バズリズム LIVE 2022 day1 出演:INI / sumika / Hump Back / マカロニえんぴつ / WurtS @横浜アリーナ 11/5
- 2022/11/06
- 20:21
金曜日の夜中に日本テレビでオンエアしており、この番組の「これがバズる!ランキング」は音楽ファンからも業界関係者からも注目されているバズリズム。その名の通りにバカリズムが司会を務めている番組であるが、普段からオンエアしているスタジオライブがリアルなライブとして横浜アリーナに飛び出したのがこの「バズリズム LIVE」である。
個人的には3年ぶりのこのイベントの参加となり、この日は
INI
sumika
Hump Back
マカロニえんぴつ
WurtS
という5組が出演。会場前ではメンバーの顔がプリントされた団扇が、会場内では色とりどりのライトが輝くというのはINIのファンの方のものであるが、なかなか普段行くライブではお目にかかれないものであるだけに着いた時には会場を間違えてしまったのかと思った。
BGMが流れるだけではなく、ステージ両サイドのスクリーンには開演前から番組の映像が映し出されているというのが待ち時間も退屈させないあたりはさすがTV番組による大規模イベントである。
16時の開演時間を少し過ぎるとステージにはバカリズムと日本テレビアナウンサーの市來玲奈が登場しての前説。コール&レスポンスができないだけに「コール&念」で観客がどこから来たかのか、昼に何を食べたのかを察するあたりはさすがバカリズムである。
・sumika
前説時に見えていたステージのセッティングから薄々わかってはいたが、トリはこのバンドかマカロニえんぴつのどちらかかと思っていただけに、まさかのトップバッターとして登場したのはsumika。この日もゲストメンバーを加えた7人編成である。
なので観客の中には「え?いきなりsumika?」という驚きも感じる中、片岡健太(ボーカル&ギター)が
「sumika、はじめます!」
と言って手拍子を叩きながら歌う「Shake & Shake」からスタート。小川貴之(キーボード)も女性コーラスも手を叩くのが思った以上にペンライト的なものを持ってる人が多い客席に広がっていくのだが、サウンドのバランスによるものなのか、ゲストメンバーの須藤優によるベースのうねりまくる音がいつも以上に強く響いてくるし、ワンマンでもカラフルな照明が使われるこの曲をアーチ状の照明だけでなく客席のライトの光までもが照らすのがこのバンドに似合っているように感じるのが驚きでもあった。
片岡がエレキギターを持つと、イントロで片岡と黒田隼之介(ギター)がステージ前に出て来て台の上に乗ってギターを弾きまくる「ふっかつのじゅもん」へ。初期の曲でもあるだけに荒井智之(ドラム)が叩くビートも今だからこその力強さや手数を増しているし、最後には片岡と黒田が向かい合ってバトルするようにギターを弾き合い、片岡はステージに膝をついてまで弾くという姿が本気っぷりを感じさせる。小川の「ヘイ!」のコーラスの煽りに手を挙げる人もたくさんいただけに、このバンドを観にきたという人もたくさんいたことがよくわかる。
番組出演時にはかつてのライブのMCでテンションが上がりすぎて何を言ってるかわからないことをバカリズムに突っ込まれていた映像が流れていたが、この日も
「明日から当分歌えなくなってもいいっていう思いで歌います!」
という気合いを込めた言葉を噛んでしまうあたりが、あの映像に合わせてやってるんじゃないかと思ってしまったりもする。
そんな片岡がギターを弾きながら歌いはじめた
「ああ 夜を越えて 闇を抜けて 迎えにゆこう」
というフレーズがまだライブが始まったばかりだというのに早くもクライマックスのように感じさせる「ファンファーレ」ではその真っ直ぐな歌と演奏に合わせて観客も真っ直ぐに腕を挙げる。須藤が最後のサビで思いっきりベースを高く掲げながら弾くのもゲストメンバーという枠を超えた、完全にメンバーという意識、我々と同じようにこのバンドの音楽に心を揺さぶられているという意識を感じる。
片岡がアコギに持ち替えるとポップなメロディーの「フィクション」と、実にフェスらしい代表曲連発の内容に。もっとリリースされたばかりのアルバム「For.」の曲が中心になるかとも思ったが、sumikaの持ち味をこれでもかというくらいに伝えるような選曲である。CMタイアップでも流れたことによって聴いたことがある人も多かったのか、決して盛り上がるわけではないポップな曲であってもたくさんの腕が上がっていた。
片岡がギターを下ろすと、リズムに合わせて手拍子が広がる中で演奏されたのは実に根強くライブのセトリに入り続ける「Traveling」であるが、片岡はステージから左右に伸びる通路を歩きながら歌ってスタンド席の観客の近くで手を振ったりすると、その途中にスタンバイしているカメラマンに向かってカメラ目線で歌い、その姿がスクリーンに映し出される。そのポップスターであることを受け入れるかのようなパフォーマンスこそがこの曲がこうしてフェスなどでも演奏され続ける理由だろう。歌詞の内容が今の世の中というか世間を賑わせている事象を捉えているという理由だとしたらあまりにパンクであるが。
すると片岡はかつてはTVというものを全く信用していなかったということを口にする。それはsumikaになるまでの人生経験によるものや周りのバンドを見てきたことによるものだと思うが、
「2018年に初めてバズリズムに出演させてもらって。初めてのTV番組の出演で、バズリズムチームと出会って、TV番組にもちゃんと音楽に愛を持っている人たちがいるんだなってことがわかりました」
と、最初は疑心暗鬼だったものが実際に出演してチームの人に出会ったことによって変わったことを話す。この日にスクリーンに流れていた映像での番組の出演時の姿からもそれはしっかり伝わってくる。
「SNSとかネットの中ではない、ライブに来てくれるっていう選択をしたあなたには真っ直ぐに届きます様に」
と言って演奏された「For.」収録のバラード「透明」は直前のMCがあったからこそ、より真っ直ぐに響く。
「愛している 愛している あなたを」
というサビのフレーズはこうしてライブで聴く時は目の前にいる人へ向けてのものだと思っているが、この日はバズリズムのスタッフたちにも向けているような。いや、sumikaはいつもそうだ。夏フェスで新曲としてこの曲を演奏していた時も、そのフェスを、自分たちが立つことができるステージを作ってくれている人たちに向けていたはずだ。黒田が顔をくしゃくしゃにしてマイクを通さずとも歌いながらギターを弾いている姿が、この曲のメッセージが片岡だけのものではなくてバンド全員のものであることが伝わってくる。
そして片岡は
「2020年から、ネガティヴなことの方がバズりやすいと思うようになった。新曲ができたとかライブが決まったみたいなことより、メンバー脱退や解散のニュースみたいな。誰かが良いことをしたよりも、誰かが悪いことをした方がニュースになるような」
と口にするのだが、それはきっと前日に様々なメンバー脱退のニュースがあり、そのニュースに心を痛めている人たちがいることをわかっていて言ったものだと思う。それは片岡やメンバーもそうしたニュースを見るたびに心を痛めたりする、我々と同じ目線を持った人間だからだ。だからいつもsumikaの言葉は心の奥の方にまでスッと入ってきて染み渡る。自分が言語化したかったことをステージ上から言ってくれているように感じられるのだ。
「でもこうやって音楽で幸せなバズりを届けたい。帰る時に幸せだったなってポジティブになれるように。親指一本で人を傷つけてしまうことができる今だから伝えたい。大切なのは、心と言葉。言葉と心。それだけは忘れないようにしていきたいと思います。ありがとうございました、sumikaでした」
と言って演奏されたのはその言葉をそのまま曲にしたかのような「For.」収録の「言葉と心」。そう聞くと完全な新曲であるが、実はこの曲は片岡がsumikaの前にやっていたバンドの時からある曲である。そのバンドはsumikaよりもはるかにパンク的なサウンドのバンドだったからこそ、今のsumikaで演奏しても今までのsumikaの曲に比べるとそうした要素を感じるのだが、今こそこの曲をsumikaとして鳴らそうと思ったのはこの曲が持っているメッセージこそが今自分たちが世の中に1番発したいものだからだろう。だからこそこの日sumikaのライブが終わってメンバーがステージから去った後には、言葉と心を大切にして生きていきたいなと思ったのだ。
この日こそトップバッターだったが、sumikaは今やこうしたアリーナ規模でも当たり前のようにツアーをやるバンドになったし、この日のライブを見ていてもこうしたスケールでこそ自分たちの音楽を響かせるべきバンドだと思う。
そんなバンドは来年の5月にこの会場からそれなりに近い(横浜だけど横浜にしては遠い)横浜スタジアムでワンマンを行う。そこではどんな幸せな光景を見ることができるのだろうか。まだ半年後だが、そのライブがあるということが生きていく力や理由になっている人がたくさんいる。sumikaは間違いなくそんなバンドになっている。
