Chilli Beans. 1st Oneman Live 「Chilli Beans. Room」 @LIQUIDROOM 9/9
- 2022/09/10
- 12:16
2週間前のSWEET LOVE SHOWERのオープニングアクトでのライブを観た時に、音源やアー写でのオシャレなイメージとは全く違うロックバンドとしてのグルーヴにビックリさせられた、Chilli Beans.。Vaundyと同じ音楽スクール出身の3人組バンドであるが、そのVaundyも出演しまくっているように、コロナ禍ゆえになかなか出演出来なかった夏フェスにも多数出演(ロッキン出演予定日が台風で中止になったのが本当に残念だった)し、ついにこの日の初ワンマンへ。初ワンマンがリキッドルームというあたりが今のバンドの状況を示しているし、そのリキッドルームすらも即完という勢いである。
満員のリキッドルームの客席にはやはり10代や20代くらいの若い観客が本当に多い。自分たちの新しいヒーローとしてこのバンドを見ている人もたくさんいるんだろうと思うし、だからこそ客席から放たれている空気が新鮮な、ワクワクしたものに満ちている。それがどこかステージに立つメンバーの姿のように眩しくも感じられる。
19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると、サポートドラマーのYuumiとともにメンバーがステージに登場。ジャケット着用のLily(ギター)、ヘソ出しルックのMaika(ベース)、サングラス着用のMoto(ボーカル)と三者三様の出で立ちであるのだが、やはり総じてスタイリッシュというか、カッコいいなと思えるようなシルエットになっており、その姿が照明によって照らされることによって、観葉植物や木製の棚などが置かれた、ライブタイトル通りに「Room」というものになっていることがわかる。背面の手書きのバンドロゴ、Lilyの後ろの「I can not be doll」という「School」のフレーズを描いたバンドの信念とも言えるような言葉。まさにChilli Beans.の部屋に我々観客が招かれたかのようなステージの作りになっている。
そんなステージ上でMotoが早くも体を思いっきり揺らしながら歌い始めたのはラブシャでのライブでも最初に演奏されていた「See C Love」であるのだが、Motoの歌唱が低めのキーであるのもそうであるが、とにかくサウンドの重心が低い。MaikaもLilyも屈むようにして演奏することによって生じるグルーヴによってMotoもそれに心地良さそうに身を任せ…というバンド内の相乗効果が早くも発生している。どちらかというとそうしたグルーヴによって体を揺らすというミドルテンポの曲であるのだが、客席ではたくさんの観客が腕を上げている。ステージを動き回ることによって観客の近くで相対するMotoも、体ごとうねらせるようなLilyとMaikaもその観客の姿を見てより笑顔になっているのがよくわかる。1曲目からリキッドルームが実に幸せな空気に包まれている。
そのバンドのグルーヴはYuumiのドラムによってさらに強くなっていることがすぐにわかる「neck」では歌詞中の「ふたり」のフレーズでMotoが二本指を突き出してみせる中、Maikaのコーラス的な歌唱も聴けるのであるが、そのビジュアルの良さだけではないこのバンドが醸し出しているオーラはまだアルバム1枚しかリリースしていないバンドであるにもかかわらず「絶対このメンバーじゃないと成り立たない音楽とバンドだな」ということが伝わってくるし、ことライブにおいてはYuumiの存在も含めたこの4人だからこそのものだ。それくらいにステージの作りもメンバーの表情もフレンドリーでありながらも、このステージの上には絶対に誰も加われない、代われないものがあることがよくわかる。
そんなこのバンドの姿や立ち振る舞いからも伝わってくるような芯の強さをそのまま歌詞にしたかのような「It's ME」がよりこのバンドのロックさを感じさせてくれる。なかなかイメージだけだと「ロック」というよりもあらゆるサウンドを取り入れたポップミュージックという感じもするバンドであるが、ライブを観て感じるのはやはりそのロックバンドとしてのカッコ良さを感じさせるサウンドとグルーヴである。
