Hello Sleepwalkers presents 「走り出す生命体2022」 ゲスト:ユアネス @渋谷WWW X 9/16
- 2022/09/17
- 00:53
もうデビューから10年も経つらしい。デビューシングルを聴いた時に「とんでもないバンドが出てきたな」と思ったのがついこの間のこと、まだまだ若手バンドのようなイメージすらあるというのに。そんな沖縄出身のバンド、Hello Sleepwalkersのライブを見るのは何年ぶりになるだろうか。それはコロナ禍でライブが出来なかったというのではなく、2018年から活動休止していたからであるが、そんなHello Sleepwalkers(通称:ハロスリ)が昨年ついに復活。4月にもすでに復活ライブを行っているが、その時には行けなかったので本当に久しぶりのハロスリのライブである。
かつてのグッズ、この日売られているグッズ。待っていた人がこうやってちゃんといたんだよなと思わせてくれるような観客が集まった渋谷WWW X。そこにはやはりどこか緊張感のようなものも漂っている。
・ユアネス
そんな今回のライブの対バンとして選ばれたのはユアネス。今年はいろんな大きなフェスでも見る機会が増えている福岡出身の4人組バンドであるが、こうしてライブハウスで見るのは実に久しぶりである。
そうして日光が照り付ける野外のフェスに出演するようになっても、4人が黒尽くめの出で立ちというのも、同期のピアノの音が鳴り始めて「Layer」を歌い始めるまで黒川侑司(ボーカル&ギター)が下を向いているのも、その黒川の前髪が長くて目がはっきり見えないのも変わることはないが、派手な髪色とピアスの古閑翔平(ギター)がマイクを通さずとも歌を口にしているくらいにメロディの訴求力が強いのも変わらない。
そうしたピアノの、時にはコーラスの音も同期として取り入れながら、感情をその声に乗せるように両腕を動かしながら「BE ALL LIE」「ヘリオトロープ」と、絞られた音数によって黒川の美しいハイトーンボーカルが響き渡る曲が続くのであるが、こうして「ハロスリの対バン」としてのユアネスのライブを見ると、そのAメロ、Bメロ、サビ…とガラッと移り変わっていく構成はハロスリに近いというか、その影響があるんじゃないかと感じる。それはフェスなどの短い持ち時間のライブでは気が付かないものである。
すると黒川が実際に
「Hello Sleepwalkersが大好きです。大好きなので、コピーをやります。カバーか。昔、福岡でFXっていうフェスみたいなライブがやっていて。そこにオープニングアクトで出た時に初めて一緒になって。いつかちゃんと対バンしたいと思っていたから、数多くある夢の一つが叶った」
とハロスリからの影響を口にする。そうして古閑も、ハンチング帽の中に長い髪をまとめた田中雄大(ベース)も
「緊張するわ〜」
と口にしながら披露されたのはハロスリの「アキレスと亀」の、本当にカバーというかコピーそのものと言える演奏であり、ナルミのボーカル部分は同期で賄うというこのバンドならではのスタイルを取りながらも黒川は「ユアネスでこんなに!?」というくらいにギターを掻き鳴らしまくりながら歌う。その際のメンバーの笑顔は本当にバンドを始めた頃の少年に戻ったかのようなものだったのだが、こうしてハロスリのカバーをできるというのはこのバンドが非常に高い演奏力を持っているバンドであるということを改めて示している。
演奏後にはステージ袖から見ていたハロスリのメンバーたちが親指を立ててくれていたことに喜びながら、黒川は学生時代に授業を抜け出してハロスリが福岡に来た時にライブを見に行っていたことを明かす。それくらいに好きで、影響を受けていることが本当によくわかるカバーだった。
