朝8時頃には雨が降っていたのだが、開演が近づくにつれて雨が弱くなってきていた最終日。前2日もあっという間だったが、それはそれだけ3年振り開催のこのフェスが楽しい時間だったということである。それだけに最終日になってしまったのは朝から寂しい気持ちにもなってしまう。
10:00〜 PEOPLE 1 [FOREST STAGE] (Opening Act)
3日間のうちチケットがソールドアウトしたのがこの日だけであるということを踏まえても、ロッキンやJAPAN JAMにすでに出演して話題になってると言っても、朝10時からオープニングアクトでこんなにもFOREST STAGEの客席が後ろの方まで埋め尽くされるとは。それくらいに注目度が高い存在であるということを改めて知る、オープニングアクトのPEOPLE 1である。
ロッキン同様にサポートのギターとベースを含めた5人編成で登場すると、ItoとDeuのツインボーカルによる狂騒のミクスチャーロック「スクール!!」でスタートするのだが、ボーカル2人のテンションが朝10時のものとは思えないくらいに高いということを踏まえても、この曲で飛び跳ねまくっているくらいにここにいた満員の観客たちはみんなこのバンドの曲をちゃんと知った上で集まっているということがわかる。そこにいきなり驚いてしまう。本当に後ろから端まで人で埋まっているから。
するとItoがタオルを取り出すと、それを振り回すという夏の野外フェスという舞台が実に似合うパフォーマンスをするようになった「エッジワース・カイパーベルト」と続き、さらには電子音がキャッチーな「フロップニク」と、曲ごとにサウンドがガラッと切り替わっていくのであるが、そのサウンドに合わせてストレートかつポップなItoと気怠さを含んだロックなDeuというボーカル2人が歌い分けるというあたりはなんでもありというよりはなんでもできるバンドとしてのバランスの良さと言えるかもしれない。そうして曲もボーカルもそれぞれ違う要素が全てPEOPLE 1の音楽という一つの大きな塊に集約されている。
クールかつ正確なリズムを刻むドラマーというイメージだったTakeuchiも思わず感情を露わにして、
「こんなにたくさん集まってくれるなんて思ってなかったんで本当に嬉しいです!行くぞラブシャー!」
と叫ぶようにしてロックなサウンドの春にリリースされた「銃の部品」へ。こうした曲で見せるバンド感はまだ数えられるくらいのライブ経験しかないとは思えないくらいに音源よりもライブの方が既に100倍くらい良い。そのライブを良くする方法をメンバーの体が知っているかのようですらある。
すると6月にリリースされたばかりの「YOUNG TOWN」のポップなサウンドとメロディが、まさにここに居合わせた人全員でYOUNG TOWNという街を形成していて、その街のテーマソングであるかのように響くのであるが、
「それだけで愛の完成形が僕らを待っているんだぜ」
という最後にリフレインするフレーズは、まだ経験値的には未完成と言ってもいいこのバンドが完成形を迎えたらどんな化け物みたいなライブをするようになるのかと恐れてしまうレベル。それくらいにこのバンドは完全にライブバンドと化している。
Itoもツアーやリリースの告知をしながらも、それ以上にこうして信じられないくらいにたくさんの人が自分たちのライブを観に来てくれていることの喜びを口にする。なんなら前日までのこのステージの最大動員を凌駕しているんじゃないかとすら思うほどに。
そんな大観衆を熱狂の渦に叩き込むように飛び跳ねざるを得ないくらいのグルーヴを生み出すミクスチャーサウンドの「怪獣」でDeuがステージ上を歩き回りながらその声で観客をアジテートするというこの日の沸点を刻んで終了かと思いきや、さらにトドメとばかりにパンクと言ってもいいくらいの性急なリズムのバンドサウンドによってサポートギタリストがステージ上を走り回りながら演奏する「イマジネーションは尽きない」までもが放たれた。どんなバンド、どんな音楽から影響を受けているのかという興味がつきないバンドであるが、このライブの衝動性からしても、もしかしたら1番の影響源はパンクなんじゃないかとすら思った。このライブを見ている時の精神の高揚っぷりはパンクバンドのそれだから。もはやライブという面においては今年の新人王と言っていいくらいに、春からの僅か3ヶ月でとんでもない進化を遂げている。
初めて音源を聴いた時には、まだメンバーの顔も見ていなかったというか見れる機会すらなかっただけに、ライブで見るバンドというよりは家で1人で聴くタイプのバンドなんじゃないかと思っていたし、そうしてあまりライブをやらないで活動していくバンドなんじゃないかと思っていた。
でも初めてライブを見てからの3ヶ月ほどでその意見は180°変わった。きっとこのバンドはこれからもっとライブをやりまくって生きていくバンドになっていくはずだ。もう知ってしまったから。こんなにもたくさんの人と自分たちの音楽で喜びを分かち合うのがどれほど楽しくて、どれほど素晴らしい景色を見れるのかということを。あらゆる意味ですでにオープニングアクトの枠に収まるバンドじゃない。
1.スクール!!
2.エッジワース・カイパーベルト
3.フロップニク
4.銃の部品
5.YOUNG TOWN
6.怪獣
7.イマジネーションは尽きない
10:30〜 OKAMOTO'S [Mt.FUJI STAGE]
近年のスペシャで最もVJなどで活躍している男の1人であるハマ・オカモト(ベース)と、かつてレギュラー番組に出演していた際にそのキャラの強さが知れ渡ったオカモトレイジ(ドラム)のいる、OKAMOTO'S。つまりはスペシャ主催のこのフェスでもなくてはならない存在のバンドということである。
ロッキンの時と同様に同世代のブライアン新世界(キーボード)をサポートに加えた5人編成で、オカモトショウ(ボーカル)はおなじみのバスケットボール選手のユニフォームという夏らしい出で立ちで登場すると、1曲目からオカモトコウキ(ギター)もボーカルとして歌うことでツインボーカルのようになる「Border Line」でスタート。コウキもソロで作品をリリースするようになり、ショウとは違った少年性の強いボーカルとして認識されるようになっており、その2人の声の対比もそれぞれのキャラクターを示しているようで面白い。
R&Bとロックンロールを巧みな演奏技術とアレンジで融合させるというこのバンドだからこそできる「Young Japanese」ではハマがステージ上を歩き回りながらクレーンカメラに無表情で近づいていき、その姿がスクリーンに映し出されるのが実に面白いのであるが、本人はスペシャで放送される時用の撮影であり、スクリーンに映っていると思っていなかったという天然っぷりを早くも炸裂させる。
ショウがパーカッションを叩く「Dance To Moonlight」で微妙に雨が降っているのか止んでいるのかという状態の観客の体を朝らしく心地良く揺らせると、FOREST STAGEの番人的に出演し続けてきただけにこのMt.FUJI STAGEに立っている喜びを口にしながら、ショウがアコギを弾きながら歌う新曲の「Splite」へ。この曲の時に若干雨が降っていたのことを覚えているのは、それがまさにスプライトのように弾けて我々に降り注いでいたからである。
このフェスではアーティストコラボキッチンや地元の山中湖の有志の店などの様々な飲食店が並んでおり、ライブが始まると人気アーティストのライブ中以外は常に大混雑しているくらいなのだが、そんなフェス飯の並ぶ中であってもマクドナルドのダブルチーズバーガーが食べたいなと思ってしまう(山中湖にそんなものはないけど)魔力を持ったマクドナルドソング「M」で我々の空腹を募らせると、帽子を被ったレイジのビートがさらにタイトになり、ブライアン新世界を含めたメンバーたちのコーラスが重なってショウが煽るように飛び跳ねながら歌うことによって観客をも朝10時台から飛び跳ねさせまくる「BROTHER」という必殺のライブチューンへ。
そしてショウが
「新宿から来たOKAMOTO'Sでした!最後は俺たちの歌!」
と言って演奏されると、サビでたくさんの腕が上がったのは「90'S TOKYO BOYS」。アウトロではショウが先にステージを去ると、バンドメンバーたちの激しいセッション的な演奏が展開される。その姿を見ているとこのバンドの演奏技術の高さに毎回驚かされてしまうし、歌なしの楽器の演奏だけでここまで引き込まれてしまうバンドもそうそういないなと思う。
