the telephones 「Come on!!! TOUR」 @新宿MARZ 11/2
- 2022/11/03
- 19:46
活動再開後に早くも2枚目のアルバム「Come on!!!」をリリースした、the telephones。こうしてハイペースでリリースがあって新曲が聴けるのは実に嬉しいし、コロナ禍であっても本当にtelephonesが休止前と同じように走り続けているということを示してくれるのであるが、そのリリースツアーはこの日の新宿MARZが初日。東京が初日、しかも一年の終わりが近づいてきているというあたりがさらなる年末に向けての活動にも期待を抱かせる。
ソールドアウトということで小さな規模のライブハウスであるMARZは後ろから横まで満員であり、立ち位置指定もない客席の様子はマスクをしていること以外は昔にここでtelephonesがライブをやっていた頃そのままのようですらある。
そんな会場が19時過ぎに暗転すると、おなじみの「Happiness, Happiness, Happiness」が流れてアフロのカツラを被ったメンバー4人がステージに現れるのだが、服装がサッカー日本代表のユニフォームであり、これは代表メンバーが選出されたタイミングであることはすぐにわかるのであるが、1番体格の良い松本誠治(ドラマー)がしっかりゴールキーパーの緑色のユニフォームを着ているのが地味に面白い中、ノブこと岡本伸明(シンセ)が投げたカツラが長島涼平(ベース)の頭を直撃するというのも早くも笑えてしまうtelephonesらしい光景である。
おなじみの唇サングラスを着用した石毛輝(ボーカル&ギター)が観客に挨拶すると、
「telephonesの久しぶりの声出しライブ、最高に楽しもうぜー!」
と叫び、観客はまだこの辺りでは少し遠慮気味に声を返す。そう、この日は事前に告知されていた通りに自治体やライブハウスとの協議のもとに声出しOKライブとなったのである。コロナ禍になってから初めて、つまりは3年ぶりくらいのtelephonesの声出しライブ。自分もまだこの段階では「こういう時ってどんな感じでどうやって声出すんだっけ?」と思ってしまうくらいに体からその感覚がなくなっていた。こんなに堂々とそれがOKになっているライブに来るのは自分自身、2020年の年始以来であるだけに。
そんなこの日は「Come on!!!」ツアーの初日ということもあり、アルバム1曲目の「Adventure Time」からスタートし、まずは踊りまくるというよりは体を揺らすというような感じで、タイトル通りにここから始まる新たなtelephonesの冒険に胸が躍る。石毛は最後のサビ前でサングラスを外してかき上げた髪を束ねるようにするのであるが、その視線は記念すべきこの日に集まってくれた観客をしっかり目に捉えるかのようだ。小さな規模で距離感が近いからこそ、その視線に自分自身の目が合うような感覚になる。
すると早くも場内には聞き覚えのありまくるイントロの同期の音が流れる。その音に合わせてメンバーは両手を合わせて頭上に伸ばし、
「telephonesのMARZと言ったらやっぱりこの曲!みんな、アとウとオを叫ぼうぜー!」
と早くも観客の歓声を煽る「A A U U O O O」が始まる。もっと前半から新作に寄ったセトリになると思っていただけに実に驚く流れであったが、観客もサビではフレーズに合わせて腕でA U Oのアルファベットを作り、何よりもこのまだ少し声を出すのを躊躇するというか、体が慣れていない段階でも否が応でも声を出さざるを得ない選曲。それをDISCO曲以外でやるというあたりにtelephonesのキラーチューンの揃いっぷりを改めて感じるとともに、コロナ禍になる前に見てきたこの曲での景色が蘇ってくる。つまりはもうこの時点でこの日のライブがとんでもなく楽しいものになるのは確定しているのである。
さらにはノブによる煌びやかなシンセのイントロが我々を踊るしかない状態にさせる「HABANERO」とキラーチューンが続き、誰よりもそのサウンドに合わせて自身の精神を開放しているように見える石毛がリズムに合わせて
「跳べー!」
と観客を煽るのであるが、このMARZは客席の半分くらいから後ろは極端に天井が低くなっているために跳びたくても跳べない状態になってしまい、自分が遅く入場したことによって低い天井のスペースしか確保できなかったことを後悔することになってしまった。それでも石毛は曲中に
「新宿ー!」
と叫び、その叫びに観客も声援で応えるという、telephonesのあるべきライブの形がもうすっかり戻ってきていた。つまりは跳べなくても本当に楽しいということである。
こうして声を出してコミュニケーションができずに、拍手や手拍子でしか観客がバンドに返せなかった状況をいずれ懐かしく思うのだろうかと思ってしまうのは、誠治の力強いドラムのリズムに合わせて文字通りにクラップが起きる「Crap Shit」であるが、石毛のボーカルに被せるノブと涼平のコーラスのうち、明らかにノブの声量が大きすぎるくらいに大きくなっていたのはやはりテンションが上がりすぎていた部分もあったのだろうか。ノブの思考は常人には理解できないのでそうとも言い切れないところもあるのだが。
それでもやはり曲間にメンバーが浮かべる表情は、何か一つ大きなトンネルを抜けたかのような笑顔。それは当然MC中にも観客の声が響くという観客の声出しによってもたらされたものであるのだが、石毛はそんな観客たちを
「少し来るのにいつもより勇気が必要だったかもしれない。だからここにいるみんなは勇者だよ。本当にありがとう!」
と最大限の賛辞で称える。でもそれは我々だけじゃなくてバンド側もライブハウス側も勇気を出して各所に掛け合ってくれたからこそのものだ。我々がそうだとするならば、ここにいる全員が勇者と言える存在だった。
そんな勇者の筆頭というか、いろんな意味での勇者であるノブがカウベルを打ち鳴らしながらステージ上を歩き回るのはおなじみの「Baby, Baby, Baby」であり、ノブが曲中に消えるのもおなじみであるが、この日は2階席に移動したりしていたのだろうか。立ち位置的にその勇姿を見ることは出来なかったけれど、そのノブがステージに戻ってきての
「One more time!」