そうして会場の雰囲気が一気に親密なものになると、黒川はそのままギターを弾きながら「少年少女をやめてから」を歌い始めるのであるが、前半とは全く異なるアッパーなギターロックバンドとしてのサウンドは大好きなバンドのカバーの後だからこそより強い開放感を感じさせてくれるのであるが、それに連なるようにして演奏された、黒川が控えめに手拍子を煽るような仕草をした「躍動」はユアネスが何とあの坂本真綾と共作し、坂本真綾が歌った曲でもある。そんな曲を自身のものとして歌いこなすことができる黒川の歌の伸びやかさに惚れ惚れしながらも、こうしたブライトな、アッパーサイドのユアネスというのもやはり持ち時間が長いからこそ見れるものであるし、田中と小野貴寛(ドラム)のリズムの驚くくらいの強さはそうしたタイプの曲だからこそ感じることができるものだ。黒川の歌声がとかく存在感を感じさせるけれど、ユアネスは紛れもなくこの4人によるロックバンドであるということがしっかりと伝わってくる。
そんなユアネスの数々の作詞作曲を手掛ける古閑の作家性の強さを感じさせるのが、再び黒川がボーカルのみに専念することによってさらにハイトーンな伸びを見せる、まるで1本の映画をそのまま曲にしたかのような「「私の最後の日」」で、その誰もが脳内に思い描くであろう情景に酔いしれてしまう。ライブハウスの中でライブを見ているんだけれど、どこか全く違う世界に連れて行ってくれるというか。音楽にはそんな力があるということを確かに感じさせてくれる。
結果的にはハロスリへの愛と憧れのみを口にしたライブの最後に演奏されたのは
「ねぇどうすれば ねぇどうしたら」
という黒川のファルセットギリギリというようなハイトーンなボーカルが、まるでその声が光となって我々に降り注ぐかのような感覚になる神聖さを持った「籠の中の鳥」。ハロスリとはバンドとしても、サウンドのタイプも全く違うけれど、確かに通じるものがあって、確かに感じられるライブだからこその感覚がある。そんなことを感じさせてくれた、長い持ち時間だからこそのユアネスのライブだった。去り際に長い髪から少しだけ覗くことができた黒川の目は少年のような笑みを確かに感じさせてくれた。我々がそうであるように、対バン側もまた憧れのバンドのライブになったら少年の頃に戻ることができるのかもしれない。
1.Layer
2.BE ALL LIE
3.ヘリオトロープ
4.アキレスと亀
5.少年少女をやめてから
6.躍動
7.「私の最後の日」
8.籠の中に鳥
・Hello Sleepwalkers
メンバー自身がステージに出てきての機材のセッティング。並ぶ3つのギターアンプ。変わらないそのステージ上の光景。本当に何年ぶりに見るライブになるだろうか。ついに本当にHello Sleepwalkersが自分の目の前に戻ってきたのである。
長めの転換時間の後に客電が落ちてSEが流れると、タソコ(ギター)を先頭にメンバーが1人ずつステージに登場。まぁわかってはいることであるが、本当にメンバーの姿は全くライブを見ていた当時と変わらない。シュンタロウ(ボーカル&ギター)の精悍な見た目も、オフショルダーの服を着たナルミ(ボーカル&ギター)の麗しさも。一つだけ違うと思ったのは、SEが鳴り止むまでずっと観客から拍手が起こっていたということ。それは声を出すことができない我々観客からの何よりの「待ってたぞ」というメッセージであった。
WWW Xのステージが小さく感じられるような5人が揃うと、ピアノの同期の音が流れる「日食」から始まるというのはそのサウンドのスタイルを持つユアネスを迎えたライブだからこそだろうか。しかしながらそのトリプルギターならではの複雑な、あまりに乗りにくいと感じてしまうくらいのバンドアンサンブルは、本当に今ハロスリのライブを見れているんだなということを実感させてくれる。
昨年復活を告げるようにリリースされた、タイトルだけ見るとラブソングであるがサウンドを聴くとそんな甘さは全く感じられないくらいにメンバーそれぞれの音がぶつかり合いながら調和していくというのが、活動休止を経てもこのバンドらしさが変わっていないことを感じさせる「恋煩い」から、同じく昨年リリースの「虚言症」では燃え盛るバンドサウンドを視覚的に示すように真っ赤な照明がステージを照らす。シュンタロウとナルミのツインボーカルの互いの力強さも健在であるというか、ライブをほとんどやっていなかったとは思えないくらいに力強い。表情を見ても今一度このバンドで生きていくことにした楽しさが溢れ出しているのがよくわかる。