確か初めてOKAMOTO'Sが出演した時はまだFOREST STAGEが導入されたばかりで、まだフェスも試行錯誤の時期だったのかステージはトラックの荷台だった。規模もはるかに小さかったそこにサンボマスターなんかも出演していたのが今となっては信じ難いが、あの頃にOKAMOTO'Sとともにフェスに出演していた同世代バンドたちのほとんどがもう居なくなってしまった。OKAMOTO'Sの音楽性もだいぶ変化したり成熟してきたけれど、ここでライブを見るとまだ10代の新星だった頃のことを思い出すことができる。ライブでも、スペシャのVJなどでもこれからもよろしく。
1.Border Line
2.Young Japanese
3.Dance To Moonlight
4.Splite
5.M
6.BROTHER
7.90'S TOKYO BOYS
11:15〜 緑黄色社会 [LAKESIDE STAGE]
このフェスが開催されなかった期間に最も成長したバンドの一つと言えるであろう、緑黄色社会。このフェス初出演にして最終日のメインステージのトップバッターという重要な位置を任されたのも今のバンドの状況を示しているとも言える。
バンド名の通りに爽やかな緑色で統一されたメンバーが登場すると、鮮やかな金髪姿が眩しい長屋晴子(ボーカル&ギター)がシンセも操作しながら歌う最新曲「ブレス」でスタートするという意表を突く展開。ポップではありながらもタイトル通りにその場で立ち止まって深く息を吸い込むようなタイプの曲であるが、長屋の澄んだ歌声はこの自然の中に高らかに響き渡る。天気が良くないのが実に惜しい。
すると長屋がハンドマイクを持って
「緑黄色社会でーす!」
と爽やかに挨拶して、ステージを歩き回りながら歌う、CMタイアップとしてこのバンドの名前を広く浸透させた「Mela!」へ。この曲のメッセージを観客の顔をじっくり見ながら歌うことによって、この曲はあなたのための曲なんだよ、ということを伝えてくれているかのようである。
もはや今はもう新曲を出せばタイアップがつくくらいの状況になっているバンドであるが、ドラマ主題歌になった「sabotage」とキラーチューンの連打っぷり。とかくポップなイメージを強く持たれるバンドであるが、やはりバンドでこうした大きなステージに立っている以上はポップさだけではなく力強さを示さないといけないということをわかっているかのように長屋の歌声もパワフルであるし、それを演奏と鳴らす姿で最も示しているのが穴見真吾(ベース)のミクスチャーバンドのメンバーかのような動いたり飛び跳ねたりしながらの演奏っぷりである。
スクリーンに映る姿があまりにも美人過ぎるなとすら思ってしまう長屋が観客を3方向に分けて指でそれぞれ違う形の「LOVE」を作らせるという声が出せない中でのこのバンドらしい観客とのコミュニケーションから、peppeのキーボードのメロディがこの夏の思い出をさらに輝かしいものにしてくれるかのような「夏を生きる」へ。これフェスでやるのかという、少々意外な選曲だなとも思うけれど、それは間違いなく夏の野外フェスでの緑黄色社会だからこそのセトリであろう。
さらには人気アニメのタイアップになった「Shout Baby」というタイプは全く違えどこんなにキャッチーなヒット曲を次々と生み出しているバンドだからこそのセトリには感嘆せざるを得ないが、長屋とpeppeが目を合わせて笑い合いながら演奏する瞬間もあったりと、メンバーがこのライブを本当に楽しんでいることがよくわかる。
それは長屋と小林壱誓(ギター)による掛け合いが男女の会話、あるいはもう1人の内なる自分との会話のように展開していくという「S.T.U.D」もそうであるが、これだけ華のあるフロントマンがいてもなおこんなにもそれぞれのメンバーのキャラクターと演奏技術があるからこそ、このバンドは均等な関係性のバンドでいられるのであろう。
そんなライブの最後に演奏されたのは
「誰だって Need you だって Need you だって Need youだ」
という歌い出しからして凄まじいキャッチーさを誇る「キャラクター」。「Mela!」の名曲っぷりをこうして更新する曲を次々に生み出し、しかもその曲をメンバーが実にパワフルかつ楽しそうに演奏することによって、観客にも笑顔と力を与えてくれる。ただひたすらに曲の力によってここまでの存在になったということがライブを見るとよくわかる。
長屋は最後に
「みんな、loveだよー!」
と言って自身の手でハートマークを作ってステージから去っていった。その言葉はこのバンドが持つライブの空気そのものであり、それこそが今この殺伐とした空気の世の中に最も必要なものであることをきっとこのバンドは信じているのだ。
リハ.始まりの歌
リハ.これからのこと、それからのこと
1.ブレス
2.Mela!
3.sabotage
4.夏を生きる
5.Shout Baby
6.S.T.U.D
7.キャラクター
12:05〜 SHISHAMO [Mt.FUJI STAGE]
今年は3ステージのみでの開催であるが、宮崎朝子(ボーカル&ギター)はその3ステージだけならず、WATERFRONT STAGEにも出演したことがある。つまりはこのフェスで4ステージに立ったことがあるという記録を持っているくらいの番人的な存在であるSHISHAMO。何年か前にLAKESIDE STAGEに出演した時も土砂降りの雨だっただけに、この日も含めて実は雨バンドなんじゃないだろうかと思い始めている。
おなじみのSEでメンバー3人が登場すると、宮崎朝子はそんな雨が降る中でも肩を出した衣装という夏仕様で、
「ラブシャ!」
と言って拳を突き上げると観客から拍手が起こるというコロナ禍だからこそのコミュニケーションをしてから、音数を削ぎ落とした「夏の恋人」「ハッピーエンド」という、勢いだけではない、特に吉川美冴貴(ドラム)と松岡彩(ベース)のリズム隊がしっかりしているからこその、3人が長年の活動で培ってきたグルーヴによる曲を演奏し、大人らしい曲をフェスでもやるようになったなと思っていると、そんな感想を見透かしているように宮崎は
「10代の時に初めて出演したこのフェス。ずっと出させてもらって、27歳になりました」
とMCで話す。そのMCでも3人でワイワイするあたりは昔から全く変わらない(最初に出演した時はまだ松岡はいなかったけれど)のだが、やはり大人になったんだなということを今の年齢を聞くと実感せざるを得ない。
それでもSHISHAMOらしいラブソングを歌い鳴らすということは変わることがないというのは、同期のサウンドも使った「狙うは君のど真ん中」という曲からも感じられるのだが、宮崎が大人になったなと感じるのは自身の歌詞にそれに見合った感情を込めて歌えるようになった表現力によるもので、特に「君の大事にしてるもの」での歌い回しはどこか怨念めいたものすら感じてしまうほどである。
そんな宮崎がイントロのギターを鳴らす、この時期だからこその選曲であろう「君と夏フェス」はそうしてこのフェスにずっと出演し続けてこの曲を鳴らしてきたからこそ、その夏フェスの舞台がこの会場であると感じられる。この曲のMVを撮影した新木場STUDIO COASTもなくなってしまった。そうして変わりゆく中でもこの曲がこの会場で鳴らされているということは2年間開催されなかった年月を経ても変わることがないことを実感しているからこそ、今年の夏よ、終わらないでよと思う。
そして最後に演奏されたのはやはりこのバンド最大のアンセムと言える「明日も」。スクリーンには演奏するメンバーが背後から映り、その下には歌詞も映し出されるのだがメンバーの背後から映るということは客席の様子もまたそのスクリーンに映るということ。それが徐々にメンバーを横から、そして前から映すようにアングルが変わっていく。このカメラの演出はこのフェスに限ったことではないけれど、それはつまりSHISHAMOが出演するフェスから須く愛されている存在だということ。
「週末は僕のヒーローに会いに行く」
「良いことばかりじゃないからさ
痛くて泣きたい時もある
そんな時にいつも
誰よりも早く立ち上がるヒーローに会いたくて」
というこの曲のフレーズは会えない時間が長かったこの数年、フェスが開催されなかった2年間があった今こそより強く響くものになっているし、やはり何度聴いても明日も頑張ろうというポジティブかエネルギーを我々に与えてくれる。このフェスの翌日の月曜日は毎年休みを取っているので頑張ることは何もないけれど。
こうしてずっとこのフェスに出演してきたバンドの姿を見ていると、見た目(特に吉川の)は全く変わらないように見える。でもこれから先も出演し続けることによってそこには変化もあるかもしれない。そう思えるくらいに出演し、このフェスとともに成長してきたバンドとこれからもこのフェスを、夏フェスを過ごしていきたい。きっとそんなこのバンドに自分を重ねている人もたくさんいるだろうから。
リハ.好き好き!