1.Shake & Shake
2.ふっかつのじゅもん
3.ファンファーレ
4.フィクション
5.Traveling
6.透明
7.言葉と心
・WurtS
バカリズムと市來アナのトークの後に名前が呼ばれると、ステージ背面には「WurtS」というアーティスト名の巨大な電飾が。自らを「研究者」と称する新たなソロアーティスト、WurtS。個人的にも待望のライブを見れる機会である。
ステージが暗転すると、最初に現れたのはピンク色のうさぎの着ぐるみ。そのうさぎはDJ的な役割を兼ねていることがわかるのは彼の前にDJ卓があるからだが、そうしたDJ+ボーカルという現代的な形態ではなくて、ギター、ベース、ドラムというバンドのメンバーたちもステージに現れると、最後に被るんじゃなくて顔が見えないように帽子を装着したWurtSがステージに登場。うさぎが手拍子を煽るようにするとその微妙な可愛さによってか、WurtSの存在を知らないであろう人たちも手拍子を始めるというあたりはこうしたマスコットの存在がライブにおけるフックになっているということである。
その手拍子に導かれるようにして、デジタルなダンスサウンドの「Talking Box」からスタート。昨年にリリースされているこの曲は今年になってからリミックスバージョンもリリースされたが、そうしたダンスミュージック的なサウンドがバンドメンバーによって人力で鳴らされることによって肉体感を宿らせていく。それによって体が心地よく動いてしまうのであるが、WurtSのエフェクトをかけながらも気怠い声がそのバンドサウンドに乗ることによって確かな体温を感じられるものになっている。
かと思ったら
「WurtSです。よろしくお願いします」
と言ってギターを持ってからの今年リリースの「ふたり計画」では思いっきり轟音ギターロックサウンドを鳴らす。この一瞬にしてのサウンドの切り替わりっぷりは彼の音楽や人間としての多面性を感じさせるが、バンドメンバーが明らかに強者揃い(WurtS自身もそうだが、なぜかバンドメンバーの顔もスクリーンには映らず、首から下が映るようになっている)なことによって、まだライブ経験はそんなに多くはないにもかかわらずこのスケールに申し分ない音が鳴らされている。この時点でライブをやるべき、やっていくアーティストだとわかるのは盟友のPEOPLE 1のライブを初めて見た時と同様だ。
「僕の個人主義」でもギターロックど真ん中なサウンドとそのサウンドに1番似合うのがこのキャッチーなメロディーであるという自身の研究の成果のような方程式的な曲を響かせると、ライブ慣れはそこまでしてないはずのWurtSは「BOY MEETS GIRL」で言葉数が多いというか、もう明らかに言いたいことを詰め込みまくったであろう歌詞を全く飛ばすことなくしっかり歌っている。エフェクトをかけることによって歌唱力は度外視したとしても、間違いなく初めてであろう超満員のアリーナの規模でこれだけ堂々と歌えるというのは凄いことだと思うし、番組出演時のトークを見ると心身共に線が細いようにも感じるが、実は強靭なメンタルの持ち主なんじゃないかとも思う。実は歌詞に合わせて様々なアクションを見せるうさぎDJも見所であるとこの辺りで気付く。
するとWurtSがハンドマイクでステージ左右の通路を少したどたどしいというか、マイクのコードを気にしまくりながら歩きながら歌うのはEDM的なサウンドでありながらもやはりバンドの鳴らす音によってそこからロックさを感じさせる最新シングル曲「SWAM」であり、背後の電飾がリズムに合わせて明滅しているのもWurtSならではの演出である。
そんなWurtSが再びギターを手にすると、昨年末リリースの大名盤アルバム「ワンス・アポン・ア・リバイバル」収録の「ブルーベリーハニー」へ。ノイジーなギターサウンドとキャッチーなメロディー、それを歌う気怠げなボーカルというのは初期のSUPERCARをリバイバルしているものだと思っていたし、きっと彼の影響源にも間違いなく存在していると思っているが、マーケティングを学んだ人がそれを生かして音楽を作るならこうしたサウンドよりももっと現代的なサウンドの曲を作るはずで、つまりはそうしたマーケティング戦略よりも自分が好きな音楽を作っている人だということがこのアルバムの曲からわかる。なんならマーケティングによって作られた音楽だったとしたらそうしたものが好きではない自分がWurtSの音楽に反応することはなかったはずだ。
そしてうさぎDJがステージ前に出てきて観客を煽るというか、自分の可愛さをアピールするような動きをしてから演奏されたのは、音源ではPEOPLE 1のItoとコラボした「リトルダンサー」。もちろんこの日はWurtSが1人で歌うのであるが、その小気味いいリズムのボーカルと、ギター、ベース、ドラムだけのバンドサウンドはギターロックこそがダンスミュージックであるということを示すかのようだ。
するとアウトロから繋がるようにして長い尺でリフレインさせてから演奏されたのは、まさにバズったことでWurtSの名前を世の中に知らしめた「分かってないよ」なのだが、この曲が始まった瞬間にそれまで席に座って見ていた若い女性が立ち上がって踊り出した。この曲はもうそんなレベルのポジションにまで達しているんだなと思うけれど、力強いバンドの演奏によって聴いていると歌いたくなる、踊りたくなるというくらいに衝動を煽ってくる。アリーナいっぱいの観客がサビではみんな手を挙げているという光景をこんなに早い段階で見れるなんて思わなかったが、MCを一切しなかったWurtSはこの光景をどんな気持ちで見ていたのだろうか。最後に去り際に振り返って観客に手を振ったうさぎDJはあざとすぎて可愛いと思ってしまったのが少し悔しくすらあった。
こうしてWurtSのライブを見るのを楽しみにしていた一方で、少し不安でもあった。こうした顔出しをしていなかったり、ネットでバズったりしたアーティストは曲は良いけどライブを見たら物足りない、ということも往々にしてあるからだ。
でもこうして初めてWurtSのライブを見て、そんな不安は一瞬で消えた。それはバンド編成によることも大きいが、その編成はこの音楽を鳴らすための必然と言えるような形である。もしWurtSがマーケティングや効率化だけを考えて活動していたならわざわざバンド形態にはしないだろう。それでもバンド編成で活動しているというのは、ライブで人の心を揺さぶるものが生の音であるということを彼はわかっているからだと思う。
2022年のこれがバズるぞランキング1位。基本的にあんまりそういうのは信用も信頼もしてないし、そういうの関係なくそれぞれが良いと思った音楽を聴けばいいじゃんと思っているのだが、このWurtSが1位に選ばれたということだけは心から支持できる。それはこの日ライブを見てより強くなった。これがバズらなかったら世間は、何にも分かってないよ。
1.Talking Box
2.ふたり計画
3.僕の個人主義
4.BOY MEETS GIRL
5.SWAM
6.ブルーベリーハニー
7.リトルダンサー
8.分かってないよ
・Hump Back
バズリズムのバズるぞランキングには入ったことがあるだろうけれど、基本的にTVの番組に出ることはしない。それだけに今回の2日間のラインナップの中では出演するのが1番意外だなと思ったのがこのHump Backである。去年もこの横浜アリーナでライブをしていたりと、スケール的には申し分ない存在であるとはいえ。
おなじみのハナレグミのSEが流れてぴか(ベース)が走ってステージに現れると、続いて美咲(ドラム)もやはり走って現れ、最後に登場した林萌々子(ボーカル&ギター)は横浜アリーナのゆるキャラのぬいぐるみを持っており、それを自分のアンプの上に置くと、この直前のバカリズムと市來アナのトークでバカリズムがこの日のライブが生配信されていると勘違いしていたことについて、
「生配信されてるって言ってたけど、Twitterのそういうやつは全部詐欺やで。バカリズムさん、騙されてる(笑)
生配信なんかされてたまるか!目の前のものがすべてや!大阪、Hump Backはじめます!」
と自分たちの生き様を口にしてそのまま「拝啓、少年よ」に繋がる。もうこの出てきてから1分くらいでこの日もまた林のカッコよさに完全に撃ち抜かれてしまっているのだが、ぴかがぴょんぴょんと飛び跳ねながら演奏している姿はTV番組のイベントだとしてもやはりこうしてライブができていることの喜びを感じさせるし、なんといっても林のボーカルの伸びやかさたるや。この日の出演者たちはみんな歌が上手い人ばかりであるが、この声量の圧倒的さは林が1番だと言えるかもしれないと思うほどだ。
