9mm Parabellum Bullet 「Wake A Tightrope Tour 2022」 @Zepp Haneda 10/2
- 2022/10/03
- 20:05
コロナ禍でも新曲をリリースし、それと連動したライブも行ってきた、9mm Parabellum Bullet。それはFC会員限定での新曲お披露目的なライブもあり、今年ついに久しぶりのフルアルバム「Tightrope」リリースという形に結実した。
そのリリースツアーのセミファイナルとなるのがこの日の東京のZepp Hanedaワンマン。2週間前の福岡が台風の影響で中止になってしまっただけに、この日は急遽配信も行われることになった。その行動の速さもさすがである。
今回は動員制限なし、キャパ100%のスタンディング、かつ足元の立ち位置指定もないという形式であるが、こんなにもスタンディングで完全に満員(通路という概念すらない)になっているライブハウスを観たのはいつ以来だろうか。きっともうコロナになる前とかだから2020年の年明け以来くらいだろう。当日券も出てはいたが、これ以上一体どこに人が入れるというのかというくらいの埋まりっぷり。コロナ禍になる前はなかなかZeppクラスでは埋まりきっていないライブもあったが、こうして今でもたくさんの人が9mmの音楽を、ライブを求めているというそれだけでもう感動していた。それはまたこうしたライブハウスの景色が見れているというのも含めて。
客席にはアルバムタイトル通りの幾重ものロープが吊るされている中、そんな完全に満員の状況の中で開演時間の18時になると場内が暗転し、おなじみの「Digital Hardcore」ではない、どこか怖さを感じるような壮大なサウンドのSEが流れて、メンバーが左右両方からステージに登場。この日は武田将幸(HERE)をサポートに迎えた5人編成で、いきなりの9mmならではの轟音サウンドで始まったのはアルバムの1曲目である「Hourglass」。黒い衣装に身を包んだ菅原卓郎(ボーカル&ギター)の艶やかな歌声による
「いつまでも いつまでも 凍えているよ」
というフレーズが最後には
「いつまでも いつまでも 覚えているよ」
というものに変化する。それはこのコロナ禍が始まった時の心境が、先が見えてきたものに変化したかのようにも聴こえるが、めちゃくちゃ髪型がさっぱりした中村和彦(ベース)は早くも低い位置のマイクでスクリームし、かみじょうちひろ(ドラム)の手数と強さはやはり最初から凄まじいものがあるというか、他のドラマーと全然違うなと思わせるあたりはさすが元祖超人ドラマーである。
滝善充(ベース)は登場時からキャップを被っていたのだが、それが早くも吹っ飛ぶのは久しぶりの9mmの夏ソングとしてロッキンでも披露されていた「All We Need Is Summer Day」であるが、図らずもこの日は完全に夏模様の暑さとなり、ライブハウスの中もそれに伴って実に暑く、熱くなっているのだが、それは新作アルバムの曲の連発で始まっても腕を挙げたり手拍子をしたりする満員の観客のリアクションによるところも大きいだろう。また来年からもこの曲をいろんな夏フェスの会場で聴きたいと思うし、それは決まっていつも真夏日と思うくらいの気候であって欲しいとも思う。
ここまではアルバムの曲が続いてきたが、トリプルギターがハモるイントロによって始まるのは「Supernova」という選曲。客席からも当然手拍子や腕を振り上げる仕草が起きる中、キャップを被り直している(吹っ飛ぶたびに被り直していた)滝は曲中に手拍子をし始めたりと、自身の調子が実に良いことを感じさせる。何よりも轟音極まりないサビでの暴れっぷりによって再びキャップが吹っ飛ぶというあたりが。これぞ9mmのライブというステージの激しさである。
さらにはイントロから激しくも軽快なリズムによって観客を踊らせてくれる「反逆のマーチ」と続き、アルバムのツアーではありながらも予期せぬ曲が続くあたりはさすが9mmだなと思っていると卓郎もこの超満員のライブハウスの客席を「圧巻だ」と口にしながら、
「皆さん「TIGHTROPE」は聴いてくれてますか?「TIGHTROPE」は10曲35分しかないんで、今回のツアーではアルバムの曲以外の方が多いんじゃないかっていう感じすらある(笑)」
と説明していたが、それはいろんな曲が聴けて嬉しい限りということである。
しかしそのリリースツアーはやはり福岡が中止になってしまったことに触れ、
「この前の仙台で福岡の分まで俺たちぶっ放してきたつもりなんだが、今日は配信があるから福岡の人も見てくれてると思うから、今だけは東京だけど福岡のつもりでやってもいいか?」
と問いかけると、画面に向かって思いっきり
「行けるか福岡ー!」
と叫ぶ。それはこれまでにも東日本大震災を始めとして様々な災害を経験し、それを支援してきた9mmだからこその優しさを確かに感じさせてくれるものであった。先日の台風ではいろんなライブが中止や延期になってしまったりしたし、それぞれがそれぞれのやり方でそのなくなってしまったライブと向き合ってきたと思うけれど、こうして2週間経過しても今もそこを気にかけて、こうして配信という形で対応してくれるのも9mmらしいなと思う。