リハ.ねぇ、
リハ.恋する
1.夏の恋人
2.ハッピーエンド
3.狙うは君のど真ん中
4.君の大事にしてるもの
5.君と夏フェス
6.明日も
12:50〜 Vaundy [LAKESIDE STAGE]
初出演、特に若手は基本的にFOREST STAGEから段階を追って毎年ステージが大きくなっていくという道を辿るのが通例になりつつあるこのフェスにおいて、初出演にしてLAKESIDE STAGEに立つことになった、Vaundy。ライジングサンはコロナ感染によって出演キャンセルになったが、それでも毎週末どこかのフェスに出演している感じすらある。
bobo(ドラム)らによるおなじみのバンドメンバーの後にVaundyもステージに現れると、もはやおなじみの「不可幸力」のダーティーな雰囲気に包まれる中でスタートするのであるが、割とスクリーンに顔がハッキリと映っていたロッキンの時とは異なり、スクリーンには「Vaundy」のロゴが映るだけで本人の歌う姿は映らない。これはフェスの、ステージの規模感によるものだろうか。確かにロッキンよりもコンパクトな規模であるし、だからこそ肉眼で見ることもできる距離感だけれども。
そんな「不可幸力」のムードに続くように演奏されたのは、今年いろんなフェスでライブを見まくってきた中でも初めてフェスのセトリに入ることによって聴くことができた「life hack」。そのセトリをどうやって決めているのかも気になるが、ここまでは歌声で圧倒させるというよりはサウンドに浸らせ、酔わせるというようなイメージが強い。
しかしながらVaundyが軽く挨拶しながら
「手拍子できる?」
と挑発的に観客に問いかけてから始まった「踊り子」からはVaundyのポップさとともに伸びやかさの究極系とすら思えるその歌声が高らかに響きはじめる。それはやはりこうした広い規模で聴くことによって、どこまでも伸びていくように、突き抜けていくように感じられるのである。
そんなVaundyの努力などでは絶対に手に入れられない天から授かったとしか思えない歌声が最も高らかに響くのはやはり「しわあわせ」。Vaundyのその歌声が居なくなってしまった人のことを思い出させるこの曲は、この日はこの山中湖に住んでいる人たちの顔を思い浮かばせてくれた。毎年泊まっている宿の人、駐車場を貸してくれる人、駐車場から歩いて会場まで行く際に「おはようございます」と挨拶してくれる人。山中湖で暮らしている人たちは本当に優しい人ばかりだ。だからこそ、この曲を聴いているとその人たちに幸せになって欲しいと心から思う。
そんな感動を生み出す「しわあわせ」から一転してロックなサウンドにVaundyの力強いボーカルが乗る「裸の勇者」というVaundyなりのアニメタイアップの最適解的な曲で呼び起こした熱狂を「東京フラッシュ」のアーバンなサウンドがクールダウンさせる。この日もリハで演奏されたりもしていたが、こうしてフェスの本編で演奏されることはあまりないし、それだけにVaundyの滑らかなボーカルを堪能できる曲である。
そしてVaundyが
「まだまだいける?」
と煽ると、袖にいるスタッフたちも楽しそうに踊りまくっているという光景が微笑ましくなる「花占い」が演奏される。そんなVaundyの音楽を愛する人たちと日本の各地を回ってきた今年の夏もそろそろ終わりに近づいてきている。こうして初めて訪れた場所で歌うことによってVaundyはどんなことを感じたんだろうか。それはきっとこれから先に生まれてくるであろう曲に現れるのだろうと思う。
そして最後に演奏されたのはやはり観客の手拍子が大きな音で鳴り響く「怪獣の花唄」。メインステージとはいえロッキンなどに比べたら大きくはないステージであるだけに、ステージ上を走り回ったりする姿を見ることは出来なかったけれど、それでもこの曲のサビでのVaundyの伸びやかな歌唱は見ている我々を本当に楽しく、幸せな気持ちにしてくれる。バンドメンバーもコーラスを重ねているようにも見えるけれど、この声はきっとVaundyの音源の声だ。それでも歌おうと口ずさんでいることには間違いなく意味がある。曲のメッセージと歌詞をバンドメンバーがしっかり理解してくれているからだ。だからこそこんなに力強いバンドサウンドになる。歌声が素晴らしいのはもちろんのこと、そのライブとしてのトータルの強さこそが、Vaundyがこうしてあらゆるフェスのメインステージに立っている理由の一つだ。
今年Vaundyは何本のフェスに出たのだろうか。すぐに数え切れないくらいであるし、春フェスからもうずっと各地のフェスに出続けている。そんな人生で最も濃密だったであろう、Vaundyの1番長い夏がもう終わろうとしている。彼が「暑い」と口にしなかったことが、それを感じさせていた。
1.不可幸力
2.life hack
3.踊り子
4.しわあわせ
5.裸の勇者
6.東京フラッシュ
7.花占い
8.怪獣の花唄
13:40〜 高橋優 [Mt.FUJI STAGE]
スペシャで長年レギュラー番組を持っている高橋優。それだけに他のフェスにはあまり出ることはなくなっても、このフェスではおなじみの存在であり、やはり3年振りの開催となるこのフェスには欠かせない存在である。
先にバンドメンバーたちがステージに出てきてから最後にステージに現れた高橋優が集まってくれた観客に深々とお辞儀をすると、バンドのギタリストが腕を「オイ!オイ!」と言わんばかりに振り上げまくりながら演奏する「象」からスタートし、ポップで優しい歌を歌う人というイメージも強いであろう高橋優の中に潜む、かつてはBRAHMANやイエモンなどのコピバンをやっていたというロックさを感じさせるようなオープニングの選曲である。
さらには雨がまだ少し降っているこの会場に合わせての、晴れるようにという願いを壮大なメロディに託しているかのような「虹」へと続くと、それこそ3年前のこのフェス以来にライブを見たのだが、高橋優は本当に歌が上手いと思う。ただ歌が上手いのではなくて、こうして広い会場であっても端の方にいる人の方まで目を向けて歌うように、そうした見てくれている全ての人に届かせるような声量を持っているというか。それは自分の音楽を届けたいという強い意志の現れによるものなのかもしれないけれど。
そんな高橋優は3年前は自転車で会場入りすることになったのだが、今年はバスで会場入りしたという観客と同じ存在であるかのようなエピソードを語ると、来年はリムジンで会場入りしたいという野望を口にする。それはつまり来年もこのフェスに出るつもりでしかないということだ。
すると今年配信リリースされた最新曲「HIGH FIVE」を披露するのだが、バンドメンバーのコーラスが重なるという、みんなで歌うためのようなこの曲をこのコロナ禍の中で作ったのは、そうしてこの曲をみんなで歌えるような未来が少しでも早く来るようにという希望と、いつか一緒に歌おうという約束を我々観客に与えてくれているからだ。それが聴いていてすぐにわかるくらいにやはり高橋優は真摯な人間だと思う。
しかしながらそうした優しい面だけではなく、社会への痛烈なメッセージを歌うシンガーソングライターでもあるということを示すように次々と言葉が放たれていく「ルポルタージュ」は「象」とはまた違った形で高橋優の持つロックさを感じさせてくれる曲だ。きっとこうしたメッセージは生きている限りこれからも歌にし続けなければいけないものなのだろう。
そんな曲を演奏しながらも、たくさんの人のイメージ通りの、みんなが聴きたい高橋優の曲を聴かせてくれるのは「明日はきっといい日になる」なのだが、この曲の演奏中に高橋優やバンドメンバー以上にスクリーンに映ったのは観客の顔やライブを楽しんでいる姿。それはこの3日間の中でこの曲の時が最も映っていたものでもあるのだが、親と一緒にこのフェスに来ているような子供から、雨装備を万全にしているフェス慣れした大人まで。その全員が笑顔でステージを見ている。それは3年振りにこのフェスが開催されて、そのステージに高橋優が立っているからこそ見れたものだ。そんな当たり前の光景が本当に感動的だったのは、そうした光景すらも見ることが出来なかった2年間を過ごしてきたからだ。
そんなライブの最後に演奏されたのは昨年のコロナ禍真っ只中にリリースされた「Piece」。スペルこそ異なるが、パズルのピースと平和のピースのダブルミーニングになっている歌詞の表現が実に見事であるし、それこそが今この状況の世の中で自分が歌わなくてはならないものであるということを高橋優はわかっているかのようだった。
高橋優は今は地元である秋田の様々な街を1年ごとに廻るというキャラバン的なフェスを主催している。今年は自分の生まれ故郷のすぐ近くで開催されるというあたりにこの男への親近感が湧くのであるが、そのフェスは毎年場所探しから始めなければならないだけに、なかなか他の夏フェスに出ているスケジュール的な余裕もないのが近年のあまりフェスに出演しなくなった活動にも少なからず現れているとも思う。
