メレンゲ ワンマンライブ @新宿LOFT 8/24
- 2022/08/25
- 21:17
コロナ禍になり始めた2020年は次々にライブが中止になる中でも3月くらいまでライブをやっているという精力的な活動を見せていたのだが、それ以降はぱったりと活動が止まり(ここにきてクボケンジの弾き語りライブも増えてきつつあるけれど)、やっぱり久々のライブとなったメレンゲのワンマンがこの日の新宿LOFT。それだけにどんな内容というかセトリのライブになるのかは全く想像がつかない。
雨も降る中での新宿LOFTは足元に立ち位置もないオールスタンディングで、開演時間の19時になるとステージにかかっていた幕が上がって、髪がかなりさっぱりした感じがあるタケシタツヨシ(ベース)を先頭にメンバーが登場。小野田尚史(ドラム)、松江潤(ギター)、山本健太(キーボード)というおなじみのサポートメンバーたちに続いてハットを被ったクボケンジ(ボーカル&ギター)がギターを自分で持って登場すると、そのクボと松江のギターが轟音サウンドを鳴らすイントロから始まるのは「輝く蛍の輪」。いきなりロックバンドとしてのメレンゲを感じさせてくれる曲であり、「ああ、メレンゲのライブハウスでのライブってこうして意外なくらいに轟音だったよな」ということを思い出させてくれるスタートであるが、久しぶりのバンドとしてのライブということもあってか、やはり少し緊張感のようなものもステージから感じるというか、音を一つずつ確かめるように丁寧に演奏されていたというようなイメージでもある。とはいえ観客はこの瞬間を待ち侘びていたということもあり、サビでは腕を挙げる人も多数。やっぱりメレンゲがこうしてライブをやってくれるのを待っていた人たちが今でもちゃんといるのだ。
ピンク色に光る照明がメンバーを照らすのは「君に春を思う」なのだが、客席では少し涙ぐみながらステージを見つめている人もいる。きっとそういう人たちは失礼ながら若いというような年齢ではない。だからこそ、こうして活動のペースが落ちた今でもメレンゲのライブにずっと来続けている人だ。そういう人たちはこの曲の
「今日君が笑う それだけで春だ」
というフレーズを聴いては春の到来を感じ、こうしてまだまだ暑い日が続く夏の季節ですら春に変換してきたのだ。
「未来になって今日が 幻になるまで
笑われるくらいに 笑ってて欲しい」
という締めのフレーズはまさにこの会場の中にバンドと我々の再会を祝すための桜が音として舞っているかのような。
さらにはイントロのギターが鳴った瞬間にもう名曲であることが確定される「きらめく世界」と、リリースから15年以上経っても全く古さを感じないどころか、今のバンドの演奏によって瑞々しさすら感じるくらいの珠玉の名曲が続く。小野田のドラムの連打によるバンドのサウンドはもちろん、クボのボーカルはさすが弾き語りをやってきていることを感じさせるくらいの好調さ。バンドとして最後にライブをやってからもう一年半くらい経っているが、メレンゲというバンドはいつどんな状況でライブをやっても現役感を纏わずにはいられないというか、それくらいに今もライブが良いのがすぐにわかる。それはバンドがしっかりリハなどで音を作って練り上げてきたというのもあるだろうし、メンバー全員がメレンゲの音楽を信頼し続けているのだろう。
「とても暗い海の底に 引き戻されるのが怖いの…」
という小説のセリフのようなフレーズが、我々をまたメレンゲというバンドの音楽の深い底にまで引き込んでくれるかのようだ。
クボ「お久しぶりです!何してましたか?」
タケシタ「労働してましたね…(笑)マスクつけないで人前に立つのもだいぶ久しぶりですけど」
クボ「でも今年めちゃくちゃ暑いじゃないですか。そんな曲をやります(笑)」