そんなロックさを感じさせながらも、タイトルからもわかるような少しチルな要素も取り入れた「Vacance」ではもちろん心地良さも感じるのだけれど、ただその心地良さに酔うというだけではなくて、サビでは観客の腕が上がっているという光景が、そうしたサウンドを取り入れてもこのバンドからは同居する熱さを感じさせるようなものになるということがよくわかる。それはメンバーの表情とアクションが須く「楽しい」という感情に満ち溢れているからこそである。
ラブシャの時もMCなしでひたすら曲を連発するというスタイルだったのだが、それは持ち時間が短いからこそかと思っていたのだが、この日も簡単な挨拶くらいのMCにとどめて、ストレートなロックサウンドに乗ることによってMotoの歌声も一層伸びやかになる。この歌声は初ライブからまだ1年半未満というライブ歴ながらもすでに「ライブで目の前の人に伝えるために歌う」ということを肉体と精神の両方が無意識的にわかっているかのようにすら感じる。
「ゆったりと、楽しんで」
と言って演奏された「L.I.B」はMaikaとLilyによるコーラスフレーズの「Life Is Business」の頭文字を取った、どこかチルというよりは牧歌的とすら思えるサウンドの曲なのであるが、Motoが歌いながら親指と人差し指で金のマークを作るのが実に面白いというか、なかなかこうしたパフォーマンスをするバンドもいない。それはロックバンドとは金稼ぎとは無縁という価値観が強い存在だからであるが、この曲はむしろそうした金儲け主義的なものへの皮肉というか、絶対に自分たちの魂は売らない、自分たちの生き方は曲げないという強い決意が綴られた歌詞でもある。ライブ自体のテンポが実に良いだけに、幅広いサウンドの曲がこうして次々に演奏されるというのは超高速で空を飛んでいるが故に目の前の景色が次々に変わっていくかのようだ。
それだけの幅広さを持ちながらも全くとっ散らかったようには感じないのはここまでで何度も触れているグルーヴの強さとともに、Motoの曲によってキーや声色を変える変幻自在な歌唱法あってのものだと思うのは、削ぎ落とされまくったサウンドのメロからサビで一気にLilyのノイジーなギターが響き渡る「アンドロン」。この曲こそが、見た目だけではなくてサウンドもオシャレなバンドかと思ったらむしろサウンドはめちゃ厚く熱いというこのバンドの真髄を感じさせてくれる曲だとも思っている。
するとここまで曲間も機材チェンジもほとんどなかったメンバーたちがいったん楽器を下ろすと、スタッフたちがいそいそとセッティングを行い、ステージには前に並ぶように椅子が置かれるとメンバーはそこに座り、
Maika「前まで毎週土曜日にインスタライブをやっていて。そこで海外のアーティストのカバーとかアコースティックをやっていた。今日は久しぶりにアコースティックで何曲かやります」
と言うとLilyがアコギ、Yuumiもカホン、Maikaはエレキベースだけれど一つ一つの音を刻むようにしてアコースティック編成で演奏されたのは「シェキララ」。この形だからこそ際立つのはもちろんメロディの良さであるのだが、Motoはアコースティック編成であっても椅子から立ち上がって歌う。それくらいに今ここでメンバーが鳴らしている音に体が反応してしまうのだろう。そういう意味ではこのバンドの音楽を最も必要としているのは彼女なのかもしれない、とも思った。
さらにはMaikaもベースを下ろしてコーラスという形になることによって、Lilyの爪弾くギターとYuumiのカホンだけという究極に削ぎ落とされたアコースティック形式で演奏されたのは、1stフルアルバムの最後に収録された曲である「call my name」。もともと音源でもこうしたサウンドで収録されていた曲であるが、こうした通常のバンドサウンドとは違う形で見れるというのはワンマンならではであるし、インスタライブでこうした形でのライブを発信していたということは、なかなかライブができないような世の中の状況の中でもこのバンドは聴いてくれている人たちに自分たちの音楽を、鳴らす姿とともにしっかり届けたいと思っていたということだ。
「インスタライブの時はスマホでキャンプファイヤーの映像を流しながらやってたんだけど、いつか野外でキャンプファイヤーしながらこういうライブやりたいよね」
と演奏後に言っていたが、それが実現して我々がキャンプファイヤーを取り囲むメンバーの周りに集まるという形で見るライブはさぞや最高だと思うし、コロナ禍になったことでそうした青春を送れなくなった若い人もたくさんいると思う。そんな人がこのバンドのライブでこのバンドを好きな人たちと青春を過ごすことができたら実に幸せなことだよなと思う。
