ヤバイTシャツ屋さん "ぶどうかん"TOUR 2022 FINAL @日本武道館 8/25
- 2022/08/26
- 23:44
かつて2ndアルバム「Galaxy of the Tank-top」リリース時のツアーのZepp Tokyoでの2days時にこやまたくや(ボーカル&ギター)は
「武道館とかの広い場所でやるよりも、Zeppで5daysやれるバンドでありたい」
と言っていたのを今でもよく覚えている。その言葉をコロナ禍の中で5days、しかも1日2公演の10公演という形で開催して果たしたからこそ、ヤバイTシャツ屋さんがついに日本武道館でのワンマンへ。
すでに昨年には大阪城ホールでのワンマンも開催しているが、その武道館ワンマンは「葡萄館」という「ぶどうかん」という名のつく愛知と北海道の会場を含めたツアーのファイナルになるというあたりのユーモアとウィットがさすがヤバTである。
武道館の最寄駅である九段下駅はもう完全に「今日、ヤバTが武道館に立つんだな…」と毎秒思ってしまうくらいにヤバTのグッズを身につけた人ばかり。それくらいに目立つTシャツなどを恥ずかしがることなく嬉々として纏っているというのがヤバTファン、通称顧客の方々である。
ステージには背面にひまわり型の丸いスクリーン、両サイドにもスクリーンこそ設置されているが、ヤバTのライブはやはり武道館となってもその装飾は最低限の、どんな席の人でもちゃんとライブが見えるようにという配慮のみが形になったものであり、テレビ出演時などのイメージを持って初めてライブを見に来た人などはそのシンプルさにビックリするかもしれないと思うほどである。
夏休み設定なのか平日とは思えないくらいに早めの開演時間の18時になると、ステージに現れたのはバンドのマスコットのタンクトップくん。「可愛い〜」の声が聞こえないのは観客が声を出せないからであるが、そのタンクトップくんがこの日の前説を担当し、身振り手振りを交えてルールを説明するのだが、タンクトップくんが拍手を求めると武道館ならではの上から音が降ってくるかのような凄まじい音の大きさの拍手が鳴る。そこにこの日の観客たちがどれだけこのライブのことを楽しみにしていたのかという思いが詰まっている。
前説が終わって場内が暗転し、いよいよライブが始まるのかと思いきや、スクリーンには「Buyer Client」の文字が浮かび上がり、そのまま
「Buyer Clientを知っていますか?」
という街頭インタビューから、スタジオにいるBuyer Clientのメンバーたちへのインタビュー映像が流れ始め、
インタビュアー「Buyer Clientっていう名前の意味は?」
Jun(ボーカル)「EMINEMにEMINEMっていう名前の意味は?って聞かんやろ。愚問や」
インタビュアー「デビュー曲がドラマ主題歌になりましたけど、そのあとあまり活動されてませんよね?」
Jun「すぐオワコンとか消えたとか言いよるからな。mixiめちゃやってるからmixi見ればええやんけ」
と、やたらとインタビュアーの質問をはぐらかすというか、悪態をつくような回答をしていたBuyer Clientの3人がこのヤバTの武道館ワンマンを乗っ取るかのようにタンクトップを被ってステージに登場し、チルなサウンドの「dubscription」を歌い始める。3つのスクリーンにはそれぞれJun、Rumi、$atoshiの3人が一つずつ画面に映し出され、その映像の傍らには歌詞も映し出されるのだが、間奏部分でステージが暗転すると、再び明るくなった時に楽器を持ったヤバTのメンバーに入れ替わっており、スクリーンにも「ヤバイTシャツ屋さん」の文字が浮かび上がり、パンクなサウンドへと急展開していく。インタビューでは「Buyer ClientはヤバTではない」と言っていたが、後のMCでは普通に
「Buyer ClientはヤバTです!(笑)今日ここに来たみんなだけの秘密やで!」
と正体を明かしていた。この日は「dubscription」のレコードも販売されていただけに、Buyer Clientの活動も少し変わっていくのかもしれない…と冷静に思えるわけがないくらいに、誰がこれを予想したことだろうかというくらいに意外すぎるオープニングであるが、逆にこれがヤバTだからこその武道館だよなとも思う。
そうしてヤバTの武道館ワンマンとしての口火を切るのはやはり「Tank-top of the world」で、もりもとのドラムロールが観客のボルテージを一気に高めると、スクリーンには
「GO TO RIZAP!」
のフレーズが映し出されたりするが、こやまは
「心の中で!」
と言ってコーラスを自分たちだけでする。時にはもりもとに全振りするバージョンもあるが、この日はやはり武道館ということもあってか、この曲はストレートに演奏されていたイメージだ。しばたありぼぼ(ボーカル&ベース)のハイトーンボイスは武道館でもさすがの安定感を感じさせてくれるが、それでもところどころ少し声に揺らぎを感じたのはこの武道館の客席を見て感極まったりしていた部分もあったのだろうか。
そのしばたが笑顔でカメラに近づいて演奏する姿がスクリーンに映り、その姿が我々を楽しくさせてくれるのは「メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲」であるが、間奏で一旦観客が座ってから一気にジャンプするというおなじみの盛り上がり方もそもそも椅子がある武道館という会場ゆえに実にスムーズに決まる。そういう意味ではヤバTは実は席がある会場に実は向いていたバンドでもあるのでは?とすら思えてくる。
さらにはメロコアを超えてラウドですらあるサウンドの「顧客満足度1位」ではそのサウンドとこやまのデスボイスに合わせて観客がヘドバンしまくる光景が壮観である。音自体はやはりライブハウスで見まくってきたヤバTのものとは少し違うような感じもあったが、それでもこの景色はヤバTがライブハウスで作ってきたものがそのまま武道館に持ち込まれていると言える。
するとここで早くもヤバTがシーンに出現したことを告げた「あつまれ!パーティーピーポー」が演奏され、スクリーンには
「しゃっ!しゃっ!」
のコーラスフレーズがスクリーンに映し出され、パリピらしくタンクトップくんがサングラスをかけるアニメーションまでも映るのであるが、その演奏のテンポがいつも以上に凄まじく速い。武道館だから丁寧に聴かせるみたいな意識はきっとヤバTには全くない。ひたすらパンクに、ひたすら熱く自分たちの今の感情を込めて音を鳴らす。それしかできないと言わんばかりに。
MCではしばたが武道館だからこその希望があるといきなり口にし、スタンド最上段から最前列に向かっての「わかめウェーブが見たい」という希望に応えるように観客は両腕を頭の上でうねらせるわかめウェーブを最上段からして、ステージまで辿り着いた瞬間にバンドが音を鳴らすという次の曲の始まりを担う観客による演出だったりもしたのだが、
「気持ち悪いからもうやめてください」
と言うあたりがやはりヤバTであるが、音を鳴らすとともに
「行けるか武道館ー!」
と叫んだこやまは
「ミュージシャンってよく「行けるかー!」って言うけど、どこに行こうとしてるんやろな?」
と問いかけ、しばたが
「びっくりドンキーちゃう?」
と答えるというデビュー当時からのこのやり取りをそのまままさに2分くらいの曲にするという発想力の凄まじさを感じさせる曲が「まじで2分で作った曲」であり、スクリーンにはこの曲が収録されている最新シングル「ひまわりコンテスト」付属のくそDVD内の、もりもとがびっくりドンキーでハンバーグを食べ、その後にシュールなダンスを踊る様までもが映し出される。やたらとハンバーグが食べたくなってしまう、飯テロ的な破壊力を持った映像でもある。パインバーグディッシュは自分はあまり好みではないけれど。
