丈夫だという。何をどう基準に25%なのかは未だによくわからないが、その25%を使うならばここなんじゃないかと思うくらいにまたTHE BAWDIESのメンバーとこのバンドを愛する人たち全員でこの曲を歌いたいと思う。こうしてメンバーたちが歌っているだけで何故だか感動してしまう曲であるだけに。
するとこの日は冒頭からいつもの感じとは比べ物にならないくらいによく喋るMARCYが、この日と次の福岡は自分がセトリを決めており、SEの「トップガン」のテーマや開演前のBGMもMARCYが決めたらしいのだが、SEはさすがに
ROY「ロックンロールバンドが「トップガン」のテーマで出てくるってどうなの?」
MARCY「最初は「トップガン」のサントラにしようかと思って…」
ROY「(MARCYを遮るように)「トップガン」のサントラの1曲目ってレディーガガですよ?レディーガガの曲で出てきてロックンロールやりづらいでしょ〜!」
と、もうROYが喋りたくて仕方がないという感じでMARCYを遮ってまで喋るのであるが、そんなMARCYは自分が好きな曲をこの後に演奏するという話をするも、それすらもROYが遮るようにしたために
「こいつめちゃくちゃ喋るじゃん〜!」
と、真ん中に立ったことによってROYが自分の話をかき消すように喋りまくることに改めて気付いたようだ。
そんなMARCYが選んだ曲の一つは音源では日本のソウルシンガー、AIとのフィーチャリング曲である「LOVE YOU NEED YOU」。記憶が正しければ、この曲はリリースした当時めちゃくちゃ売れた。確かオリコンシングルデイリーチャートで最高位2位までいったはず。まだサブスクはおろか配信すら浸透してなかった時代のある1日に日本で2番目に売れたシングルCDがこの曲だったのだ。それは当時AIはテレビの音楽番組にも出演しまくっていたし、THE BAWDIESもシーンを勢いよく駆け上がっていた時期だったというのもあるが、AIはもちろん不在によってROYとTAXMANのデュエットソングとなっているこの曲は今聴いてもアウトロの太陽が昇ってくるのを感じさせるようなJIMのギターの音階の上がり方含めて本当に名曲だと思う。それをさらに引き出していたのがやはりTAXMANのAIの原曲キーなんじゃないかと思うくらいのハイトーンなボーカル。それはこの日すでに何曲も歌ってきて喉が開いていたからこそ出せたものかもしれないが、またリリース当時のようにこの曲がライブで頻繁に演奏されるようになって欲しいし、MARCYのチョイスの素晴らしさたるや。
そしてもう1曲はメジャーデビューアルバム「THIS IS MY STORY」収録の「OH! MY DARLIN'」という、ライブで演奏されるのは実に13年ぶり(リリースツアー以来か)となる超レア曲。音源ではまだインディーズ期のソウルミュージック、リズム&ブルース(現行の世界的なポップミュージックとしとのR&Bではなく)という要素が強かったこの曲が、MARCYの力強くも複雑なリズムによって見事に今のTHE BAWDIESのロックンロールに昇華されているというのはこの日の主役の面目躍如であり、この曲への愛があるからこそだ。ROYは
「もう一生やらない曲」
と言っていたけれど、こうしたライブで全くやらない曲を聴けるのであればこうした企画的なライブやツアーはこれからもガンガンやっていただきたいと思う。
さらにはこちらはライブでは割とおなじみのTAXMANメインボーカル曲である「EASY GIRL」で、TAXMANのリズムに詰め込んだロックな歌唱が響き渡るのであるが、ROYは歌うTAXMANの前に出てきて被るようにベースを弾いたりと、歌わなくても目立ちたい欲が行動となって現れている。この辺りも実にTHE BAWDIESらしい光景であり、TAXMANの前に立った時のROYの悪戯っぽい笑顔はついついこちらも笑ってしまう。
そんな今回のツアーのメインビジュアルはTAXMANとMARCYがタッグを組んでROYに立ち向かうというものであるのだが、だからこそ
TAXMAN「JIMの今回の立ち位置がよくわからない(笑)」
となるのは当然なのだが、
JIM「俺もよくわからないからとりあえず楽しくやってるよ(笑)」
とのこと。確かにJIMの笑顔のギタリストっぷりはこの日唯一の変わらない部分である。いつかはJIMが主役のライブも見てみたいけれど。
するとTAXMANは
「ROY君さぁ、あんまり文句ばっかり言ってると俺たちから遅れるよ?遅れを取るよ?」
と、普段はROYが口にする言葉をTAXMANが口にしたということは…なんと「IT'S TOO LATE」のTAXMANメインボーカルバージョン。恒例のROYのようなロングシャウトはもちろんないけれど、そのROYのソウル汁が薄れたことによってシンプルかつストレートなロックンロールへと変貌したこの曲で観客は思いっきり笑いながらサビでは腕を左右に振っている。ただTAXMANメインボーカル曲をやるだけではなくてこんなアレンジまで施してくるとは。改めてTHE BAWDIESというバンドの凄まじさを実感せざるを得ない。
そうして自分のボーカル曲を取られたROYは気を取り直してとばかりに「NO WAY」の演奏を始めるのだが、ここでもタイトルフレーズの歌唱を始めたのはなんとMARCYであり、ROYは思いっきりMARCYの方を睨みつけるようにしながら演奏するのであった。とはいえそのタイトルフレーズ部分以外はROYが歌っていたし、やはりこうして交互に歌うとROYの歌の凄さがわかる。それはTAXMANも素直にROYの歌を褒めていたことからもわかるし(煽ててる感じもあったけど)、逆に
「ずっと鳥が泣いてるみたいだった」