と言ってクボと松江の重いギターのサウンドが重なり、タケシタもイントロで何度もキメを打つようにベースを振り下ろすのは、まさにこうしてバンドが久々に外に出たことを歌うかのような「ソト」。
個人的には人気投票ライブとなった渋谷AXでのライブでフジファブリックの志村正彦がこの曲に参加して一緒に歌ったのが本当に思い出深い。それはその日が自分が最後に志村の姿を見た日になってしまったからというのもあるけれど、フジファブリックの曲じゃなくてもこうして今でも志村のことを思い出すことができるのは、クボもまた志村の意志を継いで今でも音楽を鳴らしているからということもあるのだろう。
そんなクボの音楽への意志が
「確信はないけど」
と言いながらもピュアなメロディに乗って真っ直ぐに歌われる「アルカディア」もライブではおなじみだが、それは
「会いに来たんだよ 手ぶらでもいいよね 目立つ格好でいてね」
「なぁもういいだろ? ずっと待ってたんだよ もう絶対消えないで」
というこの曲のフレーズがこうしたライブの場での我々とバンドの再会を祝うかのように鳴らされている曲だからである。
小野田がコンガのようなパーカッションを叩き、その上にオリエンタルなギターフレーズが乗る「CAMPFIRE」もまたこうしてメレンゲの音楽という火を我々観客が囲んでいるかのようで、やはりそこには喜びというような感情が溢れているし、メレンゲというバンドが湛える火は決して消えることはないのである。
そのまま淡々としたリズムとギターのサウンドで始まりながらも徐々に激しく展開していく「願い事」がアッパーな曲というわけではないけれど、じわじわとバンドの演奏のグルーヴを高めていくし、それはクボのボーカルもそうだ。何よりも我々の願い事はこうしてメレンゲのライブを見続けていられるようにということであり、それを叶えてくれるかのような選曲である。
クボがギターをアコギに持ち替えようとするも、実はまだエレキを弾く曲だったということをタケシタに突っ込まれて
「失礼しました(笑)」
と言ってエレキを持ち直して歌い始めたのは「声」。その切ないサウンドと歌詞は初期のメレンゲというバンドのイメージを決定づけたものだからこそ、それ以降の新たな音楽的なトライアルが際立つことにもなるのだが、
「水たまりに浮かぶ星 踏みつけて消えた
逆さまの向こうは 違う世界があるのかい?」
というフレーズが想起させる情景を浮かび上がらせる歌詞の詩情は本当に見事極まりないと今でも思う。クボの作家性は実際に小説などの文筆業などでも発揮できるとずっと思っているのであるが、その部分を広くはなくても深く愛してきたファンがいるからこそ、今でもこうしてライブをやれば集まってくれている人がいるのだ。
クボ「この間の俺のツイート見た?川谷絵音君が俺たちの曲を好きだって言ってくれてたやつ」
タケシタ「もっと早く言ってくれれば良かったのにね(笑)
今日、その川谷君のコメントを聞いてライブに来てくれたっていう人は…」
クボ「いるわけないやろ!(笑)ここにいるのはコア中のコアや!(笑)」
という2人のやり取りが、「ああ、またこうしてメレンゲのライブに来れているんだな」と思わせてくれる。
そんな川谷絵音(indigo la End,ゲスの極み乙女)がテレビ出演時に紹介してくれた「彼女に似合う服」は川谷がアコギを弾く形で演奏される、山本のキーボードの音色がどこか可愛らしさすら感じさせてくれるラブソングなのだが、やはり今でも全く色褪せることがない曲だからこそ、こうして川谷絵音がわざわざ紹介してくれるのだろう。かつてはシングルをリリースするたびにタイアップとして耳にする機会も多かったが、まさかまたテレビからメレンゲの音楽が流れる日が来るなんて全く思っていなかった。
クボがこの日何度も口にしていたように、この日は終わりも近いとはいえ8月。メレンゲには実は夏の曲もたくさんあるのだが、その中でもアコギによるサウンドの穏やかさの中に確かな芯や核の強さを感じさせる夏ソング「八月、落雷のストーリー」が演奏される。雨こそ降っていたが、
