メレンゲ ワンマンライブ @月見ル君想フ 9/8
- 2022/09/09
- 18:12
つい2週間前にも新宿LOFTでワンマンライブを見たばかりであるが、こうしてすぐに開催されるワンマンにも足を運んでしまうのは、かつて何年も全くライブをやらなかったり活動してない時期があったバンドだからである。だからこそ、見れる時にライブを見ておきたい。あの思い入れのある、珠玉の名曲たちを少しでも多くライブで聴きたい。自分にとってそんな存在のバンドである、メレンゲ。ここ2年ほどはやはりほとんど活動していなかったのが、ここにきて少しずつではあるが活発な活動になりつつある。
もはや「メレンゲ、あるいはそのボーカルのクボケンジのソロライブで訪れる場所」になりつつある、青山月見ル君思フに久々に入ると、ステージ背面の巨大な満月は健在。この満月がメレンゲがこの会場が事態によく似合うと思う理由の一つである。
19時を少し過ぎたあたりでステージにメンバーが登場。タケシタツヨシ(ベース)が先頭で現れるのもおなじみであるが、小野田尚史(ドラム)、松江潤(ギター)、山本健太(キーボード)というサポートメンバー3人を加えての5人編成というのもすっかりおなじみのものである。
「メレンゲです今日はありがとうございます!」
といつものようにハットを被ったクボケンジが挨拶してから、小野田が連打するドラムがライブという精神の旅の始まりを告げるように鳴らされるのは
「必ず会えそうな気がする」
「迎えにいくよ 待っててね」
というフレーズがバンドの目の前にいる我々観客に向けて歌われているかのような「旅人」。ここ1月あたりでソロも含めて何本かライブをやっているとはいえ、他のバンドに比べたらそこまでライブを多くやっているわけではないにもかかわらず、クボの歌声はそうしたライブをやっていないブランクを全く感じさせることはない。それは最初は少し緊張感も感じられたバンドの演奏もそうである。いつ見てもメレンゲのライブはライブの勘やダイナミズムのようなものを失うことはない。それはどれだけ年数が空こうが、メンバーが変わろうが変わることはないということを、決して順風満帆とは言えなかったとはいえ、この活動期間に見てきたライブが証明している。
このオープニングからして2週間前の新宿LOFTとは全く違うものであるのだが、空気が引き締まるようなギターのイントロとともにクボが歌い始めたのは実に久しぶりの「カメレオン」。クボの儚さや切なさを感じずにはいられないボーカル、そこに高音を重ねるタケシタのコーラス、ギターロックバンドとしてのメレンゲを感じさせてくれる松江のギター、曲を再現する上では欠かせない山本のキーボードの音色、1番曲を覚えるのが大変でありながらも全く違和感を感じさせない小野田のドラム。この曲に必要なメレンゲの音が全て過不足なく鳴らされている。だからこそこの名曲を名曲のまま、さらには今のメレンゲの不朽の名曲として鳴らし、我々が感じることができている。その名曲っぷりに反応するように観客は最序盤から腕を上げている。雨が降ることもなく、随分涼しさを感じるようになったこの日でもどこかこの会場の中は暑さを感じさせる。
それは前回のライブでももちろん演奏されていた、メレンゲ屈指の至上の名曲である「きらめく世界」でも同様であるが、クボは最後のサビで前回のライブ以上に、というかこれまでのキャリアのライブの中でもトップクラスに声を張り上げるようにして歌っていた。それによってハイトーン部分が少しキツそうに感じるところもあったのであるが、そうした歌唱の上手さよりももっと伝えたいもの、ライブという場だからこそ表現したいものが確かにある。そんなことを感じさせるような歌唱だった。そこにメレンゲの年齢やキャリアを重ねても失われていないものを確かに感じていた。
クボは曲間にいきなりタケシタにMCを振ったりするのであるが、やはりすでにより緊張していたという新宿LOFTでワンマンんやったばかりということもあり、この日はその時にはやらなかった曲もやるという旨のことを口にすると、実際に山本の浮遊感とともにポップさを感じさせるようなキーボードの音色に導かれるようにして始まったのは実に久々の「匂い玉」。