とROYにいじられたMARCYのボーカルによるものもあるのだが、とはいえまさかこの曲のサビをMARCYが歌うなんて誰が想像したことだろうか。そんな普段は思いもしないようなTHE BAWDIESの遊び心溢れる、そして我々を心地良く裏切ってくれて最大限の笑顔にしてくれるライブが展開されている。
しかしROYもこのままではいられないとばかりに、何故かROYと父親との一人二役的なセルフコントを演じてから、TAXMANメインボーカル曲の「MY LITTLE JOE」をROYのボーカルで歌うというやり返しっぷりに。逆にソウル汁全開となったこの曲はやはりROYの歌声はどんな曲でもロックンロール・ソウルに変貌させる力があることを改めて感じさせながら、最後のタイトルフレーズ歌唱前には勿体ぶって水を飲んでから思いっきり声を張り上げる。その姿はやはり唯一無二のロックンロールボーカリストである。この声があるからこのバンドが武道館やアリーナまで到達できたのだということが実によくわかる。
そんなメンバー間でのボーカルチェンジバージョンという、これもまたこの日しかまず見れないものであろうパートを経ると、再びTAXMANがステージ前に出てきてギターを弾く、自身のメインボーカル曲「B.P.B」へ。こちらはライブではおなじみの曲であるが、間奏でのROYのベースソロが下手側、その後のTAXMANの観客を煽るセリフがステージ真ん中で発せられることによって、こうした編成の新しいバンドであるかのような新鮮さに。サビのリズムに合わせて飛び上がる観客以上にJIMが飛び上がりまくっているのも彼がこの特殊なライブを自身はいつも通りに楽しんでいる証拠である。
するとメンバーが楽器を置いてステージが暗転して…となると始まるのはもちろん劇場であり、スターウォーズのテーマが流れ始めたことから「これはおなじみのやつなんだな」と思っていたら、配役が
TAXMAN=ルーク
ROY=ダースベイダー
MARCY=ダースベイダーを操る真の黒幕
JIM=マスター・ヨーダ
とJIM以外はガラッと配役を変えたバージョンであり、ルークと対面したダースベイダーが自身に残っていた正義の心を取り戻して黒幕にビンタをかますという、MARCYが素で「いってぇ!」と言うこのツアーならではのものにやはり劇場も変化している。和解したスカイウォーカー親子が
「ひと段落したらお腹が空いたなぁ」
とそれぞれが持っていたパンとソーセージを合体させてホットドッグにするという、もはやとってつけたホットドッグ要素にはROY自ら
「もうこれなんでもありじゃん!」
とツッコミを入れていたが、そうして突入した「HOT DOG」はやはり我々に無上の楽しさを与えてくれる。JIMも汗を飛び散らせながらジャンプしまくり、TAXMANとROYは間奏で2人で並んで笑顔で演奏している。この特別な編成・内容のライブをメンバー自身が心から楽しんでいることがよくわかる。その姿が我々をより一層楽しくさせてくれるのである。そこは普段のTHE BAWDIESのライブと全く変わらないところである。
するとROYとTAXMANの2人だけが楽器を置くと、ROYが待ってましたと言わんばかりに自身とTAXMANの位置を入れ替えて真ん中に行こうとするのだが、ROYがスタッフにアンプなどのセットチェンジを依頼しても誰も動かず、TAXMANとMARCYが依頼してようやくスタッフが動くという、メンバーだけではなくてチーム全体でこの日の設定が共有されているというのはメンバーがどれだけスタッフたちに愛されているのかということが実によくわかる。MARCYはROYが隣に来る(MARCYのドラムは動かなかった)ことを執拗に嫌がっていたけれど。
そうしてROYが真ん中に来た理由の一つはこの曲を演奏するためだろうというのは冒頭に演奏された「LIES」とともに新曲として配信された「GET OUT OF MY WAY」。どこか照明もサウンドも後期ビートルズ的なサイケデリックさを感じさせるようなロックンロールで、もちろんそれはROYのボーカルによって引き出されているものでもあるのだが、てっきりガレージロック的な方向を続けるのかと思っていたらどうやらそういうわけではないということがこの曲から伝わってくる。それだけにこれからのTHE BAWDIESがどんな曲を生み出すのかがより楽しみになるのである。
そして
「皆さんも心の中で「T.I.A. T.Y.I.A.」と叫んでください!」
と、未だに声を出すことができない観客を慮るようにしてから演奏された「T.Y.I.A.」のそのコーラス部分での、ボーカル曲をたくさん経てきたことによるTAXMANの歌唱の大きさがさらにバンドのグルーヴを燃えたぎらせると、
「MARCYが最後にこの曲をやりたいと申しておりますので!」
と言って演奏されたこの日最後の曲は、これまた実に久しぶりにライブで演奏された「ROCK ME BABY」。きっと世の中的なTHE BAWDIES最大の代表曲は「HOT DOG」でも「IT'S TOO LATE」でもなくてこの曲だろう。当時話題になったドラマの主題歌となり、しかもメンバーもほんの少しだけだけれどドラマ内に出演するという、今の緑黄色社会的な立ち位置に間違いなく当時のTHE BAWDIESはいた。
「LOVE YOU NEED YOU」もそうであるが、そんな大ヒット曲を好んでセトリに入れるというあたりはMARCYは他のメンバーよりも少しポップな趣向性があるのかもしれない。そうしたそれぞれの個性がセトリやライブ内容に出るのが実に面白いだけにこれからも毎年こうしたライブをやって欲しいし、やっぱりこの曲のサビのMARCYの強力なリズムに合わせて飛び跳ねたくなる感覚をこれからも何度でも味わいたいと思うのだ。
去り際に何か喋ろうとしたROYをJIMが
「もう早く帰るよ!(笑)」
と言って引っ張って袖へ連れて行く姿に子供を引っ張る大人みたいな構図を感じて爆笑が起きてからのアンコールではやはりこの日の主役のMARCYが登場して、自身の誕生日にこうしたライブができることの喜びを語りながら、