「そして落雷のように すぐに消えて
暗闇 嵐の中 音だけが届く」
というフレーズのように荒れた天気にはならずにこうしてみんなライブに辿り着けているということに安堵する。そんな、なかなかないようなタイプの夏ソングであるというあたりにメレンゲの引き出しの広さを感じざるを得ない。
クボがギターをエレキに持ち替えると、じっくりと歌い上げるという歌唱がその切ないメロディと
「君なら誰にも 好かれると思う
顔で選んだ僕だから言える」
というサラッと凄いことを言っているなと思うような歌詞がしっかり聞き取れるからより刺さる「Ladybird」へ。何というか、実にメレンゲらしいイメージの曲であるのだが、だからこそこうして聴いていることに安心できる曲でもある。
「ちょっと疲れてます(笑)」
と、MCは挟みながらも実にテンポの良いライブゆえにクボが一間隔空けると、
クボ「体力つけるために何やったらいいですかね?」
タケシタ「やっぱり歩く、走るじゃないですか?あとは水泳とか。クボ君が水泳してるところはあんまり見たくないけど(笑)」
クボ「お前は本当に普通のことしか言わんな(笑)」
という緩い空気をガラッと変えるように、今やあいみょんのバンドメンバーなどで超売れっ子になりながらもこうしてメレンゲのライブに参加し続けてくれている山本の煌めくようなキーボードのサウンドによって始まり、小野田の軽快な四つ打ちに合わせて跳ねるようにしてベースを弾くタケシタが山本と顔を見合わせて笑い合う。クボはマイクを手に持って少しでも観客の近くに行くように前に出て歌う。そんな、バンドが始まって20年経って、もう昔からのファンしかライブに来ないような状況の今になっても青春でしかないような空気を感じることができるような「午後の海」では客席のミラーボールまでも美しく回る。それによって観客も本当に楽しそうに飛び跳ねたり腕を挙げたりしている。どれだけ世界やバンドの状況が変わったとしても変わらないものが確かにここにはあった。それはバンドの演奏が「良いライブだな」と思えるものを生み出しているからであるし、
「水が跳ねて Tシャツがぬれて 君の眼に浮かぶ僕と目が合う
体じゃなく 触れられるか 長い影二つ 伸びて今繋がったよ」
というあまりにもキャッチーなメロディに乗るサビの歌詞は、このフレーズをそのまま体感するために滅多に行くことのない海に足を運びたくさせてくれる。
クボが少し水を飲んでいたりしたので、小野田がイントロのカウントを刻むと少し「もう行くの?」みたいな空気も感じさせる中で山本がやはり壮大なキーボードの音色を鳴らすのは至上の名曲「ムーンライト」。
今でも忘れることのない、日比谷野音ワンマンでの満月の下で演奏されたこの曲のこと。もう10年前のことだけれど、その野音も渋谷公会堂(現LINE CUBE SHIBUYA)もZepp DiverCityも渋谷AXもCDJのGALAXY STAGEも。あんなに大きなステージに立っていたメレンゲの姿を今でもしっかり覚えている。だからこの日のライブだって、これからのライブだって忘れることはないだろう。
そんなライブの最後に演奏されたのはイントロのリズムに合わせて観客が軽快な手拍子をする「クラシック」。穏やかなサウンドの上に乗る
「いつだって精一杯笑う君に 恋をしたあの夏の日」
というフレーズは、やはりこのライブが夏であることを強く刻み込むかのようだった。できることなら春夏秋冬あらゆる時期にその時期に合った曲をライブで聴いていたいと思った。つまりはまだまだ何回だってライブで聴きたいメレンゲの曲があるということ。だからもっとライブをやってもらわないとなって思う。
アンコールではいつものようにタケシタが先に1人でステージに登場すると、