そのまま美咲のドラムロールがバンドにさらなる疾走感を与える「ティーンエイジサンセット」ではステージのアーチ状の照明が曲に合わせて鮮やかなオレンジ色に切り替わる。こうした演出がより強く効くのはアリーナ規模(しかもかなり金がかかっているであろうステージ作り)だからこそであるが、それでもこのバンドがライブを始めるとステージと客席との距離がグッと近く感じられるようになる。それはここをライブハウスにしてしまえるのがHump Backだからである。
どうしてもこのバンドがこの四つ打ちのドラムと跳ねるようなベース(スクリーンには美咲のドラムセットのバスドラも映し出されていた)を聴くとチャットモンチーの「シャングリラ」を彷彿とさせるのであるが、もちろんそこからの影響が強くあるだろう、このバンドのダンスチューンである「ひまつぶし」では美咲のドラムソロ的な演奏や、林が強烈なギターソロを弾いたかと思ったらリズムに合わせたダンスまでして、それがどこか微笑ましく我々の体を揺らしてくれる。
「キラキラ光ってるのキレイやな。ライブハウスでは見れへんからな。でもライブハウスと違うとなんかドキドキしてまう。INIさんのペンライトやろ?それって切れるの?電池もったいないから切れるんなら切った方がいいで」
と林は客席で光っていたペンライトを消すように促すのだが、異ジャンルの観客同士だとこうした喚起をする時についつい強い言葉で言ったりしてしまいがちになる。そうするとそうしたライブハウスの光景を知らずに良かれと思ってペンライトを光らせていた人たちが自分たちが楽しみにしているライブを見る前に嫌な気持ちになってしまったりするのだが、誰も傷つけたり自分の好みを押し付けたりするのではなく「電池がもったいないから」と言うあたりに林の優しさと機転を感じる。こういうことが言えるような人になりたいと思う。
「うちらの音楽は全部少年少女に向けて鳴らしてる。高校生の頃に部室で聴いたチャットモンチー。15歳の時に組んだこのバンドで、僕は少年少女のために音を鳴らしてるんだぜ」
と、そのまま続けられた言葉は
「忘れないでいて 少年少女よ」
と林がサビを歌ってから演奏された「がらくた讃歌」へと続くのだが、こうしてライブハウスにいる時は誰もが少年少女でいられる。だから少年少女というのは年齢を限定したものではなくてここにいる誰もに届くということである。
そのまま爆音で「Lilly」へと突入していき、ぴかと美咲のリズムの力強さはもちろん、林の歌唱の素晴らしさはこの曲で極まっていると言っていいだろう。すでに武道館でもワンマンを行っているが、こうした広い会場で鳴るべきロックンロールが確かに鳴らされている。ギター、ベース、ドラムだけ。最新のトレンドに合わせることも、大掛かりな演出を使うわけでもない。ただバンドで音を鳴らす、その純粋な思いと音だけでこんな景色を見せてくれるバンドがいてくれることを本当に幸せだと思える。
しかし林は
「バズるとか売れるとかって大事なことかもしれんけど、ライブハウスでライブをやってるとそんなんどうでもいいって思ってしまうことがある。目の前にいてくれる人だけ、わかってくれる人だけいてくれたらいいって。でもsumikaも言ってたけど、TVの中にもロックバンドのカッコよさを伝えようとしてくれてる人もいる。バズリズムが私たちを見つけてくれて本当にありがとう」
と、TV番組のアリーナ規模のライブでも変わることなくライブハウスへの愛情を口にする。それはTVの中でもアリーナでもなく、これまでも、そしてこれからもライブハウスこそが自分たちが生きていく場所だということがわかっていて、それが変わることはないからだ。そんな思いを口にした後の「僕らの時代」はパンクと言っていいようなサウンドで、メンバーのソロ回し的な演奏もあるのだが林はギターソロで横浜アリーナのゆるキャラのぬいぐるみを持ってそのぬいぐるみを弾きまくっていたのが横浜アリーナ仕様で面白い。当然その間はギターの音が出ていないのも含めて。
ここまでいろんな曲で曲前に自身の思いを口にしてきただけに、かつてはそうした思いを口にしてから演奏されていた「番狂わせ」はこの日は合間を置かずに演奏されていたのだが、「イエス!」のコーラスに合わせてたくさんの腕が上がっていたのはこの曲を知っている人がたくさんいたのはもちろん、このバンドを観に来た人もたくさんいたということだろう。
「おもろい大人になりたいわ」「しょうもない大人になりたいわ」
というフレーズはこのバンドを知らなかった人でもこの日のライブを見てくれた人ならきっと共感してくれるものになったはずだ。
そして
「みんなも大好きなものがあるやろ?私にとってはこのバンドが、ロックンロールがそう。それさえあればムカつく奴がいようとも、戦争が起ころうとも私は武器を取らない。好きなものがそうなる時に止めてくれるから。
みんなも踏み外しそうになった時とか、悪いことをしてしまおうと思った時に自分の好きなものが止めてくれますように。私は15歳の時にロックンロールに騙されて本当に良かった!」
と、来ている人それぞれに好きなアーティストがいるであろうこの日だからこそ強く響く言葉を口にして最後に「星丘公園」を演奏する。それは君が泣いても、このバンドがいる限りはロックンロールは死なないということを示すかのように。メンバーが向かい合って鳴らすキメの音は見るたびに力強さと説得力を増す中、林は最後に
「今日Hump Backを初めて見た人が間違ってライブハウスに来てしまうように!」
と言った。実際にそうなったら本当に素敵なことだと思うけれど、自分も今月にライブハウスでHump Backのワンマンを見れる予定がある。それが本当に嬉しいのはやっぱりライブハウスで見るHump Backが1番カッコいいということを知っているから。実は今最も少年少女をライブハウスに多く誘っているのは、ロックンロールの神様に騙されたこのバンドなのかもしれない。
1.拝啓、少年よ
2.ティーンエイジサンセット
3.ひまつぶし
4.がらくた讃歌
5.Lilly
6.僕らの時代
7.番狂わせ
8.星丘公園
・INI
バンドが居並ぶ今年のこのフェスにおいて(2日目はバンドしかいない)異彩を放っているのが、昨年デビューしたばかりの11人組のダンスボーカルグループ、INIである。この日客席で輝きまくっていたペンライトはこのグループのグッズであるということからも人気っぷりが伺える。もちろんライブを見るのは初めてである。
バカリズムと市來アナのトークからグループ名が呼ばれると暗転した場内がフッと明るくなり、そこにはすでにメンバーがいて「Rocketeer」からスタートしてキレのあるダンスを踊りながら歌唱する。おそらく推しであろうメンバーがキメフレーズを歌ったりポーズを決めたりするだけで客席からは歓声が上がりそうになってなんとか我慢して…という繰り返しになるのが見ていて面白いが、「BOMBARDA」も含めてK-POPグループを彷彿とさせるようなサウンドと歌唱である。ダンスはキレはもちろん統率性があるのはメンバーの衣装が同じではないにせよ基本的には統一性があるからで、となるとペンライトのそれぞれのメンバーによる色の分かれ方はどうやって決まっているんだろうかというのも門外漢からすると気になるところである。
MCでは11人全員がステージ前に一列に並んで喋るという、バンドのライブばかり見ているとこうした光景を見ることがないためにそれだけでも驚きであるが、せっかくだからという一人一人の自己紹介で2番目のメンバーが
「この時期なんで…みなさん、年末調整終わってますかー!」
と叫んだのを聞いて吹き出しそうになってしまった。それと同時に自分がまだ年末調整をめんどくさくてやってないことに気付かされたのだが、そんなことをステージから口にするアーティストは今まで見たことがないし、わざわざそれを自己紹介で言うということはこのメンバーはかつては我々と同じようにめんどくさがりながらも年末調整を記入していたりしたんじゃないだろうかと思う。若そうに見えるメンバーも多いがそこにはそれぞれのこのグループに至るまでの人生をも感じさせるというのは言い過ぎだろうか。
そうした全員の自己紹介を経るとキレのあるダンスを披露する曲だけではなくて、メンバーが2部隊に分かれてステージ左右の通路を歩きながら歌うというスタンド席の観客のすぐ前まで行って歌うために近くに来た観客がまた声が出そうになって…という歌唱に専念した曲も披露するのだが楽器がないだけにステージが全く何もない誰もいない状態になるのもバンドのライブばかり行ってる身としては新鮮だ。基本的にはバンド編成のライブじゃないと飽きてしまうというタチではあるのだが、こうして全員が観客の近くまで行けるというのはボーカルグループだからこその強みでもあるし、黒髪のメンバーの1人に抜きん出て歌唱力が高いメンバーがいるなということがこうした歌に重点を置いた曲だからこそよくわかる。名前まではわからなかったが。