「もうこういうライブはやらないと思うけど(笑)、THE BAWDIESはこういう感じのバンドです(笑)これからもこんな感じでやっていくんで、またいろんなところで会えたらいいなと思います」
と口にしてからメンバーを呼ぶと、アコギを持ったTAXMANが勢いよく飛び出してきて、テツandトモの「なんでだろう」のフレーズを弾きながらMARCYに無茶振りしようとするのだが、さすがにMARCYはそれには応じず。JIMとともに登場したROYからは
「いやいや、THE BAWDIES普段からこんな感じじゃないから!俺が端っこにいるのが普段なんてわけないじゃん!」
と言うも、驚くくらいに観客から拍手が起こらず、観客もTAXMAN&MARCYチームとして示し合わせたかのような共犯感を感じる。この空気の読みっぷりはさすがTHE BAWDIESを長いこと見てきたであろう人たちである。
そんなROYは早くも来年にツアーが決定したことをここで告知するのだが、それは東名阪を回るアコースティックライブという初めての形になるという。当然THE BAWDIESのアコースティックライブは普通のものになるわけもなく、喋りまくる予定だということがツアータイトル「話して、笑って、歌って、福来て」というあたりからも感じられる。つまりはROYは
「こんなライブできるの凄くないですか?選手層の厚さというか。しっかり後半に出てきて点を取れるプレイヤー(ROY)もいるっていう」
と畳み掛けるように喋っていただけに、アコースティックツアーでも喋りまくるつもりだということである。
そんなアコースティックツアーの味見的にと言って、MARCYが自分で袖から持ってきたカホンでステージ真ん中前に座り、JIMとTAXMANがアコギという形で演奏されたのは、音源ではピアノとROYの声を軸とした新たなTHE BAWDIESらしさを感じさせた「STARS」で、実にアコースティックアレンジが似合う曲だ。本人たちも言っていたようにあまりアコースティックのイメージがないバンドであるが、この曲を聴いているとやはりメロディとROYの歌唱の素晴らしさを感じることができるだけに、どんな曲をアコースティックアレンジにしてそう感じさせてくれるのかも楽しみなところである。
そうしたアコースティックから通常の編成に戻ってMARCYがリズムを刻み始めると、最後に演奏されたのは
「皆さんが打ち上げ花火になってください!」
と言って演奏された「JUST BE COOL」で、ここまでのこの日の楽しさの集大成かというように観客は飛び跳ねまくるのであるが、最後のサビ前のブレイクではROYが
「MARCY、誕生日おめでとうー!」
と思いっきりシャウトする。演出的にヒール的な立ち位置になってはいたが、やっぱりROYはMARCYが大好きで仕方がないのである。それは幼なじみ同士であり、このTHE BAWDIESのロックンロールの魔法を体現できるメンバーとしても。そのシャウトに全てが集約されていたかのような、MARCYの生誕祭であった。
しかしながら演奏が終わってもまだ終わらないのがTHE BAWDIESのライブである。大将ことTAXMANは法被を手に取ると、それをこの日の主役であるMARCYに渡す。実に嫌々ながらもMARCYは法被を着て、この日ならではの
「MARCY誕生日おめでとうわっしょい」
を自分で自分を祝うようにして決行すると、
「もうこんな日来ないかもしれないから!お母さんにも「あんた本当に大丈夫?」って心配されたんだから!」
と、カメラマンの橋本塁に自分を中心にした写真を撮ってもらおうとする。観客をバックにした際にROYがふざけて寝転がるというのはもはやお約束であるが、最後にはこの日のステージを背にし、しかもドラムセットに座ったMARCYを3人が囲むようにして写真を撮った。そんなこの日の最後の一言はJIMの去り際の
「来年は4人合わせたら160歳!ヤバいよ!(笑)」
というものであった。こんなに子供の心を失うことなくロックンロールに頃がり続けている人たちが40歳になろうとしているのを見ると、歳を重ねるのも決して悪いことばかりじゃないかもしれないと思えた。
THE BAWDIESは特にフェスなどではそこまで演奏する曲が変わらないバンドだ。それはいわゆる定番曲があまりに強すぎるからというのもあるし、実際にそうしたライブを何回見てもいつだって最高に楽しい。
でもレア曲満載なこの日のライブを見ると、そうしたいつも聴いている定番曲以外にも良い曲が当たり前だがたくさんあり、そうした曲たちも我々ファンは愛してきたのだということに気付く。
アルバムリリースツアーが終わればほとんどの曲はそれっきり演奏されないことも多いけれど、そうした曲たちに新しく光を当てるためにも来年からもずっとこうしたライブ、ツアーを開催して欲しいと思っている。現に自分は行く予定がなかった、TAXMANがセトリを決めるという大阪か名古屋になんとかして行けないものかとこの日のライブを見て検討し始めている。
つまりは13年くらいずっと見てきたTHE BAWDIESのいつもと全く違うライブはいつも通りの楽しさに加えて、いつもとは全く違う楽しさも感じられるものだった。そんなライブが感じさせてくれるのは、THE BAWDIESを好きでいて、こうしてずっとライブを見て来れて本当に良かったなということと、今までよりもさらにTHE BAWDIESを好きになったということ。
こんなライブが出来るんならきっとこれからもっといろんなライブもできる。アコースティックツアーだってそうだろう。MARCYの生誕祭はこれからのTHE BAWDIESのライブと我々ファンに新しい光を与えてくれるものだったのだ。
1.LIES
2.LOVER BOY
3.THE LOVE IS GONE
4.KICKS!