「今日は来てくれて本当にありがとうございます。みんなが来なくなった時が辞める時なんだろうな。来てくれる限りはやります!」
と言った。それはやはりこれまでに何回も「辞める」という選択肢がこのバンドには浮かんでいたということ。でも大丈夫だ。ライブをやってくれるんならこれからもずっと行く。そう思っている人がいることもわかっているから、これからも何回でも見れる。メレンゲの活動を我々の存在が確かに繋いでいる。それは少し重くも感じたりするけれど、メレンゲが我々のことを見ているということである。だからやっぱり嬉しい気持ちが勝つのだ。
そんなタケシタがメンバーたちを呼び込むと、
クボ「盛り上がりすぎてダイブとかしないようにね(笑)」
タケシタ「濃厚接触になるからね(笑)」
と、いやいや人気と動員のピーク時も一回もそんなこと起こらないバンドだったんだから、と思いながら演奏されたのはカップリング曲でありながらもメレンゲのキャッチーさの極みとでも言うような「ラララ」。ダイブも何もむしろタケシタの今も褪せることのないコーラスも含めてポップサイドの曲ですらあるのだが、
「水たまり 向こうの世界へ 迷いなく飛び込めるよ」
という締めのフレーズは「声」ではその存在に想いを馳せるだけだった向こうの世界へと足を踏み出したことがわかるものになっている。曲の主人公も成長しているし、バンドも我々も成長というのかはわからないけれど、そうして足を踏み出すことができるようになる。そんな力をメレンゲのポップミュージックは我々聴き手に与えてくれるのだ。
そして最後にクボがギターを掻き鳴らし、タケシタもそのクボの姿を指差すのは「夕凪」。メレンゲの曲の中でもトップクラスに激しいギターロック曲。この曲を演奏するのが決まっていたから、
「ダイブしないように(笑)」
とも
「全部出し尽くす」
とも言っていたのだ。ファルセットを多用するクボのボーカルも、タケシタ以外は変わり続けてきたけれどメンバーの衝動的な演奏も、2006年のロッキンのWING TENTで初めてメレンゲのライブを見た時に1曲目にこの曲が演奏されていた時と全く変わることがない。つまりはメレンゲは止まっている期間が長くても、これだけたくさんのバンドのライブを見てきた身としても今でも「カッコいい」と感じられるバンドであり続けてきたということだ。だからこうしてずっとライブに足を運び続けているのだ。演奏が終わると1人ステージに残ったタケシタはどこかやり切ったような感慨深い表情を浮かべながら
「また、9月8日に青山で」
と口にした。メレンゲはまだまだ続く。こうしてメレンゲの音楽を求める人がいる限り。それがハッキリとわかった、2022年の夏のメレンゲのワンマンだった。
川谷絵音などがどれだけ紹介してくれたとしても、きっともう再評価されることはないのだろうし(そうされるならもうとっくに売れていたはずだ)、リリースやライブがあっても話題になることもないバンドなのかもしれない。
でもそうして細々とフェードアウトしていっていつしか活動していることすらも忘れてしまうには、あまりにメレンゲの音楽やライブやメンバーには思い入れが強くなりすぎた。だからずっと忘れることもないし、こうしてライブがあればすぐにチケットを買って観に行く。
そのライブに来ればどんなに久しぶりでも「メレンゲのライブってこうだったな」「やっぱり本当に良い曲だよな」と思う。周りにいる人たちの大人しく見守っている姿も、どこか祖父母の家に帰ってきた時のような、久しぶりなんだけど絶対忘れることのない感覚を感じる。そんな存在のバンドのライブに行かなくなるなんてことはない。メンバーが言っていたように、もう少し頻繁にこうしてライブが観れたらなと思う。
ノートじゃなくてブログに書くから、また会えるといいな。
1.輝く蛍の輪
2.君に春を思う
3.きらめく世界