「今、キミによって 創られる僕」
というサビの締めのフレーズの直前のファルセットコーラスはかつてはクボが担っていたものであるが、今はそこをタケシタが担うことによってクボがメインの歌唱に専念できているし、そもそもいくらでもソロで活動できるクボがメレンゲであることをやめようとしないのはこのタケシタの存在があるからだろう。この2人でいるからこそ、こうしてメレンゲとしてあり続けることができている。そんなバンドの力をクボは今でも信じているのかもしれない。
「だいぶ温まってきましたね。まだまだ夏は終わらないっていう思いを込めて演奏します!」
と言って鳴らされたのは、曲中のキメで何度も松江のギターとタケシタのベースが振り下ろされるように動く「ソト」。ステージ背面の満月も夕暮れの空に微かに浮かぶ月のように、赤い照明に照らされる。そうした演出がまだ夏が終わっていないと感じさせるのはこの会場ならではであるし、決してBPMが速いわけではない(むしろ遅いと言える)この曲が夏を感じさせるというのも、実は数々の夏ソングを生み出してきたバンドであるメレンゲならではの幅の広さである。
その重さを感じさせるバンドサウンドがさらに重さと深さを強く感じさせるのは「忘れ物」であり、爽やかなギターロック・ポップというイメージも強いメレンゲの中でも屈指のノイジーさを持つサウンドの曲と言える。そしてそうした曲を鳴らしているのが今でもカッコいいと思えるライブをメレンゲはできている。
松江の刻むギターの音が少しずつ大きくなっていき、それがイントロに繋がっていくというライブならではのアレンジが施された「アルカディア」が再びここからライブが始まっていくかのように壮大な空気を持って響き渡ると、
クボ「昔は対バンライブが嫌だったなぁ(笑)結構ギターロックバンドと当てられることが多くて。もちろん我々もそうなんだけど、音圧が完全に他のバンドに負けてたから(笑)」
タケシタ「そこだけで勝負してないっていう意識も当時はあったしね」
と、駆け抜けるように曲を連発していくライブだからこそ、かつて全然普段はそういうタイプではないのに頑張って観客を盛り上げようとしていたというクボに拍手が送られると、コーラスフレーズではサポートメンバーも含めたコーラスが重なり、間奏ではクボがオリエンタルな空気を感じさせるギターソロを弾く「CAMPFIRE」へ。これは明らかにここから後半戦が始まるという合図でもあるだろう。
そんな後半戦には
「元々は提供した曲なんですけど、自分でカバーすることによって大事な曲になった」
と紹介された、新垣結衣に提供した「写し絵」も演奏される。もちろんサウンドはメレンゲだからこそのロックバンドさを増したものになっているのだが、あんな国民的大女優と言っていいような存在の人がクボの作った曲を、メレンゲの曲を歌ってくれて、それがちゃんとヒットしたというあたりにメレンゲが名曲を作り続けてきたということが現れている。それが今こそより強くそう感じるというのは、新垣結衣を抜きにしても今目の前で鳴らされている曲がどう聴いても名曲としか言えない曲だからである。
今やあいみょんを始めとしたあらゆるアーティストのサポートメンバーでもある山本がメジャーデビュー期のメレンゲならではの浮遊感を感じさせるサウンドを奏で、それがセッション的に展開してイントロへと繋がっていく「願い事」では曲が進むにつれてタケシタのキメのアクションが大きく激しくなっていき、それがそのままバンドのグルーヴをより強くしていく。それが今でもこうしてライブをやることによってメレンゲは確かに進化を果たしていると思える。
そんな山本が満面の笑みを浮かべながらクボとタケシタの方を見ながらキーボードを弾き、小野田もこの曲が好きなんだろうなと思わせてくれるくらいの笑顔で演奏されたのは、ついにこの会場の満月を背後にして演奏された「ムーンライト」。
「ああ ムーンライト
あの子のほほを照らせるかい?