という最後のサビ前の掛け声もみんなで叫んでから踊ることができる。ノブも以前までは口元を覆うようにして叫ぶパフォーマンスをしていたが、もうそうしなくても大丈夫なようになったのだ。まだかつてのように激しいモッシュが起きたりはしないけれど、ステージ上の光景はもう完全にコロナ禍の前に戻っている。
いや、戻ってるんじゃない。取り戻しながらも進んでいる、バンドはそんな期間を経てさらに進化していると感じるのは、石毛の歌唱にこれまで以上の艶かしさを感じるようになった「Hasta la Vista」。石毛のハイトーンボイスは今でも全く変わることはないが、その表現力は様々な経験を経て間違いなくさらに向上しているし、ノブもまた艶かしいダンスをしながら、涼平に接近するとわしゃわしゃと髪を掴む。そんなノブの体の動きも進化していると言えるのかもしれない。
そうして髪を掴まれた涼平もまたフレンズなどtelephones以外の場所で培ってきた経験がさらに腰に来るグルーヴを生み出すベーシストとしての進化を感じさせるのは、実に久しぶりにライブで聴いた感じがする「Kung Fu Village」。タイトル通りにパンチを繰り出すような石毛のボーカルとノブのコーラスも実に力強いのであるが、この曲が演奏されたのは「Come on!!!」収録の最新カンフーナンバー「Whoa cha」へと繋がるためであったということがよくわかるし、パンチを繰り出す力強さから華麗に舞うような軽やかさへと曲の持つカンフー要素が変化しているのもまたバンドの経験によるものだろう。一発の強さよりも手数の多さが増したような印象に感じるのはノブがタイトルフレーズを口にしながら繰り出すパンチの回数が圧倒的に増えたからである。
そのノブが「Whoa cha」の締めでステージ前に出てきてマイクを持ってポーズを決める。マイクを客席に向けてポーズを取っているのは観客の声を求めているからということで、客席からはノブのパフォーマンスに向けられたものかはわからないけれど歓声が上がると、
「この前までバックドロップシンデレラと対バンしてたんだけど、打ち上げで「ウチのライブはみんなが声を出せなきゃクソなんだよ…」みたいに言ってしまったりもしたけど、本当に声があるとやっぱり全然違うし、初めて声出しライブをやってるような感覚になる。それくらい久しぶり」
と、やはりメンバーの最近のライブ以上に楽しさが溢れまくっている表情やテンションの高さは観客のリアクションをダイレクトに感じられているからだということがよくわかる。自分自身、メンバーがそう言ってくれることによって我々の声がバンドにどれだけの力をもたらしていたのかということに改めて気付く。というかそれはコロナ禍を経験しなかったら当たり前過ぎて気付けなかったことだったかもしれない。
石毛はそれとともに
「みんなを家で踊らせるために「Come on!!!」を作ったけれど…やっぱりライブハウス向きだな!」
と言って、何故かノブとともに「ハッ!ハッ!」と声を上げながら両腕を上下させるというアクションをしてからの「No Brainer」はまさに音源で聴いていたイメージ以上にライブハウスで踊るための曲として響く。それはやはりtelephonesというバンドはライブハウスという場所でこそ最大限に輝くということを示しているかのよう。前作の復帰アルバム「NEW!」は制作自体はコロナ禍になる前だったので、リリースが延期になったりはしたが曲作りやレコーディングにはコロナの影響はない。それだけに「Come on!!!」は初めてその影響を受けてから作ったこともあって、石毛はインタビューでも「みんなが家の中で踊れるように」という思いを持って作ったことを語っていたが、どうしたってtelephonesのライブハウス感、ロックさはこうしてライブで鳴らすと滲み出てしまうものなのだろう。ある意味ではそれを証明したアルバムであるとも言える。
かと思えば石毛のギターのカッティングを聴くだけで「これは!」と思う初期曲「panic disorder」と、やはりtelephonesは新作のリリースツアーでも新作の曲だけをやるというわけではなく、我々の予想を心地よく裏切ってくれるし、そんな曲が「chick chick chick」という一回聴いたことがあればまず耳から離れないフレーズをみんなで歌うものであるというのが、まるで声出しOKになることを想定して組んだかのようなセトリだ。その辺りがどうなのかはメンバーがいずれ明かしてくれるのかもしれないが、やはりこの曲を声を出せる状態で聴くことができるのは嬉しいことこの上ないし、涼平のベースはやはり独特のうねりをさらに増していることによってより我々を踊らせてくれる。
この日ここまでは特に何も触れていなかったサッカー日本代表のユニフォームについて石毛が
「telephonesはサッカー日本代表を応援します!」
と言って演奏されたのは日本代表の勝利を祝うための曲と言っていい「Just One Victory」。この曲もまた今になってこうして聴けるなんて思っていなかっただけに、このタイミングに感謝である。個人的にはサッカー曲ならウイニングイレブンに起用された「Wooo Hoooo」も聞きたかったところであるが、この曲が演奏されたことによってサビで観客が腕を高く挙げる光景はこの日の我々の大勝利を確定づけていたと言っていいだろうし、日本代表もそうなって欲しいところである。この辺りはかつては浦和レッズともコラボした、サッカー好きとかいうレベルを超越したバンドであるtelephonesならではだ。
「もっと幸せになろうぜー!」
と言って演奏されたのは、昨年末の読売ランドでのSUPER DISCO Hits!!!で演奏された幸せな光景が今でも忘れられない「Yellow Panda」。もちろんステージには黄色い照明が降り注ぐのであるが、狂乱のディスコパンクではないサウンドはアルバムの方向性を決定づけたものであると感じるとともに、そうしてはしゃいだり踊りまくったりするための曲もいいけれど、ただただシンプルに良い曲だよなと思わせてくれる。そこにこそtelephonesの音楽の真髄があると自分は思っているし、ここにいた人はそれをわかっているからこそ、サビでたくさんの腕が左右に揺れていたのだろう。
しかしそんな幸せな空気を切り裂くように
涼平「せめて誰か1人くらいは今の日本代表の選手のユニフォーム着よう?」
というツッコミが入る。確かに
石毛=中田英寿