それでもこのフェスには毎年出演しているのはスペシャでレギュラー番組を持っているということはもちろんのこと、かつて初出演した際はこのステージのオープニングアクトだったという、このフェスとともに成長してきたアーティストでもあるからだ。そんな男だからこそのホーム的な空気がこのフェスには確かに存在している。
リハ.太陽と花
1.象
2.虹
3.HIGH FIVE
4.ルポルタージュ
5.明日はきっといい日になる
6.Piece
14:25〜 マカロニえんぴつ [Mt.FUJI STAGE]
この前にこのステージに出演したVaundyと同様に、今年は去年までの鬱憤を晴らすかのようにあらゆるフェスに出演しまくっている感のある、マカロニえんぴつ。3年前の初出演時はFOREST STAGEへの出演だったが、今年は一気にLAKESIDE STAGEである。
そんなバンドのステージのジャンプアップの経過を辿るかのように、スクリーンにはFOREST STAGEからLAKESIDE STAGEへと飛ぶドローンの映像が映し出されると、おなじみのビートルズのSEが流れてメンバーがステージに登場。
今年のこのフェスではバンド1の食べ盛りであり、グルメでもある長谷川大喜(キーボード)がコラボメニューを手がけているのであるが、その長谷川の美しいキーボードの音色にいきなりの拍手が起こり、それが手拍子へと変わっていく「レモンパイ」でスタート。いきなりのマカロニえんぴつのグッドミュージックを堪能できる曲であるが、長谷川考案のコラボメニューをライブ後に食べたら実に美味だったので、来年以降もそういう形でもこのフェスに携わり続けて欲しいと思う。
するとはっとり(ボーカル&ギター)の小気味いいボーカルとともに長谷川が高野賢也(ベース)にエアベースを弾きながら近づいていくというお決まりのアクションも楽しい「洗濯機と君とラヂオ」はライブだからこそのテンポの速さとなり、それはまるで生き急いでいるかのようにリリースとライブを繰り返しているこのバンドの生き方であるかのようだ。
そんなはっとりは実は山梨県出身であるだけに、こうして地元のフェスに凱旋していることができている嬉しさを口にしてから最新EPのタイトル曲である「たましいの居場所」を披露するのであるが、変化球的な曲も多いこのバンド(そのEPにもナックルボールクラスの変化球も収録されている)が実はストレートが実に綺麗な回転で伸びるからこそ変化球が生きるということを示すような曲だ。それはもちろんはっとりの歌唱力とバンドの演奏力があってこそ。
その演奏のうち、どんなにポップな曲でもフライングVを弾くというハードロックへの強すぎる愛情と拘りを忘れない男、田辺由明のギターが泣きのメロディを奏でることによって切なさを掻きむしるような表現力を放つ「ブルーベリー・ナイツ」から、その田辺と高野によるカウントから始まる問答無用の大名曲「恋人ごっこ」へと繋がっていくという、ひたすらにマカロニえんぴつの名曲中の名曲を凝縮したようなセトリ。それはここに戻ってくるのに3年もかかってしまったからこそ、こうして自分たちを見に来てくれた人が聴きたいであろう曲をちゃんと聴いてもらおうという意識を感じさせるものである。
そんな中でも野外のスケールが実によく似合う壮大なイントロとメロディを持つ「星が泳ぐ」はバンドをさらにもう1段階上へと引き上げるような曲だ。いつかは、というか近い将来に満天の星が浮かぶ夜の山中湖というシチュエーションでこの曲が演奏されるのが見れるような予感がしているくらいに。
その「星が泳ぐ」で最後には叫ぶように声を出していたはっとりは
「みんなで守ったこのフェス。来年声を出せるように」
と口にしてから、最後に「なんでもないよ、」を演奏する。この曲の象徴とも言えるコーラスパートではっとりはメンバーとともに歌うと、途中でマイクスタンドの前から離れた。それは今は聞こえることがない観客の声を聞こうとしているようだった。それはもちろん、来年はその声がちゃんと心だけではなくて耳にも届きますようにという願いを込めてのもの。それは地元という自分が帰ってくる場所で開催されているフェスが来年以降もずっと続いていて欲しいという思いによるものだ。
「ごめんなさい、最後に俺たちが雨呼んじゃった!」
と、ライブ前は止むかと思っていた雨がまた最後には降り出してしまったのも、もはや演出の一つであるかのようだった。
3年前に最後に「ヤングアダルト」を演奏する前にはっとりが口にした言葉を今でもよく覚えている。それは
「自分の好きなように生きるのは実に難しい」
というものだった。でもあれから3年経って、世の中もバンドを取り巻く状況もガラッと変わってしまってもなお、このバンドは好きなように生きているように見えている。
それは今でもこうしてこのフェスに足を運んでいる自分も好きなように生き続けることができているから思うことでもある。そんなバンドだからこそ、ずっと心を惹かれ続けているのだ。
リハ.girl my friend
リハ.ワンドリンク別
1.レモンパイ
2.洗濯機と君とラヂオ
3.たましいの居場所
4.ブルーベリー・ナイツ
5.恋人ごっこ
6.星が泳ぐ
7.なんでもないよ、
15:00〜 にしな [FOREST STAGE]
直前で中止になってしまった昨年にこのステージのオープニングアクトとして出演するはずだった、にしな。それは幻となってしまったが、そのオープニングアクトの時間よりも長く見れる本枠としてこのステージにようやく出演できることに。1年越しでのはじめましてである。
ギター、ベース、ドラム、キーボードというバンドメンバーに続いてステージに現れたにしなはアウトドア的な帽子を被り、フェス慣れしてる女子的な出で立ちなのだが、アコギを弾きながら自身の存在を世の中に知らしめた「ヘビースモーク」からスタートする。その伸びがあるというよりは絶妙な揺らぎがあるハスキーな歌声が、固有名詞をほとんど使わずとも聴いた人全てがほぼ同じような情景を思い浮かべるであろう歌詞をこれ以上ないくらいに切なく響かせる。その歌声を聴いて、ああこの人はちゃんとライブで人の前で歌うということを常にイメージして音楽を作っている人なんだろうなと思った。この曲ではまだ寄り添うというような形であるが、バンド編成でライブをしているのもそうした意識あってこそだろう。
アコギを下ろしたにしなが自己紹介的に挨拶すると、先月リリースされたばかりの最新アルバム「1999」収録の「東京マーブル」で一気にチルなムードも含んだ心地良いサウンドへと切り替わる。その見た目はアー写などを見た感じでは藤原さくらに似ているような気もしていたのだが、こうして歌っている表情を見ているとSUPERCARのフルカワミキに似ているな、なんてことも思ったり。
オリエンタルかつ猥雑な雰囲気を醸し出すサウンドの「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」ではにしながステージを歩き回りながら歌い、自身が被っていた帽子をギタリストに被せるという遊び心も見せる。まだそんなにライブ経験が豊富というわけではないだろうに、実に堂々としているというか、プレッシャーとかを感じないかのように飄々としているようにすら見える。
トイポップ的なサウンドに乗るにしなのボーカルがどこか神聖な雰囲気を感じさせる「ケダモノのフレンズ」は心地良く観客の体を揺らしてくれるのであるが、この木々が生い茂る自然の中のステージというシチュエーションが実に良く似合っており、実はフェス映えするアーティストなんじゃないかとこの時点で思い始める。
さらにはCMソングとしてもオンエアされている、ヒップホップ的な歌唱を取り入れながらサビでは一気に光が降り注ぐように解放感溢れる「U+」と、「ヘビースモーク」の人でしょ?というイメージだけでライブを見たらそのイメージがひっくり返るくらいにサウンドの幅が広い。ともすればとっ散らかりそうですらあるそんなあらゆるサウンドの曲たちをそのにしなでしかない歌声がまとめ上げており、どこかすでにオーラのようなものすら感じられる。
かと思えば「ヘビースモーク」に通じる、アコギを軸にして、ポエトリーリーディング的な歌唱がこの曲だけで1つの映画を描いているかのような「ワンルーム」のここにいる人全てを巻き込むような歌と曲の力。間違いなくこのアーティストは本物であると確信できるものが確かにあった。
そんな幅広いサウンドの曲が目まぐるしく演奏されていく中で最後ににしながエレキギターを持って鳴らして歌い始めたのは「1999」の1曲目に収録の、このライブの最後にこんなにストレートなギターロックを!?と思ってしまうような「アイニコイ」。最初にギターがちゃんと鳴らなくてやり直すというアクシデントすらご愛嬌だと思えるくらいに、荒削りな部分もありながらもまだ新人と言っていいキャリアとは思えないくらいのアーティストとしての完成度の高さを示したラブシャデビュー戦だった。