そんなパッと見ではとっつきにくい見た目でありながらも心優しいこのバンドは今年でメジャーデビュー15周年というもうベテランであるのだが、そのメジャーデビュー時のフルアルバムである「Termination」の1曲目に収録されていた「Psychopolis」がここで演奏される。そのイントロのかみじょうのドラムの連打とそこに重なる轟音の衝撃は今聴いても「かっけぇ…」と唸らされてしまうが、
「かけがえないものが何か
僕にはわからないんだ」
というサビのリズムで観客だけではなくメンバーも飛び跳ねながら演奏しているが、今この時代だからこそなのか、あるいはリリース当時よりも様々な人生経験を自分が重ねてきたからなのか、
「真実よりも信じる心が欲しいだけ」
というフレーズと、その直後に訪れる轟音の演奏がより刺さるようになったと今聴くと実感する。
そのアウトロでの和彦のベースがそのままイントロに変化して繋がるという、違うアルバム、違う時期の曲同士をこうして繋ぐことができるライブアレンジもさすがなのは「悪いクスリ」であり、照明がまさに悪いクスリの成分を彷彿とさせるような形状を描いてステージ背面を照らし出す。それによってその背面には序盤は薄暗くてわからなかったが、「TIGHTROPE」の巨大な幕がかけられているのがわかる。
それは「白夜の日々」でのタイトル通りの真っ白な照明によってよりハッキリとわかるのであるが、この曲で滝、武田とともにヒロイックなギターを鳴らしていた卓郎は
「すべて忘れても君に会いに行くよ」
のフレーズを
「君に会いに来たぜー!」
と変えて叫ぶ。もう満員の観客全員で大歓声をあげたいくらいというか、コロナ禍前だったら間違いなく上がっていたであろう。卓郎も本当にこうして各地にライブをしてそこに住んでいる人に会いに行く、そこで自分たちの曲を聴いてもらうということを楽しみにして生きてきたということがその叫びからよくわかる。
そのヒロイックな「白夜の日々」から続くのが轟音の極みとも言うべき、メタリックな間奏での演奏が爆発するかのような「インフェルノ」。この曲の技術と体力と気力の全てを詰め込むような演奏は本当に9mmにしかできないものだと思うし、それはまさに「命を燃やし尽くせ」という歌い出しのフレーズ通りである。ショートチューンと言ってもいい尺なのも納得せざるを得ないというか、これを4分もやれなんてとても言えない。
すると卓郎はアコギに持ち替えながら、この日がまさに「All We Need Is Summer Day」と言えるような夏の気候になっていることに触れ、
「夏がずっと続きますように」
と言って「夏が続くから」が演奏されるのであるが、「All We Need Is Summer Day」がひたすらアッパーにアガる真夏の曲であるのに対して、この曲はこの夏が過ぎ去っていく時期に染み入るような曲。あんまり夏のイメージが強いバンドではないが、それは夏のアンセム的な曲ばかりの夏ソングだけではなくてこうして様々なタイプの夏曲を作ってきたからかもしれない。滝の曲中の手拍子に合わせて観客が手拍子をするのもどこか夏を見送る儀式であるかのようだ。
卓郎がアコギからエレキに戻すと、「TIGHTROPE」収録のインスト曲「Spirit Explosion」が演奏されるのであるが、卓郎はファルセット気味のコーラスを被せながらもほとんどギターに専念することによって、トリプルギター(しかもそのうち2人が滝と武田というスーパーギタリスト)という編成であっても卓郎のギターもやはりめちゃくちゃ上手いなと思う。というかそうしてギターが上手すぎるメンバーがいるからこうした曲が作れるということがインスト曲であることによってよくわかる。
そんな9mmだからこその爆裂インスト曲からそのまま雪崩れ込むのは地獄の三三七拍子こと「Cold Edge」であり、滝はやはりキャップを吹っ飛ばしてステージ前に出てきて間奏でギターを弾きまくるのであるが、この曲の作曲者である和彦も自身の低いマイクに向かって
「福岡ー!」
とデスボイスを思いっきり響かせる。そこには福岡のライブに来れなかった人がこのライブを今リアルタイムで観てくれていて、その人たちにも向けて演奏しているという意識が確かに感じられる。パッと見では1番取っ付きにくそうな見た目をしているけれど、9mmのライブに今も来ている人たちはこの和彦の優しさをきっとわかっているはずだ。
そんな轟音パートが一気に歌謡性を強めるのはタイトルからもそれが伝わってくる「淡雪」。
「別れの季節」
というフレーズがあるだけにどちらかというと春のイメージが強い曲であるが、この流れの中で演奏されても違和感ないくらいの轟音サウンドでありながらもメロディは実に歌謡的というのもかつて「闇鍋メタル」的に形容されることも多かった9mmならではであるが、そうしたこのバンドの持つ「和」の要素は今そうした要素を持った曲を生み出しているボカロクリエイターたちにも影響を与えているんじゃないかと個人的に思っている。
そんな「淡雪」も収録されている「TIGHTROPE」は収録曲数、時間こそ短いが進行はかなりギリギリだったようで、特にタイトル曲は
「滝がレコーディングしてる横で歌詞を書いていた」
というくらいの土壇場の状況だったようで、それすらも意図せずとも「TIGHTROPE」な状況だったと語る。ある意味ではそうした状況が生み出したアルバムとも言えるのかもしれない。