すると客席を左右に分けてどちらの方が大きな手拍子を鳴らせるかというコロナ禍だからこそのゲームも展開されるのであるが、本来ならばこうしたところは声の大きさで判断したいところだろう。結成からわずか1年という新人グループであることを考えると、彼らは観客が声を出すライブをステージから見たことがないはず。徐々にそうしたライブも増えてきているが、声を出せるようになって欲しいというのはバンドファンだけではなくてあらゆる形態の音楽ファンの願いでもあるんだろうなとその手拍子を見て思っていた。好きなメンバーの名前を思いっきり声を出して呼んだりしたい人もたくさんいるだろうなと。結局ゲームはメンバーが見て左側が勝ったのだが、メンバー全員が観客に向かってキュンポーズをするという、どちらが勝っても変わらないものになるというのはお約束だろう。
そしてまさに写真を撮影するような白く神聖さを感じさせるような光に包まれる中で披露された「Polaroid」からはK-POP的な序盤から、日本で活動しているグループとしてのJ-POP的なサウンドに変化していく。それに伴ってダンスもどこか自由というかメンバーそれぞれが開放的なものになっていくのだが、最後に演奏された「HERO」は聴いただけでわかる。WANIMAが提供している曲であると。
それはそのくらいにこの曲を歌っているメンバーの向こうにWANIMAの3人の顔が透けて見えてくるくらいにWANIMA節が炸裂している曲であるからだが、自分はWANIMAがデビューした時からずっと曲を聴き、ライブに行っている。それはWANIMAの音楽やライブが、優しくて真っ直ぐであることはどれだけカッコいいかということを3人の鳴らす音や姿が示してくれるからで、自分もそうした人間でありたいと思うからであるのだが、この曲からも間違いなくそうした要素を感じられる。というかこのメンバーがそうした素養を持った人たちだからこそWANIMAはこの曲をこのグループに託したんだろうと思う。そこにはWANIMAのライブから感じられる情熱が確かに感じられたからだ。
最初はクールなダンスボーカルグループだと思っていたが、実は熱い人たちなのかもしれない。自分はオーディションの様子とかを全く見てないし、この日のライブでしかメンバーに触れていないが、このコロナ禍という音楽から離れざるを得なかった人がたくさんいる中でわざわざ音楽グループのオーディションを受けに行くという人は人生を音楽に全て賭けている人しかいないと思っているし、WANIMAの3人もきっとそれをわかっている。だから「HERO」はこの日の中で最も自分に響いたし、こうした曲が増えたらもっと面白いグループになるんじゃないかと思った。
ただ、この日の終演後に規制退場のアナウンスが流れる中でペンライトを持った人がまだ呼ばれてないのに驚くくらいにたくさん出て行っていた。それはもしかしたらそのルールがこの日のライブにあるのを知らなかったのかもしれないし、アナウンスが流れた時にはもう歩き出したりしていたのかもしれない。終電に間に合うかギリギリのところから来た人もいたかもしれないし(あんまり見ていてそこまで切迫している人はいなかったけど)、そもそも規制退場にどれだけの意味があるのかもわからない。
でもそうした感染対策のルールがあるからコロナ禍の中でもこうして大規模なライブを行うことができて、好きなアーティストが立てるステージがあるというのは事実だ。自分がいた列は呼び出しされた時には自分とsumikaのTシャツを着た女性2人組しか居なくなっていた。ペンライトを振っていた女性たちは見事に呼ばれる前に帰ってしまっていた。
せっかくファン以外のたくさんの人に見てもらえる機会があって、アーティスト側が素晴らしいパフォーマンスをしていても「ルール守れないファンばかりのグループなんだな…」と思って興味がなくなってしまう人も間違いなくいる。それはコロナ禍におけるライブの楽しみ方の分断が起こる中で痛いくらいに味わってきた。
INIのファンの方もライブ中は声を出すのを我慢していただけに、敢えてルールを破って規制退場を無視している人ばかりだったわけではないはず。でも自分は今の状況においてちゃんとそうしたライブごとに定められた決まりを守ることこそが次のライブ、次のステップに繋がっていくと思っているし、何よりも早く帰りたいだろうにちゃんとアナウンスで呼ばれるまで待っているファンが自分が普段からワンマンに行くバンドのファンだと、そのバンドのカッコ良さがちゃんと伝わってるんだなと思える。それは音楽だけじゃなくて人間的な部分において。
1.Rocketeer
2.BOMBARDA
3.Password
4.STRIDE
5.KILLING PART
6.Polaroid
7.HERO
・マカロニえんぴつ
そしてこの日のトリはマカロニえんぴつ。バズリズムライブではおなじみの存在ということもあってか、この出演者の中でも堂々のトリである。
おなじみのビートルズのSEでメンバーが登場すると、田辺由明(ギター)と高野賢也(ベース)はこのイベントのタオルを客席に掲げるというあたりにこのイベントへの愛情を感じさせる中、はっとり(ボーカル&ギター)が登場すると、1曲目は自らのバンド名を自虐するような歌詞と複雑な演奏でもあくまでキャッチーに響かせる「トリコになれ」からスタートするのであるが、それはおそらくはトリであり、こうしたアリーナでライブをやれるバンドになりながらも自分たちのファンだけではない観客の方が多いからこそ、そうした人たちに「自分たちのトリコになって欲しい」という思いがあっての選曲だったんじゃないだろうか。
長谷川大喜(キーボード)の美しいピアノのサウンドで始まり、タイトルに合わせて照明も鮮やかな黄色に変化する「レモンパイ」ではっとりが思いっきり
「横浜ー!」
と叫ぶ。田辺のスライドさせるようなギターが哀愁を感じさせる中、サビではたくさんの人が腕を上げるあたりはこのバンドのファンの人以外もライブを楽しんでくれていることがよくわかるが、はっとりも
「INIの盛り上がりが凄すぎて、ペンライト持った人はみんな帰っちゃったかと思ったけど、みんな音楽が好きなようで嬉しいです。それてもチケット代の元を取るために最後まで見ていくっていうがめつい人たちなのかな?(笑)」
と言うくらいに普段のライブとは客層が違うことを察知していたようだが、そんな人たちが自分たちを見るために残ってくれていることへの感謝を語る。
その後に演奏された、メンバーそれぞれの複雑な演奏(演奏技術が高いこのバンドだからこそできる)がアウトプットとしてはポップなメロディーに着地する「たましいの居場所」ではまるで上空を浮遊する魂を具現化したかのような照明が実に綺麗で、この曲のこの演出のためにこうした照明の形状にしたのかと思ってしまうくらいだ。それはすでにこの横浜アリーナでもワンマンをやっているマカロニえんぴつだからこそのものでもある。
曲間の静寂と暗転のわずかな時間の中でメンバーが
「ひー、ふー、みー、よっ」
とカウントして同期のストリングスのサウンドが流れてはっとりが歌い始めるのは問答無用の名曲「恋人ごっこ」だ。やはりこうした自分たちのライブを見たことがないであろう人がたくさんいる場所でこうした曲を持っているバンドというのは本当に強いなと思わせてくれるし、それははっとりの歌唱の見事さによるものが実に大きい。今やなかなかヒット曲の指標というものがわかりづらくなっている時代であるが、こうしたファン以外の人がたくさんいるライブでのリアクションは実にリアルにそれを実感させてくれるものだ。
そのまますぐに繋がるように演奏された「洗濯機と君とラヂオ」では長谷川がエアベースをしながら高野を追いかけるというおなじみのやり取りもあるのだが、バンドの演奏のテンポの速さはこのバンドの先に行きたくて仕方がないというロックバンドの衝動を強く感じさせる。特に田辺のギターソロはさらに速くなっており、メンバー随一のハードロックマニアとしてその影響そのままの曲を作ってしまう田辺のロックさがこのバンドのロックさに繋がっていることがよくわかるのだ。
さらには壮大なイントロがまさに宇宙空間を遊泳するかのような感覚に浸らせてくれる「星が泳ぐ」ももう完全にマカロニえんぴつの代表曲と言っていい曲であるが、サビの締め部分や間奏部分で叫ぶようにするはっとりの歌唱はこのライブへの、というよりも一本一本どんな場所のどのライブでも100%以上を出し尽くして自分たちを更新しようとしているバンドの姿勢を感じさせる。演奏技術も歌唱技術も高いバンドであるが、このバンドのライブが素晴らしいのはそこよりもむしろこの姿勢によるものだと思っている。
「意味がないな 君が居ないと
そんな夏ばかり過ぎていく
キリがねぇぜ 優しさに出会うたび影は伸びてしまう」
というサビのフレーズはタイアップアニメに合わせたものかもしれないけれど、こうしたライブという場では確かに目の前にいる人に向けたメッセージであることが伝わってくる。
だからこそはっとりは
「自己紹介代わりの6曲を演奏してきましたけど、しっかり届いてますでしょうか?
いや、自己紹介なんて生易しいもんじゃねぇな、俺たちは今日ここに生き様を鳴らしに来ました!あなた達もそうでしょう?そうやってここにライブを観に来るっていう選択をして、立って聴いたり座って聴いたりすることで自分たちの生き様を示しに来たんでしょう?