5.FEELIN' FREE
6.SO LONG SO LONG
7.LET'S GO BACK
8.LOVE YOU NEED YOU
9.OH! MY DARLIN'
10.EASY GIRL
11.IT'S TOO LATE (TAXMAN ver.)
12.NO WAY (MARCY ver.)
13.MY LITTLE JOE (ROY ver.)
14.B.P.B
15.HOT DOG
16.GET OUT OF MY WAY
17.T.Y.I.A.
18.ROCK ME BABY
encore
19.STARS (Acoustic ver.)
20.JUST BE COOL
そう、この日はバンドの愛されキャラであるMARCY(ドラム)の誕生日であるだけにどんなライブになるのか。選曲も含めて実に楽しみである。それはツアー初日であるだけにまだ誰も知らないという状況も含めて。
少し久しぶりの六本木EX THEATERは椅子や立ち位置指定もなくなっているが、それゆえに客席のスタンディング部分にかなり余裕がある中、開演時間の19時を過ぎたところで場内が暗転すると、流れてきたのはおなじみのSEではなく映画「トップガン」の主題歌というチョイスからしてもいつもと全く違うライブであることがわかるが、それは歌詞に「mercy」という単語が頻発するからだろうが、実際にステージに最初に現れたのもMARCYで、その MARCYがドラムセットに座るとその位置がステージのど真ん中であることに気付く。完全なるMARCYのための編成であり、これもまたいつもとは全く違う姿である。
そのMARCYがこれぞロックンロールのエイトビートというようなドラムソロを連打するというオープニングもいつもと違うが、機材も実にシンプルであるし、MARCYは超絶テクニックのドラマーというわけでは決してない。同世代に凄さまじいドラマーが多すぎるだけにスタイル自体は地味に感じることもあるが、こうしてタイトかつ正確なドラムソロを長い尺で聴くと、やはりTHE BAWDIESのロックンロールなビートを担っているのはこのMARCYのドラムであることがわかる。それはROYがベース&ボーカルであるという理由もあるけれど。
そんなドラムソロ中に他の3人がステージに現れると、なんとMARCYの横(つまりほぼステージ中央)にはTAXMAN(ギター&ボーカル)の姿が。JIM(ギター)の位置は変わらないが、バンドの絶対的支配者にして自分が目立たないと気に入らない男であるROY(ベース&ボーカル)が下手の1番端というあまりに新鮮すぎる立ち位置。
それゆえかROYは登場早々どこか不機嫌そうにも見えるのだが、それは1曲目が先月配信リリースされたばかりのTAXMANメインボーカル曲「LIES」だったかもしれない…というくらいにROYがベーシストに徹している。MARCYのドラムソロから繋がるべくして繋がるストレートなロックンロールであるが、いつもはTHE BAWDIESのライブはROYのシャウトボイスの連発であるだけに、濃厚豚骨や二郎系的な濃いロックンロール、ソウルミュージックから始まってそれが続いていくものであるが、この日は塩ラーメンから始まったかというくらいに全然違う。TAXMANボーカル曲で始まるとこんなに違うのかというくらいに違う。
さらにTAXMANボーカルの中ではポップなサウンドとキャッチーなメロディという、むしろTAXMANの声だからこそそう感じられる「LOVER BOY」と続くことによってこの時点で「これはマジで今まで数え切れないくらいに見てきたTHE BAWDIESのライブとは全く違うものになるな」ということがわかる。こうして冒頭からTAXMANボーカル曲の2連発を聴いていると、THE BAWDIESがTAXMANメインボーカルのバンドだったらこうした割とオーソドックスなギターロックバンドだったのかもしれない、とすら思ってしまうくらいにバンドのイメージがガラッと変わる。
それはROYがコーラスに徹していたからでもあり、逆にROYのボーカルがどれほど強いのかということを逆説的に証明するものでもあるわけだが、そんなROYは早くもここでこの立ち位置についてTAXMANとMARCYにツッコミを入れるのであるが、その2人は完全に今回はライブタイトルにもあるように「いつもはROYに虐げられているもの同士」でタッグを組んでいるので、この日は誕生日ということで主役のMARCYが立ち上がって
「どうも、THE BAWDIESでーす」
と普段はROYがやる挨拶すらもしてしまう。そんなこの日の主役のMARCYは特別待遇で1人部屋の楽屋を与えられたということだが、普段は「1人の時間が欲しい」とよく言いながらも、寂しいのかちょくちょく3人の楽屋を覗きに来ていたという。
しかしこのわずか2曲からすでにそうしてMARCYエピソードが飛び出すだけにJIMから
「MCが長い!(笑)早く曲に行きたい!(笑)」
と突っ込まれると、MARCYが
「じゃあ僕が歌いまーす」
と言ってドラムを叩きながら歌い始めたのは、「THE EDGE」のシングルの初回特典DVDでの「メンバーそれぞれが新しいことに挑戦する」企画の中でMARCYがメインボーカルに挑戦していた曲である「THE LOVE IS GONE」という正式音源化されていない超レア曲。当然ながらドラムを叩きながら歌うMARCYの姿に観客は驚きながらも笑顔で腕を挙げるのだが、これは間違いなくこのツアーでしか見れないものだろう。だって普段は喋ることすらためらうくらいのMARCYが人前で、しかもステージのど真ん中で歌っているのだから。