そんなアコースティックから通常のバンドの編成に戻るのだが、ここで演奏されたのは新曲。とはいえこの曲は結成して間もない頃に作られた曲であるらしい。音源化している曲の中にはないくらいのダークさを感じさせる、己の内面に深く潜っていくようなサウンドは暗いステージで棒状の照明が光ることによって、一気にRoomが真夜中に1人で音楽を聴いているような情景になったかのように引き込まれていく。バンド結成時に生み出されていながらもまだ音源化されていないということはこのアレンジに至るまでに変遷を遂げてきたということなのだろうか。間違いなく今までにないChilli Beans.の一面を見せてくれる曲である。
そんな新曲を終えたあたりでMotoはサングラスを外す。ここから後半戦さらに攻めるという意識の現れだろうけれど、Maikaのベースがよりうねりまくる「This Way」からはその意識通りにバンドのグルーヴがさらに強固になっている。「blue berry」も含めてMotoのボーカルもそのバンドのグルーヴの重心の低さに合わせてキーを低くしているのであるが、その曲に合わせて声を変える表現力がここにきてさらに見事になっているという感すらある。
そうしてさらにグルーヴを強化したからこそ、シングル盤収録の「Digital Persona」のまさにデジタルサウンドを取り入れたことによるダンスロックでメンバーも飛び跳ねながら演奏し、観客もその場で飛び跳ねまくる。その光景を見て、この曲がこんなにライブで真価を発揮する曲だったんだと思いつつ、ライブハウスはこうあり続けて欲しいなと思った。いつだってこれから先の音楽シーン、ロックシーンを担う若いバンドがステージに立って演奏していて、観客たちがそのバンドの放つ衝動を自分たちの熱狂に変えている。こんな幸せな空間はそうそうないよなと少し感動すらしてしまうくらいに。
さらにバンドのグルーヴは極まっていくのが、Maikaのソロ的なベースから始まってセッション的な演奏が追加された「Tremolo」。サビではMotoが観客を解放させるように腕を左右に振り、観客もそれに合わせて腕を振るのであるが、そうして腕を振りながらもMotoとLilyがMaikaの方へ寄っていって身を寄せ合いながら演奏する姿は、
「私たちなら絶対どんなことでも大丈夫だと思ってやってきた」
というMaikaがこの日口にした思いがそのままパフォーマンスとして現れているかのようですらあったし、そんな頼もしさとともにやはり満面の笑みで楽しそうに演奏しているというのが我々観客をもさらに楽しくさせてくれるのだ。
そんな中でステージが黄色い照明に照らされる中で演奏されたのはもちろん「lemonade」。スクールの仲間であるVaundyと共作したこの曲がこのバンドの持つ天性のキャッチーさをさらに引き出すというのは、曲中にメンバー3人がリズムに合わせて左右にステップをするという見ているだけで楽しくなるようなパフォーマンスにも現れている。(ステップができないYuumiも叩きながら顔や体を左右に動かしてメンバーとシンクロしている)
そのステップが客席にも広がっていく光景を見ると、もちろんこちら側もメンバーと一緒にこの曲を作っているという楽しい気分になるのであるが、もっと大きな会場でたくさんの人でこのステップを踏んだらどんな景色が見えるんだろうとも思う。それはきっとまたすぐに目にすることができるようになるはずだ。
まさに駆け抜けるというような、余計な時間が全くない、ただひたすらにその楽しさを鳴らしている音楽とその姿だけで示すかのような、ストイックを極めることが楽しさに繋がるとでもいうようなライブは本当にあっという間に、よく言うように体感的には一瞬で最後の曲に。メンバーも名残惜しそうにしながら、Motoがギターを弾きながら演奏されたのは「School」。
Motoがグルーヴを強めた曲とは真逆と言っていいくらいにハイトーンなボーカルを響かせると、その声に1番合うサウンドを理解しているかのようにLilyのギターは一気にノイジーになっていく。この曲で歌われている歌詞もまた、彼女たちがスクール時代、さらにはその前に義務教育を受けてきた頃から抱き続けてきたものなんだと思う。その最後のフレーズにこの日ステージに飾られていた
「I can not be doll」
という言葉があるからこそ、どんなにビジュアルが良くてそうした部分ばかりを押されそうになっても消費されることなくロックバンドとして自分たちがやりたいことだけを突き詰めて、それを楽しく鳴らしていくというこのバンドの核が見えた気がした。それは初めてのワンマンだからこそ見ることができたものと言っていいだろう。そんな瞬間に立ち会えたことが本当に幸せだと思っていた。