あなたといる時の僕が好きだ、最後にそんなことを歌って帰ります。ありがとうございました!」
と言って「なんでもないよ、」を演奏した。その言葉が全てと言えるような、
「そんなもんじゃなくって、ああ何が言いたかったっけ
「何でもないよ」なんでもないよ、
君といるときの僕が好きだ」
というフレーズが長谷川の美しいピアノの音とともに響き渡る。踊れる曲でもないし盛り上がる曲でもない。ましてやワンマンでもない中でのこの曲のサビでたくさんの人が腕を挙げていた。その光景こそがこの日このバンドがトリを務めた意味だった。なかなか今やチケットが取りづらくなってきているけれどやっぱり、マカロニえんぴつといる時の僕が好きだってライブを見るたびに思う。
ほとんど帰ることのない観客の根強い手拍子に応えてアンコールで再びメンバーが登場すると、特に何も言わずに楽器を手にして田辺のギターが「ヤングアダルト」のイントロを鳴らす。はっとりは
「横浜ヤングルーザー」
とバンドの出身地にほど近いこの場所へと歌詞を変えて歌う。
去年の夏にこの横浜アリーナでのイベントでこの曲を聴いた時は、まさに
「夜を越えるための唄が死なないように
手首からもう涙が流れないように」
というフレーズの通りに、唄が流れるべき場所がなくなっていっていた状況だったし、はっとりもそのことについての悲痛な心境を口にしていたりした。もちろんこの曲が世に出たのはコロナ禍になる前だったけれど、世の中が変わってしまったことによって曲が持つメッセージも変わった。
それから1年後に横浜アリーナで聴いたこの曲は、夜を越えるための唄は死ななかったんだなという感慨に満ちていた。もちろんまだ予断は許さない状況は続いているけれど、フルキャパで満員の横浜アリーナに響いたこの曲は確かにそんなことを思わせてくれた。このバンドがいてくれて、この曲を鳴らしてくれているから、明日もヒトでいれるために愛を集めてる。
「アンコールまで待っててくれて本当にありがとうございました!」
と言ってからステージを去って行ったはっとりの表情は去年ここで見た時よりも圧倒的に晴れやかだった。
1.トリコになれ
2.レモンパイ
3.たましいの居場所
4.恋人ごっこ
5.洗濯機と君とラヂオ
6.星が泳ぐ
7.なんでもないよ、
encore
8.ヤングアダルト
個人的には3年ぶりのこのイベントの参加となり、この日は
INI
sumika
Hump Back
マカロニえんぴつ
WurtS
という5組が出演。会場前ではメンバーの顔がプリントされた団扇が、会場内では色とりどりのライトが輝くというのはINIのファンの方のものであるが、なかなか普段行くライブではお目にかかれないものであるだけに着いた時には会場を間違えてしまったのかと思った。
BGMが流れるだけではなく、ステージ両サイドのスクリーンには開演前から番組の映像が映し出されているというのが待ち時間も退屈させないあたりはさすがTV番組による大規模イベントである。
16時の開演時間を少し過ぎるとステージにはバカリズムと日本テレビアナウンサーの市來玲奈が登場しての前説。コール&レスポンスができないだけに「コール&念」で観客がどこから来たかのか、昼に何を食べたのかを察するあたりはさすがバカリズムである。
・sumika
前説時に見えていたステージのセッティングから薄々わかってはいたが、トリはこのバンドかマカロニえんぴつのどちらかかと思っていただけに、まさかのトップバッターとして登場したのはsumika。この日もゲストメンバーを加えた7人編成である。
なので観客の中には「え?いきなりsumika?」という驚きも感じる中、片岡健太(ボーカル&ギター)が
「sumika、はじめます!」
と言って手拍子を叩きながら歌う「Shake & Shake」からスタート。小川貴之(キーボード)も女性コーラスも手を叩くのが思った以上にペンライト的なものを持ってる人が多い客席に広がっていくのだが、サウンドのバランスによるものなのか、ゲストメンバーの須藤優によるベースのうねりまくる音がいつも以上に強く響いてくるし、ワンマンでもカラフルな照明が使われるこの曲をアーチ状の照明だけでなく客席のライトの光までもが照らすのがこのバンドに似合っているように感じるのが驚きでもあった。
片岡がエレキギターを持つと、イントロで片岡と黒田隼之介(ギター)がステージ前に出て来て台の上に乗ってギターを弾きまくる「ふっかつのじゅもん」へ。初期の曲でもあるだけに荒井智之(ドラム)が叩くビートも今だからこその力強さや手数を増しているし、最後には片岡と黒田が向かい合ってバトルするようにギターを弾き合い、片岡はステージに膝をついてまで弾くという姿が本気っぷりを感じさせる。小川の「ヘイ!」のコーラスの煽りに手を挙げる人もたくさんいただけに、このバンドを観にきたという人もたくさんいたことがよくわかる。
番組出演時にはかつてのライブのMCでテンションが上がりすぎて何を言ってるかわからないことをバカリズムに突っ込まれていた映像が流れていたが、この日も
「明日から当分歌えなくなってもいいっていう思いで歌います!」
という気合いを込めた言葉を噛んでしまうあたりが、あの映像に合わせてやってるんじゃないかと思ってしまったりもする。
そんな片岡がギターを弾きながら歌いはじめた
「ああ 夜を越えて 闇を抜けて 迎えにゆこう」
というフレーズがまだライブが始まったばかりだというのに早くもクライマックスのように感じさせる「ファンファーレ」ではその真っ直ぐな歌と演奏に合わせて観客も真っ直ぐに腕を挙げる。須藤が最後のサビで思いっきりベースを高く掲げながら弾くのもゲストメンバーという枠を超えた、完全にメンバーという意識、我々と同じようにこのバンドの音楽に心を揺さぶられているという意識を感じる。
片岡がアコギに持ち替えるとポップなメロディーの「フィクション」と、実にフェスらしい代表曲連発の内容に。もっとリリースされたばかりのアルバム「For.」の曲が中心になるかとも思ったが、sumikaの持ち味をこれでもかというくらいに伝えるような選曲である。CMタイアップでも流れたことによって聴いたことがある人も多かったのか、決して盛り上がるわけではないポップな曲であってもたくさんの腕が上がっていた。
片岡がギターを下ろすと、リズムに合わせて手拍子が広がる中で演奏されたのは実に根強くライブのセトリに入り続ける「Traveling」であるが、片岡はステージから左右に伸びる通路を歩きながら歌ってスタンド席の観客の近くで手を振ったりすると、その途中にスタンバイしているカメラマンに向かってカメラ目線で歌い、その姿がスクリーンに映し出される。そのポップスターであることを受け入れるかのようなパフォーマンスこそがこの曲がこうしてフェスなどでも演奏され続ける理由だろう。歌詞の内容が今の世の中というか世間を賑わせている事象を捉えているという理由だとしたらあまりにパンクであるが。
すると片岡はかつてはTVというものを全く信用していなかったということを口にする。それはsumikaになるまでの人生経験によるものや周りのバンドを見てきたことによるものだと思うが、
「2018年に初めてバズリズムに出演させてもらって。初めてのTV番組の出演で、バズリズムチームと出会って、TV番組にもちゃんと音楽に愛を持っている人たちがいるんだなってことがわかりました」
と、最初は疑心暗鬼だったものが実際に出演してチームの人に出会ったことによって変わったことを話す。この日にスクリーンに流れていた映像での番組の出演時の姿からもそれはしっかり伝わってくる。
「SNSとかネットの中ではない、ライブに来てくれるっていう選択をしたあなたには真っ直ぐに届きます様に」
と言って演奏された「For.」収録のバラード「透明」は直前のMCがあったからこそ、より真っ直ぐに響く。
「愛している 愛している あなたを」
というサビのフレーズはこうしてライブで聴く時は目の前にいる人へ向けてのものだと思っているが、この日はバズリズムのスタッフたちにも向けているような。いや、sumikaはいつもそうだ。夏フェスで新曲としてこの曲を演奏していた時も、そのフェスを、自分たちが立つことができるステージを作ってくれている人たちに向けていたはずだ。黒田が顔をくしゃくしゃにしてマイクを通さずとも歌いながらギターを弾いている姿が、この曲のメッセージが片岡だけのものではなくてバンド全員のものであることが伝わってくる。
そして片岡は
「2020年から、ネガティヴなことの方がバズりやすいと思うようになった。新曲ができたとかライブが決まったみたいなことより、メンバー脱退や解散のニュースみたいな。誰かが良いことをしたよりも、誰かが悪いことをした方がニュースになるような」
と口にするのだが、それはきっと前日に様々なメンバー脱退のニュースがあり、そのニュースに心を痛めている人たちがいることをわかっていて言ったものだと思う。それは片岡やメンバーもそうしたニュースを見るたびに心を痛めたりする、我々と同じ目線を持った人間だからだ。だからいつもsumikaの言葉は心の奥の方にまでスッと入ってきて染み渡る。自分が言語化したかったことをステージ上から言ってくれているように感じられるのだ。
「でもこうやって音楽で幸せなバズりを届けたい。帰る時に幸せだったなってポジティブになれるように。親指一本で人を傷つけてしまうことができる今だから伝えたい。大切なのは、心と言葉。言葉と心。それだけは忘れないようにしていきたいと思います。ありがとうございました、sumikaでした」
と言って演奏されたのはその言葉をそのまま曲にしたかのような「For.」収録の「言葉と心」。そう聞くと完全な新曲であるが、実はこの曲は片岡がsumikaの前にやっていたバンドの時からある曲である。そのバンドはsumikaよりもはるかにパンク的なサウンドのバンドだったからこそ、今のsumikaで演奏しても今までのsumikaの曲に比べるとそうした要素を感じるのだが、今こそこの曲をsumikaとして鳴らそうと思ったのはこの曲が持っているメッセージこそが今自分たちが世の中に1番発したいものだからだろう。だからこそこの日sumikaのライブが終わってメンバーがステージから去った後には、言葉と心を大切にして生きていきたいなと思ったのだ。