「今日は久しぶりの曲もやるから!」
と、どんなライブでもそうした曲を代わる代わるセトリに入れてきたヤバTがこの日久しぶりに演奏したのは本当に実に久しぶりな感じがする「L・O・V・E タオル」なのだが、感染対策の一環によるものかこの日はタイトルになっているタオル回しをすることなく腕を観客がぐるぐると回す。そうしてこの曲が見せる景色は変わったとしても、しばたのキュートな声による曲のキャッチーさは変わることはない。
そのしばたのボーカルがハイトーンの極みというレベルに突入している「くそ現代っ子ごみかす20代」はそのしばたのボーカルによってメロからサビへと入るメロディの飛翔感を感じさせるとともにバンドの演奏の衝動を強く感じさせるものになっている。初期から演奏もボーカルもメンバー随一の安定感を誇っていたしばたであるが、それがさらに進化しているのがボーカルからわかるのがこの曲であり、ベースの演奏までも進化しているのがわかるのがしばたのスラップのイントロから始まる「DANCE ON TANSU」。この曲がこんなに観客を踊らせ、サビでは腕が左右に振れるという光景を見ることができるのはこのしばたのベースを軸にしたグルーヴの強さが今のヤバTにはあるからで、それはもちろんコロナ禍であってもひたすらライブをやり続けてきたバンドだからこそだ。
するとここでこやまとしばたがもりもとをステージ前に呼び寄せるのだが、もりもとはその際に明らかにトランペットを持ってステージ前に出てきており、こやまはアコギに持ち替える中、もりもとが
「せっかくの武道館なんで、スペシャルゲストをお招きしております!バンドにとって家族同然の存在という人を!」
と言って袖から出てきた2人に明らかに「誰これ?」みたいな視線が注がれるのだが、それは家族同然というか家族そのものの、もりもとの父親と姉。その2人がコーラスで参加するも母親がステージには出てこないのは「大人の事情」ということで、アコースティック編成で「大人の事情」をもりもとファミリーとともに演奏。
2人はコーラスで何ともシュールな実情を描いた歌詞を歌い、もりもとのトランペットソロでは明らかに音を外した部分で苦笑も起きるのだが、それでもこうしてドラマーでありながらもトランペットが弾けるように練習したというのは凄いことである。何故ならこの曲でしかこのトランペットを披露するような機会はないから。
そんなもりもとの頑張りを吹き飛ばしてしまうのは彼に実に良く似ている、間違いなく地を分けた存在だなと思える姉であり、「プロのシンガーやってらっしゃるんだっけ?」と思うくらいにソウルフルなシャウトをアウトロで轟かせて笑いと喝采を浴びる。もりもとはこの姉の影響で子供の頃からハードロックなどを聴くようになったとインタビューで言っていたが、それくらいに音楽が好きな一家なんだなということがよくわかるし、曲終わりでもりもとが家族と抱き合う姿は家族がもりもとのバンド活動を心から応援してくれているということもしっかり伝わってくる。かつてDVDでは「もりもとの実家にメンバーで来たら、こやまが自分の実家かのようにわがままに振る舞う」という小ネタもあったりしたけれど、もりもとの真っ直ぐさはこの家族あってこそなんだなということが実によくわかる家族コラボだった。
すると今度はしばたが
「うちも呼びたいゲストおるねん。うちの音楽のルーツって言える人」
と言うと大正琴奏者の女性と三味線奏者の男性という2人がステージに現れる。それはもちろんしばたの両親であり、音楽を生業としてきた2人だからこそ、「どすえ 〜おこしやす京都〜」の持つ和の雰囲気をさらに強くするコラボができるのだ。まさかヤバTの音楽にこうした楽器が加わることになるとは思わなかったが、しばたの父親がこやまと背中を合わせて三味線を演奏する姿はやはり笑いと拍手が起こるし、しばたもまた音楽が大好きなというか音楽一家に生まれたからこそ、こうしてバンドとして生きる道を家族が後押ししてくれているんだろうなと思う。
そして最後はやはりこやまがステージに出てきたピアノ奏者を、
「ピアノ、お母さんー!」
と紹介して「眠いオブザイヤー受賞」の流麗なピアノを演奏するのだが、こやまの母親の驚く美人っぷりと、上手すぎるピアノソロにはやはり笑いとともに間奏で大きな拍手が起きる。確かにインタビューで母親はピアノの先生だと言っていた記憶があるが、まさかこんなに武道館のゲストにふさわしいレベルのピアノの演奏を加えてくれるほどとは。
さらに曲中には
「コーラス、お父さんー!」
と言って、スーツにネクタイというこちらは実に普通の出で立ちのおじさんというようなこやまの父親も登場するのであるが、
「今年度最高のミルフィーユ」
という普段はもりもとが担うフレーズを父親が口にすることによって会場は爆笑に包まれる。
この的確過ぎる家族の使い方はまるでこの曲たちがこの形で演奏されるべき曲だったかのようですらあるのだが、この家族の姿を見ていると、優しすぎるくらいに優しいヤバTのメンバーがどうしてこういう優しさを持った人間に育ったのかがよくわかる。音楽が大好きな家族から愛情をたっぷり注がれて育ったということも。その様子を見ていたら、自分も両親のことを大切にしようと今までよりは少しは思えるというか。ヤバTにしか絶対にできない武道館だからこそのコラボはそんな人間として、人の子として大事な何かを思い出させてくれるかのようだった。
そんな完全なる家内制手工業的な家族とのコラボが終わると、そのアットホームな空気を切り裂くように「Tank-top in your heart」のラウドなメロコアサウンドが響き渡り、ここからまた怒涛のパンクの連打になるのかと思いきや、メンバーがいったんステージから去ると、
「ヤバイTシャツ屋さんのファミリーコンサートをお楽しみください」
というアナウンスとともにオープニング同様にタンクトップくんがステージに登場。
「世間の好感度と社会的認知度を上げたい」
というタンクトップくんの前に現れたのは、ヤバTのくそデザインTシャツしか着る服がなくて、そのデザインのダサさに泣いてしまっているマサヒロ君。そのマサヒロ君を励ますことによって世間の好感度を上げ、
「やらない善よりもやる偽善だよ」
とまで言い切るタンクトップくんの腹黒さを感じさせながらも、そこに現れた「諸悪の根源」ことヤバTのメンバーに現金を渡してこの出来事を曲にしてくれ、と言って演奏されたのはもちろん「タンクトップくんのキャラソン」。タンクトップくんとマサヒロ君が曲に合わせて動いたり踊ったりし、我々は椅子に座ってそれを見るという構図はまさにファミリーコンサートと言っていいものなのだが、そのファミリーコンサートはさらに「ZORORI ROCK!!!」までも続く。確かにこの日は幼い子供を連れて会場に来ている人も結構見かけた。そんな子供たちがこの曲たちを聴いて楽しんだり喜んだりしていたら本当に幸せなことだなと思う。きっとこれからもずっとヤバTのライブに来るようになるんだろうし、ロックとの出会いが幼少期のヤバTになるのだから。
そんなファミリーコンサートが終わって観客が全員立ち上がると「泡 Our Music」で観客は飛び跳ねまくりヘドバンしまくりという、CMタイアップにもなった爽やかさとパンク・ラウドさが融合したサウンドでリスタートし、さらには未だにこやまは「新曲」と紹介する「癒着☆NIGHT」ではメンバーに合わせて客席でも大きな手拍子が起こる。その手拍子の腕も高く上がり、声が出せない中でのライブの楽しみ方を視覚的に最大限に感じられるものだ。この曲の歌詞の自分が大好きな
「今夜はめちゃくちゃにしたりたいねん」
のフレーズのように、ここからさらにこの歴史ある武道館のステージでめちゃくちゃしてくれるんだなと思うのは、