ノブ=本田圭佑
涼平=遠藤保仁
誠治=松永成立
というメンバーの世代が現れるチョイスであり、1人だけ明らかによっぽどのファンじゃないと知らない誠治の松永は1993年10月のドーハの悲劇の試合のゴールキーパーというマニアックなチョイス。しかもわざわざメルカリでユニフォームを買ったという、そこに力を注ぐんかいと思わずにはいられないこだわりっぷりである。
すると客席からは「ありがとうー!」という歓声のみならず、
「石毛愛してる!」
という声も上がる。こうして観客と会話したりするのも本当に久しぶりだというし、我々もそうした光景を見るのは本当にコロナ禍になる前以来だ。ただ、石毛は
「コロナになる前にもそんなこと言われたことないけど(笑)」
と笑わせてくれるあたりはさすがである。
そんなtelephonesの今のテーマ的な曲と言えるのが「Get Stupid」であり、まさにバカになって踊りまくる曲であるのだが、ノブによるキャッチーなコーラスも含めて早くも完全に今のtelephonesのキラーチューンになっていることがよくわかる。涼平と誠治のシャープなリズムによる性急なダンスロックでありながらもDISCOをタイトルに冠さない新しいアンセムである。
その今のtelephonesをさらにふさわしいタイトルで言い表したのが「High Energy, Low lntelligence」であり、家で踊るには近所から苦情が来そうなほどの明らかに激しすぎるダンスロック。石毛とノブのタイトルフレーズの掛け合い的な歌唱もツアー初日とは思えないくらいに息ぴったりで、ツアーが始まる前に入念にリハをしてきたことがわかるのだが、その完成度の高さが観客の熱気によってさらにライブならではの衝動として燃え上がっている。もうなんならツアーファイナルかと思うくらいの空気にすらなってきている。
そして石毛は
「3年ぶりくらいにやります!…We are!」
と観客を煽ると、観客が大きな声で
「DISCO!!!」
と返す。3年前までと違ってすぐに曲に入らなかったのは、メンバーがその声を噛み締めるようにしていて、観客もこの瞬間に対して拍手を送っていたから。その拍手がアンコールを求めるような手拍子に変化すると、メンバーも予想だにしないような形でもう一回コールをすることになり、もう一度
「We are!」「DISCO!!!」
のコールが先ほどよりも大きな声で行われる。そんな、コロナ禍前までは当たり前過ぎた光景ややり取り、それは自分が大好きなtelephonesのライブのものが本当に久しぶりに戻ってきたのだ。自分で「DISCO!」と口にしながらも、会場内に響いた声を聞いて感極まってしまっていた。こうやってまたみんなで大きな声を出せるライブに戻ってきたのが、ずっとこのバンドの音楽とライブの楽しさを信じてライブに行き続けてきたtelephonesで本当に良かったと思ったし、やっぱりこれがtelephonesのライブなんだよなと思った。
そのコールから突入していくのはもちろんこの日はまだ演奏されていなかったDISCO曲である「I Hate DISCOOOOOOO!!!」で、モッシュにはならないレベルで観客も暴れまくる。もちろんサビでは「DISCO! DISCO! DISCO! DISCO!」の大合唱だ。ノブも涼平も思いっきり声を出しているけれど、それでも客席からもその声が聞こえているのがしっかりとわかる。あの最強だったtelephonesのDISCOの力が戻ってきたのだ。「Love&DISCO」などに比べたら全然感動するような曲じゃないけれど、それでもこの日だけはこの曲に感動せざるを得なかった。
そして
「もっとDISCOしまくろうぜー!」
と言って突入した、活動休止後初のDISCO曲にして最新のDISCO曲である「Do the DISCO」では客席から「オイ!オイ!」という力強い歓声が上がる。それを聞いたのもコロナ禍になる前以来なだけに、もうその声だけで感動してしまうくらいであるし、そうしたコールが起こるということは今目の前で鳴らされている音に観客が熱狂しているということだ。そしてその観客の熱気に後押しされるように石毛は思いっきり声を張り上げながら、頭をブンブン振りまくってギターを弾く。
そのメンバーがさらに熱くなっていく感じ。観客がバンドの鳴らしている音から力をもらって熱気を発し、その観客の熱さがバンドにさらに力を与えていく…そんなバンドと観客の間の信頼関係による幸福なサイクル。それがあるからこそtelephonesのライブはこんなにも最高でこんなにも楽しいんだ。その感覚を担っていたのが我々の声だったということがようやくわかった。まだツアーのこれから先の公演が声出し可能かは場所や状況によって変わっていくらしいが、それでもこれは本当に大きな一歩だ。telephonesにとってだけじゃなくて、同じように観客の歓声を自分たちのパワーにしてきたバンドにとって。ただ勝手に自分たちがそうやりたいからそうするなんてのはその場だけは前に進んだようでいて実はむしろ後退させるものだ。そうじゃなくて、自治体や社会とちゃんと話をして足並みを揃えた上でこうして声出しをすることができている。ライブハウスで生活し(実際にライブハウスの店員同士から始まったバンドだ)、ライブハウスを愛してきたバンドだからこそ、ライブハウスが悪者にならないようにそうした調整をした上でこうしたライブをやる。
「ライブハウスは最高だー!」
と曲の最後に石毛は叫んだが、それはライブハウスがこうした瞬間を見ることができる場所だからだ。telephonesのライブはいつだってそれを感じさせてくれてきた。それは今でもそうだ。
そんなライブハウスへの愛を込めた最新の曲がアルバムの最後に収録され、このライブでも最後に演奏された「Feel bad」だ。
「I feel bad」
というフレーズこそがこのコロナ禍の中で作ったからこそ出てきた歌詞だと思っているが、やっぱりこうしてライブで演奏すればそれが「I feel fine」になる。決して派手な曲ではないし、これまでのtelephonesのアルバムの最後のような壮大に締めようとするような曲でもない。それはこのアルバムを作っている時の、今なお続く状況のリアルを歌った曲だからだ。しかしtelephonesはそれをポジティブに転換することができる。軽やかに飛び跳ねながらベースを弾く涼平はユニフォームこそ遠藤だが、むしろプレイヤーとしては中田英寿のような司令塔にすら見えた。この楽しさを音と姿で最も示してくれていたのはきっと涼平だったからだ。