きっと去年も開催することができていたらすでにこのライブをたくさんの人に見てもらうことができていて、こんなに素晴らしい歌声を持ったアーティストがいるということをライブの場で示すことができていたはず。だからこそ今年は1年間での進化を見せるような場になっていただろうとも。
そう考えると本当にこの2年間で失われたもの、手に入れることが出来なかったものの大きさを感じずにはいられない。どうかそんな機会がもう2度となくならないで、こんなことを思うことがありませんように。
1.ヘビースモーク
2.東京マーブル
3.FRIDAY KIDS CHINA TOWN
4.ケダモノのフレンズ
5.U+
6.ワンルーム
7.アイニコイ
16:00〜 sumika [LAKESIDE STAGE]
サウンドチェックでメンバーがステージに現れると、片岡健太(ボーカル&ギター)は空に向かって手を合わせるような仕草を見せる。それは自分たちのライブ中にどうか雨が降りませんようにと祈っているかのようだった。3年前と同じLAKESIDE STAGEに帰還したsumikaが最終日の後半に登場。
本気のリハからおなじみの「ピカソからの宅急便」のSEで、おなじみの須藤優(ベース)、George(キーボード)、Nona(コーラス)というゲストメンバーを加えた7人編成でステージに登場すると、
「ここにいるすべての人へ。ライブに、フェスに、おかえりなさい。sumikaはじめます!」
と片岡が挨拶して、このステージに立つ覚悟と決意を感じさせるギターロックな「グライダースライダー」からスタートするという攻めっぷりで、今年の夏はこうしてこの曲をライブで聴けるという喜びを爆発させるように小川貴之(キーボード)もタオルを手にして観客とともに振り回す「マイリッチサマーブルース」の圧巻の光景。幻じゃなくて、僕だけの夏がここにはあった。
片岡が手を叩きながら歌う「Shake & Shake」では小川とNonaの美しいコーラスがキャッチーなメロディを彩り、2コーラス目の打ち込みになる部分では荒井智之(ドラム)も立ち上がって手を叩くと、須藤とGeorgeも一緒になって手を叩いている。クールなイメージの2人であるが、こうしてsumikaとしてのライブを心から楽しんでいて、ゲストといえどももはや自分たちもバンドメンバーのような気持ちで向き合ってくれているのがよくわかる。だからこそ片岡も
「なんだかんだ言って嫌いじゃない」
というサビの締めのフレーズの後に、
「むしろ大好きだぜ!」
と高らかに叫ぶことができるのだろう。
そんな祝祭感がリラックスしたムードへと変わるのは片岡がハンドマイクで歌いながらカメラに目線を合わせたり、カメラに向かってポーズを取るようにするというフロントマンとしての頼もしさを感じさせる「Traveling」。歌詞の内容は優等生的なイメージを持たれがちなsumikaがそうした耳障りの良いことだけを歌うバンドではないということを表すものになっているのだが。
するとステージには真っ白な光の照明が降り注ぐ中で演奏されたのは、この夏フェスですでに演奏を重ねている新曲「透明」。
「まだ何色にも染まっていない曲」
と片岡は演奏後に口にしていたが、その言葉の通りに
「愛している 愛している」
と繰り返されるサビのフレーズがこれからも何色にも染まることがないであろう無垢さを感じさせてくれる。
すると片岡は意を決したような表情で、
「今年のラインナップを見たら、去年も出るはずだった人がほとんど出てる。音楽性が違えどアーティストはみんなで肩を組んで走ってきました。去年来るはずだった人もいるだろうし、逆に今年だから来れた人もいると思う。でも自分たちでもライブを主催したりするからわかるけれど、一度解けたものを結び直すのは本当に大変。だからこうして諦めることなく今年このフェスを開催したスタッフの方々には本当に感謝していますし、こうして掴んだものはもう2度と離したくない!もう音楽を止めたくない!」
と宣言する。ロッキンの時は「あなたは自分の分身ですか」と思ってしまうようなことをステージの上から発信してくれていたが、この日のこの言葉は間違いなくアーティストを代表してのものであったし、そこにはレギュラー番組をやらせてもらった経験があるからこそ知っているこのフェスのスタッフの努力を見てきたというのもあるのかもしれない。
そんな思いを込めるようにして演奏されたのはもちろん
「夜を越えて
闇を抜けて
迎えにゆこう
光る朝も
雨も虹も
今から全て迎えにゆくよ」
と歌う「ファンファーレ」。sumikaは確かにこの日、ここにいた人をライブという場に迎えにきてくれたのだ。あのMCの後だからこそこの曲がより響いたし、片岡に
「世界一のギタリスト!」
と紹介された黒田隼之介も顔で弾いていると言っていいくらいに思いっきり感情を込めてギターを掻き鳴らしている。そんな姿がよりこの曲を強く響かせてくれる。
そんな感動的な空間を作った後には、
「最後は俺たちらしく笑顔で終わります!」
と言って片岡がハンドマイクで手を叩きながら歌う、さながらミュージカルのクライマックスかのような「Glitter」で、片岡のハイトーンボイスが本当によく伸びていた。それはこの曲のサビが
「Do the dancing
with you」
という、目の前にいるあなたと一緒に踊るためのものだからだ。その人にしっかりと届けるための力をsumikaは確かに持っている。だからこそこんなに巨大な存在になったのだ。
自分のような、こんな場所まで1人で音楽を聴きに来るような奴がいるということをちゃんとわかっているからこそ、こうしてsumikaは目の前にいる1人1人にしっかり届けるためのライブをやる。それはそんな1人が寂しくないように、自分たちの音楽が側にいるぜと言ってくれているかのように。だからいつだってsumikaのライブは心が弾む。寂しいと思うことは全くないけれど、それでもやっぱり一緒にいてくれてありがとうと思う。
リハ.1.2.3..4.5.6
リハ.Lovers
1.グライダースライダー
2.マイリッチサマーブルース
3.Shake & Shake
4.Traveling
5.透明
6.ファンファーレ
7.Glitter
16:50〜 Saucy Dog [Mt.FUJI STAGE]
開演前からもう動く余地すらないくらいの超満員。このフェスのアプリからはこのステージに入場規制がかかっているという通知さえ来る。3年前は朝イチに出演していたこのステージのトリ前。Saucy Dogを取り巻く状況は変わりすぎと言っていいくらいに変わった。
おなじみのSEが流れると、鮮やかなターコイズブルーの衣装を着たせとゆいか(ドラム)を先頭に秋澤和貴(ベース)、そして最後に石原慎也(ボーカル&ギター)がステージに登場すると、せとの衣装に合わせたようでもあり、このフェスの情景に合わせたようでもある「シーグラス」からスタート。ステージ背面の空間から見える空の色はここに来て明るくなってきたようにも見える。雨もすっかり止んだし、それこそが今最も時流に乗っているバンドに宿る力なのだろうか。
早くもこの前半で演奏された「シンデレラボーイ」では観客全員が息を呑むかのようにその演奏に聞き入る。とりわけ石原の歌唱力と声量はこのステージのスケールですら物足りないと感じてしまうくらいで、もしかしたら他のステージや飲食エリアにいた人にまで聞こえていたんじゃないかと思ってしまうくらいである。
どこかこのバンドの宿している雰囲気のようにロマンチックな「メトロノウム」が演奏されるとせとは前日に大阪で開催されたRUSH BALLに出演してきたことを語るのであるが、
「マスクしてれば声出ししてOKだったんだけど、ああ、これがライブだなって思った。ラブシャもきっと来年にはそうなると思う。だから今の楽しみ方はきっともうすぐ終わっちゃうから、今の楽しみ方で出来る限りに楽しもう」
という言葉からは、この今の楽しみ方を最大限にポジティブに捉えながらも未来への微かだけれども確実な希望を感じさせた。ド天然でもあるけれども、せとのMCはいつも本当に心から思っていることを我々に伝えてくれているのであろうことがよくわかる。
「みんなに歌います!」
と言って手拍子が響く中で演奏された「ゴーストバスター」がポップな存在に捉えられることも多くなったこのバンドがロックバンドであることをシンプルだけれどもストレートなスリーピースサウンドで示すかのようであるのだが、石原は何回も
「みんなに本当にいつも助けて支えてもらってる」
と口にしていた。それは今自分の目の前に広がっている光景や、あるいは前日に見てきた光景が「優しさに溢れた世界で」あるかのように。急激にブレイクしたことによって石原自身もストレスを感じてしまうこともあっただろうけれど、この日は本当に素直に、真摯に自分たちの思いと音を伝えようとしていた。というか自分たちにはそれしか出来ないんだと思えるくらいにやはりこのバンドは不器用なメンバーたちによるバンドだなと思うし、きっとせとのMCでの思いも3人で共有している、バンドとしての言葉でもあるはずだ。
