SUMMER SONIC 2022 day1 @ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ 8/20
- 2022/08/22
- 22:37
昨年はコロナ禍の中でも通常とは違う、マリンスタジアムのみでの開催だったが「海外からのアーティストを招聘する」というコロナ禍になってから初めてのことであった目標を見事に達成した、SUMMER SONIC。
今年はようやく今までと同じようにマリンスタジアムと幕張メッセの2会場を使い、レジェンドや今シーンのトップにいる海外アーティストが続々と来日。フジロックもそうであったが、洋楽アーティストのライブを見れる夏が3年振りに帰ってきたということであり、出演者の中には初めて日本のフェスに出演するというアーティストもたくさんいることだろう。
個人的にも米津玄師やSuede、[Alexandros]や今回のヘッドライナーであるThe 1975を見た2016年以来、実に6年振りの参加となる。しょっちゅうマリンスタジアムに野球の試合を観に来ているだけに幕張に来るのは全然久しぶりではないけれど。
10:40〜 Nobelbright [MARINE STAGE]
3年振りの開催となる今年のサマソニのメインステージであるMARINE STAGEのトップバッターはNobelbright。去年までは出演が発表されては中止になり、ようやく夏フェスに出演できるようになったバンドがスタジアムに立つ。
メンバーが1人ずつステージに現れると、サイバーなサングラスにデカいアクセサリーを首からぶら下げる山田海斗(ギター)がどこか海外アーティストのようにも見える中、また少しふっくらしたようにも見える、ユニフォーム型Tシャツを着た竹中雄大(ボーカル)が最後にステージに現れて、まさにこの夏が始まったことを高らかに宣言するかのような「Sunny drop」から始まり、その突き抜けるような美声を響かせるのであるが、最初は歌声の割に声がはっきりとは聞こえなかったのはマイクの音量のバランスによるものだったのだろうか。実際にその後からはちゃんと聴こえるようになっていただけに。
しかしながらステージ背面のスクリーンに美しい自然の映像が映し出された「seeker」では曲終わりで竹中が思いっきり声を張り上げると、その歌の上手さにダイレクトに反応した観客たちが拍手を送る。曲が終わってからの拍手ではなくて、曲中にもかかわらずの拍手。それはまださすがに2階スタンドまでは埋まっているとは言えなくても、この野外のスタジアムという環境にこのバンドの音楽が実にふさわしいものであることを証明していたようにすら思う。
竹中は4年前に観客として観に来ていたこのフェスにこうして出演者として帰ってくることができたことに感謝しつつ、自分たちが邦楽も洋楽も聴いてきたリスナーであり、そうした様々な音楽を好きな人たちが集まるこのフェスを楽しんで欲しいということを口にすると、
「日本語の曲ばかりですけど、次にやる曲は英語歌詞の曲です」
と言って演奏された「Friends for life」ではその英語歌詞とともに対訳も合わせてステージに映し出されることによってこの曲のメッセージをこの場所にいる全ての人に伝えており、それはきっと10代でこのバンドを見に来ているような人にとっては学校という場所で生きている自分のためのようなものに思えたんじゃないだろうか。それは竹中のボーカルの説得力の強さによってそう感じられるものでもあるけれど。
さらには同期のピアノの音が流れた瞬間に客席がざわめいて拍手が起こった「ツキミソウ」でも歌詞が次々にスクリーンに映し出される中で、山田がステージに固定されたアコギを弾く。まさにバンドを支えるというような立ち位置のベースを担う圭吾が真っ直ぐに客席の方を見て演奏していたのが印象的であるが、こうしたドがつくくらいのバラードでしかないような曲を、楽しみたいし盛り上がりたいという人もたくさんいるであろう夏フェスの短い持ち時間の中で演奏できるのもやはり竹中のボーカルの美しさが最も際立つのがこうした曲であることを理解しているのであろう。
その竹中は自分たちも6時起きという早起きをしてきたが、もっと早起きをして見に来てくれたであろう観客たちへの感謝を口にすると、スクリーンに「青春」と書かれたフラッグがはためく映像が映し出され、ステージ下手の通路へと竹中が駆け出して歌うと、沖聡次郎は上手へと駆け出してギターを弾くというフォーメーションも抜群な「青春旗」へとここから再びアッパーな曲で持ちうるエネルギーを放出させていく。
そんなライブはあっという間に最後の曲へ。朝イチとはいえメインステージってこんなに持ち時間短かったっけ?と思いながらも最後に演奏されたのは、ねぎがドラムセットから立ち上がって客席の景色を見渡すようにしながらバスドラを踏む「Walking with you」。その晴れ渡った空に突き刺さるかのようなメロディと歌声は、今の若い世代が「自分たちの夏バンド」だと思えるような存在が新しく現れたんだなと思わざるを得なかったし、
「CDで聴く音楽もサブスクで聴く音楽も良いけど、やっぱり生で聴く音楽が最高だよな!」
と竹中が最後に口にした言葉をこのバンドは自分たちの鳴らす音で証明しようとしている。2022年のサマソニのメインステージは、そんな新たな存在であるこのバンドによって始まったのだった。
竹中はこの日MCで何度か
「日本のロックバンドとして」
と口にしていた。時にはこれまでの過程の中でのことによってロックバンドだと見てもらえないことも多いであろうバンドだろうし、自分も最初は懐疑的だった。でも今年になってからのライブを見て、このバンドは自分たちがなりたかったロックバンドになれてきているんだろうなと感じた。それくらいにライブが本当に進化したと思うし、ロックバンドかくあるべし、みたいなものは人によっても時代によっても価値観が変わるものだ。このバンドはその価値観をさらに押し広げる存在になるのかもしれないと思った。
1.Sunny drop
2.seeker
3.Friends for life
4.ツキミソウ
5.青春旗
6.Walking with you
11:35〜 Mrs. GREEN APPLE [MARINE STAGE]
2020年にアリーナツアーを終えてからフェーズ1の終了を宣言して活動休止へ。その活動休止中に山中綾華(ドラム)と高野清宗(ベース)の脱退が発表。残った3人でバンドは継続していくことが発表され、実際に今年になってからフェーズ2としてリリースとライブを果たしてシーンに戻ってきたMrs. GREEN APPLEである。
復活を果たして1発目のライブだったぴあアリーナでのワンマンも、先日のロッキンも他のどうしても見たいライブと被ってしまっていて見れなかったため、フェーズ2になってからライブを観るのは初めてなのだが、それは同時にもうあのインディーズ時代からずっと大好きだった5人のMrs. GREEN APPLEではないということに向き合わなくてはいけない瞬間でもあるという、個人的に覚悟を持って見ることになるライブである。
しかしそんなタイミングで若井滉斗(ギター)のコロナ感染が発覚。この日の出演自体も危ぶまれたが、大森元貴(ボーカル&ギター)と藤澤涼架(キーボード)の2人にサポートを加えた4人編成で出演することに。サウンドチェックではステージMCのサッシャが好きだという、絶賛大ヒット中の映画「ONE PIECE FILM RED」でAdoに提供した「私は最強」のセルフカバーをワンコーラス演奏するというサービス精神の最強っぷりを見せてくれる。
本番では大森はフェーズ2に入ってからのアー写やMVなどのイメージ通りの(というか「ENSEMBLE」期らしくもある)気品を感じる出で立ちであるが、それよりも藤澤の鮮やかな真っ青に染まった髪色が目を引く。普段若井がいる上手側がガランと空いているのはやはり寂しくも感じてしまうけれど。
その大森がギターを掻き鳴らしながら歌い始めたのはフェーズ1後期のミセスの代表曲の一つと言える、ギターロックバンドとしてのミセスらしさを久々に感じさせてくれた「インフェルノ」からスタート。
「永遠は無いんだと 無いんだと云フ」
のサビでのファルセット混じりの大森のボーカルは本当に変わらない上手さを感じさせてくれ、体つきが少し膨よかになったことによってか、声量もこのスタジアムクラスでライブをやるべきバンドのものとして響く。この1曲目を聴いた瞬間に「ああ、やっぱりミセスだ。ずっと観てきたあのミセスだ」と思った。神田リョウ(ドラム)とTHE 2でも活躍する森夏彦(ベース)のサポートメンバーはやはり立場上前に出てきたりすることはないけれど、その演奏がそう感じられる要素の一つにもなっているのは間違いない。
大森がギターを置いてハンドマイクになると、スクリーンには曲に合わせたポップなアニメーションが映し出され、大森がステージを左右に歩き回りながら歌う「CHEERS」はフェーズ1最後のライブとなった代々木体育館でのライブの集大成的な多幸感を思い出してしまうけれど、この観客誰もが楽しくなれるポップなサウンドとメロディ、それを歌う大森のボーカルがあの頃と変わってしまったけれど変わらないミセスらしさを感じさせてくれるのだ。
実に5年振りのサマソニ出演であることを告げると、森が手拍子をするとともに観客にも手拍子が広がっていくのはフェーズ2に入ってからリリースされた「ダンスホール」。その軽やかなキャッチーさは「CHEERS」に続いて演奏されることによって、ミセスがフェーズ1から地続きのバンドであるということを感じさせてくれる。何よりもこの魔法のようなメロディはこれから先もずっと失われることはないんだろうなと思わせてくれる。気付けば2階席スタンドまで客席は埋まってきている。
するとどこかそれまでとは違った厳かな雰囲気となって大森が歌い始めたのは「僕のこと」。少し曇ってきたとはいえ、スタジアムという屋根がない場所でのライブだからこそ、大森の見事すぎるボーカルはどこまでも際限なく突き抜けていくように響く。その歌声にこれまでも何度だって胸を震わせてきたのだし、それを今また目の前で聴くことによって、この日を「何て素敵な日だ」と思うことができている。今でも空の飛び方をミセスというバンドも、その姿を見てきた我々も知っているのだ。
するとフェーズ2のミセスの始まりを高らかに、しかもギターロックサウンドとして告げた「ニュー・マイ・ノーマル」ではギターを弾きながら歌う大森を横目に藤澤もステージを左右に走り回り、自分が演奏するフレーズギリギリにキーボードの前に戻ってくると、間奏では若井がいないのにギターソロの音が同期として鳴ったことによって大森が「誰もいないのに何で?」という怪訝そうな顔をするという小芝居的なパフォーマンスをするというのも実にミセスらしいものだ。
「今日もありがとうがシャイな様です」
というフレーズは実にミセスらしいというか大森らしいものだと思うけれど、この日ばかりはちゃんと大森と藤澤に「ありがとう」を伝えたくなった。声を上げることはできないけれど。
そんな若井の不在に触れながらも大森は
「ミセスにとって初めてのスタジアムでのライブ」
と口にした。その記念碑的な瞬間に立ち会うことができた喜びを確かに感じながらも、その言葉からはどこかこれから近い未来にこうしたスタジアムでワンマンを見れるんじゃないかとも感じられるものだった。
「今日は夏休みの思い出作りに来た人もたくさんいると思うけれど、そういう人にこそ聴いてほしい曲を最後にやりたいと思います!この曲の時は晴れて欲しいのに、そういう時に限って雲がかかってきてる(笑)」
と言いながら、最後に演奏されたのはイントロのギターのフレーズだけで今でもロッキンのLAKE STAGEのトリをやった時のような素晴らしいライブの光景が蘇ってくる「青と夏」。大森が言った通りにもう8月も後半になってきたけれど、それでもやはりこの曲は
「夏が始まった合図がした」
というフレーズの通りに、いつだってこの曲を聴いた時が夏の始まりだと感じることができる。やはりステージを走り回る藤澤の姿も含めて、そこにはやっぱり変わらないミセスらしさが確かにあった。それを若井不在という中でも感じることができたということは、ミセスはこれからも変わることがないということだ。不安も寂しさも、全てをポジティブなパワーに転換してくれる。まだインディーズだった7年前に初めてライブを見た時のワクワク感とはまた違うけれど、今でもミセスはやっぱりカッコいいと感じる、あの大好きなミセスのままだった。
正直、山中と高野が抜けた理由はもうわからない。ビジュアルの変化への拒否感というのも「ENSEMBLE」までを見ていてもないだろうし、音楽性の変化というのも「TWELVE」からセルフタイトルアルバムへの急激な変化に比べたら想像よりもほとんどないというか、むしろ原点に回帰したとすら言える様なものになっているだけに。
だからこそ、なんで辞めちゃったんだよって思うことももちろんある。全員でとことん話し合って、歌詞の意味まで完璧に共有して、それを音源とライブで5人全員の表現として見せてくれていたバンドだからこそ。(最年長だった高野へのいじりも含めて)
でも今言えるのはこうして今でもミセスは変わらないと感じさせてくれる、バンドを続けることを選んだ3人への感謝の気持ちと、山中と高野への今まで本当にありがとうございましたという気持ちだ。これからもその気持ちを忘れることなく、自分はミセスのライブをずっと見続けていくことができる。これからも、全てが全部嫌になるようなことがあっても、このバンドに癒やしてもらおうと思っている。
リハ.私は最強
1.インフェルノ
2.CHEERS
3.ダンスホール
4.僕のこと
5.ニュー・マイ・ノーマル
6.青と夏
12:50〜 渋谷すばる [MOUNTAIN STAGE]
ミセスが終わってマリンスタジアムから出て幕張メッセに着くまでに要した時間は実に40分ほど。いくらマリンスタジアムとメッセが遠いとはいえ、速く歩けば10分で行けることを過去の参加でわかっているのでこんなに時間がかかるとはさすがだなと思うし、それは再入場口が詰まりまくっている(なのに4人くらいしか入口にスタッフがおらず、そこで検温と持ち物チェックまでするのでそれは詰まって当然)からという理由だったのだが、そんな理由によって見たかったバンドは見れず、幕張メッセに着いた頃にはもうMOUNTAIN STAGEの渋谷すばるもすでにステージに登場していた。