この対バンライブシリーズ「走り出す生命体」が実に8年ぶりの開催であることを告げると、自分たちの曲をカバーしてくれたユアネスへの愛を口にするというのはもはや完全に相思相愛と言ってもいい間柄であるし、やはり袖でライブを見ていたユアネスのメンバーたちに対して親指を突き出して称えると、ナルミは「「私の最後の日」」が大好きであり、こうして聴くことができたことが嬉しいと語るあたりは双方ともに双方のファンであるとすら言える。
そんなナルミの観客に呼びかけるように手を伸ばしながら歌うボーカルがハロスリならではの物語性を強く感じさせるのは「天地創造」という懐かしさを感じる曲であるのだが、その懐かしさは曲が色褪せたからそう感じるのではなくて、かつてよくこの曲を聴いていたからそう感じるものだ。まさに物語の起承転結を描くようなアップダウンの強い曲の構成も含めて。
そんなハロスリらしさがロックバンドとしての衝動として炸裂するのは初期の代表曲の一つである「月面歩行」。観客がリズムに合わせて手拍子をする中でナルミのボーカルはさらに強さと凄みを増していくのであるが、こんなに激しくて複雑なアンサンブルの曲なのにあくまでメロディーはキャッチーなものになっているというのもまた、ハロスリってこういうバンドだったよなと思わせてくれる。何よりも「カッコいいな」と思える感覚は初めて見た時から全く変わることはない。
ナルミがユアネスにカントリーマームのチョコがたっぷり入った味を差し入れしたら黒川がめちゃくちゃ喜んでいて可愛かったということを口にしながら、そんなハロスリは早くも11月に新作アルバムをリリースすることを発表しているのだが、
「8年ぶりの「走り出す生命体」開催っていうことは、今日はお祭りだから」
ということでそのアルバム「PROJECT」のタイトル曲であり、10月に配信で先行リリースされる新曲「プロジェクト」をライブ初披露。マコト(ベース)もイントロからタッピングをかまし、タソコもステージ前に出てきてタッピングを含めたギターを弾きまくるのであるが、シュンタロウが歌いながらタッピングしているというあたりに改めてこのバンドのメンバーそれぞれの演奏力のずば抜けっぷりを感じざるを得ないのであるが、そんなメンバーたちの演奏をまとめるのがライブで喋ることはないくらいに控えめであるが、そのリズムがバンドの背骨になっているユウキのドラムである。こんなに複雑なリズムを涼しい顔をして叩いているこの男の超人ドラマーっぷりも全く変わらないどころか、むしろさらに進化している。
そんな新曲を披露してからは後半戦とばかりにシュンタロウは肩をぐるぐると回す。それはここからさらに激しい曲が続くことの合図のようですらあるのだが、実際にタソコがイントロで手拍子を煽りまくる「午夜の待ち合わせ」ではさらにバンドの音が、シュンタロウとナルミのボーカルが力強さを増していく。その鳴らしている音の力強さが観客の腕を振り上げていく。アニメのオープニングテーマになったこともあり、この曲でバンドのことを知った人もたくさんいるはずだ。そんな曲がこうして自分のような何年かぶりにライブを見る人とのまさに「待ち合わせ」のテーマ曲であるかのように鳴らされている。その再会はシュンタロウがギターをぶん回すくらいにとんでもなく激しい音の果たし合いとなっているのだけれど。
ここまではトリプルギターならではの分厚くも複雑なアンサンブルを響かせていたのだが、タソコがイントロで1人でギターを鳴らし始めると、シュンタロウとナルミはギターを置いてハンドマイクに。するとそこにEDM的なサウンドが重なり、2人がまさにステージ上で踊るようにして歌うのは
「もくもく働こう」
というナルミの歌うフレーズが書かれたタオルを掲げる人すらいる、ハロスリがロックとEDMを融合させていたバンドであることを思い出させてくれる代表曲の一つ「Worker Ant」であり、ナルミは曲中に
「今日は金曜日ですよねー!皆さん明日は休みなんじゃないですかー!」
と叫ぶ。それがシュンタロウの曜日を早口で歌うフレーズにも繋がっていくのであるが、かつてはこのバンドのライブには学生くらいの年齢の人が多かった。それくらいにメンバー自身も若かった。でも今はこの曲の、ブラック的とすら言える労働というテーマがこの上ないくらいにリアルに感じられるような年齢になった。ライブを見れない、会えない期間も長かったけれど、きっとここにいた人とバンドは一緒に年齢を重ねてきたのだ。