アンコールを求める手拍子が鳴り響き続けていると、バンダナを巻いてサングラスをかけるというどこかパリピな出で立ちになったYuumiが走ってステージに登場してきて、そのままドラムを叩き始める。そこに順番にこの日のライブTシャツに着替えたメンバーたちがステージに現れて音を重ねていくことによってバンドの音になっていく。最後に現れたMotoはギターを持って弾きながら、LilyのギターとMaikaのベースがハモることによってポップさを生み出す「マイガール」を歌い始めるのであるが、Motoはギターを弾きながらでも踊るようにして歌うというあたりに天性のシンガー感というか、鳴っている音に反応せずにはいられないという感じすらある。
そんな楽しさが溢れまくったこの日のライブTシャツのデザインを解説しつつ、Yuumiのバンダナはバンドの名前の元ネタにもなったRed Hot Chilli Peppersのものであることが明かされ、さらにはMaikaはかつてデビューするにあたって、ライブをやりたい会場や出たいフェスなどの夢を3人で紙に書き出したことがあり、その中にあった
「リキッドルームでワンマンをやる」
という夢がこの日こんなに早いタイミングで叶ったことによって感慨深さを口にしていた。初ワンマンがリキッドというのも凄いけれど、しかもすでに決まっている次のツアーの東京は豊洲PITである。本当にとんでもない快進撃の真っ只中にいると言ってもいいだろう。
そんな夢の一つであるリキッドルームワンマンの最後に演奏されたのは、すでにこの日アコースティックでも演奏された「シェキララ」。それをこうして通常の編成でもちゃんと演奏してくれるというあたりにこのバンドのサービス精神というか、Motoも口にしていた目の前にいてくれる全ての人への至上の愛情を感じられる。アレンジとはいえ同じ曲を2回やるわけで、ひねくれてるバンドだったらアコースティックでやったから通常ではやらないということだってあるはずだ。
それでも演奏されたこの曲のイントロのLilyの体全体を思いっきり使い切るように鳴らされたリフは、やっぱりこれが聞きたかった!と誰もが思うようなキャッチーさであり、Motoはもうこの衝動や楽しさを抑えることができないとばかりにステージ上をところ狭しと走り回りながら歌う。歌うのが楽しくて仕方がない無邪気な子供のようですらあるが、そのMotoはもちろん、LilyとMaikaもスクールでボーカルをやっていたこともあってコーラスも歌唱も本当に上手い。そんな3人がこのバンドに揃ったのは本当に奇跡的と言えるバランスだ。その3人の衝動と楽しさがロックバンドとしての熱狂として最後の最後に極まった演奏によって客席もこの日最高の熱狂を生み出していた。演奏後に観客を背に初ワンマンをやり遂げた証としての写真を撮るメンバーの姿を見て、もっとこうしてシェキララしていたい、そんなことを思っていた。
このバンドがデビューしたのが2021年。つまりはコロナ禍の真っ只中。初めから制限がある中でのライブであり、そもそもライブをちゃんと行えるのかどうかも確証がないような状況。きっと2020年以降にデビューしたバンドたちは自分たちの音楽やパフォーマンスだけではなくて常にそうした社会の状況とも向き合わなくてはいけなくなってしまった。そうした状況によってデビューしてすぐに解散したりメンバーが脱退したりというバンドもいたと思うし、コロナ前のようにライブに人が集まらないという言説を見る機会も増えた。コロナになったことによってライブ以外の趣味や楽しみを見つけた人もたくさんいると。
でもこの日のChilli Beans.のメンバーの演奏と満員のリキッドルームの熱狂っぷりを観ていて、「ああ、きっと大丈夫だ」と思った。こういうバンドがいてくれることによって、若い人たちもこれからもライブハウスに足を運んでくれるし、その熱狂が消えてしまうこともない。少し先の未来にはもしかしたらコロナになる前よりももっと楽しいと思える光景をたくさん見ることができる。
そんなこれからの音楽シーンを照らしていくことになるであろう光をメンバーの放つ圧倒的なポジティブさを確かに感じることができた(それが1番嬉しかったことかもしれない)、Chilli Beans.の初ワンマンだった。これからこのバンドの光はどんなところまで照らしてくれるのだろうか。
1.See C Love
2.neck
3.It's ME