「ここまでふざけてきましたけど、ここからもふざけます(笑)」
と言って、同期のストリングスの流麗かつ壮大な音が鳴る「肩have a good day」が演奏されるのだが、間奏でのもりもとの口笛ソロではこやまとしばたがもりもとの方を凝視して演奏するも、こやまがあんぐりと口を大きく開けているというふざけっぷりがスクリーンに映ると観客は爆笑。これを正面から見て笑うことなく口笛を吹き続けたもりもとは実は凄いと思う。
そして最後のサビ前ではこやまがステージ前まで出てきてマイクを通さずともしっかり聴こえるボーカリストとしての声量を見せつけるのであるが、感極まって歌えなくなる→しばたに励まされて歌えるようになるという小芝居も健在。それはメロディは超名曲なのに歌詞が
「肩幅が広い人のほうが肩幅が狭い人よりも発言に説得力が増すけど
肩幅の広さを気にせずに 心の広さを大切にすることに決めました」
というなんじゃそりゃと言いたくなるようなものだからである。個人的には合成かと思うくらいに写真で見ると肩幅が広い、前中日ドラゴンズ監督の与田剛のための曲だと思っているけど。
そんなヤバTの壮大な悪ふざけが続くのは、もりもととイオンのゲームコーナー「モーリーファンタジー」を称える「げんきもりもり!モーリーファンタジー」なのだが、なんと演奏中にもりもとのドラムセットがグングン上昇し、最終的には2階スタンドまで到達するくらいの高さになる。しばたがその上昇する様子をずっと見ていたのも面白いが、万が一落下したら即死レベルの高さですらあったため、もりもとは怖くなかったんだろうかとも思う。
そんな悪ふざけパートからマジになっていくのがサウンドからしてわかるのは、今年の春に幕張メッセで岡崎体育と対バンした際にリリースされたコラボ曲「Beats Per Minute 220」。ヤバTのシングルには毎回こやまの中学校のリアル先輩である岡崎体育によるリミックスが収録されているのだが、その岡崎体育だからこそのデジタルサウンドがヤバTのライブで聴こえてくるのも、しばたがベースを肩にかけたままでハンドマイクで歌うというのも実に新鮮だ。こやまは
「また対バンしたいな〜!」
と言っていたが、スケジュールの都合でその対バンが見れなかっただけに、是非自分の個人的リベンジとしてまた対バンをやって欲しいと思う。
スクリーンに「ウェイウェイ」などの文字が映し出される「ウェイウェイ大学生」が聴けるのもワンマンならではであるが、この曲の抜群のキャッチーさを持つメロディと、絶対にこやま以外に他に誰も思い付くことすらないであろう歌詞というヤバTの天才バンドたる所以はこの曲ですでに確立されていたと言えるし、そんな曲で絶対学生時代にウェイウェイしていなかったであろう、あるいは進行形でしていないであろう観客が踊りまくるのもヤバTのライブならではの光景であるが、そのスタイルは男女ツインボーカルという編成をフルに生かしたキャッチーさの「鬼POP〜」へと引き継がれていく。近年になって男女混声ボーカルバンドが増えてきたようなイメージもあるのだが、それもヤバTの影響によるものだと言っていいのだろうか。天井の高い武道館だからこそ、2人のキャッチーなボーカルがそこに跳ね返ってまたこちらに届いているような感覚すらある。
「ヤバイTシャツ屋さんが今一番推してる曲ー!」
と言って演奏されたのは最新シングル「ひまわりコンテスト」のリード曲である、ヤバT初の夏ソング「ちらばれ!サマーピーポー」で、スクリーンにはひまわりやセミ、さらにはサングラスをかけて夏を謳歌しようとしているタンクトップくんの映像が映ったりするのだが、歌詞の内容は全くそれとは真逆の、夏を楽しめない人間のものになっているというあたりが実にヤバT的な心地よい裏切りっぷりである。まぁそりゃあヤバTが「波乗りジョニー」的な夏ソングを出してきたらそれはそれでビックリしてしまうのだけれども。
そんな新作曲の後には急にこやまが真剣な表情に切り替わってギターを鳴らしながら、
「この歳になると、いなくなる友達もいたりする。その報せを聞いた時に、連絡来た時にご飯食べに行こうやって言ってたら違う結果になってたのかなって思ったりもする」
と話し始めるのだが、それが本当に優しすぎるのだ。優しすぎるから、悲しいことがあった時に自分を責めてしまう。どうかその優しさによって自身が傷つきすぎないようにと顧客の1人として心から思うのであるが、こやまは続けて自身の親族も急に居なくなってしまったことを語ると、
「どうか俺たちの前からいなくならんでな」
と観客に告げる。もちろんその言葉の後に演奏されたのは、Zepp Tokyoでの5days10公演の最終公演以来にライブで聴く「寿命で死ぬまで」。
しばたはあの時は歌いながら泣いてしまっていたが、この日も本当にギリギリで踏み止まっていたというくらいに多分溢れ出す寸前だった。それは上手さよりもとにかく声を大きく出すことによって、空の上にいる人のところまで届けようとするかのような歌唱にも現れていたが、ヤバTのライブの何が1番凄いのかというと、自分たちの出している声や鳴らしている音に自分たちの感情を全て乗せることができるということである。だから楽しい曲には楽しい感情が最大限に乗って我々をも楽しくしてくれるし、悔しい曲にはその悔しさが最大限に乗るからこそ、我々の心を抉ってくるのだ。面白いことやふざけたことばかりしているから凄いんじゃない。ロックバンドとしてその思いを音に乗せることができるから凄いのだ。だからやっぱり、この日の「寿命で死ぬまで」もメンバーの思いが音に乗って伝わって来すぎて、思いが溢れ出すのを堪えることができなかった。ヤバTのライブには笑顔と汗だけじゃなくて、涙もある。それが人間の持つ感情から発せられるものだから。
そんな明らかに武道館だからこその一つのクライマックスを刻むと、コロナ禍の中でもライブバンドとして活動を続けてきたヤバTの結晶とでも言うかのような「Give me the Tank-top」が演奏される。この25曲目にしてさらに違うエンジンがかかったかのような演奏と歌唱の凄まじさ。曲をたくさんやるほど良いと思っているとこやまは言っていたが、それは自分たちの力がより引き出されるのをわかっているからなのだろうかとも思う。もりもとの疾駆するツービートに乗る
「うるさくてくそ速い音楽を もっと浴びるように 着るように 聴く」
というのは、ヤバTが変わることなくこれからもライブハウスのライブバンドとして生きていくということの宣言である。
そこからはいよいよクライマックスに突入していく。それを告げるのはテンポが上がりまくったことによってより演奏がエモーショナルになり、観客の手拍子のテンポもめちゃくちゃ速くなる「ヤバみ」なのだが、やはり数え切れないくらいに聴いてきてもこの曲は我々のテンションをさらに数段階高いところへ引き上げてくれる。
そのテンションが上がりきった状態での「かわE」はもう踊りまくるしかないのであるが、ライブの最後を担えるようなこの曲すらもこうしてその前に演奏されている。そこにこそ今のヤバTが名曲が溢れすぎているということがわかるし、そんなヤバTはたのもC越してたのもDであるし、やはりかっこE越してかっこFなのである。
そんなライブもいよいよ最後の曲に。その位置を担う曲も今やたくさんある中で演奏されたのは「NO MONEY DANCE」。ピアノの同期の音も入りながら、メンバーに合わせて観客はピースサインを付き出す。そこには確かにヤバTのライブだからこそのハッピーな空気が溢れていたのだが、やはり我々はまだこの曲のコーラスを一緒に歌うことは出来ていない。でもちゃんと状況が元に戻った時には必ず一緒にこの曲を歌うことができるはず。その未来への希望をヤバTはその圧倒的な楽しさで感じさせてくれる。だから今はまだルールを守って声を出さずにヤバTと一緒に取り戻すために戦っていこうと思える。その過程の中に我々がいるからこそ、こうしてヤバTをライブハウスではなくて武道館で見ることができているのだから。