そんな「TIGHTROPE」収録の、「インフェルノ」あたりに連なるような轟音ショートチューン「Tear」ではメンバーがステージ真ん中を向き、その方向にいるかみじょうが曲を司るように一発の音が実に強く重いビートを鳴らす。
そのままアウトロと繋がるようにして和彦のベースによって始まる、卓郎がエピソードを口にしていた「タイトロープ」はその和彦のベースのイントロの時は青かった照明が曲が進むと赤に切り替わる。それは文字通り綱渡りのギリギリな状況を超えて見える景色が変わったということを視覚的に示しているかのようだが、こんな内容の歌詞をギリギリのタイミングで書いたというのはその時の卓郎の精神状態がそのまま歌詞になったんじゃないかとも思う。
そんな綱渡りを終えると曲間のわずかな時間に和彦はウッドベースに持ち替えている。もちろんその形で演奏されるのはオシャレなイントロのアレンジから轟音へと至る「キャンドルの灯を」なのだが、卓郎の歌唱もイントロのギターのハモりがクリーントーンになったバンドの演奏もこのツアーを経てまた確かに進化していることが実感できる。自分はそこまでライブを見ている時に激しくアクションを取るタイプではないと思っているけれど、9mmのライブだけは頭が激しく動いてしまう。それはその鳴らしている音に体が勝手に反応してそうなってしまうからであるが、その感覚は今にして最も強くなっているんじゃないかと思うし、その音の強さがあってこそ今でもZeppクラスを制限なしでも満員にできているんじゃないかとも思う。
すると卓郎がアコギに持ち替えたことによって、ここで「夏が続くから」のような聴かせるタイプの曲が来るのかと思いきや、滝が轟音ギターを鳴らし始めたことによってそれが「The World」であることがわかるのだが、この曲で卓郎がアコギを弾くようになったのはいつからだっただろうか。
「呼吸を止めて確かめてみる
生きていく苦しみをわずかでも
目を凝らして焼き付けてみる
明日も僕らが生きていく世界を」
というフレーズはこのコロナの状況になってから聞こえ方、感じ方が1番変わった9mmの曲のものかもしれない。でも今自分がこうして見ているこの世界の景色には確かに希望を感じることができる。そう思える場所を9mmが作ってくれたのだ。
そんな9mmはその「The World」も収録されているメジャー1stアルバムから今年で15周年であることを卓郎が発表するのだが、来年が結成19周年であることから、とかく9にまつわる年を大々的に祝ってきただけに、15周年というのは忘れていたらしい。それだけに19周年の来年には面白いことをたくさん考えているらしいが、
「本当にこれまで色々なことがあったよな」
という卓郎の口ぶりからは、いろんなキツいことを乗り越えてきたという実感を感じさせる。それはここにいた人たちならきっとどんなことがあったのかはすぐに脳内で浮かび上がってきていたはずだ。
そんな話を経てから演奏されたのは、今の9mmによる「Black Market Blues」とも言える爆裂ダンスチューン「One More Time」。そのDaft Punkなタイトルからしてこうした曲になるのは決まっていたかのようであるが、滝のガンガンステージ前に出てキャップを吹き飛ばしながらギターを弾く姿とそれを見て飛び跳ねまくる観客の姿からはこの曲がすでに今の9mmのライブを担う曲になっていることを感じさせる。それによってライブハウスの中にいるとめちゃくちゃ暑い。確かにこんなに前後左右全てで密着しそうなほどに人の圧を感じるライブなんて本当に久しぶりなだけに、そのライブハウスの暑さと熱さも本当に久しぶりな感覚で、それをまた9mmのライブで感じられるのが本当に嬉しかった。
そんな現在の爆裂ダンスチューンの後にはこれまでの9mmを担ってきた爆裂ダンスチューンの「Black Market Blues」が演奏されるという怒涛の追い込みっぷり。卓郎はもちろん
「Zepp Hanedaにたどり着いたぜー!」
と叫ぶのであるが、もうもみくちゃになって踊りたいくらいの熱気が会場には溢れている。でもそうはならないというのが9mmファンの方々の自制心の強さだ。そうしてモッシュのようになってしまったり、合唱してしまったらバンドに迷惑がかかってしまうのをわかっている。でも卓郎も言っていたように、そうした楽しみ方ができるようになるまでもうちょっとのところまで来ているとこの光景が思わせてくれる。
そしてギター3人が15周年と卓郎が口にしていたアルバムのタイトル曲である「Termination」のイントロを鳴らす。サビでは卓郎が
「歌ってくれー!」
とかつてと全く変わることなく叫ぶ。それでも聴こえてくるのは滝のコーラスだけ。その滝は絶好調さを見せつけるようにバンザイギター(両腕を挙げてバンザイしているので音は鳴らしていないはずなのに鳴っているように聞こえる芸当)を披露するのであるが、こうしてフルキャパでの客席にしたのも、声を出せなくても「歌ってくれ!」と言うのも、9mmはこうして今の状況でライブに来る我々のことを心から信頼してくれているのだと思った。
激しいサウンドのバンドであるがゆえにかつては客席の激しさというかやりたい放題さにメンバーが怒りを露わにすることもあったけれど、今はこの状況やルールがある中でそうした自分勝手なことをする人がいないはずだと信じてくれている。だからこのキャパでの開催を決めたのだと思うし、かつてそうして荒れることもあったZeppであっても、かつて数え切れないくらいにライブをやってきたZepp Tokyoはもうなくなってしまった。