いつもとは真逆にROYに
「お前ちゃんとベース弾けよ」
と強気に言っていたTAXMANが
「じゃあお前次の曲歌っていいよ」
と言って始まったのは、JIMが軽やかにステージ上を動き回りながら歌う「KICKS!」なのだが、この曲はTAXMANとROYのツインボーカル的な、2人が交互に歌い、時には混ざり合うからこそキャッチーになる曲である。ここまでの曲の中では最もライブでおなじみの曲であるだけに観客もどこか安心感を持って「Hey!」のコーラスに合わせて腕を挙げるのであるが、当然ながらROYは
「いやいやいや!これ半分しか歌ってないから!」
とダダをコネ始めるので、それならばと実に久しぶりに「FEELIN' FREE」が演奏されてようやくこの日にROYのシャウトボーカルが響き渡るのだが、この曲ではエフェクティブなギターを鳴らすTAXMANが間奏で前に出てきて膝をつくようにしてギターソロを弾きまくるなど、やはりこの日はROYボーカル曲を演奏しても主役は真ん中の2人という感じになってしまうのはこの立ち位置ならではである。
そんなこの日のTHE BAWDIESの姿をTAXMANとMARCYは
「シン・THE BAWDIESですよ」
とこれこそが新しいTHE BAWDIESであることをアピールするのだが、往生際が悪いROYはやはり
「今お前の前にいるお客さんは本当は俺を近くで見たくて真ん中にいるんだからな!そしたら真ん中がお前だったから、今ガッカリしてるぞ!」
と反論するとTAXMANは
「いやー、今日はなんか俺たちだけじゃなくて、君たちも輝いてるね(笑)」
とこの編成を観客が喜んでいることへの手応えを語る。このメンバーのパワーバランスの変化もまたいつもとは違ったこの日ならではの面白い部分である。
なのでTAXMANが力強く
「OK、カモンROY!」
とROYにイントロのベースを要求して始まったのはやはりTAXMANメインボーカルの荒々しいロックンロールナンバー「SO LONG SO LONG」。間奏ではMARCYのドラムソロも挟まれるのだが、普段のライブではワンマンでも1曲、あるいは多くても2曲くらいなTAXMANメインボーカル曲がすでに序盤だけで3曲も演奏されているというのはTAXMANファンにはたまらないことだと思われるが、TAXMANファンはちゃんと察して真ん中あたりにいたのか、あるいはROYの言う通りにいつも通りに真ん中にはROYファンがいたのだろうか。
するとここで再び
「もううるさいからお前歌っていいよ」
とTAXMANがROYに歌唱を許可して始まったのは「LET'S GO BACK」なのだが、やはりイントロではTAXMANが前に出てきてギターを鳴らして始まるだけにTAXMANが主役っぽい感じは否めない。サビではそんなメンバーたちが全員で合唱するのであるが、今はライブハウスでも25%の歓声を出して大丈夫だという。何をどう基準に25%なのかは未だによくわからないが、その25%を使うならばここなんじゃないかと思うくらいにまたTHE BAWDIESのメンバーとこのバンドを愛する人たち全員でこの曲を歌いたいと思う。こうしてメンバーたちが歌っているだけで何故だか感動してしまう曲であるだけに。
するとこの日は冒頭からいつもの感じとは比べ物にならないくらいによく喋るMARCYが、この日と次の福岡は自分がセトリを決めており、SEの「トップガン」のテーマや開演前のBGMもMARCYが決めたらしいのだが、SEはさすがに
ROY「ロックンロールバンドが「トップガン」のテーマで出てくるってどうなの?」
MARCY「最初は「トップガン」のサントラにしようかと思って…」
ROY「(MARCYを遮るように)「トップガン」のサントラの1曲目ってレディーガガですよ?レディーガガの曲で出てきてロックンロールやりづらいでしょ〜!」
と、もうROYが喋りたくて仕方がないという感じでMARCYを遮ってまで喋るのであるが、そんなMARCYは自分が好きな曲をこの後に演奏するという話をするも、それすらもROYが遮るようにしたために
「こいつめちゃくちゃ喋るじゃん〜!」
と、真ん中に立ったことによってROYが自分の話をかき消すように喋りまくることに改めて気付いたようだ。
そんなMARCYが選んだ曲の一つは音源では日本のソウルシンガー、AIとのフィーチャリング曲である「LOVE YOU NEED YOU」。記憶が正しければ、この曲はリリースした当時めちゃくちゃ売れた。確かオリコンシングルデイリーチャートで最高位2位までいったはず。まだサブスクはおろか配信すら浸透してなかった時代のある1日に日本で2番目に売れたシングルCDがこの曲だったのだ。それは当時AIはテレビの音楽番組にも出演しまくっていたし、THE BAWDIESもシーンを勢いよく駆け上がっていた時期だったというのもあるが、AIはもちろん不在によってROYとTAXMANのデュエットソングとなっているこの曲は今聴いてもアウトロの太陽が昇ってくるのを感じさせるようなJIMのギターの音階の上がり方含めて本当に名曲だと思う。それをさらに引き出していたのがやはりTAXMANのAIの原曲キーなんじゃないかと思うくらいのハイトーンなボーカル。それはこの日すでに何曲も歌ってきて喉が開いていたからこそ出せたものかもしれないが、またリリース当時のようにこの曲がライブで頻繁に演奏されるようになって欲しいし、MARCYのチョイスの素晴らしさたるや。