再入場口があんなに詰まっていたということはさぞやメッセの中は満員なのだろうと思ったら決してそんなこともなく、ただただ入口が詰まっていて列が伸びまくっていただけであるということがわかるのであるが、ステージに現れていた渋谷すばるはTシャツにジーンズという実にラフな姿で、バンドメンバーはギターが新井弘毅(THE KEBAS)、ドラムが茂木左(Theピーズ)、キーボードが本間ドミノ(THE BOHEMIANS)、ベースが安達貴史(ゆずやいきものがかりなど)という強力な布陣で、自分がここにいるという存在証明を自身の歌声で証明するかのような新曲からスタートすると、渋谷すばるは頭を振りながら間奏ではブルースハープを吹きまくる。その姿はやはりこの日この後にこのステージに登場する甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)のブルーハーツ時代の姿を彷彿とさせる。
つまりは「ワレワレハニンゲンダ」という既発曲以降も、ステージ上で輝きを放っていた関ジャニ∞時代とは全く違う、泥臭くて等身大のロックシンガーとしての姿を見せるようなライブになっているのであるが、バンドの演奏も完全にロックでありパンク。それができる、自分がイメージする音楽やサウンドを表現できるメンバーを集めているのだろうし、実際にそうしたバンド、音楽で生きてきたメンバーたちである。
聴き始めると歌詞は特定の誰かとのコミュニケーションの拒絶を歌っているかのような攻めたものに感じる「来ないで」は実はパクチーが嫌いなだけということを歌っているという、タネがわかるとより攻めているように感じる曲になっており、こうした曲からも彼のユーモアをそのまま自分の音楽に投影できるという人間性を感じられるのであるが、そんな曲の後にはまさに自身の音楽への思いを爆音ロックサウンドに乗せた「爆音」では誰よりも渋谷すばる自身が今鳴っている音に身を任せて肉体と精神を解放しているということがその姿から伝わってくる。
そんな中でもサウンドが爆音から本間のキーボードの音色をメインにした穏やかなものへと変わるのは「レコード」。
「一日中レコード聴いていた」
というサビのフレーズはコロナ禍になって外出出来なくなった時の彼の生活をそのまま歌っているんじゃないかとも思うし、やはり彼は音楽しかないような人なんだなと思える。だからこそその音楽を自分がやりたいようにやるためにこうして1人で音楽をやることを選んだ。そんな生き様がステージからこちらに確かに伝わってくる。
するとメンバーがソロ回し的な演奏を始め、それがファンク的に展開していくのは、
「急激な気温差はやめてあげてください」
というこの時期の我々の心情を代弁してくれているかのような「きになる」。そうしたサウンドであるだけにバンドの演奏が音源よりもライブではるかに迫力を増すように練り上げられているし、渋谷のボーカルも声を張り上げる部分ではより強いオーラを感じさせる。シュールな曲ではあるけれど、これはこれからもこうしてライブでは重要な位置を担う曲になっていきそうだ。
そして
「また大声で笑える日は来る まだ見ぬ世界の中で
待ってるずっと待ってる 舞ってる桜が舞う」
という歌詞がやはり今のこの状況を超えた未来への願いを込めたもののように感じられる「塊」は、あくまでそれを音楽の力によって取り戻していこうとするような。それくらいに彼の歌や音楽からはこれがないと生きていけないという人間からのメッセージであるかのように響く。そう思えるのは間違いなくそれを聞いている自分自身もまたそういう人間だからだ。おこがましくも、もしかしたら我々は同じようなタイプの人間なんじゃないかとすら思う。音楽しかないような人間だからこそ、音楽が不要と言われたり迫害されるような状況に傷ついて、それでもこうして目の前で音楽を鳴らして、それを浴びることでこの上ない喜びを感じることができるように。
そんなライブの最後に演奏されたのはまたしても新曲。それはまたこうしてライブという場で再会することを約束するような内容の曲であるのだが、渋谷はTシャツを脱いで白のタンクトップ姿になってブルースハープを吹きまくる。その姿はやはりロックンローラーでしかなかった。
「渋谷すばるでした。またどこかで」
とだけ言う、MCらしいMCが一切ないライブは、言いたいことは自分の音楽に全て込めているし、ただひたすらその音楽を演奏したいからこうしてステージに立っているということを示すかのようだった。
2017年に関ジャニ∞がMETROCKに出演した時に自分は初めて渋谷すばるの歌に触れた。きっとまだその日とこの日だけでは自分はファンの方々が絶賛しているこの男の歌の凄さを完璧に体感、理解できていないとも思う。それはきっとまだまだいけるんじゃないかとこうしてライブを見ていて思うから。
それでも、関ジャニ∞から脱退することが発表された時に自分は、
「近い未来にTVの画面の中のアイドルではなくて、目の前で歌うシンガーとしての渋谷すばるに会える日が来ると思っている」
と書いた。それがこの日ちゃんと現実になったし、あの時に関ジャニ∞のライブで見た時と同じように渋谷すばるは、目をひん剥いてただただ自分の抱える思いを伝えるために歌うボーカリストだった。だからこそ、これからまた何度だってどこかで歌う姿を見ることができるはず。
1.新曲
2.ワレワレハニンゲンダ
3.BUTT
4.来ないで
5.爆音
6.レコード
7.きになる
8.塊
9.新曲
14:00〜 BLUE ENCOUNT [MOUNTAIN STAGE]
サウンドチェック中に機材になんらかのトラブルがあったようで、おなじみの本気のリハでの曲演奏はなかったけれども、幕張メッセ内では最大規模のステージであるMOUNTAIN STAGEは満員と言えるくらいに埋まっている。それは海外アーティストがメインと言ってもいい(ましてや同じ時間に様々な海外アーティストも違うステージでライブをしている)このフェスにおいてもブルエンのライブが見たいと思っている人がたくさんいるということである。
おなじみのSEでメンバーがステージに現れると田邊駿一(ボーカル&ギター)は
「サマソニ、始まるよ〜!」
と言ってこの日はいきなりの「ポラリス」で早くもクライマックスを迎えたかのような雰囲気に。辻村勇太(ベース)が「オイ!オイ!」と煽って観客の拳が降り上がる中で田邊が歌うヒロイックさすら感じるほどのメロディの美しさと壮大さでもって、ブルエンがこのサマソニの巨大なステージをも早くも掌握していっているのがよくわかる。
そんな中で演奏された「…FEEL?」は英語歌詞がメインの曲ということもあってのこのフェスでの選曲?とも思わせるのであるが、田邊はそんな中でも
「さっき全然知らない海外アーティストのスタッフとすれ違った時に「ワオ!ジャパニーズハリーポッター!」って言われました!(笑)」
とサマソニならではのMCで笑わせてくれる。確かに日本で実写版ハリーポッターは見た目だけなら是非田邊にお願いしたいところである。
そんなMCをしながらも自身の耳に自分の声が返ってきていないことを口にするあたりは満足な音響状況ではなかったのかもしれないが、そんな中で演奏されたまさかの「girl」という実にレアな選曲(「ポラリス」のカップリング曲)ではステージ上をオレンジ色の照明が鮮やかに照らす。それはこのバンドを野外の夕暮れの時間帯にも見てみたいなと思えるようなものであったのだが、もしかしたらBEACH STAGEあたりの方が似合う曲と言えるかもしれない。
そんな中で田邊がハンドマイクになると、スクリーンには滴り落ちる雨がそのまま歌詞に変わっていくという凝った映像による「虹」が演奏され、いろんなフェスで見ても毎回セトリが違うという楽しみ方を我々に提供してくれるブルエンの面目躍如とでも言うべき選曲。
そのまま田邊はハンドマイクのままで「バッドパラドックス」でファルセットも交えたボーカルと高村佳秀(ドラム)の4つ打ちのリズムで観客を踊らせまくるのであるが、ギターが一本になることによって江口雄也のギターフレーズがどれだけ独特なものであるかということを示してくれる。
そんな中で田邊はこのMOUNTAIN STAGEは9年前、2013年にオープニングアクトとして立ったステージであることを語り、その時にはサマソニがどんなフェスで、どんな人が集まるフェスなのかを入念にリサーチした上で、そこに合わせた曲を演奏していたと言うが、今はそうしたことを全く考えることなく、ただただ自分たちの今を鳴らすということを告げてからバンドの音がバチバチにぶつかり合いながらも、メンバーのコーラスによってもそれが調和していく「VS」から、田邊は昔とは違って特に大層なMCを挟むこともなく「もっと光を」を歌い始める。
そのボーカルもかつてのようにひたすら熱く、ひたすら声を張るというよりも丁寧に、今の自分としての歌い方で歌うという形であるのだが、かつては大合唱が起きていた最後のサビでは田邊がマイクから離れて、
「心で歌ってくれ!」
と言うと、無音での大合唱が起こる。サマソニは一応は声を出しての合唱や歓声は禁じられているのだが、普通にそれが起きたりする場面がこの日、自分が見たアーティストのライブでもあったりした。海外アーティストのアンセム的な曲ならもっとそうなるだろうなというのが簡単に予測できるくらいに。でもそのルールの下にこのフェスが開催できているということが、この「もっと光を」での無音の合唱からは改めて感じることができた。それはファンがバンドの思いをしっかりわかって汲んだ上でこのライブに臨んでいるということもよくわかる。それはブルエンがこれまでの自分たちの活動の中で培ってきたものだ。カッコいいバンドはファンもカッコいいということをブルエンとそのファンは証明してくれている。
そんなライブの最後に演奏されたのは配信でリリースされた、セルフタイトルと言えるような曲である「青」。スクリーンにはその歌詞も映し出されたが、バンド名を決める時にメンバーはBLUE=青という単語がこれほどまでに強い意味を持つものになるなんて思っていただろうか。そう思うくらいに今もこのバンドは青に染まっている。そんなバンドのライブを見て、曲を聴くと自分も青に染まっていくような感覚になれる。それはきっとバンドの形がこれから先に変わったとしてもきっと変わることはないもの。去年は見れなかった夏フェスでのブルエンのライブが8月だけで2回も見れたのは本当に幸せなことだ。
1.ポラリス
2.…FEEL?
3.girl
4.虹
5.バッドパラドックス
6.VS
7.もっと光を
8.青
14:10〜 サンボマスター [BEACH STAGE]
再びマリンスタジアムサイドに戻り、かつてはJAPAN JAMもこの場所で開催されていたBEACH STAGEへ。砂浜には砂で作られた車のオブジェも並ぶこのステージに登場するのはサンボマスター。最終日に出演するはずだったロッキンが台風の影響で中止になってしまっただけに、そのリベンジとばかりにこのステージに足を運んだ形だ。
BEACH STAGEってこんなに人入るステージだっけ?と思うくらいに人で埋め尽くされたステージ(本来なら入場規制という概念すらなさそうな場所である)におなじみの「モンキー・マジック」が流れてメンバーが登場すると山口隆(ボーカル&ギター)が
「サマソニ準備できてんのか!」
と叫ぶと、木内泰史(ドラム)がスティックで、近藤洋一(ベース)が手で拍子を刻む「輝きだして走ってく」で客席にも手拍子が広がり、山口は思いっきり力と感情を込めて
「負けないで 負けないで」
と歌う。それがそのまま今の状況の世の中を生きる我々へのメッセージとして響く。サンボマスターのライブはそんな我々をいつだって笑顔にしてくれるライブをする。
それは木内が「オイ!オイ!」と煽りまくりながら
「全員でミラクルを起こすんだよ!」
と山口が叫んでからの
「ラヴィット!」
という曲の入りだけでも笑顔になれる、朝の情報番組で流れるサンボマスターの曲である「ヒューマニティ!」もそうである。先日には番組に出演して生演奏もしたらしいが、そうして朝の全国放送の番組にサンボマスターの音楽が欠かせないものになっているのが実に感慨深いし、それがこのステージの客席を埋め尽くした観客がそれぞれ好きに踊りまくっている景色にもつながっているはずだ。なんなら客席には結構親子というか一家全員でライブを見ている人もいるのも。
山口の伝えたくて仕方がないというくらいに前のめりにタイトルフレーズが繰り返される「忘れないで 忘れないで」からは早くも「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」ではメンバーによる
「愛と平和!」
のコールが起こる。そこには確かに声が出せない我々の想いも乗っかっていたはずであるし、今のような世界や社会の状況の中だからこそ、この曲がより強く響く。聴いている側がそう感じることができるというだけで、こうして「愛と平和」を叫んでいることは決して無駄じゃないと思えるような。
そんな空気がよりシリアスなものになるのは「ラブソング」。言ったら酒を飲んだりしてテンション高くはしゃいだり踊ったりしているような人も多く散見されたこの日のこのステージであっても、山口の無音の時間(それはいつもより短めのものだったけれど)には全く声が上がったりすることはない。それくらいにこの曲の力がこの会場に突き刺さっていたということだ。そうできるということがサンボマスターのライブの凄さを物語っていると思う。
そうした代表曲が並ぶ中にあっても今年リリースの「ボクだけのもの」が演奏される。そうして今でもバンドが進み続けていることをサンボマスターはフェスという場でもずっと示してきた。それがよりシンプルかつポジティブなメッセージを持った曲として。
そして今やサンボマスターのライブで最大の盛り上がりを見せる曲となった「できっこないをやらなくちゃ」で山口はやはり
「全員優勝!全員優勝!」
と叫ぶ。その観客が全員飛び跳ねながら腕を挙げている様はまさに全員優勝であるし、サンボマスターのライブだからこその幸せと楽しさを感じさせてくれる瞬間である。だからサンボマスターのライブに行くのはやめられないし、こうしてフェスで見るたびにそれを感じさせてくれるのだ。
「お前がクソだったことなんて1回もないんだからな!」
と我々のことを言葉で肯定すると、そんなライブの最後は近年のライブではおなじみの「花束」。山口は最後のサビ前には
「信じてんぜ」
と歌うと、
「ジョン・レノンを、ヒロト&マーシーを、忌野清志郎を」
とレジェンドたちの名前を口にした後に、
「お前の過去を!お前の未来を!」
と曲の中でも我々を肯定してくれる。それこそがサンボマスターのライブの力であり、我々が翌日からの日々を生きるための力になっていく。曲が終わったと思いきや、近藤がベースを弾き始めてさらに曲が続くというユーモラスな部分も含めて、やはりこうしてサンボマスターのライブは本当に楽しいし感動を与えてくれる。それはおなじみのフェスと言えるわけではないサマソニという場所でも決して変わることはなかった。
1.輝きだして走ってく
2.ヒューマニティ!