未来へ導いてムーンライト
ここへきてもっと 夢をみせておくれよ」
というフレーズが、かつての日比谷野音ワンマンの時のようにこの情景にバッチリハマる形で鳴らされる。それはサポートメンバーたちもメレンゲというバンドを、この曲を心から愛してくれているのがわかる演奏を見せてくれるからこそであるが、そうしたライブを見ることができることによって、これからもメレンゲというバンドで夢を見ることができると思える。またこうしてライブでこの曲や、この曲以外の名曲を聴くことができますようにと。
そんなメレンゲは前回の新宿LOFTでのライブ時に「次のライブでは新曲をやる」と口にしていた。その予告通りに演奏されたのは実に2年半振りとなる新曲の「アクアカイト」。小野田による軽快なキックの四つ打ちも、2人で車で(あくまで大人数ではないのがメレンゲならでは)海に向かう情景が思い浮かぶ歌詞も、こうして20年近い歳月を重ねてきて、音楽的な変遷も果たしてきた今のメレンゲでの「きらめく世界」と言えるような曲だ。それはどれだけ年月が経とうが時代が変わろうが、メレンゲのキャッチーさ、ロックバンドとして鳴らすポップミュージックの魔法が失われていないという証拠だ。
「みんなも待っててくれたと思う。これからもライブでこの曲を育てていけたら」
と言うように、この曲が演奏された後の拍手は本当に大きかった。みんな、ずっとこうしてメレンゲの新しい曲が聴けるのを待っていたのだ。言葉には出せなくてもその拍手の大きさが確かにそれを伝えてくれる。それはメレンゲがこれからも止まることなく進み続けていくということを示すものでもあるから。そう思えるのが本当に嬉しいのである。
さらにはクボに
「ギター、松江潤!」
と紹介された松江がステージ前に出てきてイントロを弾きまくり、さらにはなんとクボと背中を合わせるようにしてギターを弾くというロックバンド的なパフォーマンスが見れたのは「アンカーリング」。小野田のリズムに合わせるように観客が手拍子をするのも実に楽しいのであるが、アッパーな曲であるだけに歌うのがキツいと思われるクボもやはり少しキツそうになりながらもしっかり歌い切ってみせる。そこにはこうしてライブに来てくれている、見てくれている人のために100%の力を振り絞ろうという想いが感じ取れる。だからよりライブそのものがエモーショナルに感じられるものになっているのだ。
そんな中でクボがこの日初めてアコギに持ち替えると、
クボ「今のうちにやっておかないと。やり納め?(笑)」
タケシタ「やり慣れていくんじゃないの?(笑)」
というやり取りによって演奏されたのは前回のライブでも演奏されていた「彼女に似合う服」。そのクボのアコギが実に優しく暖かい音を奏でるのであるが、
「どうでもいいやり取りがでも今日でついに宝物
別れ際驚いた そんな服を着てたんだなぁ」
というサビの歌詞含めて、聴いていて一瞬でその情景が浮かぶ、その曲の世界に入り込むことができる。これぞメレンゲの曲、音楽の力である。
そのままクボがアコギを弾いて歌うのはまだ夏と言えるようなこの時期ならではの「8月、落雷のストーリー」。「彼女に似合う服」もそうだが、まさかこの曲をこんなに短いスパンでライブで聴けるなんて思わなかった。気付けばタケシタだけではなくて山本も松江もコーラスに参加している。活動自体は細々としたものになっているかもしれないけれど、いろんなアーティストのプロデュースやアレンジ、ライブサポートで活躍している人たちがこんなにもメレンゲというバンドに愛と技術を注いでくれている。このメンバーでメレンゲの曲を演奏する、その全てが本当に心から楽しそうだから、見ているこちらまで楽しく、そして笑顔になるのだ。
すでにLOFTの時の本編の曲数を超えているが、それも少しずつではあるがライブ慣れしてきているということでもあるだろう。そんなこの日の最後にはタケシタが小野田のリズムに合わせて手拍子をし、それが客席にも広がっていくことによって、控え目極まりないメレンゲファンの中にも微かな、でも確かな一体感を感じさせてくれる「クラシック」。ロックというよりはポップのど真ん中で鳴っていてもおかしくないようなサウンドとメロディに乗る