そしてもう1曲はメジャーデビューアルバム「THIS IS MY STORY」収録の「OH! MY DARLIN'」という、ライブで演奏されるのは実に13年ぶり(リリースツアー以来か)となる超レア曲。音源ではまだインディーズ期のソウルミュージック、リズム&ブルース(現行の世界的なポップミュージックとしとのR&Bではなく)という要素が強かったこの曲が、MARCYの力強くも複雑なリズムによって見事に今のTHE BAWDIESのロックンロールに昇華されているというのはこの日の主役の面目躍如であり、この曲への愛があるからこそだ。ROYは
「もう一生やらない曲」
と言っていたけれど、こうしたライブで全くやらない曲を聴けるのであればこうした企画的なライブやツアーはこれからもガンガンやっていただきたいと思う。
さらにはこちらはライブでは割とおなじみのTAXMANメインボーカル曲である「EASY GIRL」で、TAXMANのリズムに詰め込んだロックな歌唱が響き渡るのであるが、ROYは歌うTAXMANの前に出てきて被るようにベースを弾いたりと、歌わなくても目立ちたい欲が行動となって現れている。この辺りも実にTHE BAWDIESらしい光景であり、TAXMANの前に立った時のROYの悪戯っぽい笑顔はついついこちらも笑ってしまう。
そんな今回のツアーのメインビジュアルはTAXMANとMARCYがタッグを組んでROYに立ち向かうというものであるのだが、だからこそ
TAXMAN「JIMの今回の立ち位置がよくわからない(笑)」
となるのは当然なのだが、
JIM「俺もよくわからないからとりあえず楽しくやってるよ(笑)」
とのこと。確かにJIMの笑顔のギタリストっぷりはこの日唯一の変わらない部分である。いつかはJIMが主役のライブも見てみたいけれど。
するとTAXMANは
「ROY君さぁ、あんまり文句ばっかり言ってると俺たちから遅れるよ?遅れを取るよ?」
と、普段はROYが口にする言葉をTAXMANが口にしたということは…なんと「IT'S TOO LATE」のTAXMANメインボーカルバージョン。恒例のROYのようなロングシャウトはもちろんないけれど、そのROYのソウル汁が薄れたことによってシンプルかつストレートなロックンロールへと変貌したこの曲で観客は思いっきり笑いながらサビでは腕を左右に振っている。ただTAXMANメインボーカル曲をやるだけではなくてこんなアレンジまで施してくるとは。改めてTHE BAWDIESというバンドの凄まじさを実感せざるを得ない。
そうして自分のボーカル曲を取られたROYは気を取り直してとばかりに「NO WAY」の演奏を始めるのだが、ここでもタイトルフレーズの歌唱を始めたのはなんとMARCYであり、ROYは思いっきりMARCYの方を睨みつけるようにしながら演奏するのであった。とはいえそのタイトルフレーズ部分以外はROYが歌っていたし、やはりこうして交互に歌うとROYの歌の凄さがわかる。それはTAXMANも素直にROYの歌を褒めていたことからもわかるし(煽ててる感じもあったけど)、逆に
「ずっと鳥が泣いてるみたいだった」
とROYにいじられたMARCYのボーカルによるものもあるのだが、とはいえまさかこの曲のサビをMARCYが歌うなんて誰が想像したことだろうか。そんな普段は思いもしないようなTHE BAWDIESの遊び心溢れる、そして我々を心地良く裏切ってくれて最大限の笑顔にしてくれるライブが展開されている。
しかしROYもこのままではいられないとばかりに、何故かROYと父親との一人二役的なセルフコントを演じてから、TAXMANメインボーカル曲の「MY LITTLE JOE」をROYのボーカルで歌うというやり返しっぷりに。逆にソウル汁全開となったこの曲はやはりROYの歌声はどんな曲でもロックンロール・ソウルに変貌させる力があることを改めて感じさせながら、最後のタイトルフレーズ歌唱前には勿体ぶって水を飲んでから思いっきり声を張り上げる。その姿はやはり唯一無二のロックンロールボーカリストである。この声があるからこのバンドが武道館やアリーナまで到達できたのだということが実によくわかる。
そんなメンバー間でのボーカルチェンジバージョンという、これもまたこの日しかまず見れないものであろうパートを経ると、再びTAXMANがステージ前に出てきてギターを弾く、自身のメインボーカル曲「B.P.B」へ。こちらはライブではおなじみの曲であるが、間奏でのROYのベースソロが下手側、その後のTAXMANの観客を煽るセリフがステージ真ん中で発せられることによって、こうした編成の新しいバンドであるかのような新鮮さに。サビのリズムに合わせて飛び上がる観客以上にJIMが飛び上がりまくっているのも彼がこの特殊なライブを自身はいつも通りに楽しんでいる証拠である。
するとメンバーが楽器を置いてステージが暗転して…となると始まるのはもちろん劇場であり、スターウォーズのテーマが流れ始めたことから「これはおなじみのやつなんだな」と思っていたら、配役が
TAXMAN=ルーク
ROY=ダースベイダー
MARCY=ダースベイダーを操る真の黒幕
JIM=マスター・ヨーダ