こやまが本編の去り際に手拍子を自発的に求めていただけにアンコールがあるのは確定として観客がやはり大きな手拍子でメンバーを待つと、再びステージに登場した3人はまずは恒例の客席を背にしての写真撮影を行うのだが、タオルやパペットを頭の上までは掲げないということをやんわりと周知するというのはさすがだ。撮影の瞬間に口にする引き算の数値は全く意味がわからないけれど。
そんな写真撮影を経ての「無線LANばり便利」でスクリーンにはWi-Fiのマークも映し出される中でパンクに疾走するようにこのアンコールにおいてもまだ持てる力の全てを振り絞るかのように演奏する。この曲でも観客を一度座らせてから一気にジャンプさせるというパフォーマンスがあり、それがやはりより一層このライブを楽しいものにしてくれる。
するとこやまはここでバンドの目標が今でも紅白歌合戦への出場であること、それが叶うようにNHKのレギュラー番組出演やタイアップもやってきたのだが、このライブをNHKの人が見ていて、それで紅白に望みをつなげるかのようにNHKを称える「案外悪ないNHK」でしっかりとアピールする。そもそもこうしてライブを観に来てれる人がNHKにいたとしたらとっくに紅白に出ていたことだろう。そういう意味でも関係者も行きやすそうな武道館で良いライブをやるというのは最低条件だ。もちろんヤバTはそこを確実にクリアしてくるバンドである。
そしてスクリーンには幸せそうなタンクトップくん夫妻の映像や「キッス!」「入籍!」などのフレーズが映し出される「ハッピーウエディング前ソング」では、こんなにもかというくらいに大きな音の手拍子が響く。その音は声が出せない中でも観客がバンドへの感謝と愛を最大限に伝えようとしているかのようだった。それはこのコロナ禍の状況でも誰よりもライブをやってきた存在だと自負するヤバTとその顧客だからこそ、声を出せなくても思いを伝えることができるということを証明するような、双方向の愛を確かめ合う瞬間であるかのようだった。こんなに手拍子の音の大きさで感動してしまったのは初めてだった。それくらいに、手拍子にも我々は感情を乗せることができるということを改めて教えられた瞬間だった。それはきっとこの武道館という広いようで距離が近く感じる会場だからこそだった。やっぱりヤバTのライブは最後に最高に楽しくて幸せな空間を作り出してくれたのである。
しかしそれでもまだメンバーは楽器を下ろそうとしない。
「もう限界やけど…限界超えてみる?」
とこやまが言うと、さらに「喜志駅周辺なんもない」が、曲中のコール&レスポンスなしバージョンで急遽追加で演奏される。そのコール&レスポンス部分で観客からのリアクションが返って来ずに真顔になってしまうメンバーというおなじみのパフォーマンスもあったが、このバージョンもきっと近いうちにやらなくていいようになるはず。それはその時には我々が声を出せる状況になっているということだ。その為に戦うヤバTだからこそ、最後にこやまとしばたが楽器を抱えてもりもとのキメに合わせてジャンプする姿は本当にカッコ良かった。それは自分がこの世で1番美しいと思う瞬間でもあった。そう思えるヤバTは本当にカッコいいロックバンドだと改めて思った。心から来てよかったと思えるヤバTの武道館ワンマンだった。
メンバーが楽器を下ろすと、しばたが「撮影OK」というプラカードを持ってきて、観客が撮っていいというライブ後ならではの撮影大会に。その時間が不意に終わるのもヤバTらしいが、ライブも終わったということもあって、メンバー1人ずつがコメントをすることに。
もりもとはライブを作ってくれたスタッフや家族への拍手を求めるという素直極まりないその姿勢にこちらがウルッとしてしまうようなことを口にするとしばたは
「私たち個体1人1人はライブハウスで育ってきて、このバンドもライブハウスに育てられてきました。だから、今日みたいなお金がかかる演出はできないかもしれないけれど、それでもまたライブハウスで会いましょう」
と、ライブハウスへの想いを口にする。本当にライブバンドでしかない。でもそれがやっぱり嬉しいのだ。規模が大きくなっていくだけじゃなくて、これからもライブハウスで見ることができることがわかるから。
そしてこやまは
「こうしてルールとマナーを守って楽しんでくれている顧客の皆さんが僕は大好きです」
と言う。こんなに嬉しい言葉はない。我々の思いや行動がメンバーにちゃんと伝わっていて、こんなに凄い人が我々のことを大好きと言ってくれるのだから。それはヤバTの顧客がずっと積み重ねてきたことの結果でもあるのだ。
さらには
「来年10周年です!10周年だから色々楽しいことも考えてるんだけど、今年紅白出れなかったらテレビの音楽番組で歌うのを解禁しようかなって。今までは結構旬な時に依頼が来ていたのを
「紅白出るまでは出ません!」
って全部断ってきたから(笑)
でも旬も過ぎたからそろそろ「ハッピーウエディング前ソング」をあの番組やこの番組で歌いたいとも思ってる」
と、バンドの方針が少し変わりつつあることを口にする。それがどうなるかは紅白次第だ。それだけに何としても今年の紅白に出てもらってからいろんな番組に出演して欲しい。少しでもバンドに悔いが残らないように。そんなことを思いながら、メンバーはステージを去っていった。32曲もやって、使い果たした部分もあるだろうけれど、それでもまだまだメンバーはげんきいっぱいに見えた。その姿を見て、やはりこの3人は只者じゃないと思った。どこかライブの神というか精霊のようなものに選ばれた3人が集結したバンドなんじゃないかと思うくらいに。
去年すでに大阪城ホールでもワンマンをやっている。キャパ的には武道館と変わらないだけに、武道館だからこそという要素はそんなにないかもしれないともライブ前には思っていた。でもそんなことはなかった。こやまも言っていた通りに武道館をやらない、と言っていたこともやはり武道館を特別な場所として認識していたからだ。そこは武道館じゃなくてもいいのに敢えて武道館と言うくらいに東京のライブの聖地と言える場所。
そんな場所でのヤバTのワンマンは徹頭徹尾ヤバTにしか絶対できないものだった。これまでに数え切れないくらいにこの武道館でライブを観てきたけれど、こんなにも「絶対このバンド以外にできないな」と思ったライブは他にないレベル。
つまりビートルズが日本で初めてライブをやった場所になったことでロックバンドにとっての聖地となったこの武道館にヤバTは新しい歴史を刻んだのだ。その1日に立ち合うことができたからこそ、好きじゃない人やそもそも向き合うことすらしない人もまだまだたくさんいるこのバンドに出会えて、そのカッコよさがわかる感性を持っていて本当に良かったし幸せだと思った。これからもこうやって数え切れないくらいに一緒に泣いたり笑ったりできるバンドと生きていくことができるのだから。
1.dabscription
2.Tank-top of the world
3.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲
4.顧客満足度1位
5.あつまれ!パーティーピーポー
6.まじで2分で作った曲
7.L・O・V・E タオル
8.くそ現代っ子ごみかす20代
9.DANCE ON TANSU
10.大人の事情 w/ もりもとの父と姉
11.どすえ 〜おこしやす京都〜 w/ しばたの両親
12.眠いオブザイヤー受賞 w/ こやまの両親
13.Tank-top in your heart
14.タンクトップくんのキャラソン
15.ZORORI ROCK!!!