「いつだって精一杯笑う君に 恋をしたあの夏の日」
という歌詞もやはり夏だ。LOFTの時もメレンゲは今この季節に自分たちがやるべき曲をしっかりと見定めて、それを我々の目の前で鳴らしていた。少しだけいろんなところに行けるようになった2022年の夏に我々がメレンゲと同じ時間を過ごした記憶を刻みつけるかのように。だから春夏秋冬どんな季節でもこうしてメレンゲのライブを見たいと思うのだ。
割とすぐにアンコールに再びメンバーが登場すると、2人は毎回曲をしっかり覚えてきてくれる小野田を労うとともに、かつてオトナモードというバンドで共に活動していた山本がこのバンドに小野田を誘ってくれたことによって、
クボ「解散しても仲良いもんなの?(笑)」
山本「ここは普通に仲良いかな」
タケシタ「ここはって(笑)」
と若干含みを持たせながらも、こうしてバンドとして久しぶりにライブをやったことによって確かな手応えを感じたようで、
クボ「また早くライブやりたいね」
タケシタ「年内にもう1回くらいワンマンやりたいね〜」
というやり取りも。
タケシタ「みんな、来てくれる?」
という言葉の後に湧き上がった拍手の大きさは、ここにいた人たちがもうメレンゲというバンドの存在なしでは生きていけないことを物語っていた。何年も活動の間隔が空いても、ずっとこうやって忘れることなくライブに来続けている人たちばかりなのだから。
そんなやり取りの後にクボがエレキギターを優しく触るように鳴らす。夕暮れを思わせるような淡い照明がそのクボを照らしながら、囁くように、でもしっかりと歌詞の言葉が聴こえるように歌い始めたのは「初恋サンセット」。
この曲は、こうしてライブで聴くたびに涙が出てきてしまう。2006年のロッキンのWING TENT、自分が初めて見たメレンゲのライブで最後に演奏したときのことを今でもはっきりと覚えていて、その光景を、蝉が鳴いている音すら聞こえていたことも思い出すことができるからだ。
でもそれは「あの時に戻った」っていうような後ろ向きなものではない。あの頃にまだ若手だったメレンゲが、今のメンバーで自分の目の前で演奏しているように、あの頃はまだ学生だった自分のままであの時のライブを観ているかのような感覚になる。
そう感じられるのはメンバーが変わりながらも、長い期間活動していなくても、こうして今のメレンゲのライブが素晴らしくて、それを見ていることができることが本当に幸せだと感じることができているからだ。
「どこまでも続くヒコーキ雲をみて
「空が割れちゃうわ」って君が言う」
という1コーラス目の2人が空を見上げながら会話している内容が、
「途切れはじめてるヒコーキ雲をみて
「子供騙しだわ」って君が笑う」
と曲の最後には変化する。そこに漂う文学感も、まるで1本の映画をそのまま歌詞にしたかのような情景喚起力も、あの頃と全く変わっていない。あれから16年経ってもこの曲で他に言いようのないメレンゲとの夏を過ごしている。
当時、メレンゲはロッキン以外にもいろんなフェスやイベントに出ていた。きっと自分のようにそうした人もたくさんいるはず。この日演奏された数々の曲も、この日演奏されなかった「夕凪」や「午後の海」も、メレンゲには実は夏の曲が非常に多い。それはこの日演奏された新曲もそうだった。そんな実は夏バンドだからこそ、またいつかこの曲たちを野外で聴くことができたらな、なんて淡い夢を抱いている。
この日、客席の割と後ろの方で見ていたら、男性の観客が昔よりも少し増えたなと思った。それは母数が減ったことによって目立つようになったのかもしれないけど、ただ自分よりも若そうな男性が、女性と一緒に来たというのではなくて男性同士、男性1人で来ている人ばかりだった。
彼らはどこでどうやってメレンゲの音楽に出会って、こうしてわざわざ追いかけていないと情報が入って来ないようなライブに来るようになったんだろうか。ライブ中のリアクションも「テレビ番組で川谷絵音が紹介していたから来た」というものではないくらいに、メレンゲの曲をちゃんと知っているとわかるものだった。