この日こそトップバッターだったが、sumikaは今やこうしたアリーナ規模でも当たり前のようにツアーをやるバンドになったし、この日のライブを見ていてもこうしたスケールでこそ自分たちの音楽を響かせるべきバンドだと思う。
そんなバンドは来年の5月にこの会場からそれなりに近い(横浜だけど横浜にしては遠い)横浜スタジアムでワンマンを行う。そこではどんな幸せな光景を見ることができるのだろうか。まだ半年後だが、そのライブがあるということが生きていく力や理由になっている人がたくさんいる。sumikaは間違いなくそんなバンドになっている。
1.Shake & Shake
2.ふっかつのじゅもん
3.ファンファーレ
4.フィクション
5.Traveling
6.透明
7.言葉と心
・WurtS
バカリズムと市來アナのトークの後に名前が呼ばれると、ステージ背面には「WurtS」というアーティスト名の巨大な電飾が。自らを「研究者」と称する新たなソロアーティスト、WurtS。個人的にも待望のライブを見れる機会である。
ステージが暗転すると、最初に現れたのはピンク色のうさぎの着ぐるみ。そのうさぎはDJ的な役割を兼ねていることがわかるのは彼の前にDJ卓があるからだが、そうしたDJ+ボーカルという現代的な形態ではなくて、ギター、ベース、ドラムというバンドのメンバーたちもステージに現れると、最後に被るんじゃなくて顔が見えないように帽子を装着したWurtSがステージに登場。うさぎが手拍子を煽るようにするとその微妙な可愛さによってか、WurtSの存在を知らないであろう人たちも手拍子を始めるというあたりはこうしたマスコットの存在がライブにおけるフックになっているということである。
その手拍子に導かれるようにして、デジタルなダンスサウンドの「Talking Box」からスタート。昨年にリリースされているこの曲は今年になってからリミックスバージョンもリリースされたが、そうしたダンスミュージック的なサウンドがバンドメンバーによって人力で鳴らされることによって肉体感を宿らせていく。それによって体が心地よく動いてしまうのであるが、WurtSのエフェクトをかけながらも気怠い声がそのバンドサウンドに乗ることによって確かな体温を感じられるものになっている。
かと思ったら
「WurtSです。よろしくお願いします」
と言ってギターを持ってからの今年リリースの「ふたり計画」では思いっきり轟音ギターロックサウンドを鳴らす。この一瞬にしてのサウンドの切り替わりっぷりは彼の音楽や人間としての多面性を感じさせるが、バンドメンバーが明らかに強者揃い(WurtS自身もそうだが、なぜかバンドメンバーの顔もスクリーンには映らず、首から下が映るようになっている)なことによって、まだライブ経験はそんなに多くはないにもかかわらずこのスケールに申し分ない音が鳴らされている。この時点でライブをやるべき、やっていくアーティストだとわかるのは盟友のPEOPLE 1のライブを初めて見た時と同様だ。
「僕の個人主義」でもギターロックど真ん中なサウンドとそのサウンドに1番似合うのがこのキャッチーなメロディーであるという自身の研究の成果のような方程式的な曲を響かせると、ライブ慣れはそこまでしてないはずのWurtSは「BOY MEETS GIRL」で言葉数が多いというか、もう明らかに言いたいことを詰め込みまくったであろう歌詞を全く飛ばすことなくしっかり歌っている。エフェクトをかけることによって歌唱力は度外視したとしても、間違いなく初めてであろう超満員のアリーナの規模でこれだけ堂々と歌えるというのは凄いことだと思うし、番組出演時のトークを見ると心身共に線が細いようにも感じるが、実は強靭なメンタルの持ち主なんじゃないかとも思う。実は歌詞に合わせて様々なアクションを見せるうさぎDJも見所であるとこの辺りで気付く。
するとWurtSがハンドマイクでステージ左右の通路を少したどたどしいというか、マイクのコードを気にしまくりながら歩きながら歌うのはEDM的なサウンドでありながらもやはりバンドの鳴らす音によってそこからロックさを感じさせる最新シングル曲「SWAM」であり、背後の電飾がリズムに合わせて明滅しているのもWurtSならではの演出である。
そんなWurtSが再びギターを手にすると、昨年末リリースの大名盤アルバム「ワンス・アポン・ア・リバイバル」収録の「ブルーベリーハニー」へ。ノイジーなギターサウンドとキャッチーなメロディー、それを歌う気怠げなボーカルというのは初期のSUPERCARをリバイバルしているものだと思っていたし、きっと彼の影響源にも間違いなく存在していると思っているが、マーケティングを学んだ人がそれを生かして音楽を作るならこうしたサウンドよりももっと現代的なサウンドの曲を作るはずで、つまりはそうしたマーケティング戦略よりも自分が好きな音楽を作っている人だということがこのアルバムの曲からわかる。なんならマーケティングによって作られた音楽だったとしたらそうしたものが好きではない自分がWurtSの音楽に反応することはなかったはずだ。
そしてうさぎDJがステージ前に出てきて観客を煽るというか、自分の可愛さをアピールするような動きをしてから演奏されたのは、音源ではPEOPLE 1のItoとコラボした「リトルダンサー」。もちろんこの日はWurtSが1人で歌うのであるが、その小気味いいリズムのボーカルと、ギター、ベース、ドラムだけのバンドサウンドはギターロックこそがダンスミュージックであるということを示すかのようだ。
するとアウトロから繋がるようにして長い尺でリフレインさせてから演奏されたのは、まさにバズったことでWurtSの名前を世の中に知らしめた「分かってないよ」なのだが、この曲が始まった瞬間にそれまで席に座って見ていた若い女性が立ち上がって踊り出した。この曲はもうそんなレベルのポジションにまで達しているんだなと思うけれど、力強いバンドの演奏によって聴いていると歌いたくなる、踊りたくなるというくらいに衝動を煽ってくる。アリーナいっぱいの観客がサビではみんな手を挙げているという光景をこんなに早い段階で見れるなんて思わなかったが、MCを一切しなかったWurtSはこの光景をどんな気持ちで見ていたのだろうか。最後に去り際に振り返って観客に手を振ったうさぎDJはあざとすぎて可愛いと思ってしまったのが少し悔しくすらあった。
こうしてWurtSのライブを見るのを楽しみにしていた一方で、少し不安でもあった。こうした顔出しをしていなかったり、ネットでバズったりしたアーティストは曲は良いけどライブを見たら物足りない、ということも往々にしてあるからだ。
でもこうして初めてWurtSのライブを見て、そんな不安は一瞬で消えた。それはバンド編成によることも大きいが、その編成はこの音楽を鳴らすための必然と言えるような形である。もしWurtSがマーケティングや効率化だけを考えて活動していたならわざわざバンド形態にはしないだろう。それでもバンド編成で活動しているというのは、ライブで人の心を揺さぶるものが生の音であるということを彼はわかっているからだと思う。
2022年のこれがバズるぞランキング1位。基本的にあんまりそういうのは信用も信頼もしてないし、そういうの関係なくそれぞれが良いと思った音楽を聴けばいいじゃんと思っているのだが、このWurtSが1位に選ばれたということだけは心から支持できる。それはこの日ライブを見てより強くなった。これがバズらなかったら世間は、何にも分かってないよ。
1.Talking Box
2.ふたり計画
3.僕の個人主義
4.BOY MEETS GIRL
5.SWAM
6.ブルーベリーハニー
7.リトルダンサー
8.分かってないよ
・Hump Back
バズリズムのバズるぞランキングには入ったことがあるだろうけれど、基本的にTVの番組に出ることはしない。それだけに今回の2日間のラインナップの中では出演するのが1番意外だなと思ったのがこのHump Backである。去年もこの横浜アリーナでライブをしていたりと、スケール的には申し分ない存在であるとはいえ。
おなじみのハナレグミのSEが流れてぴか(ベース)が走ってステージに現れると、続いて美咲(ドラム)もやはり走って現れ、最後に登場した林萌々子(ボーカル&ギター)は横浜アリーナのゆるキャラのぬいぐるみを持っており、それを自分のアンプの上に置くと、この直前のバカリズムと市來アナのトークでバカリズムがこの日のライブが生配信されていると勘違いしていたことについて、
「生配信されてるって言ってたけど、Twitterのそういうやつは全部詐欺やで。バカリズムさん、騙されてる(笑)
生配信なんかされてたまるか!目の前のものがすべてや!大阪、Hump Backはじめます!」
と自分たちの生き様を口にしてそのまま「拝啓、少年よ」に繋がる。もうこの出てきてから1分くらいでこの日もまた林のカッコよさに完全に撃ち抜かれてしまっているのだが、ぴかがぴょんぴょんと飛び跳ねながら演奏している姿はTV番組のイベントだとしてもやはりこうしてライブができていることの喜びを感じさせるし、なんといっても林のボーカルの伸びやかさたるや。この日の出演者たちはみんな歌が上手い人ばかりであるが、この声量の圧倒的さは林が1番だと言えるかもしれないと思うほどだ。
そのまま美咲のドラムロールがバンドにさらなる疾走感を与える「ティーンエイジサンセット」ではステージのアーチ状の照明が曲に合わせて鮮やかなオレンジ色に切り替わる。こうした演出がより強く効くのはアリーナ規模(しかもかなり金がかかっているであろうステージ作り)だからこそであるが、それでもこのバンドがライブを始めるとステージと客席との距離がグッと近く感じられるようになる。それはここをライブハウスにしてしまえるのがHump Backだからである。