3.忘れないで 忘れないで
4.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
5.ラブソング
6.ボクだけのもの
7.できっこないをやらなくまたゃ
8.花束
16:50〜 Aimer [SONIC STAGE]
直前にこのステージに出演していたVaundy終わりの観客で幕張メッセ内が歩くスペースがないくらいにごった返していたのがようやく解消されてきた中で次にSONIC STAGEに出演するのはAimer。Vaundy同様にこのキャパのステージに出演するのはこのフェスだからであろう。
先にギター、ベース、ドラム、キーボードという最小編成のメンバーが先に登場して音を鳴らすと、黒い衣装を着てメガネをかけたAimerがステージに現れ、スクリーンにまさに地球儀の映像が映る中で「地球儀」を歌い始める。こうしてフェスでAimerのライブを見るのも実に久しぶりであるが、この曲から始まるというのは少々意外でもあった。Aimerの独特の儚さを持った歌声も、手を振る観客に向かって手を振りかえすというライブでの挙動も普段と変わることはないけれど。
その声がアッパーな曲でも映えるということを示すのは疾走感あふれるロックチューン「STAND-ALONE」で、ワンマンでも強いコンセプトを持たせた、Aimerの中で大事な世界観である「夜」の世界へと誘っていく。バンドの演奏も実に力強いけれど、Aimerの歌声も凛とした力強さを纏っている。
そんなAimerは新曲の配信リリースをすぐ翌週に控えており、その新曲「オアイコ」は「優しい曲」と紹介された通りに穏やかなサウンドと歌唱の曲。客席からはリズムに合わせた手拍子も起こり、それはAimerと彼女の音楽を愛する人たちが皆穏やかな心を持った人たちであることを感じさせてくれる光景でもある。「残響散歌」で大ブレイクした後でもAimerが変わらずに自分らしい曲を歌っていくということを示してくれるものでもある。
その「オアイコ」と通じるように演奏されたのが、andropの内澤崇仁が手掛けた「カタオモイ」で、同じように手拍子が起こる曲であるというのもあるのだが、その曲に宿る優しさのようなものは曲を作る人が違ってもAimerが歌えば変わることはないということが実に良く伝わってくるような流れである。
そんな流れから一気に陽性のパワーを感じさせるアッパーさに振り切れていくのは「ONE」。Aimerもいつになってもたどたどしさを感じさせるような歩き方でステージを歩き回りながらパワフルな歌を響かせるのであるが、特にこの曲での
「You're the one」
のフレーズでの歌唱は本当に胸を震わせるくらいに素晴らしくて、確かに夜という世界はAimerにとって大切な、歌うきっかけになったものではあるけれど、この曲のように夜以外の世界を感じさせる曲もやはり素晴らしいなと思うし、Aimerの歌声に宿る生命力を存分に感じさせてくれる。
しかしそこからは「Run Riot」と、夜の景色を駆け抜けていくような選曲へ。フェスであってもアッパーなわけではない曲でライブを作ることができるアーティストであることはこれまでの活動でも証明してきているが、それでもこうしたフェスだからこその選曲であり流れだなとも思える。
それはきっとこの日たくさんの人が待ち侘びていたであろう「残響散歌」もそうなのだが、この曲が起用された「鬼滅の刃遊郭編」のオープニング映像を思い出させるかのような打ち上がる花火から始まる美しい映像と、きっとこの状況じゃなければ我々が歌っていたであろうコーラス。全てが完璧に重なったこの曲をこうして目の前で聴いているとこの曲が大ヒットしたのが実によくわかるし、この曲をきっかけにしてAimerのライブに行って深い曲に触れるきっかけになったら実に嬉しいことだよなと思っていたし、今でも聴いていると宇髄天元が遊郭街の屋根の上を飛び回る姿が頭の中に浮かんでくるのだ。
そしてAimerは
「本日はAimerの初めてのSUMMER SONICのライブを見に来ていただいて本当にありがとうございました」
と観客に感謝を告げてから歌い始めたのは、RADWIMPSの野田洋次郎が手掛けた「蝶々結び」。この曲が何度聴いてもうるっとしてしまうのはAimerの声が表現する情景の切なさがしっかりと伝わってくるとともに、洋次郎がそれを伝えることをこの声に託した思いまでもがAimerの声から伝わってくるからだ。それくらいに洋次郎らしさが溢れまくっていると言える曲でもあるのだが、そんな曲をAimerは完璧に自分色に染め上げている。それを初出演のステージでも見事に示してみせたライブだった。
でもやはりAimerにはもっと聴きたい曲がたくさんあるなとフェスの持ち時間でのライブを見ると強く思う。だからこそまたワンマンに行ってたくさんの曲を聴きたくなる。そう思ってワンマンに足を運ぶ人がたくさんいるであろうことを考えると、Aimerがこうしてフェスに出演する意味は確かにあったと思う。
1.地球儀
2.STAND-ALONE
3.オアイコ
4.カタオモイ
5.ONE
6.Run Riot
7.残響散歌
8.蝶々結び
17:35〜 ザ・クロマニヨンズ [MOUNTAIN STAGE]
あまり最近は大きなフェスにはあまり出演していないイメージがある、ザ・クロマニヨンズ。それだけにこうしてサマソニに出演するというのは何とも貴重な機会だと思う。そうした思いを持ったり、あるいはこのバンドのTシャツを着た、このバンドのライブを見るために来たであろう人たちがMOUNTAIN STAGEに集結。
おなじみの原始人の叫び声ともうめき声とも言えるようなSEが響くとメンバー4人がステージに。しかし本当に驚くくらいにこのメンバーたち(特にヒロト&マーシー)はバンド結成時から見た目が全く変わっていないように見えるし、ヒロト(ボーカル)がマイクスタンドを握りしめてピョンピョン飛び跳ねながら歌う「クロマニヨン・スタンプ」から始まるというのも、その曲でマーシー(ギター)がギターとともに攻撃的な声を響かせるというのも全く変わらない。
それはそのままデビューシングル曲「タリホー」でメンバーの声が重なっていくことによって生まれるキャッチーさも全く変わらないのであるが、「生きる」という曲にしてもブルーハーツ時代の
「生まれたからには生きてやる」
という姿勢や生き様が30年以上経った今でも全く変わっていないことを感じさせてくれる。
それはこの日は演奏されていないが「スピードとナイフ」での
「変わらないものなんて何一つないけど
変わるスピードが違ったんだな」
という、意味がないことばかり歌っているように見えて実は人間の心理をズバッと言い当てるこのバンドの歌詞に準えるのであれば、このバンドとメンバーの変わるスピードはやはり普通の人間とは全く違うものであると思ってしまう。なんなら「生きる」って言わなくてもずっと生きていそうなくらいに。
桐田勝治(ドラム)が立ち上がってスティックを振り回し、その姿を見た小林勝(ベース)も高く腕を上げながらヒロトが歌い始めるのは「雷雨決行」と代表曲でありキラーチューンの連打に次ぐ連打であるが、そんな中にも「ドライブGO!」や「光の魔人」という近年リリースと言える時期の曲もしっかり交えてくるあたり、変わらないように見えてちゃんとバンドは前に進み、進化しているということを示している。とはいえ超が付くほどストレートなロックンロールというスタイルは決して変わることがないし、このバンドのライブを見ているとサウンドを盛ることやバンドとしての戦略を考えることなんか実はどうでもよくて、ただただロックンロールをバンドで鳴らせばそれだけで全部OKなんじゃないかとすら思えてくる。それはヒロトとマーシーの境地に達しないとできないことであることもわかっているけれど。
ヒロトのブルースハープが吹き荒れる「どん底」から「エルビス」と続くと、メンバーの表情(特にヒロト)はどんどん明るくなっていく。本当にこうしてただロックンロールを鳴らしているだけで本当に楽しいんだろうなということがその表情からも伝わってくるし、
「サマソニが80年振りに開催されたらしいぞ!これからは毎年やってくれ!みんな生きて毎年来ような!」
という言葉からも、その演奏している姿からも感じられる生命力の煌めきはこのバンドはマジで80年後も平気で活動しているんじゃないかと思ってしまうくらい。そしてそのバンドの生命力が我々にMCの言葉通りに生きるための強い力を与えてくれる。
そこからの後半は「グリセリン・クイーン」からさらなるキラーチューンの連発なのだが、「暴動チャイル (BO CHILE)」あたりのリズムなんかは誰でも出来そうなことをやっているように見えて実は絶対この人たちしかできないよなと感じるようなものだ。スーパープレイをそうは感じないくらいに普通に簡単そうにやってしまうというか。そこもまたやはりこのバンドの凄いところだ。
ついついサビでヒロトと一緒に口ずさんでしまいそうになる「紙飛行機」あたりになってくると、あまりのカッコ良さにもう感動して泣けてくるというか、こんなレジェンド的な人間にはなろうとしてもなれないのはわかっているけれど、それでもそういう風に死ぬまでずっとロックンローラーでありたいと思うことはできるんじゃないかと思えるというか、改めて自分の人生や生き方の姿勢を正される感すらある。
そんな久しぶりにライブを見たことによる感覚も含めた全てが「今日は最高!」と、決して自分は全てが最高だとは全く思えないようなフェスであるサマソニでもそう思わせてくれる「ギリギリガガンガン」のヒロトの少し溜めて歌うような歌唱が、メンバーが本当にそう思って歌い演奏していることをより感じさせてくれると、
「ただ生きる生きてやる」
というフレーズがやはり心臓の鼓動と重なって我々の生きる力になり、ヒロトのボーカルと桐田のリズムのみになる最後のサビで観客が拳を掲げる光景が神聖なものにすら見えてくる「エイトビート」から、最後はやはりこのバンドのライブがナンバーワンでしかないなと思わせてくれるような「ナンバーワン野郎!」ではメンバーの気合いの入った「イェー!」のコーラスが響きながら、サビでは観客が人差し指を掲げる姿がスクリーンに映し出される。自分たちの鳴らす音や姿でまさにこのフェスのナンバーワンに持っていってしまうクロマニヨンズはやはり凄すぎる。
ヒロトの終わった後のシェー!ポーズ連発も、マーシーの恒例の
「またね」
も、本当にやり切った充実感に満ちていた。ヒロトは脱がなかったけれど、さすがにそこは弁えているということだったのだろうか。
このステージに先に出演した、THE LINDA LINDASや渋谷すばる、あるいはライブ中にヒロトとマーシーの名前を出したサンボマスター。このフェスの出演者にもヒロト&マーシーの存在に強い影響を受けて音楽を志した人たちがいる。そんな人たちに、今でも自分たちのライブをする姿でまだまだ追いかけるべき背中があることをクロマニヨンズは示してくれている。
それはブルーハーツやハイロウズを聴いて育ち、今こうしてクロマニヨンズのライブを見ている我々観客もそうだ。終わりはいつか必ず来てしまうものだというのは理解しているけれども、この2人に関してはそれがまだまだはるか遠い先のことであるかのように感じられる。そういう意味でもやはりクロマニヨンズは、ヒロト&マーシーは生きるレジェンドであった。
1.クロマニヨン・ストンプ
2.タリホー
3.生きる
4.雷雨決行
5.ドライブGO!
6.光の魔人
7.どん底
8.エルビス
9.グリセリン・クイーン
10.暴動チャイル (BO CHILE)
11.紙飛行機
12.ギリギリガガンガン
13.エイトビート
14.ナンバーワン野郎!
18:50〜 バックドロップシンデレラ [J-CULTURE STAGE]
幕張メッセの1番奥。え?これステージ?と思ってしまうくらいに小さいし、とってつけた感があるというか、バンドが立つようなステージなのかこれはと思ってしまうくらいに他のステージに比べると簡素極まりないJ-CULTURE STAGE(そのステージ名通りに日本独自の進化を遂げたアイドルグループなども名を連ねている)の初日のトリはバックドロップシンデレラ。「フェスだして」と歌い続けてきたバンドがついにサマソニにも出演である。
メンバーがステージに登場すると、
「サマソニー!一緒に踊ろうぜー!」
とでんでけあゆみ(ボーカル)が叫んで後ろの方にいる人たちを前の方へ招く「台湾フォーチュン」からスタートするというのはロッキン出演時と同様というか、ロッキン出演時には同じ日に出演するはずだったのに出れなくなった盟友の打首獄門同好会の曲を演奏するという形で仲間へ最大のエールを送っていたのだが、この日はそうした大きなトピックはないために「フェスだして」でも鬼ヶ島一徳(ドラム)が歌う場面はあったりしたが、すんなりハミングでの合唱に入っていったという印象。それでもやはりこのフェスではまだアウェーという感覚も強いのか、ロッキンの時以上にハミングを
「歌詞知らなくてもできるから!ンーンンって口を閉じて言ってればいいから!」
と説明していたけれど。
そうして打首の曲をやらない代わりにバンドが演奏したのは、ひょんなことからバズってしまったバンドが歌う「バズらせない天才」であり、アウェー感は強いというか、他のフェスだったらもっと客席埋まってるのになとも思うけれども、そんな状況の中でこのバンドを観に来る人は間違いなく「このバンドの曲を知ってて、その曲で踊りたくてこのステージに来た」という人であるだけに「2020年はロックを聴かない」以降も豊島"ペリー来航"渉(ボーカル&ギター)の刻む高速カッティングのスカのリズムに合わせて踊りまくっている。
なのでその景色を見た豊島は
「どこかこれはもう感動的ですらあるな。最近いろんなフェスに出させてもらってるけど、サマソニ決まった時が1番嬉しかったかもしれない。
このフェスはやっぱり周りを見りゃあ凄い奴らばっかりいるけれど、こうしてこのステージに立ってしまったからには、マリンスタジアム目指すしかないでしょう!俺たち、小さいライブハウスでもアウェーって言われるところを何回も何回も地道にライブをやってホームって言える場所に変えてきました!サマソニもそうやって何回も出て、いつかマリンスタジアムに立ちたい!その時には皆さんは「バックドロップシンデレラがJ-CULTURE STAGEに初出演した時に見たんだ」って自慢できますから!」
と、このフェスに抱えていた思い、そして出演したことでさらに強くなった思いを口にする。その際にこの日も妖艶なベースを弾いていたアサヒキャナコも含めて全員が頷きながら笑顔だったのは、その思いが豊島だけのものではなくて、メンバー全員で共有しているものだからだろう。そこにこそこのバンドの強さがあるとも思う。
そんなライブのクライマックスはやはりこの日も「月あかりウンザウンザ踊る」から、でんでけあゆみがSNSでバズったきっかけとなったハイジャンプを繰り返し、鬼ヶ島がスティックを高く放り投げてそれをキャッチしてドラムを叩くというパフォーマンスもバッチリ決まる「さらば青春のパンク」で観客は踊りまくっていた。そこには普段からこのバンドのライブを見ているであろう人もいれば、このステージに出ていたアイドルグループを見に来たと思われるような人、このバンドの直前に隣のステージでライブをしていたFear, and Loathing in Las Vegasが終わってすぐにこのステージに来たであろう人。そんな見た目も踊り方もバラバラな人たちが「踊るヤツが偉いのさ」というこのバンドの信条を証明しているかのようだった。
このステージに入った時も、ライブが始まった時も、「もっと良いステージでライブやらせてあげたかったな…」と思ってしまった。でもそんなステージで始まったからこそ、目指せるものや新しいバンドのモチベーションが確かにある。せっかくこの場所、この瞬間に居合わせたからには、このバンドがマリンスタジアムのステージに立つ日が来たら、それを見るためにまたこのフェスに来ようと思った。案外、それは不可能なことでは全然ないと思っている。
1.台湾フォーチュン
2.フェスだして
3.バズらせない天才