かつてはクボが「隠れキリシタン」と呼ぶくらいにメレンゲのライブには男性が少ないというのがネタになりつつあったけれど、彼らがかつての自分と同じように、メレンゲのことをカッコいいギターロックバンドだと思っていてくれたら。自分は今でもずっとそう思っているから。
1.旅人
2.カメレオン
3.きらめく世界
4.匂い玉
5.ソト
6.忘れ物
7.アルカディア
8.CAMPFIRE
9.写し絵
10.願い事
11.ムーンライト
12.アクアカイト (新曲)
13.アンカーリング
14.彼女に似合う服
15.8月、落雷のストーリー
16.クラシック
encore
17.初恋サンセット
もはや「メレンゲ、あるいはそのボーカルのクボケンジのソロライブで訪れる場所」になりつつある、青山月見ル君思フに久々に入ると、ステージ背面の巨大な満月は健在。この満月がメレンゲがこの会場が事態によく似合うと思う理由の一つである。
19時を少し過ぎたあたりでステージにメンバーが登場。タケシタツヨシ(ベース)が先頭で現れるのもおなじみであるが、小野田尚史(ドラム)、松江潤(ギター)、山本健太(キーボード)というサポートメンバー3人を加えての5人編成というのもすっかりおなじみのものである。
「メレンゲです今日はありがとうございます!」
といつものようにハットを被ったクボケンジが挨拶してから、小野田が連打するドラムがライブという精神の旅の始まりを告げるように鳴らされるのは
「必ず会えそうな気がする」
「迎えにいくよ 待っててね」
というフレーズがバンドの目の前にいる我々観客に向けて歌われているかのような「旅人」。ここ1月あたりでソロも含めて何本かライブをやっているとはいえ、他のバンドに比べたらそこまでライブを多くやっているわけではないにもかかわらず、クボの歌声はそうしたライブをやっていないブランクを全く感じさせることはない。それは最初は少し緊張感も感じられたバンドの演奏もそうである。いつ見てもメレンゲのライブはライブの勘やダイナミズムのようなものを失うことはない。それはどれだけ年数が空こうが、メンバーが変わろうが変わることはないということを、決して順風満帆とは言えなかったとはいえ、この活動期間に見てきたライブが証明している。
このオープニングからして2週間前の新宿LOFTとは全く違うものであるのだが、空気が引き締まるようなギターのイントロとともにクボが歌い始めたのは実に久しぶりの「カメレオン」。クボの儚さや切なさを感じずにはいられないボーカル、そこに高音を重ねるタケシタのコーラス、ギターロックバンドとしてのメレンゲを感じさせてくれる松江のギター、曲を再現する上では欠かせない山本のキーボードの音色、1番曲を覚えるのが大変でありながらも全く違和感を感じさせない小野田のドラム。この曲に必要なメレンゲの音が全て過不足なく鳴らされている。だからこそこの名曲を名曲のまま、さらには今のメレンゲの不朽の名曲として鳴らし、我々が感じることができている。その名曲っぷりに反応するように観客は最序盤から腕を上げている。雨が降ることもなく、随分涼しさを感じるようになったこの日でもどこかこの会場の中は暑さを感じさせる。
それは前回のライブでももちろん演奏されていた、メレンゲ屈指の至上の名曲である「きらめく世界」でも同様であるが、クボは最後のサビで前回のライブ以上に、というかこれまでのキャリアのライブの中でもトップクラスに声を張り上げるようにして歌っていた。それによってハイトーン部分が少しキツそうに感じるところもあったのであるが、そうした歌唱の上手さよりももっと伝えたいもの、ライブという場だからこそ表現したいものが確かにある。そんなことを感じさせるような歌唱だった。そこにメレンゲの年齢やキャリアを重ねても失われていないものを確かに感じていた。
クボは曲間にいきなりタケシタにMCを振ったりするのであるが、やはりすでにより緊張していたという新宿LOFTでワンマンんやったばかりということもあり、この日はその時にはやらなかった曲もやるという旨のことを口にすると、実際に山本の浮遊感とともにポップさを感じさせるようなキーボードの音色に導かれるようにして始まったのは実に久々の「匂い玉」。