4.Vacance
5.HAPPY END
6.L.I.B
7.アンドロン
8.シェキララ (アコースティック)
9.call my name (アコースティック)
10.新曲
11.This Way
12.blue berry
13.Digital Persona
14.Tremolo
15.lemonade
16.School
encore
17.マイボーイ
18.シェキララ
満員のリキッドルームの客席にはやはり10代や20代くらいの若い観客が本当に多い。自分たちの新しいヒーローとしてこのバンドを見ている人もたくさんいるんだろうと思うし、だからこそ客席から放たれている空気が新鮮な、ワクワクしたものに満ちている。それがどこかステージに立つメンバーの姿のように眩しくも感じられる。
19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると、サポートドラマーのYuumiとともにメンバーがステージに登場。ジャケット着用のLily(ギター)、ヘソ出しルックのMaika(ベース)、サングラス着用のMoto(ボーカル)と三者三様の出で立ちであるのだが、やはり総じてスタイリッシュというか、カッコいいなと思えるようなシルエットになっており、その姿が照明によって照らされることによって、観葉植物や木製の棚などが置かれた、ライブタイトル通りに「Room」というものになっていることがわかる。背面の手書きのバンドロゴ、Lilyの後ろの「I can not be doll」という「School」のフレーズを描いたバンドの信念とも言えるような言葉。まさにChilli Beans.の部屋に我々観客が招かれたかのようなステージの作りになっている。
そんなステージ上でMotoが早くも体を思いっきり揺らしながら歌い始めたのはラブシャでのライブでも最初に演奏されていた「See C Love」であるのだが、Motoの歌唱が低めのキーであるのもそうであるが、とにかくサウンドの重心が低い。MaikaもLilyも屈むようにして演奏することによって生じるグルーヴによってMotoもそれに心地良さそうに身を任せ…というバンド内の相乗効果が早くも発生している。どちらかというとそうしたグルーヴによって体を揺らすというミドルテンポの曲であるのだが、客席ではたくさんの観客が腕を上げている。ステージを動き回ることによって観客の近くで相対するMotoも、体ごとうねらせるようなLilyとMaikaもその観客の姿を見てより笑顔になっているのがよくわかる。1曲目からリキッドルームが実に幸せな空気に包まれている。
そのバンドのグルーヴはYuumiのドラムによってさらに強くなっていることがすぐにわかる「neck」では歌詞中の「ふたり」のフレーズでMotoが二本指を突き出してみせる中、Maikaのコーラス的な歌唱も聴けるのであるが、そのビジュアルの良さだけではないこのバンドが醸し出しているオーラはまだアルバム1枚しかリリースしていないバンドであるにもかかわらず「絶対このメンバーじゃないと成り立たない音楽とバンドだな」ということが伝わってくるし、ことライブにおいてはYuumiの存在も含めたこの4人だからこそのものだ。それくらいにステージの作りもメンバーの表情もフレンドリーでありながらも、このステージの上には絶対に誰も加われない、代われないものがあることがよくわかる。
そんなこのバンドの姿や立ち振る舞いからも伝わってくるような芯の強さをそのまま歌詞にしたかのような「It's ME」がよりこのバンドのロックさを感じさせてくれる。なかなかイメージだけだと「ロック」というよりもあらゆるサウンドを取り入れたポップミュージックという感じもするバンドであるが、ライブを観て感じるのはやはりそのロックバンドとしてのカッコ良さを感じさせるサウンドとグルーヴである。
そんなロックさを感じさせながらも、タイトルからもわかるような少しチルな要素も取り入れた「Vacance」ではもちろん心地良さも感じるのだけれど、ただその心地良さに酔うというだけではなくて、サビでは観客の腕が上がっているという光景が、そうしたサウンドを取り入れてもこのバンドからは同居する熱さを感じさせるようなものになるということがよくわかる。それはメンバーの表情とアクションが須く「楽しい」という感情に満ち溢れているからこそである。