でも羽田であっても東京のZeppで「Termination」の
「観覧車越しに見上げた太陽」
というフレーズを聞くことによって、Zepp Tokyoの隣に観覧車があったあの景色を、そこで毎回この曲が演奏されていた9mmのライブの光景を思い出すことができる。それは9mmが我々を信じてこの形でこのツアーを開催してくれたからこそ、蘇ってくるものが確かにあるのだ。
そしてこの羽田にできた新しいZeppがこれから何度となく9mmのライブを見る場所になるということを感じさせた昨年6月でのこの場所でのライブでCDが配布された新曲「泡沫」が再びこの場所で演奏される。真っ青な照明は歌詞の通りにまるで我々が海の底に沈んでいるかのようであるが、それはそのまま9mmというバンドがもたらす沼に我々が沈んでいるかのようだ。聴かせるようなテンポの曲とは思えないくらいのギターの轟音っぷりは去年のこの場所でのこの曲の鮮烈さを思い出させながらも、間違いなくその時を上回る完成度で鳴らされていた。
するとステージにはスモークがかなりの量立ち込めてくる。それはもちろん「TIGHTROPE」の最後を担う曲である「煙の街」のタイトルに合わせた演出だが、その煙がまさにケムに巻くようなこの曲が持つ幻想感をより強く感じさせてくれる。卓郎のボーカルもどこかそれを強調するかのようだったのだが、そんな煙に包まれてメンバーの姿が見えなくなっていくと、曲が終わって煙が晴れた瞬間にはメンバーはステージから消えていた。間違いなく今回のツアーだからこその演出であり、これまでの残響が残る中でメンバーが観客に丁寧に手を振る姿とは全く違う種類の強い余韻が胸に確かに残っていた。
そうして客席は明るくなり、BGMも流れただけにこれで終わりでもライブの流れとしては良かったかもしれない。でもやはりメンバーはアンコールでステージに現れると、なんと滝は缶ビールを飲んでいる。それくらいにやり切ったという清々しい気持ちがあるのだろうし、卓郎が
「東京に乾杯!」
と言ったように、それはこの日の会心のライブを祝すためのもののようであった。
そんな中で演奏されたアンコールは「キャリーオン」という意外な選曲だったのだが、卓郎はサビで
「心で歌ってくれ!」
と言うと、かみじょうの力強すぎるドラムに負けないくらいの声量で聴こえてきたのは滝のコーラスで、最後にはもうそれコーラスっていうレベルじゃないだろってくらいに思いっきり叫んでいた。そのくらいに振り切ってライブをしている滝の姿を見ることが実に嬉しかったのは、ライブの光景が戻ってきているのと同時に滝のギタリストとしての凄まじさも戻ってきたように感じられたからだ。
しかしそれだけでは終わらず、おなじみのセッション的なイントロの演奏で卓郎はマラカスを振りまくる。それはもちろん「talking machine」が演奏されるということであるが、卓郎の動きに合わせて観客は飛び上がりながらも、曲始まりのカウント部分で聞こえてきたのは卓郎の声だけだった。最後までこの満員の観客は今のルールを守ってライブを楽しんでいた。こんなに踊りまくりたい音が目の前で鳴らされているのに体をぶつけ合ったりすることもなく。
そんな観客の思いに応えるように、すぐにステージを去ったかと思ったら落としたキャップを取りに戻ってきた滝も珍しく笑顔で一礼し、かみじょうはスティックを放り投げると目元でピースを作り、卓郎と和彦はやはり丁寧に拍手とお辞儀をしてからステージを去っていった。あのコロナ禍になる前の最強で最高の、ほかにどんなことがあってもこのライブが見れたんだから今日は勝ったとしか思えないような9mmのライブが今も変わらずに自分たちの前で繰り広げられていた。
卓郎がMCで触れていた「Discommunication」も演奏されていないし、「Punishment」や「太陽が欲しいだけ」もない。というか、やらなかったことにライブが終わって振り返ってみてから気が付いた。それくらいに、それらの曲がなくても最強かつ最高の9mmのライブだった。
その根底にあったのはもちろん10曲35分という超スピードのアルバム「TIGHTROPE」の存在だが、それは9mmを飛躍させたかつての大名盤アルバム「Revolutionary」を彷彿とさせるようなスピードだ。それは9mmはあれから12年経って、フォームは少し変わってもあの頃と同じスピードで走り続けているということを感じさせてくれるものであった。その9mmが走っているのは綱の上かもしれないけれど、その綱は決して切れようがないくらいに太く強い。それは我々と9mmの絆のように。それを確かめさせてくれた、「Walk A Tightrope」ツアーだった。
1.Hourglass
2.All We Need Is Summer Day
3.Supernova
4.反逆のマーチ
5.Psychopolis
6.悪いクスリ
7.白夜の日々
8.インフェルノ
9.夏が続くから
10.Spirit Explosion
11.Cold Edge
12.淡雪
13.Tear
14.タイトロープ
15.キャンドルの灯を
16.The World
17.One More Time