そんな石原がコンクリートであれど、ステージの床を強く踏みつける音が響いてから歌い始めたのはもちろん「いつか」。この石原が見ている景色を観客1人1人にも見せるかのように客席上空を飛ぶドローンが捉えた光景がスクリーンに映る。3年前にも演奏されていた曲であるが、その時とは我々に見せてくれている景色が全く違う。そこには石原も
「前に出た時は朝だったのに、今年はトリ前っていう時間を任せてもらえるようになったのが本当に嬉しい」
と言っていたように感謝を強く持った幸せな空気が溢れていたからだ。
そんなライブの最後に演奏されたのは、
「Don't let it get you down
君は君らしくいてよ
Don't worry about it
自分の為に生きて良いんだよ
間違えていこう!」
という英語も含めた歌詞がこのバンドが持つ魔法のようにキャッチーなメロディに乗せて歌われる「Be yourself」。それはどこかこれからも自分たちらしさを失わないようにと自分たち自身にも言い聞かせているかのようだった。それくらい、少しでも甘い言葉に乗ってしまうと自分たちらしさを失ってしまいそうなくらいの位置に今このバンドはいる。でもこの曲をこんなにも堂々と歌い鳴らしている限りはきっと大丈夫だなと思える。
この入場規制がかかるくらいの超満員のこのステージの景色を見て、懐かしいなと思った。それは3年前にこのステージでKing GnuやOfficial髭男dismを見た時と同じ光景だったからだ。つまり今Saucy Dogはその2バンドがついこの間までいた位置に今いる。ということは次の機会には…。そんな想像ができるくらいの存在になったことを実感させるような、3年前と同じステージだけど全く違ったMt.FUJI STAGEでのSaucy Dogのライブだった。
リハ.雀ノ欠伸
リハ.バンドワゴンに乗って
1.シーグラス
2.シンデレラボーイ
3.メトロノウム
4.ゴーストバスター
5.優しさに溢れた世界で
6.いつか
7.Be yourself
17:35〜 キュウソネコカミ [LAKESIDE STAGE]
もう3年振りのこのフェスも終わってしまうことを意識せざるを得ない時間。本来ならばこの時間のLAKESIDE STAGEにはMAN WITH A MISSIONが出演するはずだったのだが、ジャン・ケン・ジョニーのコロナ感染によってキャンセルに。その代打として出演するのがこのフェスに出続けてきたキュウソネコカミである。
「こんなことしかできないけど、青空持ってきましたよ!」
とサウンドチェック時にヨコタシンノスケ(キーボード)が言う通りにこの時間になって晴れ間を連れてくるという晴れバンドっぷりを見せると、本番ではそのヨコタはヤマサキセイヤ(ボーカル&ギター)とともにMAN WITH A MISSIONのTシャツを着ているというリスペクトの示し方を見せ、
「西宮のキュウソネコカミです」
と挨拶していきなりの「ビビった」でスタートするのであるが、すべての記憶を塗り替えてしまうかのように曲後半ではなんとMAN WITH A MISSIONのトーキョー・タナカが金髪のリーゼントを頭につけてハリセンを持ってステージに乱入してメンバーをしばき倒すというサプライズが早くも起きる。これはメンバーたちも全く知らされていなかったようで、まさにビビりながら演奏するメンバーの姿がどこか可愛らしく見えるくらいにハリセンでどつかれるのが痛かったらしい。
そんないきなりのまさかのコラボから、ヨコタのキーボードのサウンドに合わせて観客が踊りまくる「メンヘラちゃん」と、急遽出演が決まった代打とはいえすぐにこの場の空気を掌握してしまうというのはさすがフェスのステージを駆け上がってきたキュウソである。
すでにツアーなどでも演奏されている、セイヤのかつて住んでいた場所とそこでの自身の勘違いが巻き起こした悲惨なエピソードを曲にした新曲「住環境」は久しぶりの新曲でもあるためにこうしてライブで演奏していくことによって曲を練り上げて育てていこうという意識もあるのだろうか。その体験をユーモラスに描くことができるというのは実にキュウソらしいけれども。
「お祭りには盆踊り!モッシュもサークルも出来ないけれど、その場で踊りましょう!」
とヨコタが言うと、かつては盆踊りサークルをこの会場でも出現させてきた「KMDT25」が演奏され、ソゴウタイスケ(ドラム)のリズムに合わせて観客は手拍子をするのであるが、間奏で突如としてヨコタが
「こんな古臭いリズムはやめだ!世界的なリズムで踊りましょう!」
と言うと、なんとMAN WITH A MISSION「FLY AGAIN」が演奏され、またしてもトーキョー・タナカがステージに出てきて腕を左右に上げて踊るというマンウィズのライブではおなじみの光景が広がる。
マンウィズのライブが見たかったという人の思いをこうした形で叶えてくれ、ましてや自分たちも前日に他のフェスに出演しているというスケジュールの中でこうしてカバーまで演奏できるようにしてくれている。自分たちを見にこのステージに集まってくれている人が少しでも楽しんでくれるように。そんなキュウソの優しさに思わず涙が出てしまう。
「やっと俺たちのライブにも出てくれた。ハリセンはマジで聞いてなかったけど(笑)」
とセイヤは言っていたが、それは代打がキュウソだったからこそ見ることができたものだ。
そんな感動的ですらあるコラボを経てからの「家」で観客を飛び跳ねさせまくると、「The band」へと続くことで熱いロックバンドとしてのキュウソのいちめんがあらわになっていく。
「ロックバンドでありたいだけ」
というサビのフレーズにヨコタもソゴウもオカザワカズマ(ギター)もコーラスを重ねる。こうして急遽出演してくれてこんなライブを見せてくれる。こんなにカッコいいバンドはいないと思うくらいに、キュウソはこうしてステージに立つことで自分たちがロックバンドであることを証明している。
そんなキュウソと観客の双方向での愛情が歌われた「推しのいる生活」はもちろんセイヤも
「俺たちとお前たちの歌だー!」
と言って演奏される。
「一生ついていけたらなんて今は思ってる」
という歌詞はまさに今このライブを見てキュウソをわっしょいわっしょいしている我々の心境を歌った歌詞である。
そんな代打での出演であることによってセイヤは
「本来ならなかったこのステージ!LAKESIDEに立つのはコロナ禍含めたら5年振りくらい!でも来年は実力でこのステージに立てるように俺たちはバンドを続ける!今はシンディ(空きっ腹に酒)がベースを弾いてくれてるけど、その時にはタクロウもここに連れて帰って来る!」
はその思いを口にする。きっと悔しさだってあったはずだ。ずっと出てきた、自分たちにとって大切なフェスから本枠ではオファーがなかったのだから。
でもそんな悔しさがいつだってキュウソの原動力になってきた。FOREST STAGEのトリとして初出演した時もサカナクションと被っていたことによって、サカナクションの方に向かって「ヤンキー怖い」コールをし、
「一郎聞こえてんのかー!」
と叫んでいた。あの悔しさを経て毎年このフェスに出るようになって、サカナクションと被らないような位置に出れるバンドになった。
そんなことを思い出させてくれる熱さはサビ前の演奏でオカザワとセイヤのギターがタクロウの不在をカバーするように鳴らされる「ハッピーポンコツ」でも発揮され、徐々に暗さを増していくこの山中湖が涙と笑顔のダンスフロアになっていく。
そして最後には
「コロナ禍でもライブハウスで演奏されるアンセムを育てている!」
と言ってライブハウスへの愛を歌った「3minutes」を演奏する。それはこうしたフェス讃歌でもあるのだが、それはメンバーたちも日頃のライブハウスでのライブやステージがこうしたフェスに繋がっていることをわかっているからだ。本当に見事かつ鮮やかな、キュウソにしかできない打法で打った、キュウソでしか描けない弾道と放物線による代打ホームランだった。
初日のアルカラ。2日目のTHE BAWDIES。そして最終日のキュウソ。今年のこのフェスを救ってくれた代打出演のバンドたち。それぞれがそれぞれのやり方でこのメインステージの穴を埋めてくれた。
このコロナ禍になっての夏フェスはほとんどのフェスで出演キャンセルが発生している。それでもこうして欠ける時間がなくライブを見れているのは、こうやって急遽にもかかわらず出演してくれて、このバンドが出てくれて本当に良かったなと思えるライブをしてくれるアーティストたちがいるから。それは元から好きなバンドたちだと、もっとそのバンドを好きになる。そうして好きなバンドだから、好きな場所でライブが見たい。キュウソが来年もこの山中湖に戻ってきますように。
リハ.MEGA SHAKE IT!!