4.ソト
5.アルカディア
6.CAMPFIRE
7.願い事
8.声
9.彼女に似合う服
10.八月、落雷のストーリー
11.Ladybird
12.午後の海
13.ムーンライト
14.クラシック
encore
15.ラララ
16.夕凪
雨も降る中での新宿LOFTは足元に立ち位置もないオールスタンディングで、開演時間の19時になるとステージにかかっていた幕が上がって、髪がかなりさっぱりした感じがあるタケシタツヨシ(ベース)を先頭にメンバーが登場。小野田尚史(ドラム)、松江潤(ギター)、山本健太(キーボード)というおなじみのサポートメンバーたちに続いてハットを被ったクボケンジ(ボーカル&ギター)がギターを自分で持って登場すると、そのクボと松江のギターが轟音サウンドを鳴らすイントロから始まるのは「輝く蛍の輪」。いきなりロックバンドとしてのメレンゲを感じさせてくれる曲であり、「ああ、メレンゲのライブハウスでのライブってこうして意外なくらいに轟音だったよな」ということを思い出させてくれるスタートであるが、久しぶりのバンドとしてのライブということもあってか、やはり少し緊張感のようなものもステージから感じるというか、音を一つずつ確かめるように丁寧に演奏されていたというようなイメージでもある。とはいえ観客はこの瞬間を待ち侘びていたということもあり、サビでは腕を挙げる人も多数。やっぱりメレンゲがこうしてライブをやってくれるのを待っていた人たちが今でもちゃんといるのだ。
ピンク色に光る照明がメンバーを照らすのは「君に春を思う」なのだが、客席では少し涙ぐみながらステージを見つめている人もいる。きっとそういう人たちは失礼ながら若いというような年齢ではない。だからこそ、こうして活動のペースが落ちた今でもメレンゲのライブにずっと来続けている人だ。そういう人たちはこの曲の
「今日君が笑う それだけで春だ」
というフレーズを聴いては春の到来を感じ、こうしてまだまだ暑い日が続く夏の季節ですら春に変換してきたのだ。
「未来になって今日が 幻になるまで
笑われるくらいに 笑ってて欲しい」
という締めのフレーズはまさにこの会場の中にバンドと我々の再会を祝すための桜が音として舞っているかのような。
さらにはイントロのギターが鳴った瞬間にもう名曲であることが確定される「きらめく世界」と、リリースから15年以上経っても全く古さを感じないどころか、今のバンドの演奏によって瑞々しさすら感じるくらいの珠玉の名曲が続く。小野田のドラムの連打によるバンドのサウンドはもちろん、クボのボーカルはさすが弾き語りをやってきていることを感じさせるくらいの好調さ。バンドとして最後にライブをやってからもう一年半くらい経っているが、メレンゲというバンドはいつどんな状況でライブをやっても現役感を纏わずにはいられないというか、それくらいに今もライブが良いのがすぐにわかる。それはバンドがしっかりリハなどで音を作って練り上げてきたというのもあるだろうし、メンバー全員がメレンゲの音楽を信頼し続けているのだろう。
「とても暗い海の底に 引き戻されるのが怖いの…」
という小説のセリフのようなフレーズが、我々をまたメレンゲというバンドの音楽の深い底にまで引き込んでくれるかのようだ。
クボ「お久しぶりです!何してましたか?」
タケシタ「労働してましたね…(笑)マスクつけないで人前に立つのもだいぶ久しぶりですけど」
クボ「でも今年めちゃくちゃ暑いじゃないですか。そんな曲をやります(笑)」
と言ってクボと松江の重いギターのサウンドが重なり、タケシタもイントロで何度もキメを打つようにベースを振り下ろすのは、まさにこうしてバンドが久々に外に出たことを歌うかのような「ソト」。