4.2020年はロックを聴かない
5.サンタマリアに乗って
6.月あかりウンザウンザ踊る
7.さらば青春のパンク
19:30〜 HYDE [PACIFIC STAGE]
主に日本のアーティストたちが出演してきた、幕張メッセ内のPACIFIC STAGE。そのステージのトリを飾るのがHYDEである。いくらトリとはいえ、あのL'Arc〜en〜Cielのボーカルが全然メインではないステージに出るとは、という驚きもないわけではないけれど。
マスクをつけて顔がハッキリとはわからないサポートメンバーたちが先にステージに登場すると、荘厳なSEが鳴る中でHYDEはステージ奥から神輿に乗って登場し、そのまま「LET IT OUT」を歌い始める。さすがにトリの時間ということもあってか、おそらく海外の観客の方々は他のステージを見に行っていたと思われるが、これこそ日本以外の国の人たちに見てもらいたいオープニングパフォーマンスである。
HYDEのライブを見るのは実に久しぶりであり、それこそ4年前に氣志團万博で見た以来だと思われるのであるが、サウンドはその時よりもさらに完全にラウドロック化している。対バンツアーもそうしたラウドバンドたちをメインに迎えて開催されているけれど、そのツアーにも出演していたcoldrainに1番近いなと思うのは、ラウドでありながらも歌メロがキャッチーであるということであり、そこには数々の大ヒット曲を生み出してきたHYDEのボーカルだからそうなるという要素もあるはずだ。
そんなHYDEは「AFTER LIGHT」では
「ハミングプリーズ!」
と観客に飛沫が飛ばないハミングでの合唱を煽るのであるが、それが直前にやはりハミングでの大合唱を起こしたバックドロップシンデレラのコミカルかつ泥臭いそれと比べると、HYDEのライブでのそれはどこか神聖かつ華やかなものに感じられる。ハミング一つとっても実に奥深いなと思わされるコロナ禍でのライブの形であった。
そのコロナ禍でのライブについてHYDEはカメラを自身の手で掴んでそこに顔を近づけてスクリーンにアップで映りながら、
「いったいいつまで声が出せないんだと思うけれども、ルールとか関係ないから声を出せっていうのも違う。不安を抱えながらライブに来た人を怖がらせてはいけないし、そういうルールがあるからこうしてライブができている。
動き回ったり密集したりもできないけれど、考え方を変えればそれは今だからこそできることがあるということでもある。そのスペースは君たちが3年間かけて手に入れたものだ!だから有効に使え!」
と、この制限が多い中でのライブを実に前向きに捉えているMCをする。正直、サマソニは他のフェスに比べてルールやマナーに関してはめちゃくちゃ緩い。それはずっと前からそうであるし、それはコロナ禍でのライブでの感染対策という面でもそうだ。注意するスタッフなどが全然いないために、ある意味好きにやれてしまう。だからこの日も結構歓声が起きている瞬間も見たし、ライブエリアでもマスクをしていない人もしょっちゅう見かけた。
そんな自衛するしかないような状況でのこの言葉である。日本の超大御所と言えるようなアーティストがそこについて言及するというのは、ドームやスタジアムまでをも経験してきた人だからこそ、どれだけいろんな人がこのライブを作るために関わっているのかということをめちゃくちゃわかっていて、そうした人たちがルールやマナーが崩壊するとどれだけ迷惑がかかるかということもきっとわかっている。カメラ目線で口にする言葉もどこかそうした格や年齢を感じさせない可愛らしさみたいなものを自分ですら感じてしまうあたりに、今もたくさんの人が熱心にこの人の活動を追いかけ続けているのがわかる。
「MAD QUALIA」では突如としてドラマーがシンバルを手にしてステージ前まで出てくると、スタッフがHYDEの立ち位置のあたりに台を用意し、その上にHYDEは少し怖がりながらも立ち上がって観客を煽り、そしてその上から飛び降りる。正直言ってサマソニでこのライブを見る人の半分以上は今のHYDEのソロ曲を知らないと思う。それでもこうしたオーラと少しばかりの可愛さを感じられるパフォーマンスによって観客が完全にHYDEの世界に持っていかれているのがわかる。長い年月シーンの最高峰であり最前線を走り続けている男の凄さをその肌で実感しているのである。
「SICK」も含めてフェスらしくアッパーな曲で押しまくる中でも、やっぱりHYDEってファルセットの響かせ方や声量も含めて歌が上手いなと感じさせてくれる「THE ABYSS」のような神聖かつ壮大な曲がセトリに入ってくるというのも持ち時間が長いからこそつけられる緩急であると言えるが、ここで「NANA」の映画に提供して中島美嘉が歌って大ヒットした「GLAMOROUS SKY」のセルフカバーという大サービスも。もちろん今のHYDEとこのメンバーによって完全にラウドロック化してのカバーであり、イメージ上のリズムで手拍子をすると明らかにドラムと合わなかったりもするのであるが、これだけたくさんの人を一つにできて喜ばせてくれるような曲を今の解釈で演奏する。サービス精神と挑戦心を両立させたカバーである。
するとHYDEは
「動いたりすることはできないかもしれないけど、その場でぐるぐる回ることならできる!恥ずかしいと思うかもしれないけど、結構評判いいからやってみて!みんなでやればやらない方が恥ずかしくなるから!(笑)」
と言ってまさかの観客にその場でぐるぐる回ることを促すのだが、マキシマム ザ ホルモンや四星球のようなコミカルなバンドのライブで経験してきた楽しみ方がまさかHYDEのライブにも適用されるとは思っていなかったし、「ANOTHER MOMENT」で実際にスクリーンに
「回れ!回れ!」
という文字が出るたびに観客はぐるぐるその場で回ると、みんな笑顔になっている。それは次の、HYDEが金属バットを持ってドラム缶を打ち鳴らすというバイオレンスさすら感じる、Slipknotのカバー「Duality」という実にサマソニらしい選曲でも発揮され、曲もサウンドもめちゃカッコいいのに観客の楽しみ方は実にコミカルであるというギャップがもの凄く面白い。この選曲からも今のHYDEがこうしたラウドサウンドを鳴らしたくて仕方ないという、この音楽への愛が溢れている。
さらにはアッパーに攻めまくるような新曲「6 or 9」ではHYDEがタオル回しを観客に促すという、
「もう総力戦ですよ!」
という言葉の通りに、ありとあらゆる手段や手法を使ってこのライブ、この瞬間を自分も愉しみ尽くそうとしているし、集まってくれた人たちをも楽しみ尽くしたいという思いが溢れまくっている。正直、もっとクールなイメージがL'Arc〜en〜Cielがメガヒットしまくっていた幼少期の頃からあったのだが、今我々の目の前にいるのはラウドロック・エンターテイナーと言っていいようなHYDEの姿だった。
そんなL'Arc〜en〜Cielのボーカリストとして時代を築いたHYDEだからこそできる究極のエンターテイメント。それが「HONEY」のラウドロックカバーである。HYDEはリズムとサウンドに合わせて歌い方も少し変えていたけれど、こんなに大合唱して然るべき大ヒット曲でも誰も歌おうとしない。それはHYDEがマイクを向けても。それはHYDEのMCでの思いがしっかりここにいた人たちに伝わっていたということだ。この曲が聴けたことよりも、むしろこの日にこの曲が描き出していた景色にこそ感動していた。
そんな拍手喝采の、誰もが「この時間にこのステージを選んで良かった!」と思えるカバーの後には突如としてHYDEとドラマーがドラムセットを解体というよりは壊そうとするかのようにシンバルをステージに打ちつけたりする。解体されたツーバスのうちの一つにHYDEは寝そべり、ドラマーは少なくなったというかシンプルになった残りのドラムセットで「MIDNIGHT CELEBRATION II」を演奏する。HYDEの寝そべりながらの歌唱は何とも言えない色気を振り撒きながら、演奏が終わるとHYDEはステージサイドのカメラに寄っていって、思いっきり画面にキスをした。その瞬間にスクリーンに映った「THE END」の文字と湧き上がる拍手。海外の大物アーティストたちが出演している時間にHYDEを選んだ意味が確かにあったと思った。何よりも、こんなに楽しいのかと思うくらいに本当に楽しかった。
コロナになる前にNHKのSONGSという番組にHYDEが出演していたのを見た。そこでHYDEはこうしてラウドロックに振り切れた理由を、
「僕にはもう時間がない。やりたいことをやれる時間は限られている」
と言っていた。ずっと歳を取らないように見えるHYDEですらも、人生や音楽ができる時間が終わりに近づいてきていることを悟っている。それは先輩や仲間がいなくなってしまったという人生経験によって思うようになったことなのかもしれない。
もしかしたらL'Arc〜en〜Cielをもっとやってくれと思う人だっているかもしれない。でも今のHYDEがやりたいのはこういう音楽なんだなと思うし、そのやりたい音楽で自分だけではなくて自分の周りにいるたくさんの人のことを楽しくしてくれる。HYDEというミュージシャンがどれだけ凄い人なのかということを思い知った、2022年のサマソニだった。これはこの先も追いかけたいと思えるほどに。
1.LET IT OUT
2.AFTER LIGHT
3.DEFEAT
4.MAD QUALIA
5.SICK
6.THE ABYSS
7.GLAMOROUS SKY
8.ANOTHER MOMENT
9.Duality
10.6 or 9
11.HONEY
12.MIDNIGHT CELEBRATION II
20:35〜 MAN WITH A MISSION [MOUNTAIN STAGE]
MARINE STAGEではTHE 1975が、SONIC STAGEではST.VINCENTがトリを務めているこの日。もちろんこのMOUNTAIN STAGEもこれまでに数々のレジェンドクラスの海外アーティストがトリを務めてきたのだが、3年振りのサマソニのMOUNTAIN STAGEのトリはMAN WITH A MISSION。確かに究極の生命体であるが故に、国籍なんかも超越するような存在である。
これまでにサマソニでも何度も名シーンを作り出してきたバンドであるだけに、始まる前からMOUNTAIN STAGEは立錐の余地もないくらいの超満員っぷり。THE 1975の裏ということもあり、まさかこんなにも満員になるとは思っていなかった。
ステージを要塞のように見せるような映像が映し出される中、「Between fiction and friction I」がSEとして流れると、それがバンドの演奏へと切り替わっていき、要塞が崩れるかのように映像が映し出されていた幕が落ちるとそこにはすでにメンバーの姿があり、SATANIC CARNIVALの時には不在だったカミカゼ・ボーイ(ベース)も復帰した、おなじみのメンバーたちでそのままデジタルなロックチューン「database」へと突入していき、ジャン・ケン・ジョニー(ギター&ボーカル)とトーキョー・タナカ(ボーカル)のボーカルのコンビネーションも、DJサンタモニカの早くもステージ左右まで走り回って観客を煽る姿もこのステージのトリを任されたことに対する気合いに満ち溢れているのがよくわかる。
そんなライブだからこそ
「存在を示す証
己の意味を探して」
というサビの歌詞がより深く、そして壮大に響き渡っていく「Dive」から、アルバムに収録されていた、実にサマソニらしい選曲のAC/DCのカバー「Thunderstuck」ではステージから炎が吹き上がりまくる。トリだからこその特権でもあり、それはこのバンドがこのフェスから愛されている証でもあるだろう。
このステージのトリであり、この日のサマソニで最後に音を鳴らすバンドになれたことへの喜びをジャン・ケンが語ると、だからこそ「Emotions」はよりエモーショナルに聞こえてくる。というよりボーカル2人の気合いが本当にこの日はそのまま声に乗り移っている。我々は声を出せないけれど(出そうと思って出してる人じゃない限りは)、確かにバンドの衝動が見ている側にも火をつけてくれる。だからこそこの瞬間を楽しみ切ろうと思えるのだ。
それはメロからサビに突入していく際の開放感に満ち溢れた「INTO THE DEEP」もそうであり、そのバンドの演奏によって観客も飛び跳ねまくる。持ち時間が長いだけあり、まさにマンウィズの深い部分へとここにいる全員で潜っていくかのようである。
切なさ極まるイントロの段階から身が引き締まるというか、昨年のフジロックやテレ朝ドリームフェスティバルなど、このバンドがライブというものを守ろうと戦い続けてきたこの1〜2年で見てきたライブを思い出してしまうのはもちろん「Remember me」。サビで満員の観客の腕が左右に振れるのを見て、今までのこの曲の景色も忘れられるものではないけれど、この日のこの景色もきっと忘れはしないだろうと思っていた。
するとスペア・リブが、本当にこのバンドはちゃんとドラムを叩いて演奏しているんだなと改めてわかる(音を聞けばわかることだけど)ドラムソロから、DJサンタモニカのDJソロという長尺ライブならではの繋ぎも展開され、その間に他のメンバーはステージから一旦去るのだが、ソロが終わった後に手を繋いで観客の拍手を浴びる2匹の仲良しっぷりには思わず和んでしまう。
そんな2匹もいったんステージから捌けると、代わりにジャン・ケンとE・D・ヴェダー(ギター)が現れ、
「我々はシステム上、長尺のライブでは小休止をしないとならない」
とこのソロ回しなどを展開した説明をすると、
「コロナもそうですけど、起きてはいけないことが世界で起きている。そんなことがもうこれ以上起こらないように、祈りを込めて」
と言って弾き語りで演奏されたのは「小さきものたち」。些細な、でも当たり前な平和な幸せを享受できているからこその穏やかな歌詞。それがアコギの柔らかいサウンドに乗せて歌われ、ヴェダーは時には手拍子もする。普段はラウドかつ攻撃的な曲を演奏しているこのバンドの優しさを感じられる瞬間であり、それはコロナ禍になってからこのバンドがこうしてライブで示してきたものでもある。散々叩かれまくったであろう去年のフジロックでさえも、このバンドは叩いてくる人を恨んだりするようなことは全くしなかったばかりか、そうした人たちと何とか分かり合えるようにというメッセージを観客に投げかけていた。それはある意味では人間を超えた存在としてのメンタリティなのかもしれない。
するとメンバーたちもステージに戻ってきて、ジャン・ケンは
「初出演したのが2011年、真昼間で炎天下のBEACH STAGEでした。その時に、このバンド夏フェスキツいなって思いました(笑)
それから11年経って、夜の室内。最高です(笑)」
と感慨深さを感じさせながら笑わせてくれると、タナカも
「What's up, サマソニー!」
と珍しく感情をあらわにして叫ぶ。それくらいに気合いが溢れ出しているのだ。
それがそのまま「FLY AGAIN」での一大ロックパーティーのような盛り上がりにつながっていく。カミカゼの目が発光するというギミックも室内だからこそより映えるのであるが、こんなにも海外アーティストがメインのフェスで超満員の観客が盛り上がれるアンセムは他にないんじゃないかとすら、こうして両手を左右に挙げていると思える。近い将来にマリンスタジアムの夜にまたこの光景が見れるようになるんじゃないかと思うくらいに。
そんなライブの最後に演奏されたのは今年リリースの最新アルバム「Break and Cross the Walls II」収録の「More Than Words」。
「More than words
何度だって
Beyond the world
立ち上がり
More than words
約束の瞬間へ駆けていく」
という、普遍的なようでいて、それを実践してきたからこそこのステージに立っているバンドとしての説得力を感じる歌詞。代表曲、定番曲の連発ではない、起承転結を描くことができるボリュームのライブだからこそ、このバンドがこの日のトリで本当に良かったと思えた。