ラブシャの時もMCなしでひたすら曲を連発するというスタイルだったのだが、それは持ち時間が短いからこそかと思っていたのだが、この日も簡単な挨拶くらいのMCにとどめて、ストレートなロックサウンドに乗ることによってMotoの歌声も一層伸びやかになる。この歌声は初ライブからまだ1年半未満というライブ歴ながらもすでに「ライブで目の前の人に伝えるために歌う」ということを肉体と精神の両方が無意識的にわかっているかのようにすら感じる。
「ゆったりと、楽しんで」
と言って演奏された「L.I.B」はMaikaとLilyによるコーラスフレーズの「Life Is Business」の頭文字を取った、どこかチルというよりは牧歌的とすら思えるサウンドの曲なのであるが、Motoが歌いながら親指と人差し指で金のマークを作るのが実に面白いというか、なかなかこうしたパフォーマンスをするバンドもいない。それはロックバンドとは金稼ぎとは無縁という価値観が強い存在だからであるが、この曲はむしろそうした金儲け主義的なものへの皮肉というか、絶対に自分たちの魂は売らない、自分たちの生き方は曲げないという強い決意が綴られた歌詞でもある。ライブ自体のテンポが実に良いだけに、幅広いサウンドの曲がこうして次々に演奏されるというのは超高速で空を飛んでいるが故に目の前の景色が次々に変わっていくかのようだ。
それだけの幅広さを持ちながらも全くとっ散らかったようには感じないのはここまでで何度も触れているグルーヴの強さとともに、Motoの曲によってキーや声色を変える変幻自在な歌唱法あってのものだと思うのは、削ぎ落とされまくったサウンドのメロからサビで一気にLilyのノイジーなギターが響き渡る「アンドロン」。この曲こそが、見た目だけではなくてサウンドもオシャレなバンドかと思ったらむしろサウンドはめちゃ厚く熱いというこのバンドの真髄を感じさせてくれる曲だとも思っている。
するとここまで曲間も機材チェンジもほとんどなかったメンバーたちがいったん楽器を下ろすと、スタッフたちがいそいそとセッティングを行い、ステージには前に並ぶように椅子が置かれるとメンバーはそこに座り、
Maika「前まで毎週土曜日にインスタライブをやっていて。そこで海外のアーティストのカバーとかアコースティックをやっていた。今日は久しぶりにアコースティックで何曲かやります」
と言うとLilyがアコギ、Yuumiもカホン、Maikaはエレキベースだけれど一つ一つの音を刻むようにしてアコースティック編成で演奏されたのは「シェキララ」。この形だからこそ際立つのはもちろんメロディの良さであるのだが、Motoはアコースティック編成であっても椅子から立ち上がって歌う。それくらいに今ここでメンバーが鳴らしている音に体が反応してしまうのだろう。そういう意味ではこのバンドの音楽を最も必要としているのは彼女なのかもしれない、とも思った。
さらにはMaikaもベースを下ろしてコーラスという形になることによって、Lilyの爪弾くギターとYuumiのカホンだけという究極に削ぎ落とされたアコースティック形式で演奏されたのは、1stフルアルバムの最後に収録された曲である「call my name」。もともと音源でもこうしたサウンドで収録されていた曲であるが、こうした通常のバンドサウンドとは違う形で見れるというのはワンマンならではであるし、インスタライブでこうした形でのライブを発信していたということは、なかなかライブができないような世の中の状況の中でもこのバンドは聴いてくれている人たちに自分たちの音楽を、鳴らす姿とともにしっかり届けたいと思っていたということだ。
「インスタライブの時はスマホでキャンプファイヤーの映像を流しながらやってたんだけど、いつか野外でキャンプファイヤーしながらこういうライブやりたいよね」
と演奏後に言っていたが、それが実現して我々がキャンプファイヤーを取り囲むメンバーの周りに集まるという形で見るライブはさぞや最高だと思うし、コロナ禍になったことでそうした青春を送れなくなった若い人もたくさんいると思う。そんな人がこのバンドのライブでこのバンドを好きな人たちと青春を過ごすことができたら実に幸せなことだよなと思う。
そんなアコースティックから通常のバンドの編成に戻るのだが、ここで演奏されたのは新曲。とはいえこの曲は結成して間もない頃に作られた曲であるらしい。音源化している曲の中にはないくらいのダークさを感じさせる、己の内面に深く潜っていくようなサウンドは暗いステージで棒状の照明が光ることによって、一気にRoomが真夜中に1人で音楽を聴いているような情景になったかのように引き込まれていく。バンド結成時に生み出されていながらもまだ音源化されていないということはこのアレンジに至るまでに変遷を遂げてきたということなのだろうか。間違いなく今までにないChilli Beans.の一面を見せてくれる曲である。