タソコだけならずマコトもイントロからステージ前に出てきて演奏されるのは、いったい何曲分の全く違うアイデアを1曲としてぶっ込んだんだろうかというハロスリのバンドとしての特異性をこの上なく感じさせる「円盤飛来」で、そうした展開の目まぐるしさがミクスチャー的な要素すら感じさせる中でのナルミのサビ(と言っていいのかわからないような構成ですらある)での歌唱の迫力の凄みの増しっぷりたるや。MCではどこかホワッとした一面も感じさせるが、デビュー時から歌も演奏もバンドの中では頭抜けていたことを思い出させる。そんな曲はマコトの語り的なボーカルへと着地していくというのも、今改めて聴いてもやっぱり変な曲であり、普通じゃないバンドだなと思う。
そんな久しぶりのハロスリのライブのラストを担うのは「PROJECT」のリリース発表とともに先行配信された「流浪奇譚」。シュンタロウのボーカルがサビではナルミにスイッチされ、そのナルミによる
「一切合切飲み込んでいく」
というサビの歌い出しのフレーズでの一気に視界が開けていくような感覚になるキャッチーさはハロスリらしさを持ち合わせたままでバンドが前に進んでいることを示している。その証拠にやはりメンバーの演奏している表情は本当に良い笑顔だった。もしかしたら、この楽しさを取り戻すために少し休んでいたのかもしれないと思うほどに。そんな顔を見せてくれているから、見ているこちらもこの上なく楽しく感じられるのだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、ユアネスのメンバーも招いての写真撮影へ。
「手のひらをカメラに向けて」
というナルミによるポーズがどこかMr.マリックのようになってしまったり、黒川が「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のTシャツを着たりしているのを弄ったりしながら、最後までこの日にユアネスと対バンできたことの喜びを口にし、互いのツアーが始まることを告知しながら、
「次の「走り出す生命体」は8年も空かないように(笑)」
と言っていた。それはそう言いたくなるくらいに久しぶりの対バンの楽しさを改めて知ったということだ。だから、
「2マンってお互いに長い時間ライブできるからいろんな曲が聴けるけど、それでもあっという間だったな〜」
とナルミも楽しかった時間は一瞬で過ぎていくということを改めて感じていたのだろう。
そして最後に演奏されたのは全てを出し尽くすかのようにバンドの鳴らす音が暴発しまくる「猿は木から何処へ落ちる」。カウントダウンするかのようなナルミによるサビのフレーズのキャッチーさは確かに「流浪奇譚」に連なるものであることを感じさせるのだが、この曲をライブで何年かぶりに聴いていたら、かつてこの曲で激しいモッシュが起きまくっていた光景が頭の中にフラッシュバックしていた。
今はそうした楽しみ方はできないけれど、その光景が浮かんだのはこの曲が自分の中ではそのコロナ前のライブの時から止まっていたからだ。それがコロナ禍を経た中でのライブでまた動き出した。そんなライブで聴いたこの曲はやはりモッシュをしまくることはできなくても、今でもそうなるような絵が確かに頭に浮かんでいた。それはハロスリのライブが今でもそうしたくなるくらいに衝動を我々に与えてくれているということだ。そう思ったらなんだか感動して泣けてきてしまった。本当に自分の音楽を好きな心がこのバンドのことを、ライブを待っていたのだ。こうして、ハロスリは自分にとってまた同じ時代を共に走り続けるバンドになったのだ。
休止を経てもライブの凄さが変わらないのも凄いし、メンバーが誰も変わったりしていないのも凄い。いわゆる「伝説のバンドがついに復活!」というような存在でもないし、もうデビュー時のようなフレッシュな若手バンドでもない。
でもこのバンドはやっぱり普通のバンドじゃない。こんなバンドは他に絶対いない。出会ってから10年経っても自信を持ってそう言うことができる。そんなバンド、Hello Sleepwalkersのライブがまたこうして観れていることの幸せを噛み締めていた。次に見るときには新曲はもちろん「センチメンタル症候群」なんかも聴けたらいいな。