16.泡 Our Music
17.癒着☆NIGHT
18.肩have a good day
19.げんきもりもり!モーリーファンタジー
20.Beats Per Minute 220
21.ウェイウェイ大学生
22.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
23.ちらばれ!サマーピーポー
24.寿命で死ぬまで
25.Give me the Tank-top
26.ヤバみ
27.かわE
28.NO MONEY DANCE
encore
29.無線LANばり便利
30.案外悪ないNHK
31.ハッピーウェディング前ソング
32.喜志駅周辺なんもない
「武道館とかの広い場所でやるよりも、Zeppで5daysやれるバンドでありたい」
と言っていたのを今でもよく覚えている。その言葉をコロナ禍の中で5days、しかも1日2公演の10公演という形で開催して果たしたからこそ、ヤバイTシャツ屋さんがついに日本武道館でのワンマンへ。
すでに昨年には大阪城ホールでのワンマンも開催しているが、その武道館ワンマンは「葡萄館」という「ぶどうかん」という名のつく愛知と北海道の会場を含めたツアーのファイナルになるというあたりのユーモアとウィットがさすがヤバTである。
武道館の最寄駅である九段下駅はもう完全に「今日、ヤバTが武道館に立つんだな…」と毎秒思ってしまうくらいにヤバTのグッズを身につけた人ばかり。それくらいに目立つTシャツなどを恥ずかしがることなく嬉々として纏っているというのがヤバTファン、通称顧客の方々である。
ステージには背面にひまわり型の丸いスクリーン、両サイドにもスクリーンこそ設置されているが、ヤバTのライブはやはり武道館となってもその装飾は最低限の、どんな席の人でもちゃんとライブが見えるようにという配慮のみが形になったものであり、テレビ出演時などのイメージを持って初めてライブを見に来た人などはそのシンプルさにビックリするかもしれないと思うほどである。
夏休み設定なのか平日とは思えないくらいに早めの開演時間の18時になると、ステージに現れたのはバンドのマスコットのタンクトップくん。「可愛い〜」の声が聞こえないのは観客が声を出せないからであるが、そのタンクトップくんがこの日の前説を担当し、身振り手振りを交えてルールを説明するのだが、タンクトップくんが拍手を求めると武道館ならではの上から音が降ってくるかのような凄まじい音の大きさの拍手が鳴る。そこにこの日の観客たちがどれだけこのライブのことを楽しみにしていたのかという思いが詰まっている。
前説が終わって場内が暗転し、いよいよライブが始まるのかと思いきや、スクリーンには「Buyer Client」の文字が浮かび上がり、そのまま
「Buyer Clientを知っていますか?」
という街頭インタビューから、スタジオにいるBuyer Clientのメンバーたちへのインタビュー映像が流れ始め、
インタビュアー「Buyer Clientっていう名前の意味は?」
Jun(ボーカル)「EMINEMにEMINEMっていう名前の意味は?って聞かんやろ。愚問や」
インタビュアー「デビュー曲がドラマ主題歌になりましたけど、そのあとあまり活動されてませんよね?」
Jun「すぐオワコンとか消えたとか言いよるからな。mixiめちゃやってるからmixi見ればええやんけ」
と、やたらとインタビュアーの質問をはぐらかすというか、悪態をつくような回答をしていたBuyer Clientの3人がこのヤバTの武道館ワンマンを乗っ取るかのようにタンクトップを被ってステージに登場し、チルなサウンドの「dubscription」を歌い始める。3つのスクリーンにはそれぞれJun、Rumi、$atoshiの3人が一つずつ画面に映し出され、その映像の傍らには歌詞も映し出されるのだが、間奏部分でステージが暗転すると、再び明るくなった時に楽器を持ったヤバTのメンバーに入れ替わっており、スクリーンにも「ヤバイTシャツ屋さん」の文字が浮かび上がり、パンクなサウンドへと急展開していく。インタビューでは「Buyer ClientはヤバTではない」と言っていたが、後のMCでは普通に
「Buyer ClientはヤバTです!(笑)今日ここに来たみんなだけの秘密やで!」
と正体を明かしていた。この日は「dubscription」のレコードも販売されていただけに、Buyer Clientの活動も少し変わっていくのかもしれない…と冷静に思えるわけがないくらいに、誰がこれを予想したことだろうかというくらいに意外すぎるオープニングであるが、逆にこれがヤバTだからこその武道館だよなとも思う。
そうしてヤバTの武道館ワンマンとしての口火を切るのはやはり「Tank-top of the world」で、もりもとのドラムロールが観客のボルテージを一気に高めると、スクリーンには
「GO TO RIZAP!」
のフレーズが映し出されたりするが、こやまは
「心の中で!」
と言ってコーラスを自分たちだけでする。時にはもりもとに全振りするバージョンもあるが、この日はやはり武道館ということもあってか、この曲はストレートに演奏されていたイメージだ。しばたありぼぼ(ボーカル&ベース)のハイトーンボイスは武道館でもさすがの安定感を感じさせてくれるが、それでもところどころ少し声に揺らぎを感じたのはこの武道館の客席を見て感極まったりしていた部分もあったのだろうか。
そのしばたが笑顔でカメラに近づいて演奏する姿がスクリーンに映り、その姿が我々を楽しくさせてくれるのは「メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲」であるが、間奏で一旦観客が座ってから一気にジャンプするというおなじみの盛り上がり方もそもそも椅子がある武道館という会場ゆえに実にスムーズに決まる。そういう意味ではヤバTは実は席がある会場に実は向いていたバンドでもあるのでは?とすら思えてくる。
さらにはメロコアを超えてラウドですらあるサウンドの「顧客満足度1位」ではそのサウンドとこやまのデスボイスに合わせて観客がヘドバンしまくる光景が壮観である。音自体はやはりライブハウスで見まくってきたヤバTのものとは少し違うような感じもあったが、それでもこの景色はヤバTがライブハウスで作ってきたものがそのまま武道館に持ち込まれていると言える。
するとここで早くもヤバTがシーンに出現したことを告げた「あつまれ!パーティーピーポー」が演奏され、スクリーンには
「しゃっ!しゃっ!」
のコーラスフレーズがスクリーンに映し出され、パリピらしくタンクトップくんがサングラスをかけるアニメーションまでも映るのであるが、その演奏のテンポがいつも以上に凄まじく速い。武道館だから丁寧に聴かせるみたいな意識はきっとヤバTには全くない。ひたすらパンクに、ひたすら熱く自分たちの今の感情を込めて音を鳴らす。それしかできないと言わんばかりに。
MCではしばたが武道館だからこその希望があるといきなり口にし、スタンド最上段から最前列に向かっての「わかめウェーブが見たい」という希望に応えるように観客は両腕を頭の上でうねらせるわかめウェーブを最上段からして、ステージまで辿り着いた瞬間にバンドが音を鳴らすという次の曲の始まりを担う観客による演出だったりもしたのだが、
「気持ち悪いからもうやめてください」
と言うあたりがやはりヤバTであるが、音を鳴らすとともに
「行けるか武道館ー!」
と叫んだこやまは
「ミュージシャンってよく「行けるかー!」って言うけど、どこに行こうとしてるんやろな?」
と問いかけ、しばたが
「びっくりドンキーちゃう?」
と答えるというデビュー当時からのこのやり取りをそのまままさに2分くらいの曲にするという発想力の凄まじさを感じさせる曲が「まじで2分で作った曲」であり、スクリーンにはこの曲が収録されている最新シングル「ひまわりコンテスト」付属のくそDVD内の、もりもとがびっくりドンキーでハンバーグを食べ、その後にシュールなダンスを踊る様までもが映し出される。やたらとハンバーグが食べたくなってしまう、飯テロ的な破壊力を持った映像でもある。パインバーグディッシュは自分はあまり好みではないけれど。