とJIM以外はガラッと配役を変えたバージョンであり、ルークと対面したダースベイダーが自身に残っていた正義の心を取り戻して黒幕にビンタをかますという、MARCYが素で「いってぇ!」と言うこのツアーならではのものにやはり劇場も変化している。和解したスカイウォーカー親子が
「ひと段落したらお腹が空いたなぁ」
とそれぞれが持っていたパンとソーセージを合体させてホットドッグにするという、もはやとってつけたホットドッグ要素にはROY自ら
「もうこれなんでもありじゃん!」
とツッコミを入れていたが、そうして突入した「HOT DOG」はやはり我々に無上の楽しさを与えてくれる。JIMも汗を飛び散らせながらジャンプしまくり、TAXMANとROYは間奏で2人で並んで笑顔で演奏している。この特別な編成・内容のライブをメンバー自身が心から楽しんでいることがよくわかる。その姿が我々をより一層楽しくさせてくれるのである。そこは普段のTHE BAWDIESのライブと全く変わらないところである。
するとROYとTAXMANの2人だけが楽器を置くと、ROYが待ってましたと言わんばかりに自身とTAXMANの位置を入れ替えて真ん中に行こうとするのだが、ROYがスタッフにアンプなどのセットチェンジを依頼しても誰も動かず、TAXMANとMARCYが依頼してようやくスタッフが動くという、メンバーだけではなくてチーム全体でこの日の設定が共有されているというのはメンバーがどれだけスタッフたちに愛されているのかということが実によくわかる。MARCYはROYが隣に来る(MARCYのドラムは動かなかった)ことを執拗に嫌がっていたけれど。
そうしてROYが真ん中に来た理由の一つはこの曲を演奏するためだろうというのは冒頭に演奏された「LIES」とともに新曲として配信された「GET OUT OF MY WAY」。どこか照明もサウンドも後期ビートルズ的なサイケデリックさを感じさせるようなロックンロールで、もちろんそれはROYのボーカルによって引き出されているものでもあるのだが、てっきりガレージロック的な方向を続けるのかと思っていたらどうやらそういうわけではないということがこの曲から伝わってくる。それだけにこれからのTHE BAWDIESがどんな曲を生み出すのかがより楽しみになるのである。
そして
「皆さんも心の中で「T.I.A. T.Y.I.A.」と叫んでください!」
と、未だに声を出すことができない観客を慮るようにしてから演奏された「T.Y.I.A.」のそのコーラス部分での、ボーカル曲をたくさん経てきたことによるTAXMANの歌唱の大きさがさらにバンドのグルーヴを燃えたぎらせると、
「MARCYが最後にこの曲をやりたいと申しておりますので!」
と言って演奏されたこの日最後の曲は、これまた実に久しぶりにライブで演奏された「ROCK ME BABY」。きっと世の中的なTHE BAWDIES最大の代表曲は「HOT DOG」でも「IT'S TOO LATE」でもなくてこの曲だろう。当時話題になったドラマの主題歌となり、しかもメンバーもほんの少しだけだけれどドラマ内に出演するという、今の緑黄色社会的な立ち位置に間違いなく当時のTHE BAWDIESはいた。
「LOVE YOU NEED YOU」もそうであるが、そんな大ヒット曲を好んでセトリに入れるというあたりはMARCYは他のメンバーよりも少しポップな趣向性があるのかもしれない。そうしたそれぞれの個性がセトリやライブ内容に出るのが実に面白いだけにこれからも毎年こうしたライブをやって欲しいし、やっぱりこの曲のサビのMARCYの強力なリズムに合わせて飛び跳ねたくなる感覚をこれからも何度でも味わいたいと思うのだ。
去り際に何か喋ろうとしたROYをJIMが
「もう早く帰るよ!(笑)」
と言って引っ張って袖へ連れて行く姿に子供を引っ張る大人みたいな構図を感じて爆笑が起きてからのアンコールではやはりこの日の主役のMARCYが登場して、自身の誕生日にこうしたライブができることの喜びを語りながら、
「もうこういうライブはやらないと思うけど(笑)、THE BAWDIESはこういう感じのバンドです(笑)これからもこんな感じでやっていくんで、またいろんなところで会えたらいいなと思います」
と口にしてからメンバーを呼ぶと、アコギを持ったTAXMANが勢いよく飛び出してきて、テツandトモの「なんでだろう」のフレーズを弾きながらMARCYに無茶振りしようとするのだが、さすがにMARCYはそれには応じず。JIMとともに登場したROYからは
「いやいや、THE BAWDIES普段からこんな感じじゃないから!俺が端っこにいるのが普段なんてわけないじゃん!」
と言うも、驚くくらいに観客から拍手が起こらず、観客もTAXMAN&MARCYチームとして示し合わせたかのような共犯感を感じる。この空気の読みっぷりはさすがTHE BAWDIESを長いこと見てきたであろう人たちである。
そんなROYは早くも来年にツアーが決定したことをここで告知するのだが、それは東名阪を回るアコースティックライブという初めての形になるという。当然THE BAWDIESのアコースティックライブは普通のものになるわけもなく、喋りまくる予定だということがツアータイトル「話して、笑って、歌って、福来て」というあたりからも感じられる。つまりはROYは
「こんなライブできるの凄くないですか?選手層の厚さというか。しっかり後半に出てきて点を取れるプレイヤー(ROY)もいるっていう」
と畳み掛けるように喋っていただけに、アコースティックツアーでも喋りまくるつもりだということである。