「今、キミによって 創られる僕」
というサビの締めのフレーズの直前のファルセットコーラスはかつてはクボが担っていたものであるが、今はそこをタケシタが担うことによってクボがメインの歌唱に専念できているし、そもそもいくらでもソロで活動できるクボがメレンゲであることをやめようとしないのはこのタケシタの存在があるからだろう。この2人でいるからこそ、こうしてメレンゲとしてあり続けることができている。そんなバンドの力をクボは今でも信じているのかもしれない。
「だいぶ温まってきましたね。まだまだ夏は終わらないっていう思いを込めて演奏します!」
と言って鳴らされたのは、曲中のキメで何度も松江のギターとタケシタのベースが振り下ろされるように動く「ソト」。ステージ背面の満月も夕暮れの空に微かに浮かぶ月のように、赤い照明に照らされる。そうした演出がまだ夏が終わっていないと感じさせるのはこの会場ならではであるし、決してBPMが速いわけではない(むしろ遅いと言える)この曲が夏を感じさせるというのも、実は数々の夏ソングを生み出してきたバンドであるメレンゲならではの幅の広さである。
その重さを感じさせるバンドサウンドがさらに重さと深さを強く感じさせるのは「忘れ物」であり、爽やかなギターロック・ポップというイメージも強いメレンゲの中でも屈指のノイジーさを持つサウンドの曲と言える。そしてそうした曲を鳴らしているのが今でもカッコいいと思えるライブをメレンゲはできている。
松江の刻むギターの音が少しずつ大きくなっていき、それがイントロに繋がっていくというライブならではのアレンジが施された「アルカディア」が再びここからライブが始まっていくかのように壮大な空気を持って響き渡ると、
クボ「昔は対バンライブが嫌だったなぁ(笑)結構ギターロックバンドと当てられることが多くて。もちろん我々もそうなんだけど、音圧が完全に他のバンドに負けてたから(笑)」
タケシタ「そこだけで勝負してないっていう意識も当時はあったしね」
と、駆け抜けるように曲を連発していくライブだからこそ、かつて全然普段はそういうタイプではないのに頑張って観客を盛り上げようとしていたというクボに拍手が送られると、コーラスフレーズではサポートメンバーも含めたコーラスが重なり、間奏ではクボがオリエンタルな空気を感じさせるギターソロを弾く「CAMPFIRE」へ。これは明らかにここから後半戦が始まるという合図でもあるだろう。
そんな後半戦には
「元々は提供した曲なんですけど、自分でカバーすることによって大事な曲になった」
と紹介された、新垣結衣に提供した「写し絵」も演奏される。もちろんサウンドはメレンゲだからこそのロックバンドさを増したものになっているのだが、あんな国民的大女優と言っていいような存在の人がクボの作った曲を、メレンゲの曲を歌ってくれて、それがちゃんとヒットしたというあたりにメレンゲが名曲を作り続けてきたということが現れている。それが今こそより強くそう感じるというのは、新垣結衣を抜きにしても今目の前で鳴らされている曲がどう聴いても名曲としか言えない曲だからである。
今やあいみょんを始めとしたあらゆるアーティストのサポートメンバーでもある山本がメジャーデビュー期のメレンゲならではの浮遊感を感じさせるサウンドを奏で、それがセッション的に展開してイントロへと繋がっていく「願い事」では曲が進むにつれてタケシタのキメのアクションが大きく激しくなっていき、それがそのままバンドのグルーヴをより強くしていく。それが今でもこうしてライブをやることによってメレンゲは確かに進化を果たしていると思える。
そんな山本が満面の笑みを浮かべながらクボとタケシタの方を見ながらキーボードを弾き、小野田もこの曲が好きなんだろうなと思わせてくれるくらいの笑顔で演奏されたのは、ついにこの会場の満月を背後にして演奏された「ムーンライト」。
「ああ ムーンライト
あの子のほほを照らせるかい?