リハ.ファントムバイブレーション
1.ビビった
2.メンヘラちゃん
3.住環境
4.KMDT25 〜 FLY AGAIN w/ トーキョー・タナカ
5.家
6.The band
7.推しのいる生活
8.ハッピーポンコツ
9.3minutes
18:15〜 GRAPEVINE [FOREST STAGE]
若手からベテランまで様々なアーティストが出演してきたFOREST STAGEもいよいよ最後のアーティストに。Mt.FUJI STAGEではYOASOBIのライブが始まる直前であり、そうしたタイムテーブルを加味しても、この時間にこのステージに集まった人は本当にこのバンドが好きで普段からライブを観に来ているような人だけだろう。そんな状況でのGRAPEVINEが3日間のFOREST STAGEのトリを務める。
長年不動の5人がステージに登場すると、いきなりその変わらぬメンバーたちで練り上げてきた、一朝一夕では得られない安定感と重厚感を感じさせるグルーヴによる「Gifted」からスタート。田中和将(ボーカル&ギター)のサビでの歌唱も夜の森の中というシチュエーションがバンドの鳴らすサウンドの不穏さをより強くしているし、やはりこの男の少しアクの強いボーカルに不調の時はないんじゃないかと思わせる。活動初期はプレッシャーで逃げようとしたというエピソードが信じられなくなるくらいに。
そんな田中がギターを掻き鳴らすと、まさか…という思いが脳内をよぎる。実際に歌い始めてそれは確信に変わる。「ナツノヒカリ」である。つい先日に収録アルバム「another sky」の再現ライブも行っていただけに、演奏できる状態にあるのはわかっていたけれど、頑なにと言っていいくらいに夏フェスで演奏されてこなかった(それがこのバンドの天邪鬼さを示している)この曲を夏フェスで聴くという夢がリリースから20年経ったこの日に叶うとは。
高野勲(キーボードなど)と金戸覚(ベース)らもサビでコーラスを重ねると、致し方ないとはいえわずかにしかいない観客の中には腕を伸ばしている人もいる。そうしたくなるくらいに嬉しい、信じられないくらいの選曲。このフェスに今年出てくれて、この曲を演奏してくれて本当にありがとうと思わざるを得なかった。
「実はかれこそこのフェスに出るのは4回目くらい」
と毎年出ているわけではないけれど、意外と出演回数を重ねていることを田中が口にしながらアコギに持ち替えると、西川弘剛(ギター)をスライドさせてイントロを弾くのは、なんとバイン至上の名曲の一つである「風待ち」。かつて山中湖になってからのこのフェスに初出演した時に(今となっては信じられないが、LAKESIDE STAGEだった)も演奏されていたのを今でもよく覚えているが、何故このフェスではこの曲がこうして演奏される割合が高いのだろうか。
「今 夏の香りがしました
涙が出なかったのはそれのせいかなあ」
という歌詞の通りに夏の曲ではあるけれど、それでも他の夏フェスではそこまで演奏されることがないだけに。
さらにはイントロだけで名曲確定的な曲とすら言える、今やすっかりライブでの定番曲にもなった「光について」が続くという、もはや何曲リリースしているか数え切れないくらいの曲を持つバインの中でも屈指の名曲の連打に次ぐ連打っぷり。普通のバンドだったら「フェス的なセトリ」とも言えるものであるが、バインだと奇跡的に思えるのは本当にそうしたセトリのライブをしてこなかったバンドだからである。出来ることならこうしたセトリのライブこそ、フェスでたくさんの人に見て欲しかったけれど。
そんな名曲たちの連打の後には現状の最新作からの「ねずみ浄土」が演奏されるというのもバインだからこそ。削ぎ落とされまくったサウンドであるが故に亀井亨のドラムの一打の強さが際立つが、
「新たな普通
何かが狂う
眉ひとつ動かしもぜず」
というフレーズは実にバインらしい社会への皮肉を込めたものである。
そんな新旧の曲が並ぶライブは持ち時間の短さ故にあっという間に最後の曲へ。
「また会おうぜー!」
と田中が笑顔で手を振ってから演奏されたのは、まさかの「鳩」という選曲。そんなマニアックな曲でも客席では腕を挙げている人がいるくらいに、やはりこの日この場所には本当にバインのライブを見たくて仕方ない人が集まっていたのだ。そんな人たちがアンコールを求めて手拍子をするもすでに撤収作業が始まっていたというのは、後の祭というにはあまりに美しくも切ない光景だった。
もうフェスに出て客席が埋まることはないということはよくわかっているし、フェスの30分という持ち時間はバインというバンドのほんの一面のさらにごくわずかな部分しか見せられないということもわかっている。
それでも自分やこの日この時間にこのステージにいたような、どんなに大人気アクトと時間が被っていてもバインのライブが観たいと思う物好きな奴もフェスには来ている。そんな奴が「今日このフェスに来てよかったな」と思えるように、これからもフェスに出ることをやめないでいてくれと思う。それくらいに大切な思い入れが詰まりまくっているバンドだから、またいろんな場所に、会いにいこうかなあと思うのは風のせいかなあ。
1.Gifted
2.ナツノヒカリ
3.風待ち
4.光について
5.ねずみ浄土
6.鳩
19:20〜 レキシ [LAKESIDE STAGE]
いよいよ3年振り開催のこのフェスも最後のアクトを迎える。そんな復活の年の大役に選ばれたのはこのフェスでおなじみかつコラボなどで様々な名場面を作ってきたレキシである。
サウンドチェックでバンドメンバーたちが出てきてファンキーな演奏を展開していると、ステージと逆方向の彼方から大きな音が聞こえ、その方角を見るとどこか近くで祭りでも行われているのか、花火がガンガン上がりまくっていることでみんなサウンドチェック中のステージを全く見ず、レキシのバンドのファンキーな演奏を聴きながら花火を見る会みたいになっているのがライブが始まる前からすでに面白い。
おなじみの法螺貝的な音がステージに響くと、バンドメンバーがスタンバイする中でステージには大名行列を彷彿とさせる巨大な籠が出現。その中から着物姿のレキシこと池田貴史が出てくると、チャットモンチー済の橋本絵莉子の音源のコーラスも流れる「SHIKIBU」からスタートし、レキシの手拍子に合わせて客席からも手拍子が起こると、
「こんばんは!ケビン・コスナーです!」
とおなじみの高らかな挨拶をして会場が微妙な空気に包まれる中、
「中臣鎌足の曲やっちゃおうかな!待てよ?いたな!さっきこのステージに出てたな!」
ということで代打出演を果たしたことによって同じ日になり、ステージに呼び込めることになった、キュウソネコカミのセイヤが登場するのだが、全身青タイツで腰の部分にイルカがついているという変態チックな出で立ちで、しかも
「ONE OK ROCKです!」
と紹介されるという無駄な情報量の多さ。
レキシ「声出させると出禁になっちゃうから!ONE OK ROCK改め、YOASOBIの皆さんです!」
セイヤ「夜遊びっていうよりも俺たちが今やってるのは火遊び!(笑)」