1.日食
2.恋煩い
3.虚言症
4.天地創造
5.月面歩行
6.プロジェクト
7.午夜の待ち合わせ
8.Worker Ant
9.円盤飛来
10.流浪奇譚
encore
11.猿は木から何処へ落ちる
かつてのグッズ、この日売られているグッズ。待っていた人がこうやってちゃんといたんだよなと思わせてくれるような観客が集まった渋谷WWW X。そこにはやはりどこか緊張感のようなものも漂っている。
・ユアネス
そんな今回のライブの対バンとして選ばれたのはユアネス。今年はいろんな大きなフェスでも見る機会が増えている福岡出身の4人組バンドであるが、こうしてライブハウスで見るのは実に久しぶりである。
そうして日光が照り付ける野外のフェスに出演するようになっても、4人が黒尽くめの出で立ちというのも、同期のピアノの音が鳴り始めて「Layer」を歌い始めるまで黒川侑司(ボーカル&ギター)が下を向いているのも、その黒川の前髪が長くて目がはっきり見えないのも変わることはないが、派手な髪色とピアスの古閑翔平(ギター)がマイクを通さずとも歌を口にしているくらいにメロディの訴求力が強いのも変わらない。
そうしたピアノの、時にはコーラスの音も同期として取り入れながら、感情をその声に乗せるように両腕を動かしながら「BE ALL LIE」「ヘリオトロープ」と、絞られた音数によって黒川の美しいハイトーンボーカルが響き渡る曲が続くのであるが、こうして「ハロスリの対バン」としてのユアネスのライブを見ると、そのAメロ、Bメロ、サビ…とガラッと移り変わっていく構成はハロスリに近いというか、その影響があるんじゃないかと感じる。それはフェスなどの短い持ち時間のライブでは気が付かないものである。
すると黒川が実際に
「Hello Sleepwalkersが大好きです。大好きなので、コピーをやります。カバーか。昔、福岡でFXっていうフェスみたいなライブがやっていて。そこにオープニングアクトで出た時に初めて一緒になって。いつかちゃんと対バンしたいと思っていたから、数多くある夢の一つが叶った」
とハロスリからの影響を口にする。そうして古閑も、ハンチング帽の中に長い髪をまとめた田中雄大(ベース)も
「緊張するわ〜」
と口にしながら披露されたのはハロスリの「アキレスと亀」の、本当にカバーというかコピーそのものと言える演奏であり、ナルミのボーカル部分は同期で賄うというこのバンドならではのスタイルを取りながらも黒川は「ユアネスでこんなに!?」というくらいにギターを掻き鳴らしまくりながら歌う。その際のメンバーの笑顔は本当にバンドを始めた頃の少年に戻ったかのようなものだったのだが、こうしてハロスリのカバーをできるというのはこのバンドが非常に高い演奏力を持っているバンドであるということを改めて示している。
演奏後にはステージ袖から見ていたハロスリのメンバーたちが親指を立ててくれていたことに喜びながら、黒川は学生時代に授業を抜け出してハロスリが福岡に来た時にライブを見に行っていたことを明かす。それくらいに好きで、影響を受けていることが本当によくわかるカバーだった。
そうして会場の雰囲気が一気に親密なものになると、黒川はそのままギターを弾きながら「少年少女をやめてから」を歌い始めるのであるが、前半とは全く異なるアッパーなギターロックバンドとしてのサウンドは大好きなバンドのカバーの後だからこそより強い開放感を感じさせてくれるのであるが、それに連なるようにして演奏された、黒川が控えめに手拍子を煽るような仕草をした「躍動」はユアネスが何とあの坂本真綾と共作し、坂本真綾が歌った曲でもある。そんな曲を自身のものとして歌いこなすことができる黒川の歌の伸びやかさに惚れ惚れしながらも、こうしたブライトな、アッパーサイドのユアネスというのもやはり持ち時間が長いからこそ見れるものであるし、田中と小野貴寛(ドラム)のリズムの驚くくらいの強さはそうしたタイプの曲だからこそ感じることができるものだ。黒川の歌声がとかく存在感を感じさせるけれど、ユアネスは紛れもなくこの4人によるロックバンドであるということがしっかりと伝わってくる。