どうしてもこのバンドがこの四つ打ちのドラムと跳ねるようなベース(スクリーンには美咲のドラムセットのバスドラも映し出されていた)を聴くとチャットモンチーの「シャングリラ」を彷彿とさせるのであるが、もちろんそこからの影響が強くあるだろう、このバンドのダンスチューンである「ひまつぶし」では美咲のドラムソロ的な演奏や、林が強烈なギターソロを弾いたかと思ったらリズムに合わせたダンスまでして、それがどこか微笑ましく我々の体を揺らしてくれる。
「キラキラ光ってるのキレイやな。ライブハウスでは見れへんからな。でもライブハウスと違うとなんかドキドキしてまう。INIさんのペンライトやろ?それって切れるの?電池もったいないから切れるんなら切った方がいいで」
と林は客席で光っていたペンライトを消すように促すのだが、異ジャンルの観客同士だとこうした喚起をする時についつい強い言葉で言ったりしてしまいがちになる。そうするとそうしたライブハウスの光景を知らずに良かれと思ってペンライトを光らせていた人たちが自分たちが楽しみにしているライブを見る前に嫌な気持ちになってしまったりするのだが、誰も傷つけたり自分の好みを押し付けたりするのではなく「電池がもったいないから」と言うあたりに林の優しさと機転を感じる。こういうことが言えるような人になりたいと思う。
「うちらの音楽は全部少年少女に向けて鳴らしてる。高校生の頃に部室で聴いたチャットモンチー。15歳の時に組んだこのバンドで、僕は少年少女のために音を鳴らしてるんだぜ」
と、そのまま続けられた言葉は
「忘れないでいて 少年少女よ」
と林がサビを歌ってから演奏された「がらくた讃歌」へと続くのだが、こうしてライブハウスにいる時は誰もが少年少女でいられる。だから少年少女というのは年齢を限定したものではなくてここにいる誰もに届くということである。
そのまま爆音で「Lilly」へと突入していき、ぴかと美咲のリズムの力強さはもちろん、林の歌唱の素晴らしさはこの曲で極まっていると言っていいだろう。すでに武道館でもワンマンを行っているが、こうした広い会場で鳴るべきロックンロールが確かに鳴らされている。ギター、ベース、ドラムだけ。最新のトレンドに合わせることも、大掛かりな演出を使うわけでもない。ただバンドで音を鳴らす、その純粋な思いと音だけでこんな景色を見せてくれるバンドがいてくれることを本当に幸せだと思える。
しかし林は
「バズるとか売れるとかって大事なことかもしれんけど、ライブハウスでライブをやってるとそんなんどうでもいいって思ってしまうことがある。目の前にいてくれる人だけ、わかってくれる人だけいてくれたらいいって。でもsumikaも言ってたけど、TVの中にもロックバンドのカッコよさを伝えようとしてくれてる人もいる。バズリズムが私たちを見つけてくれて本当にありがとう」
と、TV番組のアリーナ規模のライブでも変わることなくライブハウスへの愛情を口にする。それはTVの中でもアリーナでもなく、これまでも、そしてこれからもライブハウスこそが自分たちが生きていく場所だということがわかっていて、それが変わることはないからだ。そんな思いを口にした後の「僕らの時代」はパンクと言っていいようなサウンドで、メンバーのソロ回し的な演奏もあるのだが林はギターソロで横浜アリーナのゆるキャラのぬいぐるみを持ってそのぬいぐるみを弾きまくっていたのが横浜アリーナ仕様で面白い。当然その間はギターの音が出ていないのも含めて。
ここまでいろんな曲で曲前に自身の思いを口にしてきただけに、かつてはそうした思いを口にしてから演奏されていた「番狂わせ」はこの日は合間を置かずに演奏されていたのだが、「イエス!」のコーラスに合わせてたくさんの腕が上がっていたのはこの曲を知っている人がたくさんいたのはもちろん、このバンドを観に来た人もたくさんいたということだろう。
「おもろい大人になりたいわ」「しょうもない大人になりたいわ」
というフレーズはこのバンドを知らなかった人でもこの日のライブを見てくれた人ならきっと共感してくれるものになったはずだ。
そして
「みんなも大好きなものがあるやろ?私にとってはこのバンドが、ロックンロールがそう。それさえあればムカつく奴がいようとも、戦争が起ころうとも私は武器を取らない。好きなものがそうなる時に止めてくれるから。
みんなも踏み外しそうになった時とか、悪いことをしてしまおうと思った時に自分の好きなものが止めてくれますように。私は15歳の時にロックンロールに騙されて本当に良かった!」
と、来ている人それぞれに好きなアーティストがいるであろうこの日だからこそ強く響く言葉を口にして最後に「星丘公園」を演奏する。それは君が泣いても、このバンドがいる限りはロックンロールは死なないということを示すかのように。メンバーが向かい合って鳴らすキメの音は見るたびに力強さと説得力を増す中、林は最後に
「今日Hump Backを初めて見た人が間違ってライブハウスに来てしまうように!」
と言った。実際にそうなったら本当に素敵なことだと思うけれど、自分も今月にライブハウスでHump Backのワンマンを見れる予定がある。それが本当に嬉しいのはやっぱりライブハウスで見るHump Backが1番カッコいいということを知っているから。実は今最も少年少女をライブハウスに多く誘っているのは、ロックンロールの神様に騙されたこのバンドなのかもしれない。
1.拝啓、少年よ
2.ティーンエイジサンセット
3.ひまつぶし
4.がらくた讃歌
5.Lilly
6.僕らの時代
7.番狂わせ
8.星丘公園
・INI
バンドが居並ぶ今年のこのフェスにおいて(2日目はバンドしかいない)異彩を放っているのが、昨年デビューしたばかりの11人組のダンスボーカルグループ、INIである。この日客席で輝きまくっていたペンライトはこのグループのグッズであるということからも人気っぷりが伺える。もちろんライブを見るのは初めてである。
バカリズムと市來アナのトークからグループ名が呼ばれると暗転した場内がフッと明るくなり、そこにはすでにメンバーがいて「Rocketeer」からスタートしてキレのあるダンスを踊りながら歌唱する。おそらく推しであろうメンバーがキメフレーズを歌ったりポーズを決めたりするだけで客席からは歓声が上がりそうになってなんとか我慢して…という繰り返しになるのが見ていて面白いが、「BOMBARDA」も含めてK-POPグループを彷彿とさせるようなサウンドと歌唱である。ダンスはキレはもちろん統率性があるのはメンバーの衣装が同じではないにせよ基本的には統一性があるからで、となるとペンライトのそれぞれのメンバーによる色の分かれ方はどうやって決まっているんだろうかというのも門外漢からすると気になるところである。
MCでは11人全員がステージ前に一列に並んで喋るという、バンドのライブばかり見ているとこうした光景を見ることがないためにそれだけでも驚きであるが、せっかくだからという一人一人の自己紹介で2番目のメンバーが
「この時期なんで…みなさん、年末調整終わってますかー!」
と叫んだのを聞いて吹き出しそうになってしまった。それと同時に自分がまだ年末調整をめんどくさくてやってないことに気付かされたのだが、そんなことをステージから口にするアーティストは今まで見たことがないし、わざわざそれを自己紹介で言うということはこのメンバーはかつては我々と同じようにめんどくさがりながらも年末調整を記入していたりしたんじゃないだろうかと思う。若そうに見えるメンバーも多いがそこにはそれぞれのこのグループに至るまでの人生をも感じさせるというのは言い過ぎだろうか。
そうした全員の自己紹介を経るとキレのあるダンスを披露する曲だけではなくて、メンバーが2部隊に分かれてステージ左右の通路を歩きながら歌うというスタンド席の観客のすぐ前まで行って歌うために近くに来た観客がまた声が出そうになって…という歌唱に専念した曲も披露するのだが楽器がないだけにステージが全く何もない誰もいない状態になるのもバンドのライブばかり行ってる身としては新鮮だ。基本的にはバンド編成のライブじゃないと飽きてしまうというタチではあるのだが、こうして全員が観客の近くまで行けるというのはボーカルグループだからこその強みでもあるし、黒髪のメンバーの1人に抜きん出て歌唱力が高いメンバーがいるなということがこうした歌に重点を置いた曲だからこそよくわかる。名前まではわからなかったが。
すると客席を左右に分けてどちらの方が大きな手拍子を鳴らせるかというコロナ禍だからこそのゲームも展開されるのであるが、本来ならばこうしたところは声の大きさで判断したいところだろう。結成からわずか1年という新人グループであることを考えると、彼らは観客が声を出すライブをステージから見たことがないはず。徐々にそうしたライブも増えてきているが、声を出せるようになって欲しいというのはバンドファンだけではなくてあらゆる形態の音楽ファンの願いでもあるんだろうなとその手拍子を見て思っていた。好きなメンバーの名前を思いっきり声を出して呼んだりしたい人もたくさんいるだろうなと。結局ゲームはメンバーが見て左側が勝ったのだが、メンバー全員が観客に向かってキュンポーズをするという、どちらが勝っても変わらないものになるというのはお約束だろう。
そしてまさに写真を撮影するような白く神聖さを感じさせるような光に包まれる中で披露された「Polaroid」からはK-POP的な序盤から、日本で活動しているグループとしてのJ-POP的なサウンドに変化していく。それに伴ってダンスもどこか自由というかメンバーそれぞれが開放的なものになっていくのだが、最後に演奏された「HERO」は聴いただけでわかる。WANIMAが提供している曲であると。
それはそのくらいにこの曲を歌っているメンバーの向こうにWANIMAの3人の顔が透けて見えてくるくらいにWANIMA節が炸裂している曲であるからだが、自分はWANIMAがデビューした時からずっと曲を聴き、ライブに行っている。それはWANIMAの音楽やライブが、優しくて真っ直ぐであることはどれだけカッコいいかということを3人の鳴らす音や姿が示してくれるからで、自分もそうした人間でありたいと思うからであるのだが、この曲からも間違いなくそうした要素を感じられる。というかこのメンバーがそうした素養を持った人たちだからこそWANIMAはこの曲をこのグループに託したんだろうと思う。そこにはWANIMAのライブから感じられる情熱が確かに感じられたからだ。