個人的には人気投票ライブとなった渋谷AXでのライブでフジファブリックの志村正彦がこの曲に参加して一緒に歌ったのが本当に思い出深い。それはその日が自分が最後に志村の姿を見た日になってしまったからというのもあるけれど、フジファブリックの曲じゃなくてもこうして今でも志村のことを思い出すことができるのは、クボもまた志村の意志を継いで今でも音楽を鳴らしているからということもあるのだろう。
そんなクボの音楽への意志が
「確信はないけど」
と言いながらもピュアなメロディに乗って真っ直ぐに歌われる「アルカディア」もライブではおなじみだが、それは
「会いに来たんだよ 手ぶらでもいいよね 目立つ格好でいてね」
「なぁもういいだろ? ずっと待ってたんだよ もう絶対消えないで」
というこの曲のフレーズがこうしたライブの場での我々とバンドの再会を祝うかのように鳴らされている曲だからである。
小野田がコンガのようなパーカッションを叩き、その上にオリエンタルなギターフレーズが乗る「CAMPFIRE」もまたこうしてメレンゲの音楽という火を我々観客が囲んでいるかのようで、やはりそこには喜びというような感情が溢れているし、メレンゲというバンドが湛える火は決して消えることはないのである。
そのまま淡々としたリズムとギターのサウンドで始まりながらも徐々に激しく展開していく「願い事」がアッパーな曲というわけではないけれど、じわじわとバンドの演奏のグルーヴを高めていくし、それはクボのボーカルもそうだ。何よりも我々の願い事はこうしてメレンゲのライブを見続けていられるようにということであり、それを叶えてくれるかのような選曲である。
クボがギターをアコギに持ち替えようとするも、実はまだエレキを弾く曲だったということをタケシタに突っ込まれて
「失礼しました(笑)」
と言ってエレキを持ち直して歌い始めたのは「声」。その切ないサウンドと歌詞は初期のメレンゲというバンドのイメージを決定づけたものだからこそ、それ以降の新たな音楽的なトライアルが際立つことにもなるのだが、
「水たまりに浮かぶ星 踏みつけて消えた
逆さまの向こうは 違う世界があるのかい?」
というフレーズが想起させる情景を浮かび上がらせる歌詞の詩情は本当に見事極まりないと今でも思う。クボの作家性は実際に小説などの文筆業などでも発揮できるとずっと思っているのであるが、その部分を広くはなくても深く愛してきたファンがいるからこそ、今でもこうしてライブをやれば集まってくれている人がいるのだ。
クボ「この間の俺のツイート見た?川谷絵音君が俺たちの曲を好きだって言ってくれてたやつ」
タケシタ「もっと早く言ってくれれば良かったのにね(笑)
今日、その川谷君のコメントを聞いてライブに来てくれたっていう人は…」
クボ「いるわけないやろ!(笑)ここにいるのはコア中のコアや!(笑)」
という2人のやり取りが、「ああ、またこうしてメレンゲのライブに来れているんだな」と思わせてくれる。
そんな川谷絵音(indigo la End,ゲスの極み乙女)がテレビ出演時に紹介してくれた「彼女に似合う服」は川谷がアコギを弾く形で演奏される、山本のキーボードの音色がどこか可愛らしさすら感じさせてくれるラブソングなのだが、やはり今でも全く色褪せることがない曲だからこそ、こうして川谷絵音がわざわざ紹介してくれるのだろう。かつてはシングルをリリースするたびにタイアップとして耳にする機会も多かったが、まさかまたテレビからメレンゲの音楽が流れる日が来るなんて全く思っていなかった。
クボがこの日何度も口にしていたように、この日は終わりも近いとはいえ8月。メレンゲには実は夏の曲もたくさんあるのだが、その中でもアコギによるサウンドの穏やかさの中に確かな芯や核の強さを感じさせる夏ソング「八月、落雷のストーリー」が演奏される。雨こそ降っていたが、
「そして落雷のように すぐに消えて
暗闇 嵐の中 音だけが届く」