アンコールではメンバーが全員ツアーTシャツ(涼平だけパーカー)に着替えて登場すると、改めてこの声出しライブをやったことの感慨を口にしながら、
「ライブハウスから離れちゃった人もいるかもしれないけど、ここにいる人がそういう人たちに「ライブハウスは今も最高だよ」って伝えて欲しい」
と、やはりこうしたライブを作ることができるライブハウスの素晴らしさを口にする。しかしノブは
「なんか演奏中に上からずっとニンニクの匂いがしてきた!これはペペロンチーノかな?みたいに思ったらお腹すいちゃって!」
とこのタイミングで話すのだが、かつてThe Mirrazがコロナ禍の前にここでワンマンをやった時も上手側からニンニクの匂いがすると言っていたことを思い出した。telephonesがここでライブをやるのは久しぶりなだけに、上の階の店もかつてライブをやっていた頃とは変わっているからこその、実にノブらしい感想である。
そしてファンがみんな気になっていた、今年の年末のSUPER DISCO Hits!!!の詳細がここで解禁される。今までは「普段ライブをやらない場所」というコンセプトがあったけれど、今年は会場こそ慣れ親しんだZepp DiverCityであるが、日にちが12月31日。つまりはカウントダウンライブであり、
9mm Parabellum Bullet
THE BAWDIES
夜の本気ダンス
四星球
というデビュー時から、さらには近年になってから、どちらにしてもtelephonesと実に距離が近いバンドたちを集めての対バンライブであることが発表される。
「ゲスト側として対バンに出ることはあったけど、自分たちが対バンライブをやるのは久しぶり」
ということだが、すでにCOUNTDOWN JAPANの4日通し券を確保している自分としては「まさかこの日になるとは…」とめでたいニュースであるにもかかわらず放心しそうになってしまっていた。
そんなニュースに湧き上がる中で演奏されたのは会場限定販売シングルとしてリリースされ、時系列的に「Come on!!!」の始まりを告げる曲であった「Caribbean」。誠治のラジオDJ風なラップで幕を開けると、間奏でのその誠治のラップ部分ではメンバーだけではなくて観客もリズムに合わせて一斉に体を左右に揺らす。リリース時はかなりの変化球というか、telephonesにとっては新しい一面を見せた曲というイメージが強かったが、今やすっかりライブには欠かせないtelephonesの曲として定着している。それはやはりコロナ禍であってもこの曲をライブハウスで演奏し続けてきてきたからだ。そうして曲とバンドのグルーヴが練り上げられた状態で最高に楽しめるこの日のライブを迎えることができたのが、この曲をさらなるアンセムたらしめていたのだ。
そして
「I am discoを叫ぼうぜー!」
と石毛が口にして演奏されたのはもちろん「urban disco」で、イントロで手拍子が起こる中で「ワンツー!」も「ハイッ!」もメンバーと一緒に叫ぶことができる。だからこそその後に低い天井に頭がぶつかるくらいに思いっきり飛び上がることができる。サビではもちろん
「I am disco!」
の大合唱が起きるのであるが、間奏ではかつてはよくやっていたが観客が声が出せない近年はほとんどやっていなかった、リズムだけが鳴り響いてコール&レスポンスをするアレンジへ。我々の叫ぶ
「I am disco」
が本当にしっかり聞こえる。それを聞いたメンバーの笑顔もやっぱり最近見てきたものとは違う。これのためにライブをやってるんだ、とすら思えるようなとびきりの笑顔だ。だからこそ石毛は最後のサビ前に
「今日は来てくれて本当にありがとうー!」
と叫んだ。後は、上半身裸になったノブが客席に突入できるようになったらもっと最高なんだよな、とも思ったけれど、
「これから全国回ってきます!また全国のどこかのライブハウスと大晦日のZepp DiverCityで会おう!」
と言ってメンバーが去って行った姿を見て、まだまだメンバーと一緒に歌いたい曲がたくさんあるけれど、きっとまたこの日のように一緒に歌える、叫べる日が来るという希望しかなかった。
VIVA LA ROCKでの1日限定復活。本格的に活動再開を宣言した時のツアー初日の佐賀のライブハウス。telephonesのライブで感動したことはたくさんある。もちろん活動休止する前にだってそうしたライブはたくさんあった。でもそんなどのライブよりもこの日のライブは「戻ってきた」という感覚が強くあった。それはこの日のライブがどれだけ素晴らしくて、一生忘れられないものかを示すとともに、telephonesのライブから感じられる衝動は我々が声に出して返すものなんだと思ったからだ。
それはただ自分が歌いたいからというだけじゃない。telephones peopleというtelephonesを愛する人たちが周りにいて、その人たちと一緒になって叫ぶ。その声が、普段生活している時には周りに全くいないけれど、ライブに来れば自分と同じようにtelephonesを愛している人たちがたくさんいて、その人たちが同じように感じてくれているだろうなということがわかるからだ。それはそのまま自分が生きているということを最大限に感じさせてくれるものになる。telephonesはそんなバンドなのである。その人間の生命力をこの上ないくらいに感じさせてくれるtelephonesのライブがついに戻ってきた。
「I will change to be back again to you」
と歌ってきた通りに。
1.Adventure Time
2.A A U U O O O
3.HABANERO
4.Crap Shit
5.Baby, Baby, Baby
6.Hasta la Vista
7.Kang Fu Village
8.Whoa cha
9.No Brainer
10.panic disorder
11.Just One Victory
12.Yellow Panda
13.Get Stupid
14.High Energy, Low lntelligence
15.I Hate DISCOOOOOOO!!!