「今日は久しぶりの曲もやるから!」
と、どんなライブでもそうした曲を代わる代わるセトリに入れてきたヤバTがこの日久しぶりに演奏したのは本当に実に久しぶりな感じがする「L・O・V・E タオル」なのだが、感染対策の一環によるものかこの日はタイトルになっているタオル回しをすることなく腕を観客がぐるぐると回す。そうしてこの曲が見せる景色は変わったとしても、しばたのキュートな声による曲のキャッチーさは変わることはない。
そのしばたのボーカルがハイトーンの極みというレベルに突入している「くそ現代っ子ごみかす20代」はそのしばたのボーカルによってメロからサビへと入るメロディの飛翔感を感じさせるとともにバンドの演奏の衝動を強く感じさせるものになっている。初期から演奏もボーカルもメンバー随一の安定感を誇っていたしばたであるが、それがさらに進化しているのがボーカルからわかるのがこの曲であり、ベースの演奏までも進化しているのがわかるのがしばたのスラップのイントロから始まる「DANCE ON TANSU」。この曲がこんなに観客を踊らせ、サビでは腕が左右に振れるという光景を見ることができるのはこのしばたのベースを軸にしたグルーヴの強さが今のヤバTにはあるからで、それはもちろんコロナ禍であってもひたすらライブをやり続けてきたバンドだからこそだ。
するとここでこやまとしばたがもりもとをステージ前に呼び寄せるのだが、もりもとはその際に明らかにトランペットを持ってステージ前に出てきており、こやまはアコギに持ち替える中、もりもとが
「せっかくの武道館なんで、スペシャルゲストをお招きしております!バンドにとって家族同然の存在という人を!」
と言って袖から出てきた2人に明らかに「誰これ?」みたいな視線が注がれるのだが、それは家族同然というか家族そのものの、もりもとの父親と姉。その2人がコーラスで参加するも母親がステージには出てこないのは「大人の事情」ということで、アコースティック編成で「大人の事情」をもりもとファミリーとともに演奏。
2人はコーラスで何ともシュールな実情を描いた歌詞を歌い、もりもとのトランペットソロでは明らかに音を外した部分で苦笑も起きるのだが、それでもこうしてドラマーでありながらもトランペットが弾けるように練習したというのは凄いことである。何故ならこの曲でしかこのトランペットを披露するような機会はないから。
そんなもりもとの頑張りを吹き飛ばしてしまうのは彼に実に良く似ている、間違いなく地を分けた存在だなと思える姉であり、「プロのシンガーやってらっしゃるんだっけ?」と思うくらいにソウルフルなシャウトをアウトロで轟かせて笑いと喝采を浴びる。もりもとはこの姉の影響で子供の頃からハードロックなどを聴くようになったとインタビューで言っていたが、それくらいに音楽が好きな一家なんだなということがよくわかるし、曲終わりでもりもとが家族と抱き合う姿は家族がもりもとのバンド活動を心から応援してくれているということもしっかり伝わってくる。かつてDVDでは「もりもとの実家にメンバーで来たら、こやまが自分の実家かのようにわがままに振る舞う」という小ネタもあったりしたけれど、もりもとの真っ直ぐさはこの家族あってこそなんだなということが実によくわかる家族コラボだった。
すると今度はしばたが
「うちも呼びたいゲストおるねん。うちの音楽のルーツって言える人」
と言うと大正琴奏者の女性と三味線奏者の男性という2人がステージに現れる。それはもちろんしばたの両親であり、音楽を生業としてきた2人だからこそ、「どすえ 〜おこしやす京都〜」の持つ和の雰囲気をさらに強くするコラボができるのだ。まさかヤバTの音楽にこうした楽器が加わることになるとは思わなかったが、しばたの父親がこやまと背中を合わせて三味線を演奏する姿はやはり笑いと拍手が起こるし、しばたもまた音楽が大好きなというか音楽一家に生まれたからこそ、こうしてバンドとして生きる道を家族が後押ししてくれているんだろうなと思う。
そして最後はやはりこやまがステージに出てきたピアノ奏者を、
「ピアノ、お母さんー!」
と紹介して「眠いオブザイヤー受賞」の流麗なピアノを演奏するのだが、こやまの母親の驚く美人っぷりと、上手すぎるピアノソロにはやはり笑いとともに間奏で大きな拍手が起きる。確かにインタビューで母親はピアノの先生だと言っていた記憶があるが、まさかこんなに武道館のゲストにふさわしいレベルのピアノの演奏を加えてくれるほどとは。
さらに曲中には
「コーラス、お父さんー!」
と言って、スーツにネクタイというこちらは実に普通の出で立ちのおじさんというようなこやまの父親も登場するのであるが、
「今年度最高のミルフィーユ」
という普段はもりもとが担うフレーズを父親が口にすることによって会場は爆笑に包まれる。
この的確過ぎる家族の使い方はまるでこの曲たちがこの形で演奏されるべき曲だったかのようですらあるのだが、この家族の姿を見ていると、優しすぎるくらいに優しいヤバTのメンバーがどうしてこういう優しさを持った人間に育ったのかがよくわかる。音楽が大好きな家族から愛情をたっぷり注がれて育ったということも。その様子を見ていたら、自分も両親のことを大切にしようと今までよりは少しは思えるというか。ヤバTにしか絶対にできない武道館だからこそのコラボはそんな人間として、人の子として大事な何かを思い出させてくれるかのようだった。
そんな完全なる家内制手工業的な家族とのコラボが終わると、そのアットホームな空気を切り裂くように「Tank-top in your heart」のラウドなメロコアサウンドが響き渡り、ここからまた怒涛のパンクの連打になるのかと思いきや、メンバーがいったんステージから去ると、
「ヤバイTシャツ屋さんのファミリーコンサートをお楽しみください」
というアナウンスとともにオープニング同様にタンクトップくんがステージに登場。
「世間の好感度と社会的認知度を上げたい」
というタンクトップくんの前に現れたのは、ヤバTのくそデザインTシャツしか着る服がなくて、そのデザインのダサさに泣いてしまっているマサヒロ君。そのマサヒロ君を励ますことによって世間の好感度を上げ、
「やらない善よりもやる偽善だよ」
とまで言い切るタンクトップくんの腹黒さを感じさせながらも、そこに現れた「諸悪の根源」ことヤバTのメンバーに現金を渡してこの出来事を曲にしてくれ、と言って演奏されたのはもちろん「タンクトップくんのキャラソン」。タンクトップくんとマサヒロ君が曲に合わせて動いたり踊ったりし、我々は椅子に座ってそれを見るという構図はまさにファミリーコンサートと言っていいものなのだが、そのファミリーコンサートはさらに「ZORORI ROCK!!!」までも続く。確かにこの日は幼い子供を連れて会場に来ている人も結構見かけた。そんな子供たちがこの曲たちを聴いて楽しんだり喜んだりしていたら本当に幸せなことだなと思う。きっとこれからもずっとヤバTのライブに来るようになるんだろうし、ロックとの出会いが幼少期のヤバTになるのだから。
そんなファミリーコンサートが終わって観客が全員立ち上がると「泡 Our Music」で観客は飛び跳ねまくりヘドバンしまくりという、CMタイアップにもなった爽やかさとパンク・ラウドさが融合したサウンドでリスタートし、さらには未だにこやまは「新曲」と紹介する「癒着☆NIGHT」ではメンバーに合わせて客席でも大きな手拍子が起こる。その手拍子の腕も高く上がり、声が出せない中でのライブの楽しみ方を視覚的に最大限に感じられるものだ。この曲の歌詞の自分が大好きな
「今夜はめちゃくちゃにしたりたいねん」
のフレーズのように、ここからさらにこの歴史ある武道館のステージでめちゃくちゃしてくれるんだなと思うのは、
「ここまでふざけてきましたけど、ここからもふざけます(笑)」