そんな新曲を終えたあたりでMotoはサングラスを外す。ここから後半戦さらに攻めるという意識の現れだろうけれど、Maikaのベースがよりうねりまくる「This Way」からはその意識通りにバンドのグルーヴがさらに強固になっている。「blue berry」も含めてMotoのボーカルもそのバンドのグルーヴの重心の低さに合わせてキーを低くしているのであるが、その曲に合わせて声を変える表現力がここにきてさらに見事になっているという感すらある。
そうしてさらにグルーヴを強化したからこそ、シングル盤収録の「Digital Persona」のまさにデジタルサウンドを取り入れたことによるダンスロックでメンバーも飛び跳ねながら演奏し、観客もその場で飛び跳ねまくる。その光景を見て、この曲がこんなにライブで真価を発揮する曲だったんだと思いつつ、ライブハウスはこうあり続けて欲しいなと思った。いつだってこれから先の音楽シーン、ロックシーンを担う若いバンドがステージに立って演奏していて、観客たちがそのバンドの放つ衝動を自分たちの熱狂に変えている。こんな幸せな空間はそうそうないよなと少し感動すらしてしまうくらいに。
さらにバンドのグルーヴは極まっていくのが、Maikaのソロ的なベースから始まってセッション的な演奏が追加された「Tremolo」。サビではMotoが観客を解放させるように腕を左右に振り、観客もそれに合わせて腕を振るのであるが、そうして腕を振りながらもMotoとLilyがMaikaの方へ寄っていって身を寄せ合いながら演奏する姿は、
「私たちなら絶対どんなことでも大丈夫だと思ってやってきた」
というMaikaがこの日口にした思いがそのままパフォーマンスとして現れているかのようですらあったし、そんな頼もしさとともにやはり満面の笑みで楽しそうに演奏しているというのが我々観客をもさらに楽しくさせてくれるのだ。
そんな中でステージが黄色い照明に照らされる中で演奏されたのはもちろん「lemonade」。スクールの仲間であるVaundyと共作したこの曲がこのバンドの持つ天性のキャッチーさをさらに引き出すというのは、曲中にメンバー3人がリズムに合わせて左右にステップをするという見ているだけで楽しくなるようなパフォーマンスにも現れている。(ステップができないYuumiも叩きながら顔や体を左右に動かしてメンバーとシンクロしている)
そのステップが客席にも広がっていく光景を見ると、もちろんこちら側もメンバーと一緒にこの曲を作っているという楽しい気分になるのであるが、もっと大きな会場でたくさんの人でこのステップを踏んだらどんな景色が見えるんだろうとも思う。それはきっとまたすぐに目にすることができるようになるはずだ。
まさに駆け抜けるというような、余計な時間が全くない、ただひたすらにその楽しさを鳴らしている音楽とその姿だけで示すかのような、ストイックを極めることが楽しさに繋がるとでもいうようなライブは本当にあっという間に、よく言うように体感的には一瞬で最後の曲に。メンバーも名残惜しそうにしながら、Motoがギターを弾きながら演奏されたのは「School」。
Motoがグルーヴを強めた曲とは真逆と言っていいくらいにハイトーンなボーカルを響かせると、その声に1番合うサウンドを理解しているかのようにLilyのギターは一気にノイジーになっていく。この曲で歌われている歌詞もまた、彼女たちがスクール時代、さらにはその前に義務教育を受けてきた頃から抱き続けてきたものなんだと思う。その最後のフレーズにこの日ステージに飾られていた
「I can not be doll」
という言葉があるからこそ、どんなにビジュアルが良くてそうした部分ばかりを押されそうになっても消費されることなくロックバンドとして自分たちがやりたいことだけを突き詰めて、それを楽しく鳴らしていくというこのバンドの核が見えた気がした。それは初めてのワンマンだからこそ見ることができたものと言っていいだろう。そんな瞬間に立ち会えたことが本当に幸せだと思っていた。