などの際どいネタを連発することによってなかなか曲が始まらないのであるが、いざ演奏されると観客もレキシとセイヤとともに踊りまくり、間奏ではやはりセイヤ以外のキュウソのメンバーも
「Saucy Dogの皆さんです!」
と紹介されてステージに登場。オカザワはギターソロを弾いたりするのかと思いきや、そこはレキシのライブということで健介さん格さんこと奥田健介(NONA REEVES)が強烈なギターソロを鳴らしまくるという、実は凄腕揃いのメンバーの演奏技術を遺憾なく発揮し、キュウソのメンバーたちはステージ上ではしゃぎまくるという賑やかしっぷりを見せていた。こうして代打で出演してレキシとコラボまでしてくれるキュウソは本当にこのフェスを楽しみまくっている。
そうしてキュウソがステージ去ると、鳥獣戯画をテーマにするという、日本の音楽史上他に誰もやっていない(というかやる必要すらない)テーマがクレヨンしんちゃんの映画のテーマ曲になった「ギガアイシテル」でレキシの歌声に酔いしれると、
「みんなで年貢を納めようー!イェーイじゃないんだよ!年貢を納めようでイェーイはおかしいだろ!」
と言って始まった「年貢 for you」ではライブ恒例の他人の曲を歌いまくるコーナーが展開され、「ふたりの愛ランド」などの若い人が1ミリもわからないであろう曲のリアクションの薄さを察すると、
「夏はやっぱり桑田さんか!」
と言って「波乗りジョニー」をレキシならではの歌詞に変えて歌って凄まじい一体感を生み出し、さらには元気出せ!遣唐使こと渡和久(風味堂)が美しすぎる歌声を響かせる山下達郎の「さよなら夏の日」を歌ってまさに夏の終わりを実感させると、その元気出せ!遣唐使とレキシが繰り返されるイントロで踊りながらステージを端から端まで歩いていく「マツケンサンバ」までも演奏される。もう完全に何でもありになってきているために「年貢 for you」の曲中であることを忘れそうになるというか、曲に戻ることによってそのことを思い出すくらいの長〜い他の人の曲をやりまくるコーナーであった。
そんな長いコーナーが展開されたことによってなんとトリにも関わらず早くも5曲目で最後の曲に。
「トリだからいくら時間押してもいい(笑)」
と言ってもいたが、さすがにそこには時間の意識がちゃんとあるようなのだが、
「使うのこの曲だけなのにみんなが1曲目から掲げていた稲穂を使う時がついに来ましたよ!今日も光る稲穂が何と1000本以上も売れました(笑)他に使い道絶対ないからな!(笑)なんかチラホラ稲穂じゃなくてその辺に生えてるすすきを持ってるヤツもいるし!」
と言って、確かに1曲目からずっと客席から光を放ちまくっていた、常にスマホライト状態だった光る稲穂が揺れる様がドローンが上空から映すと実に美しい「狩りから稲作へ」ではその切ないサウンドに合わせるように、この日出演出来なくなったMAN WITH A MISSIONへリスペクトを示すように「Remember Me」の替え歌「稲ンバーミー」も演奏される。つまりはどんなにこのフェスが開催されるのが久しぶりでも、
「解散したバンドにいた時から10回以上出てる。レミオロメンっていうバンドで出てたんだけど(笑)」
と言うくらいにこのフェスに出まくってきたレキシのライブは楽しみ方が変わっても全く変わることはない楽しさを我々に与えてくれたのだった。
そんなことを思っていると、レキシは自発的にアンコールの手拍子をはじめ、それを観客が引き継いですぐさま大きな手拍子になったことによって、
「わざわざまた出てくるの時間使っちゃうから(笑)」
という理由で引っ込まずにそのままアンコールへと突入。
「今は星が見えないけど、山中湖に星がキラキラ煌めきますように!」
と言って今年のラブシャの本当に最後の曲として演奏されたのはもちろん「きらきら武士」。
「手綱をギュッと!」
のフレーズでまさにギュッとする仕草をレキシとともに観客を見せるのも本当にレキシという存在が日本の音楽シーンの中で当たり前のものになったんだなとも思うのだが、様々なアーティストのサポートドラマーを務める伊藤に行くならヒロブミこと伊藤大地が、レキシの曲でこんなにも!?と思うくらいの凄まじいドラムの連打を見せると、中村一義のバンド100sのメンバーとして活動を共にしてきた(当時はレキシがこんなに人気になるなんて全く思ってなかった)ヒロ出島こと山口寛雄のそのドラムにピッタリと合わせるベースなど、レキシメンバーそれぞれの演奏力の凄まじさに圧倒される。その演奏技術があるメンバーが揃ってるからこそ、あんなに好き放題にいろんなアーティストの曲を次々に演奏することができる。それをレキシ本人もキーボードを弾きまくることによって示してくれる。
「SWEET LOVE SHOWERが好き〜」
とレキシは「狩りから稲作へ」で恒例の歌詞を変えて歌っていたが、その気持ちが音としても曲以外のパフォーマンスとしても溢れ出ていた、3年振りのラブシャのトリとしてこんなにふさわしいものはないと思えるライブだった。きっとこれからもこのフェスに来れば、レキシのライブでこうやって大笑いすることができる。来年はその笑い声を我慢しなくてもいいような状況になっていますように。
1.SHIKIBU
2.KMTR645 w/キュウソネコカミ
3.ギガアイシテル
4.年貢 for you 〜 波乗りジョニー 〜 マツケンサンバ
5.狩りから稲作へ
encore
6.きらきら武士
終演後にこの日の写真などがビートルズ「ALL YOU NEED IS LOVE」とともに流れる。かつてはアーティストのライブ写真がメインだったのが、今年はライブを見ていたり、フォトスポットで写真を撮ったり、フェス飯を食べている観客の姿ばかりだった。それはこのフェスに1番大事な存在が何なのかをこのフェスのスタッフたちが示しているようであり、その最後にドローンで映した会場全景とともに
「Thank you for coming 3 years」
という文字が映し出された。その文字を涙が出てきてしまった。忘れようがないくらいにずっと通い続けて見てきた大好きな景色だから、ここにいると久しぶりという感じがほとんどしない。毎年来ている場所に今年も来たんだなとすら思える。それくらい鮮やかにこの場所のことが脳裏に焼き付いているから。
それでもやっぱり3年振りだったんだ、2年間ここにこうして来ることが出来なかったんだ、という事実がその文字を見ることによって実感させられてしまう。このフェス以外にもこの会場でフェスやライブが行われているのも知っている。それでもやっぱりこんな気持ちになるのはきっとこのフェスだけだ。
楽しみ方が変わっても、山中湖の美しい景色も、この場所で暮らしている人たちの優しさも決して変わることはない。それを感じられる3日間があるから、また来年ここに来れるように頑張ろうと思って生きていける。
だからその後に映し出された
「See you next year」
という文字だけは、どうかこれから先も叶いますように。このフェスに初めて来てから今年で15年。それが20年にも30年にもずっと続きますように。