と言って、同期のストリングスの流麗かつ壮大な音が鳴る「肩have a good day」が演奏されるのだが、間奏でのもりもとの口笛ソロではこやまとしばたがもりもとの方を凝視して演奏するも、こやまがあんぐりと口を大きく開けているというふざけっぷりがスクリーンに映ると観客は爆笑。これを正面から見て笑うことなく口笛を吹き続けたもりもとは実は凄いと思う。
そして最後のサビ前ではこやまがステージ前まで出てきてマイクを通さずともしっかり聴こえるボーカリストとしての声量を見せつけるのであるが、感極まって歌えなくなる→しばたに励まされて歌えるようになるという小芝居も健在。それはメロディは超名曲なのに歌詞が
「肩幅が広い人のほうが肩幅が狭い人よりも発言に説得力が増すけど
肩幅の広さを気にせずに 心の広さを大切にすることに決めました」
というなんじゃそりゃと言いたくなるようなものだからである。個人的には合成かと思うくらいに写真で見ると肩幅が広い、前中日ドラゴンズ監督の与田剛のための曲だと思っているけど。
そんなヤバTの壮大な悪ふざけが続くのは、もりもととイオンのゲームコーナー「モーリーファンタジー」を称える「げんきもりもり!モーリーファンタジー」なのだが、なんと演奏中にもりもとのドラムセットがグングン上昇し、最終的には2階スタンドまで到達するくらいの高さになる。しばたがその上昇する様子をずっと見ていたのも面白いが、万が一落下したら即死レベルの高さですらあったため、もりもとは怖くなかったんだろうかとも思う。
そんな悪ふざけパートからマジになっていくのがサウンドからしてわかるのは、今年の春に幕張メッセで岡崎体育と対バンした際にリリースされたコラボ曲「Beats Per Minute 220」。ヤバTのシングルには毎回こやまの中学校のリアル先輩である岡崎体育によるリミックスが収録されているのだが、その岡崎体育だからこそのデジタルサウンドがヤバTのライブで聴こえてくるのも、しばたがベースを肩にかけたままでハンドマイクで歌うというのも実に新鮮だ。こやまは
「また対バンしたいな〜!」
と言っていたが、スケジュールの都合でその対バンが見れなかっただけに、是非自分の個人的リベンジとしてまた対バンをやって欲しいと思う。
スクリーンに「ウェイウェイ」などの文字が映し出される「ウェイウェイ大学生」が聴けるのもワンマンならではであるが、この曲の抜群のキャッチーさを持つメロディと、絶対にこやま以外に他に誰も思い付くことすらないであろう歌詞というヤバTの天才バンドたる所以はこの曲ですでに確立されていたと言えるし、そんな曲で絶対学生時代にウェイウェイしていなかったであろう、あるいは進行形でしていないであろう観客が踊りまくるのもヤバTのライブならではの光景であるが、そのスタイルは男女ツインボーカルという編成をフルに生かしたキャッチーさの「鬼POP〜」へと引き継がれていく。近年になって男女混声ボーカルバンドが増えてきたようなイメージもあるのだが、それもヤバTの影響によるものだと言っていいのだろうか。天井の高い武道館だからこそ、2人のキャッチーなボーカルがそこに跳ね返ってまたこちらに届いているような感覚すらある。
「ヤバイTシャツ屋さんが今一番推してる曲ー!」
と言って演奏されたのは最新シングル「ひまわりコンテスト」のリード曲である、ヤバT初の夏ソング「ちらばれ!サマーピーポー」で、スクリーンにはひまわりやセミ、さらにはサングラスをかけて夏を謳歌しようとしているタンクトップくんの映像が映ったりするのだが、歌詞の内容は全くそれとは真逆の、夏を楽しめない人間のものになっているというあたりが実にヤバT的な心地よい裏切りっぷりである。まぁそりゃあヤバTが「波乗りジョニー」的な夏ソングを出してきたらそれはそれでビックリしてしまうのだけれども。
そんな新作曲の後には急にこやまが真剣な表情に切り替わってギターを鳴らしながら、
「この歳になると、いなくなる友達もいたりする。その報せを聞いた時に、連絡来た時にご飯食べに行こうやって言ってたら違う結果になってたのかなって思ったりもする」
と話し始めるのだが、それが本当に優しすぎるのだ。優しすぎるから、悲しいことがあった時に自分を責めてしまう。どうかその優しさによって自身が傷つきすぎないようにと顧客の1人として心から思うのであるが、こやまは続けて自身の親族も急に居なくなってしまったことを語ると、
「どうか俺たちの前からいなくならんでな」
と観客に告げる。もちろんその言葉の後に演奏されたのは、Zepp Tokyoでの5days10公演の最終公演以来にライブで聴く「寿命で死ぬまで」。
しばたはあの時は歌いながら泣いてしまっていたが、この日も本当にギリギリで踏み止まっていたというくらいに多分溢れ出す寸前だった。それは上手さよりもとにかく声を大きく出すことによって、空の上にいる人のところまで届けようとするかのような歌唱にも現れていたが、ヤバTのライブの何が1番凄いのかというと、自分たちの出している声や鳴らしている音に自分たちの感情を全て乗せることができるということである。だから楽しい曲には楽しい感情が最大限に乗って我々をも楽しくしてくれるし、悔しい曲にはその悔しさが最大限に乗るからこそ、我々の心を抉ってくるのだ。面白いことやふざけたことばかりしているから凄いんじゃない。ロックバンドとしてその思いを音に乗せることができるから凄いのだ。だからやっぱり、この日の「寿命で死ぬまで」もメンバーの思いが音に乗って伝わって来すぎて、思いが溢れ出すのを堪えることができなかった。ヤバTのライブには笑顔と汗だけじゃなくて、涙もある。それが人間の持つ感情から発せられるものだから。
そんな明らかに武道館だからこその一つのクライマックスを刻むと、コロナ禍の中でもライブバンドとして活動を続けてきたヤバTの結晶とでも言うかのような「Give me the Tank-top」が演奏される。この25曲目にしてさらに違うエンジンがかかったかのような演奏と歌唱の凄まじさ。曲をたくさんやるほど良いと思っているとこやまは言っていたが、それは自分たちの力がより引き出されるのをわかっているからなのだろうかとも思う。もりもとの疾駆するツービートに乗る
「うるさくてくそ速い音楽を もっと浴びるように 着るように 聴く」
というのは、ヤバTが変わることなくこれからもライブハウスのライブバンドとして生きていくということの宣言である。
そこからはいよいよクライマックスに突入していく。それを告げるのはテンポが上がりまくったことによってより演奏がエモーショナルになり、観客の手拍子のテンポもめちゃくちゃ速くなる「ヤバみ」なのだが、やはり数え切れないくらいに聴いてきてもこの曲は我々のテンションをさらに数段階高いところへ引き上げてくれる。
そのテンションが上がりきった状態での「かわE」はもう踊りまくるしかないのであるが、ライブの最後を担えるようなこの曲すらもこうしてその前に演奏されている。そこにこそ今のヤバTが名曲が溢れすぎているということがわかるし、そんなヤバTはたのもC越してたのもDであるし、やはりかっこE越してかっこFなのである。
そんなライブもいよいよ最後の曲に。その位置を担う曲も今やたくさんある中で演奏されたのは「NO MONEY DANCE」。ピアノの同期の音も入りながら、メンバーに合わせて観客はピースサインを付き出す。そこには確かにヤバTのライブだからこそのハッピーな空気が溢れていたのだが、やはり我々はまだこの曲のコーラスを一緒に歌うことは出来ていない。でもちゃんと状況が元に戻った時には必ず一緒にこの曲を歌うことができるはず。その未来への希望をヤバTはその圧倒的な楽しさで感じさせてくれる。だから今はまだルールを守って声を出さずにヤバTと一緒に取り戻すために戦っていこうと思える。その過程の中に我々がいるからこそ、こうしてヤバTをライブハウスではなくて武道館で見ることができているのだから。