16.Do the DISCO
17.Feel bad
encore
18.Caribbean
19.urban disco
ソールドアウトということで小さな規模のライブハウスであるMARZは後ろから横まで満員であり、立ち位置指定もない客席の様子はマスクをしていること以外は昔にここでtelephonesがライブをやっていた頃そのままのようですらある。
そんな会場が19時過ぎに暗転すると、おなじみの「Happiness, Happiness, Happiness」が流れてアフロのカツラを被ったメンバー4人がステージに現れるのだが、服装がサッカー日本代表のユニフォームであり、これは代表メンバーが選出されたタイミングであることはすぐにわかるのであるが、1番体格の良い松本誠治(ドラマー)がしっかりゴールキーパーの緑色のユニフォームを着ているのが地味に面白い中、ノブこと岡本伸明(シンセ)が投げたカツラが長島涼平(ベース)の頭を直撃するというのも早くも笑えてしまうtelephonesらしい光景である。
おなじみの唇サングラスを着用した石毛輝(ボーカル&ギター)が観客に挨拶すると、
「telephonesの久しぶりの声出しライブ、最高に楽しもうぜー!」
と叫び、観客はまだこの辺りでは少し遠慮気味に声を返す。そう、この日は事前に告知されていた通りに自治体やライブハウスとの協議のもとに声出しOKライブとなったのである。コロナ禍になってから初めて、つまりは3年ぶりくらいのtelephonesの声出しライブ。自分もまだこの段階では「こういう時ってどんな感じでどうやって声出すんだっけ?」と思ってしまうくらいに体からその感覚がなくなっていた。こんなに堂々とそれがOKになっているライブに来るのは自分自身、2020年の年始以来であるだけに。
そんなこの日は「Come on!!!」ツアーの初日ということもあり、アルバム1曲目の「Adventure Time」からスタートし、まずは踊りまくるというよりは体を揺らすというような感じで、タイトル通りにここから始まる新たなtelephonesの冒険に胸が躍る。石毛は最後のサビ前でサングラスを外してかき上げた髪を束ねるようにするのであるが、その視線は記念すべきこの日に集まってくれた観客をしっかり目に捉えるかのようだ。小さな規模で距離感が近いからこそ、その視線に自分自身の目が合うような感覚になる。
すると早くも場内には聞き覚えのありまくるイントロの同期の音が流れる。その音に合わせてメンバーは両手を合わせて頭上に伸ばし、
「telephonesのMARZと言ったらやっぱりこの曲!みんな、アとウとオを叫ぼうぜー!」
と早くも観客の歓声を煽る「A A U U O O O」が始まる。もっと前半から新作に寄ったセトリになると思っていただけに実に驚く流れであったが、観客もサビではフレーズに合わせて腕でA U Oのアルファベットを作り、何よりもこのまだ少し声を出すのを躊躇するというか、体が慣れていない段階でも否が応でも声を出さざるを得ない選曲。それをDISCO曲以外でやるというあたりにtelephonesのキラーチューンの揃いっぷりを改めて感じるとともに、コロナ禍になる前に見てきたこの曲での景色が蘇ってくる。つまりはもうこの時点でこの日のライブがとんでもなく楽しいものになるのは確定しているのである。
さらにはノブによる煌びやかなシンセのイントロが我々を踊るしかない状態にさせる「HABANERO」とキラーチューンが続き、誰よりもそのサウンドに合わせて自身の精神を開放しているように見える石毛がリズムに合わせて
「跳べー!」
と観客を煽るのであるが、このMARZは客席の半分くらいから後ろは極端に天井が低くなっているために跳びたくても跳べない状態になってしまい、自分が遅く入場したことによって低い天井のスペースしか確保できなかったことを後悔することになってしまった。それでも石毛は曲中に
「新宿ー!」
と叫び、その叫びに観客も声援で応えるという、telephonesのあるべきライブの形がもうすっかり戻ってきていた。つまりは跳べなくても本当に楽しいということである。
こうして声を出してコミュニケーションができずに、拍手や手拍子でしか観客がバンドに返せなかった状況をいずれ懐かしく思うのだろうかと思ってしまうのは、誠治の力強いドラムのリズムに合わせて文字通りにクラップが起きる「Crap Shit」であるが、石毛のボーカルに被せるノブと涼平のコーラスのうち、明らかにノブの声量が大きすぎるくらいに大きくなっていたのはやはりテンションが上がりすぎていた部分もあったのだろうか。ノブの思考は常人には理解できないのでそうとも言い切れないところもあるのだが。
それでもやはり曲間にメンバーが浮かべる表情は、何か一つ大きなトンネルを抜けたかのような笑顔。それは当然MC中にも観客の声が響くという観客の声出しによってもたらされたものであるのだが、石毛はそんな観客たちを
「少し来るのにいつもより勇気が必要だったかもしれない。だからここにいるみんなは勇者だよ。本当にありがとう!」
と最大限の賛辞で称える。でもそれは我々だけじゃなくてバンド側もライブハウス側も勇気を出して各所に掛け合ってくれたからこそのものだ。我々がそうだとするならば、ここにいる全員が勇者と言える存在だった。
そんな勇者の筆頭というか、いろんな意味での勇者であるノブがカウベルを打ち鳴らしながらステージ上を歩き回るのはおなじみの「Baby, Baby, Baby」であり、ノブが曲中に消えるのもおなじみであるが、この日は2階席に移動したりしていたのだろうか。立ち位置的にその勇姿を見ることは出来なかったけれど、そのノブがステージに戻ってきての
「One more time!」
という最後のサビ前の掛け声もみんなで叫んでから踊ることができる。ノブも以前までは口元を覆うようにして叫ぶパフォーマンスをしていたが、もうそうしなくても大丈夫なようになったのだ。まだかつてのように激しいモッシュが起きたりはしないけれど、ステージ上の光景はもう完全にコロナ禍の前に戻っている。