というフレーズのように荒れた天気にはならずにこうしてみんなライブに辿り着けているということに安堵する。そんな、なかなかないようなタイプの夏ソングであるというあたりにメレンゲの引き出しの広さを感じざるを得ない。
クボがギターをエレキに持ち替えると、じっくりと歌い上げるという歌唱がその切ないメロディと
「君なら誰にも 好かれると思う
顔で選んだ僕だから言える」
というサラッと凄いことを言っているなと思うような歌詞がしっかり聞き取れるからより刺さる「Ladybird」へ。何というか、実にメレンゲらしいイメージの曲であるのだが、だからこそこうして聴いていることに安心できる曲でもある。
「ちょっと疲れてます(笑)」
と、MCは挟みながらも実にテンポの良いライブゆえにクボが一間隔空けると、
クボ「体力つけるために何やったらいいですかね?」
タケシタ「やっぱり歩く、走るじゃないですか?あとは水泳とか。クボ君が水泳してるところはあんまり見たくないけど(笑)」
クボ「お前は本当に普通のことしか言わんな(笑)」
という緩い空気をガラッと変えるように、今やあいみょんのバンドメンバーなどで超売れっ子になりながらもこうしてメレンゲのライブに参加し続けてくれている山本の煌めくようなキーボードのサウンドによって始まり、小野田の軽快な四つ打ちに合わせて跳ねるようにしてベースを弾くタケシタが山本と顔を見合わせて笑い合う。クボはマイクを手に持って少しでも観客の近くに行くように前に出て歌う。そんな、バンドが始まって20年経って、もう昔からのファンしかライブに来ないような状況の今になっても青春でしかないような空気を感じることができるような「午後の海」では客席のミラーボールまでも美しく回る。それによって観客も本当に楽しそうに飛び跳ねたり腕を挙げたりしている。どれだけ世界やバンドの状況が変わったとしても変わらないものが確かにここにはあった。それはバンドの演奏が「良いライブだな」と思えるものを生み出しているからであるし、
「水が跳ねて Tシャツがぬれて 君の眼に浮かぶ僕と目が合う
体じゃなく 触れられるか 長い影二つ 伸びて今繋がったよ」
というあまりにもキャッチーなメロディに乗るサビの歌詞は、このフレーズをそのまま体感するために滅多に行くことのない海に足を運びたくさせてくれる。
クボが少し水を飲んでいたりしたので、小野田がイントロのカウントを刻むと少し「もう行くの?」みたいな空気も感じさせる中で山本がやはり壮大なキーボードの音色を鳴らすのは至上の名曲「ムーンライト」。
今でも忘れることのない、日比谷野音ワンマンでの満月の下で演奏されたこの曲のこと。もう10年前のことだけれど、その野音も渋谷公会堂(現LINE CUBE SHIBUYA)もZepp DiverCityも渋谷AXもCDJのGALAXY STAGEも。あんなに大きなステージに立っていたメレンゲの姿を今でもしっかり覚えている。だからこの日のライブだって、これからのライブだって忘れることはないだろう。
そんなライブの最後に演奏されたのはイントロのリズムに合わせて観客が軽快な手拍子をする「クラシック」。穏やかなサウンドの上に乗る
「いつだって精一杯笑う君に 恋をしたあの夏の日」
というフレーズは、やはりこのライブが夏であることを強く刻み込むかのようだった。できることなら春夏秋冬あらゆる時期にその時期に合った曲をライブで聴いていたいと思った。つまりはまだまだ何回だってライブで聴きたいメレンゲの曲があるということ。だからもっとライブをやってもらわないとなって思う。
アンコールではいつものようにタケシタが先に1人でステージに登場すると、
「今日は来てくれて本当にありがとうございます。みんなが来なくなった時が辞める時なんだろうな。来てくれる限りはやります!」