しかしそれでも観客によるアンコールを求める手拍子は鳴り止まず、それに応えてステージにオオカミたちが戻ってくると、
「本当に最後までこんなにたくさん残っていただいて本当にありがとうございます!今日のサマソニの最後の1曲を演奏させていただきます!」
と言って演奏されたのはやはり最後の最後にはみんなで踊りまくって終わるための「Get Off Of My Way」。最後には特効も爆発して我々を驚かせたその瞬間、このバンドは本当にサマソニというフェスを担う存在になったんだなと思った。それはオオカミたちがこのフェスへの想いの強さを持っているからこそ、そう感じられたものだった。
既述の通りに、マンウィズはコロナ禍になってからはずっとロックシーンのマスコット的な存在として、ライブシーンを守ろうと戦い続けているように見えた。だからコロナ禍になってからは「出れるんならどこにだって行ってライブをやる」というようにいろんなフェスやイベントに出まくってきた。
その思いは今も忘れずに持っているだろうけれど、それでもこの日はどこかそれ以上に喜びや嬉しさを強く感じさせるようなライブだった。それはそうだろう、自分たちが憧れてきたバンドたちがライブをやったステージのトリを自分たちが担うことができたんだから。表情が変わることはないけれど、この日のオオカミたちは今まで以上にロック少年のような顔に見えたのだった。
1.database
2.Dive
3.Thunderstruck
4.Emotions
5.INTO THE DEEP
6.Remember me
ドラム&DJソロ
7.小さきものたち
8.Hey Now
9.FLY AGAIN
10.More Than Words
encore
11.Get Off Of My Way
もはや今さら自分が何を言ってもどうしようもないくらいに2日間が終わって、あらゆる意見が噴出しまくっている。自分は正直サマソニに対しては「まぁサマソニだもんな」というくらいにしか思わないし、誰がどんなにバズるようなライブの動画をSNSに載せていようが、それを再生する気にはならない。やっぱりそれはルールを逸脱した行為の結果である以上、どんなにいいことを言っていても全く説得力を感じることはできない。自分の目の前でやられたら「後ろの人がステージ見えねぇだろうが」とスマホを叩き落としたくなるからだ。(スクリーンにその姿がちゃんと映ることのないマンウィズやAimerというアーティストのステージを録画するのは侮辱行為だとすら思っている)
そうした経験をこれまでに何度もしてきたからこそ、毎年行くフェスにはならなかったし、感染対策にしても「本当に去年のSUPER SONICも大丈夫だったの?」とすら思ってしまう。だからこそやっぱり夏フェスの中で1番家から近い会場でも毎年行くことはないだろうなと思ってしまう。自分の目で見ることによって尚のことそう思う。
ただ、きっとチケットがソールドアウトしたということはこの日が人生で初めてのサマソニなり夏フェスなりになるような人だってたくさんいたはず。そういう人がフェスにガッカリしたり幻滅するようなものにだけはなって欲しくないなと心から思う。やっぱり夏フェスは楽しい思い出になるものであって欲しいから。
今年はようやく今までと同じようにマリンスタジアムと幕張メッセの2会場を使い、レジェンドや今シーンのトップにいる海外アーティストが続々と来日。フジロックもそうであったが、洋楽アーティストのライブを見れる夏が3年振りに帰ってきたということであり、出演者の中には初めて日本のフェスに出演するというアーティストもたくさんいることだろう。
個人的にも米津玄師やSuede、[Alexandros]や今回のヘッドライナーであるThe 1975を見た2016年以来、実に6年振りの参加となる。しょっちゅうマリンスタジアムに野球の試合を観に来ているだけに幕張に来るのは全然久しぶりではないけれど。
10:40〜 Nobelbright [MARINE STAGE]
3年振りの開催となる今年のサマソニのメインステージであるMARINE STAGEのトップバッターはNobelbright。去年までは出演が発表されては中止になり、ようやく夏フェスに出演できるようになったバンドがスタジアムに立つ。
メンバーが1人ずつステージに現れると、サイバーなサングラスにデカいアクセサリーを首からぶら下げる山田海斗(ギター)がどこか海外アーティストのようにも見える中、また少しふっくらしたようにも見える、ユニフォーム型Tシャツを着た竹中雄大(ボーカル)が最後にステージに現れて、まさにこの夏が始まったことを高らかに宣言するかのような「Sunny drop」から始まり、その突き抜けるような美声を響かせるのであるが、最初は歌声の割に声がはっきりとは聞こえなかったのはマイクの音量のバランスによるものだったのだろうか。実際にその後からはちゃんと聴こえるようになっていただけに。
しかしながらステージ背面のスクリーンに美しい自然の映像が映し出された「seeker」では曲終わりで竹中が思いっきり声を張り上げると、その歌の上手さにダイレクトに反応した観客たちが拍手を送る。曲が終わってからの拍手ではなくて、曲中にもかかわらずの拍手。それはまださすがに2階スタンドまでは埋まっているとは言えなくても、この野外のスタジアムという環境にこのバンドの音楽が実にふさわしいものであることを証明していたようにすら思う。
竹中は4年前に観客として観に来ていたこのフェスにこうして出演者として帰ってくることができたことに感謝しつつ、自分たちが邦楽も洋楽も聴いてきたリスナーであり、そうした様々な音楽を好きな人たちが集まるこのフェスを楽しんで欲しいということを口にすると、
「日本語の曲ばかりですけど、次にやる曲は英語歌詞の曲です」
と言って演奏された「Friends for life」ではその英語歌詞とともに対訳も合わせてステージに映し出されることによってこの曲のメッセージをこの場所にいる全ての人に伝えており、それはきっと10代でこのバンドを見に来ているような人にとっては学校という場所で生きている自分のためのようなものに思えたんじゃないだろうか。それは竹中のボーカルの説得力の強さによってそう感じられるものでもあるけれど。
さらには同期のピアノの音が流れた瞬間に客席がざわめいて拍手が起こった「ツキミソウ」でも歌詞が次々にスクリーンに映し出される中で、山田がステージに固定されたアコギを弾く。まさにバンドを支えるというような立ち位置のベースを担う圭吾が真っ直ぐに客席の方を見て演奏していたのが印象的であるが、こうしたドがつくくらいのバラードでしかないような曲を、楽しみたいし盛り上がりたいという人もたくさんいるであろう夏フェスの短い持ち時間の中で演奏できるのもやはり竹中のボーカルの美しさが最も際立つのがこうした曲であることを理解しているのであろう。
その竹中は自分たちも6時起きという早起きをしてきたが、もっと早起きをして見に来てくれたであろう観客たちへの感謝を口にすると、スクリーンに「青春」と書かれたフラッグがはためく映像が映し出され、ステージ下手の通路へと竹中が駆け出して歌うと、沖聡次郎は上手へと駆け出してギターを弾くというフォーメーションも抜群な「青春旗」へとここから再びアッパーな曲で持ちうるエネルギーを放出させていく。
そんなライブはあっという間に最後の曲へ。朝イチとはいえメインステージってこんなに持ち時間短かったっけ?と思いながらも最後に演奏されたのは、ねぎがドラムセットから立ち上がって客席の景色を見渡すようにしながらバスドラを踏む「Walking with you」。その晴れ渡った空に突き刺さるかのようなメロディと歌声は、今の若い世代が「自分たちの夏バンド」だと思えるような存在が新しく現れたんだなと思わざるを得なかったし、
「CDで聴く音楽もサブスクで聴く音楽も良いけど、やっぱり生で聴く音楽が最高だよな!」
と竹中が最後に口にした言葉をこのバンドは自分たちの鳴らす音で証明しようとしている。2022年のサマソニのメインステージは、そんな新たな存在であるこのバンドによって始まったのだった。
竹中はこの日MCで何度か
「日本のロックバンドとして」
と口にしていた。時にはこれまでの過程の中でのことによってロックバンドだと見てもらえないことも多いであろうバンドだろうし、自分も最初は懐疑的だった。でも今年になってからのライブを見て、このバンドは自分たちがなりたかったロックバンドになれてきているんだろうなと感じた。それくらいにライブが本当に進化したと思うし、ロックバンドかくあるべし、みたいなものは人によっても時代によっても価値観が変わるものだ。このバンドはその価値観をさらに押し広げる存在になるのかもしれないと思った。
1.Sunny drop
2.seeker
3.Friends for life
4.ツキミソウ
5.青春旗
6.Walking with you
11:35〜 Mrs. GREEN APPLE [MARINE STAGE]
2020年にアリーナツアーを終えてからフェーズ1の終了を宣言して活動休止へ。その活動休止中に山中綾華(ドラム)と高野清宗(ベース)の脱退が発表。残った3人でバンドは継続していくことが発表され、実際に今年になってからフェーズ2としてリリースとライブを果たしてシーンに戻ってきたMrs. GREEN APPLEである。
復活を果たして1発目のライブだったぴあアリーナでのワンマンも、先日のロッキンも他のどうしても見たいライブと被ってしまっていて見れなかったため、フェーズ2になってからライブを観るのは初めてなのだが、それは同時にもうあのインディーズ時代からずっと大好きだった5人のMrs. GREEN APPLEではないということに向き合わなくてはいけない瞬間でもあるという、個人的に覚悟を持って見ることになるライブである。
しかしそんなタイミングで若井滉斗(ギター)のコロナ感染が発覚。この日の出演自体も危ぶまれたが、大森元貴(ボーカル&ギター)と藤澤涼架(キーボード)の2人にサポートを加えた4人編成で出演することに。サウンドチェックではステージMCのサッシャが好きだという、絶賛大ヒット中の映画「ONE PIECE FILM RED」でAdoに提供した「私は最強」のセルフカバーをワンコーラス演奏するというサービス精神の最強っぷりを見せてくれる。
本番では大森はフェーズ2に入ってからのアー写やMVなどのイメージ通りの(というか「ENSEMBLE」期らしくもある)気品を感じる出で立ちであるが、それよりも藤澤の鮮やかな真っ青に染まった髪色が目を引く。普段若井がいる上手側がガランと空いているのはやはり寂しくも感じてしまうけれど。
その大森がギターを掻き鳴らしながら歌い始めたのはフェーズ1後期のミセスの代表曲の一つと言える、ギターロックバンドとしてのミセスらしさを久々に感じさせてくれた「インフェルノ」からスタート。
「永遠は無いんだと 無いんだと云フ」
のサビでのファルセット混じりの大森のボーカルは本当に変わらない上手さを感じさせてくれ、体つきが少し膨よかになったことによってか、声量もこのスタジアムクラスでライブをやるべきバンドのものとして響く。この1曲目を聴いた瞬間に「ああ、やっぱりミセスだ。ずっと観てきたあのミセスだ」と思った。神田リョウ(ドラム)とTHE 2でも活躍する森夏彦(ベース)のサポートメンバーはやはり立場上前に出てきたりすることはないけれど、その演奏がそう感じられる要素の一つにもなっているのは間違いない。
大森がギターを置いてハンドマイクになると、スクリーンには曲に合わせたポップなアニメーションが映し出され、大森がステージを左右に歩き回りながら歌う「CHEERS」はフェーズ1最後のライブとなった代々木体育館でのライブの集大成的な多幸感を思い出してしまうけれど、この観客誰もが楽しくなれるポップなサウンドとメロディ、それを歌う大森のボーカルがあの頃と変わってしまったけれど変わらないミセスらしさを感じさせてくれるのだ。
実に5年振りのサマソニ出演であることを告げると、森が手拍子をするとともに観客にも手拍子が広がっていくのはフェーズ2に入ってからリリースされた「ダンスホール」。その軽やかなキャッチーさは「CHEERS」に続いて演奏されることによって、ミセスがフェーズ1から地続きのバンドであるということを感じさせてくれる。何よりもこの魔法のようなメロディはこれから先もずっと失われることはないんだろうなと思わせてくれる。気付けば2階席スタンドまで客席は埋まってきている。
するとどこかそれまでとは違った厳かな雰囲気となって大森が歌い始めたのは「僕のこと」。少し曇ってきたとはいえ、スタジアムという屋根がない場所でのライブだからこそ、大森の見事すぎるボーカルはどこまでも際限なく突き抜けていくように響く。その歌声にこれまでも何度だって胸を震わせてきたのだし、それを今また目の前で聴くことによって、この日を「何て素敵な日だ」と思うことができている。今でも空の飛び方をミセスというバンドも、その姿を見てきた我々も知っているのだ。
するとフェーズ2のミセスの始まりを高らかに、しかもギターロックサウンドとして告げた「ニュー・マイ・ノーマル」ではギターを弾きながら歌う大森を横目に藤澤もステージを左右に走り回り、自分が演奏するフレーズギリギリにキーボードの前に戻ってくると、間奏では若井がいないのにギターソロの音が同期として鳴ったことによって大森が「誰もいないのに何で?」という怪訝そうな顔をするという小芝居的なパフォーマンスをするというのも実にミセスらしいものだ。
「今日もありがとうがシャイな様です」
というフレーズは実にミセスらしいというか大森らしいものだと思うけれど、この日ばかりはちゃんと大森と藤澤に「ありがとう」を伝えたくなった。声を上げることはできないけれど。
そんな若井の不在に触れながらも大森は
「ミセスにとって初めてのスタジアムでのライブ」
と口にした。その記念碑的な瞬間に立ち会うことができた喜びを確かに感じながらも、その言葉からはどこかこれから近い未来にこうしたスタジアムでワンマンを見れるんじゃないかとも感じられるものだった。
「今日は夏休みの思い出作りに来た人もたくさんいると思うけれど、そういう人にこそ聴いてほしい曲を最後にやりたいと思います!この曲の時は晴れて欲しいのに、そういう時に限って雲がかかってきてる(笑)」
と言いながら、最後に演奏されたのはイントロのギターのフレーズだけで今でもロッキンのLAKE STAGEのトリをやった時のような素晴らしいライブの光景が蘇ってくる「青と夏」。大森が言った通りにもう8月も後半になってきたけれど、それでもやはりこの曲は
「夏が始まった合図がした」
というフレーズの通りに、いつだってこの曲を聴いた時が夏の始まりだと感じることができる。やはりステージを走り回る藤澤の姿も含めて、そこにはやっぱり変わらないミセスらしさが確かにあった。それを若井不在という中でも感じることができたということは、ミセスはこれからも変わることがないということだ。不安も寂しさも、全てをポジティブなパワーに転換してくれる。まだインディーズだった7年前に初めてライブを見た時のワクワク感とはまた違うけれど、今でもミセスはやっぱりカッコいいと感じる、あの大好きなミセスのままだった。
正直、山中と高野が抜けた理由はもうわからない。ビジュアルの変化への拒否感というのも「ENSEMBLE」までを見ていてもないだろうし、音楽性の変化というのも「TWELVE」からセルフタイトルアルバムへの急激な変化に比べたら想像よりもほとんどないというか、むしろ原点に回帰したとすら言える様なものになっているだけに。
だからこそ、なんで辞めちゃったんだよって思うことももちろんある。全員でとことん話し合って、歌詞の意味まで完璧に共有して、それを音源とライブで5人全員の表現として見せてくれていたバンドだからこそ。(最年長だった高野へのいじりも含めて)
でも今言えるのはこうして今でもミセスは変わらないと感じさせてくれる、バンドを続けることを選んだ3人への感謝の気持ちと、山中と高野への今まで本当にありがとうございましたという気持ちだ。これからもその気持ちを忘れることなく、自分はミセスのライブをずっと見続けていくことができる。これからも、全てが全部嫌になるようなことがあっても、このバンドに癒やしてもらおうと思っている。