いや、戻ってるんじゃない。取り戻しながらも進んでいる、バンドはそんな期間を経てさらに進化していると感じるのは、石毛の歌唱にこれまで以上の艶かしさを感じるようになった「Hasta la Vista」。石毛のハイトーンボイスは今でも全く変わることはないが、その表現力は様々な経験を経て間違いなくさらに向上しているし、ノブもまた艶かしいダンスをしながら、涼平に接近するとわしゃわしゃと髪を掴む。そんなノブの体の動きも進化していると言えるのかもしれない。
そうして髪を掴まれた涼平もまたフレンズなどtelephones以外の場所で培ってきた経験がさらに腰に来るグルーヴを生み出すベーシストとしての進化を感じさせるのは、実に久しぶりにライブで聴いた感じがする「Kung Fu Village」。タイトル通りにパンチを繰り出すような石毛のボーカルとノブのコーラスも実に力強いのであるが、この曲が演奏されたのは「Come on!!!」収録の最新カンフーナンバー「Whoa cha」へと繋がるためであったということがよくわかるし、パンチを繰り出す力強さから華麗に舞うような軽やかさへと曲の持つカンフー要素が変化しているのもまたバンドの経験によるものだろう。一発の強さよりも手数の多さが増したような印象に感じるのはノブがタイトルフレーズを口にしながら繰り出すパンチの回数が圧倒的に増えたからである。
そのノブが「Whoa cha」の締めでステージ前に出てきてマイクを持ってポーズを決める。マイクを客席に向けてポーズを取っているのは観客の声を求めているからということで、客席からはノブのパフォーマンスに向けられたものかはわからないけれど歓声が上がると、
「この前までバックドロップシンデレラと対バンしてたんだけど、打ち上げで「ウチのライブはみんなが声を出せなきゃクソなんだよ…」みたいに言ってしまったりもしたけど、本当に声があるとやっぱり全然違うし、初めて声出しライブをやってるような感覚になる。それくらい久しぶり」
と、やはりメンバーの最近のライブ以上に楽しさが溢れまくっている表情やテンションの高さは観客のリアクションをダイレクトに感じられているからだということがよくわかる。自分自身、メンバーがそう言ってくれることによって我々の声がバンドにどれだけの力をもたらしていたのかということに改めて気付く。というかそれはコロナ禍を経験しなかったら当たり前過ぎて気付けなかったことだったかもしれない。
石毛はそれとともに
「みんなを家で踊らせるために「Come on!!!」を作ったけれど…やっぱりライブハウス向きだな!」
と言って、何故かノブとともに「ハッ!ハッ!」と声を上げながら両腕を上下させるというアクションをしてからの「No Brainer」はまさに音源で聴いていたイメージ以上にライブハウスで踊るための曲として響く。それはやはりtelephonesというバンドはライブハウスという場所でこそ最大限に輝くということを示しているかのよう。前作の復帰アルバム「NEW!」は制作自体はコロナ禍になる前だったので、リリースが延期になったりはしたが曲作りやレコーディングにはコロナの影響はない。それだけに「Come on!!!」は初めてその影響を受けてから作ったこともあって、石毛はインタビューでも「みんなが家の中で踊れるように」という思いを持って作ったことを語っていたが、どうしたってtelephonesのライブハウス感、ロックさはこうしてライブで鳴らすと滲み出てしまうものなのだろう。ある意味ではそれを証明したアルバムであるとも言える。
かと思えば石毛のギターのカッティングを聴くだけで「これは!」と思う初期曲「panic disorder」と、やはりtelephonesは新作のリリースツアーでも新作の曲だけをやるというわけではなく、我々の予想を心地よく裏切ってくれるし、そんな曲が「chick chick chick」という一回聴いたことがあればまず耳から離れないフレーズをみんなで歌うものであるというのが、まるで声出しOKになることを想定して組んだかのようなセトリだ。その辺りがどうなのかはメンバーがいずれ明かしてくれるのかもしれないが、やはりこの曲を声を出せる状態で聴くことができるのは嬉しいことこの上ないし、涼平のベースはやはり独特のうねりをさらに増していることによってより我々を踊らせてくれる。
この日ここまでは特に何も触れていなかったサッカー日本代表のユニフォームについて石毛が
「telephonesはサッカー日本代表を応援します!」
と言って演奏されたのは日本代表の勝利を祝うための曲と言っていい「Just One Victory」。この曲もまた今になってこうして聴けるなんて思っていなかっただけに、このタイミングに感謝である。個人的にはサッカー曲ならウイニングイレブンに起用された「Wooo Hoooo」も聞きたかったところであるが、この曲が演奏されたことによってサビで観客が腕を高く挙げる光景はこの日の我々の大勝利を確定づけていたと言っていいだろうし、日本代表もそうなって欲しいところである。この辺りはかつては浦和レッズともコラボした、サッカー好きとかいうレベルを超越したバンドであるtelephonesならではだ。
「もっと幸せになろうぜー!」
と言って演奏されたのは、昨年末の読売ランドでのSUPER DISCO Hits!!!で演奏された幸せな光景が今でも忘れられない「Yellow Panda」。もちろんステージには黄色い照明が降り注ぐのであるが、狂乱のディスコパンクではないサウンドはアルバムの方向性を決定づけたものであると感じるとともに、そうしてはしゃいだり踊りまくったりするための曲もいいけれど、ただただシンプルに良い曲だよなと思わせてくれる。そこにこそtelephonesの音楽の真髄があると自分は思っているし、ここにいた人はそれをわかっているからこそ、サビでたくさんの腕が左右に揺れていたのだろう。
しかしそんな幸せな空気を切り裂くように
涼平「せめて誰か1人くらいは今の日本代表の選手のユニフォーム着よう?」
というツッコミが入る。確かに
石毛=中田英寿
ノブ=本田圭佑
涼平=遠藤保仁
誠治=松永成立
というメンバーの世代が現れるチョイスであり、1人だけ明らかによっぽどのファンじゃないと知らない誠治の松永は1993年10月のドーハの悲劇の試合のゴールキーパーというマニアックなチョイス。しかもわざわざメルカリでユニフォームを買ったという、そこに力を注ぐんかいと思わずにはいられないこだわりっぷりである。