こやまが本編の去り際に手拍子を自発的に求めていただけにアンコールがあるのは確定として観客がやはり大きな手拍子でメンバーを待つと、再びステージに登場した3人はまずは恒例の客席を背にしての写真撮影を行うのだが、タオルやパペットを頭の上までは掲げないということをやんわりと周知するというのはさすがだ。撮影の瞬間に口にする引き算の数値は全く意味がわからないけれど。
そんな写真撮影を経ての「無線LANばり便利」でスクリーンにはWi-Fiのマークも映し出される中でパンクに疾走するようにこのアンコールにおいてもまだ持てる力の全てを振り絞るかのように演奏する。この曲でも観客を一度座らせてから一気にジャンプさせるというパフォーマンスがあり、それがやはりより一層このライブを楽しいものにしてくれる。
するとこやまはここでバンドの目標が今でも紅白歌合戦への出場であること、それが叶うようにNHKのレギュラー番組出演やタイアップもやってきたのだが、このライブをNHKの人が見ていて、それで紅白に望みをつなげるかのようにNHKを称える「案外悪ないNHK」でしっかりとアピールする。そもそもこうしてライブを観に来てれる人がNHKにいたとしたらとっくに紅白に出ていたことだろう。そういう意味でも関係者も行きやすそうな武道館で良いライブをやるというのは最低条件だ。もちろんヤバTはそこを確実にクリアしてくるバンドである。
そしてスクリーンには幸せそうなタンクトップくん夫妻の映像や「キッス!」「入籍!」などのフレーズが映し出される「ハッピーウエディング前ソング」では、こんなにもかというくらいに大きな音の手拍子が響く。その音は声が出せない中でも観客がバンドへの感謝と愛を最大限に伝えようとしているかのようだった。それはこのコロナ禍の状況でも誰よりもライブをやってきた存在だと自負するヤバTとその顧客だからこそ、声を出せなくても思いを伝えることができるということを証明するような、双方向の愛を確かめ合う瞬間であるかのようだった。こんなに手拍子の音の大きさで感動してしまったのは初めてだった。それくらいに、手拍子にも我々は感情を乗せることができるということを改めて教えられた瞬間だった。それはきっとこの武道館という広いようで距離が近く感じる会場だからこそだった。やっぱりヤバTのライブは最後に最高に楽しくて幸せな空間を作り出してくれたのである。
しかしそれでもまだメンバーは楽器を下ろそうとしない。
「もう限界やけど…限界超えてみる?」
とこやまが言うと、さらに「喜志駅周辺なんもない」が、曲中のコール&レスポンスなしバージョンで急遽追加で演奏される。そのコール&レスポンス部分で観客からのリアクションが返って来ずに真顔になってしまうメンバーというおなじみのパフォーマンスもあったが、このバージョンもきっと近いうちにやらなくていいようになるはず。それはその時には我々が声を出せる状況になっているということだ。その為に戦うヤバTだからこそ、最後にこやまとしばたが楽器を抱えてもりもとのキメに合わせてジャンプする姿は本当にカッコ良かった。それは自分がこの世で1番美しいと思う瞬間でもあった。そう思えるヤバTは本当にカッコいいロックバンドだと改めて思った。心から来てよかったと思えるヤバTの武道館ワンマンだった。
メンバーが楽器を下ろすと、しばたが「撮影OK」というプラカードを持ってきて、観客が撮っていいというライブ後ならではの撮影大会に。その時間が不意に終わるのもヤバTらしいが、ライブも終わったということもあって、メンバー1人ずつがコメントをすることに。
もりもとはライブを作ってくれたスタッフや家族への拍手を求めるという素直極まりないその姿勢にこちらがウルッとしてしまうようなことを口にするとしばたは
「私たち個体1人1人はライブハウスで育ってきて、このバンドもライブハウスに育てられてきました。だから、今日みたいなお金がかかる演出はできないかもしれないけれど、それでもまたライブハウスで会いましょう」
と、ライブハウスへの想いを口にする。本当にライブバンドでしかない。でもそれがやっぱり嬉しいのだ。規模が大きくなっていくだけじゃなくて、これからもライブハウスで見ることができることがわかるから。
そしてこやまは
「こうしてルールとマナーを守って楽しんでくれている顧客の皆さんが僕は大好きです」
と言う。こんなに嬉しい言葉はない。我々の思いや行動がメンバーにちゃんと伝わっていて、こんなに凄い人が我々のことを大好きと言ってくれるのだから。それはヤバTの顧客がずっと積み重ねてきたことの結果でもあるのだ。
さらには
「来年10周年です!10周年だから色々楽しいことも考えてるんだけど、今年紅白出れなかったらテレビの音楽番組で歌うのを解禁しようかなって。今までは結構旬な時に依頼が来ていたのを
「紅白出るまでは出ません!」
って全部断ってきたから(笑)
でも旬も過ぎたからそろそろ「ハッピーウエディング前ソング」をあの番組やこの番組で歌いたいとも思ってる」
と、バンドの方針が少し変わりつつあることを口にする。それがどうなるかは紅白次第だ。それだけに何としても今年の紅白に出てもらってからいろんな番組に出演して欲しい。少しでもバンドに悔いが残らないように。そんなことを思いながら、メンバーはステージを去っていった。32曲もやって、使い果たした部分もあるだろうけれど、それでもまだまだメンバーはげんきいっぱいに見えた。その姿を見て、やはりこの3人は只者じゃないと思った。どこかライブの神というか精霊のようなものに選ばれた3人が集結したバンドなんじゃないかと思うくらいに。
去年すでに大阪城ホールでもワンマンをやっている。キャパ的には武道館と変わらないだけに、武道館だからこそという要素はそんなにないかもしれないともライブ前には思っていた。でもそんなことはなかった。こやまも言っていた通りに武道館をやらない、と言っていたこともやはり武道館を特別な場所として認識していたからだ。そこは武道館じゃなくてもいいのに敢えて武道館と言うくらいに東京のライブの聖地と言える場所。
そんな場所でのヤバTのワンマンは徹頭徹尾ヤバTにしか絶対できないものだった。これまでに数え切れないくらいにこの武道館でライブを観てきたけれど、こんなにも「絶対このバンド以外にできないな」と思ったライブは他にないレベル。
つまりビートルズが日本で初めてライブをやった場所になったことでロックバンドにとっての聖地となったこの武道館にヤバTは新しい歴史を刻んだのだ。その1日に立ち合うことができたからこそ、好きじゃない人やそもそも向き合うことすらしない人もまだまだたくさんいるこのバンドに出会えて、そのカッコよさがわかる感性を持っていて本当に良かったし幸せだと思った。これからもこうやって数え切れないくらいに一緒に泣いたり笑ったりできるバンドと生きていくことができるのだから。
1.dabscription
2.Tank-top of the world
3.メロコアバンドのアルバムの3曲目くらいによく収録されている感じの曲
4.顧客満足度1位
5.あつまれ!パーティーピーポー
6.まじで2分で作った曲
7.L・O・V・E タオル
8.くそ現代っ子ごみかす20代
9.DANCE ON TANSU
10.大人の事情 w/ もりもとの父と姉
11.どすえ 〜おこしやす京都〜 w/ しばたの両親
12.眠いオブザイヤー受賞 w/ こやまの両親
13.Tank-top in your heart
14.タンクトップくんのキャラソン
15.ZORORI ROCK!!!
16.泡 Our Music
17.癒着☆NIGHT
18.肩have a good day
19.げんきもりもり!モーリーファンタジー
20.Beats Per Minute 220
21.ウェイウェイ大学生
22.鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
23.ちらばれ!サマーピーポー
24.寿命で死ぬまで
25.Give me the Tank-top
26.ヤバみ
27.かわE
28.NO MONEY DANCE
encore
29.無線LANばり便利
30.案外悪ないNHK
31.ハッピーウェディング前ソング
32.喜志駅周辺なんもない