18.Black Market Blues
19.Termination
20.泡沫
21.煙の街
encore
22.キャリーオン
23.talking machine
そのリリースツアーのセミファイナルとなるのがこの日の東京のZepp Hanedaワンマン。2週間前の福岡が台風の影響で中止になってしまっただけに、この日は急遽配信も行われることになった。その行動の速さもさすがである。
今回は動員制限なし、キャパ100%のスタンディング、かつ足元の立ち位置指定もないという形式であるが、こんなにもスタンディングで完全に満員(通路という概念すらない)になっているライブハウスを観たのはいつ以来だろうか。きっともうコロナになる前とかだから2020年の年明け以来くらいだろう。当日券も出てはいたが、これ以上一体どこに人が入れるというのかというくらいの埋まりっぷり。コロナ禍になる前はなかなかZeppクラスでは埋まりきっていないライブもあったが、こうして今でもたくさんの人が9mmの音楽を、ライブを求めているというそれだけでもう感動していた。それはまたこうしたライブハウスの景色が見れているというのも含めて。
客席にはアルバムタイトル通りの幾重ものロープが吊るされている中、そんな完全に満員の状況の中で開演時間の18時になると場内が暗転し、おなじみの「Digital Hardcore」ではない、どこか怖さを感じるような壮大なサウンドのSEが流れて、メンバーが左右両方からステージに登場。この日は武田将幸(HERE)をサポートに迎えた5人編成で、いきなりの9mmならではの轟音サウンドで始まったのはアルバムの1曲目である「Hourglass」。黒い衣装に身を包んだ菅原卓郎(ボーカル&ギター)の艶やかな歌声による
「いつまでも いつまでも 凍えているよ」
というフレーズが最後には
「いつまでも いつまでも 覚えているよ」
というものに変化する。それはこのコロナ禍が始まった時の心境が、先が見えてきたものに変化したかのようにも聴こえるが、めちゃくちゃ髪型がさっぱりした中村和彦(ベース)は早くも低い位置のマイクでスクリームし、かみじょうちひろ(ドラム)の手数と強さはやはり最初から凄まじいものがあるというか、他のドラマーと全然違うなと思わせるあたりはさすが元祖超人ドラマーである。
滝善充(ベース)は登場時からキャップを被っていたのだが、それが早くも吹っ飛ぶのは久しぶりの9mmの夏ソングとしてロッキンでも披露されていた「All We Need Is Summer Day」であるが、図らずもこの日は完全に夏模様の暑さとなり、ライブハウスの中もそれに伴って実に暑く、熱くなっているのだが、それは新作アルバムの曲の連発で始まっても腕を挙げたり手拍子をしたりする満員の観客のリアクションによるところも大きいだろう。また来年からもこの曲をいろんな夏フェスの会場で聴きたいと思うし、それは決まっていつも真夏日と思うくらいの気候であって欲しいとも思う。
ここまではアルバムの曲が続いてきたが、トリプルギターがハモるイントロによって始まるのは「Supernova」という選曲。客席からも当然手拍子や腕を振り上げる仕草が起きる中、キャップを被り直している(吹っ飛ぶたびに被り直していた)滝は曲中に手拍子をし始めたりと、自身の調子が実に良いことを感じさせる。何よりも轟音極まりないサビでの暴れっぷりによって再びキャップが吹っ飛ぶというあたりが。これぞ9mmのライブというステージの激しさである。
さらにはイントロから激しくも軽快なリズムによって観客を踊らせてくれる「反逆のマーチ」と続き、アルバムのツアーではありながらも予期せぬ曲が続くあたりはさすが9mmだなと思っていると卓郎もこの超満員のライブハウスの客席を「圧巻だ」と口にしながら、
「皆さん「TIGHTROPE」は聴いてくれてますか?「TIGHTROPE」は10曲35分しかないんで、今回のツアーではアルバムの曲以外の方が多いんじゃないかっていう感じすらある(笑)」
と説明していたが、それはいろんな曲が聴けて嬉しい限りということである。
しかしそのリリースツアーはやはり福岡が中止になってしまったことに触れ、
「この前の仙台で福岡の分まで俺たちぶっ放してきたつもりなんだが、今日は配信があるから福岡の人も見てくれてると思うから、今だけは東京だけど福岡のつもりでやってもいいか?」
と問いかけると、画面に向かって思いっきり
「行けるか福岡ー!」
と叫ぶ。それはこれまでにも東日本大震災を始めとして様々な災害を経験し、それを支援してきた9mmだからこその優しさを確かに感じさせてくれるものであった。先日の台風ではいろんなライブが中止や延期になってしまったりしたし、それぞれがそれぞれのやり方でそのなくなってしまったライブと向き合ってきたと思うけれど、こうして2週間経過しても今もそこを気にかけて、こうして配信という形で対応してくれるのも9mmらしいなと思う。
そんなパッと見ではとっつきにくい見た目でありながらも心優しいこのバンドは今年でメジャーデビュー15周年というもうベテランであるのだが、そのメジャーデビュー時のフルアルバムである「Termination」の1曲目に収録されていた「Psychopolis」がここで演奏される。そのイントロのかみじょうのドラムの連打とそこに重なる轟音の衝撃は今聴いても「かっけぇ…」と唸らされてしまうが、