リハ.私は最強
1.インフェルノ
2.CHEERS
3.ダンスホール
4.僕のこと
5.ニュー・マイ・ノーマル
6.青と夏
12:50〜 渋谷すばる [MOUNTAIN STAGE]
ミセスが終わってマリンスタジアムから出て幕張メッセに着くまでに要した時間は実に40分ほど。いくらマリンスタジアムとメッセが遠いとはいえ、速く歩けば10分で行けることを過去の参加でわかっているのでこんなに時間がかかるとはさすがだなと思うし、それは再入場口が詰まりまくっている(なのに4人くらいしか入口にスタッフがおらず、そこで検温と持ち物チェックまでするのでそれは詰まって当然)からという理由だったのだが、そんな理由によって見たかったバンドは見れず、幕張メッセに着いた頃にはもうMOUNTAIN STAGEの渋谷すばるもすでにステージに登場していた。
再入場口があんなに詰まっていたということはさぞやメッセの中は満員なのだろうと思ったら決してそんなこともなく、ただただ入口が詰まっていて列が伸びまくっていただけであるということがわかるのであるが、ステージに現れていた渋谷すばるはTシャツにジーンズという実にラフな姿で、バンドメンバーはギターが新井弘毅(THE KEBAS)、ドラムが茂木左(Theピーズ)、キーボードが本間ドミノ(THE BOHEMIANS)、ベースが安達貴史(ゆずやいきものがかりなど)という強力な布陣で、自分がここにいるという存在証明を自身の歌声で証明するかのような新曲からスタートすると、渋谷すばるは頭を振りながら間奏ではブルースハープを吹きまくる。その姿はやはりこの日この後にこのステージに登場する甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)のブルーハーツ時代の姿を彷彿とさせる。
つまりは「ワレワレハニンゲンダ」という既発曲以降も、ステージ上で輝きを放っていた関ジャニ∞時代とは全く違う、泥臭くて等身大のロックシンガーとしての姿を見せるようなライブになっているのであるが、バンドの演奏も完全にロックでありパンク。それができる、自分がイメージする音楽やサウンドを表現できるメンバーを集めているのだろうし、実際にそうしたバンド、音楽で生きてきたメンバーたちである。
聴き始めると歌詞は特定の誰かとのコミュニケーションの拒絶を歌っているかのような攻めたものに感じる「来ないで」は実はパクチーが嫌いなだけということを歌っているという、タネがわかるとより攻めているように感じる曲になっており、こうした曲からも彼のユーモアをそのまま自分の音楽に投影できるという人間性を感じられるのであるが、そんな曲の後にはまさに自身の音楽への思いを爆音ロックサウンドに乗せた「爆音」では誰よりも渋谷すばる自身が今鳴っている音に身を任せて肉体と精神を解放しているということがその姿から伝わってくる。
そんな中でもサウンドが爆音から本間のキーボードの音色をメインにした穏やかなものへと変わるのは「レコード」。
「一日中レコード聴いていた」
というサビのフレーズはコロナ禍になって外出出来なくなった時の彼の生活をそのまま歌っているんじゃないかとも思うし、やはり彼は音楽しかないような人なんだなと思える。だからこそその音楽を自分がやりたいようにやるためにこうして1人で音楽をやることを選んだ。そんな生き様がステージからこちらに確かに伝わってくる。
するとメンバーがソロ回し的な演奏を始め、それがファンク的に展開していくのは、
「急激な気温差はやめてあげてください」
というこの時期の我々の心情を代弁してくれているかのような「きになる」。そうしたサウンドであるだけにバンドの演奏が音源よりもライブではるかに迫力を増すように練り上げられているし、渋谷のボーカルも声を張り上げる部分ではより強いオーラを感じさせる。シュールな曲ではあるけれど、これはこれからもこうしてライブでは重要な位置を担う曲になっていきそうだ。
そして
「また大声で笑える日は来る まだ見ぬ世界の中で
待ってるずっと待ってる 舞ってる桜が舞う」
という歌詞がやはり今のこの状況を超えた未来への願いを込めたもののように感じられる「塊」は、あくまでそれを音楽の力によって取り戻していこうとするような。それくらいに彼の歌や音楽からはこれがないと生きていけないという人間からのメッセージであるかのように響く。そう思えるのは間違いなくそれを聞いている自分自身もまたそういう人間だからだ。おこがましくも、もしかしたら我々は同じようなタイプの人間なんじゃないかとすら思う。音楽しかないような人間だからこそ、音楽が不要と言われたり迫害されるような状況に傷ついて、それでもこうして目の前で音楽を鳴らして、それを浴びることでこの上ない喜びを感じることができるように。
そんなライブの最後に演奏されたのはまたしても新曲。それはまたこうしてライブという場で再会することを約束するような内容の曲であるのだが、渋谷はTシャツを脱いで白のタンクトップ姿になってブルースハープを吹きまくる。その姿はやはりロックンローラーでしかなかった。
「渋谷すばるでした。またどこかで」
とだけ言う、MCらしいMCが一切ないライブは、言いたいことは自分の音楽に全て込めているし、ただひたすらその音楽を演奏したいからこうしてステージに立っているということを示すかのようだった。
2017年に関ジャニ∞がMETROCKに出演した時に自分は初めて渋谷すばるの歌に触れた。きっとまだその日とこの日だけでは自分はファンの方々が絶賛しているこの男の歌の凄さを完璧に体感、理解できていないとも思う。それはきっとまだまだいけるんじゃないかとこうしてライブを見ていて思うから。
それでも、関ジャニ∞から脱退することが発表された時に自分は、
「近い未来にTVの画面の中のアイドルではなくて、目の前で歌うシンガーとしての渋谷すばるに会える日が来ると思っている」
と書いた。それがこの日ちゃんと現実になったし、あの時に関ジャニ∞のライブで見た時と同じように渋谷すばるは、目をひん剥いてただただ自分の抱える思いを伝えるために歌うボーカリストだった。だからこそ、これからまた何度だってどこかで歌う姿を見ることができるはず。
1.新曲
2.ワレワレハニンゲンダ
3.BUTT
4.来ないで
5.爆音
6.レコード
7.きになる
8.塊
9.新曲
14:00〜 BLUE ENCOUNT [MOUNTAIN STAGE]
サウンドチェック中に機材になんらかのトラブルがあったようで、おなじみの本気のリハでの曲演奏はなかったけれども、幕張メッセ内では最大規模のステージであるMOUNTAIN STAGEは満員と言えるくらいに埋まっている。それは海外アーティストがメインと言ってもいい(ましてや同じ時間に様々な海外アーティストも違うステージでライブをしている)このフェスにおいてもブルエンのライブが見たいと思っている人がたくさんいるということである。
おなじみのSEでメンバーがステージに現れると田邊駿一(ボーカル&ギター)は
「サマソニ、始まるよ〜!」
と言ってこの日はいきなりの「ポラリス」で早くもクライマックスを迎えたかのような雰囲気に。辻村勇太(ベース)が「オイ!オイ!」と煽って観客の拳が降り上がる中で田邊が歌うヒロイックさすら感じるほどのメロディの美しさと壮大さでもって、ブルエンがこのサマソニの巨大なステージをも早くも掌握していっているのがよくわかる。
そんな中で演奏された「…FEEL?」は英語歌詞がメインの曲ということもあってのこのフェスでの選曲?とも思わせるのであるが、田邊はそんな中でも
「さっき全然知らない海外アーティストのスタッフとすれ違った時に「ワオ!ジャパニーズハリーポッター!」って言われました!(笑)」
とサマソニならではのMCで笑わせてくれる。確かに日本で実写版ハリーポッターは見た目だけなら是非田邊にお願いしたいところである。
そんなMCをしながらも自身の耳に自分の声が返ってきていないことを口にするあたりは満足な音響状況ではなかったのかもしれないが、そんな中で演奏されたまさかの「girl」という実にレアな選曲(「ポラリス」のカップリング曲)ではステージ上をオレンジ色の照明が鮮やかに照らす。それはこのバンドを野外の夕暮れの時間帯にも見てみたいなと思えるようなものであったのだが、もしかしたらBEACH STAGEあたりの方が似合う曲と言えるかもしれない。
そんな中で田邊がハンドマイクになると、スクリーンには滴り落ちる雨がそのまま歌詞に変わっていくという凝った映像による「虹」が演奏され、いろんなフェスで見ても毎回セトリが違うという楽しみ方を我々に提供してくれるブルエンの面目躍如とでも言うべき選曲。
そのまま田邊はハンドマイクのままで「バッドパラドックス」でファルセットも交えたボーカルと高村佳秀(ドラム)の4つ打ちのリズムで観客を踊らせまくるのであるが、ギターが一本になることによって江口雄也のギターフレーズがどれだけ独特なものであるかということを示してくれる。
そんな中で田邊はこのMOUNTAIN STAGEは9年前、2013年にオープニングアクトとして立ったステージであることを語り、その時にはサマソニがどんなフェスで、どんな人が集まるフェスなのかを入念にリサーチした上で、そこに合わせた曲を演奏していたと言うが、今はそうしたことを全く考えることなく、ただただ自分たちの今を鳴らすということを告げてからバンドの音がバチバチにぶつかり合いながらも、メンバーのコーラスによってもそれが調和していく「VS」から、田邊は昔とは違って特に大層なMCを挟むこともなく「もっと光を」を歌い始める。
そのボーカルもかつてのようにひたすら熱く、ひたすら声を張るというよりも丁寧に、今の自分としての歌い方で歌うという形であるのだが、かつては大合唱が起きていた最後のサビでは田邊がマイクから離れて、
「心で歌ってくれ!」
と言うと、無音での大合唱が起こる。サマソニは一応は声を出しての合唱や歓声は禁じられているのだが、普通にそれが起きたりする場面がこの日、自分が見たアーティストのライブでもあったりした。海外アーティストのアンセム的な曲ならもっとそうなるだろうなというのが簡単に予測できるくらいに。でもそのルールの下にこのフェスが開催できているということが、この「もっと光を」での無音の合唱からは改めて感じることができた。それはファンがバンドの思いをしっかりわかって汲んだ上でこのライブに臨んでいるということもよくわかる。それはブルエンがこれまでの自分たちの活動の中で培ってきたものだ。カッコいいバンドはファンもカッコいいということをブルエンとそのファンは証明してくれている。
そんなライブの最後に演奏されたのは配信でリリースされた、セルフタイトルと言えるような曲である「青」。スクリーンにはその歌詞も映し出されたが、バンド名を決める時にメンバーはBLUE=青という単語がこれほどまでに強い意味を持つものになるなんて思っていただろうか。そう思うくらいに今もこのバンドは青に染まっている。そんなバンドのライブを見て、曲を聴くと自分も青に染まっていくような感覚になれる。それはきっとバンドの形がこれから先に変わったとしてもきっと変わることはないもの。去年は見れなかった夏フェスでのブルエンのライブが8月だけで2回も見れたのは本当に幸せなことだ。
1.ポラリス
2.…FEEL?
3.girl
4.虹
5.バッドパラドックス
6.VS
7.もっと光を
8.青
14:10〜 サンボマスター [BEACH STAGE]
再びマリンスタジアムサイドに戻り、かつてはJAPAN JAMもこの場所で開催されていたBEACH STAGEへ。砂浜には砂で作られた車のオブジェも並ぶこのステージに登場するのはサンボマスター。最終日に出演するはずだったロッキンが台風の影響で中止になってしまっただけに、そのリベンジとばかりにこのステージに足を運んだ形だ。
BEACH STAGEってこんなに人入るステージだっけ?と思うくらいに人で埋め尽くされたステージ(本来なら入場規制という概念すらなさそうな場所である)におなじみの「モンキー・マジック」が流れてメンバーが登場すると山口隆(ボーカル&ギター)が
「サマソニ準備できてんのか!」
と叫ぶと、木内泰史(ドラム)がスティックで、近藤洋一(ベース)が手で拍子を刻む「輝きだして走ってく」で客席にも手拍子が広がり、山口は思いっきり力と感情を込めて
「負けないで 負けないで」
と歌う。それがそのまま今の状況の世の中を生きる我々へのメッセージとして響く。サンボマスターのライブはそんな我々をいつだって笑顔にしてくれるライブをする。
それは木内が「オイ!オイ!」と煽りまくりながら
「全員でミラクルを起こすんだよ!」
と山口が叫んでからの
「ラヴィット!」
という曲の入りだけでも笑顔になれる、朝の情報番組で流れるサンボマスターの曲である「ヒューマニティ!」もそうである。先日には番組に出演して生演奏もしたらしいが、そうして朝の全国放送の番組にサンボマスターの音楽が欠かせないものになっているのが実に感慨深いし、それがこのステージの客席を埋め尽くした観客がそれぞれ好きに踊りまくっている景色にもつながっているはずだ。なんなら客席には結構親子というか一家全員でライブを見ている人もいるのも。
山口の伝えたくて仕方がないというくらいに前のめりにタイトルフレーズが繰り返される「忘れないで 忘れないで」からは早くも「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」ではメンバーによる
「愛と平和!」
のコールが起こる。そこには確かに声が出せない我々の想いも乗っかっていたはずであるし、今のような世界や社会の状況の中だからこそ、この曲がより強く響く。聴いている側がそう感じることができるというだけで、こうして「愛と平和」を叫んでいることは決して無駄じゃないと思えるような。
そんな空気がよりシリアスなものになるのは「ラブソング」。言ったら酒を飲んだりしてテンション高くはしゃいだり踊ったりしているような人も多く散見されたこの日のこのステージであっても、山口の無音の時間(それはいつもより短めのものだったけれど)には全く声が上がったりすることはない。それくらいにこの曲の力がこの会場に突き刺さっていたということだ。そうできるということがサンボマスターのライブの凄さを物語っていると思う。
そうした代表曲が並ぶ中にあっても今年リリースの「ボクだけのもの」が演奏される。そうして今でもバンドが進み続けていることをサンボマスターはフェスという場でもずっと示してきた。それがよりシンプルかつポジティブなメッセージを持った曲として。
そして今やサンボマスターのライブで最大の盛り上がりを見せる曲となった「できっこないをやらなくちゃ」で山口はやはり
「全員優勝!全員優勝!」
と叫ぶ。その観客が全員飛び跳ねながら腕を挙げている様はまさに全員優勝であるし、サンボマスターのライブだからこその幸せと楽しさを感じさせてくれる瞬間である。だからサンボマスターのライブに行くのはやめられないし、こうしてフェスで見るたびにそれを感じさせてくれるのだ。
「お前がクソだったことなんて1回もないんだからな!」
と我々のことを言葉で肯定すると、そんなライブの最後は近年のライブではおなじみの「花束」。山口は最後のサビ前には
「信じてんぜ」
と歌うと、
「ジョン・レノンを、ヒロト&マーシーを、忌野清志郎を」
とレジェンドたちの名前を口にした後に、
「お前の過去を!お前の未来を!」
と曲の中でも我々を肯定してくれる。それこそがサンボマスターのライブの力であり、我々が翌日からの日々を生きるための力になっていく。曲が終わったと思いきや、近藤がベースを弾き始めてさらに曲が続くというユーモラスな部分も含めて、やはりこうしてサンボマスターのライブは本当に楽しいし感動を与えてくれる。それはおなじみのフェスと言えるわけではないサマソニという場所でも決して変わることはなかった。
1.輝きだして走ってく
2.ヒューマニティ!