未来へ導いてムーンライト
ここへきてもっと 夢をみせておくれよ」
というフレーズが、かつての日比谷野音ワンマンの時のようにこの情景にバッチリハマる形で鳴らされる。それはサポートメンバーたちもメレンゲというバンドを、この曲を心から愛してくれているのがわかる演奏を見せてくれるからこそであるが、そうしたライブを見ることができることによって、これからもメレンゲというバンドで夢を見ることができると思える。またこうしてライブでこの曲や、この曲以外の名曲を聴くことができますようにと。
そんなメレンゲは前回の新宿LOFTでのライブ時に「次のライブでは新曲をやる」と口にしていた。その予告通りに演奏されたのは実に2年半振りとなる新曲の「アクアカイト」。小野田による軽快なキックの四つ打ちも、2人で車で(あくまで大人数ではないのがメレンゲならでは)海に向かう情景が思い浮かぶ歌詞も、こうして20年近い歳月を重ねてきて、音楽的な変遷も果たしてきた今のメレンゲでの「きらめく世界」と言えるような曲だ。それはどれだけ年月が経とうが時代が変わろうが、メレンゲのキャッチーさ、ロックバンドとして鳴らすポップミュージックの魔法が失われていないという証拠だ。
「みんなも待っててくれたと思う。これからもライブでこの曲を育てていけたら」
と言うように、この曲が演奏された後の拍手は本当に大きかった。みんな、ずっとこうしてメレンゲの新しい曲が聴けるのを待っていたのだ。言葉には出せなくてもその拍手の大きさが確かにそれを伝えてくれる。それはメレンゲがこれからも止まることなく進み続けていくということを示すものでもあるから。そう思えるのが本当に嬉しいのである。
さらにはクボに
「ギター、松江潤!」
と紹介された松江がステージ前に出てきてイントロを弾きまくり、さらにはなんとクボと背中を合わせるようにしてギターを弾くというロックバンド的なパフォーマンスが見れたのは「アンカーリング」。小野田のリズムに合わせるように観客が手拍子をするのも実に楽しいのであるが、アッパーな曲であるだけに歌うのがキツいと思われるクボもやはり少しキツそうになりながらもしっかり歌い切ってみせる。そこにはこうしてライブに来てくれている、見てくれている人のために100%の力を振り絞ろうという想いが感じ取れる。だからよりライブそのものがエモーショナルに感じられるものになっているのだ。
そんな中でクボがこの日初めてアコギに持ち替えると、
クボ「今のうちにやっておかないと。やり納め?(笑)」
タケシタ「やり慣れていくんじゃないの?(笑)」
というやり取りによって演奏されたのは前回のライブでも演奏されていた「彼女に似合う服」。そのクボのアコギが実に優しく暖かい音を奏でるのであるが、
「どうでもいいやり取りがでも今日でついに宝物
別れ際驚いた そんな服を着てたんだなぁ」
というサビの歌詞含めて、聴いていて一瞬でその情景が浮かぶ、その曲の世界に入り込むことができる。これぞメレンゲの曲、音楽の力である。
そのままクボがアコギを弾いて歌うのはまだ夏と言えるようなこの時期ならではの「8月、落雷のストーリー」。「彼女に似合う服」もそうだが、まさかこの曲をこんなに短いスパンでライブで聴けるなんて思わなかった。気付けばタケシタだけではなくて山本も松江もコーラスに参加している。活動自体は細々としたものになっているかもしれないけれど、いろんなアーティストのプロデュースやアレンジ、ライブサポートで活躍している人たちがこんなにもメレンゲというバンドに愛と技術を注いでくれている。このメンバーでメレンゲの曲を演奏する、その全てが本当に心から楽しそうだから、見ているこちらまで楽しく、そして笑顔になるのだ。
すでにLOFTの時の本編の曲数を超えているが、それも少しずつではあるがライブ慣れしてきているということでもあるだろう。そんなこの日の最後にはタケシタが小野田のリズムに合わせて手拍子をし、それが客席にも広がっていくことによって、控え目極まりないメレンゲファンの中にも微かな、でも確かな一体感を感じさせてくれる「クラシック」。ロックというよりはポップのど真ん中で鳴っていてもおかしくないようなサウンドとメロディに乗る
「いつだって精一杯笑う君に 恋をしたあの夏の日」
という歌詞もやはり夏だ。LOFTの時もメレンゲは今この季節に自分たちがやるべき曲をしっかりと見定めて、それを我々の目の前で鳴らしていた。少しだけいろんなところに行けるようになった2022年の夏に我々がメレンゲと同じ時間を過ごした記憶を刻みつけるかのように。だから春夏秋冬どんな季節でもこうしてメレンゲのライブを見たいと思うのだ。