「かけがえないものが何か
僕にはわからないんだ」
というサビのリズムで観客だけではなくメンバーも飛び跳ねながら演奏しているが、今この時代だからこそなのか、あるいはリリース当時よりも様々な人生経験を自分が重ねてきたからなのか、
「真実よりも信じる心が欲しいだけ」
というフレーズと、その直後に訪れる轟音の演奏がより刺さるようになったと今聴くと実感する。
そのアウトロでの和彦のベースがそのままイントロに変化して繋がるという、違うアルバム、違う時期の曲同士をこうして繋ぐことができるライブアレンジもさすがなのは「悪いクスリ」であり、照明がまさに悪いクスリの成分を彷彿とさせるような形状を描いてステージ背面を照らし出す。それによってその背面には序盤は薄暗くてわからなかったが、「TIGHTROPE」の巨大な幕がかけられているのがわかる。
それは「白夜の日々」でのタイトル通りの真っ白な照明によってよりハッキリとわかるのであるが、この曲で滝、武田とともにヒロイックなギターを鳴らしていた卓郎は
「すべて忘れても君に会いに行くよ」
のフレーズを
「君に会いに来たぜー!」
と変えて叫ぶ。もう満員の観客全員で大歓声をあげたいくらいというか、コロナ禍前だったら間違いなく上がっていたであろう。卓郎も本当にこうして各地にライブをしてそこに住んでいる人に会いに行く、そこで自分たちの曲を聴いてもらうということを楽しみにして生きてきたということがその叫びからよくわかる。
そのヒロイックな「白夜の日々」から続くのが轟音の極みとも言うべき、メタリックな間奏での演奏が爆発するかのような「インフェルノ」。この曲の技術と体力と気力の全てを詰め込むような演奏は本当に9mmにしかできないものだと思うし、それはまさに「命を燃やし尽くせ」という歌い出しのフレーズ通りである。ショートチューンと言ってもいい尺なのも納得せざるを得ないというか、これを4分もやれなんてとても言えない。
すると卓郎はアコギに持ち替えながら、この日がまさに「All We Need Is Summer Day」と言えるような夏の気候になっていることに触れ、
「夏がずっと続きますように」
と言って「夏が続くから」が演奏されるのであるが、「All We Need Is Summer Day」がひたすらアッパーにアガる真夏の曲であるのに対して、この曲はこの夏が過ぎ去っていく時期に染み入るような曲。あんまり夏のイメージが強いバンドではないが、それは夏のアンセム的な曲ばかりの夏ソングだけではなくてこうして様々なタイプの夏曲を作ってきたからかもしれない。滝の曲中の手拍子に合わせて観客が手拍子をするのもどこか夏を見送る儀式であるかのようだ。
卓郎がアコギからエレキに戻すと、「TIGHTROPE」収録のインスト曲「Spirit Explosion」が演奏されるのであるが、卓郎はファルセット気味のコーラスを被せながらもほとんどギターに専念することによって、トリプルギター(しかもそのうち2人が滝と武田というスーパーギタリスト)という編成であっても卓郎のギターもやはりめちゃくちゃ上手いなと思う。というかそうしてギターが上手すぎるメンバーがいるからこうした曲が作れるということがインスト曲であることによってよくわかる。
そんな9mmだからこその爆裂インスト曲からそのまま雪崩れ込むのは地獄の三三七拍子こと「Cold Edge」であり、滝はやはりキャップを吹っ飛ばしてステージ前に出てきて間奏でギターを弾きまくるのであるが、この曲の作曲者である和彦も自身の低いマイクに向かって
「福岡ー!」
とデスボイスを思いっきり響かせる。そこには福岡のライブに来れなかった人がこのライブを今リアルタイムで観てくれていて、その人たちにも向けて演奏しているという意識が確かに感じられる。パッと見では1番取っ付きにくそうな見た目をしているけれど、9mmのライブに今も来ている人たちはこの和彦の優しさをきっとわかっているはずだ。
そんな轟音パートが一気に歌謡性を強めるのはタイトルからもそれが伝わってくる「淡雪」。
「別れの季節」
というフレーズがあるだけにどちらかというと春のイメージが強い曲であるが、この流れの中で演奏されても違和感ないくらいの轟音サウンドでありながらもメロディは実に歌謡的というのもかつて「闇鍋メタル」的に形容されることも多かった9mmならではであるが、そうしたこのバンドの持つ「和」の要素は今そうした要素を持った曲を生み出しているボカロクリエイターたちにも影響を与えているんじゃないかと個人的に思っている。
そんな「淡雪」も収録されている「TIGHTROPE」は収録曲数、時間こそ短いが進行はかなりギリギリだったようで、特にタイトル曲は
「滝がレコーディングしてる横で歌詞を書いていた」
というくらいの土壇場の状況だったようで、それすらも意図せずとも「TIGHTROPE」な状況だったと語る。ある意味ではそうした状況が生み出したアルバムとも言えるのかもしれない。
そんな「TIGHTROPE」収録の、「インフェルノ」あたりに連なるような轟音ショートチューン「Tear」ではメンバーがステージ真ん中を向き、その方向にいるかみじょうが曲を司るように一発の音が実に強く重いビートを鳴らす。