と言った。それはやはりこれまでに何回も「辞める」という選択肢がこのバンドには浮かんでいたということ。でも大丈夫だ。ライブをやってくれるんならこれからもずっと行く。そう思っている人がいることもわかっているから、これからも何回でも見れる。メレンゲの活動を我々の存在が確かに繋いでいる。それは少し重くも感じたりするけれど、メレンゲが我々のことを見ているということである。だからやっぱり嬉しい気持ちが勝つのだ。
そんなタケシタがメンバーたちを呼び込むと、
クボ「盛り上がりすぎてダイブとかしないようにね(笑)」
タケシタ「濃厚接触になるからね(笑)」
と、いやいや人気と動員のピーク時も一回もそんなこと起こらないバンドだったんだから、と思いながら演奏されたのはカップリング曲でありながらもメレンゲのキャッチーさの極みとでも言うような「ラララ」。ダイブも何もむしろタケシタの今も褪せることのないコーラスも含めてポップサイドの曲ですらあるのだが、
「水たまり 向こうの世界へ 迷いなく飛び込めるよ」
という締めのフレーズは「声」ではその存在に想いを馳せるだけだった向こうの世界へと足を踏み出したことがわかるものになっている。曲の主人公も成長しているし、バンドも我々も成長というのかはわからないけれど、そうして足を踏み出すことができるようになる。そんな力をメレンゲのポップミュージックは我々聴き手に与えてくれるのだ。
そして最後にクボがギターを掻き鳴らし、タケシタもそのクボの姿を指差すのは「夕凪」。メレンゲの曲の中でもトップクラスに激しいギターロック曲。この曲を演奏するのが決まっていたから、
「ダイブしないように(笑)」
とも
「全部出し尽くす」
とも言っていたのだ。ファルセットを多用するクボのボーカルも、タケシタ以外は変わり続けてきたけれどメンバーの衝動的な演奏も、2006年のロッキンのWING TENTで初めてメレンゲのライブを見た時に1曲目にこの曲が演奏されていた時と全く変わることがない。つまりはメレンゲは止まっている期間が長くても、これだけたくさんのバンドのライブを見てきた身としても今でも「カッコいい」と感じられるバンドであり続けてきたということだ。だからこうしてずっとライブに足を運び続けているのだ。演奏が終わると1人ステージに残ったタケシタはどこかやり切ったような感慨深い表情を浮かべながら
「また、9月8日に青山で」
と口にした。メレンゲはまだまだ続く。こうしてメレンゲの音楽を求める人がいる限り。それがハッキリとわかった、2022年の夏のメレンゲのワンマンだった。
川谷絵音などがどれだけ紹介してくれたとしても、きっともう再評価されることはないのだろうし(そうされるならもうとっくに売れていたはずだ)、リリースやライブがあっても話題になることもないバンドなのかもしれない。
でもそうして細々とフェードアウトしていっていつしか活動していることすらも忘れてしまうには、あまりにメレンゲの音楽やライブやメンバーには思い入れが強くなりすぎた。だからずっと忘れることもないし、こうしてライブがあればすぐにチケットを買って観に行く。
そのライブに来ればどんなに久しぶりでも「メレンゲのライブってこうだったな」「やっぱり本当に良い曲だよな」と思う。周りにいる人たちの大人しく見守っている姿も、どこか祖父母の家に帰ってきた時のような、久しぶりなんだけど絶対忘れることのない感覚を感じる。そんな存在のバンドのライブに行かなくなるなんてことはない。メンバーが言っていたように、もう少し頻繁にこうしてライブが観れたらなと思う。
ノートじゃなくてブログに書くから、また会えるといいな。
1.輝く蛍の輪
2.君に春を思う
3.きらめく世界
4.ソト
5.アルカディア
6.CAMPFIRE
7.願い事
8.声
9.彼女に似合う服
10.八月、落雷のストーリー
11.Ladybird
12.午後の海
13.ムーンライト
14.クラシック
encore
15.ラララ
16.夕凪