そんなアコースティックツアーの味見的にと言って、MARCYが自分で袖から持ってきたカホンでステージ真ん中前に座り、JIMとTAXMANがアコギという形で演奏されたのは、音源ではピアノとROYの声を軸とした新たなTHE BAWDIESらしさを感じさせた「STARS」で、実にアコースティックアレンジが似合う曲だ。本人たちも言っていたようにあまりアコースティックのイメージがないバンドであるが、この曲を聴いているとやはりメロディとROYの歌唱の素晴らしさを感じることができるだけに、どんな曲をアコースティックアレンジにしてそう感じさせてくれるのかも楽しみなところである。
そうしたアコースティックから通常の編成に戻ってMARCYがリズムを刻み始めると、最後に演奏されたのは
「皆さんが打ち上げ花火になってください!」
と言って演奏された「JUST BE COOL」で、ここまでのこの日の楽しさの集大成かというように観客は飛び跳ねまくるのであるが、最後のサビ前のブレイクではROYが
「MARCY、誕生日おめでとうー!」
と思いっきりシャウトする。演出的にヒール的な立ち位置になってはいたが、やっぱりROYはMARCYが大好きで仕方がないのである。それは幼なじみ同士であり、このTHE BAWDIESのロックンロールの魔法を体現できるメンバーとしても。そのシャウトに全てが集約されていたかのような、MARCYの生誕祭であった。
しかしながら演奏が終わってもまだ終わらないのがTHE BAWDIESのライブである。大将ことTAXMANは法被を手に取ると、それをこの日の主役であるMARCYに渡す。実に嫌々ながらもMARCYは法被を着て、この日ならではの
「MARCY誕生日おめでとうわっしょい」
を自分で自分を祝うようにして決行すると、
「もうこんな日来ないかもしれないから!お母さんにも「あんた本当に大丈夫?」って心配されたんだから!」
と、カメラマンの橋本塁に自分を中心にした写真を撮ってもらおうとする。観客をバックにした際にROYがふざけて寝転がるというのはもはやお約束であるが、最後にはこの日のステージを背にし、しかもドラムセットに座ったMARCYを3人が囲むようにして写真を撮った。そんなこの日の最後の一言はJIMの去り際の
「来年は4人合わせたら160歳!ヤバいよ!(笑)」
というものであった。こんなに子供の心を失うことなくロックンロールに頃がり続けている人たちが40歳になろうとしているのを見ると、歳を重ねるのも決して悪いことばかりじゃないかもしれないと思えた。
THE BAWDIESは特にフェスなどではそこまで演奏する曲が変わらないバンドだ。それはいわゆる定番曲があまりに強すぎるからというのもあるし、実際にそうしたライブを何回見てもいつだって最高に楽しい。
でもレア曲満載なこの日のライブを見ると、そうしたいつも聴いている定番曲以外にも良い曲が当たり前だがたくさんあり、そうした曲たちも我々ファンは愛してきたのだということに気付く。
アルバムリリースツアーが終わればほとんどの曲はそれっきり演奏されないことも多いけれど、そうした曲たちに新しく光を当てるためにも来年からもずっとこうしたライブ、ツアーを開催して欲しいと思っている。現に自分は行く予定がなかった、TAXMANがセトリを決めるという大阪か名古屋になんとかして行けないものかとこの日のライブを見て検討し始めている。
つまりは13年くらいずっと見てきたTHE BAWDIESのいつもと全く違うライブはいつも通りの楽しさに加えて、いつもとは全く違う楽しさも感じられるものだった。そんなライブが感じさせてくれるのは、THE BAWDIESを好きでいて、こうしてずっとライブを見て来れて本当に良かったなということと、今までよりもさらにTHE BAWDIESを好きになったということ。
こんなライブが出来るんならきっとこれからもっといろんなライブもできる。アコースティックツアーだってそうだろう。MARCYの生誕祭はこれからのTHE BAWDIESのライブと我々ファンに新しい光を与えてくれるものだったのだ。
1.LIES
2.LOVER BOY
3.THE LOVE IS GONE
4.KICKS!
5.FEELIN' FREE
6.SO LONG SO LONG
7.LET'S GO BACK
8.LOVE YOU NEED YOU
9.OH! MY DARLIN'
10.EASY GIRL
11.IT'S TOO LATE (TAXMAN ver.)
12.NO WAY (MARCY ver.)
13.MY LITTLE JOE (ROY ver.)
14.B.P.B
15.HOT DOG
16.GET OUT OF MY WAY
17.T.Y.I.A.
18.ROCK ME BABY
encore
19.STARS (Acoustic ver.)
20.JUST BE COOL
Base Ball Bear 20th Anniversary 「(This Is The)Base Ball Bear part.3」 @日本武道館 11/10 ホーム
バズリズム LIVE 2022 day2 出演:go!go!vanillas / SUPER BEAVER / THE ORAL CIGARETTES / 東京スカパラダイスオーケストラ / UNISON SQUARE GARDEN @横浜アリーナ 11/6