そんなユアネスの数々の作詞作曲を手掛ける古閑の作家性の強さを感じさせるのが、再び黒川がボーカルのみに専念することによってさらにハイトーンな伸びを見せる、まるで1本の映画をそのまま曲にしたかのような「「私の最後の日」」で、その誰もが脳内に思い描くであろう情景に酔いしれてしまう。ライブハウスの中でライブを見ているんだけれど、どこか全く違う世界に連れて行ってくれるというか。音楽にはそんな力があるということを確かに感じさせてくれる。
結果的にはハロスリへの愛と憧れのみを口にしたライブの最後に演奏されたのは
「ねぇどうすれば ねぇどうしたら」
という黒川のファルセットギリギリというようなハイトーンなボーカルが、まるでその声が光となって我々に降り注ぐかのような感覚になる神聖さを持った「籠の中の鳥」。ハロスリとはバンドとしても、サウンドのタイプも全く違うけれど、確かに通じるものがあって、確かに感じられるライブだからこその感覚がある。そんなことを感じさせてくれた、長い持ち時間だからこそのユアネスのライブだった。去り際に長い髪から少しだけ覗くことができた黒川の目は少年のような笑みを確かに感じさせてくれた。我々がそうであるように、対バン側もまた憧れのバンドのライブになったら少年の頃に戻ることができるのかもしれない。
1.Layer
2.BE ALL LIE
3.ヘリオトロープ
4.アキレスと亀
5.少年少女をやめてから
6.躍動
7.「私の最後の日」
8.籠の中に鳥
・Hello Sleepwalkers
メンバー自身がステージに出てきての機材のセッティング。並ぶ3つのギターアンプ。変わらないそのステージ上の光景。本当に何年ぶりに見るライブになるだろうか。ついに本当にHello Sleepwalkersが自分の目の前に戻ってきたのである。
長めの転換時間の後に客電が落ちてSEが流れると、タソコ(ギター)を先頭にメンバーが1人ずつステージに登場。まぁわかってはいることであるが、本当にメンバーの姿は全くライブを見ていた当時と変わらない。シュンタロウ(ボーカル&ギター)の精悍な見た目も、オフショルダーの服を着たナルミ(ボーカル&ギター)の麗しさも。一つだけ違うと思ったのは、SEが鳴り止むまでずっと観客から拍手が起こっていたということ。それは声を出すことができない我々観客からの何よりの「待ってたぞ」というメッセージであった。
WWW Xのステージが小さく感じられるような5人が揃うと、ピアノの同期の音が流れる「日食」から始まるというのはそのサウンドのスタイルを持つユアネスを迎えたライブだからこそだろうか。しかしながらそのトリプルギターならではの複雑な、あまりに乗りにくいと感じてしまうくらいのバンドアンサンブルは、本当に今ハロスリのライブを見れているんだなということを実感させてくれる。
昨年復活を告げるようにリリースされた、タイトルだけ見るとラブソングであるがサウンドを聴くとそんな甘さは全く感じられないくらいにメンバーそれぞれの音がぶつかり合いながら調和していくというのが、活動休止を経てもこのバンドらしさが変わっていないことを感じさせる「恋煩い」から、同じく昨年リリースの「虚言症」では燃え盛るバンドサウンドを視覚的に示すように真っ赤な照明がステージを照らす。シュンタロウとナルミのツインボーカルの互いの力強さも健在であるというか、ライブをほとんどやっていなかったとは思えないくらいに力強い。表情を見ても今一度このバンドで生きていくことにした楽しさが溢れ出しているのがよくわかる。
この対バンライブシリーズ「走り出す生命体」が実に8年ぶりの開催であることを告げると、自分たちの曲をカバーしてくれたユアネスへの愛を口にするというのはもはや完全に相思相愛と言ってもいい間柄であるし、やはり袖でライブを見ていたユアネスのメンバーたちに対して親指を突き出して称えると、ナルミは「「私の最後の日」」が大好きであり、こうして聴くことができたことが嬉しいと語るあたりは双方ともに双方のファンであるとすら言える。