そのままアウトロと繋がるようにして和彦のベースによって始まる、卓郎がエピソードを口にしていた「タイトロープ」はその和彦のベースのイントロの時は青かった照明が曲が進むと赤に切り替わる。それは文字通り綱渡りのギリギリな状況を超えて見える景色が変わったということを視覚的に示しているかのようだが、こんな内容の歌詞をギリギリのタイミングで書いたというのはその時の卓郎の精神状態がそのまま歌詞になったんじゃないかとも思う。
そんな綱渡りを終えると曲間のわずかな時間に和彦はウッドベースに持ち替えている。もちろんその形で演奏されるのはオシャレなイントロのアレンジから轟音へと至る「キャンドルの灯を」なのだが、卓郎の歌唱もイントロのギターのハモりがクリーントーンになったバンドの演奏もこのツアーを経てまた確かに進化していることが実感できる。自分はそこまでライブを見ている時に激しくアクションを取るタイプではないと思っているけれど、9mmのライブだけは頭が激しく動いてしまう。それはその鳴らしている音に体が勝手に反応してそうなってしまうからであるが、その感覚は今にして最も強くなっているんじゃないかと思うし、その音の強さがあってこそ今でもZeppクラスを制限なしでも満員にできているんじゃないかとも思う。
すると卓郎がアコギに持ち替えたことによって、ここで「夏が続くから」のような聴かせるタイプの曲が来るのかと思いきや、滝が轟音ギターを鳴らし始めたことによってそれが「The World」であることがわかるのだが、この曲で卓郎がアコギを弾くようになったのはいつからだっただろうか。
「呼吸を止めて確かめてみる
生きていく苦しみをわずかでも
目を凝らして焼き付けてみる
明日も僕らが生きていく世界を」
というフレーズはこのコロナの状況になってから聞こえ方、感じ方が1番変わった9mmの曲のものかもしれない。でも今自分がこうして見ているこの世界の景色には確かに希望を感じることができる。そう思える場所を9mmが作ってくれたのだ。
そんな9mmはその「The World」も収録されているメジャー1stアルバムから今年で15周年であることを卓郎が発表するのだが、来年が結成19周年であることから、とかく9にまつわる年を大々的に祝ってきただけに、15周年というのは忘れていたらしい。それだけに19周年の来年には面白いことをたくさん考えているらしいが、
「本当にこれまで色々なことがあったよな」
という卓郎の口ぶりからは、いろんなキツいことを乗り越えてきたという実感を感じさせる。それはここにいた人たちならきっとどんなことがあったのかはすぐに脳内で浮かび上がってきていたはずだ。
そんな話を経てから演奏されたのは、今の9mmによる「Black Market Blues」とも言える爆裂ダンスチューン「One More Time」。そのDaft Punkなタイトルからしてこうした曲になるのは決まっていたかのようであるが、滝のガンガンステージ前に出てキャップを吹き飛ばしながらギターを弾く姿とそれを見て飛び跳ねまくる観客の姿からはこの曲がすでに今の9mmのライブを担う曲になっていることを感じさせる。それによってライブハウスの中にいるとめちゃくちゃ暑い。確かにこんなに前後左右全てで密着しそうなほどに人の圧を感じるライブなんて本当に久しぶりなだけに、そのライブハウスの暑さと熱さも本当に久しぶりな感覚で、それをまた9mmのライブで感じられるのが本当に嬉しかった。
そんな現在の爆裂ダンスチューンの後にはこれまでの9mmを担ってきた爆裂ダンスチューンの「Black Market Blues」が演奏されるという怒涛の追い込みっぷり。卓郎はもちろん
「Zepp Hanedaにたどり着いたぜー!」
と叫ぶのであるが、もうもみくちゃになって踊りたいくらいの熱気が会場には溢れている。でもそうはならないというのが9mmファンの方々の自制心の強さだ。そうしてモッシュのようになってしまったり、合唱してしまったらバンドに迷惑がかかってしまうのをわかっている。でも卓郎も言っていたように、そうした楽しみ方ができるようになるまでもうちょっとのところまで来ているとこの光景が思わせてくれる。
そしてギター3人が15周年と卓郎が口にしていたアルバムのタイトル曲である「Termination」のイントロを鳴らす。サビでは卓郎が
「歌ってくれー!」
とかつてと全く変わることなく叫ぶ。それでも聴こえてくるのは滝のコーラスだけ。その滝は絶好調さを見せつけるようにバンザイギター(両腕を挙げてバンザイしているので音は鳴らしていないはずなのに鳴っているように聞こえる芸当)を披露するのであるが、こうしてフルキャパでの客席にしたのも、声を出せなくても「歌ってくれ!」と言うのも、9mmはこうして今の状況でライブに来る我々のことを心から信頼してくれているのだと思った。
激しいサウンドのバンドであるがゆえにかつては客席の激しさというかやりたい放題さにメンバーが怒りを露わにすることもあったけれど、今はこの状況やルールがある中でそうした自分勝手なことをする人がいないはずだと信じてくれている。だからこのキャパでの開催を決めたのだと思うし、かつてそうして荒れることもあったZeppであっても、かつて数え切れないくらいにライブをやってきたZepp Tokyoはもうなくなってしまった。
でも羽田であっても東京のZeppで「Termination」の
「観覧車越しに見上げた太陽」