アンコールを求める手拍子が鳴り響き続けていると、バンダナを巻いてサングラスをかけるというどこかパリピな出で立ちになったYuumiが走ってステージに登場してきて、そのままドラムを叩き始める。そこに順番にこの日のライブTシャツに着替えたメンバーたちがステージに現れて音を重ねていくことによってバンドの音になっていく。最後に現れたMotoはギターを持って弾きながら、LilyのギターとMaikaのベースがハモることによってポップさを生み出す「マイガール」を歌い始めるのであるが、Motoはギターを弾きながらでも踊るようにして歌うというあたりに天性のシンガー感というか、鳴っている音に反応せずにはいられないという感じすらある。
そんな楽しさが溢れまくったこの日のライブTシャツのデザインを解説しつつ、Yuumiのバンダナはバンドの名前の元ネタにもなったRed Hot Chilli Peppersのものであることが明かされ、さらにはMaikaはかつてデビューするにあたって、ライブをやりたい会場や出たいフェスなどの夢を3人で紙に書き出したことがあり、その中にあった
「リキッドルームでワンマンをやる」
という夢がこの日こんなに早いタイミングで叶ったことによって感慨深さを口にしていた。初ワンマンがリキッドというのも凄いけれど、しかもすでに決まっている次のツアーの東京は豊洲PITである。本当にとんでもない快進撃の真っ只中にいると言ってもいいだろう。
そんな夢の一つであるリキッドルームワンマンの最後に演奏されたのは、すでにこの日アコースティックでも演奏された「シェキララ」。それをこうして通常の編成でもちゃんと演奏してくれるというあたりにこのバンドのサービス精神というか、Motoも口にしていた目の前にいてくれる全ての人への至上の愛情を感じられる。アレンジとはいえ同じ曲を2回やるわけで、ひねくれてるバンドだったらアコースティックでやったから通常ではやらないということだってあるはずだ。
それでも演奏されたこの曲のイントロのLilyの体全体を思いっきり使い切るように鳴らされたリフは、やっぱりこれが聞きたかった!と誰もが思うようなキャッチーさであり、Motoはもうこの衝動や楽しさを抑えることができないとばかりにステージ上をところ狭しと走り回りながら歌う。歌うのが楽しくて仕方がない無邪気な子供のようですらあるが、そのMotoはもちろん、LilyとMaikaもスクールでボーカルをやっていたこともあってコーラスも歌唱も本当に上手い。そんな3人がこのバンドに揃ったのは本当に奇跡的と言えるバランスだ。その3人の衝動と楽しさがロックバンドとしての熱狂として最後の最後に極まった演奏によって客席もこの日最高の熱狂を生み出していた。演奏後に観客を背に初ワンマンをやり遂げた証としての写真を撮るメンバーの姿を見て、もっとこうしてシェキララしていたい、そんなことを思っていた。
このバンドがデビューしたのが2021年。つまりはコロナ禍の真っ只中。初めから制限がある中でのライブであり、そもそもライブをちゃんと行えるのかどうかも確証がないような状況。きっと2020年以降にデビューしたバンドたちは自分たちの音楽やパフォーマンスだけではなくて常にそうした社会の状況とも向き合わなくてはいけなくなってしまった。そうした状況によってデビューしてすぐに解散したりメンバーが脱退したりというバンドもいたと思うし、コロナ前のようにライブに人が集まらないという言説を見る機会も増えた。コロナになったことによってライブ以外の趣味や楽しみを見つけた人もたくさんいると。
でもこの日のChilli Beans.のメンバーの演奏と満員のリキッドルームの熱狂っぷりを観ていて、「ああ、きっと大丈夫だ」と思った。こういうバンドがいてくれることによって、若い人たちもこれからもライブハウスに足を運んでくれるし、その熱狂が消えてしまうこともない。少し先の未来にはもしかしたらコロナになる前よりももっと楽しいと思える光景をたくさん見ることができる。
そんなこれからの音楽シーンを照らしていくことになるであろう光をメンバーの放つ圧倒的なポジティブさを確かに感じることができた(それが1番嬉しかったことかもしれない)、Chilli Beans.の初ワンマンだった。これからこのバンドの光はどんなところまで照らしてくれるのだろうか。
1.See C Love
2.neck
3.It's ME
4.Vacance
5.HAPPY END
6.L.I.B
7.アンドロン
8.シェキララ (アコースティック)
9.call my name (アコースティック)
10.新曲
11.This Way
12.blue berry
13.Digital Persona
14.Tremolo
15.lemonade
16.School
encore
17.マイボーイ
18.シェキララ