そんなナルミの観客に呼びかけるように手を伸ばしながら歌うボーカルがハロスリならではの物語性を強く感じさせるのは「天地創造」という懐かしさを感じる曲であるのだが、その懐かしさは曲が色褪せたからそう感じるのではなくて、かつてよくこの曲を聴いていたからそう感じるものだ。まさに物語の起承転結を描くようなアップダウンの強い曲の構成も含めて。
そんなハロスリらしさがロックバンドとしての衝動として炸裂するのは初期の代表曲の一つである「月面歩行」。観客がリズムに合わせて手拍子をする中でナルミのボーカルはさらに強さと凄みを増していくのであるが、こんなに激しくて複雑なアンサンブルの曲なのにあくまでメロディーはキャッチーなものになっているというのもまた、ハロスリってこういうバンドだったよなと思わせてくれる。何よりも「カッコいいな」と思える感覚は初めて見た時から全く変わることはない。
ナルミがユアネスにカントリーマームのチョコがたっぷり入った味を差し入れしたら黒川がめちゃくちゃ喜んでいて可愛かったということを口にしながら、そんなハロスリは早くも11月に新作アルバムをリリースすることを発表しているのだが、
「8年ぶりの「走り出す生命体」開催っていうことは、今日はお祭りだから」
ということでそのアルバム「PROJECT」のタイトル曲であり、10月に配信で先行リリースされる新曲「プロジェクト」をライブ初披露。マコト(ベース)もイントロからタッピングをかまし、タソコもステージ前に出てきてタッピングを含めたギターを弾きまくるのであるが、シュンタロウが歌いながらタッピングしているというあたりに改めてこのバンドのメンバーそれぞれの演奏力のずば抜けっぷりを感じざるを得ないのであるが、そんなメンバーたちの演奏をまとめるのがライブで喋ることはないくらいに控えめであるが、そのリズムがバンドの背骨になっているユウキのドラムである。こんなに複雑なリズムを涼しい顔をして叩いているこの男の超人ドラマーっぷりも全く変わらないどころか、むしろさらに進化している。
そんな新曲を披露してからは後半戦とばかりにシュンタロウは肩をぐるぐると回す。それはここからさらに激しい曲が続くことの合図のようですらあるのだが、実際にタソコがイントロで手拍子を煽りまくる「午夜の待ち合わせ」ではさらにバンドの音が、シュンタロウとナルミのボーカルが力強さを増していく。その鳴らしている音の力強さが観客の腕を振り上げていく。アニメのオープニングテーマになったこともあり、この曲でバンドのことを知った人もたくさんいるはずだ。そんな曲がこうして自分のような何年かぶりにライブを見る人とのまさに「待ち合わせ」のテーマ曲であるかのように鳴らされている。その再会はシュンタロウがギターをぶん回すくらいにとんでもなく激しい音の果たし合いとなっているのだけれど。
ここまではトリプルギターならではの分厚くも複雑なアンサンブルを響かせていたのだが、タソコがイントロで1人でギターを鳴らし始めると、シュンタロウとナルミはギターを置いてハンドマイクに。するとそこにEDM的なサウンドが重なり、2人がまさにステージ上で踊るようにして歌うのは
「もくもく働こう」
というナルミの歌うフレーズが書かれたタオルを掲げる人すらいる、ハロスリがロックとEDMを融合させていたバンドであることを思い出させてくれる代表曲の一つ「Worker Ant」であり、ナルミは曲中に
「今日は金曜日ですよねー!皆さん明日は休みなんじゃないですかー!」
と叫ぶ。それがシュンタロウの曜日を早口で歌うフレーズにも繋がっていくのであるが、かつてはこのバンドのライブには学生くらいの年齢の人が多かった。それくらいにメンバー自身も若かった。でも今はこの曲の、ブラック的とすら言える労働というテーマがこの上ないくらいにリアルに感じられるような年齢になった。ライブを見れない、会えない期間も長かったけれど、きっとここにいた人とバンドは一緒に年齢を重ねてきたのだ。