3.忘れないで 忘れないで
4.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
5.ラブソング
6.ボクだけのもの
7.できっこないをやらなくまたゃ
8.花束
16:50〜 Aimer [SONIC STAGE]
直前にこのステージに出演していたVaundy終わりの観客で幕張メッセ内が歩くスペースがないくらいにごった返していたのがようやく解消されてきた中で次にSONIC STAGEに出演するのはAimer。Vaundy同様にこのキャパのステージに出演するのはこのフェスだからであろう。
先にギター、ベース、ドラム、キーボードという最小編成のメンバーが先に登場して音を鳴らすと、黒い衣装を着てメガネをかけたAimerがステージに現れ、スクリーンにまさに地球儀の映像が映る中で「地球儀」を歌い始める。こうしてフェスでAimerのライブを見るのも実に久しぶりであるが、この曲から始まるというのは少々意外でもあった。Aimerの独特の儚さを持った歌声も、手を振る観客に向かって手を振りかえすというライブでの挙動も普段と変わることはないけれど。
その声がアッパーな曲でも映えるということを示すのは疾走感あふれるロックチューン「STAND-ALONE」で、ワンマンでも強いコンセプトを持たせた、Aimerの中で大事な世界観である「夜」の世界へと誘っていく。バンドの演奏も実に力強いけれど、Aimerの歌声も凛とした力強さを纏っている。
そんなAimerは新曲の配信リリースをすぐ翌週に控えており、その新曲「オアイコ」は「優しい曲」と紹介された通りに穏やかなサウンドと歌唱の曲。客席からはリズムに合わせた手拍子も起こり、それはAimerと彼女の音楽を愛する人たちが皆穏やかな心を持った人たちであることを感じさせてくれる光景でもある。「残響散歌」で大ブレイクした後でもAimerが変わらずに自分らしい曲を歌っていくということを示してくれるものでもある。
その「オアイコ」と通じるように演奏されたのが、andropの内澤崇仁が手掛けた「カタオモイ」で、同じように手拍子が起こる曲であるというのもあるのだが、その曲に宿る優しさのようなものは曲を作る人が違ってもAimerが歌えば変わることはないということが実に良く伝わってくるような流れである。
そんな流れから一気に陽性のパワーを感じさせるアッパーさに振り切れていくのは「ONE」。Aimerもいつになってもたどたどしさを感じさせるような歩き方でステージを歩き回りながらパワフルな歌を響かせるのであるが、特にこの曲での
「You're the one」
のフレーズでの歌唱は本当に胸を震わせるくらいに素晴らしくて、確かに夜という世界はAimerにとって大切な、歌うきっかけになったものではあるけれど、この曲のように夜以外の世界を感じさせる曲もやはり素晴らしいなと思うし、Aimerの歌声に宿る生命力を存分に感じさせてくれる。
しかしそこからは「Run Riot」と、夜の景色を駆け抜けていくような選曲へ。フェスであってもアッパーなわけではない曲でライブを作ることができるアーティストであることはこれまでの活動でも証明してきているが、それでもこうしたフェスだからこその選曲であり流れだなとも思える。
それはきっとこの日たくさんの人が待ち侘びていたであろう「残響散歌」もそうなのだが、この曲が起用された「鬼滅の刃遊郭編」のオープニング映像を思い出させるかのような打ち上がる花火から始まる美しい映像と、きっとこの状況じゃなければ我々が歌っていたであろうコーラス。全てが完璧に重なったこの曲をこうして目の前で聴いているとこの曲が大ヒットしたのが実によくわかるし、この曲をきっかけにしてAimerのライブに行って深い曲に触れるきっかけになったら実に嬉しいことだよなと思っていたし、今でも聴いていると宇髄天元が遊郭街の屋根の上を飛び回る姿が頭の中に浮かんでくるのだ。
そしてAimerは
「本日はAimerの初めてのSUMMER SONICのライブを見に来ていただいて本当にありがとうございました」
と観客に感謝を告げてから歌い始めたのは、RADWIMPSの野田洋次郎が手掛けた「蝶々結び」。この曲が何度聴いてもうるっとしてしまうのはAimerの声が表現する情景の切なさがしっかりと伝わってくるとともに、洋次郎がそれを伝えることをこの声に託した思いまでもがAimerの声から伝わってくるからだ。それくらいに洋次郎らしさが溢れまくっていると言える曲でもあるのだが、そんな曲をAimerは完璧に自分色に染め上げている。それを初出演のステージでも見事に示してみせたライブだった。
でもやはりAimerにはもっと聴きたい曲がたくさんあるなとフェスの持ち時間でのライブを見ると強く思う。だからこそまたワンマンに行ってたくさんの曲を聴きたくなる。そう思ってワンマンに足を運ぶ人がたくさんいるであろうことを考えると、Aimerがこうしてフェスに出演する意味は確かにあったと思う。
1.地球儀
2.STAND-ALONE
3.オアイコ
4.カタオモイ
5.ONE
6.Run Riot
7.残響散歌
8.蝶々結び
17:35〜 ザ・クロマニヨンズ [MOUNTAIN STAGE]
あまり最近は大きなフェスにはあまり出演していないイメージがある、ザ・クロマニヨンズ。それだけにこうしてサマソニに出演するというのは何とも貴重な機会だと思う。そうした思いを持ったり、あるいはこのバンドのTシャツを着た、このバンドのライブを見るために来たであろう人たちがMOUNTAIN STAGEに集結。
おなじみの原始人の叫び声ともうめき声とも言えるようなSEが響くとメンバー4人がステージに。しかし本当に驚くくらいにこのメンバーたち(特にヒロト&マーシー)はバンド結成時から見た目が全く変わっていないように見えるし、ヒロト(ボーカル)がマイクスタンドを握りしめてピョンピョン飛び跳ねながら歌う「クロマニヨン・スタンプ」から始まるというのも、その曲でマーシー(ギター)がギターとともに攻撃的な声を響かせるというのも全く変わらない。
それはそのままデビューシングル曲「タリホー」でメンバーの声が重なっていくことによって生まれるキャッチーさも全く変わらないのであるが、「生きる」という曲にしてもブルーハーツ時代の
「生まれたからには生きてやる」
という姿勢や生き様が30年以上経った今でも全く変わっていないことを感じさせてくれる。
それはこの日は演奏されていないが「スピードとナイフ」での
「変わらないものなんて何一つないけど
変わるスピードが違ったんだな」
という、意味がないことばかり歌っているように見えて実は人間の心理をズバッと言い当てるこのバンドの歌詞に準えるのであれば、このバンドとメンバーの変わるスピードはやはり普通の人間とは全く違うものであると思ってしまう。なんなら「生きる」って言わなくてもずっと生きていそうなくらいに。
桐田勝治(ドラム)が立ち上がってスティックを振り回し、その姿を見た小林勝(ベース)も高く腕を上げながらヒロトが歌い始めるのは「雷雨決行」と代表曲でありキラーチューンの連打に次ぐ連打であるが、そんな中にも「ドライブGO!」や「光の魔人」という近年リリースと言える時期の曲もしっかり交えてくるあたり、変わらないように見えてちゃんとバンドは前に進み、進化しているということを示している。とはいえ超が付くほどストレートなロックンロールというスタイルは決して変わることがないし、このバンドのライブを見ているとサウンドを盛ることやバンドとしての戦略を考えることなんか実はどうでもよくて、ただただロックンロールをバンドで鳴らせばそれだけで全部OKなんじゃないかとすら思えてくる。それはヒロトとマーシーの境地に達しないとできないことであることもわかっているけれど。
ヒロトのブルースハープが吹き荒れる「どん底」から「エルビス」と続くと、メンバーの表情(特にヒロト)はどんどん明るくなっていく。本当にこうしてただロックンロールを鳴らしているだけで本当に楽しいんだろうなということがその表情からも伝わってくるし、
「サマソニが80年振りに開催されたらしいぞ!これからは毎年やってくれ!みんな生きて毎年来ような!」
という言葉からも、その演奏している姿からも感じられる生命力の煌めきはこのバンドはマジで80年後も平気で活動しているんじゃないかと思ってしまうくらい。そしてそのバンドの生命力が我々にMCの言葉通りに生きるための強い力を与えてくれる。
そこからの後半は「グリセリン・クイーン」からさらなるキラーチューンの連発なのだが、「暴動チャイル (BO CHILE)」あたりのリズムなんかは誰でも出来そうなことをやっているように見えて実は絶対この人たちしかできないよなと感じるようなものだ。スーパープレイをそうは感じないくらいに普通に簡単そうにやってしまうというか。そこもまたやはりこのバンドの凄いところだ。
ついついサビでヒロトと一緒に口ずさんでしまいそうになる「紙飛行機」あたりになってくると、あまりのカッコ良さにもう感動して泣けてくるというか、こんなレジェンド的な人間にはなろうとしてもなれないのはわかっているけれど、それでもそういう風に死ぬまでずっとロックンローラーでありたいと思うことはできるんじゃないかと思えるというか、改めて自分の人生や生き方の姿勢を正される感すらある。
そんな久しぶりにライブを見たことによる感覚も含めた全てが「今日は最高!」と、決して自分は全てが最高だとは全く思えないようなフェスであるサマソニでもそう思わせてくれる「ギリギリガガンガン」のヒロトの少し溜めて歌うような歌唱が、メンバーが本当にそう思って歌い演奏していることをより感じさせてくれると、
「ただ生きる生きてやる」
というフレーズがやはり心臓の鼓動と重なって我々の生きる力になり、ヒロトのボーカルと桐田のリズムのみになる最後のサビで観客が拳を掲げる光景が神聖なものにすら見えてくる「エイトビート」から、最後はやはりこのバンドのライブがナンバーワンでしかないなと思わせてくれるような「ナンバーワン野郎!」ではメンバーの気合いの入った「イェー!」のコーラスが響きながら、サビでは観客が人差し指を掲げる姿がスクリーンに映し出される。自分たちの鳴らす音や姿でまさにこのフェスのナンバーワンに持っていってしまうクロマニヨンズはやはり凄すぎる。
ヒロトの終わった後のシェー!ポーズ連発も、マーシーの恒例の
「またね」
も、本当にやり切った充実感に満ちていた。ヒロトは脱がなかったけれど、さすがにそこは弁えているということだったのだろうか。
このステージに先に出演した、THE LINDA LINDASや渋谷すばる、あるいはライブ中にヒロトとマーシーの名前を出したサンボマスター。このフェスの出演者にもヒロト&マーシーの存在に強い影響を受けて音楽を志した人たちがいる。そんな人たちに、今でも自分たちのライブをする姿でまだまだ追いかけるべき背中があることをクロマニヨンズは示してくれている。
それはブルーハーツやハイロウズを聴いて育ち、今こうしてクロマニヨンズのライブを見ている我々観客もそうだ。終わりはいつか必ず来てしまうものだというのは理解しているけれども、この2人に関してはそれがまだまだはるか遠い先のことであるかのように感じられる。そういう意味でもやはりクロマニヨンズは、ヒロト&マーシーは生きるレジェンドであった。
1.クロマニヨン・ストンプ
2.タリホー
3.生きる
4.雷雨決行
5.ドライブGO!
6.光の魔人
7.どん底
8.エルビス
9.グリセリン・クイーン
10.暴動チャイル (BO CHILE)
11.紙飛行機
12.ギリギリガガンガン
13.エイトビート
14.ナンバーワン野郎!
18:50〜 バックドロップシンデレラ [J-CULTURE STAGE]
幕張メッセの1番奥。え?これステージ?と思ってしまうくらいに小さいし、とってつけた感があるというか、バンドが立つようなステージなのかこれはと思ってしまうくらいに他のステージに比べると簡素極まりないJ-CULTURE STAGE(そのステージ名通りに日本独自の進化を遂げたアイドルグループなども名を連ねている)の初日のトリはバックドロップシンデレラ。「フェスだして」と歌い続けてきたバンドがついにサマソニにも出演である。
メンバーがステージに登場すると、
「サマソニー!一緒に踊ろうぜー!」
とでんでけあゆみ(ボーカル)が叫んで後ろの方にいる人たちを前の方へ招く「台湾フォーチュン」からスタートするというのはロッキン出演時と同様というか、ロッキン出演時には同じ日に出演するはずだったのに出れなくなった盟友の打首獄門同好会の曲を演奏するという形で仲間へ最大のエールを送っていたのだが、この日はそうした大きなトピックはないために「フェスだして」でも鬼ヶ島一徳(ドラム)が歌う場面はあったりしたが、すんなりハミングでの合唱に入っていったという印象。それでもやはりこのフェスではまだアウェーという感覚も強いのか、ロッキンの時以上にハミングを
「歌詞知らなくてもできるから!ンーンンって口を閉じて言ってればいいから!」
と説明していたけれど。
そうして打首の曲をやらない代わりにバンドが演奏したのは、ひょんなことからバズってしまったバンドが歌う「バズらせない天才」であり、アウェー感は強いというか、他のフェスだったらもっと客席埋まってるのになとも思うけれども、そんな状況の中でこのバンドを観に来る人は間違いなく「このバンドの曲を知ってて、その曲で踊りたくてこのステージに来た」という人であるだけに「2020年はロックを聴かない」以降も豊島"ペリー来航"渉(ボーカル&ギター)の刻む高速カッティングのスカのリズムに合わせて踊りまくっている。
なのでその景色を見た豊島は
「どこかこれはもう感動的ですらあるな。最近いろんなフェスに出させてもらってるけど、サマソニ決まった時が1番嬉しかったかもしれない。
このフェスはやっぱり周りを見りゃあ凄い奴らばっかりいるけれど、こうしてこのステージに立ってしまったからには、マリンスタジアム目指すしかないでしょう!俺たち、小さいライブハウスでもアウェーって言われるところを何回も何回も地道にライブをやってホームって言える場所に変えてきました!サマソニもそうやって何回も出て、いつかマリンスタジアムに立ちたい!その時には皆さんは「バックドロップシンデレラがJ-CULTURE STAGEに初出演した時に見たんだ」って自慢できますから!」
と、このフェスに抱えていた思い、そして出演したことでさらに強くなった思いを口にする。その際にこの日も妖艶なベースを弾いていたアサヒキャナコも含めて全員が頷きながら笑顔だったのは、その思いが豊島だけのものではなくて、メンバー全員で共有しているものだからだろう。そこにこそこのバンドの強さがあるとも思う。
そんなライブのクライマックスはやはりこの日も「月あかりウンザウンザ踊る」から、でんでけあゆみがSNSでバズったきっかけとなったハイジャンプを繰り返し、鬼ヶ島がスティックを高く放り投げてそれをキャッチしてドラムを叩くというパフォーマンスもバッチリ決まる「さらば青春のパンク」で観客は踊りまくっていた。そこには普段からこのバンドのライブを見ているであろう人もいれば、このステージに出ていたアイドルグループを見に来たと思われるような人、このバンドの直前に隣のステージでライブをしていたFear, and Loathing in Las Vegasが終わってすぐにこのステージに来たであろう人。そんな見た目も踊り方もバラバラな人たちが「踊るヤツが偉いのさ」というこのバンドの信条を証明しているかのようだった。
このステージに入った時も、ライブが始まった時も、「もっと良いステージでライブやらせてあげたかったな…」と思ってしまった。でもそんなステージで始まったからこそ、目指せるものや新しいバンドのモチベーションが確かにある。せっかくこの場所、この瞬間に居合わせたからには、このバンドがマリンスタジアムのステージに立つ日が来たら、それを見るためにまたこのフェスに来ようと思った。案外、それは不可能なことでは全然ないと思っている。
1.台湾フォーチュン
2.フェスだして
3.バズらせない天才
4.2020年はロックを聴かない
5.サンタマリアに乗って
6.月あかりウンザウンザ踊る
7.さらば青春のパンク
19:30〜 HYDE [PACIFIC STAGE]
主に日本のアーティストたちが出演してきた、幕張メッセ内のPACIFIC STAGE。そのステージのトリを飾るのがHYDEである。いくらトリとはいえ、あのL'Arc〜en〜Cielのボーカルが全然メインではないステージに出るとは、という驚きもないわけではないけれど。
マスクをつけて顔がハッキリとはわからないサポートメンバーたちが先にステージに登場すると、荘厳なSEが鳴る中でHYDEはステージ奥から神輿に乗って登場し、そのまま「LET IT OUT」を歌い始める。さすがにトリの時間ということもあってか、おそらく海外の観客の方々は他のステージを見に行っていたと思われるが、これこそ日本以外の国の人たちに見てもらいたいオープニングパフォーマンスである。
HYDEのライブを見るのは実に久しぶりであり、それこそ4年前に氣志團万博で見た以来だと思われるのであるが、サウンドはその時よりもさらに完全にラウドロック化している。対バンツアーもそうしたラウドバンドたちをメインに迎えて開催されているけれど、そのツアーにも出演していたcoldrainに1番近いなと思うのは、ラウドでありながらも歌メロがキャッチーであるということであり、そこには数々の大ヒット曲を生み出してきたHYDEのボーカルだからそうなるという要素もあるはずだ。
そんなHYDEは「AFTER LIGHT」では
「ハミングプリーズ!」