割とすぐにアンコールに再びメンバーが登場すると、2人は毎回曲をしっかり覚えてきてくれる小野田を労うとともに、かつてオトナモードというバンドで共に活動していた山本がこのバンドに小野田を誘ってくれたことによって、
クボ「解散しても仲良いもんなの?(笑)」
山本「ここは普通に仲良いかな」
タケシタ「ここはって(笑)」
と若干含みを持たせながらも、こうしてバンドとして久しぶりにライブをやったことによって確かな手応えを感じたようで、
クボ「また早くライブやりたいね」
タケシタ「年内にもう1回くらいワンマンやりたいね〜」
というやり取りも。
タケシタ「みんな、来てくれる?」
という言葉の後に湧き上がった拍手の大きさは、ここにいた人たちがもうメレンゲというバンドの存在なしでは生きていけないことを物語っていた。何年も活動の間隔が空いても、ずっとこうやって忘れることなくライブに来続けている人たちばかりなのだから。
そんなやり取りの後にクボがエレキギターを優しく触るように鳴らす。夕暮れを思わせるような淡い照明がそのクボを照らしながら、囁くように、でもしっかりと歌詞の言葉が聴こえるように歌い始めたのは「初恋サンセット」。
この曲は、こうしてライブで聴くたびに涙が出てきてしまう。2006年のロッキンのWING TENT、自分が初めて見たメレンゲのライブで最後に演奏したときのことを今でもはっきりと覚えていて、その光景を、蝉が鳴いている音すら聞こえていたことも思い出すことができるからだ。
でもそれは「あの時に戻った」っていうような後ろ向きなものではない。あの頃にまだ若手だったメレンゲが、今のメンバーで自分の目の前で演奏しているように、あの頃はまだ学生だった自分のままであの時のライブを観ているかのような感覚になる。
そう感じられるのはメンバーが変わりながらも、長い期間活動していなくても、こうして今のメレンゲのライブが素晴らしくて、それを見ていることができることが本当に幸せだと感じることができているからだ。
「どこまでも続くヒコーキ雲をみて
「空が割れちゃうわ」って君が言う」
という1コーラス目の2人が空を見上げながら会話している内容が、
「途切れはじめてるヒコーキ雲をみて
「子供騙しだわ」って君が笑う」
と曲の最後には変化する。そこに漂う文学感も、まるで1本の映画をそのまま歌詞にしたかのような情景喚起力も、あの頃と全く変わっていない。あれから16年経ってもこの曲で他に言いようのないメレンゲとの夏を過ごしている。
当時、メレンゲはロッキン以外にもいろんなフェスやイベントに出ていた。きっと自分のようにそうした人もたくさんいるはず。この日演奏された数々の曲も、この日演奏されなかった「夕凪」や「午後の海」も、メレンゲには実は夏の曲が非常に多い。それはこの日演奏された新曲もそうだった。そんな実は夏バンドだからこそ、またいつかこの曲たちを野外で聴くことができたらな、なんて淡い夢を抱いている。
この日、客席の割と後ろの方で見ていたら、男性の観客が昔よりも少し増えたなと思った。それは母数が減ったことによって目立つようになったのかもしれないけど、ただ自分よりも若そうな男性が、女性と一緒に来たというのではなくて男性同士、男性1人で来ている人ばかりだった。
彼らはどこでどうやってメレンゲの音楽に出会って、こうしてわざわざ追いかけていないと情報が入って来ないようなライブに来るようになったんだろうか。ライブ中のリアクションも「テレビ番組で川谷絵音が紹介していたから来た」というものではないくらいに、メレンゲの曲をちゃんと知っているとわかるものだった。
かつてはクボが「隠れキリシタン」と呼ぶくらいにメレンゲのライブには男性が少ないというのがネタになりつつあったけれど、彼らがかつての自分と同じように、メレンゲのことをカッコいいギターロックバンドだと思っていてくれたら。自分は今でもずっとそう思っているから。
1.旅人
2.カメレオン
3.きらめく世界
4.匂い玉
5.ソト
6.忘れ物
7.アルカディア
8.CAMPFIRE
9.写し絵
10.願い事
11.ムーンライト
12.アクアカイト (新曲)
13.アンカーリング
14.彼女に似合う服
15.8月、落雷のストーリー
16.クラシック
encore
17.初恋サンセット
Chilli Beans. 1st Oneman Live 「Chilli Beans. Room」 @LIQUIDROOM 9/9 ホーム
SWEET LOVE SHOWER 2022 day3 @山中湖交流ぷらざきらら 8/28