タソコだけならずマコトもイントロからステージ前に出てきて演奏されるのは、いったい何曲分の全く違うアイデアを1曲としてぶっ込んだんだろうかというハロスリのバンドとしての特異性をこの上なく感じさせる「円盤飛来」で、そうした展開の目まぐるしさがミクスチャー的な要素すら感じさせる中でのナルミのサビ(と言っていいのかわからないような構成ですらある)での歌唱の迫力の凄みの増しっぷりたるや。MCではどこかホワッとした一面も感じさせるが、デビュー時から歌も演奏もバンドの中では頭抜けていたことを思い出させる。そんな曲はマコトの語り的なボーカルへと着地していくというのも、今改めて聴いてもやっぱり変な曲であり、普通じゃないバンドだなと思う。
そんな久しぶりのハロスリのライブのラストを担うのは「PROJECT」のリリース発表とともに先行配信された「流浪奇譚」。シュンタロウのボーカルがサビではナルミにスイッチされ、そのナルミによる
「一切合切飲み込んでいく」
というサビの歌い出しのフレーズでの一気に視界が開けていくような感覚になるキャッチーさはハロスリらしさを持ち合わせたままでバンドが前に進んでいることを示している。その証拠にやはりメンバーの演奏している表情は本当に良い笑顔だった。もしかしたら、この楽しさを取り戻すために少し休んでいたのかもしれないと思うほどに。そんな顔を見せてくれているから、見ているこちらもこの上なく楽しく感じられるのだ。
アンコールで再びメンバーが登場すると、ユアネスのメンバーも招いての写真撮影へ。
「手のひらをカメラに向けて」
というナルミによるポーズがどこかMr.マリックのようになってしまったり、黒川が「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のTシャツを着たりしているのを弄ったりしながら、最後までこの日にユアネスと対バンできたことの喜びを口にし、互いのツアーが始まることを告知しながら、
「次の「走り出す生命体」は8年も空かないように(笑)」
と言っていた。それはそう言いたくなるくらいに久しぶりの対バンの楽しさを改めて知ったということだ。だから、
「2マンってお互いに長い時間ライブできるからいろんな曲が聴けるけど、それでもあっという間だったな〜」
とナルミも楽しかった時間は一瞬で過ぎていくということを改めて感じていたのだろう。
そして最後に演奏されたのは全てを出し尽くすかのようにバンドの鳴らす音が暴発しまくる「猿は木から何処へ落ちる」。カウントダウンするかのようなナルミによるサビのフレーズのキャッチーさは確かに「流浪奇譚」に連なるものであることを感じさせるのだが、この曲をライブで何年かぶりに聴いていたら、かつてこの曲で激しいモッシュが起きまくっていた光景が頭の中にフラッシュバックしていた。
今はそうした楽しみ方はできないけれど、その光景が浮かんだのはこの曲が自分の中ではそのコロナ前のライブの時から止まっていたからだ。それがコロナ禍を経た中でのライブでまた動き出した。そんなライブで聴いたこの曲はやはりモッシュをしまくることはできなくても、今でもそうなるような絵が確かに頭に浮かんでいた。それはハロスリのライブが今でもそうしたくなるくらいに衝動を我々に与えてくれているということだ。そう思ったらなんだか感動して泣けてきてしまった。本当に自分の音楽を好きな心がこのバンドのことを、ライブを待っていたのだ。こうして、ハロスリは自分にとってまた同じ時代を共に走り続けるバンドになったのだ。
休止を経てもライブの凄さが変わらないのも凄いし、メンバーが誰も変わったりしていないのも凄い。いわゆる「伝説のバンドがついに復活!」というような存在でもないし、もうデビュー時のようなフレッシュな若手バンドでもない。
でもこのバンドはやっぱり普通のバンドじゃない。こんなバンドは他に絶対いない。出会ってから10年経っても自信を持ってそう言うことができる。そんなバンド、Hello Sleepwalkersのライブがまたこうして観れていることの幸せを噛み締めていた。次に見るときには新曲はもちろん「センチメンタル症候群」なんかも聴けたらいいな。
1.日食
2.恋煩い
3.虚言症
4.天地創造
5.月面歩行
6.プロジェクト
7.午夜の待ち合わせ
8.Worker Ant
9.円盤飛来
10.流浪奇譚
encore
11.猿は木から何処へ落ちる
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