と観客に飛沫が飛ばないハミングでの合唱を煽るのであるが、それが直前にやはりハミングでの大合唱を起こしたバックドロップシンデレラのコミカルかつ泥臭いそれと比べると、HYDEのライブでのそれはどこか神聖かつ華やかなものに感じられる。ハミング一つとっても実に奥深いなと思わされるコロナ禍でのライブの形であった。
そのコロナ禍でのライブについてHYDEはカメラを自身の手で掴んでそこに顔を近づけてスクリーンにアップで映りながら、
「いったいいつまで声が出せないんだと思うけれども、ルールとか関係ないから声を出せっていうのも違う。不安を抱えながらライブに来た人を怖がらせてはいけないし、そういうルールがあるからこうしてライブができている。
動き回ったり密集したりもできないけれど、考え方を変えればそれは今だからこそできることがあるということでもある。そのスペースは君たちが3年間かけて手に入れたものだ!だから有効に使え!」
と、この制限が多い中でのライブを実に前向きに捉えているMCをする。正直、サマソニは他のフェスに比べてルールやマナーに関してはめちゃくちゃ緩い。それはずっと前からそうであるし、それはコロナ禍でのライブでの感染対策という面でもそうだ。注意するスタッフなどが全然いないために、ある意味好きにやれてしまう。だからこの日も結構歓声が起きている瞬間も見たし、ライブエリアでもマスクをしていない人もしょっちゅう見かけた。
そんな自衛するしかないような状況でのこの言葉である。日本の超大御所と言えるようなアーティストがそこについて言及するというのは、ドームやスタジアムまでをも経験してきた人だからこそ、どれだけいろんな人がこのライブを作るために関わっているのかということをめちゃくちゃわかっていて、そうした人たちがルールやマナーが崩壊するとどれだけ迷惑がかかるかということもきっとわかっている。カメラ目線で口にする言葉もどこかそうした格や年齢を感じさせない可愛らしさみたいなものを自分ですら感じてしまうあたりに、今もたくさんの人が熱心にこの人の活動を追いかけ続けているのがわかる。
「MAD QUALIA」では突如としてドラマーがシンバルを手にしてステージ前まで出てくると、スタッフがHYDEの立ち位置のあたりに台を用意し、その上にHYDEは少し怖がりながらも立ち上がって観客を煽り、そしてその上から飛び降りる。正直言ってサマソニでこのライブを見る人の半分以上は今のHYDEのソロ曲を知らないと思う。それでもこうしたオーラと少しばかりの可愛さを感じられるパフォーマンスによって観客が完全にHYDEの世界に持っていかれているのがわかる。長い年月シーンの最高峰であり最前線を走り続けている男の凄さをその肌で実感しているのである。
「SICK」も含めてフェスらしくアッパーな曲で押しまくる中でも、やっぱりHYDEってファルセットの響かせ方や声量も含めて歌が上手いなと感じさせてくれる「THE ABYSS」のような神聖かつ壮大な曲がセトリに入ってくるというのも持ち時間が長いからこそつけられる緩急であると言えるが、ここで「NANA」の映画に提供して中島美嘉が歌って大ヒットした「GLAMOROUS SKY」のセルフカバーという大サービスも。もちろん今のHYDEとこのメンバーによって完全にラウドロック化してのカバーであり、イメージ上のリズムで手拍子をすると明らかにドラムと合わなかったりもするのであるが、これだけたくさんの人を一つにできて喜ばせてくれるような曲を今の解釈で演奏する。サービス精神と挑戦心を両立させたカバーである。
するとHYDEは
「動いたりすることはできないかもしれないけど、その場でぐるぐる回ることならできる!恥ずかしいと思うかもしれないけど、結構評判いいからやってみて!みんなでやればやらない方が恥ずかしくなるから!(笑)」
と言ってまさかの観客にその場でぐるぐる回ることを促すのだが、マキシマム ザ ホルモンや四星球のようなコミカルなバンドのライブで経験してきた楽しみ方がまさかHYDEのライブにも適用されるとは思っていなかったし、「ANOTHER MOMENT」で実際にスクリーンに
「回れ!回れ!」
という文字が出るたびに観客はぐるぐるその場で回ると、みんな笑顔になっている。それは次の、HYDEが金属バットを持ってドラム缶を打ち鳴らすというバイオレンスさすら感じる、Slipknotのカバー「Duality」という実にサマソニらしい選曲でも発揮され、曲もサウンドもめちゃカッコいいのに観客の楽しみ方は実にコミカルであるというギャップがもの凄く面白い。この選曲からも今のHYDEがこうしたラウドサウンドを鳴らしたくて仕方ないという、この音楽への愛が溢れている。
さらにはアッパーに攻めまくるような新曲「6 or 9」ではHYDEがタオル回しを観客に促すという、
「もう総力戦ですよ!」
という言葉の通りに、ありとあらゆる手段や手法を使ってこのライブ、この瞬間を自分も愉しみ尽くそうとしているし、集まってくれた人たちをも楽しみ尽くしたいという思いが溢れまくっている。正直、もっとクールなイメージがL'Arc〜en〜Cielがメガヒットしまくっていた幼少期の頃からあったのだが、今我々の目の前にいるのはラウドロック・エンターテイナーと言っていいようなHYDEの姿だった。
そんなL'Arc〜en〜Cielのボーカリストとして時代を築いたHYDEだからこそできる究極のエンターテイメント。それが「HONEY」のラウドロックカバーである。HYDEはリズムとサウンドに合わせて歌い方も少し変えていたけれど、こんなに大合唱して然るべき大ヒット曲でも誰も歌おうとしない。それはHYDEがマイクを向けても。それはHYDEのMCでの思いがしっかりここにいた人たちに伝わっていたということだ。この曲が聴けたことよりも、むしろこの日にこの曲が描き出していた景色にこそ感動していた。
そんな拍手喝采の、誰もが「この時間にこのステージを選んで良かった!」と思えるカバーの後には突如としてHYDEとドラマーがドラムセットを解体というよりは壊そうとするかのようにシンバルをステージに打ちつけたりする。解体されたツーバスのうちの一つにHYDEは寝そべり、ドラマーは少なくなったというかシンプルになった残りのドラムセットで「MIDNIGHT CELEBRATION II」を演奏する。HYDEの寝そべりながらの歌唱は何とも言えない色気を振り撒きながら、演奏が終わるとHYDEはステージサイドのカメラに寄っていって、思いっきり画面にキスをした。その瞬間にスクリーンに映った「THE END」の文字と湧き上がる拍手。海外の大物アーティストたちが出演している時間にHYDEを選んだ意味が確かにあったと思った。何よりも、こんなに楽しいのかと思うくらいに本当に楽しかった。
コロナになる前にNHKのSONGSという番組にHYDEが出演していたのを見た。そこでHYDEはこうしてラウドロックに振り切れた理由を、
「僕にはもう時間がない。やりたいことをやれる時間は限られている」
と言っていた。ずっと歳を取らないように見えるHYDEですらも、人生や音楽ができる時間が終わりに近づいてきていることを悟っている。それは先輩や仲間がいなくなってしまったという人生経験によって思うようになったことなのかもしれない。
もしかしたらL'Arc〜en〜Cielをもっとやってくれと思う人だっているかもしれない。でも今のHYDEがやりたいのはこういう音楽なんだなと思うし、そのやりたい音楽で自分だけではなくて自分の周りにいるたくさんの人のことを楽しくしてくれる。HYDEというミュージシャンがどれだけ凄い人なのかということを思い知った、2022年のサマソニだった。これはこの先も追いかけたいと思えるほどに。
1.LET IT OUT
2.AFTER LIGHT
3.DEFEAT
4.MAD QUALIA
5.SICK
6.THE ABYSS
7.GLAMOROUS SKY
8.ANOTHER MOMENT
9.Duality
10.6 or 9
11.HONEY
12.MIDNIGHT CELEBRATION II
20:35〜 MAN WITH A MISSION [MOUNTAIN STAGE]
MARINE STAGEではTHE 1975が、SONIC STAGEではST.VINCENTがトリを務めているこの日。もちろんこのMOUNTAIN STAGEもこれまでに数々のレジェンドクラスの海外アーティストがトリを務めてきたのだが、3年振りのサマソニのMOUNTAIN STAGEのトリはMAN WITH A MISSION。確かに究極の生命体であるが故に、国籍なんかも超越するような存在である。
これまでにサマソニでも何度も名シーンを作り出してきたバンドであるだけに、始まる前からMOUNTAIN STAGEは立錐の余地もないくらいの超満員っぷり。THE 1975の裏ということもあり、まさかこんなにも満員になるとは思っていなかった。
ステージを要塞のように見せるような映像が映し出される中、「Between fiction and friction I」がSEとして流れると、それがバンドの演奏へと切り替わっていき、要塞が崩れるかのように映像が映し出されていた幕が落ちるとそこにはすでにメンバーの姿があり、SATANIC CARNIVALの時には不在だったカミカゼ・ボーイ(ベース)も復帰した、おなじみのメンバーたちでそのままデジタルなロックチューン「database」へと突入していき、ジャン・ケン・ジョニー(ギター&ボーカル)とトーキョー・タナカ(ボーカル)のボーカルのコンビネーションも、DJサンタモニカの早くもステージ左右まで走り回って観客を煽る姿もこのステージのトリを任されたことに対する気合いに満ち溢れているのがよくわかる。
そんなライブだからこそ
「存在を示す証
己の意味を探して」
というサビの歌詞がより深く、そして壮大に響き渡っていく「Dive」から、アルバムに収録されていた、実にサマソニらしい選曲のAC/DCのカバー「Thunderstuck」ではステージから炎が吹き上がりまくる。トリだからこその特権でもあり、それはこのバンドがこのフェスから愛されている証でもあるだろう。
このステージのトリであり、この日のサマソニで最後に音を鳴らすバンドになれたことへの喜びをジャン・ケンが語ると、だからこそ「Emotions」はよりエモーショナルに聞こえてくる。というよりボーカル2人の気合いが本当にこの日はそのまま声に乗り移っている。我々は声を出せないけれど(出そうと思って出してる人じゃない限りは)、確かにバンドの衝動が見ている側にも火をつけてくれる。だからこそこの瞬間を楽しみ切ろうと思えるのだ。
それはメロからサビに突入していく際の開放感に満ち溢れた「INTO THE DEEP」もそうであり、そのバンドの演奏によって観客も飛び跳ねまくる。持ち時間が長いだけあり、まさにマンウィズの深い部分へとここにいる全員で潜っていくかのようである。
切なさ極まるイントロの段階から身が引き締まるというか、昨年のフジロックやテレ朝ドリームフェスティバルなど、このバンドがライブというものを守ろうと戦い続けてきたこの1〜2年で見てきたライブを思い出してしまうのはもちろん「Remember me」。サビで満員の観客の腕が左右に振れるのを見て、今までのこの曲の景色も忘れられるものではないけれど、この日のこの景色もきっと忘れはしないだろうと思っていた。
するとスペア・リブが、本当にこのバンドはちゃんとドラムを叩いて演奏しているんだなと改めてわかる(音を聞けばわかることだけど)ドラムソロから、DJサンタモニカのDJソロという長尺ライブならではの繋ぎも展開され、その間に他のメンバーはステージから一旦去るのだが、ソロが終わった後に手を繋いで観客の拍手を浴びる2匹の仲良しっぷりには思わず和んでしまう。
そんな2匹もいったんステージから捌けると、代わりにジャン・ケンとE・D・ヴェダー(ギター)が現れ、
「我々はシステム上、長尺のライブでは小休止をしないとならない」
とこのソロ回しなどを展開した説明をすると、
「コロナもそうですけど、起きてはいけないことが世界で起きている。そんなことがもうこれ以上起こらないように、祈りを込めて」
と言って弾き語りで演奏されたのは「小さきものたち」。些細な、でも当たり前な平和な幸せを享受できているからこその穏やかな歌詞。それがアコギの柔らかいサウンドに乗せて歌われ、ヴェダーは時には手拍子もする。普段はラウドかつ攻撃的な曲を演奏しているこのバンドの優しさを感じられる瞬間であり、それはコロナ禍になってからこのバンドがこうしてライブで示してきたものでもある。散々叩かれまくったであろう去年のフジロックでさえも、このバンドは叩いてくる人を恨んだりするようなことは全くしなかったばかりか、そうした人たちと何とか分かり合えるようにというメッセージを観客に投げかけていた。それはある意味では人間を超えた存在としてのメンタリティなのかもしれない。
するとメンバーたちもステージに戻ってきて、ジャン・ケンは
「初出演したのが2011年、真昼間で炎天下のBEACH STAGEでした。その時に、このバンド夏フェスキツいなって思いました(笑)
それから11年経って、夜の室内。最高です(笑)」
と感慨深さを感じさせながら笑わせてくれると、タナカも
「What's up, サマソニー!」
と珍しく感情をあらわにして叫ぶ。それくらいに気合いが溢れ出しているのだ。
それがそのまま「FLY AGAIN」での一大ロックパーティーのような盛り上がりにつながっていく。カミカゼの目が発光するというギミックも室内だからこそより映えるのであるが、こんなにも海外アーティストがメインのフェスで超満員の観客が盛り上がれるアンセムは他にないんじゃないかとすら、こうして両手を左右に挙げていると思える。近い将来にマリンスタジアムの夜にまたこの光景が見れるようになるんじゃないかと思うくらいに。
そんなライブの最後に演奏されたのは今年リリースの最新アルバム「Break and Cross the Walls II」収録の「More Than Words」。
「More than words
何度だって
Beyond the world
立ち上がり
More than words
約束の瞬間へ駆けていく」
という、普遍的なようでいて、それを実践してきたからこそこのステージに立っているバンドとしての説得力を感じる歌詞。代表曲、定番曲の連発ではない、起承転結を描くことができるボリュームのライブだからこそ、このバンドがこの日のトリで本当に良かったと思えた。
しかしそれでも観客によるアンコールを求める手拍子は鳴り止まず、それに応えてステージにオオカミたちが戻ってくると、
「本当に最後までこんなにたくさん残っていただいて本当にありがとうございます!今日のサマソニの最後の1曲を演奏させていただきます!」
と言って演奏されたのはやはり最後の最後にはみんなで踊りまくって終わるための「Get Off Of My Way」。最後には特効も爆発して我々を驚かせたその瞬間、このバンドは本当にサマソニというフェスを担う存在になったんだなと思った。それはオオカミたちがこのフェスへの想いの強さを持っているからこそ、そう感じられたものだった。
既述の通りに、マンウィズはコロナ禍になってからはずっとロックシーンのマスコット的な存在として、ライブシーンを守ろうと戦い続けているように見えた。だからコロナ禍になってからは「出れるんならどこにだって行ってライブをやる」というようにいろんなフェスやイベントに出まくってきた。
その思いは今も忘れずに持っているだろうけれど、それでもこの日はどこかそれ以上に喜びや嬉しさを強く感じさせるようなライブだった。それはそうだろう、自分たちが憧れてきたバンドたちがライブをやったステージのトリを自分たちが担うことができたんだから。表情が変わることはないけれど、この日のオオカミたちは今まで以上にロック少年のような顔に見えたのだった。
1.database
2.Dive
3.Thunderstruck
4.Emotions
5.INTO THE DEEP
6.Remember me
ドラム&DJソロ
7.小さきものたち
8.Hey Now
9.FLY AGAIN
10.More Than Words
encore
11.Get Off Of My Way
もはや今さら自分が何を言ってもどうしようもないくらいに2日間が終わって、あらゆる意見が噴出しまくっている。自分は正直サマソニに対しては「まぁサマソニだもんな」というくらいにしか思わないし、誰がどんなにバズるようなライブの動画をSNSに載せていようが、それを再生する気にはならない。やっぱりそれはルールを逸脱した行為の結果である以上、どんなにいいことを言っていても全く説得力を感じることはできない。自分の目の前でやられたら「後ろの人がステージ見えねぇだろうが」とスマホを叩き落としたくなるからだ。(スクリーンにその姿がちゃんと映ることのないマンウィズやAimerというアーティストのステージを録画するのは侮辱行為だとすら思っている)
そうした経験をこれまでに何度もしてきたからこそ、毎年行くフェスにはならなかったし、感染対策にしても「本当に去年のSUPER SONICも大丈夫だったの?」とすら思ってしまう。だからこそやっぱり夏フェスの中で1番家から近い会場でも毎年行くことはないだろうなと思ってしまう。自分の目で見ることによって尚のことそう思う。
ただ、きっとチケットがソールドアウトしたということはこの日が人生で初めてのサマソニなり夏フェスなりになるような人だってたくさんいたはず。そういう人がフェスにガッカリしたり幻滅するようなものにだけはなって欲しくないなと心から思う。やっぱり夏フェスは楽しい思い出になるものであって欲しいから。