すると客席からは「ありがとうー!」という歓声のみならず、
「石毛愛してる!」
という声も上がる。こうして観客と会話したりするのも本当に久しぶりだというし、我々もそうした光景を見るのは本当にコロナ禍になる前以来だ。ただ、石毛は
「コロナになる前にもそんなこと言われたことないけど(笑)」
と笑わせてくれるあたりはさすがである。
そんなtelephonesの今のテーマ的な曲と言えるのが「Get Stupid」であり、まさにバカになって踊りまくる曲であるのだが、ノブによるキャッチーなコーラスも含めて早くも完全に今のtelephonesのキラーチューンになっていることがよくわかる。涼平と誠治のシャープなリズムによる性急なダンスロックでありながらもDISCOをタイトルに冠さない新しいアンセムである。
その今のtelephonesをさらにふさわしいタイトルで言い表したのが「High Energy, Low lntelligence」であり、家で踊るには近所から苦情が来そうなほどの明らかに激しすぎるダンスロック。石毛とノブのタイトルフレーズの掛け合い的な歌唱もツアー初日とは思えないくらいに息ぴったりで、ツアーが始まる前に入念にリハをしてきたことがわかるのだが、その完成度の高さが観客の熱気によってさらにライブならではの衝動として燃え上がっている。もうなんならツアーファイナルかと思うくらいの空気にすらなってきている。
そして石毛は
「3年ぶりくらいにやります!…We are!」
と観客を煽ると、観客が大きな声で
「DISCO!!!」
と返す。3年前までと違ってすぐに曲に入らなかったのは、メンバーがその声を噛み締めるようにしていて、観客もこの瞬間に対して拍手を送っていたから。その拍手がアンコールを求めるような手拍子に変化すると、メンバーも予想だにしないような形でもう一回コールをすることになり、もう一度
「We are!」「DISCO!!!」
のコールが先ほどよりも大きな声で行われる。そんな、コロナ禍前までは当たり前過ぎた光景ややり取り、それは自分が大好きなtelephonesのライブのものが本当に久しぶりに戻ってきたのだ。自分で「DISCO!」と口にしながらも、会場内に響いた声を聞いて感極まってしまっていた。こうやってまたみんなで大きな声を出せるライブに戻ってきたのが、ずっとこのバンドの音楽とライブの楽しさを信じてライブに行き続けてきたtelephonesで本当に良かったと思ったし、やっぱりこれがtelephonesのライブなんだよなと思った。
そのコールから突入していくのはもちろんこの日はまだ演奏されていなかったDISCO曲である「I Hate DISCOOOOOOO!!!」で、モッシュにはならないレベルで観客も暴れまくる。もちろんサビでは「DISCO! DISCO! DISCO! DISCO!」の大合唱だ。ノブも涼平も思いっきり声を出しているけれど、それでも客席からもその声が聞こえているのがしっかりとわかる。あの最強だったtelephonesのDISCOの力が戻ってきたのだ。「Love&DISCO」などに比べたら全然感動するような曲じゃないけれど、それでもこの日だけはこの曲に感動せざるを得なかった。
そして
「もっとDISCOしまくろうぜー!」
と言って突入した、活動休止後初のDISCO曲にして最新のDISCO曲である「Do the DISCO」では客席から「オイ!オイ!」という力強い歓声が上がる。それを聞いたのもコロナ禍になる前以来なだけに、もうその声だけで感動してしまうくらいであるし、そうしたコールが起こるということは今目の前で鳴らされている音に観客が熱狂しているということだ。そしてその観客の熱気に後押しされるように石毛は思いっきり声を張り上げながら、頭をブンブン振りまくってギターを弾く。
そのメンバーがさらに熱くなっていく感じ。観客がバンドの鳴らしている音から力をもらって熱気を発し、その観客の熱さがバンドにさらに力を与えていく…そんなバンドと観客の間の信頼関係による幸福なサイクル。それがあるからこそtelephonesのライブはこんなにも最高でこんなにも楽しいんだ。その感覚を担っていたのが我々の声だったということがようやくわかった。まだツアーのこれから先の公演が声出し可能かは場所や状況によって変わっていくらしいが、それでもこれは本当に大きな一歩だ。telephonesにとってだけじゃなくて、同じように観客の歓声を自分たちのパワーにしてきたバンドにとって。ただ勝手に自分たちがそうやりたいからそうするなんてのはその場だけは前に進んだようでいて実はむしろ後退させるものだ。そうじゃなくて、自治体や社会とちゃんと話をして足並みを揃えた上でこうして声出しをすることができている。ライブハウスで生活し(実際にライブハウスの店員同士から始まったバンドだ)、ライブハウスを愛してきたバンドだからこそ、ライブハウスが悪者にならないようにそうした調整をした上でこうしたライブをやる。
「ライブハウスは最高だー!」
と曲の最後に石毛は叫んだが、それはライブハウスがこうした瞬間を見ることができる場所だからだ。telephonesのライブはいつだってそれを感じさせてくれてきた。それは今でもそうだ。
そんなライブハウスへの愛を込めた最新の曲がアルバムの最後に収録され、このライブでも最後に演奏された「Feel bad」だ。
「I feel bad」
というフレーズこそがこのコロナ禍の中で作ったからこそ出てきた歌詞だと思っているが、やっぱりこうしてライブで演奏すればそれが「I feel fine」になる。決して派手な曲ではないし、これまでのtelephonesのアルバムの最後のような壮大に締めようとするような曲でもない。それはこのアルバムを作っている時の、今なお続く状況のリアルを歌った曲だからだ。しかしtelephonesはそれをポジティブに転換することができる。軽やかに飛び跳ねながらベースを弾く涼平はユニフォームこそ遠藤だが、むしろプレイヤーとしては中田英寿のような司令塔にすら見えた。この楽しさを音と姿で最も示してくれていたのはきっと涼平だったからだ。
アンコールではメンバーが全員ツアーTシャツ(涼平だけパーカー)に着替えて登場すると、改めてこの声出しライブをやったことの感慨を口にしながら、