最初はクールなダンスボーカルグループだと思っていたが、実は熱い人たちなのかもしれない。自分はオーディションの様子とかを全く見てないし、この日のライブでしかメンバーに触れていないが、このコロナ禍という音楽から離れざるを得なかった人がたくさんいる中でわざわざ音楽グループのオーディションを受けに行くという人は人生を音楽に全て賭けている人しかいないと思っているし、WANIMAの3人もきっとそれをわかっている。だから「HERO」はこの日の中で最も自分に響いたし、こうした曲が増えたらもっと面白いグループになるんじゃないかと思った。
ただ、この日の終演後に規制退場のアナウンスが流れる中でペンライトを持った人がまだ呼ばれてないのに驚くくらいにたくさん出て行っていた。それはもしかしたらそのルールがこの日のライブにあるのを知らなかったのかもしれないし、アナウンスが流れた時にはもう歩き出したりしていたのかもしれない。終電に間に合うかギリギリのところから来た人もいたかもしれないし(あんまり見ていてそこまで切迫している人はいなかったけど)、そもそも規制退場にどれだけの意味があるのかもわからない。
でもそうした感染対策のルールがあるからコロナ禍の中でもこうして大規模なライブを行うことができて、好きなアーティストが立てるステージがあるというのは事実だ。自分がいた列は呼び出しされた時には自分とsumikaのTシャツを着た女性2人組しか居なくなっていた。ペンライトを振っていた女性たちは見事に呼ばれる前に帰ってしまっていた。
せっかくファン以外のたくさんの人に見てもらえる機会があって、アーティスト側が素晴らしいパフォーマンスをしていても「ルール守れないファンばかりのグループなんだな…」と思って興味がなくなってしまう人も間違いなくいる。それはコロナ禍におけるライブの楽しみ方の分断が起こる中で痛いくらいに味わってきた。
INIのファンの方もライブ中は声を出すのを我慢していただけに、敢えてルールを破って規制退場を無視している人ばかりだったわけではないはず。でも自分は今の状況においてちゃんとそうしたライブごとに定められた決まりを守ることこそが次のライブ、次のステップに繋がっていくと思っているし、何よりも早く帰りたいだろうにちゃんとアナウンスで呼ばれるまで待っているファンが自分が普段からワンマンに行くバンドのファンだと、そのバンドのカッコ良さがちゃんと伝わってるんだなと思える。それは音楽だけじゃなくて人間的な部分において。
1.Rocketeer
2.BOMBARDA
3.Password
4.STRIDE
5.KILLING PART
6.Polaroid
7.HERO
・マカロニえんぴつ
そしてこの日のトリはマカロニえんぴつ。バズリズムライブではおなじみの存在ということもあってか、この出演者の中でも堂々のトリである。
おなじみのビートルズのSEでメンバーが登場すると、田辺由明(ギター)と高野賢也(ベース)はこのイベントのタオルを客席に掲げるというあたりにこのイベントへの愛情を感じさせる中、はっとり(ボーカル&ギター)が登場すると、1曲目は自らのバンド名を自虐するような歌詞と複雑な演奏でもあくまでキャッチーに響かせる「トリコになれ」からスタートするのであるが、それはおそらくはトリであり、こうしたアリーナでライブをやれるバンドになりながらも自分たちのファンだけではない観客の方が多いからこそ、そうした人たちに「自分たちのトリコになって欲しい」という思いがあっての選曲だったんじゃないだろうか。
長谷川大喜(キーボード)の美しいピアノのサウンドで始まり、タイトルに合わせて照明も鮮やかな黄色に変化する「レモンパイ」ではっとりが思いっきり
「横浜ー!」
と叫ぶ。田辺のスライドさせるようなギターが哀愁を感じさせる中、サビではたくさんの人が腕を上げるあたりはこのバンドのファンの人以外もライブを楽しんでくれていることがよくわかるが、はっとりも
「INIの盛り上がりが凄すぎて、ペンライト持った人はみんな帰っちゃったかと思ったけど、みんな音楽が好きなようで嬉しいです。それてもチケット代の元を取るために最後まで見ていくっていうがめつい人たちなのかな?(笑)」
と言うくらいに普段のライブとは客層が違うことを察知していたようだが、そんな人たちが自分たちを見るために残ってくれていることへの感謝を語る。
その後に演奏された、メンバーそれぞれの複雑な演奏(演奏技術が高いこのバンドだからこそできる)がアウトプットとしてはポップなメロディーに着地する「たましいの居場所」ではまるで上空を浮遊する魂を具現化したかのような照明が実に綺麗で、この曲のこの演出のためにこうした照明の形状にしたのかと思ってしまうくらいだ。それはすでにこの横浜アリーナでもワンマンをやっているマカロニえんぴつだからこそのものでもある。
曲間の静寂と暗転のわずかな時間の中でメンバーが
「ひー、ふー、みー、よっ」
とカウントして同期のストリングスのサウンドが流れてはっとりが歌い始めるのは問答無用の名曲「恋人ごっこ」だ。やはりこうした自分たちのライブを見たことがないであろう人がたくさんいる場所でこうした曲を持っているバンドというのは本当に強いなと思わせてくれるし、それははっとりの歌唱の見事さによるものが実に大きい。今やなかなかヒット曲の指標というものがわかりづらくなっている時代であるが、こうしたファン以外の人がたくさんいるライブでのリアクションは実にリアルにそれを実感させてくれるものだ。
そのまますぐに繋がるように演奏された「洗濯機と君とラヂオ」では長谷川がエアベースをしながら高野を追いかけるというおなじみのやり取りもあるのだが、バンドの演奏のテンポの速さはこのバンドの先に行きたくて仕方がないというロックバンドの衝動を強く感じさせる。特に田辺のギターソロはさらに速くなっており、メンバー随一のハードロックマニアとしてその影響そのままの曲を作ってしまう田辺のロックさがこのバンドのロックさに繋がっていることがよくわかるのだ。
さらには壮大なイントロがまさに宇宙空間を遊泳するかのような感覚に浸らせてくれる「星が泳ぐ」ももう完全にマカロニえんぴつの代表曲と言っていい曲であるが、サビの締め部分や間奏部分で叫ぶようにするはっとりの歌唱はこのライブへの、というよりも一本一本どんな場所のどのライブでも100%以上を出し尽くして自分たちを更新しようとしているバンドの姿勢を感じさせる。演奏技術も歌唱技術も高いバンドであるが、このバンドのライブが素晴らしいのはそこよりもむしろこの姿勢によるものだと思っている。
「意味がないな 君が居ないと
そんな夏ばかり過ぎていく
キリがねぇぜ 優しさに出会うたび影は伸びてしまう」
というサビのフレーズはタイアップアニメに合わせたものかもしれないけれど、こうしたライブという場では確かに目の前にいる人に向けたメッセージであることが伝わってくる。
だからこそはっとりは
「自己紹介代わりの6曲を演奏してきましたけど、しっかり届いてますでしょうか?
いや、自己紹介なんて生易しいもんじゃねぇな、俺たちは今日ここに生き様を鳴らしに来ました!あなた達もそうでしょう?そうやってここにライブを観に来るっていう選択をして、立って聴いたり座って聴いたりすることで自分たちの生き様を示しに来たんでしょう?
あなたといる時の僕が好きだ、最後にそんなことを歌って帰ります。ありがとうございました!」
と言って「なんでもないよ、」を演奏した。その言葉が全てと言えるような、
「そんなもんじゃなくって、ああ何が言いたかったっけ
「何でもないよ」なんでもないよ、
君といるときの僕が好きだ」
というフレーズが長谷川の美しいピアノの音とともに響き渡る。踊れる曲でもないし盛り上がる曲でもない。ましてやワンマンでもない中でのこの曲のサビでたくさんの人が腕を挙げていた。その光景こそがこの日このバンドがトリを務めた意味だった。なかなか今やチケットが取りづらくなってきているけれどやっぱり、マカロニえんぴつといる時の僕が好きだってライブを見るたびに思う。
ほとんど帰ることのない観客の根強い手拍子に応えてアンコールで再びメンバーが登場すると、特に何も言わずに楽器を手にして田辺のギターが「ヤングアダルト」のイントロを鳴らす。はっとりは
「横浜ヤングルーザー」
とバンドの出身地にほど近いこの場所へと歌詞を変えて歌う。
去年の夏にこの横浜アリーナでのイベントでこの曲を聴いた時は、まさに
「夜を越えるための唄が死なないように
手首からもう涙が流れないように」
というフレーズの通りに、唄が流れるべき場所がなくなっていっていた状況だったし、はっとりもそのことについての悲痛な心境を口にしていたりした。もちろんこの曲が世に出たのはコロナ禍になる前だったけれど、世の中が変わってしまったことによって曲が持つメッセージも変わった。
それから1年後に横浜アリーナで聴いたこの曲は、夜を越えるための唄は死ななかったんだなという感慨に満ちていた。もちろんまだ予断は許さない状況は続いているけれど、フルキャパで満員の横浜アリーナに響いたこの曲は確かにそんなことを思わせてくれた。このバンドがいてくれて、この曲を鳴らしてくれているから、明日もヒトでいれるために愛を集めてる。
「アンコールまで待っててくれて本当にありがとうございました!」
と言ってからステージを去って行ったはっとりの表情は去年ここで見た時よりも圧倒的に晴れやかだった。
1.トリコになれ
2.レモンパイ
3.たましいの居場所
4.恋人ごっこ
5.洗濯機と君とラヂオ
6.星が泳ぐ
7.なんでもないよ、
encore
8.ヤングアダルト
バズリズム LIVE 2022 day2 出演:go!go!vanillas / SUPER BEAVER / THE ORAL CIGARETTES / 東京スカパラダイスオーケストラ / UNISON SQUARE GARDEN @横浜アリーナ 11/6 ホーム
さユり TOUR 2022 "酸欠衝動" @Zepp DiverCity 11/3