というフレーズを聞くことによって、Zepp Tokyoの隣に観覧車があったあの景色を、そこで毎回この曲が演奏されていた9mmのライブの光景を思い出すことができる。それは9mmが我々を信じてこの形でこのツアーを開催してくれたからこそ、蘇ってくるものが確かにあるのだ。
そしてこの羽田にできた新しいZeppがこれから何度となく9mmのライブを見る場所になるということを感じさせた昨年6月でのこの場所でのライブでCDが配布された新曲「泡沫」が再びこの場所で演奏される。真っ青な照明は歌詞の通りにまるで我々が海の底に沈んでいるかのようであるが、それはそのまま9mmというバンドがもたらす沼に我々が沈んでいるかのようだ。聴かせるようなテンポの曲とは思えないくらいのギターの轟音っぷりは去年のこの場所でのこの曲の鮮烈さを思い出させながらも、間違いなくその時を上回る完成度で鳴らされていた。
するとステージにはスモークがかなりの量立ち込めてくる。それはもちろん「TIGHTROPE」の最後を担う曲である「煙の街」のタイトルに合わせた演出だが、その煙がまさにケムに巻くようなこの曲が持つ幻想感をより強く感じさせてくれる。卓郎のボーカルもどこかそれを強調するかのようだったのだが、そんな煙に包まれてメンバーの姿が見えなくなっていくと、曲が終わって煙が晴れた瞬間にはメンバーはステージから消えていた。間違いなく今回のツアーだからこその演出であり、これまでの残響が残る中でメンバーが観客に丁寧に手を振る姿とは全く違う種類の強い余韻が胸に確かに残っていた。
そうして客席は明るくなり、BGMも流れただけにこれで終わりでもライブの流れとしては良かったかもしれない。でもやはりメンバーはアンコールでステージに現れると、なんと滝は缶ビールを飲んでいる。それくらいにやり切ったという清々しい気持ちがあるのだろうし、卓郎が
「東京に乾杯!」
と言ったように、それはこの日の会心のライブを祝すためのもののようであった。
そんな中で演奏されたアンコールは「キャリーオン」という意外な選曲だったのだが、卓郎はサビで
「心で歌ってくれ!」
と言うと、かみじょうの力強すぎるドラムに負けないくらいの声量で聴こえてきたのは滝のコーラスで、最後にはもうそれコーラスっていうレベルじゃないだろってくらいに思いっきり叫んでいた。そのくらいに振り切ってライブをしている滝の姿を見ることが実に嬉しかったのは、ライブの光景が戻ってきているのと同時に滝のギタリストとしての凄まじさも戻ってきたように感じられたからだ。
しかしそれだけでは終わらず、おなじみのセッション的なイントロの演奏で卓郎はマラカスを振りまくる。それはもちろん「talking machine」が演奏されるということであるが、卓郎の動きに合わせて観客は飛び上がりながらも、曲始まりのカウント部分で聞こえてきたのは卓郎の声だけだった。最後までこの満員の観客は今のルールを守ってライブを楽しんでいた。こんなに踊りまくりたい音が目の前で鳴らされているのに体をぶつけ合ったりすることもなく。
そんな観客の思いに応えるように、すぐにステージを去ったかと思ったら落としたキャップを取りに戻ってきた滝も珍しく笑顔で一礼し、かみじょうはスティックを放り投げると目元でピースを作り、卓郎と和彦はやはり丁寧に拍手とお辞儀をしてからステージを去っていった。あのコロナ禍になる前の最強で最高の、ほかにどんなことがあってもこのライブが見れたんだから今日は勝ったとしか思えないような9mmのライブが今も変わらずに自分たちの前で繰り広げられていた。
卓郎がMCで触れていた「Discommunication」も演奏されていないし、「Punishment」や「太陽が欲しいだけ」もない。というか、やらなかったことにライブが終わって振り返ってみてから気が付いた。それくらいに、それらの曲がなくても最強かつ最高の9mmのライブだった。
その根底にあったのはもちろん10曲35分という超スピードのアルバム「TIGHTROPE」の存在だが、それは9mmを飛躍させたかつての大名盤アルバム「Revolutionary」を彷彿とさせるようなスピードだ。それは9mmはあれから12年経って、フォームは少し変わってもあの頃と同じスピードで走り続けているということを感じさせてくれるものであった。その9mmが走っているのは綱の上かもしれないけれど、その綱は決して切れようがないくらいに太く強い。それは我々と9mmの絆のように。それを確かめさせてくれた、「Walk A Tightrope」ツアーだった。
1.Hourglass
2.All We Need Is Summer Day
3.Supernova
4.反逆のマーチ
5.Psychopolis
6.悪いクスリ
7.白夜の日々
8.インフェルノ
9.夏が続くから
10.Spirit Explosion
11.Cold Edge
12.淡雪
13.Tear
14.タイトロープ
15.キャンドルの灯を
16.The World
17.One More Time
18.Black Market Blues
19.Termination
20.泡沫
21.煙の街
encore
22.キャリーオン
23.talking machine
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