「ライブハウスから離れちゃった人もいるかもしれないけど、ここにいる人がそういう人たちに「ライブハウスは今も最高だよ」って伝えて欲しい」
と、やはりこうしたライブを作ることができるライブハウスの素晴らしさを口にする。しかしノブは
「なんか演奏中に上からずっとニンニクの匂いがしてきた!これはペペロンチーノかな?みたいに思ったらお腹すいちゃって!」
とこのタイミングで話すのだが、かつてThe Mirrazがコロナ禍の前にここでワンマンをやった時も上手側からニンニクの匂いがすると言っていたことを思い出した。telephonesがここでライブをやるのは久しぶりなだけに、上の階の店もかつてライブをやっていた頃とは変わっているからこその、実にノブらしい感想である。
そしてファンがみんな気になっていた、今年の年末のSUPER DISCO Hits!!!の詳細がここで解禁される。今までは「普段ライブをやらない場所」というコンセプトがあったけれど、今年は会場こそ慣れ親しんだZepp DiverCityであるが、日にちが12月31日。つまりはカウントダウンライブであり、
9mm Parabellum Bullet
THE BAWDIES
夜の本気ダンス
四星球
というデビュー時から、さらには近年になってから、どちらにしてもtelephonesと実に距離が近いバンドたちを集めての対バンライブであることが発表される。
「ゲスト側として対バンに出ることはあったけど、自分たちが対バンライブをやるのは久しぶり」
ということだが、すでにCOUNTDOWN JAPANの4日通し券を確保している自分としては「まさかこの日になるとは…」とめでたいニュースであるにもかかわらず放心しそうになってしまっていた。
そんなニュースに湧き上がる中で演奏されたのは会場限定販売シングルとしてリリースされ、時系列的に「Come on!!!」の始まりを告げる曲であった「Caribbean」。誠治のラジオDJ風なラップで幕を開けると、間奏でのその誠治のラップ部分ではメンバーだけではなくて観客もリズムに合わせて一斉に体を左右に揺らす。リリース時はかなりの変化球というか、telephonesにとっては新しい一面を見せた曲というイメージが強かったが、今やすっかりライブには欠かせないtelephonesの曲として定着している。それはやはりコロナ禍であってもこの曲をライブハウスで演奏し続けてきてきたからだ。そうして曲とバンドのグルーヴが練り上げられた状態で最高に楽しめるこの日のライブを迎えることができたのが、この曲をさらなるアンセムたらしめていたのだ。
そして
「I am discoを叫ぼうぜー!」
と石毛が口にして演奏されたのはもちろん「urban disco」で、イントロで手拍子が起こる中で「ワンツー!」も「ハイッ!」もメンバーと一緒に叫ぶことができる。だからこそその後に低い天井に頭がぶつかるくらいに思いっきり飛び上がることができる。サビではもちろん
「I am disco!」
の大合唱が起きるのであるが、間奏ではかつてはよくやっていたが観客が声が出せない近年はほとんどやっていなかった、リズムだけが鳴り響いてコール&レスポンスをするアレンジへ。我々の叫ぶ
「I am disco」
が本当にしっかり聞こえる。それを聞いたメンバーの笑顔もやっぱり最近見てきたものとは違う。これのためにライブをやってるんだ、とすら思えるようなとびきりの笑顔だ。だからこそ石毛は最後のサビ前に
「今日は来てくれて本当にありがとうー!」
と叫んだ。後は、上半身裸になったノブが客席に突入できるようになったらもっと最高なんだよな、とも思ったけれど、
「これから全国回ってきます!また全国のどこかのライブハウスと大晦日のZepp DiverCityで会おう!」
と言ってメンバーが去って行った姿を見て、まだまだメンバーと一緒に歌いたい曲がたくさんあるけれど、きっとまたこの日のように一緒に歌える、叫べる日が来るという希望しかなかった。
VIVA LA ROCKでの1日限定復活。本格的に活動再開を宣言した時のツアー初日の佐賀のライブハウス。telephonesのライブで感動したことはたくさんある。もちろん活動休止する前にだってそうしたライブはたくさんあった。でもそんなどのライブよりもこの日のライブは「戻ってきた」という感覚が強くあった。それはこの日のライブがどれだけ素晴らしくて、一生忘れられないものかを示すとともに、telephonesのライブから感じられる衝動は我々が声に出して返すものなんだと思ったからだ。
それはただ自分が歌いたいからというだけじゃない。telephones peopleというtelephonesを愛する人たちが周りにいて、その人たちと一緒になって叫ぶ。その声が、普段生活している時には周りに全くいないけれど、ライブに来れば自分と同じようにtelephonesを愛している人たちがたくさんいて、その人たちが同じように感じてくれているだろうなということがわかるからだ。それはそのまま自分が生きているということを最大限に感じさせてくれるものになる。telephonesはそんなバンドなのである。その人間の生命力をこの上ないくらいに感じさせてくれるtelephonesのライブがついに戻ってきた。
「I will change to be back again to you」
と歌ってきた通りに。
1.Adventure Time
2.A A U U O O O
3.HABANERO
4.Crap Shit
5.Baby, Baby, Baby
6.Hasta la Vista
7.Kang Fu Village
8.Whoa cha
9.No Brainer
10.panic disorder
11.Just One Victory
12.Yellow Panda
13.Get Stupid
14.High Energy, Low lntelligence
15.I Hate DISCOOOOOOO!!!
16.Do the DISCO
17.Feel bad
encore
18.Caribbean
19.urban disco
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